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イランにおける海事産業の課題と今後の協力可能性に関する調査

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は じ め に

イランと国連安全保障理事会常任理事国(米、英、仏、露、中)に独を加えた 6 か国(P5+1) は、2015 年 7 月 14 日、包括的合同行動計画(JCPOA)の最終合意に達しました。JCPOA の承認は、国連安全保障理事会が 7 月 20 日に、米国議会が 9 月 17 日に、イラン国会が 10 月 13 日に行い、10 月 18 日が採択日となりました。イラン側及び欧米側の履行準備が 進み、12 月 15 日に国際原子力機関(IAEA)による報告がなされたことで、2016 年 1 月 16 日が履行日となりました。これを踏まえ我が国は 2016 年 1 月 22 日制裁解除を決定し ました。 イランは、人口約 7800 万人、日本の約 4.4 倍の国土面積を有しています。原油埋蔵量は 世界第 4 位、天然ガス埋蔵量は世界第 1 位です。我が国のイランからの石油輸入量は経済 制裁によって減少はしましたが、これまでも重要な石油輸入国の一つでありました。今後、 制裁解除によって石油や天然ガスの我が国への輸入量の増加が見込まれます。 イランは、経済制裁を受けていたため施設の老朽化、低い生産性など多くの課題を抱えて いますが、制裁解除により、今後、エネルギー、鉱業、インフラ、輸送、環境、医療、食品、 日用品、観光、物流等、多種多様な分野において、豊富なビジネス機会が生じることになる と予想されます。イランは経済制裁を国内生産自給化の好機と捉え、鉄鋼、造船、石油産業 等の自給経済を加速させてきましたが、技術力やマネージメントにおいて十分なレベルには 達していないため、最新技術を有する欧州及び我が国からの投資及び協力の期待は大きいも のがあります。また、イランには、若年層が比較的多いため消費市場としても有望です。 このようなことから、平成 26 年度(2014 年度)に、イランの経済社会の動向も含めた同 国の海事産業の現状及び動向に関する基礎調査を行いましたが、平成 27 年度(2015 年度) には、JCPOA の最終合意等の動きを踏まえ、今後の我が国における同国海事産業への関わ り方について検討を進めるために、イランにおける海事産業の課題と今後の協力可能性につ いて調査を行いました。 今後、我が国海事関係者が、イランを含む中東地域全体の動向を踏まえ、これらの国々が 安定して経済発展に向けて大きく動き出すことに寄与する方向で、本報告書をご活用いただ ければ幸甚です。 ジェトロ・シンガポール事務所船舶部 (一般社団法人日本中小型造船工業会共同事務所) ディレクター(船舶部長)池田 陽彦

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目 次

1. イラン核問題最終合意と経済発展の展望 ... 1 1.1 イラン核問題最終合意 ... 1 1.1.1 協議の交渉経緯 ... 1 1.1.2 協議において合意された内容 ... 4 1.1.3 主要国の動勢 ... 9 1.2 経済発展の展望 ... 16 1.2.1 経済の主要指標の変動・経緯 ... 16 1.2.2 制裁によって影響を受けた分野 ... 23 1.2.3 制裁解除によってもたらされる変化の可能性 ... 28 2. イランの海事関連機関および産業の動向 ... 31 2.1 海事関連機関 ... 31 2.1.1 商業・工業鉱山省の組織 ... 31 2.1.2 石油省の組織 ... 32 2.1.3 道路・都市開発省の組織 ... 33 2.1.4 港湾海事局の組織 ... 34 2.1.5 産業開発革新公社(IDRO) ... 35 2.2 外航海運 ... 37 2.2.1 NITC ... 38 2.2.2 IRISL ... 38 2.2.3 外国海運会社 ... 39 2.3 造船 ... 40

