• 検索結果がありません。

平成23年度産業金融システムの構築及び整備調査委託事業,我が国の個人金融資産の資産運用高度化のための調査報告書

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "平成23年度産業金融システムの構築及び整備調査委託事業,我が国の個人金融資産の資産運用高度化のための調査報告書"

Copied!
102
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

1

経済産業省

平成 23 年度 産業金融システムの構築及び整備調査委託事業

「我が国の個人金融資産の

資産運用高度化のための調査」

報告書

2012 年 2 月

株式会社野村資本市場研究所

(2)

2 はじめに 5 第Ⅰ章 我が国の個人金融資産の運用環境の整備に向けた調査 6 第1節 我が国での投資信託の現状 6 1.投資信託への資金流入動向と概況 2.投資信託の利用状況 3.世界の投資信託市場と我が国 第2節 米国の資本市場を支える投資信託 9 1.個人金融資産における投資信託の位置づけ 2.投資信託の市場規模の拡大 3.リスクキャピタルの供給源となる投資信託 4.投資信託市場の発展と、IRA と 401(k)プランの拡大 第3節 米国の投資信託市場拡大の背景 13 1.主要な投資信託の運用会社 (1)運用会社と投資信託のランキング (2)上位投資信託運用会社の特徴(バンガード) (3)上位投資信託運用会社の特徴(フィデリティ) (4)上位投資信託運用会社の特徴(キャピタル) 2.販売チャネルの多様化 (1)ブローカー (2)銀行 (3)直販 (4)製販分離の進展と、オープン・アーキテクチャ体制・販売支援業者 (5)インスティテューショナル 3.運用販売商品の拡充 (1)MMF (2)証券総合口座 (3)投資信託スーパー・マーケット

(4)セパレートリー・マネージド・アカウント(Separately Managed Account; SMA) と投信ラップ

(5)地方債ファンド (6)ETF

(7)REIT

(3)

3 (9)変額年金 (10)ライフサイクル・ファンド (11)リタイアメント・インカム用の投資信託 (12)海外株式ファンド 4.投資信託ビジネスを支える事務処理などのインフラ 第4節 税制優遇制度と市場を取り巻く諸規制 29 1.米国の老後に備える制度 (1)IRA (2)401(k)プラン (3)IRA や 401(k)プランの影響 2.米国の子供の教育支出に備える制度 3.その他の関連諸規制 (1)投資信託のディスクロージャー制度 (2)投信併合 4.各国にある類似の制度 (1)英国 ①老後に備える制度 ②子供の教育支出に備える制度 (2)オーストラリア、スウェーデン、フランス ①オーストラリア ②スウェーデン ③フランス 5.海外の制度環境を踏まえた我が国への示唆 第5節 我が国での個人金融資産の運用環境の整備に向けて 45 1.我が国での投資信託の利用状況 2.投資信託の普及に向けた課題 3.我が国の投資信託市場が目指すべき方向性 (1)投資信託市場の発展が期待される背景 (2)長期投資資金を呼び込むために必要な具体的な施策 ①老後に備えるため:確定拠出年金制度の改善 ②教育支出に備えるため:個人奨学金口座の導入

(4)

4 第Ⅱ章 上場企業の企業価値向上に資する金融商品に関する調査 55 第1節 投資信託など機関投資家と上場企業との関係に注目する背景 55 1.資本市場における投資信託の果たす役割 2.投資の観点からみた我が国の株式市場の現状 第2節 投資信託・年金基金などの機関投資家による、投資先日本企業との関係構築 57 1.実際の取組み状況 (1)国内大手機関投資家 (2)新興機関投資家 (3)海外大手機関投資家からの受託者 2.株主行動軸から再整理した投資信託・年金基金などの機関投資家による取組状況 (1)企業との直接対話 (2)議決権行使と株主総会での議案提出 3.投資先企業の反応と株主行動への評価 (1)投資先日本企業の反応 (2)株主行動への評価 第3節 投資信託・年金基金などの機関投資家による、投資先日本企業との 65 関係構築へ向けた制度的背景 1.議決権行使 2.その他の関係構築へ向けた制度 (1)独立取締役の活用 (2)スチュワードシップ・コードのような行動規範の策定 第4節 我が国での上場企業の付加価値向上に取り組む金融商品の普及に向けて 67 1.投資信託・年金基金などの機関投資家が、投資先企業との関係構築で目指して いるもの (1)国内大手機関投資家 (2)新興機関投資家 (3)海外大手機関投資家からの受託者 2.金融商品の普及に向けた障壁や課題について (1)法的及び制度的な障害 (2)人的資源上の課題 (3)ビジネスモデル上の課題など (4)上場企業の付加価値向上に取り組む金融商品の普及に向けて 補論 ヒアリング調査概要 73

(5)

5 はじめに 我が国が持続的な経済成長を達成するには、成長途上にある企業が資金調達を円滑に行 うことができる、層の厚い資本市場の実現が重要である。そのためには、我が国の個人金 融資産が、企業に成長資本を供給するリスクマネーとして、資本市場へ流入するための運 用環境整備が必要である。また同時に、これまで我が国では、銀行等による融資が中心と なってきたが、近年は相対型金融への過度の偏重を改め、市場型金融を発展させ複線的金 融システムを持つことが重要との方向で議論が進められている。「投資信託」は、その重 要な役割を果たすビークルとして期待されている。 資本市場において投資信託が果たす具体的な機能としては、個人の小口資金を集めて資 本市場へ導く機能と、その資金を企業へ供給する機能の二つに分けられる(図 0−1参照)。 そこで第Ⅰ章では、個人投資家にとって相応しい運用手段としての投資信託に注目し、現 状と課題を調査する。第Ⅱ章では、企業へ成長資本を供給する手段としての投資信託に注 目し、投資信託(も含めた機関投資家)と上場企業との関係構築の現状と課題を調査する。 それらから得られる示唆を踏まえて、我が国の個人金融資産の資産運用高度化に向けた施 策を検討したい。 図表 0−1 報告書の構成 公募 投資信託 上 場 企 業 年金 基金等 個 人 金 融 資 産 上場株 ファンド 第Ⅰ章 第Ⅱ章

(6)

6 第Ⅰ章 我が国の個人金融資産の運用環境の整備に向けた調査 第Ⅰ章では、投資信託の個人の小口資金を集めて資本市場へ導く機能に注目する。投資 信託は、小口資金が主となる個人投資家が有価証券へ投資する際、分散投資によるリスク 軽減と、資金プール化による効率性の実現、専門家の運用による情報や投資手法の優位性 を享受できるという点で、個人にとって相応しい運用手段であると考えられる。そこでま ず、我が国の投資信託の現状について、資金流入動向や個人の利用状況などを確認する。 その後、世界最大の投信国である米国における投資信託産業の発展経緯や、それを支える 税制優遇制度などについて調査する。海外諸国にも同様の制度が導入されているので、そ の点についても述べていく。このような諸外国における投資信託市場の発展経緯や制度を 踏まえて、本章最後では我が国で求められる施策を検討する。 第1節 我が国での投資信託の現状 1.投資信託への資金流入動向と概況 我が国の公募投資信託市場は現在、57 兆円の資産規模を持つ。80 年代に急速な成長を遂 げており、80 年に 6 兆円であった資産残高は、89 年には約 10 倍の 58.6 兆円にまで拡大し た。しかし、バブル崩壊を区切りとして 90 年代は資産残高の伸び悩みが続いた。その後、 90 年代後半から断続的に投資信託の販売チャネル・運用・商品の各分野で改革が行われる 中で、04 年から 8 年連続の資金流入となっており、世界的な金融危機の最中でも一時的に 減ったものの資金流入を維持している。特に株式ファンドでは、98 年の金融システム改革 以降、14 年連続の資金流入となっている。その結果、2011 年末の資産残高は、10 年前と 比較して 25%増の 57 兆円となっている(図表Ⅰ−1、2)。 図表Ⅰ−1 投資信託の資産残高 図表Ⅰ−2 投資信託の資金純流出入 (出所)投資信託協会より野村資本市場研究所作成 (出所)投資信託協会より野村資本市場研究所作成

