幼稚園における保護者との関係
―― 幼稚園教育要領における記述に焦点をあてて ――
井 上 剛 男 *
Relations with Parents in the Kindergarten
―― Focus on a Description in Course of Study for Kindergarten ――
Takeo INOUE
キーワード:幼稚園、保育要領、幼稚園教育要領、保護者 1 はじめに 幼稚園とは、就学前教育を行う公的な施設の 1 つで、文部科学省 (旧文部省) が所管する学 校である。それに対して家庭もまた、就学前教 育を担う機関であると言える。この 2 つの異な る組織が、就学前の子どもの教育を同時に行う わけだが、この両者はどのような関係にあった のだろうか。実際には、保護者との関係のあり 方は、幼稚園によって異なっていたに違いない。 それどころか、同じ幼稚園でも、保護者によっ て関係のあり方は異なることさえありえたかも しれない。だからといって、幼稚園と保護者と の関係に、何の一貫性も見られないということ はないであろう。多くの幼稚園は、幼稚園を所 管する文部科学省 (旧文部省) が求めることを 意識して、保護者との関係のあり方を模索して いたと推測されるからである。 本研究の目的は、戦後の日本政府が、幼稚園 と保護者とのあるべき関係をどのように想定し ていたのか、その想定の変遷を明らかにするこ とである。 2 方 法 戦後の日本政府の考えを抽出するため、幼稚 園教育要領の記述を分析する。幼稚園教育要領 は、文部科学省 (旧文部省) が刊行してきた幼 稚園教育の教育課程の基準である。1948 年 3 月に刊行された『保育要領――幼児教育の手引 き――』に幼稚園教育要領の起源を求めるのが 一般的である1 )。その後、1956 年 2 月に編集 された『幼稚園教育要領』に改訂される。さら に、『幼稚園教育要領』は、1964 年 3 月、1989 年 3 月、1998 年 12 月、2008 年 3 月と、4 回改 訂され、告示される。つまり、この 6 冊の幼稚 園教育要領を分析データとして用いることにす る。その一覧を表 1 に示す。 また、保護者との関係を示す記述を探すため に、6 冊の幼稚園教育要領の記述内容に含まれ る、「保 護 者」、「父」、「母」、「親」、「家 庭」、「家 族」の数をカウントした。それら保護者に関す るキーワードの数を示したのが表 2 である。 表 2 からは、『保育要領』での数の多さが目 につくが、現行の 2008 年改訂『幼稚園教育要 領』の数も、他の幼稚園教育要領と比較すると、 相対的に多い。また、どの時代の幼稚園教育要 領でも比較的用いられている単語が、「家庭」 である。それに対して、「保護者」という単語 *滋賀大学教育学部は、現行の 2008 年改訂『幼稚園教育要領』で 比較的使用されていることが分かる。 本研究では、幼稚園教育要領における記述を データに、幼稚園における保護者との関係をど のように位置づけていたかをたどり、その意味 を考察することにする。2 章では、幼稚園教育 要領における保護者の位置づけの変遷を分析し、 3 章では、変遷の結果を整理したうえで、示唆 できることを考察する。 3 幼稚園教育要領の変遷 3-1 保育要領 ――幼児教育の手引き―― (1) 経緯と特徴 1947 年 3 月、学校教育法が施行され、幼稚 園は初めて学校として位置づけられる。同法第 79 条には「幼稚園の保育内容に関する事項は、 (中略) 監督庁が、これを定める」とあり、同 附則 106 条には「この権限を有する監督庁は、 当分の間、これを文部大臣とする」とある。そ こで文部省は、幼稚園の保育内容の基準を作成 するため、学校教育法が施行される 1 か月前か ら幼児教育内容調査委員会を設置し、検討を始 め て い た。そ し て、1948 年 3 月『保 育 要 領 ――幼児教育の手びき――』(以下、『保育要 領』と表記) が文部省から刊行される。その内 容は、連合軍最高司令部民間情報部教育部顧問 であった H. ヘファナンの「幼児の興味を極度 に重んじる自由保育」(村山 1980,p. 242) の 思想に強い影響を受けたものであった2 )。 『保育要領』の 1 つ目の特徴は、1 年前に刊 行された『小学校学習指導要領』と同じく、試 案であった点である。「本書が幼稚園の教育の 実際についての基準を示すものであり、これを 参考として、各幼稚園でその実情に則して教育 を計画し実施していく手びきとなるものであ る」(文部省 1948、はしがき) というように、 強制力を伴うものではなく、あくまでも指導を 行う上での参考という位置づけであった。もう 1 つの特徴は、幼稚園だけでなく、保育所、一 表 1 分析データの一覧 時 期 名 称 昭和 23 年 3 月 刊行 保育要領 ――幼児教育の手引き―― 昭和 31 年 2 月 編集 幼稚園教育要領 昭和 39 年 3 月 告示 1964 年改訂 幼稚園教育要領 平成元年 3 月 告示 1989 年改訂 幼稚園教育要領 平成 10 年 12 月 告示 1998 年改訂 幼稚園教育要領 平成 20 年 3 月 告示 2008 年改訂 幼稚園教育要領 表 2 キーワード別の掲載件数 保護者 父・母・親注 1) 注 2) 家庭 家族 合計 1948 年 保育要領 2 53 45 7 107 1956 年 幼稚園教育要領 0 3 5 0 8 1964 年改訂 幼稚園教育要領 0 2 9 0 11 1989 年改訂 幼稚園教育要領 0 2 4 0 6 1998 年改訂 幼稚園教育要領 1 2 7 0 10 2008 年改訂 幼稚園教育要領 10 1 11 2 24 注 1) 「父親」、「母親」、「父母」は、1 件としてカウントした。 注 2) 「祖父母」、「保母」、「親類」、「親しい」など、保護者以外の意味で用いられ る言葉の場合、カウントしなかった。
般の父母なども対象にした、幼児教育全体の手 びきであった点にある。事実、『保育要領』の はしがきには、「幼稚園やその他の幼児のため の施設、教師や保母がいままで以上にその識見 を向上させ、その技能を高めていくことが必要 となるのである。本書はこれらの人々のために できるだけ役立つように編集されたものであり、 同時に母親たちにもその育児について貴重な参 考となることを信じている」(文部省 1948, はしがき) とある。 (2) 保護者との関係 『保育要領』では、幼稚園が保護者とどうい う関係を築くことを指摘しているのかを見てい こう。まず、2 章で確認した通り、『保育要領』 には、保護者に関係するキーワードの使用頻度 が他の『幼稚園教育要領』よりも多い。これは、 『保育要領』が幼稚園だけでなく、家庭教育の あり方についても言及しているからである。た とえば、「教師や親は、子供に話しかけるとき、 自分の言っていることや話し合っていることを、 子供がよく聞いているか、ほんとにわかってい るかどうかを、確かめなければならない」(文 部省 1948、三 幼児の生活指導 下線は引用 者による、以下同様) とか「教師も親も子供の 環境の一部として、最大の安定感として与えら れることが必要である。