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第2章 必修教科等の研究 04 理科 科学的な思考力を高める理科学習 : 状態変化と化学変化の単元におけるミクロとマクロの視点移動の研究

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Academic year: 2021

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5.実践事例2「状態変化と化学変化の単元に おけるミクロとマクロの視点移動の研究」 の実践より (1)はじめに 物質が水に溶ける,物質の状態が変化する,物質 が燃える・・・。身のまわりで一般的に起こる現象 (実験事象)を科学的にとらえるために,ミクロな 視点(粒子概念)は必要不可欠である。今回の改訂 学習指導要領(文部科学省 2008)においても,「科 学に関する基本的概念の一層の定着を図り,科学的 な見方や考え方,総合的なものの見方を育成するこ と」を改訂の基本的な考え方の1つとし,その中で 「『エネルギー』,『粒子』,『生命』,『地球』という 科学の基本的な見方や概念を柱として理科の内容 を構成し,科学に関する基本的概念の一層の定着を 図れるように改善する。」とされた。 そこで,状態変化と化学変化の学習を中心に,実 験事象(マクロ)と粒子概念(ミクロ)との視点の 切り替えを行いながら抵抗なく結び付けられるよ うに単元を再構成,研究テーマを「状態変化と化学 変化の単元におけるミクロとマクロの視点移動の 研究」とし,授業を実践した。 (2)化学変化の学習の問題点 生徒から「化学変化の学習は難しい。」という言 葉をよく耳にする。生徒がそのように考える理由は 明らかで,原子や分子といったものがあまりにも小 さな世界の話で,目には見えないからである。 教科書では,現行の学習指導要領の「・・・・こ れらの事象を原子・分子モデルと関連づけてみる見 方を養う」という影響を受けて,化学変化の事実を 先に学び,原子の考え方を導入した後,最後に化学 反応式を登場させているので,化学反応式を実際に 生徒が使うようには組み立てられていない。その結 果,化学反応式は使えるものではなく,丸暗記する ことになる。そればかりではなく,分子,原子,元 素,化合物,単体,化学式など,生徒が使えるよう に組み立てられていないために,言葉を丸暗記せざ るを得ず,『ああ,化学変化は難しくてだめ』と多 くの生徒に感じさせてしまっている。 しかし,分子や原子やイオンなどのミクロの粒子 は,目で見えない世界だけに,本当にわかった。見 えたという実感を生徒につくりだすことは容易で はない。 つまり,生徒が抵抗なく粒子概念を身につけるた めに,単元の再構成をすること,そして,分子・原 子の導入,さらにそれらの概念づくりの過程を大切 にすべきだということである。 (3)研究の概要 本研究では(2)で挙げた問題点を改善するため に,化学変化における単元の再構成,分子・原子の 導入,さらにそれらの概念づくりの過程を大切にし た授業を実践し,実験事象(マクロ)と粒子概念(ミ クロ)との視点の切り替えを繰り返し行うことで, 生徒たちに抵抗なく原子・分子の概念が身に付けさ せることが大きなねらいである。 具体的には,1年時に「身の回りの物質」の単元 で,「物質のすがた」「水溶液」を通して,物質は粒 子でできていることや熱を加えるとその粒子が熱 運動をはじめ,状態変化をおこすことを学習する。 そして2年生の「化学変化と原子・分子」では,ま ず粒子の存在の認識を思い起こさせ,その粒子をさ らに分解することができるという驚きに触れさせ ることで,原子という存在を認識させたいと考える。 生徒が,原子というものの存在について確固たる自 第 10 図 理科通信

