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Microsoft Word 推進財団 Web資料( )健康調査・岩手新潟・愛知・福岡.docx

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8020健康調査

研究報告

平成 25 年 3 月

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人々の健康長寿のために歯科専門家ができること 鶴見大学歯学部探索歯学講座教授 花田信弘 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1 「高齢者の口腔保健と全身的な健康状態の関係についての総合的研究」 4県の健診概要一覧(岩手県・新潟県・愛知県・福岡県)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 2 4県別の報告詳細編 《岩手県における調査》 岩手医科大学歯学部口腔医学講座予防歯科学分野准教授 岸 光男 ・・・・・・・・・・・・・・・・ 5 《新潟県における調査》 新潟大学大学院医歯学総合研究科予防歯科学分野教授 宮崎秀夫 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 10 《愛知県における調査》 愛知学院大学歯学部口腔衛生学講座准教授 加藤一夫 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 15 《福岡県における調査》 九州歯科大学保健医療フロンティア科学分野教授 安細敏弘 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 20

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人々の健康長寿のために歯科専門家ができること

1997年から岩手県、福岡県、愛知県、新潟県で実施した「高齢者の口腔保健と 全身的な健康状態の関係についての総合的研究」のエビデンス(科学的根拠) 鶴見大学歯学部探索歯学講座教授 (元厚生労働省国立感染症研究所口腔科学部長、 元国立保健医療科学院口腔保健部長) 花田信弘 人々の願いは平和な社会と健康長寿です。健康長寿に対して8020運動はどのよ うに役立つのでしょうか。また、歯科専門家が健康長寿に対してできることは何でし ょうか。それを調べるために私たちは70歳および80歳高齢者の調査を1997年 から継続的に行いました。長期にわたる調査の結果、人々の健康長寿のために歯と口 腔の健康はさまざまな形で貢献をしていることがわかりました。 厚生労働省と日本歯科医師会が推進している「80歳になっても20本以上自分の 歯を保とう」という8020運動は、人類が寿命を自己制御し延長するために到達し た英知の一つです。たとえば、2000枚のパノラマⅩ線写真から判明した事は、歯 が抜けると下顎骨(下あごの骨)の骨質が低下することです。骨質の低下は、顎の神 経が骨からはみ出て粘膜直下に露出する原因になり、食事ができなくなります。それ だけ で も歯 を 残す 事 は大 切 であ る こと が わか り ます 。 他に も 歯の 健 康と 細 菌の 影 響 (歯原性菌血症による全身の血管の老化)や低タンパク血症(咀嚼と栄養の関係)が 示されています。特筆すべき事は歯と運動との関係です。噛み合わせの崩壊と身体運 動機能に関連がある事が本研究で示されました。歯を多数失うことで噛み合わせが崩 壊しますから、高齢になって運動機能を保つためには歯の健康維持が必要なのです。 従来、世界保健機関(WHO)や厚生労働省は生活習慣病を予防し、健康長寿を達 成する手段として、栄養と運動、特に栄養に焦点を当てて国民運動を推進してきまし た。しかし、歯の健康の重要性にも少しずつ目を向けて西暦2000年から始まった 第三次国民健康づくり運動(健康日本21)から重点9項目の一つに歯の健康を採用 しています。 岩手県、福岡県、愛知県、新潟県で実施した「高齢者の口腔保健と全身的な健康状態 の関係についての総合的研究」のエビデンスは、栄養、運動および歯の健康の3つが 生活習慣病に共通する健康因子(危険因子)であることを示しています。8020運

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2 「高齢者の口腔保健と全身的な健康状態の関係についての総合的研究」 「高齢者の口腔保健と全身的な健康状態の関係についての総合的研究」 「高齢者の口腔保健と全身的な健康状態の関係についての総合的研究」 「高齢者の口腔保健と全身的な健康状態の関係についての総合的研究」 4県の 4県の4県の 4県の 健診概要一覧健診概要一覧健診概要一覧健診概要一覧(岩手県・新潟県・愛知県・福岡県)(岩手県・新潟県・愛知県・福岡県)(岩手県・新潟県・愛知県・福岡県)(岩手県・新潟県・愛知県・福岡県) 県名 実施時期と市町村数 対象数 独自の健診項目(共通健診項目は別途) 岩手県 1997 年(平成 9 年) に 9 市町村で実施 対象者総数:814 名 会場健診:666 名 訪問健診:148 名 この研究は岩手県が最初の県である。 そこで、「80 歳健診」でどの様な健診が受容される かの可能性に関して10回程度の会議や実際に施設 入居者に 対して 候補に 挙 がった健 診項目 全てを実 施して、実施可能かどうかの確認を行い、この健診この健診この健診この健診 を基本として他の を基本として他の を基本として他の を基本として他の 3333 県の共通健診項目の確定とし県の共通健診項目の確定とし県の共通健診項目の確定とし県の共通健診項目の確定とし た た た た。 新潟県 1998 年(平成 10 年) に新潟市で実施 対象者総数:763 名 全て会場健診 80 歳:163 名 70 歳:600 名 1.口臭測定 2.食事調査 3.階段昇降測定(1 年のみ) なお、平成21年からは歯の多い方を対象に、平成 24 年まで毎年 100 名~120 名程度の個別訪問を実 施。居宅での健診項目は「歯科健診」「体力測定」 「生活アンケート」「食事調査」など。また、平成 10年度から「万歩計測定」を依頼し、15年間継続 している計測者もいる。また、毎日の記録が困難な 方には、「春夏秋冬」の 1 週間だけの記録を依頼。 愛知県 1998 年(平成 10 年) に 5 市町村で実施 対象者総数:321 名 会場健診:287 名 訪問健診: 34 名 1.食事嗜好傾向調査 2.デンタルプレスケールシステムによる咬合力 測定調査 3.食品の咀嚼問診調査 4.歩数調査 5.血液中の骨代謝マーカー測定 6.補綴調査 福岡県 1998 年(平成 10 年) に 9 市区町村で実施 対象者総数:824 名 会場健診:697 名 訪問健診:127 名 1.口腔乾燥症 2.脈波検査(85 歳のみ実施) 3.認知機能評価(85 歳のみ)

