はじめに
国際会計基準審議会(International Accounting Standards Board; IASB)と米国財 務会計基準審議会(Financial Accounting Standards Board; FASB)は,会計基準のコ ンバージェンスに関して,覚書(Memorandum of Understanding; MOU)を交わしてい る。現在進行中のMOUプロジェクトの1つに,有価証券等の金融商品に関する会計基 準の見直しがある。金融商品会計基準の見直しは,金融危機により2009年4月に開催 されたG20が要請したもので,現在,IASBが2010年下半期,FASBが2011年上半期の 完了を目指し,その作業を進めている。このプロジェクトの動向は,国際会計基準/国 際 財 務 報 告 基 準( International Accounting Standards / International Financial Reporting Standards; I A S / I F R S)とのコンバージェンスを進めているわが国基準にも, 直接的な影響を与える。 そこで本稿では,MOUの金融商品会計基準プロジェクトの一方の当事者であり,か つ,これまで有価証券会計基準に関して,各国の会計基準設定機関に多大な影響を与 えてきたFASBの基準を取り上げ,有価証券の評価法について検討する。具体的には, (1)FASB基準による有価証券の評価法の変遷を跡付けるとともに,(2)その背景を探 ることによって,(3)現行のFASB基準による有価証券の評価法の特質を明らかにして みる。これらの作業は,今後MOUの金融商品会計基準プロジェクトから提示される有 価証券の評価法に関して,その妥当性の判断材料を提供することに繋がる。
米国における有価証券の評価法の変遷
― FAS 115による有価証券の評価法を中心に ―
Development of Security Valuation in the United States
仁 川 栄 寿 E i j u NIKAWA
1.FAS 12設定の経緯
F A S Bは,1975年に米国初の有価証券会計基準となる財務会計基準書第12号 (Statement of Financial Accounting Standards No.12; FAS 12)1)を設定した。FAS 12 設定以前は,有価証券の評価は,1953年に米国公認会計士協会(American Institute of Certified Public Accountants; A I C P A)の会計手続委員会(Committee on Accounting Procedure; CAP)が 公 表 し た 会 計 研 究 広 報 第43号( Accounting Research Bulletin No.43; ARB 43)2)の規定によっていた。ARB 43は,市場性ある有価証券に関して,市 場価格が原価よりも著しく下落し,また,この市場価格の下落が一時的でないことが明 らかな場合,市場価格で評価しなければならないとしていた(Chapter 3, section A, par. 9)。その当時,有価証券に関しては,これが唯一の規定であったため,結果として,多 様な会計処理が容認されていた。 このような状況のなか,1973年から1974年にかけて,有価証券市況が大幅に下落し, その後,1975年に部分的に回復した。FASBは,この時期,すなわち有価証券の市場価 格が原価を下回っていた時期における,有価証券の会計処理について調査した。その結 果,以下のことが明らかとなった(FAS 12, par.1)。 ① 多くの企業は,原価法によって有価証券を評価し,市場価格を反映する評価 引下げを行わなかった。 → 多くの企業は,有価証券を市場価格を上回る価額で評価していた。 ② 一部の企業は,低価法によって有価証券を評価し,市場価格が最低水準に達 したとき,その評価額を市場価格まで引き下げた。その後,有価証券市況が 部分的に回復した際,これらの企業は,その回復を有価証券の評価額には反 映させなかった。 → 一部の企業は,原価および有価証券市況回復後の市場価格のいずれよりも低 い価格で有価証券を評価していた。 上記①および②のような会計実務の不統一を是正するため,FASBは,1975年にFAS 12「特定の市場性ある有価証券の会計処理」を設定した。 2.FAS 12の特質 (1)分類と評価 FAS 12の概要は表1のとおりである。FAS 12によると,市場性ある持分証券は流動
資産または非流動資産の区分に分類され,各区分に分類された持分証券は区分ごとに別 個のポートフォリオを構成するものとされる(par. 9)。各ポートフォリオは,低価法に より,原価の合計額と市場価格の合計額とのうちいずれか低いほうで評価される(par. 8)。また,決算日において,各ポートフォリオの原価の合計額が市場価格の合計額を超 過する額は,各ポートフォリオに対する評価勘定(valuation allowance)として表示し なければならない(par. 8)。 表1 FAS 12による持分証券の分類と評価 1期間の評価勘定の増減,すなわち未実現損益については次の2点に注意しなけれ ばならない。第1に,低価法により,未実現損失はもちろん戻入益も認識する(par. 29c)。ここで,戻入益とは,以前発生した未実現損失の額を上限に認識される未実現 利得をいう。第2に,未実現損失・戻入益の扱いが,流動資産に属する持分証券の ポートフォリオ(流動ポートフォリオ)と非流動資産に属する持分証券のポートフォリ オ(非流動ポートフォリオ)とで異なる。流動ポートフォリオの未実現損失・戻入益は 発生した期間の純利益に含めるのに対して,非流動ポートフォリオの未実現損失・戻 入益の累積的増減額は株主持分に含める(par. 11)。なお,非流動ポートフォリオを構 成する持分証券の市場価格が下落し,かつその下落が一時的なものでないと判定された 場合は,持分証券の原価を切り下げるとともに,その切下げ額を実現損失として処理 する(par. 21)。 持分証券ポートフォリオの全体または一部を売却した場合は,売却した証券の原価 と売価との差額を売却損益として認識する(par. 7h)。売却の際,ポートフォリオに対 する評価勘定の残高の調整は行わない。評価勘定の残高は,期末に保有する持分証券 の原価と市場価格とを比較して決定する(par. 7f)。また,市場性ある持分証券が,流 動資産から非流動資産に,あるいは非流動資産から流動資産に変更された場合,その 分 類 流動ポートフォリオ 非流動ポートフォリオ 定 義 正常な営業循環期間また は1年内に現金として実 現する 正常な営業循環期間また は1年内に現金として実 現しない 評 価 低 価 法 同 左 未実現損失・戻入益 純利益として認識 株主持分の独立の構成要 素として認識