そのためには、教師や 親は、不安のない、確固たる自信を持った円満 な教育者でなけれほならない」(文部省 1948、 三 幼児の生活指導) など、教師と親がセット になって語られている。また、「3 家庭の一 日」という項目では、「母親とのお話が済んだ ら遊びに出るかまたは家の中の子供べやで遊 ぶ」とか「勤めに出ている父親もなるべく夕食 時間にまに合うように帰って来て、一家そろっ てなごやかな食事をすることが望ましい」(文 部省 1948、五 幼児の一日の生活) など、父 母に対して幼児との接し方を示す内容も含まれ ている。 しかし、キーワードが多い要因はそれだけで はない。「七 家庭と幼稚園」という章立てを 設け、幼稚園が家庭とどう関わるべきなのかを 詳細に述べているからである。この章には 4 つ の節があるのだが、そのうち「4 小学校との 連絡」以外の 3 節にはキーワードを含む文章が あ る。第 1 節 の「1 父 母 と 先 生 の 会」で は、 「子供たちは家庭からきて家庭へ帰ってゆく。 幼稚園にしても保育所にしても、いわば家庭の 延長ということができる。家庭との密接な連絡 と協力がなくては、幼稚園も保育所もその任務 を全うし得るものではない。保育時間だけの保 育法がどんなによく行われても、家庭生活との 陥たりや食い違いがあっては、保育の効果はあ がらないであろう」(文部省 1948、七 家庭 と幼稚園) という書き出しで始まるように、幼 稚園が家庭から連絡や協力を得るため、「父母 と先生の会」を常設することを提唱している。 「『父母と先生の会』がしっかりでき上がるまで は、先生の用意周到な指導が必要である。しか しできる限り、父母の方で卒先してやることが 望まし」く、「会の組織は全く民主的で、行き すぎた先生の指導は避くべきである。親は先生 の立場をよく理解し、先生は親の苦労を知るこ とが、何よりもたいせつなことであ」り、「会 合はなるべく定期的に開く方がよい。こうした 会合は先生と父母との親しみを深めるものであ る。なお会合は常に簡素に、格式張らずに開き たいものである」として、「父母と先生の会」 が、父母が中心に、教師と父母が対等な関係の もと、互いを知るフランクな機会となるように 求めている (文部省 1948、七 家庭と幼稚 園)。また、「会の活動はもっぱら子供の教育の ためである。保育法の共同研究、おりおりの講 話、保育上の実際問題の話し合い、幼児の個性 発展や個人差について語り合うことや、保育設 備の充実、材料の補給、必要な場合には保護者 どうしで助け合ったり、各幼児の調査に先生と 協力することなどは、すべて、この会を通じて 行われる」(文部省 1948、七 家庭と幼稚園) というように、「父母と先生の会」は、子ども の教育のために、教師と父母が意見交換を行う だけでなく、父母が幼稚園の充実に協力するこ となども活動内容として位置づけられていたこ とが分かる。このことは、父母と先生の会が、 現在の PTA にあたるものだったことを示して いる3 )。 それに対して「2 父母の教育」では、「父母 の教育は子供をりっぱに育てるために必要なこ とである。適切な父母教育の計画をたてること
は、幼稚園や保育所の任務の一つである。こと に忙しい母親の多い場合はいっそう必要であ る」(文部省 1948、七 家庭と幼稚園) と指 摘し、子どもを立派に育てることができるよう に父母を教育することも幼稚園の役目とした。 その詳細を確認すると、「父母教育の内容は 日々の実際問題を主とし、むずかしい原理や抽 象的な理屈は少なくする。問題としては、教育 のことのみでなく、子供の健康や、家政のこと や、衣食住のことや、日常生活のことを、詳し く学ぶことが望まし」く、「父母を、もっと知 的に向上せしめるのに役立つ社会的、芸術的、 学問的教養を与えれば、更に結構なことであろ う。要するに、子供がよくなるとともに、父母 もまたよくなるような教育と与えることであ る」というように、子どもの教育に関して実用 的な知識や技能を指導するとともに、父母の文 化水準を向上させるための指導を、幼稚園の役 目として想定していたことがうかがえる (文部 省 1948、七 家庭と幼稚園)。しかも、「こう した教育が、現在の子供の保護者のみでなく、 広く近所の親たちにまで及ぶならば、幼稚園や 保育所が、その町や村に存在する意義が一段と 大きくなるであろう」(文部省 1948、七 家 庭と幼稚園) として、啓蒙すべき父母の範囲が、 幼稚園に通う幼児の父母にとどまらず、幼稚園 のある地域の父母全体に及ぶとしていた。 さらに「3 父母教育の指針」では、「父母は 児童がどのような要求を持つているかを知らな ければならない」(文部省 1948、七 家庭と 幼稚園) として、この節で児童の要求に関する 留意点を列挙し、その内容を父母に教え、理解 させる必要があるとした。その内容は、「家族 の感情や態度は子供の人となりや、行動を決定 するのに重要な役割を果たすものであること」 や「子供の成長を考え、その段階にしたがって 育てること」(文部省 1948、七 家庭と幼稚 園) や「幸福な満たされた生活をしている子供 は、社会的に承認される行動をとる」ことと いった、抽象的な指導上の格言を示すだけでは ない (文部省 1948、七 家庭と幼稚園)。「食 事の習慣についておとながあまりこまごまと世 話をしたり心を配り過ぎないこと。そうすると かえって悪い習慣がつくことを考えておくこ と」(文 部 省 1948、七 家 庭 と 幼 稚 園) や、 「子供が指をしゃぶることは快を求める内面的 な欲求の現われであ」り、「そのような満足を 与えるためにほかの経験をさせる。たとえば手 に握るおもちゃを与えるようにすれば直る」の であって、「はずかしめたり、しかったり、指 に薬をぬったりしてこのような習慣を禁止する ことは危険である」こと (文部省 1948、七 家庭と幼稚園) など、特定の場面における具体 的な指導のあり方にまで及ぶ。しかも、「集団 生活の経験を与えるところに幼稚園や保育所の 価値がある」(文部省 1948、七 家庭と幼稚 園) として、家庭教育では学べない社会で必要 となる経験が、幼稚園で学べることを述べ、幼 稚園に子どもを通わせる意義を親や地域に教え ることを求めている。 『保育要領』では、幼稚園と保護者との関係 を 3 つの観点から論じていることが分かる。1 つは、保護者との相互的交流関係である。『保 育要領』では、「父母と先生の会」を定期的に 行い、それぞれが実践している教育について意 見交換し、互いが理解し合うことを求めていた。 これは、幼稚園の教育と家庭の教育は異なるこ とを前提に、その違いを超えて連携する必要性 を示したものだと言える。そのため、父母と先 生の会で重視されたのは、教師と父母が対等な 関係であるということであった。2 つめは、保 護者からの協力関係である。『保育要領』では、 「父母と先生の会」を父母が中心に行うことや、 その会において幼稚園の設備の充実などに手を 貸すことを訴えていた。つまり父母は、幼稚園 に子どもの教育を全面的に委ねるのではなく、 必要に応じて参画し、幼稚園での教育をよりよ いものにする権利や義務があるということだと 考えられる。3 つめは、保護者への支援関係で ある。幼稚園は、子どもを適切に育てられるよ うにするため、父母の教育を行う必要があると された。それは、日常生活での子どもの教育の 仕方にとどまらず、父母自身の文化水準を向上 させる働きかけをも含んでいた。また、教育す る父母の対象は、幼稚園に通う幼児の父母だけ でなく、その地域の人々を指しており、父母の 教育は地域の教育でもあった。
