和歌山県ニホンジカ第二種特定鳥獣管理計画
平成29年4月 1日から
第4期
平成34年3月31日まで
平成29年4月
和 歌 山 県
- 1 - 1 計画策定の目的及び背景 ニホンジカ(Cervus nippon)は、本県では森林域を中心に古くから生息し、大型草食哺乳動物 としての生態的地位を占め、狩猟資源のひとつとなっている。 しかしながら、近年は生息数の増加に伴って農業では果樹や野菜の食害、水稲などの踏み荒 らしなど、林業では植林直後の苗木への食害、立木樹幹部への剥皮被害等が発生しており、様々 な対策を講じているにもかかわらず被害額は今なお増加傾向にある。このような経済的損失に 加え、被害を受けた農林業者の生産意欲の減退が農山村地域における深刻な問題となっている。 また、自然生態系についても、食害によって森林などの下層植生が衰退し、これに伴い希少 動植物の減少や生息環境の悪化をもたらすほか、植生の衰退が顕著な場合は土砂流出の原因と なるなど、被害や悪影響が発生するに至っている。 このため本県では、生物多様性の観点にも配慮しつつ、本種の健全な個体群の維持を図ると ともに、人とニホンジカの軋轢を軽減する目的で平成20年11月に和歌山県ニホンジカ保護 管理計画(第1期)を、また平成24年3月には個体数管理を強化した第2期計画を策定し、対 策に取り組んできた。 こうした中、平成26年5月に「鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律」が改正され、 「鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律(以下「法」という。)」と改められた ことから、保護管理計画についても一部見直しを行い、平成27年5月29日、改正法の施行 にあわせて法第7条の2に基づく和歌山県ニホンジカ第二種特定鳥獣管理計画(第3期)と改 め、引き続き対策に取り組むこととした。 しかし、今なお被害が増加傾向にあることから、各種取組を強化し、継続して対策を講じる ため、ここに第4期計画を策定する。 2 管理すべき鳥獣の種類 ニホンジカ(以下「シカ」という。) 3 計画の期間 平成29年4月1日から平成34年3月31日までとする。 4 第二種特定鳥獣の管理が行われるべき区域 本県のシカは、県南部から県中部に多く、県北部にまで生息している。シカの個体群はこれ らの地域に連続して分布が見られるので、全体をひとつの管理区域として考えることとし、県 内全域を管理区域とする。 5 生息環境及び生息動向等 (1) 生息環境 ア 地勢 本県は、紀伊半島の南西部に位置し、北は大阪府、東は奈良県及び三重県、南は熊野灘、 西は紀伊水道に接している。東西約94km、南北約106kmに及び、総面積は4,7 25k㎡で国土の1.25%を占めている。県土の大部分は紀伊山地を中心とする山岳地帯
- 2 - で、高野山、那智山など古代から親しまれている山々が多い。河川のほとんどはこれらの 山地に源を発し、紀伊水道や太平洋に注ぎ、平地は少ないがこれら河川の流域に開けてい る。海岸は、北の加太から南の熊野川河口に及ぶリアス式海岸で変化に富んだ海岸美が雄 大な眺めを展開している。(図1) イ 気候 南部は暖流である黒潮の影響を受け、温暖で雨が多い太平洋岸気候区であり、北部 は日照時間が長く年間を通じて降水量が少ない瀬戸内気候区である。 ウ 森林及び耕地等 本県の森林面積は、平成27年度で約361,410haあり、県土総面積の76% を占めている。 このうちスギ・ヒノキを中心とする人工林が61%を占めている。 天然林は、県南部の海岸沿いから内陸にかけてシイやカシ類などの常緑広葉樹林が 広がっており、標高600mあたりからは徐々に落葉広葉樹林が目立ち始め、1,0 00mを越える護摩壇山系などではブナ林もみられる。