第2回医療現場に求められる臨床倫理
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(2) 資料1:重篤な疾患を持つ新生児の家族と医療スタッフの話し合いのガイドライン 1.すべての新生児には,適切な医療と保護を受ける権利がある。. 注2:こどもと家族に対して共感的に接し,スタッフ間の協. 注:医療スタッフは,すべての新生児に対して,その命の誕. 力関係を維持するためには,怒りや悲しみ,無力感と. 生を祝福し,慈しむ姿勢をもって,こどもと家族に接す. いった否定的な感情が生じる場合であっても,そのよ. るべきである。. うな感情を十分に自覚し,スタッフ間で率直な話し合. 2.父母はこどもの養育に責任を負うものとして,こどもの治療 方針を決定する権利と義務を有する。 注:父母は必要な情報の説明を受け,治療方針を決定する過 程に参加する権利と義務を有する。医療スタッフはその 実現に努めなければならない。 3.治療方針の決定は,「こどもの最善の利益」に基づくもので なければならない。 注:家族や医療スタッフの利益ではなく,こどもの利益を最 優先させることを家族と医療スタッフが確認する。 4.治療方針の決定過程においては,父母と医療スタッフとが十 分な話し合いを持たなければならない。 注:「こどもの最善の利益」の判断に際しては,それぞれの 治療方針を選択した場合に予想される利益・不利益につ いて慎重に考慮されなければならない。 5.医療スタッフは,父母. と対等な立場 での信頼関係 の形成(注3)に努めなければならない。 注1:父母はこどもが受ける医療について自由に意見を述べ, 気持ちを表出できる機会を保障されるべきである。 注2:医療スタッフは,父母の立場を理解するよう心がけ, 父母の意見を尊重するよう努めるべきである。 注3:信頼関係の形成のためには,こどもと家族のプライバ シーに対する配慮が不可欠である。 (注1). (注2). 6.医療スタッフ(注1)は,父母(注2)にこどもの医療に関する正. いと情緒的支え合いを行っていくことが望ましい。 8.医師は最新の医学的情報とこどもの個別の病状に基づき,専 門の異なる医師および他の職種のスタッフとも協議の上,予 後を判定するべきである。 注:医師は,限られた自分の経験や知識のみに基づいて予後 判定を行ってはならない。 9.生命維持治療の差し控えや中止は,こどもの生命に不可逆的 な結果をもたらす可能性が高いので,特に慎重に検討されな ければならない。父母または医療スタッフが生命維持治療の 差し控えや中止を提案する場合には,1から8の原則に従っ て,「こどもの最善の利益」について十分に話し合わなけれ ばならない。 (1)生命維持治療の差し控えや中止を検討する際は,こども の治療に関わる,できる限り多くの医療スタッフが意見 を交換するべきである。 注:限られた医療スタッフによる独断を回避し,決定プ ロセスを透明化するため,治療の差し控えや中止を 検討する際は,当該施設の倫理委員会等にも諮るこ とが望ましい。 (2)生命維持治療の差し控えや中止を検討する際は,父母と の十分な話し合い(注1)が必要であり,医師だけでなく その他の医療スタッフが同席したうえで(注2)父母の気 持ちを聞き,意思を確認する。. し,分かりやすく説明し. 注1:話し合いには医師と看護者が共に参加するべきで. 注1:医師・看護者・コメディカルスタッフは,それぞれの 専門的立場から下記(注3)のような医療情報を伝え る必要がある。 注2:説明をする際は,父母同席が原則である。どちらか一. に寄り添える立場の人物(心理士,ソーシャル. 確な情報. を速やかに提供 なければならない(注5)。 (注3). (注4). 方に先に説明しなければならない場合であっても,父母 同席が可能となった時点で再度説明を行う必要がある。 注3:提供すべき情報には,診断名・病態,実施されている 治療内容,代替治療方法,それぞれの治療方法を選択 した場合の利益・不利益と予後,ケアに関する看護情 報,療育に関する情報,社会的資源および福祉制度に 関する情報などが含まれる。 