3-2 幼稚園教育要領 (1) 経緯と特徴 『保育要領』が刊行された 6 か月後、つまり 1948 年 9 月に、試案であった『保育要領』を 決定版にすべく、文部省が「保育要領改訂委員 会」を設置し、検討を始める。しかしその検討 は、1951 年に「幼稚園のための指導書――音 楽リズム編」を刊行することで終わることにな る4 )。また、1950 年 10 月に学校教育法施行規 則第 76 条が、「保育日数及び保育時数は、保育 要領の基準により、園長が、これを定める」か ら「幼稚園の教育課程は、保育要領の基準によ る」に変更された。これは、『保育要領』が手び きであり、教育課程を定めたものではなかった 以上、『保育要領』を改訂し、国が教育課程の基 準を新たに設定することを意味していた。1950 年 1 月に「幼稚園教育課程、幼児指導要録協議 会」が誕生し、指導要録を中心に研究が行われ た。さらに、1951 年 5 月には、「幼稚園教育要 領編集委員会」が発足する5 )。そして 1953 年 11 月、学校教育法施行規則が改訂され、幼稚 園の教育課程は、「保育要領の基準」から「幼 稚園教育要領の基準」によると変更された。 1954 年 9 月に開催された文部省主催の幼稚園 教育研究集会では、『幼稚園教育要領』の一部 が発表され、1956 年 2 月、『幼稚園教育要領』 が『保育要領』の改訂という形で刊行される。 『幼稚園教育要領』の特徴は、大きく 2 つあ る。1 つは、幼児教育の参考書から、幼稚園で の教育における基準を示すものに変更されたこ とである。『保育要領』は、幼稚園教育だけで なく、保育所などの児童福祉施設での教育、さ らには家庭教育をも含む、幼児教育全般を対象 にしていた。それに対して『幼稚園教育要領』 は、名称からも分かるように、幼稚園教育だけ を対象にしていた。2 つ目は、実際の保育指導 における留意点を示したものから、幼稚園教育 で行うべき最低基準を示すものへと変更された ことである。まず、『幼稚園教育要領』では、 『保育要領』では示されなかった、幼稚園教育 の目標が明記された。また、『保育要領』では、 望ましい教育内容を羅列し、説明していたが、 『幼稚園教育要領』では、「健康」「社会」「自 然」「言語」「音楽リズム」「絵画制作」の 6 領 域に系統化され、幼稚園教育の目標に沿って教 育課程を編成し、指導計画をたてることを容易 にした。同時に、こうした系統化によって小学 校教育との連続性を配慮した。 (2) 保護者との関係 『幼 稚 園 教 育 要 領』で は、『保 育 要 領』に あった「家庭と幼稚園」という章がすべて削除 されてしまう。そうした中で、保護者で示す言 葉がどのように用いられているか、見ていこう。 目立つようになるのは、幼稚園で子どもに教 える内容の中で、親や家庭との関係を示すこと である。たとえば、幼稚園教育の具体的な目標 の 1 つとして「2.幼稚園内外における身近な 集団生活に適応できるようになる」(文部省 1962,p. 3) ことが挙げられる。その目標を、 「親や教師のいうことを,注意して聞くように なる」(文部省 1962,p. 3) ことや「幼稚園や 家庭の生活,道路の交通,遊び場などのきまり が守れるようになる」(文部省 1962,p. 3) こ とや「幼稚園の行事,家庭や身近な社会の意義 ある行事などに,興味をもつようになる」(文 部省 1962,p. 3) ことなどで、実現させよう と謳われる。さらに、「第Ⅱ章 幼稚園教育の 内容」では、「2 社会」という領域において、 「6.人々のために働く身近の人々を知り,親し みや感謝の気持をもつ」ことの 1 つとして、 「自分たちは,親や幼稚園の教師をはじめ,多 くの働く人々の世話になっていることを知り, 感謝の気持をもつ」(文部省 1962,p. 12) こ とや、「8.幼稚園や家庭や近隣で行われる行事 に,興味や関心をもつ」(文部省 1962,p. 12) ことが「望ましい経験」であると示される。 また、指導上の留意点の 1 つとして、「7.発 達段階に応じた集団生活の指導をするように立 案すること」を求め、そのために「これまで家 庭で生活した幼児が,はじめて集団生活にはい るのであるから,あまり急激に集団生活のきま りをしいると,幼児の安定感を害し,身体的に も障害を与えるであろう。それゆえ,幼児の社 会的興味や集団生活への適応性の発達に応じて, 徐々に集団生活指導の程度を高めるように計画 すべきである」(文部省 1962,p. 24) と述べ る。また、「3.幼児の住む地域社会の実態に即 して計画を立案すること」を提言し、そのため
に、「さしあたり,その地域の幼児はどのよう な遊びをしているか,どのようなことばを使っ ているか,家庭の生活状態や教育に対する考え 方の一般傾向はどうかを調査することから始め た ら よ か ろ う」(文 部 省 1962,pp. 24-5) と 忠告し、加えて「P. T. A などで,父母の意見 を聞いたり,ある特定の問題について討議する 機会を作ったりすることも,地域社会の実態や 必要を知る上に効果がある」(文部省 1962, p. 25) とした。 『幼稚園教育要領』では、家庭生活に関する 教育の一部を幼稚園で行うことを明記した。こ れは、幼稚園が子どもの社会性を育む教育を行 う中で、結果的に家庭教育を手助けする機能を 果たしていたと考えられる。その一方で、幼稚 園は、幼稚園教育を円滑に進めるため、地域を 知ることが必要だとされた。そのため、保護者 との交流は、それを実現するための手段として の位置づけが強くなる。『保育要領』では、幼 稚園がよりよいものにするために、幼稚園と保 護者の双方が互いを知る、また幼稚園が地域の 幼児教育のリーダーとして、その地域で支援が 必要な親を助けるといった関係を想定していた。 それに対して『幼稚園教育要領』は、幼稚園で は幼稚園教育を行う、そのために役立つ情報を 引き出す対象として、父母を位置づけていた。 両者の相互的交流ではなく、幼稚園から保護者 に対する一方的交流へと変化したことが推測さ れる。 3-3 1964 年改訂 幼稚園教育要領 (1) 経緯と特徴 1958 年 10 月、小学校と中学校の学習指導要 領が改訂され、1961 年 3 月に文部省告示とい う形で施行された。