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チシマザサラメットの水・炭素収支と生存戦略:光環境勾配に伴うラメットの機能分化

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Title

チシマザサラメットの水・炭素収支と生存戦略:光環境勾

配に伴うラメットの機能分化( 本文(Fulltext) )

Author(s)

角田, 悠生

Report No.(Doctoral

Degree)

博士(農学) 甲第726号

Issue Date

2020-03-13

Type

博士論文

Version

ETD

URL

http://hdl.handle.net/20.500.12099/79368

※この資料の著作権は、各資料の著者・学協会・出版社等に帰属します。

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チシマザサラメットの水・炭素収支と生存戦略:

光環境勾配に伴うラメットの機能分化

2 0 1 9 年

岐阜大学大学院連合農学研究科

生物環境科学

(静岡大学)

角 田 悠 生

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チシマザサラメットの水・炭素収支と生存戦略:

光環境勾配に伴うラメットの機能分化

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2 目次 1.緒言 ... 5 1-1.ササの分布と現存量および成長特性 ... 5 1-2.ササの一斉開花・枯死(寿命)現象 ... 7 1-3.器官としてのラメット寿命 ... 8 1-4.樹木の葉寿命... 9 1-5.生理的統合に着目した林床におけるササの存在意義 ... 10 1-6.研究目的 ... 13 2.チシマザサのラメットにおける炭素収支と生存サイクル ... 15 2-1.研究目的 ... 15 2-2.研究方法 ... 16 2-2-1.調査地の概要 ... 16 2-2-2.チシマザサにおけるラメット寿命 ... 17 2-2-3.ラメットにおける通水抵抗 ... 17 2-2-4.光合成の測定 ... 19 2-2-5.光合成速度の日中低下の推定 ... 20 2-2-6.ラメットにおける炭素含有量 ... 20 2-2-7.統計的解析 ... 21 2-2-8.ラメットにおける炭素収支の推定 ... 21 2-3.結果 ... 22 2-3-1.各調査パッチの光環境 ... 22 2-3-2.各調査パッチにおけるラメット寿命 ... 23 2-3-3.各調査パッチおよびラメット齢における生理的機能 ... 23 2-3-3-1.通水抵抗についての解析 ... 23

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3 2-3-3-2.最大光合成速度および暗呼吸速度についての解析 ... 24 2-3-3-3.瞬間光合成速度についての解析 ... 24 2-3-3-4.光合成速度の日中低下についての解析 ... 24 2-3-4.各調査パッチにおける炭素収支 ... 25 2-4.考察 ... 26 2-4-1.ラメット寿命と炭素獲得効率 ... 26 2-4-2.各調査パッチにおけるラメット寿命の決定要因 ... 26 2-4-2-1.林床パッチにおけるラメット寿命の決定要因 ... 27 2-4-2-2.林外パッチにおけるラメット寿命の決定要因 ... 28 2-4-2-3.林縁パッチにおけるラメット寿命の決定要因 ... 30 3.チシマザサのラメットおよび地下茎における水収支 ... 47 3-1.研究目的 ... 47 3-2.研究方法 ... 48 3-2-1.調査地の概要 ... 48 3-2-2.茎流速および気象条件の測定 ... 48 3-2-3.3 線式センサによる事前調査 ... 49 3-3.結果 ... 50 3-3-1.地下茎および稈における茎流速の日変化 ... 50 3-3-2.フラグメント端による水需要の綱引きと Rhizome-IM における関係 ... 51 3-3-3.稈における下降流が発生している時の気象条件態 ... 51 3-3-4.稈の基部における水収支 ... 52 3-3-5.クローナルフラグメントにおける水収支 ... 52 3-4.考察 ... 53 3-4-1.地下茎における複雑な茎流 ... 53 3-4-2.稈における下降流 ... 54

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4 3-4-3.根からの水供給および水収支 ... 56 3-4-4.水供給の貢献度 ... 57 4.結論 ... 75 5.謝辞 ... 78 6.引用文献 ... 79

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5 1.緒言 1-1.ササの分布と現存量および成長特性 ササは日本の植生において冷温帯(亜高山帯)から温暖帯域にかけての重要な生態的地 位を占める矮性のタケ亜科植物である。日本は世界の中でもササが最もよく発達している 地域の一つである(沼田, 1987)。日本におけるササの分布面積は 691 万 ha にのぼるとい われ,日本の森林面積の約30%を占める(加藤, 1979)。日本におけるササの分布は全国規 模で種類別に調査されており,落葉広葉樹林から針葉樹林,里山林,奥地林,高標高地の 林まで広く分布することが知られている(鈴木, 1963, 1964, 1965a, b, 1967, 1969, 1971, 1973, 1975; 戸田・三輪, 1973; 豊岡・横山, 1973)。このように,日本に広く分布するササは森林 の林床環境に対して大きな影響力を持っている植物種群といえる。 ササは高密度に優占し被陰することにより,他の植物の定着や更新を大きく阻害する (永井ら, 1979; 田中, 1986; Suzuki et al., 1987; Taylor and Qin, 1988; Abe et al., 2002)。またサ サ型林床の環境は暗色雪腐病菌の感染(林・遠藤, 1975; Cheng and Igarashi, 1987; 高橋, 1991),ネズミ類の好適な生息地となることによる食害の促進(Wada, 1993; Ida and Nakagoshi, 1996)なども樹木の天然更新を妨げる要因となっている。ササ群落は森林にお ける群落構造や他の植物間の競争関係にも影響を与える要因でもあると考えられている。 例えば,ササの密度が高い場所ではエゾマツが,低い場所ではトドマツが林冠を構成して いたこと(Takahashi and Kohyama, 1999),ササが林床を優占することによって高木性樹種 の更新は少なく,亜高木および低木性樹種の小径木は多いという林相が形成されていたこ とが報告されている(Nakashizuka and Numata, 1982; 伊藤ら, 2011)。

ササは林業経営を考えるうえでも大きな障害になっており,多数のササの制御試験や枯 殺試験が行われてきた(塩崎ら, 1968; 高橋ら, 1967; 豊岡・横山, 1973; 河原, 1978)。三浦 国有林でのササ抑制実験の例では,薬剤散布に一定の効果は見られたものの処理をやめる とササが再生・回復した(中部森林管理局, 1999)。このように,ササの旺盛な繁殖能力に

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6 よってササの植生管理は未だ実用上成功しているとはいえず,特に天然更新施業上の大き な課題になっている。 ササのバイオマスは林床植物としては大きく,森林全体の炭素・窒素動態を考えるうえ で無視できない。例えば,温帯落葉広葉樹林の地上部のバイオマスは平均的には13,000 g m-2前後(片桐, 1996)であるのに対し,スズタケ(Sasamorpha borealis)の地上部のバイ オマスについては落葉広葉樹林内で最大約1,800 g m-2であり(Agata and Kubota, 1985), 地上部現存量に対して約16%を占める。地下部のバイオマスではさらにササの貢献度は大 きい。例えば,ミズナラ(Quercus crispula)林においてササの細根(直径 2 mm 未満の根) のバイオマスは細根全体量の約7 割にも達する(Fukuzawa et al., 2007)。このことは,森 林の地下部における物質動態においてササが中心的な役割を果たしていることを示唆す るものである。 このことから,ササの成長特性,特に地下茎の分枝・伸長様式は重要な生態的特性とし て関心を集めてきた(McClure, 1966; 上田, 1978; 蒔田, 1997; 松尾ら, 2010)。Makita(1996, 1998a)は異なる地下茎の分枝・伸長様式をもつ 2 種のササ実生個体群を対象に,地下構 造の直接観察と個体(ジェネット)の空間分布構造を調査し,地下茎の分枝・伸長様式の 違いが生活史初期のジェネットの空間分布構造に影響を与えることを明らかにした。ササ のそれぞれの種が地下茎の分枝・伸長様式を通じてどのようにジェネットの分布域を拡げ ていくかは,他種との競争だけではなく同種他個体との生存競争に大きな影響を与える問 題である(蒔田, 1997)。 地下茎の分枝・伸長様式に加えて繁殖様式に着目し生存戦略を示唆した例もある。田所 ら(1990)は,小型で稈の寿命も短くほとんど稈基(地下茎と地上稈を繋ぐ地下部の稈) をもたない地下茎繁殖型の様式をとるミヤコザサ(Sasa nipponica)は,稈基繁殖型の様式 (稈基から地上稈を伸長させる繁殖様式)をとるチシマザサ(Sasa kurilensis)(豊岡ら, 1985a)と比較してクローンの移動性が高く周辺部での群落の拡大に有利であると推察し ている。松尾ら(2010)はチュウゴクザサ(Sasa veitchii var. hirsuta)が単軸型地下茎(地

