Ⅰ.はじめに
がん診療の進歩により,肺がんの治療も腫瘍のステー ジやリンパ節転移の状況,遠隔転移・他臓器転移の有無 によって,外科的治療・放射線治療・化学療法・免疫療 法・遺伝子治療などが行われており,治療成績も向上し てきた.その結果,がんと診断されることは必ずしも死 を意味するわけではなくなってきており1),むしろ長い 経過を辿っていく慢性疾患のひとつと考えることも多く なった2)3).とはいえ,「がん」という診断を受けた患者 やその配偶者にとっては,やはり「がん」は慢性疾患の ようにゆっくりと進むものではなく,いずれは「死」に 至る不治の病としての認識が強いと思われる.近年,家 族も病人とともにがんを体験しているクライエントであ るという考え方が広がりつつあり,病人とともに苦悩す る人々,コ・サファラーズ(co-sufferers)という言葉も 使われるようになった4).本研究の対象者である肺がん 患者の配偶者にとって,医療者からの病状や治療結果, 今後の予測についての説明は,この上なく大きなストレ スを伴う悪い知らせ(以下,bad news)になりうる5). これまで患者と共に同じ人生を歩いて来た配偶者は, 「bad news」が伝えられることにより,日常生活での突 ■ 研究報告Key words: 肺がん,配偶者,心理的ストレス,bad news
目的:肺がんの治療過程の中で,配偶者に医師から「bad news」が伝えられる時期を 大きく 3 つの病期(診断告知の時期・再発の時期・積極的な治療終了の時期)に分け, 各病期での配偶者の心理的ストレス反応の程度およびそれに影響を及ぼしている要因を 明らかにし,3 つの病期に応じた適切な看護援助について考察する. 方法:「bad news」が伝えられる 3 つの病期にある肺がん患者の配偶者に対して,心 理的ストレス反応,夫婦関係満足度を含む自記式質問紙を用いて調査を行った. 結果:肺がん患者の配偶者(44 名)の約 2/3 は自分の健康問題を抱えていた.その 心理的ストレス反応は最初の「診断告知の時期」に高い傾向にあったが,病期別の有意 差は認められなかった.配偶者の心理的ストレス反応に影響する要因としては,「夫婦 関係満足度」「健康の状態」「経済的不安」「家族構成」が主なものであり,3 つの病期 によってこれらの影響要因は異なっていた. 結論:看護者は,肺がん患者の配偶者の心理的ストレス反応を緩和するために,病期 によって要因が異なることを考慮して援助することが大切である. (受付日:2014 年 7 月 18 日,受理日:2015 年 4 月 13 日) 連絡先 釘本とよ子/佐賀大学大学院医学系研究科博士課程 〒849 8501 佐賀県佐賀市鍋島5 1 1 Phone/Fax:0952 34 2548/E mail:[email protected]
肺がん患者の治療過程において「bad news」を
伝えられた配偶者の心理的ストレス反応
―病期における差異とその影響要因
―*釘 本 とよ子
**1),古 賀 明 美
**2) 要 旨 **1)佐賀大学大学院医学系研究科博士課程 **2)佐賀大学医学部看護学科極的な治療の効果が得られなくなり,今後は症状コント ロール(緩和的治療)が主体となると伝えられる時期と 定義する. 5)ストレス:配偶者が「bad news」の告知を受けた 段階で,自分の人生の再構築を迫られたり,死に向かっ ている配偶者を抱えている状況で家族役割が変化した り,経済的な問題に向き合わなければならないなど,日 常生活を過ごすうえで,今まで以上に生じてくるストレ スをすべて含むと定義する.