注4:重要な情報は書面にて提供し,父母からの質問には適 宜応じる。 注5:説明に際しては,父母に対して精神的な支援を行う。 7.医療スタッフは,チームの一員として,互いに意見や情報を 交換し自らの感情(注1)を表出できる機会(注2)をもつべきで ある。 注1:ここでいう「感情」とは,こどもの治療にかかわる際 に医療スタッフの中に引き起こされる様々な情緒的反 応を指す。. ある。その他の医療スタッフおよび父母の気持ち ワーカー,宗教家,その他父母の信頼する人)の 同席も望ましい。 注2:多数の医療スタッフが立ち会うことによる父母へ の心理的圧迫にも十分な配慮が必要である。 (3)生命維持治療の差し控えや中止を決定した場合は,それ が「こどもの最善の利益」であると判断した根拠を,家 族との話し合いの経過と内容とともに診療録に記載する。 (4)ひとたび治療の差し控えや中止が決定された後も, 「こ どもの最善の利益」にかなう医療(注1)を追求し,家族 への最大限の支援(注2)がなされるべきである。 注1:この場合の「こどもの最善の利益」とは,こども の尊厳を保ち,愛情を持って接することである。 注2:家族とこどもの絆に配慮し,出来る限りこどもに 接する環境を提供すべきである。 10.治療方針は,こどもの病状や父母の気持ちの変化に応じて (基づいて)見直されるべきである。医療スタッフはいつで も決定を見直す用意があることをあらかじめ父母に伝えてお く必要がある。. 田村正徳:重篤な疾患を持つ新生児の家族と医療スタッフの話し合いのガイドライン,厚生労働省・成育医療研究事業 「重症障害新生児医療のガイドライン及びハイリスク新生児の診断システムに関する総合的研究」平成16年報告書,2004.. こどもケア vol.10_no.5. 87.
(3) また,筆者は,2008年,厚生労働省精神・. 思決定プロセスに関するガイドライン―人工的. 神経疾患研究の分担研究班(山田美智子)にも. 水分・栄養補給の導入を中心として』というガ. 新生児医療の立場から加わり,今までタブーで. イドラインを公表し,胃瘻中止も選択肢として. あった重症心身障害医療における倫理問題にも取. 広く社会に提起した13)。. り組んだ。その結果, 『重症心身障害医療の倫理. 2013年,日本透析医学会が「終末期の透析. 的問題を考える』という報告書が発刊された8)。. 見合わせ,提言案」を公開して意見を募集し,. こうした中で,筆者は今までの医療現場の臨 床倫理の問題を取り上げ,16人の執筆者の協力. プロセスについての提言』を公表した14)。. を得て,2010年に『新生児・小児医療にかかわ. さらに,2014年,救急3学会(日本救急医. 9). る人のための看取りの医療』を発刊した 。こ. 学会,日本集中治療医学会,日本循環器学会). れは,子どもの死をタブー視せず多面的に学問. が『救急・集中治療における終末期医療に関す. 化し,子どもの最善の利益を中心に多職種協働. る提言(ガイドライン) 』を公開し,延命措置. で支援することの重要性を提起したものである。. の差し控えを可能にする要件を示した15)。. さらに,日本小児科学会倫理委員会小児終末. このように,ほかの分野においても,終末期. 期ガイドラインワーキンググループが,2012. の侵襲的治療介入の問題や本人の尊厳を考えた. 年に『重篤な疾患を持つ子どもの医療をめぐる. より良い医療についての公開論議がされるよう. 話し合いのガイドライン』を公表した10) (資料. になりつつある。. 2)。医療チームと家族の話し合いによる協働 意思決定(shared decision-making)の重要性 を学会として正式に提起した。 そして,2015年,日本小児科学会倫理委員会. 「通常の医療行為の範疇」における 倫理的・医学的意思決定の プロセスとは?. 公開フォーラムで「小児の看取りの医療」が本. それでは, 「通常の医療行為の範疇」におけ. 格的に取り上げられ,公の場で子どものより良. る倫理的・医学的意思決定のプロセスとはいか. 