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―より効果的な指導を目指して―

土居美有紀・福富七重・井手友里子

要  旨  日本語や外国語教育においてシャドーイングを行うことにより発音や聴解力など 様々な学習効果が得られると言われている。しかしながら、シャドーイングを苦手 とする学習者もおり、その効果を享受することができない場合もある。そこで、シャ ドーイングを苦手とする学習者も自律的に学習できるようになることを目標とし て、個別指導および調査を行った。個別指導で、モデルのスピードを落としたり、 文や文節に区切って練習したりした結果、シャドーイングが苦手な学習者もスピー ドについていけるようになり、「母音読み」で明瞭に発音できるようになった。ま た個別指導が必要ない学生に対しては自律学習を促した。その結果、シャドーイン グが「以前よりできるようになった」と感じ、特に「スピード」「イントネーション」 「リズム」の面で実感していることが分かった。そして学生の好きな素材は生教材 であることも分かった。 キーワード:シャドーイング、発音、母音読み、個別指導、自律学習 1 はじめに

1.背景および目的

 これまで日本語や外国語教育において、シャドーイング訓練により学習者の発音や聴解 力に改善が見られるという報告が様々な研究者によってされてきた。これらの研究の多く は、研究対象者の全体的に見られる傾向を報告しており、シャドーイングを苦手とする少 数派についてはほとんど言及されていない。しかし、クラスでシャドーイングを実施する と、シャドーイングが得意な学生がいる一方で、シャドーイングがうまくできない学生が いる。シャドーイングを苦手とする学生から「シャドーイングはいい勉強法だと思うが自 分には合わない」と言う声を聞く。そこで本実践ではいい勉強法だと思っているのに、1) どうして彼らはシャドーイングがうまくできないのか、2)どうすればシャドーイングが できるようになるのか、また、3)シャドーイングがやりやすくなる方法があるのかを調 べたいと考えた。  また並行して、シャドーイングの個別指導が必要ない学生には自律的にシャドーイング を実践させ、そこで得られた記録日誌やアンケート結果から、4)学生のシャドーングに

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対する評価や傾向を分析し、5)初級後半から中級前半の学生にとって適切なシャドーイ ング教材はどのようなものか、6)学生がシャドーイングの効果をどのように感じている かを調べた。そして、7)学習者の自律学習につなげるための指導法を探った。

2.先行研究

 シャドーイングとは、「聞こえてくるスピーチに対してほぼ同時に、あるいは一定の間 をおいてそのスピーチと同じ発話を口頭で再生する行為」である(玉井 1997)。外国語学 習におけるシャドーイングの効果については、様々な研究結果が報告されている。  まず、シャドーイングはアクセントやイントネーションの改善に役立つという報告があ る。英語学習の分野でシャドーイングは、連結などの音韻現象の習得やプロソディー、 ピッチ、ストレス、抑揚、リズム、ポーズ、母語なまりなどの改善に効果があると言われ ている(川本 2003、門田・他 2007、鳥飼・他 2003)。日本語学習の分野でも、萩原(2005) は中国人学習者にシャドーイング指導を約 3 ヶ月行ったところ、促音・長音・撥音の誤用 が大幅に減少し、単音の誤用が減ったと報告している。また、高橋(2006)も、一週間発 音を意識したプロソディーシャドーイングを実施した後テキストを音読させると、アクセ ントやピッチの改善が見られたと報告している。  次に、シャドーイングにより聴解力が伸びるということも言われている。鳥飼・他(2003) は、シャドーイングをすることにより目標言語の速度についていけるようになるだけでな く、復唱した音声が短期記憶に残り、情報が失われるのを防ぎ、意味理解を促進すると述 べている。門田(2007)は、リスニングには音声を処理する知覚過程と文の意味を統合的 に理解する理解過程があるが、シャドーイングを続けることで外国語の韻律特徴に慣れ知 覚過程が自動化され、その結果より多くのワーキングメモリの処理資源を文やパラグラフ の理解に使えるようになると述べている。唐澤(2010)は、シャドーイング実験後に行っ た質問紙調査で「聞いた日本語を頭の中で保てる時間が長くなった」、「母語に置き換えて 理解する方法から、目標言語のまま理解する方法に変わった」という被験者の声を報告し ている。これらのことから、シャドーイングにより脳の外国語情報を処理する能力が向上 し、その結果聴解力が伸びると考えられている。  また、シャドーイングは流暢な発話ができるようになることに関係があることも指摘さ れている。岩下(2010)によると、相手の言葉を即座に理解し、自分の言いたいことをす ぐに流暢に発話するためには、聞こえたらすぐに発話するという即時的な処理を伴う練習 が必要であるが、その練習の一つにシャドーイングがあると述べている。そして、聞こえ たら発話する練習にはリピーティングもあるが、モデル音声を聞き終えた後に再生するリ ピーティングよりも、モデル音声を聞きながら再生するシャドーイングの方が即時的な処

