放送大学シニア学生の特徴と課題
2020
年12月26日(土)
日本社会教育学会
「学校型」シニア教育の可能性
岩崎久美子(放送大学)
本報告の目的
(20分)•
放送大学における高齢学習者の特徴とその支援上の課題
1.放送大学の概略
2.放送大学における高齢学習者の特徴
3.支援上の課題
(1)放送大学の教育内容
• 通信制大学・大学院(国が設立した私立大学) ①ラジオ・テレビ視聴による学習 ・放送教材(ラジオ・テレビ)+印刷教材 ・通信指導 ・単位認定試験(学習センターで実施) ②オンライン授業 ・オンライン上で小テスト・レポート提出 ③論文指導(ゼミなどの個別指導) ・卒業研究 ・修士・博士の指導入学試験なし、“開かれた大学”
→
意欲
があればだれでも入学可能
“意欲デバイド” 高齢者で放送大学で学ぶ目的は?意欲はどこからくるのか?(2)コース・プログラム
①学部(教養学部教養学科)6コース
②大学院修士課程(文化科学研究科文化科学専攻)7プログラム
出所:放送大学・大学院修士課程
https://www.ouj.ac.jp/hp/gakuin/program.html
③大学院博士後期課程(文化科学研究科文化科学専攻)6プログラム
出所:放送大学・大学院博士課程
写真:岩崎撮影 〒261-8586 千葉県千葉市美浜区若葉2丁目11
(3)本部組織と学習センター
〒112-0012東京都文京区大塚3-29-1 写真:http://www.sc.ouj.ac.jp/center/bunkyo/ 放送大学本部 文京学習センター 【本部教員】 ・卒業研究ゼミ(口頭試問) ・修士ゼミ(口頭試問) ・博士ゼミ …等の対面指導で使用。熊本学習センター 面接授業 写真:岩崎撮影
(4)全国を網羅する学習センター
本部+学習センター50箇所 +サテライトスペース7箇所 https://www.ouj.ac.jp/hp/sisetu/center/(5)学生数
(令和2年1学期)①学部
男性 46.7 % 女性 53.3% N=78,808 3.0 12.7 14.8 21.4 20.4 27.7 0% 20% 40% 60% 80% 100% 10代 20代 30代 40代 50代 60代以上 職 業 人 数 (%)割合 会社員等 17,142人 21.8 看護師等 9,817人 12.5 定年等退職者 7,723人 9.8 公務員・団体職員等 6,344人 8.0 他大学・専門学校等に在籍する学生 5,157人 6.5 専業主婦(夫) 5,137人 6.5 教員 5,106人 6.5 自営業・自由業 4,906人 6.2 無職(専業主婦・定年等退職者等以 外) 4,872人 6.2 パートタイマー 4,698人 6.0 アルバイト等 3,777人 4.8 農林水産業等従事者 257人 0.3 その他 3,872人 4.9 合計 78,808人 100.0 出所:放送大学内部資料 (50代以上 約5割) 60代以上 約3割②大学院修士課程
N=3,995 職 業 人 数 (%)割合 会社員等 17,142人 21.8 看護師等 9,817人 12.5 定年等退職者 7,723人 9.8 公務員・団体職員等 6,344人 8.0 他大学・専門学校等に在籍する学生 5,157人 6.5 専業主婦(夫) 5,137人 6.5 教員 5,106人 6.5 自営業・自由業 4,906人 6.2 無職(専業主婦・定年等退職者等以 外) 4,872人 6.2 パートタイマー 4,698人 6.0 アルバイト等 3,777人 4.8 農林水産業等従事者 257人 0.3 その他 3,872人 4.9 合計 78,808人 100.0 男性 57.1% 女性 42.9% 4.3 11.4 22.6 28.7 32.9 0.1 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100% 20代 30代 40代 50代 60代以上 不明 出所:放送大学内部資料 (50代以上 約6割) 60代以上 約3割③大学院博士後期課程
