賃金の本質と現象形態との「中間項」
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(2) . 第8巻 第2号. 北海道学芸大学紀要 (第一部). 2年12月 昭和3. 賃金の本質と現象形態との「中間項」 八. 町. 憲. 北海道学芸大学釧路分校. i YAMATI: t Keni. The lnter ]nediary N[e l = Lber between. the Substance and Apparent For l ・ I S 0f Wr age. 賃金の本質が労働力の価値であることは、 現 在、 あま ねく承認されていることでは あるが、 現実 の賃金と してあらわれる各種各様の現象形 態を、 この本質か ら直接に説明 しようと したために、 今 まで、 かなり誤った見解 が行われた。 また、 それを批判 するに急なあまり、 それ自身の論理の行き つくところが、 賃金の本質を否認せね ばならないような逆に 誤った見解もあらわれた。 わ れ わ れ ] ) および上 林貞 治郎氏の 「革命 的賃金論・革命 的最 は、 前者の例と して宮川実氏の 「価値貫徹論」 2 ) を、 また後者 の例 と して舟橋尚道氏の 「労働の価格 理 論」め をあげることができる。 低賃金論」 これらは賃金の本質と現象形態を直接にむすびつけようと したことか、 或は逆に、 これ らを全く切 りはな して しまったことに 基づく両極端の誤りである。 最近、 このような賃金理論の誤りが漸次反 4 ) われわれ は、 正 しい賃金理論の確 省されて、 正 しい理論の確立のた めの努力 が行われつつあ る。 立 が、 賃金の本質と現象形態をむすぶ 「中間項」 を正 しく把握 することによ っての み可能であると 考える。 本稿は、 かかる見地に立っての正 しい賃金理論確立のた めの努力の一つである。 周知のことながら、『資本論』における賃金の本質(労働力の価値)規 定は次の ごとくである。「労 働力の価値は、 他の各商品の価値と 等 しく、 この独自な財貨の生産 したがってまた再生産に必要な 労働時間によって規定 されている。 ……①労働力の価値は、 労働力の所有者の維持に必要な生 活手 ,段の価値であ る。 ……労働力の所有者が今日の労働を了えたならば、 彼は明日も、 力や健康の同じ 条件のもとで同 じ過程を反復することが出来なければならぬ。 だから生活手段の総額は、 労働する 個 人を労 働する個人と して、 彼の正常的生活状態において維持するた めに十分でなければならぬ。 ……②労働力の所有者は死を免れない。 だから市場における彼の出現が一--貨幣の資本への継続的 転化が前提するように--継続的現象でありう るためには、 ……労働力の生産に必要な生産手段の 総額は、 補充員すなわち労働者の子供たちの生活手段を含むのであり、 かように して、 この独自な 商品所有者の種族が商品市場において自らを不滅なら しめるのである。 ⑧一般的・人間的な本性を ば、 それが或る一定の労働部門における熟練と巧妙とを達 成 して発達 した独自的な労働力となるよ うに 変化させるためには、 ある一定の育成または訓練が必要であり、 それにはまたそれで、 多かれ 少かれある額の諸商品等価を要費する。 労働力の性格の披 媒介性の多少に応 じて、 その育成費は相 違する。 だから、 この修業費は、 普通の労働力にとってはほんの僅かだとはいえ、 労働力の生産 に 5 )(番号の数字は 労働力の価値を構成する三っの部分を示 支 出 さ れ る 価 値の 範 囲 に は い っ て ゆ く の で あ る。」 すために引用者がっけたもの) そ してまた、「食物 ・衣服・媛房・住居などのような自然的慾望そのも. - 68 -.
(3) . 賃金の本質と現象形態との 「中間項」. のは、 一国の気候的その 他の自然的な諸独自性に応 じて相異なる。 他方において、 いわゆる必然的 慾望の範囲は、 その充足の 仕方と同じように、 それ自身一の歴史的産物であり、 したがってまた大 部分は一国の文化段階に依存するのであり、 ……だから、 労働力の価値規定は、 他の商品の場合と は反対に、 一の 歴史的および精神的な要素を含んでいる。 だが、 一定の国にとっては、 一定の時代 G ) には、 必要生活手段の平均範囲が与えられてい る。 」 このような賃金の本質についての明確な規定を与えたのちに、 マルクスは社会的に平均的な労働 力の日価値をいく ばくかの貨幣量であらわされる価値量 (たとえば3 シ リ ング) と 仮 定 し、 そ れ 以 後、 この社会的に平均的な労働力の価値(価格)を前提と して『資本論』の叙述を進 めている。 彼は 『資本論』の中の二、 三の箇所で価値の相異なる労働力に言及 してはいるけれども、 しか し『資本論』 の 研 究 目 的 の た め に は、 こ の こ と は さ しあ た り重 要 で は な い の で、 詳 しく 論 じて い な い。 す な わ ち. 彼は 「労働力の 価値規定には他の二要因が入りこむ。 一方は、 生産様式とともに変化する労働力の 発達費であり、 他方は、 男子労働 力か女子労働 力か、 成熟労働力か未成熟労働力かという、 労働力 の自然的相違である。 これらの相異なる諸労働力の使用は、 --これはさらに生産様式によって制 約せられるのであ るが、 --労働者家族の再生産費および成年男子労働者の価値に おける大きな差 ヮ ) といってい 別を 生ぜ しめる。 だが この両要因は、 以下の研究では なお除外された ままである。」 る。 そ してマルクスは次の 「労賃」 にかん する篇において、 社会的に平均 的な労働力の価値(価格) についてそれが労働の価格に転化すること、 その労働の価格が時間賃金の形をとること、 さらに 時 間賃金が個数賃金に転形するこ とを明らかにするが、 労働力の質的差異=各種労働力の価値の相違 についてはあまり立ち入らない。 だから 『資本論』 の中の労働力の 価値 (価格) -→労働の価格の 論理において、 価値と価格はイ ク ォ←ルと して述 べ られており、 労働力の価値と価格の乗離 の問題 は取扱われていない。 また、 もちろん、 そこでは、「労賃は さらに極めて 多様な形態をとるのであ るが、 ……これらの形態の すべ てを叙 述 することは賃労働にかんする特殊理論の仕事 であって、 本 8 ) とされたのであった。『資本論』 に おける研究目 的が資本制社会 の経済的運 書の仕事ではない。 」 動法則の一般 的・原理的な解明にあるのであるから、 かかる抽象的な社会的 に平均的な労働力の価 値を前提 して叙述を進めたこと は正 しいが、 われわれの課題たるヨリ具体的に賃 金を考えねばなら ない賃金理論においては、 マルクスが抽象的なままで済ま して進んだところを具 体化 し発展させて 行かねばならない。 そう しな ければ、 労賃の多種多様な形態の 「すべてを叙述 する」 た めの理論的 根拠 が把えられないからである。 いいかえれば、 マルクスは 『資本論』 において、 労働力の価値か ら労働の価格への転形をのべる際に、 社会的に平均的な労働力の価値をと りあつかい、 現実 の社会 に存在する具体的有用労働の質的差異に応 じた各種の労働力がそれぞれ一群をな し て お り、 それ ぞれ の群によって労働 力の価値が異って いることを捨象 したのであるが、 われわれにとっては、 ま ず、 この各種の群の労働力の価値の相違から考察を出発させることが、 現実の賃 金を理解するため に必要となる。 一般の商品と同 じように、 この各種労働力の価値が貨幣で表現されて労働力 の価格 に転化するのであるが、 その価格となるときに、 マルクスが 『資本論』 の他の各所で明らかに して いるところの要因や、 独 占資本主義段階になって作用を強めてきたところの要因を合せて考えるこ とが必要となる。 すなわち各種労働力の価値の相違と、 労働力の需要と供給と の不均衡・企業の独 占力・企業の生産力の相違などの要因がからまりあって、 現実のすべての労働力の価格を規制 し、 これがいわゆる賃金格差の問題に集中的に現われる。 各種の労働の価格という現象形態は、 この労 働力の価格から更に転化 して現われるものであり、 労働力の価値からの直接の転化形態ではない。 この点が労働力という商品の価格形態の特殊性なのであるが、 この意 味で、 現実の各種の労働力の - 69 -.
