タイトル
未遂犯と中止犯(3)
著者
吉田, 敏雄; YOSHIDA, Toshio
引用
北海学園大学法学研究, 47(3/4): 339-366
発行日
2012-03-31
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・・・・・・・・・・・・・・ 論 説 ・・・・・・ ・・・・・・・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
未
遂
犯
と
中
止
犯
⑶
吉
田
敏
雄
北研 47 (3-4・ ) 目 次 第 一 章 未 遂 犯 一 未 遂 犯 の 意 義 二 未 遂 犯 の 処 罰 根 拠 1 ド イ ツ 刑 法 学 に お け る 未 遂 犯 処 罰 根 拠 の 議 論 状 況 A 法 規 定 B 学 説 の 状 況 2 オ ー ス ト リ ア 刑 法 学 に お け る 未 遂 犯 処 罰 根 拠 の 議 論 状 況 A 法 規 定 B 学 説 の 状 況 3 ス イ ス 刑 法 学 に お け る 未 遂 犯 処 罰 根 拠 の 議 論 状 況 A 法 規 定 B 学 説 の 状 況 ︵ 以 上 第 47 巻 第 1 号 ︶ 4 日 本 刑 法 学 に お け る 未 遂 犯 の 処 罰 根 拠 の 議 論 状 況 A 学 説 の 状 況 a 純 粋 ︶ 主 観 的 未 遂 論 b 客 観 的 未 遂 論 a a 行 為 無 価 値 論 的 客 観 的 未 遂 論 b b 結 果 無 価 値 論 的 客 観 的 未 遂 論 B 未 遂 犯 の 処 罰 根 拠 の 検 討 三 構 成 要 件 1 主 観 的 構 成 要 件 a 犯 行 計 画 b 決 意 c 故 意 2 客 観 的 構 成 要 件C 未 遂 行 為 ︵ 予 備 と 未 遂 の 区 別 ︶ の 検 討 a 実 行 行 為 以 上 、 内 外 の 諸 説 を 概 観 し た の で あ る が 、 予 備 と 未 遂 を 区 別 す る の が 構 成 要 件 の 定 め る 所 為 行 為 、 つ ま り 、 実 行 行 為 ︵ A u sf u h ru n g sh a n d lu n g ︶ で あ る 。 構 成 要 件 に よ っ て は 、 行 為 の 態 様 が 定 め ら れ て い る 犯 罪 も あ る ︵ 例 え ば 、 窃 盗 罪 に お け る 窃 取 行 為 、 詐 欺 罪 に お け る 欺 く 行 為 ︶ 。 こ の よ う な 犯 罪 で は 、 そ れ ら の 実 行 行 為 が 何 を 意 味 す る か は そ れ ぞ れ の 構 成 要 件 の 解 釈 に よ っ て 定 ま る 。 外 界 の 変 化 を 顧 慮 す る こ と な く 特 定 の 行 為 だ け を 定 め る 単 純 行 為 犯 ︵ 挙 動 犯 ︶ に あ っ て も 未 遂 は 存 在 す る 。 住 居 侵 入 罪 ︵ 刑 法 第 一 三 〇 条 、 同 第 一 三 二 条 ︶ で は 、 身 体 的 侵 入 行 為 に 着 手 し た が 、 身 体 の 一 部 た り と も 住 居 等 の 内 部 に 入 ら な か っ た 場 合 、 例 え ば 、 施 錠 の 破 壊 行 為 を 開 始 し た が 、 内 部 に 入 る 前 に 発 見 さ れ た 場 合 に 未 遂 が 成 立 ︶ す る 。 し か し 、 結 果 の 惹 起 を 定 め る 殺 人 罪 、 傷 害 罪 、 損 壊 罪 の よ う な い わ ゆ る 非 行 為 被 拘 束 犯 罪 ︵ 結 果 惹 起 犯 ︶ で は 、 所 為 行 為 が 定 め ら れ て い な い 。 こ れ ら の 犯 罪 で は 、 先 ず 、 客 観 的 に は 、 行 為 が 構 成 要 件 の 定 め る 結 果 を 発 生 さ せ る 因 果 連 鎖 の 最 後 の 構 成 要 素 と し て 行 為 者 の 掌 中 に あ る か 否 か 、 次 い で 、 主 観 的 に は 、 行 為 者 の 犯 行 計 画 に よ れ ば 、 当 該 行 為 を 最 後 の 構 成 要 素 に し よ う と し て い る か 否 が 検 討 さ れ る べ き A ド イ ツ 語 圏 刑 法 学 ・ 判 例 の 状 況 a 形 式 的 客 観 説 ︵ 構 成 要 件 説 ︶ b 実 質 的 客 観 説 c 主 観 説 d 主 観 的 客 観 説 ︵ 個 人 に 応 じ た 客 観 説 ︶ e 最 近 の 判 例 の 動 向 f 部 行 為 説 の 具 体 化 ︵ ロ ク ス ィ ー ン 説 ︶ B 我 が 国 の 学 説 a 主 観 説 b 客 観 説 a a 形 式 的 客 観 説 ︵ 構 成 要 件 基 準 説 ︶ b b 行 為 無 価 値 論 的 実 質 的 客 観 説 c c 結 果 無 価 値 論 的 実 質 的 客 観 説 c 折 衷 説 a a 主 観 的 客 観 説 ︵ 個 人 に 応 じ た 客 観 説 ︶ b b 客 観 的 主 観 説 ︵ 以 上 第 47 巻 第 2 号 ︶ C 未 遂 行 為 ︵ 予 備 と 未 遂 の 区 別 ︶ の 検 討 a 実 行 行 為 b 実 行 行 為 に 接 着 す る 先 行 行 為 c 犯 罪 行 為 態 様 別 の 検 討 ︵ 以 上 本 号 ︶ 北研 47 (3-4・ )
で あ り 、 こ れ が 肯 定 さ れ る と 実 行 行 為 が 認 定 さ れ る 。 例 え ば 、 拳 銃 を 抜 き 、 そ れ を 構 え 、 被 害 者 に 拳 銃 を 合 わ せ 、 発 射 す る と き 、 発 射 す る こ と が 実 行 行 為 で あ り 、 こ れ が 行 な わ れ る と 、 実 行 行 為 に 接 着 す る 先 行 行 為 を 問 題 と す る 必 要 は も は や な く ︶ な る 。 多 行 為 犯 罪 ︵ 複 数 の 行 為 を 要 求 す る 構 成 要 件 ︶ に お い て も 、 行 為 者 の 表 象 に よ る と 、 構 成 要 件 的 不 法 の 全 部 を 実 現 す る 行 為 、 つ ま り 、 構 成 要 件 要 素 を 全 部 実 現 す る 最 後 の 行 為 が 実 行 行 為 で あ る 。 し た が っ て 、 行 為 者 の 意 思 が 先 ず 、 一 つ の 構 成 要 件 要 素 を 実 現 す る こ と だ け に 向 け ら れ 、 後 に 他 の 構 成 要 件 要 素 を 実 現 し よ う と す る と き 、 行 為 者 の 意 思 は 構 成 要 件 的 行 為 不 法 の 全 部 を 実 現 し よ う と し て い る の で は な い か ら 、 そ の 一 つ の 構 成 要 件 要 素 が 実 現 さ れ て も ま だ 未 遂 は 成 立 し な い 。 一 つ の 構 成 要 件 要 素 に 該 当 す る 行 為 が 直 ち に 未 遂 を 基 礎 付 け る わ け で は な い 。 実 行 行 為 と 構 成 要 件 該 当 行 為 は 異 な っ た 概 念 で あ る 。 例 え ば 、 強 姦 罪 は 暴 行 行 為 又 は 脅 迫 行 為 と 姦 行 為 を 要 求 し て い る が 、 行 為 者 が 強 姦 の 意 図 を も っ て 、 今 日 は 暴 行 に 止 め 、 明 日 、 姦 を す る つ も り の と き 、 暴 行 行 為 だ け で は ま だ 未 遂 は 成 立 せ ず 、 予 備 に と ど ま る 。 こ の 場 合 、 暴 行 行 為 を も っ て 実 行 行 為 と 解 す る な ら 、 非 行 為 被 拘 束 犯 罪 の 実 行 行 為 と 衡 が と れ な い こ と に な ろ う 。 行 為 態 様 に よ っ て 可 罰 性 を 限 定 し よ う と す る 犯 罪 が 非 行 為 被 拘 束 犯 罪 よ り も そ の 未 遂 成 立 時 期 が 早 く な ら 、 そ れ は 奇 妙 な こ と と 云 わ ね ば な ら な い 。 暴 行 が 強 姦 未 遂 を 構 成 す る の は 、 行 為 者 が そ の 具 体 的 計 画 に し た が っ て 、 暴 行 に 引 き 続 い て 姦 を 直 ち に 行 な う つ も り の と き に 限 定 さ ︶ れ る 。 加 重 犯 の 場 合 、 加 重 行 為 が 基 本 犯 の 行 為 の 後 に 行 な わ れ る 類 型 と そ の 前 に 行 な わ れ る 類 型 と が あ る 。 事 後 強 盗 ︵ 刑 法 第 二 三 八 条 ︶ の よ う に 、 加 重 行 為 が 基 本 犯 の 行 為 の 後 に 行 な わ れ る と き 、 加 重 事 情 を 実 現 す る 行 為 が 実 行 行 為 で あ 北研 47 (3-4・ )
る 。 加 重 逃 走 罪 ︵ 刑 法 第 九 八 条 ︶ の よ う に 、 加 重 行 為 が 基 本 犯 の 行 為 の 前 に 行 な わ れ る と き 、 加 重 行 為 で は な く 、 基 本 犯 を 実 現 す る た め 直 接 行 な わ れ る 行 為 が 実 行 行 為 で あ る 。 未 遂 と い う の は 、 上 述 し た よ う に 、 行 為 者 の 意 思 が 、 構 成 要 件 的 不 法 の 一 部 だ け で な く 、 構 成 要 件 的 不 法 の 全 部 の 実 現 に 向 け ら れ て い な け れ ば な ら な い 、 つ ま り 、 加 重 行 為 の 不 法 だ け で な く 、 基 本 犯 の 不 法 に も 向 け ら れ ね ば な ら な い か ら で ︶ あ る 。 行 為 手 段 が 効 果 を 表 す の に か な り の 時 間 を 要 す る 場 合 、 例 え ば 、 殺 害 の 目 的 で 、 他 人 の 自 動 車 に そ れ を 発 進 さ せ た と き に 爆 発 す る よ う な 爆 発 装 置 を 仕 掛 ︶ け る と か 、 殺 害 の 目 的 で 、 毒 薬 入 り 果 汁 瓶 を 道 路 脇 に 置 く と か 、 殺 害 の 目 的 で 他 人 宛 に 毒 物 の 入 っ た お 菓 子 を 郵 送 す る と い っ た 場 合 ︵ 行 為 者 の 行 為 と 構 成 要 件 的 結 果 発 生 と の 間 に 時 間 的 ・ 場 所 的 距 離 の あ る い わ ゆ る 離 ︶ 隔 犯 ︶ も 、 行 為 者 が 以 後 の 事 象 経 路 を 自 己 の 支 配 領 域 か ら 最 終 的 に 手 放 し た と き に 実 行 行 為 が 認 め ら ︶ れ る 。 