運転支援がリスク補償行動に及ぼす影響
情報提供方略の検討
増田貰之
立教大学大学院 現代心理学研究科芳
賀
繁
立教大学現代心理学部國分
輝
(株)豊田中央研究所 人間特性基盤研究室E
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MASUDA Takayuki
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KOKUBUN M
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Graduate School of Contemporary Faculty of Contemporary Psychology, Toyota CentralR&D Labs.,Inc. Psychology,Rikkyo University Rikkyo University HumanFactors FundamentalResearchLab.
Currently, various driverassistancesystems areunderdevelopment to make driving safer. However, the potentialeffect on safety of suchsystems might be reducedbecause of risk compensation behaviorby drivers. Thisstudyinvestigatedthe effect ofdrive:rassistance systems on risk compensationbehavior usinga computer display. The effect ofdifferent informationproviding strategies at anintersectionwas compared. The experimental conditions were (I)normal information, (2)detailed information, (3) restrictedinformation, and (4)no information. The resultsshowed thatparticipants"looked" significantlyless inthe"detailed information" conditionthanin other conditions. The difference in thenumber of collisions was not significantbetween thiscondition and the"no information" condition, while thenumber of collisions was significantlyreduced in the "normal" and "restricted" information conditions. Thesefacts implythatthe degreeofriskcompensationmightvarydependingon informationprovidingstrategies. Additionally, we proposea hypothetical model forpromoting/preventingrisk compensationbehavior basedon the results of this experiment. Keywords : risk compensation,driver assistance system, informationproviding strategy, laboratory experiment 問 題
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自動車交通の現状 交通行動は、人間の生活領域のなかでも、「衣・食・ 住」と並ぶ重要な構成要素である「移動(モビリティ)」 にかかわっている(蓮花, 2000)。その中でも自動車は、 日常生活、産業現場など多くの場面で用いられてお り、現代人の生活と切り離せないものとなっている。 しかし、車社会が現代人の生活を豊かにしている反 面、交通事故が社会問題になっているのも事実であ る。 1992 年の時点で 10,000 人を超えていたわが国の交 通事故死者数は 2008 年の時点で 5,744 人 (ITARDA: 財団法人交通事故総合分析センター, 2008) となり、 54 年ぶりに 6,000 人を下回った。また、事故件数について も 2006 年の 886,864 件か ら 2007 年の 833,019 件 (IT ARDA, 2008) と、ここ最近ようやく減少がみられ るようになった。しかし、依然として多くの命が交通 事故によって失われているのが現状である。 このような状況の中、現在様々な自動車運転支援シ ステムが実用化されつつあり、道路交通の安全性向上交通心理学研究 24 巻l 号 2008 年
