Ⅰ. 研究の目的, 研究枠組及び本研究の独
自性
1 . 研究の目的及び研究枠組 成年後見制度は, 精神上の障害により判断能力が不 十分であるため法律行為における意思決定が困難な者 について, その判断能力を補う制度であり, 最終的に は, その者の生命, 身体, 自由, 財産等の権利を擁護 することを目指している (小林・大門 2000:3). 本研究は, 司法機関である家庭裁判所 (以下 「家裁」 という), 福祉行政を担当する市町村, 市町村からの 事業委託や自ら成年後見人等として関わる社会福祉協 議会 (以下 「社協」 という), NPO 等の民間団体, 専 門職, 専門職団体及び住民 (以下これらを 「民間」 と いう) の三者関係 (以下本章において 「三者関係」 と いう) を, 市民後見推進 (専門職ではない市民を成年 後見人の候補者として育成し, その活動を支援するこ と) に着目して分析し, 成年後見制度の利用促進に関 する今後の方向性を提示することを目的とする. 本研究の枠組は, 次の通りである. まず, 研究の背 景として, 現在までの成年後見制度の形成の経緯に照 らし, 上記三者関係を明らかにする (本論文Ⅱ.及び Ⅲ.). 次に, 市民後見推進の必然性を示した上で, そ の困難性及び現在の三者関係の問題点を明らかにし, 地域福祉計画の研究からの示唆により上記困難性及び 問題点克服のための方策を提示する. その上で, このThe Study of Social Well-Being and Development 第 15 号 2020 年 3 月 論文要旨 本研究の目的は, 司法機関である家庭裁判所, 福祉行政を担当する市町村, 社会福祉協議会・NPO 等・専 門職・住民 (民間) の三者関係を, 市民後見の推進に着目して分析し, 成年後見制度の利用促進の方向性を提 示することである. 老人福祉法改正による市民後見推進の事業化は, 申立段階に止まっていた成年後見行政の対象を, 後見人候 補者の養成, 名簿登録, 家裁への推薦, 選任後の支援体制の整備へと拡大し, 三者の協働を進めた. 専門職後 見人の不足への対応のみならず, 被後見人中心の支援のため, 市民感覚に基づくきめ細かな支援を特徴とする 市民後見の推進が必要である. 他方, 市町村による候補者養成, 家裁による市民後見人の選任とも進んでいな い. 後者の原因には家裁が親族後見人の横領のリスクの回避のため法律専門職を選任する 「士業専門職化」 が あり, その結果, 意思決定支援や身上保護等の福祉的視点に乏しい運用がみられる等問題が生じている. このような弊害を防止し市民後見推進を図るため, 地域福祉計画に関する研究からの示唆と尾張東部圏域成 年後見制度利用促進計画の参与観察に基づき, ①既設成年後見センターの活動評価をベースとしたボトムアッ プ方式の採用と計画策定委員による調査に基づく協議を踏まえたプロセス重視の計画策定, ②市町村計画の策 定による三者の対等な協働の枠組の試行的実施, ③市民後見推進の条件整備等に関する三者の協働に関する計 画化を提案する. キーワード:成年後見制度利用促進法, 成年後見制度利用促進基本計画, 市民後見推進
Keywords:The Act on Promotion of Use of Adult Guardianship System, The Basic Plan of Adult Guardianship System Use Promotion, Citizen Guardianship Promotion
論
文
成年後見制度利用促進における司法, 福祉行政, 民間の協働
Cooperation of the Judiciary, Welfare Administration,
and the Private in Adult Guardianship System Utilization Promotion
大
沢
理
尋
Michihiro OOSAWA
方策を先進的な取組に照らして検討する (本論文Ⅳ.). 最後に, この検討に基づき, 今後の利用促進の方向性 に関し提言する (本論文Ⅴ.). 2 . 先行研究の検討と本研究の独自性 岩間は, 市民後見人の特性として市民と行政の協働 を挙げ, 行政が市民後見人の活動を専門的かつ継続的 にサポートする仕組に深くコミットすることで家裁の 信任を得ることができるとする (岩間 2012:12) が, 三者関係に関する施策の動向を踏まえた結論ではない. 本研究では, 三者関係に関する施策の動向を踏まえた 検討をする. また, 成年後見制度利用促進法 (2016 年施行, 以 下 「利用促進法」 という) の成立及び成年後見制度利 用促進基本計画 (2017 年策定, 以下 「国の基本計画」 という) の策定を受けた調査研究として, 次の 2 つの 「手引き」 が挙げられる. 「地域における成年後見制度 利用促進に向けた体制整備のための手引き」 (成年後 見制度利用促進体制整備委員会 2018) は, 成年後見 制度の効果的な運用に際し福祉行政と家裁は異なる役 割を有し, 各々の役割が合わさって利用者の満足感の 高い制度運用が可能となるとし (55), 後述の中核機 関設置に向けた各段階での行政と家裁との連携方法を 示している (64-65). また, 「市町村成年後見制度利 用促進基本計画策定の手引き」 (成年後見制度の利用 促進を目的とした市町村計画策定支援のための調査研 究事業検討委員会 2019) は, 後述の地域連携ネット ワークは地域包括ケアや地域自立支援協議会等福祉の 取組に司法分野を追加し家裁との連携を確保すること で構築が可能であるとし (はじめに), 後述の計画策 定のプロセスを福祉関係者と司法関係者の連携による 体制構築の一環として位置付ける (42). しかし, 両 者には, 現在の三者関係の問題点の記述がない. 本研 究は, 三者関係の問題点を明らかにし, その克服の手 法を検討する. 3 . 倫理的配慮 本研究には, 個人情報は含まれない. また, 事例研 究について, 尾張東部成年後見センターの名称と共に 尾張東部圏域成年後見制度利用促進計画の策定過程を 公表することについて, 同計画策定委員会の了承を得 ている.
