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領域「人間関係」に見る規範意識の育ちの変化 : ねらいの1つ、社会生活における望ましい習慣や態度を身に付けるに注目して

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(1)

領域 「

人間関係」に見る規範意識の育ちの変化

∼ねらいの1つ、社会生活における望ましい習慣や態度を身に付けるに注目して∼

栗 原 ひ とみ は じめに 平成20年度改訂幼稚園教育要領の領域 「人間関係」において、その内容の取扱 いに 「規 範意識の芽生 え」 とい う表現で項 目が加 えられた。 このことの背景 には小1プロブ レムと 呼ばれるような子 どもたちの小学校入学後の様 々な問題があ り、広 くは幼少の滑 らかな連 携 を推進する動 きがあると言われている。 しか しなが らこの文言が幼稚園教育要領 に入ることによって、保育者が規範意識の芽生 え を短絡的に垣解 し、単 に、ルールや決 まりが守 られた り、物事の善悪だけをわか らせ よう とする指導 に陥ってはならない と筆者は危悦 を覚えた。筆者は平成20年度 まで幼稚 園教諭 として幼稚園に勤務 していたので自戒 も込めてこの小論 を善 くに至 った。 領域 「人間関係

を見てみると、

3

つのね らいが表記 されているうちの

1

つ、「社会生活 における望 ましい習慣や態度 を身に付 ける

が、規範意識の芽生 えに表面的には関係する 部分 と思われる。表面的にと限定するには意味がある。規範意識 について領域「人間関係」 で括 られていることか らもわかるように、規範意識 を問 うときには広 く人間関係の育 ちか ら、ほか2つのね らい、す なわち 「自分の力で行動することの充実感 を味 わう」ことや 「身 近な人 と親 しみ、かかわ りを深め、愛情や信頼感 をもつ」 ことと連動 して達成 されること が望 まれるのである。 しか しなが ら、 この小論ではあ くまで 「社会生活 における望 ましい 習慣や態度 を身に付 ける」とい う観点か ら考察 を進めてい くことを初めに明記 してお く。 幼児教育 において、 どの くらいの割合の子 どもが 「社会生活 における望 ましい習慣や態 度 を身に付 けず に」、その後 に続 く小学校 に入学 してい くのだろうか、 とその実態 を把握 し たい と考 えた。 また規範意識 は どの ような変化 をきた しているのであろうか を考 えてい き たい。

Ⅰ.研究の目的

①幼児教育の規範意識の芽生 えに相当すると思われる、幼稚園教育要領領域 「人間関係

のね らいの、 「社会生活 における望 ましい習慣や態度 を身に付 ける

ことは どの くらい の割合の子 どもが身に付 けられず にいるのかを明 らかにする。 ②幼稚 園現場か ら規範意識の育 ちの関する事例 を抜 き出 し、その変化 について実態 を明 ら かにする。 _ -

(2)

1-Ⅱ.

研究の方法 (D幼稚園幼児指導の記録の 「人間関係」 は

3

つのね らいが表記 されているが、その うちの 1つの 「社会生活における望 ましい習慣や態度 を身に付ける」の 「発達の状況」の欄 に 在園中に○がついている幼児 はどの くらいの割合でいるのか を調査す る。変化 を見 るた めに小1プロブ レムが問題 となる前の時代 の もの と現在 を比較 して考察す る。幼稚園在 園中の3年、ない しは2年のあいだに指導の記録の 「社会生活 における望 ましい習慣や 態度 を身に付 ける」 に○が1つで も付いて卒園 してい くことが次 に続 く小学校 での規範 意識の育 ちに繋がってい くと筆者は考えた。 ここに○がつ くとい うことは、保育者が

1

度はその ような望 ましい習慣や態度が身に付いた と認めた証拠で もある。ただ し○はそ の学年の初め と比較 して著 しい発達が見 られた ものに○印を記入す ることになっている。 例 えば3歳児学年で○が付いた とすると4歳児学年では、学年初め と比較 して学年終了 の段階では著 しい発達が認め られなければ○はつけない。○ こそつけないが4歳児学年 で も

3

歳児学年 と同様 に望 ましい習慣や態度が身に付いている状態 と考 えられる。 この ような場合 を考慮 して、 どの学年かは問わないこととした。 しか しなが ら入園前の段階 で 「社会生活 における望 ましい習慣や態度」 が身についているとは考 えに くい。 これ ら は幼稚園在園中の幼児教育機関において集団生活 を体験 してその大半 を習得 してい くこ とが望 まれていると考える。仮 に、この項 目に3年、ない し2年間の幼児教育期 間中に ○が付かない とい うことは、幼稚園では著 しい発達の状況が見 られなかった、 とい うこ とで小学校への課題の積み残 しとは考 えられないだろうか。 ②次 はデータとい う数字か らは見 えてこない子 どもたちの実態 を事例か ら分析考察 してい く。 事例収集 にあたっては、規範意識 に関すると思われる事例 を収集 し、その中で も顕 著な ものを取 り上げる。

Ⅲ.

結果 ①勤務園の指導の記録 における領域 「人間関係」のね らい 「社会生活 における望 ま しい習 慣や態度 を身に付 ける」の発達の状況 を記す欄 に○が どの学年で もついていないで卒園 した子 どもの割合 を

5

年度 (小

1

プロブ レム顕在化以前) と

1

5

年度

、1

8

年度

、1

9

年度 と 比較 して考察す る。○がついていない子 とは幼児期 において社会生活 における望 ま しい 習慣や態度 を身につけず に卒園 した子 と考 えられる。 、′成5年度 平成15年 平成18年 平成19年 望 ま しい習慣 や態度 を身 につけず に卒 園 した子 50% 66% 68% 70%

(3)

領域 「人間関係」に見る規範意識の育ちの変化 (栗原) 平成5年 は小1プロブ レムなる現象 は表面化 されてはいない時期である。 当時50%の子 どもたちが幼児期 に 「社会生活 における望 ま しい習慣や態度 を身につける」が達成 されな い まま小学校 に進学 していった。逆 にいえば半数の子 は望 ま しい習慣や態度 を身 につ けて いたのである。 しか しなが ら近年 は過半数 を超 して、今 なお微増 中である。 大半 の子 は望 ましい習慣や態度 を身につけそびれて、あるいはつけないまま、課題 を積み残 した まま小 学校 に進学 している。 この実態 は小 1プロブ レムの下地 となっているのではないか とデー タか らよみ とることがで きる。 (参以下 に数字か らは見 えてこない規範意識 に関す る実態 を事例考察か ら明 らかに してい く。 事例1、 「一斉活動の最中の水筒飲み」 2

