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Ⅲ 調査結果から考えられる課題とその解決に向けた考え方 1 子どもを取り巻くからだとこころの問題 顔と服を真っ黒にしながら 真夏の太陽の下で汗びっしょりになって遊び回る子ども 冬の北風にもめげず 鼻水をすすりながら走り回る子ども 夢中になって遊んでいる子どもたちをみて わたしたちは 子ど もらしさ

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Academic year: 2021

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Ⅲ 調査結果から考えられる課題とその解決に向けた考え方

1 子どもを取り巻くからだとこころの問題 顔と服を真っ黒にしながら、真夏の太陽の下で汗びっしょりになって遊び回る子ども。冬の北風にもめげ ず、鼻水をすすりながら走り回る子ども。夢中になって遊んでいる子どもたちをみて、わたしたちは「子ど もらしさ」を感じとることができます。 遊び、動き回る中で、子どもはさまざまな運動を経験し、さまざまな関わりを体験していきます。しかし いま、そんな「子どもらしさ」を感じることが少なくなってきました。 その一方で、からだを動かすことが少なくなり、朝ご飯を食べずに登校したり、夜遅くまでのゲームやテ 、 。 、「 」 、 レビと 子どものライフスタイルは悪化の一途をたどっています このように 子どもらしさ が奪われ 子どもたちのライフスタイルが乱れてきた結果、子どものからだやこころにさまざまな問題が生じてきてい ます。 【子どものからだの問題】 ① 体力・運動能力が低下している 今回の山梨県での調査や、文部科学省「体力・運動能力調査」の結果でも明確になっているように、い まの子どもたちは、走・跳・投といった基礎的な運動能力や筋力が、1985年前後をピークに著しく低下の 傾向にあり、柔軟性、敏捷性などのからだをコントロールする能力も低下しています。 体力低下の典型的な例として、姿勢を保持したり、物を持ち上げたりすなどの「背筋力」をあげること ができます。子どもの背筋力は、体力調査開始以来、低下の一途をたどり、1998年からは、その測定で腰 を痛めてしまうという理由で、測定項目から外されました。背筋力は、測定さえできないほど、低下して しまったのです。 個人内の体力や運動能力は10代後半のピークを迎え、そこから加齢につれて、緩やかに低下していきま す。つまり、いまの子どもたちは、大人たちと同じ程度の体力まで達することが、不可能な状況に陥って いるのです。 ② 顔面や手首の怪我が多い 子どもたちが、ほんのちょっとしたことで骨折してしまったということを、よく耳にします。 日本スポーツ振興センターの統計報告によりますと、小学生の骨折の発生率は、1978∼1999年の間に、 約1.7倍に増加しています。 遊びやスポーツの中で怪我をすることは、昔もありました。誰もが子どもの頃に、肘や膝の擦り傷、切 り傷、足首の捻挫など、一度は経験していると思います。しかし、いまの子どもたちの怪我の様子は、昔 とは違っているのです。 整形外科医によりますと、顔面の擦り傷や切り傷、また手首の骨折が多くなってきているそうです。そ の理由として、転び方を学ぶ機会がないことがあげられ、遊びや活動の経験の少ない子どもたちは、転び 方を知らずに大きくなっています。そのために危険な状況になっても、うまく対処することができず、ち ょっとしたことで転び、うまく身をかばえないために、顔面の怪我や手首の骨折をしてしまう子が多くな ってきているのです。このように、自分のからだを自分でコントロールすることができない、動きの不器 用な子どもが増えているのです。 ③ 動くことが嫌い いまの小学生の1日の歩数は、平均でおよそ14000歩程度です。30年前の昭和40年代の小学生の平均歩 数は27000歩でした。つまりこの30年の間に、日本の小学生の歩数は半減したことになるのです。 中には、1日に、5000歩まで達しない子どもも実際に存在します。1日に5000歩以下ということは、登 下校、それに学校の中での最低限の教室移動のみしか歩いていないということです。このような 子ども たちは、放課後はもちろん、休み時間もほとんどからだを動かすことがありませんし、下校時に校門まで 保護者が車で迎えに来るという実態もあるのです。実際に運動量を測定してみると、1日の総運動量が、 160kcalという子どもいます (160kcalは、およそおにぎり1個分のエネルギー量)。

