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産業技術高専におけるキャリアデザインの授業

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Ⅰ.要約

 この論文は,東京都立産業技術高等専門学校荒川 キャンパスで実施した 4 年選択科目「キャリアデザイ ン」の,2009 年度後期部分の紹介である。前期部分 は,経済教育学会第 26 回全国大会において『イン ターンシップの事前指導と連動したキャリアデザイン の教材開発』として発表した。後期の授業内容は,① 前期の授業や夏休みのインターンシップの経験から, 職業に対する理解を深めさせる,②面接の実践トレー ニングや企業探索などの就活スキルの向上,③キャリ ア理論を使った演習などである。この授業は高専用に 開発され,単なる就職活動の支援ではなく,キャリア 理論や企業活動の理解に基づきながら,学生の自己分 析を進め,職場に適合しようとする人材開発の効果が ある。  キーワード:キャリアデザイン,高等専門学校, キャリア教育,進路指導,教材開発,リアセック。

Ⅱ.はじめに

 本論文では,2009 年度(平成 21 年度),東京都立産 業技術高等専門学校(以下,産技高専あるいは本校) 荒川キャンパスにおいて実施したキャリアデザイン科 目の後期授業を紹介する。現在の荒川キャンパスは, 2009 年度末に廃校となった東京都立航空工業高等専 門学校(航空高専)を承継したキャンパスである。  産技高専荒川キャンパスの第 1 期卒業生は 144 名で あり,進学(大学 3 年編入 46 名・専攻科 13 名・各種 学 校 1 名 ) し た 者 60 名(42 %), 就 職 し た 者 78 名 (54%),その他 6 名(4.%)であった(参考文献[1])。 求人倍率は 7.1 倍,就職内定率は 98.7%であった(参 考文献[2])。産技高専は前身校の伝統を引き継ぎ, インターンシップ先企業や内定先企業も順調に引き継 いだと言えよう。産技高専開設とともに設置された キャリアデザイン科目も貢献したのではないかと思わ れる。

Ⅲ.本校の就職活動

 よく誤解され,議論の前提が崩れるので,ここで本 校(高専)の就職活動について説明しておく。  本校の就職活動は,一般的な大学の就職活動とは大 きく異なっている。大学における自由応募とは違い, 本校では原則的に一人一社推薦制である。4 年次に就 職試験が開始されることはまれで,4 年の末,進路説 明会が実施される。その後,クラス担任との面談, コース等の面接指導があり,5 年の 4 月から,採用試 験がはじまる。学生は約 500 社の企業リストの中から 好きな企業を選び,校内選考を経て出願する。5 月の 連休前後から,面接試験が多くなり,5 月末には内定 が出始め,1 社目で落ちた学生が 6 月ごろ 2 社目を受 験する。7 月にはほとんどの学生に内定が出ていて, あとは,各クラス,数名の学生を残すのみとなる。  採用選考は,筆記試験と 1 〜 3 回の面接試験の組み 合わせが多いが,事前のエントリーシートを書くこと や会社説明会に参加することは少ない。就職を希望す る学生は,5年生の授業の間,1〜3日の公欠をとれば, 就職活動が終わるため,学業に影響することはほとん ど無い。  就職先は,機械・電気・電子の製造業,情報・専門 サービスが多く,全国の高専で築き上げてきた就職先 に,全国の高専生が代わる代わる内定をとっていく。 本校では卒業生の就職先と,例年,募集がくるイン ターンシップ先をがっちり押さえて,内定先としてい る。求人倍率は景気動向により5倍〜20倍の開きがあ るが,5 倍であっても自由応募ではなく,面接から選 考がはじまるため,学生の負担は少ない。  このような状況の中のキャリアデザインであるから,

産業技術高専における

キャリアデザインの授業

The Journal of Economic Education No.31, September, 2012

Lectures on Career Design in Tokyo Metropolitan College of Industrial Technology

Tanaka, Jun Matsumura, Naoki

田中 淳(東京都立産業技術高等専門学校)

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就活指導の対症療法的なプログラムを組む必要はなく, 4 年のインターンシップの事前・事後指導に力を入れ ている。

