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生活環境支援のための着眼点を教育する

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Academic year: 2021

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はじめに  1996(平成 8)年,日本理学療法士協会での専門部会制が開 始され,7 つの専門部会の内のひとつとして生活環境支援理学 療法部会がスタートした。設立時に掲げられた活動目標は,地 域リハビリテーションにおける生活科学的分野の理学療法の確 立,義肢装具ならびにリハビリテーション関連機器の開発・研 究,障害者や高齢者を取り巻く生活環境の調整・研究というも のであった。以来 18 年間,領域の確立をめざして積極的な取 り組みが行われ,学術大会,全国研修会の場においてもタイム リーなテーマでの分科会活動を展開してきた。今回の学会組織 の再編−分科学会化にあたっては,改めて専門領域の見直しが 行われ,新たな形でスタートが切られることとなった。  一方,この間,介護保険サービス利用者の増加に呼応して理 学療法士数も増加し,社会の期待は高齢者ケアの担い手として の理学療法士に集まるようになった。こうした時代の変換点に 開催された第 49 回学術大会のテーマ「あなたの生活を支えま す─理学療法士 10 万人からの提言─」は,まさに,社会の期 待に対する理学療法士の宣言と見ることができる。この学術大 会の分科会特別講演において「これからの生活環境支援系理学 療法領域の発展に不可欠な“教育”の方向性について,これま での教育実践から再確認する」というコンセプトでお話しする 機会をいただいた。本稿では,このテーマに沿って筆者の理学 療法教育との関わりを振り返り,我が国に理学療法が導入され てから半世紀近い時が流れ,理学療法士 10 万人の時代となっ た今だからこそ,ややもすると忘れがちな原理的事柄について “地域リハビリテーション”“地域理学療法”“教育”をキーワー ドとして見つめ直す機会としたい。 地域リハビリテーションと地域理学療法 1.社会の変化と定義の変遷  我が国において,はじめて地域リハビリテーション(活動) の定義が示されたのは日本リハビリテーション医学会編集によ る「リハビリテーション白書(1982 年)1)」においてであった。 そこでは,「地域リハビリテーションとは地域を基盤とした障 害者・患者に対する包括的な医療・福祉サービス体系の中で組 織化され,継続性をもつリハビリテーション活動を指す」と明 記されている。  一方,地域理学療法という用語がはじめて定義されたのは 1989(平成元)年に日本理学療法士協会から発行された地域理 学療法マニュアル2)であり,そこでは「地域理学療法という 語は,地域リハビリテーション活動体系の中の一翼を担うもの として位置づけられる“地域を基盤として行われる理学療法士 による専門的援助”を意味して用いることにする」と明記され ている。  以来,四半世紀を経て,社会情勢の変化に伴い,それらの定 義もいくつかの変遷を経てきた。現在の代表的な地域リハビリ テーションの定義は,2001(平成 13)年に日本リハビリテーショ ン病院・施設協会から示された「地域リハビリテーションとは, 障害のある人々や高齢者およびその家族が,住みなれたところ で,そこに住む人々とともに,一生安全に,いきいきとした生 活が送れるよう,医療や保健,福祉および生活にかかわるあら ゆる人々や機関・組織が,リハビリテーションの立場から協力 し合って行う活動のすべてをいう」というものである3)。  地域理学療法についても,緒家によりそれぞれ特徴のある定 義が示されているが,池田4)は対象,目的,活動の場,方法 を明確に示し「地域理学療法とは,地域住民が,安全に,安心 して,安定した健康的な生活を送るために必要な運動・行動能 力を発揮することができるように,対象となる人々に対して, 必要かつ期待する運動・行動課題および日常生活の改善に関す る問題・課題などを提示し,地域のネットワークやヒューマン パワーなどを活用し,かつ他職種との協働によって,人々の健 康づくり,障害予防,介護予防,QOL の向上,ノーマライゼー ションの実現のために求められる運動・行動能力を保証する 学問であり技術(医療技術とマネジメント技術)」と定義して いる。 2. 地域リハビリテーション活動の歴史的変遷と介護保険制度 の開始  このように地域リハビリテーションや地域理学療法の概念が

生活環境支援のための着眼点を教育する

─これまでの教育実践から─

對 馬   均

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生活環境支援理学療法研究部会

Education of Key Focus for Physical Therapy in Support of Life: Based on the Past Education Practice

