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ステンレス鋼旋削加工用材種AC6030M/AC6040M AC6030M/AC6040M for Stainless Steel Turning

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Academic year: 2021

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産業素材

近年、環境への負荷が低く、かつリサイクル性に優れた材料であるステンレス鋼の需要量が増加している。しかし、ステンレス鋼は高 能率・安定加工が困難なことから「難削材」の一つに分類される。当社はステンレス鋼加工における様々な課題を解決するため、新

CVD コーティング技術「Absotech Platinum®」を適用した「AC6030M」、新PVDコーティング技術「Absotech Bronze®」を適用し

た「AC6040M」と粗加工用ブレーカ「EM型」を開発した。「AC6030M」は高い耐摩耗性と耐チッピング性を有する一般加工用材種で、 「AC6040M」は優れた耐欠損性を有する断続加工用材種である。新しい材種と新ブレーカにより、幅広いステンレス鋼加工ユーザー

の要求を満たすことができ、加工コスト削減を可能とした。

In recent years, a demand has increased for stainless steel having good recyclability and low environment load. However, due to its property of being difficult to attain stable processing with high efficiency, stainless steel is classified as one of the “difficult-to-cut materials.” In order to resolve problems of stainless steel turning, Sumitomo Electric Hardmetal Corporation has developed new coated carbide materials “AC6030M” incorporated with new Chemical Vapor Deposition (CVD) coating technology “Absotech Platinum®” and “AC6040M” incorporated with new Physical Vapor Deposition (PVD) coating technology “Absotech Bronze®,” along with new chip breaker “EM type.” Having high wear- and chipping-resistance, the AC6030M is a material for general processing. Having excellent fracture chipping-resistance, the AC6040M is a material for intermittent rough machining. These new materials and chip breaker can satisfy customer demands for cost reduction and higher productivity of stainless steel turning.

キーワード:旋削、コーテッド超硬、CVD、PVD、ステンレス鋼

ステンレス鋼旋削加工用材種

AC6030M/AC6040M

AC6030M/AC6040M for Stainless Steel Turning

竹下 寛紀

子吉 雄太

松田 直樹

Hiroki Takeshita Yuuta Koyoshi Naoki Matsuda

奥野 晋

広瀬 和弘

福井 治世

Susumu Okuno Kazuhiro Hirose Haruyo Fukui

1. 緒  言

切削工具に用いられる刃先交換型チップ材種で、超硬合金 母材表面に硬質セラミックコーティングを被覆した材種(以 下、コーティング材種と呼ぶ)は、他の工具材種と比較して 耐摩耗性と耐欠損性のバランスに優れることから、年々その 使用比率が高まっており、現在では刃先交換型チップ材種全 体の70%を占めている(図1)。 コーティング材種を用いて切削加工される被削材には、炭 素鋼、合金鋼、ステンレス鋼、鋳鉄等、様々な鉄鋼材料があ る。その中でもステンレス鋼は昨今の地球環境保護や省資源 の声が高まっている状況下で、耐食性に優れることから表面 への溶剤塗装が不要で環境への負荷が低く、かつリサイクル 性に優れ、環境ニーズに適合した材料であるため、その需要 量は年々増加している(図2)。 㻜㻚㻜 㻡㻚㻜 㻝㻜㻚㻜 㻝㻡㻚㻜 㻞㻜㻚㻜 㻞㻡㻚㻜 㻟㻜㻚㻜 㻜㻑 㻝㻜㻑 㻞㻜㻑 㻟㻜㻑 㻠㻜㻑 㻡㻜㻑 㻢㻜㻑 㻣㻜㻑 㻤㻜㻑 㻥㻜㻑 㻝㻜㻜㻑 㻓㻥 㻞 㻓㻥 㻟 㻓㻥 㻠 㻓㻥 㻡 㻓㻥 㻢 㻓㻥 㻣 㻓㻥 㻤 㻓㻥 㻥 㻓㻜 㻜 㻓㻜 㻝 㻓㻜 㻞 㻓㻜 㻟 㻓㻜 㻠 㻓㻜 㻡 㻓㻜 㻢 㻓㻜 㻣 㻓㻜 㻤 㻓㻜 㻥 㻓㻝 㻜 㻓㻝 㻝 㻓㻝 㻞 㻓㻝 㻟 㻔ⓒ୓ಶ㻛᭶㻕 䝁䞊䝔䜱䞁䜾 㼃㻯⣔ 䝃䞊䝯䝑䝖 䝉䝷䝭䝑䜽 ྜィฟⲴಶᩘ 䠄ᖺ䠅 0 500 1000 1500 2000 2500 3000 3500 4000 01ᖺ 04ᖺ 07ᖺ 10ᖺ 11ᖺ 12ᖺ 13ᖺ [㽢 10,000t ] 図1 刃先交換型チップの材種別出荷割合と国内出荷個数(1) 図2 世界のステンレス粗鋼の生産量の推移(2)

