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生物の生殖と遺伝的多様性

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生物の生殖と遺伝的多様性

著者

東北大学遺伝生態研究センター

雑誌名

IGEシリーズ

25

ページ

1-131

発行年

1999-03

URL

http://hdl.handle.net/10097/49110

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D6匿シリーズ望5*

生物の生殖と遺伝的多様性

東北大学遺伝生態研究センター

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I GEシリーズの発刊にあたって

地球上の環境は,今,かつてない大きな問題に当

面しております。世界各地で進行している生態系の

急速な変化のなかには,人間生活に深刻な影響をも

たらす可能性のあるものが,多数含まれています。一

方,人間の活動が宇宙空間へと拡がるにつれ,地球

外生態系の構築が,新しい課題として登場しつつあ

ります。生態系の崩壊を防ぎ,より豊かな環境を創

造するための科学的努力が,今日ほど強く求められ

ている時はありません。

本研究センターは, DNA分子技術を中心に遺伝

子的段階にまで到達した生物研究の諸成果を生か

し,生態系における生物の生活を一層深く解明し,新

たな人間環境の創造に貢献することを目指しており

ます。いうまでもなく,この課題はきわめて学際的

であり,多分野の研究者との相互交流と協力によっ

て,はじめて達成されるものであります。本研究セ

ンターでは,ワークショップによる研究者間の討論

と意見交換を重視するとともに,その成果をより多

くの方々にご利用いただく出版活動にとり組んでお

り ます。ここに発刊しますIGE(Institute of Genetic Ecologyの略)シリーズも,こうした努力

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の一環であります。

本シリーズの内容は,多岐にわたる可能性をもっ

ておりますが, 3つのタイプに大きく類別されるだ ろうと考えております。すなわち, (i)特定のテー マ,又はトピックについての解明に関するもの(* 印を付します), (ii)特定のテーマ又はトピックに

関する最新の文献,実験法の紹介に重点をおくもの

(* *印),そして(iii)新しい可能性を求める学際的 交流,対話を試みるもの(***印)であります。

このIGEシリーズが,多方面の方々のお役に少し

でも立つことを願って,発刊の辞とします。 1999年3月

東北大学遺伝生態研究センター

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⑳目   次㊥ ワークショップ「生物の生殖と遺伝的多様性」 高橋 秀幸 減数分裂中に発現する遺伝子の機能 堀田 康雄・平塚 和之・高瀬 尚文---・ 減数分裂期の相同的対合と生殖生長の 分子マーカー 東谷 篤志・高浪タカ子・青木 秀年・阪田  忠 高橋 秀幸 花芽形態形成遺伝子群の単離及び発現解析 撞  賢美・菅野  明・亀谷 寿昭-・--・-・ 花の器官形成機構の普遍性と多様性 土本  卓・間山 智子・大坪 栄一-・----アプラナ科植物の自家不和合性- S遺伝子座上の 遺伝子とゲノム構造解析一 渡辺 正夫・鈴木  剛・甲斐 直子・畠山 勝徳 日向 康吉 自家不和合性を制御するS遺伝子座の多様性 西尾  剛 高等植物における自家不和合性の遺伝学的・分子・-生物学的解析 神山 康夫 キュウリの花の性分化におけるエチレンの作用機構 山崎 聖司・藤井 伸治・高橋 秀幸・-・---雌雄異株植物の性分化 阿部 知子 環境ストレスに対する生き残り戦略としての 花粉数 西山 岩男- 121

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ワークショップ

「生物の生殖と遺伝的多様性」

高 橋 秀 幸 本センターの重点共同研究として, 「遺伝的多様性を獲得するための配偶 子形成における生物分子機構」に関する研究がスタートしました。生物が 多様な環境に適応・進化してきた過程は,それぞれの生物が独自の遺伝的 多様性を獲得した結果であり,また,その遺伝的多様性の獲得機構は生殖 過程にもっとも顕著にみられます。本重点共同研究は,減数分裂過程にお いて高頻度に生じる遺伝子組み換え機構,チェックポイント制御機構,雌 雄の配偶子形成機構,性分化,自家不和合性などの自己非自己認識機構を 解明し,それによって生態系を構成する生物種の多様性と変異性,それら に対する環境変動の影響を考察することを目的としています。ごのような 研究活動を背景に,平成10年度ワークショップ「生物の生殖と遺伝的多様 性」が平成10年12月4-5日の2日間にわたって本センターにおいて開催 されました。 1日目は「減数分裂と遺伝子組換え」, 「花器官形成」, 「自家不和合性」に ついて, 2日目は, 「性分化と環境ストレス」に関する最新の話題が提供さ れました。私たちが重点共同研究で目指す目標は,生殖機構の多様性の理 解によって達成されるもの/7:・あり,今回のワークショップは,これからの 私たちの研究に指針を与えるものとして成果をあげたものと考えておりま す。勿論,生殖機構という大変大きな課題を本 することはできません。とくに栄養生長から

-クショップだけでカバー 殖生長への転換とその花芽 形成のための環境応答機構,また,それらの生態的ニッチェや生物種の適 応における役割などを網羅した議論も必要ではなかったかと思っておりま す。このような視点で生殖機構を解明することが,地球環境問題をかかえ

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2 る私たちにとって重要な21世紀の生命科学の課題ではないかと考えてお ります。 IGEシリーズの本号は,当日話題提供してくださった先生方にお願いし て,ご講演の大要をまとめていただいたものであります。本ワークショッ プの意図するところをご理解くだきり,快く話題提供をお引き受けくだ さった講演者および参加者の皆様には心からお礼を申し上げます。 ′・一

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減数分裂中に発現する遺伝子の機能

堀田 康雄・平塚 和之・高瀬 尚文

はじめに

減数分裂において発現する遺伝子は,減数分裂特異的に発現するものと, 体細胞周期で発現していて,減数分裂に入っても発現を続けているものが ある(図1)。このうちには減数分裂にそのものに不可欠なものと減数分裂 以後の過程,配偶子形成と分化ものなどに必要なものがある。更に体細胞 図1.減数分裂に働く遺伝子の区分け。 LIM遺伝子はその一部である.

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4 周期中に発現しているが減数分裂に入るとその発現を低下させたり止めて しまうものがある。このなかにはその遺伝子が発現している限り減数分裂 の誘導や進行を阻害するものもある。出芽酵母には約6,200の遺伝子があ り,このうち約1,000が胞子形成に関与し, 500が胞子形成過程で発現が低 下し,他の500は発現を上昇させる1).減数分裂は胞子形成過程の一部であ るので,仮にその5分の1とすると,約100の遺伝子が減数分裂特異的に 発現すると考えられる。ショウジョウバエの減数分裂に欠損を示す突然変 異遺伝子の数は40-100と云われているので,減数分裂のプロセスが酵母か らヒトまで保存されている事を考えると減数分裂中に発現する遺伝子の数 は100個位と考えて,それらの機能を明らかにし,制御方法を考え,育種 やポピュレーションのコントロールや性のコントロールに貢献する道を開 くことが可能である。 高等植物の減数分裂は荷及び子房内でおこるので,花芽の分化が減数分 裂への出発点となる。花の分化は東北大学遺伝生態研究センターから優れ た研究が出発し,現在は東北大学・京都大学を初め幾つもの研究機関のグ ループによって分子遺伝学的解析が進んでいる2)。高等動物では精巣及び 卵巣内で起こるので,先ず精巣や卵巣の分化が減数分裂が起こる前提条件 となる。発生の極めて早い時期に将来配偶子とそれに関係した生殖系細胞 になる細胞と体細胞となる細胞に分化する。体細胞が増殖し生殖隆起を作 り出すと生殖細胞はそこに移動し精巣や卵巣の中に位置を占める。雌では 減数分裂がすぐに起こり第一分裂前期末(dictyotene)で停止し,成体にな るまでこの状態で止まっている。雄では成体に達するまで幹細胞として存 在し,減数分裂は開始しないが,成体になると数回の体細胞分裂をした後 精母細胞と呼ばれる状態になって減数分裂を行う。植物でも動物でも雌と 雄に依って異なる減数分裂に至る準備段階があり,又減数分裂後の配偶子 等の産物形成に至る道程も非常に変化に富んでいる。これらの点に関して は蛋白質・核酸・酵素,の特集号:生殖細胞の発生と性分化(1998年3月 号)に優れた総説があるので参考にしていただきたい。然し,減数分裂過 程,特に最も特徴的である第一分裂前期の過程は種や性を通した普遍的共 通点が多い。