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7 下茎の節間が長く地下部を横走する地下茎構造)による分枝・伸長様式によって,ジェネ ットが混在する空間分布構造を形成していること,チシマザサが単軸型と連軸型(地下茎 の節間が短く地下茎の先が地上稈になる地下茎構造)の地下茎をもつ混合型の分枝・伸長 様式によって,広範囲にわたり特定のジェネットが空間を独占する分布構造を形成してい ることを報告した。このように,ササ地下茎の分枝・伸長様式については多くの知見が蓄 積されてきており,ササが森林の中でどのように分布域を広げていくか,どのような生存 戦略を取っているのかが明らかになりつつある。 1-2.ササの一斉開花・枯死(寿命)現象 ササは広範囲にわたって一斉に開花・枯死する長寿命一回繁殖型の植物である(Numata, 1970; Makita, 1992)。このような特異かつ特徴的な生活史を有する進化的意義に関しては, 種子散布後の捕食者の飽食(Janzen, 1976)や親子間競争の回避(Simmonds, 1980),受粉 効率の向上(西脇, 1995; Nihsiwaki and Konno, 1990),散布前捕食の回避(Makita, 1997; 西 脇・蒔田, 1998),他家受粉の促進(Kitamura and Kawahara, 2011)などが提案されている。

この一斉開花・枯死は樹木の実生の発芽・定着に深くかかわっているため(工藤, 1980; Nakashizuka, 1987, 1988, 1991; Narukawa and Yamamoto, 2002),開花・更新過程を明らかに することはそれらの生活史を紐解くとともに,下層にササを有する森林の動態を明らかに する上で重要であると考えられてきた。Janzen(1976)は過去の報告から,ササの発生か ら一斉開花・枯死までの一連のサイクル,すなわちジェネット寿命は3~120 年で,その 大部分は30~50 年であると総括している。 しかし,このジェネット寿命は生涯で一度のみ有性繁殖を行う一回繁殖型植物であると いう考えに基づいて調査されたものであるが,次のような問題点がある。ササは地下茎に よる旺盛な栄養繁殖を繰り返すクローナル植物であるため(Makita, 1998a, b),野外での 個体識別は非常に困難であった。したがって,開花が起こっても何個体のジェネットが同 調して開花しているのか,一個体のジェネットに含まれる稈が全て開花するのかについて

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8 詳細に検証されることはなかった。宮崎ら(2010)はオモエザサ(Sasa pubiculmis)個体 群において遺伝構造を調べると共に4 年間の開花パターンの調査を行った。その結果,オ モエザサは一斉に開花はするものの,必ずしも「ジェネット一回繁殖型」の生活史を有さ ない場合があることを示唆した。しかし,ササの一斉開花現象に関連するジェネット寿命 は,研究の困難さも相まって多くの研究者の関心を集めてきたにもかかわらず,現在でも 十分に明らかにされていない。 1-3.器官としてのラメット寿命 ササのラメットスケールでの研究では,光合成能力や蒸散速度,バイオマス量などに注 目されることが多い(Agata and Kubota, 1985; 柴田, 1992; 矢島ら, 1997; Kobayashi et al., 2000)。一方でラメット寿命についての研究はジェネット寿命の研究に比較して非常に少 ない。しかし,ラメット寿命はササのラメットの密度に直接影響する因子であり,群落の バイオマスに影響を与えるものとして無視できない。柴田(1992)はクマザサ(Sasa veitchii) およびヤクシマザサ(Pleioblastus akebono)について,ラメット寿命のばらつきは大きか ったが平均ラメット寿命は約3 年を示したこと,アケボノザサ(Pseudosasa owatarii f. nana) については平均ラメット寿命が約4 年であったことを明らかにした。矢島ら(1997)はク マイザサ(Sasa senanensis)およびチシマザサ(Sasa kurirensis)のラメット寿命について 調査し,それぞれのラメット寿命は約4 年および約 8 年であったことを報告した。さらに 寺井ら(2009)はミヤコザサのラメット寿命は通常 1 年程度であるとしている。 稈齢に伴うラメットの生理形態的変化についての研究はさらに少なく,川瀬ら(1984) による4 年生のチシマザサの原生導管中にチロース状のものが確認されたという報告,柴 田(1992)によるクマザサ,アケボノザサ,ヤクシマザサの加齢に伴う地上部の分枝・着 葉パターンの季節変化を観察した研究などと極少数にとどまっている。このように,ラメ ット寿命についての研究は少なく,その決定要因に関する研究は皆無であった。本節では ササのラメット寿命の重要性とその研究が不足していることについて述べた。ラメット寿

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命は個体ではなく器官の寿命であるため,個体寿命とは異なるメカニズムを考える必要が ある。このため,次節では同様に器官である個葉の寿命についての研究をレビューするこ とで器官寿命の考え方を整理した。

1-4.樹木の葉寿命

樹木の葉寿命は短いもので40 日前後(Ackerly and Bazzaz, 1995; Kikuzawa, 1978),長い ものでは数十年にもおよび,幅が大きい(Kikuzawa, 1995; Reich et al., 1995)。菊澤ら(2007) はこのような葉寿命の種間での大きな変異は,葉寿命そのものへの進化の淘汰圧ではなく, 葉が炭素獲得のための器官であることから(Chabot and Hicks, 1982),炭素獲得量を大きく する方向への淘汰圧であると推測している。さらに,Wright et al.(2004)は葉の経済的性 質に普遍的なスペクトル(葉内窒素含有量,光合成速度,LMA と葉寿命の関係,葉の投 資量など)が存在することを全地球的なスケールで初めて明らかにし,経済的に競争力が 弱い葉への投資戦略が自然淘汰によって消失したと主張している。これらは,樹木の葉寿 命は初期光合成能力,初期の葉を生産するコスト,光合成量の時間減少率の3 つの要因に 基づき,コスト-ベネフィットの関係から炭素獲得効率を最大化するように決定されると いう考え(Kikuzawa, 1991, 1995; Reich et al., 1991, 1992)を支持している。葉の純光合成速 度と葉の寿命との関係に負の相関がみられること(Reich et al., 1991, 1992; Wright et al., 2004),純光合成速度の時間減少が大きいほど葉寿命は短く,生産コストが大きいほど葉 寿命は長いこと(Williams et al., 1989; Kikuzawa, 1991)などの現象は彼らの推測と一致す る。同種間においても, Matsumoto(1984a, b)はシラビソ(Abies veitchii)の葉寿命につ いて林床で10 年と最も長く,林縁に近い林床で 8 年,ギャップで 5 年であり純光合成速 度の時間減少率と負の相関があることを示した。同様に葉寿命と光合成速度の関係はエゾ ユズリハ(Daphniphyllum macropodum var. humile)でも確認されている(Kikuzawa, 1988, 1989)。またケネザサ(Pleioblastus pubescens Nakai)においても明処理区と暗処理区での 葉寿命が4.7 か月と 8.9 か月で違いがあったとの報告もある(阿拉ら, 2009a, b)。これらの