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④ 疲れを訴えることが多い 現代社会は、非常にストレスがたまる状況にあります。このことは、子どもたちにおいても例外ではな く 「からだがだるい 「いつも眠い」といった疲れを訴える子どもが増えてきています。、 」 子どもたちの疲れは、特に登校時に最も高いという傾向がみられます。その後、学校での学習や活動に よって、徐々に疲れは取れ、昼食前が最も低い状態になり、給食時に一番元気なります。 また子どもの疲れを、月曜日から金曜日まで毎日調べてみると、月曜日が最も疲れていて、曜日を経る にしたがって疲れは減少し、週末の金曜日に一番疲れが取れた状態になっているのです。この疲れの変化 は、わたしたち大人と全く同じパターンで、子どもたちはストレスの多い現代社会の中で、大人と同じリ ズムの生活をすることによって、大人と同じような疲れを現しているのです。 ⑤ 肥満と生活習慣病が急増している 「 」 、 、 2002年の文部科学省 学校保健統計調査報告書 によりますと 肥満の傾向にある6年生は男子11.7% 女子10.1%と25年前の2倍に増えています。40人のクラスでは、およそ4人が肥満傾向ということになり ます。 肥満ばかりでなく、痩せ過ぎの子どもも年々増加し、痩せ傾向の中学1年生は男子4.0%、女子4.9%と やはり20年前の2∼3倍に増えています。 肥満は、生活習慣病と関係する大きな問題です。また成長期の無理なダイエットは、体調を崩し、大人 になってからの健康に支障をきたすといわれています。 生活習慣病とは、その名のとおり、偏った食生活、運動不足、睡眠不足、ストレスなど、よくない生活 習慣と深く関わって起こる病気で、高血圧症、高脂血症、糖尿病などが、その代表的なものであり、一度 かかるとなかなか治すことが難しい病気です。学校医が、最近増加している病気として、真っ先にあげる のが、この生活習慣病で、山梨県内の小学校・中学校・高等学校の約83%の学校に、生活習慣病の子ども が存在しています。 ⑥ アレルギーや体温異常が現れている 体力には、体力テスト等の結果などでみることのできる「行動体力」の他に 「防衛体力」と呼ばれる、 ものがあります 「防衛体力」とは、病気への免疫力や体温調節、ストレスへの抵抗力など、外部からの。 刺激に対してからだを一定に保つ力のことです。子どもたちの「防衛体力」もすでに深刻な状況に至って います。 日本学校保健会の調査によりますと、小学校5・6年生で、医師からアレルギーといわれたことのある 、 。 、 、 子どもは約50%と 2人に1人の割合で存在しています その内訳は アレルギー性鼻炎が男子で57.0% 女子で48.6%であり、アトピー性皮膚炎が男子で43.0%、女子で48.6%であります。2つ以上のアレルギ ー疾患を持っている子どもも少なくありません。 アレルギーとともに「防衛体力」低下の問題として、体温異常をあげることができます。 わたしたちの体温は、通常36度台に保たれており、日常のさまざまな状況に合わせて、からだが体温を 調節しています。1日を通して体温の変動は、およそ0.5度前後であるとみられています。 ところがいま、朝起きたときに体温が36度に達しない子どもが、4∼5人に1人の割合で存在していま す。このような子どもを低体温児と呼び、低体温の子どもたちは、1日を通して活動水準が低く、不活発 、 、 、 。 、 な生活をし 朝の目覚めが悪く 夜は眠くならずに床に入る という生活を繰り返しているのです 一方 病気でもないのに朝から体温が37度以上ある高体温の子どもも出現してきました。その他、1日の体温の 変動が2度近くにもぼる子どもや、逆に変動がほとんどみられない子どもの存在も報告されています。 【子どものこころの問題】 子どもの問題はいま、からだばかりでなく、こころにも現れてきています。このこころの問題は、不登 校や学級崩壊といった表面化したものだけではなく、いまの子どもたちのこころの根底にある問題である ととらえなければなりません。 ①ストレスの増加による居心地の良い居場所の欠落 ②勉強や運動といっ 具体的なこころの問題として、 、 た日常的な活動への意欲の欠如、③自分で物事を判断する能力の低下、④工夫する能力の低下、⑤情緒や 、 、といったことをあげるこ 感情を表出することの欠如 ⑥人との関わりが未熟で集団の中での社会性の欠如 とができます。 このようなこころの問題も、いまの子どもたちの育ちの環境、現代社会の歪みや、家庭・学校・地域で の子育て・教育のあり方と深い関係があります。例えば、子ども自らが物事を判断する場があるのでしょ

