Vol.31 No.15 November 2015
ファームテクジャパン 第31巻第15号 平成27年11月1日発行(毎月1回1日発行)
Vol.31
No.15
November 2015
発行所 じほう (株) 平成二十七年十一月一日発行 (毎月一日発行)
©
〒 東京都千代田区猿楽町一│五│一五 猿楽町SSビル T E L 03 │ 3 2 33 │ 636 4(編集) 3 2 33 │ 6336 (購読) 3 2 33 │ 63 41 (広告営業) 101-8421 定価﹇本体一、九〇〇円+税﹈ARTICLES █ █【高活性医薬品製造施設におけるリスクベースアプローチ(第1回)】█ 製品および工程知識に基づくユーザー要求仕様書の作成/川㟢 誠█ 7 █ █医薬品添加剤の監査情報の共有化について/長江晴男█ 27 █ █中国GMPの現状および問題点/印 佳慧,樊 剣麗█ 29 █ █リーン█クオリフィケーションアプローチの提案/中尾明夫█ 39 █ █超ろ過膜の概要,維持管理/樋口賢治█ 43 █ █【これからの日本薬局方(第8回)】 理化学試験法の第17改正における改正点と今後の課題/四方田千佳子█ 51 █ █【薬剤系研究者が使える!有機化学(3)】キラルスイッチ医薬品を考える█ █ /高橋秀依,夏苅英昭█ 57 █ █【本当に知ってる?正しい細胞培養の手法(その6)】細胞をうまく解凍できますか?/古江-楠田美保█ 61 ███微生物試験法Q&A−現場の困った!█に答える誌上セミナー(第25回)/石﨑亜樹子,宮部孝彦█ 65 █ █アヘマ2015と欧州医薬品工場視察/松下繁明█ 71 █ █【企業経営と知的財産(第11回)】用途発明とその権利化について/宇佐見弘文█ 75 ███ 【医療機器ソフトウェア−ソフトウェアライフサイクルプロセス(第13回)】ソフトウェア開発プロセス/宇喜多義敬█ 79 █ █溶出試験器の機械的校正について/渡邊眞也█ 83 █ █製剤研究者が注目する一押しトピック█ 87 █ █医薬品医療機器レギュラトリーサイエンス財団ニュース(No.97)/津田重城,最上紀美子█ 91 INTERVIEW ███医薬品医療機器総合機構█GMP/QMS調査担当の在宅嘱託職員の募集をスタート█ 16 █ █ISPE日本本部█教育委員会主催「ヤングプロフェッショナルのためのセミナー」参加者に聞く█ 24 REPORT ██製薬協█品質委員会・日本医薬情報センター█第42回・2015年度GMP事例研究会開催█ 18 █ █日本分析機器工業会/日本科学機器協会█JASIS2015開催█ 20 █ █ISPE日本本部█教育委員会█プロセスバリデーション実務セミナー開催█ 22 Study of GMP █ █社会に貢献する無菌医薬品の製造・品質管理の在り方(第6回)/三澤公貴█ 99 █ █コンピュータ化システムのデータインテグリティ対応(第4回)█ MHRAのデータインテグリティガイダンスと査察対応/望月 清█ 109 █ █Risk█Based監査−GMP監査はどのように考え,行うべきか/古澤久仁彦█ 117 █ █ヒト用医薬品GMPに関する意見公募█ 123 製剤技術 ███ 【製剤と粒子設計】生産機での凍結乾燥プロセス開発期間を最小化するスケールアップ手法██ と氷核コントロールによる頑健な凍結乾燥プロセス獲得への挑戦/川崎英典█ 129 ●行政ニュース█ 126 医薬品の範囲を見直し ●News█Topics█ 139 ●New█PRODUCTS█ 146 ◆次号予告█ 184 ■World█News█Topics█ 147 ガイダンス関連,GMP関 連,製剤技術関連,原薬関 連,警告書関連 ◇編集顧問 大矢晴彦█ 横浜国立大学名誉教授 仲井由宣█ 千葉大学名誉教授 ◇編集委員 川嶋嘉明█ 愛知学院大学特任教 授・岐阜薬科大学名誉 教授 園部 尚█ 地域創生ビジョン研究 所代表組合員 永井恒司█(財)永井記念薬学国 █ 際交流財団理事長 長江晴男█ NPO-QAセンター █ 代表副理事 製剤技術とGMPの最先端技術情報誌 (Vol.31█No.15) 2015
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CONTENTS
