• 検索結果がありません。

助産師の不妊に関する意識と不妊治療の許容度

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "助産師の不妊に関する意識と不妊治療の許容度"

Copied!
12
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

日本助産学会誌 J. Jpn. Acad. Midwif., Vol. 24, No. 1, 84-95, 2010

順天堂大学医療看護学部(Juntendo University, School of Health Care and Nursing)

2009年11月16日受付 2010年5月14日採用

資  料

助産師の不妊に関する意識と不妊治療の許容度

Midwives' perceptions regarding infertility

and tolerance for infertility treatment

青 柳 優 子(Yuko AOYAGI)

* 抄  録 目 的  不妊治療後の産婦のケアを行う助産師の不妊に関する意識と不妊治療の許容度を明らかにすることを 目的とした。 対象と方法  全国の不妊治療から分娩までのケアを行う医療施設において,不妊治療後の産婦のケアを行う臨床経 験1年以上の助産師を対象とし,自己記入式質問紙調査を実施した。測定用具は,作成した質問紙「不 妊に関する意識」,「不妊治療の許容度」及び「背景」である。因子分析を行い「不妊に関する意識(18項目)」 から2因子〔子を産まない人生の受容〕〔子をもつこと,治療を奨励〕を抽出した。クロンバックα係数 は2因子共.665であった。「不妊治療の許容度(20項目)」からは4因子〔一般に第三者の関わる治療を承認〕 〔自分は第三者の関わる治療を受容〕〔自分は配偶者間の治療を受容〕〔一般に配偶者間の治療を承認〕を 抽出した。クロンバックα係数は.858∼.947であった。有効回答449部を分析の対象とした。 結 果  助産師の「不妊に関する意識」では,2因子のうち〔子をもつこと,治療を奨励〕よりも〔子を産まない 人生の受容〕の得点が有意に高かった(p<.01)。この意識は不妊看護の経験も自己の不妊経験もない助 産師により強く見られた。また「不妊治療の許容度」は,すべての因子間の得点において有意差があっ た(p<.05)。助産師は第三者の関わる治療よりも配偶者間の治療を許容し,配偶者間においては自然 な生殖により近い不妊治療を許容する傾向が見られた。また,〔子をもつこと,治療を奨励〕する助産師 は配偶者間の治療を許容していた。 結 論  助産師は,第三者の関わる不妊治療に対して自分が利用するか否かだけでなく,一般論としても許容 度が低い点で国民や不妊の当事者と異なっていた。また助産師の背景の内,不妊看護の経験及び自己の 不妊経験の有無によって,子を産まない人生を受容する意識に差があった。 キーワード:助産師,不妊症,生殖補助技術,意識

(2)

Ⅰ.緒   言

 不妊治療の進歩に伴い,治療によって妊娠・出産す る女性が増加している。2006年の統計では,生殖補助 技術により誕生した児は19,000人を越え(齊藤,2008), 全出生数に対する割合は55∼56人に1人である。不妊 や不妊治療は価値観や倫理的問題を含んだ複雑な領域 であり,その捉え方には個人差が大きい。日本におけ る不妊治療の歴史は,1949年(昭和24年)に最初の非 配偶者間人工授精(AID),1983年(昭和58年)には体 外受精による児が誕生した。これを契機に生殖補助医 療技術の進展に拍車がかかり(石井,2006),性交を伴 わない人工的な生殖や,第三者の精子や卵子を使う生 殖が可能となったことなど生命倫理的な問題が生じて いる。旧厚生省は1998年から厚生科学審議会先端医 療技術評価部会の委員会にて第三者の関わる不妊治療 のあり方及び法整備に向けた審議を始めた。2003年に は厚生労働省厚生科学審議会生殖補助医療部会により, 第三者配偶子を用いる生殖医療を一定の条件のもとに 施行可能とする方向性が示された。しかし,法律制定 については現時点においても進展が見られていない。 2009年には日本生殖医学会の倫理委員会が「第三者配 偶子を用いる生殖医療についての提言」を発表し,日 本において第三者配偶子を用いる生殖医療を行うため の準備が進行していることを示した。  このような日本の不妊治療の現状について,市野 川(2001)は医療サイドが何が適切な医療なのかを標 準化できない「アノミー」状態になっている中で,誰 の言葉を信用するかは結局あなた次第です,という形 で「自己決定」が患者たちに突きつけられていると指 Abstract Purpose

The aim of the present study was to clarify the perceptions regarding infertility and the tolerance for infertility treatment of midwives caring for women who had become pregnant following treatment for infertility.

Methods

Subjects were nurse midwives with at least one year's clinical experience who were engaged in the care of pregnant women following infertility treatment at medical facilities throughout Japan that provide care from infertil-ity treatment through to delivery. Subjects were asked to complete a self-administered questionnaire survey. The measurement instruments were the "perceptions regarding infertility," "tolerance for infertility treatment," and "background" sections of the questionnaire. Factor analysis was conducted and the following two factors were ex-tracted from the section on "perceptions regarding infertility" (18 items): "acceptance of a life without childbirth" and "encouragement to have children and undergo treatment." Cronbach's alpha coefficient was 0.665 for both fac-tors. The following four factors were extracted from the section on "tolerance for infertility treatment" (20 items): "approval in general of treatment involving a donor," "personal acceptance of treatment involving a donor," "personal acceptance of treatment between spouses," and "approval in general of treatment between spouses." Cronbach's alpha coefficient for these factors ranged from 0.858 to 0.947. A total of 449 valid responses were included in the analysis.

