香 川 大 学 経 済 論 叢 第69巻 第2
・
3号 1996年11月 187-209財政政策と為替レート動学
井 上 貴 照
は じ め に 小論の目的は,為替レートは,短期において,利子率とともに資産市場にお いて決定されると考える資産市場アプローチの立場から,財政政策が為替レー トの決定とその変動に与える効果を分析することである。このような立場から 財政政策の為替レートに与える効果についての研究として, Branson (1985), Penati (1983),山崎・柳田 (1983)等がある。しかし Branson(1985)および 山崎・柳田 (1983)では,財政支出がどのように調達されるのかについては明 示されていない。 Penati (1983) は,政府支出は債券調達の場合に限定してい る。われわれは,政府支出がどのように調達されるのかを考慮して,財政政策 の為替レートの決定とその変動に与える効果を検討する。 われわれは,次のような経済を想定する。為替レートは,利子率とともに, 短期において資産市場で決定される。完全雇用を仮定せず,短期において生産 量は一定であると仮定する。この生産量と短期において決定された為替レート と利子率が,民間総支出および貿易収支に影響を与える。このとき財市場と貿 易収支は,必ずしも均衡しているとは限らない。財市場の不均衡は,生産量に よって調整される。生産量の変化と貿易収支の不均衡による外国資産の変化が 資産市場に影響を与え,為替レートおよび利子率が変化する。資産市場の均衡 (1) 最近の為替レートの決定理論については,たとえば, Frankel and Rose(1995),浜田 (1996,第 9章 第 11章),河合 (1994,第 3章)参照。これらの文献では,財政政策の 為替レートに与える効果は,検討されていない。財政政策の為替レートに与える効果につ いての survey論文として,たとえば, Penati (1983)参照。470 とともに財市場と貿易収支の均衡が成立している状態を長期均衡と定義する。 香川大学経済論叢 -188-以上のような経済を設定して,為替レートの決定とその変動を経済の動学的調 整経路と関連させながら分析する。 第II節においては,短期資産市場における為替レートの決定が分析され,第 III節では,長期均衡への動学的調整過程における為替レートの変動が検討され る。第
I
V
節において財政政策が為替レートに与える効果が分析される。 そして 第V節は, むすびである。 II 短期資産市場における為替レートの決定 短期においては為替レートは,利子率とともに,与えられた資産のもとで資 産市場の需給均衡によって決定される。短期資産市場均衡モデルは,次のとお りである。 (1)予
= l(i,z
*
+
.
x
,川
(
2
)
十
s
(i,i*+x
,川
(
3
)
RF
l
p
'
= /(i,i*+x
,y
)
下
(4)W
=M+S+RF
ただし, M "自国貨幣残高, S:自国で発行された資産の自国民間部門の自 国通貨表示の保有高(以下においては r自国資産」 と呼ぶ),
F:
外 国 で 発 行 (2 ) 小論における勤学的調整過程は,井上 (1980)と同様である。従来の研究による動学的 調整モデJレの構造は,次のとおりである。 Branson(1985), Penati (1983)および荒井 (1983)では,資産市場と財市場とが同時に均衡している。さらに, Branson (1985)は, Penati (1983),荒井 (1983)と異なり,完全雇用を仮定しているoDombusch (1976, p, 1166, pp"1173-1174)は,財市場の均衡は長期において達成され短期において生産量が所与でき ることが適切であると考えているが,貿易収支の不均衡が資産市場に与える効果は考慮 されていない。松本 (1985)は,短期において財市場と貿易収支は不均衡であるが,完全 雇用を仮定している。山崎・柳田 (1983)の動学的調整過程は,井上(1980)と同様であ るが,財価格が一定であること,為替レートの予想が内生化されていること,そして総支 出が富に依存していないことが井上 (1980)と異なっている。 (3 ) 本節は,井上 (1980,第 II節)を加筆・訂正している。本節のモデルについては,たと えば, Branson(1974)(1979), Girton and Henderson (1976),天野 (1983)(1986)等参照。471 財政政策と為替レ」ト動学 -189 された資産の自国民間部門の外国通貨表示の純保有高(以下においては r外国 資産」と呼ぶ), 自 国 の 利 子 率
i
*
::外国の利子率x
為替レートの予想、 減価率,R 自国通貨建の為替レート ,P 自国生産物価格,y 産出高,W: 富。M
とS
とは外国と取引されない資産であり ,Fのみが外国と取引される資産 である。F
は,正であると仮定する。つまり,自国は,債権国であると仮定す る。短期においては,F, yおよびP
は所与である。げは,世界市場で決定さ れ自国にとっては所与とする。またx
も所与と仮定する。 1,s
, /は,それ ぞれi
,i*+x
およびyに依存すると仮定する。 (1), (2), (3)式は,それぞれ,貨幣,自国資産および外国資産の市場需給均衡 式である。 (4)式より, (1), (2), (3)式のうち 1つは独立ではない。したがって, M, S, F, y, Pおよびグ+x
が与えられれば, (1),(
2
)
,(
3
)
式のうちの(1), (3)式と (4)式より 3個の変数(R
,i
,W)