Ⅱ. 研究の背景−三者関係に関する施策の
動向
1 . 司法と福祉行政の連携 1 ) 成年後見制度の導入と市町村長申立制度の創設 成年後見制度 (2000 年施行) は, 民法の旧禁治産・ 準禁治産制度を, 自己決定の尊重やノーマライゼーショ ンの理念と本人の保護との調和を旨として改正したも のである. この改正は, 高齢社会への対応特に介護保 険の導入に伴う要介護認定申請や介護サービス契約締 結に対する法的支援の仕組として, また, 1993 年の 障害者基本法改正や 1995 年の障害者プラン策定の動 きの中で障害者福祉の充実の要請により, 実施された (岩井 2000:1-2). 制度施行と同時に, 老人福祉法, 知的障害者福祉法 及び精神障害者保健福祉法に 「福祉を図るため特に必 要のあるとき」 の市町村長の成年後見等開始の審判の 申立権が置かれた. 2 ) 成年後見制度利用支援事業の創設と拡充 2001 年, 費用負担が困難なことから成年後見制度 が利用できない事態を防ぐため, 成年後見制度利用支 援事業が創設された. 同事業の主な内容は, 市町村に よる申立費用及び報酬の助成である. 同事業の対象は, 当初認知症高齢者の市町村長申立であったが, 2008 年までに知的障害及び精神障害も対象とされ, 市町村 長申立以外にも適用が拡大された (松田 2014:140-142). 3 ) 障害者基本法による国, 自治体の利用促進義務の 明記 2004 年, 障害者基本法が改正され, 国・地方公共 団体は, 障害者に関する相談業務, 成年後見制度その 他の障害者の権利利益の保護等のための施策又は制度 が適切に行われ又は広く利用されるようにしなければ ならない, とされた (同法 20 条, 現在は 23 条 1 項). 4 ) 虐待防止法における市町村長の申立義務及び国, 自治体の利用促進義務の明記 2005 年, 高齢者虐待防止法に虐待対応として市町 村長の成年後見等開始審判の申立義務 (9 条 2 項, 27 条 2 項), 国及び地方公共団体による制度の周知広報, 経済的負担軽減措置等の利用促進義務 (28 条) が規 定された. 2012 年, 障害者虐待防止法に同様の規定 が置かれた.5 ) まとめ 1)∼4) の通り, 2000 年の制度導入以降, 司法と福 祉行政の連携が進められた. しかし, 行政の関与は, 主に申立段階に止まっていた. また, 司法と行政は, 成年後見開始の審判の実現のため連絡をとり連携する が, 両者が協力して新たなネットワークを産み出すと いう協働1)には至っていなかった. さらに, 後述のド イツのように司法と行政が民間と協働し三位一体の関 係を構築する視点が欠如していた. これに対し, 2012 年以降の市民後見推進は, 行政 の関与の範囲を全面的に拡大し, 司法, 行政, 民間の 協働を進めるものである. 2 . 市民後見推進の立法化・事業化と司法, 福祉行政 及び民間の協働 1 ) 老人福祉法等の改正 2012 年当時, 高齢化の進行に伴い 「認知症の日常 生活自立度」 Ⅱ以上の人数は 2010 年の 280 万人から 2025 年には 470 万人にまで増加すると推計された (厚生労働省 (以下 「厚労省」 という) 2013:10). ま た, 高齢者単独世帯数も 2010 年の 498 万世帯が 2025 年には 701 万世帯に増加することが見込まれた (厚労 省前掲:11). 認知症高齢者の増加と高齢単独世帯の 増加により, 成年後見制度の果たす役割はさらに大き くなり, 市町村長申立の必要性も増大することが予想 された. また, 市町村長申立の必要性の増大とともに, 成年後見人等が高齢者の介護サービスの利用契約等を 中心に業務を行うことが多くなると想定された. 以上 の必要性に対応するため, 老人福祉法が改正され, 同 法 32 条の 2 が創設された (厚労省前掲:11-12). 同 条は, 市町村申立の円滑な実施に資するよう, 成年後 見等の業務を適正に行うことができる人材の育成及び 活用を図るため, 市町村に対し, 研修の実施, 後見人 等候補者の家裁への推薦その他の必要な措置をとる旨 の努力義務を定めた (第 1 項). 同年, 知的障害者福 祉法も同様の規定を設けた (同法 28 条の 2). 2013 年 精神障害者保健福祉法も改正され, 同様の規定が置か れた (同法 51 条). これらは, 市民後見推進の立法化 である. 2 ) 「市民後見人の育成及び活用に向けた取組について」 厚労省は, 改正老人福祉法の施行に先立ち最高裁家 庭局と協議の上, 2012 年 3 月 「市民後見人の育成及 び活用に向けた取組について」 と題する文書を, 都道 府県・指定都市宛に発した (厚労省 2012). この文書 は, 市町村の取組体制として, 地域の後見ニーズを把 握するとともに, 家裁, 弁護士, 司法書士, 社会福祉 士等の専門職と連携を図り協議を行う等, その地域に 合った取組を行うとした. また, 家裁から選任を受け るため, 市民後見人の活動を支援することが重要であ るとした. さらに, 社協, NPO 等適切に業務運営が 確保できると認められる団体に委託し, 成年後見セン ターの設置を検討する必要もあるとした. 3 ) 「市民後見人育成・活用推進事業」 の実施と裁判 所の対応 厚労省は, 2016 年度から, 家裁の管轄する地域等 において広域的に市町村及び関係機関が連携する協議 会を設置する等市民後見人の育成及び活用の促進を図 ることを目的として, 「市民後見人育成・活用推進事 業」 を実施した (厚労省 2016a). これを受けて, 裁 判所も次の通り, 福祉行政との連携に踏み込んだ姿勢 を示した (厚労省 2016b). ①家裁は, 市民後見人を 養成する中核的な役割を担う市町村が養成後のバック アップも含め態勢を整備することに大きな期待を持っ ている. ②家裁は, 行政機関の施策の在り方等を検討 する会議のオブザーバーとして家裁の実情を説明する ことや家裁の運用の改善等を目的とした実務的な意見 交換の場の設定は可能である. ③家裁と福祉行政の連 携, 相互理解が不可欠である. このような市民後見推進における司法と行政に民間 をも加えた三者の協働の立法化・事業化は, Ⅲ.で述 べるドイツ世話法の運用からの示唆によるものである.