2.3.1 Iran Shipbuilding and Offshore Industries Complex Co., (ISOICO) ... 41

2.3.2 The Iran Marine Industrial Co., (SADRA) ... 42

2.3.3 SAFF Offshore Industries Co. (SAFF) ... 42

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2.4 オフショアエンジニアリング ... 45

2.4.1 SAFF グループのオフショアエンジニアリング子会社 ... 45

2.4.2 Iranian Offshore Engineering and Construction Company (IOEC) ... 47

2.4.3 Darya Banrdar Nab Kish ... 48

2.4.4 Daryakoosh Company ... 48

2.5 探査・掘削・生産会社 ... 48

2.5.1 Khazar Expl. & Prod Co. ... 49

2.6 海運・造船・海洋産業を支える組織・産業 ... 51

2.6.1 造船・海洋エンジニアリング協会 ... 51

2.6.2 イラン船級協会 ... 51

2.6.3 シャリフ工科大学 ... 51

2.6.4 イラン海洋基金(Iran Marine Fund) ... 51

2.6.5 Tidewater ... 53 2.6.6 舶用工業 ... 53 2.6.7 海事産業を支える製鉄業等の素材産業 ... 54 2.6.8 イランの海事人材育成 ... 55 2.7 漁業及び漁船 ... 56 2.8 港湾 ... 57

2.8.1 イマム・ホメイニ港 (Special Economic Zone) ... 60

2.8.2 コラムシャフール港 (Free Trade Zone) ... 62

2.8.3 ブーシェフル港 (Special Economic Zone) ... 64

2.8.4 レンゲ港 ... 65

2.8.5 シャヒド・ラジャイ港 (Special Economic Zone) ... 67

2.8.6 チャバハール港 ... 68

2.8.7 アンザリ港 (Free Trade Zone) ... 70

2.8.8 ノシャフール港 (Special Economic Zone) ... 71

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3. イランにおける海事産業の現地調査 ... 75 3.1 首都テヘランにおける現地調査 ... 75 3.1.1 各国及び日本の動き、イラン側の現状等 ... 75 3.1.2 イラン側海事関係機関のニーズ ... 76 3.2 バンダルアバス等における現地調査 ... 78 3.2.1 バンダルアバスの造船所 ... 78 3.2.2 ケシュム島の造船所 ... 79 3.3 制裁解除後のイランへの投資に関する会合・展示会 ... 80 4. イラン海事産業の課題と協力可能性 ... 81 4.1 これまでの日本の経済協力及び技術協力 ... 81 4.2 今後の経済協力及び技術協力の可能性 ... 82 4.3 海運 ... 83 4.4 造船所 ... 83 4.5 港湾 ... 84 4.6 人材育成 ... 85 おわりに ... 86 資料編 ... 87

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3 イランにおける海事産業の現地調査

2015 年 10 月下旬から 11 月上旬にかけて現地調査を実施した。首都テヘラン、バンダルアン ザリ港、バンダルアバスの造船所等を訪問し、制裁解除を見越した海事分野に関するイランと 日本との協力関係推進の可能性について調査を行った。 また、キッシュ島で開催された制裁解除後のイランへの投資に関する会合・展示会に参加し た。

3.1 首都テヘランにおける現地調査

在テヘラン日本国大使館、JICA、JETRO において、核協議合意後の各国及び日本の動き、 イラン側の現状、今後の取組みの方針等について情報を得るとともに、石油・ガス、陸上のイ ンフラ関連以外に、海事分野についても政府間の協力及び民間同士の協力の可能性があること について認識の共有を図った。 イラン側海事関係機関への調査においてはニーズ把握に重点を置いて、自動車、造船等の主 要 産 業 を 傘 下 に 擁 す る 巨 大 な 政 府 組 織 で あ る 産 業 開 発 ・ 革 新 庁 (IDRO : Industrial Development & Renovation Organization)、石油省技術部(Technology Affairs Administration, Ministry of Petroleum)、イラン海洋基金(Iran Marine Fund)、Supreme Marine Council、シ ャリフ工科大学(Sharif University of Technology)等を訪問した。

海運会社として、世界有数のタンカー会社 NITC(National Iranian Tanker Company) 及び多 数のコンテナ船等を運行する海運会社 IRISL(Islamic Republic of Iran Shipping Lines)を訪問 した。

造船所及び海洋開発企業として、中小型船舶を建造する民営造船会社 Daya Bandar Nab Kish、カスピ海側の海洋開発企業の Khazar Expl. & Prod.Co.、ペルシャ湾側の海洋開発企業 SAFF Offshore Industries Co.、並びに、港湾荷役作業を実施する港湾管理会社 Tidewater のテ ヘランにある本社を訪問した。