が決定される。われわれは,貨幣市 場と外国資産市場について分析を進めていくことにする。 1 , sおよび/のそれぞれの関数についての偏微係数を次のように仮定する。(
5
)
θ1 , ^ ' ol ol ム=ーで<o
i
~ V0,,ん"<= τ 7o
(
戸 十てγァーx)γ<
~. V0,ん=一一, >0 "Oo
y
。
S、 ハ O5 ハ OS /ハ SI =7
f
i
;>り, 52=茨戸平五了久り, 53 方 久 り of __^ - _ ' ojA=37<O
, ん = 布 可 五 了 <0
, ん = 訪 ん , 53およびんの偏微係数の符号については,次のように考えている。 yが増 大すれば,取引需要としてより多くの貨幣が需要される。この貨幣需要の増大 は,圏内資産および外国資産の需要を減少させることによって満たされると仮 定する。 (1), (2), (3)および(4)式より,次式が成立する。 (ω6)~
仇l/+5+/=1
(j=1
,2
,3
)
( 4) Branson (1974, p.31), Tobin (1969, p 25)等参照。472 香川大学経済論叢 -190
(
h
W
F
)
i
d
)
1
1
W (f-l)F
ハ
dR/
(
日
初
防
-RldF
一 川 山 ( 川 ) ¥ 一IdM-/dS+
R(1-f)dF-/
3Wdy
ーんWd(
戸+x)J
Ll= FW[MI-l)-
fd)>
0,とおく。 短期均衡の安定性を調べるために,貨幣市場における超過需要によって利子 (1), (3)式より,(4)式を考慮すると, (7) ただし, 率が上昇し,外国資産市場における超過需要によって為替レートが減価すると 仮定すれば,資産市場の動学体系は,[ W
i
=Ml(i,
i
*
+
'
x,
y)下ーが
M
W RF
R
=
A
z
[
f
(
i
,
i
*
十x,
y)一一一一〕p p(
8
)
(・)は,時聞に関する微分を表わし ,A,(i となる。ただし,変数の上のドット = 1, 2)は,正の定数である。 (8)式の右辺を,均衡点の近傍で線型化すると,次 のようなヤコピー行列Z
を得る。 、 、 、 、 、 h E B ' E E , F , , JF
一
P
、 、 , J ' I ' e f T ' ' 〆 , t‘ 、 ラ 匂 、 八A1JE
w
一
p
w
下
I h 円 r hん
ゐ
/ , I I t i t -¥ 、 一 一Z
(9) それぞれ,t
r
Z
<
0
,
detZ
>
0
であるから,短期資産市場均衡は局所的に安定である。(
9
)
より,行列Z
のt
r
a
c
e
およびd
e
t
e
r
m
i
n
a
n
t
は,。
。
y,i
*
+
'
x
)
の変化のiおよび、R
へ与える効果は,次 のようになっている。dM
=
-dS
は,公開市場操作による金融政策を表わしてF,
S,
外生変数(M
,l
J
J
-
f
A
J
F
百万-
-
-
-
-
:
J
一
<
0,
Zs=a
s
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'
1
>
0,
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_
(f-l)
F = ZM-ZS一<0
dM
IdM=-d し〉る。-191-財政政策と為替レート動学 473 oi Ò1l~-ls~ 1r 百 戸 =0
,
1y=奇
y -Mf
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2
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-.;;(1-l)J d 〉O R O R -M 一否万一 抗 日 付 l ( R - E E一 二W(ld
二f
d
J
~。 5-
a
s
L1 ミ ミ リd,~
I ん-Rs=
二42E>O
RF = 立
R
仏 IdM=-dS L 1 ' v, H~oF
F
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-W
2(11ん
一f
d
3
J
一
一
VV l'1J3 Jl'3)<
0 ov > パ 山 一 dw
一
一 XR
一 十 ペ ぴ 一 * 可 UR
以上より,貨幣供給量の増加は,富を増加させるが,貨幣市場では超過供給 になり利子率を低下させる。この利子率の低下と富の増加が外国資産に対する 需要を増加させるので,為替レートが減価する。自国債券の供給額S
の増加に より富が増え貨幣需要が増加するので利子率が上昇するが,為替レートの変化 は不確定となる。しかし,もしf
d
-
.
h
l
>(ぐ)0ならば,自国債券供給の増加に より為替レートは増(減)価する。この場合,自国債券の供給増加により利子 率が上昇するが,貨幣需要の利子率弾力性が相対的に小さい(大きい) 利子率の上昇は相対的に大きい(小さい)。外国資産の自国利子率弾力性は相対 ので, の減少は相対的に大 ので,外国資産に対する需要 (f) したがって富は増加しているが,外国資産に対する需要 (f(・)W)は減少(増加)するので為替レートは増(減)価する。 拡張的金融政策によって貨幣市場では超過供給が生じて利子率が減少し, の利子率の減少によって外国資産需要が増大し為替レートが減価する。 Fの増 大によって外国資産市場に超過供給が生じるが,為替レートはF
の増加を相殺 するように増価することにより外国資産市場は均衡する。このときWは変化し ないので貨幣市場において撹乱は生じないので利子率は変化しない。 yが増大.
