1
経営管理の用具としての予算管理
清
水
哲
雄
1 序 予算統制のために編成される予算は経営者の経営計画および経営方針の具体 的表示である。経営は予算によって指導;されるので,予算は企業全体の経営活 動を包括していなければならない。予算は元来部門予算として遂行されるもの であるが,予算統制においてはそれらの部門予算の相互の関連付けが行われて いる全体的観点が確立していなければ経営活動を指導することはできない。ウ ェルシュはこのことを「包括的予算管理は企業のあらゆる執行活動面に対する 予算の原理および技術の適用を意味するものであって,総合した予算計画に部 2) 分予算を結合したものである。」と表現している。ウェルシュの予算管理論は その副題にも示されているように利益計画を意図しているところにその特徴が ある。更にまた従来の予算統制ぱ部門予算を中心としたものであるのに対し て,それらを統合したトップ・マネジメントの観点から包括予算comprehensive budgetingの考え方を表明し会計との結び付きを強調している。そのために変 動予算および標準原価管理と予算統制との関係も論じている。利益管理と予算 管理の関係については,(1)両者を同義とみる見解(2>両者を全く別のものとみ る見解,(3)利益計画は予算編成の基礎となり,予算に具体的に展開され,予算 統制を通じて利益統制が行われるとみる見解がある。ウェルシュは第1の立場 1)古川栄一:「予算統制における総括予算 ウェルシュ予算論の重点一」,『ビジネ ス・レビュー』,第5巻第3号,2ページ。 2) Wel>”ch Glenn A : Bttdgeting’ Proftt−Ptanning and CDntrol, lst., ed., Prentice− Hall,1957, p 4 諸井勝之助訳・「企業予算』,日本生産性本部,昭和46年,22ペー ジ。2 をとる。この立場においては広義の利益計画のうちに本来の利益計画とその具 体的表現としての予算を含めるとすれば,本来の利益計画を基本的利益計画と し,またその具体的表現としての予算を執行的利益計画ということができる。 しかし両者にはつぎの相達点がみとめられる。 (1)利益計画は予算編成の基礎となり,部門予算や総合予算の合目的性を検 討する用具となるから利益計画は予算管理の基本計画ないし評価基準となる。 (2)利益計画はトップ・マネジメントの意欲,政策を表明するものであり, 執行部門に対する要請を明確にするものであるのに対して予算はトップ・マネ ジメントから執行部門への要請と執行部門の実情を反映した要請とを全社的立 場から総合調整したものである。 (3)利益計画は執行活動を直接に統制する用具ではなく,予算案の適否を評 価するという意味で統制機能をもつ。これに対して予算は利益計画を執行する のであるから具体的に展開され,その予算計画は執行活動をコントロールする ことにある。 (4)利益計画の立て方は製品別に目標限界利益,収益,費用を大綱的に計画 すればよいが,予算の立て方は統制機能を重視するために管理区分別に編成し なけれぽならない。 (5>利益計画は通常トップ・マネジメントで作成されるが,予算は執行計画 であるのでその実施は現場の協力が必要であり,予算編成は執行部門の参加を 必要とする。 ⑥ 予算は合理的に達成可能な計画であるとともに利益責任,収益責任およ び原価責任の割当であり,また業績評価の基準となるからその計画期間は1年 以内である。これに対して利益計画はその期間が1年を超えるものがある。こ のように両者の関係から利益計画は予算編成にその基礎を与え,予算を通じて ヨラ 展開されるものであり利益統制は予算統制を通じて行われるものである。 3)吉田弥雄:『現代管理会計論』,同文舘,昭和53年,pp.137一一一139.
経営管理の用具としての予算管理 3 ff 固定予算と変動予算 固定予算とは予算期間において最も実現可能性の大ぎい特定の単一操業度を 前提として編成される予算であるから,実際の操業度が計画操業度と喰い違っ ていても計画操業度に対応する予算額が実績と比較される。しかし操業度の変 動とは別の要因,たとえば予算編成の前提とされた諸仮定,諸条件が変化すれ のぼ固定予算といえども当然修正されなければならない。固定予算の編成によっ てたとえ予定どおりの実績が立てられ,その目標に向って努力が払われるとい うメリットがあり,また同時に予算を立てることにより経営全体が計画的に運 の 営される端緒を得ることもできる。 変動予算とは予算期間において実現可能ないくつかの操業度に対して設定さ れる予算であるから,原価能率を測定して計画予算の統制機能の欠陥を補うこ とをその昌的とする。計画予算たる割当予算や固定予算においても予算差異分 析は合理的に行われ計画と調整の機能を果たすが,実際の操業度は必ずしも計 画どおりには行われ難い。このような場合には予算差異のなかに操業度差異に よるものも含まれるから,予算と実績を単純に比較しても原価能率の測定には 役立たない。変動予算の場合には操業度の変動による予算額がすぐわかるから 予算差異分析が有効に行われ,予算管理における統制機能が完全に発揮され の る。たとえばある部門の固定費が1か月¥450,000で変動費は直接労働時間100 時間当り¥’5,500とすると, a) 1,000直接労働時間のときは ¥450,000+(10×5,500)== ¥505,000 b) 1,500直接労働時間のときは 450,000+(15×5,500)= 532,500 c)2,000直接労働時間のときは 450,000+(20×5,500)= 560,000 の変動予算となる。変動予算は費用の管理に有効であるから,もし固定予算に 4) 吉田?Y下雄 = 5)今井 忍: シ。 6) 吉田弥雄: 『予算管理』,同文舘,昭和54年,118ページ。 「固定予算から変動予算へ(1)」,『企業会計』,第5巻第6号,21ペー 『予算管理』,同文舘,昭和E4年,119ページ。