こ れ に 対 し て 、 予 備 と 未 遂 の 区 別 を 所 為 客 体 へ の 直 接 的 危 険 性 の 存 否 に 求 め 、 被 害 者 が 所 為 手 段 の 影 響 圏 に 赴 く と き に 未 遂 が 成 立 す る 、 つ ま り 、 自 己 の 行 為 又 は そ の 都 度 利 用 さ れ る 道 具 の 行 為 が 直 接 的 構 成 要 件 実 現 に 至 ら な け れ ば な ら な い と の ︶ 学 説 に よ れ ば 、 上 記 の 例 で は 、 被 害 者 が 自 動 車 に 乗 り 込 も う と し た と き 、 被 害 者 が 瓶 を 拾 っ た と き 、 被 害 者 が 受 領 し た 小 包 を 開 け よ う と し た と き に 未 遂 が 成 立 す る 。 し か し 、 こ の 説 に は 疑 問 が あ る 。 行 為 者 の 実 行 行 為 が 被 害 者 の 行 為 に 依 存 す る こ と に な る か ら で あ る 。 こ の 難 点 を 避 け る た め に 、 被 害 者 を 行 為 者 の 道 具 と 見 て 、 被 害 者 の 行 為 を 行 為 者 に 自 己 の 行 為 と し て 帰 属 さ せ る こ と も 主 張 さ ︶ れ る 。 し か し 、 こ の 工 夫 も 説 得 力 に 乏 し い 。 た い て い の 場 合 、 行 為 者 の 行 為 と 被 害 者 の 行 為 と の 間 に 何 等 の 因 果 関 係 も 存 し な い か ら で あ る 。 例 え ば 、 航 空 機 に 爆 発 物 を 北研 47 (3-4・ )
仕 掛 け て 乗 客 ・ 乗 員 を 殺 害 し よ う と す る と き 、 行 為 者 と 乗 客 ・ 乗 員 の 搭 乗 と の 間 に 因 果 関 係 は 存 在 し な い 。 し た が っ て 、 乗 客 ・ 乗 員 の 搭 乗 を 行 為 者 に そ の 行 為 と し て 帰 属 さ せ る こ と は で き な い の で ︶ あ る 。 事 象 経 路 を 自 己 の 支 配 領 域 か ら 最 終 的 に 手 放 し た と は い え な い 場 合 は 予 備 に と ど ま る 。 例 え ば 、 妻 の 好 み の 銘 柄 飲 料 水 を 知 っ て い る 夫 が 、 殺 害 の 意 図 で 、 妻 が 帰 宅 し た ら 冷 蔵 庫 か ら 自 で 取 り 出 し て 飲 む こ と を 期 待 し て 、 妻 の 旅 行 中 に そ の 飲 料 水 に 毒 を 混 ぜ て 冷 蔵 庫 に 置 い た と い う 場 合 、 こ の 段 階 で は ま だ 予 備 で あ る 。 確 か に 、 行 為 者 は 結 果 の 発 生 に 必 要 な 行 為 は す べ て 終 え た と え て い る 。 し か し 、 被 害 者 は ま だ 戻 っ て お ら ず 、 し か も 、 行 為 者 は 事 象 経 路 を い つ で も 停 止 さ せ る こ と が で き る ︵ 停 滞 的 因 果 経 路 ︶ 。 帰 宅 し た 被 害 者 が 冷 蔵 庫 か ら 飲 料 水 を 取 り 出 し 、 飲 も う と す る ま で 、 事 象 経 路 は ま だ 行 為 者 の 掌 中 に あ る 。 帰 宅 し た 妻 が 飲 用 す る 時 点 で 、 行 為 者 に は 結 果 の 発 生 を 阻 止 し な い と い う 不 作 為 に よ る 実 行 行 為 が 認 め ら れ る 。 も と よ り 、 行 為 者 が 用 意 し て い た 毒 物 入 り の 飲 料 水 を 自 ら 冷 蔵 庫 か ら 取 り 出 し て 妻 に 飲 ま せ る た め に 帰 宅 し た 妻 に 飲 料 水 を 渡 す と き 、 こ の 時 点 に 作 為 に よ る 実 行 行 為 が 認 め ら ︶ れ る 。 b 実 行 行 為 に 接 着 す る 先 行 行 為 未 遂 行 為 は 、 実 行 の 着 手 が あ る 場 合 に 認 め ら れ る の で 、 形 式 的 に は 実 行 行 為 で は な い が 、 行 為 者 の 計 画 に よ る と 、 実 行 行 為 に 接 着 す る 先 行 行 為 が あ る 場 合 に も 認 め ら れ る 。 し た が っ て 、 か か る 行 為 の 存 否 は 、 実 行 行 為 か ら し か 、 し た が っ て 、 各 構 成 要 件 に 照 ら し て し か 判 断 で き な い 。 こ の こ と は 、 実 行 行 為 が そ れ 自 体 と し て 未 遂 行 為 で あ る ば か り か 、 実 行 行 為 に 接 着 す る 行 為 の 準 拠 点 で も あ る こ と を 意 味 ︶ す る 。 法 治 国 原 理 も 法 的 安 定 性 の 観 点 か ら 未 遂 の 成 立 を 実 行 行 為 に 接 着 す る 行 為 に 限 定 す る こ と を 要 求 す る 。 あ る 行 為 が 実 行 行 為 に 接 着 す る 行 為 に 当 た る か 否 か の 判 断 に 当 た っ て は 、 行 為 者 の 主 観 面 を 重 視 し て 、 行 為 に 意 思 の 表 動 的 意 義 し か 認 め な い 北研 47 (3-4・ )
の も 、 逆 に 、 行 為 者 の 行 為 意 思 の 面 を 無 視 し て 外 部 的 行 為 だ け を 慮 す る こ と も 適 切 で な い 。 行 為 が 実 行 行 為 に 接 着 す る 先 行 行 為 か 否 か は 、 行 為 者 の 具 体 的 犯 行 計 画 を 基 礎 に し て ︵ ど の よ う に 行 為 者 は 犯 罪 を 実 現 し よ う と し て い る の か 。 判 断 基 底 ︶ 、 随 伴 す る 観 察 者 の 客 観 的 観 点 か ら 判 断 さ れ る べ き で あ る ︵ 犯 行 計 画 が 構 成 要 件 の 実 現 に 接 着 し た 段 階 に 至 っ た と い え る か 否 か 。 客 観 的 評 価 ︶ 。 行 為 者 が い か な る 構 成 要 件 を 実 現 し よ う と し て い る の か は 、 行 為 者 の 犯 行 計 画 を 基 づ か な い か ぎ り 判 断 が で き な い 。 し か し 、 行 為 者 の 犯 行 計 画 を 前 提 に 、 実 行 行 為 に 接 着 す る 先 行 行 為 が 為 さ れ た 否 か は そ れ ぞ れ の 構 成 要 件 に 即 し て 客 観 的 に 判 断 さ れ る べ き で ︶ あ る 。 実 行 行 為 に 先 行 す る 行 為 の 実 行 行 為 接 着 性 ︵ 直 接 性 ︶ の 存 否 の 認 定 規 準 は 、 実 行 行 為 に 先 行 す る 行 為 が 、 実 行 行 為 と 時 間 的 密 接 性 の 関 係 に あ り 、 し か も 、 行 為 者 の 犯 行 計 画 に よ れ ば 本 質 的 な 介 在 行 為 を 要 せ ず し て 実 行 行 為 に 移 れ る 、 つ ま り 、 実 行 行 為 へ の 行 動 的 密 接 性 の 関 係 に あ る と い う こ と で あ る 。 こ れ ら の 規 準 は 相 互 限 定 的 に 組 み 合 わ せ て 用 さ れ る べ き で あ る 。 時 間 的 密 接 性 は 、 行 為 者 が 今 実 行 行 為 を す る 意 思 の と き に 認 め ら れ る 。 実 行 行 為 へ の 行 動 的 密 接 性 は 、 行 為 が 邪 魔 さ れ る こ と な く 進 行 す る な ら い わ ば 自 動 的 に 実 行 行 為 に 移 行 す る と き に 認 め ら れ る 。 こ の 自 動 性 の 判 断 に 当 た っ て は 、 次 の 二 点 に 留 意 す べ き で あ る 。 ① 行 為 者 の 犯 行 計 画 に よ れ ば 、 行 為 が 中 休 み 時 間 や 熟 慮 時 間 に よ っ て 実 行 行 為 と 離 さ れ な い こ と で あ り 、 ② 被 害 者 の い る 犯 罪 で は 、 被 害 者 の 保 護 領 域 に 入 り 込 む 行 為 が 行 な わ れ る こ と が 必 要 で あ る ︵ 被 害 者 の 保 護 領 域 連 ︶ 関 性 ︶ 。 例 え ば 、 車 上 荒 し の 目 的 で 、 開 け っ 放 し に な っ て い る 他 人 の 自 動 車 の 窓 か ら 中 に 手 を 突 っ 込 む 行 為 は 未 遂 で あ る 。 行 為 者 は 今 こ こ で 、 窃 取 を し よ う と し て い る し ︵ 時 間 的 ・ 場 所 的 密 接 性 ︶ 、 被 害 者 の 物 の 支 配 領 域 へ の 介 入 が あ る ︵ 被 害 者 保 護 領 域 連 関 性 ︶ か ら で あ る 。 そ の 際 、 行 為 者 が 即 座 に 手 掴 み し た い の か 、 杖 を つ か ん で そ れ を 利 用 し て 取 ろ う と し た の か は 本 質 的 な 問 題 で は ︶ な い 。 し か し 、 北研 47 (3-4・ )
