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安全・安心な社会を目指して―現代社会病理の背景に関する有識者ヒアリングとりまとめ-

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安全・安心な社会を目指して

―現代社会病理の背景に関する

有識者ヒアリングとりまとめ−

1

平成16年9月

林伴子

2

、日下部英紀

3

、荒井亮二

4

、能瀬憲二

5 1 本稿の内容は、筆者の責任において、有識者ヒアリングの結果を中心に筆者の観点でまとめたものであ り、内閣府あるいは内閣府経済社会総合研究所の公式見解を示すものではない。 また、もととなった各有識者ヒアリングの議事概要については、内閣府経済社会総合研究所ホームペー ジを参照されたい。http://www.esri.go.jp/jp/prj/social/social_main.html なお、本稿の作成においては、畠中宗一・大阪市立大学大学院生活科学研究科教授、小宮信夫・立正大 学文学部教授より貴重なご意見を頂いた。 2 内閣府経済社会総合研究所主任研究官 3 内閣府経済社会総合研究所総務部総務課課長補佐 4 内閣府経済社会総合研究所総務部総務課行政実務研修員 5 内閣府経済社会総合研究所研究官室経済社会研究調査員

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I.はじめに 最近、国民の安全・安心に対する関心が高まっている。内閣府が本年7月に発表した「安 全・安心に関する特別世論調査」においても、回答者の過半が日本は安全・安心な国では ないと答えている。その理由の筆頭に挙げられたのが、少年非行、ひきこもり、自殺など 社会問題が多発していることであった。 近年、自殺や児童虐待、今までみられなかったような不可解な犯罪の増加、少年非行の 多発など、社会問題を指摘する声が多い。特に、1990 年代以降の自殺死亡率、少年非行、 不登校、児童虐待等各種現代社会病理現象の推移をみると、全体として顕著に増加してい ることがわかる(図表1−1)。これらの問題については、これまでも多くの対策がとられ てきたが、上記世論調査でも明らかになったとおり、国民の安全・安心を確保する上でこ うした問題の多発を防ぐことがますます重要な課題となっている。このような認識のもと、 本論は、現代社会病理現象が多発する共通の背景に焦点をあて、安全・安心な社会をめざ すために、社会問題全体を大きく捉え、そもそも現代社会病理問題の背景には何があるの か、国民は現代社会病理問題をどう捉えているのかとの問題意識のもと、有識者ヒアリン グをとりまとめる形で現代社会病理の背景をまとめたものである。 現代社会病理の問題は非常に多岐にわたり、今回の作業によって問題を完全に捉えられ たとは当然ながら考えていない。全ての問題について深く検討できたわけでもなく、見過 ごした問題や、問題を一面的にしか見ていない点も数多くあろう。また、病理現象それぞ れについて一つ一つ取り上げて分析するという手法はとっていない。しかし、今回の作業 により、問題の本質がおぼろげながら見えてきたのではないかと感じている。 (現代社会病理とは何か) 現代社会病理に関する決まった定義は存在しないが、ここでは単純に、自殺、ひきこも り、少年非行、不可解な犯罪、児童虐待、ホームレスの増加などの、近年の国民の安全安 心を損なう社会現象、あるいは社会からの逸脱行為として広く捉える。 「現代」としているのは、いつの時代にも、殺人・強盗・強姦など各種犯罪、物乞いな ど社会病理は存在していたが、「現代」には、かつてはなかったような社会病理問題が多く 見られるからである。 (社会を捉える方法) 社会病理は、平均値ではわからないような社会全体の構造変化の負の側面が最も端的に 現れている現象である。 社会を捉える方法として、平均化と純粋化がある。平均化とは全体を平均化して捉える 方法であり、純粋化とは、特徴を誇張して捉える方法である。木に例えると、平均化とは 木全体を見る方法で、純粋化とは枝先や葉など変化の最も大きな部分を見る方法である。

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平均は平均値でみるのに対し、純粋化は、平均から離れた個所に注目することである。社 会の本質を捉えるにあたり、平均化は角をとった見方、純粋化は角を誇張した見方といえ る。 日本の社会を「平均化」してみれば、平和であり、安全であり、日常生活は概して安定 的に過ごされている。毎日身の回りで犯罪が起こるわけでもなく、崩壊した家族が家族の 多数派でもない。木で言えば、もう枯れている、あるいは倒れかかっているとは言えまい。 では、日本社会には問題はないか、といえば無論そういうものではない。「純粋化」して みれば、現代社会病理問題は、近年深刻になっている。木でいえば、枯れた葉、折れかか った幹、病にかかった個所など、手を打たなければならない個所が随所に見られるように なっている。 そこで、次の項では、まずアンケート調査や各種統計を用いて、まず現代社会病理の全 体像を概観する。 II.世論調査でみる現代社会病理に対する意識 本年7月に発表された「安全・安心に関する特別世論調査」(内閣府政府広報室)と、本 年5月に、内閣府経済社会総合研究所が行ったインターネットによる世論調査「安全と安 心に関する意識調査」から、現代社会病理に対する人々の見方をみてみる。(1)∼(3) が特別世論調査、(4)∼(7)がネット調査によるものである。 特別世論調査は平成16 年 6 月実施、全国 20 歳以上の者 3,000 人(有効回収数 2,136 人, 回収率71.2%)に対する調査員による個別面接聴取型調査である。ネット調査は、平成 16 年5月15 日、16 日実施、調査会社への登録モニターから 20 代から 50 代までの 3001 人を 無作為抽出して実施したものである。 (1)(安全・安心を揺るがす大きな要素である社会病理問題) 社会病理問題に対しては、国民の多くが大きな不安を感じている。「安全・安心に関する 特別世論調査」によると、「今の日本は安全・安心な国か」との問いに対し、「そう思う」 と答えた割合は4割に満たなかった一方、「そう思わない」との回答が55.9%と過半を超え た(図表2−1)。 「そう思わない」と回答した人に対してその理由をきくと、「少年非行、ひきこもり、自 殺などの社会問題が多発している」との回答が 65.8%と最も多く、ついで「犯罪が多いな ど治安が悪い」(64.0%)、「雇用や年金など経済的な見通しが立てにくい」(55.6%)、「国際 政治情勢、テロ行為などで平和がおびやかされている」(51.4%)となっており、年金・経 済問題や国際情勢以上に、いわゆる「現代社会病理」が、日本社会に不安を感じる最大の 要因となっているといえる(図表2−2)。 なお、地域、年代、職業別にみると、「安全・安心でない」と回答した人は、小都市・町 村に比べ大都市・中都市に多く、男性よりも女性、年代別には50 代、60 代に多い。職業別