よってある部門の操業度を1,500直接労働時間として予算を組んだとする。他 方実際操業度は2,000時間で実際費用が¥550,000であったとすると,予算額 ¥532,500と実際額茎550,000を比較しても意味がない。この場合は2,000時間 に対する操業度に見合う予算たる¥560,000と比較してその予算差異¥’19,000 が有利な差異として意味がある。このように変動予算は自動的コスト・コント ロ 一一ルを果たす手段となる。固定予算と変動予算との関係を一表に示せばつぎ のようになる。 7)
\ 予算区分
一.一x..一一E一.項 目 、\
主 た る 機 能 予 算 の 性 質主たる適用領域
差 異 分.析固定予算変動予算
計画・調到統
固 定 予 算
制弾力性予算
全 領域費用特に閲接費
予定操業度の予算対 実際操業度の予算対 実際操業度の実績 実際操業度の実績 したがって固定予算と変動予算をそれぞれの特質を生かせて総合的に運用し なけれぽならない。すなわち計画と調整のための固定予算を編成し,また統制 の目的のために変動予算を編成し,両者は同一の計算基礎の上に有機的関連 をもって編成されなければならない。予算公式たるY=F+VX (Y=予算総 額,.F=固定費, V=変動費率, X=操業度)によって期首には計画と調整の ための計画予算たる年次固定予算を大綱予算として組み,毎月初には年次固定 予算を基礎として計画と調整のための細目予算としての月次の固定予算を組む うと同時に統制目的の月次の変動予算を組む。製造間接費についていえば,これ は固定的年度予算によって総合的な利益計画の見地から統制されるとともに弾 力性をもつ月次予算によっても管理されなければならない。換言すれば製造間 接費の予算統制は固定予算方式と弾力性予算方式を有機的に結合することによ 7) 青木茂男:『現代管理会計論』,国元書房,昭和51年,pp.239∼240、 8) 吉田弥雄=『予算管理』,同文舘昭和54年,pp,127∼128.経営管理の用具としての予算管理 5 う ってなされなければならない。 固定予算から変動予算へ移行する中間段階として複数性予算がある。これは つぎの条件の下に経営が行われる場合に有効である。1)その生産過程が単純 の であること,2)製品の種類が少ないこと。たとえぽ販売費を複数性予算によ って統制しようとする場合,つぎの3段階について予算を編成する。 第1段階……最も希望する販売予算量にもとつく予算。 第2段階……最低の販売予算量にもとつく予算。 第3段階……実現可能な最高販売予定:量にもとつく予算。 もし実際の販売量がこれらの3段階のいずれにも該当しない場合は,そのう ち最も近い予算額を基礎として実際販売量に対する予算に調整したうえで実 際と予算とを比較する。複数性予算制度による予算統制はつぎの順序で行われ る。 (1)各部門について操業度を定める。その基準としては,たとえば直接作業 時間,製品数あるいは製品重量等を用いる。 (2)各部門別のキャパシティに応じた操業度100%の場合の製品数量を定め る。 (3)実際の製品数量に応じた実現可能の操業度を定める。 (4>実現可能の操業度における各経費項目の通常の予定金額を定める。この 場合には異常数値は除去する。 ⑤ 以上の各経費項目別の予定金額を更に切り下げ得ると思われる額をその 9)松本雅男:「製造間接費予算管理方式の発展」,『ビジネス・レビュー』,第2巻第 3号,64ページ。 このことについては中西寅雄教授も,「予算における利益計画の設定では間接費の 圖定予算が用いられるが,その管理のためには変動予算に具体化されなければならな い。固定予算は1同年あるいは1営業期間の間接費の目標を示すものであり,変動予 算はこれを月別に具体化したものであるからである。したがって固定予算が月別の変 動予算に具体化することによってはじめて管理の用具となる。」としておられる。中 西寅雄:「経営管理の中核としての予算統制」,『会計』,第82巻第2号.6ページ。 10)今井忍:「変動予算の立て方」,古川栄一,朝川席二編:『経営方針と利益計画』, 大蔵出版,昭和30年,138ページ。
予算とする。 ⑥ 各経費項目別に操業度の変化に応じた変動率を定める。 (7)操業度の変化により予算を調整し,標準となる予算額と実際額とを比較 ユ し,予算実績差異表を作成し各部門責任者に報告する。 皿 包括的予算の編成 ウェルシュは予算編成にあたって包括予算の概念を導入する一方会計との関 連性を強調する。たとえば予算手続は会計部門が用いるものと全く同一の勘定 科目表を利用したり,また同じ収益および費用の分類を採用することなど予算 手続と会計との統一を図っている。更に会計的方法をとり入れている観点で は,利益計画とともに標準原価管理との関係が強調され,標準原価と予算原価 の比較,会計と予算手続における材料費,直接労務費,間接費の標準原価,標準 お 原価に対する費用変動予算,標準原価間接費差異の分析等をとり入れている。 予算編成における包括予算の概念は企業における各部門予算の遂行を企業全 体として眺める場合に有効に働らくためにある。したがってトップ・マネジメ ントによる総合管理と各部門における管理者の間における連繋はきわめて重要 である。ウェルシュはその間の有効な予算編成についてつぎの点をあげてい る。 (1)予算計画全体がトップ・マネジメントの積極的な,しかも心からの支持 を受けなければならない。 (2)公的な組織原理および権限とそれに関連する責任委譲の原理がすべての レベルの諸活動において適用されなければならない。 ③ 予算の作成,実施および監督に対する責任(および権限)が明確に定め られ,しかも公式に規定されなければならない。予算責任の委譲は業務責任の 委譲と一致しなければならない。 11)今井 念:「固定予算から変動予算へ(1)」,『企業会訓』,第5巻第6号,pp. 22一一23. 12)Welsch Glenn A.=ibid.,1st., ed., p.24,諸井勝之助訳1前掲書,41ページ。 13) Welsch Glenn A.: op. cit・, lst., ed., pp. 327一一347.