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減数分裂中に発現する遺伝子の機能  5 減数第一分裂前期は体細胞分裂前期に比べて長い時間を占める。ゲノム サイズの小さい出芽酵母では6-7時間(栄養細胞周期-90分),晴乳類の雄 の場合は2-5日(体細胞周期-24時間),ゲノムサイズが大きいユリでは4-6日(体細胞周期-36-48時間)を要する。高等植物を比較すると,核内 DNA量の多いものほど減数第-分裂前期に要する時間が長く3),相同染色 体の特殊な凝縮,相同染色体の対合,相同染色体間のDNA 交換などに, DNAが多いほど調整に時間が掛かる為であると考察した4)。減数分裂の核 と染色体の形態学的動態は出芽酵母で核膜の消失がないこと,分裂酵母で テロメアの集中と集中したテロメアを先頭に接合した細胞内を一端から多 端に向けて往復運動をする事等他の真核生物に比べ特異的点があるが,染 色体がその末端を集合させる現象はブーケー配列として昆虫等でも見ら れ,細胞の核がラミンや核の中間線維タンパク質等の前期特異的骨格分子 によって変形することも一般的に観察され,遺伝子の単離もなされた5)。相 同染色体の対合や組換えは核膜が存在する核内で起こる。相同染色体の対 合が始まる頃から核膜孔の著しい増加が起こり,特定の場所を除いて一面 の核膜孔だらけになる。核膜孔のある所にはクロマチンの接着が無いので, 染色体末端は核膜孔のない位置に移動し,昆虫ではブーケー型;ーそれ以外 の生物でも類似の配置をとる。核膜の無い期間は複糸期から第一分裂後終 期と第二分裂前期から後終期迄で全滅数分裂時間に対する比は体細胞分裂 に於ける核膜消失時間と比べると相対的に短い。厚糸期の染色体は一見糸 状に見えるが,詳細な観察では中心の構造から多数のクロマチンループが 出ていて,ランププラッシュ構造をとっていて,体細胞の前期染色体の構 造とは異なっている。中期染色体の形態も体細胞の染色体と比べて太く短 く,染色の方法によってば頓旋構造を観察できる。 減数分裂の一つの重要性は相同染色体間で起こる遺伝物質の交換,遺伝 子組換えである。酵母を材料とした解析では,相同染色体間にDNAの二重 鎖切断が起こり, DNA鎖の交換が成立し,組換えが完了し,これを基に相 同染色体の安定な対合が起こる事が示されている。一方ショウジョウバエ では,相同染色体の対合が先行し,そのうえで, DNAの切断に始まる遺伝 子の組み換えが起こるとされる6・7)。従来,トウモロコシ,ユリ等でなされ

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6 た観察では,対合・組換えの順であるとされてきた。何れの場合でも,対 合した相同染色体の間にはシナプトネマ構造(SC)と呼ばれる酵母からヒ ト迄そのディメンジョンが同じである構造が出現する。 SCは相同染色体 の安定な対合に働くが,遺伝子の相同組換えそのものには不可欠なもので はなく,寧ろ染色体の分離を確実化するものであると云われている。SCの タンパク質(複数)の遺伝子も幾つか単離されている。酵母では遺伝子組 換えや相同染色体の対合に働く遺伝子が突然変異株を使って単離され解析 が進んでいるが,変異株を持たず,ゲノムサイズの大きい生物の減数分裂 や遺伝子組換えの解析や制御を理解する為には遺伝子の網羅的単離と解 析,類似遺伝子を遺伝学的解析が可能な生物体から見つけ,遺伝子破壊と コンプリメンテ-ションによる機能解析をせねばならない。産業生物の殆 どが,この様な大きなゲノムを持ち,変異体が少ない事は不幸である。 ユリの花粉母細胞の減数分裂は,菅の長さに関連して進行し, 6本の荷内 の分裂が同調し, 2週間位をかけて同調的に減数分裂を進行させるので,減 数分裂各ステージの細胞を大量に集めることが出来る.細胞のin uitro培 義,プロトプラストを作り遺伝子を導入する事が可能であり,幾つかの処 理で減数分裂を止め体細胞分裂に戻す事が可能であるなどから,生化学的 解析や細胞学的解析を発展させ,減数分裂の進行には転写と翻訳が必要で あることを示した。この様な背景から我々はユリ花粉母細胞を材料として 減数分裂時に発現する遺伝子を単離し,その中から染色体の構築に関わる 遺伝子を選択し,そのタンパク質の機能を解析している8)0 先ず,我々は減数分裂特異的に発現する遺伝子を,活港に体細胞分裂を している荷で発現している遺伝子群との差で単離し, 18個のクローン(秦 1)を得た9)。この中には相同性検索で機能を推定出来た遺伝子・遺伝子産 物と全く新規のものとがあった。 1. LIM15 LIM15は大腸菌の組み換えタンパク質の一つ, RecAに類似したタンパ ク質でATP存在下でDNA Strand-transfer活性を示し,減数第一分裂前 期の核内で遺伝子組み換えに働く。 LIM15相同遺伝子は酵母,植物(イネ, トウモロコシ,トマト,小麦等,多くのもの),動物(ヒト,マウス,ウシ)

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減数分裂中に発現する遺伝子の機能  7 表1. LIM遺伝子とそのタンパク質の特徴。 遺伝子  アミノ酸の数    相同遺伝子,又は構造・機能上の特徴 LIMI LIM2 LIM3 LIM4 LIM5 LIM6 LIM7 LIM8 LIM9 LIMIO LIMll LIM12 LIM13 LIM14 LIM15 LIM16 LIM17 LIM18 90aa FILl, HML7,システイン反復配列,疎水性N端 90aa FILl, HML7,システイン反復配列,疎水性N端 90aa FILl,システイン反復配列,疎水性N端 短鎖   疎水性N端 139aa LIM13 短鎖   不明 短鎖   不明 513aa   膜貫通モチーフ 795aa   セリンプロテアーゼと部分的相同配列 155aa small Hsps, EMPR

短鎖   small Hsps, P(S/T)Ⅹ(S/T)YAIDA反復配列(6回)

短鎖   small Hsps

139aa LIM5

169aa   グリシン・セリンが多い,疎水性N端, SGXG反復配

列(21回)

349aa RecA, DMCl, Rad51

短鎖   不明 短鎖   不明 649aa HSP70S で同定され,真核生物に普遍的に存在する。その構造は3つのドメインに 分けることが可能であり,ドメイン2にはATP結合領域があり, C一端は 非常に良く似た構造を持つが, N一端は変化に富んでいる(図2)0 N一端の 18個のアミノ酸からなるペプチド(MVDVKFEERRFESPGQLQ)に対す る抗体を作成しFISH法でLIM15の存在をユリ花粉母細胞で観察すると LIM15タンパク質は厚糸期の対合した相同染色体上に粒子又は点状に分 布している10)。同じ抗体をマウスの精母細胞に反応させると対合を始める 直前,対合期,には染色体の末端を含めて染色体上に点在するが厚糸期に は染色体のテロメアにだけ存在する像が得られている11)。一方ユリの LIM15タンパク質全体を抗原として作成した抗体をもちいて, FISH染色 をすると反応は粒子点状存在を示さず,対合直前から対合中の染色体の長

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8 図2. RecA様タンパク質の種類。 の交叉-キアズマは対合当たり3-4であり, Fociの数よりは遥かに少な い。然し,厚糸期のDNA組み換えに関連した修復はキアズマ数の103倍の 部位で起こり,一部が組み換えを完成させ他は遺伝子変換(Conversion)と なるか元にそのまま修復される事12)とマッチする。ペプチド抗体と分子全 体の抗体とで得られた結果の差について種々の説明が考えられるが本当の 原因は不明である。 LIM15の機能を知るためにLIM15欠損形質転換体がつくられた。酵母 ではLIM15欠損でも減数分裂は完了し胞子形成がおこる。植物 (Arabidopsis)でも雄性不稔になる例が報告されたが,確認がなく,酵母 と共に減数分裂の異常化はあるが決定的なものではないらしい。一方マウ スの精巣では減数分裂崩壊が起こり,無精子・不稔が起こる13・14)。然し雌で はLIM15欠損個体でも子孫をつくるので, LIM15は減数分裂に重要な働 きをするが,絶対に必要なタンパク質ではないと思われる。酵母の遺伝子 組換えは複数のタンパク質が関与する事,更にその後もMrell等のタン パク質の必要性が示されている15)。ユリ花粉母細胞でも複数のタンパク質 とRNAが組換えや修復の場に存在する事が示唆されている。このRNA

