〈研究ノート〉英語運用能力テストの英語教育への貢献
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(2) 教養・外国語教育センター紀要. 拠として、 「習得すべき内容」と「結果としての習得達成度」が明示される必要がある。 そのために達成度確認テストは有効である。 しかし一般社会での英語力の意味は、あまりに広範囲で、その定義は難しい。したがっ て特定の英語科目の、特定の出題範囲に限定した達成度テスト(だけ)では測定できな い。ここに、一般的な運用能力を測定するテストが必要となる。それが運用能力テストで ある。いわば「実力テスト」である。実力テストは、限定的な到達目標よりは広範囲の運 用能力を測定する。 しかし、専門科目は達成度テスト、英語は運用能力テストという区別が最初から存在す るわけではない。中学校入学時に英語教育が始まるとして中学校 3 年間の課程では、英語 の基礎となる文法や語彙を、達成目標を掲げながら、順次学習して行く。その課程では、 中間テストや期末テストという形の達成度テストが実施される。学習内容の定着が達成さ れたかを測定するテストが必要だからである。同様に大学教育での専門教育や初修外国語 教育でも「教育実践+達成度テスト」という組み合わせは有効である。しかし一般的な英 語の場合、中学校の学習内容を越えたあたりからは、語彙習得を別として、語学学習で達 成を求められることはない。基礎レベルが達成できていなければ困る。高校以後は「英語 運用能力」が問われる。運用能力とは、事前に準備した内容の暗記成果を示すのではな い。運用能力とは文字通り、実力でさまざまな「応用問題」を解く力が問われる。英語で は高校から大学にかけて、次第に達成度から実力・運用能力へのグレーゾーンが存在す る。一方、大学から社会にかけては、かなりはっきりと、運用能力が問われることにな る。 現在、TOEIC が「ほんとうの英語力を測定できるのか」について疑問の声が上がって いる。それは TOEIC が運用能力テストとしては、あまりにも「限られた範囲(企業社 会・ビジネスシーン) 」に特化した運用能力を測定しようとするからである。この問題は あらためて検討する。 2.Achievement test と Proficiency test をめぐる問題(2) 中 学 か ら 高 校 を 経 て、 大 学 の 英 語 教 育 に 至 る 時 点 で は、 「 一 般 的 な 英 語(General English)の運用能力」が問われる。しかし大学専門教育の中で、専門分野の専門的英語 語彙の習得が始まる。専門分野の論文や英語情報の読解も始まる。社会や企業が、大学卒 業生に「即戦力」能力を求めるならば、産業分野別の英語運用能力が求められる。そうな れば再び「学習到達目標」を掲げて到達度テストも必要となる。英語に関しては「到達 度」⇒「 (一般的)運用能力」⇒「 (特定)到達度」という異種のテストを課する必要があ る。. −122−.