Results

With regard to midwives' "perceptions regarding infertility", of the two factors, "acceptance of a life without childbirth" received a significantly higher score than "encouragement to have children and undergo treatment" (p<0.01). This perception was more strongly observed in nurse midwives with no experience of infertility nursing or of their own infertility. There were significant differences among the four factors that were extracted from the section on "tolerance for infertility treatment" (p<0.05). Midwives were more tolerant of treatment between spouses than of treatment involving a donor and a tendency was seen towards tolerance for infertility treatment between spouses that more closely resembled natural reproduction. In addition, nurse midwives who offered "encourage-ment to have children and undergo treat"encourage-ment" were tolerant of treat"encourage-ment between spouses.

Conclusion

Midwives differed from members of the public and infertile couples in that they had low tolerance of infertil-ity treatment involving a donor, not only with regard to whether or not they would personally use such treatment, but also as a general opinion. Their perception of acceptance of a life without childbirth also differed depending on whether or not their background included experience of infertility nursing or their own infertility.

(3)

価値観と職業的な援助者としての価値観が統合され ている。 4 .不妊に関する意識:不妊という状態の身体的,心 理的,社会的側面に関する考えをいい,不妊治療に 対する考え,家族に対する考えを含む。 5 .不妊治療の許容度:配偶者間及び第三者が関わる 各種不妊治療技術への賛成・反対に関する価値づけ をいう。自己の立場及び一般論としてのものを含む。

Ⅲ.研 究 方 法

1.研究デザイン  自己記入式質問紙法を用いた量的記述的研究である。 2.研究の対象  不妊治療後の産婦に対する周産期ケアを行う助産師 で,産科での臨床経験1年以上とした。勤務施設の要 件は,不妊治療及び分娩を取り扱っている全国の病院, 診療所である。 3.調査期間  2008年7月19日から同年10月22日 4.測定用具 1 )不妊に関する意識  先行研究を検討し研究者が再構成・追加したもので ある。先行研究(白井,2003:山縣,1999)の調査項目 の一部を了解を得た上で引用した。不妊の身体的・心 理的・社会的側面から18項目を設定した。測定の尺 度は「そう思う」を5点,「そう思わない」を1点とした5 段階のリッカートスケールを用いた。  18項目について,主因子法を用い因子分析を行っ た(n=449)。プロマックス回転をしたところ2つの因 子が抽出された。因子抽出後の共通性0.1以下の2項目 を削除し,16項目を再度因子分析(主因子法・プロマ ックス回転)した(表1)。因子負荷量 .250以上を基準 として,2因子が抽出された。因子名を,因子1「子を 産まない人生の受容」因子2「子をもつこと,治療を奨 励」とした。16項目のクロンバックα係数は.666,各 因子は共に.665であった。それぞれの因子を主成分分 析すると,因子1は第一成分の寄与率は40.0%であり 各項目の因子負荷量は.520以上であった。因子2は第 一成分の寄与率25.4%,各項目の因子負荷量は.380以 上であり,2因子とも信頼性があるといえる。したが 摘している。不妊治療に対する全国的な意識調査では, 一般国民と不妊患者,さらにその両者と医師との間に 不妊や不妊治療への意識の差があることが報告されて いる(山縣,1999)。その内容は,第三者の関わる生殖 補助医療技術に対して一般国民は患者より許容度が低 いことがあげられる。具体的な技術では提供精子によ る人工授精,第三者の精子や卵子を用いた体外受精に 対して,認めるまたは条件付きで認めるとした回答が 一般国民,医師で5割以上に対して,患者は約8割と 多かった。但し医師はこれらの技術に対して,他の対 象者に比べて認めないとする者の割合が最も多かった。 また,第三者の受精卵の胚移植,代理母では患者が認 めるまたは条件付きで認めるとした回答が5割を上回 ったのに対し,医師は認められないとする回答が5割 以上であった。一般国民は患者と医師の中間にあたる 回答の傾向であった。  臨床において不妊治療の領域のケアを行っている看 護職は,看護者個人の不妊や不妊治療に対する価値観 や意識に関連する困難さやジレンマを感じることが あると報告されている(森・有森・村本,2002)。一方, 不妊治療によって妊娠した女性に対するケアについて は明らかにされていない。不妊治療後の妊産婦は,不 妊の経験から影響を受けて特有のニーズを持っている 場合がある(森・陳,2005;崎山・村本,2006)。周産 期のケアにおいて妊産婦の不妊や不妊治療の経験によ る特徴が見られた場合,助産師自身の不妊や不妊治療 に対する価値観との相違があれば,ジレンマや困難を 体験する可能性がある。このことから,助産師が不妊 や不妊治療をどのように捉えているのかを知ることに より,不妊治療後の妊産婦へのケアにどのような課題 があるかを検討することができるといえる。そこで本 研究は,不妊治療後の産婦のケアを行う助産師の不妊 に関する意識と不妊治療の許容度を明らかにすること を目的とした。

Ⅱ.用語の操作的定義

1 .不妊:妊娠を希望する生殖年齢の男女において子 どもができない状態をいう。 2 .意識:個人の価値観に基づいてもつ,物事に対す る考えをいう。 3 .価値観:価値観はアイデンティティ統合の原理で あり,個人が持つ物事に対する価値づけの体系であ る。助産師のアイデンティティには,個人としての

(4)