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理が要求され、より効果的であると述べている。また門田(2007)は、スピーキングには、 これから発話しようと心の中で文を作り上げる発話プランニング段階とそれを実際に喉 頭、舌、口唇を使って音声として発する実行段階があるが、シャドーイングはこの実行段 階に大きく作用すると述べている。門田は、学習者はかなりのスピードで外国語を聞いて シャドーイングしているので、調音のトレーニングとして有効で、学習者が一定のスピー ドを持った話し方ができるようになるためのトレーニングになると述べている。  最後に、シャドーイングは語彙、表現の習得にも役立つということも言われている。船 山(1998)は、目だけでは覚えにくい語彙がシャドーイングによる音声刺激を受けること により、記憶に残りやすくなる可能性があることを述べている。また唐澤(2010)も、難 しい言葉や専門用語などが覚えられるなど協力者がシャドーイング練習により語彙習得に 効果を感じているということを報告している。  ここで述べたのは一部の例ではあるが、このようにシャドーイングを行うことにより 様々な学習効果が得られるということが長年にわたり報告されている。しかしながら、先 述のシャドーイングを苦手とする学習者については研究報告で伝えられることが今までほ とんどなかった。従って今回の実践ではシャドーイングを苦手とする学習者の問題点、対 処法を探り、また学生が自律的にシャドーイングの練習ができるような素材やシャドーイ ングに対する学習者の全体的な意識についても調査を行った。

3.実践方法

 今回、南山大学外国人留学生別科の初級後半クラスの履修者 41 名を対象に行った。シャ ドーイングの指導期間は 2012 年 9 月 24 日から 12 月 9 日までであった。 1)シャドーイング練習 1(教科書を使用した練習)  2012 年 9 月 24 日から 10 月 15 日までの期間、授業で使用する教科書『げんきⅡ』16 課か ら 19 課の会話のシャドーイング練習を行った。シャドーイング練習は宿題として課し、 毎週記録日誌をつけさせた。シャドーイング練習の際は、なるべく教科書を見ないで音だ けを聞いて行うこと、モデルと同じ速さ、同じ発音を目標にすることに気をつけさせた。 また、毎日少しずつ行うことも奨励した。記録日誌には練習した日、練習回数、そして練 習の際に教科書を見たかどうかについて記録させ、一週間に一回提出させた。 2)シャドーイングのテスト  2012 年 10 月 8 日から 10 月 19 日までの間に個別にシャドーイングのテストを行った。こ のテストで学生はテストの前に練習してきた教科書の会話をシャドーイングし、教師がス