3.1.1 各国及び日本の動き、イラン側の現状等

2015 年 7 月 14 日、イランと米国等 6 か国(米露中英仏独)との核協議の合意は、国際社会 に大きなニュースとして伝えられ、欧州各国は合意後直ちにイランに閣僚クラスのミッション を派遣し、制裁解除後の経済関係構築に向けて動き出している。ドイツ、フランス、イタリア 等の欧州各国は核協議が合意された後早々とイランにミッションを送った。特にドイツは核合 意直後の 7 月 19 日、副首相兼経済相が大規模な政治経済代表団を率いてテヘランを訪問するな ど、核協議に参加していた交渉国の強みを生かして迅速に行動し、既に、ドイツのノルディッ ク造船所はイランの ISOICO と造船提携に関する覚書を交わしている。 日本も 8 月に山際経済産業副大臣ミッション、10 月に岸田外務大臣ミッションを派遣。大使

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76 館、JETRO への訪問者も 8 月後半から増え、石油ガスはもちろん、機械、車、プロジェクト保 険等の関係者も活動を始めている。日本の企業は横並びで全般に慎重。銀行も米国を意識して 慎重であり、政府や企業関係者からは積極的に対応することが求められている。 イランではブランドとして日本とドイツが強い。ついで他の欧州、韓国、ロシア、中国。日 本の外相訪問はメディアが大きく報道した。経済副大臣の時も扱いは大きかった。韓国はメデ ィアではあまり目立っていない。イラン側の要求は外貨。プロジェクトの実施に当たっては資 金を持ってきてほしいとのスタンス。凍結資産は 1000 億ドル(120 円換算で 12 兆円)。これは 総額で、全部が解除されるわけではない。イランの中央銀行が言っている額は 290 億ドル(120 円換算で 3 兆 4800 億円)。日本とイランは投資協定を協議中。これによりイランにある財産の 保全を図る。イラン側は加工貿易、自動車、鋼材などに関心を有している。

3.1.2 イラン側海事関係機関のニーズ

シャリフ工科大学がイランの海事産業について検討したところによると、需要を呼び込む競 争力、サプライチェーン、造船業に銀行が融資を行おうとしないことなどの資金面、マネージ メント及び人材の生産性に課題があるとしている。今後のマスタープランとして、世界の造船 業のシェアの 1%の獲得、造船業の生産性を 2 倍にすること、サプライチェーンの 50%を国内 で賄うこと(現在は 20%。人件費を含まない費用換算値)、R&D に収入の 3%を投資すること を掲げるべきであり、これを達成するために政府からの投資も必要と考えている。 図 3- 1 調査にご協力いただいたシャリフ工科大学のセイフ教授(右から 3 人目)と 舶用機器販売業を営むディガーニ氏(右端)(2015 年 10 月) 造船業を傘下に擁する産業開発革新公社(IDRO)は、イランの造船業を今後どのようにする - 76 -

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か戦略的に考えようとしており、中小型船舶については新造船を自国で建造することはできる が、大型船については、東アジアの主要な造船国のように短い納期で建造することが困難であ ることから、バンダルアバスの造船所で新たに建設した 2 つの大型ドックは、まずは修繕ドッ クとして運用することを考えている。また、マネージメント、現場技術者等の能力向上に関し て、我が国の有力造船所との協力関係の構築を望んでいる。

図 3- 2 イラン造船業の戦略を語った IDRO の Energy and Infrastructure Project Development を統括する Vice President(左から 2 人目)(2015 年 11 月)

海運会社の NITC(National Iranian Tanker Company) 及び IRISL(Islamic Republic of Iran Shipping Lines)は、制裁解除を見越して大量の船舶建造を予定している。特に NITC は VLCC の建造について、日本に高い関心を有しており、我が国造船関係者が積極的にこれらの海運会 社との関係づくりをされることが期待される。

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3.2 バンダルアバス等における現地調査

ペルシャ湾に面するバンダルアバスの造船所、バンダルアバスの沖合のペルシャ湾に浮かぶ ケシュム島の造船所を訪問した。また、カスピ海に面するバンダルアンザリ港(2.8.7 参照)を 訪問した。 図 3- 4 バンダルアバス、ケシュム島、バンダルアンザリ港等の位置

