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インフルエンザウイルス NS1 タンパク質による NLRP3
inflammasome
の抑制機構の解析
東京大学医科学研究所 感染症国際研究センター感染制御系ウイルス学分野一戸 猛志
キーワード: インフルエンザウイルス,NS1,NLRP3,inflammasome,caspase-1 AbstractInflammasomes are cytosolic multimolecular protein complexes that stimulate the activation of caspase-1 and the release of mature forms of interleukin-1β (IL-1β) and IL-18. We previously demonstrated that the influenza A virus M2 protein stimulates IL-1β secretion following activation of the nucleotide-binding oligomerization domain (NOD)-like receptor family pyrin domain-containing 3 (NLRP3) inflammasome. The nonstructural protein 1 (NS1) of influenza virus inhibits caspase-1 activation and IL-1β secretion. However, the precise mechanism by which NS1 inhibits IL-1β secretion remains unknown. Here, we showed that J774A.1 macrophages stably expressing the NS1 protein inhibited IL-1β secretion after infection with recombinant influenza virus lacking the NS1 gene. Coimmunoprecipitation assay revealed that the NS1 protein interacts with NLRP3. Importantly, the NS1 protein inhibited the NLRP3/ASC-induced single-speck formation required for full activation of inflammasomes. The NS1 protein of other influenza virus strains, including a recent pandemic strain, also inhibited inflammasome-mediated IL-1β secretion. The NS1 RNA-binding domain (basic residues 38 and 41) and TRIM25-binding domain (acidic residues 96 and 97) were required for suppression of NLRP3 inflammasome-mediated IL-1β secretion. These results shed light on a mechanism by which the NS1 protein of influenza virus suppresses NLRP3 inflammasome-mediated IL-1β secretion.
背景および目的
TLRs(Toll-like receptors)や RLRs(RIG-I-like receptors)は, ウイルス由来の核酸を認識して I 型インターフェ ロンを誘導する.TLR3, TLR7, TLR9 はエンドゾーム内に存在する膜受容体で, 二本鎖 RNA(double-stranded RNA:dsRNA), 一本鎖 RNA(single-stranded RNA: ssRNA)と DNA をそれぞれ認識する.RIG-I と Mda5 を含む RLRs は,細胞質中に存在するウイルス RNA を認識する.一方, 細胞質中に存在する自然免疫受容体, Nod-like receptor (NLR)ファミリーの NLRP3 は, 細菌, ウイルス, 環境中刺激物などさまざまな刺激に応答し, アダプター タンパク質の apoptosis-associated speck-like protein(ASC)や未成熟型 caspase-1(pro-caspase-1)とともに複合体 を形成して NLRP3 inflammasome を形成する(図 1).
図 1.ウイルス感染と inflammasome
インフルエンザウイルス M2 タンパク質は、トランスゴルジ中の H+を細胞質中へ流出させて NLRP3 inflammasome を活性化させている。また EMCV 2B タンパク質は、小胞体やゴルジ中の Ca2+を細胞質中へ
流出させて NLRP3 inflammasome を活性化させる。また RIG-I は水疱性口内炎ウイルス(VSV)の一本鎖 RNA( ssRNA ) を認識して RIG-I inflammasome を形成し、細胞質中のウイルス DNA ( dsDNA ) は AIM2inflammasome を活性化させる。Inflammasome の形成により活性化した caspase-1 は細胞質中の未成 熟型のサイトカイン(pro-IL-1β、proIL-18)を切断し、細胞外への分泌を促進させる。
活性型 caspase-1 は, 細胞質中の未成熟型 interleukin 1 beta(IL-1β)や IL-18 など炎症誘発性サイトカインの成熟と 分泌を制御する(図 1).この IL-1β は, さまざまな病原体に対する免疫応答の誘導と炎症反応, 自己免疫疾患など に関わる中心的なサイトカインである.例えば, インフルエンザウイルス感染による肺での inflammasomes の活 性化は, ウイルス特異的な免疫応答の誘導に必要である(1-3).