に寄与することが期待されている。例えば、 PCS (Preュ
Crash Safety System)、 LKA (Lane Keep Assist) 、 LOW (Lane Departure Warning) 、 NV (NightVision) など の車載装置はもちろん、道路インフラ協調型の DSSS (Driving SafetySupport Systems) も現実のものとなり つつある。 一方で、システム導入に伴う運転者の心理的な変化 によって期待される効果が得られない可能性も指摘 されている。 2. 運転支援システムとリスク補償 運転支援システムが導入されても、それによって主 観的な交通事故のリ スクが低減された結果、 運転者が 自身の行動をリスキーな方向にシフトさせること (リ スク補償行動)により、結果として期待される事故 低減効果を得られない(リスク補償)可能性があるこ
とが懸念されている (Rudin-Brown
&
Parker, 2004; 國分, 2005)。 このような現象が生じる理由の一つとしては、以下 のようなメカニズムが想定されている (Fig. I)。運転 者は自身が受け入れることのできる主観的なリスク 水準を持っている(リスクの目標水準)。運転者はリス クの目標水準と実際に知覚されたリスク水準とを比 較し、両者が一致するように調節行動を行う。すなわ ち、知覚された リスク水準がリスクの目標水準よりも 低ければよりリスキーな方向に行動をシフトさせる ことによって、知覚されたリスク水準がリスクの目標 水準よりも高ければより安全な方向に行動をシフト させることによって両者を一致させることになる。こ のメカニズムは、リスクホメオスタシス理論と呼ばれ ている (Wilde,1
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2001)。 Wilde (1982) によると、交通事故リスクに関するリ スクの目標水準とは、個々の運転者が利益 (時間の節効用'疇
ー·--キ--- -, 知覚されたリスク' ー'
.. --水準 ,'
--.---•一 環墳に内在するリスク (Intrinsic risk) Fig. I. リスク補償のモデル; Wilde (1982) を改編 約、経済的利益、好奇心などの欲求を満たすことなど) とコスト(事故の危険性など)の差が最大化すると信 じる(すなわち運転者の効用を最も高める)主観的な リスク水準である。また、運転者の知覚されたリスク 水準は、環境に内在するリスク (intrinsicrisk) に影響 を受ける。これらの要因とリスク補償の関係について は、後述の先行研究において検証が行われている。3
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先行研究と問題 環境に内在するリスクやそのリスクの知覚が変化 することにより、リスク補償およびリスク補償行動が 生じることが、 主にドライビングシミュレータを用い た実験室実験において検証されてきている。例えば、 Hoyes,Stanton& Taylor (1996) は、環境に内在する リスクとして追い越しの時間的余裕(先行車の速度) を操作し、時間的余裕が大きい条件で、リスキーな追 い越し(対向車が見えている状況での追い越し開始) 回数が多いこと、 追い越し中の他車や縁石との衝突が 多いことを明らかにした。この結果は、追い越しの時 間的余裕が大きい状況において運転者の知覚された リスク水準が低くなり運転者はリスキーな方向に行 動を調節したが、過剰に調節を行ったために、 かえっ て事故回数が多くなったということを示していると 考えられる。同様に、 Stanton & Pinto(2000) は、 Vision Enhancement System(VE) の装備の有無に よって環境に内在するリスクを操作し、運転行動の変 化を検証した。実験の結果、 VE が装備されていると、 夜間や霧の条件において、日中と同様の速度で走行す ることを明らかにした。この結果についても、VEの装 備によって運転者の知覚されたリスク水準が低くな り、運転者がリスキーな方向に行動を調節したことを 示していると考えられる。さ らに、 Hoedemaeker & Brookhuis (1998) は、 ACC (adaptive cruise control) の装備の有無による運転行動の変化を検証した。