証券は原価または変更日の市場価格のうちいずれか低い価格で振り替えなければならな い(par. 10)。なお,市場価格が原価より低いときは,市場価格が新しい原価となり, 両者の差額は実現損失とみなされ純利益に含められる。 (2)特長と問題点 前節で述べたように,FAS 12公表以前は,有価証券を原価法で評価する企業がある 一方,低価法で評価する企業も存在していた。FAS 12は,このような会計実務の不統 一を是正するため,市場性ある持分証券に関する会計処理を定めたものであった。FAS 12の特長として,次の2つを挙げることができる。 ① 持分証券の評価法を低価法に限定したため,持分証券に関する比較可能性が 確保されている。これにより,投資者が持分証券ポートフォリオの運用状況を 正しく評価することが可能となる。たとえば,年間の株式市況の全体的な傾向 と持分証券ポートフォリオの市場価格の変動額とを比較し,経営者の投資戦 略の成否を評価することが可能になる。 ② 持分証券を低価法で評価するため,持分証券の実現可能額の下限が明らかと なる。これにより,株式市況下落時に投資者が抱く持分証券の実現可能額に 対する懸念が払拭される。 このように,FAS 12は確実に持分証券の会計処理を改善した。しかし,その反面, FAS 12には以下のような問題点がある。 ① FAS 12の適用対象が持分証券に限定され,負債証券に関して,原価法また は低価法の両方が容認される状態が続いたため,比較可能性が確保されてい ない。 ② 持分証券に関して利益と損失に対する非対称的な会計処理,すなわち未実現 損失を認識する一方,原価を超える未実現利得は認識しない会計処理が行わ れている。 ③ 持分証券に関して流動ポートフォリオの未実現損失を純利益に含めるのに対 して,非流動ポートフォリオの未実現損失は純利益に含めないため,未実現損 失を有する持分証券を非流動ポートフォリオに分類することにより,損失先送 りが可能である。 ④ 持分証券に関して未実現利得は,以前発生した損失額の範囲でしか認識され ないため,原価を超える未実現利得を有する持分証券を売却することにより 益出しが可能である。
上記③のような問題が生じるにも関わらず,FASBは,非流動ポートフォリオに関わ る未実現損失を純利益から除外した。実は,FASBはFAS 12の公開草案の段階では,持 分証券に関する未実現損失すべてを純利益に含めることを提案していたが,公開草案 に対する回答者からの反対があったことなどから,これを変更することになった(FAS 12, par. 30)。FASBは,最終的に,流動ポートフォリオに関わる未実現損失だけを純利 益に含めた理由について,流動資産に分類される証券の場合,評価損が今にも実現し そうであると述べている(FAS 12, par. 29b)。 3.FAS 115設定の経緯 FAS 12の適用対象が持分証券に限定されたため,FAS 12公表後も,負債証券に関す る会計実務には大きな混乱がみられた。当時,大半の企業が負債証券を償却原価で評 価していたのに対して,一部の企業は低価法で評価していた。このような状況は,負債 証券への投資に関する比較可能性を損ねるものであった。また,「投資有価証券」への 原価法適用は,益出し等の不健全な投資管理政策を助長すると批判されていた3)。負債 証券の会計処理は,特に金融機関に関して重大な問題となっていた。金融機関は投資 目的の負債証券を償却原価で評価する一方,売買目的の負債証券を市場価格で評価し ていた。そのうえ,負債証券を投資目的と売買目的とに分類する規準が曖昧であったた め,金融機関には,一般企業を上回る利益操作の余地が与えられることになった。 他方,金融機関は投資ポートフォリオによる投機活動を年々増加させていた。当初, 金融機関規制当局は,これらの投機活動に関して特別の措置をとることはなかった。 しかし,1980年代末に投機活動に起因する金融機関の破綻が明らかになるにつれ,金 融機関規制当局は,有価証券の分類・評価の問題に取り組み始めた。後述するように, この動きが端緒となり,紆余曲折を経て1993年にFAS 115「特定の負債証券および持分 証券の会計処理」4)が設定されることになった。 有価証券の分類・評価の問題に注目が集まるようになったのは,1988年のことであ る。この年,以下に示すように,有価証券を「投資有価証券」に分類する規準を巡り, 金融機関規制当局とFASBとの間で見解の相違が表面化した。
1988年4月 通貨監督官(Comptroller of the Currency)は,銀行通達(Banking Circular)において短期保有の売買目的の有価証券を「投資有価証券」 に分類し,原価評価する会計実務は不適切であると指摘し,売買目的 の有価証券は市場価格または低価法で評価すべきであると述べた5)。