(3) 英語運用能力テストの貢献. また大学教育を「社会への準備教育」と考えるならば、中学以来で、大学教育は「最も 英語運用能力を問い鍛える時期」と考えられる。しかし大学教育は現在、 「教養教育」は 軽視され、企業即戦力=社会人即戦力となるために「専門教育の早期化」が求められてい る。大学教育の中で、専門教育が1年生から始まるような教育体制のなかでは、大学内の テストの中に占める達成度テストの割合は増し、運用能力テストの割合は減る。 3.大学教育の英語テスト グローバル化の流れで、英語能力は高い評価を受けているが、英語のなかに一般英語 (General English)と産業分野別英語 = 専門英語(Specific English)の区別があるという 認識は薄い。2 つの英語は無関係ではないが、一般英語が十分習得できていなければ専門 英語の運用は難しい。この認識は英語教育教員には理解できる。しかし専門教育教員がこ れを理解しているか疑問がある。 限られた専門分野の専門的知識の定着には、習得項目が限定的であることが前提とな る。理系学部の専門教育では、カリキュラムのコアになる項目がリストで明示されてい る。外部の教育審査機構に項目を明示することが、教育内容明示の目安となる。専門教員 は、達成度テストで結果を出せれば、学生を合格評価する。一方、外国語教育は、一般的 な話題、語彙、知識を前提とした運用能力テストで「実力」を問う。英語テストが運用能 力テストであることは「前提」である。しかし外国語教育でも、テキスト教材を使い、絶 え間なく語彙習得も進めなければならない。学生は、高校以前や大学専門教育で、既習= 達成目標内容を問う達成度テストに慣れ親しんでいる。実力テストで成績が決まるなら ば、日々の外国語授業を受講する意味があるのか、と反発する。この傾向は到達目標が多 く、大学入学後の習得(暗記)内容が多い医薬系学部では著しい。 4.英語運用能力テストの選定と吟味 ① TOEIC, TOEFL TOEIC は一時の加熱過剰時期を経て、英語テストとして再評価の時期を迎えている。 近畿大学では英語専任教員の学部分属と教養基礎教育部門の設置が決まって以来、学部の 特色ある英語教育が進んでいる。ここで TOEIC の英語運用能力テストとしての資質が吟 味されることになる。TOEIC の過剰評価の原因は、英語運用能力テストの必要性が認識 される一方、その選択肢の吟味が十分でなかったことにある。TOEIC が話題に上った当 時は、同じテスト制作機関の TOEFL は、留学(志望)生だけが受験するものという認識 しかなかった。しかし国策としての留学促進によって両者の評価は変わりつつある。それ でも TOEIC が根強い人気を持ち、TOEFL が十分に評価されない理由がある。 TOEFL は難易度が高い、という言説がある。しかし TOEFL は大学生に必要な一般教. −123−.
(4) 教養・外国語教育センター紀要. 養テストでもある。北米 4 年制大学では現在も日本の大学と違い、まず教養教育があっ て、専門教育の選択、さらにプロフェッショナル教育や大学院教育へと展開する。 日本の 4 年制大学では専門教育が初年度まで下り、教養教育の軽視が進む。日本の教養 教育の軽視は、大学受験科目の減少による「文学、歴史、地理、基礎理科科目、芸術分野 への学生の興味と知識の貧困化」に繋がる。TOEFL 敬遠の一因は英語レベルの問題では なく、大学の教養教育の弱化が原因である。 TOEIC は出題内容がビジネスシーンに特化しているため、医学部学生は、TOEIC 学習 は専門分野的語彙の習得にすら役立たないため、TOEIC に拒否反応を示す。近畿大学を はじめ医薬系学部を持つ大学では、今後 TOEIC を、全学的な英語運用能力テストとして 活用することには無理がある。 4.英語運用能力テストの選定と吟味 ② 英語アンビバレンス 理系学部とりわけ医薬系学部では、教員および学生の「英語ジレンマ」 、 「英語アンビバ レンス」が発生する。アンビバレンス(矛盾した価値観の同居)は、学生であれば、英語 は必要だが、英語を勉強する時間があれば専門知識を習得しなければならない=英語は手 抜きで、という矛盾として現れる。教員は、自分は英語を使うが、英語の専門家ではない ので学生の英語教育に参入したくない、という矛盾した意識として現れる。 「英語アンビ バレンス」は日本全体に見られる。親は、自分は英語ができないからこそ子供には英語を マスターさせたい。政府は、日本人は英語ができないからこそ、日本の若者は英語ができ るように。この論理は正当に見えるが、大きな矛盾を抱え、解決策を示すものではない。 具体的、暫定的解決策は、達成度確認と運用能力確認の融合である。現在薬学部の融合 比率は、運用能力テスト 40%、授業演習評価 60%、合計 100%である。 (授業演習評価は、 テキスト授業の成果、小テスト、レポート発表を含む。担当教員は評価内訳%を決定し、 学生に提示し、成績評価に反映する義務があるが、内訳数値の学部基準は設けていない。 ) 学生は授業演習評価つまり達成度確認があるゆえに語彙や文法の習得にも意義を感じ、か つ英語の基礎は運用能力であるから、リスニングを含めた実力が問われる、という実力テ ストにも意義を見出す。 4.英語運用能力テストの選定と吟味 ③ 外部テスト 現在日本では英語運用能力テストの開発と普及が進んでいる。しかし TOEIC 過剰評価 の影響は大きく、2012 年度まで薬学部で使用した ACE PLACEMENT テストのように、 出題形式が TOEIC 的形式のテストが多い。 「外部テスト」という名称は、日本の教育機関 では達成度テストが基本であり、科目担当者が科目授業の既習内容から出題し、定着度を. −124−.
