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小麦種子の収穫時に穀粒水分が発芽率に与える影響

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Academic year: 2021

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2016 年 4 月 19 日受理 連絡責任者:片山寿人([email protected]

小麦種子の収穫時に穀粒水分が発芽率に与える影響

片山寿人

1,2)

・中川淳也

1) 1)滋賀県東近江農業農村振興事務所 (〒 527-8511 滋賀県東近江市八日市緑町 7-23) 2)現:滋賀県庁食のブランド推進課 (〒 520-8577 滋賀県大津市京町 4-1-1) 要旨: 小麦の安定生産には優良種子の供給が欠かせない.滋賀県での主要品種である農林 61 号は収穫 が梅雨時期と重なり収穫作業の実施の判断が難しく,生産した種子の発芽率が生産物審査の合格基準 に達しない場合がある.そのため,小麦種子の収穫時に発芽率へ影響を与える要因を調査した.その 結果,穀粒水分が 30% 以上の高い状態でコンバイン収穫すると発芽率が低下することが明らかとなっ た.さらに,室内で調査した発芽率より,圃場での苗立ち率は低くなる傾向が認められた.以上の調 査より,圃場でも安定して苗立ちする高い発芽率の種子を生産するには,穀粒水分が 25% 以下でコ ンバイン収穫することが必要と考えられた. キーワード:小麦,種子,発芽率,穀粒水分

緒言

滋賀県では全国第 4 位の栽培面積(約 6,600ha)で小麦 が栽培されている.県内では主要な品種として農林 61 号, ふくさやか,シロガネコムギ,ミナミノカオリが生産され ており,その中で農林 61 号は約 75% を占めている. 小麦の安定的な生産には優良種子の供給が不可欠であ る.農林 61 号は県の奨励品種に指定されており,県内で の栽培に必要な種子の全量が県内の指定種子生産圃場で生 産されている.県は,主要農作物種子法に基づき,採種圃 指定や圃場審査,生産物審査等を実施し,検査機関で農産 物検査を行っている(第 1 図).なお,生産物審査での小 麦種子の発芽率基準は 80%以上となっており,基準に満 たないものは不合格となり種子にはならない. 滋賀県での農林 61 号の収穫は 6 月中旬頃で,梅雨期間 と重なることが多く,種子生産現場では収穫作業の実施の 判断が難しい.収穫方法や地域にもよるが,適期を逃した ために発芽率が生産物審査の基準に達しないことも生じて いる. これまでの研究から,麦類の収穫時の穀粒水分が高いと 発芽率が低下し(前嶋・ 野 2005),その原因は胚の損傷 によるものと考えられている(小林ら 1985).同様に水稲 でも高水分での収穫により発芽率が低下することが報告さ れている(中村ら 2012).また,麦類種子の各都道府県栽 培技術指針等で収穫時の穀粒水分の目安(滋賀県では穀粒 水分 25%以下での収穫)を示しているが,実際の生産現 場において,収穫調製作業のどの段階が発芽率に大きな影 響を与えるのか,また穀粒水分が発芽率に与える影響を明 らかにすることが重要である. 本報告では,優良種子の生産に向けて,生産現場におい て発芽率低下に影響を及ぼす要因を調査した.さらに、明 らかとなった主要因について,現場での作業の目安となる ように詳細な調査も行ったので,併せて報告する .

材料および方法

子実の成熟度合と各種作業での調査の試料は,すべて 2014 年に指定採種圃場(滋賀県東近江市)から採取した. 栽培は,種子栽培の慣行に従い行われている. 子実の成熟度合での調査 小麦の成熟度合が発芽率に及ぼす影響を調べるために, 3 圃場で乳熟期から枯熟期までの計 12 点の子実を順次採 取した.なお,採取時は物理的な衝撃による影響を排除す るために,穂軸についたままの状態で穂の部分のみをハサ 第 1 図 小麦種子の審査・検査の流れ. 51 作物研究 61:51 − 54(2016)

Copyright 近畿作物・育種研究会 (The Society of Crop Science and Breeding in Kinki, Japan)