.
.
」ー 的に大きい(小さい) なる。 (小さく) きく-192- 香川大学経済論叢 474 すれば,貨幣需要が増大し利子率が上昇するので,外国資産需要が減少し為替 レートは増価するoz*+ xの変化の1へ与える効果は不確定であるが,その上昇 は為替レートを減価させる。i*+xの上昇は,外国資産に対する需要を増加させ 為替レートを減価させる。この為替レートの減価により富が増加するのが貨幣 需要が減少しているので,利子率の変化は不確定となる。 以上の諸結果は,第II-l表のようにまとめられる。表中における+,ーおよ び?は,それぞれ,変化の方向が同じであること,その方向が逆であること, およびその方向については確定的なことが言えないことを意味している。 表 11-1 以上のように,短期に資産市場において決定された利子率および為替レート が,財市場や貿易収支に影響を与える。そこで,次節においては,長期均衡へ の動学的調整経路と為替レートの動学的調整について分析する。 III 動学的調整経路と為替レート動学 短期においては為替レートおよび利子率は,資産市場の需給均衡によって決 定される。このようにして決定された為替レートおよび利子率が国内総支出や 貿易収支に影響を及ぽす。短期均衡において決定された為替レートおよび利子 率では,貿易収支が均衡していないかもしれないし,また財市場も均衡してい ないかもしれない。中央銀行の外国為替市場への介入が全くない変動相場制に おいては,経常収支と資本収支との和は恒等的にゼロであるので,もし経常収 支が黒字(赤字)であれば,資本収支は赤字(黒字)であり民間部門の外国資 産は増大(減少)している。経常収支が不均衡であれば外国資産が変化し,そ の変化が次に資産市場へ影響を与え利子率および為替レートを変化させる。他 方,初期の為替レートおよび利子率では,財市場が均衡していないならば産出 高が変化する。その産出高の変化が資産市場に影響を与え利子率および為替
475 財政政策と為替レート動学 -193ー レートを変化させる。以上のような調整メカニズムは,第III-l図のように表 されるであろう。 図III-l
(
:
:
:
x
三;
y1
1
l
﹁
ll R i W I l l i -F 第1
図で示されたような動学的調整が行われて体系が動学的に安定であれば 長期においては資産市場の均衡とともに財市場と貿易収支が均衡する。 図1II-1
に示された経済の動学体系は次のように表される。 (~I W¥ R '7'{i
(12) タY - 'z α-IE(y-A'LLJ¥.Y .",, .,i, P!' 'z; )+G+'~T(r, ~ , P~ ,-, .y)-yl)'{ ..YJ
,α>0 ( 13)P
= T(r, y) (14) P = p(y,
e)ωRp*
r =一 一 守 守 一 ただし,A
:
:
実質租税,G
:
:
実 質 政 府 支 出 r 交易条件の逆数,e
:
自国財 の供給関数のシフトパラメーター,p h
外国財の生産物価格,変数の上にある ドットは,時間に関する微分を示す。 資産市場において決定されるんR
およびW
は, ( 16
)
i = i(y,F; M
,S
, i*+x) ( 17
)
R = R(y,F; M
,S
, i*+x)q
8) W = W(y, F M, S, i*十x) ( 5 ) 本節の動学的調整メカニズムは,井上 (1980,第III節)において与えられたものである が,その第1II節には校正ミスその他の問題点があり,小論において加筆・訂正を行ってい る。476 香川大学経済論議ー -194ー と表現できる。 (蹴 に依存している。
T
は外国通貨建貿易収支を示す関数であり ,r
とyに依存して yが増大(減少) いる。(12
)
式は,財市場に超過需要(供給)がある場合には, 自国財の供給関数を示している。 することを示している。(14)式は, 中央銀行による外国為替市場への介入のない場合の変動相場制における国際 ( 19) であるoi*F
は,投資収益をl示す。T(" y
)
十戸F
は経常収支を示す。経常収支 が黒字であれば資本収支は赤字であり,民間部門は外国資産を蓄積しているの でF
は増大する。つまり ,F>
0
である。F
は,一(資本収支)である。ただし, 収支を示す方程式は, T(r,
y)十戸F-F=O
たとえば,国際 以下の議論においては分析を簡単にするために,投資収益は, 機関や外国へ移転支出され相殺されるものと仮定する。 よって,白)式を得る。R
,
7個の未知数 (y,F
,P
, 7,':F =
0
の状態が長期均衡であり, z,
(12)~(18)式の 7 個の方程式によって, W)が決定される。資産市場均衡と y=0
, その状態において長期均衡値 (y,F
,P
, ,,'i
,R
,W)
が決定される。以 下の分析においては,初期長期均衡点においては財市場および貿易収支は均衡 それぞれ, RおよびPは, また適当な単位をとることによってP
, しており, lであると仮定する。 それぞれの関数の偏微係数を次のように仮定する。oE
oE /
^ 1 , T""oE
1>
E
y =ォo(y -rーす11)γ >0
;'v, , .LJ,ーのE
一 一 → <0
,1
>
Ew
= ( :~Tマ >0W¥
o(¥pj'
:
"
1
oT
, ^ m iJT
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一 一 >or'
0
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。
'P.