(4) . 八. 町. 憲. 価格の差異=賃金格差は、 賃金 理論の具体化 のた めの、 賃金の本質 (労働力の価値)と現象形態 (労 働の価格) とをむすぶ 「中間項」 である。 そこで第一に、 各種の賃金格差の原因を労働力の 価値規 定の三つの構成部分のちがいによって明らかにすること、 次に、 この 基礎的な賃 金格差 (価値の格 差) の上 .に、 あると きはこれらが重複 して、 またあるときは上記の他の要因が作用 して、 二次的な、 しか し現実的な賃金格差 (価格の格差) を生ぜ しめていることを具体的に明らかにすることが本稿 の課題となる。 宮川 実 『資本論研究』 No .2 日本資本主義研究会 『占領下日本の賃金問題』 舟橋筒道 「労働の価格とその法則」 経済評論 1954年8月号 57年 とくに吉村 励 「賃金問題における一論点--同一労働・同一賃金論争によせて--」経済評論 19 2月号 ・て同氏の見解に負うところは非常に大である。 本稿が出発点におし 20~3 22ペー ジ 5 ) マルクス 『資本論』 第一部、 長谷部訳 青木文庫版 3 ) 6 7 ) 同 書 818 ペ ー ジ 8 ) 同 書 850 ペ ー ジ. ) 註 1 2 ) 3 ) 4 ). 資本制社会に現実に存在 している労働力には、 基礎的な区別と して、 職種による区別、 男女の性 別、 年齢による区別、 勤続年数による区別などがある。 またヨリ細 かにみると、 職種による区別 の 中に、 簡単労働と複雑労働との区別、 肉体的重労働と軽労働との区別、 熟練 労働と不熟練労働と の 区別などがある。 これ らの区別に応 じて、 それぞれ現実に賃金の差が生 じていることは、 経験的に ] )そこで、 これらの各々の賃金格差 につ いてその原因をみると、 も統計的にも明らかな事実である。 それは以下にのべ るように 労働力の価値の相違にもと ずくことが知られる。 もちろん各種 の賃金格 差 にかんする統計上 の数値は、 あらゆる現実的要因のからま りあった結果があらわれてきているの であるから、 以下順次に検 討 していく労働力の価値の格差 の個々の原因によって、 直ちに 統計数値 の全部 の意味が理解できるというわけのものではない。 すなわち、 必要な限 りにおいて関連 してい るすべての要因 を綜合 して、 統計数値を理解 しなければならないのであるo すでに前節でふれたが、 現実の労働力は常に何らかの具体的・特殊的 有用労働を遂 行する 労働能力という形で存在 し、 同じ職業叉は近似の職業に従 う労働力は、 労働市場一般の規 具体的な 定を受けながら、 一応別箇の労働市場を形成 している。 その場合、 のちに考察する労働者の男女別 (1). および成熟未成熟別を度外視すれば、 これら各々の具体的有用労働の質によって区別される幾多の 2 ) なぜなら、 その特定の具 労働力群において、 同一群に属 するすべての 労働力の価値は相等 しい。 体的 労働 力の 価値を構成する前記三部分のうちの技能育成費の部分が相等 しいからである。 つまり 特定の具体的有用 労働を遂 行するごとのできる、 あるいは 「一定の労働部門における熟練と巧妙と を達成 して発達 した独自的な」 労働力になるための育成叉は訓 練に要する費用 が相等 しいからであ る。 だから職 種別にいって、 簡単労働をなす労働力 の育成費は小であり、 複雑労働をなす労働力の 育成費は大であることか ら、 これ らの間に労働力の価値の差異が生じ、 それが賃金格差となって現 われると考えることができる。 これについてマルクスは 次のようにいっている。 「全体労働者の種 々の機能は、 簡単なものもあれば複雑なものもあり、 低級なものもあれば高級なものもあるので、 彼の器官たる個別的諸労働力は極めて相異なる程度 の訓練を必要と し、 した がって極めて相異 なる 3 )これにもとずいて職種別に、 いわゆる 「労働力の等級制--これに労賃の段階が 価値を有する。」 4 ) 照応する--」 が成立する のである。 - 70 -.
