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霊長類ミトコンドリアゲノムにおける補償的復帰突然変異

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Academic year: 2021

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(1)情報処理学会研究報告 IPSJ SIG Technical Report. Vol.2017-BIO-51 No.6 2017/9/26. 霊長類ミトコンドリアゲノムにおける補償的復帰突然変異 里村和浩†1. 長田直樹†1. 遠藤俊徳†1. 概要:DNA 配列上に有害変異が生じたとき,復帰突然変異は比較的有益になるため,より固定時間が短くなること が期待される.本研究では,霊長目 79 種の 13 ミトコンドリア遺伝子を用いてアミノ酸の復帰突然変異の数と要する 時間を比べたところ,正突然変異より復帰突然変異の方が固定までの時間が短くなる傾向が見られた. キーワード:分子進化、集団遺伝学、弱有害変異、進化速度. Compensatory Back Mutation in Mitochondrial Genome of Primates KAZUHIRO SATOMURA†1 NAOKI OSADA†1 TOSHINORI ENDO†1. 1. 背景 DNA 配列の分子進化は突然変異の蓄積によって起こる.. 2. 材料と方法 Finstermeier らがミトコンドリア系統樹を作成するため. 突然変異のほとんどは生物にとって中立的あるいは有害で. に用いた霊長目 79 種のミトコンドリアゲノム配列[4]から. あると考えられており[1],有害な突然変異は浄化選択の働. タンパクをコードする 13 の遺伝子について,MEGA6 [5]. きにより進化の中で生物集団中から除去される.しかし,. を使い,進化モデル mtREV24 [6]に従い,最尤法[7]により. 生物集団の有効集団サイズが小さい時には,自然選択の効. 祖先アミノ酸配列を推定した.得られた祖先配列から,霊. 果が低くなり,弱有害変異が集団中に固定してしまうこと. 長目 79 種のミトコンドリア遺伝子の分子進化の中で生じ. がある[2].弱有害変異が固定してしまった後に,変異前の. た突然変異の数を調べ,その中から正突然変異と復帰突然. 状態に戻る復帰突然変異が起きた場合,その変異は弱有害. 変異を区別した.Chatterjee [3] ,Finstermeier [4]らが示し. 変異と比べて相対的に有益であるため,正の自然選択の働. た霊長目の分岐年代を参考に一回目の変異から二回目の変. きにより固定しやすくなることが予想される.しかし,復. 異が起こるまでの長さを推定し,正突然変異と復帰突然変. 帰突然変異は検出することが難しく,解析するには一つの. 異で比較した .. 座位で二回突然変異が起こるのに十分な進化時間を持つ生 物種群から多数の生物種を用いる必要がある. 本研究では,霊長類のミトコンドリアゲノムに着目した.. 3. 結果. 霊長類の進化は約 6,400 万年前に遡り[3],その 79 種を用い. 霊長類 79 種における全 13 ミトコンドリア遺伝子の平均. て作成されたミトコンドリアゲノムの系統樹が報告されて. 全長は 3,789 bp,最尤法により推定された突然変異の数は. いる[4].ミトコンドリア DNA は核 DNA より突然変異率が. 15,213 回であった.その中で同じサイトで二回変異を起こ. 高いため,短い進化時間でも復帰突然変異を検出しやすい. したものは 4,330 あり,その内 1,380 個が復帰突然変異で. ことが期待される.また,ミトコンドリア遺伝子は好気呼. あった.一回目の変異が起きてから二回目の変異が起こる. 吸に関わる重要な働きを担っていることから,そのアミノ. までの長さを比較すると,復帰突然変異は正突然変異より,. 酸の変異には浄化選択が働くと考えられる.さらに,高等. その期間が平均約 130 万年短い傾向が見られた(図1).. 動物のミトコンドリア DNA は,組換えを起こさないこと から,遺伝子に起きた有害変異を修復する方法が復帰突然 変異しか考えられず,本研究の材料に適していると期待さ れる.我々は,霊長類のミトコンドリア遺伝子のアミノ酸 に起きた突然変異を網羅的に解析し,復帰突然変異が分子 進化に及ぼす影響を検証した.. †1 北海道大学 Hokkaido University. ⓒ 2017 Information Processing Society of Japan. 図 1. 二回目の突然変異が起こるまでの時間. 1.