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10 ことから,Kikuzawa(1991)が主張するように,葉の寿命は植物個体の光合成量を最大化 するように決定されるという観点が重要であることが分かる。クローナル植物は地下茎を 介したラメットの集合体がジェネットを形成している。ジェネットにとってのラメットの 役割は,樹木の葉と同様に光エネルギーを使って二酸化炭素を有機物に固定することであ るといえる。このことから,ラメット寿命も個体であるジェネットにおける光合成獲得量 を最大化するように決定されるのかもしれない。しかし,これまでの研究ではクローナル 植物であり多様な光環境に広く分布するササ(Lei and Koike, 1998; Wijestinghe and Hutcings, 1997)のラメット寿命が,それぞれの光環境下で炭素獲得効率が有利であるように決定さ れるのかについては明らかにされていない。 1-5.生理的統合に着目した林床におけるササの存在意義 なぜササは多様な光環境下にラメットを分布するのか。なかでも光資源の乏しい林床に ササが分布する理由についてこれまでに様々な仮説が提案されてきた。林床にササが分布 する理由として,どのようなメカニズムでササが林床に生育し得るのかといった「至近要 因」と,その生育の適応的意義である「究極要因」に分類して示すことにする。 これまで林床におけるササの繁茂は成長速度の速さ,つまり分布拡大能力の高さによる ものであると考えられてきた(田所・矢島, 1990; 田所ら, 1990; 河原, 1988)。しかし,サ サが林床に分布する至近要因として,Lei and Koike(1998)はクマイザサが秋から春にか けての林冠木の落葉期の光を利用して盛んに光合成を行っていること,さらに林床のサン フレックスに応答し瞬間的に光合成活性を高める能力が高いことを見出した。そしてこれ らが落葉広葉樹林内でのクマイザサの生育・生存を保証している大きな要因であることを 示唆した。さらに堀ら(1998)はアズマネザサ(Pleioblastus chino)が光環境の変化に対 してC/F(非同化器官重/同化器官重)比の大きな可塑性を持つことによって,ササは弱光 環境下の林床でも生育を可能にしているのではないかと報告した。これらの仮説によって 林床にササが分布する理由への理解が深まりつつある。しかし,炭素獲得効率をいかにし

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11 て高めるかが植物の個体繁栄の鍵となる中で(Wright et al., 2004; 菊澤, 2007),ジェネッ トにとって高い生産コストを消費して光環境の乏しい林床にラメットを発生させるメリ ットがどの程度あるのかについてはこれまで確かめられていない。このことはラメットの 生存サイクルにおいて,稈枝・葉などへの炭素投資量と光合成による炭素獲得量の関係か ら導き出される炭素収支により解明され得ると考えられる。しかし,これまでに異なる光 環境下におけるササ個葉の最大光合成速度や光合成曲線(阿拉ら, 2009b; Kobayashi et al., 2000),ササのバイオマスを求めた研究(福澤, 2007; 柴田, 1992; 豊岡ら, 1985b)について は報告されているが,これらを総合しラメットの生存サイクルにおける炭素収支を考察し た例はない。そのため林床に生育するササが炭素獲得器官としてジェネットにどの程度貢 献しているのかは明らかになっていない。 一方,究極要因としては2 つの可能性が考えられる。1 つ目に,新しいギャップがつく られた場合に群落をいち早く生育させるための投資,いわば樹木における “seedling bank” のような機能を果たしている可能性である。2 つ目に,林床のササが地下茎を介して水や 窒素を他のラメットへ供給する機能を果たすことで,ジェネット全体の水需要を賄ってい る可能性である。ササをはじめ,セイタカアワダチソウ(Solidago canadensis)やヒカゲ ノカズラ科(Lycopodium flabelliforme),イネ科植物,多年生のハーブなどのクローナル植 物が地下茎を介して窒素やリンなどの無機養分や光合成産物,さらには水などをやりとり する「生理的統合」を行っていることはよく知られている(Pitelka and Ashmun, 1985)。 Wijesinghe and Hutchings(1997)は資源の分布が不均一な環境において,シソ科である Glechoma hederacea の一個体が異なる資源環境下にまたがって生育することで資源獲得を より有利に行っているとし,成長パターンもそれを反映したものになっていると報告して いる。このように,クローナル植物における生理的統合は資源獲得の戦略としての意義が 大きいと考えられる。例えば,光合成活動が活発なラメットから不活発なラメットへの地 下茎を介した光合成産物の移動を調べるために,放射性同位体である 14C を用いた実験 (Ashmun et al., 1982; Newell, 1982)や地下茎の環状剝皮によるその後の成長量調査(van

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Kleunen and Stuefer, 1999)が行われてきた。D’Hertefildt and Jonsdottir(1999)はアブシジ ン酸による着色実験で,地下茎を介した水移動が深い根を持つ古いラメットから根の少 ない新しいラメットへ生じていることを報告している。さらに安定同位体である 15N を 用いた実験により,チロイチゴ(Fragaria chiloensis)において地下茎を通じた窒素の移 動を確認したが,その移動は古いラメットから新しいラメットへの移動のみであったとの 報告もある(Alpert, 1996)。

ササについて,Saitoh et al.(2002)は弱光下におけるチマキザサ(Sasa palmata)の現存 量が強光下のラメットと地下茎で繋がっている処理において,切断された処理よりも2 生 育期間で1.5 kg m-2程度多くなったと報告している。また安定同位体(15N)を用いた実験 によって窒素が林床からギャップへ,高窒素な土壌環境から低窒素な土壌環境への移動を 確認したとの報告もある(Saitoh et al., 2006)。さらに齋藤ら(2000)は,林冠下において チマキザサは光補償点付近またはそれ以下の光量子量であったにもかかわらず,ギャップ 縁に近いところでは相対的に高い被度を示したことを報告している。これらのことを踏ま えて,齋藤・清和(2007)は林床におけるチマキザサはギャップへ地下茎を介して窒素や 水などを移動し,ギャップから林床へは同化産物を転流していると総括している。このこ とから,炭素獲得量が少ないであろう林床のラメットを維持する一つの可能性が,光資源 が豊富な環境下におけるラメットへの水・窒素の供給であると考えられる。これまでの研 究では同位体を用いた実験や環状剝皮,地下茎の切断による現存量の変化を調査すること によって生理的統合への説明が試みられてきた(Ashmun et al., 1982; Newell, 1982; Alpert, 1996; D’Hertefildt and Jonsdottir, 1999; van Kleunen and Stuefer, 1999; Saitoh et al., 2002, 2006)。このため,生理的統合によってどの程度の物質量が移動しているのか,それはい つ,どのような時に,どの程度頻繁に生じているかなどの量的・時間的な議論は行われて いない。

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13 1-6.研究目的

ササは林外から林床まで光資源が大きく異なる環境下に幅広く生育している(Lei and Koike, 1998; Wijestinghe and Hutcings, 1997)。これはササが異なる資源の環境下にまたがっ て生育することで,資源獲得の上で有利になる為であると考えられており(Wijestinghe and Hutcings, 1997),その理由として前節で生理的統合が鍵になることを示してきた。齋藤・ 清和(2007)によって林外におけるラメットは光合成産物,すなわち炭素を獲得する機能, 林床におけるラメットは窒素や水を林外のラメットに供給する機能を担っていることが 示唆された。しかし,ここで示された異なる光環境によるラメットの炭素・水資源獲得の 機能分化については,それぞれのラメット間で地下茎を介した物質移動が確認されたこと からの推察である。そのため光環境によるラメットの機能分化を明確にするためには,ラ メットの炭素・水収支を明らかにし,ラメットの明確な機能を提示する必要があると考え られる。 ラメットの炭素収支を考える上で参考になるのが樹木の葉の炭素収支である。樹木の葉 は炭素獲得効率を最大化するように寿命が決定され,それは炭素収支におけるコスト-ベ ネフィットの関係から説明されることが多い(Kikuzawa, 1991, 1995; Reich et al., 1991, 1992)。樹木の葉は個体にとって炭素獲得のための器官であることから(Chabot and Hicks, 1982),ササにおけるラメットもジェネットにとっては炭素獲得のための器官であるとみ なすことができる。このことから,ラメットも樹木の葉と同様に炭素獲得効率を最大化す るように寿命が決定されるかもしれない。つまり,ラメットの炭素収支を考える上ではそ の生存サイクルを通した視点が重要になるといえる。しかし,これまでラメットの生存サ イクルにおける炭素収支に着目した研究は無い。そのため多様な光環境下に分布するササ がその生存サイクルにおいてどの程度の炭素を獲得し,ラメットを維持するためにどの程 度の炭素を消費しているのかは明らかになっていない。 これまでの研究により生理的統合によって窒素や水がギャップに生育するラメットへ 供給されていることはすでに確認されている(Saitoh et al., 2006)。このことから,ラメッ