(7)

7 近年、投資信託へ資金が流入した背景としては、①金融システム改革の効果(特に銀行 窓販の解禁などによる販路の拡大)、②低金利が続く中で、個人投資家が資産の一部を、 リスクはあるものの預金よりも高いリターンが期待できる投資信託に移したことなどが考 えられる。 投資信託の販売は、51 年の発足以来、専ら証券会社によって行われてきたが、98 年の金 融システム改革において、銀行本体による投資信託の販売が解禁されたほか、05 年には郵 政民営化に先駆けて郵便局での投資信託の販売も始まり、販売チャネルが拡大した。2011 年末時点では、銀行等の登録金融機関(ゆうちょ銀行含む)による販売が投資信託の資産 残高に占める割合は公募投資信託全体で 40%、公募株式投資信託では 48%にまで高まっ ている(図表Ⅰ−3)。 図表Ⅰ−3 公募投資信託の販売チャネル別残高内訳(2011 年末) 公募投資信託全体 公募株式投資信託 証券会社 59.8% 銀行等 39.6% 直販 0.6% 証券会社 51.7% 銀行等 47.6% 直販 0.7% (出所)投資信託協会より野村資本市場研究所作成 他方、投資信託の運用・商品においても、断続的に改革が行われている。98 年の金融シ ステム改革では、運用会社によるファンド運用指図の外部委託が可能になったほか、投資 信託の設立に関する規制が緩和され承認制から登録制となった。また、00 年には投資対象 が 有 価 証 券 以 外 の も の に ま で 拡 大 さ れ た こ と に 伴 い 、 不 動 産 投 資 信 託 ( Real Estate Investment Trust; REIT)が 01 年に初めて東京証券取引所(東証)に上場されたほか、同年 には初めて上場投資信託(Exchange Traded Fund; ETF)も東証に上場された。このほか、 08 年には、投資信託の運用対象商品としてコモディティが加わった。

2.投資信託の利用状況

前述のように我が国の投資信託市場は発展を遂げてきたが、約 1,500 兆円の個人金融資 産に占める投資信託の割合は 11 年 6 月末時点で 3.5%にとどまっている。

(8)

8 投資信託協会の調査1 によると、個人投資家による投資信託の保有比率は 9.4%となってい る。保有比率は、年代が上がるにつれて高くなり、70 歳以上では 17.7%になる一方、20 代 では 1.3%、30 代では 5.7%にとどまっており、投資信託の保有が高齢者に偏る傾向がみら れる。投資信託を保有している個人投資家の合計平均購入額は、390 万円となっている。 3.世界の投資信託市場と我が国 海外の投資信託市場に目を向けてみると、世界の投資信託の資産残高は 11 年 9 月末時点 で 23.1 兆ドルであり、うち米国がほぼ半分の 11 兆ドルを占めている。米国以外には、投 資信託の登録地という位置づけとなっているルクセンブルクとアイルランドを除けば、フ ランス、オーストラリア、ブラジル、英国の順に続き、我が国となっている(図表Ⅰ−4)。 他方、投資信託の種類別構成を見ると、米国・フランス・オーストラリアは MMF(Money Market Fund)の比率が高い(図表Ⅰ−5)。我が国の種類別構成は株式ファンドの割合が多 く2 、どちらかというと英国に似ているといえるだろう。 図表Ⅰ−4 主要国の投資信託の資産残高 図表Ⅰ−5 主要国の投資信託の種類別構成 (注) 2011 年 9 月末時点。 (注) 2011 年 9 月末時点。 (出所)ICI より野村資本市場研究所作成 (出所)ICI より野村資本市場研究所作成 世界最大である米国の投資信託市場は、80 年代後半以降、急成長を遂げ、85 年に 0.5 兆 ドルにすぎなかった資産残高が 90 年代を通じて順調に拡大し、00 年代には IT バブルの崩 壊や金融危機の影響によって減少する局面もあったが、現在も投資信託大国としての地位 に揺るぎはない。80 年代の米国では確定拠出年金が普及し始め、株式市場が上昇基調にあ る中で、ベビーブーマー層(46 年∼64 年生まれ)が退職後の資産形成を目的にして投資信 1 投資信託協会(2011)「投資信託に関するアンケート調査報告書 2011 年」 2 ただし、日本では、約款に株式に投資できる旨が記載されている投資信託を株式投資信託として分類し ていることから、世界各国のソブリン債などに投資する分配型ファンドも株式投資信託に含まれている 場合がある。11 年末時点では、株式投資信託の資産残高のうちの 3 割を公社債が占めている。

(9)

9 託を購入する動きが広がった。米国の投資信託市場が拡大した要因としては、退職後の資 産形成ニーズと、それに応えた確定拠出年金などの資産形成制度があると考えられる。 資産形成制度という面では、英国やフランス、オーストラリア、スウェーデンなどにお いても個人の資産形成手段の 1 つとして投資信託の活用を促す制度的な枠組みが米国の後 を追うように主に 90 年代以降相次いで導入されており、これらの制度が各国の投資信託市 場の発展に寄与していると考えられる。 そこで、世界最大の投資信託市場であり、他国に先行して制度導入・整備が進んだ米国 を中心に、投資信託市場の発展経緯を述べていきたい。 第2節 米国の資本市場を支える投資信託 1.個人金融資産における投資信託の位置づけ 現在でこそ世界最大の投資信託大国となっている米国においても、70 年代には、個人金 融資産に占める投資信託の割合は平均 1.4%であり、個人金融資産の多くは現預金と株式 で占められていた。しかし、投資信託の割合は 80 年代からは一貫して増加しており、年金 準備金のうち確定拠出型年金の資産を個別の資産に計上して計算すると、90 年代には現預 金の割合を上回り、11 年 6 月末には 19%にまで増加している(図表Ⅰ−6)。 図表Ⅰ−6 米国の個人金融資産の構成 図表Ⅰ−7 米国の投資信託の保有世帯数・割合 0 10 20 30 40 50 60 0 1,000 2,000 3,000 4,000 5,000 6,000 80 82 84 86 88 90 92 94 96 98 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 投信保有世帯数(左軸) 保有世帯割合(右軸) (万世帯) (%) 0% 5% 10% 15% 20% 25% 30% 35% 70 73 76 79 82 85 88 91 94 97 00 03 06 09 現預金 株式 債券 投資信託 保険準備金 (年) (年) (注) 1.投資信託は MMF と変額年金の残高含む。 (注) 保有世帯割合は全世帯数に対する比率。 2.年金準備金のうち、確定拠出型年金の (出所)ICI より野村資本市場研究所作成 資産は個別の資産に計上。 3.2011 年 6 月末までの数値。 (出所)FRB、ICI より野村資本市場研究所作成

(10)

10 投資信託を保有する世帯数を見ると、2011 年では、米国の全世帯のほぼ半分にあたる 5,000 万超が投資信託を保有している(図表Ⅰ−7)。保有世帯の世帯主の 82%は 64 歳以下 の現役世代であり、64%が年収 10 万ドル未満(1 ドル 75 円換算で 750 万円)となってい ることから、富裕層や高齢者に偏らず、現役の一般的な世帯に投資信託が広く普及してい ることがわかる(図表Ⅰ−8、9)。 図表Ⅰ−8 米国の投資信託保有者の 図表Ⅰ−9 米国の投資信託保有者の 年齢別内訳 年収別内訳 35歳未 満 15% 35∼44 歳 20% 45∼54 歳 27% 55∼64 歳 20% 65歳以 上 18% 2万5000㌦未 満 6% 2万5000∼ 3万4999㌦ 6% 3万5000∼ 4万9999㌦ 13% 5万∼ 7万4999㌦ 20% 7万5000∼ 9万9999㌦ 19% 10万∼ 14万9999㌦ 21% 15万∼ 24万9999㌦ 11% 25万㌦以上 4% (注) 2010 年の数値。 (注) 1.2010 年の数値。 (出所)ICI より野村資本市場研究所作成 2.年収は 2009 年の税引き前収入ベース (出所)ICI より野村資本市場研究所作成 2.投資信託の市場規模の拡大 米国の投資信託市場は、80 年代以降、個人からの資金流入が継続する中で順調に規模が 拡大し、85 年に 0.5 兆ドルにすぎなかった資産残高は、2011 年には 11 兆ドルにまで拡大し た(図表Ⅰ−10)。80 年代には債券ファンドや MMF が投資信託市場の過半を占めていた が、その後は株式市場が好調に推移したこともあり、キャピタル・ゲインを目指したグロ ースファンドなどの米国株を中心に投資する投資信託に資金が集まった。IT バブルが崩壊 してからは、国際分散投資効果や成長著しい海外企業から投資収益を得ようとする動きが 強まり、海外株式ファンドへの資金流入が顕著となった。08 年の金融危機以降では投資家 のリスク回避の動きもあり、債券ファンドに資金が流入する傾向にある(図表Ⅰ−11)。