実験 の結果、 ACC を装備した場合、 ACC を装備しない場 合に比べて走行速度が速くなるという結果が得られ た。この結果についても、 ACC の装備によって運転者 の知覚されたリスク 7k準が低くなり、その結果、 運転 者がリスキーな調節行動を行ったことを示している と考えられる。 上述のように、これまでの研究において、何らかの 実験条件の操作によって環境に内在するリスクを操 作することで、知覚されたリスク水準とリスク補償の関係が検証されてきた。このようにリスク補償行動に より安全対策から期待された効果を得られないとい う現象が存在する中で、リスク補償を生起および促進 させないための方法や、リスク補償を抑制し、期待さ れる安全対策の効果を得るための方法が望まれてい る。しかし、これまでの研究ではリスク補償の抑制・ 促進要因は検討されてこなかった。 そこで、本研究は、リスク補償の抑制・促進要因の 検討を行うことを目的とした。これまでの運転支援シ ステムは、前述の LKA のような運転操作を支援する ものが主であった。しかし、今後は交差点などにおけ るインフラ協調型の接近車情報のような、運転者の知 覚、判断に影響を与える可能性のある運転支援システ ムが導入されることが予想される。したがって、本研 究においては交差点通過場面を取り上げ、特に、接近 車情報の提供方略のリスク補償に対する促進・抑制効 果について検討することを目的として実験を行った。 本実験では、より詳細な情報提供がリスク補償行動 (確認行動の減少)を促進すること、安全行動(確認行 動)を怠った際の情報提供の利用制限がリスク補償 行動を抑制することを検証した。 なお、リスク補償行動の生起程度には個人差がある と考えられるため、質問紙調査によって測定した個人 特性とリスク補償行動との関係についても検討を 行った。 方 法
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実験参加者 普通自動車免許を保有する、男性 9 名、女性 15 名 (平均年齢 22.6 歳、標準偏差= 2.5; 平均保有年数 3.1 年、標準偏差= 2.1) であった。 2. 実験装置M
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6.0 を用いて作成された実験 課題がインストールされたノート型パーソナルコン ピュータ (NEC 社製 Lavie LL550/C) に、 USB モバ イルコントローラー (SANWA
SUPPLY 社製 JY PMUW) を接続し、実験課題の制御を行った。また、実 験画面は、ノート型パーソナルコンピュータに接続さ れた l7 型液晶ディスプレイ (EIZO 社製 FlexScan L461) に表示された。3
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実験課題 実験参加者の課題は、 ディスプレイに表示される交 差点で、左右を通過する車にぶつかることなく自車 を、交差点を下から上へ渡って通過させることであっ た。実験参加者の操作する車は、ボタンを押すと移動 を開始し、一時停止線から交差点の手前まで進んだと ころで停止した。ここで、十字キーの左を押すと左の 視界が、右を押すと右の視界が広がり、左右の接近車 両を確認することができた。実験参加者が再びボタン を押すと、自車は通過を開始した。自車が通過中に他 の車両と接触すると通過失敗(事故)となった。通過 に失敗または通過が終了すると自車は元の位置に戻 り、同様に次の試行を行うことが求められた。 課題画面上で、自車の車頭が交差点に進入してから 車体全体が抜けるまでの時間は 2.03 秒であった。ま た、画面上、左から右方向への通過車両の車頭が確認 可能範囲に進入してから交差点に到達するまでの時 間は、速度によって最短で 0.58 秒、最長で 0.96 秒であ り、車頭が情報提供範囲に進入してから交差点に到達 するまでの時間は、速度によって最短で 0.82 秒、最長 で 1.36 秒であった。また、画面上、右から左方向への 通過車両の車頭が確認可能範囲に進入してから交差 点に到達するまでの時間は、速度によって最短で 0.74 秒、最長で 1.23 秒であり、車頭が情報提供範囲に入っ てから交差点に到達するまでの時間は、速度によって 最短で 0.99 秒、最長で 1.65 秒であった。 また、左右の通過車両は等速で移動したが、その速 度は上記範囲内でランダムに選択された。 ボタンを始めに押してから交差点通過を開始する までの時間(待機時間)、左右確認回数、事故回数、通 過回数が記録された。また、 l セッションは 3 分間、通 過に成功した際の得点は 100 ポイント、事故を起こし た際の減点は 50 ポイントであり、セッション中のポ イントと残り時間が画面右上に表示された (Fig.2)。 