車 上 荒 し の 目 的 で 他 人 の 自 動 車 の 前 に 佇 立 す る と き 、 そ の 段 階 で は ま だ 未 遂 と は い え な い 。 時 間 的 密 接 性 は 認 め ら れ る が 、 被 害 者 保 護 領 域 へ 入 り 込 ん だ と は ま だ い え な い か ら で あ る 。 他 人 に 向 け て 拳 銃 を 構 え て い る が 、 さ し あ た り 撃 つ つ も り は な い 場 合 、 被 害 者 保 護 領 域 へ の 介 入 は あ る が 、 時 間 的 接 着 性 が 無 い の で 、 こ の 段 階 で は 殺 人 未 遂 は 成 立 し ︶ な い 。 早 す ぎ た 構 成 要 件 の 実 現 が 問 題 と な っ た 最 決 平 成 一 六 ・ 三 ・ 二 二 刑 集 五 八 ・ 三 ・ 一 八 七 [ ク ロ ロ ホ ル ム 殺 人 事 件 ] ︹ 行 為 者 ら が 、 被 害 者 に ク ロ ロ ホ ル ム を 吸 引 さ せ て 失 神 さ せ ︵ 第 一 行 為 ︶ 、 そ の 状 態 を 利 用 し て 港 ま で 運 び 、 自 動 車 ご と 海 中 に 転 落 さ せ る ︵ 第 二 行 為 ︶ と い う 一 連 の 殺 人 行 為 を 行 な っ て 被 害 者 殺 害 の 目 的 を 遂 げ た と い う 事 案 ︺ は 、 第 1 行 為 は 第 2 行 為 を 確 実 か つ 容 易 に 行 う た め に 必 要 不 可 欠 な も の で あ っ た と い え る こ と 、 第 1 行 為 に 成 功 し た 場 合 、 そ れ 以 降 の 殺 害 計 画 を 遂 行 す る 上 で 障 害 と な る よ う な 特 段 の 事 情 が 存 し な か っ た と 認 め ら れ る こ と や 、 第 1 行 為 と 第 2 行 為 と の 間 の 時 間 的 場 所 的 近 接 性 な ど に 照 ら す と 、 第 1 行 為 は 第 2 行 為 に 密 接 な 行 為 で あ り 、 実 行 犯 3 名 が 第 1 行 為 を 開 始 し た 時 点 で 既 に 殺 人 に 至 る 客 観 的 な 危 険 性 が 明 ら か に 認 め ら れ る か ら 、 そ の 時 点 に お い て 殺 人 罪 の 実 行 の 着 手 が あ っ た も の と 解 す る の が 相 当 で あ る 。 ま た 、 実 行 犯 3 名 は 、 ク ロ ロ ホ ル ム を 吸 引 さ せ て 甲 を 失 神 さ せ た 上 自 動 車 ご と 海 中 に 転 落 さ せ る と い う 一 連 の 殺 人 行 為 に 着 手 し て 、 そ の 目 的 を 遂 げ た の で あ る か ら 、 た と え 、 実 行 犯 3 名 の 認 識 と 異 な り 、 第 2 行 為 の 前 の 時 点 で 甲 が 第 1 行 為 に よ り 死 亡 し て い た と し て も 、 殺 人 の 故 意 に 欠 け る と こ ろ は な く 、 実 行 犯 3 名 に つ い て は 殺 人 既 遂 の 共 同 正 犯 が 成 立 す る と 論 じ て 、 行 為 者 の 全 体 計 画 を 慮 し た 上 で 、 第 一 行 為 の 開 始 時 点 に 実 行 の 着 手 を 認 め た 。 第 一 行 為 の 時 点 で 、 殺 意 が あ り 、 構 成 要 件 該 当 行 為 と の 時 間 的 密 接 性 も 自 動 性 も 肯 定 さ れ る の で 、 構 成 要 件 に 接 着 し た 行 為 が 認 め ら れ る の で 、 本 決 定 は 妥 当 で ︶ あ る 。 北研 47 (3-4・ )
時 間 的 密 接 性 は 構 成 要 件 行 為 と の 関 連 で 存 在 し な け れ ば な ら ず 、 必 ず し も 結 果 と の 関 連 で 存 在 す る 必 要 は な い 。 例 え ば 、 穿 孔 機 を っ て 金 庫 を 破 ろ う と し て い る 行 為 は 、 実 際 に 金 庫 を 破 る の に ま だ 数 時 間 か か る 場 合 で も 、 未 遂 で ︶ あ る 。 c 犯 罪 行 為 態 様 別 の 検 討 上 述 し た 規 準 は 一 般 的 指 針 で あ っ て 、 個 別 事 案 毎 に 具 体 化 を 要 す る 。 以 下 、 論 議 の あ る 事 例 を 犯 行 態 様 別 に 検 討 す る 。 1 犯 行 現 場 な い し 被 害 者 へ の 接 近 事 例 行 為 者 が 殺 害 の 意 図 で 拳 銃 を 抜 い て 被 害 者 に 近 づ く と き 、 行 為 者 が 即 座 に 撃 つ つ も り な ら 、 ま だ 数 歩 進 ん で 照 準 を 合 わ せ ね ば な ら な い と し て も 、 未 遂 が 成 立 す る 。 時 間 的 密 接 性 も 被 害 者 保 護 領 域 連 関 性 も 認 め ら れ る か ら で ︶ あ る 。 住 居 侵 入 窃 盗 の 場 合 、 犯 行 現 場 に 向 か う だ け で な く 、 現 に そ こ に 到 着 し て 、 玄 関 扉 に 合 鍵 を 差 し 込 む と か 、 一 階 の 窓 を こ じ 開 け る と か 、 二 階 の 開 い て い る 窓 か ら 即 座 に 侵 入 す る つ も り で は し ご を 架 け た と き 、 窃 盗 未 遂 が 成 立 す る が 、 梯 子 を 架 け て も 数 時 間 の 後 の 闇 夜 に な っ て 侵 入 す る つ も り の と き は 、 ま だ 予 備 で ︶ あ る 。 窃 盗 の 意 図 で 小 売 店 や 百 貨 店 に 入 る の は ま だ 予 備 で あ る 。 こ れ に 対 し て 、 凶 器 を 携 帯 し 、 覆 面 を し た 強 盗 が 銀 行 の 窓 口 を 襲 う の は 未 遂 で あ る 。 こ の 場 合 、 時 間 的 接 着 性 と 被 害 者 保 護 領 域 連 関 性 が 明 ら か に 認 め ら れ る か ら で ︶ あ る 。 我 が 国 の 判 例 は 著 し く 客 観 主 義 に 傾 い て い る 。 住 居 侵 入 窃 盗 に つ い て 、 大 判 昭 和 九 ・ 一 〇 ・ 一 九 刑 集 一 三 ・ 一 四 七 三 ︹ 被 告 人 甲 は 、 乙 方 に 侵 入 し て 金 員 を 窃 取 せ ん と 決 意 し 、 午 前 零 時 半 頃 日 本 刀 一 口 を 携 え て 、 乙 方 裏 手 よ り 屋 内 に 北研 47 (3-4・ )
忍 び 入 り 、 同 人 及 び そ の 妻 丙 の 就 寝 し て い た 同 家 六 畳 間 に 到 り 金 員 物 色 の た め そ の 北 東 隅 の 三 重 笥 に 近 寄 っ た と こ ろ 、 乙 が 目 を 覚 ま し 誰 何 し た の で 、 逮 捕 を 免 れ る た め そ の 場 で 右 日 本 刀 で 同 人 に 斬 り 付 け 、 治 療 約 八 〇 日 の 切 を 、 又 、 物 音 に 目 を 覚 ま し 起 き 上 が っ て 布 団 を か ぶ せ て 甲 を 捕 押 へ ん と し た 丙 に も 斬 り 付 け 、 治 療 約 六 〇 日 の 切 を 負 わ し た と い う 事 案 ︺ は 、 家 宅 侵 入 の 行 為 ハ 窃 盗 罪 ノ 構 成 要 素 ニ 属 セ ス 単 ニ 其 ノ 遂 行 手 段 ニ 外 ナ ラ サ ル カ 故 ニ 家 宅 ニ 侵 入 シ タ ル ノ 一 事 ヲ 以 テ 窃 盗 罪 ノ 著 手 ト 謂 フ 能 ハ サ ル ハ 勿 論 ナ リ ト 雖 窃 盗 ノ 目 的 ヲ 以 テ 家 宅 ニ 侵 入 シ 他 人 ノ 財 物 ニ 対 ス ル 事 実 上 ノ 支 配 ヲ 犯 ス ニ 付 密 接 ナ ル 行 為 ヲ 為 シ タ ル ト キ ハ 窃 盗 罪 ニ 著 手 シ タ ル モ ノ ト 謂 ウ ヲ 得 ヘ シ 故 ニ 窃 盗 犯 人 カ 家 宅 ニ 侵 入 シ テ 金 品 物 色 ノ 為 笥 ニ 近 寄 リ タ ル カ 如 キ ハ 右 事 実 上 支 配 ヲ 侵 ス ニ 付 密 接 ナ ル 行 為 ヲ 為 シ タ ル モ ノ ニ シ テ 即 チ 窃 盗 罪 ノ 著 手 ア リ タ ル モ ノ ト 云 フ ヲ 得 ヘ ク 其 ノ 際 家 人 ニ 誰 何 セ ラ レ 逮 捕 ヲ 免 ル ル 為 人 ヲ 傷 ケ タ ル ト キ ハ 準 強 盗 傷 人 罪 ヲ 以 テ 論 ス ヘ キ コ ト ニ 絮 説 ヲ 要 セ ス と し て 、 窃 盗 の 目 的 が あ っ て も 住 居 に 侵 入 し た だ け は ま だ 未 遂 で は な い が 、 物 色 以 前 の 行 為 に 未 遂 を 認 め て い る 。 店 舗 窃 盗 に つ い て 、 最 決 昭 和 四 〇・ 三 ・ 九 刑 集 一 九 ・ 二 ・ 六 九 ︹ 被 告 人 甲 は 電 気 器 具 商 乙 方 店 舗 内 に お い て 、 窃 盗 の 目 的 で 現 金 の 置 い て あ る と 思 わ れ る 同 店 舗 内 東 側 隅 の 煙 草 売 り 場 に 近 づ き 、 金 員 を 物 色 し よ う と し て い た 際 、 乙 に 発 見 さ れ た 。 甲 は 逮 捕 を 免 れ る た め 、 所 携 の ナ イ フ で 乙 の 胸 を 突 き 刺 し 、 出 血 失 血 死 至 ら し め 、 乙 の 妻 丙 に も 暴 行 を 加 え 傷 害 を 負 わ せ た と い う 事 案 ︺ は 、 被 告 人 は 昭 和 三 八 年 一 一 月 二 七 日 午 前 零 時 四 〇 頃 電 気 器 具 商 た る 本 件 被 害 者 方 店 舗 内 に お い て 、 所 携 の 懐 中 電 燈 に よ り 真 暗 な 店 内 を 照 ら し た と こ ろ 、 電 気 器 具 類 が つ ん で あ る こ と が 判 っ た が 、 な る べ く 金 を 盗 り た い の で 自 己 の 左 側 に 認 め た 煙 草 売 場 の 方 に 行 き か け た 際 、 本 件 被 害 者 ら が 帰 宅 し た 事 実 が 認 め ら れ る と い う の で あ る か ら 、 原 判 決 が 被 告 人 に 窃 盗 の 着 手 行 為 が あ っ た も の と 認 め 、 刑 法 二 三 八 条 の 窃 盗 犯 人 に あ 北研 47 (3-4・ )