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ミで切り,乾燥後に種子を手で丁寧に分離した. 各種作業での調査 収穫調製作業で,どの作業が発芽率に大きな影響を与え るか調査するために,3 圃場でコンバイン収穫および乾燥 の各作業前後に子実を計 15 点採取した.コンバイン収穫 および乾燥処理は,地域の慣行に従い行われている. 発芽試験 それぞれの調査で採取した子実は,乾燥作業後に採取し たものを除いて約 12.5%まで無加温で乾燥させ,休眠が覚 醒するまで保存し発芽試験に用いた.採取した子実を 2 枚 の濾紙を敷いた直径 9cm のシャーレに 100 粒入れて,約 9mL の水を加えて 20℃で 24 時間浸漬した.その後,余剰 水を抜いて 20℃・暗条件に置き,一定期間後の発芽率を 3 反復で調査した.4 日後の発芽率を発芽勢,8 日後の発芽 率を発芽率とした.なお,県が実施する生産物審査では 8 日後の発芽率をもって合否を判定している. 収穫時の穀粒水分による影響調査 ここでは,様々な穀粒水分でコンバイン収穫された試料 を収集することとした.しかし,採種圃場でコンバイン収 穫時に様々な水分(特に高水分)の試料を採取することは 困難である.そこで,2014 年に東近江地域のカントリー エレベーターに出荷された水分 14.7% ∼ 40.0% の一般小 麦を,荷受け時に計 68 点採取した.採取後すぐに水分を 測定し,上記の方法と同様に乾燥し休眠覚醒後に発芽試験 を行った.また,小麦播種時期である 11 月上旬に 2 圃場で, それぞれ 2 反復で播種して 2 週間後の苗立ち率の調査を 行った. 加えて,コンバイン収穫以上の過剰な衝撃を与えた場合 の影響を調査するため,3 圃場から計 8 点採取し,種子が 穂軸に付いている状態から脱穀機に 5 回かけて胚等に過剰 な衝撃を与えた.その後すぐに水分を測定し,上記の方法 と同様に乾燥し休眠覚醒後に発芽試験を行った.

結果および考察

穀粒水分が 40% 以上ある乳熟期から約 30% になる成熟 期を経て,成熟が進むにつれて穀粒水分は一定に低下した (第 2 図).その後,成熟期を 10 日以上過ぎた枯熟期まで 水分は概ね一定の状態を保ったが,降雨により穀粒水分は 一過的に上昇も認められた.小麦の成熟度合が発芽率に及 ぼす影響については,物理的な損傷を与えずに調査した結 果,穀粒水分が 40% を超える乳熟期ではやや低下したが, 乳熟期から成熟期,枯熟期まで採取したすべての子実にお いて,発芽勢と発芽率は 100% に近い値となった(第 3 図). したがって,胚乳が乳熟状である乳熟期から子実の外観品 質が大きく低下した枯熟期まで,物理的な衝撃がなく胚に 損傷がなければ,発芽率は高く維持されていると言える. しかし,乳熟期では胚や胚乳が未成熟であるため,種子と して用いた場合,初期生育が不十分になる可能性がある. また,枯熟期では一部で穂発芽が生じ外観も低下するため に,種子として望ましいとは言えない.農林 61 号の穂発 芽性は難であるが,本調査では枯熟期まで圃場で立毛状態 にしておくと,降雨があったため一部で穂発芽が認められ た. 次に,収穫調製作業が発芽率に及ぼす影響を調査した結 果,コンバイン収穫後から乾燥機に搬入するまでの間や乾 燥機での乾燥処理では,発芽勢や発芽率の低下は認められ なかった(第 1 表).一方,コンバイン収穫直後は収穫直 前と比べて大半の種子で発芽率の低下は生じなかったが, 穀粒水分が 30% 前後の高いものは発芽率が低下する傾向 が認められた(第 1 表).そこで,コンバイン収穫時の穀 粒水分が発芽率に及ぼす影響について詳細な調査を行っ た.本調査で採取した子実は収穫期を迎えていたが,降雨 等の影響により様々な穀粒水分が 14.7% ∼ 40.0% の子実 第 2 図 圃場での立毛状態の穀粒水分の推移. 第 3 図 収穫時の穀粒水分と発芽勢1) ・発芽率2) の関係. ○:発芽勢,▲:発芽率,収穫は胚等へ損傷 のない状態で実施した. 1) :発芽試験開始 4 日後,2) :発芽試験開始 8 日後の発芽率をそれぞれ示す. 作物研究 61 号(2016) 52