N=68 職 業 人 数 (%)割合 教員 25人 36.8 公務員・団体職員等 15人 22.1 会社員等 13人 19.1 自営業・自由業 5人 7.4 看護師等 4人 5.9 定年等退職者 4人 5.9 アルバイト等 1人 1.4 その他 1人 1.4 合計 68人 100.0 男性 70.6% 女性 29.4% 10.3 29.4 30.9 29.4 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 30代 40代 50代 60代以上 出所:放送大学内部資料 (50代以上 約6割) 60代以上 約3割2.放送大学における高齢学習者
の特徴
四男八女12人きょうだいの四男、小学校高等科卒業後、 地元の農協へ。55歳で定年退職。その後、中小企業診断士 として80歳過ぎまで働く。 面白そうな科目を拾って楽しもうと80歳代で「科目履修 生」として入学。95歳で最初の卒業、コースを変え、2019 年3月に4度目の卒業。 秘訣は興味を持ち続けること。 参照:芳垣文子 「卒業生『異次元のすごさ』秘訣は」「朝日新聞Digital」 2019年4月6日 ※ 2020年夏にご逝去。謹んでお悔やみ申し上げます。
(1)学習する高齢者の事例
①学部:学習の楽しさ
事例1:101歳(1917(大正6)年生まれ)北海道 S.K.さん
※2019年4月現在【特徴】 性格特性:優秀で勉強が好き(学習に対する成功体験) ・“尋常小学校で優良児童として表彰” ・「ほとんどの生徒は10年後には勉強しなくなる。そうなるなよ。」校長先生からの言葉 を引きずる。 学歴:社会的状況や経済的状況(きょうだい数)で中等教育へ進学せず 就職先:安定した職(就職者としてエリート) ・農協 職場での地位:社会的指導者の地位 ・「職場で講義する」立場 定年退職後:資格等で長期雇用 ・中小企業診断士 (~81歳まで) 学習に対する志向:肯定的 ・職場で講義する際、学ぶことの重要性や楽しさを唱導 ・自分で学ぶことが楽しい 学習歴 ・早稲田大学中学講義録(独学) ・放送大学で継続的に学習 放送大学北海道学習センター https://www.sc.ouj.ac.jp/center/hokkaido/
事例2 86歳(1934(昭和9)年生まれ)新潟 S. K.さん
※2020年12月現在 ・7人兄弟の3番目。妻は3年前死去、独居。次女は高校教員(書道科)で高等特別支援学校校長。 ・昭和24年5月中学校卒業、普通逓信講習所普通電信科入学(15歳)。戦後の混乱期で受験競争 率は50倍。電報の送受信を担当する技術者養成機関。その後、逓信省は電気通信省と郵政省に分割 され、電気通信学園普通電信科生となる。 ・中学校卒業後の夢は就職して定時制高校へ通うこと。配属された山間地の郵便局の近隣には定時 制高校はなく断念。 ・長女の入学書類に「父母の学歴」欄があり、父母とも中学校卒では、長女も先々肩身が狭かろう と考え、30代半ばで再び高校通信教育を考える。大学入学資格検定合格者となったのは40歳直前。 ・41歳の時、産業能率短期大学〈3年制)へ入学。4年かけて卒業 ・NTTを退職した平成3年4月、佛教大学へ入学。「仏教教養講 座」からはじめ、以後、文学部仏教学科、仏教学専攻科、大学院文 学研究科浄土学専攻(修士課程)まで進む。ほかに、図書館司書課程、 教養講座京都の歴史と文化も修了。 放送大学全科履修生となり12年を経て、現在6コース目の「情報」 を学習中。 放送大学新潟学習センターhttps://www.sc.ouj.ac.jp/center/niigata/【特徴】 性格特性:優秀で勉強が好き(学習に対する成功体験) ・“幼児のころより勉強が好きで本を読み、兄や姉の手ほどきを受けて、カタカナ、ひらがなや簡易な漢字は小学校入学前に修 得していた。近所のうわさで、「どこどこのだれそれは、100まで数えられる。200まで数えられる」などがうわさに なったが、・・・数の数え方は、無限であることを感じており、100まで、200までなどという言い方はナンセンスであ ることを感じていた。” ・ “中学校卒業までの9年間、さらに普通電信科卒業時も優等生であった。ただ、電気通信学園中等部業務科では、途中、病気 (肺結核)となり、・・・優等生はおろか、お情けの卒業であった。” 学歴:社会的状況や経済的状況(きょうだい数)で高校へは進学せず 就職先:安定した職(就職者としてエリート) ・長野普通逓信講習所普通電信科へ入学(15歳)(倍率50倍) 電電公社→NTT 職場での地位:社会的指導者の地位:新潟県内のNTT営業所長を最後に57歳で退職 定年退職後:63歳で通信建設会社用地折衝担当雇用、NTTドコモ基地局用地折衝等に従事(~79歳) 学習に対する志向:肯定的 ・ 旧電電公社での通信教育の奨励(費用負担・修了条件):司法試験一次、土地取引主任者、行政書 士、簿記2級、パソコンの基礎等々、毎年退職まで受講継続 学習歴:・高校通信教育、大学入学資格検定・産業能率短期大学(3年)・佛教大学(退職時)・佛 教大学院文学研究科浄土学専攻(修士課程)・放送大学6コース目(12年間全科履修生)