3.2.1 バンダルアバスの造船所

バンダルアバスにはイラン最大の造船所であるイラン造船&海洋産業複合企業体(ISOICO: Iran Shipbuilding & Offshore Industries Complex Co.)がある。傘下に 6 つの子会社を持つ。 制裁解除の動きの中でドイツのノルディック造船所、韓国の現代重工、ロシアのクラースニ エ・バリカディ造船所、イタリアのフィンカンティリ造船所など、各国の造船所との協力関係 構築に向けた取り組みを加速させている。(2.3.1 項参照) 図 3- 5 海洋構造物の建造、船舶の修繕が行われている ISOICO の全景(2015 年 11 月) 図 3- 6 建造中の海洋構造物(左)及び造船・修繕施設と接岸中の船舶(右)(2015 年 11 月) - 78 -

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広大な ISOICO の敷地内にあって、海洋開発分野を業務とする SAFF Offshore Industries Co. のヤードでは、石油ガス関連の巨大なプラント構築物の建造が行われていた。イランは石油ガ ス事業、海洋開発事業においては、経済制裁下に技術力を高め、自給経済を加速させてきた様 子が覗えた。

図 3- 7 SAFF Offshore Industries Co.で建造されている石油ガス関連のプラント構築物(左) と 吊能力 3000 トンのクレーン船(右)(2015 年 11 月)

3.2.2 ケシュム島の造船所

ケシュム島にはSAFF Offshore Industries Co.のグループ会社で、海洋開発構造物等を建 造するNaft Sazeh Qeshim Co. (2.4.1 参照)がある。

また、ケシュム島の沿岸部には FRP 漁船を建造している複数の造船所があり、ペルシャ湾に 面する港湾都市ブーシェフル(Bushehr)周辺の造船所で建造されている FRP 漁船(2014 年度 の調査報告参照)と同じような大きさ、船型のものと視認された。

図 3- 8 Naft Sazeh Qeshim Co.で建造中の固定式プラットフォーム用ジャケット(左)及 び沿岸部の複数の造船所で建造されている FRP 漁船(右)(2015 年 11 月)

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3.3 制裁解除後のイランへの投資に関する会合・展示会

2015 年 11 月 10 日及び 11 日にキッシュ島で Kish Invex 2015 – Post-Sanction Iran Economy, Kish the Gate Summit が開催され、合わせて 7th International Exhibition for

Presenting Iran’s Investment が開催された。

会合には、イランの各地域から多数の参加者があり、海外からはドイツ、フランス、イタリ ア、スイス、英国、香港、ドバイ等の投資コンサルタント会社、銀行関係者等が参加した。投 資コンサルタントは、複数の顧客を伴って参加していた。 展示会においては、イランの各地域や経済特区が展示ブースを設けて、地域の産業及び投資 に関する優遇措置を紹介し、自分の地域への積極的な投資をアピールしていた。また、港湾海 事局(PMO)等の政府機関も展示ブース設けて、イランへの積極的な投資を求めていた。 図 3- 9 キッシュ島で開催された Kish Invex 2015 – Post-Sanction Iran Economy, Kish the Gate Summit (左)と投資促進の展示会(右)(2015 年 11 月)

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4 イラン海事産業の課題と協力可能性

4.1 これまでの日本の経済協力及び技術協力

日本では、1958 年 12 月 9 日の日本・イラン経済技術協力協定の署名以来、2013 年度までで 累計 34.93 億円の有償資金協力、70.37 億円の無償資金協力、そして 273.45 億円の技術協力を 実施してきた(政府開発援助(ODA)国別データブック 2013 より)。また、2005 年に JICA 駐 在員事務所(現 JICA 事務所)を開設し、支援体制の拡充を図った。 表 4-1 イランへの経済協力 日本は、イランの経済社会文化開発 5 か年計画および 1999 年 7 月に実施した経済協力政策協 議の方針に沿った支援を実施する方針である。経済協力政策協議を踏まえた援助重点分野は、 国内産業の育成、都市と農村の格差是正、環境保全、水資源管理および防災の 5 分野である。 また、核開発問題をめぐり、イラン政府に対する新規の無償援助、資金援助、借款の供与は、 人道・開発目的のものを除いては行わないよう要請する、安保理決議第 1747 号(2007 年 3 月 25 日採択)を受け、従来は人道・開発目的の技術協力を中心に支援を行ってきた。2001 年~ 2014年の間、イランに対して実施された ODA 案件は 126 件であり、内訳は、有償資金協力が 0件、無償資金協力が 117 件、緊急援助が 7 件(2002 年、2003 年、2006 年、2012 年の地震に 対する援助)、技術協力が 2 件(2002 年)であった。 イランに関連する海事関連の ODA では、次のようなものがある。