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しかしながら、ステンレス鋼は切削加工する際に、(1)加 工面が硬化しやすいため工具の刃先が欠けやすい、(2)熱伝 導性が低いため切削熱が逃げにくく、工具の刃先が高温とな り塑性変形が起きやすい、(3)切削工具材種との親和性が高 いため刃先に凝着しやすい、などの問題が生じることから 「難削材」の一つに分類され、高能率・安定加工が困難であ ることが課題となっていた。 このほど当社はこうした課題を解決するため、新CVD※1 コーティング技術「Absotech Platinum」を適用した旋削 用CVD材 種「AC6030M」、 新PVD※2コ ー テ ィ ン グ 技 術 「Absotech Bronze」を適用した旋削用PVD材種「AC6040M」 と粗加工用ブレーカ「EM型」を開発した。以降にその開発経 緯、および性能に関して述べる。

2. ステンレス鋼の種類と市場の傾向

2−1 ステンレス鋼の種類 ステンレス鋼とは10.5 %以上のクロムを含有した鋼のこ とをいい、一般鋼と比較して極めて耐食性に優れる材料であ る。ステンレス鋼は、クロム、ニッケル、その他の金属元素 添加量や金属組織によって主に5つに分類される(表1)。 このうち、主要なものはオーステナイト系であり、ステン レス鋼材料の約60 %を占め、耐食性以外にも耐久性、耐熱 性や強度が高いことから、建築材、自動車部品、化学工業、 食品工業、原子力発電、化学プラント、工業設備、水道管な ど、ありとあらゆる分野に用いられている材料である。 2−2 ステンレス鋼加工ユーザーの動向 近年のステンレス鋼加工のユーザーは地域により被削材や 加工条件、使用工具の傾向が異なる。 日本国内や欧米諸国のユーザーではオーステナイト系ステ ンレス鋼の比率は依然高いが、二相系や析出硬化系などの被 削性の悪い材料の加工が近年増加傾向にある。また、船舶用 のシャフトやポンプなど大型の被削材が多いことから、耐摩 耗性に優れ、汎用性の高いCVD材種の使用比率が高い。 それに対し、中国を代表とする新興国のステンレス鋼加工 ユーザーでは、被削材のほとんどがオーステナイト系で、少 量多品種の量産部品(バルブやナットなど)の加工が多い。 また、剛性の低い設備による能率重視の加工であることに加 え、被削材のバラツキ(組織、硬度、表面粗さなど)が大き いことによる不安定な加工や断続加工の割合が高く、チップ の欠損が発生しやすいため、耐欠損性に優れるPVD材種の 使用比率が高い傾向にある。 新ステンレス鋼旋削加工用材種「AC6030M」、「AC6040M」 と新粗加工用ブレーカ「EM型」の開発はこれらの市場の特徴 や動向を踏まえ開発方針と目標性能を決定した。