6月 連邦住宅ローン銀行審議会(Federal Home Loan Bank Board; FHLBB) は,ポリシー・ステートメント案を公表し,有価証券を「投資有価証 券」に分類する規準を「満期日まで保有する意図と能力」から「予測 可能な将来(foreseeable future)にわたり保有する意図と能力」に変 更することを提案した。この提案の目的は,貯蓄貸付組合(savings and loan associations; S & L)に対する規定を緩和し,S & Lが銀行と同 じレベルで活動できるようにすることであった6)。 9月 F A S Bスタッフは,F H L B Bスタッフに宛てた書簡において,有価証券 を「投資有価証券」に分類する規準として,「満期日まで保有する積極 的な意図と能力」が不可欠であり,この規準を満たさない有価証券は 低価法または市場価格で評価するものとした7)。 このような動きを受けて,以下に示すように,1989年にはSECおよびその意向を受 けたA I C P Aが有価証券の分類・評価の見直し作業に着手することになった。
1989年4月 S E Cチーフ・アカウンタントのクールソン(E. Coulson)は,A I C P Aの会 計 基 準 執 行 委 員 会( Accounting Standards Executive Committee; A c S E C)に宛てた書簡において,投資ポートフォリオにおいて売買が拡 大している状況に着目し,「投資有価証券」の分類規定を厳格化するこ とを要請した。特に,S E Cは分類規準として「満期日まで保有する積 極的な意図と明示された能力」を要求すべきことを提案した8)。 9月 A c S E Cは , A I C P A の 金 融 機 関 委 員 会 の 代 表 者 に 意 見 表 明 書 (Statement of Position; S O P )の策定作業を依頼した。長時間にわた る審議を経て,AcSECは,金融機関委員会の代表者が償却原価で評価 する「投資有価証券」に分類する規準として「満期日まで保有する能 力と予測可能な将来にわたり保有する意図」を適用することを勧告し た。AcSECは,金融機関の大半が有価証券を満期日まで保有する意図 を有していないこと等から,このような勧告を行うことになった9)。 12月 SECチーフ・アカウンタントのクールソンは,AcSEC宛ての書簡にお いて,AcSECがSOP案を検討している間,すなわち新しい会計・開示 指針が確立するまでの間,当面は金融機関に対して財務諸表の注記あ るいは年次報告書の経営者の討議・分析欄において会計情報の開示の
拡充を求めていく意向を示した10)。 1990年,AcSECは,SOP案「資産として保有する負債証券に関する金融機関の報告」 を公表したものの,その内容に関してSEC等の反対に遭う。そのため,AcSECは,有価 証券の開示に焦点を絞ったSOPを公表するとともに,有価証券の認識・評価について は,F A S Bにその引き受けを求めた。SOP案を巡る主な出来事は,以下のとおりである。 1990年5月 AcSECはSOP案「資産として保有する負債証券に関する金融機関の報 告」を公表した。SOP案は,次の条件を満たす場合にだけ金融機関保 有の負債証券を償却原価で評価することとした。すなわち,金融機関 が「予測可能な将来にわたり保有する意図と満期日まで保有する能 力」をもつ場合である。このように原価法適用の緩和を図ったSOP案 は,多くの批判を招いた11)。 9月 SEC委員長のブリーデン(R. Breeden )は,米国議会上院の銀行・住 宅・都市問題委員会において,投資を償却原価で報告することの欠陥 を強調するとともに,銀行および S & L がすべての「投資有価証券」 を市場価格で報告することを真剣に検討すべきであると述べた12)。 S E Cチーフ・アカウンタントのクールソンおよび S E C 企業財務部門の チーフ・アカウンタントのベレス(R. Bayless)は,A c S E C 宛ての書簡 において,以下のような理由を示し,S O P 案に対する懸念を表明し た。第1に,金融機関の危機を隠蔽し,危機への対応を遅らせた最大 の要因の1つは,S & L がモーゲージ・ポートフォリオを市場価格では なく原価で評価してきたことにある。第2に,会計基準設定機関の課 題は,適切な市場価格ベースの評価尺度(market-based measures of valuation)を適用した財務報告を早急に確立することであり,AcSEC もフレームワークが許容する範囲で適切な市場価格に基づく報告を取 り入れるよう努力しなければならない。第3に,市場価格ベースの評 価の導入に伴う報告利益のボラティリティーは金融機関が保有する投資 ポートフォリオから生じるものであり,会計基準は描写すべき実態を 隠してはならない。第4に,経営者の意図に基づいて有価証券を「売 買」証券と「投資」証券に区分する心理分析会計(psychoanalytic ac-counting)は,実践的でもなければ,有用でもない13)。
10月 AcSECの代表者は,SEC委員長のブリーデン,SECスタッフおよび FASBの代表者と面談した。この席でブリーデンは,AcSECが9月末 に有価証券の評価指針の公表延期を決定したことについて再考を求め た。ブリーデンは,この問題はプライベートセクターが取り扱うこと が望ましいとしたうえで,もし,AcSECあるいはFASBがこの問題に取 り組まないのであれば,SECはただちに市場価格会計を推進していく つもりであるとつけ加えた14)。 6大会計事務所は,公表予定のSOPがFASB基準に抵触する可能性が あること等により,AcSECによる基準設定を疑問視する意見を表明し た15)。 AcSECは,有価証券の認識・評価の問題を回避し,開示の問題だけに 焦点を絞ったSOPを公表する方針を決定した。また,AcSECは,FASB に宛てた書簡において,有価証券の認識・評価に関してはFASBに引 き受けるよう求めた16)。