11). い看取りについても協議できるようになった 。. その他の学会・厚生労働省の ガイドライン. なるものであろうか。現在,筆者が考える基本 的な考え方および具体的なプロセスと対応を図 (P.90)に示す16)。 特に,重篤な新生児や小児のように自分で意. 2007年,厚生労働省は『終末期医療の決定. 思表示をすることが困難な場合は,まず複数医. プロセスに関するガイドライン』 (2015年に. 師による生命・障害予後の客観的な科学的判断,. 『人生の最終段階における医療の決定プロセス. 本人の最善の利益(best interests)を中心に家. に関するガイドライン』として改正)を公表し. 族と医療チームで本来傷害行為に当たる侵襲的. 12). 88. 『維持血液透析の開始と継続に関する意思決定. た (資料3,P.90) 。終末期医療およびケア. 治療介入の是非〈制限・差し控え・中止〉の検. の方針の決定手続きとして,①患者の意思確認. 討と十分な話し合いを行い,情報共有の上,法. ができる場合,②患者の意思確認ができない場. 的代理人である家族の希望表出と決定への参加. 合,そして③複数の専門家から成る委員会の設. を促す。さらに,家族の希望が医療チームの倫. 置に分け,それぞれの対応を明記している。. 理的許容範囲であれば,協働意思決定(shared. 2012年,日本老年学会が『高齢者ケアの意. decision-making)を行う。そして,急変時の. こどもケア vol.10_no.5.
(4) 資料2:重篤な疾患を持つ子どもの医療をめぐる話し合いのガイドライン 基本精神 1.すべての子どもには,適切な医療と保護を受ける権利がある。 注:医療スタッフは,すべての子どもを慈しむ姿勢を持って, 子どもと父母(保護者)に接する。 2.子どもの気持ちや意見を最大限尊重する。 3.治療方針の決定は子どもの最善の利益に基づくものとする。 注1:父母(保護者)や医療スタッフの利益ではなく,子ど もの利益を最優先させることを父母(保護者)と医療 スタッフが確認する。 注2:子どもの最善の利益の判断に際しては,それぞれの治 療方針を選択した場合に予想される利益・不利益につ いて慎重に考慮する。考慮すべき項目には,生存時間 だけでなく,治療による子どもの身体的・精神的苦痛 を含む。 4.父母(保護者)および医療スタッフは,子どもの人権を擁護 し,相互の信頼関係の形成に努める。 注1:医療スタッフは,子どもと父母(保護者)が非日常的 状況にあることを考慮して,精神的な負担を軽減する よう配慮する。 注2:医療スタッフは,父母(保護者)の立場を理解するよう 心がけ,父母(保護者)の意見を尊重するよう努める。 注3:子どもと父母(保護者)のプライバシーに配慮する。. 話し合いのあり方 5.医療スタッフは,子どもと父母(保護者)に,最新の医療情 報を速やかに,正確に,分かりやすく説明する。 注1:説明すべき情報は,「診断名・病態,実施されている 治療内容,治療しないことも含めた代替治療方法,そ れぞれの治療法を選択した場合の利益と苦痛を含めた 不利益と予後,ケアに関わる看護情報,療育に関わる 情報,社会的資源,法律・福祉に関する情報」などが 含まれる。 注2:説明をする際は,父母(保護者)同席が原則である。 どちらか一方に先に説明しなければならない場合で あっても,父母(保護者)同席が可能となった時点で 再度説明を行う。 注3:重要な医療情報については文書にて提供し,医療ス タッフは,子どもと父母(保護者)からの質問にいつ でも適切に応じられる体制を整える。 6.子どもは,発達段階に応じてわかりやすく説明を受け,治療 のあり方に関して自分の気持ちや意見を自由に表出すること ができる。 注:医療スタッフおよび父母(保護者)は,子どもが嫌がる 検査や治療をできるだけ減らすよう努力し,やむを得ず 実施する場合も,できるかぎり本人の納得を得るように 努力する。 7.父母(保護者)は,子どもの養育に責任を負う者として,子 どもの気持ちや意見を尊重しながら,子どもの病態を理解し たうえで,治療方針を決定する。 