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細胞内カルシウムと不整脈

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Academic year: 2021

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細胞内カルシウムと不整脈

著者

三浦 昌人

雑誌名

東北医学雑誌

129

2

ページ

171-173

発行年

2017-12

URL

http://hdl.handle.net/10097/00128764

(2)

1 ―

教授就任記念講演

― 2017年 5 月 25 日(木) : 医学部百周年開設記念ホール 星陵オーディトリアム 講堂

細胞内カルシウムと不整脈

東 北 大 学 教 授 三  浦  昌  人

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2 略 歴 生年月日  1960 年 8 月 11 日 出身地  秋田県 1985年 3 月  東北大学医学部卒業 1985年 6 月  秋田厚生連平鹿総合病院(初期・後期研修) 1988年 6 月  東北大学医学部第一内科入局 1989年 4 月  東北大学博士課程入学 1993年 3 月  東北大学博士課程修了 博士(医博)取得 1995年 8 月  カナダ,カルガリー大学留学 1998年 7 月  東北大学医学部附属病院第一内科助手 2004年 10 月  東北大学医学部保健学科検査技術科学専攻助教授 2008年 4 月  東北大学医学系研究科保健学専攻臨床生理検査学分野准教授 2017年 4 月  東北大学医学系研究科保健学専攻臨床生理検査学分野教授

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三浦 ─ 細胞内カルシウムと不整脈 東北医誌 129 : 171-173, 2017171 ―

教授就任記念講演

細胞内カルシウムと不整脈

Intracellular Calcium and Arrhythmias

三  浦  昌  人 東北大学大学院医学系研究科 臨床生理検査学分野 は じ め に 陳旧性心筋梗塞や拡張型心筋症などの病的心筋では 催不整脈性が亢進し,これが心臓突然死に繋がる事が 知られている.このような病的心筋における催不整脈 性亢進の機序の一つとして,カルシウム調節蛋白質の 発現量とその細胞内分布の変化が報告されている.し かし,心臓はギャップ結合を介した機能的合胞体であ り,遺伝子レベル・蛋白レベル・細胞レベルの研究か らだけでは捉えきれない機能的合胞体ならではの機序 を併せて考えていく必要がある.今回は,単離心筋細 胞,次に多細胞心室筋組織を用いて明らかになってき た催不整脈性の亢進における細胞内カルシウムの役割 について概説する. 1. 単離心筋細胞におけるカルシウム波と 撃発活動 心筋局所の傷害はギャップ結合によってその周辺に 広がっていくため,心筋を部分的に切り取った組織標 本は実験には用いることができず,心筋の収縮特性に 関する研究は,乳頭筋あるいは丸ごとの心臓を用いて 行われてきた.1970 年代の末に単離心筋細胞実験モ デルが確立し,さらに 1980 年代の初めよりカルシウ ム蛍光指示薬が開発され,心筋細胞内カルシウムの測 定が可能となった.1987 年には心筋細胞内カルシウ ムが空間的に不均一であることが報告され1),1989 年 には細胞内カルシウムの上昇が波のように伝わること が報告された.その後,このようなカルシウム波はそ の伝播の際に細胞膜を脱分極し,撃発活動の一つであ る遅延後脱分極を形成することが明らかになった2) カルシウム波の細胞内伝播速度が遅延後脱分極の大き さと正の相関を示したため,カルシウム波の伝播速度 がある閾値を超えると活動電位を誘発し,不整脈を引 き起こすと考えられたものの,その伝播速度が 0.2 mm/s程度を超えると細胞が壊死に陥り,活動電位は 誘発されなかった.カルシウム波の伝播速度の上昇は, 細胞内カルシウムの上昇によって引き起こされたた め,心筋細胞自体がその細胞内カルシウムの上昇に耐 えられなかったことが原因として考えられた. 2. 多細胞心筋組織におけるカルシウム波と 不整脈 1980年代の初めにカナダ・カルガリー大学の ter Keursらは,乳頭筋より遥かに小さな多細胞心室筋で あるトラベクラ(長さが 3 mm,厚さが 0.1 mm 弱) を用いた実験モデルを確立し,心室筋の収縮に関する 研究を続けていた.1980 年代末から 1990 年代の前半 にかけて心筋の収縮が心筋組織内を波状に伝播するこ とを彼らは発見し,撃発性伝播性収縮を名づけた3) しかし,この撃発性伝播性収縮の病態生理的な意味は 全く不明であり,細胞内カルシウムの上昇を伴ってい るのかさえも不明であった.その後,撃発性伝播性収 縮の際には細胞内カルシウムが局所的に上昇している こと,それが 0.3 から 5 mm/s の速度でトラベクラ内を カルシウム波として伝播することが明らかになった4) さらに,カルシウム波の伝播速度の上昇によって活動 電位が誘発され,この撃発性伝播性収縮(カルシウム 波)が撃発活動による不整脈の引き金になることが明 らかになった.しかし,このような撃発性伝播性収縮 の発生は,偶発的なものであり,発生機序に関しては 不明のままであった. 3. 不均一収縮心筋モデルにおける カルシウム波の誘発と不整脈 不全心筋や梗塞心筋などの病的心筋では,その内部 に傷害心筋が混在しており,不均一な収縮が生じてい ると考えられる.そこで,低カルシウム液や