本実験において操作した条件は、接近車両の有無に 関する情報提供の有無およびその支援方略であった。 リスクホメオスタシス理論から、主観的リスクを低め るような運転支援を行うとリスク補償行動が生じる 可能性があると考えられる。そこで、本実験では、前 述のように、詳細な「青報提供によるリスク補償行動 (確認行動の減少)の促進効果を検討した(詳細条 件)。より詳細な情報提供は、実験参加者にとって主観交通心理学研究 24巻 1号 2008 年 的リスクを最も低め、リスク補償行動が促進されると 考えられた。また、リスクホメオスタシス理論から、リ スクの目標水準を下げることによってリスク補償行 動を抑制することができると考えられる。そこで、本 実験では、前述のように、情報提供を、 安全行動(確 認行動)をとっているときに制限することによるリ スク補償行動の抑制効果を検討した(制限条件)。情報 提供を、安全行動をとっているときに制限すること は、リスキーな行動(確認行動を減らすこと)のメ リットを減らすことになるため、そのほかの情報提供 の方略と比較してリスクの目標水準が低下し、リスク 補償行動を抑制すると考えられた。 以上の仮定を基に、本研究では通常条件、詳細条件、 制限条件という 3 種類の支援方略を設け、実験を行っ た。以下に、各条件についての説明を記述する。 通常条件はベースラインとなる条件で、左右から接 近する車両を目視(十字キー)による確認可能範囲よ りも一車両分遠方で検知してランプが赤く点灯し、車 頭が交差点に進入するとランプが消灯するというも のであった (Fig.2)。また、検知範囲内に複数車両が存 在する場合は先頭車両を検知対象とし、先頭車両の車 頭が交差点に進入した後は後続車両に対して継続点 灯した。これは、以下に説明する詳細条件、制限条件 でも同様であった。詳細条件は左右に4つずつランプ がついており、一番外側のランプが左右から接近する 車両を目視(十字キー)による確認可能範囲よりも一 車両分遠方で検知してランプが黄色く点灯し、交差点 に近づくにつれて濃い黄色、橙色、赤の順にランプが 順次点灯するというものであった (Fig. 3)。すなわち、 詳細条件は左右を通過する車両を一番初めに検知す るタイミングは通常条件と同じであったが、 位置情報 がわかるという点で通常条件よりも詳細なl青報を提 供した。制限条件は通常条件と同じ条件で通過車両を 検知したが、実験参加者が目視(十字キー) によって 左右どちらかを確認すると左右いずれの方向に進行 する通過車両に関しても情報提供が開始され、左右確 認をやめてから 2 秒経過すると情報提供が終了した。 このことによって、安全行動を怠った際の情報提供の 利用を制限した。 以上の 3 つの情報提供条件に加え、情報提供がなさ れない情報提供なし条件を加えた4つの条件で実験 が行われた。 残り時間遭得ポィノト
麻厄
Fig. 2. 実験課題前述の理由より、 本研究における仮説は、リスク補 償行動の生起の程度が、詳細条件>通常条件>制限条 件>情報提供なし条件の順になるというものである。
4
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ドライバー個人特性尺度 本実験では、 実験参加者の個人特性を測定する質問 紙として、中村・芳賀・横田 ・樋田 ・國分 (2006) によ る、ドライバー個人特性尺度を用いた。本実験は、実 際に運転を行うものではないが、 運転場面のひとつで ある交差点通過場面を模擬した課題を用いるため、 運 転行動との関連が想定されている質問紙によって個 人特性を測定することとした。ドライバー個人特性尺 度 (中村ら, 2006) は、 「攻撃的・競争的運転」、「ハザー ド知覚の失敗・遅れ」、 「自信と運転への興味」の3つ の下位尺度をもつ質問紙である。中村ら (2006) によ ると、 「攻撃的・競争的運転」は、 リスクテイキングと の関係が想定されている。リスクティキング傾向の強 い運転者は リ スクの目標水準が高いと考えられるた め、 「攻撃的・競争的運転」 の得点が高い実験参加者は リ スク補償行動を生じさせやすいと予想された。ま た、「ハザード知覚の失敗・遅れ」は、 交通状況からハ ザー ドを発見するのが遅れたり、 発見に失敗したりす ることとの関係が想定されている。また、「ハザー ド知 覚の失敗・ 遅れ」については、 増田 ・ 芳賀 ・ 國分 ・横 田 (2006) のドライビングシミュレータを用いた実験 の結果から、 その得点が高い運転者は、 積極的な視線 探索を行わない可能性が示されている。本研究はドラ イビングシミュレータを用いた実験ではないが、上述 の結果から「ハザー ド知覚の失敗・遅れ」の得点が高 い実験参加者は、 情報提供がなされると、 情報提供に 依存し、 確認行動を怠る可能性があると考えられた。 すなわちリスク補償行動を起こしやすいと考えられ た。さらに、 ドライバー個人特性尺度の「自信と運転 への興味」 は、 運転の自己技能の評価との関係が想定 されている。運転の自己技能の評価が高い運転者は、 リスクを低く見積もる傾向があると考えられるため、 リスク補償行動を生じさせやすいと考えられた。 5. 手続き 実験は、 練習セッション、本セッション、 質問紙調 査の順で行われた。 実験参加者は、 はじめに実験課題の操作方法、 情報 提供の仕組みについて説明を受けた。この際、 実験参 加者には、 課題の遂行に際してポイントを稼ぐように 残り時間獲得ポイント而