県北部ではコナラなどの落葉 広葉樹林が主となり、シイやカシ類との混交林も多くみられる。 耕地面積(畑地や水田)は、平成27年度で33,700haあり、県土総面積の 7%を占めているが、主として紀ノ川流域の広い範囲や、有田川、日高川流域に広が っている。しかし、近年は耕作放棄地面積が年々増加しており、平成27年度で4, 661haとなっている(図2)。 標高については、図3のとおりであり、植生については、図4のとおりである。 (2) 生息動向及び分布 ア 生態及び食性 シカは比較的開けた森林、林縁及び草地を好む傾向があるため、伐採跡地、新規植栽地 及び林道並びに森林に隣接する公園や果樹園などに集まる。その分布は標高1,000m 以下のクヌギ・コナラ林やアカマツ・コジイ林、スギ・ヒノキ林などの低山帯の森林と重 なる。アセビ、トベラ、ナギなどの特定種を除くほとんどの植物を摂食し、法面緑化や果 樹園等における草生栽培に用いられる牧草も好んで食べ、さらには落葉も餌とすることが 可能である。 シカは、満1歳(生まれた翌秋)で性成熟し、10~11月に交尾して、5~6月に出 産する。通常は1産1仔であるが、まれに2仔を出産する。メスは1歳で7割以上が妊娠 し、2歳以上では8割以上が妊娠する。寿命はオスで10~13歳、メスで12~15歳 である。死亡率は幼獣で30~50%、成獣で10~15%である。 シカは集団性が強く「群れ」をつくって生活する。オスとメスは、通常、別々の群れを つくるが、繁殖期にはオスの群れは分解し、順位の高いオスは縄張りを持つことができ、 メスを囲いこんで一夫多妻の繁殖形態をとる。 イ 生息分布 第2回自然環境保全基礎調査(環境庁,昭和54年)、和歌山県野生鳥獣生息調査(和歌 山県、平成8年)及び和歌山県ニホンジカ生息調査(和歌山県、平成19年)により得ら
- 3 - れた県内のシカ分布に加え、平成19年の調査結果にこれ以降の捕獲情報や目撃情報等を 加味して作成した分布を図5に示す。 昭和54年では、北部での分布域が小さく、中部及び南部に分布が偏っていた。しかし、 平成6年には、シカの分布は有田川を越えて紀北にまで拡大し、平成19年には、橋本市 やかつらぎ町の紀の川左岸まで拡大した。これ以降も分布域は拡大し、現在では県北部の 市街地を中心に、分布が確認されていない区域はわずかとなった。 以上のような生息域の拡大は、個体数の増加によるところが大きいと考えられるが、個 体数が増加した要因としては、本県では平成18年度まで狩猟、有害捕獲ともにメスジカ の捕獲制限をしてきたこと、中山間地域では過疎化により人の活動が減少し、人里付近で の餌の摂取が容易になったことなどが考えられる。 (3) 生息密度調査 本県では、シカの生息状況を把握するため、糞塊法、糞粒法による現地調査及び出猟カレ ンダーの分析等を実施し、また平成25年からは階層ベイズモデルによる生息数の推定を行 っている。 糞塊法では、全県からサンプリングしたルートで山の尾根筋を歩くライントランセクト法 により調査を行っている(表1、調査地点は図6を参照)。平成8年度の調査では、糞塊密 度は紀南地域が際立って高く、紀中地域では低かったが、平成21年度には紀北地域を含む 全県で高い値となっている。平成27年度の調査では、紀北地域が平成21年度を下回る結 果となったものの、依然として全県的に値が高く、現地踏査1㎞あたりで発見する糞塊の数 は、県平均で20を上回った。 調査地点ごとの結果をみると、30塊/㎞以上の高密度地点は紀南地域で10カ所、紀中 でも2カ所存在するが、これらの高密度地点は比較的沿岸部に多く分布していると言える (図6)。 また、調査地点ごとの糞塊密度の変化をみると、平成21年と平成25年の比較では紀中 地域を中心に沿岸部で密度上昇を示す地点が多く、従来生息密度の低かった生息域周縁部で 密度が上昇していることが伺える結果となった。