経営管理の用具としての予算管理 7 (4)予算編成と会計との関係が明確に定められなければならない。 (5)企業全体にわたって継続的に予算教育がなされなければならない。 ユの ⑥ 予算の利用とその限界が充分に認識され,理解されなければならない。 ユつ ところで包括的予算管理制度の構成要素はつぎの4つである。 1.計画設定予算または予測予算 planning budget or forecast budget 2.変動経費予算 variable expense budget 3.補助的統計 supplementary statistics 4.経営管理者に対する予算報告書 budget reports to management 1. 計画設定予算または予測予算……前者は固定予算ともいわれ,企業の一 定期間における業務について経営者が設定した総合計画をあらわし,経営者の 方針および目標の公式の表明であり,職能および組織上の責任にもとづいて細 分化される。しかして包括的予算プログラムの構成要素はつぎのとおりであ る。 ① 業務予算 a。見積損益計算書 b.損益計算書の付属明細表 1)販売予測 2)製造予算 3)一般管理費予算 4)販売費予算 ② 財務予算 a.見積貸借対照表 b.見積貸借対照表の付属明細表 L)現金予算 2)受取勘定予算 14)Welsch Glenn A.=op. cit.,1st., ed., p.17,諸井勝之助訳:前掲書,34ページ。 15)Welsch Glenn A,:op. cit., lst., ed., pp.34∼36.諸井勝之助訳:前掲書, pp.51 一一58.
3)投資予算 4)減価償却明細表 5)その他 ㈲ 割当型予算 a.広告予算 。 b.研究予算 c,その他 この計画予算は包括予算計画における中心的意義をもつものであり,予算統 制における予算編成の具体化を意味しているものである。そしてさらに計画設 定予算ないし予測予算の作成および構造の相互関係を図示すればつぎのように なる。 業務計画 1 経営管理老の年次目標および目的l I つぎのものに公式に表示される ↓ し し 1 計画設定予算ないし予測予算 1 1 1 このなかで経営管理者はつぎの ものを明確にする ↓
全般的利益目的
1 } つぎのものに細分される ↓ ↓ ↓販 売 予 算 営業外収益予算
(難旙蓼び繕1つ
(利子収入,特許権使用料収入等)1
差 引 / 原価および経費の全般的目的 ‘ 製造 予 算 (製造すべき費用) 1 つぎのものに細分される , s ¢費㈱一 予よ 算歯ノ 口〃口〃 売域間 販…ラ
一般管理費予算 (爵醐および) ・ 営業外費用予算 (利子費用等)つぎのものを含む ・
’
購 買 予 算 使用材料の原価 ・1醸労獺予算
・灘間即興
経営管理の用具としての予算管理 9 , 業務計画全体は究極的につぎのものに反映される .1陣務予9−1/
1 つぎのものからなる 1 / 」見積貸借対照表
(資産・負債・資本) 算 予算算算斜 位予予予 下 の ⋮的金庫三 助現在投そ一
補 2.変動経費予算……計画設定予算が費用,収益,資金という経営活動全般 にわたる予算であるのに対して変動予算は費用についてのみ考慮される。変動 予算は計画設定予算とは全く別個のものではあるが,これを補充するものであ う る。変動予算は固定費+(変動費率×操業度)として示されるので,操業度さ え把握できればそれに応じた費用予算額を算定することができる。したがって もし計画設定予算を作るときに変動予算が事前に作られていれば計画設定予算 操業度における費用許容額の算定が正確にできることになる。さらに変動予算 により実際操業度における費用許容額を直ちに算定できるから差異分析が可能 ユマ となり動態的原価管理dynamic cost controlカミできる。 3.補助的統計……これは前2者たる計画設定予算および変動予算に関連す る管理用具とその他の資料であり,ことに重要なものは損益分岐点分析であ る。ウェルシュは損益分岐点分析と予算管理とを密接に関連させ,計画設定予 16)Welsch Glenn A:op. cit., lst., ed., p・38.諸井勝之助訳:前掲書,56ペーシ。 17)Welsch Glenn A.=op. cit.,1st., ed., p・39.諸井勝之助訳:前掲書,57ページ。算の編成において,損益分岐点分析による利益計画にもとづいた総合的観点か ら費用,収益と操業度を考慮して目標利益に合う計画設定予算を編成しようと する。 4.経営管理者に対する予算報告書……これは予算と実績との比較,両者の 差異分析およびそれらの報告である。この予算報告書によって予算の実施が確 実になされ,予算差異分析による諸般の改善措置の実施およびその追跡調査が 18) なされる。 以上みてきたようにウェルシュの『予算管理』の初版では計画設定予算と変 動予算とを中心にして補助的統計と経営管理者に対する予算報告書を加えて包 括的予算管理制度を構成している。 これに対してウェルシュのr予算管理』の第2版では包括的予算管理制度の 構成要素をつぎの5つにしている。 1.長期計画 the strategic or long range plan 2.年次利益計画 annual prQfit plan 3.変動経費予算 variable expense budget 4.補助的統計 supplementary statistics 5.経営管理者に対する予算報告書 budget reports to management 1の長期計画というのは3年∼10年内に企業が行うべき青写真をたとえば売 上,費用,研究開発,資本的支出,利益,現金などについて設定した経営者の 計画を指す。