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司法官職高等評議会小史--第3共和制から2008年憲法改正まで 利用統計を見る

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法改正まで

著者

佐藤 修一郎

著者別名

SATO Shuichiro

雑誌名

白山法学

7

ページ

69-93

発行年

2011

URL

http://id.nii.ac.jp/1060/00000038/

Creative Commons : 表示 - 非営利 - 改変禁止

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司法官職高等評議会小史

第 3 共和制から2008年憲法改正まで

佐 藤 修 一 郎

はじめに  フランスにおける裁判制度の特色の一つとして、二重の意味における 「二元性」が指摘できる。第一に、裁判所の管轄に関連するところでは、 普通裁判所(司法裁判所)と行政裁判所という区別が重要である。第二 に、裁判官(Magistrat du siège)・検察官(Magistrat du parquet)と弁 護士(Avocat)とでは、その身分が完全に分離・独立しているという意 味での「法曹二元制」があげられる1。とりわけ、司法裁判所における裁判 官および検察官は「司法官(Magistrat)」という範疇で理解されている。  ところで、司法官のうち、とくに裁判官には身分保障が強く求められる ところであるが、フランスにおいては第 3 共和制期以降、裁判官の身分を 保障するための機関として司法官職高等評議会(Conseil supérieur de la  magistrature)が設けられ、第 4 共和制以降は憲法上の機関となっている (第 4 共和制憲法第 9 章(83・84条)、第 5 共和制憲法65条)。ちなみに、 司法官職高等評議会という制度はフランスにおいて初めて導入されたもの である2。現在の司法官職高等評議会は、2008年 7 月23日の憲法改正(Loi  constitutionnelle n° 2008-724 du 23 juillet 2008 de modernisation des in-stitutions de la Ve République)により、その構成および権限に修正が施 された。この憲法改正による司法官職高等評議会改革は、2011年 1 月23日 の Loi organique n° 2010-830 du 22 juillet 2010 relative à lʼapplication de  lʼarticle 65 de la Constitution ( 1 )の施行により、実現する3。  本稿においては、2008年の憲法改正にともなう司法官職高等評議会改革 を検討の俎上に載せる前提として、従来の同評議会がどのように構成さ

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れ、いかなる権限を有していたのかを概観し、若干の整理をこころみるも のである。 Ⅰ 第 3 共和制および第 4 共和制における司法官職高等評議会 1 .第 3 共和制における司法官職高等評議会  司法官職高等評議会の名を冠する機関がフランスに初めて誕生したの は、1883年のことである。第 3 共和制期において、最初の司法官職高等評 議会が設置されたことには当時の時代背景が強く影響していた。1880年代 初期、当時の裁判官は、依然として帝政期の伝統や道徳観を引きずり、あ るいは新しい第 3 共和制政府や反教権主義に敵対的であったため、裁判官 に対する共和制支持者の敵愾心が非常に強かったのである。それゆえ、共 和制に親和的な司法制度を新たに構築する必要性が高まり、司法組織に関 する法律(Loi du 30 août 1883 relative à lʼorganisation judiciaire)の制定 により、「共和制的司法」の時代が到来することとなった。  同法の14条が、懲戒事由として裁判官によるあらゆる政治的討議や、共 和制原理または共和政体に対する敵意の表明を定めたことにみられるよう に、裁判官の共和制への忠誠が非常に強く求められることとなった。裁判 官の身分保障も停止され、それゆえ大規模な反共和制的裁判官に対する大 規模な「粛正(épuration)」も行われたという4。もっとも、同法はまた裁 判官の懲戒について新しいシステムを構築したものでもあり、それがまさ に司法官職高等評議会の創設であった。  司法官職高等評議会の創設に際しては、そのメンバーをいかに構成する かにつき、数通りの案が検討された5。1883年 8 月30日法の起草者達は、破 毀院の裁判官にコンセイユ・デタの評定官を加える案の他、草案の段階で は破毀院院長に破毀院から選出される 4 名の裁判官および控訴院院長が選 出する 5 名の控訴院院長、そして 5 名のコンセイユ・デタ評定官を司法官 職高等評議会の評議員6とする案などが議論された。  また、国民議会からは、破毀院裁判官を基本とし、元老院および国民議

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会によって選出されるメンバーを加える案が示されたが、この案は司法の 場への政治の流入となることを理由として、採用されなかった。元老院 は、司法官職高等評議会の構成員を破毀院のすべての裁判官とする案を示 し、最終的にはこの案が採用された。すなわち、フランス史上最初の司法 官職高等評議会は、破毀院のすべての部の合同会議というかたちをとるこ ととなったのである。それゆえ、司法官職高等評議会とは実質的には破毀 院ということになる。  司法官職高等評議会は、司法大臣による訴追を受けた裁判官に対する懲 戒権を行使する。同評議会の創設以前は、控訴院および第 1 審裁判所は、 それぞれの裁判所に属する裁判官に対する懲戒権を行使し、あるいは控訴 院が第 1 審裁判所の裁判官に対する懲戒権を行使するなど、いわば複数系 統の懲戒権が併存していたが、これらの懲戒権はすべて司法官職高等評議 会に統合されたのである。  懲戒に際しては、破毀院付の法院検事(avocat général)が検察官の役 割を担う。もっとも、裁判官には当然のことながら厚い身分保障が定めら れており、裁判官は罷免されず、強制的に異動させられることもなかった ことには留意すべきである。 2 .第 4 共和制における司法官職高等評議会  第 4 共和制における司法官職高等評議会設置については、1944年当初に 明らかにされていた全国抵抗評議会(Conseil national de la Résistance7) のプログラムにすでにその輪郭が示されていた。そこには、共和国大統 領、国民議会および経済社会評議会によって任命される評議員により、裁 判官の任命および懲戒を行う司法政治評議会(Conseil politique de jus-tice)が構想されていた8。また、全国抵抗評議会の構想と同様の組織を司 法最高評議会(Conseil suprême de justice)として創設する案(ヴィンセ ント・オリオール Vincent Auriol の提案)、第 3 共和制と同様に破毀院の すべての部が合同で司法官職高等評議会を開催し、裁判官の懲戒を行うと する案(フェリックス・グアン Félix Gouin の提案)、裁判官の懲戒のみ