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トの水収支を理解するためには地下茎を介した水の移動を考慮する必要がある。これまで, 安定同位体を用いた実験および着色実験(Saitoh et al., 2006; D’Hertefildt and Jonsdottir, 1999)により地下茎を介した水移動の存在は明らかにされているが,結果は水移動が生じ ているか,いないか,の確認に留まっている。しかし,地下茎を介した水移動がどの程度 の量であるのか,それはいつ,どのような時に,どの程度頻繁に生じているかなど,より 詳細な情報を得ることによってラメットの水資源獲得としての機能分化をより明確に説 明することが可能になると考えられる。また地下茎の水移動と合わせて地上稈の茎流につ いても考慮する必要がある。地下茎を介した林外への水移動が生じている時,林床の地上 稈における茎流の振る舞いを明らかにすることは,地下茎の詳細な水移動を解明するのと 同様にラメットの水資源獲得としての機能分化を理解する上で重要であると考えられる。 このように,ササのラメットごとの炭素収支・水収支については調べられておらず,異 なる光環境下でのラメットの機能や生存戦略について十分に解明されていない。 本研究では,異なる光環境下に生育するチシマザサのラメットの機能分化を炭素収支・ 水収支の点から明らかにすることを目的とした。第2 章では,異なる光環境下におけるチ シマザサのラメットの炭素収支をラメット齢に関連付けて解析し,炭素収支とラメットの 生存サイクルの関係を明らかにした。第3 章では,水資源獲得器官としての機能分化を明 らかにするために,ラメット間の地下茎を介した水移動の方向性,量,タイミングを含め た水収支を明らかにした。

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2.チシマザサのラメットにおける炭素収支と生存サイクル

2-1.研究目的

樹木の葉寿命は光環境によって異なること(Matsumoto, 1984a, b; Kikuzawa, 1988, 1989; 阿拉ら, 2009a, b),炭素獲得効率が最大になるタイミングとほぼ一致することが知られて おり,炭素収支のコスト-ベネフィットの関係で説明されてきた(Kikuzawa, 1991, 1995; Reich et al., 1991, 1992)。樹木の葉が個体にとって炭素獲得のための器官である(Wright et al., 2004)ことと同様に,ラメットもジェネットにとっての炭素獲得のための器官である とみなすことができる。そのためラメットにおける炭素収支は樹木の個葉よりも複雑では あるが,ラメット寿命も樹木の葉と同様に炭素収支におけるコスト-ベネフィットの関係 により説明できるかもしれない。ササのラメットは複数の葉と枝から成り,生存サイクル を通じて更新する。そのため,炭素投資は生存サイクルを通じて行われる。また4 年生の チシマザサにおいて,原生導管中にチロース状の物質が確認されたとの報告があることか ら(川瀬ら, 1984),ラメットの加齢に伴い導管内のチロースが増え,通水抵抗が増加する と考えられる。幹の通水抵抗の増加に伴う水ストレスは(Ryan and Yoder, 1997),気孔閉 鎖を引き起こすことで光合成速度を低下させる(Holbrook and Lund, 1995)。これらのこと から,ラメットの加齢に伴う光合成能力の変化は,葉の光合成能力,葉面積の他に通水抵 抗の増加に伴う水ストレスによる影響を考慮する必要があるだろう。このようにラメット における炭素収支とラメット寿命の関係を明らかにすることは,考慮すべき点が多くなり 複雑である。しかし,ラメット寿命が炭素獲得効率を最大化するように決定されるのかを 明らかにすることは,ラメットにおける炭素獲得がジェネットに対してどの程度貢献して いるのかを光環境別に特徴づける一助になると考えられる。もし齋藤・清和(2007)が示 唆したように,林床のラメットが林外のラメットへの窒素や水を供給する機能などの他の 機能を担っているならば,必ずしもラメット寿命が炭素収支におけるコスト-ベネフィッ トの関係で説明できない可能性もあり,このことも重要な示唆を提供すると考えられる。

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16 本章では,1)チシマザサにおいて異なる光環境によりラメット寿命は異なるのか,2) ラメット寿命はラメットにおける炭素獲得効率を最大化するように決定されるのか,を明 らかにすることを目的として,最大光合成速度(Pmax),暗呼吸速度(Rd),ラメット寿 命,ラメットの通水抵抗,稈枝および葉のバイオマスを調査した。そして,初期光合成能 力,初期のラメットを生産するコスト,光合成量の時間減少率の3 つの要因に基づき,異 なる光環境下のラメットの生存サイクルにおける炭素収支を検証した。さらに,稈の通水 機能,葉の光合成能力およびラメットの加齢に伴う葉面積の生理的機能の変化を検証し, 水ストレスに起因する変化がラメット寿命に影響を及ぼすのかについても考察した。 2-2.研究方法 2-2-1.調査地の概要 本調査は新潟県苗場山(36° 55′ N, 138° 46′ E)の標高 900 m の南西斜面に位置する 70 年生のブナ(Fagus crenata)2 次林で行われた。調査地の林床はチシマザサが優占し,上 層木としてはブナの他にミズナラ(Quercus crispula),リョウブ(Clethra barbinervis),オ オイタヤメイゲツ(Acer shirasawanum),イタヤカエデ(Acer pictum),ウリハダカエデ(Acer rufinerve),タムシバ(Magnolia salicifolia)などが生育している。調査地の母岩は主に安 山岩と玄武岩で構成されており,土壌は褐色森林土である。試験地から 2.9 km に位置す る気象観測所(気象庁; http://www.data.jma.go.jp/obd/stats/etrn/)での 1988 年から 2010 年ま での年平均降水量は2,230 mm,2011 年の年平均気温は 8.5°C であった。調査地での積雪 深は約3~4 m であり,積雪は 5 月中旬頃まで残る。ブナの葉は 4 月下旬から 5 月上旬に 展葉を始め,紅葉は10 月下旬から始まる。チシマザサの当年葉は 6 月から展葉が始まり, 8 月に葉面積が最大となる。 2011 年から 2013 年にかけて,林床(林床パッチ)において 5 m × 10 m,5.8 m × 10 m および5 m × 10 m のプロットを設定し,林外(林外パッチ)においては 5 m × 10 m,5 m × 16 m および 5 m × 10 m のプロットを設定した。また,ブナ林の林縁(林縁パッチ)にお

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17 いては2012 年と 2013 年にそれぞれ 1 m × 100 m および 1 m × 50 m のプロットを設定した。 2-2-2.チシマザサにおけるラメット寿命 チシマザサの枝の分岐パターンから(Oshima, 1961),それぞれのプロットに生育してい るすべてのラメット齢を調査し,同時に稈の根元直径を測定した。そしてそれぞれのプロ ットにおいてラメットの総本数を当年生のラメットの本数で割ることで,ラメットの平均 寿命を求めた(矢島ら, 1997)。ここでのラメットとは地下茎および根を除く葉,枝,稈の 単位であると定義した(図-1)。 2-2-3.ラメットにおける通水抵抗 ラメット齢のクラス分けを行い(0, 1, 2, 3, 4 および 5 年生以上),それぞれのクラスに おいて稈径が8.5~9.5 mm のラメットを 1 本または 2 本サンプリングした。そして,茎熱 収支法による自作の茎流センサを地熱の影響を受けないように地上から 50 cm の位置に 設置した(Sakuratani, 1981)。センサへの熱の流入を防ぐためにセンサを断熱材で覆い, 雨滴を防ぐためにビニルシートで覆った。 茎熱収支法による茎流速の測定値の校正は稈への加圧法により行った。切断した稈の一 方の切断面を 3000F01 プレッシャーチャンバー(Soil Moisture Equipment Corp., Santa Barbara, CA, USA)内に設置したウォータープールに入れ,もう一方の切断面にあらかじ めピッペトを接続しておいたプラスチックチューブを接続した。そして茎流センサをチャ ンバーから出ている稈に設置し,チャンバー内を加圧することで強制的に稈での茎流を発 生させた。異なる茎流速の校正を行うために,チャンバー内の加圧強度を時間経過と共に 5 段階で減少させた。センサの熱電対から得られる電圧を GL820-UM-80 データロガー(グ ラフテック株式会社,神奈川,日本)によって記録し,Steinberg et al.(1990)の方法によ って茎流速を計算すると同時に,ピペットのスケールを目視で読み取った。目視による測 定時間は,チャンバー内の圧力の減少に伴う茎流速の低下によって生じる測定エラーを避

