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Academic year: 2021

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走査プローブ顕微鏡

所属 ナノスケール物性研究部門 発表者 浜田雅之 [email protected] 私は、ナノスケール物性研究部門・長谷川研究室で業務を行っている。主な業務としては、原子間力顕微鏡(A FM)や走査トンネル顕微鏡(STM)の維持管理・新しい手法の開発である。以下にそれらについて報告する。

1.はじめに【走査トンネル顕微鏡(STM)、原子間力顕微鏡(AFM)について】

走査トンネル顕微鏡(STM: Scanning Tunneling Microscope) は図1のように先端の鋭利な金属探針と試料 の間に、バイアス電圧を印加しながら探針を試料表面から1nm 程度まで接近させたときに両者の間に流れるトン ネル電流を利用して、表面の凹凸や原子構造などの実空間像を高い空間分解能で得られる装置である。一方、原子間 力顕微鏡(AFM: Atomic Force Microscope)は、走査トンネル顕微鏡(STM)では観察することができなかっ た絶縁体の表面も原子スケールで観察することができるため、表面観察・評価装置として普及しつつある。その原理 は、試料表面に非常に小さなてこ(カンチレバー)を近づけて、試料表面とカンチレバーとの間に働く力(原子間力) を検出することによって、試料表面の形状を観察する装置である(図2)。そのため探針、試料ともに導電性の必要 がなく、絶縁体試料の観察が可能であり、これがAFMの大きな特徴の一つとなっている。

2.陽極酸化法による超微細加工技術の開発

表面を観察するだけではなく、AFMの探針を陰極として半導体や金属の表面に電圧を加えて局所的に酸化膜を 作る陽極酸化現象(図3)を利用してナノスケールの構造物やデバイスを作ることが行われている。私はこの機能を 長谷川研究室で保有していたAFM装置(島津製作所製SPM-9500)に、制御プログラムを改良することによ って導入し、図4、図5に示すようなナノスケールのパターン作成に成功した。また、試料ステージを改良して、化 学的な処理を施した後の観察にも成功した(図5)。 図1 走査トンネル顕微鏡(STM)

カンチレバー

(力検出用)

試料表面

図2 原子間力顕微鏡(AFM)

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3.周波数変調力検出機構の導入

汎用的に用いられるAFM装置では、通常、ダイナミックモー ド(タッピングモードあるいは振幅変調モード)として知られる、 カンチレバーの振動振幅の減少から力を検出する測定モードで行わ れる。しかし、この方法では、探針に及ぼされる力による振幅減少 とエネルギー損失(ダンピング)による振幅減少を区別することが できず、正確な力の評価が困難である。そこで、私は、精度の良い 力計測を可能とする周波数変調法(FM法)を大気中動作AFMに 導入し、大気中動作AFMの持つ簡便さを損なわずに精密な力測定 を実現する装置の開発を試みた。開発した装置では、大気中のよう な粘性雰囲気中でも共鳴振動のQ値が高い値を保持する自己検出型 の水晶振動子を採用した(図6)。水晶 振動子は、そのピエゾ効果のため振動信 号を電流信号として発生させるため、面 倒な光軸調整を要しない(図7)。音さ 型の水晶振動子の先端部分に集束イオン ビームで先鋭化した金属針を用いる以外 に、カンチレバーの探針を流用する技術 を確立した(図8)。この改良した装置 で、大気中の実験を行ったところ、図9 図3 AFMによる陽極酸化 図7 振動信号検出回路 図5 フッ酸で酸化物パターンを除去(白色は周囲より隆起し、黒色は窪んでいることを表す。) 図6 水晶振動子型力検出プローブ 図4 酸化物パターンのAFM像 500 nm