(

氾8.7.3 5歳児 暑い日で気温は28℃。クラスの全員で明日の七夕祭 りのことについて先生の話を開いている ときだった。C君はフラリと立ち上がって、教室の隅に掛けられている自分の水筒を飲みに行 ってしまった。そのときには保育者が 「明日はうちわを持ってきてね

と話 していた。そして C君が水筒を飲みに行っていることも見て知っていたが、敢えて何 も言わなかった。翌日、C 君は案の定うちわを持ってこなかった。友達から

C君、うちわ忘れたんだって

」「

C

君、 きのう先生が持ってきてねって言ってたじゃん。おれほどカチュ-のうちわ持ってきたよ。ほ らこれ-」と声が上がる。C君は泣き出してしまった。 確かに暑い時の水分補給 は大切 だが、 この幼稚 園では一斉保育活動の切 り替 わ りの時 に 随時水筒 を飲 んで よい ことになっている。通常 は午前 中だけで も一斉活動 中に3、4回は その機会がある。 この10分程度前 には水筒 を飲 んでいい場面があった。C君 はその時 に飲 んでいなかった。C君が水筒 を飲みに行 ったのは先生が明 日の行事の持 ち物 について全負 に話 している場面である。 ここでの問題点は

5

つ考 え られる。

1

つめは

C

君 はこの幼稚 園 では一斉活動 中に水筒 を飲 んではいけないこと、1つの活動 の まとま りとまとま りの間に は飲 んで もいい ことを理解 していなが らフラリと立 ち上が って飲 みに行 っていることであ る。それはやってはいけない ことと理解 していなが ら、やってはいけない行為 を して しま う。 場面毎 に適切 に自分 を制す ることがで きないC君の育 ちの1つの傾向 を見 ることがで きる。 2つめはC君が クラスの全員で行 っている活動 は自分 も含 まれている とい う所属意識カぎ 希薄であった と考 えられることやある。 自分 だけが勝手 な行動 をす ることが クラスの

1

員 として どうなのか とい う思いはおそ らくC君 にはなか ったのであろう。 自己中心性の発達 の段階 にあると言 われている幼児期 に鑑みれば、みんなの中のひ とりである とい う自覚 は もう少 し成長 を待 たなければならないであろうが、 しか し幼児期後半の

5

歳児 には一斉活 動 中の勝手 な行動 にブ レーキをかける友達同士、横 の繋が りが育 っていてほ しい。勿論、 その ことはヾ この場面 だけを切 り取 って語れることではな く、その前か らの クラス として -

(4)

3-の まとま りや繋が りを考察 しなければな らないだろう。

3

つめは、水分補給 についての世相の変化である。 学校等 との施設 には十分 な水道設備 が整 っているにも関わ らず、夏場の水筒持参 はかな り普及 していると思 われる。 家庭 にお いて浄水器が普及 しているように、美味 しくて安全 な水 を求める背景がそ こにはあると考 えられる。 またペ ッ トボ トルの普及 も影響 している と考 えられる。大学等では授 業中に夏 場 は机上 にペ ッ トボ トルを置いて授業 を受 けている学生 も多い。一般社会で も会議等 には 最初か らペ ッ トボ トルのお茶が用意 されていた りす る。 水分 は、水分補給 の観点か らも、 自由に飲みたい時 に飲 んで よい とい う概念が普及 している世相 を反映 している とも考 えら れる。 4つめは保育者の援助 についてである。 保育者が敢 えて何 もC君 に言 わなか った ことに 注 目す る。保育者 はなぜ何 も言わなか ったのか。 ここで

C君、明 日は うちわを持 って来 るんだ よ、わかった

?」

と個人的に援助す ることもで きたはずである。 に もかかわ らず個 人的な援助 を行 わなかったのはその ことが本 当にC君のためにはな らない と保育者が考 え たか らではなか ったか。 自分の行為が 自分 自身に結果 として降 りかか って、そ こか らC君 に学 んでほ しい と願 ったか らではないだろうか。だか ら話 しは聞いていなければな らない とい う規範 を自分 自身の内面か ら体験 を通 して理解 してほ しい と考 えたか らではなか った か。保育者 に規範 は大人が先 回 りして教 えることでは身につかない とい う見通 しがあった のではないか。 しか し保育者の意図がC君の規範意識 の育 ちに どの ように作用 したかにつ いてはこの事例 だけでは読み取 ることがで きない。 うちわを忘 れてC君 は泣 き出すのであ るが、 この ような機会 を捉 えて保育者の意図は伝 えられるべ きだ と筆者 は考 える。 5つめの問題 は保育者 はC君の個 人的な育 ちの傾向 を越 えて、 クラス として どの ような クラスに したか ったか を考 えてみる。一斉活動 中に一人 ひとりが勝手 に行動す る'ことは協 同体験の妨 げになるのではないだろ うか。け じめあるクラスに したい と考 えるな らば、C 君 をい う個人 を超 えて、 クラス として 「みんなでいっ しょに活動 している ときに、ひとり だけ勝手 なことをす るのは どう思 う

?」

とい うことを教示的 にかかわることが必要 なので はないであろうか。水筒 を飲みに行 った とい う些細で具体的な一行為 を超 えて、モ ラルや ・ 道徳性 と して も集団に考 えて もらう機会 に したい ものである。 事例2、 「みんなで使 うおもちゃを隠さない」 2

(

氾8.2.25 5歳児 年長組の男の子はみな指人形のおもちゃが気に入っている。 ここのところ毎 日この指人形の おもちゃを使って多 くの子が遊んでいた。なぜ人気かというと小 さくてたくさんキャラクター があり、そのキャラクターごとに戦ったり、競い合ったりして手持ちの数を増や していったり、 強いキャラクターへと進化 していったりして楽 しむことができるからである。 その指人形のお もちゃがこの日、箱ごとなくなっていた。散々探 して困り果てた0君は 「先生、どこにもない

(5)

領域 「人間関係」 に見 る規範意識 の育 ちの変化 (栗原) よ、昨日帰るときにちゃんとここにしまったのに」と泣きそうだった。その様子を見ていたS 君は 「え、ぼくあるとこ知っているよ。 ほら