^ ~oP¥
py=
一一一>θ
y " VO
.
,P
L8
8 -=一一ーさ(
J
I
/
'<. さらに,資産市場均衡において得られた結果より, ) O H υ n, ω ( たとえば,Branson(1974, pp 47-48), (1979, p..200, p..215), Kouri (1976, pp..285-28η参照。 (6 )-195 財政政策と為替レート動学
W
v
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1
菩
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D D TJ1D./ハ "
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"1' - aF ハ U ﹀ 一 ZR
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TB ム 一 一、 、
B I 1 F J 一w
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ぺ d v ﹃ 一 一 院 協一 一 一 一 ,1
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ム I~ .L¥.M '" 院a
(
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U 1 D '> 2 、 一 一 一 一。
a
e
〓θ t /防ヘ al一τlWi*
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ay n y - l y --..V,
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i
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477 tM=JL=RM >OaM
,
tgz IL=Rg這O .L¥.lVl"'- v, '-)a
s
.L¥.) ー r ar a l'l*==茨戸石了
=R,.>
0
, 日 夜 = 一 九 重 0,Tp'該宗
=1
) n F 白 m F ' u ( となる。 そこで,(l2)~(18)式で表された長期動学体系の長期均衡の安定性を検討しよう。 (14)~(l8)式を考慮して,仕2泊3)式の右辺を長期均衡点、の近傍で線型近似すると,次、
、
、
t B E E E , , , , , u bzz
α のようなヤコービ1i列。をf
尋る。 Q =(
仙
+ E,
ly十Ew肌 十 匹 。 刊 一 1) ¥ Trry十T
y (23) それぞれ,r
r
b
α
〔 日 i
y
+
EwW
y
十 日 刊-1)+
T
r
r
F
<
0
detQ
=α(E
y十E,
iy+EwWy-1)T
r
r
F
>
0
となるので,長期動学体系は局所的に安定である。 行列。のtraceおよびdeterminantは, ( 24) 長期均衡点への収束の'性質を調べるために,判別式
D
を求めると, (7) 自国が債務国の場合,つまり F<Oの場合には,Z"F>
0となり det.Q<
0となり,長 期均衡点は,saddle pointになる。経済が初期時点において安定的な軌道をとらないかぎ り,その長期均衡は達成されない。Branson(1985,p, 152)は,小論とは異なった動学的調 整モデルを用いているが,為替レートの予想形式が静学的であるとき,債務国の経済は, 不安定になることを示している。またBranson,Halttunen and Masson(1979, p 400) は,債務国の場合には,短期資産市場の均衡は,不定的であることを指摘している。本文 (8),
(9)式参照。-196 香川大学経済論叢 478
(
2
5
)
D
=(
t
r
Q
)2-4detQ
=α
{
[E
y
十E
,ル
+EwW
y
+T
r
r
y
+
Ty
-
l)-T
r
Z
F
}
2
+
4
α
T
r
Z
F
(
T
r
r
y
+
れ)>
0
となっている。したがって,長期均衡点への収束過程においてyおよびF
の循 環はなく長期均衡点は,s
t
a
b
l
e
n
o
d
e
である。 (8) 以上の点を考慮して,動学体系の位相図を描くと第2
図のようになるだろう。 図III-2 F y yの増加は, (22)式より,交易条件を改善させる効果もあるので輸入を増加させ る。この輸入の増加を相殺するためには,F
が減少し為替レートを減価させ貿 易収支が改善する必要があるので,F=O
曲線は,右下がりとなる。他方 y の増加とFの減少により貿易収支が均衡しでも財市場は超過供給になってい る。この超過供給を相殺するためにはF
がさらに減少し為替レートが減価し貿 易収支が改善することが必要である。したがって ,,y =0
曲線の勾配の方が, F=O曲線のそれよりも急になる。 第I
I
I
-
2
図において(y,F
)
主主O
の領域が,タ=0
,P
=0
で表された曲線に (は8
幻)川C
ω
吋O
d
仙ω
…
dLe
加 凶V吋巾iおs
叫9
民 第時1
υ
)
,
n
伽0側 削H
町叫叩I叩r
p
仰 阿H
H
釘刷川r
問川阿問H
(1ω附 肌9
6
z 吋吋ぱα(
針E
y汁,十Eιz♂tらのy汁+叫附E
w
叫即十T
r
r
ら+刊九y
1)<μ< 0, 答T
r
r
汗市rむF
F
<什0よ川り,ρ