11月 AcSECはSOP 90 -11を公表した。SOP 90 -11は,10月の決定どおり, 有価証券の開示だけを扱ったもので,会計方針の注記,負債証券の種 類別・満期までの期間別の見積市場価格,未実現保有利得総額および 未実現保有損失総額等の開示を要求していた17)。 その後,1991年6月に,FASBは,SECおよびAICPA等の要請を受けて,持分証券お よび負債証券に関する会計処理を検討するためのプロジェクトを発足し18),1993年5月 にFAS 115「特定の負債証券および持分証券の会計処理」を公表した。 4.FAS 115の特質 (1)分類と評価 FAS 115の概要は表2のとおりである。FAS 115によると,持分証券および負債証券 は3つのカテゴリーに分類される。持分証券は売買目的証券(trading securities)また は売却可能証券(available-for-sale securities)のいずれかに分類され,負債証券は売買 目的証券,売却可能証券または満期保有証券(held-to-maturity securities)のいずれか
に分類される(pars. 6, 7, 12)。ここで,売買目的証券とは近々売却する目的で購入し, 保有している有価証券,つまり短期間しか保有しない有価証券をいい,売却可能証券 とは容易に決定可能な市場価格を有する持分証券のうち,売買目的証券に分類されな いものをいう(par. 12)。また,満期保有証券とは,企業が満期まで保有する積極的な 意図と能力を有する有価証券をいう(par. 7)。売買目的証券はすべて流動資産に分類す る。 表2 FAS 115による有価証券の分類と評価 これに対して,売却可能証券および満期保有証券はARB43の流動資産の定義を満た すか否かによって,流動資産または非流動資産に分類する。すなわち,正常な営業循環 期間または1年内に現金として実現すると予期される場合は流動資産に,それ以外の 場合は非流動資産に分類する。
売買目的証券は,公正価値で評価され,未実現保有損益(unrealized holding gains and losses)は,すべて稼得利益(earnings)として認識する(pars. 13, 14)。売却可能証 券は,公正価値で評価されるものの,未実現保有損益は稼得利益には含められず,株 主持分の独立した項目として報告される(par. 13)。満期保有証券は償却原価(amor-tized cost)で評価され(par. 7),未実現保有損益は生じない。ただし,売却可能証券お よび満期保有証券の価格の下落が一時的でない場合には,これらの証券に関する評価 損は稼得利益に含め,原価を切り下げなければならない(par.16)。切下げ後の原価は, その後の認識損失の回復については修正されず,その後の公正価値の上昇は,すべてそ の後の未実現損失と同様,株主持分の独立した構成要素に対する調整として記録され る(par. 16)。なお,受取配当金・受取利息および負債証券の取得の際に生じた額面割 引額および額面超過額の償却額については,売買目的証券,売却可能証券および満期 分 類 売買目的証券 売却可能証券 定 義 転売目的で保有す る持分・負債証券 売買目的・満期保 有以外の持分・負 債証券 評 価 公正価値 公正価値 未実現保有損益 稼得利益として認 識する 稼得利益には含め ず,株主持分の独立 の構成要素とする 満期保有証券 満期まで保有する 積極的な意図と能 力をもつ負債証券 償却原価 認識しない
保有証券のいずれであっても,稼得利益に算入される(par. 14)。 FAS 115は,3つの分類間での有価証券の振替えを公正価値によって処理し,振替日 における有価証券の未実現損益を,以下のように処理することを定めている(par.15)。 売買目的証券から振り替えられた証券 未実現保有損益はすでに稼得利益として認識済みであるため,追加的な損益の認 識は不要 売買目的証券に振り替えられた有価証券 未実現保有損益をただちに認識 満期保有証券から売却可能証券に振り替えられた証券 未実現保有損益を株主持分における独立した構成要素として認識 売却可能証券から満期保有証券に振り替えられた証券 未実現保有損益を株主持分における独立した構成要素として引き続き認識するが, この未実現保有損益は,額面超過額または額面割引額の償却と同様,利息に対す る修正として残存期間にわたって償却 ただし,FAS 115は以下の分類間での有価証券の振替えは,本来はまれにしかあり得 ないはずであるとしている。 ① 満期保有証券から売買目的証券または売却可能証券への振替え ② 売買目的証券から売却可能証券または満期保有証券への振替え ③ 売却可能証券あるいは満期保有証券から売買目的証券への振替え (2)特長と問題点 前述したように,FAS 12に関しては次の4つの問題があった。第1に,負債証券に 関して,原価法,低価法あるいは公正価値法が恣意的に適用されていたため,比較可 能性が確保されていない。第2に,持分証券に関して,利益と損失に対する非対称的な 会計処理,すなわち未実現損失を認識する一方,原価を超える未実現利得は認識しな い会計処理が行われている。第3に,持分証券に関して,流動ポートフォリオの未実現 損失を純利益に含めるのに対して,非流動ポートフォリオの未実現損失は純利益に含 めないため,未実現損失を有する持分証券を非流動ポートフォリオに分類することによ り損失先送りが可能である。第4に,持分証券に関して未実現利得は,以前発生した 損失額の範囲でしか認識されないため,原価を超える未実現利得を有する持分証券を
売却することにより益出しが可能である。 FAS 115は,これらの問題を是正するために設定された基準であり,その特長として 以下の3点を挙げることができる。 ① それまで不統一であった負債証券の会計実務に明確な指針を示した。 ② 持分証券すなわち売買目的証券・売却可能証券に関して,利益と損失に対す る対称的な会計処理が行われるようになった。 ③ 売買目的証券・売却可能証券に関して,公正価値評価が適用されるため,実 現可能額が明らかとなった。 上記②から明らかなように,前述したFAS 12の問題点のうち,持分証券に関わる利 益と損失に対する非対称的な会計処理の問題については,一応の解決がみられた。 しかし,FAS 12の問題点のうち,負債証券に関する比較可能性の欠如,損失先送り および益出しの問題は,以下に示すように,FAS 115においても未解決のままである。 ① 売買目的証券の未実現保有損益は稼得利益に含めるのに対して,売却可能証 券の未実現保有損益は稼得利益に含めない。また,満期保有証券は償却原価 で評価され,未実現保有損益そのものが認識されない。そのため,売却可能証 券および満期保有証券に関して,損失先送りと益出しが可能である。 ② 負債証券は,保有者の意図に基づき,満期保有,売却可能または売買目的の いずれにも分類できる。そのため,同一の負債証券であっても,3通りの異な る方法で会計処理が行われる可能性がある。保有者の意図は主観的なもので あり,有価証券の分類が恣意的に行われる可能性は高い。また,同一のリス クを有する負債証券に対して保有者の意図に基づき異なる評価法を適用する ことは,他企業との比較可能性はもちろん,同一企業の期間ごとの比較可能 性も損なう。