(5) . 賃金の本質と現象形態との 「中間項」. もちろん個々の労働力においては、 この育成費は種々な大きさであるかも知れないが、 しか し他 の一般的商品の価値規定の場合と同様に、 一定の具体的有用労働を行う労働力の育成費はそのため に社会的に必要な価値の平均的な量であると考えることができる。 だから、 一定の職種の労働に就 業するた めに社会的・平均的に必要な価値量以上の育成費をかけても、 それは社会的には 「空費」 となって しまうのである。 また、 ある複雑労働に従 事 しうる労働力の所有者が供給過剰 叉は他の原 因によ り、 その労働 に失業 してヨリ簡単労働に従事する場合、 彼の労働力の価格※ は、 複雑労働を する労働力の 価値にではなく、 簡単労働をする労働力の価値 規定に従うのである。 すなわちことで も彼が複雑労働を遂行するために必要であった技能育成 費は価格と して価値通りに実現されなくな 5 ) 前者は、 ある特定商品を生産する際に個別的な労働生産性が劣っているために、 社 るのである。 会的・平均的に必要とされる以上の労働時間をかけた場合に、 後者は、 技術的には社会的、 平均的 な必要労働量を対象化されている商品が、 需給の不均衡によりその価値通りに実現されない場合 に 照応する。 ここで特に技能育成費部分のみを問題とするのは、 職種別の労働力の価値規定にあたっては、 一 応本人 の生活維持費部分およ ば家族扶養費部分を除外 して考えなけれ ばならないか らである。 従っ てこの場合にはさ しあたり、 技能育成費以外の他の二つの部分は職種の異なるすべての労働力の価 値において差異がなく、 職種別賃金格差は技能育成費部分の差 異のみから生じてくるものとするわ けである。 そ してこれは次にのべ る職種の差異が肉体的重労働と軽労働のちがい ,を含むものを除い て一般的に妥当するところであり、 その上、 同一職種における熟練労働と不熟練労働とのちがいに もとずく賃 金格差の原因と しても妥当するものと思う。 すなわち、 熟練労働をする労働力は不熟練 労働をする労働力に比 べて技能育成費が大であり、 従って労働力の価値が大であるから、 それが賃 金を高めることになるのである。 マルクスは、「等級的 区分と 相並んで、 熟練労働者と 不熟練労働 者とへ の労働者の簡単な区分が生ずる。 後者にとっては修業費がまったく不要となり……労働力の 価値が低下する。珍 といっている。 肉体的重労働と軽労働との差異をふくむ職種別においては、 も し各々の職種に必要な技能育成費 が等 しいものと仮定すれば、 その職種別賃金格差は労働力の価値構成部分のうちの本人の生活維持 費部分の差異に 原因する。 すなわち肉体的重労働は多くの生理的エネルギ←従ってカロリーの消耗 を必要とするものであるから、 それを補うためには本人の生活維持費部分の中、 特に飲食物費を多 く必要と する。 したがってこの点から労働力の価値の増大とな り、 軽労働に比べてヨリ多額の賃金 と い う 現 象 が 生 じて く る。 しかL 現代社会の一般的傾向と しては、 肉体的重労働は技能育成費をあ まり要 しないものであるとされることが多く、 特に精神的労働 と肉体的労働との対立が存在 し、 精. 神的 労働のみを高級なりとする傾向の強い場合には、 肉体的重労働と軽労働とのあいだの労働力の 価値の大小にもとずく賃 金格差は、 それほどはっきりと した現象にならないようである。 ) 註 1 2 ) 3 ) 5 ) 6 ). 三瀦信チ g『労働賃金』 吉村前掲論女 90ページ 83ページ 2~5 4 ) 『資本論』 第一部 58 0~91ペー ジ参照 ※印については後述。 吉村前掲論丈 9 『資本論』 第一部 583ページ. (2) 男女別の労働力の価値の格差について先ず第一に考察しなければならないことは、 いわゆ. る 「労働力 の価値分割」 の問題である。 資本制生産が発展するに従って機械の採用が盛ん になる。 そ して機 械装置が労働者の筋力や熟練を不要なものにする限りでは、 それは婦人労働や児童労働を 導入するようになる。 従来は夫たる男子の みが就 労 していたのに、 漸次、 彼の妻や子供が就労する - 71 -.
(6) . 八. 町州 憲. ように なる。 マルクスはこれにつ いて次のようにいっている。「労働力の価値は、個々の成年労働者 の維持に必 要 な労働時間 によっての みならず、 労働者家族の全成員の維特に必 要な労働時間によっ て規定されたのであった。 機械は労働者家族の全成員を労働市場に投ずることによって、 夫の労働 ワ )彼は こ 力の 価値をその全家族の上 に分割する。 だから機械は、 彼の労働力の価値を減少させる。 」 こで男子労働力 と婦人労働力との価値の差 についてのべて いるのではないが、 この場合、 夫の労働 力の 価 値が家族の上に分割され、 従って従来の価値構成部分の中 の家族扶養費を減 少さ せることに よって、 それが従来よりも低下するのであると理解すれば、 さらにこれに関連 して 次のような理解 ・いて全 家族 が就労できるのではなく、 しかも男子の家 が生れてくる。 すなわち、 すべての家庭に為 族扶養の責任という社会的習慣が消滅するような事態が生 じない限り、 彼の労働力の価 値構成部分 の中に は、 まだ幾分かの家族扶養費が含まれざるを得ない。 以前に比べ て減少はするが、 これを 全 く欠如 するまでには 至らない。 ところが婦人労働者および児童労働者の労働力の価値は、 本来それ らが家計補助的なものと して出現するから、 この家族扶養費部分を殆んど全 く含まない。 彼等の場 合には本人の生活維持費部分 のみが労働力の価値の主たる構成分となっている。 だから一般的に、 男子の労働力の価値に比 べて、 婦人および児 童労働 力の 価値は本来的に低いのである。 ここから男 女別の賃金格差 および成年者と児童との賃金格差 があらわれてく るのである、 と。 次に婦人は資本制社 会における低い社会的地位のために、 職業に関する訓練や育成を十分に受け ることが少い。 このた めに婦人労働者 の労働力は簡単労働をする 労働力あるいは不熟練労働をする 労働力 とな り、 その価値は、 技能育成費部分を欠くか、 あるいはごく僅か しか含まないため に、 男 子に比 べてヨリ小である。 だから、 ここからも男子労働者に比べて婦人労働者の賃金は低くなって 現われてくる。 さらにまた、 機械が労働者の筋力を不要なら しめたとはいえ、 まだ種 々の職種の中には、 女子に 、しその職種が高い価値の労働力 を必 要 とって生理的に不適なもの、 または不可能なものがある。 も とするものであって、 これと婦人にも適する職種との間に職種別賃 金格差 があるならば、 この場合 には、 かかる職種別賃 金格差を生ずるすべての原因 (労働力の価値構成三部分の大小) が、 男女別 賃金格差の現われる原因につけ加わる。 かく して、 男子労働者と婦人労働者との間に、 労働力の 価値の差異 にもとずく ,賃金格差が生ずる のであるが、 一般的な労働 か供給過剰のもとで、 従来の男子労働者の職種 に婦人および児童労働者 が進出 し、 男子に代って雇傭されるようになると、 男子労働者の賃金をさらに低下させる。「機械が 改良されれ ば、 一定の成果を達成するた めに必 要 な 就業成年労働者数が減少するばかりでなく、 あ る部類の個人が他の部類の個人に、 すなわち不熟練工が熟練工に、 児 童が大人に、 婦人 が男子に、 S ) つまり一定種類の 」 代用される。 これら一切の変化は労賃 率 にお ける絶えざる動揺を生ぜ しめる。 労働が婦人や児童によって男子と同じ能率で行われるようになると、 その労働を行う労働力群に属 する労働力の 価格※ は、 婦人およ び児童の労働力の価値に 影響されて、 成年男子 の労働力の価値規 9 ) 定にお ける家族扶養費部分と、 それまでの技能育成費部分とが貨幣に実現されなくなるのである。 1 )にのべたところの、 複雑労働に従事 しうる労働者がその 労働に就業できな この場合にも、 本節( い場合と同様 に、 成年男子労働力と しての本来の大きさをもった労働 力の価値構成部分のうちの家 族 扶養費部分と技能育成費部分とが、 価値通り実現されなくなるわけである。 そ してこのような一 般的な労働力の供給過剰は、 資本制社会においては殆んどつねに存在する。 だから、 労働力の需要 が供給を超過する場合には、 一般的な賃金上昇と同時に、 婦人 および児童の労働力の価格が男子労 働力の価値に影響されて上昇するであろうが、 そういう傾向よりも、 男子労働力の価格が婦人為よ - 72. -.