戸=0惜曲線恥よ り附右 (左)側では,オ<0
(
>
0
)
で,F=O曲線の上(下)倶Ijでは,F<O(>O)である。479 財政政策と為替レート動学 -197-よって
4
つの領域1
,I
I
,I
I
I
,I
V
に区切られている。財市場は,領域I
I
,I
I
I
に おいて超過需要であり,貿易収支は領域I
I
I
,I
V
では黒字であるが,領域1,I
I
では赤字である。 今,経済が領域I
I
I
にあるとしよう。相軌道(
p
h
a
s
et
r
a
j
e
c
t
o
r
y
)
によって示され る長期均衡点Qへの動学的調整経路は,3
種類のものが考えられる。すなわち, @領域I
I
I
から領域I
I
へ入って長期均衡点Q
へ向かう動学的調整経路,⑧領域I
I
I
から領域I
V
へ入って長期均衡点Qへ向かう動学的調整経路,。領域I
I
I
内のみを 通って長期均衡点Q
へ向かう動学的調整経路,の3つである。@および⑮の場 合には,相軌道は,次第に曲線bbに近づいて長期均衡点Qで曲線bbに接する。 @の場合には,経済は,曲線a
a
上を領域I
I
I
内のみを通って長期均衡点に向か う。経済が初期に他の領域にある場合も同様に考えられるが,以下の分析にお いては経済が初期に領域I
I
I
にある場合について考察する。 領域I
I
I
から長期均衡点へ経済が動いていくときのyおよびF
の変化は,資産 市場に影響を及ぽし,それによって利子率および為替レートが変化し,それら の変化が園内総支出および、貿易収支へ影響を与えyおよびF
を変化させてい く。そこで次は,経済が長期均衡への相軌道上を動いていくときに,為替レー ト,貿易収支および利子率がどのように変化しているのかを調べることによっ てこれらの変数の動学的調整を分析することである。 経済が領域凹にあるかぎり,タ>0, F>
0である。(17)式より (26) R = Ryy+
RFF となる。第II-l
表より ,Ry<
0, RFく Oであるから y>
0, F>
0ならば, R<
0
である。すなわち,経済が領域I
I
I
内の相軌道上を動いているかぎり為替 レートは増価し続けている。 次に,経済が領域I
I
へ入ると,そこでは y>
0, F<
0であるので, (2。式の 符号は不確定となる。経済が領域I
I
に入って長期均衡に向かう場合,為替レー トのみでなく貿易収支がどのように変化して長期均衡が達成されるのかを調べ てみよう。 (9 ) 為替レートと貿易収支の勤学的調整過程における変動についての図解による分析につ-198ー 香川大学経済論叢 480 まず為替レート
R
を一定にするyとF
の関係を求める。。。式より ,R
=0
と おくと, (22)式を考慮すれば,Rν R
(27) つ百│α
= - 7 T =一 江 IIi ~o 1(r 7:F が得られる。つまり yの増加より貨幣需要が増大し利子率が上昇する。この 利子率の上昇は外国資産に対する需要を減少させるので,為替レートを増価さ せる。これを相殺するためには,外国資産の供給が減少しなければならない。 。。式とF =
0曲線の勾配を比較すると, (22)式を考慮すれば, dFI ,dFIT
τ(Ry--Py)+
T
r
r
F
(28) 0 >一一1. >一一│ 一 dシ|斤 ~o / cjyI
F~OT
r7:j< となる。つまり ,R
= 0の場合よりF =
0の場合の方が,yの増加によるFの 減少は大きい。F =
0
の場合,yの増加により,所得効果と自国財価格の上昇 からの交易条件の改善効果があり,貿易収支が悪化する効果がある。この貿易 収支の悪化は,より大きなFの減少による交易条件の悪化によって相殺される。 図III-3 F y=Q II 長2ミ、
to y 領域IIIと領域IIにおける為替レートの変動について図III-3を用いて検討し いては,山崎・柳田 (1983,pp 77“79, pp 91-93)参照。481 財政政策と為替レート動学 -199 ょう。図III-3は, (:幻),側式を考慮して,領域IIIと領域IIを拡大して描かれてい る。図III-3における
R
;
= 0 (j= 1, 2)曲線は,為替レートを一定にするyとF の関係を示す曲線である。 今,経済がお点からお点、に向かつて動いている場合,為替レートは増価して いる。 tQ点では,経済が長期均衡点Q
を通る Rl=
0
曲線上にあるので,為替 レートは,その長期均衡水準に等しい。為替レートはさらに増価を続け,経済 がF=O
曲線上に到達し貿易収支は均衡する。しかし為替レートは増価を続け dF, R 経済が領域IIに入り ,t
R
点を過ぎると,夜<-E?
となるので y>
0
である ことに注意すると, (29) R = Ryy +RFF>
0
が成立するので,為替レートは減価する。したがってら点以後,為替レートは 減価しながら長期均衡が達成される。 次に貿易収支は長期均衡への動学的調整過程においてどのように変動してい くのであろうか。貿易収支の変化は,次の刷)式によって与えられる。 (30)P
= (T,
fy+れ)y+
T,
fFF 経済が領域皿にあるかぎり,ρ>0
およびF
> 0
であるの、で,(
3
0
)
式よりF<
Oとなる。つまり領域IIIでは貿易収支は黒字であるが,その黒字は減少してい る。経済が領域IIに入ると貿易収支は赤字になるが,y>
0
およびF<O
とな りF
の符号が確定しないので,その後の貿易収支の変化は不確定である。そこで 貿易収支を一定にするとyとF
の関係は, dFI _
_
T,
fy土五
dFIω
丘 一1
I
.
.