Ⅳ.授業の概要

 キャリアデザインの科目概要は表 1 にある。  荒川キャンパスの 4 つの工学コース(定員 160 名) のうち,選択科目として 34 名が受講した。同時開講 している科目は 7 科目あった。4 年の選択科目である ので,進学か,就職かは未定の学生が多かった。履修 の案内で科目の説明をしたが,キャリアデザイン科目 の人気は高く,抽選が必要であった。  各回の教育プログラムは表 2 に示した。例えば,2 回目の職業探索Ⅲは,Ⅰ・Ⅱは前期に講義済みという 意味である。前期の講義内容は第 26 回全国大会で発 表した。キャリアデザインの授業は,すぐに展開でき たわけではなく,約 1 年にわたる研究開発と試行的授 業,及び検証により完成したものである(参考文献 [3])。また,2009 年度の第 1 期生に対する授業の間も, 継続して検証作業を行った。従って,参考文献[3] [4]と,この論文で全体像をつかんだことになる。教 材開発のほとんどは,株式会社リアセックが担当し, 松村と田中で高専用に編集した。すべての授業で,詳 細な学習指導案が完成している。

Ⅴ.後期 14 回の授業の状況

 この章では,後期 14 回の授業の状況を紹介する。 なお,各回とも学習指導案には【受講生の状態】と 【目的・目標】を事前に設定したので,合わせて記述 した。 1.第 1 回「就職活動戦略Ⅰ.これからの就職 活動に向けて」 【受講生の状態】①後期授業となり,意欲を持って取 り組もうとしている学生や焦りや不安を抱え始めてい る学生がいる一方で,未だ現実感を持って進路につい て考えることが十分でない学生もいる。②夏休みノー トを活用して自分なりに行動してみた学生は,仕事や 社会に触れた実感を持ち,何となく卒業後の進路や働 くことに対してイメージが出来ていている。③行動し なかった学生(「宿題だからとりあえずした」という 意識の低い学生も含む)は,出遅れた感じや,まだ講 義に積極的に取り組めない気持ちがしている。 【目的・目標】①これから取り組むべきことが自分な りに整理できる,自分の課題が見えてくる。②いよい よ活動が本格的に始まることを実感する(行動してい かなくてはと感じる)。③授業に積極的に参加して, 就職活動の準備をしていこう,という気持ちになる。 【授業内容と結果】後期授業日程の説明の後,数人の 学生に前期授業の感想を発表してもらった。学生から は「計画を立てていかないといけない」「将来のこと をよく考えないと」という意見が出た。後期の活動方 針を書き込む個人ワークをさせて,グループワークで 1 人 5 分の発表をした。様子を見ていると,進路未定 の者が多く,具体的な回答は少なかった。調べ方がよ くわからないことや,計画性を持って進んでいないこ とがわかった。一方,学年の指導では SPI 模擬試験を 実施した。 2.第 2 回「職業探索Ⅲ.自分らしさとやりた いことの再確認」 【受講生の状態】①は第 1 回①と同じ。②前回の授業 で準備チェックをしたことで自分の進捗状況を理解し, 意欲的になっている学生とあせったりして不安になっ ている学生がいる。 【目的・目標】①自分がどんなことに興味関心がある のか,どんなことに面白みを感じるのかが分かる。② 自分はどんなことにやりがいを感じるのかが分かる。 ③目指している仕事(学習分野)について,もっと具 体的に調べてみようと思う。④志望している会社,仕 事でどんなやりがいが得られるのかを具体的に調べて みようと思う(自分が求めているやりがいと一致して いるかな)。 【授業内容と結果】株式会社リクルートの『就職 ジャーナル』の中から 10 社の求人広告を読ませた。 その後,「気になる言葉」「これいいなと思う言葉」な どを 20 ワードぐらい付せんに書かせ,似た者同士を グループ化して,理由付けをした。理由付けが志望理 由のエピソードになるわけだが,学生の様子を見てい ると,資料の読み込みに時間がかかり,エピソードの 作成までは力が足りなかったようだ。 3.第 3 回「就活スキルⅤ.自分のことを話す, 書く,伝える」 【受講生の状態】①は第 1 回①と同じ。②自分につい て(強みや特徴,自分らしさ,やりたいことなど)概 ね理解し,これからの活動について準備が進んでいる こと(あるいは進んでいないこと)を実感している。