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82 表 4-2 海事関連の ODA 案件名 期間 概要 アフガニスタン 支援(港湾) 2010年 8 月 1 日~ 2013年 3 月 31 日 アフガニスタンは内陸国であり、その物資の輸送に あたっては、イラン、パキスタン等の近隣国の港湾 及びそのアクセスに大きく依存する。中でも、特に イランはバンダラ・アバス港、チャバハール港等を 有しており、アフガンへの輸送の一つの大きな拠点 となっているとともに、近年、コンテナ等の取扱量 が急激に増加している。 しかし、イラン国では永らく欧米諸国との交流が制 限されてきたため、イラン国内の港湾運営の近代化 に必要な人材やノウハウが蓄積されず、港湾の運営 が効率的に実施できていない状況であった。このた め、イラン国港湾の国際競争力低下等が問題となっ ている。 このような背景の下、イラン国より港湾の維持・管 理、運営能力のための人材の育成・強化を目的とし た本案件の要請が上げられ、アフガニスタン支援に も資することから、JICA はそれを実施することと した。 出所:JICA

4.2 今後の経済協力及び技術協力の可能性

当調査でのヒアリングを通じ、イランでは経済特区が多数設定されており、それぞれの経済 特区が海外からの投資を呼び込もうとしているが、個別に競い合っているように見受けられた。 日本政府や日本の企業がイランの開発計画に参画する場合には、その開発計画が日本にとって 戦略的に重要であり、かつイランの今後の発展に大いに寄与するものであることが必要である。 また、既に欧州各国、中国、韓国等が、イランとの協力関係強化に動いているため、これら他 の国々の動きを踏まえて、日本が主導権を得られる協力分野を選定する必要があると考える。 日本にとってイランとの今後の関係づくりの重要なポイントは、中東における地政学的な位 置付けをにらみ、中東全体の今後の安定に向けた外交面、政治面での協調関係・協力関係の構 築であると考える。それを踏まえた上で、石油・ガス等のエネルギー資源供給国としてのイラ ンとの良好な経済関係、それに寄与する海運・造船・港湾といった海事関係部門の協力や、こ れらに連動する鉄道・道路等の物流関連インフラ整備の協力といった分野が、今後の支援内容 として挙げられる。 そういった観点から、イランの全国運輸(港湾・鉄道・道路・空港)に関して、今後の技術 協力や円借款の可能性を検討するにあたっては、全国的な物流計画を踏まえた上で、イランが 世界的な国際物流に力強くリンクしていく協力構想に根差す必要がある。そして、このような 長期的なイランの経済発展に寄与する物流マスタープラン等の計画の立案に加えて、早期の効 果発現が期待される短期的な支援が必要であり、これらの長期的および短期的な支援の両軸を 一体的に進めていくことが有効と考える。 開発資金に付いて、イランは既に中進国であり、今後 ODA による支援は 5~10 年程度で終了 - 82 -

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すると考えられる。民間資金の活用は、投資を呼び込みたいイランにとっては善報であるが、 ODA については、ある程度高度な技術を要する支援について活用したいとイラン側は考えてい るようである。また、投資額には限界があるため、それを効率的に活用すること、すわなち、 選択と集中をしっかりと考慮する必要がある。 JICA では下記の支援の意義のもと、第 5 次 5 ヵ年計画(2011~2016)の重点政策として、 科学技術開発、社会開発、管理・行政システム開発、経済開発(防災含む)、地域開発(環境保 全含む)、法制度整備等を、今後も進めていく予定である。 <支援の意義> ① 中東地域における大国としての重要性(Next Eleven の一国)  開発ポテンシャルの高さ、技術レベルの高さ、質の高い労働力  約 8,000 万人、平均年齢 27 歳の人口を抱える魅力的な市場、日本企業進出の足掛かり ② 我が国の原油約 1 割の供給源としての重要性  石油(世界第 4 位)および天然ガス(世界第1位)埋蔵量(2014 年)  ホルムズ海峡を擁し、ペルシャ湾沿岸諸国で産出する石油の搬出路としての重要性 ③ 国際社会の責任のある一員としての役割を果たすように促す必要性  人道支援分野、経済開発分野での協力を通じた対話の継続