Ⅲ. 市民後見の運用スキームと利用促進法
及び国の基本計画―ドイツ世話法から
の示唆
1 . ドイツ世話法の運用スキーム 新井は, ドイツ世話法における司法, 行政, 民間の 連携について次のとおり説明する (新井 2010:6-7, 2011:544-546, 2012, 2017a:8, 2017b:58-59). 世 話法の運用上の特徴は, 世話制度が福祉行政及び民間 の世話協会により支えられ, 裁判所は両者の支援を得 て機能する点である (図 1). 自治体の世話担当課は, 福祉行政を担う課であり, 担当職員が本人の調査や世 話人の推薦を行う. 世話協会は, 民間の組織であり, ソーシャルワーカー2), 法律家が常勤し, ボランティ アである名誉職世話人 (新井 2011:54 によると, ド イツでは, 市民後見人は, 名誉職世話人として位置づけられる) の教育や監督も行う. 世話裁判所は, 自治 体の担当課及び世話協会と連携して職務を遂行してい る (新井 2010:6-7, 新井 2012, 新井 2017a:8, 新 井 2017b:58-59). 2 . 厚労省の示す市民後見推進の取組例と成年後見の 「社会化」 厚労省は, 「市民後見人を活用した取組例のイメー ジ」 として図 2 を示している. この取組例は, ドイツ における法的世話制度の運用スキームをモデルの 1 つ として考案されている (上山 2012:48). 市民後見推進は, 主に申立と費用の助成に止まって いた成年後見行政の対象を, 後見人候補者の養成から 名簿登録, 家裁への推薦, 選任後の支援体制の整備に まで拡大した. これは, 司法と福祉行政の協働ととも に, 両者と民間 (社協等の実施機関, 実施機関に協力 する専門職・専門職団体及び市民後見人) との協働を 進めるものである. なお, 実施機関 (Ⅱ.2.2) の成年 後見センター) は, 市町村直営又は市町村から委託を 受けた社協若しくは NPO 等により, 専門職や市民後 見人等の協力を得て運営されている. 従って, 実施機 関は, 福祉行政及び民間の双方に位置づけられ, 市町 村行政と民間団体及び市民をつなぐ役割を担っている. 2000 年の成年後見制度の導入から市民後見推進に よる三者協働の枠組の提起までの一連の施策の動向は, 成年後見の 「社会化」3) として位置づけられ, 成年後 見法制は社会福祉法制の一部として機能しているとさ れている (上山 2015:18-24). 図 1 世話法における司法・行政・民間の連携 出典) 新井誠 (2012) ドイツ成年者世話法から学ぶもの ChuoOnline https://yab.yomiuri.co.jp/adv/chuo/opinion/20120611.html (2019.4.8 閲覧). 図 2 市民後見人を活用した取組例のイメージ 出典) 厚労省 (2015b) 市民後見人の育成及び活用 https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12300000-Roukenkyoku/ikusei_katsuyou.pdf (2019.4.21 閲覧).
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Ⅳ. 市民後見推進の必然性並びにその困難
性及び対応策
1 . 成年後見制度の利用促進と市民後見推進の必要性 Ⅱ.2.1) の通り, 今後独居の認知症高齢者が一層増 加し, 第三者後見人の需要が高まると予想される4). 他方, 法律専門職の成年後見人の養成状況は, 弁護士 が約 3,000 人 (成年後見人等の候補者として全国の弁 護士会に登録されている人数. 上山 2015:60), 司法 書士が 8,385 人 (2019 年 5 月 9 日時点の成年後見セ ンターリーガルサポート (以下 「リーガルサポート」 という) の会員数. リーガルサポート 2019) である. 従って, 法律専門職後見人の給源不足は明らかであり, 他の第三者後見人の育成が必要である. また, 成年後見制度は, 被後見人の権利擁護の制度 である以上, 個人の尊重及び幸福追求権の保障 (憲法 13 条) の見地から, その運用に当たり成年被後見人 本人を中心に位置付ける必要がある. 精神上の障害の ある人を, 同じ地域の住民が, 市民感覚に基づき, き め細かな見守りと生活支援等市民としての特性を生か した後見活動することは, 被後見人中心の権利擁護の 実現に資するものである. 他方, 成年後見人の活動に 必要な基礎的な法的知識・能力については, 法律専門 職の協力する実施機関による養成と活動支援を受ける ことで習得・対応が可能である. 以上の通り, 成年被後見人と同じ地域に住む住民が 成年後見人となり市民性・当事者性5)を活かして後見 活動を担うことには重要な意義があり, 市民後見は推 進されるべきである. 2 . 市民後見推進の困難性 1 ) 市町村における推進の困難性 国は, 2012 年の老人福祉法改正以降, 市町村に対 し市民後見推進の取組を促してきた. しかし, 厚労省 の全国の市町村を対象とした調査 (2018 年 10 月 1 日 時点) によると, 市民後見人の養成を実施している市 町村は全体の 24.2%, 未実施の市町村は 75.8%に上 る. また, 養成者数に対する登録者数の割合は 43.8 %である (厚労省 2019:19). さらに, 市民後見人の受任に当たっての課題として, 「関係機関や専門職による受任体制が整っていない」 との回答が 19.1%, 「市民後見人の研修による知識が 十分でない」 が 11.9%, 「家裁との協議が進んでいな い」 が 11.5%であった (同:19). これらが, 市町村 における市民後見推進を阻害している主な要因である と考えられる. 2 ) 家裁における推進の困難性 最高裁判所 (以下 「最高裁」 という) の統計による と, 2018 年 1 月∼12 月の間に選任された親族以外の 第三者後見人全体に占める市民後見人の割合は 1.1% に過ぎず, 司法書士 37.7%, 弁護士 29.2%と法律専 門職が全体の 2/3 以上である (最高裁 2019a:11). また, 市民後見人の養成者数に占める受任者数の割合 は, 9.8%に過ぎない (厚労省 2019b:19).