そしてさらにそのような長期計画の一部としての予算を年次利益 コ ユ ラ 計画としてより具体性をもたしめる。 ところで包括的予算管理制度comprehensive budget programはウェルシュ の『予算管理』の第3版および第4版ではcomprehensive profit planning and おの control programとなっている。けだし予算管理はその内容とするものが年次 18)Welsch Glenn A.:op. cit.,1st., ed., pp.34一一36.諸井勝之助訳:前掲書, pp.51 −58. 19)Welsch Glenn A.:Budgeting:Profit planning and Control,2nd., ed., Prentice− HaU,1964. pp.45∼46. 20)Welsch Glenn A.:Budgeting:Profit Planning and Confrol,3rd., ed., Prentice一
経営管理の用具としての予算管理 11 利益計画annual profit planであるからである。包括的という意味はウェルシ ュのr予算管理』の第2版によれば予算原則および手続を個々の企業の全活動 分野に適用し,部分予算を全体利益計画に総合することであるとし,また第3 版では,(1>企業の業務のあらゆる面に広範な利益計画とコントロールの概念を の 適用し,(2)さらにトータル・システムズ・アプローチを適用することとしてい る。したがって包括的予算計画の概念は経営における計画,調整,統制目的を 充分に達成するに必要な技術および経営活動の全分野を網羅して立てられる予 算計画を包括したものである。そして包括的予算管理制度はつぎの順序で行わ おの れる。 1)企業活動にとって関連のある変動要因のすべてが企業に及ぼす将来の影 響を評価する。 2)経営首脳者が企業の広い目的を明示する。 3)企業の具体的目標を確立する。 4)企業戦略を案出し評価する。 5)計画前提表を作成する。 6)プロジェクトプランを作成し評価する。 7)長期的利益計画を編成し承認する。 8)短期的利益計画を編成し承認する。 9)補助的分析を案出する。 10)計画を実施する。 11)業績報告書を作成し配布し利用する。 Hall.1971. p.60. Welsch Glenn A,:Budgeting:Profit Planning and Control, 4th,ed,Prentice−Hall, IY76. p 61. 2i) Welsch Glenn A.:op. cit.,2nd., ed,, pp.5∼6, 22)Welsch Glenn A. l oP., clt,,3rd., ed・, P.60. Welsch Glenn A.:oP., cit.,4th., ed., p.61. 23)肱黒和俊;「ウェルシュ予算:管理論」,『山口経済学雑誌』,第25巻第3・4合併号 p. (241)一105一。 24)Welsch Glenn A.:op., cit.,3rd., ed., pp.60∼61. Welsch Glenn A.:op., cit., 4th., ed.. P.61
12)追跡調査を実施する。 このうち1)∼5)は実体計画であり,6)∼9)は財務計画である。また 両者に共通して1)∼9)は計画設定のプロセス=予算編成のプロセスであり 10)は指揮職能,11)∼12)は統制職能である。 ウェルシュの予算管理についての研究過程をみるとき,1953年の「固定予算 あうと変動予算一その統合に関する研究」,1957年の『予算管理』初版および1964 年の第2版においては包括的予算管理制度として財務計画を扱ったのに対して 1971年の第3版では財務計画とともにさらに実体計画もとりあげ,予算編成の プロセスを実体計画と財務計画としたところにウェルシュの予算管理の発展を みることができる。 IV 予算制度の原則 予算制度がその機能を発揮するためには,予算制度を支えている原則が何で あるかを検討しなければならない。 ラ A.予算による経営計画についての基本原則(予算編成の原則)fundamentals or principles relating directly to managerial planning through budgeting 1.組織の原則 the principle of organization 予算計画は権限と責任が結合された確固たる組織によらなければならない。 計画と予算は個々人の責任のもとで行われなければならないから,それは結局 組織の責任に関係してくる。 2.責任会計の原則 the principle of responsibility accounting 予算は効果的な会計システムの上に編成され,執行されなければならない。 この会計システムによって個人の業績が測定され評価されるのであるが,企業 外部のニーズにかない一般に公正妥当な会計原則に支えられる会計システムは 25)Welsch Glenn A.:“The Fixed−Flexible Budget−A Study in Integratioバ, N. A, C・A・Bulletin,1953, May. 26)Welsch Glenn A,;“Budgeting for Management Planning and Control”, The Journal (∼f Accountancy, Oct,1961, pp,38∼39.