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減数分裂中に発現する遺伝子の機能 9 は対合期後半から厚糸期前半の細胞核をMicrococcal nucleaseで処理し た時容易に可溶化するクロマチン画分から精製され,約200ヌクレオチド の長さのRNAで大部分は2重鎖構造をとっている。弱いRNase処理で 100-150ヌクレオチドの長さに切断される。このクロマチン画分には厚糸 期修復がある200-400塩基対の2重鎖DNA断片とヒストンH2a,H2b, H3,H4と組換えに関与する事が想像出来る複数のタンパク質がある。酵 母の場合に習ってモデル化し(図3),組換え時の染色体構造と考えている。 相同染色体の交叉がない場合(コルヒチン処理,熱処理,減数分裂誘導期

にin uitro栄養培養に移す様な人為的誘導, Black Beauty等の交雑種)に

はこれらのDNA・RNA・タンパク質のコンプレックスは検出されない。 RNAが遺伝子組換えに参画する事は山本らによって示されている16,17) が,このRNAは構造機能ともそれとは別物であり,今後の解析が必要であ る。 2. LIM5とLIM13 LIM5とLIM13はアミノ酸配列の相同性が高く,類似の機能を果たして いる可能性が予想されたので,両者を平行して解析を進めた。図4に見ら れる如く, N一端に疎水性アミノ酸の集団があり,膜結合又は膜貫通タンパ ク質であることが推測され,中央部よりC一端に寄った部分には核移行シグ ナルと考えらる配列があり減数第-分裂前期の核・染色体のタンパク質で あると推定した。 LIM5とLIM13の上流に35Sプロモーターを,下流に GFPタンパク質遺伝子とターミネーターシグナルをつけ,パーティクルガ ン法で,先ずタマネギの表皮細胞に導入した。タマネギの表皮細胞は色素 体が少なく,弱いGFPの発現(蛍光)をも検出する事が可能であり屡々利 用される。 DNAの打ち込み後6-12時間位で観察するとLIM5もLIM13 も核内局在を示し(図5),核移行機能を持つ核タンパク質であることが示 された。核に移行したLIM5やLIM13は48時間位は核内に検出される が, 72時間後には核から消失してしまう(細胞質中にも観察されない)。花 粉母細胞へのパーティクルガンによる導入は技術的困難さがあるので,抗 体に依る細胞内検出を試みた。ローダミン又はFITCを着けた抗LIM5抗 体や抗LIM13抗体を用いてフォルマリン固定をした後押しつぶした花粉

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10 図3.組換えが起こっている場に参集するタンパク質の配置モデル。 上の図は出芽酵母のデータ-を基にして作成されたもの;下の図はユリ花 粉母細胞で解析されたデータ-を基に,上図にまねて作成したもの。 mRec:減数分裂前期に出現するRecA様タンパク質, ATP依存DNA鎖 交換をする。 AiRec: mRecと同じDNA鎖交換をATP非依存で行う。 R:共同作用 的に一本鎖DNAに結合し, DNAのリナチュレーションを促進する。 RNA:二重鏡RNA,本文参照。 他のタンパク質は未確認で, Two-hybrid法などで解析中。 母細胞を染色すると減数分裂初期には核が,減数分裂が進行すると染色体 だけが染色され,やはり染色体構成タンパク質であることが示された(図 6)。然し第一分裂の終了と共に細胞から消えてしまう。 LIM5, LIM13が減数分裂特異的タンパク質であることは抗体を用いた

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減数分裂中に発現する遺伝子の機能 11 図4. LIM5とLIM13のアミノ酸配列とハイドロパシープロット(未発表デー タ-) LIMS・GFP LIM1 3-GFP 図5. LIM5-GFPとLIM13-GFP融合タンパク質の細胞内局在。 遺伝子DNAをパーティクルボンバードメントでタマネギの表皮細胞に導 入発現させ,タンパク質の細胞内局在をみた。 GFPだけでは細胞質に分布 するが, LIM5又はLIM13が存在するとタンパク質は核に局在を示す。

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12 Anti-uM1 3Ab    /DAPI 図6.抗LIM13抗体によるLIM13タンパク質の減数第一分裂の核又は染色体 への局在。 中央部の核小体には存在しない。 Western解析で示された(図7)。図中の矢印がLIM13のバンドで, *印は 恐らく分解産物と考えられている。生化学的取り込みとチェ-ス実験とか ら,第一分裂前期のシナプトネマ構造タンパク質を含む核内タンパク質が 合成と分解を行っている事実と関連して興味あるデータ-である。 LIM5 とLIM13の消長と相同染色体の動きを対比させ,これらのタンパク質が 減数第一分裂に特異的な相同染色体の対合や組換えに関する染色体の構築 や行動に機能するものであると予想した。LIM5もLIM13も染色体に結合 する・或いは染色体を構築するタンパク質であるが, DNAには結合せず, 介在タンパク質の存在が予想され,酵母のTwo-hybridスクリーニング 法で探索を進めた。単離されたクローンの塩基配列を調べたところ,その 1つに植物のH2Aヒストンと高い相同性を示すもの(図8, #01)が発見さ れた。作業仮説として, LIM5とLIM13はヒストンH2A(DNAの転写や 合成にも関与する)と結合して減数第一分裂前期の染色体の示す機能に関 与すると考えている。 3. LIM7t LIAm6 LIM7とuM16の塩基配列は全く類似性がなく,配列から特徴のあるモ チーフ・領域等は見出されなかった。然し共に減数分裂特異的発現を示し, 特に対合期に強い発現がある(図9)。ホモロジーサーチからは機能を推測 出来なかったので,抗体を作成しLIM7とLIM16の細胞内の局在性, GFP

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減数分裂中に発現する遺伝子の機能 13 図7. LIM13タンパク質のウエスタンプロット分析(未発表データ-); 減数第-分裂を中心に4分子期迄存在するが,細糸期前や花粉,他の体細 胞には存在しない。 を着けた融合タンパク質に遺伝子を作成し細胞内に導入し,細胞内分布を 調べたが,結果ははっきりと核又は細胞質局在を示さず,変動があった。一 方, LIM7とLIM16のハイドロパシープロット(図10)と塩基配列を詳細 に検討した結果, L-X-Ⅹ-L'-L配列が3カ所に発見できたoLXXLLモチー フは核内転写に関連した機能を果たす配列として知られているので,DNA と直接結合しないLIM7とLIM16が別のタンパク質を介した転写調節に 働く可能性を酵母のTwo-hybridスクリーニング法を用いて探索した。用 いたベクターは図11に示してある。選抜された陽性クローンには,既知遺 伝子と相同性の高いタンパク質として, 「ヒストンH2B」と「CCAAT結合 因子Hap5類似タンパク質」,新規遺伝子のものである「核移行シグナルを

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14 林ol mai ZeH2A wheatH2 A peaH2 A Consensus 非ol mai 2:eH2A whea亡H2A peamA Consensus ♯01 maizeH2A whea亡H2A peaH2 A Cons ensus ♯01 mai zeに2A wheatH2A peaに2A Cons ensus

要撃垂毒葦匡頭

'T.岳'i章票T"''yl■-.'`lき J麦'一望:澄.H'''…章一■ヾ一手 ◆ー≧一、r-ーL、、XFLY' ' '' 亡ツィ罫 ・:.史:L ・毒.≡./栄:一..'≦'...きEJlq:'X.嫌.貰′;=:∼.允冴こ.;桝.'.V..,甜l.、、..講一H..;...i.: T> 汀ケDハJB簇萄,bイ L.-事実,、、謀...:央'.; 廼9Eb篦 ・:<説:itモ淀L;与.,.≡さ.."煤.‥=毒鷲.■;L..:T"妻TiEyi..二村弐九,,-喜莞l-.."..,.iX 白霹儷ツ粤リ゙XラR '.`蕪雑約瀞縮緬撞ゝ..巨.議く≡L 奉rメ誚未ヨネ ョツ