上山は, ここに親族後見人の横領のリスクを回避す る裁判所の姿勢があると指摘する (上山 2018:111-112). また, 税所 (2016a) は, 島根県の成年後見セ ンター, 相談支援機関及び行政の担当者らに対するイ ンタビューを実施し, その分析に基づき, 家裁が親族 後見人を横領 (税所 2016b:63) や不正のリスクとし て認識し, これに対処するため第三者後見人を求め, さらに, 後見人としての適格性が財産管理者としての 事務能力へと零落したことで, 「士業専門職化」6) が 起きた, とする (148, 157-159). 両者の指摘の正しさ は, Ⅲ.で後述する成年後見制度利用促進基本計画 (以下 「国の基本計画」 という) の原案を策定した成 年後見制度利用促進委員会における最高裁の担当者の 発言等から裏付けることができる. 市民後見推進のためには, 1), 2) の利用阻害要因 を解消する必要がある. 3 . 三者協働の必要性と問題点 1 ) 市民後見推進の困難性に対応する三者協働 市民後見推進の内容である市民後見人候補者の養成, 選任及び活動支援には, 家裁, 福祉行政, 民間の三者 が関わる. 従って, その阻害要因に対しても三者が協 働して対応することになる. 具体的には, 「関係機関 や専門職による受任体制が整っていない」 「市民後見 人の研修による知識が十分でない」 に対しては, 行政 と社協, 専門職団体等が市民後見人の養成・支援に向 けて協議し, 計画的に体制を整備する必要がある. ま た, 家裁も, Ⅱ.2.3) の自ら示した方針に基づき, 市 町村の会議に参加する, 意見交換の場を設ける等の方 法により, ともに体制整備を行う必要がある. また, 家裁には, 市町村や民間からの要請による研修講師の 派遣等市民後見人の知識の習得に寄与するとともに, 行政, 民間と連携を密にして市民後見人を積極的に選 任することが求められる. 現に, 市民後見推進が進ん でいる市町村では, このような取組が行われている (大阪市について藤原 2012a, 同 b). 2 ) 現実の 「協働」 の問題点 ところが, 全国レベルにおいては, 次の通り, 家裁 と法律専門職団体との間で, 1) で述べた三者に求め られる協働とは異なった形で 「協働」 が行われ, 法律 専門職が活用されている. 成年後見制度利用促進委員会における委員の発言 内閣府の成年後見制度利用促進委員会の第 1 回不正 防止対策ワーキング・グループ (以下 「不正防止 W G」 という) の会議 (2016 年 10 月 28 日) で, 当時 の最高裁事務総局家庭局長であった委員は, 専門職団 体の代表, 自治体の首長らを含む出席委員に対し, ① 不正事案の 9 割以上が親族等専門職以外であり, 後見 人の責任や義務についての知識不足が原因の場合も多 い, ②管理すべき財産が複雑, 困難な場合は不正を未 然に防止するため弁護士や司法書士等の専門職後見人 を選任する, と説明した (村田 2016:1, 4, 内閣府 2016c, 同 d:4-5). また, リーガルサポートの委員は, ①家裁の司法的 役割 (選任・解任等) への特化, ②日常的な後見監督 業務の行政等への移行を提案し, ③後見監督業務につ いて家裁から独立した組織が担当することもありうる とした (内閣府 2016b:17, 19-20, 同 c:5). さらに, この委員は, 第 3 回不正防止 WG 会議 (同年 11 月 9 日) において, 成年後見人等に対する監督をリーガル サポートが引き受ける旨表明した. これに対し, 当時 の最高裁家庭局長であった委員は, リーガルサポート の監督機能を積極的に評価し, 行政からの委託等法的 位置づけの明確化が有益であると述べた (内閣府 2016e:21-23). 親族後見人選任の場合の専門職の活用 現在家裁の現場では, 親族を成年後見人に選任する 場合も, 本人に一定の資産がある事案には, 弁護士等 の後見監督人の選任又は後見制度支援信託を利用する 運用により, 弁護士, 司法書士等の法律専門職を活用 している7). 「社会化」 「協働」 の問題点 , のような 「社会化」 「協働」 は, 裁判所のニー ズによる 「士業専門職化」 を進めるものであり, 1) で示したあるべき協働の方向性とは異なる. の家裁による法律専門職の選任に対しては, 子育 てや在宅介護の 「外部化」 と対比して, 家裁が 「社会 化」 のステークホルダーとなったことで 「市場セクター」 である士業専門職に極端に偏った外部化が進み, 他方, 情緒や意思表出の領域は家族に残されることで財産管 理と意思決定の分離を引き起こした, とする税所の批 判が妥当する (税所 2016a:158-159). 国の基本計画 も, 「後見人による本人の財産の不正使用を防ぐとい う観点から, 親族よりも法律専門職等の第三者が後見 人に選任されることが多くなっているが, 第三者が後 見人になるケースのなかには, 意思決定支援や身上保 護等の福祉的な視点に乏しい運用がなされているもの もあると指摘されている」 としている (内閣府 2017:
2). この点に関し, 全国の障害者支援施設を対象とし た調査によると, 専門職後見人の面会の頻度について, 社会福祉士は 「月 1 回以上」 が全体の 60%, 「年 1∼2 回」 「ほぼ面会に来ない」 の合計が 14%であるのに対 し, 司法書士は前者が 24%, 後者が 43% (昴 2017: 39), 弁護士は前者が 4%, 後者が 77%であった (同: 38). 「福祉的な視点」 による司法と民間の協働として, 社会福祉士や精神保健福祉士の後見人選任が考えられ る. しかし, 2018 年に選任された第三者後見人全体 に占める社会福祉士の割合は 17.3%, 精神保健福祉 士は 0.1%にとどまり (最高裁 2019a:11), 両者の合 計は, 司法書士の 37.2%の 1/2 にも満たない. 最高裁は, 2019 年 5 月, 親族等を選任することが 相当でない事情のない場合親族後見人等を選任する方 針を公表した (最高裁 2019b). しかし, それだけで は, 認知症高齢者, 単身高齢世帯の増加に対応するこ とは困難である. 他方, 及びに対し, 家族の立場から, 家裁の現 場が人材不足から, 個々の状況を精査しないまま責任 回避のため, 後見支援信託か第三者監督人選任という 外部委託を強制し, 本人の財産から無駄な支出をさせ, 一方で 「親族後見人の不正」 が家裁により増産されて いるとの批判がある (長崎 2016:49, 57). 