『幼稚園教育要領』もそう した流れにならう必要があるとして、改訂への 動きが活発になる。まず、1961 年 3 月に「教 材等調査研究会幼稚園小委員会」を発足させ、 幼稚園教育要領の改訂問題を検討した。それを 後追いするように、1962 年 10 月、文部大臣が 「幼稚園教育課程の改訂について」を教育課程 審議会に諮問した。つまり今回の改訂の流れは、 教育課程審議会で改訂の基本方針を決めてから、 その詳細を「教材等調査研究会幼稚園小委員 会」で詰めるという一般的な順番とは逆の形に なったと言える。 1964 年改訂『幼稚園教育要領』の特徴は、 森上史朗によれば、次の 4 点だとされる。「1、 幼稚園における教育課程の基準としたこと」、 「2、幼稚園教育の独自性を明確にしたこと」、 「3、領域の性格を明確にしたこと」、「4、ねら い と 経 験 の 意 義 を 明 確 に し た こ と」(森 上 1980,pp. 50-1)。1 は、国の基準として告示し、 幼稚園教育のあり方について法的拘束力をもた せたことが挙げられる。2、3、4 は、主に小学 校教育での教科指導との違いを明らかにするた めのもので、具体的な経験を通じて学ばせると いう方針を示したことや、領域は科目のように 分けて行うものではなく、いくつかの領域にま たがる総合的な経験によって狙いが達成される ことといった幼稚園教育の独自性を指す。 (2) 保護者との関係 改訂『幼稚園教育要領』では、1956 年編集 の旧『幼稚園教育要領』と同様、幼稚園が子ど もの社会性を育む教育を行う中で、結果的に家 庭教育の手助けになるような教育を行う必要性 が述べられる。たとえば、「社会」領域の「2 社会生活における望ましい習慣や態度を身につ ける」では、その具体的な習慣・態度として 「父母や先生などに言われたことをすなおにき く」(文部省 1969,p. 7) ことが挙げられ、そ うした態度を身につけさせることを通して、 「教師,父母,兄姉などの目上の人に対する敬 愛の念を養う」(文部省 1969,p. 8) ことを目 指すとした。「3 身近な社会の事象に興味や関 心をもつ」では、「幼稚園や家庭ではみんなが 助けあっていることを知り,親しみをもつ」 (文部省 1969,p. 8) ことや「幼稚園,家庭, 近隣などには自分たちのために働いている人が い る こ と を 知 り,親 し み を も つ」(文 部 省 1969,p. 8) ことが挙げられる。このことを通 して、「幼児に関係深い人々に対し親しみや感 謝の念をもたせる」(文部省 1969,p. 8) とし た。また、「自然」領域では、「1 身近な動植 物を愛護し,自然に親しむ」ことの留意点とし て、「幼稚園や家庭などで育てている草花や動 物の世話を,見たり手伝ったり自分でしたりし て,それらをかわいがるようにし,動植物を愛
護する態度を養う」(文部省 1969,p. 10) こ とを指摘し、幼稚園にとどまらず、家庭での動 植物に対する愛護の気持ちも育むべきだとした。 加えて、子どもたちに「教師の人格や言動,友 だちや家庭,あるいは地域杜会の環境が特に強 い影響を及ぼすこと」(文部省 1969,p. 18) に触れ、家庭や地域の影響を加味した幼稚園教 育の指導計画づくりを求めた。 そ の 一 方 で、改 訂『幼 稚 園 教 育 要 領』は、 「家庭との連絡を密にし,家庭における教育と 相まって教育の効果をあげるようにすること」 を基本方針の 1 つとして位置づけた (文部省 1969,pp. 2-3)。そのため、幼稚園と保護者と の連携を重視する文言が見られるようになる。 たとえば、「健康」領域の「1 健康な生活に必 要な習慣や態度を身につける」では、「常に家 庭と連絡を密にし,幼児の年齢や発達の程度に 応じて,季節や時期などを考慮し,適切な機会 をとらえて健康な生活に必要な基礎的な習慣や 態度をくりかえして指導し,しだいに身につけ させるようにすること」(文部省 1969,pp. 5-6) が留意点として示される。また、「社会」 領域では、「1 個人生活における望ましい習慣 や態度を身につける」ことの留意点として、 「特に家庭との連絡を密にし,幼児の年齢や発 達の程度に応じて,適切な機会をとらえて,個 人生活における基本的な習慣や態度を身につけ, しだいに自主および自律の精神の芽ばえをつち かうようにすること」(文部省 1969,p. 8) が 挙げられる。さらに、「1 指導上の一般的留意 事項」では、「安全に関する指導にあたつては, 家庭や地域社会の人々と協力して幼児を危険や 災害から守り,特に登降園の途上における安全 を確保するようにすること」(文部省 1969, p. 19) というように、幼稚園教育の一端を保護 者と協力して行うことを求めている。 1964 年改訂の『幼稚園教育要領』では、幼 稚園が、家庭生活に関する教育の一部も行うこ とを継承しただけではない。家庭との連絡を強 調し、幼稚園教育が家庭教育と連携して行われ る必要性を示したからである。今回の改訂に携 わった坂元彦太郎らは、家庭との連絡を密にす るという基本方針のねらいを次のように解説し ている。「家庭教育と幼稚園教育とがそれぞれ 果たすべき分野があるのであって、あるときは 適当に分担し、あるときは一方が主となり他方 が従となって適切に両者助け合って教育の効果 をあげるようにしなければならないでしょう。 またできるだけ、家庭にもはたらきかけて、家 庭における幼児の養育の仕方がいっそう改善さ れるように努めることがのぞましいのであって、 そうした家庭における教育と相まって幼稚園の 教育がりっぱに行なわれるようでありたいもの です」(坂元編 1966,p. 15)。つまり、幼稚園 が家庭との連絡を密にするのは、幼児教育を互 いに分担したり、それぞれの教育に協力し合っ たりするためであるというのである。ただ、今 回の 1964 年改訂『幼稚園教育要領』自体には、 坂元らが想定した形での「連絡」のあり方につ いて具体的には盛り込まれていなかった。たと えば、家庭における幼児教育の改善のために、 何をすべきなのかという点に関しては、改訂 『幼稚園教育要領』に何も述べられていなかっ た。また、家庭教育と幼稚園教育の両者が助け 合う例として示されたのが、登降園での安全確 保を保護者と協力して行うことだけであった。 幼稚園内で実践される幼稚園の教育そのものに 参画できるような協力を意味する内容は皆無 だったのである。そのため、1956 年編集の旧 『幼稚園教育要領』に記された、幼稚園教育の 効果を高める手段として、保護者と関わるとい う意味で「家庭との連絡」を受け取られかねな い側面を有していた。 3-4 1989 年改訂 幼稚園教育要領 (1) 経緯と特徴 1981 年 11 月、第 13 期 中 央 教 育 審 議 会 が 「時代の変化に対応する初等中等教育の教育内 容などの基本的な在り方について」審議を行っ た。この審議会の教育内容等小委員会が 1983 年 11 月に経過報告を行い、幼稚園の教育内容、 教育方法に関する改善の検討を提言した6 )。そ の後、1984 年 8 月に臨時教育審議会が発足し、 中央教育審議会に代わって『幼稚園教育要領』 の改訂をめぐる審議を行った。1987 年 4 月臨 時教育審議会が「教育改革に関する第三次答 申」を答申した。その中で「就学前の教育の振 興」という節があり、4 つの観点から幼稚園教