3. AC6030M/AC6040Mの開発

当社のステンレス鋼旋削用コーティング材種のライン ナップを図3に示す。ステンレス鋼加工の高速・連続加 工から低速・断続加工までの全ての領域を「AC610M」、 「AC6030M」、「AC6040M」の3材種でカバーしている。 「AC610M」は、高速・連続加工において耐摩耗性に優れる CVD材種であり、「AC6030M」は、3材種のラインナップ の中心に位置し、中速度領域の連続から断続加工と幅広い領 域をカバーする汎用CVD材種である。「AC6040M」は、強 度が高く衝撃に強いPVD材種である。 3−1 AC6030Mの開発目標 AC6030Mの開発目標を明確にするため、既存製品であ るCVD材種AC630M(3)のユーザーにおける使用済みチップ の損傷解析を行った。その結果、AC630Mは耐摩耗性に優 れているが、刃先のチッピングなどにより工具寿命の安定性 (信頼性)が低い場合があることが明らかとなった。 この結果により、AC6030Mの重要課題をチッピングの 表1 ステンレス鋼の種類と特徴 ௦⾲㗰✀ ୺せᡂศ ୺䛺≉ᚩ ⏝㏵౛ 㻿㼁㻿㻟㻜㻠 㻝㻤㻑㻯㼞㻙㻤㻑㻺㼕 㻿㼁㻿㻟㻝㻢 㻝㻤㻑㻯㼞㻙㻝㻞㻑㻺㼕㻙㻞㻑㻹㼛 㻿㼁㻿㻠㻟㻜 㻝㻤㻑㻯㼞䚸ప䜹䞊䝪䞁 㻿㼁㻿㻠㻠㻠 㻝㻥㻑㻯㼞㻙㻞㻑㻹㼛㻙㼀㼕㻘㻺㼎㻘㼆㼞 㻿㼁㻿㻠㻝㻜 㻝㻟㻑㻯㼞 㻿㼁㻿㻠㻠㻜 㻝㻤㻑㻯㼞 㻿㼁㻿㻟㻞㻥㻶㻝 㻞㻡㻑㻯㼞㻙㻠㻚㻡㻑㻺㼕㻙㻞㻑㻹㼛 㻿㼁㻿㻟㻞㻥㻶㻠㻸 㻞㻡㻑㻯㼞㻙㻢㻑㻺㼕㻙㻟㻑㻹㼛㻘 ప䜹䞊䝪䞁 㻿㼁㻿㻢㻟㻜 㻝㻣㻑㻯㼞㻙㻠㻑㻺㼕㻙㻠㻑㻯㼡㻙㻺㼎 㻿㼁㻿㻢㻟㻝 㻝㻣㻑㻯㼞㻙㻣㻑㻺㼕㻙㻭㼘 䜸䞊䝇䝔䝘䜲䝖⣔ 䝣䜵䝷䜲䝖⣔ 䝬䝹䝔䞁䝃䜲䝖⣔ ஧┦⣔ 㻔䡱䡬䡹䡿䢁䡮䢀䞉䢈䡦䢓䡮䢀㻕 ᯒฟ◳໬⣔ ⇕ฎ⌮䛻䜘䜚 ᙉᗘ䛜ྥୖ ⪏ᾏỈᛶ䚸 㧗◳ᗘ ↝䛝ධ䜜 䛻䜘䜚◳໬ 䚷⪏㣗ᛶ䚸 ຍᕤᛶ 㧗 ᙉᗘ䚸 ప 㠎ᛶ䚸 ຍᕤ◳ᗘ䚸 㠀☢ᛶ ᕤᴗタഛ䚸 ་⒪ᶵჾ䚸㌴୧ ᐙᗞ⏝ Ỉჾ䚸 䝬䝣䝷䞊 ล≀䚸 䝍䞊䝡䞁䝤䝺䞊䝗 ໬Ꮫ䝥䝷䞁䝖䚸 ⯪⯧ ⯟✵䚸Ᏹᐂ䚸 䝶䝑䝖 50 100 150 200 250 NEW NEW 図3 AC6030M/AC6040Mの適用領域