(5) 英語運用能力テストの貢献. 測るのがテストであるという固定観念からきている。 英語で外部テストを導入するのは担当者の怠慢ではない。運用能力テストは、英語の実 力を測定するためのテスト作成理論に基づき作成されたテストである。TOEFL や TOEIC が信頼される理由もそれである。 日本製「外部テスト」の信頼性はどうか。日本製運用能力テストの多くは、英語能力測 定に関する学会、研究会をテスト会社の関連機関として持っている。達成度英語テスト が、 「教育の専門家である英語教員」が作成したとはいえ、 「英語テスティング理論の専門 家ではない英語教員」が作成した英語テストなので、それらがベストの英語テストとは言 えない。 4.英語運用能力テストの選定と吟味 ④ 薬学部・医学部の運用能力テスト選定 薬学部の場合、運用能力テストとして VELC テストを、入学時実力測定、1 年前期定期 試験、1 年後期定期試験、2 年前期定期試験、2 年後期定期試験に使用している。医学部カ リキュラムでは英語は 1 年で終了するので、VELC テストを入学時、1 年前期定期試験、1 年後期定期試験、加えて 2014 年度から TOEFL ITP テストを 9 月と 2 月の 2 回行い、運 用能力テストとする。 2013 年度から薬学部では、2010 年度以降使用してきた ACE PLACEMENT テストから VELC テストに変更した。この吟味の内容は次のとおりである。 <難易度> 受験学生の平均的な英語力と運用能力テストの難易度の著しい誤差は問題の 原因となる。テストの難易度が学生の英語力より低い場合、学生が真剣に受験しないとい う受験態度の問題に加え、テスト結果データの信頼性の問題も発生する。 テスト結果を社会への発信データとするためには、テストスコア素点のみならず、 TOEIC や英検への換算スコアとして示すことに、外部テスト活用の意義がある。外部テ スト参加校のレベルが低い場合、TOEIC/ 英検換算スコアが低く出る。換算スコアは、外 部テストを受験し、かつ TOEIC スコアや英検ランクも持つ学生の成績から推定換算を行 うからである。薬学部では ACE PLACEMENT から VELC に変更した結果、TOEIC 換 算スコアが上昇した。VELC では参加校の中に占める医薬系学部の比率は圧倒的に高かっ た。 <出題形式> VELC テストの開発コンセプトは、日本の学校で学び、日本の大学に学ぶ 大学生に必要な英語力を測定するテスト、英語に必要な論理的内容理解力が測定できるテ スト、であった。問題形式も特異である。この点は、学生に新形式の出題に慣れていなけ. −125−.