Ⅱ.研究方法
1.対象者 2010(平成 22)年 5 月から 10 月の間に,肺がんの診 断を受け,診断告知の時期(Ⅰ期),再発の時期(Ⅱ 期),積極的な治療終了の時期(Ⅲ期)にあると主治医 が判断した患者の配偶者で,「bad news」が伝えられて から 4 週間以内の肺がん患者の配偶者 44 名を対象とし た.いずれも医療関係者から受けた説明の内容を理解 し,研究に同意された配偶者である. 2.調査方法 県内のがん診療連携拠点病院 2 施設において,特に肺 がんの患者が多い呼吸器内科と緩和ケア外来で,上記 3 つの病期にある肺がん患者の配偶者に対して,自記式質 問紙による調査を行った. 3.調査項目 1)SRS-18 心理的ストレス反応測定尺度14) 心 理 的 ス ト レ ス 反 応 測 定 尺 度(Stress Response Scale-18;SRS-18)は,普段の生活の中で経験するスト レス場面における「心理的ストレス反応」を短時間で簡 易に,しかも多面的に測定できる質問紙である.ここで 測定する心理的ストレス反応とは,日常的に体験する各 種ストレッサーによって引き起こされる,憂うつ・不安 や怒り(情動的反応),無気力や集中困難(認知的反 応),仕事の能率の低下(行動的反応)などを指し,3 つの下位尺度「抑うつ・不安」「不機嫌・怒り」「無気 力」から構成される.本尺度は 18 項目から成り,過去 2∼3 日間における心理的ストレス反応を測定できると される.信頼性と妥当性は確認されている尺度である. 今回の研究では,上記の 3 つの病期において,医療関係 者から患者の配偶者に「bad news」が伝えられた後の 2∼ 3日間の自分 の気 持ちを想 起してもらい,その「bad news」が伝えられた後 4 週間以内に実際の調査を行った. 回答は「全くちがう」「いくらかそうだ」「まあそう だ」「その通りだの」4 件法で表され,総スコアの範囲 然の役割変更やこれまで,自分が描いていた人生設計を 大きく変更せざるを得なくなる. これまでに,がん患者の家族におけるストレスや診 断・告知後の家族の心理変化に関する先行研究は,がん の診断・治療の過程で情緒的にも身体的にも影響を受け 心理的弱みをもっているという研究6),終末期がん患者 家族の心理的ストレスやストレス・コーピングに対する 研究7),病名告知後のがん患者家族の精神的な負担に関 する研究など8)9),がんの治療過程における多様な時期 での家族の心理状態の変化やストレスについての研究が なされている.また,がんの中でも「肺がん」という言 葉そのものに激しい衝撃を受けているという研究10),呼 吸困難という症状が「死」を連想させるといった予期的 不安・恐怖を増大させる11)という研究もある.また,診 断期にある進行肺がん患者の家族も患者と同様に,心理 的にショックを受けて動揺していることが指摘されてい る12).しかし,本研究のように,家族,特に配偶者に焦 点を当てて,がん治療過程別に心理的ストレス反応を量 的に比較した研究はこれまでにない. 本研究では,肺がん患者の配偶者を対象に,①肺がん が確定し治療方針が初めて患者と共に告知された時,② 経過中に再発を起こして治療方針の変更が必要であると された時,③治療効果が得られなくなり,積極的治療を 終了してほぼ患者の苦痛の緩和だけに治療が移行した 時,の各病期の心理的ストレス反応の度合を測定・比較 し,さらに,それらの心理的ストレスに影響を及ぼす要 因について明らかにし,各々の病期に応じた適切な看護 援助について考察することを目的とする. 1.仮 説 1)「bad news」を伝えられた時の配偶者の心理的スト レス反応の程度は,肺がんの治療経過によって異なり, 最初の病名告知の時に最も高い. 2)夫婦関係満足度が高い配偶者は,心理的ストレス 反応が低い. 3)がん治療過程の病期により,配偶者の心理的スト レス反応に影響を及ぼす要因は異なる. 2.用語の定義 1)bad news:患者の将来に対する見方を劇的に悪い 方向へ変えてしまう情報13)と定義する. 2)診断告知の時期(Ⅰ期):がんの病名が確定し,今 後の治療方針が患者や配偶者に伝えられる時期と定義す る. 3)再発の時期(Ⅱ期):がんの再発により治療方針の 変更が必要であると伝えられる時期と定義する. 4)積極的な治療終了の時期(Ⅲ期):がんに対する積えばあてはまる」「4=かなりあてはまる」の 4 件法で 考え,6 項目の合計スコアを夫婦関係満足度スコアとす る.