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低減と断続加工における刃先欠損の抑制とし、目標性能を従 来材種対比1.5倍以上の耐欠損性とした。また、耐摩耗性に ついては市販されている材種対比で最も優れることとした。 3−2 AC6030Mの開発 AC6030Mは 新 開 発 の コ ー テ ィ ン グ 技 術「Absotech Platinum」を採用しており、新開発のホウ化物系チタン化合 物被膜と当社独自のCVDコーティング「スーパーFFコート」 から構成されている。 (1)耐チッピング性の向上 既存製品AC630Mのチッピングの損傷メカニズムを解析 したところ、チッピングは刃先稜線部のアルミナ被膜を起点 として発生することがわかった。 CVDコーティングにおけるチッピングの発生原因の一つ として、コーティング内の引張残留応力がある。残留応力 は、コーティングと超硬合金母材の熱膨張係数の差により発 生し、引張残留応力が大きいほど、加工による負荷がかかっ た際に膜中に亀裂が進展しやすく、それが起点となりチッピ ングや膜剥離を引き起こす。反対に圧縮残留応力を有する コーティングは亀裂の進展が抑制され、耐チッピング性に優 れるコーティングであるといえる。 AC6030Mはコーティングの最外層として新規のホウ化物 系チタン化合物被膜を適用することにより、アルミナ被膜中 に発生する引張残留応力を低減させることに成功した(表2)。 このように、チッピングの原因となる引張残留応力を低減さ せたことで、工具の安定性(信頼性)が大幅に向上した。 (2)耐溶着性の向上 AC6030Mは耐溶着性を向上させるため、コーティング 後に表面平滑処理を施している。これにより、コーティング の表面粗度を向上させ(図4)、被削材との摩擦抵抗を大幅に 低減させている。また、被削材と親和性の低いアルミナ被膜 を最表面に露出させることで、耐溶着性と切りくず処理性を 向上させている。さらに、AC6030M独自の外観色調によ り、コーナー視認性を確保しており、暗い作業現場でも使用 済コーナーの識別が可能であるという特長を有している。 (3)耐チッピング性と耐摩耗性の両立 AC6030Mはホウ化物系チタン化合物被膜の効果に加え アルミナ層の膜厚を従来比で30%程度薄くすることで、耐 チッピング性を大幅に向上させている。さらに薄膜化による 耐摩耗性の低下を防ぐために、当社独自の「スーパーFFコー ト」の膜組成を最適化することで、膜硬度を向上させてお り、これにより耐チッピング性と耐摩耗性を両立させること に成功した。 図5からAC6030Mは耐欠損性を評価する社内試験におい て既存材種と比較して2倍以上、他社製品対比で1.4倍の耐 欠損性を示していることがわかる。 さらに、図6からAC6030Mは耐摩耗性を評価する社内試 験において他社製品、また既存製品であるAC630Mと比較 しても良好な耐摩耗性を有していることがわかる。 ⭷୰ṧ␃ᛂຊ ᚑ᮶䝁䞊䝔䜱䞁䜾 㻤㻜㻜㻹㻼㼍 㻭㻯㻢㻜㻟㻜㻹 㻔㻭㼎㼟㼛㼠㼑㼏㼔㻌㻼㼘㼍㼠㼕㼚㼡㼙㻌 㻞㻜㻜㻹㻼㼍 0 500 1000 1500 2000 2500 ௚♫〇ရ 䠄㻹㻟㻜㻯㼂㻰䠅 㻭㻯㻢㻟㻜㻹 㻭㻯㻢㻜㻟㻜㻹 ⿕๐ᮦ䠖㻿㼁㻿㻟㻝㻢䚷᩿⥆ᮦ 䝏䝑䝥䠖㻯㻺㻹㻳㻝㻞㻜㻠㻜㻤 ษ๐᮲௳䠖㼂㼏㻩㻝㻜㻜㼙㻛㼙㼕㼚㻌㼒㻩㻜㻚㻝㻜㼙㼙㻛㼞㼑㼢㻌㼍㼜㻩㻝㻚㻜㼙㼙㻌㼃㼑㼠 Ḟᦆ䜎䛷䛾⾪ᧁᅇᩘ㻔ᅇ㻕 㻜㻚㻜㻜 㻜㻚㻜㻡 㻜㻚㻝㻜 㻜㻚㻝㻡 㻜㻚㻞㻜 㻜㻚㻞㻡 㻜㻚㻟㻜 㻜 㻝㻜 㻞㻜 㻟㻜 㻠㻜 㻡㻜 ษ๐᫬㛫㻌䠄㼙㼕㼚䠅 㻜 ௚♫〇ရ 䠄㻹㻟㻜㻯㼂㻰䠅 㻭㻯㻢㻟㻜㻹 㻭㻯㻢㻜㻟㻜㻹 ㏨ 厴 㠃 ᦶ ⪖ 㔞 㻔㼙㼙㻕 ⿕๐ᮦ䠖㻿㼁㻿㻟㻝㻢䚷䝏䝑䝥䠖㻯㻺㻹㻳㻝㻞㻜㻠㻜㻤 ษ๐᮲௳䠖㼂㼏㻩㻞㻜㻜㼙㻛㼙㼕㼚䚷㼒㻩㻜㻚㻞㼙㼙㻛㼞㼑㼢䚷㼍㼜㻩㻞㻚㻜㼙㼙䚷㼃㼑㼠 図4 AC6030Mの外観と刃先の面粗度 図5 AC6030Mの切削性能(耐欠損性評価) 図6 AC6030Mの切削性能(耐摩耗性評価) 表2 従来コーティングとAC6030Mの膜中引張残留応力