た る も の と 判 断 し た の は 相 当 で あ る と し て 、 煙 草 売 場 の 方 に 行 き か け た 段 階 に 実 行 の 着 手 を 認 め 、 店 舗 に 侵 入 し た だ け で は 実 行 の 着 手 を 認 め な い よ う で あ る 。 し か し 、 窃 盗 罪 の 故 意 の 具 体 化 と し て は 、 金 銭 な い し 何 ら か の 有 用 な 品 物 を 奪 う と い う 意 思 で 十 で あ る か ら 、 有 用 な 品 物 が 揃 っ て い る 店 舗 の 場 合 、 判 例 の 立 場 か ら で も 、 店 舗 に 侵 入 し た 段 階 で 未 遂 の 成 立 が 認 め ら れ よ う 。 な お 、 土 蔵 侵 入 窃 盗 の 場 合 に つ い て は 、 侵 入 時 点 に 実 行 の 着 手 を 認 め る 判 例 が あ る 。 名 古 屋 高 判 昭 和 二 五 ・ 一 一 ・ 一 四 高 刑 集 三 ・ 四 ・ 七 四 八 被 告 人 等 が 窃 盗 の 目 的 で 土 蔵 に 侵 入 し よ う と し て 土 蔵 の 壁 の 一 部 を 破 壊 し た り 、 又 は 外 扉 の 錠 を 破 壊 し て こ れ を 開 い た こ と は 、 窃 盗 の 著 手 を し た も の と 解 す べ き で あ る 。 ド イ ツ 連 邦 裁 判 所 ︵ B G H S tV 19 84 , 42 0 ︶ は ︹ 甲 が 自 の 妻 乙 を 殺 害 し よ う と し て 、 こ の 事 を 妻 に 通 知 し て い た 。 甲 は 乙 の 住 ま い に や っ て き て 、 階 下 の 外 玄 関 に あ る 呼 び 鈴 を 鳴 ら し た 。 当 然 の こ と な が ら 戸 は 開 け ら れ な か っ た 。 甲 は 逮 捕 さ れ た と い う 事 案 ︺ に お い て 、 妻 の 住 ま い に 入 る に は ま だ 多 く の 段 階 を 経 る こ と が 必 要 だ と し て 、 未 遂 の 成 立 を 否 定 し た 。 行 為 者 の 知 ら せ で 、 妻 は そ の 対 応 策 を 取 っ て い た こ と か ら す る と 、 呼 び 鈴 を 鳴 ら し た だ け で は 、 被 害 者 保 護 領 域 へ の 影 響 は ま だ 見 ら れ な い し 、 行 為 者 の 行 為 が 邪 魔 さ れ ず に 進 行 す る と も い え ず 、 時 間 的 密 接 性 も 否 定 さ ︶ れ る 。 ド イ ツ 連 邦 通 常 裁 判 所 ︵B G H N S tZ 19 87 , 20 ︶ は 、 ︹ 甲 は 乙 を 射 殺 す る 意 図 で 、 乙 の い る 居 間 の 戸 を 銃 の 床 尾 で 打 ち 破 り 、 そ こ に 侵 入 し た 。 そ の 間 に 、 乙 は 窓 か ら 逃 走 し た と い う 事 案 ︺ に お い て 、 行 為 者 は 主 観 的 に は 閾 を 越 え て さ 北研 47 (3-4・ )
あ 今 や る ぞ と い う 段 階 に 達 し た こ と 、 そ の 作 為 は 介 在 行 為 な く し て 構 成 要 件 充 足 に い た る は ず で あ る と い う 理 由 か ら 、 未 遂 を 肯 定 し た 。 居 間 へ の 侵 入 に よ っ て 被 害 者 保 護 領 域 へ の 持 続 的 影 響 が 見 ら れ 、 被 害 者 が い れ ば 直 ち に 射 殺 し よ う と し て 以 上 、 実 行 行 為 と の 時 間 的 接 着 性 も 見 ら ︶ れ る 。 ド イ ツ 連 邦 通 常 裁 判 所 ︵ B G H N S tZ 1 99 9, 39 5 ︶ は 、 ︹ 甲 は 乙 ︵ 女 性 ︶ に 対 す る 恐 喝 的 な 人 身 奪 取 罪 を 犯 す つ も り だ っ た が 、 郵 小 包 配 達 員 の 振 り を し て 、 乙 の 住 ま い の 呼 び 鈴 を 鳴 ら し 、 戸 が 開 け ら れ た ら 乙 を 誘 拐 す る 計 画 を 立 て た 。 甲 は 事 前 に 、 乙 が そ の 一 〇 歳 の 子 と 一 緒 に 現 れ た ら 誘 拐 を 止 め る こ と を 共 謀 者 と 申 し 合 わ せ て い た 。 実 際 、 乙 は 腕 に 子 ど も を 抱 え て 現 れ た 。 甲 は 、 申 し 合 わ せ ど お り 、 小 包 の 配 送 先 が 間 違 っ て い ま し た と い っ て 引 き 下 が っ た と い う 事 案 ︺ に お い て 、 恐 喝 的 な 人 身 奪 取 罪 ︵ 刑 法 二 三 九 条 a 。 日 本 刑 法 の 身 代 金 略 取 罪 に 相 当 す る ︶ の 成 否 に つ き 、 主 観 的 に は 域 を 超 え て さ あ 今 や る ぞ が 、 客 観 的 に は 行 為 が 介 在 行 為 な し に 構 成 要 件 充 足 に 至 ら ね ば な ら な い と こ ろ 、 本 件 で は 、 こ れ ら の 要 件 が 充 足 さ れ て い な い 、 な ぜ な ら 、 幼 児 が 現 れ た た め 、 さ ら な る 意 思 決 断 が 必 要 に な っ た と い う 理 由 で 、 未 遂 を 否 定 し た 。 し か し 、 本 判 決 は 批 判 さ れ る 。 呼 び 鈴 を 鳴 ら し た こ と で 、 被 害 者 保 護 領 域 へ の 影 響 が 見 ら れ 、 実 行 行 為 と の 時 間 的 密 接 性 も 見 ら れ る 。 行 為 者 に は 中 止 の 留 保 付 き の 未 遂 が 認 め ら ︶ れ る 。 2 待 ち 伏 せ 事 例 待 ち 伏 せ に は 、 攻 撃 の 準 備 の 整 っ た 行 為 者 が 今 か 今 か と 被 害 者 の 現 れ る の を 待 っ て い る 場 合 と 被 害 者 が 現 れ る の は 数 時 間 後 だ と 予 期 し て い る 場 合 が あ る 。 い ず れ の 場 合 も 、 被 害 者 が 行 為 者 の 影 響 を 受 け る 範 囲 に 来 な い 限 り 、 実 行 行 為 に 接 着 す る 先 行 行 為 が あ る と は い え な い の で 、 当 該 待 ち 伏 せ は 実 行 行 為 に 接 着 す る 行 為 に 移 行 し う る 行 為 に 過 ぎ な い 。 被 害 者 が 現 れ た と き 、 間 髪 い れ ず 自 動 的 に 襲 う 犯 行 計 画 の と き 、 被 害 者 が 犯 行 現 場 に 近 北研 47 (3-4・ )
づ き 、 行 為 者 が こ れ に 気 づ い た と き に 初 め て 未 遂 が 成 立 ︶ す る 。 ド イ ツ 連 邦 通 常 裁 判 所 ︵ B G H N JW 19 52 , 51 4 ︶ は 、 [ 胡 椒 袋 事 件 ] ︹ 被 告 人 ら は 現 金 輸 送 係 員 を 襲 う つ も り で 、 被 害 者 が 普 段 降 り る 電 車 停 車 場 か ら 遠 く な い 場 所 に 自 動 車 を 停 め て 待 っ て い た 。 被 告 人 ら の 計 算 で は 被 害 者 は 間 も 無 く 電 車 で 到 着 す る は ず だ っ た 。 被 告 人 ら は 被 害 者 の 目 に 振 り か け る 胡 椒 を 用 意 し て お り 、 電 車 が 止 ま る ご と に 自 動 車 の エ ン ジ ン を か け 、 犯 行 後 即 座 に 逃 走 で き る よ う に し て い た 。 そ の 間 、 電 車 は 四 回 停 ま っ た が 、 被 害 者 は 現 れ な か っ た 。 被 告 人 ら は あ き ら め て 立 ち 去 っ た と い う 事 案 ︺ に お い て 、 邪 魔 さ れ ず に 進 行 し た な ら 直 接 的 に 構 成 要 件 の 充 足 に 至 っ た こ と 、 行 為 者 の 表 象 に よ れ ば 侵 害 さ れ る 法 益 の 直 接 的 危 殆 化 が 発 生 し た こ と を 理 由 に 未 遂 の 成 立 を 肯 定 し た 。 し か し 、 本 判 例 は 批 判 さ れ る 。 行 為 者 の 行 為 と 強 奪 の 間 に は 被 害 者 に 自 動 車 で 近 づ く と い う 本 質 的 な 介 在 的 行 為 が 残 さ れ て い る か ら で あ る 。 行 為 者 の 表 象 を 基 礎 に す る と 、 今 か 今 か と 待 っ て い る の で あ る か ら 、 時 間 的 密 接 性 は 肯 定 で き る が 、 被 害 者 保 護 領 域 連 関 性 は 、 現 れ た 被 害 者 に 近 づ く と き に 初 め て 肯 定 で き る か ら で ︶ あ る 。 ド イ ツ 連 邦 通 常 裁 判 所 ︵ B G H M D R (D ) 19 66 , 72 6 ︶ は 、 ︹ 被 告 人 ら は 銀 行 で 給 料 を 引 き 落 と す 会 計 係 員 ︵ 女 性 ︶ か ら 強 奪 し よ う と し て 、 近 く の 出 入 り 口 の 間 で 被 害 者 を 待 っ て い た も の の 、 被 害 者 が 現 れ た の に 気 づ か な か っ た と い う 事 案 ︺ に お い て 、 強 盗 未 遂 の 成 立 を 肯 定 し た 。 し か し 、 本 判 決 に 対 し て は 、 未 遂 の 成 否 の 基 礎 は 行 為 者 の 表 象 で あ る が 、 本 事 案 で は 、 行 為 者 ら は 被 害 者 が ま だ 現 れ て い な い と 思 っ て い た の で あ る か ら 、 未 遂 は 成 立 し な い と 批 判 さ ︶ れ る 。 3 試 し 、 点 検 事 例 行 為 者 が 先 ず 、 所 為 の 可 能 性 又 は 行 な う に 値 す る か 否 か を 調 べ る が 、 そ の 点 検 中 に 邪 魔 さ れ 北研 47 (3-4・ )
る 事 例 が 問 題 と な る 。 掏 り の 場 合 、 当 た り 行 為 は 一 般 に ま だ 実 行 の 着 手 と は 認 め ら れ な い が 、 し か し 、 そ の 結 果 次 第 で は 直 ち に 窃 取 行 為 に 移 る つ も り の と き は 、 被 害 者 保 護 領 域 連 関 性 は も と よ り 時 間 的 密 接 性 も あ る の で 、 未 遂 が 認 め ら れ る 。 当 た り 行 為 の 段 階 を 超 え て い る と き は 当 然 に 実 行 の 着 手 が 認 め ら れ る 。 最 決 昭 和 二 九 ・ 五 ・ 六 刑 集 八 ・ 五 ・ 六 三 四 被 害 者 の ズ ボ ン 右 ポ ケ ッ ト か ら 現 金 を す り 取 ろ う と し て 同 ポ ケ ッ ト に 手 を 差 し の べ そ の 外 側 に 触 れ た 以 上 窃 盗 の 実 行 に 着 手 し た も の と 解 す べ き こ と い う ま で も な い 。 ド イ ツ 連 邦 通 常 裁 判 所 は 、 ︵ B G H M D A (D ) 19 58 , 12 ︶ ︹ す り が 被 害 者 の 外 套 ポ ケ ッ ト に 財 布 が 入 っ て い る か 否 か を 確 認 す る た め に 外 套 ポ ケ ッ ト に 触 っ て み た ︺ 及 び ︵ B G H S t 22 , 80 ︶ ︹ 被 告 人 は 特 定 の 自 動 車 二 台 を 盗 も う と し て 、 ハ ン ド ル に 鍵 が か か っ て い な い か 否 か を 確 認 す る た め に 、 前 車 輪 を 揺 り 動 か し た 。 支 障 が 無 け れ ば 、 直 ち に 自 動 車 を 奪 う つ も り だ っ た と い う 事 案 ︺ に お い て 、 未 遂 の 成 立 を 肯 定 し た 。 こ れ ら の 事 案 に お い て は 、 被 害 者 保 護 領 域 ︵ 占 有 ︶ へ の 影 響 が あ る し 、 試 し に 続 い て 邪 魔 さ れ る こ と な く 続 行 す る こ と に な っ て い る か ら 、 時 間 的 密 接 性 も 認 め ら ︶ れ る 。 4 犯 行 の 障 害 と な る 物 、 人 を 除 去 す る 事 例 行 為 者 が 被 害 者 の と っ て い る 防 犯 対 策 を 無 力 化 し た り 、 弱 体 化 さ せ る 事 例 が 問 題 と な る 。 行 為 者 が 窃 盗 の 目 的 で 被 害 者 宅 に 侵 入 す る つ も り だ が 、 先 ず 、 そ の 敷 地 で 飼 っ て い る 番 犬 を 連 れ 出 す 行 為 が 問 題 と な る 。 ラ イ ヒ 裁 判 所 ︵R G S t 5 3, 21 8 ︶ は 、 ︹ 被 告 人 は 窃 盗 目 的 で 農 家 の 家 屋 敷 に 侵 入 し た 。 に 鎖 で つ な が れ て い た 犬 が 吠 え た の で 、 被 告 人 は そ の 鎖 を 解 き 、 家 屋 敷 か ら 外 へ 連 れ 出 し た 。 被 告 人 は す ぐ に 戻 る つ も り 北研 47 (3-4・ )