得点の範囲は 6 ∼ 24 点で,スコアが高いほど夫婦 関係満足度が高いことを示す.夫婦関係満足尺度の本研 究でのクロンバックのα係数は 0.957 と高い値であっ た. 3)対象者の属性 年齢,性,健康の状態,介護経験の有無,就業の有 無,家族構成,がんについて話した経験の有無,経済的 不安の有無,サポーターの存在の有無を調査した. 「がん」について話した経験の有無は,患者が健康な 時期に,配偶者が患者と「がん」のことについて話した 経験の有無であり,経済的不安の有無とは,これから生 じてくる経済的な問題への不安について回答してもらっ た.サポートの存在の有無は,患者以外の家族や友人等 において,配偶者が悩みを相談でき,配偶者をサポート してくれる人の存在の有無とした. 4.分析方法 分析には統計解析処理ソフト SPSS16.0J for Windows を使用して,ノンパラメトリック検定を行った.心理的 ストレス反応および夫婦関係満足尺度の各病期における は 0∼54 点となる.3 つの下位尺度のスコアは,おのお の 0∼18 点であり,各因子の合計スコアが高スコアな ほど心理的ストレスが高いことになる15).これまでに, 成人期初発乳がん患者の術後の QOL に関わる要因の探 索16)や胃切除を受ける早期胃がん患者に対する認知行動 療法の介入研究17),認知症者における家族介護高齢者の 生活満足度とストレスおよび自己効力感との関連性とい う比較研究18)などに用いられている.本研究での妥当性 については,「bad news」のような危機が起こった時の ストレスが高い状況は,短くて 1 週間から,長くなると 6∼ 8 週間存在するという先行研究もあり19)∼20),対象者 ががんを罹患した患者の配偶者であることに鑑み,倫理 的配慮を行った.本研究におけるクロンバックのα係数 は 0.915 と高い値であった. 2)夫婦関係満足尺度21) 夫婦関係の満足度について,調査される者自らが回答 する尺度である.ノートンが夫婦の関係全体の良さを反 映する項目に限定して作成した QMI(Quality Marriage Index)22)を,諸井が翻訳したものを使用した23).6 項目 からなる尺度であり「1=ほとんどあてはまらない」「2 =どちらかといえばあてはまらない」「3=どちらかとい 表1 対象者の属性 項目 Total配偶者 Ⅰ期患者の配偶者 Ⅱ期患者の配偶者 Ⅲ期患者の配偶者 p n=44 n=17 n=15 n=12 性 男性 10(22.7) 6(35.3) 1( 6.7) 3(25.0) 0.152c) 女性 34(77.3) 11(64.7) 14(93.3) 9(75.0) 0.076a) 年齢(平均± SD) 67.9± 10.6 67.5± 10.4 63.5± 10.2 74.0± 9.2 0.036b) 0.335a) 0.013a) 健康の状態 良い 16(36.4) 5(29.4) 7(46.7) 4(33.3) 0.580c) 不良 28(63.6) 12(70.6) 8(53.3) 8(66.7) 介護経験 あり 19(43.2) 5(29.4) 10(66.7) 4(33.3) 0.076c) なし 25(56.8) 12(70.6) 5(33.3) 8(66.7) 就業 あり 17(38.6) 10(58.8) 4(26.7) 3(25.0) 0.092c) なし 27(61.4) 7(41.2) 11(73.3) 9(75.0) 家族構成 夫婦のみ 18(40.9) 7(41.2) 6(40.0) 5(41.7) 0.996c) それ以外 26(59.1) 9(58.8) 9(60.0) 7(58.3) 癌について話した経験 あり 23(52.3) 10(58.8) 7(46.7) 6(50.0) 0.776c) なし 21(47.7) 7(41.2) 8(53.3) 6(50.0) 経済的不安 あり 28(63.6) 8(47.1) 11(73.3) 9(75.0) 0.192c) なし 16(36.4) 9(52.9) 4(26.7) 3(25.0) サポーターの存在 あり 37(84.1) 13(76.5) 13(86.7) 11(91.7) 0.515c) なし 7(15.9) 4(23.5) 2(13.3) 1(8.3) Ⅰ期:診断告知の時期,Ⅱ期:再発の時期,Ⅲ期:積極的な治療終了の時期( )内は% a)Mann-Whiteyの U 検定,b)Kruskal-Wallis検定,c)Pearsonのχ2による