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には主婦に多い。また、一般的な人間関係について難しくなった」と感じる人が「安全・ 安心でない」と回答する傾向がある。「安全・安心でない」理由として社会病理問題をあげ ている人は、特に女性の30 代に多い。 (2)(一般的な人間関係について) 一般的な人間関係について質問したところ、「難しくなったと感じる」と回答したものが 6割を超えた一方、「難しくなったとは感じない」と回答したものは3割弱にとどまったこ とから、多くの人が人間関係は難しくなったと感じている(図表2−3)。その原因につい ては、「人々のモラルの低下」との回答及び「地域のつながりの希薄化」との回答が5割を 超えるなど最も多かった(図表2−4)。続いて、「人間関係を作る力の低下」、「核家族化」 が4割を超え、「ビデオ、テレビゲームなどの普及」との回答もそれに次いだ。 これらの回答をみると、社会生活の上で昨今のモラルの低下を感じる人が多くなってい るといえる。また、半数以上が、近所付き合いなど地域のつながりが希薄になっていると 感じている。人間関係を作る力が低下していることはしばしば指摘されているが、今回の 調査もそれを裏付けるものとなった。核家族化は、親族を通じた異なった年齢集団との関 係を薄くし、それが子どもの発達にも大きな影響を与え、人間関係力の低下をもたらして いるものと推測されるが、多くの人がそう感じているものと思われる。また、ビデオ、テ レビゲームの普及によって、子どもが外で友達と遊んだり、直接的な人間関係を結ぶ機会 が相対的に少なくなっていると考えられるが、このことも、人間関係力形成などの面で子 どもの成長に大きな影響を与えていると、多くの人が考えているものと思われる。 年代別にみると、「一般的な人間関係について難しくなった」と感じる人は、男性では50 代、女性では 40 代に特に多い。また、人間関係が難しくなった理由で、「モラルの低下」 をあげた人は40 代男性に、「人間関係を作る力の低下」をあげた人は、30 代の女性に多く、 「核家族化」をあげた人は女性に多い。 (3)(身の回りで増えたこと) 社会の安全や安心にとって懸念されることで身近で増えたことは何か質問したところ、 「情緒不安定な人、すぐキレル人(怒りっぽい人)」が最も多く4割を越え、「少年少女の 非行・深夜徘徊」や「児童虐待、家庭内暴力」が続いた(図表2−5)。 最近「すぐキレル」人が多いとよく指摘されるが、今回の調査により、それが明確に裏 付けられた。また、深夜、外で過ごす少年少女を以前よりもよく見かけられるようになっ たといえる。児童虐待や家庭内暴力についても、多くの人が身近な問題と感じているとい える。 また、地域でみると、東京都区部の回答者の約半数は、「すぐキレル人が増えた」と感じ ている。年代では、特に30 歳代で多い。

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(4)(帰属場所、手助けしてくれる人・機関) 本年5月に実施したインターネットによる世論調査「安全と安心に関する意識調査」に よると、自分の帰属場所がどこかとの質問では、79.4%が家族と答え、圧倒的に多い回答と なった(図表2−6)。 また、困っているときに手助けしてくれる人や機関はどこかについて質問したところ、 家族が86.1%と圧倒的に多く、ついで友人が 67.8%、親族が 44.6%と多かった(図表2− 7)。 (5)(職場の人間関係) 職場の人間関係について質問したところ、半数近くが「職場がギスギス・人間関係が難 しくなったと感じる」と答え、「そうは感じない」との回答を上回った(図表2−8)。そ の理由としては、「上司の資質に問題がある」との回答が約半数(48.8%)と最も多く、つ いで、「人間関係を作る力が低下している」(41.1%)、「会社の業績が伸びていない」(37.3%) が多かった(図表2−9)。 (6)(人生がいやになった経験) 人生がいやになったことがあるかについて質問したところ、大部分(84.1%)の人はいや になったことがあると答えた。なかでも、「たまにある」との回答が半数を超えた(54.5%) (図表2−10)。いやになった時の気持ちとしては、「将来を見通せない」が43.9%、「な んとなく」が33.1%、「何をやってもうまくいかない」が31.0%となった(図表2−11)。 (7)(日本社会を色に例えると) 日本社会を色に例えると、「灰色」との回答が圧倒的に多く、半数を超えた(53.8%)。つ いで「黄色」(17.4%)、「青」(6.3%)、「赤」(5.6%)、「緑」(2.5%)、その他・不明と続い た。自由回答でも「黒」の回答が多く、日本社会に対しては暗いイメージを抱いていると いえる(図表2−12)。 III.統計でみる現代社会病理 現代社会病理と考えられる現象には多種多様なものが考えられるが、ここでは代表的な ものとして、自殺、ひきこもり、児童虐待、配偶者からの暴力、少年非行、ホームレスを 取り上げ、現状を概観する。 1 自殺 我が国の自殺者数は、1990 年の 21,346 人を底に増加基調をたどっており、特に 1990 年 代後半急増し、昨年(2003 年)は 34,427 人(うち男性 24,963 人、女性 9,464 人)と過去 最高を記録した(図表3−1)。人口10 万人あたりの自殺率も急上昇しており、昨年は 27.0

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と世界最高水準となった(図表3−2)。 自殺の原因・動機別にみると、「健康問題」を理由とした自殺が 44.8%ともっとも多く、 次に「経済・生活問題」(25.8%)、「家庭問題」(8.5%)、「勤務問題」(5.5%)となってい る(図表3−3)。特に、「経済・生活問題」を理由とする自殺者の割合は増加している(1990 年6.0%→2003 年 25.8%)。 なお、遺書のない自殺者が24,040 人と全体の約 7 割(69.8%)を占めており、特に、無 職者、学生・生徒の自殺でその割合が高い。 2 ひきこもり、不登校 保健所及び都道府県精神保健福祉センター等に相談のあった精神保健福祉相談のうち、 ひきこもりに関する相談は14,069 件(2003 年)であった。 ひきこもり状態にある人は、全国約50 万人∼100 万人程度と推計されており、ひきこも りの子を持つ家庭は、控えめにみても約41 万世帯にのぼるとみられている(厚生労働省補 助による研究結果(岡山大学))。 また、不登校児童生徒は1990 年代を通じて増加し、児童生徒数に占める割合も上昇した が、近年高止まりがみられ、2003 年については低下した。児童生徒数に占める不登校児童 生徒の割合(2003 年度)は、小学校 0.33%(24,086 人)、中学校 2.72%(102,126 人)と なっている。この割合は、それぞれ1991 年の 2.4 倍(小学校児童)、2.6 倍(中学校生徒) の水準に達している(図表3−4)。 3 児童虐待 児童相談所における虐待相談の処理件数は23,738 件(2002 年度)と 1997 年以降急増し ており、1990 年(1,101 件)の約 20 倍の水準に達している(図表3−5)。 児童虐待の検挙状況をみると、157 件(2003 年)となっており、被害児童数は 166 名に のぼる(図表3−6)。このうち、殺人、傷害、暴行等で検挙された身体的虐待による被害 児童数は115 名ともっとも多く、次に強姦、強制わいせつ等の性的虐待(被害児童数 32 名)、 長時間の放置、著しい減食等の怠慢又は拒否による虐待(被害児童数19 名)となっている。 また、昨年(2003 年)の児童虐待により死亡した事件の検挙件数は 41 件、死亡児童数 は42 名となっており、過去 5 年間の推移をみると、毎年 40∼60 人前後の児童が虐待によ り死亡している(図表3−6)。昨年についてみると、被害児童の9 割(92.9%)が 6 歳以 下の未就学児童である。加害者は、実母が半数(50.9%)を占め、次いで実父(20.0%)、 実母の内縁の夫(16.4%)となっている(図表3−7)。 4 配偶者からの暴力 配偶者からの暴力に関する相談等の件数は、配偶者暴力防止法が施行された平成13 年以 降顕在化し、配偶者暴力支援センターにおける相談件数は、昨年度(平成 15 年度)43,225 件、