って抽出された因子を用いて分析を行った。 2 )不妊治療の許容度  先行研究を検討し研究者が再構成したものであり, 一部既存研究(山縣,1999)の調査項目の表現を了解を 得た上で引用した。各種不妊治療について「自分だっ たら利用するか」と「一般論として認めるべきか」を問 うもの20項目とした。測定の尺度は「そう思う」を5点, 「そう思わない」を1点とした5段階のリッカートスケー ルを用いた。得点が高いほど各不妊治療を許容する意 識を示す。  20の質問項目について主因子法を用いて因子分析 した(n=449)(表2)。固有値1以上の基準を設け,プロ マックス回転を行った結果,4つの因子が抽出された。 第1因子は「一般に第三者の関わる治療を承認」,第2 因子は「自分は第三者の関わる治療を受容」,第3因子 「自分は配偶者間の治療を受容」,第4因子「一般に配 偶者間の治療を承認」とした。クロンバックα係数 は.890,因子毎では.858∼.947であり,内的整合性が 高いといえる。 3 )背景  デモグラフィックデータおよび不妊や不妊治療に 関する意識に影響を及ぼしたと考えられる変数(年齢, 成育歴,教育歴,結婚・出産歴,不妊経験,これまで の看護経験,その他の職業経験など)を選定した。 4 )質問紙の内容妥当性  作成の段階において不妊看護の専門家の指導を受け た。さらにプレテストを行い,不妊治療後の産婦のケ アを行っている助産師6名より質問内容の整合性,意 味の分かりやすさについて意見を聴取し再検討した。 5.調査手順と方法 1 )プレテスト  不妊治療後の産婦のケアを行っている助産師6名に 回答を依頼し,質問紙の意味の分かりやすさ,答えや すさ,レイアウトに関する意見を聴取し再検討・修正 を行った。 2 )本研究のデータ収集方法 (1)日本産科婦人科学会ホームページや不妊治療商業 誌,インターネットより不妊治療および分娩を取り 扱っている施設という視点で探索し,病院及び診療 所に研究協力依頼書を郵送した。 (2)協力の回答が得られた施設に対して,回答可能な 助産師の人数分の研究協力説明書,質問紙と返信用 封筒を郵送し回答を依頼した。 (3)対象者が各自返信用封筒に回答を入れ,郵送する ことをもって研究への参加同意とした。 6.分析方法  助産師の意識を記述するため,各質問紙の回答及び 表1 不妊に関する意識の因子分析結果(主因子法 プロマックス回転) (n=449) 項   目 因子1 因子2 因子抽出後の共通性 因子1:子を産まない人生の受容 子どもがいなくても幸福な人生を送れる 子どもを産まない生き方も女性の一人前の生き方である 子がいない人も社会的責任を果たしている 結婚しても,子どもを持つ,もたないは個人の自由である 子どもができないと女性として劣っている 家が自分の代で途絶えるとしてもそれは仕方のないことである .654 .591 .568 .567 −.411 .403 .054 .097 .074 .113 .102 ­.085 .411 .327 .304 .399 .303 .389 因子2:子をもつこと,治療を奨励 不妊治療技術の発展は人間の生活をより幸福なものにする 親になれば人間的に成長できる 年をとって子や孫がいないのは寂しいことである 女に生まれたからには産んでみたい 不妊治療は子どもをもつための手段の一つである 不妊は医学や医療技術で克服できる問題である 不妊治療とは病気を治療することである 遺伝子を受け継いだ子どもをもつことが大切である 不妊なら治療するのが当然である 不妊であると社会で孤立している気がする ­.032 .011 ­.077 .076 .184 ­.011 .043 ­.285 ­.289 ­.193 .496 .494 .483 .436 .431 .409 .370 .298 .263 .252 .356 .341 .260 .177 .175 .170 .130 .217 .196 .128 クロンバックα係数 .665 .665 全体:.666 因子寄与 2.142 1.838 因子間相関 ­.266

(5)

因子の基本統計量を算出した。また,各意識間の関連 及び意識と背景要因との関連を見るためt検定,相関 係数の算出,分散分析,多重比較を行った。分析には 統計ソフトSPSS 15.0J for Windowsを用いた。 7.倫理的配慮  研究の目的・意義・方法・期間,研究協力者の自由 意思の尊重,匿名性の保持の厳守,データの厳重な管 理について研究協力依頼時に文書で説明した。回答の 個別郵送による返却をもって協力の承諾とした。本研 究は聖路加看護大学研究倫理審査委員会の承認を受け て実施した(承認番号08-015)。