Ⅲ.結 果
1.対象者の属性(表 1) 調査を依頼した肺がん患者の配偶者 44 名を病期別に みた.性比に差はなかったが,病期別の配偶者の平均年 齢には有意な差があった.その中でも,積極的な治療終 了の時期(以下,Ⅲ期とする)の患者の配偶者は再発の 時期(以下,Ⅱ期とする)の患者の配偶者より,平均年 齢は有意に高値を示した.その他の属性では,統計学的 に有意な差はなかった. 2.心理的ストレス反応・夫婦関係満足尺度のスコア (表 2) がん患者の配偶者における心理的ストレス反応の総ス コアの平均は,20.9±13.0 点であった.病期別にみる と,診断告知の時期(以下,Ⅰ期とする)のスコアが最 も高かったが,群間に有意差はなかった.3 つの下位尺 差 異 に つ い て は,Mann-Whitney の U 検 定 と Kruskal-Wallis検定を行った.心理的ストレス反応に影響する要 因の分析に関しては,Spearman の順位相関係数を用い た.統計学的検定の有意水準は p<0.05 とした. 5.倫理的な配慮 すべての対象者に,研究の目的,方法,研究参加への 自由意思,参加を撤回できる権利の保障,プライバシー の厳守などを説明し書面で研究参加の同意を得る.本研 究は,がんと告知された患者の配偶者を対象としている ため,精神面への配慮は十分に行い,調査途中であって も対象者の心理的動揺が大きく,調査の続行が不可能で あると思われた場合には調査を直ちに中止するようにし た.本研究は,佐賀大学医学部倫理委員会の承認を得た 後に,研究計画書に沿って実施した. 表2 病期別心理的ストレス反応(SRS-18)・夫婦関係満足尺度のスコア 項目 計(n=44) Ⅰ期(n=17) Ⅱ期(n=15) Ⅲ期(n=12) p 心理的ストレス反応総スコア 20.9(0 ∼ 48)± 13.0 24.0(7 ∼ 48)± 12.5 17.7(0 ∼ 42)± 13.4 20.5(3 ∼ 46)± 13.3 0.32 抑うつ・不安 (0 ∼ 18)9.3± 4.7 (4 ∼ 18)10.6± 4.1 (0 ∼ 16)7.9± 5.2 (2 ∼ 17)9.3± 4.9 0.32 不機嫌・怒り (0 ∼ 17)6.0± 4.6 (3 ∼ 17)6.7± 4.0 (0 ∼ 14)5.0± 4.7 (0 ∼ 16)6.1± 5.4 0.51 無気力 (0 ∼ 16)5.6± 4.8 (0 ∼ 16)6.7± 5.4 (0 ∼ 13)4.7± 4.2 (1 ∼ 14)5.2± 4.5 0.66 夫婦関係満足尺度総スコア (6 ∼ 24)19.8± 4.8 (6 ∼ 23)18.3± 4.0 (6 ∼ 24)20.3± 5.2 (6 ∼ 24)19.4± 4.6 0.15 抑うつ・不安,不機嫌・怒り,無気力は心理的ストレス反応(SRS-18)の下位尺度 ( )内は得点範囲,統計学的分析は Kruskal-Wallis 検定による いずれの心理的ストレス反応においても数値が高いほど反応の程度は高い 夫婦関係満足尺度のスコアは高いほど夫婦の関係性が良い Ⅰ期:診断告知の時期,Ⅱ期:再発の時期,Ⅲ期:積極的な治療終了の時期 表3 病期別の心理的ストレス反応と各変数間の相関 全期 n=44 Ⅰ期 n=17 Ⅱ期 n=15 Ⅲ期 n=12 夫婦関係 満足度 健康の状態 経済的不安 夫婦関係満足度 健康の状態 健康の状態 経済的不安 家族構成 心理的ストレス 反応総スコア −0.259 −0.523** 0.326* −0.600* −0.594* −0.651** 0.507 0.319 抑うつ・不安 −0.341* −0.561** 0.336* −0.634** −0.710** −0.559* 0.508 0.100 不機嫌・怒り −0.008 −0.449** 0.210 −0.359 −0.510* −0.563* 0.423 0.670* 無気力 −0.352* −0.497** 0.356* −0.592* −0.491* −0.763** 0.650** 0.174 Spearmanの順位相関係数を示す,*p < 0.05,**p < 0.01 抑うつ・不安,不機嫌・怒り,無気力は心理的ストレス反応の下位尺度 Ⅰ期:診断告知の時期,Ⅱ期:再発の時期,Ⅲ期:積極的な治療終了の時期 有意な相関があった変数のみを示す針が伝えられることで,配偶者が初めて「肺がん」とい う言葉を医療者から聞くことになる,山 は研究の中 で,進行肺がん患者の家族にとって,診断は晴天の霹靂 で,家族は予想外の肺がんの診断に衝撃を受けていると 述べている12). 