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けるために,茎流速が低下するに従って,30 秒,1分,2 分,5 分および 10 分と増加さ せた。茎流センサによる電圧から計算された茎流速と目視により測定された流速で回帰直 線を作成した。異なる稈径のチシマザサの茎流速を校正するために,回帰直線は稈径別に 作成された。

あらかじめLi-190R 光量子センサ(LiCor, Inc., Lincoln, NE, USA)によって校正された G1118 フォトダイオード(浜松フォトニクス,静岡,日本),熱電対および RSH-1010 湿度 センサ(エスペックミック株式会社,愛知,日本)によってチシマザサ上部の気象データ (e.g., 光合成有効光量子速密度(PPFD),気温,湿度)を測定した。測定は 5 月から 11 月の期間に1 分間隔で行われ,30 分間の平均値を DL2e データロガー(Delta-T Devices Ltd., Cambridge, UK)に記録した。茎流速は林外プロットで 2011 年 8 月 10~14 日,林床プロ ットで2011 年 9 月 8~17 日に測定され,GL820-UM-80 データロガーに 30 秒ごとに記録 された。林外および林床のプロットで測定時期は異なっているが,気象状況は8 月と 9 月 でほぼ同様であった(図-2)。 林外および林床プロットにおいて,茎流速測定期間中の晴天日に1 枚から 3 枚の葉で木 部圧ポテンシャルを測定した。この測定は茎流速の測定と同時に行い,夜明け前および日 中(i.e., 11:40–12:20)にすべてのラメットで行った。得られた測定データを用いて式 1 に よりラメットの通水抵抗を計算した。ここですべての葉の木部圧ポテンシャルを測定する のに40 分間かかったため,茎流速の値は 40 分間の値を平均して用いた。この 40 分間で の茎流速の変化は7%以下であった。 Rh =(Ψpredawn− Ψday) ∙ CA SF40 (1) ここで,Rh,ΨpredawnΨdayCA,そして SF40はそれぞれ,稈の断面積当たりのラメットの 通水抵抗(MPa s mol−1 m2),夜明け前の木部圧ポテンシャル(MPa),日中の木部圧ポテ

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ンシャル(MPa),稈の断面積(m2,そして茎流速における40 分間の平均値(mol s−1 である。

2-2-4.光合成の測定

事前調査により,2005 年 6 月から 11 月までのチシマザサにおける光-光合成曲線を, LI-6400 携帯光合成システム(LiCor, Inc.)を用いて作成した。事前調査地は標高 1500 m に位置する上層木がブナであるチシマザサ群落であり,今回の試験地からは約5 km の距 離に位置する。光合成速度は,PPFD が 0,50,100,200,350,500,700,1000 および 1500 μmol m−2 s−1;CO 2濃度が350 ppm;相対湿度が 60~75%の条件下において,林外およ び林床に生育するラメットの当年葉および1 年葉で各 3 枚ずつ測定された。事前調査の結 果では,Pmax は 11 月を除いた月でほぼ一定であったが 11 月では他の月の 74.3%となっ た(付表-2)。1 年葉の Pmax は当年葉の 75.1%となった。8 月を除くすべての月で,Rd は8 月に比べて 63%となり,1 年葉の Rd は当年葉の 61%となった(付表-2)。 それぞれの調査パッチにおいて,光合成速度の日中低下が生じているかを明らかにする ために,ラメット齢のクラスごとに異なる5 本のラメットから当年葉 1 枚ずつを抽出し, 光合成速度の日変化を携帯ADC 光合成システム(Analytical Development Co., Hoddesdon, England)を用いて測定した。光合成速度の測定はチシマザサにおいて最も多くの葉が展 開しているラメットの上部にある葉を対象にした。測定は自然条件下において 5:00 もし くは6:00 から 18:00 もしくは 19:00 までの間に 1 時間間隔で行い,この測定を晴天日に 6 日間行った(表-1)。 それぞれの調査パッチにおいて,ラメット齢のクラスごとに5 枚の葉における 8 月中旬 のPmax および Rd を LI-6400 携帯光合成システムによって測定した。測定は CO2濃度が 360 ppm;葉温が 25°C;PPFD が 1200 μ mol m−2 s−1の条件下で行われた。測定は葉におけ る水不足を防ぐために夜間に行い,測定を開始する30 分前にラメットの根元に 3 リット ルの潅水を行った。

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20 2-2-5.光合成速度の日中低下の推定

式2 を用いて光-光合成曲線を推定した(Thornley et al., 1976)。

PP(I) =φ ∙ I + Pmax − {(φ ∙ I + Pmax)

2− 4 ∙ φ ∙ I ∙ θ ∙ Pmax}0.5 2 ∙ θ − Rd (2) ここで,P(I)は PPFD が I の時の光合成速度,φ は PPFD が 50 μmol m−2以下の時の光合 成速度から計算された初期傾斜,θ は事前調査から推定された曲線の凸度,そして Pmax およびRd はそれぞれ,最大光合成速度および暗呼吸速度である。

光合成速度の日中低下は(Holbrook, 1995; Bassow and Bazzaz, 1998),ADC 光合成システ ムにより測定された光合成速度の日変化と光-光合成曲線から求められた光合成速度の 差,つまり水ストレスによって日中の光合成速度が同じ光強度である時の光-光合成曲線 より下回った場合に生じていると考えた。光合成速度の日中低下率(DEP)は同じ光強度 における光-光合成曲線からの低下率と定義した。ADC 光合成システムおよび LI- 6400 光合成システムにより測定された光合成速度の最大値はほぼ同じ値を示した。 2-2-6.ラメットにおける炭素含有量 葉,枝,稈のバイオマス量を調べるために2012 年 10 月にそれぞれの調査パッチにおい て0~5 年生のラメットを 10 本ずつ採取した。葉面積を GTS600 イメージスキャナ(セイ コーエプソン株式会社,長野,日本)により測定した。葉と稈を80°C で 3 日間乾燥させ, それぞれの絶乾重量を測定した。それぞれの調査パッチおよびラメット齢ごとに,葉重量 および枝重量のアロメトリーを作成した。各ラメットにおいて3 枚の葉と稈の基部,中間 部,先端部から15~25 cm のサンプルを抽出し,SUMIGRAPH NC-95A(株式会社住化分 析センター,大阪,日本)により炭素含有量を測定した。ラメット齢ごとの各器官におけ

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21 る炭素含有量は,各器官の平均炭素含有量とバイオマス量の積として推定した。 2-2-7.統計的解析 ラメット寿命が調査パッチごとに異なるかどうかを調べるために,Kruskal-Wallis によ る検定で多重比較を行った。また測定日における稈の通水抵抗(Rh)および瞬間光合成速 度(Pn)の 2 つを応答変数とした一般化線形モデル(GLM)を構築した。Rh においては ラメット齢(AGE)と調査パッチ(PATCH)の組み合わせを説明変数とし,Pn において は,AGE,PPFD,飽差(VPD)を説明変数とした。それぞれの GLM のモデル構造は付表 -3 に示している。その中から,応答変数ごとに最小赤池情報量規準(AIC)によって最 適なモデルを選択した。 光合成速度の日中低下が生じている場合,一般化線形混合モデル(GLMM)を用いて DEP を応答変数とする 2 つのモデルを構築した。2 つのモデルの変量効果は測定日(DATE) である。Model 3-1 においては AGE と VPD の交互作用を固定効果とし,Model 3-2 におい