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弘前大学大学院保健学研究科 (〒 036‒8564 弘前市本町 66‒1)

Hitoshi Tsushima, PT: Hirosaki University Graduate School of Health Sciences

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移り変わってきた背景にあるのは,いうまでもなく少子高齢社 会の到来である。大田3)は地域リハビリテーション活動の歴 史的変遷を 3 期に分けて説明している。それによると,第Ⅰ期 は老人保健法が成立する 1989 年までの期間で,病院でのリハ ビリテーション医療の恩恵を受けることが困難な状況の中で, 保健師の在宅訪問活動にリハビリテーションケアを導入するな どの努力で対応が行われた「個別活動期」と位置づけられてい る。第Ⅱ期は 1989 年の老人保健法施行から介護保険法施行前 の 1999(平成 11)年頃までの期間で,老人保健法により市町 村に機能訓練事業が義務づけられ,不十分ながら通所リハビリ テーションが全国的に展開されるようになった「全国展開期」 とされている。第Ⅲ期は介護保険法が施行された 2000(平成 12)年以降,現在に至るまでの期間で「再編混乱期」として位 置づけられている。その間に,老人保健法の改定・移行により 機能訓練事業は廃止され,“要支援”以上の認定を受けた高齢 者はすべて介護保険サービスの対象となった。さらに 2006(平 成 18)年からの介護保険制度の改正により,地域密着型サー ビスの充実,介護予防の強化がめざされるようになるなど,制 度や施策のめまぐるしい変化が続いている。  介護保険をめぐる最近の動向としては,団塊の世代群が後期 高齢者となる“2025 年問題”をにらんだ施策が最大の課題と されており,当面の対策としてこの世代が前期高齢者入りす る 2015 年から,要支援者向け「訪問介護」と「通所介護」を 地域支援事業に移す改正案が政府から示され,国会での審議を 経て介護保険制度改正を含む「地域医療・介護総合確保推進法 案」が 2014 年 6 月 18 日に成立した5)。これにより,介護予防 を機能強化する観点から新しい地域リハビリテーション活動支 援事業が追加されることとなり,社会からの理学療法への期待 はますます大きなものとなってきた。  大田3)は地域リハビリテーションの将来を,制度・システ ム・リハビリテーション資源が整備・充実した理想的目標であ る第Ⅳ期「充実期」として位置づけ,その早い到来を期待して いる。 理学療法士養成校における地域リハビリテーション・ 地域理学療法教育  このように,変化する社会情勢の中で求められる地域リハビ リテーションの在り様も変化している。一方,理学療法士養成 校における地域リハビリテーションや地域理学療法の教育はど のように変わってきたのか概観してみよう。 1.理学療法士・作業療法士学校養成施設指定規則の変遷  1966(昭和 41)年,我が国で理学療法教育が開始された当 初の「指定規則」では,3 年間で 3,300 時間,そのうち臨床実 習 1,680 時間という教育課程が定められていた。いわゆる即戦 力技術者養成の教育内容で,当時の多くの養成校では 4,000 時 間を超える授業が行われていた6)。1972(昭和 47)年,1 回目 の指定規則の改正が行われ,教育課程の総時間数は 2,700 時間, 臨床実習は 1,080 時間に縮小された一方,教養科目の授業時間 は約 3 倍に増加した。その背景には,技術優先の専門知識一辺 倒から教養を重視したカリキュラムへの転換という意図が見受 けられる。2 回目の指定規則の改正が行われたのは 17 年後の 1989 年で,臨床実習は 810 時間と 25%減少した一方,地域保 健学や地域福祉学,生活環境論など社会情勢に合わせて教育内 容の幅が広がり,さらに専門科目は自由裁量時間 200 時間を含 め 2.1 倍に増加し,総時間数は 2,990 時間となった。次に行わ れた 3 回目の指定規則の改正は 10 年後の 1999 年で,大学教育 への移行を背景としたカリキュラムの大綱化という大きな変化 を含むものであった。これにより科目設定が時間制から単位制 に変更となるとともに,地域理学療法学が専門分野の教育内容 として明記された(表 1)。 2. 各養成校での「地域理学療法学」への対応と日本理学療法 士協会「理学療法教育ガイドライン」  3 回目の指定規則改正で「地域理学療法学」が新設された当 初は,4 単位の授業科目をカリキュラムに盛りこむことに苦慮 する養成校が多かったが,「地域リハビリテーション」,「生活 1966 年 ・最初の指定規則が示される ・3 年間で 3,300 時間,そのうち臨床実習 1,680 時間 ・即戦力技術者養成の内容 ・多くの養成校で 4,000 時間を超える授業が行われていた 1972 年 ・1 回目の指定規則の改正 ・総時間数は 2,700 時間,臨床実習は 1,080 時間に縮小 ・一方,教養科目の授業時間は約 3 倍に増加 ・専門知識一辺倒から教養を重視したカリキュラムへの修正 1989 年 ・2 回目の指定規則の改正 ・総時間数は 2,990 時間,臨床実習は 810 時間 ・自由裁量時間 200 時間を含め,専門科目は 2.1 倍に増加した ・地域保健学や地域福祉学,生活環境論など教育内容の幅が広がる一方,臨床実習時間は 25%減少 1999 年 ・3 回目の指定規則改正 ・大学教育への移行を背景として,カリキュラムを大綱化 ・科目設定が時間制から単位制に変更となる ★地域理学療法学が専門分野の教育内容として明記された 表 1 理学療法士・作業療法士学校養成施設指定規則の変遷