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butane-172 三浦 ─ 細胞内カルシウムと不整脈

dione monoxime(BDM,ミオシン ATPase 活性阻害薬) 液などによって心筋の局所領域をジェット状に潅流 し,その潅流領域の収縮特性を可逆的に変化させる実 験モデルを作製した.レーザー回折法を用いた測定の 結果,ジェット非潅流領域のより強い収縮がジェット 潅流領域を伸展させることにより,この実験モデルで は不均一収縮が生じていた.さらに,ジェット潅流領 域のサルコメアが短縮する際にカルシウム波が発生し ていたため,心筋の短縮による収縮蛋白からのカルシ ウム解離がカルシウム波を誘発することが示唆され た5).カルシウム波は,ナトリウム/カルシウム交換体 を介して細胞内カルシウム量に応じて細胞膜を脱分極 したため,伝播速度が速いカルシウム波では,遅延後 脱分極が増高し,催不整脈性も亢進した.収縮蛋白の カルシウム感受性を高める薬剤(SCH00013)の投与 や心筋組織の伸展によって催不整脈性が亢進し,より 頻拍周期の短い不整脈が誘発されたことにより,収縮 蛋白からの解離カルシウム量が不整脈の発生にも関与 することが示唆された(図 1)6).一方,心筋虚血直後 には細胞外カリウムが 20 mM 以上にまで上昇し,こ れが虚血直後の不整脈の発生に関与することが報告さ れているため,心筋組織の局所部位を 30 mM の高カ リウムでジェット潅流したところ,潅流部位では収縮 力が低下し,カルシウム波が誘発され,不整脈も発生 した.さらには,肥大心筋においても,伝播速度が速 く,振幅が大きなカルシウム波が発生したことにより, 虚血心筋と肥大心筋においても不均一収縮によって誘 発されるカルシウム波が催不整脈性の亢進に関与する ことが示唆された. 4. 活性酸素とカルシウム波 心筋の伸展が活性酸素を増加させ,筋小胞体からの カルシウム放出(Ca spark)を増加させることを,BL Prosserらが 2011 年に報告した7).トラベクラを用い た 心 筋 伸 展 は 活 性 酸 素 を 増 加 さ せ, そ の 増 加 は NADPH oxidase阻害薬によって抑制された8).さらに, 心筋伸展はカルシウム波伝播速度を増加させ,その増 加もまた NADPH oxidase 阻害薬によって抑制された9) これらの結果は,心筋伸展が活性酸素を増加させ,こ の活性酸素の増加がカルシウム波伝播速度の増加を引 き起こすことを示唆しており,心拡大による心筋伸展 は,カルシウム波伝播速度を増加させることにより, 心不全状態における重症不整脈発生の一因となってい る可能性がある. お わ り に 心筋虚血や慢性心不全などの病態では,その心臓の 内部に収縮力の低下した領域が混在し,不均一収縮を 生じている.このような病的心筋に共通した不整脈の 発生機序として,不均一収縮領域における収縮蛋白か らのカルシウム解離の存在が示唆された.以上のよう な研究結果は,病的心筋患者の不整脈死の機序解明に 繋がる可能性がある. 文   献

1) Wier, W.G., Cannell, M.B., et al. (1987) Cellular and subcellular heterogeneity of [Ca2+i in single heart cells revealed by fura-2. Science, 235, 325-328. 2) Miura, M., Ishide, N., et al. (1993) Spatial features of

calcium transients during early and delayed after-depolarizations. Am. J. Physiol., 265, H439-444. 3) Mulder, B.J., de Tombe, P.P., et al.