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ピード・正確さ・アクセント・イントネーション等の観点により個別に評価を行った。こ のテストによってシャドーイング練習を一人で行うことが困難だと認められた学生に対し て、その後個別指導を行うこととした。 3)シャドーイング練習 2(自分の好きな素材を使用した自由課題練習)  2012 年 10 月 23 日から 12 月 9 日に学生は自分の好きな素材を選んでシャドーイング練習 を行った。長さは 15 秒から 1 分ぐらいのもので、毎日練習すること、意味が自分でだいた い分かるものをシャドーイングすることを奨励した。宿題として課し、毎週記録日誌をつ けさせた。記録日誌には、「シャドーイング゙したもの(素材)」「何回練習したか」「シャドー イングができたか」「やりやすかったか」「がんばったところ」等の記録をさせた。そして、 最後に学生各自に自分がシャドーイングしている声をモデル音声とともに録音させ提出さ せた。 4)シャドーイングの個別指導  シャドーイングテストで、スピードについていけない、モデルのアクセントやイントネー ションが意識できない、などシャドーイング自体の練習の必要があると認められた学生に 対して個別指導を行った。このような学生がただやみくもに自分で練習しても、シャドー イングの効果は得られないため、シャドーイングに慣れさせること、自律学習につなげる ことを目的として、シャドーイング練習 2(自由課題)の練習期間中(10 月 23 日から 12 月 9 日)に個別指導を導入した。  週に一回の個別指導を設定し、教師が学生のレベルにあった素材を選び、モデル音声の スピードや長さを調整したり、アクセントやイントネーションについてフィードバックを 与えたりした。個別指導を行った学生は 41 名中 6 名であった。  個別指導では、「みんなの日本語」の聞き取り問題から 8 つの素材を選び、文が短く易し いものから、だんだん長く難しいものになるように導入した。個別指導の流れを以下に示す。 ①内容質問 その日に練習する素材を聞かせ、内容質問をしてシャドーイング素材の内容が理解 できているかを確認した。 ②事前チェック その後、事前チェックとして、普通のスピードでスクリプトを見せずシャドーイン グができるか確認した。スピードやアクセント、イントネーションに問題がある場 合は、その素材で指導を行った。 ③練習 ②の事前チェックで練習の必要があると判断された場合、シャドーイングの難易度

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を下げるため、①スピードを落としてするか、②スピードはそのままだが文や文節 で短く区切ったものを使うか、のいずれかの方法で練習させた。最終的には一人で シャドーイングができるようになることが目標であるため、スクリプトを見せるこ とを極力さけるようにした。難易度を下げて数回練習してもまだ難しそうな場合の み、テキストを見せる、或いはできない部分だけを取り上げてディクテーションを させ、確認するにとどめた。 ④事後チェック 練習後シャドーイングに慣れてきたら、「事後チェック」として「事前チェック」 で使った素材そのままのもの(普通のスピードで短く区切られていないもの)を シャドーイングさせた。その際、学生のシャドーイングを録音し、その後、それを 一緒に聞きながら、気をつけるべき点などについてフィードバックを行い、その日 の個人指導を振り返り、一週間家でその素材で練習するように指導した。 ⑤一週間後、練習したもののチェック 一週間家で練習してきた素材を普通のスピードで、短く区切らずにシャドーイング できるかチェックをした。問題なくできた場合は次の素材に移り、まだスピードや イントネーション、アクセントに問題がある場合は、同じ素材を同じ方法で練習 し、もう一週間家でも練習させた。

4.結果と考察

4.1 アンケート結果  学期終了時にシャドーイングについて学生全体へアンケート1)を行った。アンケートで は、32 名からの回答を得た。「(シャドーイングをする時に)気をつけていたこと」「以前 よりできるようになったか」「何が上手になったか」「これからもシャドーイングを続ける か」、またシャドーイング練習 2(自由課題)について「どんなジャンルの素材をシャドー イングしたか」「一番好きな素材」を聞いた。そして、シャドーイングについて自由に記 述してもらった。  シャドーイングについての自由記述では次のような意見が出された。 ①シャドーイングの良さについての意見 図表 1 シャドーイングで気をつけていたこと(複数回答) 人数 % 人数 % スピード 25 人 78.2% イントネーション 17 人 53.1% リズム 19 人 59.4% アクセント 17 人 53.1% 正しく言えたか 18 人 56.3% 意味 9 人 28.1%