だ っ た が 、 外 で 犬 を 縛 り つ け よ う と し て い た と き に 捕 ま っ た と い う 事 案 ︺ に お い て 、 窃 盗 未 遂 の 成 立 を 肯 定 し た 。 本 判 例 は 肯 定 的 に 評 価 さ れ る 。 番 犬 を 連 れ 出 す こ と に よ っ て 家 屋 敷 の 占 有 保 護 が 低 下 し た し 、 行 為 者 が 犬 を 縛 り つ け た 後 休 む 間 も 無 く 邪 魔 さ れ ず に 進 行 し て 窃 取 に 移 行 す る つ も り の と き 、 時 間 的 連 関 性 が 肯 定 さ れ る 。 窃 取 に 至 る ま で ま だ い く つ か の 介 在 行 為 が 必 要 で あ る が 、 犬 を 除 去 す る こ と か ら 始 ま る 占 有 へ の 影 響 に 鑑 み 、 そ れ ら は 非 本 質 的 で ︶ あ る 。 ド イ ツ 連 邦 通 常 裁 判 所 ︵ B G H S t 3, 29 7 ︶ は 、 ︹ 行 為 者 ら は 被 害 者 か ら 強 奪 し よ う と し て 、 そ の た め 、 先 ず 、 障 害 に な り そ う な 同 行 者 を 追 い 払 お う と し て 、 突 発 的 に 喧 嘩 を 始 め て 同 行 者 を 追 い 払 っ た 。 つ い で 、 行 為 者 ら は 続 行 し て 、 被 害 者 を 道 路 脇 の 藪 の 茂 み に 誘 い 込 み 、 そ こ で 強 奪 し た と い う 事 案 ︺ に お い て 、 行 為 者 ら は 同 行 者 を 追 い 払 っ た と き 既 に 北 園 へ の 途 上 に あ っ た と い う 理 由 で 、 障 害 に な る 同 行 者 を 追 い 払 っ た 時 点 に 未 遂 を 認 め た 。 本 事 案 に お い て は 、 助 っ 人 と な る は ず の 人 が 追 い 払 わ れ た こ と に よ っ て 、 被 害 者 は 保 護 さ れ な い 孤 立 の 状 態 に お か れ 、 遅 滞 無 く 実 行 行 為 に 移 れ る 状 況 が 生 じ た の で あ る か ら 、 未 遂 行 為 が 認 め ら ︶ れ る 。 ド イ ツ 連 邦 通 常 裁 判 所 ︵ B G H N JW 19 80 , 17 59 ︶ は 、 ︹ 行 為 者 ら は 、 有 価 証 券 や 現 金 を 輸 送 す る 銀 行 輸 送 員 か ら 強 奪 し よ う と し た 。 行 為 者 ら は 駐 車 場 で 停 止 し て い た 銀 行 輸 送 員 の 車 の タ イ ヤ に 釘 で を 開 け て 、 間 も 無 く 現 れ る 銀 行 輸 送 員 を 待 っ て い た 。 行 為 者 ら は 、 そ の タ イ ヤ は 五 百 な い し 千 メ ー タ ー 先 で パ ン ク す る の で 、 銀 行 輸 送 員 は 車 を 停 め ざ る を 得 な く な る と え た 。 行 為 者 ら は そ の 自 動 車 の あ と を つ け 、 車 が 停 ま っ た ら 助 け を 装 っ て 近 づ き 、 強 奪 し よ う と す る つ も り だ っ た と い う 事 案 ︺ で 、 行 為 者 ら は 閾 を 越 え て さ あ 今 や る ぞ と い う 段 階 に 達 し た と し て 未 遂 の 成 立 北研 47 (3-4・ )
を 肯 定 し た 。 し か し 、 本 判 決 は 否 定 的 評 価 を 受 け て い る 。 疑 問 の あ る 規 準 さ あ 今 や る ぞ に 従 っ て も 、 銀 行 輸 送 員 が 現 れ た か 、 停 止 し て い る 自 動 車 に 走 行 し て 近 づ い た と き に 未 遂 を 認 め る べ き で あ る 。 タ イ ヤ に を 開 け た こ と に よ っ て 、 被 害 者 保 護 領 域 へ の 影 響 が 認 め ら れ る も の の 、 時 間 的 密 接 性 が 欠 如 し て い る 。 銀 行 輸 送 員 を 待 っ て い る こ と に よ っ て 遅 滞 な き 続 行 が 妨 げ ら れ て い る の で あ り 、 切 れ 目 が で き て い る 。 被 害 者 の 欠 陥 車 両 に 近 づ く と き に よ う や く 時 間 的 密 接 性 が 認 め ら れ ︶ る と 。 5 性 犯 罪 強 姦 罪 で は 、 行 為 者 が 姦 行 為 ︵ 第 二 行 為 ︶ に 直 ち に 移 行 す る 意 思 で 、 暴 行 又 は 脅 迫 ︵ 第 一 行 為 ︶ に 接 着 す る 行 為 を 行 な う 時 点 で 未 遂 が 成 立 す る 。 共 犯 者 三 人 が 自 動 車 運 転 者 を 打 ち 倒 し 、 女 性 同 乗 者 を 強 姦 す る こ と を 申 し 合 わ せ 、 そ の た め に 自 た ち の 自 動 車 を 被 害 者 の 自 動 車 の 前 を 横 切 ら せ 、 被 害 者 の 自 動 車 を 道 路 の 側 溝 に 落 と さ せ 、 停 車 中 の 被 害 者 自 動 車 に 近 寄 り 、 戸 を 無 理 や り 引 っ 張 り 、 被 害 者 ら に 近 寄 る た め に 窓 を 打 ち 割 ろ う と し た と き 、 未 遂 が 成 立 ︶ す る 。 共 犯 者 ら の 行 為 は 全 体 と し て 専 ら 実 行 行 為 に 向 け ら れ 、 熟 慮 時 間 も 無 く 今 実 行 し よ う と し て い る か ら で ︶ あ る 。 強 姦 致 傷 罪 に つ い て 、 最 決 昭 和 四 五 ・ 七 ・ 二 八 刑 集 二 四 ・ 七 ・ 五 八 五 は 、 原 判 決 な ら び に そ の 維 持 す る 第 一 審 判 決 の 各 判 示 に よ れ ば 、 被 告 人 は 、 昭 和 四 三 年 一 月 二 六 日 午 後 七 時 三 〇 頃 、 ダ ン プ カ ー に 友 人 の 甲 を 同 乗 さ せ 、 と も に 女 性 を 物 色 し て 情 を 結 ぼ う と の 意 図 の も と に 防 府 市 内 を 徘 徊 走 行 中 、 同 市 八 王 子 一 丁 目 付 近 に さ し か か っ た 際 、 一 人 で 通 行 中 の 乙 ︵ 当 時 二 三 歳 ︶ を 認 め 、 車 に 乗 せ て や ろ う 等 と 声 を か け な が ら 約 一 〇 〇 メ ー ト ル 尾 行 し た も の の 、 相 手 に さ れ な い こ と に い ら 立 っ た 甲 が 下 車 し て 、 同 女 に 近 づ い て い く の を 認 め る と 、 付 近 の 同 市 佐 波 一 丁 目 赤 間 差 北研 47 (3-4・ )
点 西 側 の 空 地 に 車 を と め て 待 ち 受 け 、 甲 が 同 女 を 背 後 か ら 抱 き す く め て ダ ン プ カ ー の 助 手 席 前 ま で 連 行 し て 来 る や 、 甲 が 同 女 を 強 い て 姦 す る 意 思 を 有 す る こ と を 察 知 し 、 こ こ に 甲 と 強 姦 の 意 思 を 相 通 じ た う え 、 必 死 に 抵 抗 す る 同 女 を 甲 と と も に 運 転 席 に 引 き ず り 込 み 、 発 進 し て 同 所 よ り 約 五 、 〇 〇 〇 メ ー ト ル 西 方 に あ る 佐 波 川 大 橋 の 北 方 約 八 〇 〇 メ ー ト ル の 護 岸 工 事 現 場 に 至 り 、 同 所 に お い て 、 運 転 席 内 で 同 女 の 反 抗 を 抑 圧 し て 甲 、 被 告 人 の 順 に 姦 し た が 、 前 記 ダ ン プ カ ー 運 転 席 に 同 女 を 引 き ず り 込 む 際 の 暴 行 に よ り 、 同 女 に 全 治 ま で 約 一 〇 日 間 を 要 し た 左 膝 蓋 部 打 撲 症 等 の 傷 害 を 負 わ せ た と い う の で あ っ て 、 か か る 事 実 関 係 の も と に お い て は 、 被 告 人 が 同 女 を ダ ン プ カ ー の 運 転 席 に 引 き ず り 込 も う と し た 段 階 に お い て す で に 強 姦 に 至 る 客 観 的 な 危 険 性 が 明 ら か に 認 め ら れ る か ら 、 そ の 時 点 に お い て 強 姦 行 為 の 着 手 が あ っ た と 解 す る の が 相 当 で あ り 、 ま た 、 乙 に 負 わ せ た 右 打 撲 症 等 は 、 傷 害 に 該 当 す る こ と 明 ら か で あ っ て ⋮ ⋮ 、 以 上 と 同 趣 旨 の 見 解 の も と に 被 告 人 の 所 為 を 強 姦 致 傷 罪 に あ た る と し た 原 判 断 は 、 相 当 で あ る と 説 示 し て 、 運 転 席 に 引 き ず り 込 む 時 点 に 実 行 の 着 手 を 認 め る 。 