(11)

11 図表Ⅰ−10 米国の投資信託の資産残高 図表Ⅰ−11 米国の投資信託への資金流出入 -6,000 -4,000 -2,000 0 2,000 4,000 6,000 8,000 10,000 90 92 94 96 98 00 02 04 06 08 10 MMF 債券ファンド バランス型ファンド 株式ファンド 0 2 4 6 8 10 12 14 84 86 88 90 92 94 96 98 00 02 04 06 08 10 MMF 債券ファンド バランス型ファンド 株式ファンド (兆ドル) (億ドル) (年) (年) (注) 2011 年 11 月までの数値。 (注) 2011 年 11 月までの数値。 (出所)ICI より野村資本市場研究所作成 (出所)ICI より野村資本市場研究所作成 3.リスクキャピタルの供給源となる投資信託 投資信託市場の拡大は、個人の資金をリスクキャピタル(成長資本)として企業に供給 する投資信託の役割を強めている。投資信託は、2010 年で株式全体の 25%、社債全体の 14%を保有しており、企業の資金調達の上で重要な存在となっている(図表Ⅰ−12)。米国 では、投資信託に対して議決権行使記録の開示を義務付ける規則改正が 03 年に行われてい るが、その背景の 1 つとして、投資信託による株式保有が増加し、投資信託の機関投資家 としての存在感が高まっていたことがある。投資信託の企業に対する影響力が高まってい ることを示す 1 つの証左といえるだろう。 図表Ⅰ−12 米国の株式・社債の発行残高に占める投資信託の保有割合 (注)1.投資信託には ETF も含まれている。 2.2010 年までの数値。 (出所)米国商務省国勢調査局より野村資本市場研究所作成

(12)

12

4.投資信託市場の発展と、IRA と 401(k)プランの拡大

米国において投資信託と個人を結びつけた大きな要因の 1 つとして、税制優遇が付いた 確定拠出型の年金制度の普及が指摘できる。個人が保有する投資信託の残高を、①企業が 提供する確定拠出型の年金制度(401(k)プランなど)を通じた保有、②個人を対象とする 確定拠出型の年金制度(Individual Retirement Account; IRA)を通じた保有、③それ以外の 手段(証券会社の窓口など)を通じた保有に分けてみると、いずれの手段を通じた保有残 高も増加しているものの、①や②を通じた投資が目立って拡大していることがわかる(図 表Ⅰ−13)。これら 2 つを通じた投資信託の保有残高は、全体の 4 割を超えるまでに拡大し ている。 図表Ⅰ−13 米国の個人による入口別の投資信託保有残高 (注) 1.職域の確定拠出型年金は、401(k)プラン、非営利組織職員向け確定拠出型年金、地方公務員確定 拠出型年金など。 2.2011 年第 1 四半期までの数値。変額年金経由の数値は 1996 年以降。 (出所)FRB、ICI より野村資本市場研究所作成

また、米国投資信託協会(Investment Company Institute; ICI)が 2011 年に行った調査によ ると、投資信託の保有者のうち、企業が提供する確定拠出型の年金制度を通じて初めて投 資信託を購入した人の割合は 6 割に上っており、米国で投資信託が現役世代にまで広く普 及した要因となっている(図表Ⅰ−14)。他方、投資信託の保有者のうち、現在投資信託 を保有しているチャネルが、企業が提供する確定拠出型の年金制度のみである人は 3 割と

(13)

13 なっていることから、企業が提供する確定拠出型の年金制度を通じて初めて投資信託に投 資した後に、それ以外のチャネルも使って投資信託に投資し始めた人が相当数存在すると いえるだろう(図表Ⅰ−15)。 図表Ⅰ−14 初めて投資信託を購入した 図表Ⅰ−15 現在、投資信託を保有している チャネル(米国) チャネル(米国) 職域の確定 拠出型, 62% それ以外,  38% 拠出型のみ, 職域の確定 32% 両方, 37% 職域の確定 拠出型以外 のみ, 31% (注)職域の確定拠出型年金は 401(k)プラン、非営利組織職員向け確定拠出型年金、 地方公務員確定拠出型年金など。

(出所)ICI "Characteristics of Mutual Fund Investors, 2011"より野村資本市場研究所作成

第3節 米国の投資信託市場拡大の背景 米国で投資信託市場が拡大した背景には、IRA や 401(k)プランなど税制優遇制度が導入さ れそれに伴い個人から資金が流入したことや、運用会社・販売チャネル・運用商品におけ る多様化の進展が投資家のニーズに合った多様な商品・サービスを生み出し個人からの資 金流入の受け皿となったこと、が挙げられる。本節ではまず後者に焦点を当てて述べ、前 者については第4節で詳述する。 1.主要な投資信託の運用会社 (1)運用会社と投資信託のランキング 米国の投資信託市場では、①バンガード、②フィデリティ、③キャピタルという大手運 用会社 3 社が 2010 年末時点で、3.2 兆ドルの資産を運用しており、資産運用業界の拡大の 牽引役となっている(図表Ⅰ−16、17)。これらの大手運用会社 3 社は、それぞれが異なる 特徴的な個性を持ちながら、我が国の投資信託の資産残高の総額に匹敵する資産を運用し ており、米国の資産運用会社の多様性を代表する存在であるといえる。

(14)

14 図表Ⅰ−16 運用会社ランキング(米国、MMF 除く) 順位 運用会社 純資産残高 (億ドル) 順位 運用会社 純資産残高 (億ドル) 1 フィデリティ 5,381.3 1 バンガード 13,578.0 2 バンガード 4,935.8 2 フィデリティ 9,929.8 3 キャピタル・リサーチ 3,146.8 3 キャピタル・リサーチ 9,251.7 4 パトナム 2,213.0 4 ピムコ 4,162.2 5 ジャナス 1,845.3 5 フランクリン・テンプルトン 3,373.4 6 Tロウ・プライス 1,555.3 6 Tロウ・プライス 3,160.9 7 AIMインベストメンツ 1,049.0 7 ジョン・ハンコック 2,049.9 8 フランクリン 938.8 8 コロンビア 1,752.8 9 MFS 894.5 9 オッペンハイマー 1,435.5 10 アメリカン・センチュリー 845.6 10 ブラックロック 1,377.3 2010年 2000年 (出所)モーニングスター・プリンシピアより野村資本市場研究所作成 図表Ⅰ−17 2010 年の投資信託ランキング(米国) 1 ピムコ・トータル・リターン 債券 ピムコ 2,406.6 2 グロース・ファンズ・オブ・アメリカ 国内株式 キャピタル・リサーチ 1,541.0 3 バンガード・トータル・ストック・マーケット 国内株式 バンガード 1,325.1 4 バンガード500インデックス・ファンド 国内株式 バンガード 1,023.2 5 ユーロ・パシフィック・グロス・ファンド 海外株式 キャピタル・リサーチ 1,022.7 6 バンガード・インスティテューショナル・インデックス 国内株式 バンガード 883.3 7 バンガード・トータル・ボンド・ マーケット・インデックス・ファンド 債券 バンガード 772.3 8 キャピタル・ワールド・グロス・アンド・インカム・ファンド 海外株式 キャピタル・リサーチ 769.2 9 キャピタル・インカム・ビルダー 海外株式 キャピタル・リサーチ 767.5 10 フィデリティ・コントラ・ファンド 国内株式 フィデリティ・インベストメンツ 755.2 11 インカム・ファンド・オブ・アメリカ 国内株式 キャピタル・リサーチ 657.4 12 インベストメント・カンパニー・オブ・アメリカ 国内株式 キャピタル・リサーチ 586.5 13 フランクリン・インカム・ファンド 国内株式 フランクリン・テンプルトン 577.5 14 バンガード・ウェリントン・ファンド 国内株式 バンガード 538.7 15 バンガード・トータル・インスティテューショナル・ス トック・インデックス 国内株式 キャピタル・リサーチ 492.2 順位 ファンド名 分類 運用会社 純資産残高(億ドル) (出所)モーニングスター・プリンシピアより野村資本市場研究所作成 (2)上位投資信託運用会社の特徴(バンガード) バンガードは、他の運用会社を圧倒する低コスト戦略により差別化を図る戦略が奏功し、 08 年以降、米国の運用会社ランキングでトップの座を獲得している。 バンガードの運用体制は、銘柄選定が不要で、組入れ商品の入れ換えも少なくコストが 安いインデックス運用に注力する体制を採っており、債券ファンドとインデックス・ファ ンドに関しては自社で運用しているが、アクティブ運用の株式ファンドについては、外部 の運用会社をサブアドバイザーとして活用することで、自社ブランドのファンドの品揃え の幅を広げている。 バンガードは、インデックス・ファンド市場においては、2010 年時点で純資産残高が上 位 20 本のファンドのうち 15 本を同社のファンドが占めるなど、高いシェアを有している。