ウイルスの認識に関わるインフラマゾームとして現在, RIG-I inflammasome, NLRP3 inflammasome, absent in melanoma 2(AIM2)inflammasome が知られている(図 1).RIG-I や AIM2 は, それぞれウイルスの RNA や DNA を認識することにより活性化する inflammasome であるのに対し, NLRP3 inflammasome はウイルス RNA を認識 しない.我々はこれまでに, インフルエンザウイルスや脳心筋炎ウイルス(EMCV)は, ウイルスが持つイオンチ ャネルタンパク質(viroporin)によって, NLRP3 inflammasome を活性化させていることを見出してきた(4-5). インフルエンザウイルスの場合, NLRP3 の活性化にはウイルスの H+選択的な M2 タンパク質がトランスゴルジ に局在することが必要であった(図 1)(4).また EMCV は, ウイルスの 2B(Ca2+イオンチャネル)タンパク質 が, 小胞体やゴルジ体の Ca2+を細胞質中へ流出させて, 細胞質中の Ca2+濃度が上昇することが, NLRP3 の活性化に 必要であった(図 1)(5).さらにこれらウイルス感染による NLRP3 inflammasome の活性化にはミトコンドリア の膜電位(連結したミトコンドリア)が必要で、NLRP3 はミトコンドリア外膜タンパク質の mitofusin 2/MAVS を足場に、NLRP3 inflammasome を形成していることを明らかにした(図 2)(6)。
図 2.ミトコンドリアの膜電位依存的な NLRP3 inflammasome の活性化
インフルエンザウイルスなどの感染により活性化した NLRP3 は、ミトコンドリアの外膜タンパク質であ る mitofusin 2(Mfn2)や MAVS と結合する。これを足場として、アダプタータンパク質の ASC や pro-caspase-1(proCasp-1)が集合し、NLRP3 inflammasome が形成される。インフルエンザウイルスの PB1-F2 タンパク質は、Tom40 チャネルを介してミトコンドリアの膜間スペースへ輸送され、ミトコンドリアの膜 電位を低下(ミトコンドリアを断片化)させることにより、NLRP3 inflammasome の活性化を抑制してい る。 逆に、インフルエンザウイルスの PB1-F2 タンパク質は、Tom40 チャネルを介してミトコンドリアの膜間スペー スへ輸送され、ミトコンドリアの膜電位を低下(ミトコンドリアを断片化)させることにより、NLRP3 inflammasomeの活性化を抑制していた(図 2)(7)。同様にインフルエンザウイルス NS1 タンパク質は、caspase-1 の活性化をそれに続く IL-1β の分泌を抑制していることが知られているが(8)、その具体的なメカニズムは不明 であった(9)。そこで本研究では,インフルエンザウイルス NS1 タンパク質による NLRP3 inflammasome の抑制 機構を明らかにすることを目的とした. 方法 1.細胞とウイルス HEK293T、J774A.1、HeLa 細胞は、10%FBS を含む DMEM で維持した。MDCK 細胞は、10%FBS を含む E-MEMで維持した。骨髄由来形質細胞用樹状細胞は、骨髄細胞を 10%FBS と組換えヒト Flt3 リガンド(100 mg/ml)を含む RPMI で一週間培養することにより調製した。インフルエンザウイルス A/PR8 ウイルスは、発育 鶏卵に接種後、35℃で 2 日間培養して増やした。NS1 欠損インフルエンザウイルスは、NS1 発現 MDCK 細胞で 増やした。ウイルスの力価は、MDCK 細胞を用いたプラークアッセイ法により測定した(1)。 2.ウイルス感染
LPS 刺激 J774A.1 細胞をインフルエンザウイルス(MOI=5)で 1 時間感染させた後、DMEM 培地で 18-24 時間 培養を続けた。骨髄由来形質細胞用樹状細胞(5×105 cells in 96-well round-bottom plates)は、CpG-A(10 mg/ml; Invivogen)またはインフルエンザウイルス(MOI=0.5)で刺激後、37℃で 24 時間培養した。