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ならず破毀院裁判官の任命まで行う司法官職高等評議会の設置を求める案 (MRP(Movement Républicain Populaire)評議会の提案)など、多数の 提案がなされた。また、労働者インターナショナルフランス支部(Section  Française de lʼInternationale Ouvrière)の綱領においては、裁判官の職 務の自律性をより重視し、第 3 共和制下の司法官職高等評議会を改革すべ き点を強調する提案が行われた9。このように、多くの提案がなされたこと に鑑みれば、第 4 共和制下における司法官職高等評議会あるいは司法官職 高等評議会類似の機関の設置は、不可避であったように思われる。それゆ え、国民投票において否決された1946年 4 月19日の憲法草案においても、 共和国大統領が主催する司法官職高等評議会が盛り込まれていたのであ る10。  最終的に、第 4 共和制憲法(Constitution de 1946, IVe République)に おいては、第 9 章(83条、84条)として「司法官職高等評議会(Du Con-seil supérieur de la magistrature)」が設けられた。司法官職高等評議会 の構成は、以下の14名となった(83条)。すなわち、議長である共和国大 統領、副議長である司法大臣、国民議会により選出される国民議会議員以 外の 6 名11、裁判官のそれぞれのカテゴリー12から 1 名ずつ選出される裁判官 4 名、そして国会議員および裁判官以外の法律の専門家のなかから共和国 大統領によって任命される 2 名である。すべての評議員の任期は 6 年であ る。なお、司法官職高等評議会における議決は多数決をもって行われ、可 否同数の場合には議長が決する(同条)。  司法部門よりも政治部門による任命にかかるメンバーが多数を占めると いう司法官職高等評議会の構成については、裁判官の独立が強く要請され るにもかかわらず、同評議会に対する政治的な影響あるいは同評議会の 「政治化(politisation)」に対する危惧が懸念されるところである。この 点、まず国民議会すなわち立法権との関係については、第 4 共和制下の議 会が常に小党分立状態であったことに鑑み13、党派的対立が司法官職高等評 議会メンバーの人選にまで影響を与えたことは、むしろ当然のことであっ

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たと考えられる。また、大統領すなわち執行権との関係における政治的影 響について、国民議会での議論おいても、「好むと好まざるとに関わら ず、共和国大統領は政治的な存在であり、その人物が任命する 2 名もまた 政治的な存在となるであろう点に危険が潜んでいる」との見解が述べられ たことは示唆的である14。  司法官職高等評議会の権限は、第 3 共和制下の同評議会よりも拡大され ている。すべての裁判官は、司法官職高等評議会の推薦にもとづいて、共 和国大統領が任命する(第 4 共和制憲法84条 1 項)。司法大臣は副議長と して司法官職高等評議会の一員ではあるがその権限は狭く、単に意見を述 べることができるにとどまる。  法律にしたがって、裁判官の懲戒を行い、裁判官の独立を保障し、司法 行政を担うことも司法官職高等評議会の権限である(同条 2 項)。もっと も、裁判官は罷免されることがないことは、憲法に明記されている(同条 3 項15)。なお、司法行政についてはその範囲が非常に広範あるいは不明確 であることから、その職務は実際には司法省に取って代わられることにな る16。また、司法官職高等評議会の権限は、司法官(Magistrat)といえど も、裁判官にのみおよび、検察官についての権限を有するものではないこ とを確認しておく。さらにこうした権限に加え、共和国大統領の恩赦権 も、司法官職高等評議会において行使された(35条)。  総じて、第 4 共和制下の司法官職高等評議会を概観すると、第 5 共和制 下においても司法官職高等評議会が設置されるための最低限の「地なら し」は行われていたように思われる。しかしながら、第 4 共和制の経験が 第 5 共和制憲法における司法官職高等評議会の設置へとスムーズに引き継 がれたかについては、多少なりとも疑義が生じよう。たとえば、形式的に は共和国大統領が評議会を主宰する点について、第 4 共和制憲法と2008年 の改正以前の第 5 共和制憲法には連続性が認められる。もっとも、その意 味するところはおそらく大きく異なる。第 4 共和制下おいて国民議会にお いても評議員を選出するシステムは、上述のごとき評議会の政治化をもた

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らしたという状況に照らして「破産状態」あるいは「痛ましい光景」とま で評されることとなった17。それゆえ、第 5 共和制においては、大統領が共 和国の裁定者(arbitre)、あるいは司法の独立の保障者(garant)とし て、司法官職高等評議会を主宰しなければならなかったのである。 Ⅱ 第 5 共和制における司法官職高等評議会 1 .1958年の第 5 共和制憲法制定から1993年の憲法改正まで ( 1 )司法官職高等評議会の憲法上の位置付け  第 5 共和制下の司法官職高等評議会は、憲法の制定当初より憲法上の機 関として位置づけられている(第 5 共和制憲法65条)。もっとも、第 4 共 和制憲法とは異なり、司法官職高等評議会は、憲法第 8 章「司法権(De  lʼautorité judiciaire)」の中に編入された。なお、司法官職高等評議会の構 成および権限等については、1993年 7 月27日(Loi constitutionnelle n° 93 -952 du 27 juillet 1993 portant révision de la Constitution du  4  octobre  1958 et modifiant ses titres VIII, IX, X et XVIII ( 1 ))と2008年 7 月23日 の、 2 回の大幅な憲法改正が行われている。 ( 2 )司法官職高等評議会の構成  第 5 共和制の発足当初より2008年の憲法改正にいたるまでは、司法官職 高等評議会は共和国大統領によって主宰されること、司法大臣は当然に司 法官職高等評議会の副議長となること、さらに司法大臣は共和国大統領を 代行することができること、とされていた(65条 1 項)。  また、1993年の憲法改正にいたるまで、司法官職高等評議会は共和国大 統領および司法大臣に加え、組織法律たる司法官職高等評議会に関するオ ルドナンス(Ordonnance n°58-1271 du 22 décembre 1958 portant loi or-ganique sur le Conseil supérieur de la magistrature)が定める条件にし たがって、共和国大統領によって任命される 9 名のメンバーによって構成 されることとされていた(同条 2 項)。このうちの 3 名は破毀院の構成員 であり、そこには法院検事(avocat général)が含まれる18。別の 3 名は下