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3−3 AC6030Mの使用実例 図7、図8にAC6030Mの使用実例を示す。図7はGU型 ブレーカの例であるが、優れた耐チッピング性と耐摩耗性 を示しており、他社製品に対し3倍以上の加工数にも関わら ず、刃先損傷が安定していることが確認できる。 図8はEG型ブレーカの例であるが、加工能率が2.5倍(切 削速度Vc=60m/minから100m/min、送り量f=0.2mm/ revから0.3mm/revに向上)でも他社製品に対し2倍寿命を 達成した。 3−4 AC6040Mの開発目標 AC6040Mの開発目標を明確にするために、既存製品で あるAC530Uの使用済チップの損傷解析を行った。その結 果、工具すくい面に発生するクレータ摩耗の進展により刃先 強度が低下して欠損に至る損傷や、被削材が刃先に溶着し、 その生成と脱落を繰り返すことによりコーティングが剥離す ることで突発的な欠損に至る事例が多数確認された。このよ うな突発的な工具欠損は、寿命バラツキの原因となり、不定 期に工具を交換する必要があるため、有人加工を余儀なくさ れる。また、欠損が発生しない程度の少ない加工数で工具交 換が必要となり、生産性の低下や加工コストの増加につなが る。そこで、AC6040Mの目標性能は、従来材種に対し1.5 倍以上の耐クレータ摩耗性と耐欠損性を有することとした。 3−5 AC6040Mの開発 AC6040Mは新開発の超硬合金母材と当社独自のPVD コーティング技術「Absotech Bronze」を適用している。 「Absotech Bronze」は、当社の独自技術である超多層薄 膜構造を継承するとともに、新組成のTiAlSiN系膜を採用 したコーティング(図9)である。「Absotech Bronze」は従 来のTiAlN膜と比較して、膜硬度を約40%(40GPaから 56GPa)向上させたことで、優れた耐摩耗性を備えている。 (1)耐クレータ摩耗性の向上 クレータ摩耗は切りくずの擦過によってすくい面が加 熱され、それに伴い膜が酸化、拡散反応を引き起こすこと が原因で進展する。そのため、クレータ摩耗を抑制する には、コーティングの耐熱性を向上させることが重要とな る。「Absotech Bronze」は膜中のTi、Al含有比率を最適化 し、Siを添加することにより、優れた耐熱性を実現してい る。図10に「Absotech Bronze」と従来コーティングの耐 酸化性試験の結果を示す。チップサンプルを1000℃の高温 大気中で30分間保持した後、室温に取り出し徐冷したサン プルの表面状態を観察した。この結果から、TiAlN膜や従 来コーティングは1000℃で酸化が開始しているのに対し 「Absotech Bronze」はほとんど酸化しておらず優れた耐酸 化性を有していることがわかる。 次に、図11にSUS316の丸棒を30分加工した後のすくい 面の損傷状態の比較を示す。「Absotech Bronze」は従来材 種に比べ、耐熱性の向上によりクレータ摩耗が大幅に抑制さ れていることがわかる。 භゅᮦ䛛䜙䛾๐䜚ฟ䛧䛾⢒㻛௙ୖ ຍᕤ䜢㻝ᮦ✀䛷ᑐᛂ䛧䚸㻟ಸ䛾㛗ᑑ ࿨䜢㐩ᡂ䚹 ௚♫〇ရ䠄㻹㻟㻜㻌㻯㼂㻰䠅 㻝㻟㻜ಶ㻛㼏 㻭㻯㻢㻜㻟㻜㻹㻙㻳㼁 㻠㻠㻜ಶ㻛㼏 ⿕๐ᮦ䠖㻿㼁㻿㻟㻜㻠㻌⥅ᡭ㒊ရ䚷䝏䝑䝥䠖㻯㻺㻹㻳㻝㻞㻜㻠㻝㻞㻺㻙㻳㼁 ษ๐᮲௳䠖㼂㼏㻩㻡㻜䡚㻣㻡㼙㻛㼙㼕㼚㻌㻌㼒㻩㻜㻚㻝㻢㼙㼙㻛㼞㼑㼢㻌㻌㼍㼜㻩㻞㻚㻜㼙㼙㻌㻌㼃㼑㼠 ⬟⋡䜢㻞㻚㻡ಸ䠄㼂㼏㻩㻢㻜䊻㻝㻜㻜㼙㻛㼙㼕㼚䠈㼒㻩㻜㻚㻞䊻㻜㻚㻟㼙㼙㻛㼞㼑㼢䠅 䛷䜒㻞ಸ䛾㛗ᑑ࿨䜢㐩ᡂ䚹 0 1 2 3 寿命2倍 ຍ ᕤ ᩘ 䠄ྎ䠅 ⿕๐ᮦ䠖㻿㻯㻿㻝㻝㻌㻌䝫䞁䝥㒊ရ䚷䝏䝑䝥䠖㻯㻺㻹㻳㻝㻞㻜㻠㻜㻤㻺㻙㻱㻳 ษ๐᮲௳䠖㼂㼏㻩㻝㻜㻜㼙㻛㼙㼕㼚䚷㼒㻩㻜㻚㻟㼙㼙㻛㼞㼑㼢䚷㼍㼜㻩㻜㻚㻡㼙㼙䚷㼃㼑㼠 ௚♫〇ရ 䠄㻹㻟㻜㻯㼂㻰䠅 㻭㻯㻢㻜㻟㻜㻹 図7 AC6030M(GU型)の使用実例 図8 AC6030M(EG型)の使用実例 㓟໬䝔䝇䝖 㛤ጞ๓ 㼀㼕㻭㼘㻺⭷ ᚑ᮶ᮦ✀ 䝁䞊䝔䜱䞁䜾 㻭㼎㼟㼛㼠㼑㼏㼔 㻮㼞㼛㼚㼦㼑 䝃䞁䝥䝹 ෗┿ 図9 AC6040Mの外観と膜構造 図10 酸化試験後のサンプル写真