(6) 教養・外国語教育センター紀要. れば解答時実力が発揮できるのかという疑問があるため、薬学部では定期試験前に模擬問 題で問題形式を確認し慣れておくという配慮を行っている。 出題形式の一例を挙げれば、リスニング聴解問題(長文)では、ディスコースの一部が 消され、その内容を類推させる問題である。この形式では、英文理解で重要とされる論理 の展開と、空所部分の内容の妥当性が理解できなければ正解はでない。このようなテスト 問題は、テストを通じて論理的思考の重要性を理解する、という波及効果も持つ。 今後、外部テストの大部分を占める TOEIC 模擬試験的出題ではない英語運用能力テス トの開発が期待される。事実 TOEIC 以外の英語運用能力テストへの関心は高まっている。 日本でも次第に IELTS(International English Language Testing System)への関心が高 まっている。韓国では TOEIC 過剰評価の時代が終わった。就職希望者の大半がスコアの 上では 800 を上回る反面、会話や聴解能力に著しく問題がある人が増えて韓国では社会問 題 と な っ た。 結 果 と し て 韓 国 独 自 の 英 語 テ ス ト TEPS(Test of English Proficiency developed by Seoul National University)が普及し始めている。TOEIC 一人勝ちの時代 は終わり、英語運用能力テスト多様化の時代が到来している。 このような観点から、薬学部と医学部に相応しい英語運用能力テストを選定した結果 VELC を採用するに至った。加えて VELC テストの利点は次の通りであった。 ① インターネット上で e- ポートフォリオとして、自分の英語力を CAN-DO リストやグ ラフで確認できる。 ② 継続的に受験すれば、個人の経年変化を確認できる。 ③ データの処理をカスタマイズでき、学科、クラス、学年、の組み合わせでのデータ比 較、さらに多様なデータマイニングの可能性がある。 このようなテストからのスピンアウト情報は学部審査の際の資料として提示することも でき、必要に応じて、学部の「英語力の説明」資料となる。英語教員の負担を軽減する役 目も果たす。 5.VELC テストの結果分析から 実際の VELC テストの結果の分析と、結果の活用の事例を近畿大学医学部の例から報告 し検討したい。医学部の場合、2013 年から VELC を前期(医学部は通年科目なので正確 には「中間」 )試験と後期( 「定期」 )試験で使用している。同時に 2013 年度医学部では入 学時英語実力測定テストとして TOEIC を用い、また 9 月にも学習成果の進捗度をみるた め TOEIC を全員に課している。 TOEIC と VELC のスコアを統計分析し相関関係をみると、相関関係がみられた。. −126−.
(7) 英語運用能力テストの貢献. ① ピアソン積率相関係数は 0.803 と強い相関 ② スピアマン順位相関係数では 0.755 とかなりの相関 ③ ケンドール順位相関関数は 0.590 とやや相関 (*両側検定(2-tailed) * p<0.01 で統計的に有意として) 下位学習者が伸びを見せている。一方上位も伸びを見せている。中間位の頂点が移動し、 全体に学習成果が見られている。TOEIC の出題のテーマがかなりビジネスに特化してい ることや、医学部生は基本的には TOEIC 教本ではない共通テキストを使用している。 2013 年度は医療現場での実在の医師の経験を教材とした英文と、その内容や表現について の Exercises が付属した英語テキストである。これに加えて医学論文から例文を採取した 例文+単語の『表現集』を使用した。月に 1 回 TOEIC の練習問題を使った演習を行い、 問題形式や出題傾向に関する基礎的知識をつけるように準備はおこなった。 このような学習において、医学部生の場合は、1 年生に限っては英語に接し、単・熟語 の語彙形成訓練は欠かさず行ったため、一般にはすぐに学習結果がでにくい TOEIC にお いても、あるていど可視的な結果が出たといえる。グラフの山が総じて右に移動してい る。 2013 年 TOEIC、4 月(上)から 9 月(下)への変化. −127−.
(8) 教養・外国語教育センター紀要. 2013 年 VELC、9 月(上)から 2 月(下)への変化. −128−.