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級裁判所の裁判官である。これら 6 名の構成員の任命は、破毀院が作成し た名簿にもとづいて行われる19。コンセイユ・デタ評定官からは 1 名が任命 され20、さらに大統領が司法官ではない有識者、学識経験者の 2 名の評議員 を直接任命する(組織法律 1 条)。  いずれにせよ、第 5 共和制憲法の制定に際しては司法官職高等評議会に おける共和国大統領の存在および役割が非常に重要な要素として理解され ていたようである。というのも、ド・ゴール(Charles de Gaulle)は第 4 共和制下の司法官職高等評議会のメンバー構成について、独立が要請され る法曹の運営に政党政治が介入することに懸念を示していたし、あるいは ミシェル・ドゥブレ(Michel Debré)は国家に対し、それにふさわしい 司法官を用意することを目指していたからである21。とりわけド・ゴールの 懸念は、第 5 共和制憲法草案の作成に際して示された「司法権の独立」と 表裏一体をなすものであったといえよう。それゆえ、すでにみたように第 5 共和制における大統領は、共和国の仲裁者として、あるいは司法権の独 立の保障者として、司法官職高等評議会の主宰者にふさわしい存在なので あったといえる。  司法官職高等評議会の評議員の任期は 4 年であり、再任は 1 度のみ認め られる。欠員が生じた場合には、組織法律 1 条の規定にしたがって 3 か月 以内に補充が行われる。補充評議員の任期は、前任者の残余期間である (同法 2 条)。任期満了にともなう評議員の入れ換えは、遅くともその15日 前には行われなければならない(同法 3 条)。  組織法律は、司法官職高等評議会の評議員の任命につきこれを共和国大 統領の権限と定めているが、大統領による評議員の罷免については規定を 有してはいない。もっとも、評議員が辞職を望む場合には、大統領に対し て辞表を提出すればよく、 3 か月以内に後任者の任命が行われる(同法 4 条)。  評議会構成員のうち、裁判官であるものについては、任期中、昇進、異 動のいずれの対象にもならない(同法 5 条 1 項)。評議員に対しては守秘

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義務が課されることはいうまでもない(同法 6 条)。 ( 3 )司法官職高等評議会の権限  司法官職高等評議会の権限のうち主要なものは、破毀院の裁判官の任命 および控訴院院長の任命について共和国大統領に提案を行うことである。 また、その他の裁判官の任命に関する司法大臣の提案については、司法官 職高等評議会は、意見を述べることができるにすぎない。さらに、司法官 職高等評議会は、組織法律によって定められる条件にしたがって、恩赦に ついて諮問をうける。これらは、憲法65条 3 項に定められた権限である。 さらに、司法官職高等評議会は、裁判官の懲戒評議会として裁定を行う。 この場合、司法官職高等評議会は、破毀院院長によって主宰される(同条 4 項)。  これらの諸権限の行使に際し、評議会は議長である共和国大統領、場合 によっては副議長である司法大臣の招集により、開催される(組織法律10 条)。審議に必要な定足数は議長を除いて 5 名であり、議決は多数決によ る(同11条)。なお、評議会の開催はその態様に応じて 3 つの場所で行わ れる。原則として共和国大統領が議長を務め、 3 か月に 1 度開催される 「大評議会(grand conseil)」はエリゼ宮(palais de lʼElysée)において、 司法大臣が議長を務める「通常評議会(petit conseil)」はアルマ宮(pal-ais de lʼAlma)において、そして破棄院院長が議長を務める「懲戒評議会 (conseil de discipline)」は破毀院において、それぞれ開催される22。  司法官職高等評議会の権限の第 1 は、上述のように破毀院裁判官および 控訴院院長の任命に関して共和国大統領に対して提案を行うことである。 この提案は、評議員の報告に基づいて行われる(同11条 1 項)。その他裁 判官の任命については、司法大臣による提案の後、評議員の報告が行われ たうえで評議会としての意見が述べられる(同条 2 項)。また、司法官職 高等評議会は、共和国大統領からの裁判官の独立に関するいかなる諮問に もこたえるものである(同条 4 項)。  第 2 に、司法官職高等評議会は恩赦について諮問をうける。恩赦の申立

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ては、関係閣僚による予備的な審査の後、司法大臣の付託によって開始さ れる(同15条)。評議会は、死刑執行に関する恩赦の申立てについて諮問 をうけるほか、その他の恩赦については代表者を司法省に派遣し、共和国 大統領が意思表明を行うための資料を収集するなどの権限を有する。評議 会に対する諮問を行うか否かは、大統領が決定する(同16条)。司法官職 高等評議会は、共和国大統領によって任命されたメンバーによる報告をう け、司法大臣の提案に基づいて意見を述べる(同17条)。恩赦のデクレに は共和国大統領が審署するほか、首相、司法大臣そして場合によっては恩 赦の申立てを進めた閣僚が副署する(同18条)。  司法官職高等評議会の第 3 の権限として、裁判官の懲戒評議会としての 機能があげられる。懲戒評議会は破毀院院長が主宰し、共和国大統領およ び司法大臣は出席しない(同13条)。裁判官に科される処分および懲戒の 手続については、裁判官の地位に関する組織法律が別途定めるものである (同14条)。 ( 4 )小括  第 5 共和制発足当初の司法官職高等評議会は、すでにみたように憲法制 定に大きく関わったド・ゴールあるいはド・ゴールとともに憲法制定に意 を尽くしたミシェル・ドゥブレの意向が強く反映された制度として出発し たものである。それゆえ、司法官職高等評議会の役割が、そのすべての評 議員の任命権者である共和国大統領を「補佐(assister)」することにとど まり、裁判官の独立を強く意識した大胆な制度改革には、1990年代の議論 を待たねばならなかったとの指摘が重要であろう23。ここでは、制度の発足 当初に強く意識されていた議会との関係における評議会ひいては裁判官の 独立の要請が、主題は同じままに共和国大統領との関係へと変化したこと がうかがえる。かかる状況を、首相が共和国大統領によって任命されるこ とになぞらえる見方もある。実態においても、評議会内部において革新的 な見解が示されることはなく、議題や議事日程についても共和国大統領の 任命にかかる事務局が決定し、職務の遂行については司法官職評議会内部