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警察における相談等の件数は、昨年(平成15 年)12,568 件であった。 5 少年非行等 刑法犯少年(刑法等に規定する罪を犯した14 歳以上 20 歳未満の者)は、2001 年から 3 年連続で増加しており、昨年(2003 年)は 144,404 人であった。人口比でみると、同年齢 層人口1000 人あたり 17.5 と過去最高(1982、1983 年)の 18.8 に近づきつつある(図表 3−8)。 刑法犯少年のうち凶悪犯(殺人、強盗、放火及び強姦)の検挙人員は 2,212 人と全体の 1.5%であるが、1990 年以降増加傾向が続いている(図表3−9)。また、2003 年は、殺人 (検挙人員93 人)、強盗(同 1,771 人)、強姦(同 242 人)、放火(同 106 人)いずれの罪 種においても前年より増加している。また、検挙人員に占める再犯者の割合は、刑法犯少 年全体で28.0%、凶悪犯で 57.4%と増加基調にある。 触法少年(刑法)(刑法等に規定する罪に触れる行為をした 14 歳未満の者)の補導人員 は、2003 年 21,539 人で、うち凶悪犯は 212 人(1.0%)であった(図表3−10)。 喫煙、深夜徘徊等の不良行為少年の補導人員は、1990 年代後半以降増加基調にあり、2003 年は約130 万人(1,298,568 人)であった(図表3−11)。 なお、一般には、少年刑法犯の検挙人員の推移によって少年による犯罪に係る状況を判 断するのが通常であるが、検挙人員の推移は、法執行機関の活動の従属変数でもあり、必 ずしも実態を表しているとは限らない点に留意する必要がある6。しかし、成人を含めた犯 罪全体の認知件数が増加していることに鑑みると、少年による犯罪も含め犯罪動向につい ては引き続き注目する必要がある。また、「安全・安心に関する特別世論調査」で、今の日 本が安全・安心でないと考える理由のなかで第二番目に多かったのが「犯罪が多いなど治 安が悪い」であった。この背景には、90 年代に入り、これまでとは質の違う犯罪や、少年 に関係する社会を震撼させるような事件が数多く報道されていることも影響していると考 えられる。 6 ホームレス 全国のホームレスは約2 万 5 千人(25,296 人)おり、大阪府、東京都、愛知県に特に多 く、この3 都府県で全体の 64%を占める((厚生労働省「ホームレスの実態に関する全国調 査」平成15 年 1 月∼2 月調査)。 ホームレスが生活している場所は、都市公園が40.8%、河川が 23.3%、道路が 17.2%な どとなっている。平均年齢は55.9 歳で、50 歳代から 60 歳代が全体の約 4 分の 3 を占める。 直近のホームレスになってからの期間は、1 年未満が 30.7%、1 年以上 3 年未満が 25.6%、 3 年以上 5 年未満が 19.7%となっており、5 年未満が全体の 76%を占めているが、10 年以 6 横山実氏は、実態としての少年非行は、質的には軽微化し、量的には減少しているであろうとしている。

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上という者も6.7%いる。また、ホームレスの 64.7%が仕事をしており、廃品回収が 73.3% を占める。収入は、月 3 万円未満の者が 6 割(60.2%)を占める。なお、結婚していた者 は全体の 53.4%を占めているが、一方、この一年間で家族・親族との連絡が途絶えている 者が77.1%となっている。 IV.現代社会病理の要因 現代社会病理は富裕化・近代化の負の側面といえる。これまでは富裕化や近代化は「進 歩」として捉えられてきたが、現代社会病理はその「進歩」の裏側にある側面といえる。 現代社会病理は、富裕化・近代化により、個々人が伝統的共同体から解放され、家族や地 域コミュニティが崩壊するなか、それらの果たしてきた機能の新たな担い手が存在しない、 あるいは不十分なために生じている問題と捉えられる。また、90 年代の長期景気低迷とグ ローバリゼーションの進展の影響も見逃せない。以下は、有識者からのヒアリングをもと に現代社会病理の要因を整理したものである。 1.富裕化と家族の崩壊と私事化 (富裕化と家族の崩壊と私事化) 日本経済は、戦後の混乱から立ち直った後、高度成長時代を迎えた。1970 年代には二度 の石油危機もあって高度成長時代は終わりを告げたが、その後、欧米先進国に比べると比 較的速やかに立ち直り、1985 年のプラザ合意による急速な円高の進行による影響も乗り越 えた。1980 年代後半からバブルが発生、1990 年代初めにバブルが崩壊すると、長期にわた る景気低迷が続いたが、このところようやく明るさがみられるようになった。この半世紀 あまりの間、国民生活は飛躍的に豊かになった。戦後復興が終わったとされる1955 年と比 べると実質GDPは約10 倍となり、一人あたり GDP は OECD 諸国のなかでも高い水準と なっている。 こうした富裕化の進展は、伝統的に家族が担ってきた機能(家族機能)の外部化をもた らし、家族機能を脆弱化させ、他者への配慮や社会の公益を優先する生き方から自分のニ ーズや価値を優先する生き方へ軸足を移す、私事化(個人主義化)の流れを生み出した。 私事化自体は否定すべきものではないが、それが一部に負の側面として現れたのが社会病 理現象ではないかと考えられる。かつての社会病理は貧困に由来するものであった。その 貧しさから脱却すれば病理現象は解消するかと思われたが、実際には、新たな病理が生ま れている。 人々の豊かさは、家族機能(保護、教育、保健、娯楽など)の外部化を可能にしたが、 そのことにより家族力が低下している。わずらわしいことはお金で買えばよいということ で、家族外に存在するサービスを購入(例えば外食、惣菜の購入など)することで、地域 とのつながりは不要となり、個人や家族単位で生活を自己完結できるような社会になった。

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育児の外部化は共働きを可能にする前提でもある。専業主婦にあっても、家事の外部化に よって家族役割を最小化することにより、捻出された余裕時間は趣味や学習活動等に使う ことにより豊かさのもたらす便利さを享受でき、また家を留守にできるという点で、共働 きとの間で大きな違いはない。こうした家族機能の外部化は富裕化のたまものであり、否 定すべきものではないが、この負の側面が現れると社会病理現象になりうる。ひきこもり も、ある意味では、地域と関わらずに個人単位、家族単位で生活を自己完結できるように なった社会の副産物、極限の姿ではないかとの指摘もある8 また、家族における父親の不在、親の権威喪失、母子密着、育児の役割分担の変化(か つては厳父・慈母という役割分担が機能していたが9、父親、母親による子どもへのしつけ の分担が変化する過程で起こる混乱)などは、子育て能力を低下させているとの指摘もあ る10 (地域コミュニティの崩壊と家族) 家族を取り巻く地域コミュニティが崩壊したことも、家族機能に大きな影響を与えた。 家族における子育てをはじめとする家族機能は、かつては家族単独で遂行されていたわけ ではなく、家族を取り巻く周りのコミュニティの有形、無形の援助を仰ぎながら家族機能 が遂行されていた。すなわち、村全体で子どもを育てるという育児観があり、コミュニテ ィや学校が、家族と同じ価値観を共有して家族を支えていた。近年は、ライフスタイルの 多様化により、学校の教員の価値観、家族の価値観、コミュニティの成員の価値観が分断 され、最終的には核家族だけに子育ての機能が専ら負わされている状況にある。 (「イエ」の価値観から「マイホーム」の価値観へ) 従来「イエ」とは、時間的(先祖の位牌を祀った場所があり、先祖と交流する場所)、空 間的(親密な村落共同体の構成要素)に広がりを有しているものであった。しかし、核家 族化の進展によって1960 年代から広がった「マイホーム」は、その要素を極小化した。か つては、家族を結びつける絆は世代や先祖につながるものであったが、核家族化は、家族 を夫婦の性愛関係と子どもへの愛情で成り立つものへと変質させた。「マイホーム」は、先 祖とのつながりもなく、現存一世代の関係であり、親族や村落共同体との付き合いのわず らわしさから家族の成員を解放した反面、基本的には孤立して存在している。家族がふる さとの中の「イエ」から、家族自体がふるさと、つまり自分達だけの関係になっているこ とが新しい病理の背景にある。 7 畠中氏講演概要参照。 8 畠中氏講演概要参照。 9 かつて、厳しい父親が父性原理 に従って子供を育て、やさしい母親が母性原理に従って子供を育てると いう、父親と母親の役割分担はそれなりに機能していた時代があったが、父が父性、母が母性、として役 割分担を決め付けることは否定されている(参考文献:ESP2004 年9月号座談会)。 10 参考文献:ESP2004 年9月号座談会