経営管理の用具としての予算管理 !3 重要な機能を果たすものではあるが,ただ会計システムだけでは経営計画や統 制には不充分である。 3,参加の原則 the principle of participation この原則は計画データのインプットに確定的な責任を有する。経営者の責任 とはトップの経営に対する高いレベルにおける計画と政策に従って自己の責任 を遂行するための計画を設定することである。低いレベルの経営では参加によ って効果があがるが,いくつかのチェヅクや制限が必要である。名目的な参加 だけでは良い効果は期待されない。予算手続の計画は経営参加にふさわしい体 制を提供する。すなわち会計や予算の専門家は計画システム.をデザインし調整 するが,それを執行しなければならない人は予算を編成しインプットデータを 提供する。この手続によって経営における参加の原則を効果的に実施できるの である。 4.適時性の原則 the principle of timeiiness 計画活動には明確なスケジュールが明文化された形で存在しなければならな い。一度このようなことが予算計画にとり入れられると計画における遅延は殆 んどなくなる。多くの企業では予算計画を検討する期間中は外部からの関与を 拒けるものである。このような企業では戦略的計画と詳細な計画の双方共合理 的かつ適時性を得ている。 5.確信の原則 the principle of confidence 予算は会社の諸事象に重大な影響を与えること,およびこのような影響を計 画することが任務であると経営者は確信を持たなければならない。現実の政策 や目標は事前に設定されることが重要である。企業の経営に関して責任を有す る人は自己の成功と会社の成功を結び付け,現実の目標に達するよう自信をも って努めなければならない。 6.弾力性の原則 the principle of flexibility 予算が経営を行うものではないから,予算を適用するに際しては弾力性がな ければならない。これは窮屈な上衣が押しつけられてはならないという認識を あらゆる階層の人がもたなければならないことを示している。
7.現実性の原則 the principle of realism 予算計画においては経営者は過度の保守主義であってはならず,また逆に不 合理な楽観主義に走ってもならない。現実に達成可能な目標を設定しなければ ならない。 り B.予算統制の原則 principles of budgetary contro1 1.個人認識の原則 the principle of individual recognition この原則によって個人が認識され,顕在的,非顕在的業績が確認される。評 価のシステムは公正であり理解され易い正確なものでなければならない。この 評価システムによって個人の能力,希望および反応を認識し,さらに個人に影 響を与えるグループの圧力をも認識し得る。個人の尊厳は尊重されなければな らないQ 2.組識の原則 the principle of organization これは計画のところですでに述べた原則である。コントロールは人によって 行われるので目標と共に組織の観点からそれぞれの責任を明確にしておかなけ ればならない。健全な計画は効果的なコントロールを行う場合の基本となるも のであるが,業績の測定と報告は組織の責任の名のもとに行われなければなら ない。 3.有効伝達の原則 the principle of effective communication 伝達というのは個人相互間の理解である。有効な統制を行うためのコミュニ ケーションとは主従ともに責任と目標について同じような理解をもっていなけ れぽならない。責任をもって作られ,経営者によって案出された計画予算は相 互の理解を保証するものでなければならない。 4.標準の原則 the principle of a standard 目標,目的もしくは標準のシステムはコントロールにとって重要である。標 準はつぎの2つのものを提供するために重要である。a)シュートすべき目標 を提供する。b)コントn一ルの状態を測定するために現実の結果が比較され る水準点を提供する。換言すれば目標の達成度に関するものを決定することに 27)Welsch Glenn A・:lbid., The Journal of Accountancツ, Oct.,1961, PP.39∼40.
経営管理の用具としての予算管理 15 なるQ 5.例外管理の原則 the principle of management by exception 多忙な経営者はラインに悩まされることなく平常発生しない例外事項に専念 しなければならない。この原則を有効ならしめるには例外が目立つようにコン トP一ル・システムを設計しなければならない。 6.追求の原則 the principie of foliow−up 一 業績が良い場合でも,また悪い場合でも調査されなければならない。 a)業績が悪い場合には,直ちにしかも建設的方法で行動を訂正するため追 求する。 b)業績が良好な場合にぱ,これを認めさらに他の分野にまでこの方法を忌 めるため追求する。 c)将来における改良された計画や統制の基礎を提供するため追求する。 7.弾力性の原則 the principle of flexibility 費用や原価の予算は固定的に使用されてはならない。変動予算あるいは弾力 予算は費用コントP 一一ルの問題を解決するためにしばしば用いられる。たとえ ばある財を10,000個生産しようとするとき,間接労務費を$2,000要したとす る。いま生産量を12,000個と仮定すると10,000個生産のときの費用と12,000個 のときの費用との比較は意味のない差異である。変動予算は比較に先立って実 際の生産量に予算値を修正する手段を提供するものである。 8,原価意識の原則 the principle of cost consciousness 経験的にも学術的にも原価意識をもつことは効果的コスト・コントロールに とって基本的に重要である。したがって経営者とともに従業員等の下位に属す る人々も原価意識をもつことが重要であり,そのために個人とグループの心理 を取扱い,コスト・コントロール・システムは心理学的現象を利用するように 設計されなければならない。 以上述べたようにウェルシュは予算統制の原則を8項目にわたって取扱って いるが,青木茂男教授はウェルシュと一部は共通するが,これを6項目として
おられる。