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のデクレで定まり、必要な経費については司法省の予算に依存していると の分析もある24。およそ共和国の仲裁者であり、司法の独立の守護者が第 5 共和制の政治制度において強力な権限ないしは政治的影響力を行使しうる とするならば、裁判官の独立との両立は可能となるのであろうか。 2 .1993年の憲法改正から2008年の憲法改正まで ( 1 )1993年憲法改正までの経緯  司法官職高等評議会については、すでにふれたように1990年代に入って 改革を目指す動きが活発となった。これはすなわち、ミッテラン(François  Mitterrand)大統領による憲法改正の構想における司法官職高等評議会の 改革である。  ミッテランはすでに、1991年の大統領選挙において司法権の独立のため の司法官職高等評議会の改革を公約として掲げていた。ミッテランは、 1992年11月30日、元老院議長ルネ・モノリ(René Monory)、国民議会議 長アンリ・エマニュエリ(Henri Emmanuelli)および憲法院院長ロベー ル・バダンテール(Robert Badinter)に宛てた書簡として、憲法改正の 提案を発表した25。同書簡においては、先の大統領選挙における公約である 権力相互間の最善の均衡の保障、司法官の独立の保障の強化ならびに憲法 院への提訴権の付与および国民投票付託事項の拡大による市民の権利の強 化の 3 点が憲法改正の目的として掲げられていた26。  このうち、司法官の独立については、司法官職高等評議会の評議員の選 出方法を変更し、裁判官から選出される評議員に、共和国大統領、元老院 議長、国民議会議長、憲法院およびコンセイユ・デタから選出される評議 員を加えることが提案されていた。これにより、司法官職高等評議会が多 元的な性格を有することとなり、完全な独立性が確保されるとしたのであ る27。  また、司法官職高等評議会の権限についても拡大が提案された。すなわ ち、原則として裁判官の任命を同評議会の権限とし、破棄院院長および破 毀院の部長裁判官ならびに控訴院院長については、その職務の卓越性を象

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徴するために司法官職高等評議会の提案にもとづいて共和国大統領が任命 することとされていたのである28。  1992年12月 2 日には、憲法改正のための諮問委員会を設置するデクレ (Décret 92-1247 du  2  décembre 1992 instituant un Comité consultatif  pour la révision de la Constitution)が議決された。諮問委員会の委員長 には、パリ大学元法学部長であり、元憲法院メンバーのジョルジュ・ヴデ ル(Georges Vedel)が任命された29。1993年 2 月15日には、ヴデル委員会 (Comité consultatif pour la révision de la Constitution, présidé par le  doyen Georges Vedel)による憲法改正に関する提案がなされた。この提 案においては、司法官職高等評議会も大幅な改革の必要性が指摘されてお り、「より独立を保障された司法制度」と題する提案のもとに「司法制度 のもっとも基本的な原則および任務の確立」および「司法官職高等評議会 の構成および権限」についての検討結果が示されている。  前者については、検察官も憲法上の機関として位置づけること、すなわ ち司法官職高等評議会の評議員に組み入れる案が示された。その際、司法 官職高等評議会についても、従来の「司法権」ではなく「裁判官の独立 (De lʼindépendance de la magistrature)」と題した新しい第 8 章に位置づ けられたことは象徴的である30。また、後者については、まず、その構成に ついて共和国大統領が議長として評議会を主宰することに変更はなもの の、大統領の評議員任命権を、大統領を補佐する副議長 1 名に限定する提 案が目を惹く。また、構成員間のバランスを考慮し、上記議長(大統領) および副議長以外の評議員については、裁判官の互選により選出される 5 名の裁判官、そして国民議会議長、元老院議長、憲法院およびコンセイ ユ・デタがそれぞれ 1 名ずつ選出する法曹界に属さない評議員 4 名とする ことが示されている。権限については、裁判官の独立を確保するという観 点から、破毀院の裁判官および控訴院院長の任命について共和国大統領に 提案し、その他の裁判官については司法官職高等評議会が任命することと している。また、司法官職高等評議会は、みずからの権限の範囲内におい

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て裁判に関する陳情および苦情を受理しこれについての年次報告書を公刊 すること、恩赦について諮問をうけること、破棄院院長の主宰による裁判 官の懲戒評議会として機能すること、などが盛り込まれている。  かかる提案をうけ、同年 2 月17日、ベレゴヴォワ(Pierre Bérégov-oy)内閣は、憲法改正のための政府提出法案の作成に着手した。 3 月 6 日にはコンセイユ・デタに対して憲法改正案の概要を示して意見を徴し (憲法39条 2 項)、 3 月10日に閣議において憲法改正案が採択されるにい たった31。  政府案では、ヴデル委員会の提案と同様に憲法第 8 章のタイトルを「裁 判官の独立」とすることが盛り込まれた。また、司法官職高等評議会の評 議員の構成についてもやはり基本的にはヴデル委員会の提案が採用され、 裁判官によって選出される裁判官 5 名、コンセイユ・デタが指名するコン セイユ・デタ評定官 1 名ならびに国民議会議長、元老院議長および憲法院 院長にそれぞれ指名される 3 名というものであった。共和国大統領は従来 通り評議会の議長としてとどまり、副議長のみを任命することとされた。 なお、司法大臣については、議決権を有するものではないが評議会の構成 員としてとどまることが求められた32。司法官職高等評議会の権限について は、共和国大統領に対して破毀院裁判官および控訴院院長の任命に関する 提案を行うこと、大統領によるその他裁判官の任命について評議会として 一致した意見を述べること、が示された33。  政府の憲法改正案は、1993年 5 月25日から元老院における審議が行わ れ、司法官職高等評議会の評議員として、11名中 6 名を裁判官とするこ と、裁判官の選任については、投票ではなくくじ引きとすること、検察官 の存在を憲法上明記すること、を内容として、 5 月27日の本会議で採択さ れた34。  続いて、国民議会の法律委員会において憲法改正案の審議が行われ、 6 月22日、法律委員会報告者のアンドレ・ファントン(André Fanton)が 本会議で同案についての報告を行った。ファントンは、評議員のうち裁判