リスクベースアプローチ(Risk-based approach)は, 2002年8月のFDAによる21世紀の医薬品CGMPイニシア チブにおいて,PATなどの新しい技術の積極的活用, 品質マネジメントシステムのアプローチ,無菌ガイダン スやPart 11等の各種ガイドラインの見直し・発行,そ してリスクに応じたシステム査察の適用などのキーコン セプトとして提唱された。FDAのCGMPイニシアチブは, 新しいガイドラインや品質保証における新しい体制を作っ ていく上で,以下の指針を掲げた。 ①Risk-based orientation リスクに基づく志向 ② Science-based policies and standards サイエ
ンスに基づくポリシーと基準
③ Integrated quality systems orientation 品 質 システムを統合する志向
④International cooperation 国際的協調
⑤ Strong public health protection 強固な公衆衛 生保護
品質マネジメントシステムのアプローチについては, このイニシアチブに呼応する形でICH(日米EU医薬品規 制調和国際会議)にて最初にQ9:品質リスクマネジメン ト(Quality risk management)に関するガイドラインが 2003年11月より検討が開始された。 Q9のコンセプトペーパーには,「3極のガイドラインは,
はじめに
リスクマネジメントの原則が,GMPコンプライアンス を含めて,医薬品品質に基づいた効果的な適用と確実な 決定を統合できるよう定義される必要がある」と記載さ れている。各種ガイドや要求事項,基準の策定や改訂を サポートし,製薬業界において,より科学的に「意思決 定」(“decision making”)を確実化する手法としてQ9は リスクマネジメントのフレームワークを示した。それに 続きQ8:製剤開発(Pharmaceutical Development)およ びQ10:医薬品品質システム(Pharmaceutical Quality System)も順次検討され,いわゆるQ-Trioとしては2008 年7月にQ10がStep 4で3極合意されたことで,品質マネ ジメントシステムに関連したガイドラインが国際的に整 備された。 国内では,2006年9月のICH Q9の通知を皮切りに医薬 品業界の中でリスクに対する機運が徐々に高まり,品質 システムに対するリスクに基づくアプローチの重要性が 認識されてきた。また,PIC/S-GMPのAnnex 20へQ9 がガイドラインとして取り込まれ,これらの国際的な潮 流の中で品質リスクに対するさまざまなアプローチの検 討および運用化が加速されてきた。最近ではサイエンス ベースに加えてリスクベースの考え方がより明確にガイ ドラインの本文中にも記載されたEU-GMPおよびPIC/S -GMPのAnnex 15も改訂され,2015年10月より施行開 始となっている。EU-GMPおよびPIC/S-GMPのAnnex 15においては,「品質リスクマネジメントの一部として, クオリフィケーションおよびバリデーションをどこまで高活性医薬品製造施設におけるリスクベースアプローチ
第1回
製品および工程知識に基づく
ユーザー要求仕様書の作成
Preparation of User Requirements Specification based on product and
process knowledge
Risk-based approach for the manufacturing facilities of high potency drugs
ファルマ・ソリューションズ株式会社
川㟢 誠
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akotok
awasaki施設/設備の設計,施設の衛生についての側面, 施設/設備/ユーティリティの適格性確認,設備 の洗浄及び環境管理,キャリブレーション/予防 保全,コンピュータシステム及びコンピュータ制 御された装置 Ⅱ.5 資材管理の一環としての品質リスクマネジメント 供給業者と受託製造業者の査定や評価,出発原料, 原材料の使用,保管/物流/配送条件 Ⅱ.6 生産の一環としての品質リスクマネジメント バリデーション,工程内サンプリングと工程内検査, 生産計画 Ⅱ.7 試験検査室管理及び安定性試験の一環としての品 質リスクマネジメント 規格外試験結果,リテスト期間/有効期限 Ⅱ.8 包装及び表示の一環としての品質リスクマネジメ ント 包装設計,容器施栓系の選択,ラベルの管理 このように品質リスクマネジメントは,医薬品のライ フサイクル全般においてさまざまな適用範囲が想定され る。品質システムをどのように構築するかについては, ICH Q9に記載されている以下の2つの主要原則に基づ いて,各企業がリソースに見合った有効な品質リスクマ ネジメントを適用することが求められる。 ・最終的に患者保護に帰結されるべきである。 ・ 労力,形式,文書化の程度は当該リスクの程度に相応 すべきである。 当社はエンジニアリング会社として,Ⅱ.4およびⅡ.6 の品質マネジメント適用領域において,リスクアセスメ ントを設計に統合したGEP(Good Engineering Practice) 活動とクオリフィケーションの支援業務活動を医薬品会 社向けに行ってきている。 ※ GEPとは適正で効率的な解決方法を提供するライフサ イクルを通して適用される確立したエンジニアリング 手法およびスタンダードとされている。 2007年7月にASTMより提示された「医薬品およびバ イオ医薬品の製造システムと機器に対する仕様・設計お よび検証に関する標準的なガイドライン」を図1に示す。
2.GEPおよびクオリフィケーショ
ン活動におけるリスクマネジメ
ント(リスクアセスメント)の適
用範囲
行うか,その範囲と度合い(Scope and extent)に関する 判断は,施設,設備,ユーティリティおよびプロセスに 関する妥当性が示され,文書化されたリスクアセスメン トを基に決定すべき」とされている。これはクオリフィ ケーションおよびバリデーションを実施する対象設備お よび検証する測定ポイントや実施手順のアプローチなど の検証内容について,第3者に対してより明確に示すこ とが求められたものと考える。しかしながら,過去にお いて行われてきたバリデーションに対するアプローチと 何ら変わっていないはずである。日本にて1994年に制定 されたバリデーション基準にある「製造所の構造設備並 びに手順,工程その他の製造管理および品質管理の方法 が期待される結果を与えることを検証し,これを文書化 することによって,目的とする品質に適合する医薬品を 恒常的に製造できるようにすることを目的とする。」の 本質は制定時も現在も何ら変わりはない。患者のリスク を最優先に考えた品質保証システムの構築と,工程で品 質を作り込むアプローチとその設定した基準に対する明 確な根拠付けの文書化が求められてきたものと考える。 今回は,高活性医薬品製造施設におけるリスクベースア プローチの主題において,当社が提供しているユーザー 要求仕様書(URS)の作成事例を紹介する。 企業と規制当局における品質リスクマネジメントの潜 在用途としては,ICH Q9:(品質リスクマネジメントに 関するガイドライン)の付属書Ⅱの中で以下のとおり, 具体的に記載されている(各項番号は付属書Ⅱの中の番 号を示す)。 Ⅱ.1 統合された品質マネジメントの一環としての品質 リスクマネジメント 文書化,訓練及び教育,品質欠陥,監査/査察, 定期的なレビュー,変更マネジメント/変更管理, 継続的な改善 Ⅱ.2 規制当局の業務活動の一環としての品質リスクマ ネジメント 査察・審査業務 Ⅱ.3 開発の一環としての品質リスクマネジメント Ⅱ.4 施設,設備,ユーティリティのための品質リスク マネジメント
1.品質リスクマネジメント(リスク
アセスメント)の適用範囲
製品および工程知識に基づくユーザー要求仕様書の作成 高活性医薬品製造施設におけるリスクベースアプローチ 第1回平成25年8月30日付のGMP省令の施行通知において, 医薬品の品質を確保するために「原料等の供給者管理」 として「原料及び資材は,品質部門によって承認された 供給者から購入し,あらかじめ定められた規格に適合す るものを受け入れることとし,これらが文書により規定 されていること。また,重要な原料及び資材は,供給者 との間で製造及び品質に関する取決めを行い,取り決め た内容に従って製造及び品質の管理ができていることを リスクに応じて適切に確認すること。」が求められた。 有効成分である原薬については,GQP省令において製 造販売業者により適切に管理監督されることが求められ ているが,その他の原料や資材については,医薬品製造 業者が適切に製造および品質の管理ができている供給者 から入手することを,GMP省令において求められたこ とになる。 医薬品添加剤は医薬品原料の中でも比較的使用量が多 く,その品質は医薬品の品質に大きな影響を及ぼす場合 があり,適切な添加剤を信頼できる企業から購入するこ とが重要である。 添加剤企業における取扱製品のうち,医薬品添加剤と して使用される製品の数量はわずかな比率である企業が 多くあり,製薬企業から問い合わせをしても十分な回答 が得られない場合がある。また,添加剤企業においては, 1つの製品を多数の製薬企業に供給していることが多く, 個別の問い合わせに応じることは業務負担が大きく,す べてには対応できない場合もある。 