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図表 2 以前よりできるようになったか 図表 3 何が上手になったか(複数回答) 人数 % 人数 % スピード 19 人 59.4% 表現 13 人 40.6% イントネーション 17 人 53.1% アクセント 12 人 37.5% リズム 17 人 53.1% 会話がスムーズに 6 人 18.8% 聞きやすくなった 16 人 50% 特になし 2 人 6.3% 図表 4 これからも続けるか 図表 5 どんなジャンルの素材をシャドーイングしたか(複数回答) 素材 人数 % 素材 人数 % 教科書 20 人 62.5% ドラマ 6 人 18.8% 詩 13 人 40.6% 映画 6 人 18.8% アニメ 9 人 28.1% その他 10 人 31.3% ニュース 6 人 18.8% * 「その他」は全て CM であった。 図表 6 一番好きな素材は何か 素材 人数 % 素材 人数 % 詩 9 人 28.1% 映画 4 人 12.5% アニメ 5 人 15.6% ニュース 3 人 9.4% 教科書 5 人 15.6% ドラマ 2 人 6.3% CM 5 人 15.6%

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 スピード、会話、イントネーション、聴解力への効果について言及したものが多 かった。 例)・シャドーイングで教科書以外の内容を習えるからいい。 ・日本語で会話がスムーズにできるようになった。 ・イントネーションが良くなる。 ・スピードが速くなる。 ・聴解力が伸びる。 ②シャドーイングの課題や提案としての意見  自分に合った素材を見つけることの難しさや自己チェックの難しさ、また何度も聞 くことや普段の生活の中でもシャドーイングをやっていくことの必要性を述べたもの が多かった。 例)・何回も聞くのは大切。 ・自分に合ったレベルの素材を探すのは難しい。 ・正確さだけではなく、素材の意味を理解することも大切。 ・テレビを見る時にシャドーイングをした方がいいと思う。 4.2 アンケート結果についての考察  シャドーイングの実践について、学生は「できるようになった」「ちょっとできるよう になった」を合わせると 93.8%と肯定的な答えがほとんどであった。更に何が上手になっ たと思うかについては「スピード」が最も多く、「イントネーション」「リズム」が続いた。 また「聞きやすくなった」の答えも多く、シャドーイングによる聴解力の効果も指摘でき る。逆に「アクセント」や「表現」「会話がスムーズになる」ことについては、シャドー イングにより効果が得られると実感している学生は少ないようである。  また、今後も続けたいかという問いに対し、ほとんどの学生が続けたいと答えていたこ とから、学生にとってシャドーイングは肯定的に受けとめられていると言えるだろう。  素材については自由に選べるにもかかわらず、一番好きな素材で上位の詩やアニメでは なく、教科書の会話を選ぶ学生が多かった。また教科書を選ばなかった場合「自分のレベ ルにあった素材を探すのは大変だ」という学生の意見があったことから、初級後半∼中級 前半の多くの学生にとって自分のレベルにあった素材を探すのは負担が大きく、教科書を 選ぶ学生が多かったと推測できる。学生のモチベーションを上げるためにも学生の日本語 のレベルにあったアニメや詩を教師側が提供できると良い。  また、学生が自分で選んだアニメをシャドーイングし、録音したファイルを教師が聞い たところ、聞いていて何を言っているか意味が分からない部分があった。学生が自分では シャドーイングができていると思っていても、実際にシャドーイング素材の語彙や意味内