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のように大気中で安定してAFM像が取れた。

4.エネルギー散逸測定機能の導入

原子間力顕微鏡(AFM)測定時において、励振させている力センサーに、試料接近時と離れる時で異なる力す なわちヒステリシスを有する力(非保存的相互作用)が働くと、センサーの励振エネルギーの散逸が生じ、力センサ ーの振動振幅を一定に保つためには、励振振幅を上げてエネルギー散逸分を補てんする必要がある。周波数変調型(F M)-AFMでは、共振振動数変化による力測定と同時に、励振振幅の変化からエネルギー散逸量を測定することが できるので、トポグラフとの比較から表面局所構造との関連付けが可能である。このような非保存の力学過程を原 子・分子スケールで局所計測できれば、表面物性測定の幅を広げると期待できる。また、静電気力・磁気力などに起 因したエネルギー散逸測定により、帯電・誘電緩和・磁区構造の変化に関する情報を局所的に評価することも可能と なる。このような背景から、理論および実験の両面から多くの研究が行われているが、エネルギー散逸の起源に関し ては明確になっていない点も多い。私は、これにエネルギー散逸量測定機能を組み込み、その評価を行ったので紹介 する。エネルギー散逸量は、相互作用のない状態での励振電圧が力センサーの共振時のエネルギー損失(Q値から求 められる)に相当するとして、励振電圧との比から定量的に求められる。図10は、チューニングフォーク型水晶振 動子を力センサーとして測定したマイカへき開表面のトポグラフ(左)およびエネルギー散逸像(右)である。 図 1 f0~32kHz Q~1400 図9 Si(111)表面像 図8 カンチレバーの探針を接着後折り取る

4.0 nm

0 nm

0 (a.u.)

5 (a.u.)

図10 マイカ表面のトポグラフ(左)とエネルギー散逸像(右)

(4)

5.FM-AFM によるナノスケールリソグラフィーへの応用

AFM探針と基板表面間に電圧を印加すると、電界蒸発により探針先端原子を基板表面に移動させることができ る(図11)。この現象を利用して基板表面上にナノスケールでのパターン構造を描画するBias-assisted AFM lithographyと呼ばれる手法が研究されている。これまでの結果によると、その最小描画線幅はおよそ25nm程度 であるが、この理由は、(1)カンチレバー探針を描画物質でコーティングするために、探針先端の曲率半径が大き くなる点(2)探針の位置制御性に乏しいAM-AFM(タッピ ングモード)で実験が行われている点、と私は考えている。そこ で、私は、力センサーとして水晶のチューニングフォークを用い、 力検出感度が高く空間分解能の優れたFM-AFMによる実験 を試みた。チューニングフォークの先端には、10μm径の金ワ イヤを接着し、FIB(集束イオンビーム)で先端を研磨して、 従来のコーティングによる探針よりも細くしたものを用いてい る。この探針と基板間にパルス電圧を印加することによって描画 を行った。カンチレバーの振幅を1.4~1.9nm、シリコン 基板側のパルス電圧は-5.6~-5.8V、パルス幅は1msec に設定して実験を行ったところ、図12~14のように安定して、 金のナノスケールの構造物を作成できることが分かった。なおこ の結果は論文にまとめた[1]。

[1] M. Hamada et al., Rev. Sci. Instrum. 79, 123706 (2008).

図11 AFMにおける電界蒸発

図13 電界蒸発によるパターン形成

100nm

図14 電界蒸発によるパターン形成 図12 電界蒸発前のAFM像 電界蒸発後のAFM像

(5)

6.高温AFM測定機能の導入

試料の温度を変えながらAFM測定したいという要望が所内からあったので、私はヒーターと温度モニタ用の熱 電対を組み込んだ温度可変型試料ステージの開発を試みた(図15)。テスト試料としてSi基板を測定した結果、 110℃程度まで加熱しても、安定してステップ構造が確認できた。現在、この装置で、形状記憶合金の共同研究を 行っている。