ては VPD のみを固定効果とした。これらのモデルについてはロジットリンク関数が用い られた。当年葉におけるPmax および Rd の値がラメット齢のクラスによって異なるかど うかを調べるために,一元配置分散分析法を用いた。すべての統計的解析は,統計分析ソ フト「R」(R3.2.0)を用いて行われた。モデル番号およびモデルの構造を付表-3 に掲載 した。 2-2-8.ラメットにおける炭素収支の推定 モデルラメットにおける炭素収支を下記の方法を用いて計算した。モデルラメットの稈 の重量はそれぞれの調査パッチにおいて採取された当年生の稈の重量の平均値とし,その 後7 年間一定であるとした。一方でモデルラメットの葉および枝のバイオマス量をそれぞ れのラメット齢のクラスごとのアロメトリー式により推定した。このように,葉および枝 のバイオマス量は8 年にわたって変化するのに対して,稈のバイオマス量は変化しないも

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22 のとした。 チシマザサの生育期間である 5~11 月の湿潤下における純光合成速度を,Pmax,Rd, PPFD の瞬間値を用いて式 2 により各パッチのラメット齢クラスごとに推定した。ここで, ラメットにおけるほとんどの葉はラメット上部に水平方向に位置していることから,ラメ ットでの全ての葉が受けるPPFD はラメット上部の葉が受ける PPFD と等しいと仮定し, 垂直方向の光の減衰は考慮しなかった。林外パッチにおいては,気孔閉鎖が生じている間 の純光合成速度を求めるために,Model 3-1 もしくは 3-2 によって得られる DEP に湿潤下 における光合成速度を乗じた。ラメットにおける葉の年間炭素獲得量を推定するために, 成長期間である5~11 月に渡って,瞬間純光合成速度にラメットの全葉面積を乗じた。こ の時,Pmax および Rd の値の季節および個体間での変化は事前調査と同様であると仮定し た。事前調査によるPmax の値は 11 月のみに他の月との有意差(P<0.05)が認められ,11 月のPmax の値は他の月の 75%であった。同様に葉の Rd の値は 8 月のみに他の月との有 意差(P<0.05)が認められ,6~11 月の Rd の値は 8 月の 63%であった。1 年葉の Pmax お よびRd の値は当年葉と比較してそれぞれ 75.1%および 61%であった。 非同化器官における呼吸速度に関しては,西村ら(2004)によるクマイザサにおける稈 呼吸と気温のアレニウス式により推定した。ラメットにおける炭素獲得量を推定するため に,成長期間で光合成量から呼吸量を差し引いて計算した。 各器官の炭素含有率および新しく生産された葉,枝および稈などの非同化器官によるバ イオマス量をもとに炭素投資量を決定し,年間の炭素投資量と炭素獲得量の差によって炭 素収支を求めた。求められた炭素収支により,ラメット寿命(更新期間)の違いによって 年間の炭素獲得量がどのように変化するのかを推定した。 2-3.結果 2-3-1.各調査パッチの光環境 林縁および林床パッチのプロットにおける日積算PPFD は,5 月および 11 月の落葉期

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23 に最も大きな値を示した。ブナの成長期間における林外パッチの日積算PPFD は,林縁お よび林床パッチにおける日積算PPFD のそれぞれ約 20 倍および 80 倍の値となった(図- 2)。 2-3-2.各調査パッチにおけるラメット寿命 林床および林外パッチのプロットにおけるラメット密度は,ラメット齢に伴って減少し た。例えば,林床パッチのプロットにおいて,6 年生のラメットは当年生のラメットの約 5 分の 1 の密度であった。対称的に,林縁パッチのプロットにおけるラメットは 7 年生ま でほぼ一定の密度を示した。林外パッチのプロットにおいてラメット密度は他の2 つのパ ッチの5~10 倍となり,特に当年生で高い密度を示した。しかし,林外パッチのラメット 密度はラメットの加齢に伴い急激に減少し,1 年生のラメットは同プロットにおける当年 生のラメットの約 2 分の 1 の密度となった(図-3)。Kruskal-Wallis による検定によって 各パッチ間でのラメット齢の分布は有意な差(P < 0.001)が示された。ラメットの平均寿 命は,全ラメット数を当年生のラメット数で割ることで求められ(矢島ら, 1997),その結 果,林床パッチでは2.8 年(2011),4.5 年(2012),4.4 年(2013),林縁パッチでは 5.8 年 (2012)および 8.7 年(2013),そして林外パッチでは 2.2 年(2011),1.6 年(2012),2.1 年(2013)であった。 2-3-3.各調査パッチおよびラメット齢における生理的機能 2-3-3-1.通水抵抗についての解析 ラメットにおける通水抵抗はラメット齢に伴って上昇し(P = 0.003),5 年生のラメット における通水抵抗は当年生のラメットの2 倍の値を示した(図-4)。通水抵抗(Rh)を応 答変数とするGLM の中でラメット齢(AGE)およびパッチ(PATCH)を説明変数に含む Model 1-1 がラメットの通水抵抗における最適なモデルとして選択され,両方の説明変数 が通水抵抗に有意に影響していた(付表-4)。

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24 2-3-3-2.最大光合成速度および暗呼吸速度についての解析 Pmax および Rd はすべてのパッチにおいてラメット齢間による有意差が認められなか った(一元配置分散分析;P > 0.05)(図-5)。各調査パッチについて見てみると,林縁お よび林床パッチにおけるPmax は 3.79~5.59 μmol m−2 s−1であり,林外パッチにおいては 11.64~13.50 μmol m−2 s−1であった。 2-3-3-3.瞬間光合成速度についての解析 瞬間光合成速度の日変化において,林外パッチにおける最大値は林縁および林床パッチ の3~5 倍の値を示した(図-6)。また林外パッチにおける光合成速度の日中低下は 3 年 生および5 年生のラメットで確認されたが,他のパッチにおけるラメットでは明瞭な反応 は確認できなかった。林縁および林床パッチにおける瞬間光合成速度を推定するための GLM は,それぞれ Model 2-3 および Model 2-4 が選択された。両モデルは説明変数に AGE を含んでおらず(付表-5),PPFD と正の相関関係を示した。林外パッチにおける日中 の光合成速度を応答変数とした最適なGLM は,Model 2-1 および Model 2-2 となり,説明 変数にAGE を含むモデルであった。AGE はすべての測定日において光合成速度に負の要 因として機能し,VPD についても 2013 年 10 月 14 日を除いてすべての測定日で光合成速 度にとって負の要因として機能した。 2-3-3-4.光合成速度の日中低下についての解析 光合成速度の日中低下が生じていた林外パッチにおいて,応答変数である DEP を推定 するためにModel 3 を使用した。最適なモデルとして選択された Model 3-1 において,DEP

VPD の上昇に伴い増加すること,DEP の増加が AEG の影響を受けていることが明らか

にされた(付表-6)。応答変数である DEP と説明変数である VPD の関係はそれぞれのラ メット齢のクラスごとに推定された(図-7)。その結果,VPD の値が 2 kPa である時,当

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25 年生のラメットにおける DEP は 0.2 以下である一方,3 年生以上のラメットにおいては 0.8 以上であった。 2-3-4.各調査パッチにおける炭素収支 単位ラメット当たりの炭素獲得量は林外パッチが最も大きく,その中でも1年生のラメ ットが最も大きくな値を示した(図-8)。林床パッチのラメットにおいては,4 年生以降 でラメットの呼吸速度が光合成速度を上回るため,炭素獲得量が負の値となった。林縁パ ッチにおいては 0~5 年生を通じて炭素獲得量が正の値であり,2 年生で最も大きな値を 示した。しかし,その量は林外プロットの最大値の25%程度であり,生存期間での年平均 炭素獲得量は林外の約16%であった。 すべての調査パッチにおいて,稈および枝における炭素投資量は当年生のラメットで最 も大きくなり,1 年生のラメットでは急激に減少した。林床および林縁パッチのプロット における葉への炭素投資量は2 年生までわずかに増加し,その後緩やかに減少した。一方 林外パッチのプロットにおいては,葉への炭素投資量は1 年生から徐々に減少していった。 林床パッチのプロットにおける積算炭素収支は当年生から負の値を示し,年々指数関数 的に減少した。一方で年平均炭素収支はラメット寿命(ラメットの更新期間)に伴って増 加した(図-9)。林縁パッチのプロットにおいて,積算炭素収支は 6 年間で−2~6 g ramet−1 まで増加した。さらに,年平均炭素収支はラメット寿命が 5 年の場合に最大の値を示し, それ以上の寿命の場合は減少した。林外パッチにおいて,積算炭素収支は4 年生のラメッ トで最大であった。年平均炭素収支はラメット寿命が2 年である場合を最大とし,ラメッ ト寿命がそれ以上である場合は減少した。また年平均炭素収支に光合成速度の日中低下の 影響はほとんど見られなかった(図-9)。

