Domaine Christian Binner クリスチャン・ビネール来日セミナー 2017 年 4 月 26 日 ○初めに 10 年以上ぶりに来日したアルザスのナチュラルワイン生産者、クリスチャン・ビネール。 1770 年から続くビネール家のワインを、さらに昇華させていくエネルギー溢れるクリスチャンのフィロ ソフィーと、その畑、新設された醸造所など、彼のワインを理解するのに貴重なお話を伺いました。 ○テロワール 南北200km にわたるアルザス地方は、大西洋から来る湿った偏西風がヴォージュ山脈によって遮られる ため、非常に乾いた気候になります。ヴォージュ山脈の山頂での年間降水量が2000mm であるのに対し、 アルザスの降水量は550mm。 夏暑くて冬寒い大陸性気候は地中海の植物であるブドウの木にも向いていて、乾いた環境は病気が少な く、ナチュラルワイン作りに適しています。 地図上で見るとかなり北に見えますが、北のシャンパーニュはもちろん、南のブルゴーニュやジュラよ りも暖かく、遅霜による被害が出ている2017 年もアルザスは守られたそうです。 そのアルザスには 7 つの品種が栽培されていますが、ブルゴーニュのシャルドネがそうであるように、 アルザスのリースリングも北から南まで同じ味わいではありません。 クリスチャン・ビネールはアルザスのテロワールの多様性をビオディナミで表現できると考えています。
○概論
アルザスのAOC はブルゴーニュのそれに倣っており、「村名」・1er cru に当たる「lieu-dit(リューディ)」・ 「Grand Cru」があります。 南北に連なるヴォージュ山脈の東、平らな地域はAC Alsace となり、クリスチャンの所有する畑ではシ ースリング、ミュスカ、ピノ・ノワールなどが栽培されています。やや複雑味に欠ける場所です。 彼らのドメーヌがあるアムルシュヴィール(Ammerschwihr)村のからヴォージュ山脈へ向かう丘に当 たる三つの区画はコート・ダムルシュヴィール(Cote D’Ammerschwihr)、隣接してグラン・クリュの ケフェルコフ(Kaefferkopf)。 その北、ヴォージュ山脈の斜面が西へ引っ込み、冷たい西風が吹きぬける場所にカイザルスベルグ (Kaysersberg)があります。ここはその西風によって強く芯の太い酸を持ったブドウが生まれるため、 クレマンにのみ使用されます。 そこからやや東に位置するグランクリュ・シュロスベルグ(Schlossberg)も冷たい西風を受けて寒い場 所です。花崗岩が砕けて砂になった土壌です。 一方、アムルシュヴィールの南に位置するカッツェンタール(Katzenthal)村の西、ヴォージュ山脈の 谷間に入り込んだ位置にあるリューディがヒンテルベルグ(Hinterberg)。 ヴォージュ山脈で西風を避けられて、かつ日照に恵まれ、丸い酸が特徴のグラン・クリュ、ヴィネック・ シュロスベルグ(Wineck Schlossberg)。 アルザスのど真ん中、他のアルザスと比べても日照の良い場所をビネール家は所有しています。
○Hinterberg カッツェンタール村にあるリューディ・ヒンテルベルグ(山の裏の意味)には、ピノ・ノワール、オーセロ ワ、ピノ・グリが植えられています。谷の奥で畑が影に入りやすく、日照時間が短くなるためより酸が 出やすく、ブドウは比較的早熟の品種を植えています。 オーセロワは通常酸の低い品種ですが、この場所で栽培することで酸をしっかりと見て取れるようにな ります。カッツェンタールの谷はヴォージュ山脈によって風が通らず、夜まで暖かいという特徴もあり ます。
○Wineck Schlossberg 「ブドウ畑の中にある山の城」の意味を持つこの区画は、ヴォージュ山脈によって西風からは守られつ つ、影はできず、その日照条件の良さゆえにグランクリュとなっています。 ここには遅く熟しかつ酸のあるリースリングが植えられています。 リースリングは元々酸が高いのですが、この場所で作ると柔らかく仕上がります。 ※リースリングは酸、シルヴァネールは軽さ、ゲヴュルツトラミネールはアロマ、といったアルザスの イメージはテロワールを無視したもので、多くのグランクリュもテロワールではなく、品種の個性ばか りで他の産地のリースリングとあまり変わりません。 クリスチャンは品種名は小さめに書き、裏ラベルにしっかりとテロワールを記載しています。ビオディ ナミによって根が深くはり、よりテロワールの特徴を表現できるようになります。 「アルザスのリースリング」より「ヴィネック・シュロスベルグ」を飲んだと言い合える方が良いと考 えています。