注:父母(保護者)は,子どもが受ける医療について自由に 意見を述べ,気持ちを表出できる機会を保障される。 8.治療方針の決定過程においては,子どもと父母(保護者)と 医療スタッフとが対等の立場で十分な話し合いをもつ。 注:重要な決定事項については,話し合いの過程を診療録に 残し,関係者全員が文書に署名する。署名はとくに子ど も,父母(保護者)の対等な立場での参加を担保する趣 旨であり,決定に対する責任を問う趣旨ではないことに 留意する。. 9.治療方針は,子どもの病状や子どもおよび父母(保護者)の 気持ちの変化に基づいて見直すことができる。医療スタッフ はいつでも決定を見直す用意があることをあらかじめ子ども と父母(保護者)に伝えておく必要がある。. 生命維持治療の差し控えや中止の検討 10.生命維持治療の差し控えや中止は,子どもの生命に不可逆的 な結果をもたらす可能性が高いので,以下の原則および別紙 のチェックリストを用いて,特に慎重に検討する。 (1)父母(保護者)または医療スタッフなどの関係者は,子 どもの最善の利益に適うと考えられる場合には,生命維 持治療の差し控えや中止を提案することができる。 (2)父母(保護者)および医療スタッフは,医療情報を共有 し意見交換を行うことで,共に子どもの最善の利益を考 える。 注:ただし,話し合いに参加したくないという父母の意 向は尊重されなければならない。 (3)子どもの治療に関わる多くの医療スタッフが話し合いに 参加することで,限られた医療スタッフによる独断を回 避し,決定プロセスを透明化する。 注1:医師は他の医療スタッフとの協議の上,最新の医 学的情報と子どもの個別の病状に基づき,予後を 適切に判定する。 注2:話し合いには,医師や看護師に加え,父母(保護 者)の気持ちに寄り添える立場の人物(心理士, ソーシャルワーカー,宗教家,親の信頼する人達) を同席させることが望ましい。 注3:多数の医療スタッフが立ち会うことによる父母 (保護者)への心理的圧迫にも十分な配慮が必要 である。 (4)関係する医療スタッフと父母(保護者)が,子どもの最 善の利益について一致した意見に達する様に話し合う。 注:意見が一致しない場合には,治療開始または継続し つつ,検討を継続する。 (5)生命維持治療の差し控えや中止を決定した場合は,それ が子どもの最善の利益であると判断した根拠を,父母 (保護者)との話し合いの経過と内容とともに診療録に 記載する。さらには決定事項を明記した文書に父母(保 護者)を含めた関係者全員が署名する。 (6)治療の差し控えや中止を検討する際は,当該施設の倫理 委員会や倫理的問題を議論するケースカンファランス, 第三者機関等(倫理コンサルテーションサービスなど) にも諮ることが望ましい。 (7)ひとたび治療の差し控えや中止が決定された後でも,子 どもの尊厳を護り最善の利益にかなう医療を追求する。 11.生命維持治療の差し控えや中止を検討する際には,子ども本 人はもとより,父母(保護者),家族そして医療スタッフな ど関係者全員への継続した精神的支援が必要である。 注1:子どもに対しては,病気という状況を受け入れ,尊厳 を保ちつつ生活できる支援をする。 注2:父母(保護者)および医療スタッフは,自らの感情を 表出できる機会を持つべきである。 注3:注2でいう医療スタッフの「感情」とは,子どもの治 療にかかわる際に医療スタッフの中に引き起こされる 様々な情緒的反応を指す。特に怒りや悲しみ,無力感 といったような否定的な感情が生じる場合,スタッフ 間で,そのような感情を十分に自覚し,率直な話し合 いと情緒的な支え合いを行っていくことが望ましい。 このような感情を抑制したままでいると,子どもと家 族に対して共感的に接することや,スタッフ間の協力 関係を維持することが難しくなるためである。. 日本小児科学会倫理委員会小児終末期医療ガイドラインワーキンググループ:重篤な疾患を持つ子どもの医療をめぐる話し合いのガイドライン,2012.. こどもケア vol.10_no.5. 89.