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環境論」,「健康管理」,「生活系理学療法学」,「福祉機器論」な どの科目設定で対応が行われた7)。以来,すべての養成校で地 域理学療法学に関する授業が行われるようになったが,養成校 により教育内容に濃淡があることは否めない。いずれも座学が 中心で,地域活動実習まで実施されている養成校はごく少数で あった。  2010(平成 22)年 4 月,日本理学療法士協会からだされた理 学療法教育ガイドライン8)では,地域理学療法学の教育指針と して,地域で生活している高齢者・障害者・障害児の生活自立 支援に向けて,理学療法士による専門的介入について学ぶこと を一般目標とし,20 項目の教育内容が示されている。しかし, ここでも地域活動実習に関しては明記されていない(表 2)。 弘前大学における地域理学療法教育の取り組み 1.弘前大学の地域リハビリテーション活動の源流  弘前大学における理学療法教育は,1980(昭和 55)年に開 設された弘前大学医療技術短期大学部理学療法学科(以下,弘 前医療短大 PT 学科)において開始された。これは日本での理 学療法教育開始から 17 年後のことであり,文部省管轄の国立 医療技術短期大学部としては 2 番目の開校であった。当時,青 森県内の病院に勤務する理学療法士は 10 数人で,ほとんどが 1 人職場という状況であった。これに対して,高い脳卒中の発 生率を背景として,青森県内の在宅脳卒中患者は 15,000 人に のぼり,このうちの 2 割はリハビリテーションをまったく受け たことがない人たちという状況であった。そのため,青森県は 1970(昭和 45)年から青森県理学療法士会との連携により「家 族のためのリハビリ教室」事業をスタートさせていた。この事 業は“在宅脳卒中患者をもつ家族で直接看護にあたっている 人”を対象として,脳卒中のリハビリテーションに関する半日 の講義と実技が理学療法士と保健師によって行われ,老人保健 法による機能訓練事業へ移行する 1983(昭和 58)年までの 13 年間に 287 ヵ所において,延べ 2,566 人の家族と 771 人の在宅 脳卒中者が受講した9)。  弘前大学の教員も開設時からこの事業に関わり,老人保健法 による機能訓練事業への移行後は,近隣自治体での事業を支援 する形で,積極的に地域活動に参加することとなった。こうし た一連の取り組みが弘前大学における地域リハビリテーション 活動の源流として位置づけられるものである。 2.地域活動のフィールド開拓と理学療法教育への導入  弘前医療短大 PT 学科開設時に集まった教員のなかには,農 村部での脳卒中後遺症者に対する地域活動を実践してきた理学 療法士や,都市部における在宅難病患者の訪問リハビリテー ションを経験してきた理学療法士のほか,社会科学的側面から 地域活動と理学療法の関わりを研究テーマとしてきた理学療法 士が揃っていた。これらの教員は,青森県や周辺町村が 1983 年からスタートした老人保健法に基づいて開催した機能訓練事 業の運営に継続的に参画するとともに,地域リハビリテーショ ンを研究領域として位置づけ,実践から理論体系化まで,積極 的な取り組みを展開してきた。一貫してめざした目標は,保健 師との連携により参加者の自主的活動を支援し,「受身参加」 から「前向き参加」へ意識改革を促すことであった。その結果, 参加者会の結成,会報の定期的な自主発行,年 1 回の運動会の 企画・実施,10 周年記念誌の発行といった参加者の自律的活 動を結実させることができた10)11)。  こうした実践の場をフィールドとして,1982(昭和 57)年, 弘前医療短大 PT 学科の第 1 期生から授業科目の一部に地域活 動実習が試行的に取り入れられ,数年の試行を経て第 4 期生か ら正規のカリキュラムに組み入れられた。具体的には 3 年制カ リキュラムの中で,2 年次後期と 3 年次後期の必修科目の授業 の一部として実施された。そのねらいは,単に地域リハビリ テーションのハウツーを学ばせるというのではなく,理学療法 士の仕事が,知識や技術,「病院」という場だけでは量れない, ヒューマンな世界で行われているということに気づかせること にあった12)。  掲げた実習の目標は,2 年次実習では,「見て」,「聴いて」,「感 じ」,そして「考える」を合言葉に,①地域で生活している脳 卒中後遺症者とのふれあいから,学生の障害観や患者観,理学 地域理学療法学   講義 3 単位(45 時間)+自己学習(90 時間) <一般目標>: 地域で生活している高齢者・障害者・障害児の生活自立支援に向け て,理学療法士による専門的介入について学ぶ。 1)地域リハビリテーションの概念 11)通所理学療法 2)対象者の捉え方 12)健康状態の評価とリスク管理 3)制度と関連法規 13)健康増進 4)地域における社会資源 14)特定疾患の評価と介入方法 5)他職種との協働 15)在宅医療にかかる知識 6)地域での連携 16)住環境評価と住環境整備 7)要介護認定とケアマネジメント 17)福祉用具 8)介護予防と障害予防 18)ポジショニングとシーティング 9)施設における理学療法 19)動作指導と介助方法の指導 10)訪問理学療法 20)症例紹介 表 2 日本理学療法士協会理学療法教育ガイドラインに示された地域理学療法学の内容