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官を 8 名に増やす案を示した。国民議会において多数派を形成する保守派 は、司法官職高等評議会を共和国大統領ではなく実質的に司法大臣の指揮 下におくことを要求し、あるいは大審裁判所所長の任命も、評議会の提案 にもとづいて大統領が行うことを主張した。また、司法官職高等評議会が 一定の検察官の任命について意見を述べること、裁判官である評議員の任 命は、くじ引きではなく投票によることなどが、国民議会において議論さ れた35。  憲法改正案についての両院の見解は、基本的には政府提出案を支持する ものであったが細部においては異なる部分も多かったため、バラデュール (Édouard Balladur)首相は元老院の第 2 読会後に合同委員会(commis-sion mixte)の開催を求め、両議院に付託する法案を作成させた。合同委 員会の法案については、国民議会が 7 月 7 日、元老院が 7 月 8 日にこれを 採択した。ミッテラン大統領は、 7 月19日に両院合同会議を招集し、同会 議は憲法改正案を採択した36。第 5 共和制における 7 回目の憲法改正であ り、同法は、 7 月27日に公布された。  1993年 7 月27日の憲法改正により、司法官職高等評議会はその構成や権 限を新たなものとした。以下で、憲法および司法官職高等評議会に関する 組 織 法 律(Loi organique n°94-100 du  5  février 1994 sur le Conseil  supérieur de la magistrature)の規定を手がかりに、司法官職高等評議会 の構成、権限、活動等について概観する。 ( 2 )司法官職高等評議会の構成  1993年の憲法改正により、司法官職高等評議会の構成は以下のとおりと なった。まず、司法官職高等評議会を主宰するのは共和国大統領である。 また、司法大臣は、当然に司法官職高等評議会の副議長となる。司法大臣 は、共和国大統領を代行することができる(憲法65条 1 項)。  さらに、憲法および組織法律の定めにしたがい、コンセイユ・デタの総 会において選出されたコンセイユ・デタの評定官 1 名、共和国大統領、国 民議会議長、そして元老院議長によってそれぞれ選出され、議会にも法曹

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界にも属さないもの 3 名37、裁判官 6 名と検察官 6 名が、司法官職高等評議 会の評議員となる。ここにいたり、フランスの司法官職高等評議会の歴史 上初めて司法官が司法官職高等評議会の多数派を構成することとなった。 この点は、1997年 6 月のヨーロッパ評議会の勧告にも合致するものであ る38。また、裁判官と検察官が憲法上の機関において平等な地位を獲得した ことも、注目されてよいであろう39。  さらに、1993年の憲法改正により、司法官職高等評議会は 2 つの部会 (formation)から構成されることと改められた。 1 つは、裁判官について 権限を有する部会であり、もう 1 つは、検察官について権限を有する部会 である(憲法65条 2 項)。  裁判官について権限を有する部会は、共和国大統領、司法大臣、コンセ イユ・デタ評定官 1 名、共和国大統領、国民議会議長、そして元老院議長 によってそれぞれ選出され、議会にも法曹界にも属さないもの 3 名、 5 名 の裁判官、 1 名の検察官から構成される(同条 3 項)。  検察官について権限を有する部会は、共和国大統領、司法大臣、コンセ イユ・デタ評定官 1 名、共和国大統領、国民議会議長、そして元老院議長 によってそれぞれ選出され、議会にも法曹界にも属さないもの 3 名、 5 名 の検察官、 1 名の裁判官から構成される(同条 4 項)。  裁判官または検察官について権限を有する 6 名の裁判官または検察官 は、組織法律の定めるところにより、選挙により選ばれる。組織法律によ れば、司法官職高等評議会の評議員となる裁判官または検察官は、 4 つの カテゴリーに分類される(組織法律 1 条、 2 条)。第 1 のカテゴリーは、 破毀院を母体とする裁判官または検察官であり、それぞれ破毀院の裁判官 (同 1 条 1 号)または破毀院付検察官(同 2 条 1 号)による選挙の結果、 1 名ずつが選出される。  第 2 のカテゴリーは、控訴院を母体とする控訴院院長または控訴院付検 察官であり、それぞれ控訴院院長(同 1 条 2 号)または控訴院付検察官 (同 2 条 2 号)による選挙を経て、 1 名ずつが選出される。第 3 のカテゴ

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リーは、下級裁判所を母体とする裁判官または検察官であり、第 1 審裁判 所の所長(同 1 条 3 号)または検察官(同 2 条 3 号)のうちから、それぞ れ 1 名が選出される。第 4 のカテゴリーとして、裁判官部会については下 級裁判所に属する裁判官 2 名および検察官 1 名が(同 1 条 4 号)、検察官 部会については下級裁判所に属する検察官 2 名および裁判官 1 名が(同 2 条 4 号)、それぞれ選出される(同 4 条)。  司法官職高等評議会の評議員は 4 年の任期で任命され、再任が可能であ る(同 6 条 1 項)。在任中、評議員は、弁護士としての活動を禁止され、 公務員または閣僚となり、あるいは公選にかかる職務に就くことを禁じら れる(同条 2 項)。  上記カテゴリーの第 1 ないし第 3 の評議員について、任期満了前に欠員 が生じた場合には、 3 か月以内に補充評議員を任命することになる。その 場合の任期は前任者の任期満了までとなるが、新たに補充された評議員は 続く任期に評議員となることも可能である(同条 2 項)。第 4 のカテゴ リーの評議員について、同様に欠員が生じた場合には、あらかじめ作成さ れた名簿に登載されているものによって補充が行われる(同条 3 項)。  司法官である評議会の評議員は、在任中は昇進の対象とも異動の対象と もならない(同 8 条 1 項)。また、評議員が評議会に在職できるのは、評 議員の本来の職務の期間内であり、たとえば定年を迎えた裁判官は評議員 となることはできない(同条 3 項)。  司法官職高等評議会の評議員は、コンセイユ・デタのデクレによって定 められる報酬を受ける(同 9 条)。また、司法官職高等評議会の評議員お よび評議会の評議に参加したものは、職務上知りえた秘密をもらしてはな らない(同10条)。  なお、評議会の評議員は、独立、公正、清廉そして尊厳をもって職務を 遂行しなければならない(同10- 1 条 1 項)。全評議員の過半数が出席する 全体会議においては、部会長の申立てにもとづき、評議員のかかる義務の 不履行の有無が審査される。不履行の程度によっては戒告あるいは解雇が