4.3 海運

NITC 等へのヒアリングから、新造船および既存船の改良・修繕に関する日本製船舶のニーズ が高いことが分かった。新造船については、燃費効率、安全性、排ガスが少ないといった品質 の高さが既に認識されており、需要の高さを確認した。また、既存船の改良・修繕についても、 エネルギー効率の向上等に関してニーズがみられる。 ただし、中国や韓国の船舶と比べると、日本の船舶は船価が高いとの印象が強い。初期投資 だけではなく、メンテナンスに要するコストを考慮すると、トータルコストとしては決して高 くは無いといった正確な情報の共有を行いながら、海運産業に対し協力を進めていくことが望 ましい。

4.4 造船所

シンガポールもドバイも現在飛躍的な経済発展を遂げているが、ともに造船施設を有し、修 繕業で世界的に確固たる地位を築いている。シンガポールは修繕拠点を整備し、燃料補給基地 としての機能を充実させることで、海運会社の寄港地として、あるいは統括機能を備えた海運 企業の拠点として発展している。イランにおいても、海事産業のポテンシャルは高いと関係者 は口をそろえる。世界有数の埋蔵量を持つ天然ガスは、外国メジャーの撤退、更には必要な資 材の輸入ができないため開発が進んでいないが、制裁の撤廃後は、天然ガス輸送の LNG 船の需 要は大きく、既に NITC は LNG 船の調達に動き出している。また、イラン船級協会によると、 向こう 10 年間で、漁船・オフショア支援船・小型フェリー・汚染対策船・タグボート等の造船 需要があるとしている。

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84 しかし、イランの造船業が抱える最大の課題として納期(建造期間)の長さが挙げられる。 イラン国内では舶用機器がスムーズに調達できないことも背景にあるが、船 1 隻の建造に数年 かかっているのが現状である。また、船舶の検査にも課題がある。多数のタンカーを所有する NITC は「国内で建造する船舶の検査を受けるイラン船級協会が、国際船級協会連合に入ってい ないため NITC の船の検査を任せられない」という。NITC が必要とする船をイランの造船所 で建造する能力が不足していることも確かだが、造船所と船級協会の能力は共に発展していく ことが望ましい。 以上から、今後の造船業の発展においては、サプライチェーン・マネジメントやプロジェク ト・マネジメントに係わる人材育成が重要と考える(詳細は 4.6 項参照)。加えて、今後のイラ ンの造船業をどのように進めるべきか、戦略的に検討するが重要である。イランにおける A) 豊 富な労働力、B) 高い工業力、C) 国内市場の存在等の特徴を踏まえると、将来的には国内市場が 小さく労働力も外国人労働者に頼らなければならないシンガポールやドバイに比べて、造船業 の発展のポテンシャルを秘めていると考える。ただし、建造に時間を要す等の技術的な課題を 踏まえると、まずは修繕を進めながら技術の向上・体制の構築を図り、将来的には新造を行う といった段階的な戦略が有効と考える。

4.5 港湾

イランの港湾整備はイランの全国的な物流予測に基づいて、実施されるべきであるが、その ような予測に関する資料は、今回の調査の範囲では目にすることはなかった。各港湾の整備は、 それぞれの州や都市が港湾を含む地域を経済特区として開発を進めており、全国的な物流計画 に基づいたものでは無いと考えられる。 港湾施設と関連するイランの物流を考えた場合、イラン自体の経済活動に伴う輸出入と、ペ ルシャ湾からイラン国内を通過してカスピ海沿岸国や中央アジアの国々とつながる物流の 2 つ が大きなものとして考えられる。 今後、港湾から内陸部への輸送を、鉄道輸送を中心に考えるのか、道路輸送を中心に考える か、あるいは一定の分担率で両方を利用するかなどに影響を受けるが、現段階において重点的 な港湾整備の候補地と想定される地域の特徴を以下に整理する。 - 現在及び将来の鉄道輸送能力がどの程度あるか詳細な確認が必要であるが、鉄道に比較 的アクセスし易い港は、ホルムズ海峡に近いシャヒド・アジャイー港(Shahid Rajaee Port)とペルシャ湾の奥にあるイマム・ホメイニ港(Imam Khomeini Port)である。シ ャヒド・アジャイー港からは、Sirjan、Yazd、Qom、Theran といった主要都市を結ぶ道 路も整備されているようなので、今後もシャヒド・アジャイー港が重要な役割をするの ではないかと予測している。 - チャバハール港(Chabahar Port)は、新たな開発計画のもと、インドからの投資も呼び 込んで、政策的に重点化する可能性がある。パキスタン、アフガニスタンの国境近くを 通る道路輸送により、中央アジアとの物流拠点となるのではないかと考えられる。 - 84 -