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療法観に揺さぶりをかけること②地域活動における保健師の役 割や理学療法士の果たすべき役割を広い視点から考えさせるこ と,という 2 点とした。また,長期の臨床実習終了後に実施さ れる 3 年次実習では,在宅障害者とその家族に対して必要な指 導を行うことができること,および地域リハビリテーションに おける保健担当者と理学療法士の役割についてより実践的に理 解することを目標とした。2 年次の実習との相違点として,3 年次実習では機能訓練事業での活動に加えて,対象者の自宅へ の訪問活動を組み入れていることが特徴であった12)(図 1)。 3.地域リハビリテーション活動実習の成果  地域リハビリテーション活動実習の成果として,在学中の学 習効果については,表 3 に示した学生の実習レポートから,こ の実習が学生の将来の地域活動への動機づけとなっていること のみならず,問題解決力や人格形成に大きな影響を及ぼしてい ることをうかがい知ることができる。また,卒業後の効果につ いても,1998 年に弘前医療短大 PT 学科の卒業生 280 人を対 象として行ったアンケート調査では,回答者の 80%が,卒後, なんらかの形で地域活動に従事した経験があったほか,地域活 動実習が現在の業務に役立っていると回答した卒業生が 55% であった12)。「変化する社会情勢の中,学校で学んだ知識だけ では追いつかなくなっていますが,地域活動実習を通して学ん だ地域へでることの意味と大切さは,PT を続けていく限り忘 れてはならないと思っています」という卒業生の声に代表され るように,地域活動実習を通して体験した様々な事柄が,卒業 後の業務全般に役立っていると感じている卒業生の多いことが うかがわれる。  このような学生や卒業生の声が物語っているように,地域リ ハビリテーション,地域理学療法活動の根底に流れているの は,常に対象者や家族の目線で障害を見つめ,知識のみに捉わ れることなく対象者や家族から学ぶ姿勢をもち,地域に戻った 際の生活に目を向けた理学療法の展開を志向する心構え―“地 域理学療法マインド”に他ならない。学生に気づかせたいこと は,地域リハビリテーションの対象となる人々が求めているの は専門的指導だけではなく,悩み苦しんでいる人々に対する共 感であり,精神的支援なのだということ,だからこそ人格を磨 く必要性があるという自覚である。 社会情勢の変化と地域リハビリテーション教育に求め られるもの  このように,地域リハビリテーションの真価を発揮できる場 として理学療法教育に大きな効果を提供してきた機能訓練事業 は,高齢者ケアの施策が老人保健法から介護保険法へ移行する とともに,フェードアウトすることとなった。そのため,現在 図 1 2 年次地域活動実習の風景