本研究でも,「肺がん」という診断で,配偶者が精神 的に動揺を起こしている状況になっている.そのこと で,Ⅰ期の心理的ストレス反応が,他のⅡ期やⅢ期に比 べて高くなったのではないかと考える.また,本研究で は,配偶者の平均年齢が 67 歳ということを考えると, 肺がんという疾患に関する情報を得ることの困難さや, これから関わりをもつことになる医療関係者との関係性 の構築も,配偶者の心理的ストレスを高くする原因では ないかと考える.先行研究でも,「家族はがん診断・治 療の過程で情緒的にも身体的にも影響を受け,心理的弱 みを持っている」6)と述べられている. また,下位尺度の抑うつ・不安のスコアは「普通」が 3∼8 点,「やや高い」が 9∼12 点である.Ⅰ期では平均 が 10.6 点,Ⅲ期では平均が 9.3 点で「やや高い」判定 であった.この結果は,がんの告知の後には抑うつや不 安が生じるという先行研究の結果とも一致する25).ま た,Ⅲ期では,希望をもって受けている治療を中断しな ければならないという心理的ストレスと,これから訪れ るであろう喪失体験の予測が,配偶者自身の抑うつ・不 安を強めたと考える.Ⅱ期では,平均が 7.9 点で「普 通」の判定であった.この結果は,再発や転移が起こっ ても,治療法はまだあるということを主治医から説明さ れることで,配偶者は希望も感じていると考えられる. 次に,不機嫌・怒りのスコアは「普通」が 3∼7 点で ある.結果は,Ⅰ期からⅢ期までいずれも普通の範囲内 であった.配偶者は,主治医から「bad news」が伝えら れたとき,配偶者は,患者がどうして肺がんに罹患した のか振り返ると考える.その時に,これまでの患者の喫 煙や健康状態を損なうような患者の生活習慣に対する批 判や怒りという感情よりも,配偶者は,患者の病状を思 いやるに気持ちに傾いてることで,情動的反応でもある 下位尺度の不機嫌・怒りが普通の範囲内であったのでは ないかと考える. また,無気力のスコアは「普通」が 2∼6 点,「やや 高い」が 6∼11 点である.結果は,Ⅰ期の平均が 6.7 点,Ⅱ期の平均が 4.7 点,Ⅲ期が平均 5.2 点であった. Ⅰ期のみが「やや高い」判定であった.この結果から, 最初にがんという病名の告知を受けた後の配偶者が,少 なからず衝撃を受け,告知前と同じような日常生活を送 れなくなることに対して,意欲を失くしているのではな 度のスコアにおいても,Ⅰ期のスコアが最も高く,Ⅲ 期,Ⅱ期の順となったが,群間の差は統計学的に有意で はなかった.夫婦関係満足尺度も群間に有意な差はな かった. 3.病期別の心理的ストレス反応と各変数間の相関 (表 3) 全期 44 名の患者の配偶者において,心理的ストレス 反応総スコアに関係があった要因は,「健康の状態」と の間に有意な負の相関があり,「経済的不安」との間に 有意な正の相関があった.心理的ストレス反応の下位尺 度「抑うつ・不安」と「無気力」においては,「夫婦関 係満足度」および「健康の状態」との間に有意な負の相 関があり,「経済的不安」との間に有意な正の相関があっ た.心理的ストレス反応の下位尺度「不機嫌・怒り」は, 「健康の状態」との間に有意な負の相関があった. 病期別にみると,Ⅰ期の患者の配偶者において,心理 的ストレス反応総スコアに関係があった要因は,「夫婦 関係満足度」および「健康の状態」との間に有意な負の 相関があった.心理的ストレス反応の下位尺度「抑う つ・不安」と「無気力」においては「夫婦関係満足度」 および「健康の状態」との間に有意な負の相関があっ た.また,心理的ストレス反応の下位尺度「不機嫌・怒 り」は,「健康の状態」との間に有意な負の相関があっ たが,「夫婦関係満足度」との間には関係がなかった. Ⅱ期の患者の配偶者において,心理的ストレス反応総ス コアおよびすべての下位尺度と「健康の状態」の間に有 意な負の相関があった.また,心理的ストレス反応の下 位尺度「無気力」だけが,「経済的不安」との間に有意 な正の相関があった.Ⅲ期の患者の配偶者において,心 理的ストレス反応は,心理的ストレス反応の下位尺度 「不機嫌・怒り」と「家族構成」との間にのみ有意な正 の相関があった.
