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新学術領域研究「こころの時間学」の発足

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Academic year: 2021

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DOI: http://dx.doi.org/10.14947/psychono.33.30

196 基礎心理学研究 第33巻 第2号

新学術領域研究「こころの時間学」の発足

村 上 郁 也

東京大学

Foundation of “the Science of Mental Time”:

a Grant-in-Aid for Scientific Research on Innovative Areas

Ikuya Murakami

The University of Tokyo

This short note is a report on the recent foundation of “the Science of Mental Time”: a Grant-in-Aid for Scientific Research on Innovative Areas, started in 2013. This interdisciplinary research team consists of 5-year Programmed Researches titled “Present”, “Past”, “Future”, “Pathological Conditions”, “Linguistics and Philosophy”, and “Comparative Ethology”, as well as many 2-year Proposed Researches. The main goals of this research team is to disentangle intricate questions about time representations in the mind, to propose suggestions for future approaches in applied psychology, and to clarify phylogeny and ontogeny of mental time. For these purposes, investigators from diverse disciplines are vigorously working together through semiannual meetings, occasional symposia, and collab-orative research projects.

Keywords: time, present, past, future

我々生活体にとって,特に人間にとって,時間とは何 だろうか。触覚受容器や聴覚受容器と同様な意味合いで 時間感覚受容器があるわけではないし,体性感覚野や聴 覚野が同定されていると同様な意味合いで時間感覚野な るものが大脳皮質に同定されるかどうかは不明である。 とはいえ,個々の感覚ニューロン,運動ニューロンは現 実時間上に起こる対象や効果器の出来事のタイミングを 神経時間の中にコードしているはずである。そのはずな のに,オンセット時刻とオフセット時刻の間の神経時間 の差分をとって出来事の持続時間の知覚的表象とする方 略はとれないらしい。意識体験として我々は,ありあり とした時間の流れを感じ,ときに苦しいほど感じ続ける 場合もあれば,時間が止まったかのように何かに没頭す ることもある。想像が羽ばたけば,数十年もの時間旅行 を心の中で瞬時に行うことができるし,望まずとも繰り 返し襲ってくる過去の体験のフラッシュバックに悩むこ ともある。つきつめれば,我々にとって時間とは精神活 動のほとんどすべてであるともいえようか。感覚・知覚 には注意が関わり,注意とは有限の計算資源を時分割し て各所に振り分ける機能であるし,過去から現在まで連 綿と続く自伝的記憶なしに健常な自己意識が保てるかは 重要な問題であるし,そもそも過去を思い出す能力は未 来の行動計画を策定する能力と表裏一体のものとも考え られる。このような時間に関する哲学的・心理学的・神 経科学的な問題提起は各所で繰り返しなされており,時 間認知に関する昨今の問題意識の高さがうかがえる (e.g., Hammond, 2013)。 20世紀という100年間で,基礎心理学や神経科学の分 野は飛躍的発展を遂げた。心理的機能の特性が行動実験 で次々と明らかになり,それらを裏打ちするような神経 活動や大脳皮質の活性化も,研究法の技術革新と相まっ て,多数報告されてきた。にもかかわらず,人間の情報 処理システムの中で時間がどのように表象され,ミリ秒 単位から,秒,分,時間,概日リズム,季節,自分史に いたるまでのさまざまなスケールがどのように扱われ, スケール間でどのように情報の連携がなされているか, いまだに未知の部分が大半である。というわけで,ここ ろの時間の解明は,心理学・脳科学の21世紀的フロン

The Japanese Journal of Psychonomic Science

2015, Vol. 33, No. 2, 196–198

報  告

Copyright 2015. The Japanese Psychonomic Society. All rights reserved. Corresponding address: Department of Psychology, The

University of Tokyo, 7–3–1 Hongo, Bunkyo-ku, Tokyo 113– 0033, Japan. E-mail: [email protected]