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3 県名 追跡調査の状況 結果・特長 備 考 岩手県 85歳と90歳も会 場健診を実施 ・高齢者の残存歯数は都市部が平均 7.9 本、近郊が 5.7 本、郊外が 3.1 本であったが、これは地理的、社会的、 歴史的な要素に大きく影響していると考えられる。当 時郊外には歯科医院が殆どなく、都市部まで歯科治療 に行くのは 1 日がかりであり、そのため、虫歯になる 前に健康な歯を抜いたという記録もあり、都市部と郊 外での歯数の差となっている。 ・口も中の状態が良いほど身体能力が高い。 ・8020達成者は「生活の質」(QOL)も高い。 ・80 歳時で 10 本以上の歯がある人は、余命との関連が ある。これは、85 歳、90 歳の追跡調査結果である。 80 歳健診の際に会 場 健 診 が 出 来 な か っ た 人 に 個 別 訪 問 も 実 施 ( 咬 合 力 測 定は 80 歳のみ) 新潟県 平成 10 年当時、 70 歳 の 受 診 者 に 対 し て 毎 年 同 時 期に実施。 11 年間完了後も、 歯 数 の 多 い ラ ン キングで 100 名~ 120名程度の訪問 健診を実施 ・歯が少ない人は野菜類や肉類を食べる頻度が少ない。 また、運動機能の衰えが早くなる。 ・噛み合わせが無くなったら、左右とも奥歯でしっかり 噛み合わせが出来る人に比べ「足の筋力」「敏捷性」 「バランス」が劣る。 ・全身の骨代謝の状態が歯の喪失にも影響している。炎 症マーカーに上昇がみられると、不整脈発症のリスク となる。 会 場 健 診 を 毎 年 実 施 す る と 、 加 齢 に よ り 年 々 参 加 者 が 減少するが、11 年 間 の 推 移 で は 当 初 600 名 ⇒ 最 終 年 に 348 名 の 協 力 を 得 た 愛知県 該当なし ・パノラマⅩ線(レントゲンバス内で撮影)写真から、 下顎骨(下あごの骨)の骨質低下(骨の質の低下)は、 骨の形成速度と関連している事が明らかになった。 ・咬合力(噛む力)を測るため、口の大きさに合わせた フィルム状のシートを入れ、実際に噛んでもらい、その シートから発色 した状態 で噛む力を測定 したら、 やは り、歯数の多い程噛む力は大きかった。このことからも 20 歯の保持は大切。 福岡県 80 歳から 5 年後 に追跡調査実施 ・物を良く噛める事が出来るのは、日常生活能力が高い。 また、色々な物を食べる事が出来るのは運動能力、特に 「開眼片足立ち(目を開けて片足で立っている時間が長 い程能力が高い)」「脚伸展パワー(自分と同じ体重を蹴 る力が強い)と言う事。 ・鰻の蒲焼やマグロの刺身等の柔らかいものが食べられ ないと死亡するリスクが高くなる ・歯の数を保ち咀嚼機能(噛む力)を維持する事が直接 長寿に繋がる。 92 歳生存調査と 95 歳 生 存 調 査 を 実 施 。 生 死 の 確 認 と 死亡原因調査

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4県別の報告

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《岩手県における調査》

《岩手県における調査》

《岩手県における調査》

《岩手県における調査》

岩手医科大学歯学部口腔医学講座予防歯科学分野准教授 岸 光男 1.はじめに 1.はじめに 1.はじめに 1.はじめに 「高齢者の口腔の健康と全身的な健康状態の関係についての総合研究」、いわゆる“8020 調 査”は1997年に岩手県での調査を皮切りに始まりました。岩手県は北海道を除けば日本で最も 大きい面積を有する県である反面、人口は県全体で約140万であり、人口密度もまた北海道を 除けば日本で最も低い県でもあります(2013年 1月現在、東京 6,038人/km 2 に対し、岩手県 85 人/km 2 )。そのような地理的条件のなかで高齢者が調査会場に来ることはとても大変です。 そのため、調査は人口がある程度集中している盛岡市とそこから比較的近い地域に絞って行わ れました(図1)。近いといっても広い県ですから、盛岡市から自動車で2時間近くかかる調査 会場も珍しくありませんでした。 *市町村名は平成9年調査時のもの(平成17年の市町村合併により、玉山村が盛岡市に併合され、西根町と 安代町は松尾村と併せて八幡平市となった)。 図1 岩手県における調査対象地域 また、岩手県では大都市圏に比べて高齢化も加速しています。65歳以上人口の割合、いわゆ る高齢化率は、平成9年の調査時点ですでに20%に迫っており、平成22年現在全国平均の23% に対して約28%に達しています。ですから岩手県は高齢化問題を抱える日本全体の縮図のよう な側面を持っています。そのような地域で初めての調査が行われたことは、この調査の本質的 な意義を象徴しているかもしれません。 1997年の80歳時点で、814名の方のお口の中を調査することができました。岩手県では、そ の後、岩手県歯科医師会を中心に、85歳、90歳と同一対象者に対する追跡調査を行いました。

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6 2.居住地域と残存歯数の関係 2.居住地域と残存歯数の関係 2.居住地域と残存歯数の関係 2.居住地域と残存歯数の関係 図 2 に示すのは、80 歳のときに、お口の中に平均何本歯が残っていたかを示すグラフです。 便宜的に、調査地域を盛岡市、近郊地域、郊外地域に分類しました。郊外といっても、大都市 圏の人がイメージする郊外ではなく、そこに含まれる地域のほとんどは山間部です。図3に示 すように、人口10万対歯科医師数には盛岡市とそれ以外の地域で昔もいまも大きな差がありま す。それでも近郊住民は、盛岡市まで歯科受診に来ることも可能ですが、盛岡以北の郊外地域 では、最近まで、それも難しかったのではないかと思われます。また、郊外地域と盛岡市では 世帯当たりの平均所得額も異なり、郊外地域の方が平均的に低所得です。これもまた歯科受診 を妨げる要因となっていたかもしれません。さらに、周囲に若いうちから歯を抜いて入れ歯に している人が多ければ、自分がそうなることへの抵抗感は少ないかもしれません。このように、 高齢者の歯が残っているかどうかは、全身の健康状態だけでなく、地理的、社会的、歴史的な 要素に大きく影響されると考えられます。 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 盛岡市 近郊 郊外 1 11 1 人 人 人 人 平 平 平 平 均 均 均 均 残 残 残 残 存 存 存 存 歯 歯 歯 歯 数 数 数 数 * * 7.9 5.7 3.1 図2 80歳時点の残存歯数(調査地域別) *統計学的な検定をすると、偶然や誤差とはいえない明らかな差があるという意味です。 図4でも同様です。 図3 岩手県における人口10万対歯科医師数の推移(調査地域別)