∼」

と言って廊下の隅の裏から出してきた。保育 者が

S

君、どうして知っていたの

?」

と尋ねると 「だってあのおもちゃ、全部ぼくが使いた かったから

」と傭いて言った。 「なんだよ

-」

と泣きそうになっていた0君が怒 り出 して とうとう泣き出した。S君は驚いて0君を見ていた。 これ とよ く似 た事例 で年長児 になると、上履 きを隠す とい ういたず らが見 られることが ある。 これは以前 も今 もあ り、成長の道筋で通 る普遍的な要素が このいたず らには含 まれ ている。 す なわち興味 を持 っている子の上履 きを隠 して、その子が困る様子 を見 て楽 しむ ことである。 自分 の行為 によって引 き起 こされた結果で友達が困る、その ことの もた らす 効力感、満足感 は成長の影の部分 とあるのではないか と筆者 は考 えている。幼児期の これ らはいたず らの範噂である。 隠 したことを本人が忘れて しまうこともあ り、持続的な悪意 とい うよ りは思いつ きの悪意である。 たいがいは 「あ、ぼ く知 っているよ」と、隠 した本 人が邪気 な く出 して くる。 この事例が上履 き隠 しと違 うところは、それがみんなで使 うお もちゃであるところだ。特定の個人が困るのではな く、それで遊 んでいたみんなが困る、 その困る様子 を見 て楽 しむ とい うのではな く、 この事例の動機 は 「自分が独 り占め したか った」とい うところにあった。 きっとS君 は指 人形 を自分 ひとりで全部使 ってみたい気持 ちを持 っていたのだろう。 しか し全部 ひ とりで使 えることはない。幼稚 園は集団生活の場 であ り、常 に、他の子が居 て、共存 しあっていかなければな らない。家庭ではお もちゃは ひとりで使いたいだけ使 える。けれ ど幼稚 園ではそ うはいかず、だか らこそお もちゃを分 け合 って使 う学 びの場 になっている。 ここでの問題 は2つ。 ひ とつはS君の問題である。 S君 にとってはお もちゃをひとり占 め したい気持 ちがあった。それはなぜ だろうか。 ひとりで使 えるなら

S

君 はひ とり占め し たい とは思 わなか ったであろう。 みんなで使 わなければならないか らこそ、 ひ とり占め し たいのではないか。友達の中で こそ、 自己の要求 を満 た したいのである。 そこでS君の友 達 とのかかわ りの中で要求 を満た したい思いが優先 された。その後の ことは考 えることが で きなかったのであろう。 それほ ど

S

君 は友達 とのかかわ りを欲 しているのであ り、友達 とのかかわ りが不足 してい るとも言 える。 だか らこそ ここに

S

君の貴重 な学 びがあるとも 言 えるのだ。困っているみんなに対 して 「ぼ く知 っている

∼」

とお もちゃを出す ところま では、む しろぼ くが見つけてあげた とい うような得意の感情 さえあったのではないか。本 当にいけない ことを した とい う理解 は先生 にその行為の理由を尋ね られて、

0

君が泣 き出 したの を見 て、初めて生 まれでた思いではなか ったか。だか ら傭いたのではないか。その 葛藤体験 は家庭 にはない ものである。 問題の2つめは、S君 に限 らず、 こういった、分け合 って使 うとい う経験が今 の子 ども たちには圧倒的 に欠けていると考 えられることである。今、お もちゃはひとりひ とりに自 -

(6)

5-分の分 として与 え られているのではないか。場合 によっては惜 しみな く与 え られてい る状 況が考 え られる。 この ように数人以上大勢 で同 じもの を分 け合 う経験 は入園前 も、そ して 入園 してか らも、幼稚 園 を一度離 れれば、その機会はない と思 われる。幼稚 園で しか体験 で きない とい う体験 の場 の究極 の不足 である。 この場合は、集団 に働 きかける とい うよ りは個 人 を対象 に したかかわ りが求め られる。

S

君が この機会 に、 なぜ お もちゃを隠す ことがいけない ことなのか を問いかけてい くこと が、気づ きを促す と考 え られる。 事例3、 「違う考えを言う子のことを馬鹿にした り嫌ったりしない

2008.3.12 5歳児 年長組の女の子のⅤちゃんとWちゃんとⅩちゃんYちゃんとが動物変身ごっこをして遊んで いた。中でもリーダー格のⅤちゃんは 「次はコアラね

∼」

と変身する動物を提案 した り、表現 がその動物に似てないと 「それじゃ、コアラってわからないよ

∼」

と言っていた。 「次はラッ コね

∼」

とⅤちゃんが提案 したときに、Wちゃんは 「わたしはウサギがいい」 と言い張った。 「ウサギはさっきやったから、今度はラッコよ」 とⅤちゃんが念を押すと、Wちゃんは 「でも 私はウサギがや りたいの !

と言いながらピョンピョン跳ねだした。Ⅴちゃんは 「まった くも

∼。

Wちゃんは私の言うことが聞けないの !!ラッコって言ったで しょ」 とさらに語気を強め ていうと、 「さあ∼、あなたたちもラッコよ∼。」とⅩちゃんとYちゃんを促 した。3人で仰向 けになり背中で泳 ぐ真似をしていたが、ⅤちゃんはWちゃんに向って 「もういいわよ、Wちゃ んはあっち行って。もうWちゃんとは遊ばないから向こう行ってよ

と怒鳴った。Wちゃんは 泣き出した。その様子を見ていた保育者が 「ねえ、Ⅴちゃん。Wちゃん泣いているよ。いいの かな、これで

と声を掛けた。するとⅤちゃんは気まずそうに傭いた0 日頃 よ り勝気 なⅤち ゃんが他 の子 を遊 びに誘 うことが多か ったが、 よ く操 めていた。

ちゃんは一人 っ子 であ り、 自分のイメージ通 りに友達 を巻 き込 んで遊ぶ ことに夢 中であっ た。他 の子 に とってⅤちゃんは魅力 はあるけれ ど、怒 った り、悪 口を言 った りす るので、 怖 い存在で もあった。ここでの問題 は3つ。 まず Ⅴちゃんの問題 である。 自分 が「ラ ッコ

と主張 しているの に もかかわ らず、W ちゃんは さきほ どや り終 わった 「ウサギ」 と主張す るの を受 け容 れ られず にい ることである。 その こと事体 はよ くあることであるが、 ここで 「もう..いいわ よ、あ っち行 って」とW ちゃんを排 除 した ところに問題があ る。 自分 の主張 を受 け容 れて くれない相手 を排 除す る しかで きなか ったⅤちゃんの体験 の不足 が まず あげ られる。 自分の主張 はいつ も友達か ら受 け容 れ られる とは限 らない。受 け容 れ られない経 験 も豊 か に積 んだ先 に妥協 案 を思いついた り、譲歩 した り、柔軟 な人 とのかかわ りを取 り 結 んでいけるのであろ う。 問題 の2つめはⅤちゃんの言 うままになって遊 んでいたⅩち ゃん とYちゃんの存在 であ る。 この時 にⅤち ゃんに向 って

W ちゃんは ウサギがいいって言 ってる よ」 と

W

ちゃんの ことを考 えてあげる ことはで きていない。 ラッコと言 っているⅤちゃん もウサギ と言 って

(7)

