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先に挙げた 朝ドラ 視聴率にまつわる謎を整理すると,2つの側面にくくることができる まず, あまちゃん フィーバーを視聴率でトレースすることができなかった 一方で, 好調な視聴率の背景を視聴者の視聴実態から的確に説明できない これをもっと図式的に言えば, 視聴実態を視聴率で説明できていない 視聴率を

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時間テレビ』を除くとすべて「朝ドラ」がトッ プだった。10年前の同時期(2006.6.26〜9.3), 当時の「朝ドラ」『純情きらり』がトップになっ たのは 2度だけで,上位には多彩な番組が並 んでいた2)。あまたの放送番組が視聴率を下 げる中にあって,ほぼ「朝ドラ」だけが逆行 している。 視聴者の「朝ドラ」視聴に何が起こってい るのか。 日々少しでも多くの人に番組を見てもらい たいと願っている放送従事者にとって,「朝 ドラ」高視聴率の謎が解ければ有益なヒント をもたらすに違いない。もっと大げさに言え ば「朝ドラ」視聴の解明は,人々がテレビに 何を求めているのか,テレビが果たすべき役 割は何なのか,などの課題に方向を与え,放 送の未来に希望を抱かせるものとなるかもし れない。 ◇好調な視聴率 「朝ドラ」研究チームが「朝ドラ」に注目し たきっかけは,2013年の『あまちゃん』フィー バーであった。その時われわれが関心を抱い た主要な問題意識の一つは,世の『あまちゃ ん』フィーバーが異様に盛り上がったのに比 べて,視聴率的には意外なほど平凡な結果し か残さなかったというねじれ現象であった。 すなわち,視聴率データの中には,『あまちゃ ん』フィーバーの痕跡を見出すことができな かったのである1) 一方その後,「朝ドラ」の視聴率は順調に 好成績を積み重ね,2015年度上半期の『まれ』 でやや下がったものの,それに続く『あさが 来た』では今世紀最高の視聴率を記録した。 毎週木曜日,朝日新聞朝刊には 1週間の高 視聴率番組がランキングされるが,直近 10 週間(2016.6.27〜9.4)では,日本テレビの『24

新番組が始まるとき

~視聴率による視聴行動の分析~

メディア研究部

齋藤建作

「朝ドラ」研究チームは,近年の「朝ドラ」が好調を保っている秘密に挑み続けているが,今回は高視聴率の 背景を視聴率自身のデータ分析という角度から探ってみる。本稿では,まず今世紀最高視聴率を記録した『あ さが来た』がどのように見られたのかを視聴率の観点から分析し,次いで「朝ドラ」の新番組が始まるときに 視聴者がどのように視聴行動し,それがその後の視聴率にどのように影響するのかなどを調べた。 1.『あさが来た』の視聴率:視聴率を「視聴頻度」と「視聴者の広がり」という2 つの側面に分解して集計す ると,『あさが来た』は視聴者に頻度高く熱心に見られた番組であったことが分かる。これは今世紀では『あ さが来た』に次いで視聴率が高かった『さくら』が多くの視聴者に見られた「視聴者の広がり」の大きな番組で あったことと対照的であった。また,上の2 側面を縦軸・横軸にして過去番組の配置図を作るとそれぞれの番 組の性格を知ることができる。 2.新番組が始まるとき:新番組が始まる第一週の視聴世帯に注目して分析した。第一週を見る世帯率でそ の後の平均視聴率の傾向がほぼ決まってしまう。第一週に見た世帯の半分は以後も毎週見ている。このよう に新番組が始まるときに見てくれる視聴者が番組にとって大事な存在であることが分かる。一方,第一週を 見た世帯は前作を見ていた世帯が8割を占めており,新たな視聴層をいかに広げていくかも課題である。

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先に挙げた「朝ドラ」視聴率にまつわる謎 を整理すると,2つの側面にくくることがで きる。まず,『あまちゃん』フィーバーを視 聴率でトレースすることができなかった。一 方で,好調な視聴率の背景を視聴者の視聴実 態から的確に説明できない。これをもっと図 式的に言えば, 「視聴実態を視聴率で説明できていない」 「視聴率を視聴実態で説明できていない」 ということになるだろう。現在は主に後者の 側面が課題になっており,「朝ドラ」研究チー ムが実施中の調査も後者の側面に沿ったもの である。すなわち,「高視聴率なのは視聴者 がどのような見方をしているからなのか」と いう問いかけである。これについては本誌 2016年 9月号で『あさが来た』のケースを二 瓶亙が報告した3) さて,上の 2側面はさらに 1つの関係にま とめられる。 「視聴率⇔視聴実態」 つまり視聴率と視聴実態との間の関係を探 ろうというものである。これに対して本稿では, 「視聴率⇔視聴率」 という枠組みで問題の解明に取り組んでみた い。つまり,「朝ドラ」視聴率の構造や背景 を視聴率データ自身の中から探ろうというも のである。 この視聴率の分析という枠組みでは,本誌 2016 年 4月号で 1つの試みを提示した4)。そ こでは,視聴率を 2つの要素に分解して,集 計可能な「朝ドラ」全 38番組について総合的 な分析を行った。そこで今後はその分析を踏 まえ,もう少し絞り込んだ局面に焦点を当て た分析を積み重ねていきたいと考えている。 本稿は次の2つの分析で構成する。 1つは,4月号の分析軸に沿って,『あさが 来た』がどのように見られたのかを視聴率の 観点から分析する。 もう1つは,「朝ドラ」の新シリーズが始まる ときに焦点を当てて,そこでは視聴者がどの ように視聴行動し,それがその後の視聴率に どのように影響するのか,などを分析する。

1.