上記①の損失先送り・益出しと②の「意図に基づく会計」(accounting based on in-tent)のいずれに関しても,F A S B はFAS 115の設定にあたって問題視していた(par. 27)。それにも関わらず,これらの問題はFAS 115でも解決されていない。以下では,そ の背景について検討してみる。
(3)損失先送り・益出しと利益のボラティリティー
FASBは,損失先送り・益出しの温床となることが明らかであるにも関わらず,FAS 115において(1)満期保有証券の償却原価評価と,(2)売却可能証券の未実現保有損
益の稼得利益からの除外を定めた。FASBは,(1)の論拠について,満期まで保有する 負債証券に関して公正価値は目的適合的でないとし,(2)の論拠については,ある資産 だけを公正価値で評価し,その資産に関連する負債を公正価値で評価しなければ,報 告利益に不適切なボラティリティーが生じるとしている(par. 57)。 (1)の論拠は,経営者が満期保有証券を例外なく満期まで保有していれば,妥当で あろう。しかし,実際上,経営者がその時々の状況に応じて,適宜,満期保有証券を 満期前に売却したり,他のカテゴリーに振り替えたりしていれば,その妥当性は疑わし くなる。その意味では,満期保有証券の償却原価評価の妥当性は,「満期保有」という 経営者の保有意図の信頼性に依存する。この問題は,まさに「意図に基づく会計」の 問題であるため,次項であらためて検討する。 (2)の論拠の妥当性を判断するにあたり,まず,売却可能証券に公正価値評価を適 用する論拠について確認しておく。FASBは,売却可能証券(および売買目的証券)の 公正価値評価の有用性について,公正価値情報は経営者が特定時点で金融資産を購入 し,その後,一定期間にわたりその資産を継続して保有することを決定した成果を反映 しているため,償却原価情報よりも目的適合的であるとしている(FAS 115, par.78)。 このように売却可能証券の公正価値評価の有用性を認める一方,それから生じる未実 現保有損益を稼得利益から除外した理由について,FASBは以下のように述べている。 ある企業,特に金融機関は,投資証券および負債の両方で金利リスクを管理しよう と考えている。このような企業あるいは金融機関は,投資証券の未実現保有損益だけを 報告し,これと関連する負債の未実現保有損益を報告しなかった場合,稼得利益の潜 在的なボラティリティーが著しく増大し,経営管理方法および企業全体への経済事象 の影響が稼得利益に適切に反映されなくなる(FAS 115, par. 93)。 この点を考慮し,FASBは金融負債の公正価値評価の導入を検討した。しかし,多く の企業が特定の金融資産と負債ではなく,すべての金融資産と負債で金利リスクを総 合的に管理しているため,どの負債が公正価値で報告される負債証券と関係しているか 識別することは困難であり,結局,FASBは,金融資産と特定の関係を有する負債を識 別し,識別した負債の公正価値を決定する適用可能なアプローチを開発できなかった (FAS 115, pars. 51, 54)。そのため,FASBは,負債に対する公正価値評価の導入を断念 するとともに,利益の潜在的なボラティリティーを抑制するため,売却可能証券の未実 現保有損益を稼得利益から除外せざるを得なくなった。
(4)「意図に基づく会計」の妥当性
FASBは,FAS 115公表以前の負債証券に関する会計実務,すなわち投資の保有また は処分に関する経営者の意図に基づいた会計を「意図に基づく会計」と称し,「意図に
基づく会計」は比較可能性を阻害するとしていた(par. 27e)。それにもかかわらず, FASBは結果的には,FAS 115においても「意図に基づく会計」を採用することとなっ た。しかし,以下に示すFAS 115公表後の銀行の会計実務を見る限り19),「意図に基づ く会計」の欠陥は明白である。 FAS 115の適用初年度である1994年において,多くの銀行は,自己資本比率規制を意 識し,国債等の負債証券を満期保有証券に分類することを選択した。当時,金融機関 規制当局が,自己資本比率規制に関して,売却可能証券の未実現保有損益,すなわち, 株主持分に含める未実現保有損益をどう取り扱うか不透明であった。仮に,金融機関 規制当局が,自己資本の計算に,株主持分に含まれる未実現保有損益を算入した場合, 売却可能証券の保有は自己資本比率の変動性を高めることになる。そのため,国債を 大量に保有していた銀行は,安全策をとって,負債証券を売却可能証券ではなく満期 保有証券に分類した。 結局,金融機関規制当局は,自己資本の計算に売却可能証券の未実現保有損益を算 入しないことを表明した。これを受けて,銀行は,負債証券を満期保有証券から売却可 能証券に振り替えることを希望した。しかし,SECは,次の①および②のような行為は 満期保有証券に含まれるその他の負債証券の「満期保有の意図」に対する疑念を生じさ せるとして,カテゴリー間の振替えを制限する意向を示した。 ① 一部の負債証券を満期保有証券から売却可能証券または売買目的証券へ振り 替えること ② 満期保有証券に含まれる負債証券の一部を満期日以前に売却すること その後,FASBからこの問題に対する妥協案が提示されることになる。