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はやむなく特別養護老人ホームや介護実習・普及センターでの 実習に切り替え,なんとか地域理学療法マインドの継承に努め ているところである。  自立支援を旗印としてスタートした介護保険制度についてみ ると,その掛け声とは裏腹に,開始後 5 年で「要支援」の急増 という問題に直面することとなった。こうした問題への対応と して,2005(平成 17)年から保険制度の見直しが行われたが, いったんでき上がった“してあげる”―“してもらう”ケアサー ビスの体質を是正することは難しい課題である。地域活動実習 の場としても,“ケアサービス消費者”となった対象者からは, 残念ながら“自立意欲”を垣間見ることは少なく,かつてのよ うな教育的効果は薄まってきていることも事実である。  しかし,前述したように,介護保険制度の開始から 15 年を 経過した現在,団塊の世代が後期高齢者となる 2025 年に向け て,大きな制度改革に向けた動きがはじまっている。その中で, “介護予防強化”の手段として地域リハビリテーションの重要 性が謳われていることから,改めて「地域リハビリテーション」 が注目されるようになってきた。このような社会からの期待に 応えられるような,地域における生活支援の担い手としての理 学療法士を育てる意味からも,これからの理学療法教育では専 門的知識や技術の教授はもちろんのこと,社会情勢に目を向け させることや多職種連携の意義を理解させること,そして人格 の陶冶に努め,こころを豊かにすることが求められよう。こう した教育の実現をめざすには,本人の資質に加え,学習の原動 力となる興味や関心を引きだし,深く考える機会を与えるな ど,“いかに芽をつぶさないで育てるか”といった教育環境や 教育的な配慮も不可欠である。  以上のような背景から,教育的に肥沃なフィールドでの地域 活動の経験を通して,学生に“気づかせる”ことの意義は大き いと考える。“教えるのではなく,いかに学ばせるか”という ことが,永遠の命題といえよう。そこでの教師の役割としては, “まず教師自らが地域理学療法の場を開拓し,肥沃なフィール ドに育てあげ,学生に対してロールモデルを示すこと”が重要 と思われる。ドイツの教育学者ザルツマンの『カニの本』13)の とびらに添えられている「イソップ物語のカニの親子の寓話」 が暗示しているように,教育する立場の者ですら到達できてい ないことを,教育を受ける立場の者だけに求めることがあって はならないだろう。 おわりに  以上,これからの生活環境支援系理学療法領域の発展に不可 表 3 学生実習レポートにみる地域活動実習への所感 ・自分ではなにもできない,やらないおじいさんをみた。寝返りもできなければ,ひとりで起き上がることもできな い。立ち上がらせてもらえば歩けるのに,立ち上がることができない。これらすべての介助,食事,トイレ,入浴 など,小柄でもう若くはない奥さんの肩に重くのしかかっていた。  ……ある程度能力があるということを知らずに,全介助の寝たきりになっている患者が沢山いるというのが現状で ある。今回の患者さんは,かなりそれに近いケースだった。座布団の上にうつろな顔をして天井をながめながら寝 ていたおじいさんが,ほんのわずかであるが適切な指導を受けただけで,ひとりで起き上がり立ち上がることがで きるようになった。  ……目の前であれほど鮮やかにやられると,もう感動で胸が一杯になった。それは,患者がひとつの動作ができる ようになったというばかりでなく,自分からやろうとしているのがはっきりとこちらに伝わってきたのである。奥 さんは,このような患者の姿を見たことがなかったと思うし,PT はまるで神様のような存在に思えたのではない だろうか。将来同じように私達がやらなければならないと思うと,その存在の大きさと責任の大きさを再確認させ られた。今後,地域リハビリテーションを考えるとき,このおじいさんと奥さんの涙を忘れることはないだろう。 ・理学療法士という職業は,本当にこわい職業だと思う。今回の実習でそれを一層強く感じさせられた。リハビリ教 室に集まった人々を見て,私は臨床実習で担当した患者さんの帰宅後の姿を見た思いがした。  ……担当した患者さんは,失礼な言い方かもしれないが理学療法士の作品であると思う。彼らは一生障害とつき 合ってゆかなければならない。そして大きな意味では,彼らの一生を左右するのは我々だと思う…… ・私が訪問した家の患者は,ほとんど寝たきりで精神的にも落ちこんでおり意欲が見られなかった。患者だけでなく 介護者も疲れ切った様子で,そのうえこの日は朝から吹雪で家全体が暗い雲で被われている感じだった。リハビリ 教室にくることのできない人の家では,このような所が多いのだろうか。私たちが 2,3 回訪問してなにができる であろうか……,しかし今日訪問すらしなかったら,寝たままでいる人やその家族の苦労をまったく知らないでい たかも知れない…… ・実習させていただいた患者さんから手紙を貰った。麻痺した手で一所懸命書いた手紙と写真が 3 枚,「一日千秋の 思いで待っています」という手紙をもらい,いかに家に戻った患者方は日々の生活に変化をほしいと願っているか がわかる。学生でテクニックもなにもない私でも,電話くださいという患者さんがいる。これは学生,理学療法士 というより,人間としての喜びである。  ……地域リハというものは奥深く広いため,その真髄たるものを私は未だつかみきれていない。現時点で私にでき ることは,多く悩み,それについて考え,そして実現できるように頑張ることである。 ※ 弘前大学医療技術短期大学部理学療法学科編:地域リハビリテーション実習リポート集録(第Ⅲ集∼第Ⅴ集). 1983-1985. より抜粋 図 2 イソップ物語 カニの親子の寓話より