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26 2-4.考察 2-4-1.ラメット寿命と炭素獲得効率 林外パッチおよび林縁パッチのプロットにおいて,炭素獲得効率が最も高くなるラメッ ト寿命(更新期間)は実際のラメット寿命とほとんど一致した;林外プロット(更新期間: 2 年;寿命:1.6~2.2 年),林縁プロット(更新期間:5 年;寿命:5.8~8.7 年)(図-9)。 このことから,ササのラメット寿命は炭素獲得効率を最大化するように決定されるという 仮定はある程度正しいのではないかと考えられる。 個葉レベルの寿命を決定する炭素収支モデル(Kikuzawa, 1991)は,葉寿命は炭素消費 量と炭素獲得量の差し引きによる炭素利益率を最大化する更新期間と同等であるとして いる。Kikuzawa(1991)は,炭素利益率は 1)各器官を生成する初期コスト;2)生育期 間を通じた生産率;3)ラメットの加齢に伴う生産率の低下の 3 つの要因に基づいて決定 されるとしている。林外パッチのプロットに着目すると,高い初期光合成速度とラメット の加齢に伴う炭素獲得量の急激な減少が確認され,このことが短いラメット寿命を説明す る要因であると考えられる。 2-4-2.各調査パッチにおけるラメット寿命の決定要因 本研究において,チシマザサのラメット寿命に特に影響を与える要因の1 つが光環境で あるということが証明された。チシマザサのラメット寿命の詳細に関しては,これまでに 矢島ら(1997)が林床において 6.3~9.6 年であったとの報告があるのにとどまっており, このラメット寿命は本研究の林縁パッチにおけるラメット寿命とほぼ同じであった。また 本研究での結果は,河原・只木(1978)による全ての稈本数に対する高齢の稈の割合は林 床の方が林外より高いとの報告と部分的に一致した。しかし,3 つのプロットの中で最も 光資源が乏しい林床パッチのプロットではなく,林縁パッチのプロットにおけるラメット 寿命が最も長くなるという結果は(図-3),これまでの葉寿命の研究(Kikuzawa, 1988, 1989; Matsumoto, 1984a, b; 阿拉ら, 2009a, b)とは異なる結果となった。以下の段落からは

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27 各調査パッチにおけるラメット寿命の決定要因について述べていく。 2-4-2-1.林床パッチにおけるラメット寿命の決定要因 林床パッチのプロットにおける4~7 年生のラメットが示した負の炭素獲得量は(図-8 上段),ラメットの呼吸速度が葉の光合成速度を上回ることにより生じた。またラメット の加齢に伴い積算炭素収支の減少するペースが緩やかになるのは(図-9),単位葉面積 当たりの光合成能力が変化したわけではなく,ラメットの加齢に伴う炭素投資量の減少に よるものだと考えられる(図-8 下段)。Lei and Koike(1998)は,クマイザサが秋から 春にかけて林冠木における落葉期の光を利用して盛んに光合成を行っていること,林冠下 のサンフレックスに応答し瞬間的に光合成活性を高める能力が高いことを見出し,これら が落葉広葉樹林内でのクマイザサの生育・生存を保障している大きな要因であることを示 唆している。本研究においても,林床は5 月および 11 月に林冠木の落葉によって比較的 明るい環境となった(図-2)。しかし,このような環境下においても,林床パッチにお けるラメットは年々負の積算炭素収支が増加していった。これは5 月および 11 月以外の 林床パッチプロットにおける相対 PPFD が 2.5%以下であり,非常に光資源が乏しい環境 であったため,炭素収支がプラスとなることが難しかったのではないかと考えられる。 Saitoh et al.(2002, 2006)および齋藤・清和(2007)はチマキザサにおいて林床と林外で 生理的統合が生じたと報告している。つまり林床と林外における地下茎を介した物質移動 は,ラメット間での光合成産物や水・窒素などの不足を補うように相互に生じたと示唆さ れている。このことから,林床パッチのプロットにおける負の炭素収支が意味することと して,Saitoh et al.(2002, 2006)および齋藤・清和(2007)が主張する生理的統合のプロ セスによって,他のパッチのラメットからの炭素資源に依存して生存しているのではない かと考えられる。 林床パッチのプロットにおけるラメットには,光資源が豊富な環境への水および窒素の 供給の機能(Saitoh et al., 2002, 2006; 齋藤・清和, 2007)があることの他にも,新しいギャ

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28 ップがつくられた場合に群落をいち早く生育させるための投資,いわば樹木における “seedling bank”のような機能があると考えられる。もし林床のラメット寿命が短かったな らば,ラメットを発生させるための炭素投資量が増大することで,ジェネットにおける炭 素収支への負担が増加し生存戦略上マイナスとなる可能性がある。ラメット寿命を考える 上ではラメットの役割とラメットを発生させるための炭素投資のバランスを考慮する必 要がある。例えば,炭素収支がマイナスであり年々減少し続けるとしても,炭素獲得量が プラスからマイナスに転じる時(i.e., 4 年)がバランスを考える上での 1 つのポイントで あると考えられる(図-8)。しかし,本研究では林床パッチのプロットにおけるラメッ ト寿命はこの結果と一致しない(図-3 および図-9)。林床に生育するラメットの寿命 がどのように決定されるかは今後のさらなる研究が必要である。 2-4-2-2.林外パッチにおけるラメット寿命の決定要因 林外パッチにおけるラメットの加齢に伴う炭素獲得量の減少は,光合成速度の日中低下 と葉面積の減少が要因であると考えられる。林外パッチにおいて,ラメットの加齢に伴う 通水抵抗の増加により光合成速度の日中低下率が高まることが明らかにされた(図-4 お よび図-7)。川瀬ら(1984)はチシマザサの古い稈の導管中にチロース状の物質が存在 することを報告している。またササ類は肥大成長を行わないため,新しい導管を生成する ことが出来ない。このことを合わせて考慮すると,古い稈における通水抵抗の増加はラメ ットの加齢によって導管が何らかの物質により閉塞されたからであると考えられる。これ までに植物の茎における通水抵抗の増加は光合成速度の日中低下を引き起こし(森川・佐 藤, 1976),湿潤な場所においても生産性の著しい低下を引き起こすことが分かっている (Tazaki et al., 1980)。 しかし,本研究においては通水抵抗が引き起こす光合成速度の日中低下が炭素獲得に及 ぼす影響は小さいと推定された(図-9)。その理由として,低下率に対して高い相関を 示す VPD の出現率が考えられる。ラメットの加齢に伴う通水抵抗の増加が引き起こす光