Ⅳ.結   果

1.データの収集状況  依頼施設数128施設のうち,研究協力承諾の得られ た49施設(38.3%)に対し,質問紙を発送した。1施設 あたりの対象助産師数は平均15.4人(1∼37人)であっ た。質問紙発送数754部に対して回収数は489部であ った(回収率64.9%)。データ除外基準を,研究対象 外の者,欠損値が一定基準以上の者とし,40部を除く 449部を分析対象とした。質問紙「不妊に関する意識」 「不妊治療の許容度」について欠損値は最頻値で置き 換えた。 2.対象者の背景(表3)  対象者の平均年齢は,34.0 8.7歳であり,最少23歳 から最長65歳の幅であった。年代別の分布では20歳 代が最も多く,年代が上昇するにつれて人数が減少 していた。産科臨床経験年数は1年から43年の幅があ り,平均は9.2 7.4年であった。産科以外の診療科の 看護臨床経験ありが52.1%と約半数であった。婚姻歴 は未婚者が56.3%と最も多く,次いで初婚が37.2%で あった。出産経験ありが29.0%,なしが70.8%であっ た。不妊経験のある者は9.6%であった。そのうち治 表2 不妊治療の許容度の因子分析結果(主因子法 プロマックス回転) (n=449) 項  目 因子1 因子2 因子3 因子4 因子抽出後の共通性 因子1:一般に第三者の関わる治療を承認  一般論としての提供精子による体外受精  一般論としての提供卵子による体外受精  一般論としての受精卵提供による体外受精  一般論としての提供精子による人工授精  一般論としての代理懐胎 1.006 .992 .990 .854 .616 ­.021 .004 ­.008 ­.008 .072 ­.034 ­.031 ­.028 ­.037 .022 ­.017 ­.013 ­.043 .021 .029 .973 .961 .942 .715 .430 因子2:自分は第三者の関わる治療を受容  自分を想定した提供卵子による体外受精  自分を想定した提供精子による体外受精  自分を想定した受精卵提供による体外受精  自分を想定した提供精子による人工授精  自分を想定した代理懐胎 ­.033 ­.001 ­.011 .033 .060 .972 .912 .906 .752 .510 ­.012 ­.030 ­.031 ­.017 .162 .002 .011 .002 .006 ­.041 .923 .820 .803 .575 .344 因子3:自分は配偶者間の治療を受容  自分を想定した体外受精  自分を想定した顕微授精法  自分を想定した配偶者間人工授精  自分を想定した配偶子卵管内移植  自分を想定したホルモン療法 .033 .022 ­.086 ­.03 ­.130 ­.038 .064 ­.031 .056 ­.028 .978 .832 .766 .755 .523 ­.140 ­.041 .054 .006 .165 .833 .698 .589 .580 .353 因子4:一般に配偶者間の治療を承認  一般論としての配偶者間人工授精  一般論としてのホルモン療法  一般論としての体外受精  一般論としての配偶子卵管内移植  一般論としての顕微授精法 ­.089 ­.078 .074 .164 .199 .011 ­.012 ­.012 .001 .005 ­.086 ­.098 .187 .168 .295 .966 .894 .630 .540 .424 .821 .693 .593 .505 .521 クロンバックα係数 .947 .896 .874 .858 全体:.890 因子寄与 4.940 3.951 4.726 3.942 因子間相関 因子1 因子2 因子3 因子4 .281 ̶ ̶ ̶ .320 .224 ̶ ̶ .240 ­.016 .536 ̶

(6)

療経験ありは65.1%であった。身近な不妊経験者の有 無は,職場の人,近親者,友人のうち少なくとも1人 以上ありが55.9%であった。不妊治療後の産婦のケ ア頻度は,ひと月に1人以下が最も多く29.0%であり, 次いで1週間に2∼3人以上が22.5%であった。不妊症 患者の看護経験ありは35.6%であり,期間は2か月か ら20年であった。 3.不妊に関する意識  項目ごとの回答(図1)では,子どもをもたないこと を肯定的にとらえる項目(1, 2, 3, 4)と「女に生まれた からには産んでみたい」に「そう思う」が多かった。子 どもをもたないことが不利ととらえる項目(16, 17, 18)は,「そう思わない」の回答が最も多かった。不妊 と治療に関する項目(11, 12, 14, 15)と血の繋がりに関 する項目(10, 13)は,「どちらともいえない」が最も多 かった。  因子別得点(表4)をみると,〔因子1〕「子を産まない 人生の受容」という意識の平均得点は4.49点(SD .46) であり,ほとんどが肯定的な意識といえる。一方で〔因 子2〕「子をもつこと,治療を奨励」する意識の平均得 点は,3.17点(SD .51)とスケールの中間値であった。t 検定の結果,「子を産まない人生の受容」の点数が有意 に高かった(t(448)=36.21, p<.01)。以上より助産師は, 子を産まない人生を受け入れる意識が高く,子をもつ ことや治療に対する意識はどちらともいえない保留と する傾向にあることがわかった。 4.不妊治療の許容度  不妊治療に対する許容度について項目ごとの回答を 見ると(図2),どの治療も一般論としてよりも自分を 想定した場合の方が低かった。  ホルモン療法と配偶者間人工授精(以下AIH):Arti-ficial Insemination by Husband's spermは,一般不妊治

表3 対象の背景 (n=449) 年齢(歳) 平均34.0歳 SD8.7(23-65) 産科臨床経験年数 平均 9.2年 SD7.4(1-43) 教育機関 看護師 専門学校206人(45.9%) 短期大学110人(24.5%) 4年制大学101人(22.5%) 准看護師からの進学コース31人(6.9%) 助産師 専門学校206人(45.9%) 短期大学専攻科147人(32.7%) 4年制大学79人(17.6%) その他14人(3.1%) 各経験等の有無 有 無 他科の臨床実践 234人(52.1%) 他学問履修 文系39人(8.7%) 理系3人(0.7%) その他13人(2.9%) 383人(85.3%) 他職種就業 27人( 6.0%) 411人(91.5%) 出産 130人(29.0%) 318人(70.8%) 不妊 43人( 9.6%) 404人(90.0%) 不妊治療(n=43) 28人(65.1%) 15人(34.9%) 不妊看護 160人(35.6%) 282人(62.8%) 身近な不妊経験者 251人(55.9%) (友人33.9%近親者14.7%職場の人25.6%) 189人(42.1%) 幼少時の家族 核家族290人(64.6%) 拡大家族159人(35.4%) きょうだいなし34人(7.6%) 婚姻歴 未婚253人(56.3%)  初婚167人(37.2%) 不妊治療後産婦のケア頻度 2∼3人以上/週101人(22.5%)   1人/週69人(15.4%) 1人/2∼3週97人(21.6%)    1人以下/月130人(29.0%) その他52人(11.6%)

(7)

療として普及しており,一般論ではどちらも「そう思 う」「どちらかというとそう思う」を合わせた肯定的意 見が90%以上であるが,自分を想定した場合にはAIH は肯定的意見が80%を下回っていた。

 配偶子卵管内移植(以下GIFT):Gametes Intrafello-pian - tube Transfer,体外受精̶胚移植(以下IVF-ET): In Vitro Fertilization and Embryo Transfer,顕微受精 法:卵細胞質内精子注入法(以下ICSI):Intra Cyto-plasmic Sperm Injectionは,配偶者間の生殖補助医療 (以 下ART):Assisted Reproductive Technologyで あ る。一般論では「そう思う」「どちらかというとそう思 う」を合わせた肯定的意見が70∼80%であったが,自 分を想定した場合には肯定的意見は40∼60%であった。  提供精子による人工受精(以下AID):Artifical In-semination by Donor's sperm,提供精子による体外受