しかし、平成25年と平成27年の比較で は、沿岸部で糞塊密度の上昇はみられず、一方で図6でみたように密度自体は高い値を維持 していることから、紀中地域以南については、生息域拡大の動きは鈍る一方、沿岸部を中心 に密度の高い状態が定着したと考えられる(図7)。 糞粒法では紀南の沿岸部を中心にコドラート法による調査を行い、FUNRYU プログラム (Ver1.2.1)により生息密度を求めた。 生息密度は平成19年度から平成21年度にかけて激増し、その後の調査においても高い 水準を保っている(表2、調査地点は図8を参照)。 糞粒調査はシカが多い県南部で実施していることから、いずれの地点も一定以上の密度を 示しているが、特にすさみ町、串本町の海岸線近くでは毎回高い数値となっている。 (4) 推定生息数 県内のシカ生息数については、和歌山県ニホンジカ保護管理計画(第1期)の策定時から何 らかの形で推計を行っている。 まず、平成20年11月に策定した同計画では、糞粒調査10地点(調査を実施した11
- 4 - 地点のうち、密度が極端に高い1地点を除外)から得た1㎢あたり生息密度を用い、これを 県内の生息面積に乗じる方法により15,714頭と推定している。 また、平成24年3月に策定した同第2期計画では、平成21年度、平成22年度に実施 した糞塊調査で得た結果を回帰式(濱﨑ら、2007年)に当てはめシカ生息数の推計値を算 出し、さらに糞粒調査等の結果を考慮して31,000頭と推定している。 これらの推定値については、当時収集可能であった指標から適宜算出されたものと考える が、現在本県で採用している階層ベイズモデル(後述)による推計値と比較すると、過小評価 であった確率が高い。 本県だけでなく、目標捕獲頭数を達成したにもかかわらず生息頭数が減少傾向とならない 事例が多くみられることから、現在では生息状況調査に基づく推定値については過小評価の おそれが指摘されているところである(環境省、「特定鳥獣保護・管理計画作成のためのガイ ドライン(ニホンジカ編・平成27年度)」参照)。また、生息状況調査は結果に観測誤差が あり、これに基づく生息数の推定値は年による変動が大きいという課題もある。 「階層ベイズモデル」は、生息状況だけでなく捕獲状況の時間的な変化のデータを使用し、 生息状況調査の観測時の誤差を考慮した上で、生息個体数と自然増加率を推定するもので、 上記のような生息状況調査に基づく推計の問題に対応するものとして、近年多くの自治体で 導入が図られている。 本県では平成24年度の生息数推定から導入しているが、直近の平成26年度における県 内のシカ生息数の推定値(推定は平成27年度県委託事業として実施)は、中央値で53,9 93頭(50%信用区間38,600~80,539頭)、自然増加率から推定した当該年の 増加個体数は中央値で13,188頭(50%信用区間10,523~16,829頭)であ った(表3、表4)。 階層ベイズモデルによる生息数の推定には前述の利点もあるが、本県の場合、生息密度指 標による推定結果への反映度合が低く、生息数の推定値は概ね捕獲数により説明されている という課題もある。これは、生息密度指標として採用している糞塊調査の年次変動が大きい こと、目撃調査の実施期間が短い(平成23年度より実施)こと等に起因するもので、今後、 生息密度調査の精度向上と継続的なデータ蓄積を行い、またこれらを用いて個体数推定モデ ルを改良していくことで、より本県の実情にあった値が得られるようになると思われる。 (5) 捕獲状況 シカは、戦中・戦後の乱獲等により低密度安定状態が続いたため、メスの狩猟は昭和2 3年度から平成18年度まで禁止されていた。