日本認知・行動療法学会 第44回大会 一般演題 P2-20
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-思春期の社交不安に対する学校ベースの
Acceptance and Commitment Therapy の有効性
○松原 耕平1)、高橋 史2) 1 )信州大学教育学部、 2 )信州大学学術研究院教育学系 【問題と目的】 思春期は社交不安症が最も発症しやすい時期であ り,13歳〜18歳の青年における生涯有病率は9.1%と 示されている (Merikangas et al., 2010)。さらに, 思春期は「他人からどう見られるか」という他者を軸 にした行動基準が強くなる時期であり,主体価値の形 成への積極的なサポートが求められている。 主体価値の形成を目指す心理学的アプローチとして Acceptance and Commitment Therapy (ACT) がある。 ACTは不安症状の低減に有効であることが確認されて いる (e.g., Arch et al., 2012)。しかし,思春期を 対象とした介入効果は明らかにされておらず,学校教 育におけるACTなどの第 3 世代認知行動療法の有用性 は理論的に指摘されるにとどまっている (Ciarrochi et al., 2014)。 そこで本研究では,測定のみの統制群と比較して, 思春期の社交不安に対するACTの有効性を明らかにす ることを目的とした。 【方 法】 対象者 甲信越地方の中学校 1 校に在籍する 3 年生173名 (平均年齢 = 14.07歳,SD = 0.28; 男性84名,女性89 名) を対象とした。学級ごとに介入群と統制群に割り 当て, 2 学級69名 (男性33名,女性36名) を介入群と し, 3 学級104名 (男性51名,女性53名) を統制群と した。 測定材料
a ) 社交不安:日本語版Spence Children’s Anxiety Scale (SCAS: Ishikawa et al., 2009) を用いた。 SCASは子どもの不安症に関連する 6 因子で構成され, 4 件法で回答する。本研究では社交不安症の症状を測 定するために,「社会恐怖」の 6 項目のみを用いた。
b ) 価値とコミットメント:Value of Young Age scale (VOYAGE: 石津ら,2016) を用いた。VOYAGEは 「価値の明確化とコミットメント」と「回避の持続」
の 2 因子14項目で構成され, 4 件法で回答する。 c ) 心 理 社 会 的 適 応:self-rated Strength and Difficulties Questionnaire (SDQ: Goodman, 1997) を用いた。SDQは「情緒の問題」,「行為の問題」,「多 動/ 不注意」,「仲間関係の問題」,「向社会性」の 5 因 子で構成され, 4 件法で回答する。本研究では,下位 因子ごとの得点と向社会性を除く 4 因子を合計した 「総困難」得点を算出した。 d ) 学級風土:新版中学生用学級風土尺度 (伊藤・松 井,2017) を用いた。この尺度は 8 因子で構成され, 5 件法で回答する。本研究では,対象校の教員と協議 した結果,「生徒間の親しさ」の 8 項目中 6 項目のみ を用いた。 介入手続き 中学校の授業時間 (50分) を利用して,全 6 セッ ションの介入が構成された。心理教育,価値の明確 化,脱フュージョン,マインドフルネスを主な構成要 素とした (Table 1)。 倫理的配慮 本研究は,信州大学「ヒトを対象とした研究に関す る倫理委員会」の承認を受けた。また,研究参加校の 学校長に対し,研究参加に伴う権利事項や個人情報の 保護等について説明を行い,書面による同意を得た。 統計解析 介入前と介入後の測定で同じ尺度に回答ミスや無回 答があった女性 1 名 (統制群) が分析に利用できな かったため,分析対象者は172名 (介入群69名,統制 群103名) とした。分析には,固定効果に群 (介入 群・統制群),時期 (介入前・介入後), 群×時期の交 互作用項,変量効果に対象者を投入した混合モデル分 析を用いた。 【結 果】(Table 2) 社交不安症状 (SCAS) 時期 (F [1, 163] = 8.01, p <.01) と交互作用項 (F [1, 163] = 6.15, p <.05) の効果は有意であり, 群の効果は有意ではなかった (F [1, 170] = 0.32)。 