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- カスピ海側に関しては、アミラバード港(Amirabad Port)とアンザリ港(Anzali Port) の 2 か所がカスピ湾岸諸国との物流拠点として考えられるが、鉄道輸送を重点的に考え れば、鉄道が近くまで来ているアミラバード港が有利であると思われる。特に、鉄道車 両をそのまま船舶に載せて、カスピ海を渡って移動させ、中央アジアやロシア又はヨー ロッパへの鉄道輸送が行われるような物流が成り立つならば、鉄道が整備されているア ミラバード港をカスピ海側の重点港とする考えが成立すると思われる。 これらペルシャ湾岸及びカスピ海側の港湾整備に関しては、制裁解除後に経済発展が進み物 流量が格段に増加する際に、物流機能が経済発展のボトルネックにならないように効率的な資 金投入を図ることが重要と考えられる。このため、将来の物流量の予測に基づく戦略的な投資 計画が立案できるかどうかが、イランの課題ではないかと思われる。

4.6 人材育成

対イラン制裁の解除に伴い、貨物量の増大が見込まれており、業務の効率性を維持するため には造船所・港湾等のインフラ整備のみならず技術・サービスの向上が必要となる。技術的に 高度なシステムに対する要求が増し、また、世界的に海運業は労働力の高齢化に対してどう対 応していくかという新たな問題を抱えている。今後、海運業に携わる人材は新たなスキルを学 び、新たな技術を取り入れていく必要がある。 現地訪問時にも人材育成・技術移転の要望を強く受けており、各分野における支援が必要と 考える。下表に、人材育成・技術移転の具体的な内容を提案する。 表 4-3 人材育成・技術移転の具体的な内容 具体的な人材育成・技術移転の内容 造船分野 - サプライチェーン・マネジメントやプロジェクト・マネジメ ント(工期管理やコスト管理)の人材育成 港湾分野 - LNG・ガスキャリア等のデッキ作業員や管理者の能力向上 共通事項 - 資金調達や運用に関する人材育成 国土交通省では、日本商船隊への主要な船員供給国である東南アジア 4 カ国(フィリピン、 ベトナム、インドネシア、ミャンマー)を対象に、2010 年度から ODA 事業として船員教育機 関の教官を日本に招き、我が国教育機関において座学研修および乗船研修を実施している。イ ランにおいては、造船分野について、今後、ODA 事業を活用した人材育成・技術移転の実施の 可能性も考えられる。