FASBは1995年 11月に特別報告書「特定の負債証券および持分証券の会計処理に関する基準書第115号 の実務指針」20)を公表し,1995年12月31日までに負債証券を満期保有証券から売却可 能証券または売買目的証券に振り替えた場合,満期保有証券に含まれるその他の負債 証券の「満期保有の意図」に対する疑念は生じないとした。その結果,多くの銀行が, 1995年の年末に負債証券を満期保有証券から売却可能証券に振り替えた。 この事例のように,「意図に基づく会計」はしばしば「恣意的な会計」として機能す る。また,チェンバース(R. Chambers)が指摘するように「証券保有者はすべて潜在的 には短期保有者である」21)。これらのことから,「意図に基づく会計」による会計処理, 特に,満期証券の償却原価評価あるいは「満期保有」のカテゴリー自体の妥当性につい ては疑問が残る。このような認識は,FAS 115設定以前から,FASB内にも存在してい た。FASBのメンバー7名のうち2名が,FAS 115に反対し,すべての有価証券を公正 価値で評価し,未実現損益をすべて稼得利益に含めることを主張していた。
むすび 本稿では,米国における有価証券の評価法の変遷を跡づけてきた。これを要約すると 以下のとおりである。 ①FAS 12公表以前の評価法の特質 FAS 12公表以前は有価証券に関する規定がほとんどなく,事実上,有価証券 の評価について,原価法と低価法の選択適用が容認されていたため,有価証券に 関する企業間の比較可能性が損なわれていた。 ②FAS 12による評価法の特質 FAS 12によって,持分証券を低価法で評価することに定められたため,持分 証券に関する比較可能性は大幅に向上した。しかし,その反面,FAS 12には以 下のような問題点があった。すなわち,(1)FAS 12の適用対象が持分証券に限定さ れたため,負債証券に関しては,原価法と低価法の選択適用が容認される状態が 続き,比較可能性が損なわれていた,(2)持分証券に関して,低価法による利益と 損失に対する非対称的な会計処理,すなわち未実現損失を認識する一方,原価を 超える未実現利得は認識しない会計処理が行われていた,(3)非流動ポートフォリ オの未実現損失は純利益ではなく,株主持分の独立の構成要素として認識するた め,未実現損失を有する持分証券を非流動ポートフォリオに分類することによって, 損失先送りが可能であった,(4)未実現利得を有する持分証券を売却することによ って,益出しが可能であった,という問題点である。 ③FAS 115による評価法の特質 FAS 115によって,持分証券だけでなく,負債証券に関しても規定が整備される とともに,多くの有価証券を公正価値で評価するようになったため,上記のFAS 12 の問題点のうち(2)の問題点,すなわち利益と損失に対する非対称的な会計処理 の問題は大幅に改善された。しかし,その他の問題点に関しては,FAS 115でも未 解決のままである。すなわち,(1)売却可能証券および満期保有証券に関しては, 公正価値で評価されるものの,未実現保有損益が稼得利益としては認識されない ため,損失先送りと益出しが可能である,また,(2)負債証券に関しては,経営者 の保有意図に基づいて売買目的証券,売却可能証券または満期保有証券のいずれ にも分類することができるため,負債証券に関する比較可能性が大きく損なわれて いる。
以上のように,米国における有価証券の評価法は漸次改善されてきた。しかし,現行 基準のFAS 115においても,利益のボラティリティーの抑制を優先したこと等の代償と して,損失先送り・益出しと「意図に基づく会計」の問題は解決されていない。ただ し,FASBは,これらの問題を放置しているわけではない。FASBは,目下進行中の MOUの金融商品会計基準プロジェクトに関して,2009年7月に(1)持分証券・負債証 券等の金融商品は原則としてすべて公正価値で評価すること,(2)持分証券の未実現 保有損益はすべて純利益に含めることなどに暫定的に合意している。現時点では公開草 案も公表されておらず,予断を許さないが,(1)および(2)の合意に沿って基準が設 定されれば,損失先送り・益出しと「意図に基づく会計」の問題は大幅に改善される ことになる。このような観点から,MOUの金融商品会計基準プロジェクトの今後の動 向は注目に値する。 注
1) FASB, Statement of Financial Accounting Standards No. 12, Accounting for Certain
Marketable Securities, December 1975.
2) CAP, Accounting Research Bulletin No. 43, Restatement and Revision of Accounting
Research Bulletins, AICPA, 1953.
3) Arthur Wyatt, “The SEC Says: Mark to Market!” Acconting Horizons, March 1991, p.80.
4) FASB, Statement of Financial Accounting Standards No. 115, Accounting for Certain
Investments in Debt and Equity Securities, May 1993.
5) L. Todd Johnson and Robert J. Swieringa, “Anatomy of an Agenda Decision: Statement No. 115,” Accounting Horizons, June 1996, pp.153-154.
6) Ibid., p.154. 7) Ibid. 8) Ibid. 9) Ibid., p.156. 10) Ibid., p.156. 11) Ibid., p.157. 12) Ibid., p.158.
13) Ibid. 14) Ibid.
15) Arthur Wyatt, op. cit., p.83.
16) L. Todd Johnson and Robert J.Swieringa, op. cit., p.159.