−▲9臼34ムFOρ0
予算は経営計画機能をその設定過程に含むこと。 予算の設定にあたっては基礎資料の整備が必要である。 人間側面の配慮が重要である。 総合管理の手段としての予算制度の認識を要す。 弾力性が必要。 予算管理単位制の責任・権限の明確化と責任会計。 V 包括的予算管理制度 ウェルシュの包括的予算管理制度は特殊機械装置のすぐれた製造会社である Reed Roller Bit Company of Houston, Texasを調査研究して予算管理を体系 化したものである。 弾力性予算flexible budgetや固定予測型予算fixed forecast−type budget tlこ ついては従来から多く書かれているが,この2つのタイプの予算が包括的予算 計画に統合されたものは殆んどない。予算制度を有する優良会社であるReed Roller Bit Companyは弾力性予算と固定予測型予算とが完全に統合された完 全な包括的予算統制計画をもっている。この予算計画の各部分が科学的経営の 基礎的機能たる計画,調整,統制の遂行過程において経営活動をどのように助 きの けているかを検討することは重要である。さらにReed Roller Bitでは固定予 算(予定財務諸表)を将来の業務を計画し,調整し,指導するために用い,前 述したように弾力性予算を動態的な原価管理を行うための手段とし,かつ固定 おの 予算編成の助けとなるよう用いている。 計画:1 組織と勘定の基礎basis in the organization and accounts この会社は1933年以来予算管理を上手に用いてきた。その後も効果的な財務 28)青木茂男’『現代管理会計論』,国元書房,昭和51年,219ページ。 29)Welsch Glenn A.:op.,αし, N A C A Bulletitt,ユ953, May, p.1182. 30)Welsch Glem A:op., cit.1>. A. C.ノ/Bulletin,1953, May, p 1184. 31)Welsch Glenn A:op., cit,2>. A C A. Bulletin,/953, May, pp.1182∼]183,経営管理の用具としての予算管理 17 予算制度や営業予算制度が幾年も続けられ,その間良き予算に対する本質究明 が行われ予算政策が発展されてきた。これらの本質の適用はつぎのとおりであ るQ 1. トヅプ・マネジメントによる全面支持と参加。wholehearted support and participation by top management. 経営政策はつぎのような会社の予算手引にあらわれる。 r会社の経営は財務 統制や営業統制の用具として予算統制に関与する。利益を計上し,費用を負担 することに責任がある会社の経営者は予算を編成し,これを使用する立場にあ る。最終分析において予算計画を作る責任はすべての人であり,特に部門の長 や監督の責任である。反対意見の出ない場合は会社の重要人物key manが予 算の下における責任を理解し,最善の努力を払うことを経営者は考える。』 2.予算管理組織 organization for budgeting 権限と責任のラインが定められ,組織系統によって関係者に伝達される。予 算は組織の責任を有する人によって作成され,社長,副社長,予算部長からな る予算委員会は公的な組織となる。この委員会は基礎的な予算問題に関係し, 予算計画が企業全体に関係するものであれば予算部長はその会社の中で比較的 高い地位の人でなければならない。 3.勘定の図解 chart of accounts 予算計画をうまく立てるためには会計担当者と予算立案者との問に綿密な協 力がなければならない。この協力は原価計算や予算管理機能の面にまで及ぶ。 用いられる勘定のチャートは予算計画のものと一貫していることが肝要であ り,特に責任と収益および費用の分類に関しても一貫していなければならな い0 4.予算手引 the budget manual 権限と責任のはっきりとした公の代表の政策と調和して,予算政策と手続が 詳細な予算手引となって公に発表される。手引には政策や手続に加えて予算ヵ レンダ,予算分配の指示,予算準備と実行に関する経営者の義務が掲載され る。予算部長は予算を準備することはなく,各々の責任ある経営者は実際の予
算準備に役割を演じているので,予算部長はむしろその準備の監督をするので ある。 このような基本的な本質を基礎におきながら経営に対する能率と最大の有用 性に必要な特性をもつ予算基盤を確保するために絶えざる努力が払われる。 計画:2 報告の公式化 formulation in reports 予算部門はつぎの報告者と会計期間内の統計を発行する。 1.年次の主固定予測型予算 2.弾力性費用予算 3. 月次の財務・営業報告に関する予算変動 4.月次の業績報告 5.予定量を基礎にした予算費用の割当 6.月次の販売達成報告 これらの報告は直ちに簡潔に説明がなされ,予算年度の開始に先立って,主 予測予算は来るべき年度に対する費用割当に見合う販売予測を基礎におくもの である。会社部門は予算割当や変動に対する実際の数字欄に加えて,月次の財 務諸表を作成する。この月次財務諸表は「月次財務と営業報告」に関するもの であり,貸借対照表,損益計算書,予定表および要約された予算変動である。 これらの報告は実際の費用と予算変動を年,月,日の詳細にわたって示すもの である。 月次の財務・営業報告および月次業績報告に示されている予算変動には2つ のタイプがある。 1.固定予算変動……これは販売に関する変動および貸借対照表変動は実際 と予算割当との問の固定予測型予算差異を示す。 2.調整予算変動……これは仕入原価,販売費,管理費および製造費用の変 動は実際と弾力性予算割当の問の代数的差異を示す。 この会社の予算計画の概観から固定予測型予算と弾力的費用予算の統合が示 32)Welsch Glenn A.:op。, cit, N. A, C. A Bulletin,1953, May, pp.1183∼1!84,