(7) . 賃金の本質と現象形態との 「中間項」. び児童労働力の競争に圧迫されて低下する傾向 の方が強いのである。 なお、 その他の原因、 すなわち平均的にみて婦人 労働者の年齢 が男子労働者の年齢よ りも若いこ と、 経験年数や勤続 年数が短いこと、 婦人労働者の就業が一時的な性質をもっととなどが、 男女別 賃金格差に影響を与えているが、 これらの原因が労働力の価値をどのように規定するか、 またその 実現をどのように阻害するかは、 次項以下に考察する問題の中に含まれ る。 4ペー ジ 註 7 ) 『資本論』 第一部 64 8 ) 同 書 699 ペ ー ジ 9 ) 吉村前掲論女 90~91ページ われわれは「空費」という考え方の労働力の価値への適用を吉村氏の論文にょって. 与えられたのであるが、 氏は二つの 「空費」 を指摘 しておられる。 すなわち、 ①複雑労働力または熟練労働力の簡単労働または不熟 1 練労働への就業の場合 (本稿二の( )参照)、 ②成年男子労働者の職種への婦人および児童労働者の進出・代 2 用の場合 (二の( )、 すなわちここでの問題)、 である。 しかし、 われわれは 「空費」 という概念により、 そ れらよりもむしろ、 ⑤ヨリ一般的に、 すなわち需要供給と関係なしに、 ある一つの労働に就業するための労 1 働力の生産に、 社会的o平均的に必要な価値量以上の費用をかけた場合を考える (二の( )参照)。 ところで吉村氏は 「空費」 の説明にあたって価値と価格とを混同 しておられるように思う。 価値の形成と その実現とが別のものであることは、 労働力についても、 他の一般の商品の場合と全く同様である。 価値の 形成には需要供給は関係 しない。 需要供給が 関係するのは、 一定の価格で価値が実現される場合である。 だ からこれらを区別していえば、 ①の場合も②の場合も、 それらの労働力の価値はすでに形成されているので あって、 その実現に際して、 すなわち一定の価格で売られる場合に一部が実現されなくなるのである。 だか ら価値の形成にあたっての空費は③の場合のみである。 そこで①と②について本稿でのべたところの傍点※ 印をつけた部分は、 吉村氏において 「価値」 とされていたものを 「価格」 と改めたものである。 (3) 年齢別賃金格差の本質は、 成年労働者と未成年または児童労働者との間に存する労働力の. 価値の差異である。 この 価値の差異は、 男女別の労働力の価値の差異を生ぜ しめた諸原因が、 殆ん ど全く同様に作用 して生ずる。 すなわち、 ①すでに婦人労働者の場合に同時に論じたように、 労働 力の 「価値分割」 と、 それにもとずく成年労働者に比 べての婦人o児童労働力の価値の差異の生ず る理由 とは、 そのまま適用 しうる。 ②また職種によって未成年労働者に不適なものがあること、 お よび③未成年労働者は簡 単労働あるいは熟練を要 しない労働に従事することが多いこと、 これ らす べ て が婦人労働者の 労働力の価値規定の場合と、 ほぼ同様である 。だから未成年または児童労働者 の労働力の価値は、 ①による家族扶養費部分の欠如、 ②による本人の生活維持費部分の一部 (たと えば前述の重労働に要するヨリ多量の飲食物費) の欠如、 および③に よる技能育成費部分の小であ ることによつて、 成年労働者に比 べて小である。 だが婦人労働者の場合には、 前述のごとく資本制社会における婦人の低地 位という社会的理由に よって、 ③の技能育成費部分が小になっているのであるが、 未成年労働者の場合には、 それが男子 であれば、 その後の技能の修業や訓練を受ける機会は婦人よりも多いので、 成年に達するに従って この部分が増加 し、 労働力の価値が高まって行く可能性があるという点が異なっている。 経験年数別および 勤続年数別の 賃金格差は、 これ らの年数が 大体において 年齢数に比例 するか ら、 年齢別賃金格差 に準 じて理解することができる。 とくに熟練労働力と不熟練労働力との間の技 能育成費部分の差異が、 これらの格差に影響する。 ところ で未成年労働者が成年に達するに従って、 また経験年数および勤続年数の増 加に従って、 技能育成費や家族扶養費の部分が労働力の価値構成部分の中 に含まれてくるのであるが、 それは個 人差 があって、 一定の年数にどれだけというこどはできないから、 これを賃金形態に反映させるた めには、 社会的習慣 に応 じて平均的に定める しか仕方がない。 これが賃金体系中の年齢給、 勤続給、 技能給などの小刻み 、な段階づけとなって現われる。 また、「日給何円」とか 「本俸月 額何円」 とかい う賃金形態は、 職種による差異、 熟練り年齢・勤続・経験の差異など、 一切の要素を加味 したもの - 73 -.