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表 1 科目概要【2009 年度】 実施機関 東京都立産業技術高等専門学校 荒川キャンパス 科目名 キャリアデザイン 教科種別 一般科目,通年,2 単位,ものづくり工学科 4 コースから共通選択 対象学年 高専 4 年生(※ 19 歳) 人数 34 名 時間 水曜 5・6 時限(50 分× 2) 前期 14 週,28 時限 後期 14 週,28 時限 場所 第 3 講義室 担当 松村直樹,松谷育代,田中淳 教材 プリント,パワーポイント,映像,インターネットを使用 授業形式 座学形式,班別グループ学習,演習,発表など 表 2 キャリアデザイン・プログラム【後期:実施後】 【2009 年度,後期 14 回,1 回 50 分× 2,28 時限】 回 実施 テーマ サブタイトル 概要 1 10/7 就職活動戦略Ⅰ これからの就職活動に向 けて 夏休みの行動計画と実施報告をもとに,夏休みの経験を今後の就職活動あるいは進学準備にどのように生かしていくかを 考える。 2 10/21 職業探索Ⅲ 自分らしさとやりたいこ との再確認 前期に確認した自分らしさ,やりたいことについて改めて整理することで,いよいよ始まる就職活動,進学準備に向けて 最終確認をしていく。 3 10/28 就活スキルⅤ 自分のことを話す,書く, 伝える 「書く」「伝える」のポイントを理解する。【宿題】自己 PR の自分の強み・特徴を理解し,自己 PR を念頭においた「話す」 文書作成。 4 11/11 就活スキルⅥ 私らしい面接・実践トレ ーニング 実際の面接場面を想定しての実践トレーニング。面接のポイントの他,受け応えで陥りやすい点を理解しながら,面接で の自己 PR の仕方をマスターしていく。 5 11/18 職業研究Ⅱ 雇用環境/キャリア理論 ① 昨今の雇用環境についてデータをもとに理解する。キャリア理論として,4 回に渡ってキャリアの意味や考え方,発達に ついて学ぶ。 6 11/25 企業理解Ⅰ 企業の仕組み/キャリア 理論② 組織がどのようになりたっているのか,親会社,子会社,グループ会社などの関係を理解すると同時に総合職,一般職, 専門職などの職種区分の他,出向や転籍など,組織の中での 働き方の違いを知る。 7 12/9 企業理解Ⅱ 組織の仕組み/キャリア 理論③ 企業は様々な部門によって成り立っていることを理解しながら組織の仕組みについて知る。 8 12/16 企業理解Ⅲ 賃金の仕組みと労働/キ ャリア理論④ 賃金がどのようになりたっているのか,働く時間はどのくらいなのかなど社会人の準備講座として基礎知識を学ぶ。 9 1/6 確認テスト 第 5 回〜第 8 回のキャリア理論の内容を出題する確認テスト を行う。 10 1/13 業界・企業研究Ⅰ 業界・業種理解と就活サ イト活用術 業界,業種の違いや各業種での主要企業について理解する。インターネットを活用した情報収集の仕方を学び,業界研 究・企業研究の仕方を理解する。パソコン教室を使用。 11 1/20 業界・企業研究Ⅱ 業界研究を深める 自分が希望する業界や企業についてより具体的な情報を収集 し,希望する理由や自分としての選択基準を整理していく。 パソコン教室を使用。 12 2/3 自己理解Ⅲ 自分らしさとやりたいこ との総まとめ 自分が就きたいと思う仕事,学びたいと思う分野について,なぜその仕事に就きたいと思うのか,なぜ関心があるのかを 考え,整理していく。 13 2/10 就活スキルⅦ 本番直前・実践トレーニ ング 面接の心構えや会話のキャッチボールの復習を行い,高専生用の模擬面接を想定したロールプレイングを実施して,面接 の自己点検をグループワークで行う。 14 3/5 就職活動戦略Ⅱ まとめと就職活動本番へ の準備 一年間を通じて学んできたことを総まとめ。これから始まる就職活動に向けて不足している点,これからすべきことを確 認,実行に移す。