このため、本県でもシカによる農作物等の被 害がみられるようになった時期以降も、メスの有害捕獲については平成10年度から平成1 8年度まで捕獲上限を年間200頭と設定していた。 しかし、平成19年度に狩猟におけるメスの捕獲禁止が解除されたことに伴い、有害捕獲 における捕獲頭数の上限を撤廃した。 さらに、平成20年11月に和歌山県ニホンジカ保護管理計画(第1期)を策定し、1日当 たりの捕獲頭数の制限(本来はシカ1頭/日)についてメスを捕る場合は2頭までと緩和し、 平成22年7月にはその制限を撤廃した。 以上の規制緩和によっても被害の拡大、生息数の増加傾向がみられたため、平成23年か
- 5 - ら個体数調整を目的とした管理捕獲を導入した。 また、平成27年には法改正により創設された指定管理鳥獣捕獲等事業を活用し、全国で 初めて夜間銃猟を実施した。 以上を踏まえて本県のシカ捕獲頭数の推移をみると、平成16年度までは狩猟と有害 捕獲を合わせて2,000頭未満で推移しているが、平成17年度以降は増加に転じ、 平成22年度には6,000頭近い捕獲を行っている。 平成23年度から平成25年度は、管理捕獲の実施と有害捕獲の増加で8,000~ 9,000頭台の捕獲となったが、その後一部の市町村で狩猟期間中に報奨金の支払い を伴う有害捕獲許可を出す動きがみられたことから捕獲数が増加し、平成26年度には 10,000頭を突破し、平成27年度は13,846頭の捕獲となっている(図9)。 猟法別の捕獲数をみると、狩猟、管理捕獲とも銃猟がわな猟を上回っているが、近年 その差は縮まっている(図10、11)。狩猟における銃猟での捕獲数は平成20年度 をピークに、わな猟での捕獲数は平成21年をピークに減少傾向となっているが、これ は狩猟による捕獲数が減少し、有害捕獲が増加したためである。 また、管理捕獲における銃猟の捕獲数は減少傾向にあるが、わな猟は増加傾向にあり、 今後は許可捕獲においても、わな猟が重要な役割を担うものと考えられる。 雌雄別の捕獲数は、狩猟では平成25年以降、有害捕獲では平成24年以降、雌の捕 獲数が雄のそれを上回っている。個体数管理のためには好ましい傾向であり、引き続き 雌の重点捕獲について啓発を行いながら動向を注視して行く(図12、13)。 (6) 狩猟者の状況 本県の狩猟免許所持者数及び狩猟者登録数は、昭和60年度以降大きく減少したが、 近年は下げ止まり傾向となり、平成27年度の狩猟者登録数はわずかに前年を上回った(図 14、15)。 免許種類別の所持者数では、第一種銃猟免許所持者は一貫して減少しているが、わな猟免 許所持者は農家等による自衛手段としての免許取得等が進み、増加している。 また、狩猟免許所持者の年齢構成をみると、60歳以上が最も多く、50~59歳が それに続くなど、狩猟者の高齢化が進んでいる。ただし、平成27年度は20歳代から 40歳代の3つの年代で免許所持者数が増加しており、今後若返りが期待される(図1 6)。 (7) 農林業被害 ア 農業被害 被害金額は、平成10年度から平成14年度までは2,000万円前後で推移してい たが、次第に増加して平成15年度から平成20年度は3,500万円前後、平成21 年度から平成26年度までは4,500万円前後で推移した。しかし、平成27年度は 増加に転じ、被害額は約5,500万円となり、初めて5,000万円を突破した(図 17)。 地域別の被害状況をみると、平成27年度における農作物被害額は、平成25年度と