(8) . 八. 町. 憲. と してそれぞれ段階づけられる。 それ らは、 本 質的には各労働力の価値を構成する三部分に起因 す るはずのものであるが、 次節 に おいてのべるところの種々の要因 に よって歪められている。 だから このような現象形態 にまで上向すると、 労働力の価値と賃金との関係はとらえにくいものとなる。 そこで資本の側は、 種々の口実のもとに、 賃金をテコと しての 労務管理政策を行うことができるよ う に な る。. なお、 地域的賃金格差は、 地域の 「気候的・その他の自然的な諸独自性」 に応 じた労働力の価値 の差異、 および地域的な物 価の差異による。 例え ば北 海道のよ うな寒冷地・遠隔地では前者は実質 的に労働力の価値を高める し、 後者は実質賃金を低下させるから、 両者を補充するた めに貨幣賃金 が高くなる。 だから地域的賃金格差 は 労働力 の価値を構成する三部分のすべ てに関係 している。. 前節においてわれわれは、 種 々の群に属する各労働力の価値規定について、 主と して三つの価値 構成部分 にかかわらしめて考 察 して来たので あり、 需給その他の諸要因の影響を全く受 けないとす れば、 各労働力の 価値はそのまま価格と して現象するのであるが、 本節においては、 それを 基礎に して、 労働力の価値が価格に転化する場合、 その価値通りの実現を阻害する諸要因について考察 し て行く。 しかも、 この阻害によって生ずる労働力の価値以下での 実現 一般、 すなわち独 占資本主義 段階では労働力の価値通りの実現が賃金の最高限をなすというような一般的な賃金水準の低下に つ いてではなく、 阻害がそれぞれの群の労働力ごとに不均等に行われることによって生ずる賃金格差 について論点を集中する。 1 ( ) 第一に取りあげねばならぬのは、 常傭労働者と臨時雇の労働者の間の賃金格差である。 こ の賃金格差の原因の一つは、 前者に比 べ て後者が熟練度において劣ることにある。 従って臨時雇労 9 働者の労働力の価値は、 前節註 ( )の①と ②の意味での 価値の不完全実現を含めて、 技能育成費部 分を欠如 するか、 またはヨ リ小 であるから、 常傭労働者よ りも小である。 しか し労働力の価値の差異よりも重要な要因がある。 それは、 も し常傭労働者と臨時雇労働者と の熟練度が等 しく、 従って労働力の価値の大きさが等 しいときでも、 常傭労働者の労働力 が比較的 に 価値通 りに実現されるの に対 して、 臨時雇労働者の労働力は価値以下に しか実現されないという ことに あらわれ る。 そ してそれ は労働力の需要に対 して供給が過剰 であることによる。 一般 に、 資本制約蓄積の進行に伴って、 一方に おける機械採用 による婦人 o児童労働の導入の結 果と しての労働力の供給増大、 他方における資本の有機的構成の高度化による労働力需要の相対的 減 少が生 じ、相対的過剰人ロ=産業予備軍の累積とな って、労働者階級全体の賃金水準が低下するの である が、 この賃金低下は労働者階級全般に均等に及ぶのではなく、 最も弱い階層に最も強く影響 するのである。 そ してかかる賃金低下のシワョセ的影響を最も強く受けるものの一つが臨時雇労働 者である。 彼らは臨時雇と して一時的に就業 しうる以外の時間は、 失業者の群に属 している。 失業 中は全く賃金を得ることができないから、 彼らは雇傭される機会が訪れたときには、 職種がなんで あるうと、 また賃金がどんなに低かろうとも、 即座に労働力を売る。 否、 売らざるを得ない。 常傭 労働者の方は、 労働組合を結成 して、 できるだけ労働力の価格を高 めよ うと努力 し、 それがある程 度の効果をあげうるが、 臨時雇労働者は、 普通、 そのような労働力取引のた めの団結力をもってい ない。 む しろ失業者同士が低賃金競争で就業の機会を奪い合う。 いわば労働力のナゲ売りであり、 資本家はそれに乗 じて買いタタキが可能となる。 だから臨時雇労働者の賃金は殆んど常に労働力の 価値のごく一部分 しか実現できず、 最低限の生存費に等 しいような低水準になる。 - 74 -.
(9) . 賃金の本質と現象形態との 「中間項」. ならず、 常傭労働者の賃金に このような競争の結果たる臨時雇労働者の低賃金は、 彼らの間のみ, 対 しても、 その低下への 圧力を加える。 常傭労働者が 労働組合によって それを防止 しようと して も、 臨時雇労働者の賃金水準を高めることができなければ、 その圧迫を完全に免れるこ とは不可能 である。 特に労働組合が企業別に結成されている日本の ようなところでは、 労働組合は臨時雇労働 者あるいは失業者の範囲まで団結力を及ぼすことができないから、 賃金水準全体の低下と、 その中 での常傭と臨時雇との賃金格差とが激 しくなる。 なお、 臨時雇労働者の低賃金の原因、 すなわち、 労働力の供給過剰とそれの特定労働者 層へのシ ワョセによる 労働力価値の 不完全実現 は、 婦 人・児童労働者の 低賃金の理由についても あてはま る。 特に婦人労働者は、 前にもふれたように、 その就職が一時的な性質をもつものが多 いから、 た とえ形式上は常傭であっても実質上は臨時雇的な色彩が強くなつている。 次に常傭労働者と臨時雇労働者との間の賃金格差に一見似 ているが、 しかしその格差の生 ずる原因が異なっているもの に、 職員と雇員(叉は工員・磯員)との間の賃金格差がある。 これは職 (2). 種別、 勤続年数別、 年齢別などの各種の賃金格差 が複合 して生じたものである点、 すなわち、 これ らの格差 を生 じさせる労働力の価値の差異の積みあげによる点もあるが、 他のもう一つの重要な点 は、 それが職員と雇員という身分制上の差異にもとずくということである。 資本家 は 労務管理政策 上の必要から、 職員と雇員との間にある労働力の価値の差異以上に格差をつけて賃金を支払うこと が多い。 即ち、 職員は専ら管理的労働をな し、 雇員は直接的な生産的労働に従事するのが普通であ り、 実際には管理的労働はなんらの価値をも生産せず、 唯、 剰余価値の収奪とその実現、 あるいは 労賃の節約 (労働強化) に寄与するにすぎないにも拘わらず、 資本家の眼にとっては、 かかる職員 の労働の方が雇員の労働よりも企業の利潤増大に寄与するところが大きいというように反映するか )、彼らに対 しては労働力の買いタタキを雇員に対するよ りも緩やかなものにする。 