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197 村上:「こころの時間学」の発足 ティアの筆頭に数え上げられる。そしてその作業は,心 的時間表象に関連する認知機能が複雑多岐にわたること から,必然的に学際性を要する。百人単位の研究者が集 中的に同時に課題に取り組み相互作用しながら研究活動 を行うべき,茫漠とした研究課題である。 そうしてみると,例えば 2013年に学術誌『Timing & Time Perception』(Brill)が創刊されるなどの,世界各所 での時間認知研究に関わる出来事と呼応するかのよう に,同年我が国に時間認知の解明を目指す「こころの時 間学―現在・過去・未来の起源を求めて―」研究チーム が誕生したのは,歴史的必然なのかもしれない。科学研 究費補助金新学術領域研究(研究領域提案型)における 複合領域の1領域として,5年の研究期間をかけて,心 理学,生理学,薬理学,臨床神経学,言語学,哲学,比 較認知科学の専門家がチームワーク作業を行って,ここ ろの時間学を創出するというものである。 領域代表者である北澤茂教授の旗振りのもと,まず, 7つの計画研究班が誕生した(以下,敬称略)。 計画研究項目 A01:「現在」―「時間順序を作り出す 神経メカニズムの解明」(研究代表者 北澤茂)および 「こころの時間長・同期・クロックを作り出す認知メカ ニズムの解明」(研究代表者 村上郁也,研究分担者  四本裕子)。 計画研究項目 A02:「過去」―「記憶による時間創成 メカニズムの探索」(研究代表者 池谷裕二)。 計画研究項目 A03:「未来」―「計時と予測の神経機 構の探究」(研究代表者 田中真樹)。 計画研究項目 A04:「病理・病態」―「ヒトの時間認 知機構の解明: 健忘症例からの検討」(研究代表者 河 村満)。 計画研究項目B01:「言語・哲学」―「時間の言語化」 (研究代表者 大津由紀雄,研究分担者 西山佑司,今 西典子,飯田隆,小町将之,嶋田珠巳)。 計画研究項目 C01:「動物の時間」―「類人猿の心的 時間旅行」(研究代表者 平田聡)。 そして,各計画研究の研究代表者および一部の研究分 担者により総括班を構成し,領域全体の活動方針を総括 している。 ここで,「こころの時間」とは,現在・過去・未来に わたる時間の意識のことを仮に名づけたものである。領 域代表者の掲げている「本領域の目的」の骨子をまとめ ると,人間だけが(1)今日が「いつ」であるのかを認 識でき,(2)厳密な時制に従う言語を運用でき,(3)死 を恐れるのであって,この人間特有の時間意識はどこか ら生まれてくるのか,を本領域では問うこととし,新た な学問領域「こころの時間学」の創出を目指す。そして, 「期待される成果と意義」を短くまとめると,(1)脳に 「時間地図」を描き出したい,(2)「こころの時間」の操 作法を臨床応用につなげたい,(3)「こころの時間」の 進化における系統発生と人間の中での個体発生を明らか にしたい,となる。 こうした野心的な問題設定は,上記の7つの計画研究 班の人員をもって一朝一夕に達成できるものではない。 そこで本領域では,2年の研究期間をもって同じ目的に 向かって研究をし,互いに有機的なつながりをもてるよ うな,公募研究班も立ち上げている。2014年度からの2 年間の公募研究では,次に挙げる研究項目で,32名の 研究代表者の研究課題が採択されている。 公募研究項目 A04:「こころの時間の「病理・病態」」 ―「ヒト記憶における主観的時間の形成の基盤となる 脳内機構とその障害機序の解明」(月浦崇),「精神疾患 と脳損傷からみた「心の未来性」に関する認知神経メカ ニズムの解明」(梅田聡),「同期障害の神経心理学的検 討」(緑川晶),「統合失調症における主観的「現在」の 時間幅とその可塑性の検討」(嶋田総太郎)。 公募研究項目 B01:「言語学・哲学から見た「こころ の時間」」―「自己意識における時間性」(信原幸弘), 「意思決定の言語・文化的影響: 時間割引に関する検討」 (石井敬子),「現在・過去・未来の時制認識における可 能性様相の働きの言語哲学的分析」(青山拓央),「言語 操作による脳波計測実験を通した事象時刻と基準時刻の 脳内地図構築」(時本真吾)。 公募研究項目 C01:「「動物の時間」と「こころの時 間」」―「未来を予期するこころの進化: チンパンジー 集団を対象としたトークン使用の社会実験」(友永雅 己),「過去と未来を想うこころの発生」(藤田和生), 「ラットとマウスを用いた時間認知の発達メカニズムに 関する比較心理学的検討」(坂田省吾),「時間割引から 探るこころの時間∼異種間比較の枠組構築」(酒井裕)。 公募研究項目 D01:「こころの時間の神経基盤とその 応用」―「昆虫における時間感覚の神経機構の解明」 (小川宏人),「長期報酬記憶を制御するフィードバック 神経回路」(谷本拓),「脳内セロトニンが時間の体験に 与える影響の解明」(水挽貴至),「言語処理に基づくこ ころの時間の計数可視化インタフェースの開発」(大武 美保子),「記憶形成における過去,現在,未来の神経活 動のダイナミクス」(野村洋),「知覚の時間的連続性を 支える脳情報処理: 新錯視を用いた心理物理学的分析」 (本吉勇),「時間差を緩衝する神経機構: 後部帯状回の 回路構築と時間弁別行動」(岡ノ谷一夫),「細胞集団活