(9) 英語運用能力テストの貢献. VELC においても TOEIC と同様の「グラフの山の右への移動」が見られる。もちろん 下位学習者も点数の上昇がみられるが、TOEIC に比べて、それ以上に VELC の方が上位 学習者の学力上昇が大きい。そして学年末にはかなり「山の頂点が右端に溜まりながら集 中する」傾向がみられる。 (ただし左端のゼロの増加は、留年が決定的である学生が「あ きらめる」という医薬系には特徴的な現象があるからである。1 年生の科目を 1 科目でも 落第すれば留年が決定し進級できない。 ) VELC テストは 70 分、リスニング 3 パート(語彙、文法、論理的内容把握)60 問と同 様の構成のリーディング 3 パート 60 問からなる。TOEIC に比べ問題数、難易度共に低い。 しかしこれは英語テストとしてのマイナスを意味するものではない。 VELC を 含 め、日本 で 開 発・ 普 及 が 進 ん で いる 英 語 運 用 能 力 テ ストは、TOEIC や TOEFL のように社会への説明力としての検定結果を示すことが目的ではない。医学部、 薬学部での活用例のように、授業成果を到達度チェックよりは「広く実践的な視点から測 定」し、 「学習成果を検証する」という役目がある。医学部、薬学部の場合、学生の学力 が高いため、英語運用能力テストで英語の実力という側面を検証できる。したがって TOEIC や TOEFL に通じる測定をしながら授業成果の観察を補完する役割を果たしてい る。しかも TOEIC や TOEFL との相関性があればさらに意義は大きい。 (2014 年度から 医学部では年に 2 回、TOEIC を廃止し、TOEFL ITP テストを受験する。これによって今 後 VELC と TOEFL の相関を実際に測定できることになる。 ). −129−.
(10) 教養・外国語教育センター紀要. 6.VELC テスト活用とクラス編成・授業方法 VELC テストは、いわゆる外部テスト、業者テストと日本では現在呼ばれている英語テ ストであるが、きわめて信頼性の高い英語運用能力テストである。このテストを活用する となれば、現在日本では外国語教育特に英語教育では広く普及した習熟度別クラス編成へ の活用が考えられる。確かに英語運用能力テストによって習熟度別のクラスを編成すれ ば、効率的な授業運営が行えるようにおもえる。その考えに妥当性はあるのか。 もう一度分析結果を見てみよう。医学部など学力が高く、かつ専門教育の比重が初年度 から大きい学部が持つ、学習意欲・学習動機に関する問題がある。それは教養、外国語科 目にはできれば学習負担の少ない授業を求め、かつ単位取得を確実にしたいという志向を 学生が持つことである。その結果、習熟度別クラス編成は、医薬系学部の英語クラスでは 次のような問題を引き起こす。つまり習熟度熱クラス編成は教育的に逆効果である。 ① レベルの高いクラスで到達度も高く設定して授業すれば、高レベル学生でも高負担の 授業となる。それならばレベルの低いクラスに(最悪のケースとして意図的に)プレイ スメントテストで低得点をとり、配属されれば、低負担授業で単位取得も確実となる。 そのようにして習熟度別クラスは学生の「下流志向」を起こす原因となる。 ② 一方レベルの低いクラスでは、単位取得の基準が低くなると学生が理解する傾向が現 れる。そこで単位取得ができなかった場合、出席して「最低限度の」努力はしたにもか かわらず単位取得できなかったのはなぜか、という成績結果への疑義の申し立てが多く 発生する。 ③ 英語では複数のクラスで「共通テキスト」を使用し、 「共通シラバス」を提示する。 その場合、クラスレベルの高低で、成績評価基準や授業レベルを提示することは稀であ る。その結果、クラスごとの成績評価基準を設定しない限り、習熟度別クラス編成で共 通シラバス、共通定期試験を行うことには問題が残ることになる。クラスレベルととも に授業内容と評価基準が連動するとの考えは、北米大学には多いが、日本では馴染みが ない。 さらに TOEIC、TOEFL に比べれば VELC などは問題数や試験時間において「易しい テスト」である。その結果、点数も「高止まり」となり、学生の学習意欲を減退させる。 しかし一方では、医薬系学部であっても、英語学力低位者は存在し、テストの難易度を上 げ過ぎるとこれも学習意欲減退を助長する。 結果として英語テストの選定だけでは授業効果と学習意識の問題を解決することはでき ない。医学部、薬学部ともに 2014 年度からは、VELC テストによる正確な英語力測定を. −130−.