脈夢-奄

27 50 43 45 50 77 100 93 95 100 つ一020 0    8919 9 2Ln4-4 Lr)    2LrL54 5 111 1 1     1 1ュ l 1 図8. Two-hybrid法で単離されたクローン(#01)と植物ヒストンH2Aの比較。 図9. LIM7とLIM16転写産物の蓄積。 持ち,システインに富むタンパク質」と「予測アミノ酸配列上に既知の機 能モチーフを持たないタンパク質」等があった。これらのどれと,どのよ うな状態で結合するのか詳細は不明であるが, CAATボックス結合タンパ

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減数分裂中に発現する遺伝子の機能 15 図10. LIM7とLIM16のハイドロパシープロットの一部分とLX-Ⅹ-LL配 列の位置。 図11. LIM7とLIM16と相互作用するタンパク質同定の為のTwo-hybridス クリーニングに用いたベクター。 ク質と相互作用して転写機能を果たしている可能性が明らかにされつつあ 一′ る。 ま と め 減数分裂の誘導や進行に関する遺伝子とそのタンパク質の機能の研究は 急速な進歩をしている18)。然し,突然変異株が得られなかったり,得るのが 困難な生物において解析するのは非常に難しぐ,進行が遅い。然も産業植 物の殆どがこの様な生物であるため,実験が困難であっても,これらの植

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16 物に関して出来る限りの解析を試みることは無駄ではないと思える。又減 数分裂で見られる高頻度の組換え機構を育種に利用することも価値ある貢 献であると考える。我々は減数分裂特異的に発現する遺伝子のみならず体 細胞で発現し,減数分裂でも発現する遺伝子,更に体細胞分裂周期では発 現しているが,減数分裂にはいると発現が抑制される遺伝子について,そ の単離,プロモーター等発現調節領域の解析を進めている(皆見ら,分子 生物学会等で報告)。これらの遺伝子がLIM遺伝子の様に普遍性を持つな らば,広い範囲での減数分裂の機構が明らかとなりその応用範囲も広がる であろう。減数分裂に入ると発現が抑制される遺伝子の発現機構を知るこ とから,体細胞分裂を止める事も可能になるかも知れない(植物において は減数分裂後2回の半数体の分裂をするが,受精をしない限りその後の分 裂はなく,動物では減数分裂後は分裂は起きない)。また,減数分裂に関連 した遺伝子とその産物の解析から遺伝子組換えと相同染色体の対合の機構 を更に詳しく知ることと,細胞の遺伝子発現の制御に関する研究が進むと 考えます。 (以上は, 1998年12月4-5日に東北大学遺伝生態研究センターで開催さ れたシンポジウムで話題としたものである) 参考文献

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15)小川智子:遺伝子組換え:分子生物学イラストレイテッド,田村・山本編: 80-91 (1998)

16) Watanabe, Y., Yamamoto, M∴ Cell 78: 487-498 (1994)

17) Yamashita, A., Watanabe, Y., Nukina, N,, Yamamoto, M.: Cel195: 115-123 (1998)

(23)
(24)

減数分裂期の相同的対合と

生殖生長の分子マーカー

東谷 篤志・高浪タカ子・青木 秀年

阪田  忠・高橋 秀幸

は じめに 生物が多様な環境に適応し進化してきた過程は,それぞれ個々の生物種 が独自の遺伝的多様性を獲得した結果といえる。なかでも有性生殖を行う 生物は,配偶子の接合により遺伝情報の混合を行い,子孫に遺伝的多様性 を与えている。この有性生殖サイクルにおける減数分裂過程では,体細胞 分裂に比べてきわめて高い頻度に相同染色体間で遺伝子組換えが起こり, その結果,子孫の遺伝的多様性がさらに高まることが知られている。近年, 酵母を用いた研究を中心に,これら減数分裂過程の遺伝子組換えに関わる 酵素群の遺伝子が幾つか発見され,分子レベルでその詳細が明らかにされ つつある1)。また配偶子形成の過程は,温度変化や栄養条件など外部環境ス トレスによって,体細胞分裂時に比べ,より顕著に影響を受けることが知 られている。そこで私たちは,遺伝的多様性の獲得メカニズムと環境スト レスの影響を理解することを究極の目標として,線虫.(Caenorhabditl・s elegans)やオオムギを実験材料に用いて,減数分裂過程での遺伝子組換え 機構とその制御系,ならびに生殖細胞形成に対する高温ストレスの影響を 研究している。本稿では,これら研究の現状を紹介するとともに,生物の 生殖細胞形成の興味深さについて述べたい。 (東北大学,遺伝生態研究センター)

(25)

20

1.線虫における遺伝子組換え機構

遺伝子組換えの要の反応である相同的対合反応は, 2重螺旋DNAの2 本鎖の間に,その塩基配列と相同的な1本鎖DNAを割り込ませ,最終的に 鎖交換を行う反応である(図1参照)。この反応は,当初,大腸菌における

2重鎖切断  +

5・->3・ェキソヌクレア-ゼl

細岡的対愈庶応l

DNA修復合成l

l

漣億予敵換盈

図1遺伝子組換え過程における相同的対合反応。

(26)

減数分裂期の相同的対合と生殖生長の分子マーカー 21 DNAの組換え修復過程で, recA遺伝子産物によって触媒されることが明 らかにされた。近年,酵母から植物,ヒトに至る様々な真核生物から,こ の大腸菌recA遺伝子と機能的にも構造的にも類似の遺伝子群が分離同定 され報告されている2)。真核生物において,これらrecA様遺伝子は, DMCl/LIM15タイプとRAD51タイプの2種類が各々存在し,前者は減 数分裂細胞で特異的に,後者は体細胞と減数分裂細胞の両方において発現 し,これらは減数分裂過程での遺伝子組換え機構に深く関与していること が報告されている2)。RAD51はその名前からもわかるように,放射線(radi-ation)感受性の突然変異として酵母からはじめ分離され, DNA損傷時の 組換え修復過程においても重要な働きをすることが示された。 モデル生物の1つとして現在広く用いられている線虫C.elegansの性 は,雌雄同体(性染色体がⅩⅩ)と雄(Ⅹ0)があり,雌雄同体の個体は最初 に約300個の精子を作り貯精嚢にたくわえ,その後同じ生殖腺から卵形成 に転換し,自家受精により増殖する。雄個体は,約1/1,000の頻度で性染色 体が不分離した結果生まれ,雄は雌雄同体の個体と交わり精子を導入し,こ の精子は雌雄同体の貯精嚢にはじめたくわえられたものより優勢に働 く3,4)。この材料を選んだ理由としては, (1)生殖細胞(配偶子)ー形成過程 は,一般にサンプリングの簡便さから,雄性配偶子(花粉や精子)を材料 に用いた研究が広くなされているが,線虫や昆虫(ショウジョウバエ,・カ イコ)などを用いると雌性配偶子(卵)の研究も行い易い点, (2)これま での遺伝学的知見ならびに飼育の簡便さ, (3)全ゲノム配列の解析が完了 したこと5), (4) 2本鎖RNAをマイクロインジェクションすることで,そ のRNA配列に対応する染色体上の本来の遺伝子転写産物を抑制し,一過 的な突然変異体の表現型を観察することができる(RNAi : RNAinterfer-ence)系が開発されたことにある6)。すなわち逆遺伝学がこのRNAi法によ り,線虫では容易に行なえる点,など幾つかがあげられる。 これまでに報告されている様々な生物種のDMCl/LIM15ならびに RAD51のアミノ酸配列を用いて,線虫の全ゲノムDNAデータベースを 検索すると, 1つの類似遺伝子しか兄いだせない。そのcDNAクローン (yk401C3 :国立遺伝学研究所の小原博士より供与)の塩基配列を決定した