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欠な“教育”の方向性について,弘前大学での教育実践を通し て述べてきた。時代の変化や医学・医療の進歩に伴い,教育す べき知識体系は膨らみ続ける一方,創成期の熱い努力の道のり は時とともに忘れ去られがちである。温故知新,新しい課題を 解決するヒントはそれまで蓄積されてきた歴史の中にあり,そ こで育まれてきた精神は,教育を通して受け継がれていくべき であると考える。 文  献 1) 日本リハビリテーション医学会(編):リハビリテーション白書: リハビリテーションの現状と課題.医歯薬出版株式会社,東京, 1982,pp. 240‒253. 2) 日本理学療法士協会(編):地域理学療法マニュアル:老人保健法 に関わる地域リハビリテーション活動を中心に.日本理学療法士 協会,東京,1989,p. 4. 3) 大田 仁:地域リハビリテーション原論 ver6.医歯薬出版株式会 社,東京,2014,pp. 7‒25. 4) 池田 誠:地域理学療法(学)の考え方,地域理学療法学.柳沢 健(編),メディカルビュー社,東京,2009,pp. 2‒6. 5) 衆議院ホームページ 議案名「地域における医療及び介護の総合的 な確保を推進するための関係法律の整備等に関する法律案」の審 議 経 過 情 報. http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_gian.nsf/ html/gian/keika/1DB73AE.htm(2014 年 7 月 29 日引用) 6) 乾 公美:日本における理学療法士教育の歴史的変遷.理学療法 ジャーナル.2007; 41: 77‒85. 7) 潮見泰蔵,内山 靖,他:大綱化と教育環境の変化.理学療法 ジャーナル.2000; 34: 851‒856. 8) 教育ガイドライン(1 版)検討部会:理学療法教育ガイドライン(1 版).日本理学療法士協会,東京,2010,p. 55. 9) 伊藤日出男,香川幸次郎:PT マニュアル 地域理学療法.医歯薬 出版株式会社,東京,1992,pp. 43‒46. 10) 對馬 均:老人保健法による機能回復訓練事業運営の在り方と理 学療法士の役割─青森県北津軽郡鶴田町「リハビリ教室」におけ るグループワークの分析から─.弘前大学医療技術短期大学部紀 要.1988; 12: 91‒98. 11) 對馬 均:老人保健法による機能訓練事業の課題─青森県北津軽 郡鶴田町「リハビリ教室」7 年間の実践経過分析─.弘前大学医療 技術短期大学部紀要.1992; 16: 70‒75. 12) 石川 玲,勘林秀行,他:地域活動実習の方法と効果─弘前大学 医療技術短期大学部理学療法学科の 17 年間の取り組みから.PT ジヤーナル.1998; 32: 481‒496. 13) ザルツマン(原著),村井 実(訳著):かにの本.あすなろ書房, 東京,1997,pp. 1‒220.

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