精(以 下IVF-SD):In Vitro Fertilization by Sperm Do-nation,提供卵子による体外受精(以下IVF-ED):In Vitro Fertilization by Egg Donation,受精卵/胚提供 による体外受精(以下IVF-FD):In Vitro Fertilization by Fertilized egg or embryo Donation,代理懐胎はい ずれも第三者が関わるARTである。一般論では「どち らともいえない」という回答が最も多く,「そう思わな い」「どちらかというとそう思わない」を合わせた否定 的意見が約半数であった。自分を想定した場合は,い ずれも否定的意見が約90%であった。  因子別得点では(表5),〔因子4〕「一般に配偶者間の 治療を承認」,〔因子3〕「自分は配偶者間の治療を受容」, 〔因子1〕「一般に第三者の関わる治療を承認」,〔因子2〕 「自分は第三者の関わる治療を承認」の順で高かった。 各因子の平均点に差があるかを検討したところ,1% 100% 90% 80% 70% 60% 50% 40% 30% 20% 10% 0% 5 4.5 4 3.5 3 2.5 2 1.5 1 子がいない人も社会的責任を果たしている。 結婚しても、子供をもつ、もたないは個人の自由である。 子どもがいなくても幸福な人生を送れる。 子供を産まない生き方も女性の一人前の生き方である。 女に生まれたからには産んでみたい。 不妊治療は子どもをもつための手段の一つである。 家が自分の代で途絶えるとしてもそれは仕方のないことである。 親になれば人間的に成長できる。 年をとって子や孫がいないのは寂しいことである。 ﹁生みの親より育ての親﹂だと思う。 不妊治療とは病気を治療することである。 不妊治療技術の発展は人間の生活をより幸福なものにする。 遺伝子を受け継いだ子どもをもつことが大切である。 不妊は医学や医療技術で克服できる問題である。 不妊なら治療するのが当然である。 不妊であると社会で孤立している気がする。 不妊であれば離婚されても仕方がない。 子どもができないと女性として劣っている。 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 そう思わない どちらかというとそう思う そう思う 平均 どちらかというとそう思わない どちらともいえない 図1 不妊に関する意識の回答の分布 表4 不妊に関する意識:因子得点の平均 平均値 標準偏差 〔不妊に関する意識:因子1〕   「子を産まない人生の受容」 4.49 .4 〔不妊に関する意識:因子2〕   「子をもつこと,治療を奨励」 3.17 .51 *P<.01

(8)

水準で有意な主効果がみられ,多重比較の結果すべて の因子間において5%水準で有意であった。したがっ て第三者の関わる治療よりも配偶者間の治療を許容し, 自分を想定した場合よりも一般論において不妊治療を 許容する傾向のあることが明らかになった。 5.不妊に関する意識と不妊治療の許容度の関連  〔不妊に関する意識:因子2〕「子をもつこと,治療 を奨励」は,〔不妊治療の許容度の合計得点〕(r=.294, p=.000),〔不妊治療の許容度:因子3〕「自分は配偶者 間の治療を受容」(r=.393, p=.000),〔不妊治療の許容 度:因子4〕「一般に配偶者間の治療を承認」(r=.231, p=.000)とそれぞれ1%水準で有意な弱い相関があった。 子をもつことや不妊治療を奨励する意識をもつ助産師 は,不妊治療全般,特に配偶者間の治療を承認する意 識をもっていた。 6.不妊に関する意識と関連のあった背景要因  不妊看護経験と自己の不妊経験による不妊に関する 意識の差があるかを検討した(図3)。〔不妊に関する意 識:因子1〕「子を産まない人生の受容」は,不妊看護 経験なし群において不妊経験の単純主効果が有意であ り,不妊経験なし群の方が不妊経験あり群よりも高か った(F(1,436)=5.62, p=.018)。これは不妊看護の経験 がなく,自分も不妊の経験がない者の方が子を産まな い人生を受け入れる意識をもつことを意味する。また, 100% 90% 80% 70% 60% 50% 40% 30% 20% 10% 0% 自分を想定したホルモン療法 自分を想定した配偶者間人工授精 自分を想定した配偶子卵管内移植 自分を想定した体外受精 自分を想定した顕微授精法 自分を想定した提供精子による人工授精 自分を想定した提供精子による体外受精 自分を想定した提供卵子による体外受精 自分を想定した受精卵提供による体外受精 自分を想定した代理懐胎 一般論としてのホルモン療法 一般論としての配偶子間人工授精 一般論としての配偶子卵管内移植 一般論としての体外受精 一般論としての顕微授精法 一般論としての提供精子による人工授精 一般論としての提供精子による体外受精 一般論としての提供卵子による体外受精 一般論としての受精卵提供による体外受精 一般論としての代理懐胎 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 そう思わない どちらかというとそう思わない そう思う どちらかというとそう思う どちらともいえない 図2 不妊治療の許容度の回答の分布 表5 不妊治療の許容度:因子得点の平均 平均値 標準偏差 〔不妊治療の許容度:因子1〕   「一般に第三者の関わる治療を承認」 2.50 1.13 * * * * * 〔不妊治療の許容度:因子2〕   「自分は第三者の関わる治療を承認」 1.33 0.60 〔不妊治療の許容度:因子3〕   「自分は配偶者間の治療を受容」 3.62 1.08 〔不妊治療の許容度:因子4〕   「一般に配偶者間の治療を承認」 4.35 0.70 *p<.05