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7 3.歯がたくさん残っている人は元気だったか 3.歯がたくさん残っている人は元気だったか 3.歯がたくさん残っている人は元気だったか 3.歯がたくさん残っている人は元気だったか それでは、80歳で歯がたくさん残っていた人は全身の健康状態がよかったのでしょうか。80 歳時点での調査では、岩手・福岡・愛知・新潟4県の結果を併せた分析で、口の中の状態が良 いほど、バランス能力、敏捷性、脚力といった身体能力が高いことが示されました。このよう な客観的な検査項目も大事ですが、近頃は「個人が自分で健康だと感じているか」がとても大 切なことだと考えられるようになり、健診と同時に主観的なQOL(クオリティー・オブ・ライ フ、生活の質)を調査することが多くなりました。80 歳調査でもこれが行われ、咀嚼能力が QOLの向上に寄与していることが示されました。その後の85歳時の調査ではQOL評価を一層 重点的に行い、80歳の時に20本の歯を有するいわゆる8020達成者は健康習慣が確立し、食べ たいものが食べられ、その結果QOLが高いという傾向がみられました。 さらに、90歳の調査では、80歳の時点で歯がなかった人、残っていた人を比較すると、歯が 残っていた人の方が10年後の90歳時点で、新聞に目を通したり自分で書類をかけたりする(知 的能動性が高い)しゃっきりとした人が多いことがわかりました(図4)。これは歯があった方 が、高い生活の質を維持できる可能性を示しています。ちなみに、80 歳から 90 歳の間でどの くらい歯が失われたのかを調べたところ、両時点ともお口の検査を受けた80名で比較した場合、 80歳時点の平均歯数4.7に対して90歳では3.1 と、1人平均で約1.6本が失われていました。 しかし、これはもともとあった28本が80 歳までに4.7歯に減っていたことに比べるとわずか な減少です。また、統計学的にも明らかな差ではありませんでした。このことは、80歳までに はその後のお口の健康状態はある程度決まってしまうことを意味しているのかもしれません。 図4 80歳時点での歯の有無と90歳時点での日常生活活動性の関係 (点数は老研式活動能力指標) 相澤、他.日本口腔衛会誌2009 さて、それではちょっと極端な話になりますが、歯が残っている人は、長生きなのでしょう か?これについても研究参加者から貴重な資料をいただき、分析しました。平均寿命について は、男女でかなり違う(女性の方が7年ほど長い)ので、男女別に、80歳からの余命に関わる 要因を検討しました。その結果、女性では、BMI(体重(㎏)÷身長(m)÷身長(m)で、 25以上が肥満、18.5~25未満が普通、18.5未満はやせ)や血圧といった生活習慣病予防のため の指標として重視されている項目と並んで、「80歳時に10歯以上自分の歯を保有していること」 が余命と強い関連を示しました。

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8 4.調査結果のまとめ(東日本大震災被災地調査と比較して) 4.調査結果のまとめ(東日本大震災被災地調査と比較して) 4.調査結果のまとめ(東日本大震災被災地調査と比較して) 4.調査結果のまとめ(東日本大震災被災地調査と比較して) 80歳の調査では、我々は、対象者のそれまでの生活習慣や社会環境などの結果としてのお口 の中を観察したといえます。その後の 10 年間の追跡調査で、80 歳時点のお口の状況が、それ 以降の生活習慣や身体状況、ひいては余命に影響していることがわかりました(図5)。とくに 寿命の長い女性にとっては、その影響が大きいものと推察されます。はじめに、80歳時点の残 存歯数には地域差があると述べましたが、そのようなお口の健康格差はこれからも続くのでし ょうか。 図5 岩手県8020調査でわかったこと 現在、岩手医科大学歯学部では国立保健医療科学院他の協力を得て、東日本大震災の被災地 である岩手県大槌町で、定期的にお口の健康調査を行っています。そこではすべての医療機関 が津波被害に遭いました(図6)。6件あった歯科診療所も津波ですべて失われました。そんな 状況で、住民がお口のことで困ったのは、災害前に歯科受診していた人がその中断を余儀なく された場合、津波で入れ歯を紛失・破損した場合、などでした。隣町に受診に行こうとしても 交通の復旧はなかなか進まず、そのような人たちのお口の QOL はとても低下していました。 歯科医師過剰といわれ、町に歯医者があるのが当たり前の環境から、急に歯科受診したくても できない状況になったのです。

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9 図6 被災して廃墟となった県立病院 一方、大津波で家が破壊されるような甚大な災害にあっても、むし歯や歯周病が急速に進む ことはありませんでした。図7に示すように、自宅の被災状況による歯科疾患の罹患状況にほ とんど違いはありませんでした。すなわち、お口の健康は、長い時間の積み重ねでつくられる もので、一朝一夕には極端には良くも悪くもならないのです。 図 7 東日本大震災被災地における被災9か月後の歯科疾患の状況(被災程度別) この結果と、80 歳までにある程度お口の健康状態は決まっているという 8020 調査の結果を 併せて考えれば、80歳までに日常的に良いお口の状況をつくれるような環境にあれば、その後 のお口の健康格差は起きにくいということになります。 このような調査結果をもとに、近頃では、歯科診療所の役割としてお口の健康づくりのサポ ートが重視されています。それは歯科疾患を治療するだけでなく、いまより良いお口の環境を つくり、維持していく歯科医院の機能です。現在、日本の歯科医師数は全国で人口 10 万対 74 人ですが、お口の健康づくりのための資源と考えると、これは決して十分な数とはいえません。 岩手県ではこの10年間で、高速道路や新幹線が北に延び、交通の便が良くなりました。またお 口の健康管理を専門とする歯科医師も増えています。 80歳までに(いえ、80歳を過ぎても決して遅くありません)歯科医院をうまく活用してお口 の健康を保っていければ、きっと健康に齢を重ねていけるでしょう。 参考文献 1.財団法人 8020 推進財団、社団法人岩手県歯科医師会、岩手県、岩手医科大学: 岩手県 85歳追跡調査報告書、2003. 2.社団法人岩手県歯科医師会:岩手県80歳・90歳健康長寿調査事業報告書、2009. 参考web 1. http://www.8020zaidan.or.jp/reseach/senior.html 2. http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/ishi/06/kekka2-2-4.html 3. http://iwate.uub.jp/