家裁が親 族後見人への適切な助言や支援のないまま 「不正」 の リスクがあると評価することは, 家裁と民間 (監督と は異なる, 専門職, 社協, NPO 等による親族後見人 への助言, 支援が考えられる) の協働が不十分である ことの現れであると考えられる. 以上の通り, 「士業専門化」 は家裁と法律専門職と の偏った関係であり, その結果, 被後見人中心の権利 擁護の実現という本来の 「協働」 が実現されていない. 4 . 問題点克服の方策―成年後見制度利用促進計画の 策定による協働 3.2) の問題点を克服し, 成年後見制度を被後見人 中心の権利擁護システムとして機能させる方策につい ては, 地域福祉研究に示唆を求めることができる. 例 えば, 原田は, 地域福祉計画策定における行政と住民 との協働について, 次の通り述べている. 「協働」 には, 事業の効率化や経営という視点から 構造転換を図ろうとする意図がある (「合理的な事業 遂行のための協働」). 他方, 市民活動と行政は, 相互 に緊張関係と役割分担を意識したなかで対等のものと して意識して関係をつくるべきである (「過程を重視 した対等型協働」). 今後共治に向けて協働をどう機能 させていくか, 協働によって何を地域に蓄積していく かという検討が必要である. その一つの鍵が 「協議」 という場と力である (原田 2008:20-21). また, 地 域住民の主体形成を促す過程に学習機能があることが 大切である. 地域福祉における当事者性を育むことで 相互に共感が生まれ, 福祉コミュニティのなかにボラ ンティアとして代弁者や共鳴者に成りうる人材が育ま れる (原田前掲:24). 原田の議論から成年後見制度の利用促進の方策をみ るならば, 地域福祉計画同様, 市民後見推進の取組を 市町村利用促進計画の策定の 「場」 で, 民間と行政, さらに司法が対等の立場で進めることが重要である. すなわち, 市町村利用促進計画策定の 「場」 において, 司法, 市町村福祉行政及び民間の代表が緊張関係の下 で役割分担を 「協議」 することにより, 三者の協働の 枠組を具体化する必要がある. このプロセスを踏むこ とで, 家裁の負担軽減の要請とこれに呼応する専門職 の動きが優先されないよう調整が可能となる. また, 被後見人と同じ地域で暮らす市民後見人の活 動は, 住民相互の支え合いにより地域住民の当事者性 を育むものである. 具体的には, その活動は, ①Ⅳ.1. で既述の市民感覚による意思決定支援の実現, きめ細 かな見守りと生活支援に始まり, ②市民後見経験者・ 養成研修修了者による広報活動8), NPO 法人設立・ 法人後見受任9), 成年後見センター運営委員への就 任10)等, 市民の成年後見行政への参画等へと展開する ことが可能であり, 被後見人中心, 住民主体の 「成年 後見の社会化」 の実現に資する. このような重要性に 鑑み, 市民後見推進の取組は, 市町村利用促進計画に 記載することで, その確実な実施を担保する必要があ る. 以上から, 「士業専門職化」 を克服し, 成年後見制 度を被後見人中心の権利擁護システムとして機能させ る方法として, 以下の①②2 つの方策をとることが考 えられる. ①市町村計画の策定による司法, 行政, 民間の対等 な協働の枠組の具体化 ②市町村計画に基づく市民後見推進 次に, 事例研究として, 尾張東部圏域成年後見制度 利用促進計画策定の策定過程の参与観察に基づき, 上 記①及び②の方策の有効性を検討する. 合わせて, 2. 1) で既述の市町村による市民後見推進の 3 つの阻害 要因の解消に対する効果についても考察する.
5 . 尾張東部圏域成年後見制度利用促進計画策定にみ る三者協働 1 ) 尾張東部圏域における取組の概要 愛知県尾張東部圏域の 6 市町 (瀬戸市, 尾張旭市, 豊明市, 日進市, 長久手市, 東郷町. 以下 「6 市町」 という) は, 2011 年度に NPO 法人尾張東部成年後見 センター (以下 「尾張東部成年後見センター」 又は 「センター」 という) を立ち上げ, 成年後見関係事業 を共同委託している. センターは, 家裁に対するわか りやすい情報の整理・提供 (成年後見制度利用促進体 制整備委員会 2018:83), 首長申立てに対する支援の 工夫 (同:90) 等を実践している. また, センターは, 2015 年 11 月から市民後見人養 成研修を実施している. 2016 年 8 月に 19 名が市民後 見人バンクに登録し, 2017 年 1 月から 2019 年 5 月ま でに 11 名の市民後見人が選任されている (瀬戸市ほ か 2019:41). 6 市町は, センターを事務局として, 尾張東部圏域 成年後見制度利用促進計画に取り組み, 2019 年 3 月 同計画を策定した. 同計画の内容は, 今後 6 市町にお いて, 住民の参画のもと, 市町の単独計画又は地域福 祉計画の一部となる (瀬戸市ほか前掲:4). 2 ) 調査対象選定の理由 1) の尾張東部成年後見センターの活動は, 司法, 行政との協働において先進的な取組と評価されている. また, 2.1) で記述の通り市民後見人の養成・選任が 全国的に進んでいない中で, 尾張東部圏域では短期間 の取組で多数の市民後見人が選任されている. 従って, 尾張東部圏域成年後見制度利用促進計画の策定過程を 分析することは, ①市町村計画の策定による協働の枠 組の具体化, ②市町村計画に基づく市民後見推進の双 方の検討にとって有意義である. そこで, 尾張東部圏 域成年後見制度利用促進計画策定委員会 (以下 「策定 委員会」 という) の第 1 回∼第 6 回の会議の参与観察 を実施し, 合せて同計画の計画書 (瀬戸市ほか 2019) 及びその策定過程を研究対象とした報告書 (日本福祉 大学 2019) を検討した. 3 ) 調査の概要 参与観察は, 2018 年 5 月 23 日 (日進市中央福祉セ ンター), 同年 7 月 18 日, 9 月 19 日, 11 月 17 日, 2019 年 1 月 16 日, 同年 3 月 20 日 (日進市役所) と, 傍聴許可を得て行った. 4 ) 調査結果 計画の策定プロセス 策定委員会は, 6 市町の担当課長, 弁護士会, リー ガルサポート, 社会福祉士会ら専門職団体, 社協, 地 域包括支援センターらの代表により構成された. 名古 屋家裁の書記官は, オブザーバーとして参加した. 委 員は, 4 つのワーキングチームに分かれ, 後述の調査 とその報告を担当した (瀬戸市ほか前掲:5-6, 日本 福祉大学前掲:64-65, 参与観察). 