(9)

不妊経験なし群において不妊看護経験の単純主効果が 有意であり,不妊看護経験なし群の方が不妊看護経験 あり群より高かった(F(1,436)=10.06, p=.002)。これ は自分に不妊の経験がない場合,不妊看護の経験もな い者の方が子を産まない人生を受け入れる意識をもつ ことを意味する。  また,出産経験と年代による不妊に関する意識の差 があるかを検討した(図4)。〔不妊に関する意識:因子 1〕「子を産まない人生の受容」は,30歳代において5% 水準で単純主効果の有意差がみられ,出産経験あり群 の方が出産経験なし群より高かった(F(1,435)=5.23, p=.023)。30歳代においては,出産経験のある者の方 が子を産まない人生を受け入れる意識をもつことがわ かった。 7.不妊治療の許容度と背景との関連  〔不妊治療の許容度〕は背景との関連がみられなか った。 なし あり

不妊経験ありn=43 不妊経験なしn=397 * 不妊看護経験ありn=160 不妊看護経験なしn=280 あり なし 不妊看護経験 不妊意識得点 27.25 27.00 26.75 26.50 26.25 26.00 不妊経験 *p<.05

出産経験ありn=129 出産経験なしn=314 20歳代n=181 30歳代n=140* 40歳代n=97 50歳以上n=25 � 不妊意識得点 29.00 28.50 28.00 27.50 27.00 26.50 26.00 <30 30-39 40-49 50+ 年齢(年代別) 出産経験    あり    なし *p<.05 図3 不妊意識『子を産まない人生の受容』の不妊経験と不妊看護経験による差 図4 不妊意識『子を産まない人生の受容』の出産経験と年代による差

(10)

Ⅴ.考   察

1.助産師の不妊治療の許容度における特徴  助産師は配偶者間の不妊治療の内,ホルモン療法と AIHの2種類 に関して一般論として認めるか及び自分 が利用するかの両方ともに,他の治療よりも許容度が 高かった。この2種類は一般不妊治療として普及して おり,卵子や胚の操作が伴わないものである。他の治 療法は,高度生殖医療技術としてより体外操作が複雑 である。このことから助産師は配偶者間の不妊治療に 対してより医療介入の少ない治療を許容する意識が高 く,つまり自然な生殖により近い方法を許容する傾向 が強いと考えられる。  第三者の関わる不妊治療については,山縣(1999) の調査結果と比較する。この先行研究で調査している 不妊治療はAID・IVF-SD・IVF-ED・IVF-FD・代理懐 胎に含まれる借り腹(夫婦の受精卵を妻とは別の女性 に移植してその女性に妊娠・出産してもらうこと)と 代理母(夫の精子を妻とは別の女性の子宮内に医学的 な方法で注入してその女性に妊娠・出産してもらう こと)である。2003年にも同様の調査が行われている が(山縣,2003),1999年と大幅な違いはないといえる。 一般国民のみならず不妊の当事者も調査対象としてい ることから,1999年に実施された調査研究を本調査結 果との比較に用いた。  それぞれの不妊治療について自分だったら利用す るかに対する山縣らの調査(山縣,1999)の選択肢は 「利用したい」「配偶者が望めば利用したい」「配偶者が 望んでも利用しない」の3つである。回答は一般国民, 不妊症患者ともに70%以上が各不妊治療を「配偶者が 望んでも利用しない」とした。本調査の選択肢のうち 「そう思わない」を山縣らの「配偶者が望んでも利用し ない」と比較すると,助産師の回答は「そう思わない」 が約80%であり,否定的な意識が高い点では一般国民, 不妊症患者と共通しているがやや割合が高かった。  各不妊治療を一般論として社会的に認めるべきかに ついての山縣らの調査(山縣,1999)の選択肢は「認め てよい」「条件付きで認めてよい」「認められない」「わ からない」の4つである。一般国民の回答は,「認めて よい」「条件付きで認めてよい」を合わせると,AID・ IVF-SD・IVF-EDと借り腹は50%以上であった。IVF-FDと代理母はやや低く,40%台であった。不妊症患 者はすべての技術で「認めてよい」「条件付きで認めて よい」が50%を超えていた。本調査の助産師の結果で は第三者の関わる技術の種類による差はほとんど認め られず,「そう思う」「どちらかというとそう思う」を合 わせた,認めることに肯定的な意識がいずれも20% 前後と一般国民及び不妊症患者に比べて低かった。ま た,助産師は否定的意見が約半数と多く,第三者の関 わる治療の許容度が低いという結果であった。  一方,不妊に関する意識と不妊治療の許容度の関連 では,子を持つことや治療を奨励する意識をもつ者で も配偶者間の治療を許容する傾向が見られていた。  以上より助産師の不妊治療に対する意識として,配 偶者間の不妊治療に対してはより医療介入の少ない治 療を許容する意識が高いこと,第三者の関わる不妊治 療に対しては自分が利用するか否かだけでなく,一般 論としても許容度が低い点に特徴があるといえる。こ れらのことから,自然な妊娠により近い方法を許容 する傾向が強いということができる。日本助産師会 (2007)は助産師の声明の中で,助産師の理念の一つ として「自然性の尊重」を謳っている。これは,人が 本来持つ機能を尊重し最大限に発揮できるようサポー トすることを意味している。科学・技術の進歩に伴う 人為的介入に相対するものである。助産師は専門的な 教育を受け,自ら主体的に取り扱うことのできる妊娠 ・分娩・産褥・新生児の正常経過の助産診断・技術に 自信を持っている。自然性を重んじる助産師は,正常 経過にある対象に対して必要以上の医療介入をしない ことを共通目標として持っていると考えられる。たと えば,陣痛促進剤の使用,無痛分娩,会陰切開などが あげられる。このような助産師の理念は,生殖に対す る意識にも影響しているのではないだろうか。つまり, 分娩期の医療介入だけでなく妊娠の成立に対しても医 療の介入をできるだけ避け,自然な生殖を重んじるこ とに繋がっていることが推察される。 2.助産師の背景による不妊に関する意識の違い 1 )不妊経験及び不妊看護経験と不妊に関する意識の 違い  助産師の不妊に関する意識として,子を産まない人 生を受け入れる意識をもつ傾向が強かった。この「子 を産まない人生を受容」する意識は,背景のうち不妊 看護の経験がなく自己の不妊の経験もない場合に顕著 にみられた。不妊という状況と関わりをもっていなけ れば,子をもつために治療する必要性を感じないとも 考えられる。本研究対象者のうち不妊看護の経験があ るものは35.6%であるが,それだけでなく自分自身が