(5)

(2)耐欠損性の向上 既存製品AC530Uが欠損するメカニズムを解析した結 果、加工中にコーティング膜が摩耗又は剥離を起こし、超硬 合金が露出すると、合金を構成するWC(タングステンカー バイド)の粒子が脱落し、突発的に欠損することが明らかと なった。そこで、超硬合金の組織に着目し開発を行った。新 開発の超硬合金は、WCとCo(コバルト)の原料を見直し、 さらに焼結条件を改良することで、WCの粒成長を制御し、 従来合金に比べ均質な合金組織を形成している。均質な合金 組織により欠損の起点となる組織中の欠陥の発生を抑制し、 さらに加工中に合金内部に発生する亀裂の進展を抑制する とともに、粒子の脱落を低減することで耐欠損性を向上さ せることに成功した。図12に曲げ強度試験の結果を示す。 AC6040Mの超硬合金は従来合金に比べ曲げ強度(抗折力 TRS※3)が約20%高く、強度が向上していることがわかる。 (3)耐欠損性と耐摩耗性の両立 AC6040Mは 上 述 し た よ う に 新 コ ー テ ィ ン グ 技 術 「Absotech Bronze」と超硬母材の改良により、優れた耐摩 耗性と耐欠損性を併せ持つ材種である。図13に耐摩耗性評 価の結果を示すが、AC6040Mは既存製品と比較して約1.5 倍以上、他社製品と比較しても良好な耐摩耗性を有している ことがわかる。また図14に耐欠損性評価の結果を示すが、 AC6040Mは既存製品と比較して2倍以上、他社製品対比で 1.5倍の耐欠損性を有していることがわかる。 3−6 AC6040Mの使用実例 図15、図16にAC6040Mの使用実例を示す。図15は GU型ブレーカの例であるが、優れた耐溶着性、耐欠損性を 示しており、既存製品であるAC530Uに対して2.7倍の工 具寿命を達成した。 ᚑ᮶䝁䞊䝔䜱䞁䜾 㻭㻯㻡㻟㻜㼁 㻭㼎㼟㼛㼠㼑㼏㼔㻌㻮㼞㼛㼚㼦㼑 㻭㻯㻢㻜㻠㻜㻹 㻿㼁㻿㻟㻝㻢 ⪏ᦶ⪖ᛶホ౯ 㻟㻜 ศຍᕤᚋ 䛩䛟䛔㠃ᦆയ 図11 AC6040Mの耐クレータ摩耗性 図12 AC6040Mの曲げ強度試験の結果 0.00 0.05 0.10 0.15 0.20 0.25 0.30 0 10 20 30 40 50 切削時間(min) 逃 げ 面 摩 耗 量 (mm) ௚♫〇ရ 䠄㻹㻠㻜㻌㻼㼂㻰䠅 㻭㻯㻡㻟㻜㼁 㻭㻯㻢㻜㻠㻜㻹 ⿕๐ᮦ䠖㻿㼁㻿㻟㻝㻢䚷䝏䝑䝥䠖㻯㻺㻹㻳㻝㻞㻜㻠㻜㻤 ษ๐᮲௳䠖㼂㼏㻩㻝㻡㻜㼙㻛㼙㼕㼚䚷㼒㻩㻜㻚㻞㼙㼙㻛㼞㼑㼢䚷㼍㼜㻩㻞㻚㻜㼙㼙䚷㼃㼑㼠 㻭㻯㻡㻟㻜㼁 50 ⿕๐ᮦ䠖㻿㼁㻿㻟㻝㻢䚷᩿⥆ᮦ䚷䝏䝑䝥䠖㻯㻺㻹㻳㻝㻞㻜㻠㻜㻤 ษ๐᮲௳䠖㼂㼏㻩㻞㻟㻜㼙㻛㼙㼕㼚䚷㼒㻩㻜㻚㻞㻜㼙㼙㻛㼞㼑㼢䚷㼍㼜㻩㻜㻚㻤㼙㼙䚷㻰㼞㼥 ௚♫〇ရ 䠄㻹㻠㻜㻌㻼㼂㻰䠅 Ḟᦆ䜎䛷䛾⾪ᧁᅇᩘ㻔ᅇ㻕 㻭㻯㻡㻟㻜㼁 0 1000 2000 3000 4000 5000 6000 㻭㻯㻢㻜㻠㻜㻹 図13 AC6040Mの切削性能(耐摩耗性評価) 図14 AC6040Mの切削性能(耐欠損性評価) ඃ䜜䛯⪏⁐╔ᛶ䛸⪏Ḟᦆᛶ 䛻䜘䜚᪤Ꮡ〇ရᑐẚ䛷㻞㻚㻣ಸ 䛾㛗ᑑ࿨ 㻭㻯㻡㻟㻜㼁㻙㻳㼁䚷㻞㻜ಶ㻛㼏 㻭㻯㻢㻜㻠㻜㻹㻙㻳㼁䚷㻡㻡ಶ㻛㼏 ⿕๐ᮦ䠖㻿㼁㻿㻟㻜㻠䚷䝙䝑䝥䝹䚷䚷䝏䝑䝥䠖㻯㻺㻹㻳㻝㻞㻜㻠㻝㻞㻺㻙㻳㼁 ษ๐᮲௳䠖㼂㼏㻩㻝㻡㻜㼙㻛㼙㼕㼚䚷㼒㻩㻜㻚㻝㻡㼙㼙㻛㼞㼑㼢䚷㼍㼜㻩㻝㻚㻡㼙㼙䚷㼃㼑㼠 図15 AC6040M(GU型)の使用実例