育の改革の必要性が示される。この答申を受け、 発足した教育課程審議会は、1987 年 12 月に 「幼稚園、小学校、中学校及び高等学校教育課 程の基準の改善について (答申)」を公表し、 幼稚園教育における教育課程の基準の改善の方 針を列挙した。1989 年 3 月、改訂された『幼 稚園教育要領』が告示された。 1989 年改訂『幼稚園教育要領』の特徴は、2 つある。1 つは、領域を「健康」、「人間関係」、 「環境」、「言葉」、「表現」の 5 つに再編したこ とである。もう 1 つは、1964 年改訂『幼稚園 教育要領』が主張してきた内容を、総則の冒頭 で「幼稚園教育の基本」として示し、その方針 を明確にしたことである。たとえば、「幼稚園 教育は、幼児期の特性を踏まえ環境を通して行 うものであることを基本とする」ことや「ねら いが総合的に達成されるようにすること」(文 部省 1989,p. 1) などである。小学校教育の ように教科ごとの教育を想定するのではなく、 遊びを中心とした生活を通して、いくつかの領 域にまたがるねらいを総合的に身につけさせよ うとする、いわゆる児童中心主義的な教育方針 が徹底されることになった。 (2) 保護者との関係 表 2 で確認した通り、1989 年改訂『幼稚園 教育要領』は、これまでに制定、改訂されてき た『幼稚園教育要領』のなかで、保護者に関す るキーワードが一番少ない。1 つ目は、領域 「人間関係」の留意事項で使われているもので、 「集団生活の中で十分に他の幼児や身近な人々 と触れ合い自分の感情や意志を表現しながら共 に楽しみ共感し合う体験を通して、人とかかわ ることの楽しさや大切さを味わうことができる ようにすること。また、生活を通して親の愛情 に気付さ、親を大切にしようとする気持ちが育 つようにすること」(文部省 1989,p. 5) に留 意せよと言うものである。これは、これまでの 『幼稚園教育要領』と同じく、幼稚園が子ども の社会性を育む教育を行う中で、家庭教育の手 助けになるような教育を行う必要性を指摘した ものだと言える。「第 2 章 ねらい及び内容」 で保護者に関するキーワードが用いられたのは、 この箇所だけだった。 2 つ目は、「第 3 章 指導計画作成上の留意 事項」の「1 一般的な留意事項」で「幼児の 生活は、家庭を基盤として地域社会を通じて次 第に広がりをもつものであることに留意し、家 庭との連携を十分図るなど、幼稚園における生 活が家庭や地域社会と連続牲を保ちつつ展開さ れるようにすること」(文部省 1989,p. 11) という記述である。また、3 つ目は、「2 特に 留意する事項」で「心身に障害のある幼児の指 導に当たっては、家庭及び専門機関との連携を 図りながら、集団の中で生活することを通して 全体的な発達を促すとともに、障害の種類、程 度 に 応 じ て 適 切 に 配 慮 す る こ と」(文 部 省 1989,p. 12) という箇所である。この 2 つは、 幼稚園教育を円滑に行うために家庭の情報を収 集するという意味での連携を求めているように 映る。前者は「連続性」を保つため、後者は 「障害の種類、程度」を知るために、「家庭との 連携」を図ろうとしているからである。1964 年改訂『幼稚園教育要領』に見られた、幼稚園 と保護者との協力や、幼稚園が家庭教育を支援 するといった記述は、なくなってしまったので ある。 3-5 1998 年改訂 幼稚園教育要領 (1) 経緯と特徴 1995 年 4 月に発足した第 15 期中央教育審議 会は、1996 年 7 月、「21 世紀を展望した我が国 の教育の在り方について」の第一次答申を発表 した。これを受け、1996 年 8 月、教育課程審 議会に「幼稚園,小学校,中学校,高等学校, 盲学校,聾学校及び養護学校の教育課程の基準 の改善について」の諮問を行い,1998 年 8 月 の答申を出している。そして、この教育課程審 議会答申を受け,1998 年 12 月、改訂『幼稚園 教育要領』が告示される。 1998 年改訂『幼稚園教育要領』は、「幼稚園 教育は,学校教育法第 77 条に規定する目的を 達成するため,幼児期の特性を踏まえ,環境を 通して行うものである」ことや、「遊びを通し ての指導を中心として第 2 章に示すねらいが総 合的に達成されるようにすること」といった 1989 年改訂『幼稚園教育要領』の幼稚園教育 の基本をほぼ踏襲した (1998 文部省,p. 1)。 その上で、「幼稚園は,幼稚園教育の基本に基
づいて展開される幼稚園生活を通して,生きる 力の基礎を育成するよう学校教育法第 78 条に 規定する幼稚園教育の目標の達成に努めなけれ ばならない」(1998 文部省,p. 2) として、幼 稚園教育の基礎を通して、「生きる力の基礎」 を育むことを宣言する。その一方で、子育て支 援に幼稚園が協力することを新たに謳った。 「地域の幼児教育のセンターとしての役割を果 たすように努めること」(1998 文部省,p. 14) や「教育課程に係る教育時間の終了後に希望す る者を対象に行う教育活動」(1998 文部省, pp. 14-5) に「適切な指導体制を整える」こと を「特に留意する事項」として取り上げている。 (2) 保護者との関係 1989 年改訂『幼稚園教育要領』とほぼ変化 がないのが、領域「人間関係」での「内容の取 扱い」(1989 年改訂『幼稚園教育要領』では 「留意事項」と表記したもの) で、「生活を通し て親の愛情に気付き,親を大切にしようとする 気持ちが育つようにすること」(1998 文部省, p. 7) が指摘される。ただ、連携する内容に関 する言及が増える。まず、「幼稚園教育の目標」 の記述に「家庭との連携」という記述が挿入さ れ る。1989 年 改 訂『幼 稚 園 教 育 要 領』で は 「幼稚園は、幼児期が生涯にわたる人間形成の 基礎を培う時期であることを踏まえ」(文部省 1989,p. 1) と書かれた部分が、1998 年改訂 『幼稚園教育要領』では「幼児期における教育 は,家庭との連携を図りながら,生涯にわたる 人間形成の基礎を培うために大切なものであ り」(1998 文部省,p. 2) と変更されたからで ある。次に、1989 年改訂『幼稚園教育要領』 でも見られた、「幼児の生活は,家庭を基盤と して地域社会を通じて次第に広がりをもつもの であることに留意し,家庭との連携を十分に図 るなど,幼稚園における生活が家庭や地域社会 と連続性を保ちつつ展開されるようにするこ と」(1998 文部省,pp. 13-4) や、「障害のあ る幼児の指導に当たっては,家庭及び専門機関 との連携を図りながら,集団の中で生活するこ とを通して全体的な発達を促すとともに,障害 の種類,程度に応じて適切に配慮すること」 (1998 文部省,p. 14) といった「家庭との連 携」の必要性を説く留意事項も健在である。