本 事 案 に お い て は 、 運 転 席 に 引 き ず り 込 む 時 点 で 、 実 行 行 為 と の 時 間 的 密 接 性 が 認 め ら れ 、 し か も 、 支 障 な く 実 行 行 為 に 移 行 す る 状 態 に あ る の で 、 時 間 的 に そ れ ほ ど 離 れ て い な い 他 所 に 運 転 し て い く 行 為 は 独 立 し た 意 味 を も た ず 、 又 、 被 害 者 保 護 領 域 へ の 影 響 も 既 に 存 在 ︶ す る 。 子 ど も へ の 性 的 陵 辱 に つ き 、 ド イ ツ 連 邦 通 常 裁 判 所 ︵ B G H S t 34 , 6 ︶ は 、 行 為 者 が 、 子 ど も へ の 性 的 行 為 を そ の 意 思 に 反 し て で も 行 な う つ も り の と き 、 所 為 の 決 意 も 固 く 子 ど も を 性 的 行 為 を 行 な う の に 特 に 適 切 な 場 所 へ 連 れ て 行 く や 直 ち に 未 遂 が 成 立 す る と 判 示 し た 。 本 判 決 は 、 同 時 に 、 行 為 者 が 、 性 的 行 為 を 子 ど も の 任 意 性 に か か ら し め 、 子 ど も か ら 拒 絶 さ れ た と き は そ れ を 尊 重 す る つ も り の と き 、 犯 行 現 場 へ 自 動 車 で 連 れ て 行 く 段 階 は 未 遂 で な く 、 所 為 被 害 者 を 誘 惑 し て う ま く い っ た と き に 未 遂 が 成 立 す る と 判 示 し た 。 本 判 決 は 肯 定 的 に 評 価 さ れ る 。 意 思 に 反 す 北研 47 (3-4・ )
る 場 合 は 、 行 為 者 は 目 的 地 に つ い た 後 躊 躇 な く 実 行 に 移 る つ も り で あ り 、 連 れ 去 り に よ っ て 子 ど も は よ く 知 っ て い る 環 境 の 保 護 を 失 い 、 一 歩 一 歩 が 直 接 的 に 結 果 に 繫 が る 。 時 間 的 密 接 性 も 被 害 者 保 護 領 域 連 関 性 も 肯 定 さ れ る 。 こ れ に 対 し て 、 任 意 性 の 場 合 は 、 子 ど も が 協 力 し な い 限 り 、 そ の 保 護 領 域 は 無 傷 で あ り 、 所 為 は そ れ 以 上 進 み 得 な い か ら で ︶ あ る 。 6 犯 行 用 凶 器 ・ 道 具 の 調 達 、 及 び 決 定 的 な 犯 行 前 提 要 件 の 準 備 住 居 侵 入 窃 盗 用 の 金 き り 、 合 鍵 等 の 調 達 、 殺 人 用 の 毒 物 の 調 製 等 は 予 備 に 過 ぎ な い 。 火 災 保 険 金 を 得 る た め に 自 宅 に 放 火 す る と か 、 放 火 用 装 置 を 取 り 付 け る が 、 数 日 後 に 作 動 さ せ る 予 定 の と き 、 時 間 的 密 接 性 が 欠 如 し て い る た め 、 放 火 予 備 に 過 ぎ ︶ な い 。 7 犯 行 現 場 に 行 き 、 目 立 た な い よ う に そ こ に と ど ま る 犯 行 現 場 に 向 け て 走 行 す る の は 一 般 に 予 備 で ︶ あ る 。 犯 行 現 場 に い る こ と も 被 害 者 保 護 領 域 に 影 響 を 及 ぼ し 始 め な い 限 り 予 備 で あ る 。 例 え ば 、 銀 行 強 盗 を 働 く つ も り で 銀 行 に 乗 り 付 け る が 、 ま だ 凶 器 を 持 ち 出 し て お ら ず 、 覆 面 も し て い な い 段 階 は ま だ 予 備 で ︶ あ る 。 招 待 客 と し て 招 か れ た が 、 そ こ で 盗 み を 働 こ う と す る 者 は 、 そ の 家 に 入 っ た だ け で は ま だ 未 遂 で は な い 。 し か し 、 住 居 侵 入 窃 盗 を 働 こ う と す る 者 は こ の 行 動 の 開 始 時 点 が 未 遂 で ︶ あ る 。 行 為 者 両 名 が 店 舗 経 営 者 か ら 強 奪 し よ う と し て 、 当 該 店 舗 に 入 っ た 後 注 意 を そ ら す た め に 偽 装 売 買 の 話 を 始 め 、 戸 の 錠 を か け 、 そ の 結 果 、 被 害 者 は 誰 か に 助 け を 求 め る こ と も で き ず 、 お 金 を 持 っ て 外 に 逃 げ る こ と も で き な い よ う に な り 、 こ の 段 階 で 、 行 為 者 は 直 ち に 強 奪 す る つ も り の ︶ と き 、 閉 じ 込 め た と き に 被 害 者 の 保 護 の 低 下 が 見 ら れ 被 害 者 保 護 領 域 へ の 影 響 が あ り 、 時 間 的 接 着 性 に も 問 題 が 無 い の で 、 未 遂 が 成 立 ︶ す る 。 北研 47 (3-4・ )
8 偵 察 活 動 及 び 犯 行 機 会 窺 い 後 に 行 う 犯 行 の た め に 偵 察 を す る ︵ 例 え ば 、 銀 行 の 前 で 見 張 っ て 、 現 金 輸 送 車 の 発 着 時 間 を 探 知 す る ︶ と か 、 犯 行 の 機 会 を 窺 う の は 、 所 為 行 為 が ず っ と 後 で 行 な わ れ る 予 定 で あ る 以 上 、 予 備 に と ど ま る 。 こ れ に 対 し て 、 所 為 行 為 を す ぐ に 行 な う つ も り の と き は 、 被 害 者 保 護 領 域 へ の 影 響 が 見 ら れ る な ら ば 、 未 遂 で あ る 。 例 え ば 、 掏 り を 働 く つ も り で 混 雑 し て い る 列 車 の 中 に 押 し 入 っ て も 、 列 車 の 中 に 入 る こ と 自 体 は 社 会 的 に 許 さ れ て い る こ と で あ る か ら 、 時 間 的 接 着 性 は あ る も の の 、 被 害 者 保 護 領 域 へ の 影 響 が 見 ら れ ず 、 未 遂 で は ︶ な い 。 犯 行 の 機 会 を 窺 っ て も 、 そ の 後 の 所 為 行 為 が 被 害 者 の 自 由 な 意 思 決 定 に 依 存 す る と き 、 例 え ば 、 エ イ ズ に か か っ て い る 者 が そ れ を 秘 匿 し て 相 手 方 に 性 渉 の 希 望 を 述 べ る の は 、 ま だ 予 備 で ︶ あ る 。 9 同 行 、 追 尾 適 当 な 場 所 、 適 当 な 頃 合 を 見 て 強 奪 し よ う と し て 、 被 害 者 に 同 行 し た り 、 追 尾 す る 行 為 が 問 題 と な る 。 例 え ば 、 強 盗 の 意 思 で 、 居 酒 屋 で 酩 酊 状 態 に あ っ て 金 の あ り そ う な 被 害 者 を 近 く の 駅 ま で 案 内 す る と い っ て 近 寄 っ た と き 、 居 酒 屋 を 出 た ら す ぐ に 強 奪 す る つ も り の と き に は 、 同 行 し た 時 点 で 未 遂 が 成 立 す る が 、 後 で 適 当 な 場 所 、 適 当 な こ ろ あ い を 見 て 強 奪 す る つ も り の と き は 、 同 行 開 始 時 点 で は ま だ 予 備 で あ る 。 追 尾 の 場 合 、 行 為 者 が 強 盗 の 適 切 な 機 会 が 到 来 し た と え 、 実 行 行 為 に 出 よ う と し て 引 き 続 き 被 害 者 を 追 尾 す る 行 為 、 例 え ば 、 今 強 奪 し よ う と 被 害 者 め が け て 走 り 寄 る と き に 初 め て 未 遂 が 成 立 ︶ す る 。 東 京 地 判 昭 和 三 九 ・ 五 ・ 九 判 時 三 七 六 は 、 ︹ 被 告 人 は 甲 女 を 身 代 金 略 取 誘 拐 し よ う と し て 、 被 害 者 の 自 動 車 を 七 キ ロ メ ー ト ル ほ ど 自 動 車 で 追 尾 し た が 、 停 車 さ せ る 機 会 が 無 か っ た と い う 事 案 ︺ に お い て 、 相 手 の 車 を 停 め る た め そ の 前 に 出 よ う と し た と す れ ば 、 そ の と き に 実 行 の 着 手 が あ る が 、 本 件 で は そ こ ま で 至 っ て い な い の で 誘 拐 罪 の 未 遂 は 成 立 し な い と 判 示 し た 。 北研 47 (3-4・ )
以 上 、 犯 行 態 様 別 に 検 討 し た が 、 実 行 行 為 や 実 行 行 為 に 接 着 す る 行 為 が 、 一 般 的 経 験 的 知 識 か ら す る と 、 既 遂 の 構 成 要 件 を 実 現 す る の に は ま っ た く 向 い て い な い と か 、 社 会 的 相 当 性 の 範 囲 を 逸 脱 し て い な い 場 合 が あ る が 、 こ れ ら の 場 合 、 行 為 の 客 観 的 帰 属 が 否 定 さ れ 、 不 処 罰 で あ る ︵ 下 記 参 照 ︶ 。 ︵ つ づ く ︶ 注 ︶ F u ch s, (F n . 45 ), 29 . K a p R n 22 , 26 .; W es se ls /B eu lk e , (F n . 28 ), 14 R n 59 9. 単 純 行 為 犯 に つ い て 、 未 遂 の 存 在 を 肯 定 す る 説 に 、 山 中 ︵ 注 ︶ 七 〇 三 頁 、 野 村 ︵ 注 ︶ 一 一 一 頁 。 未 遂 の 存 在 を 否 定 す る 説 に 、 大 塚 仁 刑 法 概 説 ︵ 論 ︶ [ 第 四 版 ] 二 〇 〇 八 年 ・ 二 五 四 頁 、 川 端 ︵ 注 ︶ 四 六 七 頁 。 窃 盗 罪 に お け る 窃 取 行 為 は 不 法 領 得 の 意 思 で 他 人 の 占 有 を 直 接 侵 害 す る こ と に 向 け ら れ た 行 為 で あ る 。 例 え ば 、 店 舗 窃 盗 の 場 合 、 量 販 店 で 支 払 い 意 思 も な く 品 物 を 持 参 の 買 い 物 袋 に 隠 し 入 れ よ う と す る 行 為 が 実 行 行 為 で あ り 、 買 い 物 袋 に 入 れ た と き に 既 遂 と な る 。 こ の 段 階 で 、 当 該 品 物 が 多 人 の 占 有 を 離 れ 、 自 己 の 占 有 に 移 転 し た か ら で あ る 。 