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容を理解した上で行っているかは疑問の余地がある。「正確さだけではなく、素材の意味 を理解することも大切」と一部の学生も自覚しているように、シャドーイングの目標は シャドーイングをしながら自分が今何を言っているのかが分かることである(斉藤仁志・ 他 2006)。しかし、「何に気をつけてシャドーイングをしていたか」という質問に対し、 多くの学生が「スピード」と答えているように、「シャドーイング=スピード」つまりモ デルと同じスピードで速く言えるようになることだけにとらわれる傾向があるので、言葉 とその意味を理解することの重要性も伝えるべきであろう。また、イントネーションやリ ズム、モーラ、特に促音にもう少し注意してシャドーイングをするように指導する必要も ある。学生にとって、モデルのスピードについていけるかは自覚しやすいが、イントネー ションやリズム、モーラはモデルと同じようにできているかは自覚しにくい。どのように 学生に意識させるかが今後の課題だ。シャドーイングができるようになる過程の中には、 まずモデルと同じスピードで言えるようにする、次はリズムやイントネーションに注意し て言えるようにする、それができるようになったら、今度は意味を考えながらできるよう にする、というふうにいくつかの段階があり、モデルについていくことはその第一段階に すぎない。学生が自分は今どの段階で、次に何を目指せばよいかということが分かるよう にフィードバックを与えながら指導する必要があるのではないだろうか。 4.3 個別指導について  シャドーイングのテストで自律学習が難しいと判断された学生 6 名を対象に教師との個 別指導の時間を設け、自由課題の期間の約 6 週間にわたり、スピード、発音、イントネー ション、モーラなど学生のニーズに合わせて指導を行った。個別指導の最終日に行ったア ンケート調査と指導の記録を基に個別指導の過程とそこで観察された効果について報告し たい。  アンケート調査で「シャドーイングができるようになったか」と聞いたところ、6 名中 5 名の学生が「できるようになった」、1 名が「ちょっとできるようになった」と答えた。 また指導後の録音や指導記録を見ても、スピードに追い付けず、口がまわらなかった学生 も練習後はモデルと同じスピードでシャドーイングができるようになるなど改善が見られ た。シャドーイングができない学生には、スピードが速くなると口がまわらない、会話の 文が長くなると文末まで再生できないなどの傾向が見られる。シャドーイングに少しずつ 慣れさせるために、スピードを落とす、一文の長さを短く区切るといった練習方法は効果 があるようだ。  また、発音にも改善が見られた。口をあまり開かないため、発音がはっきりせず聞き取 りにくい学生には「母音読み」2)を取り入れた練習を行った。「母音読み」とは、滑舌をよ くするために使う方法で、スクリプトを母音だけで読むというものである。例えば、「だ

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いがく(da・i・ga・ku)」を母音読みすると「あいあう(a・i・a・u)」になる。母音を意 識しながら口を動かすことができるので、滑舌が悪く、発音がはっきりしない学生に有効 な指導方法である。スピードが速いと口がまわらなくなり発音が明確でなくなることがあ るが、そのような場合、シャドーイングと母音読みを組み合わせて練習することで、自然 なスピードでもはっきり口を動かすことができるようになった。  指導の過程で、検討すべき点も見つかった。第一に、スクリプトの提示についてであ る。耳で聞いたとおりの音声やイントネーションに注意を向けてもらうため、極力スクリ プトは見せないようにしていた。しかし、シャドーイングができない学生は聞き取りが弱 く、聞いた音声が再生できないケースが多々見られ、スクリプトを全く見せずにシャドー イングをさせるのは難しいことが分かった。  第二にイントネーションについてである。シャドーイングはイントネーションに効果が あると言われている(高橋 2006)。確かに本実践の個別指導中にもアクセントやイント ネーションの改善が見られたが、1 週間後のチェックの際には改善前のイントネーション に戻り、母語の影響が見られることがあった。スピードやモデルの言葉を再生できたかど うかは自分でも認識しやすいのに対し、イントネーションが改善したかどうかを自分で判 断するのは難しい。そのため、1 週間の自己練習の間にイントネーションを意識した練習 があまりできなかったのかもしれない。その上、2 週間以上同じ素材をシャドーイングし 続けると、学生は飽きてしまいモチベーションも下がってしまうため、イントネーション が改善されていなくてもスピードさえついていければ次の素材の指導に入ることが多かっ た。そのため、しっかりイントネーションを意識させる機会を与えることができなかっ た。今後、学生の指導の際にどのように意識づけするかも再度検討する必要があるだろう。  最後に、撥音や促音などモーラの問題についてもシャドーイングで改善できるかどうか を探っていきたい。今回の個別指導中には、撥音、促音、長音などに問題が見られたため、 その点を取り上げて指導を行ったが、個別に単語や文レベルでは言えるようになっても、 シャドーイング練習に戻ると、改善された点も元に戻ってしまうことがあった。シャドー イングの中で、どのようにモーラの指導をしていくべきかについても検討する必要がある と思われる。