17) AcSEC, Statement of Position No. 90-11, Disclosure of Certain Information by Financial
Institutions About Debt Securities Held as Assets, AICPA, November 1990.
18) L. Todd Johnson and Robert J. Swieringa, op. cit., p.162.
19) Ernest Lee Puschaver, “Giving SFAS No.115 a Fresh Start,” Bank Accounting &
Finance, Fall 1996, pp.34-39.
20) Leslie French Seidman and Robert C. Wilkins, Special Report, A Guide to
Implementa-tion of Statement 115 on Accounting for Certain Investments in Debt and Equity Securities, FASB, November 1995.
21) R. J. Chambers, “Foundation of Financial Accounting,” Accounting, Finance and
Management, Butterworth, 1969, p.601. 主要参考文献一覧 鎌田信夫『資金会計の理論と制度の研究』白桃書房,1995年。 ――――「ビックバン後の日本の会計」『會計』(森山書店)第168巻第3号,2005年9月。 小西範幸『キャッシュフロー会計の枠組み―包括的業績システムの構築―』岡山大学経済学研究叢 書第31冊,2004年。 ――――「財務諸表の表示にみる公正価値会計の特徴 ― IAS1「財務諸表の表示」の改訂に内在する 諸問題―」『會計』(森山書店)第174巻第5号,2008年11月。 浜本道正「アメリカのS&L危機と会計政策」『会計検査研究』第14号,1996年9月。 星野一郎『金融危機の会計的研究―米国S&L危機と時価評価―』同文舘出版,1998年。
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Wilson, Don, “Another Battle in the Market-Value War,” Bank Accounting & Finance, Fall 1996.
1.FAS 12による有価証券の会計処理 X社の証券ポートフォリオは,表1のとおりであった。 [表1] 第1年度末に流動ポートフォリオに関わる未実現損失1,000ドルと,非流動ポート フォリオに関わる未実現損失500ドルが生じている。これに関する仕訳は次のとおり である。 (借)有価証券評価損 1,000 (貸)流動有価証券損失額 1,000 (借)株主持分 500 (貸)非流動有価証券損失額 500 X社は,第2年度末に流動ポートフォリオに関わる未実現利得1,500ドルと,非流 動ポートフォリオに関わる未実現損失300ドルが生じている。これに関する仕訳は次 のとおりである。 (借)流動有価証券損失額 1,000 (貸)有価証券評価益 1,000 (借)非流動有価証券損失額 200 (貸)株主持分 200 資 料 「FASB基準による有価証券の会計処理」 第 1 年 度 第 2 年 度 原価 時価 未実現損益 原価 時価 未実現損益 流動ポートフォリオ 証券 A $2,000 $ 2,500 $ 500 $ 1,000 $1,500 $ 500 証券 B 3,000 2,500 (500) 3,000 3,500 500 証券 C 3,000 2,000 (1,000) 4,000 4,500 500 合 計 $8,000 $ 7,000 $(1,000) $ 8,000 $9,500 $1,500 非流動ポートフォリオ 証券 D $1,000 $ 1,500 $ 500 $ 1,000 $1,000 $ ---証券 E 1,500 1,000 (500) 1,500 2,000 500 証券 F 5,000 4,500 (500) 5,000 4,200 (800) 合 計 $7,500 $ 7,000 $(500) $ 7,500 $7,200 $(300)
2.FAS 115による有価証券の会計処理 (1)満期保有証券 R社は,2003年1月1日にE社発行の社債(固定利率8%)100,000ドルを92,278 ドルで購入した。社債の満期は2008年1月1日,利払日は年2回,7月1日および 1月1日である。社債割引額は7,722ドル(100,000ドル−92,278ドル)であり,実 効利回りは10%となる。2003年1月1日の仕訳は次のとおりである。 <2003年1月1日> (借)満期保有証券 92,278 (貸)現金 92,278 表2は,E社社債に対する投資から生じる受取利息に割引額の償却が及ぼす影響 を示している。表2によると,2003年7月1日の利息受取り時の仕訳は次のとおりで ある。 <2003年7月1日> (借)現金 4,000 (貸)受取利息 4,614 満期保有証券 614 [表2] 名目利率8%,実効利率10%の購入債券 日付 現金収入 受取利息 割引額の償却 債券の帳簿価格 1/1/03 $92,278 7/1/03 $ 4,000a $ 4,614b $ 614c 92,892d 1/1/04 4,000 4,645 645 93,537 7/1/04 4,000 4,677 677 94,214 1/1/05 4,000 4,711 711 94,925 7/1/05 4,000 4,746 746 95,671 1/1/06 4,000 4,783 783 96,454 7/1/06 4,000 4,823 823 97,277 1/1/07 4,000 4,864 864 98,141 7/1/07 4,000 4,907 907 99,048 1/1/08 4,000 4,952 952 100,000 $40,000 $47,722 $ 7,722 a $ 4,000=$ 100,000×0.08×―612 b $ 4,614=$ 92,278×0.1×―612 c $ 614=$ 4,614−$ 4,000 d $ 92,892=$ 92,278+$ 614