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【目的・目標】①自己 PR と志望動機の作成ポイント を理解できる。②自己 PR と志望動機を作成し,発表 してみたことで,自分の弱点や課題を確認する(自己 PR の文書作成は宿題とした)。 【授業内容と結果】先週のワークシートの残りをやっ た後,「自己 PR」と「志望動機」を書く作業を実施し た。ちょうど SPI の結果が来ていたので,それを参考 にして自己 PR を書かせた。自己 PR と志望動機のつ ながりは重要で,ただ「体験したい」「学びたい」と いう短期的志向ではだめで,先週の付せんゲームで見 えてきた自分の「やりがい」や,高専での学習から見 えてきた自分の「興味」,ものづくりに対する「思い」 などがエピソードとして必要であった。後半はグルー プワークで 2 人 1 組となり,お互いに発表させた。相 手の学生の発表から学べることは多く,効果的な教育 方法であった。 4.第 4 回「就活スキルⅥ.私らしい面接・実 践トレーニング」 【受講生の状態】①スキルトレーニングも最終回とな り,自己 PR・志望動機の作成,発表にもだいぶ慣れ てきた(※のち,あと 1 回スキルトレーニングを追加 した)。②スキルの差が個人間で見られるようになり, 学生自身も自分なりにできている,できていないとい う実感を持っている。③は第 3 回②と同じ。 【目的・目標】①面接についての基本的な知識とポイ ントを理解できる。②面接では会話のキャッチボール が大事であるということが分かる。③実践トレーニン グをしてみて,自分の弱点や課題を確認する。 【授業内容と結果】宿題の自己 PR と志望動機に基づ いて,面接の練習を行った。まず,面接についての種 類や方法,心構え,諸注意を講義で行い,実践トレー ニングに入った。実践トレーニングでは面接官 1 名, 本人1名,観察者2名として,「質問シート」から選ん で質問をしていき,終わったら,観察者の書いた「観 察シート」を本人にフィードバックする方法をとった。 学生の様子は大変,真面目な取り組みが見られたが, 面接途中でコミュニケーションが行き詰まる姿も一部 分あった。 5.第 5 回「職業研究Ⅱ.雇用環境/キャリア 理論①」 【受講生の状態】①スキルトレーニングのプログラム が終了し,活動準備の個人差が出てきている。②年末 に近付き,いよいよ活動が本番を迎える時期が近付い ていることを実感し,焦っている人,不安に思ってい る人などが出てきている。③進路について,意思が固 まりつつある。 【目的・目標】①昨今の就職環境について理解する (求人倍率の見方や業界ごと,企業規模ごとの違いを 知る)。②キャリアについて,主な理論を理解する。 ③キャリアとは何を意味しているのか理解する。 【授業内容と結果】5 回目から 8 回目まではキャリア理 論の座学が中心となった。ただし,理論だけを説明し てもつまらないので,企業の仕組みやグループ討論な ども教育内容に盛り込んだ。第 5 回では最近の雇用環 境として,求人倍率の推移,内定取り消し等の話しを した。キャリア理論としてはスーパー(D.E.Super)の 発達段階(キャリア・ステージ)を講義し,学生には 小学校・中学校・高専の頃の,自分の姿をワークシー トに書かせた。 6.第 6 回「企業理解Ⅰ.企業の仕組み/キャ リア理論②」 【受講生の状態】第 5 回と同様。 【目的・目標】①子会社,関連会社,持ち株会社の違 いを理解する。②キャリアについての考え方(トラン ジション)を理解する。 【授業内容と結果】前半の企業の仕組みでは,グルー プ企業,親会社・子会社,持株会社,出向と転籍の講 義をして,子会社に入社した架空の高専卒が,働いて 10 年後にどのような状況になるのかをケーススタ ディで話し合った。後半では入社後におこるリアリ ティ・ショックやシュロスバーグ(N.K.Schlossberg) のトランジション理論を学んだ。トランジション(過 渡期)を乗りこえる方法として 4S =状況(シチュ エーション)・自分自身(セルフ)・支援(サポート)・ 戦略(ストラテジー)の 4 つの視点を学び,学生には 入社後 5 年,10 年,20 年の状態を想像してもらった。 7.第 7 回「企業理解Ⅱ.組織の仕組み/キャ リア理論③」 【受講生の状態】第 5 回と同様。 【目的・目標】①組織の役割や仕組みについて理解す る。②一つの商品ができるまでにも様々な組織が関 わっていること,様々な組織が会社の中にはあること を理解する。③自分の現在の志向を確認し,キャリ ア・アンカーについて理解する。 【授業内容と結果】企業の商品開発を題材にして, 様々な部門の役割を勉強し,企業組織について学んだ。