(15)

15

他方、ETF に関しては、ETF とインデックス・ファンドが競合するとの懸念などから ETF 市場への参入は 01 年と遅かったものの、直近では、低コスト戦略を武器に市場シェアを 徐々に拡大している。 販売チャネルに関しては、バンガードは、直販を主体としている。販売会社への手数料 がないため、その分のコストを引き下げることを狙っている。バンガードは、広告・宣伝 活動をほとんど行っておらず、利用者による評判の積み重ねを重視している。直近では、 アドバイス提供を求める投資家が増加していることに対応して、ウェブサイトや電話を通 じたアドバイザリー・サービスの内容を拡充させている。また、82 年よりフルサービスの 401(k)プランの提供を開始している。 (3)上位投資信託運用会社の特徴(フィデリティ) フィデリティは、90 年代後半に米国の投資信託市場が全体として大きな成長を遂げた中 にあって、最も躍進を遂げた運用会社の一つである。 運用では、2010 年末時点ではアクティブ運用の比率が 92%と高い。MMF を含め各種フ ァンドをバランスよく提供している一方で、運用資産の多くはマゼラン・ファンドやコン トラ・ファンドのような一部の旗艦ファンドによるものである。 米国内外の株式に投資するマゼラン・ファンドは、運用マネージャーであるピーター・ リンチ氏の下で、90 年までの 13 年間で平均 29%のリターン(年率)を実現し、97 年 9 月 末には、純資産残高があまりに多額となり運用に差し支えるとの判断から、一部を除き、 新規顧客の受け入れを停止するほどであった。しかし、その後はパフォーマンスの低下に 苦しみ、純資産残高は減少してきている。近年では、米国内外の大型株に投資するコント ラ・ファンドがフィデリティの最大ファンドとなっているが、ファンド・ランキングでは 10 位にとどまっている。 他方、販売面では、投資信託の直販モデルを構築したという特徴を持っている。70 年代 から長期にわたって株式市場が低迷し多くの運用会社から資金が流出する中で、フィデリ ティは、74 年に販売会社を経由しないで投資信託を直接顧客に販売する直販モデルを開始 し、70 年代半ばより徐々に拡大していった。マゼラン・ファンドを筆頭に高いパフォーマ ンスのファンドが、個人投資家からの人気を獲得したことが、直販モデルの確立に貢献し た側面もある。当初はコールセンターによる電話での直販が中心であったが、近年では、 コスト面の観点からウェブサイトの利用へのシフトが進められている。 また、フィデリティは金融ビジネスの総合化を進めており、大手運用会社であるという のは一側面にしか過ぎない。例えば、フィデリティはディスカウント・ブローカーとして の側面を持っており、ライバルであるバンガードを含め、他社の投資信託も数多く品揃え した投資信託スーパー・マーケットの展開を、早くから開始している。 このほか、米国最大の確定拠出プランのプロバイダーという一面も有している。80 年代 後半から確定給付型年金から確定拠出型年金への移行が進み、確定拠出型年金の運営管理

(16)

16 ビジネスが拡大していったが、フィデリティはその中心的なプレーヤーとなることで、自 らの確定拠出型年金ビジネスを確立することに成功した。 (4)上位投資信託運用会社の特徴(キャピタル) キャピタルは、1931 年の創業以来、長期投資という哲学を堅持し続けており、その方針 は投資に限らず、商品のトラックレコードや開発期間、社内アナリストの銘柄推奨期間、 従業員の評価期間や雇用期間など多岐にわたる分野で長期的な視点を重視している。 運用では、アクティブ運用を重視しているほか、インタビューを重視したグローバルな 調査体制(カントリー・スペシャリスト制でなく、グローバル・セクター制)に定評があ る。米国の資産運用会社の中で外国株式に投資した最初の会社でもあり、00 年代において、 海外株式ファンドに対する人気が高まると、同分野で強みを持つキャピタルの純資産残高 も増加し、07 年には運用会社ランキングで 1 位を獲得した。 キャピタルが提供する投資信託は、2010 年末時点ですべてがアクティブ運用となってい る。株式ファンドには、歴史の古いものが多く、最古のファンドで 586 億ドルの純資産残 高(2010 年時点)を有するインベストカンパニー・オブ・アメリカは、運用開始から 70 年以上が経過している。他方、債券ファンドの多くは 80 年以降に運用が開始されている。 キャピタルの投資信託の販売は、販売会社の営業担当者や独立系ファイナンシャル・ア ドバイザーを経由した対面方式での販売が中心であり、自社で広告や宣伝はほとんど行わ れていない。 2.販売チャネルの多様化 米国では、投資信託の販売チャネルも多様化している。投資信託の販売は、もともと、 証券会社の営業担当者が系列の運用会社の商品を対面で販売するという方法がほとんどで あった。現在でも、投資信託の販売チャネルの中心は証券会社の営業担当者であるが、系 列外の運用会社の商品も扱うようになっている。また、証券会社に所属しない独立系ファ イナンシャル・アドバイザーや、銀行、直販、証券会社以外の営業担当者による販売、 401(k)や IRA など確定拠出年金を経由するインスティテューショナルといった販売チャネ ルも拡大している(図表Ⅰ−18)。

(17)

17 図表Ⅰ−18 米国の投資信託の販売チャネル別の資産残高 (注) ブローカーには銀行など証券会社以外の販売チャネルも含まれる。 (出所)ICI より野村資本市場研究所作成 (1)ブローカー 米国においても、投資信託の販売の中心は、証券会社の営業担当者である。従来、大手 証券会社は、系列の運用会社の商品を中心に販売していた。しかし、高齢化するベビーブ ーマー層が退職後のファイナンシャルプランに不安を抱いていたことや、IT バブルの崩壊 や金融危機の発生を受けて、中立的なアドバイスが重視される中で、顧客のニーズに応じ て系列に関係なく様々な運用会社の商品を扱うようになってきている。 さらには、近年、証券会社に所属せずに、独立した専門業者として資産管理に関する包 括的な提言を行う独立系ファイナンシャル・アドバイザーが増加している。独立系ファイ ナンシャル・アドバイザーには、大きく分けると、①契約型の証券外務員である IBD (Independent Broker-Dealer)と、②個人専門の投資顧問業者としてマネージド・アカウン トのような一任サービスを提供する RIA(Registered Investment Advisor)という形態がある。 いずれも背後にある組織だけではなく、自ら看板を掲げて個人営業のような形態で投資ア ドバイスを提供していることから独立系といわれている。 独立系ファイナンシャル・アドバイザーのプレゼンスが拡大している背景には、①投資 商品・サービスが専門化し投資信託の製造と販売の分離が進んだために、独立系であって も大手金融グループと遜色ない商品・サービスが提供できるようになっていること、②営 業担当者のアドバイスが重視されるようになっていること、③金融危機によって顧客の大 手金融機関に対する信頼感が揺らいでいることがある。 独立系ファイナンシャル・アドバイザーのうち、RIA は富裕層を主要顧客としているが、 彼らの預かり資産全体に占める投資信託の割合は高い。多くの RIA は、一任サービスを自