(6)

図16にEG型ブレーカの例を示す。本加工はSUS304相当 の鋳造品(SCS13)の加工であるが、表面の鋳肌状態が悪く、 被削材のバラツキ(組織、硬度、表面粗さなど)が大きいた め欠損が多発する工程である。AC6040MのEG型ブレーカ はこのような不安定な加工条件において優れた耐欠損性を示 し、他社製品に対して、約2倍の寿命を達成した。

4. 粗加工用「EMブレーカ」の開発と切削性能

ステンレス鋼の加工において、工具材種同様、切りくず 処理性や耐境界損傷性は、工具の寿命安定性に対して非常に 重要な要素である。当社はこれまでに切りくず処理性、耐ク レータ摩耗性、耐境界損傷性を改善した仕上げ加工用ブレー カの「EF型」と汎用ブレーカの「EG型」をステンレス鋼加工 用に展開しているが、新たに粗加工用ブレーカとして「EM 型」を開発した。 EM型ブレーカは既存ブレーカであるMU型に比べて、す くい面の形状を滑らかにし、切りくずの排出性を向上させる と共に、切れ刃の稜線部の変化点をなくすことで刃先強度を 向上させるという2つの設計コンセプトを採用した(図17)。 このため高送りや大切込みなどの粗加工において優れた切り くず処理性と耐境界損傷性を示す。EM型の開発により、ス