一 =一一│ i' ~oT
,
fFd
Y
I
f' ~o となる。つまり貿易収支を一定にする yとFの関係は,貿易収支を均衡させる yとFの関係に等しい。図III-3におけるF =
0曲線は貿易収支を一定にさせ るyとFの組合せを示している。領域IIに入いると貿易収支は赤字になるが経 済が図III-3の tl点を過ぎると,貿易収支の変化は,y >0とω
式を考慮すると (32)P
=(T
,
fy十 れ)y+T
τl!:F>
0
200ー 香川大学経済論叢 482 となる。悦)式は,貿易収支の赤字が縮小していることを示している。経済が領 域IIに入ると t1点まではyの増加が貿易収支を悪化させる効果がFの減少が 為替レートを減価させ貿易収支を改善させる効果よりも大きく貿易収支の赤字 が拡大するが,
t
1点以後は,その赤字が次第に縮小して長期均衡が達成される。 次に,利子率については, (33) i=
ZyY十万F=
iyY となり ,Zy>
0
より,経済が領域I
I
I
から長期均衡点へ向かう動学的調整過程にお いて,たとえ経済が領域IIへ入ることがあっても,利子率は上昇している。経 済が領域I
I
I
から領域I
V
へ入って長期均衡に向かう動学的調整過程にある場合に は,経済が領域I
I
I
内にあるかぎり利子率は上昇しているが,経済が領域I
V
に入 ると利子率の減少が続いて長期均衡が達成される。 以上の為替レート,貿易収支および利子率の動学的調整を考慮しながら,領 域I
I
I
から領域IIに入って長期均衡点に到達する経済の動学的調整を考えよう。 領域凹においては,財市場に超過需要があり貿易収支が黒字であるので Yお よびF
が増大する。資産市場の需給均衡から,為替レートは増価し利子率は上 昇する。この為替レートの増価と生産量の増大は,貿易収支の黒字を減少させ て,外国資産の蓄積が次第に少なくなっていき,さらに利子率の上昇によれ 財市場の超過需要が減少していく。以上が領域I
I
I
における経済の動学的調整で ある。もし経済が領域I
I
I
内のみの相軌道をとって長期均衡へ向かうならば,上 記のメカニズムにより,貿易収支と財市場とが均衡して長期均衡が達成される。 他方,経済が領域I
I
I
から領域IIへ入る相軌道をとる場合には,財市場の超過需 要が減少していく過程でF =0
曲線上で貿易収支が均衡する。しかしながら, 財市場は依然として超過需要にあるのでyは増大し,経済が領域IIに入り貿易 収支は赤字になり ,F
は減少しはじめる。領域IIで、はyは増大するがF
は減少し ている。領域IIへ入る初期の頃には,為替レートは増価し続けているが Yの 増大とFの減少が続いて長期均衡点へ次第に近づ、いていくと,既に説明したよ うに,為替レートは必ず減価して長期均衡が達成される。貿易収支の赤字は, 経済がt1点に達するまで拡大し ,t1点を過ぎるとその赤字は次第に縮小しな-201-がら貿易収支が均衡し長期均衡が達成される。利子率は,経済が領域
I
I
I
のみの 相軌道をとっても領域I
I
I
から領域I
I
に入る相軌道をとっても,上昇しながら長 期均衡が達成される。 財政政策と為替レート動学 483 経済が領域I
I
I
から領域I
V
に入る相軌道をとる場合には,為替レートの増価と 利子率の上昇により財市場の超過需要と貿易収支の黒字が減少してタ =0曲 しかし,貿易収支は黒字であるのでFは増大し経済 線上で財市場が均衡する。 は領域I
V
に入り,為替レートの増価により財市場では超過供給が生じて産出高 が減少する。この領域I
V
では,為替レートの増価と利子率の減少が続いて産出 高の超過供給と貿易収支の黒字が次第に減少して長期均衡が達成される。 t11'iL'11'o'L't1lJE!?LEιtiB''t一 且
U 圃 司 、 I 、 山 &E 4一
一
-、
一
一
H-、一, -d p 二 一 図 一 一 一 ¥ 一 ¥ 一;
;
ん
T i f -' t f l l l kト
1 I l a -ω I l -I l l -N ﹂ llp!l-l!l 一 I l -! f l l一 O I l l t J 1 ! J 1 1 ¥ 1 J 1 l i t -一1 1 -t i R一
T一
L -L Q υ-﹄
=
T 時間 II 注 IL 利子率の長期均衡値R
L
:
為容レートの長期均衡{直T
貿易収支 -n u 領域 経済が領域I
I
I
から領域I
I
に入って長期均衡が達成される場合の分析結果は, 園田一4
のようになるだろう。経済が領域I
I
I
にある場合には為替レートは増価 し貿易収支の黒字は縮小しているが,tQ点以後,為替レートがその長期均衡水 準より増価しても貿易収支は黒字である。そして利子率は上昇している。経済-202 香川大学経済論叢 484 が領域
I
I
I
から領域I
I
に入ると,貿易収支は赤字になるが,経済がら点に達する まで為替レートは増価している。 h点以後,為替レートが減価しているにもか かわらず,t
I点、まで貿易収支の赤字は拡大している。t
r
点以後,貿易収支の赤 字が次第に縮小し貿易収支が均衡し長期均衡が達成される。利子率は,領域I
I