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(地域・家族・会社での無縁化の進展) 我が国社会では、急速に無縁化が進み、これが一部悲惨な現代社会病理を生み出してい る。 地縁については、伝統的な地域社会を離れて生活する者が増加し、ベッドタウン化が進 み、世代間のつながりや連帯が失われている。こうした地縁がなくなることで、親戚など との血縁関係も弱くなる。 家族生活においても、親子関係の薄弱化、非婚・離婚の増加が進んでいる。 また、かつては、企業は従業員の福利厚生、終身雇用、年功序列賃金(日本型雇用シス テム)などを通じて一種の「会社共同体」を形成していたが、現在は、リストラの進行、 派遣・契約社員の増加、年俸制など個別の労働契約の増加などにより従業員同士のつなが りが薄くなり、個人主義的な組織になっているところも多い。 こうした地域・家族・会社といった人々を支えてきたつながりが弱まる無縁化が極端に 進行すると、様々なリスクを個人が背負い込む社会になりかねない。リスクが顕在化した 場合、例えば突然お金がなくなったりすると、自殺するか、ホームレスになるか、犯罪を することにもつながりかねない。昨今の自殺率の高さ、ホームレスの増加には、こうした 背景がある。 (地域の崩壊と児童虐待) 子どもへの虐待の急速な増加の背景には、地域コミュニティや家庭の脆弱化がある。以 前の児童虐待は、自分も昔虐待を受けたから今虐待してしまうという病理現象であったが、 最近の「新しい虐待」は、それのみならず、大学などで高度な教育を受けた親でもしてし まうという新しい病理現象となっている。この背景には、他の親との交流がない、いわゆ る「ひきこもり子育て」がある。90 年代にあった「公園デビュー」という言葉は今では死 語となり、「母子カプセル育児」が行われるようになってきているという指摘がある11。か つては、地域の親と交流するのは当たり前であった。公園デビューも、少なくともその親 は子どもの健全な発育のためには必要という考えに基づいて近所の親と交流をしていたこ とを示すものである。しかし、今やインターネットでしか交流しない親も増えており、こ れがまたトラブルの背景になっている。 また、核家族化、家族の空洞化がもたらした母親のみによる子育ては、子どもの発育に とって単純過ぎる環境で、自己決定能力や自己責任感を育てることが難しい。また、変化、 複雑さに弱く、簡単に折れてしまう子どもに育ってしまう可能性がある。 (子どもは授かるものから作るものへ) 11 尾木氏講演概要参照

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以前は、子どもは天からの「授かりもの」という考え方が広くみられたが、今は、子ど もは「作るもの」と考える人も多い。それに伴い、大人の子どもへの愛のかけ方が、「無条 件の愛」から「条件付の愛」へ変化している。すなわち、子どもが親の意に添う場合はサ ポートするが、思いどおりにならないと突き放すという親が見られる。子は親の気に入ら れるよう良い子を演じるが、臨界点を越えると親への暴力につながる。本来、子どもは思 いどおりにならないものだが、子を虐待する親には、コントロール指向が強いとされる。 (家族の「偶有化」) 家族の「偶有化」とは、家族は本来的な関係であるにもかかわらず、家族は「本物」で はなく、何か別に、親子関係以上に「本来の関係」があるという感覚である。オウム事件、 ネット心中、恋人との心中の前に親を殺害した事件などは、1990 年代、更に「マイホーム」 家族が崩壊し、この「偶有化」が進んでいることの現れではないかという指摘もある12 こうした人々にとって「本来の関係」とは、例えば、オウム真理教では教祖と信者間の ヨガの手法を通じた直接的身体的関係である。また、「即レス13」が大事というようなイン ターネットや携帯電話によって、常に相手と「つながっている」感覚である。心中とは、 本来結束の固い家族が行うものであったが、インターネットで呼びかけて応えた相手と自 殺するのが「ネット心中」であり、当人同士はネットでの呼びかけに応えあったことで、 家族以上の「本来の関係」を感じているという。また、ひきこもりは、家族に自分に対す る攻撃的なものを感じ、家族以外の「本来の関係」を求めているが、それが見つからない 人ともいえる。 (孤食(個食)化と人間関係力) 今や一人で朝食を食べる小学生は珍しくない。かつて「孤食(個食)」といえば違う時間 に同じ場所で子どもがご飯を食べることであったが、最近では同じ時間に違う場所で、し かも違うメニューを食べているというケースも多くなっている。中学生の約25%が朝食を 一人で食べ、また、約5%は夕食を一人で食べている(日本体育・学校健康センター「平成 12 年度児童生徒の食生活等実態調査報告書」)。こうした子どもたちのなかには、親と食べ るよりも、自分の部屋で一人で食べる方がおいしく感じるという者もいるという。家族で の食事は、家族が群れることに意味があり、その意義は大きい。群れる機能が失われると、 人間関係力、コミュニケーション力が弱くなる。また、家族とのコミュニケーションが一 番脳を活性化するとの脳科学研究もあり、日常生活での家族との交わりは子どもの脳の発 達にとって非常に大切である。 12 大澤氏講演概要参照 13 すぐに返信する、すなわち即レスポンスのこと。

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(傷つきやすい自分) 昨今の子どもは、大変傷つきやすくなっている。以前であればトラウマにならないよう なことであっても、今の子どもには深いこころの傷となりうる。この背景には、高度成長 期以降、富裕化、私事化の過程で、かつての共同体に埋没したような生き方から解放され たものの、その反面で、極めて傷つきやすい自己の増長という側面を伴っていたと考えら れる。 (情報過多とバーチャル・リアリティ) 情報化社会が進展し、いまや若者は子どもの時からテレビを持ち、テレビによるイメー ジによって育った世代である。自分の手で働きかけることのできる一次的環境と、メディ アが作り出す擬似的環境の境界が不鮮明になり、コンピュータによる仮想現実(バーチャ ル・リアリティ)と現実の境界線が喪失し、現実の社会における行動に影響を与えている のではないか。また、自らが処理できる量を超える情報にさらされることにより、自分が 生きていくパラダイムの構築が困難化しているのではないか。 (宗教テロとカルト宗教) 21 世紀における社会的危険性の最も高いものが宗教的テロリズムといわれる。宗教テロ とカルト宗教とがもっとも危険で奇怪な形で手をむすんだものが、我が国におけるオウム 真理教事件とされる。 最近のカルト宗教ブームは、心の隙間を埋める側面を持つほか、超常的な体験をしたい、 超能力を身に付けたいという欲望が背景にある。また、バーチャル・リアリティに没入し やすい若者は、従来の呪術などにつながるオカルティズムに親しみを感じるほか、家族の 崩壊による家族機能の代替をカルト宗教の教祖などに求めていることが多い。 2.こころの発達 葛藤処理能力が欠落している、欲求不満耐性が弱い子どもの問題は、こころの発達と関 係が深いといわれている。 (こころには発展段階に応じた子育ての必要性) 例えば、吉川武彦の「こころの十文字モデル」では14、こころの発達には順序があり、段 階を飛び越すと、ひきこもりなどの問題を生ずるとしている。具体的には、こころの発達 には、親→小さな子→同年齢の子→教師→下級生→同級生→上司→後輩→同輩・異性の順 で関係を構築していく必要がある(図表4−1)。年長者(親、教師、上司)に対しては、 依存が充足されることによる満足と人に対する信頼を得、年少者(小さな子、下級生、後 輩)に対しては、適度にお世話する必要性を学び、それを通じた自制心を得、年少者から 14 「引きこもり」を考える」参照