(18)

18 前で提供しているが、零細業者が多く、個別銘柄を選定していくだけの人的資源に乏しい ことから、効率的な投資ができるパッケージ商品としての投資信託を多分に活用している。 (2)銀行 銀行は、80 年代から新たに登場した重要な販売チャネルである。銀行経由で投資信託を 販売する最大のメリットは、証券会社は敷居が高いと考え、金融資産構成を預金主体にし ている個人を取り込むことができる点にある。また、個人が最初に利用する金融商品は預 金であると言われているので、銀行に来る若年層の囲い込みも期待できる。 当初は株式売買などを想定して、銀行による証券取引が認められていったという経緯も あり、銀行による投資信託の取扱いは限定的であったが、92 年に銀行が系列運用会社の投 資信託を販売することが認められるようになると本格的に普及が進んだ。さらに、系列の 運用会社の投資信託の販売に縛られない販売チャネルが投資信託業界全体で力を付けてゆ き、業界全体で系列外の投資信託の取扱いを充実させるオープン・アーキテクチャ化が推 し進められた結果、現在は、銀行の系列に関わらず多数の投資信託を扱うことが一般的に なっている。 投資信託の販売を行う銀行の営業担当者の位置づけも変化している。当初、証券サービ スに参入した銀行の多くは、証券会社の営業担当者を中途で採用するか、営業担当者も含 めて銀行の販売活動を支援するサード・パーティ・マーケター(Third Party Marketer; TPM)からの派遣によって営業担当者を確保していた。その後、銀行が投資サービス提供 に関わる経験を積むにつれて大手行ではこうした業務はグループ内に取りこまれ、現在で は中小規模の銀行を中心に TPM は利用されている。 ウェルズ・ファーゴ(当時ワコビア)では、90 年代に、行員に投資信託・変額年金に限 定した外務員免許を取得させ、全店舗に配置するモデルを構築した。さらにウェルズ・フ ァーゴは、証券ビジネスの更なる発展には、証券会社と互角に競争できる経験と専門性を 持つ営業担当者が必要であると考え、プルデンシャルや AG エドワーズといった証券会社 を買収するといった戦略に出ている。 (3)直販 直販は、ブローカーに次いで従来から存在する販売チャネルである。70 年代から長期に わたって株式市場が低迷し、多くの運用会社から資金が流出すると、運用会社がコールセ ンターを通じて直接投資信託の販売に乗り出すようになった。証券会社の営業担当者に支 払っていた販売手数料が徴収されない直販は大きく成長し、直販による販売が投資信託の 資産残高に占める割合は 2011 年時点では 22%になっている。直販で成功を収めた象徴的 な運用会社が、80 年代半ばから運用会社ランキングの事実上首位に君臨したフィデリティ であり、それに続くバンガードである。 フィデリティは、70 年代に、電話と郵便によって顧客に対して直接投資信託を販売する

(19)

19 よう、販売チャネルの転換を図った。フィデリティは、証券会社の営業担当者なしに全米 の顧客に自社の投資信託を認知してもらうために、新聞や雑誌に大々的に宣伝広告を打つ とともに、コールセンターの整備に相当のシステム投資を行い、直販を成功に導いた。 また、直販のさらなる拡大に貢献したのが、インターネットを使った販売である。最初 にインターネット上で投資信託の買い付けを可能にしたのは、600 種類以上の投資信託を 販売手数料なしで販売していたジャック・ホワイトであった。同社は、96 年からインター ネットを通じた投資信託の販売を開始し、その後チャールズ・シュワブやフィデリティ、 バンガードなどが追随した。例えば、フィデリティはインターネットとコールセンターを 活用して、高品質な投資サービスを投資家に効率よく提供できる体制を築き上げた。 他方、自前のリサーチ情報を、営業担当者を通じて提供するフルサービスの証券会社は、 インターネットを通じたサービス提供には消極的であった。投資のプロである営業担当者 が個々の顧客のニーズに合わせたアドバイスを提供することを最大のセールスポイントと していたほか、セキュリティー上の懸念もあったからである。また、運用会社も、フィデ リティやバンガード、アメリカン・センチュリーといった直販を主体とする運用会社を除 けば、投資家への販売を販売業者に依存している手前、オンライン取引には積極的ではな かった。もっとも、オンラインのディスカウント・ブローカーが投資信託スーパー・マー ケットなどを通じて着実に投資信託ビジネスに食い込み、投資家へのインターネットの普 及がさらに進むと、業界全体でインターネットでの取引機能が強化されていった。 (4)製販分離の進展と、オープン・アーキテクチャ体制・販売支援業者 米国では、販売チャネルの多様化とともに、投資信託の製造機能と販売機能が分離する 製販分離が進んだ。その結果、自社の系列の投資信託に縛られない販売チャネルが力をつ けてゆき、大手証券会社も、系列外の投資信託の取扱いを充実させるオープン・アーキテ クチャ体制を整えていかざるを得なくなった。それに伴い、証券会社の営業担当者のアド バイスの提供の仕方も大きく変わっていった。従来は、系列運用会社の商品を勧めるため のアドバイスを提供していたが、顧客の側に立って、投資商品を選定・モニタリングする ようになった。 また、製販分離は、商品製造機能と販売機能の間に入って販売支援を行う卸業務的な業 者の役割の重要性を高めた。証券会社の営業担当者と比べて、銀行の営業担当者や独立系 ファイナンシャル・アドバイザーは経験が浅く、従来以上のきめ細かい販売支援を必要と していたからである。販売支援業者には、運用会社の投資信託の卸売を担うホールセラー、 証券取引における注文執行・清算業務を請け負うクリアリング業者、営業担当者の派遣な どを行う TPM、販売プラットフォームを提供するディスカウント・ブローカーがある。 ホールセラーは、従来は営業担当者に対する卸売業者として、各販売会社の支店を巡っ て営業担当者と緊密な関係を築くことが重視されていた。しかし、公募投資信託の数が増 加し、似通った投資提案や運用方針を持つ投資信託が増えたことから、営業担当者が販売

(20)

20 する投資信託を選ぶ際に直近の運用実績だけでは選定が難しくなった。そのため、ホール セラーの優先課題は、単なる商品の紹介・推奨から商品以外の知識や付加価値を提供する ことで営業担当者の業績を伸ばすことに変わり、従来以上にきめ細かい販売支援を行うよ うになった。 (5)インスティテューショナル IRA や 401(k)プランなどを経由するインスティテューショナルは、現在は最大の販売チ ャネルであるだけでなく、米国の投資信託市場の拡大に大きく貢献したと考えられる販売 チャネルである。これらは、定期的な資金の積み立てを基本としており、投資家の投資判 断に基づいて販売される他の販売チャネルと異なる。そのため、市場環境に影響されずに 一定の資金流入を見込める点に特徴があり、販売チャネルにおける比重を着実に伸ばして いる。 インスティテューショナルが拡大した背景には、公的年金の年金支給額がそれほど大き くない米国において、公的年金以外の収入源が退職後の生活費の確保に欠かせない存在に なっていることがある。一般的な就業世帯が十分な退職資産形成を達成しようとすると、 自助努力の観点からは、個人が自ら IRA や 401(k)プランにおいて、ある程度のリスク・リ ターンを伴う運用をすることが重要になる。 こうした背景から、IRA や 401(k)プランを通じた投資信託への投資が拡大している(図 表Ⅰ−19、20)。IRA は、80 年代には運用資産のうち預金が半分を占めていたが、96 年以 降には投資信託の比率が 40%以上にまで増加している。401(k)プランも、90 年には運用資 産のうち投資信託の比率は 9%であったが、10 年には 59%にまで増加している。これらに ついては第 4 節で詳述する。 図表Ⅰ−19 IRA の運用資産配分 図表Ⅰ−20 401(k)プランの運用資産配分 (出所) FRB より野村資本市場研究所作成 (出所)ICI より野村資本市場研究所作成