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うか。失敗した経験がないと、工夫する能力をつけることはできませんし、かつての遊び集団のような子 どもがつくり、運営していく集団を体験しなければ、集団の中での社会性は育っていきません。 いまの児童生徒のこころの問題の背景を調べると、実は幼少児期におけるさまざまな経験、特に人との 関わりが稀薄であったり、うまく自立できなかったりしていることもわかってきたのです。 2 子どものからだとこころの問題の背景 子どもたちが現すからだやこころの変調は、いくつもの原因が絡み合っています。そのおおもとの原因は 運動や遊びの減少 食生活・食習慣の悪化 睡眠不足 3つあると考えられます。1つ目が 、2つ目が 、3つ目が であります。そして、それらのすべての背景にあるのが、今日のライフスタイルの崩壊である とメディア漬け といえます。 1)運動・遊びの減少 子どもたちが楽しく遊びを成立させるためには、時間・空間・仲間という3つの“間”が必要です。い まの小学生の放課後の遊び時間は約50分と、わたしたち大人の小学生時代の半分以下にとどまり、山川田 、 。 畑・境内・路地裏といった屋外で遊んでいる子どもはたった1割で 多くの子どもの遊び場所は室内です さらに遊び仲間は3人から4人の限定された同学年の友だちであり、まさに塾や習い事のない日は、家の 中に閉じこって、からだを動かすことなく、テレビゲームやビデオに夢中になっている子どもがほとんど なのです。 2)食生活・食習慣の悪変 食に関してはどうでしょうか。朝食を摂らずに登校し、家ではいつも決まった食事を一人で食べている 子どもも存在しています。またインスタント食品・冷凍食品・レトルト食品が食卓を飾り、深夜にファー ストフードストアやファミリーレストランにたむろす子どもや親子も少なくありません。子どもたちの食 生活、食事の習慣は、近年大きな悪変をみせているのです。 3)睡眠不足とメディア漬け 一方、家族との対話が少なくなり、バーチャルなテレビ・ビデオやゲームでコミュニケーションをはか ることが多くなりました。その結果として、生活リズムが夜型になり、遅寝・遅起きを繰り返し、いつも 寝不足の状態であるといった子どもも少なくありません。 このような子どもの生活の悪変は、便利さや効率化のみを追求したわたしたち大人がつくりあげてしま った、現代社会のライフスタイルそのものにあるといえるでしょう。現代社会に生きる子どもたちは、上 、 、 、 、 にあげた身体活動 食生活 メディア・睡眠というライフスタイルの乱れによって 体力低下のみでなく からだやこころに数々の問題をかかえてしまっているのです。 したがって、これらの問題の解決にあたっては、運動実践と並行して、食事・睡眠といった生活習慣の 確立が不可欠です。学校における取り組み(例えば、食事については朝食の重要性に関する授業を取り入 れるなど)をもとに、運動、食、睡眠といった基本的な生活習慣をトータルにとらえた改善が今後一層必 要であると考えます。 3 児童生徒の運動発達特性 1)少年前期までの運動発達特性 幼児から小学校低学年までの時期は基本的運動の段階にあたります。この段階では多種多様な基本的な 運動が急激に発達し、生涯の運動発達にとって、重要な段階であるといえます。この段階では、2∼3歳 頃の基本的運動の未熟な段階、4∼5歳頃の運動の定着による初歩的な段階、6∼9歳頃の獲得される運 動のレパートリーとそれぞれの動作様式(運動のしかた)がほぼ成人の発達水準に近づく成熟段階に区分 されます。個人差や性差は存在するものの、体育やスポーツで実施される基本的動作はこのような一定の 順序にしたがって獲得されていくと考えてよいでしょう。 また、図1に示すように身体運動的な側面の発達と認知的側面や情緒・社会性の側面の発達とが、相互 補完的に習得されていく傾向が特に強いことも、この段階の特徴であります。 個々の動作を質的 このような発達特性を持つ少年前期までにおいては、さまざまな運動経験によって、 と、 に主眼を置かなければなりません。すなわ に変容すること 動作のレパートリーを量的に拡大していくこと ち身体運動の結果としての課題の出来不出来や、運動パフォーマンス(運動結果としての成績)のみで子