経営管理の用具としての予算管理 19 され,会社は固定予測型予算を将来の営業の計画,調整,指針に用い,また弾 力性費用予算を動態的コスト・コントロールおよび予測予算の準備に役立たし めんとするのである。 ききラ 手続:1 弾力性予算の編成 flexible budgeting 予算作業は1か年を通じての継続的なものであるが,実際の基本予測予算の 準備は10月に始められる。実際の予測予算編成に先立つ基本となるものは販売 予測と弾力性予算である。弾力性予算は各部門あるいぱコスト・センタで編成 される。各部門やコスいセンタで発生する各費目に対して1つの弾力性予算 公式が求められ,この公式が部門やコスト・センタごとに1組となって部門毎 の弾力性予算が編成される。この弾力性予算公式は固定費および変動費率のい ずれかによって示され,固定費は月額,変動費率はベース当りの率が示され ろ。一般的にいえば製造部門ではベースとして部門の直接労働時間を用い,非 製造部門すなわち補助部門では総直接労働時間を用い,また販売および一般管 理部門では純売上高を用いる。過去のデータによって作られる見積許容額は将 来の条件や期待,たとえば労働条件,賃率,貯蔵品の価格,取引先の条件や一 般経済条件によって修正され,弾力性予算の仮許容額が決定される。そしてさ らに部門責任者がこれらのことを考慮し,予算担当重役が変更案を検討し,改 正案は固定許容額や変動率に及び,これらのことは弾力性予算にも組み込まれ る。かくして弾力性予算額ぱ予算委員会によって勧告的承認を得,さらに社長 によって公式に決定される。これらの各部門別弾力性予算は「19××年度弾力 性予算」と名付けられてまとめられる。この総合された弾力性予算はつぎの下 部予算からなる。 1. 部門イ固男ll間接費 clirect factory overhead 2,部門共通間接費general factory overhead 3.工場管理費administrative factory overhead 4.補助部門費service department overhead 3?,) XVelsch Glenn A.: op., cit,, N, A. C. A, Bulletin, 1953, May, pp. /185一一一1187.
5.分工場間接費branch shop overhead 6.地域別販売費divisional selling expense
7.販売問接費sales overhead
8.一般管理費administrative expense
このようにして準備された弾力性予算は予算期間にわたってつぎの目的のた めに用いられる。 1.基本予測予算における費用予算許容額を求めるため。 2. a)月次財務報告 b)月次部門別達成原価報告に示される予算差異を 計算するために月次の達成された量をもとにして作成された調整予算許容額を 決定するため。 3.生産に先立ち,各部門に対する費用許容額の予算予測額を求めるため。 手続:2 固定予測予算の編成 fixed forecast budget この固定予測予算とは基本予測予算master forecast budgetをさし,資産, 負債,純資産および販売予測に対する費用の許容額に関連しその細目はつぎの とおりである。 ①予算貸借対照表,(2)予算諸比率,③予算損益計算:書,(4)販売予算,(5)販売 製品原価,(6)原料,仕掛品,完成品予算,(7)消耗品,工具有高予算,(8)製造間 接費予算,⑨販売費予算,⑩管理費予算,⑪雑収益・費用予算,(②諸統計・損 益分岐点分析および図表。 販売予測は副社長にその直接の責任がある。会社は正確な販売予測を正常な 販売予測方法から得ることができる。販売高は生産部門,販売部門によって月 次に推定され,損益分岐点分析を可能にしている。販売予測が終るとつぎに重 要なことは費用許容額の決定である。原価の推定は一般予算編成の手続によっ て行われる。製造間接費予算,販売費予算,一般管理費予算等の費用予算につ いては,予め準備されている弾力性予算をもとにしてなされるのであるが,販 売費や一般管理費に関する弾力性予算は純売上高をベースに用いられる。しか 34) Welsch Glenn A.: op., cit., N. A. C. A. Bulletin, 1953, May, pp. 1187一一1188.経営管理の用具としての予算管理 21 し製造間接費弾力性予算は直接労働時間をベースに用いているので,これをそ のままの形で売上をベースとする固定予算としての製造間接費予算を作成する ことはできない。そこでこのような場合には純売上高を部門別の直接労働時間 に換算する必要が生ずる。この方法としては,純売上高,直接労務費,平均賃 率間の過去の比率を調整して換算を行う。 おう 予算報告書と差異分析について検討しよう。予算報告書は,(1)販売成果月報 monthly sales perfor皿ance report(2)財務月報monthly financial and operat− ing report (3,)部門成果月報monthly achievement reportである。販売成果 月報は製品別,販売地区別に予算部門によって作成され,この月報には販売高 について実際欄,予測欄,差異欄があり差異は固定予算差異である。これは販 売部門における販売の目標達成の度合を示すものである。財務月報は23以上の 各種の諸表からなり,貸借対照表,損益計算書,付属明細表のようなもので, それらの諸表の実際欄には会社部門がデータを与え,予算欄には予算部門がデ ータを与えその結果を差異として把握する。ここで差異は固定予算差異と調整 予算差異adjusted budget variationsにわかれるが,前者は固定予測予算と実 績との差をいい,販売高の差異,貸借対照表の数値の差異はこれに属する。後 者は弾力性予算を用いた実際操業度に対する予算額と実際額との比較差異であ り,素価,販売費,管理費,製造経費の差異はこれに属する。一般的に貸借対 照表およびその付属明細表に示される差異は固定予算差異であり(売掛金につ いては調整予算差異による)損益計算書およびその付属明細については調整予 算差異である。 部門成果月報は損益計算書関係について部門別,コスト・センター別,費目 別に差異を示すものである。実際費用の欄は原価計算部門によってそのデータ が与えられ,予算部門は弾力性予算をベースとした予算差異を計算する。この ような性質をもつ部門成果月報はつぎの2つの目的をもつ。(1)費用をコントロ ールした能率の程度を責任ある監督者に知らせる。これは責任ある部門に差異 35) Welsch Glenn A.: op., cit., N. A. C. A Bulletin, 1953, May, pp. 1189一一一1193.