面
Fig. 3. 実験課題交通心理学研究 24 巻 l 号 2008 年 という教示は行わず、通過できると判断したら通過す るようにとだけ教示した。 各実験参加者は、操作の説明後に練習セッションを 行った。練習セッションは、情報提供なし条件と、通 常条件においてのみ行われた。これは、どの方略の情 報提供においても左右を通過する車両の検知の仕組 みは同じであるため、情報提供がなされない条件より も、 情報提供がなされる条件での練習が多くなること を避けるためであった。また、練習用セッションでは、 各条件ともに 3 回連続で通過に成功した時点で終了 するようになっており、情報提供なし条件、通常条件 の順番で行われた。練習セッション終了後、本セッ ションを行った。本セッションは各実験参加者が全て の条件で実験を行い、実験順序はカウンターバランス がとられた。 結果 1. 情報提供の効果 情報提供による、事故およびリスク補償行動の違い を検証するために、 1 セッション中の平均待機時間、平 均確認回数、通過回数、事故回数について、 1 要因分 散分析を行った。その結果、平均確認回数、事故回数 についで情報提供条件の主効果が有意であった(平 均確認回数:
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F(3, 69)= 11.15, p<.01,T
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I ;事故回 数: (F(3, 69)= 3.39, p<.05,T
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2)。記述統計値をT
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3 に示す。 Tukey 法による多重比較の結果、平均確認回数は情 報提供なし条件と通常条件、情報提供なし条件と詳細 条件の間に 1%水準で有意な差が、情報提供なし条件 と制限条件の間に 5%水準で有意な差が見られ、通常 条件、詳細条件、制限条件のすべてが、情報提供なし 条件よりも平均確認回数が少なかった。また、通常条 件と詳細条件の間に有意傾向が、詳細条件と制限条件 の間に 5%水準で有意な差が見られ、通常条件、制限条 件ともに詳細条件よりも平均確認回数が多かった (Fig. 4) 。 Tukey 法による多重比較の結果、事故回数は情報提 供なし条件と通常条件の間に 5%水準で有意な差が、 情報提供なし条件と制限条件の間に有意傾向が見ら れ、通常条件、制限条件ともに情報提供なし条件より も事故回数は少なかった (Fig.5)。T
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I. 平均確認回数に対する情報提供条件の効果 ソース 平方和 自由度平均平方 F 値 有意確率 情報提供 誤差 145.03 3.00 48.34 I 1.15.00 p<.01 299.07 69.00 4.33T
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事故回数に対する情報提供条件の効果 ソース 平方和自由度平均平方 F 値 有意確率 情報提供 39.36 3.00 13.12 3.39 .02 p <.05 誤差 266.89 69.00 3.87T
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3. 情報提供条件別各指標の値 事故回数 平均確認回数 12.00 10.00 0 0 0 0 0 0 8 6 4 平均確認回数 2.00 M SD Min Max 情報提供なし 7.71 3.16 I 00 14.00 通常 6 08 2.57 1.00 11 00 詳細 6 92 3.09 1.00 1300 制限 6 25 2.52 1.00 12.00 情報提供なし 7.59 5.86 2.13 29 44 通常 5.64 4.64 0.14 20.27 詳細 4.12 2.86 0.00 13.92 制限 5 83 4.24 1.33 17 85□