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学生は企画や開発,仕入れ製造,営業などの部門を理 解したようだ。次にホランド(J.L.Holland)のパーソ ナリティ・タイプ論から,人間の性格を 6 つに分類し た性格分析を学生に行った。最後はシャイン(E. H.Schein)のキャリア・アンカーの講義と,キャリ ア・ディレクション(経営管理志向・専門志向・自律 志向・起業家志向・安定志向)の簡単な自己診断テス トを実施した。 8.第 8 回「企業理解Ⅲ.賃金の仕組みと労働 /キャリア理論④」 【受講生の状態】①年内最後の授業で,いよいよ活動 が本番を迎える時期が近付いていることを実感し, 焦っている人,不安に思っている人などが出てきてい る。②進路について,意思が固まりつつある。 【目的・目標】①賃金の仕組みについて理解する。② 給与明細の主要項目についてその内容を理解する。③ エンプロイアビリティとは何か,それを高めるために 何が必要か理解し,心構えを作る。 【授業内容と結果】前半は賃金の仕組みを講義した。 初任給や基本給,諸手当,保険・年金,有休,残業, 昇給,年功序列型賃金,成果主義型賃金を学んだ。後 半はエンプロイアビリティ(雇用される力)としての 能力定義を,グループワークで話し合った。 9.第 9 回「確認テスト」  第 5 回から第 8 回までのキャリア理論を覚えている かどうかの筆記試験を実施した。平均点は 89 点と高 く,最高点は100点,最低点は70点であった。出題し た内容は,(1)スーパーのキャリア発達から語群選択 問題,(2)シュロスバーグの 4S トランジションモデ ルから語群選択問題,(3)ホランドのパーソナリ ティ・タイプ(RIASEC タイプ)から 200 字の作文問 題,(4)エンプロイアビリティから 200 字の作文問題 などである。試験当日欠席した学生については,追試 課題として,(1)スーパーのキャリア発達から 400 字 の作文問題,(2)シュロスバーグの 4S トランジショ ンモデルから 400 字の作文問題を出題した。 10.第 10 回「業界・企業研究Ⅰ.業界・業種 理解と就活サイト活用術」 【受講生の状態】①キャリアデザインの授業も終盤に 差し掛かり,多くの学生が進路については固まってき ている。②活動本番の時期が目の前に迫っていること を実感し真剣に取り組んでいる学生も増える中,一部 にまだなかなかエンジンのかからない学生もいる。③ 準備が進んでいる学生も遅れ気味の学生も多少の不安 感や緊張感などを抱いている。 【目的・目標】①業界と業種の違い,主要業種につい て理解する。②就活サイトを活用した企業検索の仕方 を理解する。③同じ業種の企業を比較した時,どのよ うな視点でその違いを見るのか理解する。 【授業内容と結果】第 10 回目は今までの授業とは異な り,パソコン教室での実習とした。講義で業種や業界 (特に製造業)を取り上げ,その後の個人ワークでは, 就職情報サイトの活用例を学んだ。説明した就職情報 サイトは(株)リクルートの「リクナビ」,エン・ ジャパン(株),(株)毎日コミュニケーションズの 「マイナビ」等であった。学生には,3 社程度の企業 を見つける企業探索シートを書かせたが,就職情報サ イトに不慣れな者が多く,かなりの時間がかかったの で,放課後もパソコン教室を利用した。本校では就職 活動に自由応募という発想が無いので,ほとんどの学 生は就職情報サイトの登録をする必要がないし,また, 登録して作業を始めると,自由応募となり,逆に推薦 が受けられなくなる。そのため,授業は体験のみと いった感じになった。※最近,本校でも企業側から WEB 上での申込み依頼が増え,推薦であっても就職 情報サイトを利用するケースは増加している。 11.第 11 回「業界・企業研究Ⅱ.業界研究を 深める」 【受講生の状態】第 10 回と同様。 【目的・目標】①インターネットを使っての企業研究 の仕方が理解できる。②業界研究・企業研究で何を見 るのか,何を考えるのか,その視点を理解できる。③ 志望している企業に対して,自分の志望理由が具体的 になり,ある程度言語化できる。 【授業内容と結果】前回につづきパソコン教室での実 習である。希望する企業 2 社を探して,様々な面から 企業比較を行った。その後,どのような人材を求めて いるのか,2 社の比較とともに考えさせ,ワークシー トに記入させた。学生の様子を見ると,検索に慣れて いる学生のスピードは早く,逆にすごく遅い学生がい た。また,経営理念の意味が理解できていない学生が 多く,企業風土の比較は難しかった。 12.第 12 回「自己理解Ⅲ.自分らしさとやり たいことの総まとめ」 【受講生の状態】いよいよ活動本番直前。志望先も絞