そ れに加えて、「特に,3 歳児の入園については, 家庭との連携を緊密にし,生活のリズムや安全 面に十分配慮すること」(1998 文部省,p. 13) という内容を新たに「家庭との連携」が必要な 根拠として挙げられる。とはいえ、「家庭との 連携」を求めるこれらの根拠は、1989 年改訂 『幼稚園教育要領』が示した、幼稚園教育を円 滑に行うために家庭から子ども個々の特色に関 する情報を得るといった意味での連携を抜け出 すものではなかった。 しかし、1998 年改訂『幼稚園教育要領』に は、1989 年改訂『幼稚園教育要領』にはない、 保護者との関係に関する記述がある。それが、 「地域の実態や保護者の要請により,教育課程 に係る教育時間の終了後に希望する者を対象に 行う教育活動については,適切な指導体制を整 えるとともに,第 1 章に示す幼稚園教育の基本 及び目標を踏まえ,また,教育課程に基づく活 動との関連,幼児の心身の負担,家庭との緊密 な連携などに配慮して実施すること」(1998 文 部 省,pp. 14-5) と い う「特 に 留 意 す る 事 項」である。これは、教育時間の終了後、延長 して子どもを預かり、教育を施す、いわゆる預 かり保育を幼稚園教育の一環として位置づける ことで、親の子育てを支援することを充実させ るものだと言える。さらに、「幼稚園の運営に 当たっては,子育ての支援のために地域の人々 に施設や機能を開放して,幼児教育に関する相 談に応じるなど,地域の幼児教育のセンターと しての役割を果たすよう努めること」(1998 文部省,p. 14) という「特に留意する事項」も、 1989 年改訂『幼稚園教育要領』にはなかった 内容である。ここでは、子育てを支援するため に、幼稚園が地域の幼児教育のセンターになる ことを提言している。 1998 年改訂『幼稚園教育要領』は、1989 年 改訂『幼稚園教育要領』と同様、保護者との連 携が個々の子どもの特性に対応するための手段 となっている。その一方で、いわゆる預かり保 育を幼稚園教育の一環として行うことや、幼稚 園が地域の幼児教育のセンターになることなど、 家庭教育を支援する取り組みを幼稚園の新たな 役割として位置づけたことに新しさがある。
3-6 2008 年改訂 幼稚園教育要領 (1) 経緯と特徴 2005 年 1 月、中央教育審議会が「子どもを 取り巻く環境の変化を踏まえた今後の幼児教育 の在り方について ――子どもの最善の利益の ために幼児教育を考える――」を答申した。こ の答申で示されたさまざまな課題に取り組みた め、2005 年 2 月に文部科学大臣が『幼稚園教 育要領』の見直す審議を中央教育審議会に要請 し、2005 年 4 月から審議が開始された。その 後、2006 年 12 月の教育基本法改正、2007 年 6 月の学校教育法改正が行われ、中央教育審議会 ではこれらの改正を踏まえた審議が行われた。 そして、2008 年 1 月に「幼稚園,小学校,中 学校,高等学校及び特別支援学校の学習指導要 領等の改善について」を答申し、この答申を受 け、2008 年 3 月、学校教育法施行規則が改正 されるとともに、2008 年改訂『幼稚園教育要 領』が告示された。 2008 年改訂『幼稚園教育要領』の特徴は、 大きくは次の 3 つである。1 つは、1998 年改訂 『幼稚園教育要領』とちがい、幼稚園教育の目 標に関する記述がなくなったことである。これ は、目標が不要になったからではなく、学校教 育法に幼稚園教育の目標が定められることに なったからである。2 つめが、幼稚園教育が義 務教育をはじめとする、その後の教育の基礎を 培うものであることを明確にしたこと。3 つめ は、幼稚園が行う子育て支援に関する記述が増 えていることである。その内容については、後 で詳しく見ていく。 (2) 保護者との関係 「教育課程の編成」の「幼稚園は,家庭との連 携を図りながら,この章の第 1 に示す幼稚園教 育の基本に基づいて展開される幼稚園生活を通 して,生きる力の基礎を育成するよう学校教育 法第 23 条に規定する幼稚園教育の目標の達成 に努めなければならない」(文部科学省 2008, p. 4) という内容は、1998 年改訂『幼稚園教育 要領』では「幼稚園教育の目標」に記載された 内容とほぼ同じである。また、「第 2 章 ねら い及び内容」の領域「人間関係」の「3 内容 の取扱い」は、「生活を通して親や祖父母など の家族の愛情に気付き,家族を大切にしようと する気持ちが育つようにすること」(文部科学 省 2008,p. 9) というように、親だけでなく、 祖父母などを含めた家族が対象となった。さら に、「第 3 章 指導計画及び教育課程に係る教 育時間の終了後等に行う教育活動などの留意事 項」の「一般的な留意事項」において、「その 際,入園当初,特に,3 歳児の入園については, 家庭との連携を緊密にし,生活のリズムや安全 面に十分配慮すること」(文部科学省 2008, p. 14) や「障害のある幼児の指導に当たっては, 集団の中で生活することを通して全体的な発達 を促していくことに配慮し,特別支援学校など の助言又は援助を活用しつつ,例えば指導につ いての計画又は家庭や医療,福祉などの業務を 行う関係機関と連携した支援のための計画を個 別に作成することなどにより,個々の幼児の障 害の状態などに応じた指導内容や指導方法の工 夫を計画的,組織的に行うこと」(文部科学省 2008,p. 15) といった文言も 1998 年改訂『幼 稚園教育要領』の内容を加筆したものだと言え る。その他、「第 2 章 ねらい及び内容」の領 域「健康」の「内容の取扱い」に「基本的な生 活習慣の形成に当たっては,家庭での生活経験 に配慮し,幼児の自立心を育て,幼児が他の幼 児とかかわりながら主体的な活動を展開する中 で,生活に必要な習慣を身に付けるようにする こと」(文部科学省 2008,p. 7) というように、 領域「健康」においても、家庭教育への配慮が 特段に必要であることが明記される。 加えて、「第 1 章 総則」に「教育課程に係 る教育時間の終了後等に行う教育活動など」と いう節が設けられ、いわゆる預かり保育に関す る独立の節が登場する。そこには、「幼稚園は, 地域の実態や保護者の要請により教育課程に係 る教育時間の終了後等に希望する者を対象に行 う教育活動について,学校教育法第 22 条及び 第 23 条並びにこの章の第 1 に示す幼稚園教育 の基本を踏まえ実施すること」(文部科学省 2008,p. 5) と し た う え で、そ の 教 育 活 動 が 「幼稚園の目的の達成に資するため,幼児の生 活全体が豊かなものとなるよう家庭や地域にお ける幼児期の教育の支援に努めること」(文部 科学省 2008,p. 5) とした。つまり、「教育課 程に係る教育時間の終了後等に希望する者を対