尾張東部成年後見 センターは, 事務局として, 委員会の議事次第や資料 の作成, 進行管理等の運営全般を担当し, ワーキング チームによる調査の実施や会合にも関わった (日本福 祉大学前掲:65, 参与観察). 委員会では, 最初にセンターの活動実績の分析を行 い, 客観的な到達点を共有し, これをベースとして中 核機関の機能を遂行できるための条件整備を計画項目 として検討するという, ボトムアップ方式を採用した (瀬戸市ほか前掲:6, 日本福祉大学前掲:66, 参与観 察). この分析結果から, 後見人支援機能, 家裁との 情報交換等について, センターの弱さが明らかとなっ た (日本福祉大学前掲:67-68, 参与観察). 次に, こ れらの実態の把握・分析と対策の検討のため, プロセ ス重視の計画策定が行われた. 具体的には, 成年後見 制度ニーズ調査チームは地域包括・障害者相談支援セ ンター調査, 被後見人等本人調査, 親族調査及び市民 後見人バンク登録者調査を, 専門職協力者名簿登録制 度ワーキングチームは名簿登録者調査を, 各々実施し た (瀬戸市ほか前掲:5, 日本福祉大学前掲:24-25, 参与観察). 試行的事業 (日本福祉大学前掲:79) と して, 家裁と連携のための懇談会 (日本福祉大学前掲 :31), 虐待事例の検討会等も実施した (瀬戸市ほか 前掲:5, 参与観察). 各調査及び懇談会の結果は, 担当委員により委員会 で報告され, 協議がなされた. その結果は, 現状の評 価と課題として整理され, 計画書として体系化された (瀬戸市ほか前掲 24-47:日本福祉大学前掲:77-83, 参与観察). 計画策定の効果 以上の通り, 尾張東部圏域成年後見制度利用促進計 画は, 既設センターの実績の評価と委員による各調査 結果の分析に基づく 「協議」 により策定された. また, これらを踏まえ, 「協議」 と並行して, 家裁との懇談 会が実施された. その結果, 策定委員会では, 家裁の負担軽減の要請
やこれに呼応した専門職の職域拡大の要求は出なかっ た. 上記各調査や家裁との懇談会を通じ, 6 市町の行 政, 専門職団体及び家裁は, 中核機関に対する協力・ 連携の姿勢を示している (参与観察). また, 計画書で示された施策には, 権利擁護支援の 仕組の構築の計画的推進, 行政及び中核機関が行う虐 待対応の仕組の構築, 親族後見人への支援等, 「士業 専門職化」 とは異なる方法による親族後見人による横 領 (経済的虐待) のリスクに対する対策が含まれてい る. さらに, 市民後見については, 市民後見人バンク登 録者調査において, 同センターのバックアップについ て, 受任している回答者 9 名のうち 7 名が 「十分にさ れている」, 2 名が 「バックアップされていると感じ る」 と回答した. この結果を受け, ①養成段階で意思 決定支援について学び活動に反映できるようサポート する (意思決定支援の方法を実践例等を用いわかりや すく解説する), ②市民後見人バンク登録者の活動範 囲の拡充を検討する, ③センターによる後見監督, 社 協による地域活動支援等市民後見人が安心して活動す るためのバックアップ体制の充実を図る, との条件整 備の方向性が示された (瀬戸市ほか前掲:49). 今後, 策定委員会は, 計画の進行管理を担う進行権 利委員会へと移行する. また, 重層的なネットワーク 会議のメンバーの参加を求め, 権利擁護支援協議会を 開催する (瀬戸市ほか前掲:47, 参与観察). 5 ) 考察 尾張東部圏域成年後見制度利用促進計画においては, ボトムアップ方式の採用とプロセス重視の計画策定が なされた. また, 尾張東部成年後見センターが, これ らの方法に基づき, 策定委員会及びワーキングチーム の運営全般を担当し, 家裁のオブザーバー参加の下, 6 市町と各団体との協議の場を設定した. そして, 民 間, 行政, 司法が対等な関係で協議を行った結果, 次 の①∼④の成果が得られた. 従って, センターは, こ れらの成果を得ることを意図して運営をしていたとい える. ① 「士業専門職化」 とは異なる施策の計画化 家裁の負担軽減の要請やこれに呼応した専門職 の職域拡大の要求が出されず, 「士業専門職化」 とは異なる, 地域における多様な主体の協力によ る権利擁護を推進する施策の計画化が実現した. ② 市民後見推進の阻害要因の解消 計画策定過程による合意形成より, 市民後見人 の受任体制が整備され, また, 意思決定支援が研 修の対象とされ研修が充実し, さらに, 家裁との 協議も進んでいる. このように, Ⅳ.2.1) で述べ た市民後見推進の阻害要因は, 解消される方向に 進んでいる. ③ 市民後見推進の条件整備の方向性の明示 市民後見推進については, 前記 4)①②③の 通り, 研修の充実や支援体制の更なる整備等の方 向性が明示されている. これらの施策の効果とし て, 養成者数の増加や一層質の高い後見活動を期 待することができる. ④ 被後見人中心, 市民後見人バンク登録者の当事 者性の尊重 計画の策定は, 地域包括・障害者相談支援セン ター調査, 被後見人等本人調査, 親族調査及び市 民後見人バンク登録者調査により, 被後見人及び 市民後見人バンク登録者の意見及びニーズを反映 して行われた. また, 今後意思決定支援の方法を 実践例を用いわかりやすく解説することで, 被後 見人中心の支援, 市民後見人の当事者性の確保に 対する効果が期待できる. 尾張東部圏域では, 計画策定の場により構築され試 行的に実施された民間, 行政及び司法の対等な協働の 枠組が今後も継続する. この枠組により, 「士業専門 職化」 が生じることなく三者の協働が進展することが 期待できる. 以上の分析から, 既設センターの実績の分析に基 づくボトムアップ方式の採用, 計画策定委員が作業 部会に所属し調査・分析を担当しその結果を委員会に 報告し協議する, これを踏まえ又は並行して家裁と連 携の協議をする, というプロセスの重視の計画策定は, ①親族後見人の不正防止に対する 「士業専門職化」 以 外の方策の計画化を実現し, 合せて, ②市民後見推進 の阻害要因を解消し, ③市民後見推進の方向性を明示 し, ④被後見人中心の支援, 市民後見人の当事者性の 確保につながる, 総合的に有効な方策として評価する ことができる. なお, 上記について, センター未設 置の市町村では, 従来の成年後見制度の運用に関する 施策の評価をベースとすることが考えられる.
Ⅴ.