(5) 資料3:『人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン』とは? 人生の最終段階を迎えた患者や家族と,医師をはじめとする医療従事者が,患者にとって最善の医療とケアをつ くり上げるためのプロセスを示すガイドラインです。. ▶人生の最終段階における医療とケアの在り方. ①医師など医療従事者から適切な情報の提供と説明がなされ,それに基づいて患者が医療従事者と話し合いを行 い,患者本人による決定を基本とした上で,人生の最終段階における医療を進めることが最も重要な原則である。 ② 「人生の最終段階における医療」における医療行為の開始・不開始,医療内容の変更,医療行為の中止などは, 多専門職種の医療従事者から構成される医療・ケアチームによって,医学的妥当性と適切性を基に慎重に判断す べきである。 ③医療・ケアチームにより可能な限り痛みやその他の不快な症状を十分に緩和し,患者や家族の精神的・社会的な 援助も含めた総合的な医療とケアを行うことが必要である。. ▶人生の最終段階における医療とケアの話し合いのプロセス 患者の意思が 確認できる 十分な 情報の 提供. 患者と医療従事者とが十分に話し合い, 患者が意思決定を行う. 人生の最終段階における 医療とケアの方針決定. 家族が患者の意思を 推定できる. 病態などにより 医療内容の決定 が困難. 患者の推定意思を尊重し, 患者にとって最善の治療方針をとる. 患者の意思が 確認できない. 家族が患者の意思を 推定できない 家族がいない. 家族の中で意見 がまとまらない などの場合 →複数の専門家で 構成する委員会 を設置し,治療 方針等の検討や 助言. 患者にとって最善の治療方針を, 医療・ケアチームで慎重に判断 (※家族がいる場合は十分に話し合う). 厚生労働省:「人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン」とは?. 図:倫理的・医学的意思決定のプロセスと対応(通常の医療行為の範疇) 最も親しい法的代理 人(両親). 終末期医療の決定プ ロセスに関するガイ ドライン(厚生労働 省,2007年). 生命・障害予後の科学的判断 〈複数医師による〉 →医的侵襲介入(傷害行為)の是非 〈制限・差し控え・中止〉 →Best interests (児の最善の利益) →Shared decision-making (協働意思決定) →End-of-life communication (終末期コミュニケーション) →Advance care plan (事前ケアプラン). Allow natural death(自然死の容認) →緩和ケア〈全人医療の基本〉 →Patient & family centered care 〈尊厳・尊重,情報共有,参加,協働〉. 医療チーム 医療チームの 倫理的許容範囲 倫理委員会. 話し合いのガイドライン(成 育医療研究班,2004年 日本小児科学会倫理員会ワー キンググループ,2012年). 船戸正久:新生児医療の進歩と生命倫理―医的侵襲行為の差控え・中止の基本的考え方,日本小児科学会雑誌,Vol.117,No.10, P.1560 ∼ 1568,2013.,新生児医療連絡会編:NICUマニュアル,第5版,P.651,金原出版,2014.より引用,改変. 90. こどもケア vol.10_no.5.