領域 「人間関係」 に見る規範意識の育ちの変化 (栗原) いるW ちゃん もどちらもみんなで楽 しく遊ぶ には どうした らいいのか を考 えようとしたで あろうか。もちろんこの事例の場面 だけを切 り取 って語 ることはで きない し、その前後の脈 絡やそれぞれの子の成長の段階な どを考慮 して慎重 に検討 しなければな らないが、誰かの いいな りになるのではな く、 自分 自身で考 える機会 を大切 に しなければな らないであろう。 問題の 3つめは大人の問題である。 Ⅴちゃんの ように自分の主張が受 け容れ られない経 験 を して も、性急 に相手 を排除す ることはない。Ⅴちゃんは妥協案や譲歩の機会 を自分 に もW ちゃんに も用意す ることな く排 除を宣告 して しまうところに現代 の子 どもたちがおか れている背景が透 けて見 えるのである。す なわち子 どもたちは親や大人か ら毎 日の 日常生 活の色 々な場面で、行動 を急が されて育 っている、 と感 じる。間合いを取 った り、成長の 姿が見 られな くて、む しろ後戻 りす るような姿 をもゆった りと受 け止 め られて育 っている だろうか。親 も保育者 も、答 えの見 えない手 さぐりの状態がつ らいのだ。そのために答 え を性急 に探 した り、早 く早 くと トンネルの出口-辿 り着 くように子 どもを急 き立ててはい ないだろうか。成長の先や育 ちの行 方ばか りを気 に して、い ま、現在 のあ りの ままの姿 を 受 け止 めることがで きないのではないだろうか。ではなぜ答 えのでない状況や子 どもの育 ちばか りが気 になるのだろうか。順調 に育 っているのか確認で きない状況がつ らいのか。 子 育てや保育 についての 自分の頑張 りを認 めて もらえなかった り、理解 して もらえなか っ た りす るのか 怖いのか もしれない。大人 自身の 自己肯定感が脆弱 になってい る世相が影響 しているように筆者は考 える。 また異質な考 えや存在 に対 して大人が大 らか に受 け止める とい う姿勢 を示 していない ことも背景 にある とも考 えられる。 問題 の4つめは保育者の問題である。保育者 はⅤちゃんにWちゃんが泣いていることを 知 らしめた。 これは見守 るだけではな く、問いかけてい くかかわ りである。 なぜ保育者 は Ⅴちゃん個人に対 して、問いかけてい くかかわ りを選択 したのであろうか。 もしここでⅩ ちゃんやYちゃんがⅤちゃんの一方的な行為 に異議 を唱えられたな ら保育者 は見守 るかか わ りを選択 したに違いない。 ここでのⅩちゃん とYちゃんが無意識の うちに加害者 になっ て しまっていたので、

3

1人の構図になって、 この ままでは現状 を打破す る改善の余 地が見 出せ ない と判断 したのではないだろうか。 この ように、保育者 は方向性の修復 な り 改善が望めない様子が見 て取 れた ら、その行為 に問いかけてい くことが必要である。 この 場合 は集団で行 う活動ではな く、 クラスの 自由遊 び時間帯での出来事であった。保育者 は まず Ⅴ ちゃん個人 に問いかけてい くことが求め られ るであ ろ う。 と同時 に、言 いな りに なって しまっていたⅩちゃんや

Y

ちゃん、先 ほ どや り終わったウサギを主張す る

W

ちゃん に も考 えて もらう必要がある。

(8)

-7-事例4、 「友達 が悲 しむ言動 にあ とか らで も気 づ くこ とがで きる

2008.5.23 5歳児 H君 は言語 の発達 の遅 れが あ り、その発音 は不 明瞭でわか りに くい。 けれ ど聞 くこ との理 解 はほぼ年齢相応 であ る。 Ⅰ君 は 「ね えH君 !。 どう してH君 は しゃべ れ ないの

?」

と尋 ね てい た。H君 は この時 に悲 しそ うな顔 を して黙 り込 んだ。傍 で聞いてい た保 育者 が、 「た しか にH 君 のお しゃべ りはわか りず らいか もしれ ないね。 で も先生 はH君が何 をいい たい か、 たいが い わか る よ。 H君 のお しゃべ りを聞 くこ とが先生 は大好 きなんだ」 ときっぱ り言 った。 Ⅰ君 は神 妙 な表情 を してそれ以上何 も言 わ なか った。 H君 は しゃべれないのではない。いつ も大変お しゃべ りである。 しゃべ っているのにも かかわ らず、 しゃべれないの ?と問われることはH君 にとって合点のいかないことであっ た以上 に、悲 しいことだったのではないか。 この保育者は、H君が集団の中で話す意欲 を 大切 に して きた。確かに発音 は不明瞭で聞 き取 りに くい。子 どもにとっては理解で きず ら いのか もしれない。 しか し、子 どもたちは誰 もが、発達 については多少 な りのデ コボコを 抱 えなが ら大 きくなろうとしている。 そのことを受け とめあって、認め合 ってい くことは、 居心地のいい集団形成 には必要不可欠ではないか。その ことをこの保育者 は集団の大事 な ルールに したかったのではないか。発達 に遅れのある子 に限ったことではな く、 この こと は他者 との関係 をどう営んでい くか とい う仝貞の課題 なのである。 この ような機会 を捉 え て、 まさに Ⅰ君が問 うた とい う接点で、他者 をどう受 け止めてい くか を問い返 してい くこ とが、集団の経験の乏 しい幼児 にとっては重要な指導の一部であると考 える。 ここで保育者は

H

君の発音がわか りず らいことを認めている。そ して Ⅰ君の認識 を修正 した形で返 している。 すなわち 「しゃべれないのではな く、わか りず らいのだ」と。

5

歳 児 ともなると事実 を照合す る認知の力が蓄えられて きている。 話 し言葉が理解 しず らいこ とをしゃべれない とは言わない と暗黙の うちに保育者が 「事実の捉 え方

を示 しているの である。 他者の受け止め方、事実の受け止め方、その両方 を同時に保育者 は示 したことに なる。 ここで きっぱ りと保育者が言 った発言の内容 に注 目す る。 「で も先生 はH君が何 をいいたいか、たいがいわかるよ」で保育者は何 を伝 えたかったの であろう。言語活動 はコミニケ-シ ョンの一部 に過 ぎない。 コミニケ-シ ヨンは表情 など のノンバーバルコミニケ-シ ヨンの方が幼児期 はとくに有効である。その コミニケ-シ ョ ンの基本 は相手の立場でわかろうとすることだよ、 とそこまで射程 に入れての発言であっ たのではないだろうか。本当にこの保育者が

H

君のわか りず らい発音でたいがい

H

君のお しゃべ りの内容が理解が出来ているか、その事実の照合 よりも、わか りたいのだ、わかろ うとす るのだ とい う願いや意思が込め られていたのではないだろうか。 もしか した らわか らないことも多いのか もしれない。だ とした ら事実 を乗 り越 えた くて、わか らないことも