今回,製薬企業が添加剤企業の製造および品質管理状 況を調査する際の,双方の業務を効率的に進める方法と して,医薬品添加剤GMP自主基準審査会(GAB)を利用 して,そこから得られた監査情報を共有することで,各 社の業務効率化やリスク対策に役立てることを目的とし た医薬品添加剤GMP監査情報共有システム(略称:「薬 添 情 報 共 有 シ ス テ ム 」, 英 文 名:Pharmaceutical Excipients GMP Audit Sharing System(PEGASS))を立 ち上げた。 添加剤企業を監査する際には,製薬企業によっては使 用している添加剤の種類等が異なる場合もあるが,同一 サイトについては,要望の多い代表の1品目で添加剤製 造に関するシステム監査を行い,適切に製造および品質 の管理ができている添加剤製造業者であるかについて確 認することになる。費用は参加製薬企業で案分するが, 特別に代表品目以外の品目についての監査を要望する製 薬企業がある場合は,要望する製薬企業が当該監査に係 る追加費用を負担することになる。 薬添情報共有システムの立ち上げに際しては,GAB と製薬企業7社(武田薬品工業,アステラス製薬,エー ザイ,塩野義製薬,第一三共,大日本住友製薬,中外製 薬工業)の担当者会が議論・検討し,あらためて複数の 添加剤企業におけるパイロット監査を実施し,最初は上 記7社の担当者が同行監査を行うなどして,GABの監 査が製薬企業として実施する監査に匹敵する内容である ことが確認されている。なお,GABの監査員の多くは 製薬企業において取引先の監査経験があり,医薬品の品 質確保という観点からの査察が行われている。
医薬品添加剤の監査情報の
共有化について
医薬品添加剤GMP適合審査会長江晴男
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aruoN
agaeGMP Auditing Board for Pharmaceutical Excipients(GAB)
弊社は,膨大な時間とコストがかかるバリデーション の負担を抑え,GMPコンプライアンスとコスト合理性 を持ったクオリフィケーション展開の両立をいかに実現 させるか,ということを考え,1冊の書籍『リーン ク オリフィケーション アプローチ(じほう)』として上梓 した。本書のサブタイトルにある通り,医薬品工場建設 プロジェクトにおけるクオリフィケーションを効率的に 進める手法をまとめた。本書の内容も参照しながら,な ぜ今,この考え方が必要であるのか,お伝えしたい。 ①プロセスバリデーション 国内では,まだ実生産プロセスバリデーションと呼ば れているが,近年,FDAは従来のプロセスバリデーショ ン(PV)をPPQ(Process Performance Qualification)と呼 び,製造後の継続的ベリフィケーションを含めた医薬品 ライフサイクル全体をプロセスバリデーションとする概 念を提唱し,この考え方が欧州にも浸透し始めている。 品質を保証するためには,製造プロセスが適格である ことを証明する必要があり,このために実施する一連の 検証行為をプロセスバリデーションと定義しているが, 1987年に,FDAが初めてプロセスバリデーションの概 念を提案したとき(図1参照),将来にわたって恒常的に 生産できることをどのようにして証明するのか,その対 応に世界中の製薬企業が苦しめられた。その対応策の典
はじめに
1.最近の動向
型例が,一過的に連続3ロット,実際のプロセスで成功 すればプロセスバリデーションが成立するという考え方 であろう。 しかしながら,そのようにしてバリデートされたはず のプロセスにより不良品が製造されることが頻発し,形 式的なバリデーションでは意味がないという反省に基づ いて,バリデーションの手法が見直され,ライフサイク ルを通じてプロセスをモニターし常に改善を目指すため 図1 プロセスバリデーションの定義/FDA 図2 ライフサイクルを通じてのプロセスバリデーション/FDA, 2011 株式会社シーエムプラス取締役副社長,GMP Platform責任者中尾明夫
A
kioN
AkAoExecutive vice-president, CM Plus Corporation / General Manager, GMP Platform
リーン クオリフィケーション
アプローチの提案
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