○Cotes D’ Ammerschwihr と Kaefferkopf 三つの異なる丘からなるこの区画は、北から花崗岩、石灰岩、砂岩となっており、異なる品種をブレン ドするのが伝統です。 アルザスの良いワインは単一品種のグランクリュと思われていますが、ケフェルコフはアッサンブラー ジュすることで素晴らしいワインができる区画として、2007 年からグランクリュに認められています。 コート・ダムルシュヴィールは土壌の構成は同じなのですが、斜面の北側で上に森があるため日照が短 くなってしまうためにグランクリュではないのです。 ○収穫について 「良いワインは良いブドウ・畑からできます。」 ビオディナミによって最良のブドウができます。 収穫はしっかりと熟したタイミングで行い、暑い年だからと言って早く収穫することはしません。常に 熟したブドウを求めています。 熟度を見極めずに早く収穫することは毎年同じブドウを得ようとすることに繋がります。 ナチュラルワインの造り手の中でも、早く収穫して酸を残すやり方が流行っていますが、ワインの複雑 さはしっかり熟したブドウでないと表現できないと考えています。 早く収穫したものでは、醸造中の不具合が出やすくなり、ワインになった時に還元香や揮発酸などが起 こりやすいと思います。完熟することがそれらの問題を起きにくくさせていると思います。完熟するこ とでうま味が醸成されるのです。
○新しい醸造所について 2010~2015 年にかけて作り上げた新しい醸造所は、ベストなコンディションでワインを造るためのもの です。 自然のエネルギーを取り込むことができる設計で、風通しがよく天然の酵母が入ってきやすく悪いエネ ルギーは風と共に出て行くようにになっています。木材などビオディナミの素材や寺院や教会で使われ るような材料を使用しています。 木々はビネール家の近くの森から切り出したもので、木を切る際もビオディナミカレンダーに従い、木 の生長の向きや上下も自然の時と同じように揃えています。 建物全体が丸みを帯びていますが、これは自然界に直線で角ばったものは存在しないことからデザイン されていて、人工物的な角を排除し、エネルギーの循環を促すためです。 醸造所内や外壁の岩もアルザス産の砂岩で、コンクリートは一切使っていません。 岩で組むため、わずかな隙間から建物が呼吸するように、湿気を含んだ風が出入りします。熟成中にも 湿度は重要です。 また屋根にも土を敷き、草を植えることで、エアコン等もない醸造所内が日当たりによって温度変化し にくいようにしています。
○醸造について 発酵熟成にはフードルをよく使用しています。木の樽は細かく酸素と触れることができ、ワインが酸素 となれていくことができます。100 年使われているフードルなどはその呼吸にとても役に立ってくれま す。 新しく広い醸造所になったことで、樽を増やすことができ、2~3 年熟成させることができるようになり ました。長く熟成させることはワインを安定させることに繋がっています。 以前は 9 月には次のヴィンテージのワインが来てしまい、ビン詰めせざるを得ず、ワインが安定してい
ないため、SO2 を 5~10mg は入れなければなりませんでした。 ビオディナミで栽培したブドウで、醸造でも SO2 を入れていなかったのに、最後に SO2 を入れるのは とても残念でしたが、今となってはSO2 を使うのは本当に稀なことです。 ワインとして問題があった時のみ少しだけSO2 を入れることはあるのですが、分析機関に提出した時に は「検出できず」になる程度の量であったりします。 ○酸素に対する対応 「時々友人で、時々そうではない」 木の樽が取り込む酸素の量がバランスが良いと考えています。INOX タンクは嫌気的で、ワインが酸素 に慣れないままになります。いざ酸素に触れると酸化しやすいのです。 ウイヤージュ(樽からの目減り分の補充)もとても重要で、ウイヤージュが不十分だとバクテリアの発生の 原因になったりします。 各フードルの上部の口に設置している水位計は、管に液体が見えていればフードル内はワインで満たさ れていることがわかるため、とても有効です。また、フードル内の温度が上がった時にもそれによる水 位の変化が見られます。