- 6 - 同様に有田地方以南で大きくなっている。しかし、伊都地域の被害額が日高地域、東牟 婁地域の被害額を上回り、また海草地域では被害額が3倍となったほか、那賀地域では 初めて被害額が計上されるなど、紀北地域での被害拡大が顕著となっている(表5)。 作物別では、果樹、稲、野菜の順で被害額が大きい。果樹では新芽や葉の食害に加え、 樹体の剥皮被害などの被害が、また稲では田植え後の苗の食害や踏み荒らし、野菜では 茎葉等の食害等が発生している(図18、表6)。 イ 林業被害 林業被害は、植林直後のスギ・ヒノキ・広葉樹の苗木における枝葉食害及び立木樹幹 部への剥皮被害が多く発生している。また、サカキ等花木やキノコ類など特用林産物に も被害が発生し、最近では薪炭林であるウバメガシが萌芽枝の食害により枯損に至るケ ースも見られるようになっている。被害金額は、平成18年度以降は増加傾向となって いたが、ここ数年は防護柵の設置等により、増加を抑えている(図19)。 ウ 森林被害 本県では、シカの食害により林内の下層植生が衰退し、残存している下層植生がアセ ビ等のシカの忌避植物のみとなっている森林が多く見られる。特にシカの生息密度が高 いところでは、下層植生が衰退し、動植物の生息環境の悪化や、土砂流出の発生といっ た森林のもつ公益的機能の低下が危惧されている。 (8) 旧和歌山県ニホンジカ保護管理計画(第1期及び第2期)及び和歌山県第二種特定鳥獣 管理計画(第3期)の評価 本県ではこれまで、平成20年度に和歌山県ニホンジカ保護管理計画の第1期計画を、平 成24年度には同第2期計画を策定し、また法改正が行われた平成27年には計画名を和歌 山県ニホンジカ第二種特定鳥獣管理計画(第3期)と改め、引き続き捕獲の強化を中心に被害 対策に取り組んできた。 この間、捕獲強化策として、平成20年度には狩猟期間の延長、捕獲頭数制限の緩和を行 い、平成21年度には直径12cmを超えるくくりわなの使用を可能とする規制緩和を行っ た。さらに、平成22年度には捕獲頭数制限を撤廃し、平成23年度からは個体数調整のた めの管理捕獲を開始した。また、平成27年度には法改正により創設された指定管理鳥獣捕 獲等事業を活用し、全国で初めて夜間銃猟を実施した。 この他、間接的に捕獲を強化する取り組みとして、農家の自衛手段としての捕獲を促進す るため、平成19年度にわな猟免許取得を支援する制度を創設した。さらに平成23年度か らは減少する狩猟者の確保に向け第一種銃猟免許の取得も対象とし、現在も支援を継続して いる。また、平成23年度からは、わな猟免許を持つ初心者の技術の向上を目的とした「わ な研修」、平成25年からは県民の狩猟への関心を高めるため「狩猟の魅力研修」を開始し た。 これらの結果、有害捕獲を中心に捕獲数は急速に増加し、平成26年度には10,000 頭を突破し、平成27年度の捕獲数は13,846頭に達している。 一方で、シカ捕獲頭数の推移(前掲の図9)と階層ベイズモデルにより推定された過去の増
- 7 - 加個体数(前掲の表4)を比較すると、推定値の記載されている平成11年度以降、実際の捕 獲数が増加個体数の推定値を一度も上回っていないことが分かる。示された増加個体数や生 息頭数は推定値であり、実際の捕獲頭数と直接比較することはやや乱暴であるが、被害状況 等を鑑みれば、これに近い状況であったと推察される。 また、和歌山県ニホンジカ保護管理計画の第1期~第2期(平成20年11月~平成27年 5月)にかけては、生息状況調査に基づき推計した生息頭数を採用していたが、すでに述べた ように階層ベイズモデルによる推計値と比較すると過小評価であった可能性が高く、特 にこれら計画に示した捕獲目標頭数が、同年次の年間増加個体数の推計値を下回ってい たことは反省すべき点である。 捕獲の担い手育成を中心とした間接的捕獲強化策については、平成27年度の狩猟登録者 数がわずかながら増加するなど、狩猟者の減少に歯止めがかかっているほか、20歳代から 40歳代の3つの年代で狩猟免許所持者が増加するなど、高齢化についても改善の兆しがみ られる。 以上のように、従前の計画のもとで実施した取組については、捕獲頭数の増加や狩猟 者確保において一定の成果があったと言える。