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り込まれ実践を待つばかりの中,それぞれが緊張感や 不安感を抱えている。本番に向けての総まとめとして 準備万全にしようとする意識,意欲が出てくる。 【目的・目標】①志望先を絞り,進路先を特定して自 己 PR,志望動機をまとめる。②自分の進路に対して, 志望理由や,やりたいことなどが具体的に語れる。 【授業内容と結果】学校側の進路説明会が入る頃なの で準備が必要であった。そのため,今までの授業の ワークシートをひっくり返しながら,自己 PR と志望 動機の作成ポイントを復習した。20 分の自己 PR 作成 時間を与えたが,学生の私語はなく,真剣に書き上げ ていた。4 月当初と比べると格段の進歩であった。そ の後はグループワークで 3 人組をつくって発表させた。 班別行動も実に機敏になった。 13.第 13 回「就活スキルⅦ.本番直前・実践 トレーニング」 【受講生の状態】第 12 回と同様。 【目的・目標】①②は第 12 回①②と同じ。③面接練習 をして面接のイメージをつかみ,ポイントの再確認が できる。④面接練習をして自分の課題を再認識し,活 動準備につなげる。 【授業内容と結果】第 13 回は当初,志望動機の作成に 重点をおいて指導案を計画していたが,工学科からの 面接指導の要望が大きく,前回の自己 PR を書く作業 は順調にできるようになっていたので,実践的な面接 トレーニングを実施することにした。本校用の面接の ケーススタディを作り,代表の学生に実演してもらい, ジャッジシート(コミュニケーション力・主体性・論 理性・志望の熱意の 4 項目を採点するシート)に記入, どのケースが良くて,どこが悪いのか話し合った。そ の後,3 人の組を作り,模擬面接を実施,フィード バックシートを使って,学生同士で自己チェックをさ せた。学生の取り組みは真剣であり,フィードバック 用の短冊用紙を交換して,各自が反省をしていった。 14.第 14 回「就職活動戦略Ⅱ.まとめと就職 活動本番への準備」 【受講生の状態】第 12 回と同様。 【目的・目標】①これからの活動方針,計画が定まり 本番への意欲が高まる。 【授業内容と結果】キャリアデザイン最後の授業であ る。個人ワークでは就職活動の本番に向けての活動計 画を書かせた。今後の就職活動の流れについて説明し, その対応準備を求めた。グループワークでは,今後の 自分たちの行動予定について話し合わせ,最後は全員, 一言ずつ前に出て発表した。  学生たちの授業の感想としては,①キャリアの絵を 描いたのが印象に残っている。②自己 PR を何回も書 いたのが印象に残っている。③心理テストは結構当 たっていた。④性格診断で自分を見つめられた。⑤ま わりの人の自己 PR や考え方がわかってよかった。⑥ 電話のかけ方などインターンシップに行って,本当に 役に立った,などの感想があった。