②学部:退職後のレパートリー
事例3 76歳 沖縄 Y.Oさん
“わたしはいま76歳。18歳から働き始め、58歳で希望退職し現在に至る。…私の趣味は農業・旅 行・ウオーキングです。また、65歳になって入学した放送大学での学生生活が楽しみの一つに 加わった。4月から生活は12年目に入り、今の生活は基本的に週3日は農業関係、3日は学生、 1日は自由としている。 退職後6カ月を大工の訓練生としてポリテクセンター沖縄に通い、訓練修了後1年数カ月を非 常勤の就職アドバイザーとして同センターに勤務し、200万円を稼いだところで退職。 その金額を①妻とのヨーロッパ旅行②友人との屋久島旅行③一人での日本一周自動車旅行に消 費した。 農業としては現役時に名護で原野を購入し、妻とテント生活しながら開墾して20年以上になる。 旅行については、現在までに県内は、有人島(47~48)全部、国内は通過するだけならほぼ全 都道府県、外国は退職後の5回を含めて22回、20カ国程度行っている。 ” (大浜洋意(ようい)「私の退職後の生き様」(りゅうぎんゆんたく広場)『りゅうぎん』2019年4月号) 放送大学沖縄学習センター https://www.sc.ouj.ac.jp/center/okinawa/【特徴】 性格特性:社交的、行動的 ・68歳のときにパリで1カ月のホームステイ→日本人クラスメイト5人のうち4人と沖縄で再会。 ・60歳(38日間)、65歳(52日間)、70歳(44日間)の計3回一人で日本一周自動車旅行 ・外国人の友人(京都大学在籍のハンガリーの物理学者、セネガルの留学生、パキスタン大使館報 道官、ニュージーランド人パイロットの奥さん、カナダ人留学生…) 学歴:18歳で就職 就職先:安定した職:銀行 職場での地位:不明 定年退職後:農業(“百姓見習い”) ・定年前に早期退職。子ども3人が自立。“贅沢しなければ、何とかやっていける目処” 。 学習に対する志向:肯定的、学習成果を活用(人間関係の拡がり) ・学習を日常生活にビルトイン (放送大学に週3日) ・大学で学習したフランス語の実践→フランスでのホームステイ、英語の勉強 学習歴: ・ポリテクセンター沖縄で大工の訓練生 ・放送大学で継続的学習
③修士:知的で体裁の良い居場所
性格特性:真面目 学歴:大学・大学院 就職先:一流企業、大学 職場での地位:管理職、教員 放送大学での学習目的:学問の追求、学位取得、居場所であることや所属すること (行くことのできる場所)、退職後の生き方を模索 (修士課程進学の「未完の行為」の遂行、自分のテーマに対する 回答の模索:定年後の生きがい、途上国支援など) 学習に対する志向:肯定的 学習歴:独学を含め多種多様 ・印象的な人たちはなぜ男性なのか? ・男性にとって社会的な場のひとつとしての放送大学? ・女性は放送大学以外にも多様な場や役割を有している?(2)放送大学65歳以上の学生の特徴
(2020年度学生実態調査)
調査期間:2020年6月22日~7月13日の期間 調査対象:2020年5月1日時点で在籍する学生(全国の教養学部全科・選科・科目履修生)のうち、 キャンパスメール登録学生2,000名、キャンパスメール以外のメールアドレス登録学生4,000名、計6,000名 回答数:1,420名(回収率 23.7%) N=1,420 34歳以下 9.9% 35~49歳 27.0% 50~64歳 34.9% 65歳以上 28.2% 65歳以上400人を抽出して分析 (男64.0% 女性37.0%) 科目履修生 情報 自然と環境 社会と産業 生活と福祉 心理と教育 人間と文化 男 女 20.5% 12.5% 12.5% 11.0% 11.0% 7.2% 25.3% N=400 職 業 男性 (N=256) (N=144)女性 (N=400)合計 定年等退職者 61.3 35.4 52.0 会社員等 12.9 3.5 9.5 専業主婦(夫) 0.0 25.7 9.3 無職 (専業主婦(夫)・定年等退職者を除く) 6.6 11.8 8.5 自営業・自由業 6.3 2.8 5.0 公務員・団体職員等 3.9 2.1 3.3 パートタイマー 0.8 6.3 2.8 教員 2.0 0.7 1.5 アルバイト等 1.6 1.4 1.5 看護師等 0.0 3.5 1.3 農林水産業等従事者 0.4 0.0 0.3 その他 4.3 6.9 5.3 合 計 100.0 100.0 100.0 N=400 単位:%①所属コース
最終学歴 (N=256)男性 (N=144)女性 (N=400)合計 大学(六年制の医歯薬獣医系の学部含む) 51.2 34.7 45.3 中学校・高等学校・専修学校高等課程 (高等専修学校)等 24.2 35.4 28.3 短期大学・高等専門学校 6.3 16.7 10.0 大学院修士課程 13.3 3.5 9.8 専門学校専門課程(専門学校) 1.2 8.3 3.8 大学院博士後期課程(一貫制の博士課程、 医歯薬獣医系の博士課程含む) 2.7 1.4 2.3 防衛大学校・航空保安大学校等の大学校 1.2 0.0 0.8 合 計 100.0 100.0 100.0 【二極化した学生層】 ・大学進学断念者:学習意欲あり+学歴・学習補填 ・高学歴層:学習スタイル確立・適切な居場所
②最終学歴
N=400 単位:% (複数回答)③放送大学入学目的
・時間の有意義な過ごし方と健康維持 ・仕事関連の具体的目的は少ない。 ・男性:教養、余暇、友人/女性:実利的目的 12.5 0.7 2.1 8.3 16.0 9.0 15.3 29.9 26.4 27.8 50.0 67.4 11.3 0.8 3.9 3.5 10.5 14.5 12.1 11.7 28.1 35.2 48.8 74.2 0 20 40 60 80 その他 仕事上決められた研修のため 昇進・昇給のため 就職・転職のため 履修証明制度を受講するため 資格取得や更新講習の受講及び検定試験受験のため 町会・ボランティアの活動に役立てるため ともに学ぶ友人を得るため 現在の仕事や活動に役に立てるため 大学・大学院の卒業資格を取得するため 心身の健康のため 余暇を有効に過ごすため 充実した生活を送るため 教養を深めるため 男性 女性 ※5ポイント以上男女差があるものを表記2.8 6.3 15.3 16.7 27.1 28.5 36.1 43.1 85.4 3.9 3.9 16.4 16.8 21.1 28.1 34.8 46.9 71.5 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 利用するつもりはない その他 学習相談を利用する 入学・卒業の集いに参加する 放送授業を視聴する サークル活動に参加する 自主学習をする 図書・雑誌・新聞を利用する 面接授業を受ける 男性 女性 N=400 単位:%
⑤学習センターの利用目的
1日 38.8% 2~5日 46.5% 6~10日 6.0% 11日以上 5.3% 不明 3.5%④学習センターの利用頻度
(サテライト・スペースを含む) N=400単位:% ・2~5日が約半数 ・1日が約4割 ・不明の3.5%は「利用していない」か? ・面接授業での利用が約8割 ・図書、雑誌の利用が約半数 ・自主学習、サークル活動などで居場所として活用?はい 17.5% いいえ 82.5% 12.6 0.8 7.1 8.7 11.8 22.0 33.1 40.9 29.1 25.2 8.9 2.0 4.9 9.9 10.3 24.1 19.7 17.7 28.6 42.4 0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 その他(具体的に) 自宅にPCやタブレットがないから 毎回の授業に小テストがあるから 知らなかったから 印刷教材がないから 毎回の授業参加しなければならないから 学習センターで面接授業を受けたいから パソコンの操作に不安があるから 従来の授業の方が好きだから 履修したい内容の科目がなかったから 男性 女性 N=330 単位:% (複数回答)