(9)

領域 「人間関係」 に見 る規範意識の育ちの変化 (栗原) ある、 とい う不足 を補いた くて きっぱ りと言 ったのか もしれない。その保育者の態度が願 いや意思の表明 とな り、発間者の Ⅰ君 に何か を感 じさせたのではないか。 Ⅰ君 は きっとそ れ以上何か を言 えない雰囲気 を保育者か ら感 じたのか もしれない。 Ⅰ君が 「この先生 は

H

君の ことを大切 に してい る

」「

H

君 は先生か ら大切 にされている」と感覚的 に感 じること がで きれば、 Ⅰ君 は今後、 もし他者 を傷つ ける発言 を しそうになった ときに、一瞬、立 ち 止 まることがで きるのではないか。そ ういった積み重ねが、ひいては、他者 を認 め合 って い く集団の規範 を、 目にはみえない もの として成 り立たせ てい くのではないだろうか。 こ こで改めて確認 してお きたい ことは 「大切 にされているのはH君だけではない。ぼ くも大 切 にされている」と Ⅰ君が感 じることが重要である。 発達 に遅れがあるか ら

H

君が大切 に されているのではな く、一人ひとりが大切で、デ コボコを抱 えなが らも必死で大 きくなろ うとしている、かけが えのない存在 なのだ、 とい う保育者の規範意識 を暖かい感情 として 個人に どう伝 えていけるのか、その部分の専 門性が問われていることを指摘 してお きたい。 事例5、 「並ぶことができる」 2

(

氾8.6.6 4歳児 保育者が4歳児クラスの子どもたちに向って折 り紙を順番に取 りに来てもらう場面であった。 「まず男の子から取 りに来てね

と保育者が言うと、A君、B君、C君らは大慌てで折 り紙を 取 りにきて並んだ。そこにD君が後から来て、一番前に割って入ってしまった。 「ねえD君、 並ばなきゃいけないんだよ !」とA君が声をかける。B君C君も、 「だめなんだよ !

「並ぶん だよ !

と怒 り気味で言い出す。D君は 「なんだよ∼。いいんだよ」 と大声で言い返 し、手を 振 り上げて叩こうとする。よくみるとD君の目には他の子に怒 り気味に言われたことで悲 しく なって涙が光っていた。保育者はD君に声をかけた。 「D君は、はやく折 り紙で遊びたかった んだよね。わかるよ。でもどうすればよかったかな?」。。。。D君は小 さな声で言った。

「なら ぶ。。。」。D君は涙を拭いながら、列の後ろに並んだ。 保育者が設定す る活動 に好奇心 を持 って取 り組 もうとしたD君。はや く折 り紙で遊 びた か ったに違いない。けれ どその動機 を

D

君 も自分で語 ることはまだで きない し、他の子 も す ぐには理解で きない。だか らD君の行為 をいけない こととして怒 り出 し、並ぶ ことを要 求 したのであろう。 保育者 はD君の動機 を言葉 に して表現 してD君 は じめ他の男の子 に伝 えた。 ここに

D

君 の気持 ちの受 け止めがなされている。同時 に保育者 は

D

君 に 「では どう すれば よかったかな

?」

と問いかけている。 この問いかけがD君の気づ きを促 し、D君の 「ならぶ。。。」とい う言葉 を引 き出している。同時 に、並ぶ ことを要求 した他 の子 たちに対 しては、 「先生 (保育者) もD君の行為、後か ら来て一番前 に割 り込 む行為 については、 肯定 していない」 ことを示 した形 になってい る。並ぶ ことを、最初か ら強要す るのではな く、

D

君の行為の動機 を言葉 に して伝 えなが ら、他の子がすでに体現 してみせ たい 「順番 に並ぶ

とい う社会のルール-の理解 をD君 に問いかけたのである。 クラス とい う小 さな 集団ではあって も、そこにはある一定のルールが要求 されている。その ことの実際 を保育 -

(10)

9-者は示 した り、気持 ちを受 け止めた りを含みなが ら、 この ような場面で子 どもたちに問い かけてい くのである。 事例6、 「お もちゃを独 り占め しない

2008.6.3 4歳児 A君 とB君 とがブロ ックで遊んでいた。一片が大 きなブロックはそれだけ大 きな鉄砲がつ く れるので子 どもたちに人気がある。A君はきっそ く一片が大 きなブロックをい くつ も組み合 わ せて鉄砲 を作 り出 した。B君 もその隣で何か作 り出 した。 B君がおお さなブロックを見つ ける と、チラツとA君がそれを見て、 「これ もぼ くの !

と取 って しまった。B君は何 も言わず に、 また別のブロックを探 し始めた。再びB君がおお さなブロックを見つける と、また して もA君 が 「あ !これ もぼ くの !

と言ってB君の手か らすばや く奪 って しまった。 B君 は不満そ うな 表情 を して 「え∼。それぼ くが便お うと思 ったのに

と言 った。A君 はチラ ツとB君 を見 てい た。同 じことが 3度繰 り返 された。保育者はその様子 を見ていたが、敢 えて何 も言わなか った。 ここで保育者がA君がB君のブロックを奪 って しまう行為 を3度 も目撃 しなが らもなぜ 何 も言わなかったのか を考察する。 1つにはA君か らB君 はブロックを奪われて、その不 満 を表情 と言葉で表現出来ていたことである。 保育者 は子 どもたちの自己主張のぶつか り あいを貴重な学びの機会 を捉 えている。 そこでのぶつか りあいが フェアーであるように見 守る責務がある。 この場合、決 してフェアーではない ようだが、横暴 な行為 に対 して言葉 で自分の主張 を表現で き対抗で きるとい うことは、ある意味、 「横暴 な行為対正当な自己 主張

とい う点で フェアーだ と考 えたのではないか。 もしここでB君が言葉で対抗で きな い ようであれば、保育者はB君 に対 して 「あのブロックはB君が見つけて、B君が使いた かったん じゃないの

?」

と意志確認の援助が必要であろう。

2

つめには、

A

君は横暴 な行 為 をしたあとで

B

君のことをチラッチ ラツと何度 も見 ていることである。 これは

A

君が

B

君 に対 して行 った自分の行為の反応 を気 に している証拠である。

A

君 は相手の子の反応 と 自分の行為の加減 を見 なが らブロックを奪 っていたのであった。 もしここで

A

君が全 く

B

君の存在や気持 ちに気がつかない ようであれば保育者は

A

君、

B

君のお顔見てご覧

?」

と気づ さを促す援助が必要であろう。 3つめにはほかの場面ではA君が他者の気持 ちに気 がつ く場面があった り、B君が 自己主張する場面 もあるとい うことを保育者は知 っていた ので、小A君B君の持 っている力 を信 じることがで きた と考 えられることである。 「人の も の (ブロック) を取 ってはいけない」という規範 を身につけてい く過程で、他者の不満 に 出会 った り、反応 と加減 を伺いなが ら自己主張 をする体験 を通 して学ぶ ことが重要であ り、 「だか ら人の ものは取 ってはいけない」とい う実感 を伴 った自分の思いで感 じる道筋 を通 らな くてほならないのではないか。子 どもの実感や実体験 を尊重 したかったか ら保育者は 敢 えて介入の準備 をしなが らも見守 ったのではないか。 もしここでこの保育者が規範づ く りを急いで しまい

A

君 !人のブロックはとっちゃいけません。

B

君がかわいそ うで しょ

!