『あさが来た』の視聴率

◇視聴者の広がりと視聴頻度 まず,4月号で分析軸とした視聴率の 2つ の要素について簡単に説明したい。 番組の視聴率は,視聴者の「数」と,それ らの視聴者が番組を見る平均「時間」との掛 け算によって成り立っている。式にすると, 【視聴率】=【視聴者数】×【視聴時間】 となる。ただし,「朝ドラ」は15分と短く, 部分的に見られる合理性もないので,番組に よる視聴時間の違いを考慮する必要性は低い。 視聴率を左右するのは主に視聴者数である。 次に,シリーズ番組では平均の視聴者数を さらに2つの要素に分解できる。 【視聴者数】=【累積到達率】×【視聴頻度】 累積到達率とは,その番組を 1度以上見た 視聴者の比率で,視聴者の広がりを表す数値 である。視聴頻度は文字通り,全放送回のう ち何回見たかを比率にした数値である5) 「朝ドラ」の視聴率が上下するのは,視聴 者の広がりと視聴頻度という2つの要素のど ちらか,あるいは両方が上下することに起因 する。そして,そのどちらがどう動くかをみる ことによって,番組の見られ方や視聴率の上 がり下がりの原因などを推測することができる。 集計可能なデータがある「朝ドラ」を2つの

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要素に分けて集計した結果が図1である。デー タはビデオリサーチ社・関東地区の視聴率な ので,視聴者の単位は「世帯」である。また, 累積到達率と視聴頻度は,『ふたりっ子』(1996 年度下半期)を 100%として計算し直したも のである6) この間,視聴率は『ふたりっ子』から2010年 にかけておおむね下落し(矢印 a),『ゲゲゲの 女房』(2010年度上半期)を起点に上昇に転じ ている(矢印 b)。グラフでは視聴頻度の動きが 大きい。2000年代まで,変動はあるものの下 落基調にあり,『ふたりっ子』当時の 60%を割 るまで下がった(矢印c)。そしてそこから大きく 回復に向かっている(矢印d)。従って,視聴率 が下落し上昇したことの主因は視聴頻度にある と考えられる。 一方,累積到達率の動きは視聴頻度に比べ て小さく,視聴率の変動に及ぼす影響はその 分小さいが,当初の 80%程度まで下がった あとあまり回復していない。現在でも,視聴 率が最も低かった 2008〜 09年ごろとそれほ ど違わない水準でしかない(矢印 e)。今後, 「朝ドラ」視聴率のさらなる改善を考えた場合, 課題となるのは累積到達率の改善,すなわち いかにより多くの視聴者に「朝ドラ」に目を 向けてもらうか,ということになるだろう。 以上のことは,次のようにたとえたら分か りやすい。視聴者は,視聴頻度すなわち「朝 ドラ」を何度も見たいという気持ちがだん だん下がってしまった。しかし 2010年以来, その気持ちが一転して惹きつけられていっ た。つまり「朝ドラ」から一度離れた「心」を 引き寄せつかみ直すことに成功した。ところ が,テレビの前にいた「人」自体が去ってし まった。それを,いまだに呼び寄せることが できていない。だが,「心」をつかむことの 方が普通は難しいのではないだろうか。あと は「人」をテレビの前に呼び込めばいい。 左軸の目盛は,累積到達率と視聴頻度とを『ふたりっ子』を 100 として計算し直したもの。右軸の目盛はシリーズの平均視聴率である。 図 1 視聴率,累積到達率,視聴頻度の推移 (%) (%) 1990 年代 2000 年代 2010 年代 30 40 50 60 70 80 90 100 110 頻度% 累積到達率 2015年 2015年 2014 年 2014 年 2013 年 2013 年 2012 年 2012 年 2011年 2011年 2010 年 2010 年 2009 年 2009 年 2008 年 2008 年 2007 年 2007 年 2006 年 2006 年 2005 年 2005 年 2004 年 2004 年 2003 年 2003 年 2002 年 2002 年 2001年 2001年 2000 年 2000 年 1999 年 1999 年 1998 年 1998 年 1997 年 1997 年 1996 年 0 10 20 30 視聴率 視聴頻度 累積到達率 視聴率 a c f e d b