7.走査トンネルポテンショメトリー機構の導入

走査トンネルポテンショメトリー (STP: scanning tunneling potentiometry)は、電流が流れている領域での表面電位分布を、 走査トンネル顕微鏡(STM)によるトポグラフ像と同時に描き出 す手法である。ナノスケールでの空間分解能とμVレベルの電位分 解能を有しており、ナノデバイスにおける電気伝導評価の極めて有 効な手段の一つと言える。この手法では、ゼロバイアス電圧でトン ネル電流がゼロになる条件から電位を決定しており、そのため、金 属的な試料を測定するのに適している。私は、この機構を大気中動 作型SPM装置において、図16のような回路系を構成して、Si 酸 化膜基板上に蒸着した金薄膜を試料として テストしたところ、図17に示すように、 数μVの分解能で電位分布を測定できるこ とが確認できた。この時に取得した表面構 造と電位分布を合成して三次元表示した図 18を見ると、明らかに、金粒子のドメイ ン境界で電位が大きく変化していることが 分かる。また、バンドを有する半導体など 非金属試料でも測定できるように、改良す ることも成功した[2]。しかし、STMをベースとした手法でありながら、表面系に対する測定はあまり行われていない。 清浄表面上での異種元素の吸着により誘起される超周期構造の中にも金属的な性質を持つ系が知られているが、超高真空 図15 温度可変型試料ステージ

熱電対

ヒーター

図16 STPの回路系 図17 Si 酸化膜基板上に蒸着した金薄膜のSTP測定

(6)

(UHV)中で表面上に電極を作成するのが困難なためか、 STP測定例は非常に少なく、特殊なSTM装置(4探針S TM)を用いて測定されたSi(111)√3x√3-Ag の例があるの みである。 そこで私は、次のステップとして、表面科学分野で興味が 持たれる超周期構造上でのSTP測定を実現することを目標 にした。これまで開発したSTP装置の回路系をオミクロン 社製の超高真空STM装置に導入した。次に、清浄表面での STP測定を行いたいが、清浄表面上の2か所で電気的接触 を取ることは簡単ではない。そこで、電気的接触を取る方法 としてUHV中での加熱に支障がないタンタル電極をアーク プラズマガンを用いて基板上にあらかじめ作成し、その基板 上に元素吸着を行わせることで超周期構造をもつ表面を作成する手法(図19)と、あらかじめ基板の両面に電極を作成 した基板を超高真空中で劈開する(図20、21)ことにより清浄表面(図22、23)を作製し、吸着表面上でのST P測定を行う手法の二つの方法で、装置開発を進めている。

[2] M. Hamada et al., Japanese Journal of Applied Physics 51 (2012) 125202

図18 図17の表面構造と電位分布の結果を合成

3次元表示

図19 タンタル電極作成法 図20 劈開用サンプルホルダー 図21 超高真空中での劈開 図22 Si(111)2X1 図23 Si(111)2X1を500℃程度で加熱後 図19

180μV

0μV

(7)

8.放射光励起STMの維持管理発

放射光励起STMとは、試料表面に光を照 射しながらSTM探針を走査する新しい実験 手法である。もう少し詳しく述べると、照射する 光のエネルギーが試料原子の内殻準位のエネルギ ーに一致すると、光電効果で発生する光電子がフ ェルミ準位近傍に励起される(図25)。すると、 これをトンネル電流としてSTM探針で検出でき るというわけである(図26)。長谷川研究室では、 高エネルギー加速器研究機構(KEK)の放射光 施設(PF)のビームラインを用いて、この装置 の開発を行ってきた(図24)。現在は、ビームラインやその装置の操作方法や動作確認を行っている状況である。

試料

探針

トンネル

内殻準位

光励起

試料

探針

トンネル

内殻準位

光励起

図25 通常のSTM測定では試料 の価電子帯・伝導体の情報が得られ るが、この方法の場合、試料原子の 内殻の情報を得ることが可能であ る。

Tip

Sample

(+)

(ー)

光電子・2次電子

Tip

Sample

(+)

(ー)

光電子・2次電子 図26 sampleに負のbiasを印 加した場合は、左図のように、光電効果で 生成した光電子・2次電子の中でtip周 辺の電子はtipへ向かい、トンネル電流 として検出することが可能である。 図24 長谷川研究室の放射光STM装置

参照

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