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22 ところ,予想される遺伝子産物は357アミノ酸残基からなり,マウスの Rad51 (MmRAD51)と59.20/., Dmcl (MmDMCl)と50.7%.の同一アミ ノ酸配列を示した。真核生物のrecA様遺伝子に保存されている2箇所の ヌクレオチド結合配列も確認できた。これまでに報告されている幾種かの DMCl/LIM15タイプとRAD51タイプとのアミノ酸配列をもとに系統 関係を比較すると,この線虫の遺伝子は両タイプの中間的な位置に,はな れて分類された(図2)。そこで,この遺伝子を私たちはCe-rdhll AtRAD51 0.I 図2 真核生物における大腸菌RecA様遺伝子のアミノ酸配列に基づく分子系統 樹. (Ce-Ydhll :線虫, BmRADSl, BmDMCl :カイコのRAD51, DMCl, AtRAD51, AtLIM15 :シロイメナズナのRAD51, LIMlS, SpRAD51, SpDMCl :分裂酵母, ScRAD51, ScDMCl :出芽酵母, XIRAD51 :アフリ カツメガエル, ChRAD51:ニワトリ, MmRADSl, MmLJM15:マウス, HsRAD51, HsLIM15:ヒト, DLHl:カンジグ, LIM15:ユリ)

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減数分裂期の相同的対合と生殖生長の分子マーカー 23

(fZl_elegans _RAD51, _DMCl/LIM15垂omolog主)と命名することとした7)0

遺伝子機能を調べる目的で,試験管内でCe-rdhJの2本鎖RNAを合 成し,雌雄同体の若い成虫にマイクロインジェクションした(RNAi)結果, Fl後代の卵の約80%が初期発生過程で異常となり貯化しない,卵致死と なった。また残り20%は,みかけ正常な成虫まで発生したが,その虫の卵 (F2世代)は, 100%初期発生で異常な卵致死となった。このFlにおいて 成虫まで育ったものは, RNAiの効果が転写産物を抑制するので,すでに Ce-ydh-1の遺伝子産物を保持していた個体で,その抑制効果が働けず,吹 世代(F2)で影響が表れたescaperと考えられる。 escaperがみかけ正常な 成虫にまで生育し,その卵が致死であることから,この遺伝子は配偶子形 成に関与する必須遺伝子であると予想された。そこで次に, Flescaperの 卵母細胞における減数分裂期の染色体像の観察を行った。線虫C. elegans の卵母細胞における核は,減数第1分裂前期のデイアキネシス期で停止し, 2価染色体がもっとも凝縮した状態にある(図3: 4nの常染色体が5,4nの 性染色体が1の合計6本が観察される)。しかしながら, Flescaperにおい ては,この凝縮がみられず形態的に異常で,からみあったり,ちぎれたよ うな染色体像が観察された(図3)0 Ce-rdh-1遺伝子の発現時期をRT-PCR法により調べたところ,生殖腺特異的遺伝子gldJ (germ linedeve1-opment-1)と良く似た発現パターンを示し,成虫にかけて転写が上昇する

こと,ならびにin situ hybridizationの結果,生殖腺の減数第1分裂前期

の細胞においてその遺伝子発現が高く観察された(図4)0 以上の結果から, Ce-rdh-1は,線虫における減数分裂細胞で特異的に, 遺伝子細換えに関わるDMCl/LIM15タイプのrecA様遺伝子により類似 しているものと考察されtf.酵母からヒトに至るまで2種類RAD51と DMCl/LIM15とのタイプがそれぞれ存在するが,線虫においては,この Ce-rdh-1の1つだけである。またRad51と複合体を形成することが知ら れているRad52の相同遺伝子も,線虫の全ゲノム配列上にはみいだせな い。すなわち,線虫ではRad51/52によるDNA損傷時の組換え修復酵素群

(Rad52 epistasis group)をその進化の過程で失ったのか,または1つの

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24

図3 Ce-ydh-1遺伝子のRNAi効果. (A)雌雄同体野生型の線虫の生殖腺の

DAPI染色像。 (B)野生型の卵母細胞の核染色体像。 (C∼E) Ce-ydh-1 のRNAiを行ったFl個体にみられる異常な卵母細胞の核染色体像。

図4 Ce-ydh-1遺伝子のin situ hybridizationによる発現解析。 (A) control probe (sense銀)によるwholemounthybridizationと(C)切り出した生 殖腺, (B) Ce-rdh-1遺伝子のant卜sense鎖によるwhole mountと(D) 生殖腺。生殖腺内の減数第1分裂前期の細胞において高い発覗(図の黒い部 分)が認められる。 化する進化の過程で,この遺伝子重複が起こらなかったのか, 2つの理由が 考えられ,進化遺伝学的にも大変興味深い問題を提起すると思われる。ま たこれまで線虫において,染色体遺伝子上への外来遺伝子の組み込みなら びに相同組換えによるgene targetingがほとんど生じないことが知られ ていたが,その理由としては,このRad51/52群の存在がないことに起因す るものと考察された。

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減数分裂期の相同的対合と生殖生長の分子マーカー 25

2.減数分裂過程の制御系

減数分裂過程は,減数分裂前DNA複製と呼ばれるS期に続き, 2回の連 続した細胞分裂により半数性細胞をつくり出す過程である。このS期から 分裂終了までに要する時間は,一般の体細胞分裂より長く,酵母でも約10 時間,高等植物や動物では約3日から2週間,さらにヒトなど晴乳類の雌 では何十年も減数分裂の前期に留まっていることが知られている。特に第 1分裂の前期は,体細胞分裂時に比べ,特徴的かつ複雑な核,染色体の動き が観察され,倍加した染色体の凝縮,相同染色体間での対合,シナプトネ マ構造の形成,相同染色体間の遺伝子組換え,キアズマ形成などが知られ ている1)。そこで私たちは,これらの分裂過程を制御する仕組みを分子レベ ルで調べる試みについても線虫を用いて展開しようとしている。 近年の酵母を用いた遺伝学的研究を中心に,体細胞分裂周期のチェック ポイント制御機構というものが提唱された。一般にすべての細胞は, DNA 複製を行い(S期),次に細胞分裂を行い(M期),その繰り返しにより増 殖している。チェックポイント制御機構とは, DNA複製が完了するまで, 細胞は分裂することなく,また正確な分裂が終わるまで,次のDNA複製を 行わないという制御機構のことである。酵母の遺伝学的研究により, DNA 複製が完了しなくても分裂するようになったり,またDNAが傷ついた際, その修復を終えることなく分裂するようになった突然変異体が分離され た8)。この変異した原因遺伝子は, MECIと名付けられたが,それは以前分 離されていた減数分裂過程が進行しなくなる1つの変異ESRlと同じ遺 伝子座であることがわかった。さらにその酵母MECl/ESFl遺伝子は,ヒ

トの1遺伝病の変異原因の遺伝子(ataxia telangiectasia mutated gene : ATM)と相同性があることが示された9)。すなわち,チェックポイント制 御の機構は,酵母からヒトに至るまでの真核生物において,分子レベルで

の保存性が認められたわけである。ヒトにおけるAT (ataxia

telan-giectasia)疾患の患者は,運動神経障害のほか,免疫不全,高頻度に白血 病などのガンを誘発,さらに生殖細胞不全など多面的な影響が認められ,す なわち遺伝子の組換えや修復が結果的にうまく出来ず,またその現象は体

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26 細胞のみならず配偶子形成過程にも関わることが示された9)0 そこで全ゲノム配列の解析が完了した線虫で, ATMやMECl/ESRlに みられる共通なアミノ酸配列を用いて,線虫における相同的遺伝子の検索 を行った.その結果, 1つの構造的に良く似た遺伝子(Ce-ail-1 : _C. _elegans 4TM!ike旦_と命名)が兄いだされ,全cDNA塩基配列(7711bp)の決定 を行った。そのcDNAから予想される遺伝子産物は2514アミノ酸残基か らなり, C末端にはATMやMECl/ESRlと同様にPI-3キナ-ゼモチー フを持っていた.遺伝子機能を調べる目的で,試験管内でCe-ail-1の2本 鎖RNAを合成し,雌雄同体の若い成虫にマイクロインジェクションした (RNAi)結果,その後代における表現型は,卵の初期発生で異常となり貯 化しない卵致死,`幼虫Ll, L2期での致死,成虫にはなるが生殖腺が異常に なる,排卵器官における奇形,など様々な組織での奇形や致死的変異,生 殖細胞の不全が観察された(図5)。また高頻度に雄個体(Ⅹ0)の産出が認 められた.・これらの結果から, Ce-atlllは必須な遺伝子で染色体の分離分 配,遺伝子の変異などにも関わり,機能的にもATMやMECl/ESRlに類 図5 Ce-ail-1遺伝子のRNAi効果。 (A)雌雄同体野生型の線虫(control), (B) Ce-ail-)のRNAiを行ったFl個体の奇形と(C)卵致死と初期幼虫 致死。