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29 合成速度の低下率は,当年生から5 年生のラメットでは VPD が 1 kPa の環境下において 5 ~45%まで増加すると推定された一方,VPD が 0.5 kPa の環境下においては 0.5~15%増加 すると推定された。しかし,1 日の中で VPD が 0.5 kPa および 1kPa を超えるのは,それ ぞれ42.2%および 16.5%であった。このように,光合成速度の低下率に大きな影響を与え る高いVPD が 1 日の中で出現する割合は比較的低いため,ラメットの加齢に伴う水スト レスによる光合成活動の全体的な低下は少なかったのだと考えられる(図-7)。 林外パッチのプロットにおける炭素獲得量の減少は,ラメットの加齢に伴う葉面積の急 激な低下によって引き起こされた(図-8 下段)。これはラメットの加齢に伴って葉を生 成するための炭素投資量が減少していることを意味する。その理由の1つとして,新葉を 生成するための炭素投資を,高い通水機能を備えた新しい稈の生成へ再分配していること が考えられる。ジェネット単位で考えた時に,新しい稈への炭素投資は古い稈の新葉への 投資よりもより有益であるといえる。林外パッチにおいて3 年生の古いラメットの葉面積 は当年生のラメットの 0.6 倍で(図-8),通水抵抗が引き起こす光合成速度の日中低下 率は3 倍以上であった(図-7)。光合成速度の日中低下は,幹の通水抵抗の増加に伴う 水ストレス(Ryan and Yoder, 1997)で生じる気孔閉鎖によって引き起こされているため (Holbrook and Lund, 1995),ラメットの単位葉面積当たりの蒸散量が制限されている状態 であるといえる。もし林外パッチにおいて3 年生のラメットが,林床および林縁パッチと 同様に当年生のラメットの 2.1~3.5 倍の葉面積を維持したならば(図-8),単位葉面積 当たりの蒸散量はさらに制限されることが推測される。その量は葉面積に比例すると考え られるので,実際に3 年生のラメットが行っている単位葉面積当たりの蒸散量の 3.5~5.8 分の1 になると見積もられる。この推定は単純ではあるが,古いラメットにおいて葉面積 を他のパッチと同様に維持した場合,本研究で示したよりも光合成速度の大きな日中低下 が生じ,非常に強い水ストレスを引き起こすことが示唆される。このことが新しい葉への 炭素投資よりも新しい稈への炭素投資を引き起こしている理由であると考えられる。さら に,新しいラメットの葉によって得られる炭素獲得量が新しいラメットを生成するための

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30 炭素投資量を上回るのであれば,ラメットの加齢に伴って葉面積が減少することも考えら れる。このように,林外パッチのプロットにおける通水抵抗の増加は,光合成速度の日中 低下による直接的な炭素獲得量の減少ではなく,葉面積の減少による間接的な炭素獲得量 の減少を引き起こしているのではないかと推察される。 2-4-2-3.林縁パッチにおけるラメット寿命の決定要因 林床においてラメットの加齢に伴って通水抵抗が増加したことから(図-4),光環境 が類似している林縁パッチについても同様のことが考えられる。しかし,すべてのラメッ ト齢において光合成速度の日中低下は確認されなかった(図-6)。これは林縁パッチの 光資源が乏しいことによってラメットの光合成活動が活発ではなく,水ストレスが生じる ほどの蒸散活動が行われなかったことが原因であると考えられる。このため林外パッチと 同様に,林縁パッチにおいてもラメットにおける葉面積が維持される場合,ラメットの加 齢に伴って単位葉面積当たりが利用できる水は減少すると推察される。しかし,乏しい光 環境下における林縁のラメットの生産性は低いと推察されるため,利用できる水の減少が 与える炭素獲得量の低下への影響は小さいと考えられる。また生産性が低いために新しい ラメットを生成するための炭素収支に占める炭素投資量の割合は大きくなる。これらのこ とから,林縁パッチにおいては水資源よりも光資源が炭素獲得にとっての大きな制限要因 となっており,ジェネットに対してラメットを短期間で生成することは炭素投資のメリッ トが少ないと示唆される。その結果,林縁パッチにおけるラメットは加齢に伴う葉面積の 低下が緩やかであり,3 つの調査パッチの中で最もラメット寿命が長くなったのではない かと考えられる。また,林縁パッチのラメットにおいて生存期間での年平均炭素獲得量は 林外の約16%と小さかったため,ジェネットにおける炭素供給源であるとは考えにくい。

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図-2. チシマザサ上部における光合成有効光量子速密度(PPFD)の季節変化

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図-3. ラメットの加齢に伴うラメット密度の変化

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図-5. ラメット齢と(a)最大純光合成速度(Pmax)および(b)当年葉における暗呼吸速度の関係

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図-6. 各調査パッチ(行)および各ラメット齢のクラス(列)における 2012 年 9 月の光合 成速度の日変化

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図-7. 林外パッチにおける光合成速度の日中低下率と飽差(VPD)の推定関係

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図-8. 各調査パッチにおけるラメットの加齢に伴う炭素収支の関係

上段および下段はそれぞれ,単位ラメット当たりの炭素獲得量および炭素投資量を表す。白丸はラメット の葉面積を表す。a, d, 林床パッチ; b, e, 林縁パッチ; c, f, 林外パッチ。

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図-9. 単位ラメット当たりの積算炭素収支とラメット齢の関係(左)および単位ラメット当たり

の年平均炭素収支とラメット寿命の関係(右)

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40 表-1. 光合成速度の日変化の測定日における光環境および日積算光合成速度 調査 パッチ 測定日時 PPFDt PPFDm 平均日積算光合成速度(mmol m−2 day−1) (mol m−2 day−1) 当年生 1 年生 2 年生 3 年生 4 年生 5 年生 林床 2012/9/7 5:00~19:00 37.65 0.81 21.66 22.87 24.16 19.89 21.65 19.53 林縁 2012/9/2 5:00~18:00 36.68 1.33 49.37 43.54 46.70 44.83 42.12 42.31 林外 2012/9/5 5:00~19:00 41.12 32.74 317.25 269.26 261.72 235.79 220.74 218.74 2013/8/13 5:00~19:00 50.42 37.84 330.11 332.47 263.35 221.73 173.95 202.41 2013/9/18 6:00~18:00 43.97 33.27 344.59 300.53 226.85 232.31 196.84 191.38 2013/10/14 6:00~18:00 32.84 23.44 288.50 259.64 274.69 220.92 229.49 241.20 PPFDt, 観測タワーにおける日積算光合成有効光量子速密度(PPFD); PPFDm, 調査パッチにおける PPFD

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41 付表-1. 事前調査の光合成速度測定日における月別平均気温 測定日 気温 (°C) 6 月 13 日 7 月 19 日 8 月 10 日 9 月 19 日 10 月 14 日 11 月 2 日 14.62 19.89 22.70 17.58 14.15 7.38

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42 付表-2. 最大光合成速度(Pmax)および暗呼吸速度(Rd)を応答変数,月および葉齢を説明変 数とした一般化線形モデルの詳細 係数 推定量 標準誤差 P 値 Pmax Intercept (7 月) 葉齢 6 月 8 月 9 月 10 月 11 月 10.84 −2.38 −0.58 0.98 −0.69 −0.63 −2.48 0.70 0.57 1.14 0.90 0.90 0.90 0.92 < 0.001 < 0.001 0.61 0.28 0.44 0.49 0.0090 Rd Intercept (7 月) 葉齢 6 月 8 月 9 月 10 月 11 月 0.42 −0.20 0.13 0.19 0.043 0.059 0.040 0.061 0.050 0.099 0.079 0.079 0.079 0.080 < 0.001 < 0.001 0.18 0.021 0.59 0.45 0.65

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43 付表-3. 通水抵抗(Rh),瞬間光合成速度(Pn),光合成速度の日中低下率(DEP)を応答変数とし たモデル構造 応答変数 統計モデル 各モデルのR コード 1) Rh GLM 1-1) 1-2) 1-3)

glm (Rh ~ AGE + PATCH, family = gaussian) glm (Rh ~ AGE, family = gaussian)

glm (Rh ~ PATCH, family = gaussian) 2)Pn GLM 2-1) 2-2) 2-3) 2-4)

glm (Pn ~ AGE+ log (PPFD) + VPD, family = gaussian) glm (Pn ~ AGE + log (PPFD), family = gaussian) glm (Pn ~ log (PPFD) + VPD, family = gaussian) glm (Pn ~ log (PPFD), family = gaussian) 3) Dep

GLMM

3-1) 3-2)

glmer (Dep ~ AGE: VPD + (1 | DATE), family = gaussian (link = "logit")) glmer (Dep ~ VPD + (1 | DATE), family = gaussian (link = "logit"))

GLM, 一般化線形モデル; GLMM, 一般化線形混合モデル; AGE, ラメット齢; PATCH, 調査パッチ; DATE, 測 定日; VPD, 飽差 。

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44 付表-4. 通水抵抗を応答変数とした最適な一般化線形モデルの詳細 Best model: Model 1-1) 係数 推定量 標準誤差 P 値 Intercept AGE PATCH-BENEATH PATH-OPEN 1.11×10−4 4.53×10−5 0 −1.15×10−4 4.36×10−5 1.29×10−5 – 4.34×10−5 0.021 0.003 – 0.018

参照

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