(11) 英語運用能力テストの貢献. もとに「均等レベルクラス編成」を行っている。これは、テスト結果に基づき、どのクラ スも上位から下位までの学習者が均等に所属するように配置する。そして授業方法は原則 として「協同学習 cooperative learning」を行うものとする。その運営方法は次のようで ある: ① 4 名 1 チームを編成する。チームも上位と下位の学習者が混在する方が望ましい。 ② 授業はテキストの解答であってもタスク(チームに課された課題、問題)とみなし、 チーム解答(協力しての問題解決)とする。 ③ チーム得点を多く得るために全員が協力する。 ④ タスクによっては、下位学習者が得意な分野や能力があり、基本的には上位学習者が 下位学習者を助けるが、その逆もあるので下位学習者も自信をもって学習に向かう。そ の中でチーム構成員の中でのコミュニケーション能力が磨かれる。 このようにして協同学習を通して学生に求められる「問題解決能力」や「コミュニケー ション能力」が涵養される。また、均等レベルクラス編成であるから、共通テキスト、共 通シラバス、共通の成績評価基準でも、矛盾や不公平感は発生しない。現在、2014 年度英 語教育において、医学部、薬学部は順調に推移している。 またクラスがセメスター開始時に英語運用能力テストで、同じレベル、同じ出発点を持 つことで、各クラス担当教員の教育力が問われ、クラス成績の伸びはクラス担当教員の教 育力を示すことになる。習熟度別クラスでは、低位クラスを担当する教員は、負担が大き く、上位クラスから下位クラスまでの教員をローテーションするなどの配慮が必要であっ たが、均等クラス編成ではその必要もない。 7.英語運用能力テストの可能性と活用の意義 最後に、大学あるいは学部が、科目担当者作成の定期試験としての到達度テストだけで はなく、信頼性が高い英語運用能力テストを採用すべきである理由を整理しておく。 大学が社会に情報を発信し、教育成果を開示するためには、英語テスト自体が、テス ティング理論に基づいて作成され、英語力測定力が保証され、できれば TOEFL、TOEIC、 英検などとの換算表示ができるテストが求められている。 大学や学部が第三者機関による審査や認証、格付けが行われる場合の、データ提示がし やすく、テスト業者の協力によるカスタマイズがしやすい。学年、学科別データ、担当者 別データも作成しやすい。採点とデータ処理の時間も短縮されてきている。年度開始時の クラス分けも容易である。習熟度別クラス編成はもとより、今回紹介した均等レベルクラ. −131−.
(12) 教養・外国語教育センター紀要. ス編成も可能である。これは従来の名簿順「輪切り」 (定員数均等編成)よりも信頼性の 高いクラス編成である。クラス編成を英語運用能力の測定結果に基づいて行えば、授業方 法の工夫もできる。授業方法と英語力測定が連携するわけである。 社会や審査認証機関への情報開示とともに重要なのが、学生への情報開示である。今回 紹介した VELC テストの場合、 「e- ポートフォリオ」と呼ばれる Web 上のテスト結果を学 生に通知できる。正答結果だけでなく、英語能力を CAN ― DO レベルリストとして示し、 学年を跨いでの「経年変化」を見ることが出来る。このように多様な分析結果を学生に提 示することは、テストの「波及効果」として重要である。 現在、日本では大学連携による英語カリキュラム改革が進んでいる。複数の大学が連携 し、共通のアンケートを継続的に実施する。それを各大学の教務データと統合して解析す る。これは大学教育の「質保証」として重要かつ必要なのである。その調査項目には、学 生の生活習慣や学習状況の調査がある。加えて英語力調査も行う。この場合に科目・クラ ス別英語試験では役に立たない。しかし大学ごとの英語力の差を考えれば、TOEIC や TOEFL を使用するのが適当でない場合が多い(難易度が高すぎ、受験料も高い、など) 。 そこでいわゆる外部業者テストとしての英語運用能力テストが役立つ。連携大学の平均的 な英語力を測定できるテストを選定し共通に使用すればよい。試験時間や問題数をカスタ マイズすることも可能である。