参 照 、 東 京 高 判 平 成 四 ・ 一 〇 ・ 二 八 判 タ 八 二 三 ・ 二 五 二 ︹ 被 告 人 は 、 量 販 店 内 に お い て 食 料 品 な ど 三 五 点 ︵ 時 価 六 七 〇 〇 円 相 当 ︶ を 買 い 物 籠 に 入 れ た 後 、 レ ジ を 通 過 し な い で 、 そ の 脇 の パ ン 棚 の 脇 か ら 買 い 物 籠 を レ ジ の 外 側 に 持 ち 出 し 、 店 内 の カ ウ ン タ ー 台 の 上 に 置 き 、 商 品 を 籠 の 中 か ら 取 り 出 し て ビ ニ ー ル 袋 に 入 れ よ う と し た 際 に 、 店 員 に 取 り 押 さ え ら れ た と い う 事 案 ︺ 以 上 の 事 実 関 係 の 下 に お い て は 、 被 告 人 が レ ジ で 代 金 を 支 払 わ ず に 、 そ の 外 側 に 商 品 を 持 ち 出 し た 時 点 で 、 商 品 の 占 有 は 被 告 人 に 帰 属 し 、 窃 盗 は 既 遂 に 達 す る と 解 す べ き で あ る 。 な ぜ な ら 、 右 の よ う に 、 買 物 か ご に 商 品 を 入 れ た 犯 人 が レ ジ を 通 過 す る こ と な く そ の 外 側 に 出 た と き は 、 代 金 を 支 払 っ て レ ジ の 外 側 へ 出 た 一 般 の 買 物 客 と 外 観 上 区 別 が つ か な く な り 、 犯 人 が 最 終 的 に 商 品 を 取 得 す る 蓋 然 性 が 飛 躍 的 に 増 大 す る と え ら れ る か ら で あ る 。 ︶ F u ch s , (F n . 45 ), 29 . K a p R n 23 .; R . M oo s , A m a lie u n d d er K ra u te rl ik o r, in : D . K ie n ap fe l (H rs g .), F a lle u n d L o su n g en z u m S tr a fr ec h t, 19 82 , 38 f f., 53 . ︶ F u ch s , (F n . 45 ), 29 . K a p R n 24 f .; K ie n ap fe l/ H op fe l, (F n . 44 ), Z 21 R n 19 .; R u d ol ph i, (F n . 28 ), 22 R n 7a .; E se r , (F n . 28 ), 22 R n 37 . こ れ に 対 し て 、 イ エ シ ェ ッ ク 、 ヴ ァ イ ゲ ン ト ︵Je sc h ec k / W ei ge n d , (F n . 16 ), 49 I V 4 ︶ は 、 最 初 の 構 成 要 件 該 当 行 為 が 行 な 北研 47 (3-4・ )
わ れ た と き に 未 遂 を 認 め る 。 詐 欺 罪 の 場 合 も 、 一 連 の 欺 く 行 為 が あ っ た と き 、 ど の 行 為 を も っ て 実 行 行 為 と 見 る か が 問 題 と な る が 、 財 産 処 行 為 に 直 接 的 影 響 を 及 ぼ す 最 後 の 欺 く 行 為 を 実 行 行 為 と 解 す べ き で あ る 。 か か る 行 為 が 行 な わ れ る と 、 財 産 的 処 行 為 に 繫 が る そ の 後 の 行 為 が 支 障 な く 行 な わ れ る う る か ら で あ る 。 例 え ば 、 後 に 工 作 し て 金 銭 を 詐 取 す る 目 的 で 、 先 ず 、 預 金 機 関 で 偽 名 を 用 い て 預 金 口 座 を 開 設 す る の は 、 欺 く 行 為 と は い え て も 、 ま だ 実 行 行 為 と は い え な い 。V g l. B . B u rk h ar d t, V o rs p ie g el u n g v o n T a ts a ch en a ls V o rb er ei tu n g sh a n d -lu n g zu m B et ru g , N JW 19 82 , 42 6 ff .; M . K ar ol lu s , Z u m V er su ch sb eg in n b ei m B et ru g , JB l 1 98 9, 62 7 ff .; W . K u pe r , T ei lv er w ir k li-ch u n g d es T a tb es ta n d es : ei n K ri te ri u m d es V er su ch s? , JZ 1 99 2, 33 8 ff . 構 成 要 件 該 当 行 為 と 実 行 行 為 を 同 一 と 見 る 立 場 か ら 、 詐 欺 未 遂 の 成 立 を 否 定 し た 判 例 に 、O L G K a rl sr u h e N JW 19 82 , 59 ︵ 被 告 人 甲 ︵ 女 性 ︶ は 歩 行 者 乙 ︵ 女 性 ︶ に 声 を 掛 け て 、 乙 に 巧 み に 取 り 入 る た め に 、 自 た ち は 親 族 関 係 に あ る よ う に 見 せ か け た 。 甲 は 乙 の 住 ま い に 一 緒 に 行 き 、 返 却 す る つ も り も 無 い の に 乙 か ら 借 金 す る つ も り だ っ た 。 し か し 、 そ の 挙 動 に 不 審 な と こ ろ が あ っ た の で 、 甲 は 路 上 で 逮 捕 さ れ た と い う 事 案 。 上 級 裁 判 所 は 、 被 害 者 の 信 頼 を 得 る の に 役 立 つ 欺 行 為 は 詐 欺 罪 の 意 味 で の 構 成 要 件 該 当 の 欺 で は な く 、 被 害 者 の 財 産 処 行 為 を 直 接 惹 起 す る 行 為 が 構 成 要 件 該 当 の 欺 行 為 だ と 論 じ て 、 本 事 案 で は 予 備 に と ど ま る と 判 示 し た ︶ 。 V og le r , (F n . 28 ), 22 R n 35 a 構 成 要 件 の 部 実 現 が あ れ ば 未 遂 が 成 立 す る と い う 原 則 を 維 持 し た 上 で 、 詐 欺 罪 の 処 行 為 と い う の は 、 被 害 者 の 財 産 処 行 為 に 向 け ら れ て お ら ね ば な ら な い か ら 、 先 ず 信 頼 関 係 の 構 築 に 向 け ら れ た に す ぎ な い 行 為 は 構 成 要 件 特 有 ︵ ta tb es ta n d ss p ez if is ch ︶ の も の と は い え な い 。 B G H S t 3 7, 29 4 刑 法 第 二 六 三 条 の 意 味 で の 欺 は 、 行 為 者 が 被 欺 者 に 財 産 処 行 為 を さ せ る 錯 誤 を 生 じ さ せ る 行 為 を し た と き に 初 め て 認 め ら れ る 。 こ れ に 対 し て 、 構 成 要 件 該 当 行 為 と 実 行 行 為 は 必 ず し も 一 致 し な い と す る 立 場 か ら 、 詐 欺 未 遂 の 成 立 を 否 定 し た 判 例 に 、 B a y O b L G -S t 9 ,6 5 行 為 者 の 決 意 が 一 気 呵 成 に 行 為 を す る の で な く 、 行 為 を 時 間 的 に け て す る 、 つ ま り 、 犯 罪 の 意 思 を け て 実 現 す る こ と に 向 け ら れ て い る と き 、 行 為 者 の 決 意 は 、 結 果 の た め に 、 犯 罪 の 目 的 を 達 成 す る た め に 役 立 ち 、 不 可 欠 で あ る か も し れ な い 行 為 に 続 い て 、 結 果 の 招 来 の た め に 必 要 な 他 の 行 為 を 行 な う こ と に 向 か っ て い る 。 し か し 、 こ の 種 の 事 例 に お い て は 、 結 果 の 招 来 の た め に 必 要 な 行 為 が 後 続 し な け れ ば な ら な い 行 為 は 最 後 の 行 為 の 予 備 に す ぎ な い 、 こ れ こ そ が 結 果 を 、 概 念 全 体 と し て の 犯 罪 構 成 要 件 を 惹 起 す る の で あ る 。 上 述 の よ う な 事 例 で は 、 可 罰 的 未 遂 の 成 立 を 肯 定 す る に は 、 行 為 者 が 一 つ の 構 成 要 件 要 素 、 例 え ば 、 刑 法 第 二 六 三 条 の 意 味 で の 錯 誤 の 惹 起 と い う 要 素 を 実 現 し た と い う こ と だ け で は 充 で な い 。 B G H S t 31 , 17 8. ︶ R u d ol ph i, (F n . 28 ), 22 R n 18 .; R ox in , (F n . 3) , 29 R n 11 4.; K u h l, (F n . 74 ), 15 R n 50 .; W es se ls /B eu lk e , (F n . 28 ), R n 60 7.; E se r , 北研 47 (3-4・ )