得点の変化を見ると,統制群と比べて,介入群は得点 が減少していた。 価値とコミットメント (VOYAGE) 価値の明確化とコミットメントでは,時期の効果 (F [1, 161] = 72.87, p <.001) が有意であり,群 (F [1, 168] = 0.71) と交互作用項 (F [1, 161] = 0.23) の効果は有意でなかった。得点は両群とも介入 前から介入後にかけて増加していた。 回避の持続では,交互作用項 (F [1, 163] = 7.76, p <.01) の効果のみ有意であり,群 (F [1, 171] = 0.27)と時期 (F [1, 163] = 2.27) の効果は有意で はなかった。得点としては,統制群が介入前から介入 後にかけて増加する一方で,介入群は減少していた。
日本認知・行動療法学会 第44回大会 一般演題 P2-20 337 -心理社会的適応 (SDQ) と学級風土 情緒の問題では,群 (F [1, 170] = 0.11),時期 (F [1, 163] = 3.07),交互作用項 (F [1, 163] = 2.55) すべて有意ではなかった。行為の問題でも,群 (F [1, 165] = 0.05),時期 (F [1, 159] = 2.12),交互 作用項 (F [1, 159] = 0.69) すべて有意ではなかっ た。多動/ 不注意では,時期 (F [1, 163] = 17.07, p <.001) と 交 互 作 用 項 (F [1, 163] = 4.69, p <.05) の効果は有意であり,群の効果 (F [1, 170] = 3.00) は有意ではなかった。多動/ 不注意の得点で 見ると,介入群は統制群より介入前から介入後にかけ て減少していた。仲間関係の問題は,時期の効果のみ 有意で (F [1, 163] = 5.12, p <.05),群 (F [1, 171] = 0.02) と交互作用項 (F [1, 163] = 0.45) の 効果は有意でなかった。仲間関係の問題の得点は,両 群ともに下がっていた。向社会性では,時期 (F [1, 162] = 6.78, p <.05) と交互作用項 (F [1, 162] = 4.45, p <.05) の効果が有意で,群の効果は有意では なかった (F [1, 167] = 0.00)。得点で見ると,介入 群ではほぼ変化がみられない一方で,統制群では介入 前から介入後にかけて上昇していた。総困難得点で は,時期 (F [1, 158] = 15.42, p <.001) と交互作 用項 (F [1, 158] = 4.86, p <.05) は有意であり, 群の効果は有意ではなかった (F [1, 169] = 0.52)。 得点は,介入群の方が統制群より介入前から介入後に かけて減少していた。 学級風土における生徒間の親しさでは,時期の効果 のみ有意で (F [1, 165] = 24.08, p <.001),群 (F [1, 170] = 0.99) と 交 互 作 用 項 (F [1, 165] = 1.95) の効果は有意ではなかった。得点は,両群とも に増加していた。 【考 察】 本研究の目的は,思春期の社交不安に対するACT の 有効性を検討することであった。社交不安では,ACT に参加した生徒が統制群と比べて大きく低減してい た。 こ の 結 果 は, 大 人 の 社 交 不 安 にACTを 行 っ た Ossman et al. (2006) と結果が一致しており,思春 期の社交不安に対してもACTは有効であることが示さ れた。 ACTの訓練目標である価値の明確化では,介入群と 統制群ともに増加がみられたため,介入効果は示され なかった。一方で,回避の持続では介入群のみ低減し ており,介入によって体験の回避が減ったことが明ら かとなった。 心理社会的適応や生徒間の親しさでは,一貫した効 果は得られなかった。その中でも,介入によって多動 /不注意は症状が軽減し,SDQをすべて合計した総困難 も減少していた。しかし,向社会性は統制群の方が ACTに参加した生徒より増加していた。この点につい ては,通常得られる発達的な利益が得られなかった可 能性があり,思春期の時期にACTを実施する上で十分 に配慮すべき点であることが示唆された。