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◇『あさが来た』と『さくら』 図 1は 4月号にも掲載したグラフだが,最 新の『あさが来た』を右端に加えた。そこで は視聴頻度が見るも鮮やかに急角度で上昇し, 『ふたりっ子』当時の100をほぼ回復している。 この角度は,「朝ドラ」の視聴率が長らく低 下したあと上昇に転じる起点となった『ゲゲ ゲの女房』に匹敵する。 対照的に,それまで視聴率が今世紀で最も 高かった 2002年の『さくら』は,累積到達率 がほぼ 100に迫っている。つまり,多くの視 聴者に見られた番組であった。 このように,23.5%,23.3%とほぼ同水準 の視聴率を獲得した 2番組であるが,見られ 方の性格がかなり異なるものであったことが 分かる。前述のたとえで言えば,『あさが来た』 が「心」をつかんだのに対して,『さくら』は 多くの「人」を呼び込んだ番組であった。 なお『さくら』は,前世紀末以来,維持また はやや回復基調にあった累積到達率が,高水 準を保った最後の番組で,これ以後,累積到 達率は水準を下げていくことになった(矢印 f)。 ◇四象限図に変換 以上の朝ドラのデータを,視聴頻度と累積 到達率のそれぞれ平均値を軸にとり四象限の 図に配置したのが 図2である。横軸が視聴者 の広がり(累積到達率)を表し,右へ行くほ ど多くの視聴者に見られた番組。縦軸が視聴 頻度を表し,上へ行くほど頻度高く熱心に見 られた番組ということになる。 この図でも,『さくら』が右端に近い領域, 『あさが来た』が上端に近い領域と,対照的 なポジションに位置している。 図 2 四象限図(視聴者の広がりと視聴頻度) 15% 10 5 5 -5 -10 -15 -20 -25 10 15 20% -5 -10 -15 0 5 1 0 さくら ちゅらさん 広がりが大 あぐり ふたりっ子 2::7ġ:9 ༃ 3119ġ1: ༃ ࣷ༃Ɉ෥ʡˁ 花子とアン ごちそうさん マッサン 芋たこなんきん 純と愛 だんだん まれ 純情きらり 梅ちゃん先生 天花 天うらら 甘辛しゃん あまちゃん あさが来た ウェルかめ つばさ ゲゲゲの女房

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また,同じような時期の番組が似たような 領域に集まる傾向も見て取れる。データが残 る最初期である1996年から98年の番組が右 上の第一象限の上部に固まり,そこから下方 へ視聴頻度の度合いを下げた位置に『さくら』 がある。一方,『あさが来た』は左上第二象限 の上方にあるが,これは同象限で縦軸に沿っ た番組群の上端に当たる。これは 2010 年以 来上昇基調にある番組が集まった領域である。 さらに,視聴率が最も下がった 2008〜 09年 の番組が左下第三象限の下部に位置している。 以上にみられる傾向は,視聴者の「朝ドラ」の 見方が,数年から5〜6年の単位で変動してき た,ということを示しているのかもしれない。 ところで,右下第四象限に位置する番組が 少ないのはやや不思議である。なぜなら,右 へ行くほど見てくれる視聴者が増えるので, その分それほど熱心に見ない(つまり視聴頻 度の低い)視聴者の比率も増えがちになると 考えられるから,右に振れることは下へ下げ る効果も伴うはずだからである。実際,最も 右に位置する『ちゅらさん』の場合はこの効 果が効いた可能性がある。ただ現実のテレビ 視聴においては,より多くの人が見ることに よって世間で話題になることも増え,結果と して視聴頻度も下がらないといった回路が働 いているのかもしれない。 なお,本稿冒頭で 2013年の『あまちゃん』 が平均的な視聴率であったことを述べたが, この四象限図でも見事に中心近くに位置して おり,こうした座標軸でみても極めて平均的 な視聴率の番組であったことが分かる。 ◇テレビ離れの影響は 1 ~ 2% 先にみたように,現在のテレビ界では多く の番組がかつてのような高い視聴率を実現し にくくなっている。その背景には視聴者のい わゆる「テレビ離れ」があるのではないか,と しばしば指摘される。「朝ドラ」の視聴率の 変動にはどの程度かかわりがあるのだろうか。 そこで,次のような分析を行ってみた。 今回の分析の起点となっている『ふたりっ 子』は平均視聴率が 29.0%,占拠率が 49.2% であった。この『ふたりっ子』の視聴率と占 拠率をそれぞれ 100として,以降の作品の視 聴率と占拠率とを集計し直し図 3にグラフ化 した。占拠率はその時テレビを見ている視聴 世帯の中で「朝ドラ」を選んでいる世帯の比 率である。従って,仮に,常に「朝ドラ」の 放送時間帯にテレビを見る世帯の比率が『ふ たりっ子』当時と同じならば,このグラフに おける視聴率の線と占拠率の線は一致するは ずである。別の言い方をすれば,占拠率と視 聴率との差がテレビ離れの影響,ということ になる。図 3をみるとテレビ離れの影響はそ れほど大きくないようにみえる。 そこで,テレビ離れの変化をよりみやすくす るために,視聴率と占拠率の差だけをグラフ にしてみた(図 4)。これをみると,テレビ離れ の傾向はゆるやかに右肩上がりとも言えるが, 2006年の『純情きらり』『芋たこなんきん』の 辺りからここ10年ほどは,5%をやや上回る程 度の水準に留まっており,それほどテレビ離 れが進行しているわけではない。テレビ離れ が「朝ドラ」に与えてきた影響を視聴率に換算 すると,1〜2%ということになるだろう7)。決し て小さな影響とは言えないが,限定的である。 前世紀の末以来,十数年に及ぶ「朝ドラ」視 聴率の低下傾向は,テレビ離れで説明できる 部分は相対的に小さい。