(6) 対 応 を 含 め た 終 末 期 の 話 し 合 い(end-of-life. 是非を考慮するのはどのような病態であろうか。. communication)を行い,協働でより良い看取. 新生児において現在「医学的・倫理的意思決. りケアのために事前ケアプラン(advance care. 定の対象」と考えられる疾患群は,①無脳症,. planning)を作成する。そして,家族の署名を. ②ポッター症候群,③D(13) -トリソミー,E. もらい,希望文書(wish document)としてカ. (18) -トリソミー,④重度の頭蓋内出血,⑤重. ルテに保管する。この時,希望文書は何度でも. 度の低酸素性虚血性脳症,⑥在胎23週未満の超. 変更が可能であることを家族と共有する。. 早産児などである19)。このような予後不良な児. 一方,協働意思決定において家族の希望が. に果たしてどこまで侵襲的治療介入を加えるの. チームの倫理的許容範囲を超える場合,倫理委. が倫理的に許されるのかという視点も必要であ. 員会で法的手続きを含めた多面的な検討が必要. り,これらの疾患群は,子どもの最善の利益を. である。そうしたプロセスをきちんとたどり,. 中心に,法的代理人である家族による「治療選. その過程をカルテに記載すると同時に,希望文. 択の余地がある疾患(optional zone) 」と考え. 書を保管することで, 「通常の医療行為の範疇」. られる20)。. に入ると思われる。これらの考え方の基本は,. ヨーロッパ連合(EU)では在胎26週未満の. 自然死の容認(AND:allow natural death) ,全. 超早産児に対するアプローチとして,法的代理. 人医療の土台となる緩和ケア(palliative care). 人である家族による「選択の余地のある治療」. の導入,そして,本人と家族中心のケア(patient. も含む次のような提案がなされている21)。日本. & family centered care)である。その大切な. には,まだこうしたガイドラインはなく,家族. 4つのキーワードは, 「尊厳・尊重」 「情報共有」. の希望とは関係なく多くの治療介入がなされる. 「参加」「協働」である17)。. ことが現状である22)。. 侵襲的治療介入の差し控え・中止を 考慮する状態とは?. ①23+0週未満:通常蘇生を推奨しない。 ②23+0週~23+6週:蘇生は,両親の希望 に沿う。希望により緩和ケア適応。. それでは,具体的に医療現場で侵襲的治療介. ③24+0週~24+6週:児が重篤な合併症が. 入の差し控え・中止を考慮する状態とはどのよ. ない場合,蘇生とNICU管理。状態により治. うな病態であろうか。. 療中止し,緩和ケア適応。. イギリス小児科学会によるガイドライン. ④25+0週以上:積極的蘇生とNICU管理を適応。. (2004年)では,治療の差し控え・中止が考慮. ◆ ◆ ◆. され得る5つの病態として,①脳死,②植物状. 最終回となる次回は,当センターで事前ケア. 態,③回復可能性がない状態,④治療目標がな. プラン(advance care planning)に従って看. い状態,⑤これ以上治療に耐えられない状態の. 取った事例を提示し,具体的な「通常の医療行. 5つの状態が挙げられている. 18). 。これらの状態. に対して,本人の最善の利益のために侵襲的治 療介入をどこまでやり続けるのがよいかが現在 問われており,各医療現場で家族や医療従事者 の大きなジレンマとなっている。 一方,新生児医療において侵襲的治療介入の. 為の範疇」における倫理的・医学的意思決定の プロセスについて考察する。 引用・参考文献 1)Klaus MH, Kennel JH著,竹内徹,柏木哲夫訳:母と子のきずな ―母子関係の原点を探る,P.306,医学書院,1979. 2)SANDS編,竹内徹訳:周産期の死―死別された両親へのケア― 流産・死産・新生児死亡,P.58,メディカ出版,1993. 3)仁志田博司編,仁志田博司他著:出生をめぐるバイオエシックス ―周産期の臨床にみる「母と子のいのち」 ,メジカルビュー社,1999.. こどもケア vol.10_no.5. 91.