Ⅳ.考 察
1.心理的ストレス反応 肺がんに罹患した患者の配偶者の心理的ストレス反応 総スコアは,20.9±13.0 点で,医療者から「bad news」 が伝えられる病期別のスコアは,平均点がⅠ期は 24 点 と最も高く,Ⅱ期は 17.7 点,Ⅲ期は 20.5 点であった が,各病期におけるスコアに有意な差はなかった.心理 的ストレス反応総スコアの 4 段階評定値表では「普通」 8∼21 点,「やや高い」20∼32 点とされており,本研究 の対象者は,Ⅰ期のみが「やや高い」判定であった.Ⅰ 期は,初めて肺がんという病名が確定し,今後の治療方怖の体験である」27)と述べている.配偶者が初めてがん という病名の告知を受け,これからの治療方針を聞いた この時点で,配偶者は,大きな衝撃を受けながらもこれ からの生活のことや,患者のこと自分以外の家族のこ と,そして,夫婦のこれまでの関係性について考え,人 生設計を再構築する準備に取りかかっていると考えられ る. また,これから始まる長い治療に対して,自分の健康 に不安があったり,自信がない時には,患者が入院をし たり,通院をしたりする時の付き添いや介助ができるの かという不安や,在宅においても患者が呈する症状に対 して 24 時間対応ができるのか,治療期間が何日になる か分からない中で,今の自分の健康状態で,適切に対応 できるのかという不安が心理的ストレスに反映している のではないかと考える. Ⅱ期では,「健康の状態」が心理的ストレス反応の総 スコアとすべての下位尺度との間で負の相関を示し, 「経済的不安」が,下位尺度の「無気力」と正の相関を 示していた.がんに対する初回の治療が終わって,患者 はサバイバーとして,日常生活に戻り数カ月後に再発と いう時期になると,配偶者は,Ⅰ期の時以上にこれから の長い療養生活のことを考え自分の健康の状態に不安を 感じ,そのことが心理的ストレス反応となって現れるの ではないかと考える.また,がんと告知された時点か ら,治療には高額な費用がかかるということを,配偶者 は不安に感じていると考えられる.Ezekielら28)の先行 研究でも経済的な負担が介護者に精神的負担をもたらし ていると述べている.これからも繰り返されるであろう 治療に対し,経済的な不安をもちながら,これまで治療 を頑張ってきたにもかかわらず,再発してしまったとい う無念,そして今後も,もしかすると報われないかもし れない治療に,お金を費やすことに対する不安が,配偶 者の認知的反応を現す無気力につながっている可能性が あると考える. Ⅲ期では,「家族構成」と心理的ストレス反応の下位 尺度「不機嫌・怒り」に正の相関がみられた.このこと は,夫婦のみよりも親と同居や子供と同居というよう に,家族の数が多いほど心理的ストレスが高くなること を表している.がんとの闘いも終盤にさしかかり,これ から訪れる患者との別れについて,配偶者は具体的に想 像し考えるようになると思われる.同時に家族にとって も患者の死は,家族構造の変化を意味し,その結果とし て家族の関係性や役割,機能に大きな影響を及ぼす.そ の結果,患者の死への態度や看取りへの取り組みに影響 すると長戸29)は述べている.家族の構成員が多いという いかと考える. Ⅰ期からⅢ期までの心理的ストレス反応総スコアとそ の下位尺度のスコアをみると,Ⅱ期が,Ⅰ期とⅢ期に比 べてやや低い傾向がみられる.この結果は,がんの再発 という受け入れがたい状況にありながらも,治療に対す る期待からⅡ期での配偶者の心理的ストレスは,全体的 に他の病期よりも少し低くなるのではないかと考える. 2.心理的ストレス反応と夫婦関係満足度 本研究における夫婦関係満足尺度の総スコアは,19.8 点であった.各病期におけるスコアの差もわずかであっ た.このスコアは,尺度の翻訳者である諸井らの健康な 主婦を対象とした23)研究における平均スコア 18.3 点や 更年期症状が顕著に現れている主婦を対象にした研究24) における平均スコアが 18.3 点とほとんど差がなかった. このことは,配偶者が肺がんに罹患しているということ が,夫婦の関係性に影響するということは少ないという ことがいえる.また,各病期別に心理的ストレス反応と 夫婦関係満足度の関係をみると,Ⅰ期にのみ有意な負の 相関を示しており,心理的ストレス反応が高い配偶者ほ ど夫婦関係満足度が低いことが示された.この結果は, Cindyらの先行研究であるカップル間の関係満足度が, 心理的苦痛に影響する25)とした結果と一致する. 本研究では,Ⅰ期の配偶者はⅡ期・Ⅲ期の配偶者と比 較して,就業中の配偶者が多かった.そのことは日常生 活を送るうえで,患者の世話と仕事の両立が必要とな る.そのような中では夫婦で会話をする時間も少なく なっていき,健康な時にがんについて話した経験はある が,初めてがんの告知を受けた患者が,いま自分の置か れた現実をどのように考えているのかを話す時間もな い,このことが夫婦の関係性に影響しているのではない かと考える. また,本研究と同じ夫婦関係満足尺度を用いた井上ら26) の先行研究においても,夫婦関係満足度が抑うつと負の 関係にあったと述べている.