(1989) Spontane-ous and propagated contractions in rat cardiac trabe-culae. J. Gen. Physiol., 93, 943-961.

4) Miura, M., Boyden, P.A., et al. (1999) Ca2+ waves during triggered propagated contractions in intact trabeculae. Determinants of the velocity of pro-図 1. 不均一収縮と不整脈 A : BDMの局所潅流時に電気刺激(ST)によって自 発的な収縮(不整脈)が誘発された.BDM 局所潅流 の停止(OFF)後に,不整脈は次第に徐拍化し,遂に は停止した. B : BDM局所潅流時(A の(a),上段)と潅流停止 後(A の(b),下段)の細胞内カルシウムと張力変化 を示す.(a)では BDM 潅流域と非潅流域の境界領域 において自発的なカルシウム上昇(カルシウム・サー ジ,白矢印)が起こっている.これに対し,潅流停止 後の(b)ではカルシウム・サージが消失し,その後 に頻拍は停止している事から,頻拍の持続にはカルシ ウム・サージの関与が示唆される.

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三浦 ─ 細胞内カルシウムと不整脈 173 pagation. Circ. Res., 84, 1459-1468.

5) Wakayama, Y., Miura, M., et al. (2005) Spatial nonu-niformity of excitation-contraction coupling causes arrhythmogenic Ca2+ waves in rat cardiac muscle.  Circ. Res., 96, 1266-1273.

6) Miura, M., Nishio, T., et al. (2010) Effect of non- uni-form muscle contraction on sustainability and fre-quency of triggered arrhythmias in rat cardiac muscle.  Circulation., 121, 2711-2717.

7) Prosser, B.L., Ward, C.W., et al. (2011) X-ROS

signaling : rapid mechano-chemo transduction in heart. 

Science, 333, 1440-1445.

8) Miura, M., Murai, N., et al. (2013) Role of reactive oxygen species and Ca2+ dissociation from the myofila-ments in determination of Ca2+ wave propagation in rat cardiac muscle. J. Mol. Cell. Cardiol., 56, 97-105. 9) Miura, M., Taguchi, Y., et al. (2015) Effect of

myofila-ment Ca2+ sensitivity on Ca2+ wave propagation in rat ventricular muscle. J. Mol. Cell. Cardiol., 84, 162-169.

図 1. 不均一収縮と不整脈 A : BDM の局所潅流時に電気刺激(ST)によって自 発的な収縮(不整脈)が誘発された.BDM 局所潅流 の停止(OFF)後に,不整脈は次第に徐拍化し,遂に は停止した. B : BDM 局所潅流時(A の(a),上段)と潅流停止 後(A の(b),下段)の細胞内カルシウムと張力変化 を示す.(a)では BDM 潅流域と非潅流域の境界領域 において自発的なカルシウム上昇(カルシウム・サー ジ,白矢印)が起こっている.これに対し,潅流停止 後の(b)ではカルシウム・サージが消

参照

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大阪大学大学院医学系研究科保健学専攻  臨床神経生理学      教授    高橋  正紀 国立精神・神経医療研究センター      理事長  水澤 

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前期臨床研修について 前期臨床研修における協力施設 ●東邦大学医療センター大森病院 協力型臨床研修病院

天野 宏一 教授 埼玉医科大学総合医療センターリウマチ・膠原病内科. 石井 智徳 特任教授 東北大学病院 臨床研究推進センター

高田  史男    北里大学大学院医療系研究科臨床遺伝医学講座 教授 平原  史樹    横浜市立大学大学院医学研究科生殖生育病態医学 教授

砂山  陽子  ( 大阪大学医学部附属病院  未来医療開発部 コーディネーター ) 小林  久子  ( 大阪大学医学部附属病院  未来医療開発部 コーディネーター )

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