を報告することによって検討される。(2)トップ・マネジメントその他をして好 ましくない差異の原因を見付け,その責任を明らかにすることを可能な:らしめ る。しかして予算統制の効果はいつあらわれるかというと,それは予算報告書 の作成後の諸手続にかなりの程度依存している。トヅプ・マネジメントにとっ ては好ましくない差異についての形式的に書かれた説明は,その時点において は効果的でもなくまた価値もない。したがって有効なのは非形式的な追求であ る。すべての管理者層でインフォーマルな基盤の上に立つ話し合いは好ましく ない状態について行われる。この例外事項についての調査は社長をはじめ最下 級の管理者層にいたる。 さらに予算部門は好ましくない差異の原因を明らかにするにあたり種々の部 門管理者を助けるために努力をはらう。たとえば予算報告書の提出に続いて予 算的立場から諸問題を討論するために予算部門の一員が現場をたずね責任ある 人と接触する。このような手続を踏むことによって執行部門の管理者と予算部 門との関係が良くなり両者間の信頼関係が発生する。さらにこれらの話し合い を通じて予算計画と執行に関する改善のアイディアが生まれてくる。この論理 的にして心理的に健全な予算活動に対するアプローチの結果として,すべての 管理者は予算意識をもつようになり予算計画を好ましい価値のあるプロジェク トと考えるようになる。 このケース・スタディは著名な統合予算計画を示すものであり経営に奉仕す るものである。,この会社の予算マニュアルによればつぎのような諸利益がうか がわれるのであるが,予算制度というのは経営を行う場合の重要な用具であ る。 a.会社の業務のあらゆる部署に対する責任を確定する。 b,すべての部門の調整を得られる。 c.費用に関するコントロールを改善する。 d.棚卸資産を一定限度内にしておく用具となっている。 e 経営政策の樹立,拡張のための資本支出の決定,販売傾向および生産要 求の決定,給与,賃率等の設定のための有効な基礎を提供する。
経営管理の用具としての予算管理 23 f.個人およびグループの成果を評価するための測定尺度として役に立つ。 9.ライン別,地域別の販売量の異なるにつれて利益や費用がどのように変 化するかを示し,その結果として測定に関して改正すべき点を迅速ならしめ る。 h.達成すべき目標を常に設定してきたと同時に目標達成の確度測定のため のゲージを提供する。
VI結
び 経営は予算によって指導されることになるので,予算は企業の経営活動の全 体を包括していなければならない。ウェルシュによれば包括的予算管理とは 予算原則や予算技術を企業のあらゆる活動領域に適用することと,下位の部門 予算を総合予算計画に統合することであるとしている。元来予算は部門予算 としてその機能が発揮されある種の部門あるいは組では右下に作用する。し かし,予算管理に潜在する可能性ぱあらゆる活動領城を包含し,しかも計画, 調整および統制の目的に利用される包括的予算管理によって最高に実現され ヨア る。 経営を遂行するにあたって最初に重要なことは経営の計画である。これは予 算という形の計数的把握によって経営を管理し指導しようとするものである。 しかしながらこの予算計画はけっして静止的なものであってはならず,予算部 門は絶えずトップ・マネジメントと共に研究を続け,さらに経営に有用な改革 を行うよう考慮しなければならない。けだし予算管理は経営に奉仕すべきもの であるからである。予算計画のバックボーンは販売予測と弾力的費用予算であ る。コストをコントロールし基本予測予算や損益分岐点分析に対するデータを 提供する弾力性予算の広汎な適用は注目に値する。しかし予算計画の成功の鍵 は結局トップ・マネジメントの全面的支持を得られるかどうかにかかってい る。そしてさらに予算をマスターと考えることなくこれをサーヴァソトすなわ 36),37)Welsch Glenn A.:op., cit., lst., ed., p.4.諸井勝之助訳1前掲書,22ページ。ヨ う ち経営の用具と考えなければならない。 弾力性予算は操業度の変化に従って発生すべき予算許容額を見積る手段であ り,かっこの予算額とを比較することによって効果的に費用の統制ができるよ うに考案された予算である。したがって予算制度のもつ3つの機能たる計画, 調整,統制のうちの統制機能に重要な役割を演じている。また弾力性予算のデ ータを固定予算の編成にも役立たせることを考えれば,弾力性予算はただに統 制機能のみではなく,計画機能にも大きな役割を演じている。ここに固定予算 と弾力性予算の統合される姿としての包括的予算制度をみるものである。 38) Welsch Glenn A.: op,, cit., N A. C. A, Bulletin, 1953, May, p. 1193.