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一方,近年視聴率が上昇基調にあること, そして『あさが来た』が高視聴率を実現した ことについても,テレビ離れの逆に言わば「テ レビ戻り」といった背景があったわけではな かった。

2.新番組が始まるとき

近年の「朝ドラ」が視聴者にどのように見 られているかを探るための手がかりの一つと して,ここからは「朝ドラ」の新番組が始ま る時点で視聴率にはどのような特徴があるの か,そしてそのことから人々の視聴行動がど う推測できるのか,などについて分析を行っ てみたい。 なお,分析の対象は前節と同じく,ビデオ リサーチ社・関東の世帯視聴率で,朝 8時台 にNHK総合テレビで放送される「朝ドラ」の 本放送である。また放送年度については,近 年の傾向を知りたいことから,2011年 3月の 東日本大震災の影響を避けて,同年下半期 (『カーネーション』)以降を主な対象としつつ, 適宜それ以前の番組にも拡大する。 図 3 平均視聴率と占拠率 図 4 テレビ離れ (%) 0 20 40 60 80 100 120 あさが来たまれ マッサン 花子アン ごちそうさん あまちゃん 純と愛 梅ちゃん先生 カーネーションおひさま てっぱん ゲゲゲの女房 ウェルかめ つばさ だんだん瞳 ちりとてちん どんど晴れ 芋たこなんきん 純情きらり 風のハルカ ファイト わかば 天花 てるてる家族こころ まんてん さくら ほんまもん ちゅらさん オードリー 私の青空 あすか すずらん やんちゃくれ 天うらら 甘辛しゃん あぐり ふたりっ子 1990 年代 2000 年代 2010 年代 占拠率 視聴率 (%) -5 0 5 10 15 あさが来たまれ マッサン 花子アン ごちそうさん あまちゃん 純と愛 梅ちゃん先生 カーネーションおひさま てっぱん ゲゲゲの女房 ウェルかめ つばさ だんだん瞳 ちりとてちん どんど晴れ 芋たこなんきん 純情きらり 風のハルカ ファイト わかば 天花 てるてる家族こころ まんてん さくら ほんまもん ちゅらさん オードリー 私の青空 あすか すずらん やんちゃくれ 天うらら 甘辛しゃん あぐり ふたりっ子 1990 年代 2000 年代 2010 年代 占拠率% 視聴率 占拠率−視聴率

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◇「開店一週間にどれだけ客を呼べるかで ────売り上げはだいたい決まってしまう」 「朝ドラ」の 1シリーズは 150回以上にも及 ぶので,各回を分析の対象にするのは細かす ぎるだろう。そこで,これを週単位で集計し て分析の対象とする8)。1シリーズは 25〜27 週である。 「朝ドラ」の新番組が始まる最初の週(以下, 「第一週」と表記)に 1度でも見た世帯が全世 帯のうちどれだけの比率になるのか9),これ を集計し,シリーズの平均視聴率と比較して みた(図5)。 グラフの形は上下 2本の動きが大変よく似 通っており,第一週に視聴する世帯比率が多 いか少ないかで,シリーズの平均視聴率の傾 向がほぼ決まってしまうことが分かる。 これをさらに,第一週で見た世帯がその後 も「朝ドラ」を見ているのかどうか,調べた。 つまり,第 2週以降,週ごとに放送を見てい る世帯を,第一週に見た世帯(以下,「第一 週世帯」)と,第一週に見なかった世帯に分 けて集計しグラフ化した(図 6)。面グラフの 下に位置する面が第一週世帯,その上に乗っ ている面が第一週を見なかった世帯である。 グラフを見ると番組による違いもあるが, 以下の3点についてはほぼ共通している。 ① 「第一週世帯」が極めて大きな部分を占める ② 「第一週世帯」は最後の週まで持続している ③ 第2週以降は「第一週世帯」の週による増減 は少ない 図 5 第一週世帯率と平均視聴率 図 6 第一週世帯がその後の週に見ている比率 (%) 0 5 10 15 20 25 30 35 40 平均視聴率 初週率 平均視聴率 第一週に見た世帯率 (%) 0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 カーネーション(2011年) (2013 年) (2014 年) (%) 0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 あまちゃん (%) 0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 マッサン 1 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 (週目) (週目) 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 (週目)

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そこで,この 9番組のデータを平均してグ ラフをまとめてみたのが図7である。28ペー ジに記した①については,第一週世帯が占 める面が全体の 82%に及んでいる。 試みに,民放で 2015年と 2016年に放送さ れたドラマのうち最も視聴率が高かった『下 町ロケット』と『99.9』について,同様の集計 を行ってみた。放送形態も放送時間も「朝ド ラ」とはだいぶ異なるので比較に耐えるかど うかの疑問はあるが,これら 2番組の場合, 図 8のように初回を見た世帯の占める面は 5 〜6割程度だった。 視聴者のグループインタビューなどでは,「ド ラマは初回を見てその後も見続けるかどうか値 踏みをする」といった発言をよく耳にする。図 8 の結果からみると,初回を見ても結局見続ける (100%= 全視聴世帯) (%) 0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 ごちそうさん (2012 年) (%) 0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 梅ちゃん先生 1 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 (週目) (週目) (2015 年) (%) 0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 まれ 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 (週目) (2013 年) (%) 0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 純と愛 (2014 年) (%) 0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 花子とアン 1 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 (週目) (週目) (2015 年) (%) 0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 あさが来た 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 (週目) (2012 年) 第一週に「朝ドラ」を視聴しなかった世帯 第一週に「朝ドラ」を視聴した世帯