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信を持ったときに化合や酸化還元反応を体験させ て,原子の組み合わせ次第で物質ができることに目 を向けさせたいと考える。また,微視的な視点に抵 抗なく入れるように,原子を人型に見立てた4コマ 漫画を掲載した理科通信や読み物プリント,カード ゲームも活用していきたい。 第 11 図 読み物プリント(毎時配布) (4)単元の再構成について 本稿の(2)で挙げたように,現行の「化学変化 と原子・分子」の単元構成は,先に化学変化の事実 を学び,原子の考え方を導入した後,最後に化学反 応式を学ぶという構成になっており,原子・分子の 考え方は後付けであり,どうしても丸暗記でしか対 応できない形になっている。そこで,まずは単元の 再構成を行った。 具体的には,原子の導入を早い段階にもってくる こと,化学変化を扱う順序を工夫することである。 教科書等では「化学変化の事象をすべて観察させた 後でいきなり原子の導入から分子へ」という順序で あるが,もっと早い段階で原子を導入する必要があ る。その方法として,多くの物質が分子で存在して いること,生徒が今まで使っていた粒子の概念はそ のまま分子の概念に置き換えられることなどから, 分解実験を先におこなって「粒子から原子へ」の導 入がスムーズにいくと考える。また,分解から始め るもうひとつの良さは,加熱という操作を通して, 状態変化と比べながら化学変化を導入できる点で ある。その第一として,物質の分解実験を行う。化 学変化では全く違う物質ができること,粒子の中に は分かれるものがあること,粒子の中にはまだ小さ な粒子(原子)が含まれていることに気づかせるこ とがねらいである。そして他に分解できる物質とし て,水をとりあげて,酸素と水素に1:2で分解す ることから水の粒子の構造を予想させる。 原子導入の後は,燃焼を含む化合の実験を通して, 原子のやりとりを考察させていく。水の合成では, 酸素や水素が2原子分子でなければならない理由 をじっくりと考えさせ,分子という概念,原子と分 子の区別をしっかりと身につけさせたい。そして, 原子分子の模型図の手がかりとして原子記号,分子 式,化学反応式へとつないでいく。化学反応式は単 純なものから,できるだけ早い時期に導入する。な ぜなら,絶えず使いながら理解を深めさせるためで ある。そのようにして,化学変化の現象を常にミク ロな視点で見る態度を感得させたい。 原子の組みかえを意識させるのには酸化還元反 応がよいと考える。二酸化炭素中でマグネシウムを 燃焼させる実験などのように反応が顕著で,驚きが ともなう化学反応は,生徒の半わかりや誤謬を明ら かにし,ゆさぶりをかけることになるので,自ずと その理由を考える意欲をよぶことになって,ミクロ な視点で見る態度が生かされ,モデルの活用がより さかんになると考える。 質量保存,定比例の法則は最後に扱う。「質量保 存の法則」はいろいろな場面で,物質の出入りと結 びつけて扱え,定比例の法則は化学変化の規則性の 確認となって,この単元の締めくくりにうってつけ の実験であるといえる。 以上のような考えから,再構成した単元「化学変 化と原子・分子」を以下に示す。 (5)単元構成 ①状態変化で発生する気体は水上置換法で,集めら れないことを確認する。(状態変化は粒子の運動 状態のみの変化であることの確認) ②酸化銀の熱分解から,状態変化とは明らかに異な る点に注目し,化学変化が粒子そのものの変化で あることに気づく。 ③割りばしを加熱分解し,化学変化である根拠を見 出す。 ④炭酸水素ナトリウムの分解を行い,物質によって はいくつもの原子が組み合わさってできている