(11)

不妊であるかどうかが影響していた。調査対象の助産 師449人のうち,不妊経験ありは9.6%,不妊治療経験 ありは6.3%であり少数派といえる。不妊の社会・心 理的な側面において,子どもを産むことこそが女性の 大事な役割という価値観があることにより,不妊女性 は少数派として烙印を押されたような状況がある(柘 植,2002)。このような社会的なプレッシャーを受け ストレスを持つとともに,多数派である他者との異質 性を持つことから,不妊特有の人間関係の問題として 孤立した状態(白井,2003)となりやすい。また,自己 像や自尊心に影響し女性であることの不完全さや無能 感を抱くことや,不妊の原因や治療法の効果に対する 不確かさ(長岡,2001)などの悩みを抱いている。この ように傷つきやすく不確かさの中にありながらも治療 を選択している不妊女性の状況は,当事者と深く関わ らない者には理解されにくい特徴がある。これらのこ とから,本研究の対象である助産師の不妊の経験及び 不妊看護の経験の有無が不妊に関する意識に影響を与 えていると考えられる。 2 )出産経験が不妊に関する意識に及ぼす影響  30歳代においては,出産経験があるものの方が子 を産まない人生を受け入れる意識をもつことがわかっ た。30歳代のうち,出産経験ありの割合は140名中50 名であり対象助産師全体の11.1%であった。国立社会 保障・人口問題研究所の調査(2005)によると,理想 の子ども数を実現できない理由の中で,どの年齢層も 多かったのは「子育てや教育にお金がかかりすぎるか ら」であった。また,「自分の仕事に差し支える」とい う理由が,25∼34歳の年齢層で2割を超えており,「こ れ以上,育児の心理的,肉体的負担に耐えられないか ら」が30歳代で最も多くみられた。また,玉田(2007) は女性白書において「生みたくても生めない」社会状 況として,妊娠,出産した女性が働き続けられる職場 条件,出産後の再就職,保育園入所がむずかしい,夫 が長時間労働で育児に関われないなどがあることを報 告している。これらのことから,勤労女性である30 歳代の助産師も同様に,仕事を続ける意志を持ち仕事 を続けていく上で子育てを負担と感じやすい年代であ ることが予測できる。さらに,職場の中堅としてキャ リア形成に重要な時期に,育児との両立における困難 に直面していることから,30歳代の助産師は治療をし て子をもつことよりも子をもたない人生の選択を承認 する意識に傾いていることが考えられる。 3.不妊治療後の妊産婦に対するケアを行う助産師の 課題  不妊や不妊治療に関する意識と,上記以外の背景と の一貫した関連は見られなかった。特に幼少時の家族 形態や身近な不妊経験者の有無,不妊治療後の産婦の ケア頻度との関連はなく,前述したように自分自身の 不妊の経験や不妊治療の看護実践などのように,何ら かの形で不妊に直面する経験をして初めて不妊という ことを自分に問い直している様子が明らかになったと いえる。  助産師の不妊治療の許容度の特徴として,自然な妊 娠により近い方法を許容する傾向が強いこと,当事者 と深く関わっていない場合には子を産まない人生を受 け入れる意識が高いことがあげられた。このような意 識を持ちながら不妊治療後の妊産婦のケアにあたると いうことは,対象となる女性との価値観の違いによっ てジレンマを感じる可能性があることが予測される。 特に第三者の関わる不妊治療に取り組む女性や長期間 に亘る不妊治療の末妊娠した女性に対しては,不妊治 療を許容する意識が低い助産師自身の価値観との相違 を感じやすいと考えられる。  看護者は自己の価値観と援助の対象者との間に矛盾 が生じた場合には揺らぎを感じるが,自己点検をする ことで相手との違いを認めることができ,いったん揺 らいだアイデンティティは安定を取り戻すとともに柔 軟性を増し発達するといわれている(宮本,1995;関 根・奥山,2006)。したがって対象者との価値観の相 違は看護者にとって困難やジレンマとなる反面,発 達の機会と捉えることができる。また,糠塚・兒玉 (2006)は不妊症看護において,看護者が個人的価値 観および専門的価値観を明確にしておくことが患者の 価値観を区別して認識することに繋がり,さらに患者 の状況を多角的に捉える洞察を行うことから,患者の 選択を尊重する援助に繋がると述べている。助産師自 身も個人としての価値観と医療者として援助に対して もつ価値観の両方を自覚することが重要である。今後 も生殖医療の発展は続くことが予測される。自然性を 尊重しながらも一つの観念だけに固執せず,生殖医療 技術を選択する女性一人ひとりの理解に努め,女性の 側に寄り添う心を持ち続ける必要があると考える。  また,助産師を育てる基礎教育及び成長し続けるた めの卒後教育においては,助産師自身の価値観に目を 向けることやケアする上での困難に対処できる力を育 むという視点を充実させることが重要である。