5.まとめと今後の課題

 以上、シャドーイングの実践を通して、シャドーイング自由課題における学生の傾向や シャドーイングに対する評価、またシャドーイングが苦手な学生の個別指導の様子を報告 した。  今回のシャドーイングの実践から学生のシャドーイングに対する評価と傾向が分かっ

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た。評価については、シャドーイングの練習を通じて、ほとんどの学生が「以前よりもシャ ドーイングができるようになった」と思っており、その効果については約 60%が「スピー ド」、半数以上が「イントネーション」「リズム」「聴解力」などが上達したと感じている ようである。全体的にシャドーイングは「役に立つ」と思っており、また約 80%が「今 後も続けたい」と思っていることが分かった。  シャドーイングの素材についての傾向は、学生が最も多く練習したのは教科書であった が、好まれる素材としては生教材、特に「詩」「アニメ」などであることが分かった。学 生のレベルに合い、かつ生教材のような興味が持てるもの、また学生が自分の興味に合わ せて自主的に選べるような教材が求められるであろう。シャドーイングの指導法として は、スピードだけでなく、イントネーションを意識させること、素材の意味をきちんと理 解した上で練習することが必要であることが分かった。  シャドーイングが自分でスムーズにできる学生がいる一方で、シャドーイングが苦手な 学生には個別の指導が効果的であることも分かった。苦手な学生には口がまわらずスピー ドについていけない、その結果、長い文だと最後まで正確に言い終えることができない、 また発音が不明瞭になる、といった傾向が見られた。これらについてはスピードを落と す、一文の長さを短く区切るといった練習方法や母音読みなどは効果があることが分かっ た。また、撥音や促音などモーラの問題に対してどのようにアプローチできるかというこ とが課題として残った。  その他の課題としてはシャドーイングの効果について、今回は学生のアンケート結果に 基づいて考察をしたが、今後は客観的なデータを分析する必要があるであろう。またシャ ドーイングがある程度できる学生もその効果を得るには一定期間の練習が求められる。 シャドーイングはあくまで様々な学習活動の一部に過ぎない。忙しい留学生が自律的練習 を継続するためのモチベーションを上げる工夫、また負担になり過ぎない方法を模索する 必要があるだろう。 (注) 1) 本調査は南山大学研究倫理審査委員会において倫理審査を受け承認された。承認番号:12― F020 2) 「母音読み」は劇団員であり、演劇や朗読の指導に携わる元日本語教師の中村透子氏による 「日本語の先生のための朗読ワークショップ」で学んだ。 参考文献 岩下真澄(2008)「日本語学習者におけるシャドーイング訓練の有効性―1 ヶ月間の縦断的調査 による検討」『広島大学大学院教育学研究科紀要』第二部 第 57 号,219―228