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の尊敬や憧れの念を寄せられることで、自制心が人間関係を成り立たせるためには重要で あることを学ぶ。信頼と自制心を得ることで、同一世代(同年齢の子、同級生、同輩・異 性)との関係に進むが、ここでの人間関係においては、他人と争うことを通じて自己・他 者を認識し合い、自分のことがよく分かるようになると、他人のこともよく分かり、助け 合ったり、友情が芽生えたりする。順序だった発育がされない場合は、こころが健全に発 達せず、ひきこもりなどの要因となりうる。 (こころには知・情・意・自分らしさのバランスが必要) また、吉川武彦の「こころの三角錐モデル」15では、こころは「知」「情」「意」「自分ら しさ」の4要素が形作っており、自分らしさを底面とした三角錐に例えることができると している(図表4−2)。知・情・意の3要素のバランスが取れているだけではなく、自分 らしさが十分に広がり、大きな三角錐が立っていることが健全なこころといえる。知のみ 大きいのも安定性にかけ、自分らしさが足りない場合は、他人の言動に左右されやすいな ど、こころは安定しない。 (こころの成長には規律と欲求のバランスが必要) さらに、吉川武彦の「こころの卵モデル」16は、こころを卵に見立て、規範(きまり、約 束)と欲求が、それぞれ、どの程度その卵を占めているか、そして両者の間にどの程度の 葛藤があるかで表現している(図表4−3)。安定したこころでは、こころの中に新しい欲 求を次々に取り込み、それに伴いこころの中に取り入れられた規範との間で、厳しい葛藤 を繰り返しているが、取り入れられる規範が少ないと、欲求が先取りされてしまい、ここ ろの中に欲求が溜まらない。両方とも少ないから、葛藤も起こらず、自分らしさが形成さ れないことになる(欲求先取り型)。一方、こころの中に規範を押し込められすぎてしまう と、こころの中に溜まるはずの欲求が押し出されてしまい、やはり葛藤がない状態になっ てしまう(規範押し込み型)。欲求先取り型は気力のない子となり、規範押し込み型はマニ ュアル人間となり、マニュアル外の事態に遭遇するとパニックとなってしまう。いずれの 型もこころを育てない子育てで、ひきこもりにつながることとなる。 以上のようなこころの発達に関するモデルは、多くの教育論における一つの理論に過ぎ ないが、現代社会病理の要因を考える上で一つの示唆を与えうる。 (情緒の自立と甘え) 戦後社会は自立を重要な価値観と位置づけ、自立と甘え・依存を対立軸として考えてき たが、情緒の自立の対立概念が甘え・依存とは必ずしもいえない。自立指向が誤っている 15 「引きこもり」を考える」参照 16 「引きこもり」を考える」参照

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わけではないが、子どもが成長し、壁に当たって迷っている時には、親が子どもの悩みに 寄り添うなり、親のサポート(=甘え・依存)があってこそ悩みから抜け出られる。悩む 子どもに自分で考えろといっても、子どもは解決するモデルを知らないがゆえ、悩みが増 幅することとなる。自立と甘えのせめぎあいの中で、親子関係のトラブルの多くは生じて いるといえる。 (内的抑止力の低下) 地域コミュニティや家族の崩壊といった外的抑止力が低下しているとともに、大人も子 どもも衝動や欲望を抑える内的抑止力が非常に低下している。自分の衝動をストレートに 行動化してしまうことが、「すぐキレル」現象などを生み出している面がある。こうした内 的抑止力の低下の背景には、欲望を抑える歯止めとなるような内面化された規範が失われ、 いわば社会が無規範状態にあることがあるからではないかという見方もある。 3.経済面の影響 (グローバリゼーションの進展) グローバリゼーションの進展のなか、日本の経済社会は世界規模での競争にさらされて いる。また、企業では成果主義の導入が広まり、成果目標の設定によって従業員のインセ ンティブを引き出そうとするシステムが普及しつつある。一方、従業員にとっては、不満 やストレスを強く感じるようになり、人員削減とあいまって、自分の能力への不安、自分 の将来への不安が高まり、うつ病などのこころの病の要因となっている。 (1990 年代の長期低迷と現代社会病理) 90 年代の日本経済の長期の低迷と自殺、犯罪数などの相関は必ずしも明確ではないが、 不況によって倒産や失業が増え、将来像が描けなくなる、あるいはそれまでの生活が維持 できなくなることなどから、ホームレスや自殺などの社会病理のリスクが高まったといえ る。しかし、この90 年代の長期低迷だけで少年非行、ひきこもり、学級崩壊などの最近の 社会病理を説明することはできず、何か別の要因があると考えざるをえない。 (勉強へのモチベーションがない社会) 学力の国際比較をすると、日本は特に低くはないが、家で1時間も勉強しない中学生が 約半数いる17など、日本の一部の子どもたちの学習意欲は高くなく、勉強に希望をもててい ない。これは、高度成長期のような、勉強し、よい学歴を手に入れ、よい会社に入って幸 せになるという出世モデルが崩壊していることと深い関係があり、多くの子どもたちにと って学習へのモチベーションが今は見当たらない状況と考えられる。 17 文部科学省「学校教育に関する意識調査」 (平成 15 年 9 月)

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学力をつけるためには、学校行事などにおける生徒による自己実現の場を設け、勉強の 苦手な子でも達成感、向上心を感じるような場を作っていくことも重要である。 4.補論 (諸行無常と近代的自我の相克) 養老孟司によれば18、一般に、情報は日々刻々変化しつづけ、それを受け止める人間の方 は変化しないと思われがちである。しかし、実は情報それ自体は変化せず、新しいものが 積み重なっているのであり、人間の方は、寝ている間も含めて日々成長なり老化し、変化 し続けている。1年の間で体を作る物質の9割は入れ替わるが、自分が変わっていないよ うにみえるのは、システムの安定性によるためである。人の方が変わることを、昔の人は 「諸行無常」(あらゆるものは常に変化し続け、常時不変のものはない)と呼び、理解して いた。万物は流転するが、情報だけは変わらないというのが、日本の中世的な世界観であ った。現代人は、自分は10 年前も同じ自分であると思っているが、自分が変わらないと思 うにようになったのは、明治時代以降に「近代的自我」という概念が欧米から入ってきて からである。近代的自我は生まれてから死ぬまで変わらないというものであり、聖書にあ る最後の審判の考えと深い関係がある。諸行無常は、多くの日本人の伝統的な物の考え方 の土台のなかに無意識に、暗黙のうちにあるものであり、新たに入ってきた近代的自我と うまくなじんでいないところに、社会の問題がある。 過去の社会は人が変わることを前提にしていた。「昨日の自分は今日の自分と違うので、 昨日借りた金は返さない」ということでは社会がなりたたない。そこで、約束という社会 契約が発達した。人間は変わることが前提であったので「武士の一言」にも重い意味があ った。現代は、自分は変わらないと考えているので、約束を守るといった社会全体の倫理 規範が崩れだしているのではないか。 また、都市は意識、田舎は無意識といえ19、人間の脳にとっては田舎と都会をともに経験 することが重要である。国家事業として、1年に1回は田舎に行き、休むのではなく農作 業をすることで、自然の営みを肌で感じ、頭の中をリフレッシュする、いわば現代の「参 勤交代」的な仕組みが必要なのではないか。 (無痛化社会) 森岡正博によれば20、無痛社会とは、人生で必ず出会う苦しみやつらさから逃れていく、 あるいは目をそむけていく仕組みが社会全体に張り巡らされている社会であり、現在の日 18 養老氏講演概要、養老氏の著書「バカの壁」「いちばん大事なこと」参照 19 少し詳しくいえば、都市に住んでいるということは、意識の世界の世界に住んでいることであり、意識 の世界に完全に浸りきってしまうことによって無意識を忘れてしまっている。また、一日の三分の一を占 める睡眠時間も無意識の時間であるが、存在していない時間として扱われ、それが起きている時間をおか しくさせている。無意識の重要性を認識することが重要。 20 森岡氏講演概要、森岡氏の著書「無痛文明論」参照