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ことを見出す。 ⑤水の電気分解では水素:酸素=2:1の体積比で あることを観察する。 ⑥水を分解すると水素が酸素の2倍でてくる訳を モデルで説明する。原子は種類によって,結合す る場所や数が決まっていて,様々な物質ができる ことを知る。 ⑦鉄と硫黄の化合実験を行い,混合物と化合物の違 いを粒子モデルで説明する。(化学反応式の登場) ⑧風船に密閉したフラスコの中に酸素と木炭入れ て加熱すると木炭が消える理由をモデルで説明 する。 ⑨水素と酸素を1:1で反応させ,残った気体を粒 子モデルから予想する。(研究発表大会での授業 実践:別紙指導案あり) ⑩二酸化炭素だけの中でマグネシウムを燃やし,燃 える理由を考察する。 ⑪銅粉を加熱すると質量が増えるが,加熱し続けて も,増え続けるわけではないことが,原子の結び つきの規則性に関連していることに気づく。 ⑫貝殻が塩酸に溶けると軽くなる理由を原子モデ ルで説明する。 (6)授業①<粒子との出会い(1年生)> 実験事象を微視的な視点と関連付ける授業とし て,1年生の「水溶液の性質」,「物質の状態変化」 の単元において,以下のような課題で授業を行った。 ①授業計画と主な内容 第1次 硫酸銅が水に溶ける様子を粒子モデルで 表してみよう。(シュリーレン現象を観察 し,粒子が拡散していくことを想像し,モ デルに表す。) 第2次 砂と食塩が混ざってしまった。元に戻す方 法を考えよう。(ろ過や再結晶で粒子の視 点からとらえる。) 第3次 硝酸カリウムをもっと溶かしてみよう。 (再結晶と冷やし方との関連を粒子の世 界から考える。) 第4次 ろうが融ける様子を粒子モデルで表そう。 (ろうの状態変化を観察し,実験で気づい たことをもとに,粒子モデルでとらえてい く。) 第5次 固体が液体に変わる時の温度変化を調べ よう。(融点の測定,グラフ化から,粒子 の熱運動と関連付けてとらえる。) 第6次 液体が気体に変わる時の温度変化を調べ よう。(沸点の測定,グラフ化から,粒子 の熱運動と関連付けてとらえる。) 第 12 図 生徒のノートより(粒子モデル) ②工夫した点 粒子モデルで表すときに,まずは生徒実験を行い, 起こる現象をそれぞれにしっかりと観察させた。こ れは,実験事象をしっかりと観察し,「透明になる こと」や「固体が沈んでいること」など,事実を粒 子モデルで説明できるように考察,討論させること で,見えない粒子を身近に感じ,抵抗なくとらえる (頭の中に粒子が見える)ことができるようになる と考えたからである。また,短い単元の中で,繰り 返し「粒子」を意識させることで,粒子に慣れ親し み,実験事象を微視的な視点からとらえることが自 然なこととして受け入れられる,つまり粒子概念が 身につくと考え,何度も繰り返し粒子の世界からの 考察を行った。 ③授業の様子から 第1次では,およそ半数の生徒が「水の粒子と混 ざるのではないか。」と予想した。その他には,「バ ラバラになった粒子が下にたまる」という意見も出 たが,ビーカーの底に薬品を置き,上に向かうシュ リーレン現象を観察することにより,納得したよう である。これは,コーヒーなどで溶け残った砂糖が

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底にたまっていると いう日常の経験によ る誤認識であるとい える。生徒たちの中に は,「海の水はどこも しょっぱいから,底に はたまらないのでは ないか。」と力強く説 明する生徒もいた。ま た,「水の粒子と 硫酸銅の粒子が合体する。」という意見に対しては, 「粒が合体したら別の粒になってしまう!」という 説を支持するものが多く,討論を進めるうちに,水 溶液の中の粒子の姿が少しずつ見えてきたようで ある。 第2次では,水に溶けた食塩がろ紙の穴を通るの かが討論のポイントとなった。第1次の内容が定着 している生徒が多く,「水のすき間に入っているぐ らいだから水の粒子が通れるところは大丈夫。」と 学級の意見がまとまるのに時間はかからなかった。 第3次では,水温を上げるとたくさん溶けること をよく知っていたが,水温を下げると次第に再結晶 する様子に納得していた。 第4次では,実験事象として体積が増えた,透明 になった,固体の方が密度が大きかったという3点 をどのように説明するかが討論のポイントとなっ た。意見としては「熱で粒子が膨らんだ。」「粒子が 粉々になって数が増えた。」「粒子同士がバラバラに 離れた。」の3つが主なものであった。このうち, 数が増えるという意見に対しては,「ボールは粉々 になれば体積は小さくなる。」や「数が増えても固 体は固体のはずだ!」との反論が飛び交い,最終的 には,「バラバラに離れる。」と「膨らむ。」が残っ た。脹らむということを,粒子の運動の範囲を1 つ の粒子と考えれば,2つの意見は同じような発想で あることを支援し,どちらの考えも正しいことで全 員が納得できた。 融点,沸点の測定にも,粒子の運動を意識して考 察するように心がけた。 (7)授業②(研究発表大会にて実践) 8月31日に行われた本校の研究発表大会では, 実験事象と微視的な視点を切り替えることを意識 した授業を実践した。 ①学習過程 ②工夫した点 ビニールチューブに気体を入れて点火すること で,最初の状態の1/4の気体が残ることが目で確 認できる。この実験では,気体の体積を定量的にと らえることに大きな意味があると考え,この教材を 準備した。これは,実験事象を微視的な視点で考察 するにあたり,実験事象を全員が同じ目線でとらえ ておく必要があるからである。 また,巨視的な視点(実験事象)と微視的な視点 (原子モデルでの考察)の切り替えを1時間の中で 第 13 図 自分の意見を述べる生徒