3.ELISA
培養上清中の IL-1β の量は、マウスまたはヒト IL-1β に特異的な抗体(eBiosciences)を用いたサンドイッチ ELISA法により測定した。細胞質中の未成熟型 IL-1β を測定する場合は、PBS で洗浄した細胞を 2% FBS を含む PBSで凍結融解したあとのライセートをサンプルとして用いた。
4. HEK293T 細胞を用いた NLRP3 inflammasome の再構成
24ウェルプレートにまいた HEK293T 細胞を 15 ng of pCA7-NLRP3(15ng)、pCA7-ASC(5ng)、pCA7-procaspase-1 (5ng)、pCA7-pro-IL-1β(150ng) と 500ng の pCA7-flag-NS1 または pCA7-EGFP を PEI-Max を用いてトランスフ ェクションした。トランスフェクションから 24 時間後に培養上清を回収し、培養上清中の IL-1β の量を ELISA 法により測定した。
6. 蛍光免疫染色
細胞を 2.5% formaldehyde と 0.5% Triton X-100 を含む PBS で固定した。細胞を PBS で洗浄後、抗 flag または抗 myc抗体で 1 時間インキュベーションした。2 次抗体には、Alexa Fluor 647 標識 goat anti-mouse IgG と Alexa Fluor 568標識 goat anti-rabbit IgG を用いた。染色後の細胞は共焦点顕微鏡(A1R+; Nikon)により観察した。
結果
インフルエンザウイルス NS1 タンパク質が NLRP3 inflammasome 依存的な IL-1β の分泌を抑制するかを検証す るため、HEK293T 細胞を用いた NLRP3 inflammasome の再構築系を利用した。HEK293T 細胞に NLRP3, ASC, procaspase-1, pro-IL-1βの発現プラスミドを導入すると、培養上清中に成熟型の IL-1β を分泌される。これまでの 報告の通り(6-7)、ヒト uncoupling protein-2 (hUCP-2)発現プラスミドを導入すると、IL-1β の分泌が抑制され た。同様に、インフルエンザウイルス NS1 発現プラスミドを導入すると NLRP3 inflammasome 依存的な IL-1β の 分泌を有意に抑制した。しかし、NS1 タンパク質により細胞質中の pro-IL-1β の発現量には影響を与えなかった ことから、NS1 タンパク質は NLRP3 inflammasome の活性化そのものを抑制していることが示唆された。 HEK293T 細胞を用いた NLRP3 inflammasome の再構築系で得られた現象を、IL-1β の主要な産生細胞であるマ ウスマクロファージで再現できるかを確認した。まずインフルエンザウイルス NS1 タンパク質を発現するレン チウイルスを作製し(invitrogen)、これをマウスマクロファージ細胞株である J774A.1 細胞に感染させ、NS1 発 現 J774A.1 を樹立した。これに NLRP3 のアゴニストである ATP や、NS1 欠損インフルエンザウイルス(Prof. Adolfo Garcia-Sastre, The Mount Sinai Hospital)を感染させた場合、コントロールの EGFP 発現 J774A.1 と比較し て、NS1 発現 J774A.1 では、ATP 刺激 30 分後または NS1 欠損ウイルス感染 24 時間後の培養上清中の IL-1β の産 生が有意に低下していることが分かった。
インフルエンザウイルス NS1 タンパク質による NLRP3 inflammasome 依存的な IL-1β の産生抑制機構を調べる ため、ミトコンドリアの膜電位に与える影響を解析した。これまでの報告通り 6-7)、HEK293T 細胞に hUCP-2 の 発現プラスミドを導入、または細胞を carbonyl cyanide m-chlorophenyl hydrazone(CCCP)で処理するとミトコン ドリアの膜電位が低下した(TMRM 染色)。しかし、インフルエンザウイルス NS1 タンパク質発現プラスミドを 導入しても、ミトコンドリアの膜電位に影響を与えなかった。