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のをやめる視聴者が実際にそのドラマを見た 中でかなり比率が高いことが分かる。 これに比べると,「朝ドラ」の第一週を見 た世帯については,かなりの比率でその後も 見続けていることが分かる。 また,2015年に行った「朝ドラ」に関する MROC調査10)では,「「朝ドラ」を見続けるか どうかの判断は始まってから1か月ぐらいでする」 といった発言が散見された11)。視聴者の意識 の上ではそうなのかもしれないが,データから みる実態としては,判断はそれよりもかなり早 く行われていることをうかがわせる。 そして,前述の②③についても,図7のグ ラフのように,第 2週以降,第一週世帯の比 率はほぼ一定で,最後まで減衰することなく 持続している。 以上のことを商店の出店になぞらえて言え ば,表題に記したように「開店一週間にどれ だけ客を呼べるかで売り上げはだいたい決 まってしまう」と言えるのではないだろうか。 ◇『ウェルかめ』→『ゲゲゲの女房』の急伸 前にも触れたように,「朝ドラ」視聴率は『ゲ ゲゲの女房』(2010年度上半期)で一気に 5% も上昇した。この急伸がなぜ起こったのか, 確かなことは分かっていない12)。そこでその 前作『ウェルかめ』も含めて同じ集計を行っ てみた(図9)。 『ウェルかめ』は視聴率が低い分,全体の ボリュームが小さいという違いはあるが,グ ラフの形としてはほぼ同じである。また,第 一週世帯の比率が75%とやや低いものの,『ゲ ゲゲの女房』も 77%と同水準であり,一方, 同じように視聴率が低かったさらに前作の『つ ばさ』の場合は第一週世帯が84%とむしろ高 い。つまり,第一週世帯が占める比率は平均 視聴率の増減には関係していない。 以上の分析軸では視聴率急伸の原因を探る ことができなかった。『ゲゲゲの女房』で視聴 図 8 民放番組の場合 (%) 0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 純と愛 (2014 年) (%) 0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 花子とアン 1 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 (週目) (週目) (2015 年) (%) 0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 あさが来た 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 (週目) (2012 年) (%) 0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 (週目) 18% 82% 第一週に「朝ドラ」を視聴しなかった世帯 第一週に「朝ドラ」を視聴した世帯 (2011∼2015 年) 第一回を視聴しなかった世帯 第一回を視聴した世帯 (%) 下町ロケット (週目) 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 75% 25% (%) 0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 (週目) 23% 77% 第一週に「朝ドラ」を視聴しなかった世帯 第一週に「朝ドラ」を視聴した世帯 (%) ウェルかめ ゲゲゲの女房 (週目) 0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 75% 25% 0 5 10 15 20 25 44% 56% (%) 99.9 (週目) 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 75% 25% 0 5 10 15 20 25 41% 59% (2015 年) (2016 年) ※図中の枠囲みの数値は,「朝ドラ」を視聴したのべ世帯を 100%とした場合の比率 ※図中の枠囲みの数値は,各番組を視聴したのべ世帯を 100%と した場合の比率 図 7 第一週世帯の比率 9 番組の平均

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率がなぜ急に上がったのか,このテーマについ ては後日改めて取り組んでみたいと考えている。 ◇毎日見た世帯はその後も毎週見る ここまでのデータは,第 2週以降の視聴者 にどれだけ第一週世帯が含まれているかを集 計したもので,第一週世帯がその後どれだけ の頻度で番組を見ているかは分からない。も ちろん,図7で大面積を占める第一週世帯が みな毎週見ているわけではない。 そこで第一週世帯のうち,次週以降どの週 も欠かさず「朝ドラ」を見た世帯がどのくら いあるのか,集計してみた。あわせて,毎週 まではいかないが1〜2週だけ見損なった世帯 も含めるとどのくらいあるのかも集計した(集 計の詳細は34ページの表 5にまとめて掲載し た)。その結果,全週欠かさず見ているのは 平均で第一週世帯のちょうど50%,2週まで 見損なった世帯が平均で 62%という結果に なった。新番組が始まるときに見てくれる視 聴世帯は,その半分から6割程度はその後も ほぼ欠かさず見てくれているわけである13) この集計結果をみれば,先に述べた「開店 一週間にどれだけ客を呼べるかで売り上げは だいたい決まってしまう」というのももっと もだと頷ける。最初から見てくれる視聴者が どれほど大事かも分かるだろう。 さて,これまで述べてきた第一週世帯とは, 「最初の週に「朝ドラ」を 1度以上,5分以上 見た世帯」という定義である。つまり「1週 間にたった 5分だけ見た世帯」も含まれるわ けだから,感覚的に“だいぶ見方の薄い視聴 者”のことのように思われがちである。 そこで第一週世帯が平均して第一週に何日 「朝ドラ」を見たのかを,『ウェルかめ』以来 の番組について集計した(表 1)。平均視聴日 数は 6日のうち 3.6日という結果であった。6 日のうち 1日だけから 6日全部までが均等で あれば 3.5日になるのだから,上の結果は熱 心な視聴者もそうでない視聴者も満遍なく混 じっているということになる。そしてこのデー タには番組による差はみられるものの,視聴 日数が多ければその後の視聴率が高くなる, などといった関係性は見出せない。 ただ,第一週にどれほど熱心に(=多くの 日数)見てくれたかということと,その後も どれくらい見続けてくれるか,ということに は大いに関係がある。 第一週の視聴日数別についても,「その後 毎週見た世帯」「欠けたのが 2週以内の世帯」 図 9 『ウェルかめ』と『ゲゲゲの女房』の場合 (%) 0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 (週目) 23% 77% 第一週に「朝ドラ」を視聴しなかった世帯 第一週に「朝ドラ」を視聴した世帯 (%) ウェルかめ ゲゲゲの女房 (週目) 0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 75% 25% (2009 年) (2010 年) ※図中の枠囲みの数値は,「朝ドラ」を視聴したのべ世帯を 100%とした場合の比率