!

等の言葉で介入 していた らどうであろう。そう考 えるとこの保育者 には、規範が実際

(11)

領域 「人間関係」に見る規範意識の育ちの変化 (栗原) に身についてい く過程 を体験 して きたか らこそ、この ような見守る援助がで きた といえる のではあるまいか。

Ⅳ.

考察 1、事例ケースの整理 ここで事例ケースを行動の背景、子 どもの行動、保育者の援助、規範意識 に分 けて整理 してみる。 行動の背景 子 どもの行動 保育者の援助 規範意識 場面毎 に適切 に自分 を 制するこ.とがで きない 全員で行 っている活動は自分 も含 まれているとい う集団意識が希薄 -斉活動の最中に水筒 失敗体験 を積 ませ る団に考 えて もらう機会け じめあるクラスを集をつ くる 一斉活動中には、一人ひとりが勝手 に行動 し 水分補給 についての世 相の変化 を飲みに行 く ない 友達 とのかかわ りが不 足 している分け合って使 うとい う経験が圧倒的に欠けている みんなで使 うお もちゃ 保育者が行為の理 由を お もちゃは分 け合 って を隠す 問い、気づ くように導く 使 う 受け容れ られない経験の不足 行動 を急がせて育 って て くれない相手 を排除自分の主張 を受 け容れ 方向性の修復 な り改善 自分の主張が受 け容れ する 誰かのいいな りになる が望めない様子が見て られない場合で も、安 いる 異質な考 えや存在 に対け止めるとい う姿勢 を示 していないして大人が大 らかに受 取れたら、その行為 に問いかけてい く 協案 を思いついた り、結んでい く譲歩 した り等、柔軟 な人 とのかかわ りを取 り ハ ンデ ィのある子 との かかわ りの不足 違いを認め合 う文化の 脆弱 さ 言語 に発達の遅れのあ 他者の受け止め方、事 自分の言動で相手が悲 -illr

(12)

衝動性 を制御で きない 並ぶ経験の不足 並んでいる友達の一番前 に割 ってはいる 行為の動機 を言葉 に し 周 りの状況 に応 じて、て伝 えた後で、並ぶ とい うルールへの理解 を問いかける 行動 を修正す る 自分が使 っている物 と 他者が使 っている物の区別の意識が希薄 他者が使 っている物 を 奪 つて も許 される体験 人の使 っているお もちやを取 って使 う 他者の不満 に出会った体験 を見守る他者が使 っている物 となが ら自己主張 をす る自分の使 っている物 とり、反応 と加減 を伺い 横暴 な行為 に対 して言人の ものは取 らない相手の子の反応 と自分の行為の加減 を見 ながら行動す る

2

、事例分析 から見えてきたこと 事例か ら共通 して言 えることは(∋大人の側の変化 と②子 どもの側の体験の不足である。 (∋大人側の変化 1 大人の変化 には

3

つある。 1つは大人が子 どもに対 して、教示的に押 し付 けて、物事の枠組 を示 さな くなってきて いることである。 俗 に言 う 「しつけ

の ことである。 しつけ とは所属す る社会集団で生 き てい くために必要な文化や規範の枠組 を示す ことであると筆者 は考 える。 子 どもの主体性 を尊重することと、 しつけ とは本来別の ものであるはずなのだが、混同 している場合が多 い と感 じられる。 もう

1

つは行動規範の変化である。世相 を反映 した もので大人 自身 も受け止め方に変化 をきた しているものである。保育場面で 『いただ きます』を して もす ぐには食べ始めない 子 どもがいる。朝食が遅いために園での昼食時間ではまだ空腹感がないのか もしれない。 給食で苦手 な食品が出 された りす る と、その苦手 な食品がいやで食べ ないでや り過 ごせば、 降園後 におやつをた くさん食べ られるので、苦手な食品を食べ る理由が ない。家庭での食 生活で も苦手 な野菜 を食べ な くて も、せがめば間食 としてスナ ック菓子やジュースが与 え られるのであれば、無理 して食べ る必要などないのである。その ことを学習 した子 どもは 園での食事 に意欲 を示 さず、 「いただ きます」 をして もぼっ- として時間を過 ご して しま っている。

3

度の食事 をしっか り食べて子 どもの身体づ くりをす ることが大切であるとい う規範事体が危 うくなっているのである。 また、食事 は単 に身体 に栄養素 を取ればよい と い うものではない。サプ リメン トで子 どもの身体の栄養バ ランス を整 えるという考 え方 も 大人には広 く普及 している。 食事 を通 して親子のコ、ミニケ-シ ョンをはか り、子 どもの精

(13)

領域 「人間関係」 に見 る規範意識の育ちの変化 (栗原) 神 をも形づ くるものであるが、その重要 さを意識する感覚は大人に薄い。例 えば、残 した 食品をもったいない と思 う価値観 も薄れている。 む しろ無理 して苦手 な食品は食べ な くて もよい とい う価値観が蔓延 している。 冷凍食品のお弁当への参入は以前 は 1

,2

品であっ たが、現在 は完全 に逆転 していて、手作 りおかず をお弁当箱 に探すほうが難 しい。大人が 作 り出す家庭での食生活の変化 もまた子 どもたちにも大 きく影響 を及ぼ している。

3

つめは大人の体験不足である。保育者や親 自身が集団での生活の楽 しさを体験で きず に 来て しまったことも一因 として挙げ られる。規範は友達 と繋が り合 うことは楽 しい とい う 体験が土台 にあってこそ守 られた り、作 られた りするものである。その楽 しさを体験で き ずに育 って しまった保育者や親は、子 どもに対 して も、その体験 を設計で きない。 こうす るとみんな七 楽 しく遊べ るだろうとか、 どの道筋 を辿ればルールや約束 ごとに則 って全員 が楽 しく遊べ るだろうとい うゴールを見通す ことがで きない。大人の体験不足が子 どもの 規範 にも大 きく影響 していると考 え られる。 (多子 ども側の体験の不足 まず子 どもの体験の不足が挙 げられる。では子 どもの体験不足 はなぜ起 きているのだろ うか。事例 3 (違 う考 えをい う子の ことを排 除 しない)ではⅤちゃんは自己主張がW ちゃ んか ら受け容れて もらえず に