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本や先進国社会は、無痛化に進んでいるという。例えば、出生前診断により生まれ出る子 に障害があるかどうかを調べ、障害のある確率が高いと中絶することはもちろん、河川氾 濫の予防、病気の予防、なかなか死なないことも、ある点を越えると無痛文明といえる。 人間が生きて行くなかで経験する様々な苦難を退け、目の前の快楽を求め続けるのではな く、人生における「痛み」や「苦しみ」に向き合い、悩み、考え、行動し、この過程にお いて人間の生に対する喜びを感じるようになることこそ本来あるべき人間の姿なのでない か。ローマ帝国の貴族の酒池肉林のような社会病理が、現代は貴族のみならず大衆化され てきている。無痛化が今日の我が国における現代社会病理の大きな根源になっているので はないか。リストカットなどの自傷行為の原因は、痛みが失われていく社会へ対抗するた め、痛みを自分で与えていることにある。痛みを感じることで生きている実感を取り戻そ うとしていると考えられる。 V.政策への含意 ここでは、今回の講演で述べられた現代社会病理に関する政策的含意の一例を紹介する。 なお、その一部は、すでに、「犯罪に強い社会の実現のための行動計画」(犯罪対策閣僚 会議、平成15年)に取り入れられているものもあるなど、対策は進み始めている。 1.地域コミュニティやNPOなど新たな「つながり」の促進 現代社会病理への対策としては、失われた地域の機能を新たな形で再生することが必要 であり、そのためには多面的な対応が必要である。ここでは、特に、その一例として犯罪 防止を通じた地域コミュニティの役割の強化についてとりあげる。なお、犯罪対策は国民 生活の安全・安心に関わる非常に重要な問題であり、多岐にわたる対策が必要であること はいうまでもない。 (犯罪原因論から犯罪機会論へ) 日本では、犯罪が増加傾向にあるのに対し、欧米では減少傾向にある。日本では、犯罪 には原因があり、その原因を突き止め取り除くことで社会が安全になるという犯罪原因論 がいまだに主流である。一方、犯罪が減少しないことから、犯罪の原因は特定できず、何 が原因で犯罪をするかは判別不能であるとの認識のもと、80 年代以降、欧米では犯罪原因 論から、犯罪を実行できる機会がなければ犯罪は起きないという犯罪機会論の立場に変わ り、人格の矯正といった処遇から、犯罪を予防するという立場をとっている。犯罪対策に 強い要素として、「抵抗性」「領域性」「監視性」があり、それぞれハード面、ソフト面を組 み合わせた対策が必要である。(図表5−1) 「抵抗性」のハード面は「恒常性」、不変であることである。例えばドアの鍵を2つにす る、車のハンドルロック、防犯ステッカーなどである。ソフト面は「管理意識」で、例え ば防犯意識や、ドアを開け放しにしないことなどである。 「領域性」のハード面は「区画性」で、生活地域がきちんと区切られていることで、道 路のハンプ(コブ)で幹線道路から生活道路に入りにくくすることや、移動式障害物の活

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用などである。「くらしのみちゾーン」の防犯への活用や、子どもが遊べる道づくりなども 該当しよう。ソフト面は自分達の地域を守るというよい意味での「縄張り意識」で、「区画 性」を高めても、住民の「縄張り意識」が低いと犯罪者は警戒心なくその地域に入ってく る。 「監視性」のハード面は「無死角性」で、死角がない、見通しのきかない場所がないこ とであり、ソフト面は「当事者意識」である。監視カメラは「無死角性」にあたるが、カ メラ導入により「当事者意識」がなくなると、逆効果を生む。 また、地域の犯罪防止として、地域と連携した「地域安全マップ」を学校で作ることは 効果的と考えられる。児童生徒によるマップ作りは、児童生徒の被害防止能力の向上、コ ミュニケーション能力の向上、地域への関心・愛着心の向上につながる。また、危険な場 所には行かないか、行っても注意するようになる。 (割れ窓理論) 「小さな犯罪こそが大きな犯罪を引き起こす引き金となる。小さな犯罪を見逃さないこ とが、大きな犯罪を防ぐためには必要である」という理論である。街で窓ガラスが一枚割 れたビルがあったとき、これを放置しておくと、小さな「悪い行為」に対する罪悪感が薄 れやすくなり、軽犯罪が多発し、治安が悪くなる。さらにこの状態が進めば、誰にもとが められないという認識から、犯罪がエスカレートするとともに、そうした凶悪犯が寄り付 きやすくなる、というものである。一方、割れた窓ガラスを直ちにきれいに直しておくと、 このようなスパイラルは起こらない。米国ニューヨーク市は、「寛容しない」(Zero Tolerance)姿勢のもと、街の落書きを消すなど街の概観を良くし、また、軽犯罪の取締り を強化したが、こうした取組によって安全な街として生まれ変わった21 (事件の予防) 思春期の早発化もあって、かつてなかったような少年による犯罪が生じるなど、少年非 行の質が変わってきている。また、子どもは地域や集団の中でしか育たないが、その地域 コミュニティの崩壊によって、犯罪が生まれやすくなっている。以前は、普通ではない行 動をしていれば、周囲が気をつけたり、注視したが、今や注意すると親などに怒られたり、 本人が「逆ギレ」すると怖いので、放っておく傾向が強まっている。事件が悪化するのを 防ぐため、地域と学校と家庭、警察とが協力して対応する体制にする必要がある。また、 動物虐待、異常ないじめ、暴力など思春期におこりがちな異常な攻撃的行動に対しては、 21 割れ窓理論とゼロ・トレランスは同じではない。両者とも秩序違反行為が犯罪を誘発するという問題意 識は共有するものの、後者は基本的には、「検挙」のスタイルに基づく「対症療法」であり、前者は犯罪に 強い要素としての縄張意識と当事者意識を高めようとするもので、「予防」のスタイルに基づく「体質改善 療法」としての色彩が強い(参考文献:小宮信夫「犯罪機会論による犯罪防止−防犯環境設計と割れ窓理 論−(下)」『警察公論』59 巻 7 号、2004 年)。

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前兆をつかみ、男性ホルモン拮抗剤等の使用する薬物治療も含め対応することである程度

予防できるとの指摘もある22

(NEET対策)