0.00 なし +;が.10,*:が.05,*
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;pく 01 00000000000000000000 ⑩ 0 9 8 7 6 5 4 3 2 1 0 事故回数 Fig. 4. 情報提供条件別の平均確認回数ロ
通常 詳細 情報提供条件 制限 +;,X.10,*,が.05 なし 通常 詳細 情報提供条件 制限 Fig. 5. 情報提供条件別の事故回数2
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ドライバー個人特性尺度との関係 また、リスク補償行動の生起と関係する個人差を検 証するために、各指標とドライバー個人特性尺度(中 村ら, 2006) との相関係数を算出した。この分析では、 各指標の変化量を分析に用いた。変化量とは、各情報 提供条件の値から情報提供なし条件における値を引 いたもので、各情報提供がなされたときに、情報提供 がなされなかったときから各値が増加(値が負の場 合は減少)した程度を示す値であるといえる。 その結果、「ハザード知覚の失敗・遅れ」の得点と通 常条件、詳細条件、制限条件すべてにおける平均確認 回数の変化量との間に負の相関が見られ、通常条件と 詳細条件においては有意な相関であり、制限条件にお いては有意傾向が見られた(通常条件: r=-0.45, p<.05, 詳細条件: r=-0
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p<.05, 制限条件: r=-
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Table4)。 また、 「攻撃的・競争的運転」の得点と通常条件、詳 細条件、制限条件すべてにおける通過回数の変化量と の間に有意な負の相関が見られた(通常条件: r=-
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<.05,詳細条件: r=-0
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5)。 さらに、「攻撃的・競争的運転」の得点と詳細条件、 制限条件における待機時間の変化量との間に有意な 正の相関が見られた(通常条件: r=0.31, n.s. ,詳細条 件: r=0.48,p<.05, 制限条件: r=0.48,p
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6)。 また、「自信と運転への興味」の得点については、通 常条件における通過回数との間に負の相関がみられ、 有意傾向であった(通常条件: r=-0.37, p<.10,詳細 条件: r=-0.
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n.s. ,制限条件: r=-
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7) 。 考察 どの方略の運転支援情報も確認回数を減少させた が、通常条件と制限条件は、それでもなお事故回数を 減少させた。以下に詳細を記す。1
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情報提供の効果 リスク補償行動の分析の結果、リスク補償行動の指 標の一つである確認回数は、詳細条件く通常条件く制 限条件く情報提供なし条件となった。確認回数が少な いほどリスク補償行動が生起したということを示すT
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各情報提供条件における 「ハザード知覚の失 敗・遅れ」と平均確認回数の変化量との相関係 数 情報提供 相関係数 通常 詳細 制限-
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各情報提供条件における「自信・運転への典味」 と通過回数の変化量との相関係数 情報提供 相関係数 通常 詳細 制限-
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p<.10 ため、リスク補償行動の程度は仮説通り、詳細条件> 通常条件>制限条件>情報提供なし条件となったと 言える。また、実験参加者の中には、通常条件、詳細 条件においてほとんど確認を行わなくなるものもおり (Table
3
,