象に行う教育活動」が「家庭や地域における幼 児期の教育の支援」として明確に位置づけられ たのである。また、「教育課程に係る教育時間 の終了後等に行う教育活動などの留意事項」と して「地域の実態や保護者の要請により,教育 課程に係る教育時間の終了後等に希望する者を 対象に行う教育活動については,幼児の心身の 負担に配慮すること。また,以下の点にも留意 すること」(文部科学省 2008,p. 15) として、 以下の留意点を挙げる。その内容は、たとえば 「家庭や地域での幼児の生活も考慮し,教育課 程に係る教育時間の終了後等に行う教育活動の 計画を作成するようにすること。その際,地域 の様々な資源を活用しつつ,多様な体験ができ るようにすること」(文部科学省 2008,pp. 15-6) や「地域の実態や保護者の事情とともに 幼児の生活のリズムを踏まえつつ,例えば実施 日数や時間などについて,弾力的な運用に配慮 すること」(文部科学省 2008,p. 16) などで ある。 注目すべきは、「指導計画の作成に当たって の留意事項」の「一般的な留意事項」にある 「幼児の生活は,家庭を基盤として地域社会を 通じて次第に広がりをもつものであることに留 意し,家庭との連携を十分に図るなど,幼稚園 における生活が家庭や地域社会と連続性を保ち つつ展開されるようにすること」(文部科学省 2008,p. 14) という留意事項に、「また,家庭 との連携に当たっては,保護者との情報交換の 機会を設けたり,保護者と幼児との活動の機会 を設けたりなどすることを通じて,保護者の幼 児期の教育に関する理解が深まるよう配慮する こと」(文部科学省 2008,p. 14) として、保 護者が幼稚園教育に参画できる機会を提供する ことを提言していることである。このような内 容は、「教育課程に係る教育時間の終了後等に 行う教育活動などの留意事項」の記述にも存在 する。「家庭との緊密な連携を図るようにする こと。その際,情報交換の機会を設けたりする など,保護者が,幼稚園と共に幼児を育てると いう意識が高まるようにすること」(文部科学 省 2008,p. 16) というように。 一方、「地域の幼児教育のセンター」として の機能は「幼稚園の運営に当たっては,子育て の支援のために保護者や地域の人々に機能や施 設を開放して,園内体制の整備や関係機関との 連携及び協力に配慮しつつ,幼児期の教育に関 する相談に応じたり,情報を提供したり,幼児 と保護者との登園を受け入れたり,保護者同士 の交流の機会を提供したりするなど,地域にお ける幼児期の教育のセンターとしての役割を果 たすよう努めること」(文部科学省 2008,p. 16) となり、幼稚園が地域における幼児期の教 育センターとしてどのようなことが期待されて いるのか具体例を列挙している。 このように見ていくと、実は 2008 年改訂 『幼稚園教育要領』は、1998 年改訂『幼稚園教 育要領』の流れを変更するものではなく、その 流れを明確にするために各項目の記述を加筆し たという印象を受ける。とりわけ、いわゆる預 かり保育に関する記述が増え、預かり保育を幼 稚園の新たな役割として制度化が進んできたこ と が う か が え る。そ の 一 方 で、2008 年 改 訂 『幼稚園教育要領』には、1998 年改訂『幼稚園 教育要領』とは異なる部分がある。それは、地 域や保護者が幼稚園教育に参画する機会を積極 的に設けようとしている点である。幼稚園と保 護者との関係を、幼稚園側が家庭の情報を知る という意味にとどまらず、相互に情報を交換す ることや、さらには保護者が幼稚園教育に関与 したり、幼稚園が家庭教育を支援することへと 広げようとしていることが理解できる。 4 おわりに 戦後の日本政府が、幼稚園と保護者とのある べき関係をどのように想定していたのか。3 章 の内容を整理すると、表 3 のようになる。 戦後まもなくの 1948 年に刊行した『保育要 領』では、3 つの観点から幼稚園と保護者との 関係が示されていた。1 つは、保護者との相互 的交流関係である。互いを知るために、双方が 意見交換を行う関係のことである。2 つめは、 保護者からの協力関係である。保護者が必要に 応じて幼稚園教育に参画し、よりよりものにで きる間柄になるということである。3 つめは、 保護者への支援関係である。子どもの養育を適 切に行えるように、地域や保護者に教育を施す
ような関係を指す。 1956 年に編集された『幼稚園教育要領』で は、『保育要領』には示されなかった関係性の 形成を想定していた。1 つは、家庭教育に関わ る内容を幼稚園でも教えるという関係である。 社会性を育むことを目指す幼稚園としては、家 庭教育に関わる内容を全く取り扱わないという ことは難しい。そのため、幼稚園が家庭教育の 一部を重複する形で教育し、また同時に、家庭 での教育内容が幼稚園教育の一助となる。この ような保護者との連携関係が結果的に成立する ものであったと考えられる。もう 1 つは、保護 者との一方的交流関係である。幼稚園は、幼稚 園教育を円滑に行うために、保護者から子ども や地域の様子を調査する必要があるとされた。 ここでの交流は、幼稚園から保護者への接触で あって、保護者が幼稚園から幼稚園教育の内実 について情報を得ることや、提案することが想 定されているわけではない。その意味では、 『保育要領』で示された、互いを知るというよ りも、幼稚園が保護者から情報を引き出すため の、一方的交流であったとみなすことができる。 1964 年改訂『幼稚園教育要領』では、家庭 教育に関わる内容を幼稚園でも教えるという幼 稚園と保護者の連携関係は継続された。その一 方で、家庭との連絡を密にすることが掲げられ た。これは、坂元の解説を踏まえると、幼稚園 と保護者の交流関係を、幼稚園から保護者の情 報を聞き出す一方的交流関係から、互いが互い を知るための相互的交流関係への転換を図るも のだった。しかし、密にする必要があるとして 例示されたのは、幼稚園が子どもの特性を知る 必要性を迫られる場面であった。そのため、 1964 年改訂『幼稚園教育要領』の文言だけで は、相互的交流関係を求めていたことを理解す ることは難しかったのではないかと考えられる。 その結果、幼稚園が考える保護者との交流とは、 相変わらず保護者から情報を聞き出すようなも のにならざるを得なかったのではないかと推測 される。また、坂元の解説から見出せるのは、 幼稚園が幼稚園教育に関して保護者の協力が得 られる関係、つまり保護者からの協力関係を構 築させることをイメージしていたことである。 ただ、こちらに関しても、1964 年改訂『幼稚 園教育要領』の本文では、登降園での安全確保 に関して保護者に協力を求める内容は見られる ものの、幼稚園での教育活動そのものへの保護 者の協力に言及するものはなかった。 1989 年改訂『幼稚園教育要領』では、幼稚 園と保護者の連携関係に関する記述は継承され た。また、幼稚園から保護者への一方的交流関 係を「家庭との連携」として評すようになった。 1998 年改訂『幼稚園教育要領』では、幼稚 園と保護者との連携関係や、幼稚園から保護者 への一方的交流関係という 1989 年改訂『幼稚 園教育要領』での幼稚園と保護者の関係図式を 維持した。しかし同時に、預かり保育の実施や、 地域の幼児教育のセンターとの位置づけなど、 子育て支援を行うことが幼稚園の役割として新 たに示される。ただし、その内容は、「特に留 表 3 幼稚園と保護者との関係に関する記述内容 提携関係 交流関係相互的 交流関係一方的 協力関係 支援関係 1948 年 保育要領 ○ ○ ○ 1956 年 幼稚園教育要領 ○ ○ 1964 年改訂 幼稚園教育要領 ○ ○ ○ 1989 年改訂 幼稚園教育要領 ○ ○ 1998 年改訂 幼稚園教育要領 ○ ○ ○ 2008 年改訂 幼稚園教育要領 ○ ○ ○