仕事にも就こうとせず、進学せず、専門的な技能を身につけようと職業訓練を受けてい るわけでもない若者「ニート(NEET; Not in Education, Employment, or Training)」は、 25 歳未満に限っても 2003 年で 40 万人おり、1997 年の5倍となっている(図表5−2)。 NEETは就職活動もしないので、失業者にもカウントされない。現状のほとんどの就業 支援策から事実上排除される若者に対して、いかなる対策が有効なのだろうか。兵庫県と 富山県の14 歳(中学2年生)の就業体験事業を実施したところ、経験した本人による体験 への圧倒的な肯定的評価がみられた。さらに、不登校の生徒の就業体験後の登校率が上昇 するなどの成果があった。1990 年代以降、趨勢的増加に歯止めをかけることができず、97 年度以降、年間10 万人を超え続ける不登校の中学生徒に対し、明確な処方策がないなかで、 部分的ではあるにせよ、居場所を探す、やり直しのきっかけとしての、一つの光明を与え る14 歳の就業体験事業の意義は小さくない。 2.家族への支援 (子育ての課題) 子どもには年齢に応じた発達課題があり、時期を逃すと取り返しがつかないというのが 専門家の見方である。乳児には甘えさせ、幼児にはしつけ、少年には教え、思春期には考 えさせる必要がある。0∼2歳児と、3歳以上では発達課題が異なる。0∼2歳児には愛 情を注ぐアタッチメントが必要で、決まった人(通常は親)との安定した関係が必須であ る。乳児は甘えることで情愛が刷り込まれる。一方、3歳以上では、集団行動になじませ ることが重要である。23 また、年の離れた子どもと遊ぶ機会も重要である。現在、子どものタテの関係が希薄化 しており、異年齢保育の推進が重要である。また、この点で地域コミュニティの役割は大 きい。 大人の自己実現との両立も重要な課題である。例えば、子どもには特定の人による保育 が必要にもかかわらず、現在の保育所は、複数の交替勤務、少ない保育士で効率的に多く の子どもをみるなど、大人の立場を反映している面がある。大人の自己実現を支援する命 題と子どもにとっての安定した保育者を確保するという命題とを同時に充足するシステム 22 小田晋氏講演概要参照 23 なお、三歳までは母親が家で育児すべきという、いわゆる三歳児神話については賛否両論があるが、平 成 10 年厚生白書においては「少なくとも合理的な根拠は認められない」とされている。また、母子の過度 の密着が望ましくないのは言うまでもない。

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は何かということについて検討していく必要がある。 (子育て支援の考え方) 崩壊した家族においては、子どもたちにとって家族は風景、あるいは単なるモノに過ぎ ない存在になってしまっている。家族で団欒することもなく、同じ家族でありながら、お 互いに働きかけがない。そうした家庭で育てられた子どもが将来子育てをすることを考え ると、後世代にわたっても今日の影響が持続する。 家族は本来やすらぎをも与える場である。競争激化社会のなか、大人も子どもも緊張が 高まっており、家族はやすらぎの場であることが一層求められているにもかかわらず、米 国と比べ日本では結婚生活を幸せと感じない夫婦も多く24、やすらぎの場となっていない家 庭も少なくない。 また、子どもは家族が育てるよりは専門家に預けた方がいいというものではない。子ど もと子どもにとっての自分だけの特定の大人である親という存在、あるいは子どもに最後 まで責任を持ち子どものニーズをうまく受け止められる親機能を持った人が必要である。 これまでの子育て支援は、子どもときちんと付き合える親になることを支援しているより も、結果的に子どもから離れて今よりももっと働くことを支援しているようにみえてしま うという批判もある。 家族機能が低下するなか、親の役割の実行力も低下している。子どもができれば、父親、 母親と呼ばれることになるが、そのことが親の役割を保証するものではない。親が親とし て親の役割を果たすことのできるよう、家族を支援する必要がある。 3.全ての政策立案において「安全・安心」という視点を確保 全ての政策立案において「安全・安心」という視点を確保することが重要であり、以下、 一例を紹介する。 (小学生のチャットやインターネットの危険性) 本作業をしているさなかに、12 歳の少女が 11 歳の同級生にカッターナイフで切られ、殺 される痛ましい事件が発生した。事件の背景などの詳細については不明ではあるが、報道 によればホームページへの書き込みをめぐるトラブルが原因とされている。今回の事件に 限らず、最近の不登校の要因にはチャットによるトラブルが多いとされる。小学生のチャ ットやホームページ作成については、「時速200 キロか 300 キロのスポーツカーを買い与え て「遊んでおいで」と言って放り出すのと同じぐらい、危険極まりない」との指摘もある25 インターネットは対面性がないにもかかわらず、個人間ではある意味非常に「直接的な」 コミュニケーション手段になりうる。また、私的な内容を中心とする個人のホームページ 24

Japan General Social Survey (2002)

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は自分の内側を、いわば自分の個室を公開しているようなものという指摘もある26。ネット 上では、自分の本音や本心、内面が表に出やすいため、お互いに根拠のない親密さを感じ たりすることもある。また、ネットを通じた内面への攻撃は直接的なため、受けるほうは 非常に脆弱になる。 さらに、匿名性の高いチャットなどで用いられている用語には、通常の会話では使わな いような問題のある用語も多い。子どもたちが、そうした用語を覚え、チャット等で使う ことは、トラブルをもたらすだけではない。言語は人格の発達にも大きな影響を及ぼすた め、人格形成に悪影響がでる可能性がある。こうした言語には十分に警戒する必要がある。 ネットによる問題はインターネット普及推進による落とし穴とも言え、ネットに関する モラル教育を進めるとともに、小学生によるチャットの影響を調査するなど、何らかの対 策が求められているのではないか。 (性や暴力をめぐる環境) 性にかかわる非行や犯罪が多発しているが、性や暴力をめぐる子どもの環境に問題があ るとの指摘がある27。ポルノ雑誌やネット、メディアなどへの子どものアクセスは、諸外国 と比べて日本は容易である。こうした有害社会環境への対策に取り組んでいる自治体も多 いが、十分とはいえず、更なる取組が必要と考えられる。また、週刊誌の新聞広告や電車 の吊り広告等も、子どもに配慮したものにすべきではないか。さらに、性的規範を子ども に教え込む必要がある。 (学校と地域連携) 最近、いじめの発生件数が変動はあるものの全体としては減少傾向にある28が、これは学 校・保護者・地域の活動も寄与しているものと考えられる。学校運営や地域活動に子ども たちも参画させることにより、自己肯定感や自己責任感の芽生え、さらには行政、大人た ちへの信頼をも回復させることも考えられる29 VI.まとめ (社会の進むべき方向)30 個人と個人、集団と集団の関係の長期的な推移は、図表6−1のように図示できる。図 中左上が伝統的な日本社会で、社会や集団の構成員が同じような価値観を持ち、地縁型組 26 大澤真幸氏講演概要参照 27 尾木直樹氏・小田晋氏講演概要参照 28 文部科学省「問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査」。なお、平成 15 年度のいじめの発生件数(小 学校・中学校・高等学校の合計)は 23,351 件と前年の 22,205 件から増加した。 29 前述の「地域安全マップ」づくりもこの観点で有効である。 30 この稿は「規範意識、つながりと現代社会病理」 (仮題、江川暁夫、2004 年、近日公表予定)による。