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を集計した(表 1)。6日全部見た世帯では, その後毎週見た世帯が平均 83%,欠けたの が2週以内の世帯が平均 92%にも及んだ。こ の集計結果をグラフにしてみると(図10),6 日のうち5〜6日見た世帯では8割前後の世帯 がその後もほぼ毎週見てくれる,3〜4日見 た世帯ではおよそ 5〜6割の世帯がその後も ほぼ毎週見てくれる,そして最初の週で 1〜 2日しか見なかった世帯ではそれが 1〜2割程 度に下がってしまう,ということが分かる。 以上を一言で言えば,第一週に毎日見た世 帯はその後も毎週見る,とまとめられるだろう。 ◇第一週世帯は前作も見ている それでは,第一週に「朝ドラ」を見ている 視聴者はどのような視聴者なのか。この問い に対して視聴率集計に答えられることは少な いが,まず第一週世帯が前作も見ていたかど うかを集計してみた。 表 2は,『カーネーション』以降の第一週 世帯を,前作の最終週を見ていたかどうかで 分類し,その比率をまとめたものである。前 作も見ていたという世帯は最小で 77%,最 大で89%とやや幅はあるが,平均して82%, やはり第一週世帯の大多数が前作以来の視聴 者である。 一方,前作を見ておらず,新番組から見 始めた世帯はどうであろうか。平均で 18%, 「朝ドラ」視聴世帯の中では2割を切る程度の 少数派ではある。だが,「朝ドラ」視聴率の 20%強という数字の 2割を,新規に見てくれ る視聴世帯に負っているとしたら,単純計算 で 4%程度の寄与に当たり,決して小さな数 字ではない。 図 6や図 9のグラフに見るように,視聴率 の大きな部分がいわば「ファン層」に当たる 表 1 第一週に視聴した日数の分析 (日) 全週視聴した世帯率(%) 2週以内欠落の世帯率(%) 平均日数/ 第一週 6日 5日第一週に見た日数4日 3日 2日 1日 6日 5日第一週に見た日数4日 3日 2日 1日 ウェルかめ 3.3 71 76 43 32 14 9 93 88 43 37 24 12 ゲゲゲの女房 3.4 80 65 46 40 31 8 90 85 69 60 50 16 てっぱん 3.5 82 63 50 60 7 2 92 89 63 90 13 10 おひさま 3.2 86 92 45 38 21 9 95 92 64 62 38 16 カーネーション 3.6 86 84 60 53 33 11 89 95 70 87 38 25 梅ちゃん先生 3.7 84 79 57 56 19 3 95 92 71 67 19 11 純と愛 3.5 69 52 29 31 23 2 81 66 53 44 38 14 あまちゃん 3.5 97 64 60 50 6 15 100 76 70 58 33 27 ごちそうさん 3.7 79 74 58 60 8 30 88 89 63 65 23 0 花子とアン 3.8 79 80 71 47 26 6 98 88 76 87 42 16 マッサン 3.6 94 72 60 40 19 7 96 84 60 60 29 15 まれ 3.8 73 70 55 33 17 10 84 74 65 60 39 13 あさが来た 3.7 96 83 70 50 36 14 98 100 75 83 68 20 (平均) 3.6 83 73 54 45 20 10 92 86 65 66 35 15 図 10 第一週に見た日数とその後の視聴 (%) 0 20 40 60 80 100 2週以下欠落 全視聴 1 日 2 日 3 日 4 日 5 日 6 日 2 週以内欠落 全週視聴