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《新潟県における調査》

《新潟県における調査》

《新潟県における調査》

《新潟県における調査》

新潟大学大学院医歯学総合研究科予防歯科学分野教授 宮崎秀夫 1998年〜2008年の毎年,5月から6月にかけて新潟高齢者研究を実施しました。これまでに 口腔の病気が全身疾患の原因となっているといわれていましたが,科学的な証拠があまりなか ったことから,何らかの関連性の糸口をみつけることを目的に,主として新潟市在住の70歳の 方600 人を対象に調査を行いました。したがって,2008 年の調査終了時には皆さん80歳にな られていることになります。 調査は,歯と歯肉,粘膜組織,唾液,口腔細菌,口腔内気体分析, X線検査などの口腔診査 の他に,日常生活調査,一般医学検査(身体計測,骨密度,視力,血圧,心電図,既往歴,服 薬,血液生化学検査,尿検査など),栄養調査,運動生理機能,身体機能などの全身健康状態を 表す項目について測定しました。 1.口腔疾患と栄養の相互作用 1.口腔疾患と栄養の相互作用 1.口腔疾患と栄養の相互作用 1.口腔疾患と栄養の相互作用 健康を維持するために適正な栄養摂取が不可欠なことはいうまでもないでしょう。当然のこ とながら,歯がないと食べ物を噛んで,咀嚼して飲み込むことはできません。陸上のほ乳動物 の多くは,歯を失った時が寿命といわれる所以です。もっとも,肉食動物だと捕獲ができませ んね。歯を失う原因の大部分はう蝕と歯周病であることがわかっています。図1をご覧下さい。 図1 口腔疾患,咬合破壊と栄養との関係 今回の調査では,まず,歯がない(少ない)高齢者は,調理して噛めるか噛めないかによっ て食材を選択しているということです。その結果,歯を多く持っている人に比べて野菜類や魚 介類を食べる頻度が少ないことが明らかとなりました。その結果を反映して,血液中のビタミ ン類やカルシウムなど無機塩類の濃度が低くなっていました。これらのビタミン類は,抗酸化 ビタミンとして炎症や癌の発生を抑制する働きを持っています。目に見える炎症性疾患として

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11 歯周病がありますが,血液中のこれら微量栄養素濃度(ビタミン・ミネラル)が低い人は明ら かに重症の歯周病に罹患していましたし,調査開始時に濃度が低かった人は10年間でさらに悪 化していました。すなわち,一端歯を失い出すと,歯周病が進行することによって次々と歯を 失っていくという悪循環に陥ることになります。その影響は,勿論,全身の腎臓や心臓などの 炎症を生じさせ,また,癌の発生の危険性を増大させるところに生じてくるかも知れません(図 2)。 図2 口腔健康状態,栄養摂取および全身健康状態との関連 2.寝たきりに至る道筋 2.寝たきりに至る道筋 2.寝たきりに至る道筋 2.寝たきりに至る道筋 新潟高齢者研究から明らかになってきました寝たきりにいたるまでの身体能力,栄養,口腔 疾患,全身疾患の関連性を図3に示します。厚生労働省国民生活基礎調査によると,65歳以上 の寝たきりの原因は脳血管疾患(図中ⓐ,以下同じ)が 30.3%と最も頻度が高く,骨折・転倒 (ⓑ)は 11.7%で高齢による衰弱や痴呆とならんで第 2位グループを占めています。本調査か らは咬合の崩壊が転倒につながる身体機能低下に及ぼす影響(①),口腔疾患と骨折が生じやす い骨粗鬆症・骨密度低下(②)との関連,う蝕・歯周病と栄養との関係(③),う蝕と心疾患と の関係(④)を中心に説明したいと思います。

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12 図3 高齢者が寝たきりにいたるまでの身体能力,栄養,口腔疾患,全身疾患の関連 3.噛み合わせの崩壊と身体運動機能 3.噛み合わせの崩壊と身体運動機能 3.噛み合わせの崩壊と身体運動機能 3.噛み合わせの崩壊と身体運動機能 歯を多数失うことで噛み合わせが崩壊します。先に示した,噛めないことによる栄養摂取に 問題が生じ元気がなくなることが考えられることの他に,運動機能の衰えが早くなることがわ かりました。噛み合わせがなくなった人は,左右とも奥歯でしっかり噛み合わせている人に比 べ,明らかに足の筋力,敏捷性,バランス(片足立ち)が劣っていました。さらに,噛み合わ せを失っていた人は71歳から79歳までの8年間に,他の人より運動機能の低下が著しかった ことも示されました。どうしてそうなるかについては,1) 噛み合わせる働きのある顔の筋肉が 使われなくなることで,首から背中にかけての筋肉から,上半身,下半身の筋肉の働きに影響 を与える(握力と脚力とは強い関連性が認められている),2) 歯がないことで上と下の顎が深 く噛み込む形となり,噛み合わせる働きのある筋肉のバランスが壊れて,神経筋組織を介して 体躯バランスまで影響を与える,3) 上と下の顎の蝶番となっている顎関節は全身のバランスと 保つ三半規管と隣接していることから,この位置がずれることによる三半規管への影響,など が考えられています。 4.口腔疾患と骨密度 4.口腔疾患と骨密度 4.口腔疾患と骨密度 4.口腔疾患と骨密度 骨折の大きな危険因子となるものに骨粗鬆症があります。骨粗鬆症の前段階として,特に高 齢者では骨密度の低下が認められますが,骨代謝機能(骨の恒常性を保つ機能)の低下による ものと思われます。顎の骨に異常が見られた本対象者では,確かに,骨基質の形成に重要な働 きをする骨特異的アルカリファスファターゼ(リン酸化合物を分解する酵素のことで、肝臓や 骨、小腸などに含まれ、特に肝臓や胆道に障害があると、血液中に増加します。γ-GTP、LAP と同様に胆道系酵素と呼ばれ、肝・胆道疾患の指標とされています)は血中へ,骨の中に特異 的に存在するI 型コラーゲン(骨基質の90%以上を占める蛋白質)は尿中へ多く排泄されてい ました。また,骨密度をくるぶしの骨で超音波測定しましたが,性別,体脂肪率,血清ビタミ ンE濃度とともに,残存歯数が骨密度に影響を与えた結果が得られ,全身の骨代謝の状態が歯 の喪失にも影響していることがわかりました。さらに,骨密度が低い高齢者群では高度に進行 した歯周病を有すこともわかりました。