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減数分裂期の相同的対合と生殖生長の分子マーカー 27 似の線虫における分裂周期のチェックポイント制御に関わる相同遺伝子で あることが示唆された。現在,このCe-atlllと相互作用する遺伝子群を酵 母のtwo-hybrid系を用いて検索を始め,特に減数分裂周期のチェックポ イント制御機構に働く新規分子の同定を目指している。

3.生殖細胞形成に対する高温ストレスの影響

減数分裂過程を含む生殖細胞(配偶子)の形成過程は,一般に,温度や 栄養条件などの外部環境ストレスに,体細胞組織に比べ,より影響を受け やすいことが知られている。例えば,イネにみられる冷害10)や動物の雄性 生殖器の高温障害,酵母などにみられる栄養条件の変化と胞子形成の誘導 などが知られている。私たちは,種々の外部環境ストレス要因が生殖細胞 (配偶子)形成に及ぼす影響を分子レベルで明らかにすることを目的とし, 線虫やオオムギを材料に用いて研究を展開している。本章ではオオムギを 用いた最近の結果と現状を紹介する。 オオムギを実験材料に用いた理由は,一般にビールや麦茶の原料と想像 される方が多いと思われるが,オオムギは主要な家畜の飼料としても世界 各地で生産されており,穀物の世界生産量として第4位に入る主要穀物で あることはもとより,その染色体が比較的大きく染色体レベルでの細胞学 的研究が行い易い点,遺伝学的な解析も行なえること,比較的低温域に至 適生育温度があり1つの外部ストレスとして高温障害をかけやすい点など があげられる。また高温障害は,地球環境の温暖化にともなう将来の身近 で大きな環境ストレス要因として想定される。本研究では,オオムギにお ける生殖生長過程をまずはじめに調査した。はるな2条という品種を人工 l≡a 環境制御装置の中で, 20oC (明期16hr), 15oC (暗期8hr)の一定条件の もとで育成した。種を蒔いて24日目において,主茎内の幼穂は約16mm 長に達し,その節のなかの花粉母細胞は減数第1分裂前期に入ることが確 認された。その後,前期に特異的な相同染色体間の対合が観察され(ザイ ゴテン期からパキテン期:幼穂長 約16mm),第1分裂後期(幼穂長 約 17mm)から,第2分裂を経て4分子期(テ トラッド期:幼穂長 約18 mm)に入り,約20mmの幼穂長において花粉の細胞壁が確認された。 1つ

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28 の幼穂における各穎花の同調性を調べる目的で,幼穂が17mm長のもの における各穎花の発育段階を特定した。その結果,発育の最も進んだ中央 付近の穎花では4分子期で,発育の遅いものが第1分裂前期の初期である ことが確認され, 1つの幼穂のなかで,各穎花間の発育ステージに多少のず れがあることが示された。上述の人工環境制御装置の温度を30oC(明期16 hr), 25oC (暗期8hr)に1週間の期間だけ上昇させ,高温ストレスによる 生殖成長の影響を,その生育ステージごとに調べた。その結果,第5葉展 開期から第7葉展開期にかけて,顕著に高温障害が観察され,それぞれで 1週間の高温処理後,生育温度を20oC (明期16hr)/15oC (暗期8hr)にも どしても,正常な出穂は確認されたが,全ての穎花で不稔となり実ること はなかった。しかしながら,それ以前の発育ステージにおいては, 1週間の 高温処理による影響は観察されなかった。不稔となったものについて,そ の出穂時ならびに開花時の花粉の状態を調べたところ,第5葉展開期から 1週間の高温処理を行ったものは,蔚内で花粉が全く観察されず,第6葉な らびに第7葉展開期にそれぞれ高温処理を行ったものでは,花粉は観察さ 図6 花粉形成における高温障害。 (A)出穂時の荷と花粉:コントロール, (B) 第5葉展開期に高温処理を行った場合, (C)第6葉展開期に高温処理を 行った場合, (D)第7葉展開期に高温処理を行った場合。

(34)

減数分裂期の相同的対合と生殖生長の分子マーカー 29 れたがその数は少なかったり,また全て不成熟な花粉であった(図6)。以 上の結果から,オオムギの生殖生長においては,高温に感受性を示し雄性 不稔を引き起こす時期が,少なく2つ以上存在することが明らかになった。 またこれらの障害条件下でも,幼穂の外見上のみかけは,正常に発育し,出 穂し,また荷も確認できたことから,生殖生長における体細胞分裂組織の 分裂には,今回の高温処理では顕著な障害を起さない,すなわち減数分裂 過程を含む配偶子細胞においてのみ障害が生じることが示された。今後は, この系を用いて分子レベルでどのような生物ストレス応答が生じているか 調査し,また生殖生長過程での分子マーカーの作成を試み,さらに雌性配 偶子における高温障害の影響についても検討する予定である。 おわ り に 植物をはじめとする全ての生物の配偶子形成過程(生殖生長)は,普段 の体細胞組織の形成(栄養生長)に比べて,様々な外的環境の変化(環境 ストレス)に影響を受けやすく,多くの場合,不稔や生殖不全という表現 型として現れる。その他,環境ストレスにより,雌雄の性変化や,ある種 の植物においては自家不和合性の崩壊など様々な性と生殖に関わる事象も 知られている。また同種内においても異なる品種の掛合わせにより,その 後代が,不稔になることがしばし見受けられている。これら不稔や生殖細 胞にみられる異常の原因を調べるには,発育ステージごとの形態的変化を 経時的に観察する必要があり多大なる労力が求められ,実用的な品種育成 や農業生産のような場面では,不稔をはじめとする生殖細胞形成異常とい う結果のみを見るに過ぎないのが現状である。一方,多数の研究者による lコi これまでの分子生物学的な基礎データの蓄積は膨大で,減数分裂特異的に 発現する遺伝子群,性決定遺伝子群,自家不和合性に関わる遺伝子群など, なかには種を超えた共通性もみいだせ,コンピューター上で誰もがデータ を共有できる段階にきている。そこで私たちは, (1)生殖細胞における各 発育ステージ特異的に発現する遺伝子群を選抜し,それら分子マーカーの 遺伝子発現をモニターする系の構築, (2)さらに抗体を作成し,蛋白質レ ベルでの発現状況モニター系の構築,ならびに(3)高温,低温,日照不足

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30 や炭酸ガス濃度の上昇などの様々な環境ストレスにより生殖細胞系列に異 常が生じ,その際,特異的に誘導される新たな遺伝子群の検索を行い,そ れぞれのストレスに対するマーカー的遺伝子を開発する,そして最終的に (4)環境ストレスの状況をモニターするためのいわゆる分子診断薬的な応 用を検討し,生殖細胞における分子マーカーの作成についての研究を展開 したいと考えている。 ここで紹介した研究は,かずさDNA研究所の佐藤修正研究員,国立遺伝 学研究所の桂勲教授,石原健助手,東京大学の前田郁麻氏のご協力を頂き 展開した結果である。この場を借りて共同研究者に深くお礼申し上げる。 参考文献

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2) Friedberg, E.C., Walker, G.C. and Siede, W. (1995) DNA repair and mutagenesis. ASM Press, Washington, D.C.