また同時に、 ら1 職員に 身分的な特権を味わせて、 直接的生産者たちを資本のために一層駆り立てさせるた めの一つ の経済的裏づけ=懐柔策と して、 雇員よ りも多くの賃金 を与える。 その際、 職員の熟練・経験・勤続 年数・学歴というような、 賃金を労働力の価値にむすびつければ技能育成費部分に帰するものを実 際以上に高く評価することによって、 外見上の 合理性を保とうと するのである。 (職務評 価とい う 資本家的技術の 生まれる基盤) しかも 雇員に比 べて職員の人数は少く、 また、 いわゆる高級職員=経営労働者層はさらに極く少 い。 だから、 雇員に比べ て職員の賃金を多少増加させることは、 資本家にとつてあま り苦痛ではな い。 とくに雇員の賃金水準が労働力の価値以下に低く、 剰余価値の収奪 が激 しいところ では、 職員 の賃金をほぼ価値通 り支払う程 度であっても、 雇員との間にはげしい格差が生じ、 また時には経営 労働者層に、 超 過利潤の中から分 け前を与 えることもできる。 企業内における労働者の身分制的差別は、 もっと細分 して行うこともできる。 すなわち、 直接的 労働者を作業員・現業員・現業職夫などに分 けた り、 あるいは職員を参事o主事o主事補・書記、 または参事・技師愚技師補・技手に分けた りする。 このような身分上の位階制 にもとずく賃 金格差 は、 賃金が労働力の価値にかかわることを殆んどおおいかく し、 あたかも、 各々の労働力の使用 価 値=利潤増大に貢献する程 度に応 じて賃金が支払われるかのような仮象を生み、「労働の価格」とい 2 ) と一致する。 そ して位階制の下層にある大多数の労働者た ちの賃金が う 「世間なみの 思惟形態」 労働力の価値を実現 していないことは全く見えなくなり、 顧慮されなくなるのである。 ) かかるイ デオロギーの 理論化された ものが 「労働の価格理論」(労働力の使用価値に応 じて賃金が決まる 註 1 と す る) で あ った。. 9ページ 2 ) 『資本論』 第一部 84. 一 75 -.
(10) . 八. 町. 憲. 3 ( ) 最も現象の表面に近い賃金格差であり、 かつ、 賃金の本質が労働力の価値たることを全く おお いかくし、 労働の価格たる現象形態に連結する最後の環となっているの が、 企業規模別賃金格 差と産業別賃金格差である。 これらを問題とする段階 では、 もはや労働力の価値に 直接 には かか わ らない。 これらの賃金格差は主と して企業の利潤 に かかわる。 資本主義の発展ととも に、 一方には巨大な生産と資本の集積・集中がすすんで独占を生みだ した が、 他方 ではその下に各種の中小企業、 零細企業が、 あるときは下請企業と して従属 して、 またあ るときは独 占に圧迫されつつも独立 して、 存在 している。 それらは独 占企業を頂点と して、 中小企 業、 零細企業の順 に ビラミ ッ ト型をな している。 この階層の段階に従って、 それぞれの企業で働い ている労働者の賃金 にも格差 が生 じてくる。 この企業規模別賃金格差の原因は、 第一に企業の独占 力の程度、 第二 に企業の生産力の 高さ、 第三 に労働組合の取引力の強さにある。 独占企業は、 その独 占力の行使 に より、 最大限の独占利潤をあ げることができる。 それは私的独 占資本または政府と癒 着 した国家独占資本と して、 単に独占価格のみならず、 政府買上 げ、 補助金・ 補給金、 イ ンフレーショ ンな どを含むあらゆる源泉からあらゆる手段で利潤をかきあつめる。 また 独 占企業は、 資本の集積と共に最新の技術をも集積 している。 だから一般的にいって、 独占企業は 中小企業よりも生産 力の高さにおいて優れている。 従って独占以前には偶然的、 一時的であった技 術の 優越による超過利潤が、 独占段階では独占に集中 して流れこむ。 このよ うに一方で独占が独占 利潤・超過利潤を あげることは、 他方における中小企業、 零細企業が、 自らの生産 した価値を流通 過程で独占に収奪されること、 および価値の生産過程において、 すでにヨリ劣等の地位にあるとい うことである。 だから独占企業と中小企業以下とは相互に 全くかけはなれた高さの利潤 率をもつ。 独占は最高の利潤率を確保するが、 中小企業以下は平均利潤率にも達しな い。 このような利潤の率 と量における相違 は、 独占企業と中小企 業とのあいだのいわゆる 「賃金支払能力」 の相違という問 題を生みだす。 独占が存在 しない場合 であれば、 殆んどすべ ての資本は平均利潤を獲得 し、 賃金は同一水準で支 払われる。 資本主義の独 占以前の段階では、 普通の経営状態である限り、 労働者に普通の水準の賃 金を支払うことが困難であるとか、 その能力 がないということはあ り得ない。 労働者 は自らの受 取 る賃金部 分以上に剰余価値を必ず作りだ して、 資本に提供 しているからである。 ところが独占が労 働者のみならず中小企業をも圧迫 し、 収奪するようになると、 中小企業の利潤 は独占に吸い上げら れて著 しく減少する。 その結果は不変資本部分と可変資本部分をも償うこ とができないような状態 になることもある。 この場合には 勿論利潤は皆無であり、 従って不変資本部分を縮小 させないとす れ ば、 労働者 に対する賃金を切下げざるを得ない。 いわば絶対的支払能力不足である。 だが、 たと い不変o可変両資本部分を回収 して、 その上、 多少の利潤が残るだけの 売上高を得たと しても、 中 小企業の資本家が資本家である以上、 自分の企業を拡張 し、 叉はヨリ強固な基礎を確立 して他に対 抗 したいという欲求を 捨てられないから、 出来るだけ多くの利潤を確保 しようとする し、 また、 そ う しなければ益々没落 しなければならないのである。 そこで売上高から不変資本部分と、 競争に必 要 なだけの利潤とを控除 して しまうと、 賃金部分が少くなり、 中小企業の労働者の賃金水準が低下 する。 これはいわば相対的支払能力不足である。 いずれの場合にも、 独占の中小企業収奪の結果が 労働者 にシワョセされるのであるが、 独占の力が強ければ強い程、 中小企業における労働者と資本 家との分配分合計 (賃金と利潤との合計) は少くなる。 その反面、 独占企業の分 配分合計は莫大な ものに達 する。 こう して各々の 「賃金支払能力」 の相違が生 じ、 これが両者間の賃金格差 の基礎に な る。. - 76 -.