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13 5.う蝕と不整脈(図 5.う蝕と不整脈(図 5.う蝕と不整脈(図 5.う蝕と不整脈(図3のの ④)のの④)④)④) 口腔細菌により炎症マーカーに上昇がみられること,また,全身の炎症が不整脈の発症なら びにその継続疾患(虚血性心疾患や高血圧)発症に関連しているとの報告があります。喫煙し てこなかった高齢対象者の中でも,歯根面(歯周病などで歯肉が下がったときに現れる)に多 数う蝕が発生した人では,そうでない人に比べて不整脈が発生する危険性は約6倍に上ること がわかりました。炎症の指標である血清CRP値が高い人に根面う蝕が多かったことと合わせた 結果は,多数の根面う蝕発症は全身の炎症マーカーを上昇させ,不整脈発症のリスクとなるこ とを示唆しています。 写真1 心電図測定

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14 6. 6. 6. 6. おわりにおわりにおわりにおわりに 新潟高齢者研究の成果の全体像については図4をご覧下さい。線で結ばれた疾患や健康状態 などは関連性があるというもので,矢印は原因と結果を示しています。しかしながら,これら の関連性はすごく複雑であり,全てを図示すると何が何だかわからなくなるので簡略化されて います。解析方法や細かなデータを掲載した学術雑誌とその番号を対応させた図を別のウエブ に あ り ま す の で , 詳 細 に お 知 り に な り た い 方 は そ ち ら を ご 覧 に な っ て 下 さ い (http://www.dent.niigata-u.ac.jp/prevent/japanese/niigata_study.html)。 図4 新潟高齢者研究から得られた口腔と全身の関連性 口腔と全身の関連性をデータで示すだけでも多角度からアプローチすることができます。細 菌感染・炎症をキーワードとする歯周病と全身疾患に関しては,これまでに多くの結果が示さ れ,現在では確固たるエビデンス(証拠)として一般に認知されるようになってきました。エ ビデンスという意味では数値化される客観指標が解析しやすい,すなわち,思い込みや期待が 関与できない客観的な結果が要求されます。一方,特に高齢社会で決して無視できない事項と して,人生の総括期にある「生活の質(QOL: クオリティーオブライフ)」があります。QOL はその基準が人それぞれで異なってしかるべきであり,これまでの人生背景とそれに伴って築 き あ げ ら れ た で あ ろう 価 値 観 に 負 う と ころ が 少 な く な い と 思わ れ ま す 。 当 然 の こと な が ら, QOLは主観的評価にならざるを得ず,エビデンスとしてなかなか受け入れられにくい側面があ ります。しかしながら,少なくとも高齢者にとって,食べる楽しみが確保されている口腔健康 状態は高い QOL 維持を保証するものであることに異論はないでしょう。質的評価が進むこと も期待されます。

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《愛知県における調査》

《愛知県における調査》

《愛知県における調査》

《愛知県における調査》

愛知学院大学歯学部口腔衛生学講座准教授 加藤一夫 少子高齢化の進む中、特に高齢者を対象にした全身の健康に及ぼす口腔の役割を明らかにす ることは大変重要です。このような観点から、8020データバンク構築事業が、岩手県、福岡県、 新潟県に続き、1998年10、11月、愛知県で実施されました。調査対象となった自治体は、台 風のため中止となった新城市を除く、岡崎市、常滑市、田原町、渥美町、南知多町の5市町で した。各自治体の協力の下に国立感染症研究所、国立栄養・健康研究所、愛知県歯科医師会、 愛知学院大学歯学部が調査を担当しました。調査は、この5市町に在住する80歳(1917年出生) の男性 169 名、女性 357 名、計 526 名を予定していましたが、実際に健康診査の会場を訪れ た男性108名、女性179名、計287名(受診率54.6%)を最終的な調査対象としました。 愛知県では、全国(4県)共通の健康診査項目に加え、①食事嗜好傾向調査、②デンタルプレ スケールシステムによる咬合力調査、③食品の咀嚼問診調査、④歩数調査および⑤血液中の骨 代謝マーカーを独自の項目として追加しました。ここでは、愛知県で独自に行われた項目から 得られた結果を紹介します。 【下顎骨に骨粗鬆症化がみられる80歳高齢者では骨形成マーカーが亢進する】 図1は、平成22(2010)年度に市区町村が実施した骨粗鬆症検診を受診した女性259,760名の 指導区分の内訳を年齢別にみたものです(平成 22 年度地域保健・健康増進事業報告)。骨粗 鬆症検診の対象は40歳から70歳までの女性ですが、高齢になるにつれて骨に異常を認めない 者の割合は減少していくのがわかります。80歳の女性では、骨粗鬆症のリスクはかなり高いこ とが予想されます。 図1 骨粗鬆症検診の指導区分の割合

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16 骨粗鬆症や歯の喪失原因である歯周病は、全身的な骨量の減少と局所的な歯槽骨の吸収とい う骨に与える影響から関心が持たれています。血中の骨代謝マーカーであるPICP(I型プロコ ラーゲンC末端プロペプチド)とICTP(I型コラーゲン C末端テロペプチド)は、骨の有機 成分の大半を占めるI型コラーゲンのそれぞれ産生時と代謝時の派生産物で、PICPは骨形成、 ICTP は骨吸収の指標として骨粗鬆症を診断する上で注目されています。愛知県では、この2 つの骨代謝マーカーを血液検査に追加しました(骨は古い骨を壊して吸収し(骨吸収)、新し い骨を作る(骨形成)ことにより骨の強度を保ったり、カルシウムの値を調整している)。 一方、パノラマX線写真(広い範囲を一枚におさめた写真、タテヨコ比の大きい横長に写し た写真)は、歯周病を診断するために、歯科診療では日常的に撮影されます。そこで、このパ ノラマX線写真と血中骨代謝マーカー(ヒトの骨は生涯を通して古い骨を壊して吸収し(骨吸 収)、その場所に新しい骨を作る(骨形成)ことにより、血清中のカルシウムの値を調節する と共に骨の強度も保っています。これを骨代謝と呼んでおります)の間になにか関連がみつか れば、パノラマX線写真を骨粗鬆症のスクリーニングに生かすことができるのではないかと考 え、パノラマ X線撮影と血液検査をともに受けた80 歳高齢者男性85 名、女性 153名を対象 に、パノラマX線写真における下顎骨下縁皮質骨の形態所見と血中骨代謝マーカーの関係を検 討しました(図2)。 図2 下顎(下あご)骨下縁皮質骨(骨の皮質骨の厚み)の骨吸収程度別にみた PICP濃度(平均±SEM) 0 20 40 60 80 100 120 140 160 180 正常 軽~中度 高度 正常 軽~中度 高度 ・ ・ ・ ・ P I C P ・ Z ・ x ( n g / m L ) 骨吸収(男性) 骨吸収(女性)