(21)

21 3.運用販売商品の拡充 米国では、様々な投資信託商品の開発も進められてきた。プロによる資産運用商品を手 に入れられるだけでなく、金融市場の規制環境の変化や個々人の多様な目的に適合するよ うな商品、様々な機能・サービスを備えた運用商品が、次々と拡充されている。以下では 市場で注目を集めてきた商品・サービスの概要を順に述べていく。 (1)MMF 71 年に開発された MMF は、70 年代以降の高金利環境の下で、金利に上限が設けられて いた預金から多額の資金が流入し、74 年に 20 億ドル足らずであった MMF の残高は 82 年 には 2,000 億ドル以上になった。これに対応して預金においても 82 年に預金金利が自由化 され、銀行は市場金利型預金である MMDA(Money Market Depository Account)を開発し て MMF との金利競争を繰り広げたが、80 年代後半以降、不良債権問題で銀行の体力が低 下したことから、銀行は利ざやを稼ぐために、市場金利に追随せずに預金金利を低く抑え た(図表Ⅰ−21)。 図表Ⅰ−21 米国における MMF の利回りと銀行預金の金利 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 82 84 86 88 90 92 94 96 98 00 02 04 06 08 10 MMF(灰色線) 小口定期預金 ( 6ヶ月、 点線) (%) 86年3月 預金金利の自由化終了 金利戦争 (預金金利が高 水準・市場金利 連動) 金利の全面低下 金利の三極化が 進む (年) 普通預金(赤線) ポスト金利戦争 (普通預金金利の競争からの脱落) (注)1. 普通預金は MMDA の金利。これは普通預金の一種で、現金の預入・引出が自由な上に月間 3 枚ま で小切手振出が可能な預金のこと。 2. 2010 年 8 月∼12 月の MMF(投資信託)については、MMF と MMDA とのスプレッドおよび MMDA の数値から逆算して計算。

(22)

22 他方、90 年代以降は、銀行による証券業への参入が活発化し、預金で MMF と競争する のではなく、金利上昇期には自ら MMF を積極的に販売するようになった。また、90 年代 には、事業会社がキャッシュ・マネジメントに MMF を積極的に活用し始めたことなどか ら、機関投資家用 MMF の残高が拡大し、2011 年末時点では機関投資家用 MMF の残高は 1.8 兆ドルと、個人投資家用 MMF の 0.9 兆ドルを上回っている。特に、金融危機の発生当 初は、事業会社が資金を安全な資産へ退避させる動きが生じ、機関投資家用 MMF に大き な資金流入が生じた。しかし、その後は、08 年 9 月にリーマン・ブラザーズの破綻の影響 を受けてリザーブ社の MMF に元本割れが生じた上に、金融危機対策としての金融緩和政 策の実施に伴って利回りが低下したことから、資金が流出する傾向にある。 (2)証券総合口座

証券総合口座は、77 年にメリルリンチが CMA(Cash Management Account)として開発 した。CMA は、ATM による入出金、小切手やカード決済などの機能が付随しており、預 金以上に財布代わりに利用できる証券口座である。 CMA は大ヒット商品となったが、その背景の 1 つには、長期投資を目的とした有価証券 口座だけではなく、入金された現金を自動的に MMF の購入に充てる短期資金用のマネー 口座が組み込まれていたことがある。逆に何らかの資金が必要となった場合には、カード や小切手、ATM などの手段で引き出すのとほぼ同時に MMF が自動解約されるため、CMA に入れた資金は、預かり金として放置されず常にリターンを生む資産となった。これらの ことから、証券口座は MMF の利便性を高めたといえる。 CMA は個人投資家向けの証券総合口座であったが、メリルリンチは、86 年に中小企業 向けの証券総合口座(Working Capital Management Account; WCMA)も開発した。WCMA は、基本的に CMA と同じ構造であるが、事業会社の財務管理がしやすいように、マネー 口座の運用商品やローン商品が多様になっているほか、経理業務が効率化できるように、 法人カードや給与事務代行、納税代行、売掛金回収代行などのオプションも加えることが できる。 これらの機能から、WCMA は、証券会社が銀行の短期資金管理サービスに参入しようと いう試みであるともいえる。銀行が提供する法人向け口座と比較すると、取引ごとの手続 きや手数料が発生しない点や、保有有価証券も含めた預かり資産全体の金額に応じた手数 料体系となっている点などが特徴的である。 また、銀行も、90 年代中頃から、証券子会社を通じて証券総合口座を積極的に扱うよう になり、証券会社と銀行の双方が証券総合口座を核に、MMF を活用しながら事業会社の 運転資金運用の効率化を目指すようになった。その結果、10 年末時点では、事業会社が保 有する 7,400 億ドルの投資信託のうち 7 割は MMF となっている3 。 3 事業法人が保有する MMF は、機関投資家用 MMF であるとは限らない。

(23)

23 (3)投資信託スーパー・マーケット 投資信託スーパー・マーケットとは、投資家が複数の運用会社の投資信託を 1 箇所で購 入できるというサービスであり、チャールズ・シュワブのワンソースがその代表例である。 米国最大のディスカウント・ブローカーであったチャールズ・シュワブは、92 年に複数の 運用会社の投資信託を、販売手数料なしで販売するワンソースの提供を開始した。従来は、 複数の運用会社の投資信託を購入する場合には、運用会社(あるいは投資信託を提供する 証券会社)の数だけ口座を持ち、その数だけ書類が送られていたが、ワンソースで購入す れば、1 つの証券口座に全てを統合し、全てを一覧できる口座書類を得ることができると いう便利さがワンソースにはあった。また、チャールズ・シュワブは、投資家からワンソ ースの利用手数料を徴収せず、口座書類の作成を含む様々な投資家サービスの対価という 名目で、運用会社からワンソースでの販売残高に応じて手数料を徴収した。これは、ワン ソースという顧客集客力の高いスーパー・マーケットの商品陳列棚に投資信託という商品 を並べるための棚貸し料とも換言できる(図表Ⅰ−22)。 ワンソースの口座の資産は 92 年の 150 億ドル前後から、99 年には 1,000 億ドル超に増加 した。その成功からフィデリティやバンガードなど多くの競合他社が投資信託スーパー・ マーケットの提供を行うようになった。 図表Ⅰ−22 投資信託スーパー・マーケットの概念図 証券会社 投資信託スーパー・マーケット 投資信託 投資信託会社

×

取引手数料なし 12b-1手数料など =「棚貸し料」 個人投資家 取引 (出所)野村資本市場研究所

(4)セパレートリー・マネージド・アカウント(Separately Managed Account; SMA)と投 信ラップ SMA は、原型であるラップ口座が開発されたのは 75 年であるが、本格的に普及したの は 90 年代になってからであり、投資家の資産全体に関わる投資アドバイスを提供する、資 産管理型営業を象徴する商品として拡大した。 ラップ口座とは、証券会社等が、投資家に対して、資産配分や注文執行、証券の保護預 かり、顧客への定期的な状況報告などのサービスを、資産残高に基づく手数料で提供する サービスのことである。ラップ口座は、75 年に開発された後に、運用を複数の運用会社

(24)

24 (サブアドバイザー)に再委託する形で発展してゆき、SMA などと呼ばれるようになった。 また、90 年代には、投資信託を活用した投信ラップも登場した(図表Ⅰ−23)。 SMA は、運用資産 10 万ドル以上の富裕層及びその予備軍をターゲットとしている一方 で、投信ラップは最低投資資産が 5,000∼1 万ドル程度となっており、小口投資家をターゲ ットにしている。 図表Ⅰ−23 SMA と投信ラップの仕組み 運用会社もしくは 投資信託A(注) 運用会社もしくは 投資信託B 運用会社もしくは 投資信託C