結論―今後の方向性に関する提言
Ⅱ.∼Ⅳ.を踏まえ, 司法, 福祉行政, 民間の協働に よる成年後見制度の利用促進の方向性について, 次のとおり提言する. 「士業専門職化」 を防止し司法, 福祉行政, 民間の 協働を被後見人中心の権利擁護システムとして機能さ せるため, 次の①∼③の方策を採ることが考えられる. ① 既設成年後見センターの活動評価をベースとし たボトムアップ方式の採用と計画策定委員による 調査に基づく協議を踏まえたプロセス重視の計画 策定. ② 市町村成年後見制度利用促進計画の策定による 司法, 福祉行政, 民間の対等な協働の枠組の試行 的実施 ③ 市民後見推進の条件整備等に関する司法, 福祉 行政, 民間の協働に関する計画化 本研究は, 文献と 1 事例の調査による提言にとどま る. 今後他の事例調査等を進め, さらなる提言の検討 に努めたい. 謝辞 参与観察にご協力をいただきました尾張東部圏域成 年後見制度利用促進計画策定委員会の皆様及び同委員 会の事務局を務められた尾張東部成年後見センターの 皆様に厚く御礼を申し上げます. また, 本研究をご指 導いただきました平野隆之先生に深く感謝申し上げま す. (おおさわ みちひろ:福祉社会開発研究科 社会福祉 学専攻博士課程 2017 年度入学) 注 1 ) 「協働」 とは, 同じ目的のために, 対等の立場で協力 して共に働くことである. 他方, 「連携」 とは, 互いに 連絡を通り協力して物事を行うことである. 立場の違いを越え組織が協力することを 「協働」 と表 現し, 1 つの組織では実現できなくても複数の組織が知 恵を集めることで課題解決につながるという手法である. 関係者・機関がともに協力して働き, 新たな活動やネッ トワークを産み出すという意味であり, 「連携」 よりも より具体的な協力関係をイメージさせる言葉として多用 されている (豊岡市ホームページ, http://www.city.to yooka.lg.jp/_res/projects/default_project/_page_/00 1/002/991/sankou3.pdf 2019.4.7 閲覧. なお, 原文 は 「ネットワークや産み出す」 と記載されているが, 「ネットワークを産み出す」 の誤記と考えられるので, 筆者の責任においてその旨修正した). 2 ) 原文は 「社会福祉士」 であるが, 「社会福祉士」 は日 本におけるソーシャルワーカーの資格の名称であるため, 筆者の責任において 「ソーシャルワーカー」 と記載する. 3 ) 上山 (2015) は, 成年後見の 「社会化」 とは, 「社会 福祉のインフラ整備の一環として, 国や地方自治体が成 年後見制度の利用可能性を広く市民一般に保障する責務 を負うことになったこと」 と定義する (12). 成年後見 の 「社会化」 は, 法学研究者の提唱する概念であり (新 井 2014, 岩志 2014) 日本成年後見法学会第 1 回学術大 会の統一テーマである (日本成年後見法学会ホームペー ジ: http://jaga.gr.jp/katudou/, 2019.5.6 閲覧). 司 法と福祉行政及び民間との協働は, 成年後見の 「社会化」 に不可欠の要素として位置づけられる. 4 ) 「認知症施策推進総合戦略」 (新オレンジプラン) によ ると, 我が国における認知症の人の数は 2012 (平成 24) 年で約 462 万人であるが, 2025 (平成 37) 年には約 700 万人前後になるとされる (厚生労働省 2015a:1). また, 国立社会保障・人口問題研究所の調査によると, 65 歳 以上の独居率は, 2015 年から 2040 年までに, 男性で は 14.0%から 20.8%に, 女性では 21.8%から 24.5%へ と上昇が見込まれる (国立社会保障・人口問題研究所 2018:10). 5 ) ここでいう 「当事者性」 とは, 成年被後見人も成年後 見人も同じ地域に住む市民であり, かつ, 判断能力の低 下の原因となる高齢, 事故, 疾病等は誰にでも起こりう ることから, 成年後見制度を利用して住みやすい地域を つくるという点で, 地域住民の誰もが当事者であること をいう. 市民後見人が, その担当する被後見人と同じ市 民感覚に基づき被後見人の意思決定を支援するとともに, 成年後見制度に関する広報活動, 法人後見を受任する NPO 法人の設立, 成年後見センター運営委員への就任, 市町村の成年後見制度利用促進計画の策定への参画等, メゾレベルの活動に関わることは, ここでいう 「当事者 性」 を育むものである. 6 ) 原文では〈士業専門職化〉であるが, 本論文では筆者 の責任において一般的な表記に倣い 「士業専門職化」 と した. 7 ) 日景 (2015) は, 家庭裁判所サイドからの不正防止対 策として, 成年後見制度支援信託 (本人の財産を適正に 管理し, 保護することを目的として, 本人の現金及び預 貯金のうち日常的な支払に必要な額はそのままの形で管 理するが, それを超える額については信託銀行等に信託 し, その払戻し等には家庭裁判所が発行する指示書等を 必要とする仕組) 及び後見監督人の選任等家庭裁判所に よる監督の強化を挙げる (27). なお, 後見制度支援信 託の場合原則として弁護士, 司法書士等の専門職後見人 が選任され (親族との複数後見), 信託銀行と信託契約 を締結する (最高裁裁判所 2011:1). 8 ) このような実践の一例として 「大阪市成年後見支援セ ンター」 の取組が挙げられる. 2010 年に実施された市 民後見人の活動状況に関するアンケート調査では, 「市 民後見人だからこそできた活動」 として市民後見人が時 間をかけて本人の意思をくみ取ろうとし, その思いに少 しでも近づけるようにしていることが示されている (伊 関 2012:149). このような活動は, パンフレットへの 掲載やシンポジウムでの発言により広報されている (大 沢 2019:45). 9 ) このような実践の一例として 「NPO 法人成年後見セ ンターわけ」 が挙げられる. 市民後見人 3 名, 専門職 3 名, 地元支援者 3 名が理事となり, 法人後見受任, 市民 後見人のフォローアップ研修と相談対応, 成年後見制度 の普及啓発に取り組んでいる (竹内 2013:51-52, NPO 法人成年後見センターわけ 2018).