しかし、結果として生息頭数の減少には 至らず、依然として被害が拡大していることから、有害捕獲のさらなる推進や捕獲の効 率化を図る等、捕獲の一層の強化に取り組む必要がある。 6 管理の目標 シカ管理の目標は、人間との良好な共存状態、また生態系と調和した状態を長期的に維持さ せることである。しかし、現在の県内シカ生息数は過剰であり、農林業被害や生態系への影響 は深刻な状態となっている。 従って、シカの個体群動態については人が積極的に関わり、捕獲を推進することで、最終的 には農林業被害がなく、生態系に影響を及ぼさない程度の生息数まで減少させるものとする。 また、単に捕獲のみによらず、農地の防護や里山の環境整備にも取り組み、総合的に被害の 軽減を図ることする。 7 目標達成のための考え方 前項に示したとおり、シカによる農林業被害を防止するため、捕獲、防護、環境整備 の3点について総合的な取組を行う。具体的には、①管理捕獲や有害鳥獣捕獲の強化、 指定管理鳥獣捕獲等事業の実施、狩猟期間の延長及び捕獲頭数制限の緩和等により積極 的に捕獲を行うほか、②電気柵等による農地の防護、③シカの餌となる冬期の緑地帯を 減らす等集落周辺に寄せ付けない環境整備等の取組を行う。 また、計画の進捗状況を把握するため、年ごとに捕獲数及び被害金額等を調査すると ともに、それを基に本計画の内容について検証・検討を行い、必要に応じて見直しを行 うものとする。 なお、生息数の推定値に関しては、前述のとおり捕獲数の動向が結果に強く影響し、
- 8 - 密度指標による推定結果への反映度合が低いことが指摘されていることから、捕獲数の 動向に加え、糞塊法、糞粒法及び出猟カレンダーの分析等、生息調査を継続的かつ的確 に実施し、推定モデルの改良を図るものとする。 8 第二種特定鳥獣の数の調整に関する事項 (1) 個体数管理の考え方 平成26年度における県内のシカ生息数の推定値は、中央値で53,993頭(50%信 頼限界で38,600~80,539頭)であり、自然増加率から推定した当該年の増加個 体数は中央値で13,188頭(50%信頼限界10,523~16,829頭)であった。 個体数管理に関しては、平成25年12月に環境省・農林水産省が「抜本的な鳥獣捕獲強 化対策」を策定し、本州以南のシカについて、当面の目標として平成35年までに平成23 年の個体数から半減させるとの方針(以下、「国方針」という。)を示している。 県内で毎年多大な農林業被害が発生しているなか、可能な限り早期に被害が発生しない程 度にまで生息頭数を減少させる必要があるが、今なお生息頭数が増加していると推察される 現状に鑑み、本県でも示された国方針を指標に、個体数の減少に取り組むこととする。 具体的には、本県における平成23年度の生息数が45,347頭と推計されていること から、平成35年度までに22,647頭以下に減少させる必要がある(頭数はいずれも階 層ベイズモデルによる推定の中央値)。 そこで、平成26年度における生息頭数の推定を行った際に作成した個体数予測ツール (平成27年度県委託事業)により、年度別捕獲頭数の検討を行ってみた(表7)。 まず、平成27年度の県内シカ捕獲実績は13,846頭である。また、平成28年度の 捕獲数は本計画策定時点では確定していないため、管理捕獲を開始した平成23年度から平 成27年度の5カ年の捕獲実績から線形近似により推定し、13,900頭とした。 次に、本計画の実施期間である平成29年度から平成33年度までの5カ年は毎年17, 000頭を捕獲し、かつ平成34年度、平成35年度の2カ年については、捕獲率の上昇に より捕獲が困難となることが予想されるため、年間14,000頭の捕獲を見込むこととす る。