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視聴世帯に支えられているが,グラフが上が り下がりする部分はむしろ途中から見に来て くれる視聴世帯が原因になっている。また, 図 1で見たように近年の「朝ドラ」は視聴者 の「心」をつかんで頻度高く見てもらうこと によって視聴率を伸ばしてきたが,視聴頻度 はすでにかなり高い水準に至っており,さら なる改善の余地はあまり大きくないだろう。 今後も視聴率を上げるためには視聴者の広が りを拡大することが不可欠だと思われる。 従って,新規に「朝ドラ」を見始める世帯 のデータはますます注視しなければならない だろう14)。ただ,新規の視聴者がどのような 視聴者なのか,この問いに視聴率集計で答え られることはさらに少ない。表 3にささやか な分析の試みを示した。新規の視聴世帯のう ち,前の週の同時間帯に他のチャンネルを見 ていた世帯が 81%,テレビを見ていなかっ た世帯が 19%であった。他のチャンネルを 見ていた世帯が新番組の始まるのに合わせて チャンネルを変えたケースが多数を占める一 方,「朝ドラ」新番組のためにそれまで見て いなかったテレビをわざわざつけてくれた世 帯も5軒に1軒,という結果だった。 ◇新番組は月曜から見る 最後に,視聴者は新番組を第一週の何曜日 から見始めたのかを集計した。表 4にまとめ たのは2016年度放送の『とと姉ちゃん』のデー タである。初日の月曜日から見始めた世帯が 68%と圧倒的に多く,火曜日に見始めた世帯 の 11%を加えると,8割は最初の 2日間から 見始めている。やはり,せっかく見るのなら 最初からと考える視聴者が多いのだろう。 一方,第一週のうち1日しか見なかった世 帯が全世帯の8%超にのぼったのだが,それ らの世帯が何曜日に見たのかを調べると, やや結果が異なる。最も多いのが土曜日で 31%,次いで月曜日の 24%である。新番組 の最初の週,土曜日だけ見るという視聴者が それなりに存在していることも少し考慮した 方がいいかもしれない。 表 2 第一週世帯が前作を見ていた比率 表 3 新規視聴世帯の内訳 表 4 最初に見始める曜日 (『とと姉ちゃん』データ) 前作も見た 新番組から カーネーション 84 16 梅ちゃん先生 77 23 純と愛 82 18 あまちゃん 77 23 ごちそうさん 83 17 花子とアン 83 17 マッサン 83 17 まれ 89 11 あさが来た 81 19 (平均) 82 18 他チャンネルから 前週はテレビを見ていない カーネーション 81 19 梅ちゃん先生 74 26 純と愛 71 29 あまちゃん 89 11 ごちそうさん 74 26 花子とアン 85 15 マッサン 88 12 まれ 75 25 あさが来た 84 16 (平均) 81 19 第一週世帯全体 1日しか見なかった世帯 月 68 月 24 火 11 火 14 水 6 水 10 木 2 木 6 金 5 金 14 土 7 土 31 N=209 N=49 (%) (%) (%)

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3.まとめ

「朝ドラ」研究チームではこんな冗談を言 うことがある。 「もしも『あまちゃん』の視聴率が飛び抜け て高かったならどれほど物事は分かりやすく なっていたことだろう。そうであったならば, 今頃はこんな調査や分析に時間を使うより, SNS や巷で「朝ドラ」の話題を盛り上げるの にどんな処方箋が役立つのか,あれこれと試 していたことだろう」 あんなに世間が盛り上がったのにそれほど 視聴率は上がらなかった。それなのにその後 理由もよく分からないまま視聴率は上がり, 高視聴率を維持している。「朝ドラ」好調は 視聴者がテレビに何かを求めていることを示 している。だが何を求めているのかがはっき りしない。まだ,調査分析は続きそうだ。 最終的には,「朝ドラ」はなぜ視聴率が上 がり,高いのか,その理由を知ることだ。だ 100%=第一週世帯 100%=全世帯 全部の週を 視聴した世帯率 2週以内欠落の世帯率 見ない世帯率以後一度も 第一週に視聴した世帯の比率 平均視聴率 「朝ドラ」の全視聴世帯に第一週世帯が占める比率 ふたりっ子 61 70 2 44 29.0 82 あぐり 63 77 0 41 28.4 81 甘辛しゃん 53 70 3 44 26.6 85 天うらら 59 71 1 44 27.7 86 やんちゃくれ 50 62 3 42 22.5 85 すずらん 57 69 2 40 26.2 82 あすか 59 70 2 41 24.4 85 私の青空 55 74 1 40 24.1 79 オードリー 53 57 3 40 20.5 85 ちゅらさん 46 65 0 36 22.2 81 ほんまもん 55 64 3 41 22.6 84 さくら 52 66 1 41 23.3 82 まんてん 55 65 2 37 20.7 83 こころ 56 64 1 38 21.3 84 てるてる家族 47 57 3 35 18.9 83 天花 41 52 1 36 16.2 78 わかば 44 53 2 34 17.0 81 ファイト 42 54 2 31 16.7 78 風のハルカ 51 62 0 31 17.5 81 純情きらり 49 63 4 35 19.4 78 芋たこなんきん 47 60 1 33 16.8 84 どんど晴れ 56 70 1 31 19.4 80 ちりとてちん 54 68 2 28 15.9 82 瞳 43 59 4 28 15.2 75 だんだん 46 55 5 29 16.2 76 つばさ 31 38 2 35 13.8 84 ウェルかめ 38 48 3 29 13.5 75 ゲゲゲの女房 43 58 0 31 18.6 77 てっぱん 43 55 2 33 17.2 82 おひさま 44 55 4 34 18.8 75 カーネーション 55 66 2 30 19.1 76 梅ちゃん先生 51 61 0 32 20.7 78 純と愛 44 61 2 29 17.1 78 あまちゃん 50 62 1 35 20.6 81 ごちそうさん 52 63 1 38 22.4 84 花子とアン 54 69 1 36 22.6 83 マッサン 51 59 0 36 21.1 85 まれ 47 58 0 34 19.4 81 あさが来た 61 72 3 36 23.5 82 (平均) 50 62 2 36 20.4 81 表 5 集計データのまとめ (%)