においても上昇しながらその長期均衡水準が達成される。以上のように貿易収 支に対する財の価格効果と所得効果が作用しているわれわれの経済において為 替レートは,長期均衡への動学的調整過程において,その長期均衡水準をo
v
e
r
-s
h
o
o
t
している。t
R
点、以後の為替レートと貿易収支の変動は,J
-
c
u
r
v
e
効果を示 している。 また利子率は,経済が領域I
I
I
から領域I
V
に入る相軌道をとる場合には,領域I
V
においてその長期均衡水準をo
v
e
r
s
h
o
o
t
してから後,低下しながらその長期 均衡値に収束することを,今までと同様の分析によって,示すことができる。I
V
財政政策と為替レート動学 この節では,財政政策が為替レートの決定とその変動に与える効果について 検討する。長期均衡においては, y = 0およびF=
0よ れ (12),白)式は,(
E(y-A
,i
,~)+G
=y
( 34) i ¥ Y / ¥ . T(r,y
)
=0
となる。例式より, (14)"-'(18)式を考慮すると, / F;y+ Eay+ EwWy-l0
¥
/
4
Y
¥
( 3日
l'
-
¥1- 71
¥ Tt'l"Y十J'y TtrF /¥dF /(
-
E
〔 附
i
s
必)-Ew[WMdM+附 )+F;ydA-削
-Tt[rMdM+
rsdS)J
となる。ただし, 以下の分析においては, ~ = (F;y+Eay+EwWy-l
)
TtrF>
0
である。前節と同様に,初期においては長期均衡でありP = R
=
1
と仮定す る。また政府支出の初期値はゼロと仮定する。(1)
国債の個人消化485 財政政策と為替レート動学 203-国債の個人消化によって政府支出を調達する場合は,Ll(ρG) = Ll
S
,すなわち LlG
= LlS
の関係式が成立する。。。式より,d
包
1+E
山+EwW
s
dG
1 s 1-Ey
-E
z
i
y
-EwW
y
(36) dFI1
ヨéI5=~( 日(1-
Ey-
E
z
i
y-Ew肌)+(恥+れ)(1十 E
;is
+EwWs))
となる。 (36)式は,国債の個人消化による政府支出の変化が実質国民所得と外国 資産に与える効果は,不確定であることを示している。政府支出の増加と国債 の個人消化による富の増加により,実質総需要が増大し実質国民所得が増加す る。この実質所得の増加は,貨幣需要を増大させ利子率を上昇させる。この利 子率の上昇が,民間の実質総支出を減少させcrowding -out効果をもつので実 質国民所得の変化が不確定となる。また実質問民所得の変化と国債発行によるS
の増加の交易条件に与える効果とが,不確定であるので,政府支出の増加が 外国資産に与える効果については明確なことはいえない。 しかしながら,次の伽)式に与えられるような結果が成立する。 if 1+E,
i
s
+
EwW
s
>
0if
l+EJs
十EwW
s
>
0 andr
s
~玉 Oつまり ,
l+Eds+EwWs
>
0の場合には,政府支出の増加によるcrowding out効果が小さいので,実質国民所得は増加する。さらにr
s
~玉 O ならば,国債 発行によって交易条件が一定あるいは改善する。この交易条件の変化と実質国 民所得の増加が貿易収支を悪化させ外国資産が減少する。 国債の個人消化による政府支出が増加したとき ,F
が一定ならば,.Y=0
が 成立するためにはyの増加が必要であるので,y= 0曲線は右方にシフトす る。 F= 0曲線のシフトについては yが一定のとき, (35)式より(
3
8
4
E
l
= ー ム 孟o
if ロ孟 OdGI
戸 const rF となる。 yが一定のとき,政府支出の増加によって交易条件が改善するならば,-204- 香川大学経済論叢 486 貿易収支が赤字になり
F
が減少するので,F=
0
曲線は,一定あるいは下方に シフトする。 ここでは,r
5
くO
と仮定しよう。この場合における政府支出の増加がyとF
に与える効果は,図IV-lに示されている。!日長期均衡点から新長期均衡点へ の動学的調整経路は,たとえば,①,②および③の3種類が考えられる。旧長 期均衡点が新長期均衡点を通る栢軌道の座標軸を示す曲線(図III-2のbb曲 線参)より下(上)方にあれば,①(③)のような経路が考えられる。経路② は,その座標軸上を通る経路である。 F 図W一1Yo=O
Yl=O
、、・¥Fo= 0
F1= 0 y 1 + EiIw+ EwWs> 0 and TsくOr
5
=R
5
<
0
の仮定より,国債の個人消化による政府支出の増加によって,為 替レートは,短期に増価する。経済が①の調整経路を通る場合には,短期に増 価した為替レートは,さらにしばらく増価する可能性があるが,その後,減価 しながら長期均衡が達成される。経済が②,③の動学的調整経路を通る場合は, これらの調整経路の勾配はR =0
曲線より急であるので,為替レートは減価し ながら長期均衡が達成される。新長期均衡における為替レートは,その旧長期 均衡水準よりは減価している。利子率は,短期に上昇するが,その後も①,② および、③の調整経路において,さらに上昇しながらその長期均衡値に収束する。487 財政政策と為替レート動学 -205ー ( 2 ) 国債の中央銀行引受け 国債の中央銀行引受けにより政府支出が調達される場合は,