これに卒業生調査を加え、幾つかの商工会議所や経済研究 所と連携すれば、大学教育とそのステークホルダーとしての経済界との連携も強化され る。 この試みは「グローバル・モジュール」として北海道大学、同志社大学、玉川大学、関 西学院大学、お茶の水大学、甲南大学、琉球大学、大阪府立大学の 8 大学で現在運用され ており、英語に関しては英語運用能力テスト GTEC が使用されている。 英語に関する狙いは、グローバル化への対応として、大学における汎用性のある英語能 力の評価体制の確立という点にある。これについては個別大学の教育審査認証への取り組 みとりも広範囲で、ちょうど国策レベルと個別大学を繋ぐ「教育の継続的改善と質保証」 の仕組みといえる。 「グローバル・モジュール」の場合は、学生調査のうちの英語能力に 関する主観的評価に、英語運用能力テストの客観評価が組み合わされる。主観評価と客観 評価の相関性をみれば、履修した英語科目の内容と関連させた分析も可能となる。データ の蓄積がすすめば、教育成果の測定からさらに、学生の学習時間の確保や、単位の実質化 へと具体的教育策が実現できよう。 複数の連携大学間の分析を統合することは、各大学に還元されて、各大学の開校科目は 「どの能力の、どのレベルを身に着けるのか」を明確にする。現在の 8 大学のグローバル・ モジュールでは、ヨーロッパ言語参照枠 CEFR を基に、 「聞く、読む、会話、表現、書く」. −132−.
(13) 英語運用能力テストの貢献. の 5 つの力について A1,A2,B1,B2,C1,C2 の 6 段階を設定し測定評価を行っている。そして 次のカリキュラム作成に順次利用されることによって、文字通りの「体系性をもった英語 カリキュラム」の策定が期待される。 このように大学の教育力の発信のみならず、質保証やそのための制度・機構までもが求 められる時代には、大学教員の努力だけでは、社会の要求に応えることはできない。英語 学部テストのようなテストの作成・管理やデータ分析などの役割をになう部分も、現在の グローバル時代の教育には求められている。. 主要参考文献 *協同学習・授業方法に関して 江利川春雄編著(2012)『協同学習を取り入れた英語授業のすすめ』大修館書店 大津由紀雄・江利川春雄・斎藤兆治・鳥飼玖美子(2013)『英語教育、迫りくる破綻』ひ つじ書房 佐藤学他(2011)『佐藤学 内田伸子 大津由紀雄が語ることばの学び、英語の学び』ラ ボ教育センター ジェイコブズ他(2006)『先生のためのアイデアブック――協同学習の基本原則とテク ニック』日本協同教育学会 ジョンソン他(2010)『学習の輪――学び合いの協同学習入門(改訂新版)』二瓶社 杉江修治(2011)『協同学習入門――基本の理解と 51 の工夫』ナカニシヤ出版 安永悟(2012)『活動性を高める授業づくり:協同学習のすすめ』医学書院 和井田節子他(2012)『協同の学びをつくる:幼児教育から大学まで』三恵社 *英語テストについて Andrich, D.(1999) . Perth, Western Australia: Murdoch University. Hughes, A.(1989). . Cambridge: Cambridge University. Press. Oller, J. W., Jr.(1980)Language Testing Research. In , ed. R. Kaplan, Rowley, MA: Newburry House. Oller, J. W., Jr.(1983)Response to Vollmer: g , what is it? In . Ed. A. Hughes & D. Porter, London: Academic Press.. −133−.
(14) 教養・外国語教育センター紀要. 靜哲人、竹内理、吉澤清美(2002)『外国語教育リサーチとテスティングの基礎理念』大 阪:関西大学出版部. 若林俊輔、根岸雅史(1993)『無責任なテストが落ちこぼれを作る』東京:大修館書店.. −134−.
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