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宣せられる(同 2 項)。  また、司法官職高等評議会には事務局が設置される(同11条40)。事務局 長は、首相および司法大臣が副署した大統領デクレによって任命される (司法官職高等評議会に関するデクレ (Décret n° 94-199 du  9  mars 1994  relatif au Conseil supérieur de la magistrature) 32条)。  事務局長は、裁判官として 7 年の経験を有するもののうちから選ばれ る。事務局長在任中は司法官職高等評議会への出向という取扱いがなさ れ、再任は 1 度限りである。事務局長は評議会の行政事務および財政の責 任者である。事務局長は事務局員を統括し、司法省の予算に編入された評 議会の予算を管理し、評議会の予算の作成に携わる41。 ( 3 )司法官職高等評議会の権限  司法官職高等評議会の権限については、憲法65条が定めるところであ る。そして、裁判官部会、検察官部会の権限は明確に分離されている。  まず、裁判官部会は、破毀院の裁判官、控訴院院長そして大審裁判所所 長の任命につき、提案を行う。その他の裁判官については、裁判官部会の 一致した意見にしたがって任命される(憲法65条 5 項)。まず、憲法64条 4 項によって裁判官が罷免されないことが確認された後、司法官職高等評 議会の裁判官部会は破毀院裁判官、控訴院院長および大審裁判所所長のそ れぞれの候補者の選考に入る。候補者の書類審査の後、部会長によって任 命された評議員による報告がなされ、審議が行われる。審議においては、 各評議員が意見を表明する。その後、無記名による投票が行われ、評議会 の見解すなわち大統領への提案が形成され、共和国大統領に提案が行われ る(組織法律15条 2 項)。  もっとも、共和国大統領に対する司法官職高等評議会の提案は裁判官の 「決定」ではなくあくまでも「提案」にすぎず、大統領は評議会の提案に 拘束されるものではない。とはいえ、実際の裁判官の任命について大統領 がイニシアチブを発揮することは稀である。仮に大統領が反対を表明した 場合には、裁判官部会は共和国大統領および司法大臣の退席の後、別の候

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補者を決定し、新たに提案を行う。  組織法律15条 3 項の適用対象となるその他の裁判官の任命については、 司法大臣がイニシアチブを有している。評議員により、司法大臣の提案に もとづく候補者についての書類審査が行われる。審査後の報告をうけ、大 統領に対して、裁判官の任命についての司法官職高等評議会の意見が示さ れる(同条 3 項)。ここにいう「意見」もやはり拘束力をもつものではな いが、そもそも評議会が司法大臣の意向をまったく汲まないことはほとん ど考えられない。  次に、検察官部会は、閣議によって任命される官職を除き、検察官の任 命について意見を述べる(憲法65条 7 項)。ここで「閣議によって任命さ れる官職」とは、35名の控訴院検事長(procureurs généraux des cours  dʼappel)および破毀院検事長(procureur général près la Cour de casa-tion)であり、これら検察官の任命権は、執行権に留保されている。それ 以外の検察官の任命に際しては、司法官職高等評議会は、司法大臣の提案 について評議員の報告の後に意見を述べるにすぎない(組織法律16条)。 それゆえ、検察官の任命に関する評議会の権限は、裁判官の任命に関する 権限と比較してもさらに小さいといえる。当然のことながら、共和国大統 領は評議会の意見に拘束されるものではない。  それぞれの部会は、裁判官および検察官の懲戒についての権限を有す る。裁判官部会は裁判官の懲戒評議会として裁定を行う。その際、部会は 破棄院院長によって主宰される(憲法65条 6 項)。また、検察官部会は検 察官に対する懲罰について意見を述べる。その際、部会は破棄院院長に よって主宰される(同条 8 項)。懲戒の審議に際しては、部会長を除いて 最低 7 名の評議員の出席が必要である(組織法律14条)。司法官の懲罰お よび懲戒の手続については、司法官の地位に関する組織法律で定める(同 19条)。  なお、憲法64条 2 項は、共和国大統領は司法官職高等評議会に補佐され ると定めている。司法官職高等評議会は、大統領の諮問に単に形式的に応

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じるのではなく、問題に対して評議会としての権威を示しつつ、実質的な 提案を行って諮問に答えることが求められる42。 ( 4 )司法官職高等評議会の活動  司法官職高等評議会のそれぞれの部会は、評議員のうちから 1 年の任期 で部会長を選出する。部会長は議事を提案し、審議を主宰する。  裁判官部会は、毎週水曜日と木曜日に、検察官部会は最低でも週に 1 度、金曜日に会合を行う。 2 つの部会が合同する全体会議は、原則として 1 か月に 1 度、第 1 木曜日に開催される。全体会議には共和国大統領およ び司法大臣を除く16人の評議員が出席する。全体会議の議長は、評議員の 互選により、 1 年の任期で選出される。全体会議としての活動は、おおむ ね、司法官職高等評議会が公表する共和国大統領に対する意見を形成し、 採択すること、 2 つの部会における職務の遂行方法、判断基準および慣行 を統一すること、評議会の組織および権能に関すること、1994年 2 月 5 日 の組織法律20条にしたがい、 3 か月に 1 度、破毀院、控訴院、下級裁判 所、さらには国立司法官学院(Ecole nationale de la magistrature)に対 して行う報告を準備すること、国際的な研究機関、あるいは外国の研究機 関と協働して報告を行うこと、司法官職高等評議会の活動に関する年次報 告書あるいはその他報告書をとりまとめ、採択すること、である43。  司法官職高等評議会の年次報告が行われた後には、それぞれの部会にお ける手続の一貫性や実務上の統一性、あるいは評議会の方向性の確認が行 われる。場合によっては、共和国大統領または司法大臣が全体会議に出席 し、あるいは 2 つの部会の部会長や全体会議の議長と会談することによ り、もちろん法律に定めるところではないものの、司法官職高等評議会を より公的な機関として位置づける機能を果たすようである44。全体会議は、 各部会の決定権を尊重しつつ、評議会としての一体性や統一性を確保する 場となっている45。  また、司法官職高等評議会の活動については、法令に規定されている事 項であると、全体会議において決定された事項であるとを問わず、可能な