(11) . 賃金の本質と現象形態との 「中間項」. 中小企業の資本家と労働者との分配分合計が少けれ ば少いほど、 労働者に犠牲がシワョセされる .この点のみに注目すれば 中小企業における労資の賃金をめぐる衝突は、 独占 度合が強まるから、 、 企業におけるよりも激 しかるべ きように思われる。 だが実際には、 中小企業においては労働 組合の 結成を見ているところが少く、 あってもその力は非常に弱い。 多くの中小企業においては、 封建的 または家族的な人間関係が労資関係にまぎれ込 み、 労資調和の支柱となっている。 だから十分な賃 金要求も行われず、 賃金水準が低くなる。 これに対 して、 独占企業においては労資の生産関係はむきだ しであり、 労働組合が大規模に強力 に結成されている。 このような労働組合はあらゆる労働条件について資本に要求 し、 折衝 し、 獲得 する。 特に賃金は労働 条件の中心である。 しかも独占企業の経営内容は、 表面的にではあるが兎も 角も公開されてお り、 独占利潤の高いことが労働者の眼にも明らかであるから、 資本の側も要求に 歩み寄 らざるを得ない。 こう して独占企 業のもとにおける労働者の賃金水準は中小企業のもとにお けるよりも高くなる。 この場合、 独占がその下における労働者に対 して、 必ず しも労働力の価値通 りの賃金を支払 っているというわけではなく、 価値以下の賃 金 しか支払っていない場合でも、 それ と 等 しい程度 の賃金を獲得することは、 中小企業の労働者にとって、 かなり困難なものになる。 逆 にいえ ば、 中小企業の 賃金水準に 基準を おいた 最低賃 金制などは 独占にとってなんら苦痛ではな く、 む しろ歓迎する面さえある。 厳重にこれを実施されれば困るのは中小企業である。 かく して、 企業の独占力と生産力の相違にもとずく 「賃金支払能力」 の相違という 基礎の上に、 労働組合の取 引力の強さの相違が重複 して作用 して、 独占と中小企業の間の規模別賃 金格差が生じてくるのであ る。. もちろん、 中小企業の 労働者が、 中小企業資本家の賃金支払能力を考えて、 賃上げの要求を遠慮 すべ きであるとい う理由はない。 十分に 生活しうる賃金の要求、 労働力の価値を実現するだけの賃 金 要 求 と い う こ と は、 労 働 者 と して 当 然 な も の で あ る。 しか しこ の 場 合 に も、 日 本 の 現 在 の よ う な. 企業別組合組織では、 その要求を達成することが困難である。 現在は、 独占が中小企業を収奪 し、 中小企業では その犠牲を労働者に転稼 し、 他方では独占のもとにおける労働者が多少高い賃 金を独 J ・企業の労働者が低賃金でガマ ンすればするほど、 占から闘い取つているとい う状態であるが、 中/ れてくる。 そ して中小企業 それが中小企業の労働者におしかぶせら 独占は中小 企業の収奪を強め、 の労働者の低賃金は 独占企業の労働者の賃金にも圧力をかける。 企業別労働組合は、 このよう な循 環を傍観 しているようなも のである。 だから、 企業の枠をこえて中小企業の労働者と独 占企業の労 働者とが手を組んで、 低賃金阻止に 努力 することにより、 中小資本家をつきあ げ、 独占資本家との 対立の面に力を向けさせれば、 中小資本 家 が失地回復を して独占資本家との間に新 しい勢力関係を 創造することができるであろう。 その場合、 産業界に一種の再編成が行われるわけであるが、 それ に伴うマサッや犠牲をできるだ け少くするためには、 各種の社会政策的立法とその実施にまたなけ ればならない。 そのためにも 労働組合の広く強い結集が必要なのであるが、 それと同時に、 労働組 合は経済的要求実現のための政 治闘 争、 さらに進んでは政治的要求のための政 治闘争 に努力せね ば な らぬ で あ ろ う。. 最後に、 産業別賃金格差 は、 今まで考察 して来た 各種の賃金格差 が、 産業種類によってその中の 幾つかが、 あるいは すべてが、 重複 して生ずると考えること ができる。 すなわち職種別、 男女別、 年齢別、 勤続年数別、 常傭と臨時雇別、 職員と雇員別および企業 規模別などすべての賃金格差の影 響 のもとに生ずる。 例えば高度の熟練を要する複雑労働の多い産業においては、 その影響によ り産 業全体と しての賃金水準が高くなり、 あるいは従業労働者の年齢や勤続 年数が平均 して高く、 かつ 一 77 -.