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17 下顎皮質骨の形態を正常、軽~中程度の骨吸収、高度の骨吸収という3区分に分け、男女別 に骨形成の指標である血中PICP 濃度を比較したところ、女性では、骨吸収像が明らかなグル ープほどPICP濃度が上昇するという有意な傾向が認められました。 次に、下顎骨皮質骨の厚みの違いに注目し、高齢者を男女別に等人数の4グループに分け、 血中PICP濃度を比較しました。 図3 下顎骨皮質骨の厚さ別にみたPICP濃度(平均±SEM) その結果、男女とも、皮質骨の厚いグループほど、PICP 濃度が有意に低下する傾向が認め られました。このようにパノラマX線写真にみられる下顎骨の骨質低下は、骨の形成速度と関 連することが明らかになり、高齢者の骨粗鬆症の予測に役立つ可能性が出てきました。 一方、骨吸収の指標とされるICTP 濃度には、このような一定の傾向はみられませんでした (図3)。 0 20 40 60 80 100 120 140 160 180 ・ ・ ・ ・ P I C P ・ Z ・ x ・ i n g / m L ・ j 皮質骨厚さの四分位(男性) 皮質骨厚さの四分位(女性)

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18 【咬合力の測定と摂取可能な食品の聞き取り調査からみた80歳高齢者の咀嚼機能】 高齢者の多くは、加齢とともに歯を喪失することで咀嚼機能の低下を招き、その結果、食べ られる食物に制約が生じ栄養不良の状態に陥るリスクの高まることが予想されます。そこで、 デンタルプレスケール(被験者が感圧フィルムを全歯列で噛むとフィルム内のマイクロカプセ ルが破壊され、カプセル内の発色剤が力に比例して発色するため、この色の濃淡性から単位面 積当たりの圧力と力を計算し全歯牙接触面積について総和することで咬合力、咬合接触面積を 算出するもの)と呼ばれる感圧フィルムを利用した咬合力の測定と摂取可能な食品の聞き取り 調査から80歳の高齢者の口腔機能を調べました。 次の図は 80 歳高齢者を保有歯数によって4つのグループに分け、その咬合力を示したもの です。入れ歯を使っている方には、入れた状態で測定しました。男性と女性では、咬合力に差 がみられましたが、保有歯数との関係をみるために男女の結果を合わせて比較しました。保有 歯数の多いグループほど咬合力が大きく、20歯保有する者は、保有歯数が1~9歯や0歯の者 よ咬合力で優れており、その咬合力は、歯の揃った成人の約8割程度になることがわかりまし た(図4)。 図4 保有歯数群別にみた80歳高齢者の咬合力(ニュートン,平均±SD)

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19 次に、咀嚼困難度の異なる16食品(枝豆,キャベツのせん切り,白菜のつけもの,煮たこ んにゃく,しいたけの煮付け,焼いた薄切りの肉,めざし,焼いた鶏肉のささみ,キンピラご ぼう,かりんとう,ピーナッツ,ビフテキ,酢だこ,生にんじん,古たくあん,さきイカ(す るめ))について、何品目咀嚼ができるかどうかを面接による聞き取り調査で食べました。 図5 保有歯数群別にみた咀嚼可能な食品数の分布 保有歯数別にみた咀嚼可能な食品数の中央値は、20歯以上のグループではすべての食品を示 す16品目、10~19歯のグループが14品目、1~9歯のグループが13品目、0歯のグループ が 14 品目でした。20 歯以上のグループと1~9歯および0歯のグループとの間に有意な差 (p<0.05)がみられました(図5)。 このように、高齢であっても 20 歯以上の歯を保有する人は咬合力、咀嚼能力ともに高い値 を示した。「80 歳で 20歯を持とう」という目標値は、優れた咀嚼機能を保持し QOLの高い 生活をするための指標として有効であると考えられます。 【文献】

Morita I, Nakagaki H, Taguchi A, Kato K, Murakami T, Tsuboi S, Hayashizaki J, Inagaki K, Noguchi T: Relationships between mandibular cortical bone measures and

biochemical markers of bone turnover in elderly Japanese men and women. Oral Surg Oral Med Oral Pathol Oral Radiol Endod, 108(5): 777~783, 2009.

Tatematsu M, Mori T, Kawaguchi T, Takeuchi K, Hattori M, Morita l, Nakagaki H, Kato K, Murakami T, Tuboi S, Hayashizaki J, Murakami H, Yamamoto M, Ito Y: Masticatory performance in 80-year-old individuals. Gerodontology, 21(2): 112~119, 2004.

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20

《福岡

《福岡

《福岡

《福岡 県における調査》

県における調査》

県における調査》

県における調査》

九州歯科大学保健医療フロンティア科学分野教授 安細敏弘 九州歯科大学が行ってきた8020(はちまるにいまる)調査について報告します。 平成 10 年から口腔や全身の健康状態と病気の発生との関連について調査してきました。ど のような方が、がん・脳卒中・心筋梗塞・肺炎などになりにくいのか、また長寿なのか、につ いて明らかにするためです。今回はこれまでの調査研究の成果をまとめましたのでご紹介しま す。 用語について: 用語について: 用語について: 用語について: コホートとは:専門用語の一つで、研究対象になった集団のことです。また私たちはコホー ト内で口腔と全身における様々な疾患の発生を把握するための調査を継続して調査しました。 これを追跡調査とよびます。 リスクとは:専門用語の一つで、危険性のことをいいます。以下の解析では、関連をみたい 項目についていくつかのグループに分け、グループごとのリスクを統計方法を使って比較検証 しました。 ハザード比とは:統計用語の一つで、一般には相対的な死亡(生存)確率を示します。A群 に比べてB群の確率が何倍高い(低い)か、という意味で用います。 対象者: 対象者: 対象者: 対象者: 県内9市町村(当時の行橋市、築城町、勝山町、豊津町、新吉富村、豊前市、苅田町、戸畑 区、宗像市)に在住する、大正6年生まれの80歳の方824名(男性305名、女性519名)に ついて追跡調査を行いました。今回の解析では福岡県におけるベースライン時80歳高齢者の4 年間、5.5年間、12年間の追跡調査の結果をもとにしました。 (1) (1) (1)