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おわりに

本報告書は、経済制裁が解除されて今後様々な分野で発展が期待されるイランについて、核 問題最終合意と経済発展の展望、海事関連機関および海事産業の動向の情報を収集し、イラン の海事産業の課題と今後の協力可能性について考察を行い、取りまとめたものです。 日本の企業は約束を順守することや、日本製品は高品質であることから、イランの人々の日 本に対するイメージは非常に良く、国内産業の建て直しを図りたいイランは、雇用創出、技術 移転、経営ノウハウの導入等について、日本に大きな期待を寄せております。 一方、欧州等各国企業は、経済制裁解除後の経済発展を見越して積極的な関係構築を図って おり、イランにおけるビジネス展開は、これら各国企業との競争や、不十分・不透明な制度・ 規制、不安定な物価・為替などの課題を乗り越えながら進めることが必要になります。 日本との協力関係構築については、石油・ガス関連やインフラ整備関連で様々な動きが出て くることが予想されますが、今般のジェトロ・シンガポール船舶部の調査活動を通じて、日本 国大使館等の日本側関係機関とは、海事分野においても協力可能性があることについて認識の 共有を図ることができました。 具体的な分野としては、イランの海運会社における大量の船舶整備計画があり、イランの造 船所における大型船の修繕需要、中小型船の新造需要についてはこれまで取引ができなかった 舶用機器の供給など、我が国の造船・舶用関係者がイラン側の要望に応えていける分野が確か に存在しています。造船所のマネージメントに関しても日本の造船所からの協力に期待が寄せ られております。 現在、イランにおいては第 6 次 5 ヵ年計画が審議中です。港湾におけるコンテナ貨物量の今 後の増加を想定した港湾整備も行われていくことになります。とりわけチャバハール港を中心 とした地域の開発には積極的に取り組む可能性がありますが、この地域の安全性、安定性に関 しての課題も大きく、今後の方針決定に関しては注視をしていくことが必要と考えております。 今年度実施した「イランにおける海事産業の課題と協力可能性に関する調査」は、昨年度 (平 成 26 年度)実施した「イランにおける海事産業の現状及び今後の動向に関する調査」に続き 2 年目となります。イランの海事産業調査はこれをもって終了となりますが、昨年度の報告と合 わせて、本報告書がイランに関心ある方々にご活用いただけることを願っております。 今年度の調査においてもシェリフ工科大学のセイフ教授と舶用品に関する事業を行うディガ ーニ氏に大変お世話になりました。ここにご協力していただいたセイフ教授、ディガーニ氏に 心より感謝申し上げます。 また、本報告書の取りまとめ等にご協力いただいた関係者の皆様に深甚なる感謝を申し上げ ます。 - 86 -

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資料編

本資料は「イラン市場参入に向けたジェトロの活用」(ジェトロ・テヘラン事務所長 中村 志信 2016 年 2 月 5 日)のイランの経済動向に関する部分の抜粋です。

イランとトルコ、サウジアラビアとの比較

国名 イラン・イスラム共和国 トルコ共和国 サウジアラビア王国 面積 約 164 万 km2 (日本の約 4.4 倍) 約 79 万 km2 (日本の約 2 倍) 約 215 万 km2 (日本の約 5.6 倍) 人口 7,840 万人 7,770 万人 3.077 万人 首都 テヘラン アンカラ リヤド 言語 ペルシャ語 トルコ語 アラビア語 宗教 イスラム教(主にシーア派) イスラム教 イスラム教 実質 GDP 成長率(注) 2.97% 2.90% 3.59% 名目 GDP 総額(注) 約 4,041 億ドル 約 8,061 億ドル 約 7,525 億ドル 一人当たり名目 GDP(注) 5,183 ドル 10,482 ドル 24,454 ドル (注)人口および GDP 関連統計はいずれも 2014 年 出所 :IMF、各国統計機関

中東におけるイラン

出所:IMF

(19)

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イランの主要国別輸出入

出所:イラン税関

日本とイランの輸出入額推移(1995 年~2014 年

(20)

各国の対イランビジネス(輸出額)

イランの主要品目別輸出入

出所:*はイラン中央銀行(国際収支統計)。その他はイラン税関(輸出は石油部門のみ公表。 通関ベース)

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日本の対イラン主要品目別輸出入統計

出所:財務省「貿易統計(通関ベース)から作成

イランの人口ピラミッド

出所:イラン統計年鑑 - 90 -

(22)

この報告書は、ボートレース事業の交付金による日本財団の助成金を受けて作成しました。

イランにおける海事産業の課題と

今後の協力可能性に関する調査

2016 年(平成 28 年)3 月発行 発行 一般社団法人 日本中小型造船工業会 〒100-0013 東京都千代田区霞が関 3-8-1 虎ノ門三井ビルディング TEL 03-3502-2063 FAX 03-3503-1479 一般財団法人 日本船舶技術研究協会 〒107-0052 東京都港区赤坂 2-10-9 ラウンドクロス赤坂 TEL 03-5575-6426 FAX 03-5114-8941 本書の無断転載、複写、複製を禁じます。

(23)

図 3- 3 大量の船舶建造を予定している NITC の調達及び技術に関する主要幹部( 2015 年 10 月)
図 3- 8 Naft Sazeh Qeshim Co. で建造中の固定式プラットフォーム用ジャケット(左)及 び沿岸部の複数の造船所で建造されている FRP 漁船(右)( 2015 年 11 月)

参照

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