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が採取された.なお,採種圃場で主に用いられる種子用コ ンバインは,一般用コンバインと比べて脱穀部の回転数が 制限されていることが多い.この調査では一般用コンバイ ンを用いており,種子用コンバインと比べると発芽率は同 等,もしくはそれ以下の条件であると考えられ,発芽率を 高くするための穀粒水分の目安を示すには問題ないと判断 した.それらの発芽試験を実施した結果,穀粒水分がそれ ぞれ 25%,30% までは,発芽勢と発芽率は 90% 以上と高 く維持されていたが,それ以上の水分では急激に低下した (第 4 図,第 5 図).また,生産物審査の合格基準である発 芽率 80% 以上を確実に保つためには,穀粒水分 30% 以下 での収穫が必要であった(第 5 図).穀粒水分が高い状態 でのコンバイン収穫によって発芽率が低くなる原因は,コ ンバインのこぎ歯やこぎ胴に衝突した際に胚が損傷したこ とが原因と考えられる(小林ら 1983).一方,低水分では 胚が硬くなることにより収穫作業で損傷を受けにくいこと が示唆されたため,コンバイン収穫では想定されない過剰 な胚等への衝撃を与える調査も行った結果,コンバイン収 穫の目安にはならないものの穀粒水分が 20% 以下では 100% に近い発芽率を示した(第 6 図).この結果から, 収穫時の穀粒水分が発芽率に最も影響を与えており、発芽 率をより高めるためには,できるだけ水分を低下させて胚 を硬くすることが重要といえた.ところで,本研究での発 芽率調査は室内での一定条件での試験である.しかし,生 産現場では,圃場の土壌や気象条件は地域や年によって 様々であり,発芽しにくい状況も想定される.そのため, 発芽率だけでなく,播種後すぐに発芽し,発芽揃いの良い 発芽勢の高い種子が求められる.実際に,圃場で播種した 後の苗立ち率は室内での発芽勢や発芽率と相関していた が,圃場での苗立ち率は発芽勢や発芽率より 12.0~36.5% 低くなった(第 7 図).このことから,審査の合格基準を 第 4 図 コンバイン収穫での穀粒水分と発芽勢の関係. 第 6 図 収穫時の穀粒水分と発芽勢・発芽率の関係. ○:発芽勢,▲:発芽率,脱穀機に 5 回かけ て種子へ過剰な衝撃を与えた. 第 5 図 コンバイン収穫での穀粒水分と発芽率の関係. 第 1 表 収穫時の穀粒水分で収穫調製作業が発芽勢・発芽率に与える影響 . 各種の収穫調製作業前後にサンプリングを行い,発芽試験を実施した. 53 小麦種子の収穫時に穀粒水分が発芽率に与える影響

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クリアできる穀粒水分 30% 以下でなく,圃場での苗立ち 率が高い種子の生産には,少なくとも発芽勢と発芽率が 90%以上を維持できる穀粒水分 25% 以下で収穫する必要 がある(第 4 図,第 5 図). 以上の結果より,高い発芽勢と発芽率をもつ種子を生産 するには,穀粒水分が 25% 以下で収穫する必要があると 言えた.しかし,圃場では,成熟後でも降雨等の影響によ り一時的に穀粒水分は高くなることがある.水分がより低 くなることのみを重視して収穫作業を延ばすことは外観品 質の低下や穂発芽の発生が危惧される(松江ら 1983,松 本ら 2013).そのため,種子の生産現場では,綿密な水分 測定を行い,測定結果を基に作業予定日を早めたり遅らせ たりするなどの柔軟な収穫作業が望まれる.

謝辞

本研究を行うにあたり,種子の採取にご協力をいただい た(農)市原地区布引営農組合,カントリーエレベーター での採取等にご尽力いただいた東近江農業農村振興事務所 農産普及課作物担当各位に厚く感謝する.

引用文献

小林 一・三輪精博・小川三良 (1983) ビールオオムギの脱 穀過程における発芽障害に関する研究(第 1 報)脱穀条 件と発芽率および麦粒の衝突.岐阜大農研報 48: 209-220. 前嶋敦夫・ 野利哉 (2005) 小麦の収穫時における子実水 分と出芽率との関係.東北農業研究 58: 47-48. 松江勇次・原田晧二・鐘江 寛・和田 学 (1983) 小麦穂発芽 種子の貯蔵条件と発芽力.日作九支報 50: 43-45. 松本和大・三原 実・吉田桂一郎 (2013) 食糧用大麦・裸麦 の穂発芽ほ場から収穫した種子の発芽程度と貯蔵条件が 発芽率に及ぼす影響.日作九支報 79: 35-38. 中村充明・鎌形民子・篠田正彦 (2012) 収穫期以降の作業 が「ふさおとめ」種子の発芽に与える影響.千葉農林総 研研報 4: 71-77.

Infl uence of Grain Moisture on Germination Rate in Harvesting of Wheat Seeds

Hisato Katayama1),2) Junya Nakagawa1)

1) Shiga Prefecture Higashiomi Agricultural and Rural Development Promotion Offi ce

(7-23 Yokaichimidorimachi, Higashiomi, Shiga 527-8511, Japan)

2) Food Brand Promotion Division, Shiga Prefectural Government

(4-1-1 Kyomachi, Otsu, Shiga 520-8577, Japan)

Summary: Supply of excellent seeds is indispensable to stable production of wheat. Norin 61 , which is a main wheat breed

in Shiga prefecture, is usually harvest in rainy season of June. Therefore it is hard to judge seed harvest, and produced seeds are frequently under standard for germination examination. In this study, we investigated factors to affect germination on seed production. As a result, it was revealed that the germination rate decreased when harvesting high grain moisture above 30%. And seedling rate in fi eld is lower than germination rate in laboratory. It is necessary for seeds with stable seedling in fi eld to harvest wheat below 25% of grain moisture.

Key Words:wheat, seed, germination rate, grain moisture

Journal of Crop Research 61:51-54(2016) Correspondence: Hisato Katayama ([email protected]

第 7 図 発芽勢・発芽率と圃場での苗立ち率の関係. ○:発芽勢,▲:発芽率 .

作物研究 61 号(2016)

参照

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