(1) 咀嚼能力と咀嚼能力と咀嚼能力と咀嚼能力とADLADLADLADLの関係の関係の関係の関係

介護の必要性と咀嚼可能食品数で表した咀嚼能力(山本式咀嚼能率判定法)には明らかな関 連が認められ,影響因子で補正したロジスティック回帰分析で、15個すべての食品を咀嚼でき る群に比べて0〜4 個しか咀嚼できない群では7.5倍,5〜9個しか咀嚼できない群では3.3 倍 も介護が必要な高齢者が多いことがわかりました(表1)。

1

 咀嚼可能回数と介護(

80

歳)

全 全 全 全 咀咀 嚼咀咀嚼嚼 可嚼可可可 能能能能 食食 品食食品品品 数数数数 ((( 個(個 )個個))) 相相相相 対対 危対対危危危 険険険険 率率率率 15 1 10-14 1.9(0.9-4.1) 5-9 3.3(1.5-7.6)⁺ 0-4 7.5(3.0-19.1)⁺ ロジスティック回帰分析(補正あり)、⁺p<0.005 オッズ比(咀嚼可能食品数15個と比較して,介護が必要になる危険率)

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21 また、老研式活動能力指標というアンケートで曰常生活の活動度を調査し咀嚼能力との関係 を検討しました。咀嚼能力は全部で 15 食品をいくつ咀嚼できるかの評価で決めました。硬く て咀嚼しにくい食品としては堅煎餅、ビーナッツ、沢庵の3つを選びました。沢山の食品を岨 喝できる人ほど咀嚼能力が高いことになります。影響因子で補正したロジスティック回帰分析 という方法で日常生活活動能力と咀嚼能力の関係を見てみました(図1)。全食品15個のうち 4個以下しか咀嚼できない方に比べて15 個全部咀嚼できる方は3.4 倍、10〜14個咀嚼できる 方は3.1倍生活活動能力が高くなっていました。また、咀嚼しにくい食品3個を全く咀嚼でき ない方に比べて、3個全て咀嚼できる方は2.7倍、2個咀嚼できる方は2.4倍生活能力が良くな っていました。この結果から、ものをよく咀嚼できると日常生活能力が改善するようです。 図1:日常生活活動能力と咀嚼能力の関係 (2) (2) (2) (2) 咀嚼能力と運動機能の関係咀嚼能力と運動機能の関係咀嚼能力と運動機能の関係咀嚼能力と運動機能の関係 80歳高齢住民を対象として,握力,脚伸展カ,脚伸展パワー,ステップ回数,開眼片足立ち 時間と咀嚼可能食品数との関連を検討しました。咀嚼可能食品数が 0〜4 の群に比べて咀嚼可 能食品数が10〜14個と15個すべての群では有意に脚伸展パワーと片足立ち時間の良好になる 確率が高くなりました(表2)。しかし,ほかの運動能力である握力,脚伸展力,ステップ回数 では咀嚼能力と有意の関係は認められませんでした。以上から,高齢者の運動能力、特に下肢 の運動能力と咀嚼能力には正の関係があることが示唆されました。

(24)

22

2

 咀嚼可能食品数と運動能力の

関係(

80

歳)

食 食 食 食 品品 数品品数数数 ((( 個(個個個 )))) 握握 力握握力力力 脚 伸脚脚脚伸伸伸 展展展 力展力力力 脚 伸脚脚脚伸伸 展伸展展展 パパパパ ワ ワ ワ ワーーーー ス スス ス テテテテ ッッッ プッププ 回プ回回回 数 数数 数 片 片片 片 足足足足 立立立ち立ちちち 時時時時 間 間間 間 0-4 1 1 1 1 1 5-6 0.5 (0.2-1.7) 0.8 (0.2-2.6) 3.8* (1.0-14.1) 1.2 (0.4-3.2) 2.3 (1.0-5.6) 10-14 0.7 (0.2-2.0) 1.8 (0.6-5.5) 5.4⁺ (1.6-18.4) 1.4 (0.6-3.5) 2.3* (1.0-5.3) 15 1.0 (0.3-3.1) 1.1 (0.3-3.5) 4.9* (1.4-17.2) 1.7 (0.7-4.5) 2.6* (1.1-6.1) ロジスティック回帰分析(補正あり)、*p<0.05、⁺p<0.01 オッズ比(咀嚼可能食品数0-4個と比較して,良好な運動能力になる確率) (3) (3) (3)

(3) QOLQOLQOLQOLと歯の数・咀嚼能力の関係と歯の数・咀嚼能力の関係と歯の数・咀嚼能力の関係と歯の数・咀嚼能力の関係

3

 咀嚼食品数と

QOL

の関係(

80

歳)

咀 咀咀 咀 嚼嚼嚼 可嚼可可 能可能能能 食食食食 品 品品 品 数数数数 体 体 体 体 のののの 調調調調 子子子子 がががが 良 良 良 良 いいいい 食 食食 食 後後後 元後元元 気元気気気 にににに な なな な るるるる 今 今 今 今 のののの 生生生生 活活活活 にににに 満 満 満 満 足足足足 家 家家 家 族族族 ・族・・ 友・友友 人友人人人 と とと と のののの 交交交交 流流流流 にににに 満 満満 満 足足足足 フ フ フ フ ェェェェ イイイ スイスス ススススス ケ ケ ケ ケ ーーーールルルル 15 1 1 1 1 1 10-14 1.2 (0.9-1.8) 1.7⁺ (1.2-2.4) 1.1 (0.7-1.9) 1.4 (0.8-2.6) 1.3 (0.9-1.9) 5-9 2.1⁺ (1.3-3.2) 2.2⁺ (1.4-3.3) 1.6 (0.9-2.9) 3.8⁺ (2.0-7.2) 1.2 (0.8-1.9) 0-4 2.7⁺ (1.4-5.4) 2.4⁺ (1.3-4.5) 3.4⁺ (1.6-7.0) 3.9⁺ (1.7-8.9) 2.4⁺ (1.3-4.6) ロジスティック回帰分析(補正あり)、⁺p<0.01 オッズ比(咀嚼可能食品数15個と比較して,QOLが悪くなる比率) 表3で示されるように, 80歳高齢住民において咀嚼可能食品が15個すべての群に比べて, 咀嚼食品数が0〜4個や5〜9個の群では“体の調子が良い”、“食後元気になる”、“今の生活に満 足”、“家族・友人との交流に満足”、“フェイススケール”で表される QOL が有意に悪化しまし た。 次に、山本式咀嚼能率判定法を用いて高度に咀嚼困難食品 3 個,中等度に咀嚼困難な 6 個, 軽度に咀嚼困難な3 個,咀嚼容易な 3個の計 15個中何個の食品を咀嚼可能かで咀嚼機能とし たところ、85 歳後期高齢住民においても SF-36 でみた身体機能、社会生活機能、全体味的健 康感、活力といった項目において全咀嚼可能食品数,高度咀嚼難食品数,中等度咀嚼難食品数 に基づく咀嚼機能と有意に正の関連を認めました(表4)。