テンレス加工用ブレーカシリーズ「EF型」、「EG型」、「EM型」

が完成し、従来の仕上げ用ブレーカの「SU型」、汎用ブレー カの「EX型」、「GU型」、「UP型」と組み合わせることで、ス テンレス鋼加工をより広くカバーすることが可能となった (図18)。 図19にAC6030MのEM型ブレーカでの使用実例を示 す。EM型ブレーカの切りくず処理性の向上と刃先強度の向 上の効果により、切れ刃外の欠損を抑制し安定加工を実現し ている。 ඃ䜜䛯⪏Ḟᦆᛶ䛻䜘䜚㻞ಸ䛾㛗ᑑ࿨ ຍ ᕤ ᩘ 䠄ಶ䠅 㻞 㻠 㻢 㻤 㻝㻜 㻭㻯㻢㻜㻠㻜㻹 ௚♫〇ရ 㻔㻹㻠㻜㻌㻼㼂㻰㻕 㻜 ⿕๐ᮦ䠖㻿㻯㻿㻝㻟㻌䜹䝑䝥䝸䞁䜾䝏䝑䝥䠖㻯㻺㻹㻳㻝㻞㻜㻠㻜㻤㻺㻙㻱㻳 ษ๐᮲௳䠖㼂㼏㻩㻢㻥䡚㻝㻣㻤㼙㻛㼙㼕㼚䚷㼒㻩㻜㻚㻝㻠㼙㼙㻛㼞㼑㼢䚷㼍㼜㻩㻞㻚㻡㼙㼙䚷㼃㼑㼠 ᑑ࿨㻞ಸ ษ䜚䛟䛪ฎ⌮ᛶ䛾ྥୖ䛸ลඛ䛾 ᙉᗘྥୖ䛻䜘䜚䚸ษ䜜ลᦆയ䜢 ᢚไ䛧Ᏻᐃຍᕤ䜢ᐇ⌧ 㻭㻯㻢㻟㻜㻹㻙㻹㼁 ษ䜜ลእḞᦆ䛻䜘䜚㻌㻺㻳 㻭㻯㻢㻜㻟㻜㻹㻙㻱㻹 Ᏻᐃຍᕤ䛜ྍ⬟ ⿕๐ᮦ䠖㻿㼁㻿㻟㻝㻢䚷䝣䝷䞁䝆㒊ရ䚷䝏䝑䝥䠖㻿㻺㻹㻳㻝㻥㻜㻢㻝㻢㻺㻙㻱㻹 ษ๐᮲௳䠖㼂㼏㻩㻣㻜㼙㻛㼙㼕㼚䚷㼒㻩㻜㻚㻡㼙㼙㻛㼞㼑㼢䚷㼍㼜㻩㻟㻚㻜䡚㻤㻚㻜㼙㼙䚷㼃㼑㼠 図16 AC6040M(EG型)の使用実例 図19 AC6030M(EM型)ブレーカとの使用実例 ษ䜚䛟䛪ฎ⌮ᛶ䛾ᨵၿ ቃ⏺ᦆയ䛾ᨵၿ ᩿㠃ᙧ≧ 䛩䛟䛔㠃ᦶ⪖ẚ㍑ ษ䜜ล㒊ᙧ≧ ቃ⏺ᦶ⪖ẚ㍑ ᚑ᮶ရ EMᆺ ษ䜜ล⛸⥺㒊䛾ኚ໬Ⅼ䜢↓䛟䛧ቃ⏺㒊 䛾ᦆയ䜢ᢚไ ኱R䛩䛟䛔㠃䛻䜘䜚䚸ษ䜚䛟䛪䛜䝇䝮䞊䝈 䛻ὶ䜜䚸ᦶ⪖䜢ᢚไ 図17 EMブレーカの設計コンセプト ษࡾ㎸ࡳ (mm) 2.0 4.0 6.0 0.2 0.4 0.6 ㏦ࡾ(mm/rev)

EMᆺ

EXᆺ UPᆺ EFᆺ EGᆺ GUᆺ SUᆺ 図18 ステンレス鋼加工用EM型ブレーカとEシリーズ適用領域

(7)

5. 結  言

新CVDコ ー テ ィ ン グ 技 術「Absotech Platinum」を 適 用した汎用材種「AC6030M」は、高能率加工や不安定加 工などあらゆる市場ニーズに対応し、幅広い加工条件で 安定して長寿命が図れる材種であり、新PVDコーティン グ技術「Absotech Bronze」を適用した断続加工用材種 「AC6040M」は、断続加工や不安定加工で抜群の信頼性を得 られる材種である。高速、高能率切削用「AC610M」も加え た3材種シリーズと新ステンレス鋼加工用ブレーカシリーズ

「EF型」(仕上げ加工用)、「EG型」(汎用)、「EM型」(粗加工用)

によりユーザーの加工コスト削減、生産性向上に大きく貢献 できるものと確信している。 ・「Absotech」「スーパーFFコート」は住友電気工業㈱の商標あるいは登録商 標です。 用 語 集 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ※1 CVD

Chemical Vapor Deposition: 気相中で物質の表面に化学 的手法により目的とする物質の薄膜を形成する方法。 ※2 PVD

Physical Vapor Deposition: 気相中で物質の表面に物理的 手法により目的とする物質の薄膜を堆積する方法。

※3 TRS

Transverse Rupture Strength: 3点曲げ試験により求めら れる曲げ強度の指標。試験方法:CIS 026(JIS R 1601, ISO 3327)。 参 考 文 献 (1) 超硬工具協会月報(~2013年) (2) ステンレス協会HP「世界のステンレス粗鋼生産量」 (http://www.jssa.gr.jp/contents/stats/yields/) (3) 伊藤実 他、「ステンレス鋼旋削用材種「エースコート® AC610M/ AC630M」の開発」、SEIテクニカルレビュー第167号、p115-119 (2005) 執  筆  者 ---竹下 寛紀 :住友電工ハードメタル㈱ 合金開発部 子吉 雄太 :住友電工ハードメタル㈱ 合金開発部 松田 直樹 :住友電工ハードメタル㈱ デザイン開発部 奥野  晋 :住友電工ハードメタル㈱ 合金開発部 主査 広瀬 和弘 :住友電工ハードメタル㈱ 合金開発部 主席 福井 治世 :住友電工ハードメタル㈱ 合金開発部 グループ長 博士(工学)

---*主執筆者

参照

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