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どもの運動発達を評価するのではなく、運動の仕方(動作様式)によってとらえることが大切なのです。 この時期の子どもにとっては、子ども自身に運動しようとする欲求が働くような、遊びの条件(遊ぶた めの空間・時間・遊び仲間)が整備されていることが重要です。バランスのとれた遊びの結果として身体 的な機能はもちろん、心理的な諸機能も高められていきます。 図1 スポーツや運動の経験及びや学習と各領域の発達との関係 2)少年後期の運動発達特性 小学校高学年の少年後期において、運動発達は運動遊びやスポーツと関連した発達の段階を迎えます。 基本的な運動形態を身につけることにより、自分の意志通りに動きまわり、自ら環境にさまざまな働きか けをしながら、より多様な、またより高度な運動を身につけ、それらを活用した運動遊びを通して新たな 運動を獲得し、運動の一般化がなされる時期であります。 結果として、小学校高学年以降に少しずつ専門的なスポーツを経験し、その中でそのスポーツの持つ固 有のスポーツ文化である運動技術を身につけていくことによって、運動発達が遂行されていきます。この 時期の運動発達の特徴を、「時機を得た専門化」「即座の習得」ということばを用いて説明することができま す。 とは、この時期の子ども達がスポーツを初めて経験することに適しているという特 「時機を得た専門化」 徴を表す言葉であります。しかし、その経験のしかたは単一のスポーツのみにこだわることや、大人と同 様な練習方法あるいはトレーニング方法を用いることを指しているものではありません。あくまでも、少 年期の子どもの発達特性を基盤とした学習経験の重要性を指摘したものであります。 とは、この時期の子どもの模倣の正確性、模倣による運動学習の伸展性を指して述べられ 「即座の習得」 た言葉で、運動技能習得の初期において、よりよい運動モデルを「模倣すること」は、効果的な学習方法 であるといわれています。したがって、児童生徒に関わる周囲の人間、すなわち教師、スポーツ指導者、 親、友達、兄弟が、よりよい運動モデルとなることが可能かどうかが、その発達を促進させるための分岐 点になるということもできるでしょう。 3)青年期の運動発達特性 中学校の時期は、まず、一般的運動技能の段階として、基本的な運動が洗練化され、より高度に発達し て各種のゲームができたり、基礎的なスキルが習得されます。 次いで、特殊な運動技能の段階に入り、一般的運動技能がさらに習熟し、より進んだゲームやスポーツ で、そのスキルやフォームを重視して、正確に成し遂げられていきます。 高等学校以降は、専門的な運動技能の段階であり、この段階では、それまでに習得した一般的な運動技 能や知識を活用して、より競技的・レクリエーション的なスポーツを選択し、それぞれのスポーツの専門 的スキルを獲得していく段階であるととらえることができます。 体力や運動能力の発達という観点からみると、神経系の発達が著しい少年期から、青年期においては、 呼吸循環器系の発達がほぼピークに近くなります。その後、筋力・パワー系の発達に適した時期を迎える

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ことになります。 したがって青年期には、特定の限られたスポーツのみでなく、数多くのスポーツに親しみ、そのスポー ツにおける基本的な動作や、複数の基本的な動作の結合によって生じる運動組合せによる技術練習を行う 。 、 、 ことが必要です また学年が進むにつれ 個々の発達状況を見据えながらその運動実施時間を徐々に長く また、運動強度も徐々に上げていくという考え方も重要であります。 青少年期は、一生の内で最も有利な運動技能の学習期であるといえます。その背景には、身体発育、神 経系の成熟、筋群の発達、認知的・情意的能力の発達、社会性の発達などが運動技能の発達のふさわしい 発達水準に達していることがあげられます。 以上のような運動発達特性を踏まえた上で、主に小学校期は「運動をコントロールする能力 、中学校」 期は「運動を持続する能力 、高等学校期は「力を発揮する能力」の強調期とみなすことができます。」 4 運動プログラムの考え方 は、子どもの発育発達に応じた運動経験のあり方に関するモデルです。 図2 、 、 「 」 身長の年間発育量をもとに スポーツ活動との関わりをとらえると 幼少年期は スポーツとの出会い の時期である。その中で、サッカーやバレーといった単一種目にこだわるのではなく、複数のスポーツを 経験することによって、次第に自分の専門種目に傾斜し、トップアスリートに向かって挑戦していくこと が、望ましいスポーツ活動の在り方であります。 また技術や戦術という観点でみると、幼少年期は「戦術・技術を模倣する時期」であり、小学校高学年 から中学生にかけて技術や戦術の基本を習得し、しだいに応用能力を開発し、専門的にアスリートに向か うにしたがって洗練かつ独創性を獲得し、個性を発揮していくことになります。 体力の観点から、強調期(臨界期)といわれる最も効率よく習得できる時期をあげてみると、動作の習 得は、神経系の発育発達を基盤とした運動協応能の発達が最も著しい、幼児期から小学校低学年において 。 、 、 適しています 第2次成長期前の小学校高学年生から中学生にかけ 持久力の習得に適した時期が出現し その後、筋力やパワーといった能力の習得が最適であります。 図2 発育発達に応じた運動経験のあり方(浅見、1985) しかし、実際の子どものスポーツ指導においては、ともすると少年期のうちから、持久力や筋力、パワ ーの習得を目的とした練習やトレーニングを取り入れ、子どものこころとからだに多くのストレスを与え ている現状も存在しています。 子どもの中には、将来において競技スポーツを志向する子どもも存在するし、楽しいスポーツを望む子 どもも存在するはずです。子ども一人ひとりの志向を大切にし、長期的な展望の上に立った指導の展開を しないことには、よりよいスポーツ経験を子ども達に与えたことにはならないでしょう。子どもの健全な