(12) . 八. 町. 憲. 独占企 業の多い産業においては、 それらの影響 によ り賃金水準が高くなる、 というようにである。 そ してさらに、 産業別賃金格差の変動 は産業界の景気の推移を極 めて鋭く反 映する。 それは経済 の一般的 な景気循環ではなく、 特定の産業に起るところの、 例えば、 糸ヘ ン景気とか金ヘ ン景気 、 あるいは建築 ブ←ムとか造船 ブームなどの産業別の ブ←ムである。 これ らの ブームによって産業別 賃金格差の序列は大きく変動 する。 四. 以上のごとく賃金格差に ついて各種労働力の価値を規定する諸要因およびその 価値が価格に転化 する際に作用 する諸要因を考察 したのは、 賃金格差発生の「自然史的過程」の原理的考察であって、 これから直ちに現実の個々の労働者の賃金をいくらに決めるのが妥当であるかという政 策的問題の 解答を引き出すことはできない。 これはあらゆる商品の価格がその本質たる 価値に規定されている のではあ るが、 いかなる高さに決められるのが妥 当であるかを計算できないのと全く同様である。 しかも、 他の一般の商品は客観的な物と して存在するから、 価格が価値から背離 すると、 その反作 用 (需要供給の増減、 または生産費の増減)が資本主義の機構によ って速かに行われるのであ るが、 労働力という商品は人間の労働能力であって、 売手たる労働者の肉体から切 り離されて売買される ものではない から、 それの供給の変動は一般商品のような 直接自動的な反作用 の過程 によることは できないのであ って、 間接的な独自な機構 (いわゆる資本制的人口法則) によるか、 さらに絶対的 には、 特殊な歴史的過程 (いわゆる追加的な原始的蓄積) によらざるをえない。 また労働力 の価値 を構成する家族扶養費や技能育成費の支出は、 労働者にとって履歴となっているものであるから 、 訂正 しうるものではない。 値下り (賃金下落) が生 じても、 労働力を 売りひかえて値上 りを待 つこ とができない し、 また値下 りに対応 して、 次の販売のときに、 生産の合理化によって価値を低下さ せるというようなことももとよりできない。 これらの事情は個々の賃金の決定と変動と を極めて複 雑なものに しているのであって、 例えば、 本稿第二節 にのべた各要因にっV ・て、 いわゆる理論生 計 費による賃金要求 額の算出に類することを、 各個人 別の労働力の価値構成部分について行い また 、 本稿 第三節にのべた諸要因を考 慮 してその修正を行うこ とによって賃金格差 を計算 しようとするか の如きことは誤 りであ り、 無駄な努力である。 それよりも当面必要 なことは、 今までよ り高い賃金 水準を闘いとると同時に、 企業内の賃金格差決定 と人事考課のイ ニシャティ←ヴを労働者自身 が握 り、 職場における徹底的な討議により、 なるべく多数のものが納得できるような高さと順位を決定 して行くことである。 この場合、 できるだけ 労働力の 価値構成部分と その大き さを 考慮すると共 に、 その労働者階級的な修正を行うこと、 この方が実際的でもあ り、 概 して正 しい結果 を得るであ ろう。 ここでは外見的に精密な粉装をこら した資本家による職務評価とそれ にもとずく賃金決定よ りも、 労働者 自身の大衆的な智慧がその力を発揮する。 ともかく、「自然 史的過程」 によってにせよ、 人為的にせよ、 賃金格差決定によって得られたそれ ぞれの賃金額が、 労働力の価格と して、 各々の労働者の賃金の基礎的単価=基礎賃率となる これ 。 は一日の賃金(日給制)でいえば、 その時に制定きれている標準労働日に対応 しているもの であ り 、 も しそれが八時間労働であれば、 一時間当りの賃金は労働力の価格の八分の 一になる。 このように して時間賃金と しての各人 の労働の 価格が生れる。 また標準労働日の労働時間 中に遂行され る標準 作業量が測定または制定され るならば、 作業出来高一単位当 りの賃金が定ま る。 このように して個 数賃金と しての各人の労働の価格が生れる。 そ してここに、 各人の労働力の価格は各人 の労働の 価 格に転化 し、 賃金の現象形態を完成する。 - 78 -.
(13) . 賃金の本質と現象形態との 「中間項」. しか し、 かかる労働の価格の根底には労働 力の価格とLての 基礎賃率 が存在 し、 それを通 じて労 働の価格は労働力の価値と結びついているのである。 この 基礎賃率 が同一企業の同一職務について は性別、 年齢別、 所属部門別などに拘わ りなく、 すべ ての人に同一でなければならないという要求 を定式化 したのが、「同一労働・同一賃金の原則」である。 だから、 この原則は 「同一労働に従事す る労働 力の同一価値に対応 して同一賃 金を」という要求ではなく、「同一労働に従事する労働力の同 一価格に 対応 して同一賃金率を」 という要求の 「世間なみの思惟形態」 であると理解されなけ れば 1 ) な ら な い。 ) 吉村氏は前掲論文において、 藤本武氏を批判 して次のようにのべておられる。「(藤本氏にあっては、 一一 註 1 引用者挿入) 労働力の価値分割にもとづく成年男子と婦人の労働力の価値上における差異と同一労働力・同 賃金法則とが、『あれかこれか』という形而上学的形態において提起され、 労働力の価値分割にもとづく成 年男子と婦人との労働力の価値上の差異を否定するという 理論的混乱をひきおこすに いたったのである。 」 これに対して 同氏自身の積極的見解として、 「抽象的な 労働力の価値規定が、 資本制生産それ自体の機構に よって変容され、 労働の質にょる序列によって配列された各種の労働力群において、 同一の質の労働を遂行 する労働力の価値は同一であるという形態であらわれるというこの実在的な同一労働力・同一賃金法則の貫 徹を、 賃金=労働の価格という 日常的思惟形態において 要求したものが、『同一労働・同一賃金』 の要求で ・られるが、 われわれは、 第一に、 「同一の質の労働を遂行する労働力の価値は同一であ 」 とのべてお あった。 る」 という命題が、 労働力の価値について「社会的な空費」という考え方を導入しても成立しがたいと思う。 従事する労働の 質のちがいにょって、 同 じ労働者の 労働力の 価値構成部分の中の 家族扶養費や技能育成費 1 )の意味での本人生活維持費が多少変ること (肉体的重労働に従事することになるような場合には前述二の( もあるであろうが) が価値を形成しなくなる、 従って全体としての価値が大幅に変る、 というように考える ことは、 価値の実体=社会的・平均的に必要な労働の量を 「技術主義」 的に考える限り、 無理である。 失業 労働者がヨリ簡単な、 またはヨリ熟練を要しない労働に従事する場合に、 その労働力の価値が低くなると考 えることは、「社会的必要労働」 の概念の 「消費説」 的理解に通ずるものである。 そこで第二に、 成年男子 の労働力と婦人・児童の労働力とに価値上の差異がある以上、 同一の質の労働を遂行しようとも、 それぞれ の労働力の価値に応じた賃金を支払えば、 異なった賃金額になる。 このように、 労働力の価値において考察 される限り、 抽象的o一般的な労働力の価値にとどまらず、 具体的 な各種の労働力の価値を媒介としても、 依然として、 成年男子と婦人・児童の労働力の 価値上における 差異と 「同一労働力・同一賃金法則」(吉村 氏にょれば、 これは実 在的な法則である。 われわれは 「同一労働・同一賃金」 を要求原則であると考える) とは 『あれかこれか』 という 「形而上学的形態」 で提起され ざるを得ない。 これを正しく把握するためには 本稿のごとく、 前註①と②の 「社会的な空費」 を労働力 の価値の実現の問題として、 具体的な各種の労働力 の価格を媒介として、「同一労働に従事する 労働力の 価格は 同一であるから、 それに 対応 して 同一賃金率 1957 ( . 10 . 6). を」 とい う 理 解 に 立 た ね ば な ら ない。. - 79 一.
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