Ⅵ.評価方法

 授業の評価は,試験・課題・平常点の 3 つの要素と し,試験(第 9 回のテスト)が 100 点満点,宿題の課 題①「企業探索」は 30 点満点,課題②「自分らしさ 発見シート」20 点,課題③「自分らしさ発見シート 2」 30 点,課題④「学びと仕事」20 点,課題⑤「自己 PR を書く」20 点.課題⑥「夏休み宿題:行動計画」20 点, 課題⑦「自己 PR &志望動機を書く」30 点,平常点は 30 点満点で,合計 300 点とした。  試験,課題,平常点の割合は 33%,57%,10% とな り,最高点は 263 点,最低点は 167 点であった。課題 の採点はからくつけたので,250 点以上を評点 10(S), 220 〜 249 点を評点 9(A),190 〜 219 点を評点 8(B), 165 〜 189 点を評点 7(B)とし,評点 6(C)以下の 学生はいなかった。 表 3 4 年次のインターンシップ先と卒業時の就職結果 インターンシップ先(4 年次) ※順不同 就職先(5 年,卒業時) ※順不同 (株)エム・ソフト,(株)ハイマックス , 東芝 IT サービス (株),精電舎電子工業(株),三菱電機システムサービス (株),ツカサ電工(株),村田機械(株),日本ビルコン (株),(株)東風谷製作所 ,(株)北嶋絞製作所,三菱重工 業(株)横浜製作所,(株)東京ベル製作所,リオン(株), 岩通ソフトシステム(株),(株)今野製作所,(株)重松 製作所,長田電機工業(株),京西テクノス(株),(株) 大原計機製作所 (注)1 人が 2 社にいったケースも含む。 岩通ソフトシステム(株),NTT コミュニケーションズ (株),精電舎電子工業(株),西新サービス(株),三菱電 機システムサービス(株),(株)柊ソフト開発,ツカサ電 工(株),村田機械(株),三國機械工業(株),関東自動 車工業(株),東京ガスパイプライン(株),三菱重工業 (株)名古屋航空宇宙システム製作所,レンゴー(株),富 士重工業(株),曙ブレーキ工業(株),東日本旅客鉄道 (株),アロカ(株),東京電力(株),TOTO(株),旭化成 (株),山崎製パン(株),(株)日立メディコ,新日本製鐵 (株)

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Ⅶ.就職結果

 キャリアデザインの授業中,4 年生 34 名のうち 17 名がインターンシップに参加した。翌年 5 年生となり, 卒業した結果,34 名中,大学編入学 5 名,本校専攻科 進学 5 名,就職 23 名,その他 1 名であった。  表 4 を見ると,キャリアデザインの受講生は,学校 全体に比べてインターンシップ参加率が高いことがわ かる。キャリアデザインの授業は,インターンシップ の動機付けに役立っていると言えよう。インターン シップ先にそのまま就職した学生は 3 名いた。イン ターンシップを希望していたが,企業側の都合で実施 できなかった学生で,その企業に内定した学生が 2 名 いた。インターンシップに行った学生が別の進路を選 んだが,その友人が,インターンシップに行った学生 の話しを聞いて内定をとったケースが 2 件あった。表 5 を見ると,就職希望が多いが,大学や専攻科に進学 しないわけではない。実際にキャリアデザインの受講 中,学生の志望は揺れ動いていた。学生の話しによる と,大学進学を希望した場合,当初,キャリアデザイ ンの授業内容に疑問を感じるが,大学編入学試験の面 接や書類選考の厳しい状況がわかってくると,キャリ アデザインの自己分析や志望動機の指導が助かると思 うらしい。だから,進学希望の学生にもキャリアデザ インの受講は有効である。しかし,大学進学希望者の 中には,進学を理由としてインターンシップを希望し ない者が多くて,指導上,困っている面もある。