10) このような実践の一例として 「小樽北しりべし成年後 見センター」 が挙げられる. 同センターの運営委員会に は, 同センターを構成する 6 市町村と家裁, 弁護士会, 司法書士会, 小樽市社協に加え, 市民後見人も構成メン バーとなっている (地域ケア政策ネットワーク 2017: 23). 文献 新井誠 (2010) 「成年後見制度施行 10 年を振り返って―制 度の現状と課題」 法律のひろば 63, 4-8. 新井誠 (2011) 「第Ⅴ部 制度の改善のために 第 3 章 成年後見法の展望―あるべき姿を求めて―」 新井誠・赤 沼康弘・大貫正男 成年後見法の展望 第 1 版 526-547. 日本評論社. 新井誠 (2012) 「ドイツ成年者世話法から学ぶもの」 ChuoOnlinehttps://yab.yomiuri.co.jp/adv/chuo/opi nion/20120611.html (2019.4.8 閲覧). 新井誠 (2014) 「第 1 章 成年後見制度の現状と課題」 新 井誠・赤沼康弘・大貫正男 成年後見制度 法の理論と 運用 第 2 版 1-19, 有斐閣. 新井誠 (2017a) 「成年後見制度の現状と課題」 法律のひ ろば 70, 4-13. 新井誠 (2017b) 「成年後見制度利用促進基本計画の理念 と具体化の方途∼素描的検討∼」 実践成年後見 69, 55-63. 伊関玉恵 (2012) 「第 6 章 市民後見人の活動実態」 岩間 伸之・井上計雄・梶田美穂・田村満子編集 市民後見人 の理論と実際 市民と専門職と行政のコラボレーション 128-158, 中央法規. 岩志和一郎 (2014) 「50 号記念特集 成年後見の未来像 後見の社会化の実現からみた未来 成年後見の理念 は実現しているか―成年後見の社会化の観点から―」 実践成年後見 50, 7-16. 岩井伸晃 (2000) 成年後見制度の改正に関する平成 11 年 改正民法及び関連法律の概要 法曹会. 岩間伸之 (2012) 「「市民後見人」 とは何か―権利擁護と地 域福祉の新たな担い手―」 社会福祉研 113, 9-16. 大沢理尋 (2019) 「成年後見制度利用促進における中核機 関 4 機能の相互作用の推進条件に関する研究―既設成年 後見センターにおける市民後見人に対する取組に焦点を あてて―」 人間福祉学会誌 18, 41-48. 上山泰 (2012) 「日本における公的成年後見制度の導入に ついて:ドイツの運用スキームを参考に」 大原社会問 題研究所雑誌 641, 44-58, file:///C:/Users/oosawa/ AppData/Local/Packages/Microsoft.MicrosoftEdge _8wekyb3d8bbwe/TempState/Downloads/641kamiy ama%20(1).pdf (2019.4.24 閲覧). 上山泰 (2015) 専門職後見人と身上監護 第 3 版 民事 法研究会. 上山泰 (2018) 成年後見制度利用促進基本計画を踏まえ た今後の課題について 臨床法務研究 20, 107-127. 公益財団法人成年後見センターリーガルサポート (2019) 会 員 数 と 会 員 検 索 に つ い て https://www.legal-support.or.jp/search/about (2019.7.15 閲覧) 小林昭彦・大門匡編著 (2000) 新成年後見制度の解説 きんざい. 厚生労働省 (2012) 老健局総務課認知症施策推進室各都道 府県認知症施策担当課 (室) 宛事務連絡 市民後見人 の育成及び活用に向けた取組について https://www. mhlw.go.jp/topics/kaigo/dl/shimink ouken_torikumi01.pdf (2019.4.21 閲覧). 厚生労働省 (2013) 市民後見人養成・活用に向けた厚生 労働省の取組 地域ケアリング 15, 8-16. 厚生労働省 (2015a) 認知症施策推進総合戦略 (新オレ ンジプラン) ∼認知症高齢者等にやさしい地域づくりに 向けて∼ https://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouh appyou-12304500-Roukenkyoku-Ninchishougyakutai boushitaisakusuishinshitsu/02_1.pdf (2019.4.21 閲覧). 厚生労働省 (2015b) 市民後見人の育成及び活用 https: //www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12300000-Roukenkyoku/ikusei_katsuyou.pdf (2019.4.21 閲覧). 厚生労働省 (2016a) 老健局総務課認知症施策推進室各都 道府県認知症施策担当課 (室) 宛事務連絡 成年後見 制度の利用促進に向けた市民後見人の活用の推進につい て https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12300000-Roukenkyoku/riyousokushin.pdf (2019.4. 20 閲覧). 厚生労働省 (2016b) 市民後見推進自治体研修会説明要 旨 https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12300000-Roukenkyoku/sanko2_1.pdf (2019.8.2 閲覧) 厚生労働省 (2017a) 地域における住民主体の課題解決力 強化・相談支援体制の在り方に関する検討会 地域力強 化検討会 最終とりまとめ ∼地域共生社会の実現に向け た新しいステージへ∼ https://www.mhlw.go.jp/file /05-Shingikai-12201000-Shakaiengokyokushougaiho kenfukushibu-Kikakuka/0000177049.pdf (2019.4.16 閲覧). 厚生労働省 (2017b) 地域共生社会の実現に向けた地域 福祉の推進について https://www.mhlw.go.jp/conte nt/000493668.pdf (2019.4.16 閲覧). 厚生労働省 (2019) 成年後見制度利用促進施策に係る取 組状況調査結果(詳細版) http://jichitai-unit.ne.jp/n etwork/wp-content/uploads/sites/3/2017/04/aa6b47 c36c2cf895c55a3fb05bf5dd6c.pdf (2019.3.21 日閲覧). 国立社会保障・人口問題研究所 (2018) 日本の世帯数の 将来推計(全国推計) 2018(平成 30)年推計―2015 (平成 27) 年∼2040 (平成 52) 年― http://www.ipss.go.jp/ pp-ajsetai/j/HPRJ2018/hprj2018_gaiyo_20180117.pdf (2019.7.15 閲覧). 最高裁判所 (2011) 後見制度において利用する信託の概 要∼ご本人の財産の適切な管理・利用のための 後見制 度支援信託のご説明∼ http://www.courts.go.jp/vcm s_lf/210034.pdf (2019.4.27 閲覧). 最高裁判所(2019a) 成年後見関係事件の概況―平成 30 年 1 月∼12 月― http://www.courts.go.jp/vcms_lf/ 20190313koukengaikyou-h30.pdf (2019.4.15 閲覧). 最高裁判所 (2019b) 基本計画を踏まえた後見人の選任 と報酬の在り方 https://www.mhlw.go.jp/content/ 12000000/000511770.pdf (2019.7.14 閲覧). 社会福祉法人昴 (2019) 成年後見制度の利用実態把握及 び法人後見の活用に関する研究報告書 https://www.s ubaru-swc.com/h29suisin.pdf (2019.7.26) 税所真也 (2016a) 「成年後見の社会化」 からみるケアの 社会化―士業専門職化が及ぼす家族への影響―」 家族 社会学研究 28 (2), 148-160.
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