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198 基礎心理学研究 第33巻 第2号 動の遷移による時間経過表現のモデル研究」(山崎匡), 「コミュニケーションの時間窓を決定する周期的脳活動」 (水原啓暁),「物語における時間情報に基づく視点取得 メカニズム」(米田英嗣),「こころの中の「いま,この 瞬間」をとらえる―主観的同時性を形成する脳の仕組み の探究」(宮崎真),「時間の実験美学: 美と魅力が時間 の感じ方に与える影響とその要因の解明」(川畑秀明), 「近未来行動を表現するセルアセンブリ逐次活動の形成 メカニズム」(藤澤茂義),「時間と空間の共感覚と脳内 分子メカニズム」(山田真希子),「睡眠中に過去を再構 成させる「こころの過去」の神経基盤の解明」(阿部十 也),「物体視覚情報の時間的統合を支える神経メカニズ ムの解明」(林隆介),「主観的同時性と時間順序を実現 する神経基盤の解明」(山本慎也),「伝導遅延時差によ る身体上距離符号化仮説―時間が身体像をつくるメカニ ズム」(羽倉信宏),「メンタルタイムトラベルの脳情報 基盤の解明」(神谷之康),「記憶に時を刻む海馬新生 ニューロン」(大原慎也)。 また,班友として礒村宜和教授(玉川大学)が名を連 ねている。そして,領域アドバイザーとして橋田浩一教 授(東京大学),下條信輔教授(カリフォルニア工科大 学),入來篤史シニア・チームリーダー(理化学研究所) をお迎えし,年2回の領域会議をはじめとしてさまざま な機会に貴重な助言をいただいている。2013年8月15日 に領域ホームページ(http://mental_time.umin.jp/)を公 開,2013年9月15日にはキックオフシンポジウムを東京 大学にて開催,2014年3月17日に領域Facebookを公開, 2014年6月14日∼15日には大阪大学にて2014年度第1回 領域会議を開催,2015年1月31日∼2月2日には淡路夢 舞台国際会議場にて2014年度第2回領域会議を開催し, 実のある研究交流を行い,研究分野間にまたがって問題 意識を共有した。その他,領域の主催・共催イベントと して各種のシンポジウムやチュートリアルを現在までに 展開してきたところである。今後の領域の活動について は,研究期間を経て個々の研究活動が成熟を深め,研究 者間の連携が実を結んだ時点で,再びの機会があればぜ ひ追加報告をしたい。 引用文献

Hammond, C. (2013). Time warped: Unlocking the mysteries of

参照

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