W

ちゃんを排除する。 この ことはⅤちゃんが 自己主張が受け 容れ られない体験の不足であると筆者は指摘 した。 家庭では子 どもであるⅤちゃんの要求 は大人が譲歩 して受け容れ られやすいが、子 ども同士の関係ではそうとは限 らない。む し ろ主張はぶつか り合 うのが普通である。幼稚園入園前か らのⅤちゃんの育つ環境の中で、 そういった主張がぶつか り合 う体験がで きなかったのではないか。それ も昨今の核家族化、 育児環境 を思 えば当然である。幼稚園が唯一の体験の場 になる。入園 してか らで も、降園 していったん園を離れればその体験の場 はいつ も保護者 に見守 られなが らであ り、大人の 介入 を受けて、ぶつか り合いは回避 された りして、対等 なぶつか り合いの体験 はで きず ら い。その体験が不足 しているか ら、その先 に広がる、妥協案や譲歩 を考 えた り、 どうすれ ば自分 も相手 も楽 しく遊べ るか を考 える機会が乏 しくなるとい う構図である。 以前 よりも 園での集団生活へのハー ドルは、子 どもたちにとって高い ものになっているのではないだ ろうか。

3

、提案 事例か ら読み解いて以上の ような共通の現象が考 えられる。 この共通の背景 を踏 まえて、 ではどうすれば幼稚園において規範 を育てていけるのであろうか を提案す る。 集団についての規範意識 を子 どもたちに醸成 してい くプロセスには押 した り、引いた り、 留 まった りす る場面がある。その 「押 した り十の部分 はまさに保育者や大人が教示的に枠 組みを示 して体験 して もらうことである。集団の状況 をみなが ら集団の存在、ひいては社 - 13

(14)

-会の存在 を子 どもに対 して示 してい くことである。 そ して 「引いた り

の部分では個人の 状況 を受け止めて個人の成長 を見守 りなが ら促 してい くところである。 よい集団が個人の よさを引 き出 し、個人の よさが まさに集団の成長 を促 し集団を創 るといった、集団 と個人 は表裏一体の関係、相互循環関係 にある。留 まった りの場面 とは 「問いかけ

てい くこと である。 問いかけることによって保育者や大人 もいっ しょに考 える地平 に立つ ことがで き、 共に考 えあ うことが可能 になる。 この

3

本柱 で保育 を展開することが必要 になる と考 える。 ①大人が押 し付 けて枠組みを示 してい く。_ 子 どもたちにとって、クラス とい う集団か ら影響 を受けているとい う自覚はないか もし れない。子 どもたちは集団の構成員であ り集団の外側 に立 って考 えることはで きに くい。 しか し、保育者 には子 どもたちが集団か ら影響 をうけ、まさにその集団の中で各個人がい い影響 を受けなが ら育 っていることがた くさんあることに気づ くことがで きる。所属する 集団の状況が各個人の状況 をも左右する。 集団 とい う存在が各個人を超 えた ところにあ り、 その集団事体 をいい ものに していかな くてはならない とい う感覚 を押 し付 けてい くのであ る。各個人を超 えた ところに位置す る集団 を意識 させ ることが重要である。例 えば移動す る時、話 しを聴 く時、みんなで一緒 に1つの ことに取 り組む時、等 はやは り集団に合わせ なければならない ことを意識 させ る必要がある。そのためには自分 を超 えて存在す る集団 で、その集団で遊 びたい、 とまず子 どもが思 うことが 1番の動機 になろう。 筆者 は特 に命 に関わること、安全 に関わること、社会通念、社会常識 に関わることは、 生後数年の経験 しかない子 どもに対 して、大人が教示的に枠組 を示 してい くべ きだ と考 え る。 ここではその ようなかかわ りの ことを教示 中心のかかわ りと言 うことにする。 ②子 どもの思いを受け止めてい く。 幼稚 園において子 どもたちの規範 を育ててい くことは、大人が主導的に教示的 に関わる だけでな く、子 どもたち自身が、切実な体験 を通 して内面か ら感 じてい くこと、その こと を保育者が受け止めてい くことが重要である。 ここではそのことを見守 り中心のかかわ り と言 うことにする。 (むで記述 したことは保育者か ら感覚的に学 んでい くことであるが、そ れに対 して(丑は子 どもたち自身が内面か ら感 じたこと、考 えたことを大切 に しなが ら、集 団の中で学んでい くことである。 @教示晦か卑や りと見守 り的かカや D_の間で問い_75、けてい く. 大人が教示的にかかわるだけでな く、 また見守 り的にかかわることでな く、その中間に 位置する、保育者や大人が子 どもに問いかけることで、共に考 えあう、その ことか ら共通 の集団のルールを作 り出そ うとするかかわ り方がある。 ここでは問いかけ中心のかかわ り とい うことにする。

(15)

領域 「人間関係」 に見る規範意識の育ちの変化 (栗原)

4

、規範意識の育 ちにアプローチする保育者のかかわ り 保育者が規範づ くりにかかわる時 には大 きくは

3

つのアプローチが考 えられる。その

3

つ とは教示 中心のかかわ りと問いかけ中心のかかわ りと見守 り中心のかかわ りである。 教 示 中心のかかわ りとは保育者が主導 して枠組 を示すかかわ りである。 保育の場 であって も そこは社会か ら隔絶 された世界ではな く、社会 に適応 した集団 に保育者 は育てな くてはな らない。社会的に迷惑がかか らない集団に保育の場 を育 ててい くときに、保育者 はその集 団に意図持 って、計画的に教示的に関わることが求め られる。 問いかけ中心のかかわ りとは集団や個人に保育者が問いかけなが ら、集団や個 人が 自ら の在 り方 に気がついてい くプロセスへのかかわ りである。 この まま見守 っていては改善 ・ 修正の方向が見 られず、マイナス面が助長 されて しまうと感 じる ときに とられるかかわ り 方である。 見守 り中心のかかわ りとは、集団や個人の状況 に合わせて、敢 えて保育者が情報 を発信 せず に、集団や個 人 自らが主導 となるようなかかわ りである。 この まま見守 っていて も改 善 ・修正の余地や伏線が確認で き、成長の見通 しを持 って、援助 を用意 しなが らも、敢 え て踏み とどま り介入 しない とい うかかわ り方である。 見守 る とい うかかわ りを選択 した と きには、説明 を求め られた ときに特 に保育者 は説明が出来 なければいけない。 この