Min参照)、情報提供によるリスク補償行動の程度に個人差があることが示された。しかし、詳 細条件と通常条件の間には統計的に有意な差がみら れ、詳細な情報を提供することによるリスク補償行動 の促進効果が確認できたのに対し、制限条件と通常条 件との間には統計的に有意な差は見られず、情報提供 へのアクセスを制限することによるリスク補償行動 の抑制効果は確認されなかった。 上記のように、詳細条件においてリスク補償行動の 促進が見られたが、リスク補償行動が促進されたとし
交通心理学研究 24巻l 号 2008 年 ても、それでもなお事故回数が減少すればリスク補償 行動によるマイナスの影響が生じたとは言えない。そ こで、事故回数について分析を行った結果、 l セッショ ン中の事故回数について、リスク補償行動の促進効果 の見られた詳細条件と情報提供なし条件との間に有 意な差が見られなかった。この結果は、詳細条件にお いて確認回数が少ないため、情報提供の効果を無効に した、すなわちリスク補償が生起したと解釈できる。 一方、通常条件についてぱ情報提供なし条件より有意 に事故が少なく、また、制限条件についても情報提供 なし条件よりも事故回数が少なく、有意傾向が見られ た。したがって、通常条件、制限条件については、 リ スク補償行動は生じたが、それでもなお情報提供の効 果が上回ったと解釈できる。 また、事故回数について 3 条件間に有意な差はな かったため、 3 条件間のリスク補償の生起の程度の違 いについても確認されなかった。
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ドライバー個人特性尺度との関係 「ハザー ド知覚の失敗・遅れ」の得点と通常条件、詳 細条件における確認回数の変化量の間に有意な負の 相関がみられた。さらに、制限条件においては有意水 準には至らなかったものの (p=.059) かなり高い負 の相関があった。このことから、「ハザー ド知覚の失 敗・遅れ」の得点が高い実験参加者は本実験課題上で、 情報提供がなされた際に確認行動を行わなくなる可 能性が示された。前述のように、増田ら (2006) の実験 結果から、「ハザード知覚の失敗・遅れ」の得点は、積 極的なハザードの探索との関係が考えられるが、 今回 の実験ではさらに、「ハザー ド知覚の失敗・遅れ」の得 点が高い実験参加者は、情報提供がなされることに よって、自身の確認行動によって積極的に交通状況か ら情報を得ることをしなくなる可能性が示唆された。 また、「攻撃的・競争的運転」の得点とすべての情報 提供における通過回数の変化量との間に有意な負の 相関がみられた。さらに、 詳細条件と制限条件におい て待機時間の変化量との間に有意な正の相関がみら れた。このことから、「攻撃的・競争的運転」の得点と、 本実験課題にける通過回数および待機時間に何らか の関係がみられるということが示唆されたが、運転行 動が攻撃的・競争的な実験参加者が、情報提供がなさ れた場合に攻撃的・競争的でない運転者よりも通過回 数を減らしたり、待機時間を長くしたりするとは考え にくい。また、運転行動が攻撃的・競争的な実験参加 者の通過回数が、情報提供がなされない場合において そもそも多かったために、情報提供によって通過回数 を増やせなかったという可能性もあるが、情報提供な し条件において「攻撃的・競争的運転」 の得点と通過 回数の相関係数は低かったため (r=0.13, n.s. )、この理 由も当てはまらない。 この結果については、「攻撃的・競争的運転」が自己 報告式の質問紙調査によって測られたものであるた め、「攻撃的・競争的運転」の得点が、リスクティキン グ傾向ではなく、リスクティキングのメタ認知能力を 測定している可能性もある。今後の検討課題である。 また、 「自信・運転への興味」については、 通常条件 においてのみ通過回数との間に有意傾向 (p=.072) が見られたにとどまり、解釈可能な結果は得られな かった。 展 望 本実験では、交差点通過をシミュレー トしたパーソ ナルコンピュータ上の実験課題を用いて、既存のリス ク補償モデルに基づき、情報提供の方略によるリスク 補償の促進・抑制要因の検証を試みた。その結果、リ スク補償の促進については仮説通りの結果が得られ たが、抑制要因については十分な知見が得られなかっ た。その理由としては以下のような理由が考えられ る。 まず、 制限条件においてリスク補償行動の抑制効果 が見られなかった理由としては、情報提供の利用に対 するアクセス制限のシステムヘの実装の問題が挙げ られる。本実験の課題において、アクセス制限は、確 認後 2 秒間清報提供が利用可能になるという形で実 装された。したがって、 2 秒以内の間隔で確認を行って いれば、通常条件との違いがなくなることになり、こ のことによって通常条件との間に違いが見られな かった可能性がある。今後は、アクセス制限を課す条 件など、アクセス制限のシステムヘの実装方法につい て詳細に検討する必要がある。 