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が一足飛びにその答えを見つけるのは難しそう だ。だから解明のためには,視聴率が急に上 がったとき何が起こっていたのか,逆に下がる ときは何が起こったのか,またシリーズの途中 でいわゆる「中だるみ」が起こるときはどうか, 視聴頻度が高まるときと視聴者の広がりが拡 大するときはどうか,などのテーマを積み重ね ていくことになるだろう。 (さいとう けんさく) 注: 1) 「朝ドラ『あまちゃん』はどう見られたか」『放 送研究と調査』2014 年 3 月号参照。 2) 「朝ドラ」を除くと,10 週の間に 20%を超え る番組(スポーツ・報道以外)が 2006 年には 23 番組あったが,2016 年には 5 番組まで減少 している。2006 年にはドラマの『功名が辻』 (NHK),『マイボス・マイヒーロー』(日本テレ ビ)やバラエティーの『エンタの神様』(日本 テレビ),『SMAP × SMAP』(フジテレビ)など, 通常番組もしばしば 20%を超えて上位にラン クされていた。一方,2016 年は『24 時間テレ ビ』のほかはドラマでは『ドクター X 外科医・ 大門未知子』(TBS)のスペシャルと『盲目の ヨシノリ先生』(日本テレビ)の 2 番組だけで, あとの 2 つは『笑点』(日本テレビ)である。 3) 「連続テレビ小説『あさが来た』はどのように見ら れたか」『放送研究と調査』2016 年 9 月号参照。 4) 「最近好調な「朝ドラ」を,視聴者はどのように見 ているのか? 続編」『放送研究と調査』2016 年 4 月号参照。 5) 平均視聴率 15%の番組があったとして,例え ば次のように計算される。 累積到達率=40%(全視聴者の4割が見た) 視聴頻度=50%(平均して半分の回を見た) 視聴時間=75%(60分なら平均45分視聴) すると視聴率は40%×50%×75%=15%となる わけである。 6) 『ふたりっ子』の累積到達率は 76.6%,視聴頻度 は 150 回中平均 60.1 回の視聴で 40.1%であった。 7) 図 3,図 4 の視聴率について,100%にあたるの は『ふたりっ子』の 29.0%である。仮に,視聴率 と占拠率との差が 5%あるとしたら,視聴率に与え る影響の度合いは【29.0%× 5/100=1.45%】と計 算できる。 8) 週は月曜日〜土曜日を 1 週間とする。年末年始 を挟む時点では,シリーズによって週の途中で 年が終わり,週の途中で新年の放送が始まるも のがあるが,この場合も月〜土を 1 週間として 集計した。また,放送事故や災害などで放送に イレギュラーが生じたケースでは,仕切り直し て放送したものを集計の対象とした。 9) 番組を「見た」ということの集計上の定義は,1 番組の放送時間のうち 3 分の 1 以上(「朝ドラ」 の場合は 5 分以上)を見たものを「見た」とみなす, というものである。これはビデオリサーチ社の視 聴率集計システムのデフォルト設定である。 10) MROC:Marketing Research Online Community の略。オンライン上に設けたコミュニティーで,一 定の期間(1 〜 2 か月)メンバー同士のディスカッ ションやアンケートなどを通して,人々の本音を探 る調査手法。 11) 「最近好調な「朝ドラ」を,視聴者はどのよう に見ているのか?」『放送研究と調査』2016 年 3 月号参照。 12) 『ゲゲゲの女房』から,放送開始時間がそれまでの 8 時 15 分から 8 時ちょうどに 15 分繰り上がった。 この変更と視聴率急伸の時期が一致するため,放 送開始時間の変更が視聴率急伸の原因である可 能性はあるが,今のところ確証はない。少なくとも それだけですべてが説明できるとは考えにくい。 13) ちなみに,第 2 週から見始めた世帯について同 じ集計を行ってみると,以後全週見た世帯は平 均で 7%に過ぎない。 14) ただし残念ながら,新規に見始める世帯と視聴 者の広がりとの間に明確な関係は見出せない (参考図)。むしろ,新規視聴者をどうすれば視 聴者の広がりに結び付けることができるか,が 課題となるだろう。 (参考図)新規率と累積到達率 (%) (%) 0 5 10 15 20 25 30 35 累積到達率(右軸) 新規率(左軸) 40 45 50 55 60 65 70 75

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