(F n . 28 ), 22 R n 38 . 最 判 昭 和 五 四 ・ 一 二 ・ 二 五 刑 集 三 三 ・ 七 ・ 一 一 〇 五 ︹ 被 告 人 は 拘 置 所 の 収 容 房 の 換 気 孔 周 辺 の モ ル タ ル 部 を 損 壊 し た が 、 脱 出 可 能 な を 開 け る こ と が で き な か っ た と い う 事 案 ︺ は 、 職 権 に よ り 判 断 す る と 、 刑 法 九 八 条 の い わ ゆ る 加 重 逃 走 罪 の う ち 拘 禁 場 又 は 械 具 の 損 壊 に よ る も の に つ い て は 、 逃 走 の 手 段 と し て の 損 壊 が 開 始 さ れ た と き に は 、 逃 走 行 為 自 体 に 着 手 し た 事 実 が な く と も 、 右 加 重 逃 走 罪 の 実 行 の 着 手 が あ る も の と 解 す る の が 相 当 で あ る 。 こ れ を 本 件 に つ い て み る と 、 原 判 決 の 認 定 に よ れ ば 、 被 告 人 ほ か 三 名 は 、 い ず れ も 未 決 の 囚 人 と し て 戸 拘 置 支 所 第 三 舎 第 三 一 房 に 収 容 さ れ て い た と こ ろ 、 共 謀 の う え 、 逃 走 の 目 的 を も っ て 、 右 三 一 房 の 一 隅 に あ る 所 の 外 部 中 側 が 下 見 板 張 り で 内 側 が モ ル タ ル 塗 り の 木 造 の 房 壁 ︵ 厚 さ 約 一 四 二 セ ン チ メ ー ト ル ︶ に 設 置 さ れ て い る 換 気 孔 ︵ 縦 横 各 一 三 セ ン チ メ ー ト ル で 、 パ ン チ ン グ メ タ ル が 張 ら れ て い る 。 ︶ の 周 辺 の モ ル タ ル 部 ︵ 厚 さ 約 一 二 セ ン チ メ ー ト ル ︶ 三 か 所 を 、 ド ラ イ バ ー 状 に 研 い だ 鉄 製 の 蝶 番 の 芯 棒 で 、 最 大 幅 約 五 セ ン チ メ ー ト ル 、 最 長 約 一 三 セ ン チ メ ー ト ル に わ た っ て 削 り 取 り 損 壊 し た が 、 右 房 壁 の 芯 部 に 木 の 間 柱 が あ っ た た め 、 脱 出 可 能 な を 開 け る こ と が で き ず 、 逃 走 の 目 的 を 遂 げ な か っ た 、 と い う の で あ り 、 右 の 事 実 関 係 の 下 に お い て 刑 法 九 八 条 の い わ ゆ る 加 重 逃 走 罪 の 実 行 の 着 手 が あ っ た も の と し た 原 審 の 判 断 は 、 正 当 で あ る と 判 示 し て 、 損 壊 の 開 始 時 に 未 遂 の 成 立 を 肯 定 し た 。 し か し 、 行 為 者 の 計 画 に よ れ ば 、 損 壊 行 為 に 続 い て 直 ち に 逃 走 す る つ も り の と き に 限 っ て 、 損 壊 行 為 時 に 未 遂 が 成 立 す る と 解 す べ き で あ る 。 詐 欺 罪 の 場 合 に も 、 一 連 の 欺 く 行 為 が あ っ た と き 、 ど の 行 為 を も っ て 実 行 行 為 と 見 る か が 問 題 と な る が 、 財 産 処 行 為 に 決 定 的 影 響 の あ っ た 欺 く 行 為 が 実 行 行 為 と 解 す べ き で あ る こ と に つ い て 、 上 記 注 参 照 。 ︶ B G H N S tZ 1 99 8, 29 4 [ 爆 発 物 の 罠 事 件 ] ︵ 行 為 者 は 、 発 進 時 に 爆 発 す る よ う に 自 動 車 二 台 に 相 次 い で 手 榴 弾 を 仕 掛 け た が 、 手 榴 弾 は 爆 発 前 に 発 見 さ れ た と い う 事 案 。 手 榴 弾 を 仕 掛 け た 時 点 に 謀 殺 未 遂 が 成 立 ︶ 。 B G H N S tZ 20 01 , 47 5 [ 電 流 の 罠 事 件 ] ︵ 行 為 者 が 転 出 す る と き 、 次 の 転 入 者 が 電 燈 を つ け た ら 死 ぬ よ う に コ ン セ ン ト を 細 工 し た と い う 事 案 。 コ ン セ ン ト を 細 工 し た 時 点 に 謀 殺 未 遂 が 成 立 ︶ 。 ︶ 大 判 大 正 七 ・ 一 一 ・ 一 六 刑 録 二 四 ・ 一 三 五 二 [ 毒 入 り 砂 糖 郵 送 事 件 ] ︹ 被 告 人 は 殺 害 す る 目 的 で 毒 薬 混 入 の 砂 糖 を 被 害 者 宛 て に 小 包 郵 で 送 付 し た 。 小 包 は 被 害 者 方 に 配 達 さ れ 、 被 害 者 が こ れ を 受 領 し た が 、 毒 薬 混 入 の 事 実 に 気 づ き こ れ を 食 す る に 至 ら な か っ た と い う 事 案 。 殺 人 未 遂 罪 成 立 ︺ は 、 他 人 カ 食 用 ノ 結 果 中 毒 死 ニ 至 ル コ ト ア ル ヘ キ ヲ 予 見 シ ナ カ ラ 毒 物 ヲ 其 飲 食 シ 得 ヘ キ 状 態 ニ 置 キ タ ル 事 実 ア ル ト キ ハ 是 レ 毒 殺 行 為 ニ 著 手 シ タ ル モ ノ ニ 外 ナ ラ サ ル モ ノ ト ス 原 判 示 ニ 依 レ ハ 被 告 ハ 毒 薬 混 入 ノ 砂 糖 ヲ 甲 ニ 送 付 ス ル ト キ ハ 甲 又 ハ 其 家 族 ニ 於 テ 之 ヲ 純 粋 ノ 砂 糖 ナ リ ト 誤 信 シ テ 之 ヲ 食 用 シ 中 毒 死 ニ 至 ル コ ト ア ル ヲ 予 見 セ シ ニ 拘 ラ ス 猛 毒 薬 昇 汞 一 封 度 ヲ 白 砂 糖 一 北研 47 (3-4・ )
斤 ニ 混 シ 其 一 匙 ︵ 十 グ ラ ム ︶ ハ 人 ノ 致 死 量 十 五 倍 以 上 ノ 効 力 ア ル モ ノ ト 為 シ 歳 暮 ノ 贈 品 タ ル 白 砂 糖 ナ ル カ 如 ク 装 ヒ 小 包 郵 ニ 付 シ テ 之 ヲ 甲 ニ 送 付 シ 同 人 ハ 之 ヲ 純 粋 ノ 砂 糖 ナ リ ト 思 惟 シ 受 領 シ タ ル 後 調 味 ノ 為 メ 其 一 匙 ヲ 薩 摩 煮 ニ 投 シ タ ル 際 毒 薬 ノ 混 入 シ 居 ル コ ト ヲ 発 見 シ タ ル 為 メ 同 人 及 其 家 族 ハ 之 ヲ 食 ス ル ニ 至 ラ サ リ シ 事 実 ナ ル ヲ 以 テ 右 毒 薬 混 入 ノ 砂 糖 ハ 甲 カ 之 ヲ 受 領 シ タ ル 時 ニ 於 テ 同 人 又 ハ 其 家 族 ノ 食 用 シ 得 ヘ キ 状 態 ノ 下 ニ 置 カ レ タ ル モ ノ ニ シ テ 既 ニ 毒 殺 行 為 ノ 著 手 ア リ タ ル モ ノ ト 云 フ ヲ 得 ヘ キ コ ト 上 文 説 明 ノ 趣 旨 ニ 照 シ 寸 毫 モ 疑 ナ キ 所 ナ リ と 判 示 し て 、 未 遂 の 成 立 時 期 に つ い て 到 着 時 説 を 採 用 し た 。 宇 都 宮 地 判 昭 和 四 〇 ・ 一 二 ・ 九 下 刑 集 七 ・ 一 二 ・ 二 一 八 九 [ 毒 入 り ジ ュ ー ス 散 配 置 事 件 ] ︹ 被 告 人 は 、 及 び 家 族 兄 弟 が 日 常 通 行 す る 農 道 の 道 端 に 毒 入 り ジ ュ ー ス 六 本 を 散 配 置 し 、 同 人 ら に 取 得 飲 用 さ せ て 殺 害 し 、 自 ら も 飲 用 し て 自 殺 す る 一 家 心 中 を 企 て た と こ ろ 、 翌 朝 、 同 所 を 通 行 し た 近 隣 の 児 童 等 三 名 が 拾 得 し て 自 宅 で 飲 用 し た た め 、 こ れ を 死 亡 さ せ た と い う 事 案 ︺ も 、 当 裁 判 所 と し て は 、 行 為 が 結 果 発 生 の お そ れ あ る 客 観 的 状 態 に 至 っ た 場 合 、 換 言 す れ ば 保 護 客 体 を 直 接 危 険 な ら し め る 法 益 侵 害 に 対 す る 現 実 的 危 険 性 を 発 生 せ し め た 場 合 を も っ て 実 行 の 着 手 が あ っ た と 解 す る 、 毒 入 り ジ ュ ー ス の 配 置 を も っ て 尊 属 殺 お よ び 普 通 殺 人 の 各 予 備 行 為 と 解 し ⋮ ⋮ た だ 本 件 被 害 者 ら に よ っ て 右 ジ ュ ー ス が 拾 得 飲 用 さ れ る 直 前 に 普 通 殺 人 に つ い て 実 行 の 着 手 が あ り ⋮ ⋮ 殺 害 に よ っ て 普 通 殺 人 罪 が 既 遂 に 達 し こ れ と 尊 属 殺 人 の 予 備 と は 観 念 的 競 合 と な る と し て 、 到 達 時 説 を 採 用 し た 。 た だ し 、 発 送 時 説 を 採 用 し た と 見 ら れ る 下 級 審 判 例 も 見 ら れ る 。 東 京 高 判 昭 和 四 二 ・ 三 ・ 二 四 高 刑 集 二 〇 ・ 三 ・ 二 二 九 [ 宛 名 書 き 換 え 事 件 ] ︵ 郵 物 区 業 務 に 従 事 し て い た 被 告 人 が 、 郵 物 在 中 の 現 金 、 郵 切 手 、 雑 誌 等 を 領 得 す る 意 図 で 、 郵 物 の 宛 名 を 被 告 人 の 住 居 で あ る 所 番 地 の 同 姓 虚 無 人 に 書 き 換 え て 郵 物 区 棚 に 差 し 置 き 、 情 を 知 ら な い 配 達 担 当 者 に そ れ を 配 達 さ せ て 窃 取 し よ う と し た 事 案 に お い て 、 自 宅 に 配 達 さ れ た 部 に つ い て は 窃 盗 罪 の 既 遂 が 、 上 司 に 怪 し ま れ て 配 達 さ れ な か っ た 郵 物 に つ い て は 窃 盗 罪 の 未 遂 が 成 立 す る ︶ 。 最 判 昭 和 二 七 ・ 一 一 ・ 一 一 裁 判 集 刑 事 六 九 ・ 一 七 五 ︵ 鉄 道 手 荷 物 の 荷 札 を 係 員 不 知 の 間 に も ぎ 取 り 、 こ れ を 被 告 人 方 に 輸 送 さ せ る よ う に し た 荷 札 に 付 替 え 、 輸 送 さ せ た と い う 事 案 に お い て 、 輸 送 中 の 荷 物 に つ き 、 窃 盗 未 遂 罪 が 成 立 す る ︶ 。 離 隔 犯 に つ き 、 到 達 時 説 に 、 内 藤 ︵ 注 60 ︶ 一 二 四 二 頁 間 接 正 犯 ・ 離 隔 犯 の 実 行 の 着 手 は 、 被 利 用 者 の 行 為 に よ っ て 既 遂 結 果 発 生 の 危 険 が 生 じ た と き 。 浅 田 ︵ 注 62 ︶ 三 七 一 頁 、 三 七 五 頁 は 、 実 行 行 為 ︵ 構 成 要 件 該 当 行 為 ︶ が あ り 、 か つ 、 結 果 発 生 の 実 質 的 危 険 の 発 生 し た 場 合 に の み 、 未 遂 犯 が 成 立 す る と し て 、 実 行 行 為 と 実 行 行 為 の 着 手 を け る 立 場 か ら 、 発 送 行 為 は 実 行 行 為 で あ る が 、 相 手 方 に 到 達 し 、 被 害 者 が 食 用 に 供 し よ う と し た 時 点 に 実 行 の 着 手 を 認 め 、 こ の 時 点 で 未 遂 の 成 立 を 認 め る 。 佐 伯 千 刑 法 講 義 論 [ 三 訂 版 ] 一 九 七 七 年 ・ 三 〇 六 頁 は 、 実 行 行 為 は 託 送 し た と き に 終 了 し て い る が 、 可 罰 的 未 遂 が 成 立 す る た め に は 、 託 送 行 為 の ほ か さ ら に 結 果 発 生 の 危 険 の 具 体 化 が 必 要 な の で は な い か と い う 未 遂 の 違 法 性 の 実 質 ︵ 可 罰 的 違 法 性 ︶ が 問 題 だ と 論 ず る 。 宮 孝 明 刑 北研 47 (3-4・ )