(12)

4.研究の限界と今後の課題  本研究では先行研究の検討から質問紙を作成・調査 したが,質問紙の項目や構成概念などの厳密さに欠け る点は否めない。調査内容を洗練することで,不妊に 対する意識をさらに詳しく知ることができると考える。  また,今回明らかとなった助産師の不妊に関する意 識及び不妊治療の許容度と不妊治療後の妊産婦に対す るケアとの関連を明らかにすることが今後の課題であ る。

Ⅵ.結   論

 助産師の不妊治療の許容度は,配偶者間の治療の内, 医療介入の少ない治療を許容する意識が高かった。第 三者の関わる不妊治療に対しては自分が利用するか否 かだけでなく,一般論としても許容度が低い点に特 徴があり,一般国民や不妊の当事者との相違があった。 不妊に関する意識では,子を産まない人生を受け入れ る意識をもつ傾向が強く,この意識は不妊看護の経験 及び自己の不妊経験の有無に影響を受けていた。30歳 代においては,出産経験のある者の方が子を産まない 人生を受け入れる意識が高かった。子をもつことや治 療を奨励する意識をもつ助産師は,配偶者間の不妊治 療に限って許容していた。 謝 辞  本研究にご協力下さいました助産師の皆様と施設の 管理者及び研究調整者の方々に心よりお礼申し上げま す。また,本研究を進めるにあたりご指導下さいまし た聖路加看護大学の森明子教授,柳井晴夫教授に深く 感謝いたします。  本研究は2008年度聖路加看護大学大学院修士論文 の一部を加筆修正したものである。 引用文献 市野川容孝(2001).日本における不妊治療の現状と問題点, 保健医療社会学論集,12(2),32-38. 石井トク(2006).生殖医療における倫理的問題と対応「出 自を知る権利」をめぐる諸問題,日本不妊看護学会誌, 3(1),25-28. 国立社会保障・人口問題研究所編(2005).平成17年わが 国夫婦の結婚過程と出生力 第13回出生動向基本調 査,厚生統計協会 宮本真己(1995).「違和感」と援助者アイデンティティ,日 本看護協会出版会. 森明子,有森直子,村本淳子(2002).不妊治療にかかわ る看護者のストレスと対処,日本助産学会誌,16(1), 24-34. 森恵美,陳東(2005).不妊治療によって妊娠した女性に おける不妊・不妊治療の経験,日本不妊看護学会誌, 2(1),20-27. 長岡由紀子(2001).不妊治療を受けている女性の抱えて いる悩みと取り組み,日本助産学会誌,14(2),18-27. 日本助産師会(2007).助産師の声明,社団法人日本助産 師会. 斎藤英和(2008).19年度日本産科婦人科学会生殖・内分泌 委員会報告,日本産科婦人科学会雑誌,60(6),1230-1253. 崎山貴代,村本淳子(2006).不妊治療後の妊婦が「母親と しての自己」を認知していく過程に関する研究,日本 不妊看護学会誌,3(1),11-19. 関根正,奥山貴弘(2006).看護師のアイデンティティに 関する文献研究,埼玉県立大学紀要,8,145-150. 白井千晶(2003).「不妊当事者の経験と意識に関する調 査 」報 告 書 http://homepage2.nifty.com/%7Eshirai/ survey01/index.html [2008.3.19] 玉田恵(2007).女性にとっての出産・育児̶生活実態調 査から,日本婦人団体連合会編,女性白書2007,32-33,東京:ほるぷ出版. 糟塚亜紀子,兒玉英也(2006).不妊患者の治療選択・終 結に関わる看護者の倫理的ジレンマと意思決定過程に 関する質的帰納的分析,秋田大学医学部保健学科紀要, 14(2),73-80. 柘植あづみ(2002).生殖医療における医師の論理と患者 の論理,産婦人科の世界,54(2),29-36. 山縣然太朗(1999).平成10年度厚生科学研究費補助金 厚生科学特別研究「生殖補助医療技術に対する医 師 及 び 国 民 の 意 識 に 関 す る 研 究 」報 告 書 http:// mhlw-grants.niph.go.jp/niph/search/NIDD00.do  [2008.02.15] 山縣然太朗(2003).平成14年度厚生科学研究費補助金厚 生科学特別研究「生殖補助医療技術に対する国民の意 識に関する研究」報告書 http://www.mhlw.go.jp/wp/ kenkyu/db/tokubetu02/index.html [2009.01.19]

参照

関連したドキュメント

  In the implementation of the &#34;United Nations Decade of Ocean Science for Sustainable Development (2021 – 2030) &#34; declared by the UN General Assembly in December 2017 ,

[Publications] S.Kanoh,M.Motoi et al.: &#34;Monomer-isomerization, Regioselective Cationic Ring-Opening Polymerization of Oxetane Phthalimide Involving Carbonyl

 The World Cultural Heritage &#34;Maya Site of Copan&#34; is located at the town of Copan Ruinas, Honduras, Central America. A digital museum was established here in 2015

&#34;A matroid generalization of the stable matching polytope.&#34; International Conference on Integer Programming and Combinatorial Optimization (IPCO 2001). &#34;An extension of

[r]

Rumsey, Jr, &#34;Alternating sign matrices and descending plane partitions,&#34; J. Rumsey, Jr, &#34;Self-complementary totally symmetric plane

McKennon, &#34;Dieudonn-Scwartz theorem on bounded sets in inductive limits&#34;, Proc. Schwartz, Theory of Distributions, Hermann,

the materials imported from Japan into a beneficiary country and used there in the production of goods to be exported to Japan later: (&#34;Donor-country content