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織や家族をベースとした明示的あるいは暗黙のルールや制度などのシステムが構築され、 それらを基盤として、支え合い、また、システムからこぼれ落ちる者がないよう、そうし た集団単位で必要な協力をすることが当然とされた社会である。時代が進み、地縁や家族 のつながりが弱まっていくと、左下では、同質的社会から排除されたものが出てくるが、 彼らにはセイフティ・ネットなど公的な救済策がとられる、政策によってかろうじて排除 されない社会である。さらに、グローバリゼーションや更なる都市化の進行、そしてそれ に伴うライフスタイル、ライフコースの多様化が進むと右下に移行する。地域や地縁をベ ースにした集団形成に代わって目的別・テーマ別の集団が形成される。このため、それぞ れの集団間では価値観が異なり、排除されるおそれのある集団も多様化し、これまでの対 策では対応できない集団も現れる。強い力の集団と弱い力の集団が生じ、強い力の集団に よって制度設計がなされる結果、制度不信や、制度の対象にならない集団が発生する。現 在は、この右下の方向に進んでいると考えられる。地縁血縁による同質社会や、多様性と いう傾向は容易には変わらないとすると、いかに右上の、多様性がありながら社会におけ る他人とのかかわりの強い社会を目指すかが、今後の課題となろう。 以上、現代社会病理についてまとめれば、現代社会病理は富裕化・近代化の負の側面と いえる。近代化、個人主義化をこれまでは進歩と捉え、地域コミュニティや家族の意義に ついては、あまり重要視されてこなかった面があるが、現代社会病理の背景には、地域コ ミュニティや、家族の問題があったことが明らかになった。 富裕化は、個人単位あるいは家族単位で生活を自己完結させることを可能にした。この ことは、逆に人と人が助け合って生活をしていくということを困難にし、その結果、現代 社会病理が生じている。 また、富裕化に伴い、大人の自己実現を優先する指向が強まった。子どもの成長にとっ て、愛情を持って手間暇をかけることの意味は大きい。また子どもからみれば、愛情が注 がれていることを確認し、大人との信頼関係を獲得していくプロセスといえる。しかし、 現実の社会では、大人の自己実現を優先する傾向のなかで、こうした点が軽視されかねな いところに問題が生じている。 時計の針を戻すことができないように、富裕化・近代化の流れを逆にし、昔に戻ること はありえない。こうしたなかで、現代は、家族や地域コミュニティの果たしてきた機能の 新たな担い手を模索している段階といえるのではないだろうか。急速に変化する社会に生 身の人間一人ひとりがうまく適応していない部分が、現代社会病理を生んでいるといえる。 現代社会病理の解決に際しては、人々の関係性、信頼、互助性、帰属意識や連帯感の醸 成、あるいは適切な子育てなどが重要な要素である。これらを実現するための方策はいま だ明確ではないが、今後とも検討していく必要がある。

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参考文献 「家族支援論 なぜ家族は支援を必要とするのか」(畠中宗一、世界思想社、2003 年) 「現代のエスプリ 抵抗体としての家族」(畠中宗一編、至文堂、2004 年) 「「引きこもり」を考える」(吉川武彦、NHKブックス、2001 年) 「子どもの危機をどう見るか」(尾木直樹、岩波新書、2000 年) 「少年と犯罪」(小田晋、青土社、2002 年) 「宗教と犯罪」(小田晋、青土社、2002 年) 「バカの壁」(養老孟司、新潮新書、2003 年) 「いちばん大事なこと」(養老孟司、集英社新書、2003 年) 「規範意識、つながりと現代社会病理」(仮題、江川暁夫、2004 年、近日公表予定) ESRI Discussion Paper Series No.100「若年就業対策としての「14 歳の就業体験」支援」 (2004 年4月、玄田有史・岡田大作) 「ESP9月号」(経済企画協会、2004 年9月) 「日本人の価値観・世界ランキング」(高橋徹、中公新書ラクレ、2003 年) 「ニート フリーターでもなく失業者でもなく」(玄田有史・曲沼美恵、幻冬社、2004 年) 「無痛文明論」(森岡正博、トランスビュー、2003 年) 「割れ窓理論による犯罪防止―コミュニティの安全をどう確保するか」(G.L.ケリング、 C.M.コールズ、小宮信夫監訳、文化書房博文社、2004 年) 國學院法学第38 巻第 4 号「日本における少年非行の動向と厳罰化傾向」(横山実、2000 年 度)

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安全・安心な社会を目指して

―現代社会病理の背景に関する

有識者ヒアリングとりまとめ−

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図表1 各社会病理現象の増加状況(1990年=100)

50 100 150 200 250 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 100 600 1100 1600 2100 自殺死亡率 不登校児(小・中学校)割合 不良行為少年 補導人員 触法少年に占める凶 悪犯の構成比 刑法犯少年に占める凶悪 犯の構成比 触法少年 人口比 刑法犯少年 人口比 児童虐待 相談処理件数(右目盛)

図表1−1 各社会病理現象の増加状況(1990 年=100)

(25)

図表2−1 今の日本は安全・安心な国か

平成 16 年 6 月 ・そう思う 39.1% ・そう思わない 55.9% 出所:内閣府「安全・安心に関する特別世論調査」(2004 年6月) 注:平成 16 年 6 月実施,全国 20 歳以上の者 3,000 人(有効回収数 2,136 人,回収率 71.2%)

図表2−2 安全・安心でない理由(複数回答、上位4項目)

(「そう思わない」と答えた者(1,196人))(複数回答,上位4項目) 平成 16 年 6 月 ・少年非行、ひきこもり、自殺など社会問題が多発している 65.8% ・犯罪が多いなど治安が悪い 64.0% ・雇用や年金など経済的な見通しが立てにくい 55.6% ・国際政治情勢、テロ行為などで平和がおびやかされている 51.4% 出所:内閣府「安全・安心に関する特別世論調査」(2004 年6月) 注:平成 16 年 6 月実施,全国 20 歳以上の者 3,000 人(有効回収数 2,136 人,回収率 71.2%) わからない 1.4% そう思わない 55.9% そう思う 39.1% どちらともいえな い 3.6%

(26)

図表2−3 一般的な人間関係について

・難しくなったと感じる 63.9% ・難しくなったとは感じない 28.8% 出所:内閣府「安全・安心に関する特別世論調査」(2004 年6月) 注:平成 16 年 6 月実施,全国 20 歳以上の者 3,000 人(有効回収数 2,136 人,回収率 71.2%)

図表2−4 人間関係が難しくなった原因

(「難しくなったと感じる」と答えた者(1,364人))(複数回答,上位5項目) 平成 16 年 6 月 ・人々のモラルの低下 55.6% ・地域のつながりの希薄化 54.3% ・人間関係を作る力の低下 44.5% ・核家族化 41.8% ・ビデオ、テレビゲームなどの普及 38.8% 出所:内閣府「安全・安心に関する特別世論調査」(2004 年6月) 注:平成 16 年 6 月実施,全国 20 歳以上の者 3,000 人(有効回収数 2,136 人,回収率 71.2%) 難しくなったと感 じる 63.9% わからない 2.4% どちらともいえな い 4.9% 難しくなったとは 感じない 28.8%

(27)

図表2−5 身の回りで増えたこと(複数回答、上位3項目)

社会の安全や安心にとって懸念されることで、最近、あなたの身近で以前に比べて増えたと感じるも のは何か ・情緒不安定な人、すぐキレル人(怒りっぽい人) 41.0% ・少年少女の非行・深夜徘徊 32.5% ・児童虐待、家庭内暴力 26.1% 出所:内閣府「安全・安心に関する特別世論調査」(2004 年6月) 注:平成 16 年 6 月実施,全国 20 歳以上の者 3,000 人(有効回収数 2,136 人,回収率 71.2%)

(28)

図表2−6 全体 会社員 公務員等 自営業 専業主婦 学生 その他 家族 79.4 77.7 83.5 76.7 89.7 71.3 69.3 趣味のサークル 16.6 15.5 17.3 16.4 17.6 22.0 15.5 職場 10.5 14.4 23.4 11.1 1.4 6.7 8.0 あなたは、自分の帰属場所(心を寄せられる場所)があるとお感じになっていらっしゃ いますか。あなたのお感じになる場所をいくつでもお選びください(いくつでも)。

★「

家族」との回答が8割(

79.4%)

に達した。また、年代が上がること

に回答が高まっている。

★特に専業主婦では「

家族」

は9割(

89.7%)

もの回答であった。公務

員では「

職場」

との回答が23.4%と比較的多かった。

自分の帰属場所

6.0 7.5 1.5 2.7 3.0 5.2 7.9 10.5 16.6 79.4

0

20

40

60

80

100

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