(7) 4)松田一郎:生命医学倫理ノート―和の思想との対話,日本評論社, 2004. 5)田村正徳:重篤な疾患を持つ新生児の家族と医療スタッフの話し 合いのガイドライン,厚生労働省・成育医療研究事業「重症障害新 生児医療のガイドライン及びハイリスク新生児の診断システムに関 する総合的研究」平成16年報告書,2004. http://jspn.gr.jp/info/INFORMATION.html(2015年10月閲覧) 6)田村正徳,玉井真理子編:新生児医療現場の生命倫理―「話し合 いのガイドライン」をめぐって,メディカ出版,2005. 7)船戸正久:NICUにおける緩和的ケア―赤ちゃんとご家族に対する 医療従事者の配慮,厚生労働省・成育医療研究委託事業分担研究「重 症障害新生児医療のガイドライン作成のための基礎研究―重症新生 児の予後予測と緩和的医療の研究」平成16年度報告書,2004. 8)佐々木征行:重症心身障害医療の倫理的問題を考える,厚生労働 省精神・神経疾患研究委託事業「重症心身障害児(者)の病因・病 態解明,治療・療育,および施設の在り方に関する研究班」研究報 告書別冊,2008. 9)船戸正久編:新生児・小児医療にかかわる人のための看取りの医 療,診断と治療社,2010. 10)日本小児科学会倫理委員会小児終末期医療ガイドラインワーキン ググループ:重篤な疾患を持つ子どもの医療をめぐる話し合いのガ イドライン,2012. https://www.jpeds.or.jp/uploads/files/saisin_120808.pdf(2015 年10月閲覧) 11)日本小児科学会倫理委員会公開フォーラム報告,日本小児科学会 雑誌,Vol.119,No.7,P.1182 ~1185,2015. 12)厚生労働省: 「人生の最終段階における医療の決定プロセスに関 するガイドライン」とは? http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10800000Iseikyoku/0000078983.pdf(2015年10月閲覧) 13)日本老年医学会:胃瘻中止も選択肢,福祉新聞,No.2582,2012.. 92. こどもケア vol.10_no.5. 14)渡邊有三,平方秀樹:慢性血液透析療法の導入と終末期患者に対 する見合わせに関する提言(案) ― 「慢性血液透析療法の非導入/継続 中止(見合わせ)」に関する血液透析療法ガイドラインワーキンググ ループからの提言(案)2012を策定することに至った経緯について, 日本透析医学会雑誌,Vol.45,No.12,P.1085 ~1106,2012. 15)日本救急医学会,日本集中治療医学会,日本循環器病医学会:3 学会合同の「救急・集中治療における終末期に関する提言(ガイド ライン)」(2014.4.29案). http://www.jaam.jp/html/info/2014/pdf/info-20140526_01_02. pdf(2015年10月閲覧) 16)船戸正久:新生児医療の進歩と生命倫理―医的侵襲行為の差控 え・中止の基本的考え方,日本小児科学会雑誌,Vol.117,No.10, P.1560 ~1568,2013. 17)St. Jude Children’s Research Hospital:What is Patient Family Centered Care ? https://www.stjude.org/treatment/patient-resources/familycentered-care.html(2015年10月閲覧) 18)Withholding or withdrawing life sustaining treatment in children: a framework for practice. 2nd ed. Royal College of Paediatrics and Child Health, 2004. 19)船戸正久:重症染色体異常を伴った小児の治療方針(1),小児 外科,Vol.40,No.10,P.1133 ~1137,2008. 20)ロバート・F・ワイアー著,高木俊一郎,高木俊治訳:障害新生 児の生命倫理―選択的治療停止をめぐって,学苑社,1991. 21)Report of a Working Group of the British Association of Perinatal Medicine. Arch Dis Child Fetal Neonatal Ed. 2009;94 (1):F2-5,. 22)Guillen U, Weiss EM, Munson D, et al:Guidelines for the management of extremely premature deliveries:a systemic review. Pediatrics. 2015;136(2):343-350. 23)新生児医療連絡会編:NICUマニュアル,第5版,P.651,金原出 版,2014..
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