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(36)

花芽形態形成遺伝子群の

単離及び発現解析

雀  賢美・菅野  明・亀谷 寿昭

研究目的

花の器官形成の研究は,昔からいろいろな植物で行われてきたが,その メカニズムはなかなか説明できなかった。ところが, 1991年のシロイヌナ ズナの花の突然変異体を用いた遺伝学的研究から,花の器官形成に関する ABCモデルが確立され,がく・花弁・雄しべ・雌しべの4つのwhorlに分 けて論理が展開されている。すなわち, 3種類の遺伝子をAクラス

(APETALA2), Bクラス(APETALA3あるいはDEFICIENS, PISTIL

LATAあるいはGLOBOSA), Cクラス(AGAMOUSあるいはPLENA) とすると, Aクラスの遺伝子が単独で働くとがく片,AクラスとBクラス の遺伝子が働くと花弁, BクラスとCクラスの遺伝子が働くと雄しべ, C クラスの遺伝子だけが働くと雌しべとなる。このことから,アスパラガス における雌雄の花の形成の差異,つまり,雌しべ・雄しべの発達の制御は, B・Cクラスの遺伝子が関連すると考えられる(Fig.1)0 花の形態形成におけるホメオティツク突然変異に関わる遵伝子は遺伝学 的研究から, 2つに分けることができる。一つは分裂組織の分化方向を決め

る遺伝子(meristem identity genes)で, LEAFY (LFY), APETALAl

(APl), TERMINAL FLOWER (TFL), CAULIFLOWER (CAL)など が知られている。もう一つは花の各器官を決定する遺伝子-(organ identity

genes)で, AGAMOUS (AG), APETALA2 (AP2), APETALA3 (AP3), PISTILLATA (PI), SUPERMAN (SUP)などが知られている。 LFY

(37)

32 Whorl

遺伝子

形成器官

1 がく 花弁 雄しべ 雌しべ /一■ クラスA : APETALA2 クラスB : APETALA3 PISTI LLATA クラスC : AGAMOUS Fig. 1花芽形態形成のABCモデル

1997), AG (Yanofsky et al., 1990), AP2 (Jofuku et al., 1994), AP3 (Jack et al., 1992), PI (Goto and Meyerowitz, 1994), SUP (Sakai et al., 1995) の遺伝子がすでにクローニングされ, APl,AP3,AG,PIの遺伝子は MADS-boxを持っている。 MADS-boxは56アミノ残基の高度に保存さ れたドメインで,花芽の形態形成の過程で分裂組織の分化方向を決める機 能と各器官を決定する機能に関与していると示唆されている(Huijser gf al., 1992). そこで,本研究では雌しべと雄しべの形態形成に関与するクラスB (AP3), C(AG)のホモログ遺伝子をアスパラガスより単離することを試 みた。これらの遺伝子の単離によって,アスパラガスの花芽での各遺伝子 の発現パターンの解析が可能になり,更に,これらの遺伝子を用いて antisense RNAをアスパラガス組織内で強制的に発現させることによっ て,これらの遺伝子が性分化にどのように関係するかを明らかにすること ができる。

(38)

花芽形態形成遺伝子群の単離及び発現解析 33

実験方法

本研究室ではRT-PCR法により栽培アスパラガス花芽形態形成遺伝子 APETALA3とAGAMOUSのhomologのPCR断片を単離して,すでに その塩基配列を決定している。単離されているAGAMOUSのホモログ断 片を用いて3′側または5′側の塩基配列を単離している。 実験の具体的な方法は栽培アスパラガスの花芽からtotal RNAを抽出 し, oligo-dTまたはoligo-dAを添付したprimerを用いてRT-PCRを行 う。 RT-PCRを行って得られたcDNAを用いて既知の塩基配列から作成 したprimerでPCRにより増幅させる。 PCRの産物をvectorにsubclon-ing L,大腸菌へ形質転換させwhite colonyを選抜する。選抜したwhite

colonyを増菌させplasmidDNAを単離し,制限酵素処理による形質転換 の確認を行った後, sequenceを行い得られたdataを他の植物の遺伝子と の相同性を検索する。

実験結果と考察

ABCモデルのクラスCに属し雌しべの形態形成に関連すると思われる AGAMOUSのホモログの断片が得られた。単離されたAGAMOUSのホ モログは約170bpの断片が単離され,塩基配列で約62%,推定されるアミ ノ酸配列で約95%のホモロジーが確認され, MADS-boxも保存されてい る(Fig.2)。この塩基配列を基に3′側の塩基配列が単離を試みた結果,約 780bpが得られた。単離されたMADS-boxの塩基配列と合わせると約

950bpになり,塩基配列でA71abidopsisと59.20/., Panax.と64・20/., Petu-niaと61.7%, Zeaと62.g%のホモロジーがあり,アミノ酸配列では A71abidopsisと64.2%, Pan瓜と70.4%, Petuniaと70.4%., Zeaと71・40/.

のホモロジーが確認された。得られた塩基配列が真のAGAMOUSホモロ グ遺伝子であるかどうかを確認するため,サザン解析を行った。サザン解 析にはアスパラガスでの雄株と雌株のgenomicDNAを単離して,制限酵

素Bam HI, Eco RI, HindIII, Sal I, Bst PIで切断,電気泳動を行いmem-braneへ転移させた。 ProbeはMADS-boxの配列を除いて約500bpの塩

(39)

.I-dL_198-4. I JdW8-A. I ★ JJiAJW8-A. oZ .I-A_IFLn-I.JL Co■■■■●tl■ .I-A_Tut-I. a " JrA-A.A .I-A_19■-■. 1 JM4-A. I ★JdM-A. oZ .T--lM.1■ 一■ JJ Pl t 〇一 ★AMJ8-A. o2-I AMX18-I JLIP Co■■●■●v JdW8-i. ■-I AMXJ8 -A - t.-P A脚810. 1-■ ■1■rA-A.■l-■ JdW8-I. i-I ★.t瓜_TTf8 -A. 02 -■ RdL_g718-I.■lーP

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Bam HI (lanel), Eco RI (lane2), mndIII (lane3), SalI (lane4),

(40)

花芽形態形成遺伝子群の単離及び発現解析 35 M 1 2 345 6 509 bp 954 bp Fig.3 サザン解析に用いたprobeの長さ(A)とPCRによって増幅した産物 (B)0 I 2 3 4 5 1 2 3 4 5

<23 kb

■ 9.4tb ■ 6.5kb-■4.3tb ■ '2.3 tb ■ 2.Okb

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36 M 1 2 M Fig.5 RT-PCRにより増幅された5'側の産物(約450bp)0 基配列を用いた-(Fig.3)。その結果,雄株と雌株でのバンドパターンは雌 株でBamHIで処理した際,約5kbで雄株にないバンドが見られること とSalIで処理した際,雄株に見られない2本のバンドが見られたoしかし ながら, -これらがAGAMOUSホモログ遺伝子の特異的なバンドであるか どうかは全長で確認する必要があると考えられる(Fig.4)。さらに,この 塩基配列を用いて5′側の塩基配列の単雛を試みた結果,約500bpのPCR 産物が得られたので, subcloningを経てsequenceを行っている(Fig. 5)0

今後の計画

AGAMOUSのホモログ遺伝子の全長を単離し,これをプローブに用い てサザン解析を行う。サザン解析にはアスパラガスの雄株と雌株の偽莱,

茎,梶,花芽からgenomic DNAを抽出し, AGAMOUSのホモログ遺伝

子の雄株と雌株でのバンドパターンを解析する。さらに, totalRNAを用 いてノーザン解析を行うことで,遺伝子発現の組織特異性・時期特異性を 解析する。ノーザン解析には雄株と雌株の偽薬,茎,梶,花芽でAGAMOUS

のホモログ遺伝子の発現様式と雄株と雌株の花芽の発生段階での

AGAMOUSのホモログ遺伝子の発現様式を解析する。 参考文献

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花芽形態形成遺伝子群の単離及び発現解析 37 Arabidopsisfloral homeotic gene PISTLLLATA. Genes Devel. 8, 1548-1560

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花の器官形成機構の普遍性と多様性

土本  卓・間山 智子・大坪 栄一

はじめに

花の形態の突然変異体は古くから注目され,育種に利用されてきた。日 本では江戸時代後期に変化咲き朝顔の大ブームが起こったが,その際「牡 丹」という八重咲きの形質と他の形質とを組み合わせて様々な変わった形 の花が育種された1)。この「牡丹」は,雄薬が花弁に変化し,雌薬が内側の 新たな花に変化しているので,花の器官の種類と発生する位置を決定する ホメオティツク遺伝子に突然変異が起こったものと考えられる。このよう な花器官の形成に関与する遺伝子の分子遺伝学的研究は, 1990年にキン ギョソウのDEFICIENS遺伝子とシロイヌナズナのAGAMOUS遺伝子 の単離が相次いで報告されたのを最初に,この数年間で爆発的に進展した。 その原動力のひとつは,キンギョソウにおけるトランスポゾン(転移性遺 伝因子)を用いた強力なジーンタギングの系の存在であり,花の器官形成 に関わる,多くの重要な遺伝子が,この系を用いてキンギョソウから最初 に単離同定された2)。もうひとつは,シロイヌナズナにおけるホメオティツ ク突然変異体の精密な解析王そこから導き出されたABCモデルと呼ば れる簡潔なモデルである3)。このモデルは, A,B,Cの3種類のホメオ ティツク遺伝子群の組み合わせと機能する場所によって,花の器官の種類 と発生する位置が決定されるというものである(詳細は後述する)が,遺 伝的に離れたシロイヌナズナとキンギョソウの双方の花の器官形成に適用 できるので,普遍的な優れたモデルであると考えられる。実際に,冒頭で 述べたアサガオの「牡丹」に関しても最近, classCホメオティツク遺伝子