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発育発達をもとに、スポーツ好きな子どもが増えていくことが、結果として生涯スポーツの推進者となり うる大人を育成していくことにつながるのです。 青少年期における動作や運動技能の獲得のしかたは2つの方法があるといわれています。 1つは 「自由な習得」といわれ、子ども達の間で伝わる、有名なスポーツ選手の真似をするというこ、 とによって、子ども自身が自分の運動動機に基づいて成立するような習得の方法をいいます。 2つめは「指導された習得」で、訓練的に新しい技能を習得する方法で、この場合目標とされる運動課 題は常に指導者によって設定されます。学習の効率が良く、上手く学習されるとその習熟は早いが、問題 となることは、子どもの生涯にわたる運動発達にとって、最も適した方法で計画的に指導されているかど うかという点であります。 指導者は、早い時期に結果を生み出そうとして無理な指導を展開してしまう 場合もあります。このような学習経験は結果として、子どもに偏った運動発達を生み出してしまっていま す。今日の子どものスポーツの習得の主な方法は「指導された習得」であって、かつての遊びの要素を取 り入れ 「自由な習得」でスポーツ技能を養うことはほとんど見られないのが現状です。今後、子どもの、 自主性をもとにした「自由な習得」の展開が望まれます。 したがって児童生徒の体力・運動能力を向上させるためには、学校における体育・保健体育の授業、業 前・業間・昼休み・放課後等を活用した身体能力を高めるためのプログラムやさまざまな動きづくりを、 計画的及び継続的に導入していくことが必要であります。 小学校期における運動プログラムの考え方はとしては、運動技能の自由な習得のをもとに、子ども達が 工夫していくことの大切さであり、児童が楽しんで実施できる、なわとび・一輪車・竹馬・鬼ごっこ・ド ッヂボール等をあげることができます。 また、中学校期・高等学校期における運動プログラムは、生徒の体力・運動能力に関する認識を深めな がら、さまざまな運動・スポーツの実施が可能な状況を設定することにあります。特に、生涯スポーツに つながる実践を目指して、楽しい動き・興味あるスポーツの中での持久力・筋力の向上が必要であると考 えます。 5 児童生徒の体力を向上させ、健やかなからだとこころを育てるために 児童生徒は、学校と家庭と地域という3つの場で生きています。子どもが健やかに成長していくために、 どれも欠くことのできない大切な育ちの場であります。したがって、学校にいる子どもは、家で過ごしてい る子ども、塾や習い事に通っている子ども、地域でスポーツ活動を実施している子どもでもあることを常に 念頭に置いて欲しいものです。 子どもたちが「子どもらしさ」を取り戻し、からだもこころも元気になっていくためには、第1に、子ど 、 。 、 もの育ちや生活の問題点を関連づけて 生活全体をトータルにとらえていくことが大切であります 学校だけで 家庭だけで、解決しようとしてもそれは困難なことです。 2つ目に、いまの子どもたちの問題は、大人の問題でもあることに気づき、理解することが大切です。子どもだ けを変えようとしないで、まわりの大人たちも、子どもと一緒になって取り組んでいくことが必要でありま す。 そして3つ目は、とにかくできるところから実行に移してみることであります。どんな実践、どんな働きかけ でも躊躇せず、まず何かを始めなければ、子どものライフスタイルを変えることはできません。 わたしたち日本人はこれまで、便利で快適な生活を望み、懸命につくりあげてきました。しかしこのよう 、 、 。 にしてつくられた現代の社会生活は 人間らしく生きることに対して 多くの問題点を生み出してきました そして、大人の生活に子どもを引き込んで、その生活そのものを変えてしまいました。その結果、子どもの からだとこころにさまざまな危機的な状況を生み出してしまったのです。 いっぱいからだを動かしていたわたしたち、おいしくご飯を食べ、ぐっすり眠っていたわたしたちが、子 ども時代に経験したこと、学んだこと、感じ取ったことを、いまの子どもたちも、経験し、学び、感じ取っ てほしいと思います。 そのためには、学校での実践とともに、保護者や地域住民が児童生徒の体力・運動能力の実態を認識する ことが重要であり、それをもとに学校・家庭・地域の連携を通しての体力・運動能力の向上のための取り組 みが必要であるのです。 (文責 中村 和彦)

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