Ⅷ.授業開発のポイント

 キャリアデザインの授業開発にあたって,特に留意 したポイントは以下のとおりである。 ①就職活動の時期ではなく,インターンシップの事 前・事後指導の時期にも教育を強化したこと。 ②グループワークを増やし,そのことが,就活や入社 直後の評価を高める可能性が高いこと。 ③内定獲得が主目標ではなく,ミスマッチを防ぐこと が主目標であること。 ④就職か進学かを先に決めず,プログラムの過程で自 然に決まってくるようにしたこと。 ⑤単なる就活指導ではなく,キャリア理論や企業の仕 組みについても,授業に導入したこと。

Ⅸ.おわりに

 このキャリアデザインの授業は,すべての授業に詳 細な学習指導案と教材があり,本校の独特な就職活動 に対して調整済みである。インターンシップの事前指 導との連動や,キャリア理論,企業の仕組みの講義も あり,単なる就職活動対策とはなっていない。目指し ているのはミスマッチを防ぎ,不本意な内定を減らす ことである。今のところ,本校卒業生の評価と定着率 は比較的高く,人事担当者からおおむね好評である。 このような状況は,キャリアデザインの授業だけでは なく,クラス担任の役割,就職支援室の役割,卒業研 究担当教員の役割,インターンシップ室の役割,教科 担当者の役割,進学支援室の役割がミックスされた結 果である。つまり,キャリアデザインの受講生は,学 生の交流(グループワーク)と,何回もある自己分析 から,学生自らが,担任や進路指導教員,インターン シップの指導教員に聞かなければならない動機を与え られ,結果的に何人もの教員の指導を受けることにな る。学生が主体的に動いて,多数の教員のアドバイス をもらう状態が重要なのである。  最後に,2011 年度から筆者(田中)は,一般教養 表 4 インターンシップにいった学生の割合 4 年次 インターンシップにいった学生数 割合 荒川キャンパス全体 151 名 52 名 34.4% キャリアデザイン受講生 34 名 17 名 50.0% 表 5.全体と比較したキャリアデザイン受講生の進路 卒業時 大学進学 専攻科進学 その他進学 就職 その他 荒川キャンパス全体 144 名 46 名 13 名 1 名 78 名 6 名    全体に対する割合   31.9%   9.0%   0.7%   54.2%   4.2% キャリアデザイン受講生 34 名 5 名 5 名 0 名 23 名 1 名    受講生に対する割合   14.7% 14.7%   0%   67.6%   2.9%

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科目のカリキュラム改定に取り組み,2012 年度は就 職支援室を担当している。できれば産業技術高専で, もう少し統合的なキャリア教育を進めようと思ってい る。 参考文献 [1] 『平成 23 年度 学校要覧』公立大学法人首都大学東京  東京都立産業技術高等専門学校,2011 年 7 月発行。 [2] 『進路状況報告書 本科第 1 期卒業生,専攻科第 4 期修了 生』公立大学法人首都大学東京 東京都立産業技術高等 専門学校,2011 年 3 月発行。 [3] 田中淳・松村直樹(共著)「キャリアデザインの教材開 発」,『経済教育第 29 号』,経済教育学会,2010 年 9 月, pp.99-107。 [4] 田中淳・松村直樹(共著)「インターンシップの事前指導 と連動したキャリアデザインの教材開発」,『経済教育第 30 号』,経済教育学会,2011 年 10 月,pp.161-168。 [5] 角方正幸・松村直樹・平田史昭(共著)『就業力育成論〜 実践から学ぶキャリア開発支援策〜』学事出版株式会社, 2010 年 8 月 6 日。

表 1 科目概要【2009 年度】 実施機関 東京都立産業技術高等専門学校 荒川キャンパス 科目名 キャリアデザイン 教科種別 一般科目,通年,2 単位,ものづくり工学科 4 コースから共通選択 対象学年 高専 4 年生(※ 19 歳) 人数 34 名 時間 水曜 5・6 時限(50 分× 2) 前期 14 週,28 時限 後期 14 週,28 時限 場所 第 3 講義室 担当 松村直樹,松谷育代,田中淳 教材 プリント,パワーポイント,映像,インターネットを使用 授業形式 座学形式,班別グループ学習,演習

参照

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