・ ・

・ ・

• 投資戦略のプラニング /アドバイス • 資産運用会社・投資信託 の選択支援 • 注文執行 • 証券保護預かり • 四半期ごとの運用実績 報告 • 取引明細書 顧 客 一任契約 運用手数料 /投信手数料 マ ネー ジ ド ・ ア カ ウ ン ト 部 隊 ︵ 資 産 配 分 ・ 業 者 選 択 ・ モ ニ タ リ ン グ︶ 証券会社(スポンサー) 運用委託 /投信購入 バ ッ ク オ フ ィ ス 営 業 担 当 者 (注) SMA もしくは投信ラップの例。運用手段が前者の場合は資産運用会社、後者の場合は投資信託 となる。 (出所)野村資本市場研究所 (5)地方債ファンド 地方債ファンドとは、純資産の 65%以上を地方債に投資する投資信託のことである。地 方債ファンドは、投資信託による地方債への投資規制が緩和された 70 年代後半から増加し 始め、80 年代以降ほぼ一貫して純資産残高が増加しており、2011 年末の地方債ファンドの 純資産残高は 5,000 億ドルとなっている。地方債ファンドは、個人投資家が地方債への投 資を行う際の重要な手段の 1 つとなっている。 地方債ファンドが投資家に定着した背景の 1 つとして、地方債投資に対する税制優遇措 置がある。地方債への投資で得た利子所得に対しては連邦所得税が非課税となる上に、投 資家が居住する州内で発行された地方債に投資する場合には、多くのケースで州所得税も 免除される。これらの税制優遇措置は、地方債ファンドを通じて地方債に投資する場合に も適用される。 地方債ファンドには、特定の州内で発行される地方債を主な投資対象とする単一州地方 債型ファンドと、全体の地方債を対象とする複数州地方債型ファンドがある。単一州地方 債型ファンドは、投資家が州内に居住していれば利子所得に対する連邦所得税と州所得税

(25)

25 が免除される。一方、複数州地方債型ファンドは、州外で発行された地方債に対する免税 措置が受けられないが、その分幅広い分散投資を行うことができる。 (6)ETF 米国の ETF は、93 年に S&P デポジタリー・レシート(SPDRS; 通称スパイダーズ)がア メリカン証券取引所に上場したのが最初であり、その後徐々に銘柄が増加していった。 ETF 市場は、特に 00 年以降の拡大が顕著であり、11 年末の純資産残高は 1 兆ドルとなっ ている。 ETF は登場当初、顧客に ETF の仕組みやメリットを説明する必要がある上に、手数料が 低く営業担当者のインセンティブが小さいことから、販売会社の営業担当者や独立系ファ イナンシャル・アドバイザーは、ETF の販売に積極的ではなかった。 しかし、03 年頃から、ETF を扱う運用会社や取引所が個人投資家や営業担当者に対する 教育・広告・マーケティング活動を活発化させ、取引所で取引されることによる流動性の 高さや不正取引の余地のない ETF の透明性の高さ、低コスト構造が前向きに評価されるよ うになった。これらの ETF の特徴は、特に金融危機において、市場全体のパフォーマンス が悪化してコスト意識が高まり、かつ市場の流動性リスクが増大する中で、ETF の魅力を 高めることにつながった。 このほか、近年では、ETF の種類も多様になっており、株式インデックスを参照する ETF 以外に、債券やコモディティなど多様なアセットクラスに投資したり、参照指数にレ バレッジをかけた運用やアクティブ運用を行ったりする ETF も登場している。 (7)REIT 米国の REIT 市場は、60 年から存在していたが、本格的に拡大したのは 90 年代以降であ る。REIT 市場は金融危機によって一時低迷したが、その後は回復傾向にあり 10 年末の時 価総額は 3,900 億ドルにまで回復している。 90 年代に REIT 市場が拡大した背景には、90 年から 93 年頃にかけて商業用不動産価格 が 下 落 す る 中 で 、 80 年 代 か ら 既 に 始 ま っ て い た 貯 蓄 金 融 機 関 ( Savings and Loan Association; S&L)危機や商業銀行の不動産関連プロジェクトの過剰融資などによって、不 動産市場への投融資が急激に縮小していたことがある。その結果、不動産事業者は借り換 え需要を満たすために、資本市場へのアクセスを求めて、REIT として上場するようになっ た。 また、投資家サイドでも、流動性・換金性・情報開示・ガバナンスの観点で REIT に対 する評価が高まり、投資信託や年金基金などの機関投資家が運用対象に REIT を組み入れ るようになった。 REIT には、実物不動産を所有・経営するエクイティ REIT と、不動産融資などの債権を 資産として所有するモーゲージ REIT がある(両者の性質を持つハイブリット REIT もあ

(26)

26 る)。主流となっているエクイティ REIT は、様々な種類の不動産に投資するのではなく特 定の資産に投資する傾向が強い。 (8)個人向けヘッジファンド商品 個人投資家によるヘッジファンド投資は、歴史的に真新しいものではない。むしろ多く のヘッジファンドの誕生と資産残高の増大を支えたのは、超富裕層である個人投資家であ った。しかし、ヘッジファンドは非公開の私募投資の資金を集めており、公開情報や統計 がほとんどなく、実態が公にされることは少なかった。 ところが、90 年代に機関投資家によるヘッジファンド投資が拡大する中で、ヘッジファ ンドの情報開示が進んで市場情報が増加し、欧米の大手金融サービス業者がヘッジファン ドを一種の金融商品として販売に力を入れていったことから、ヘッジファンドの投資家の 裾野が広がっていった。 大手金融サービス業者がヘッジファンドの投資家を拡大する 1 つの方法として取り組ん でいるのが、ヘッジファンドに投資するファンドである、ファンド・オブ・ヘッジファン ズの活用である。また、ヘッジファンドの投資手法を取り入れた投資信託の開発も行われ ている。典型的な商品は、割安と評価される現物株式を買い持ちする一方で、割高な銘柄 を信用取引で空売りするロング・ショート型の運用を行う公募の株式投資信託である。 (9)変額年金 変額年金とは、払い込んだ掛金の運用実績に応じて、将来受け取る年金額が変化する商 品である。変額年金は、生命保険会社の年金ビジネスのウェイトが 80 年代から高まったこ とや、90 年代に株式市場が堅調に推移したことなどを背景に資金流入が増加した。また、 運用収益に対する課税繰り延べなどの税制優遇があることから、401(k)や IRA などの退職 貯蓄の枠を使い切った人々にとっての、補完的な商品としても普及している。 一般的に、変額年金には、掛金の運用に関して複数の投資選択肢が用意されており、加 入者の運用方針が反映される仕組みとなっている。契約者から払い込まれた掛金の運用に 関しては、生命保険会社の一般勘定から分離され、運用子会社や他の運用会社が運用する 特別勘定や投資信託に投資される。変額年金市場の拡大とともに、人気のある投資信託を 投資対象に加えるなどの投資対象の拡大や、保障機能を充実させるなどの商品開発が進め られており、変額年金を利用した投資信託の保有は、11 年末時点で 1.3 兆ドルにまで増加 している。 (10)ライフサイクル・ファンド ライフサイクル・ファンドとは、投資家の年齢やリスク許容度に応じて、リスク・リタ ーン特性が異なる国内外の株式や債券といった複数のアセットクラスを組み合わせたバラ ンス型の投資信託のことである。ライフサイクル・ファンドは、90 年代前半に登場した当

(27)