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40 表1.花の器官形成に関与する主な遺伝子 分類 剞A物種 )6 kツ 器 育 決 ニ 74 シロイヌナズナ UD ト $ UD ト ニ ペチュニア 嫡$ト比B classB h8リ486ク6 AFETALA3a)PISTILLATAa) キンギョソウ 妊TdT4乃 杯ト $ 4 ペチュニア 盃$TT UD ニ 播% ニ ヤ E3# classC h8リ486ク6 AGAMOUSra) アプラナ vニ キンギョソウ トT 定 遺 刄yチュニア ヤ E36 播% c タバコ 比 vニ トマト 疋 vニ 伝 刄Lュウリ Tヨニ Tモ トウモロコシ 弗 vテ 弗 s# 弗ヤモ 千. 刄Aサガオ D 胯 腫珠決定 h8リ486ク6 BELLb) ペチュニア 播% v 播% ニニ その他 8X6ィ4 FBP2a) トマト 疋モV キンギョソウ 妊Tdピ# 器官決定遺伝子 刄Lンギョソウ 播番%$ D の発現誘導 刄Vロイヌナズナ 謬藏5T トdト $ ト $t 器官数制御 刄Vロイヌナズナ TdU$ヤ U$ 薀 B ペチュニア 中F V&ニR 花の対称性 刄Lンギョソウ リ rv 粘BД udヤ 嫡D友ト $ ED 花の性決定 刄gウモロコシ 疋 54Tナ6 E R着D 54Tナ4TTFツ着6ヤエトU53 キュウリ 2ヤ 54敗 b 括弧内は遺伝子が単離同定されていないことを示す。?は該当する機能を持つ ことが示唆されているが証明されていない遺伝子に付した。 a)-d)はそれぞれ, a)MADSbox, b)ホメオドメイン, C)ジンクフィンガー構造, d)bZIP構造,を 持つタンパク質をコードする。 e)は短鎖アルコール脱水素酵素と高い相同性を 持ち, f)はACC合成酵素をコードする。

(46)

花の器官形成機構の普遍性と多様性 41 にTpnlファミリーのトランスポゾンが挿入した突然変異であることが示 唆されている4)。しかし一方で,実際には花の器官の形態や構造は非常に多 彩であり,その形成機構が基本的には被子植物全体に共通であるにしても, 種によってある程度の多様性を持っていることが示唆される。本稿では,花 の器官形成に関与する遺伝子を,器官決定遺伝子,器官決定遺伝子の発現 を誘導する遺伝子,器官の数を制御する遺伝子,花の相称性に関与する遺 伝子,および花の性を決定する遺伝子,に分類して(表1),それらの遺伝 子の関与する花の器官形成機構が,種によってどのように違いがあるのか, ペチュニアを用いた我々の研究結果も交えて考察する。

1.器官決定遺伝子

(1) ABCモデル5) 被子植物の花は一般に外側から雪片,花弁,雄薬,雌薬の4種類の器官

からなる。 ABCモデルにおけるclassA, classB, classCの遺伝子はそれ

らの器官の運命決定を行う遺伝子であり,それぞれ作用する領域が異なる (図1)。被子植物の花では,外側から内側に向かってwhorllからwhor14 までの4つのwhorl (同心円状の器官形成の領域)が定義されているが, classA遺伝子は最も外側のwhorl 1, 2で, classB遺伝子は中間のwhor1 2,3で, classC遺伝子は最も内側のwhor13,4で機能している。classA遺 伝子の作用は, whor13,4においてclassC遺伝子によって抑えられてお り,逆にclassC遺伝子の作用は, whorll,2においてclassA遺伝子に よって抑えられている。 classA遺伝子のみが作用する領域では雪片が, classA, class Bの両遺伝子が作用する領域では花弁が, class B, classC の両遺伝子が作用する領域やは雄薬が, class C遺伝子のみが作用する領域 では雌薬が発達するために,野生型の花では, whorl lには雪片が, whorl 2には花弁が, whor13には雄薬が, whor14には雌薬が形成される。これ らclassA-Cの遺伝子のいずれかが突然変異を起こすと,いずれかの隣接 する2つのwhorlでホメオティツクな変化が生じる(図2)。例えば, class B遺伝子が突然変異するとwhor12,3で花弁から琴,雄薬から雌薬への転 換が起こり,外側から雪片,雪片,雌薬,雌薬,という構造となる。また,

(47)

42 (whorl ) 3  4  1 2  3  4 (Whod) 雄蕊JI玉 JI定 雄志 雄養 轟蕊 1  2   3  4 噂片 花弁  雄糞JI糞 1  2   3 (wbod ) 噂片 花弁 花井 ●       l 図1.花の器官形成機構の模式図 a)典型的な被子植物の花の概念図。 b)野生型, C) classA突然変異体, d) classB突然変異体, e) classC突然変異体,の花における器官決定遺 伝子の作用領域と形成する器官。 classC遺伝子は器官決定のほかに花の内側(whorl 4)に別の花が生じるこ とを抑制しており,その突然変異体の花は,琴片,花弁,花弁,の構造の 花が何重にも入れ子状態になっている。 classA遺伝子はシロイヌナズナから2種類単離されているが,遮伝子 産物間の相同性は全くなく,しかも機能が異なっている。すなわち, APETALA2 (APT)は雪片と花弁の形成に必要であり,同時にclassC遺 伝子のwhorl1,2における発現を抑制している。それに対して

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花の器官形成機構の普遍性と多様性 43 APETALAl (APl)は雪片と花弁の形成には必要であるが, classC遺伝

子の発現の抑制はしていない。また, APlはそれに加えて,花芽の形成に も関与している。 classAとは対照的にclassBでは,ほとんど同じ機能を 持つ相同性の高い2種類の遺伝子が存在している(シロイヌナズナの APETALA3とPISTILLATA,キンギョソウのDEFICZENSと GLOBOSA)0 2種類のうちどちらが欠損してもclassB遺伝子の突然変異 体としての同じホメオティツクな変化が起ごろが,これは,2つの遺伝子産 物が-テロダイマ-を形成して, whor12,3で機能するためと考えられて いる.また,一方のclassB遺伝子の存在が,もう一方のclassB遺伝子の 強い発現の維持に必要であるが,これも,ヘテロダイマ-がプロモーター に結合して転写を活性化するためと考えられている。 (2) ABCモデルに関与する遺伝子の植物種間の比較 以上に述べたABCモデルの遺伝子群やそれら作用様式に,植物種間で どの程度違いがあるのかを比較したい。 a) classA遺伝子 面白いことに, classA遺伝子はシロイヌナズナ以外では単離同定され ていない。シロイヌナズナのclassA遺伝子APlのキンギョソケにおける 相同遺伝子SQUAMOSA (SQUA)は単離されているが, squa突然変異体 はaPl突然変異体と異なり明瞭なclassAの表現型を示さない。また最近, ペチュニアにおいてAP2の相同遺伝子PhAp2Aが単離されたが,形質転 換体および遺伝子破壊を用いた実験で, classAの機能を持たないことが 示された6)。これらは,植物種によってclassA遺伝子の作用および種類に 多様性があることを示唆している。キンギョソウにおいては, classAの機 能は花芽形成過程と分ける/=とができないのではないかとも考えられてい る7)。シロイヌナズナ以外におけるclassA突然変異体としては,ペチュニ アのblind(bl)が知られている(図2)0 BL遺伝子は,おそらくAP2相 同遺伝子以外のものであり,我々は現在その単離同定を試みている。 b) classB遺伝子 classB遺伝子は,キンギョソウとシロイヌナズナから,それぞれ2種類 ずつ単離同定されているが,それらの遺伝子間で大きな機能的な違いはみ

参照

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