R社が,2003年12月31日(決算日)に未収利息および割引額の償却に関して行う 仕訳は次のとおりである。 <2003年12月31日> (借)未収利息 4,000 (貸)受取利息 4,645 満期保有証券 645 2003年12月31日,E社社債に対する投資は,財務諸表に次のように表示される。 [表3] (2)売却可能証券 W社は,売却可能証券に分類される2つの負債証券を保有している。表4はポー トフォリオを構成する証券の償却原価,公正価値および未実現保有損益の金額を示 している。 [表4] 売却可能証券ポートフォリオ 貸 借 対 照 表 流動資産 未収利息 $4,000 長期投資資産 満期保有証券−償却原価 $93,537 損 益 計 算 書 その他損益 受取利息 $9,259 2004年12月31日現在 投 資 償却原価 公正価値 未実現保有損益 X社社債(固定利率 8 %) $ 93,537 $103,600 $ 10,603 A社社債(固定利率10%) 200,000 180,400 (19,600) ポートフォリオ合計 $293,537 284,000 (9,537) 有価証券公正価値調整勘定の前期末残高 0 有価証券公正価値調整勘定−貸方 $(9,537)
表4に示した価値の下落および損失を記録するための仕訳は次のとおりである。 <2004年12月31日> (借)未実現保有損益 9,537 (貸)有価証券公正価値調整 9,537 (有価証券評価差額−株主持分) (売却可能証券:評価勘定) W社が2005年7月1日にX社社債を90,000ドルで売却した。売却時点における償 却原価が94,214ドルであったとすると,実現損益の計算は次のようになる。 [表5] 償却原価(X社社債) $94,214 控除:社債の売却価格 90,000 社債の売却損失 $4,214 X社社債の売却の仕訳は次のとおりである。 <2005年7月1日> (借)現金 90,000 (貸)売却可能証券 94,214 有価証券売却損益 4,214 上記の有価証券売却損矢は損益計算書の「その他の損益」に表示される。2005年 において,これ以外に社債の購入・売却がなかったとすると,W社の2005年12月31 日における記録は次のようになる。 [表6] 売却可能証券ポートフォリオ 表6に示すように,W社の末実現保有損失は5,000ドルとなっている。他方,有価 証券公正価値調整勘定の前期未残高は貸方9,537ドルである。両者の差額4,537ドル に関して次の仕訳を行う。 2005年12月31日現在 投 資 償却原価 公正価値 未実現保有損益 A社社債(固定利率10%)(ポートフォリオ全体) $200,000 $195,000 $(5,000) 有価証券公正価値調整勘定の前期末残高−貸方 (9,537) 有価証券公正価値調整勘定−借方 $ 4,537
<2005年12月31日> (借)有価証券公正価値調整 4,537 (貸)未実現保有損益 4,537 (売却可能証券:評価勘定) (有価証券評価差額−株主持分) W社の2005年度の貸借対照表およぴ損益計算書は,次のとおりである。 [表7] (3)売買目的証券 2004年12月31日,W社は表8に示す負債証券を売買目的証券のポートフォリオ として保有している(W社は2004年度にはじめて売買目的証券を保有するように なった)。 [表8] 売買目的証券ポートフォリオ(2004年12月31日) 貸 借 対 照 表 流動資産 未収利息 $xxx 投資 売却可能証券−公正価値 $195,000 株主持分 その他の包括利益累積額 $5,000 損 益 計 算 書 その他の収益および利益 受取利息 $xxx その他の費用・損失 有価証券売却損失 $4,214 投 資 償却原価 公正価値 未実現保有損益 B社社債(固定利率10%) $ 43,860 $ 51,500 $ 7,640 G社社債(固定利率11%) 184,230 175,200 (9,030) A社社債(固定利率 8 %) 86,360 91,500 5,140 ポートフォリオ合計 $314,450 $318,200 3,750 有価証券公正価値調整勘定の前期末残高 0 有価証券公正価値調整勘定−借方 $ 3,750
12月31日において,投資価値の増加および未実現保有利益の増加額に関して次の 仕訳を行う。 <2004年12月31日> (借)有価証券公正価値調整 3,750 (貸)未実現保有損益 3,750 (売買目的証券:評価勘定) (有価証券評価損益−当期損益) (4)カテゴリー間の振替え [表9] X社保有の売却可能証券(2007年12月31日) 表9の数値を用いて,有価証券のカテゴリー間の振替えの仕訳を示してみる。 2008年1月1日にX社は,B社社債を売却可能証券から満期保有証券に振り替 えた。この時の仕訳は次のようになる。 <2008年1月1日> (借)満期保有証券 28,000 (貸)売却可能証券 30,000 有価証券公正価値調整 2,000 (売却可能証券:評価勘定) 売却可能証券から満期保有証券への振替えの直前に存在した未実現保有損失 2,000ドルは,満期保有証券の割引額2,000ドル(額面金額30,000ドル−振替え時の公 正価値28,000)とともに社債の満期日までの残存期間にわたって償却する。 2008年4月1日にX社は,A社株式を売却可能証券から売買目的証券に振り替 えた。なお,この時点でのA社株式の公正価値は12,600ドルであった。この振替え の仕訳は次のようになる。 原 価 公正価値 未実現損益 A社株式100株 10,000 12,200 2,200 B社社債(額面$30,000,固定利率10%) 30,000 28,000 (2,000)
<2008年4月1日> (借)売買目的証券 12,600 (貸)売却可能証券 10,000 未実現保有損益 2,200 有価証券公正価値調整 2,200 (有価証券評価差額−株主持分) (売却可能証券:評価勘定) 未実現保有損益 2,600 (有価証券評価損益−当期損益) (出所)「1.FAS 12による有価証券の会計処理」は,FAS 12の付録Bを参考に作成したものである。 「2.FAS 115 による有価証券の会計処理」は,Donald E. Kieso, Jerry J. Weygant and Terry D.
Warfield, Intermediate Accounting, 11th Edition, John Wiley & Sons, 2007, pp. 838-858の設例に基 づき作成したものである。