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岩下真澄 (2010)「日本文の視覚呈示がシャドーイングの遂行成績に及ぼす影響」『広島大学大学 院教育学研究科紀要』第二部 第 59 号 , 219-227 荻原 廣(2005)「日本語の発音指導におけるシャドーイングの有効性」『京都経済短期大学論』 第 13 巻,第 1 号,55―71 荻原 廣(2007)「シャドーイングの日本語音声教育における有効性―単音、アクセント指導を 中心に」『龍谷大学 國文學論叢』第 52 号,A112―A126 門田修平(2007)『シャドーイングと音読の科学』コスモピア 門田修平[監修・著]・高田哲郎・溝畑保之(2007)『シャドーイングと音読―英語トレーニング』 コスモピア 門田修平・玉井健(2004)『決定版 英語シャドーイング』コスモピア 唐澤麻里(2010)「シャドーイングが日本語学習者にもたらす影響―短期練習による発音面およ び学習者意識の観点から」『お茶の水女子大学人文科学研究』第 6 巻,209―220

川本佐奈恵(2003)「英語の学び方活かし方」Retrieved November 26th, 2005 from http://allabout. co.jp/study/english/coloseup/CU20031125A/ 斉藤仁志・吉本惠子・深澤道子・小野田知子・酒井理恵子(2006)『シャドーイング―日本語を 話そう・初∼中級編』くろしお出版 高橋恵利子・福田規子・岩下真澄・迫田久美子(2010)「上級学習者に対するシャドーイングの 研究―学習者の気づきと教師の支援―」『広島大学大学院教育学研究科紀要』第二部 第 59 号,299―308 高橋恵利子(2006)「シャドーイングが発音に与える影響」『2006 年度日本語教育学会秋季大会 予稿集』57―62 玉井建(1997)「シャドーイングの効果と聴解プロセスにおける位置づけ」『時事英語研究』第 36 号,105―116 鳥飼玖美子[監修・著書]・玉井健・染谷泰正・田中深雪・鶴田知佳子・西村友美(2003)『はじ めてのシャドーイング』学習研究社 船山仲也(1998)『シャドーイングの応用研究』日本時事英語学会関西支部・同時通訳研究分科 会 望月通子(2006)「シャドーイング法の日本語教育への応用を探る―学習者の日本語能力とシャ ドーイングの効果に対する学習者評価との関連性を中心に」『視聴覚教育』第 29 号 参考資料

坂野永理・大野裕・坂根庸子・品川恭子・渡嘉敷恭子(2011)『げんきⅡ』The Japan Times 牧野昭子・田中よね・北川逸子(2003)『みんなの日本語初級Ⅰ聴解タスク 25』スリーエーネッ

トワーク

牧野昭子・田中よね・北川逸子(2005)『みんなの日本語初級Ⅱ聴解タスク 25』スリーエーネッ トワーク

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Practical Report on Shadowing

―Pursuing more effective instruction―

Miyuki DOI, Nanae FUKUTOMI, Yuriko IDE

Abstract

  Many studies have proven that practicing shadowing helps learners improve their foreign language skills, specifically pronunciation and listening skill. However, some learners struggle and cannot appreciate shadowing’s effect, while others can perform shadowing without facing problems. One of the aims of this study was to explore how instructors can help students who struggle with keeping up with the speed of the model dialogue. In tutoring sessions, students practiced with a speed- regulated model and the model divided by phrases or sentences. In addition, students did “vowel sound reading” for the words which they could not pronounce accurately. As a result, their performance and pronunciation improved.

  In order to respect students’ autonomy, students who did not need the instructors’ help practiced shadowing by themselves and kept journals. We found that after practicing, they felt that their shadowing skills improved, especially in the aspects of “speed” “intonation” and “rhythm”. They enjoyed using raw-materials for shadowing practice.

図表 2 以前よりできるようになったか 図表 3 何が上手になったか(複数回答) 人数 % 人数 % スピード 19 人 59.4% 表現 13 人 40.6% イントネーション 17 人 53.1% アクセント 12 人 37.5% リズム 17 人 53.1% 会話がスムーズに 6 人 18.8% 聞きやすくなった 16 人 50% 特になし 2 人 6.3% 図表 4 これからも続けるか 図表 5 どんなジャンルの素材をシャドーイングしたか(複数回答) 素材 人数 % 素材 人数 % 教科書 20 人

参照

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