(2) 情報処理学会研究報告 IPSJ SIG Technical Report 表1. Vol.2017-BIO-51 No.6 2017/9/26. 4. 考察. アミノ酸ごとの二回目の突然変異の数と 生じるまでの時間(MYA) 正突然変異. 有害な突然変異が集団中に固定されてしまったとき,復. 復帰突然変異. 帰突然変異は相対的に有益であるため,固定確率が高くな. 平均サイト数 変異数 時間(MYA) 変異数 時間(MYA) Ala. 244.9. 139. 24.15. 57. 25.08. るはずである.実際に変異全体の傾向としては,正突然変. Arg. 63.4. 5. 18.86. 7. 20.86. 異より復帰突然変異の方が早く固定していたものの,アミ. Asn. 163.7. 177. 22.08. 62. 19.71. ノ酸ごとに解析しても遺伝子ごとに解析しても大きな差は. Asp. 65.6. 35. 26.85. 7. 17.37. 見られなかった.まず,その原因として考えられることは,. Cys. 23.7. 31. 25.71. 3. 26.64. Gln. 92.8. 77. 26.43. 11. 27.99. Glu. 89.6. 29. 23.46. 9. 23.19. ことである.また,変異の有害度が,アミノ酸や遺伝子よ. Gly. 210.7. 34. 22.17. 25. 22.86. りサイトごとに偏りがある場合も考えられる.さらに,ヒ. His. 99.2. 69. 22.67. 32. 23.32. Ile. 330.0. 499. 23.75. 223. 21.99. ル-ロバートソン効果[8]として知られるように,変異サイ. 正突然変異の中にも補償的な変異が含まれてしまっている. Leu. 622.5. 335. 23.65. 175. 20.52. トごとの自然選択に相互作用が働いている可能性が考えら. Lys. 93.8. 96. 25.76. 8. 25.46. れる.今後,より詳細な解析が求められる.. Met. 234.0. 283. 24.28. 125. 25.06. Phe. 223.5. 94. 26.30. 57. 27.21. Pro. 207.2. 127. 22.40. 32. 20.15. Ser. 277.8. 260. 25.09. 100. 21.82. とができた.今後,分子進化や集団遺伝学分野の中で復帰. 22.71. 突然変異がどの程度起きているのかがわかれば,遺伝子配. Thr. 348.1. 436. 21.84. 278. Trp. 103.5. 5. 20.47. 0. Tyr. 133.5. 78. 25.91. 53. 19.86. Val. 161.3. 141. 22.28. 116. 21.41. ND. 本研究では霊長目のミトコンドリア遺伝子において,変 異が復帰するまで約 2,239 万年かかっていることを示すこ. 列の進化やそれに関わる自然選択の理解が深まるものと期. 続いて,アミノ酸ごとに変異数と二回目の変異が起こる までの時間を比較した(表1).リシンやトリプトファンの. 待される.. 参考文献 [1]. ように,正突然変異と比べて極端に復帰突然変異が少ない ものは見出されたが,正突然変異と比べて復帰突然変異の. [2]. 方が多いアミノ酸はアルギニンだけしか見られなかった.. [3]. しかし,アルギニンが二回目の変異が入るまでが早いとい うことはなく,全体としてもその傾向は見られなかった. さらに,遺伝子ごとに変異数と二回目の変異が起こるま での時間を比較した(表2).その結果,NADH4L 遺伝子 のみ正突然変異数より復帰突然変異の数の方が多くなって いた.しかし,NADH4L を含め,正突然変異と復帰突然変. [4] [5] [6]. 異の間で,二回目の変異が入るまでの時間に差は見られな [7]. かった. 表2. 遺伝子ごとの二回目の突然変異の数と. [8]. 生じるまでの時間(MYA) 正突然変異. Kimura, M., Evolutionary Rate at the Molecular Level. Nature. 1968 vol 217, no 5129: p. 624–626. Ohta, T., Slightly Deleterious Mutant Substitutions in Evolution. Nature. 1973 vol 246, no 5129: p. 96–98. Chatterjee, H, J. et al., Estimating the Phylogeny and Divergence Times of Primates Using a Supermatrix Approach. BMC Evolutionary Biology. vol. 9, no. 259, doi: 10. Finstermeier, K. et al., Mitogenomic Phylogeny of Living Primates. PLoS ONE. 2013, e69504. Nei, M,. and Kumar, S., Molecular Evolution and Phylogenetics. Oxford University Press, New York. 2000. Adachi, J., Hasegawa, M., Model of amino acid substitution in proteins encoded by mitochondrial DNA. J. Molecular Evolution. 1996. Vol. 42, no. 4. p. 459-468. Tamura. K., et al. MEGA6: Molecular Evolutionary Genetics Analysis Version 6.0. Molecular Biology and Evolution 2013, vol. 30, no. 12, p. 2725-2729. Hill, W., G., Robertson, A., The effect of linkage on limits to artificial selection. Genetics Resarch. 1966 vol. 8, no. 3, 269-294.. 復帰突然変異. 平均サイト数 変異数 時間(MYA) 変異数 時間(MYA) NADH1. 954. 176. 23.10. 89. 21.08. NADH2. 1050. 451. 24.32. 168. 23.01. COI. 1566. 79. 21.90. 62. 21.74. COII. 690. 46. 25.60. 46. 26.65. ATPase8. 207. 183. 22.66. 52. 24.39. ATPase6. 678. 212. 22.90. 108. 25.59. COIII. 783. 142. 25.09. 64. 25.59. NADH3. 345. 115. 25.15. 61. 25.39. NADH4L. 294. 51. 23.41. 52. 23.28. NADH4. 1380. 443. 25.01. 195. 21.80. NADH5. 1845. 637. 23.27. 293. 22.10. NADH6. 540. 170. 23.37. 78. 21.63. 1143. 245. 22.06. 112. 20.37. Cytb. ⓒ 2017 Information Processing Society of Japan. 2.

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