これにより、平成35年度の生息頭数は22,576頭となり、国方針に沿った目標を 達成できる見込となる。 ただし、数値は推定結果の中央値であり、実際の生息頭数がこれを上回っていることも大 いに考えられるため、可能であれば目標以上の捕獲となるようできる限りの努力を行い、か つモニタリング調査を継続し、計画の見直しが必要となった時点で迅速に対応することとす る。 (2) 目標生息数 国方針に準拠し、平成35年までに平成23年の個体数から半減させる。 (平成23年度 45,347頭 ⇒ 平成35年度 22,576頭) 本計画の終期である平成33年度末の生息数を33,345頭以下とする(前掲の表7)。 (3) 個体数管理の方法 ア 年間捕獲目標
- 9 - 17,000頭以上の捕獲を行う。 なお、モニタリング結果を踏まえてフィードバック管理を行うこととする。 イ 1日捕獲頭数の緩和 1日の捕獲可能頭数の制限を解除する。 ウ 狩猟期間の延長 シカに対する捕獲圧を高めるため、狩猟期間を前後に延長し、11月1日から3月15日 までの期間とする。 エ 禁止猟法の一部解除 シカを捕獲するためのくくりわなについて、輪の直径に係る禁止事項を解除し、注意看 板を設置することで輪の直径が12cmを超えるくくりわなの使用を可とする。ただし、 ツキノワグマ保護地域(図20)を除く。 オ 有害鳥獣捕獲の推進 有害鳥獣捕獲は被害防止対策としての効果が認められるため、今後も各地域の被害実態 に応じて、市町村、農業従事者等の地域住民、狩猟関係団体らの連携のもと、適正かつ計 画的・効果的に実施する。 また、狩猟関係団体との協力体制の強化等、捕獲体制の充実を図る。 カ 管理捕獲 シカの生息実態を踏まえ、必要に応じて管理捕獲を実施する。 キ 指定管理鳥獣捕獲等事業の実施 県内のシカ個体数は増加傾向にあり、個体数管理を強化する必要が認められることから、 法第14条の2の規定に基づく指定管理鳥獣捕獲等事業を実施する。 事業実施にあたり、別途、指定管理鳥獣捕獲等事業実施計画を作成し、当該事業におけ る捕獲等の目標及び具体的な事業実施内容等を定めるものとする。 なお、当該事業にて、必要に応じて夜間銃猟も実施するものとする。 ク 狩猟者の確保 狩猟者数が下げ止まり傾向となるなど改善の兆しがみられるが、将来の捕獲の担い手育 成のため、引き続き狩猟免許所持者の確保に努める。 また、被害対策の一環として農林業従事者自らが捕獲できるよう、狩猟免許取得を奨励 する。 さらに、野生鳥獣に関する知識と捕獲技術を高め、効率的かつ安全な捕獲活動を推進す ることとし、そのための研修を実施する。 加えて、有害捕獲において狩猟者と地域住民の連携が容易となるよう、捕獲体制の充実 を図る。 9 被害防止対策に関する事項 シカによる農林業被害を軽減するためには、捕獲の強化とともに、捕獲以外の手段である防 護及び環境整備をあわせて実施することが重要である。 たとえば、耕作地周辺での侵入防止対策の実施にあわせ、シカの隠れ場所となる耕作放棄地 等の整理、稲刈り後のヒコバエ等の誘引物の除去を行うなど集落の環境整備を同時に進めるこ
- 10 - とで、被害防止効果は格段に高くなるが、これら総合的な被害防止対策を実施するためには、 地元自治体、農林業関係団体、地域住民及び狩猟者等が一体となった実施体制の構築が必要で ある。 (1) 防護柵の設置 農林業地等の被害を防止するためには、電気柵、金網柵及びネット柵等の設置が有効で ある。獣類に共通する防護柵の侵入経路である地際からの潜り込みを防ぐと同時に、シカ の場合は跳躍力を考慮し2m以上の高さの防護柵設置が必要となる。 なお、防護柵については平成27年度までに農作物被害対策として約1,700km、 林業被害対策として約800kmが整備されている(図21)。 (2) 集落の環境整備等に関する事項 集落周辺に生じている冬期の草地が、シカを里地へ引き寄せ、個体数増加の一因と なることがあるので、耕作放棄地の適切な時期の刈り払いなど地域が一体となった取 組によってこれらの除去に努めるよう普及啓発を行う。 また、稲刈り後のヒコバエや野菜の収穫残渣など、耕作地内にシカを誘引する原因 となる物の除去についても啓発を行う。 (3) 総合的な対策を実施するための体制 ア 市町村の取組に対する支援 県では「鳥獣による農林水産業等に係る被害の防止のための特別措置に関する法 律(平成19年法律第134号)」に定める市町村の「被害防止計画」の策定を推 進している。平成28年11月の時点で県内30市町村すべてが策定済みであり、 その内の27市町村でシカに関する計画を策定している(表8)。 イ 人材育成 地域における被害実態等の状況を熟知している農業協同組合職員や市町村職員 等に対して研修を実施し、鳥獣害対策アドバイザーとして認定する制度を設け、平 成28年度までの11年間に179名を認定している。地域における鳥獣害対策の リーダーとしての活躍が期待される。 ウ 鳥獣被害対策本部 県関係部局及び関係機関の情報共有や総合的な調整を行うことを目的として、平 成22年度に和歌山県鳥獣被害対策本部を設置した。 また同年、市町村や振興局等による広域推進体制を構築し、もって地域における 被害対策を強力に推進するため、振興局毎に地域鳥獣被害対策本部もあわせて設置 した。 10 第二種特定鳥獣の生息地の保護等に関する事項 基本的に対象獣の種類に関わらず、鳥獣保護区等の野生鳥獣保護優先地域の連続的(時間 的・面的)な設定をもって生息環境の保護を図る。 長期的には人工林の間伐による下層植生の回復、広葉樹の植栽等による多様な森林づくりなど、
- 11 - 様々な野生鳥獣が生息できる環境を整えることが肝要であるが、個体数増加の引き金とならないよ う配慮しつつ、人間の生活圏にシカ等野生動物を近づかせないように棲み分けを図る。 11 その他第二種特定鳥獣の保護管理のために必要な事項 (1) 計画の実施体制 本計画を推進するため、関係省庁や地方自治体(近隣府県・県内市町村)等各行政部局間 の調整を密にする。また、農林業関係者、地元住民、狩猟関係団体及び自然保護関係者との 意見調整と合意形成を行い、計画に反映させていく体制をとる。 (2) モニタリング等 本計画を実施およびフィードバック管理するためにモニタリングする事項を次のとおり とする。 ア 被害調査 イ 雌雄別捕獲頭数、捕獲箇所、目撃頭数等の把握 ウ 生息数調査(糞粒調査、糞塊調査、階層ベイズモデルによる推定) 関係者及び学識経験者で構成する「和歌山県第二種特定鳥獣管理計画検討会」において、 モニタリング結果等を検証し、捕獲結果等の実績から評価を行う。 また、保護管理が行われるべき地域の分割や保護管理対策の見直しについても、必要に応 じて検討するものとする。 (3) 捕獲等に伴う事故・違反の防止 狩猟者に対して、安全な狩猟や狩猟マナーの向上について、狩猟者団体と協調して研 修を行う。また、警察と連携して取締りを実施し、事故や違反の防止に万全を期す。 (4) 捕獲個体の利活用 県内で捕獲され、食品営業許可を得た県内施設で処理加工されたイノシシ肉及びシカ 肉のことを「わかやまジビエ」とし、食肉利活用を推進している。 「わかやまジビエ衛生管理ガイドライン」(平成21年3月策定)や「わかやまジビ エ処理施設衛生管理認証制度」(平成26年1月策定)により衛生的なジビエ肉の利活 用を進めるとともに、「わかやまジビエフェスタ」(平成23年~)などのPRイベン トを実施している。 引き続き、利用率向上に向け、安全・安心対策及び消費拡大対策に取り組んでいく。 (5) 情報提供 捕獲や被害に関する情報等について、本県のホームページ等を通じて広く県民に情報提供す るものとする。