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限り、 2 つの部会で統一的に遂行していくべきことが指摘される46。司法官 職高等評議会の評議員には、司法官について完璧に理解し、最適なタイミ ングで決断をし、司法官の独立と司法制度の良好な機能を両立させるこ と、が求められている47。 ( 5 )小括  1993年の憲法改正以降、2008年の憲法改正までの司法官職高等評議会に ついては、以上にみたとおりである。ここでは、まず、簡単なまとめにか えて司法官職高等評議会と共和国大統領の関係につき、若干付言してお く。  共和国大統領は、司法官職高等評議会の主宰者である。この地位は、大 統領が共和国の仲裁者であり、司法権の独立の保障者であるという憲法上 の規定から導かれるものと考えられる。それでは、実際の評議会の活動に おいて共和国大統領は司法官職高等評議会においていかなる役割を果たし ているのだろうか。典型的な論点を示しておきたい48。  まず、共和国大統領の権限として、大統領は評議会の意向とは無関係 に、司法大臣の意見にもとづいて議事日程を決定しうる(司法官職高等評 議会に関するデクレ35条)。大統領による任意の議事日程の決定は実は、 裁判官の任命にかかる司法官職高等評議会からの提案を事実上阻害するこ とにもつながりかねない。また、共和国大統領(および司法大臣)は、評 議会において投票権を有するのか否か、憲法はもとよりいかなる規定も存 在しないことから問題となるが、これについては、否定的に解されてい る。これらの問題から看取できるのは、およそ共和国大統領と司法官職高 等評議会との入り組んだ関係である。共和国大統領は、評議会を主宰する ものでありながら本質的な構成員ではない。しかしながら、評議会の運営 のみならず、司法行政の運営において、大統領は重要な役割をになってい る。  こうした複雑な関係につき、2008年 7 月23日の憲法改正によって、何ら かの解は示されたのであろうか。

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注 1  裁判官、検察官、弁護士など、フランスにおける法曹の養成方法や職務の概略に つき、滝沢正『フランス法〔第 4 版〕』三省堂、2010年、225ページ以下を参照。 2  Dominique Rousseau, “Un CSM sans tête et sans pouvoirs nouveaux”,  Les Pe-tites Affiches, 14 mai 2008, n° 97, p. 80. むすびにかえて  そもそも司法官職高等評議会という制度は、司法権の独立、裁判官の独 立をより強固に保障すべく創設されたはずである。しかしながら、フラン スの歴史に鑑みたとき、第 3 共和制下の司法官職合同評議会は実質的には 破毀院であり、政治的な圧力あるいはバイアスからは解放されることに成 功したかもしれないものの、憲法上の機関たる地位を獲得するまでにはい たらなかった。  第 4 共和制下の司法官職高等評議会は、第 3 共和制期とは対照的に、国 民議会において選出される評議員が政治的な党派性を評議会に直接持ち込 むこととなり、そもそも司法権の独立、裁判官の独立を確保することが可 能であったのか否か、疑義が呈せられるところである。  第 5 共和制に入り、司法官職高等評議会はその構成、権限を一新したも のの、同評議会の中心には司法権の独立の保障者として、あるいは共和国 の仲裁者としての共和国大統領が大きな存在感を発揮していた。  冒頭に記したように、2008年 7 月23日の憲法改正により、司法官職高等 評議会の構成および権限には修正が施されることとなったが、共和国大統 領が評議会から姿を消すこととなった点は、象徴的な意味以上に、現実的 な影響が生じるかもしれない。今後、新たなスタートを切った司法官職高 等評議会につき、やはりその構成、権限等を明らかにすることが必要とな る。そのうえで、司法官職高等評議会が司法権の独立、裁判官の独立にど のように奉仕することになるか、その具体的な機能を注意深く見守ってい く必要があろう。

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3  2008年 7 月23日の憲法改正により、司法官職高等評議会に関する規定である憲法 65条は、以下のようになる。なお、訳出にあたっては、辻村みよ子「フランス第 5 共和国憲法」初宿正典、辻村みよ子編『新解説世界憲法集〔第 2 版〕』三省堂、 2010年、255ページおよび光信一宏「フランス共和国」阿部照哉、畑博行編『世界 の憲法集〔第 4 版〕』有信堂、2009年、405ページを参照した。  第65条〔司法官職高等評議会〕  ① 司法官職高等評議会は、裁判官について権限を有する部会と、検察官について 権限を有する部会から構成される。  ② 裁判官ついて権限を有する部会は、破棄院院長により主宰される。この部会は さらに、 5 名の裁判官、 1 名の検察官、コンセイユ・デタによって指名される 1 名のコンセイユ・デタ評定官、 1 名の弁護士、ならびに、国会にも、法曹界に も、行政機構にも属さない 6 名の資格のある有識者からなる。共和国大統領、国 民議会議長、元老院議長はそれぞれ 2 名の資格のある有識者を指名する。第13条 最終項に定める手続は、有識者の任命にも適用される。各議院の議長による任命 は当該議院の権限を有する常任委員会の意見にのみしたがう。  ③ 検察官について権限を有する部会は、破毀院付検事長により主宰される。この 部会はさらに、 5 名の検察官、 1 名の裁判官、 1 名のコンセイユ・デタ評定官、 1 名の弁護士、ならびに第 2 項に掲げる 6 名の有識者からなる。  ④ 司法官職高等評議会の裁判官部会は、破毀院の裁判官の任命、控訴院院長およ び大審裁判所の任命について、提案を行う。その他の裁判官は、裁判官部会の一 致した意見にしたがって任命される。  ⑤ 司法官職高等評議会の検察官部会は、検察官の任命について意見を述べる。  ⑥ 司法官職高等評議会の裁判官部会は、裁判官の懲戒評議会として裁定を行う。 この場合、裁判官部会は、 2 項に定められた構成員に加え、検察官について権限 を有する部会に属する裁判官も含むものとする。  ⑦ 司法官職高等評議会の検察官部会は、検察官に対する懲罰について意見を述べ る。この場合、検察官部会は、 3 項に定められた構成員に加え、裁判官について 権限を有する部会に属する検察官も含むものとする。  ⑧ 司法官職高等評議会では、憲法64条の規定にしたがって行われた共和国大統領 の諮問に答えるために、全体会議が招集される。司法官職高等評議会は、全体会 議において、司法官の職業倫理に関する問題および司法大臣によって付託された 司法の機能に関するすべての問題について、意見を述べる。全体会議は、 2 項に

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定められた 5 名の裁判官のうち 3 名の裁判官、 3 項に定められた 5 名検察官のう ち 3 名の検察官、ならびに 2 項が定めるコンセイユ・デタ評定官、弁護士および 6 名の有識者からなる。全体会議は破棄院院長によって主宰され、破毀院付検事 長がその職を代行することができる。  ⑨ 懲戒に関する事項を除き、司法大臣は司法官職高等評議会の会議に出席するこ とができる。  ⑩ 司法官職高等評議会は、組織法律が定める要件にしたがって、当事者による付 託をうけることができる。  ⑪ 本条の施行要件については、組織法律で定める。 4  900人から1,000人もの裁判官が辞任に追い込まれたという。“Les trios naissanc-es du CSM”, http://www.conseil-superieur-magistrature.fr/node/42

5  François  Luchaire,  Gérard  Conac,  Xavier  Prétot  dir.,  La Constitution de la

République Française 3e éd., ECONOMICA, 2009, p. 1524.