(25)

23 表4 咀嚼食品数とQOL(85歳)

咀嚼食品数とQOL

(85

)

全 全 全 全 咀咀 嚼咀咀嚼嚼嚼 可可可 能可能 食能能食食食 品品品 数品数数数 高高高高 度度 咀度度咀咀 嚼咀嚼嚼嚼 難難 食難難食食 品食品品品 数数数数 中中中中 等等 度等等度度度 咀咀咀 嚼咀嚼 難嚼嚼難難難 食食食 品食品品品 数 数 数 数 PF(身体機能) 0.17 * 0.17* 0.19⁺ RP(日常役割 機能) 0.06 0.08 0.07 BP(身体の痛 み) -0.04 -0.02 -0.02 SF(社会生活 機能) 0.15* 0.18* 0.16* GH(全体的健 康感) 0.10 0.16* 0.07 VT(活力) 0.10 0.13 0.16* 重回帰分析(補正あり)、*p<0.05、⁺p<0.01 QOL判定にSF-36を使用 (標準回帰係数) (4) (4) (4) (4) 歯の数・咀嚼能力と寿命の関係歯の数・咀嚼能力と寿命の関係歯の数・咀嚼能力と寿命の関係歯の数・咀嚼能力と寿命の関係 4 年コホート追跡調査において、咀嚼能力と死亡との関係をコックス比例ハザードテストを 用いて解析したところ、咀嚼能力が高い者を基準とすると、中くらいの者で1.2 倍、咀嚼能力 が低い者で2.6 倍死亡するリスクが高く、最も噛みやすい食材(ご飯、ウナギの蒲焼き、およ びマグロの刺身)を全て噛める場合を基準とすると、全て噛めない者では2.7 倍死亡するリス クが高いことがわかりました(図2)。次に咀嚼能力と死因別の死亡リスクとの関連を調べまし た。咀嚼能力が高い方を基準とすると、中くらいの者で 2.1倍、低い者では 5.1 倍心血管病に よる死亡リスクが高いことがわかりました(図2)。一方、がん、肺炎、ならびにその他の疾患 による死亡リスクと咀嚼能力との間に関連はみられませんでした。これらの結果から、いろい ろな食材を偏りなく食べることができる 80 歳の高齢者は咀嚼能力が低い高齢者よりも長寿で あり、死亡のリスクや心血管病による死亡リスクが低いことがわかりました。 図2 咀嚼能力が死亡リスクに及ぼす影響

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24 また、5.5 年コホート追跡調査において、歯の数と寿命の関係を調べたところ、歯の数が多 いほど寿命が長いことがわかりました。歯を 1 本失うと、寿命が 2.8%低下する計算になりま す(図 3)。したがって 5 本の歯を失うと長生きする確率が 14%低下することになり、歯を大 事にして健康な歯を多く残すと全身の健康維持にも役立つことがわかりました。 次に、歯の数と咀嚼機能(咀嚼可能食品数で評価)の診査を行い、平成22年までの12年間 の生死を調べました。12年間で506名が死亡しました。主な死因は心血管疾患、呼吸器疾患、 癌、老衰でした。図4で、咀嚼不良群が他の3群に比べて有意に生存率が低いことが分かりま す。図 5 は咀嚼食品数 1 品増加・歯の数 1 本増加と全死亡率低下率の関係を性別で補正した ものです。咀嚼可能食品数が1品増えると死亡率が4.4% 減少し,歯の数が1本増えると死亡 率が1.5%減少することを示しています。これらの結果から、80 歳住民という後期高齢者でも, 歯の数を保ち咀嚼機能を維持することが長寿に直接つながる可能性が高いと思われます。 図4:咀嚼機能4群別の累積生存率 図5:咀嚼食品数1品増加・残存歯数1本増加 での全死亡率低下率(性別で補正)

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25

参考文献リスト:

咀嚼能力と 咀嚼能力と 咀嚼能力と

咀嚼能力とADLADLADLADLの関係の関係の関係の関係

Takata, Y. et al. Activities of daily living and chewing ability in an 80-year-old population. Oral Diseases 10: 365-368, 2004.

咀嚼能力と運動機能の関係 咀嚼能力と運動機能の関係 咀嚼能力と運動機能の関係

咀嚼能力と運動機能の関係

Takata, Y. et al. Relationship of physical fitness to chewing in 80-year-old population. Oral Diseases 10: 44-49, 2004.

QOL QOL QOL

QOLと歯の数・咀嚼能力の関係と歯の数・咀嚼能力の関係と歯の数・咀嚼能力の関係と歯の数・咀嚼能力の関係

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日常生活活動能力と咀嚼能力の関係 日常生活活動能力と咀嚼能力の関係 日常生活活動能力と咀嚼能力の関係

日常生活活動能力と咀嚼能力の関係

Takata, Y. et al. Relationship between chewing ability and high-level functional capacity in an 80-year-old population. Gerodontology 25: 147-154, 2005.

歯の数・咀嚼能力と寿命の関係 歯の数・咀嚼能力と寿命の関係 歯の数・咀嚼能力と寿命の関係 歯の数・咀嚼能力と寿命の関係

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高田 豊、安細敏弘. 咀嚼機能と長寿—80歳住民での12年間コホート研究からー. 日補綴会

表 3  咀嚼食品数と QOL の関係( 80 歳)  咀 咀咀 咀 嚼嚼 嚼 可嚼可 可 能可能能 能 食食食食 品品品 品 数数数数      体体体 体 ののの の 調調調 調 子子子 子 がががが良良良良 いいいい     食 食食 食 後後 後 元後元 元 気元気気 気 にににになななな るるるる     今今今 今 ののの の 生生生 生 活活活 活 にににに満満満満 足足足足     家 家家 家 族族 族 ・族・ ・ 友・友 友 人友人人人とととと のののの 交交交交 流流流 流 にににに

参照

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