L
1
G
=L
1
M
が成 立する。ω
式より, (生 1 +EtiM+Ew VV;~TT>
0I
dG 1M - 1-Ey+E;iy+EwWy。
9) idFI_11
克一
I
M
=
芝(
(れら+れ)(1+
Ed~+ EWWM)-T,z-y(Ey+ Eゐ +EwM
i
午-1)) が得られる。 (39)式は,国債の中央銀行引受けによる政府支出の増加は,実質問 民所得を増加させるが,その外国資産に与える効果は不確定であることを示し ている。この場合の政府支出の増加は,貨幣供給量の増大による富の増加と短 期的な利子率の低下の効果とともに,実質総需要を増大させるので,実質国民 所得が増加する。この実質国民所得の増加は,輸入を増加させる効果と交易条 件を改善させる効果をもつので貿易収支が悪化する。他方,政府支出の増加は, 実質国民所得を増大させるので利子率を上昇させる。この利子率の上昇は,実 質総需要を減少させ実質国民所得を減少させる効果をもつので,交易条件が悪 化し貿易収支が改善する。したがってこの場合の政府支出の増加が外国資産に 与える効果は不確定となる。 以下では,外国資産が減少する場合を考える。この場合の政府支出の増加が, yとF
に与える効果は,図IV-2
に示されている。タ=0
曲線は右方にシフト し,F = O曲線は上方にシフトする。F
が一定のとき,政府支出が増加すれば, yが増加して財市場が均衡するので,,y=
0
曲線は右方にシフトする。また政 府支出の増加とともに貨幣供給量が増大するので,為替レートが減価する。 y が一定ならば,貿易収支が改善する。この貿易収支の改善は,外国資産が増加 し為替レートが増価することによって相殺されるので,F = O曲線は上方にシ フトする。 図IV-2
における為替レートおよび利子率の変動は,次のとおりである。国 (10) 外国資産が増加する場合は,図IV-1の場合と同様な結論が得られる。206- 香川大学経済論議ー 488 函N-2 F. . Yo=O YI=O y ハ リ ︿ M F
一
G d 一 d 債の中央銀行引受けによる政府支出の増加により,短期において為替レートは 減価する。長期均衡への動学的調整過程において為替レートは増価して後,減 価しながら長期均衡が達成される。新長期均衡における為替レートが,その旧 長期均衡水準より減価するのか増価するのかについては明確ではない。利子率 は,短期では低下するが,その後,上昇しながら旧長期均衡水準より高い利子 率に収束し長期均衡が達成される。 ( 3 ) 課 税 政府支出の増加が増税によって調達される場合は,L
1
G =L
1
Aが成立するの で, (35)式より,r
dyI
_
1- EI
d
e
1
1
= 1-Ey+E
,
i
ム
EwWy
>
0
(制{I
dFI 1l
ヨ
514=
芝
(
1
-E
y
)
(
日 十 九 )
<
0 となる。側式は,増税によって調達された政府支出の増加は,実質国民所得を 増加させ外国資産を減少させることを示している。増税による政府支出の増加 は,実質総需要を増加させ実質所得を増加させる。また実質国民所得の増加は,489 財政政策と為替レート動学 -207ー 輸入を増大させ交易条件を改善させ貿易収支が悪化するので,外国資産が減少 する。 増税による政府支出の増加により,タ
=0
曲線は右方にシフトするが,F =
0
曲線はシフトしない。この場合のyとF
の変化は,図IV-3
によって与えられ ている。 図IV-3 F F=O y 政府支出の増加により為替レートは,動学的調整過程の初期においては増価 しているかもしれないが,減価しながら長期均衡が達成される。新長期均衡に おける為替レートは,I
日長期均衡点におけるよりも減価している。利子率は, 上昇しながらその長期均衡水準に収束する。 V む す び 小論においてわれわれは,単純なマクロ経済モデルによって為替レート,利 子率および貿易収支の決定と変動について分析し,政府支出の調達を明示的に 考慮することにより財政政策の為替レートに与える効果について検討した。 しかしながら,小論において得られた結論は,さまざまな制約のもとで成立 していることは言うまでもない。長期的な問題においては,資本ストックの蓄 積を考慮することも必要であろう。また,小論におけるような中央銀行の外国-208- 香川大学経済論叢 490 為替市場への介入の全くない変動相場制における分析ではなく管理フロートに おける分析が必要であろう。
1
国モデルではなく外国の反作用,予想形成や為 替投機についても考慮しなければならないだ、ろう。小論では,単純化のために 無視した投資収益と為替レートとの関係を分析することも必要であると思われ る。 引 用 文 献Branson, W. H..(1974)“Stocks and Flows in International Monetary Analysis
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