本研究においても,配偶者 が夫婦の関係性に満足していない状況の時に伝えられる 医療関係者からの「bad news」は,配偶者に抑うつや不 安,無気力というような負の感情を起こさせるのではな いかと考える. 3.病期別の心理的ストレス反応に影響を及ぼす要因 全期 44 名の患者の配偶者において,心理的ストレス 反応に関係があった要因は,「夫婦関係満足度」・「健康 の状態」・「経済的不安」・「家族構成」であった.これを 病期別にみていくと,Ⅰ期では「夫婦関係満足度」と 「健康の状態」に負の相関を示している.近藤は,「告知 は患者だけでなく家族にとっても衝撃であり,悲嘆や恐
1,41―47 (2003) 9) 中西達郎.がん患者家族の精神的負担の研究.慈恵医大誌. 115,777―785 (2000) 10) 伊藤美由紀,浅沼良子他.肺がんで告知を受けた患者の心理 的反応と告知までの受診行動の分析.東北大医短部紀要.11 (1), 65―75 (2002) 11) 氏家幸子,小松浩子.成人看護学 E.がん患者の看護(第 3 版).東京,廣川書店,2006, 192 12) 山 智子.死に至るまでの過程を生き抜く進行肺癌患者と家 族の実態と看護支援に関する研究.お茶の水医誌.54 (3), 79―99 (2006) 13) ピーター・ケイ.(柿川房子,佐藤英俊訳) Breaking Bad News 悪い知らせを伝える―10 ステップアプローチ.がん看 護.3(2), 130―135, 3 (3), 217―224 (1998) 14) 鈴木伸一,嶋田洋徳,他.新しい心理的ストレス反応尺度 (SRS−18)の開発と信頼性・妥当性の検討.行動医研.4, 22 ―29 (1997) 15) 鈴木伸一,他.心理的ストレス反応測定尺度 SRS―18(Stress Response Scale−18).東京,こころネット株式会社,2007, 7―9 16) 若崎淳子,他.成人期初発乳がん患者の術後の QOL に関わる 要因の探索.日クリティカルケア看会誌.3 (2), 43―55 (2007) 17) 神 初美,城戸良弘.胃切除を受ける早期胃癌患者に対する 認知行動療法―セルフエフィカシーと心理的ストレスに対す るノート記述と面接による介入効果.日看科会誌.22 (4), 1―10 (2002) 18) 田中正子,二宮寿美,他.認知症者における家族介護高齢者 の生活満足度とストレス及び自己効力感との関連―一般高齢 者との比較.宇部フロンティア大看ジャーナル.4(1),15― 22 (2011) 19) 小島操子.看護における危機理論・危機介入 フィンク / コー ン / アグィレラ / ムース / 家族の危機モデルから学ぶ.京都, 金芳堂,2013, 9
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Ⅴ.研究の限界と今後の課題
今回の研究では,対象者の選定が主治医の判断に委ね られたためになんらかのバイアスが生じている可能性が あること,また対象者の人数が 44 名と少なく,さらに 病期を 3 つに分けたことにより比較する対象人数が小さ くなったことは研究上の限界である.今後,症例数を増 やしてさらに分析を続けることが望ましい.Ⅵ.結 語
1)配偶者の心理的ストレス反応は,「再発の時期」 「積極的な治療終了の時期」よりも「診断告知の時期」 がやや高い傾向にあった 2)心理的ストレス反応に影響する要因としては, 「夫婦関係満足度」「健康の状態」「経済的不安」「家族構 成」があり,患者の病期によってこれらの影響要因は異 なっていた. 3)看護者は,肺がん患者の配偶者の心理的ストレス 反応を軽減するために,病期によって要因が異なること を考慮して援助することが大切である. 文 献 1) 片山美子,小笠原昭彦.がんの入院治療経験によるこころの 苦痛と看護介入に関する仮説.日看科会誌.28 (3), 52―58, 2008. 2) ピエールウグ.(黒江ゆり子,他訳)慢性疾患の病みの軌跡. 東京,医学書院,1995,33―47 3) 飯野矢住代,佐藤祐佳,他.がん患者と家族の療養生活と Cancer Help Net(CHN)活動.日がん看会誌.20 (1), 26―32 (2006) 4) 遠藤恵美子.希望としてのがん看護―マーガレット・ニュー マン 健康の理論 がひらくもの.東京,医学書院,2007, 64 5) 佐伯俊成.がん患者と家族に対する心理社会的介入.心身医. 44 (7), 496―495 (2004) 6) 野中真澄,鈴木志津枝.初発肺がん患者の家族のがん診断期 から在宅期における困難.高知医療セ医誌.3 (1), 1―10 (2009) 7) 加藤亜妃子.終末期がん患者を看病する配偶者のストレス― 対処過程.日本がん看護学会誌.23 (3), 4―13 (2009) 8) 近藤まゆみ.がん告知における家族の意思決定.家族看護.Key words: lung cancer, spouse, mental stress, bad news Abstract