3

つのアプローチは規範づ くりの内容 によって、選択 される と考 えられる。 教示 中心のかかわ りに有効 な規範 とは安全や社会通念 と呼 ばれる内容である。 うむを言 わせ ない ような しつけの領域 とも言 うことがで きる。電車の中で人 に迷惑 をかけない とい うことは どうい う乗 り方 なのか、年長者 を敬 うとは どうい うことなのかな ど、社会通念、 社会常識 とも言われる領域が これにあたる。 問いかけ中心のかかわ りに有効 な規範 とは集団の生活のルール と呼 ばれる内容である。 例 えばけんかで も、

2

3

ならまだ しも、

1

4

人では許 されない。事例 で示 した ように、 自分がお もちゃを独 り占め したいか らとい って隠す ことは保育者が問いかけて集団のルー ルに気がついて もらう必要がある。 またハ ンデ ィのある友達 を含 む他者の受け止 め方は教 育的に集団 を形成す る以上、保育者が問いかけてお互い を認 め合 う関係 を築 く必要がある。 見守 り中心のかかわ りに有効 な規範 とは、いっ しょに行動す る面 白さを前提 として考 え て、そ こか ら集団の中での行動規範がで きて くるような内容である。 チームワー クとも言 . うものである。みんなでいっ しょに行動す ることが気持 ちいい とか、面 白い とい った実体 験か ら出発する ものである。 しか し、以上

3

つの どのかかわ りも、あ くまで中心 になるか かわ りを代表す る ものであって、では教示的なかかわ りに、問いかけ的なかかわ りが全 く ないか とい うとそ うではない。 規範の内容 によって、 どの ようなアプローチが有効 であるか選択 されるので、保育者が 幼児へ規範づ くりについてアプローチす る ときにはその内容が丁寧 に吟味 されなければな - 15

(16)

-らない。 アプローチの対象 としては集団 と個人の双方がある。 集団に働 きかけるのか個 人に働 き かけるのかは二分 されるものではない。個人 と集団の両方の成長 を目ざすのが通常である。 しか し、何 をどうす るといった具体性のある規範 を考 えた ときに、集団 と個人の どちらに 働 きかけるのかが問題 になる。 しか しどちらに働 きかけたほうが有効であるかは規範の内 容 によると考 えられる。 集団に働 きかけるほ うが有効であるのは、保育者が集団 を社会 に 適応 した ものにす るといった意図を持 って計画的にかかわる必要のある規範の内容である。 安全、安心、信頼が持 てる集団に しな くてほな らないのである。 また個人にはた らきかけ ることが有効 な場合は、その子 自身の成長が優先 されて考 えられる場合である。 幼稚 園において幼児の規範づ くりを行 うときに、第1線の保育者や直接の親だけでな く、 その背後で第1線者 を支える園長や管理職、他の子の保護者 など第2線 の存在が とて も重 要 となることも併せて付記 してお く。

5

、規範意識 を身につ けてい く道筋のモデル 事例 を望 ましい規範意識 を身に付 けてい く道筋 として とらえてみる。行動 には、背景が あ り、その背景 をもとに行動が表出す る。 保育者 は、その行動 に対応 して援助 を行 う。 こ の援助 は、望 ましい規範意識 を醸成する方向に向いている。 この規範意識 は、幼稚園での集 団生活 に必要な行動 に、ひいては社会生活 における望 ましい習慣や態度 に結 びついてい く。 1つの行動の背景 は、い くつ もの事項が関係 し成 り立 っている。 また、保育者の援助の仕 方 も複数あ り、子 どもの行動 と場の状況 によって使い分 けることが求め られる。規範意識 は大人が先回 りして教 えることでは身につかない。ルールや約束 ごとに則 って全員が楽 し く遊べ るとい うゴールを、 どの道筋 をた どって目指すかを見通す ことが必要 になる。

(17)

領域 「人間関係」 に見る規範意識の育ちの変化 (栗原) この見通 しは、第

1

線 の保育者や直接 の親だけでは難 しい。その背後で第

1

線者 を支 える 園長や管理職、他 の子 の保護者 な ど第

2

線者 の援助が必要 となる。

V.

結語 子 どもの規範意識 の育 ちが危倶 されている。幼稚 園教育要領 において も幼児期 か ら規範 意識 の芽生 えを促 す ことが求め られている。 望 ま しい習慣や態度 を身につけず に幼稚 園か ら小学校 に進級す る子 どもはお よそ 7割であ る。 その比率の大 きさに鑑みて、幼稚 園での 規範意識の変化 の様相 を考察す る と、大人の変化 と子 どもの体験不足が大 きな要 因 として 挙 げ られた。 しか し子 どもの体験 の不足 は即 ち大人の変化の結果である とみなす ことがで きる。 大人の変化 には

3

つ ある。 1つ には大人が子 どもに対 して教示的 に押 し付 けて枠組 を示 さな くなって きていることである。

2

つ には大人 自身 も行動規範 に変化 をきた してい る点である。 行動規範が共有 される ような共通の価値観が もてなか った り、文化 や行動様 式が多様化 してい る。

3

つめには大 人の体験 の不足 である。規範 はそ もそ も 「友達 と繋が り合 うことは楽 しい」とい った体験が土台 にあってこそ、作 られた り、守 られた りす る も のである。 その楽 しさを体験 してい ない大人は子 どもに対 して も、その体験 を設計で きず にいるのではないか。 この ような大人の変化の結果が子 どもの体験不足が生み出 している と考 え られ る。 特 に 規範意識 は前述 した ように 「友達 と繋が り合 うことは楽 しい」といった他者 との共同の中 で営 まれる ものである。 しか し他者 との関係 を楽 しめ るため には 自己主張でぶつか り合 っ た り、折 り合 った り、譲歩 しあった り、 とい った数 々の体験が必要である。保育現場 では 保育者が規範の内容 に応 じて教示的 なかかわ り、見守 り的なかかわ り、問いかけ的 なかか わ りでアプローチ しなが ら個 人に、集団 に と、幼児の規範意識 の育 ちを援助 してい る。筆 者 はその中で も以下の

3

点 について配慮 しなが ら保育が展 開 され ることを提案 したい。 (∋大 人が押 し付 けて枠組 を示 してい く(多子 どもの思 い を受 け止 めてい く③教示 的 なかか わ りと見守 り的 なかかわ りのあいだで、保育者が揺 れなが ら問いかけてい く。 参考資料 二葉幼稚園実践記録、幼児指導の記録

-1

参照

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( 同様に、行為者には、一つの生命侵害の認識しか認められないため、一つの故意犯しか認められないことになると思われる。

Q7 

賠償請求が認められている︒ 強姦罪の改正をめぐる状況について顕著な変化はない︒