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何度か行わせたことも工夫した点である。これによ り,水の生成という1つの事象において,微視的な 視点からの認識が深まると考えたからである。 実験として,すべての班の結果をOHPに重ねて いき,グラフ化するということも初めての取り組み であった。これにより,どのような場合においても 反応する割合が一定であることが,実験により確か めることができる。 ③授業の様子から 原子の学習が前半のうちに終わっているので,ほ とんどの生徒は,酸素,水素,水蒸気のどれかでは ないかと気が付いていた。そんな中で,ごく少数で はあるが,「二酸化炭素」という意見も出てきた。 この意見は他の生徒からの「炭素原子はどこにも存 在しないはずだ!」という指摘によって納得したよ うだが,「物が燃えると二酸化炭素が発生する。」と いう実験事象だけによる誤認識が定着し,微視的な 視点からとらえられていないことが明らかになっ た。これは今後の授業の在り方への反省点であると 言える。また,残った気体については,水蒸気は冷 えて水になるはずだから,H2Oという水の分子の 構造から考えると,酸素ではないかという意見が大 半をしめた。しかし,原子や分子の数の違いが,そ のまま体積の違いになって現れるかについて意見 はまとまらなかった。 第 14 図 実験事象の確認(巨視的な視点から) そこで,実験により酸素であることを確認した。 この結果をもう一度微視的な視点に戻すことで,生 徒たちの中に,分子の数と体積の関係が完全につな がったようである。それを証明するかのように,気 体の混合割合を変えての実験では,どの生徒もスム ーズに予想することができていた。 授業の最後には10mのホースを使っての爆発 実験を行った。この実験により,確かに水が発生し ているという事実と,液体の水が発生することで, 分子の運動が気体の時よりも少なくなり,体積が小 さくなるということを確認することができたよう である。 ④成果と課題 1 年生の学習においては,繰り返し粒子のモデル を扱うことにより,微視的な視点からの考察に対し ての抵抗は見られないように感じた。また,実験事 象を先にしっかりととらえておくことで,討論形式 での考察を行うことができたことは成果であると 言える。今回の実践では,帰納的な推論による考察 の場面がほとんどであったが,今後,さらに演繹的 に推論を行わせるような場面を設定することで,生 徒たちの思考力にも深まりが出ると考える。 2年生では,1年生での粒子モデルでの実践の成 果なのか,原子や分子の存在に抵抗を示す生徒は少 なかった。このことからも,1年生で粒子モデルを しっかりと扱い,2年生の早い時期に原子や分子と 出会わせることは,その後の化学変化の学習を進め るうえで有効であるといえる。巨視的,微視的の両 方の視点を強制的に切り替えさせる場面を単元全 体にわたって設定することで,実験事象を原子や分 子の世界とを関連付けてとらえることができるよ うになってきたように感じる。 また,4 コマ漫画やカードゲームなどは,原子や 分子に親しむうえで非常に有効であった。目をキラ キラさせて4 コマ漫画を読んだり,カードゲームを する姿からは,「理科嫌い」という言葉の存在は想 像できない。 本研究を通して,1年生での粒子モデル,2年生 での原子や分子との出会いを大切にすることで,実 験事象と粒子概念を関連付けてとらえさせるうえ で非常に有効であることが分かった。しかし,本当 に正しい粒子概念,使える化学反応式が身について いるかは,今後検証が必要な課題である。 (保木 康宏)

参照

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