日本認知・行動療法学会 第44回大会 一般演題 P2-09 314
-女子大学生におけるマインドフルネスが月経前不快気分障害(PMDD)症状
に及ぼす影響―痛みに対する破局的思考を媒介として―
○山口 有貴子1)、栗林 千聡1,2)、大野 瑞季3)、佐藤 寛4) 1 )関西学院大学文学研究科、 2 )日本学術振興会、 3 )関西大学社会学部、 4 )関西学院大学文学部 問題 月 経 前 不 快 気 分 障 害(Premenstrual Dysphoric Disorder:PMDD)は,月経前症候群(Premenstrual Syndrome:PMS)の中でもより重症で,黄体期後期に 抑うつ症状が出現する精神疾患である。PMDDの症状の 中でも月経前に増悪する特徴として,痛みが挙げられ る (川瀬ら, 2004)。痛みに影響している認知的要因 の一つに,破局化があり,本研究ではこれを「痛みに 対する破局的思考 (水野, 2010) 」と定義した。破局 的思考は,痛みへの対処行動に影響されず,単独で痛 みの強さや痛みによる障害に関与しており,予後の予 測因子となることが知られている(Turner et al., 2002;Nieto et al., 2010;水野, 2010)。したがって, 破局的思考の緩和により痛みや障害が軽減される可能 性がある。 近年,PMDDに対するマインドフルネス・アプローチ の有用性が期待されている(Lustyk et al., 2009; Gerrish, 2010)。Bluth et al.(2015) は,PMDD症状 に対するマインドフルネス・アプローチが痛みに対す る破局的思考の低減に有効であることを示した。しか し,マインドフルネスと痛みに対する破局的思考がど のようにPMDD症状に影響しているのか,そのメカニズ ムについては明らかにされていない。そこで本研究で は,女子大学生を対象として,マインドフルネスが痛 みに対する破局的思考を媒介して,PMDD症状に及ぼす 影響について検討することを目的とする。 方法 調査対象者 関西地域の大学に通う女子大学生151名を調査対象 とし,欠損値のあった者16名と既往歴のある者21名を 除いた114名(平均年齢19.62歳,SD = 1.05歳)を対 象とした。PMDD症状以外による影響を考慮し,過敏性 腸症候群等の身体疾患,境界性人格障害などの精神疾 患,子宮筋腫等の婦人科疾患は除外した。 調査手続き 講義終了後,本研究の研究趣旨を説明および倫理的 配慮について説明し,研究協力への同意が得られた者 のみ質問紙への回答を求めた。 調査材料 ( 1 )フェースシート 年齢,学年,現在の通院の有無,婦人科疾患の既往 歴, その他疾患の既往歴について回答を求めた。通院 や疾患の既往歴のある者には可能な範囲で病名の記入 を求めた。 ( 2 )P r e m e n s t r u a l S y m p t o m s S c r e e n i n g T o o l (Steiner et al., 2003;宮岡ら, 2009) PMDDおよびPMSをスクリーニングする尺度である。 「身体症状」,「抑うつ気分」,「対人関係・怒り」の 3 因子に関する17項目で構成されている。( 3 )Five Facets of Mindfulness Questionnaire (FFMQ)(Sugiura et al., 2012;Baer et al., 2006) マ イ ン ド フ ル ネ ス 傾 向 を 測 定 す る 尺 度 で あ る。 「Observing (観察)」,「Non react (反応しない態
度 )」,「N o n j u d g i n g ( 判 断 し な い 程 度 )」, 「Describing (描写)」,「Acting with Awareness (意
識的行動)」の 5 つの下位尺度から成る39項目で構成 されている。
( 4 )Pain Catastrophizing Scale (PCS) (松岡, 坂 野, 2007;Sullivan et al., 1995) 痛みに対する破 局的思考の程度を測定する尺度である。「反芻」,「拡 大視」,「無力感」の 3 因子に関する13項目で構成され ている。 倫理的配慮 個人情報は本研究でのみ使用し保護されること,匿 名性が保証されること,回答は成績へは一切関係しな いこと,調査に関しては任意であり途中で回答を取り やめてもよいことをフェースシートおよび口頭で説明 した。 結果 マインドフルネスが痛みに対する破局的思考および PMDD症状に及ぼす影響を検討するために共分散構造分 析を行った (Figure 1)。痛みに対する破局的思考を 媒介としてマインドフルネスからPMDD症状への間接パ スと,マインドフルネスからPMDD症状への直接のパス を想定した。分析の結果,マインドフルネスは痛みに 対する破局的思考を低減し (β= -.20, p <.05),痛 みに対する破局的思考はPMDD症状を有意に強めること が示された (β= .40, p <.001)。マインドフルネス は直接的にPMDD症状を低減させることが示された(β = -.25, p <.01)。モデルの適合度は,GFI = 1.00, CFI = 1.00であった。 考察 本研究の目的は,女子大学生を対象に,マインドフ ルネスが痛みに対する破局的思考を媒介してPMDD症状
日本認知・行動療法学会 第44回大会 一般演題 P2-09 315 -に及ぼす影響について検討することであった。本研究 の結果から,マインドフルネスは直接的にPMDD症状を 低減させること,痛みに対する破局的思考を媒介して PMDD症状を低減させることが明らかになった。 共分散構造分析を行った結果,マインドフルネスは PMDD症状を直接的に低減することが示された。Bluth et al. (2015) は,マインドフルネス・アプローチに よってPMDD症状が改善することを報告しており,本研 究の結果と一致していた。Bluth et al. (2015) はマ インドフルネス・アプローチの中で身に付けた呼吸法 やボディスキャン等を通して感情やストレスのマネジ メントが行われることにより,PMDD症状が低減したと 考察している。 さらに,マインドフルネスは痛みに対する破局的思 考を媒介し,PMDD症状を低減させることが明らかに なった。これは,「痛みの強さ」と「痛みに対する破 局的思考」との間に認められた相関関係を緩和させる というマインドフルネスの調整要因としての役割を示 したSchütze et al. (2010) の知見に加え,マインド フルネスが痛みに作用する際に破局的思考を媒介要因 としてPMDD症状を低減させるというメカニズムが明ら かになった点で,先行研究の知見を一歩前進させたと 言える。 今後の課題として,有効回答者数の確保,各尺度の 下位尺度ごとの分析や縦断的データを用いた分析を行 う必要がある。痛みに対する破局的思考以外の媒介変 数にも注目し,そのメカニズムが解明されることを期 待したい。