The Spouse’s Reaction to Mental Stress When “Bad News” was Given in the Course of a Lung Cancer Patient’s Treatment ―Timings of Disclosure and Other Affecting Factors―*
by
Toyoko Kugimoto**1), Akemi Koga**2) from
**1)Saga University Graduate School of Medical Science Doctoral Course **2)Institute of Nursing, Faculty of Medicine, Saga University
Purpose : In the course of lung cancer treatment, the doctor at some point must disclose bad news to the spouse of a married patient. In this research the stress reaction of the spouse was analyzed at three points in time: When cancer was diagnosed and announced; When recurrence of the cancer was found; and when positive medical treatment was to end. To offer the best possible nursing assistance, how badly the spouse was affected by the news was determined. Factors that may have affected the mental reaction that he/she displayed were also ex-amined.
Methods : Data was collected after disclosures of bad news and from the self-account questionnaires which the spouse had filled in. The items therein contained his/her mental stress reaction and the degree of satisfaction in their marital relationship.
Results : Of a total of 44 spouses who took part in the study, about two-thirds of them had their own health problems. Although their mental stress reaction showed a more negative tendency at the initial diagnosis of can-cer than the subsequent disclosures, there was no significant difference between the timing of bad news. Degree of marital satisfaction , state of spouse s own health , financial uncertainty and family make-up were the main factors that influenced a spouse s mental stress reaction. As to how these factors affected his/her mental status changed somewhat depending on the phase of the cancer.
Conclusion: Nurse is lung cancer patient s spouse will help alleviate for the mental stress. It is to nursing in consideration of the factors varies depending on the stage is important.
Address reprint requests to :
Toyoko Kugimoto. Saga University Graduate School of Medical Science Doctoral Course 5 1 1 Nabeshima, Saga shi, 849 8501, Japan