Q:新しい醸造所のメリットは? 醸造所が大きくなったことで問題は減っています。 以前は途中で発酵が止まることもあったのですが、今は止まることなく進んでくれます。 今までは何か問題が起きると、その進行も早かったのですが、今はそのスピードもゆっくりになりまし た。 Q:アンフォラを使わない理由 1770 年からビネール家は生産者として何かを大きく変えることはしてきませんでした。 今はより改善しようといろいろチャレンジして、いい影響がありそうであれば試しています。たとえば、 地球が暑くなり、ゲヴュルツトラミネールやピノグリは濃くなりすぎるため、マセラシオンすることで 白のフレッシュさを得ようとしました(シローズというキュヴェ)。 アンフォラでの2 年熟成を 4 ヴィンテージほど試してみたのですが、納得できる結果は得られませんで した。アンフォラは酸素を取り込みすぎてしまい、フードルの方が合っているのです。アンフォラは南 から来た素材です。南は暑く樽ではワインが蒸発しやすいですが、北では樽の方が向いているのかもし れません。 それからマーケティング過ぎた印象だったので、それを発信することもしませんでした。新しいトラク ターを買ったことを告知しないのと同じです。 Q:白ワインの造り方 とてもシンプルです。 よいブドウを1 階で房ごとプレス、ジュースを地下のフードルへ重力で移動。 1~3 年くらいそれぞれ発酵させます。そしてビン詰めです。 Q:リースリングのペトロール香について ソーヴィニョン・ブランの猫のおしっこの香り、カベルネ・フランのピーマン香と同じように、しっか り熟していないから出てくる香りだと考えています。 リースリング・ヴァンダンジュ・タルティヴ2006 は、糖が残った状態で SO2 を入れて発酵を止めてい ます。元々収穫が早かったため、熟度は低い状態のリースリングであるため、ペトロール香を感じられ るのだと思います。 Q:ウイヤージュのやり方 まず、収量によって樽の大きさを選びます。22hl 取れていれば、20hl のフードルと 2hl の樽というよう に。それでも余った分を落し蓋付きのステンレスの小さなタンクに移しておき、ウイヤージュ用として 使用します。作り手によっては異なるワインをウイヤージュすることもありますが、同じワインでしか ウイヤージュは行いません。 スタジエ(研修生)には水位計の目減りや掃除など小さいこと、細かいことを要求しています。 ※新井順子さんの補足 普通フードルのような大樽ではウイヤージュはあまりせず、ゆっくり酸化させる人が多いです。クリス
チャンは真面目で細かいからやるのです。それに前述のような22hl の収量だった際は、時には小さい樽 の2hl はそのまま格落としさせてしまうこともあるのです。 Q:コルクとガラス栓 2007 年から数キュヴェにガラス栓を使用しています。 コルクはビン内に落ちたりしますし、シリコンプラスチックは石油を使っているから使いたくありませ ん。ワインの中の酸やアルコールは変化していくものですが、プラスチックは変わっていかないもので す。ディアムのコルクも工業的だと思います。 ポルトガルやスペインでコルクは作られていますが、需要が高まり増えすぎると、価格は上がり質は落 ちます。 また、ブショネなども20 本あれば 3 本は状態が良くないものがあったりするのです。 ガラス栓は開けやすく、かわいいですしね。 パッキンはプラスチックなのですが、ワインと接触する部分はごくわずかで、ガラスは自然界の物でリ サイクルもできます。 完全に閉まるのはコルクではあるのですが、ガスが残っているワインではコルクは抜けて行ってしまい、 ガラス栓は抜けないのです。 Q:Minori について 自社畑が20 年間で 6ha から 12ha に増えたのですが、3 年前から自分の持っていない畑のブドウで自分 のやり方を持ち込んだらどうなるかという冒険を始めたのです。 畑は良いのに作りが良くない作り手を助けるという意味もあります。 20 年間の経験はありますが、新しいところへ行くためにしっかりと売っていかなくてはなりませんし、 新しい風を入れることにもなります。