意する事項」の 1 つとして簡潔に述べられたも のにすぎなかった。 2008 年改訂『幼稚園教育要領』では、幼稚 園と保護者との関係に関しては、1998 年改訂 『幼稚園教育要領』の内容を大枠では継承する 内容であった。幼稚園と保護者の連携関係に関 する記述は継承された。また、子育て支援を行 う幼稚園の役割について、新たな節を別途設け、 具体例を挙げながら、その実行を促す内容で あった。その一方で、1998 年改訂『幼稚園教 育要領』とは違い、保護者が幼稚園教育に参加 することや、幼稚園と保護者の意見交換の必要 性などが示され、相互的交流関係を模索してい るように感じられた。 このことから何が分かるのか。1 つは、幼稚 園と保護者との交流関係のあり方をめぐり、揺 れ動いてきたということである。幼稚園と保護 者との交流を限定的に考えた 1956 年『幼稚園 教育要領』、1989 年改訂『幼稚園教育要領』、 1998 年改訂『幼稚園教育要領』に対して、幼 稚園と保護者との交流を積極的に位置づけた 1948 年『保育要領』、1964 年改訂『幼稚園教育 要領』、2008 年改訂『幼稚園教育要領』がある。 交流を限定するか、積極的に位置づけるかは、 幼稚園教育要領の変遷の中で、ほぼ交互に現れ ており、まさに揺れ動いているという表現が ぴったりである。2 つ目は、支援関係が近年、 重視されるようになったことである。1998 年 改訂『幼稚園教育要領』、2008 年改訂『幼稚園 教育要領』という近年の幼稚園教育要領で幼稚 園による保護者の支援が語られるようになる。 少子化による子育て支援の必要性が高まる中で、 幼稚園がそのあり方を変容させ、対応しようと したものだと言える。3 つ目は、協力関係が築 く必要性がなかなか示せないことである。幼稚 園に参画し、幼稚園教育をよりよいものにする という保護者の立ち位置は戦後まもなくの『保 育要領』でしか、具体的に示されていない。そ のため、保護者は幼稚園で行われている教育そ のものに意見を述べ、参画するといった協力に なりえず、1964 年改訂『幼稚園教育要領』の ように、幼稚園での雑用を手伝う存在としての 位置づけにとどまっている。今や、保護者が幼 稚園教育に口をはさむことは、モンスターペア レントとして糾弾の対象でしかないのかもしれ ない。この点をどうするのか。幼稚園教育要領 の変遷から読み取れる課題であると言える。 【注】 1 ) 事実、1956 年 2 月に編集された『幼稚園教育 要領』の「まえがき」には、「今回教材等調査 研究会幼稚園小委員会の審議を経て『保育要 領』を改訂し、これを『幼稚園教育要領』と して示すことにした」(文部省 1962,まえが き) との記述がある。 2 ) ただし、H. ヘファナンの影響下にあったもの の、「ほとんど全部の文章は、日本側の委員の 筆」(坂元 1985,p. 30) による。 3 ) PTA とは、2010 年に公布された PTA・青少 年教育団体共済法の第 2 条第 1 項によれば、 「学校 (中略) に在籍する幼児、児童、生徒若 しくは学生 (中略) の保護者 (中略) 及び当 該学校の教職員で構成される団体又はその連 合体」のことを指す。 4 ) 確かに、本格的な改訂までは至らなかったもの の、「この指導書によって、領域としての音楽 リズムの考え方が明確になり、その指導目標 や方針が明らかになったといえる。この点に おいて、保育領域の改訂へ向う具体的な一歩 が踏み出されたとみることができる」(文部省 1969,p. 156) と評される。 5 ) 「保育要領改訂委員会」ではなく、「幼稚園教育 要領編集委員会」と称したのは、保育要領の 部分改訂ではなく、幼稚園教育のあり方を示 す「幼稚園教育の要領」を作成しようとする 思いからだったとされる (上野 1960)。 6 ) 高杉良子は森上史朗との対談で、この中間報告 によって、「幼稚園の教育要領を変えなければ ならないということが、はっきりと公示され たという感じがしました」(高杉・森上 1989, p. 2) と述懐している。 【文献】 文部科学省 2008,『幼稚園教育要領〈平成 20 年告 示〉付教育基本法 学校教育法 (抄) 学校教 育法施行規則 (抄) 平成 20 年 3 月 28 日文部 科学省告示第 26 号』フレーベル館。 文部省 1948,『保育要領 ――幼児教育の手びき ――』(国立教育政策研究所「学習指導要領 データベースインデックス」から再引用 https : //www.nier.go.jp/guideline/)。 ――― 1962,『幼稚園教育要領 昭和 31 年度』フ レーベル館。 ――― 1969,『幼稚園教育九十年史』ひかりのく
に昭和出版。 ――― 1969,『幼稚園教育要領 昭和 39 年 3 月 23 日文部省告示第 69 号』フレーベル館。 ――― 1989,『幼稚園教育要領 付学校教育法施 行規則 (抄) 平成元年 3 月』大蔵省印刷局。 ――― 1998,『幼稚園教育要領 付学校教育法施 行規則 (抄) 平成 10 年 12 月』大蔵省印刷局。 森上史朗 1985,「幼稚園教育要領の改訂」,岡田正 章・久保いと・坂元彦太郎・宍戸建夫・鈴木 政次郎・森上史朗編,『戦後保育史 第二巻』, フレーベル館。 村山貞雄 1980,「保育要領の刊行」,日本保育学会, 日本保育学会『日本幼児保育史 第六巻』,フ レーベル館。 坂元彦太郎編 1966,『幼稚園教育要領解説』フ レーベル館。 坂元彦太郎 1985,「保育要領の作成」,岡田正章・ 久保いと・坂元彦太郎・宍戸建夫・鈴木政次 郎・森上史朗編,『戦後保育史 第一巻』,フ レーベル館。 高杉良子・森上史朗 1989,「はじめに」,高杉良 子・平井信義・森上史朗編『ʼ89 告示 幼稚園 教育要領の解説と実践 (5) 幼稚園教育要領 を理解するための資料』小学館。 上野芳太郎・武田一郎・玉越三朗・宮内孝・小山田 幾子 1960,『増補改訂 幼稚園教育要領の実 践 付 幼稚園設置基準通達全文』フレーベ ル館。