6  以下、本稿においては司法官職高等評議会の構成員については基本的に「評議 員」の語を用いる。

7  全国抵抗評議会とレジスタンス運動につき、中木康夫『フランス政治史 中』未 來社、1975年、147~154ページ。

8  Thierry Ricard, Le Conseil supérieur de la Magistrature, Que sais-je? PUF, 1990,  p. 31. 9  Ricard, op. cit., pp. 31-32. 10 同憲法草案における司法官職高等評議会は、主宰者たる共和国大統領の他、法務 大臣、国民議会によって選出される国民議会議員以外の 6 名、破毀院、控訴院、第 1 審裁判所、治安裁判所のそれぞれから選出される 4 名の裁判官から構成されるも のであった。すべての裁判官は司法官職高等評議会において共和国大統領によって 任命される。また、同評議会は裁判官の懲戒を行うとともにその公正さを確保す る。なお、検察官および司法行政についての権限は有してはいない。Luchaire et  al., op. cit., p. 1256. 11 国民議会による評議員の選出は、まず、各会派において候補者名簿の作成を行う ことからはじまる。同議会における委員会委員の決定と同様に、各会派には比例的 に人数が配分される。候補者については、選挙および規則に関する委員会(Com-mission du suffrage universel et du règlement)において資格審査が行われ、最終 的な名簿は選挙の 3 日前に官報に掲載される。この期間内に、最低50人の国民議会

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議員による異議が申し立てられなければ、名簿が確定する。異議申立が行われた場 合には投票が実施され、 3 分の 2 の多数によって名簿は確定する。この名簿にもと づき、司法官職高等評議会のメンバーが選出される。なお、国民議会によって選出 される評議員は再選が可能である。また、 6 名の補充評議員もあわせて選出され る。Loi n° 47-421 du 11 mars 1947. 12 裁判官である司法官職高等評議会の評議員は、破毀院、控訴院、第 1 審裁判所お よび治安裁判所の 4 つのカテゴリーから各 1 名が選出される。 4 名の補充評議員も あわせて選出される。裁判官評議員は、原則として再選が禁止される。選挙では、 海外領土およびフランス連合の裁判官も投票を行う。投票は厳格な秘密投票であ る。投票の結果、 1 回で絶対多数の得票を得たものがあればその時点で選挙は終了 する。投票は、最大でも 2 回までである。Loi n° 47-235 du  1er février 1947. 13 第 4 共和制下の議会の状況につき、さしあたり、樋口陽一『比較憲法〔全訂第 3 版〕』青林書院、1992年、215~218ページを参照。 14 Ricard, op. cit., p. 33. 15 裁判官の任命、昇進および懲戒、恩赦、司法行政といった職務の行使は、それぞ れ組織される委員会において分掌され、最終的に総会(assemblée plénière)で処 理された。Ricard, op. cit., p. 40. 16 Luchaire et al., op. cit., p. 1257., Jean Gicquel, “Le Conseil supérieur de la magis-trature : une création continue de la République”, Mélanges Philippe Ardant, L.G.D.J,  1999, p. 291. 17 Ricard., ibid. 18 もっとも、1993年の憲法改正まで、司法官職高等評議会は検察官について何らの 権限も有するものではない。 19 名簿の作成は、破棄院院長、各部の部長裁判官、法院検事長および主席法院検事 からなる執行部(bureau de la Cour de cassation)が行う。それぞれのカテゴリー について、指名を受けるものの 3 倍の人数の氏名が登載される。 20 コンセイユ・デタの総会(Assemblée générale)によって提示される 3 名から 1 名が選ばれる。 21 supra, note  2 . 22 Ricard, op. cit., p. 41. 23 supra, note  2 .  24 Ricard, op. cit., p. 42.

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25 Comité Vedel, Proposition pour une révision de la Constitution 15 février 1993,  La documentation française, 1993, pp.  9 -15. また、同書簡の邦訳として、勝山教子 「フランソワ・ミッテランの改憲構想と1993年 7 月27日憲法改正(一)―ミッテラ ンの憲法改正提案とヴデル委員会報告―」『同志社法学』45巻 4 号、68~76ページ。 26 Comité Vedel, op. cit., p.  9 . 27 Comité Vedel, op. cit., p. 13. 28 Comité Vedel, ibid. 29 Décret du  2  décembre 1992 portant nomination du président et des membres  du Comité consultatif pour la révision de la Constitution. art. 1 . 30 Comité Vedel, op. cit., pp. 72-75. 31 この間の経緯につき、勝山教子「フランソワ・ミッテランの改憲構想と1993年 7 月27日憲法改正(二・完)―司法官職高等評議会の改革と共和国法院の創設―」 『同志社法学』45巻 4 号、 3 ~ 4 ページ。 32 勝山、前掲注31、 5 ページ。 33 勝山、前掲注31、 6 ページ。 34 勝山、前掲注31、16~17ページ。 35 勝山、前掲注31、24~25ページ。 36 勝山、前掲注31、28ページ。 37 これら 3 名の人選に際しては、男女間の均衡を図ることが必要である(同 5 - 2 条) 38 Gicquel, op. cit., p. 295. 39 Gicquel, op. cit., p. 296. 40 Luchaire et al., op. cit., p. 1536. 41 司法官職高等評議会に関する組織法律の12条は、「司法官職高等評議会の予算に 関する自律は、予算法律によって定められる条件にしたがって保障される」と定め る。 42 cf., Gicquel, op. cit., p. 302. 43 Organisation & Fonctionnement | Conseil Superieur de la Magistrature, http:// www.conseil-superieur-magistrature.fr/organisation-et-fonctionnement 44 Luchaire et al., op. cit., p. 1538. 45 Gicquel, op. cit., p. 297. 46 Gicquel, op. cit., p. 294.

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47 Luchaire et al., ibid. 48 Gicquel, op. cit., p. 296.

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