一方で、次の理由も考えられる。本研究でぱ情報提 供へのアクセス制限を設けることでリスキーな行動 のメリットを少なくし、リスクの目標水準を低下させ ることでリスク補償の抑制を試みた。しかし、本実験における情報提供はどの条件でも未検出や誤検出が 生じなかったため信頼感が高かった可能性がある。し たがって、どの情報提供においてもリスクの目標水準 が維持され、それによって条件間のリスクの目標水準 にもそれほど差がなかったことが考えられる。リスク 補償の生起にはシステムに対する信頼感も影響する と考えられるため、今後はリスク補償のモデルにシス テムの信頼性の概念を組み込み、検証する必要がある といえる。 また、本研究では、交差点通過時の接近車情報の提 供を模擬した実験室実験を行ったが、本実験で提供さ れた接近車情報は、知覚・判断・操作の情報処理過程 のうち知覚過程を支援するものであり、直接的に判断 を支援するものではなかった。しかし、本実験課題上 での交差点通過は、知覚だけでなく判断も大きなウェ イトを占める課題であったため、本実験で用いられた 接近車情報の提供では課題の遂行に必要なリソース の節約にならず、どの方略の接近車情報も実験参加者 がそれほど有益に感じなかった可能性がある。そのた め実験参加者の各方略における知覚したリスク水準 の差が明確にならなかったと考えられる。今後は各情 報処理段階の概念をリスク補償のモデルに組み込み、 各情報処理段階とリスク補償の関係を詳細に検討す る必要があると考えられる。 また、今回の実験では、リスク補償およびリスク補 償行動に対する情報提供及びその方法の影響、個人特 性としてドライバー個人特性尺度との関係の検証を 行ったが、そのほかの個人特性や要因については検証 を行わなかった。リスク補償の促進・抑制要因には、時 間の節約、経済的利益、好奇心などを含めた効用など も考えられる。今後検証すべき課題である。 ここで、本研究における問題を整理し、リスク補償 の促進・抑制要因の検証をより進めるためにリスク補 償の新たな仮説モデルを提案する (Fig.6)。 このモデルは、既存のリスク補償モデル (Wilde, 1982) に、知覚・判断・操作というドライバの情報処理 モデルおよび情報処理リソースの概念を組み込んだ ものである。また、システムヘの信頼感やドライバの 個人特性を含む関連要因について各情報処理段階と の関係を明示している。 このモデルに基づいて本実験の結果を説明すると、 次のようになる。本実験の課題は交差点通過であり、 左右の通過車両との距離に基づく通過の可否判断が 主な課題であった。したがって、知覚 ・判断・ 操作の 情報処理段階のうち判断により多くのリソースを配 分する必要がある課題であるといえる。ここで、本実 こドライバの情報処理段階 C二3 各情報処理閑郊皆に影審する要因 ぃね環における運転タスク
リスク知覚
Fig.6. リスク補償の促進 ·抑制要因検証のための仮説モデル,
交通心理学研究 24 巻 l 号 2008 年 験で提供された情報提供について、通常条件は左右の 通過車両に対する知覚を支援するものであり、一方 で、詳細条件は左右の通過車両に対する知覚に加え、 部分的には距離判断も支援した可能性がある。前述の ように、本実験の結果は、通常条件よりも詳細条件の 方がリスク補償の生起程度が大きいというもので あった。このことから、判断を主な課題とする交差点 通過に対して判断を支援することで必要なリソース を減らすよりも、知覚の支援によって判断に配分可能 なリソースを増やす方がリスク補償を生じさせにく い可能性があると考えられる。詳細条件は直接的に判 断を支援するものではなかったが、判断を支援する効 果もあったと考えると、このように、求められる課題 や支援の情報処理段階、支援に伴う情報処理リソース の変化がリスク補償に影響を与える可能性がある。し たがって、リスク補償の促進 ・抑制要因の検証にあ たって、情報処理段階および情報処理リソースの概念 を取り入れる必要があるといえる。今後、この仮説モ デルに基づき実験を行い、知覚支援と判断支援の影響 を明確に検証し、モデルの精緻化を図りたい。 最後に、これまでの研究では、主にドライビングシ ミュレータを用いて検証が行われてきた。しかし、本 研究は、リスクの判断以外の要因を取り除くため、 パーソナルコンピュータ上に実験課題を作成して実 験を行った。今回の実験で用いた実験課題は、現実の 交通場面とは異なるものであるが、リスク補償行動の 抑制・促進要因についての基礎研究の有効な手段とな りうると考えられる。今後、更なるデータを収集し、リ スク補償行動の抑制要因についての検証を進めたい。 文 献
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