次にインフルエンザウイルス NS1 タンパク質が NLRP3 inflammasome の構成因子と相互作用しているかを調 べるため、HEK293T 細胞に、myc-tag NLRP3 と flag-tag NLRP3、ASC を co-transfection し、抗 flag 抗体を用いた 免疫沈降を行った。するとインフルエンザウイルス NS1 タンパク質が NLRP3 と相互作用していることが確認で きた。
インフルエンザウイルス NS1 タンパク質による NLRP3 inflammasome 依存的な IL-1β の産生抑制機構さらに詳 細なメカニズムを解析するため、NS1 タンパク質の NLRP3/ASC スペック形成に与える影響を解析した。HeLa 細 胞に NLRP3 と ASC の発現プラスミドを導入すると、NLRP3/ASC が形成するスペック構造を1細胞に1つ観察 できた。しかし、ここにインフルエンザウイルス NS1 タンパク質発現プラスミドを導入すると NLRP3/ASC が形 成するスペック構造が分散することが分かった。 最後に NLRP3 inflammasome 依存的な IL-1β の産生抑制に必要な、インフルエンザウイルス NS1 タンパク質の 機能ドメインを解析した。そこで RNA 結合ドメイン (38 番目のアルギニンと 41 番目のリジン)と TRIM25 結 合ドメイン(96 番目と 97 番目のグルタミン酸)をアラニンに置換した変異 NS1 発現プラスミドを作製し、NLRP3 inflammasome再構築系における IL-1β の産生、NLRP3 との相互作用、NLRP3/ASC スペック形成について検討を 行った。その結果、RNA 結合ドメインと TRIM25 結合ドメインは NS1 タンパク質による NLRP3 inflammasome 依 存的な IL-1β の抑制、NLRP3 との相互作用、NLRP3/ASC のスペック形成の抑制に必要であることが分かった(図 3)(10)。 図 3.インフルエンザウイルス NS1 タンパク質による NLRP3 inflammasome の抑制機構 インフルエンザウイルス NS1 タンパク質は、NLRP3 と相互作用することにより NLRP3 inflammasome の 活性化とそれに続く IL-1β の産生を抑制している。この抑制効果には、NS1 タンパク質の RNA 結合ドメ インや TRIM25 結合ドメインが必要であった。 考察 インフルエンザウイルスの NS1 タンパク質は、NLRP3 と相互作用することにより NLRP3/ASC によるスペック の形成を阻害し、NLRP3 inflammasome の活性化とそれに続く IL-1β の産生を抑制していた(図 3)。この抑制効 果には、NS1 タンパク質の RNA 結合ドメイン (38 番目のアルギニンと 41 番目のリジン)と TRIM25 結合ドメ イン(96 番目と 97 番目のグルタミン酸)が必要であったことから、NS1 タンパク質はウイルス RNA による NLRP3 inflammasomeの増幅経路(11)にも影響を与えていることが推察された。Inflammasome の活性化はウイ
ルス特異的な獲得免疫応答の誘導に必要であるが(1)、その異常な活性化はさまざまな自己免疫疾患にも関わ る。このため、inflammasome の活性化や抑制機構について理解することは、ウイルス感染症に対する効果的なワ クチン開発やアジュバントの開発(12)、またウイルスの病原性発現機構の理解に役立つ可能性がある。この知 見を活かして、今後も inflammasome の活性化・抑制機構とウイルスの病原性発現機構を理解していきたい。 最後に,本研究にご支援を賜りましたかなえ医薬振興財団に深く感謝致します. 発表論文・参考文献
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