27 時はそれほど注目されることはなかったが、00 年代に入って拡大した。 ライフサイクル・ファンドが拡大した背景には、06 年からベビーブーマー層の第一陣が 60 歳代に突入する中で、401(k)プランや IRA の品揃えとして取り入れられていったことが ある。ライフサイクル・ファンドは、06 年の年金保護法により、401(k)プランのデフォル ト商品4 として指定される際の制度上の懸念が解消され、米国労働省の規定した「適格デフ ォルト商品」の 1 つとして含まれることとなった。 ライフサイクル・ファンドには、大きく分けて、ターゲット・リスク・ファンドとター ゲット・イヤー・ファンドの 2 種類がある。ターゲット・リスク・ファンドは、投資家の リスク許容度に応じて、運用スタイルの異なる複数のファンドが用意された商品である。 一般的には、積極運用、安定運用、その中間といった形でいくつかのファンドがワン・パ ッケージで用意され、投資家は例えば加齢に応じて投資資金をファンド間で動かしリスク を低減していくことができる。ターゲット・リスク・ファンドの資産残高は、10 年時点で 2,640 億ドルとなっている。 他方、ターゲット・イヤー・ファンドは、年齢が若いうちは株式などのリスク資産への 投資比率を高めに設定すべきであるという投資理論を前提に開発されており、投資家の退 職時期に向けて当初はリスク資産への投資比率を高めにし、徐々に比率を下げていく点が 特徴である。ターゲット・リスク・ファンドと異なり、投資家が資産配分比率を変更しな くとも、ファンドの中で自動的に資産配分が調整される。ターゲット・イヤー・ファンド の資産残高は、10 年時点で 3,400 億ドルとなっている。 (11)リタイアメント・インカム用の投資信託 リタイアメント・インカム用の投資信託は、ベビーブーマー層が退職年齢を迎え始めた ことなどを背景に、退職後の収入であるリタイアメント・インカムをいかにして一生にわ たって確保するかという議論が活発化する中で、401(k)プランなど年金資産の引出専用の 投資信託として登場した。 例えば、フィデリティが 07 年に提供を開始したフィデリティ・インカム・リプレースメ ント・ファンドは、資産形成を終えた世代による合理的な資産の取り崩しをサポートする ことを目的とする引出専用投資信託である。ターゲット・イヤー・ファンドとの主な相違 点は、資産の引き出しが目的として明示され、最終引出日の到達後にファンドを清算する ことが予め決められている点である。 これ以外にも様々な運用会社が年金資産取り崩しのニーズを念頭に置いた商品を出して いるが、明白な成功事例は出ておらず、未だに試行錯誤の段階である。 4 加入者が、投資対象を指図しない場合に拠出を入れる先として予め設定されている商品。

(28)

28 (12)海外株式ファンド 米国では、90 年代、株式ファンドの中心は国内株式ファンドであったが、03 年以降に米 国外市場の投資リターンが米国市場を上回る状態が続く中で、海外株式ファンドへの資金 純流入が急増した。実際に、米国調査会社セルーリ社は、運用会社や販売会社が海外株式 投資に伴うメリットを投資家に説明する際に、以前であれば国際分散投資を指摘するのが 一般的であったが、この数年はそれに加えて「世界中の優れた企業に投資することによっ て超過リターンが狙えることを強調するようになってきた」と報告している5 。 海外株式ファンドへの資金純流入は、金融危機下で 08 年に一時的にマイナスとなったが、 その後は再びプラスに転じており、11 年末時点の純資産残高は 1.4 兆ドルと、株式ファン ドの 4 分の 1 を占めている。 4.投資信託ビジネスを支える事務処理などのインフラ 米国では、投資信託市場が拡大する中で、投資信託ビジネスに関連する事務処理を効率 的に行う業者が台頭しており、様々な分野で業務のアウトソーシングが行われている(図 表Ⅰ−24)。 従来、米国の運用会社は、名義の書き換えなどのトランスファー・エージェント業務や 資産管理などのカストディ業務を外部の業者に委託(アウトソース)してきた。トランス ファー・エージェントやカストディアンは、それぞれトランスファー・エージェント業務 とカストディを中核ビジネスとしながら、次第にファンド計理、コンプライアンスやファ ンド・アドミニストレーションなどの周辺業務を付加価値サービスとして提供するように なった。特にカストディアンは、80 年代以降、カストディから得られる手数料が大幅に低 下し、カストディ以外の収入源を求めることが課題となっていた。 他方、運用会社側でも、投資信託の残高の増大や、ヘッジファンドや SMA などの複雑 な商品の普及、サーベンス・オクスレー法6 や投資信託不正取引7 を受けての SEC の新規制 への対応など、従来の業務量やインフラでは対処しきれないという事態が生じていたこと などから、アウトソーシングのニーズが増加してきた。 5

“The Cerulli Edge, U.S.Edition”, June 2007

6 サーベンス・オクスレー法は、2001 年のエンロン、翌年のワールドムの巨額粉飾決算など会計不正事 件の相次ぐ発覚を受けて、コーポーレート・ガバナンスの強化を図るべく 2002 年に制定された。 7 2003 年秋以降、投資信託業界でヘッジファンドや富裕層などの有力顧客を優遇した不公正取引が相次 いで摘発された。SEC は事態を深刻に受け止め、①時間外取引や短期売買といった不公正取引に対する 規制、②投資信託のガバナンス構造や倫理規定、コンプライアンス体制、内部管理体制の強化、③投資 家との利益相反の除去、④手数料の開示を中心とした情報開示の強化などを目的とした規制改革を次々 と実施した。

(29)

29 図表Ⅰ−24 運用会社の機能 外部の機能 投信運用ビジネスに係る機能 商品企画 調査 運用 トレーディング ファンド計理 パフォーマンス レビュー 法務 コンプライアンス 最終投資家向け マーケティング 仲介業者向け マーケティング 設定解約受付 カストディ システム開発 ディスクロージャー (出所)野村資本市場研究所 外部資源の活用はバックオフィスにとどまらず、運用会社の中核事業である運用におい てもアウトソーシングが行われている。運用会社が外部の運用アイデアを活用する一般的 なパターンは、自社が得意としない分野の商品ラインナップを拡充させるためにサブアド バイザーを利用することである。例えば、海外株式の運用に専門性を持たない米国の運用 会社が、我が国や欧州の運用会社をサブアドバイザーとして採用するというケースが典型 的といえるだろう。 このように、米国の投資信託業界では、運用会社に様々な機能を提供するサービス・プ ロバイダーが充実しており、運用会社が、どの機能を内部資源で賄い、どの機能について 外部の資源を活用するのかを自由に選択できる環境が整っている。 米国で投資信託市場が拡大した契機は次節で述べる IRA や 401(k)プランといった制度の 導入であろうが、その発展を土台で支えたのは、多様な運用会社、販売チャネル、商品、 関連ビジネスを有する米国の資産運用産業であるといえるだろう。ICI の統計によると、 投資信託業の従事者は 2009 年時点で 15 万人を超えており、米国では投資信託業が一大産 業となっている。 第4節 税制優遇制度と市場を取り巻く諸規制 海外の投資信託市場が発展した要因として、税制優遇が付された個人向けの資産形成制 度の存在が指摘できる。本節ではまず、米国で老後や子供の教育支出に備えるために広く 利用されている資産形成制度について、その概要や導入の経緯・背景について述べる。こ のような資産形成制度は、英国でも導入されている他、豪州やスウェーデン、フランスで も投資信託を利用した個人向けの資産形成制度が導入されており、それらの概要について も併せて述べていく。

参照

関連したドキュメント

(平成 29 年度)と推計され ているが、農林水産省の調査 報告 15 によると、フードバン ク 76 団体の食品取扱量の合 計は 2,850 トン(平成

(平成 28 年度)と推計され ているが、農林水産省の調査 報告 14 によると、フードバン ク 45 団体の食品取扱量の合 計は 4339.5 トン (平成

 事業アプローチは,貸借対照表の借方に着目し,投下資本とは総資産額

1989 年に市民社会組織の設立が開始、2017 年は 54,000 の組織が教会を背景としたいくつ かの強力な組織が活動している。資金構成:公共

(平成 28 年度)と推計され ているが、農林水産省の調査 報告 14 によると、フードバン ク 45 団体の食品取扱量の合 計は 4339.5 トン (平成

告—欧米豪の法制度と対比においてー』 , 知的財産の適切な保護に関する調査研究 ,2008,II-1 頁による。.. え ,

企業会計審議会による「固定資産の減損に係る会計基準」の対象となる。減損の兆 候が認められる場合は、

(72) 2005 年 7 月の資金調達のうち、協調融資については、第 13 回債権金融機関協議会の決議 78 を受 け選任された 5