5.当院における在宅での看取りの現状報告 ―家で看 取れなかった7例を振り返って― 津久井利恵,阿藤 悦子,根岸 晴美 田沼美代子,長沢 仁子,阿部 忍 島野美津子,福田 元子,萬田 緑平 小笠原一夫 (緩和ケア診療所・いっぽ) 【目 的】 当院の 2008年 4月∼12月までの看取りの現 状 (データ) 報告と当院で診療していたにもかかわらず, 最期を病院で迎えた 7例を振り返って, 在宅で看取れな かった要因を明らかにする. 【方 法】 当院で 2008年 4月から 12月までに在宅で看取った癌患者 60名と同期 間に在宅で看取れなかった癌患者 7名のカルテからの データ収集. 【結 果】 在宅で看取った癌患者 60名に おいて, 1. 在宅期間は, 平 34日. 最短 2日, 最長 215 日であった. 2. 在宅開始理由は, 患者・家族とも在宅を 希望 (74%),本人のみ (10%),家族のみ (5%)であった. 3.同居家族は,配偶者のみ (41%),配偶者と子供 (30%), 子供 (13%), 独居 (5%) であった. 4. ヘルパー介入は, 有 (15%), 無 (85%) であった. 5. 家族が行う医療行為 は, 有 (60%),無 (40%) であった.有の詳細は,薬の管理 が 80%を占めた. 6. 食事, 排泄の世話, 清潔援助などの 家族が行った介護行為は,有 (72%),無 (28%)であった. 在宅で看取れなかった癌患者 7名は, 上記項目において 特に著しい差はみられなかった. 7名の入院理由は, 1. 症状コントロールが困難なことに家族が不安になった. 2. 遠い親戚の意見に家族が逆らえなかった. 3. 具合が 悪くなったら患者は入院希望であった. 4. 最後まで患 者は治療希望であった. 5. 経済的問題であった. 【まと め】 今や, 福祉の発展により, 独居や介護力の問題は, 在宅療養を行う上で, それほど困難な問題ではなくなっ てきている. 今回, 症状コントロールが不安定であるこ と, 治療から緩和ケアへ患者がギアチェンジできないこ と, 患者が在宅療養を望まないことが在宅看取りができ なかった要因であった. しかし, これらの要因が在宅看 取りができない絶対的条件ではないと えている. 終末 期において,患者も家族も揺れる.患者・家族は最期の時 間をどこでどのように迎えたいのか, この揺れにとこと ん寄り添うことが,様々な困難を乗り越え,患者・家族の 望む最期を迎えられることにつながると える.
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「今,再び,緩和医療とは」 座長:塚原みどり・高橋 育(伊勢崎市民病院) 1.緩和ケアの目指しているゴール 小林 剛,斎藤 龍生 (西群馬病院 緩和ケア科) がん患者というと, どういったイメージを抱くだろう か? ほとんどの方が, 痛みなどで苦しむイメージを抱くか もしれません. がん診療の全経過を通して認められるつ らさの緩和を主眼に置く医療を緩和ケアといいます. 一 般的にがん末期の終末期医療と混同されやすい傾向にあ りますが, あくまでも終末期医療は緩和ケアの一部で, 緩和ケア自体は,早い時期から他の治療 (手術療法・化学 療法・放射線療法など) と併用すべき必須の治療法です. 緩和ケアの進歩により身体的苦痛や精神的苦痛の緩和 が可能となってきていますが, 医療者側と患者・家族側 のそれぞれに, 緩和ケアに対する誤解や偏見がまだまだ 多くあります.主治医からの「もう治療がないので,緩和 ケアに行って下さい」という言葉.この言葉によって,つ らい思いをしている患者さんとご家族はすごく多い. ま た,「あそこ (=緩和ケア病棟)に行ったら何もしてくれ ない」「あそこは死に行くところだから行きたくない」と 患者さんやご家族から言われることがあります. これが 緩和ケアに対する一般的な認識です. 積極的な抗がん治療も緩和ケアもがんに対する治療の 一つです. 緩和ケアは, がんにともなって起きるさまざ まなつらさをやわらげるためのケアです. 体のつらさ, こころのつらさ, 生活のつらさなど, さまざまなつらさ を抱えたがんの患者さんとご家族を, 合的に支えるケ アのことを言います. 体のつらさをやわらげることは, とても大切なことです.その結果,「患者さんとご家族が, 自 らしい生活を取り戻す」こと, これこそが緩和ケア の目指しているゴールになります. シンポジウムを通じて, 少しでも緩和ケアに関心を抱 いていただければと思います. 2.緩和医療で精神科医がお手伝いできること 藤平 和吉(利根中央病院 かんわチーム/精神神経科) がんとともに生きなければならなくなったとき, 人は どんなことを想うのでしょう? 「がんなんかに負けない」と前向きに戦いを挑む方も あるでしょう.けれども,「なんで私がこんな目に合わな 71ければならないのか」,「こんなことなら死んだ方がマシ だ」と, 怒り, 悲しみ, ときには絶望的な気持ちになる方 もあるでしょう. 前向きでいられることは素晴らしいこ とですが,そうでなければ人間失格なのでしょうか? あ るいは精神的にどうかしてしまった, ということなので しょうか? つらい気持ちを口にされる患者さまであっても, その 多くは 康なこころの持ち主です. こころが 康だから こそ, 苦しいことを苦しいと, 哀しいことを哀しいと, 正 確にうそ偽りなく感じ取られるのです. 苦しみと向きあ う姿もまた, 尊厳に満ちた人間らしい姿なのでしょう. その一方で,がんを患うと,「うつ病」や「意識障害 (せ ん妄)」といった精神科的に 病的な状態 が出現する場 合もあります. これらはがんの様々な影響により 脳の はたらき に異常が生じた状態です. がんは身体の病気 ですが, こころ (精神機能) に影響を及ぼすケースが, 実 は想像以上に多いのです. だからこそそんなときは, き ちんとした精神科的治療を行う必要があります. 正常な 精神機能を取り戻せれば, 患者さまやご家族が, ご自身 の大切な時間を有効に えるかもしれない……そんな思 いで, 我々精神科医はお手伝いをさせていただいていま す. 精神科はかかりづらい科のひとつかもしれませんが, 精神科的な異常があるのかないのかの「判断」も含めて, 上手に っていただきたい科のひとつでもあります. 当 日は緩和医療の中で精神科医がお手伝いできること, あ るいは精神科医の役割などを, 若干の 察を えながら ご紹介させていただきます. 3.在宅緩和ケアとは 宮崎 要 (宮崎クリニック) 【はじめに】 人生の最期を支える緩和医療には様々な形 があり,ホスピス・緩和ケア病棟・一般病棟と並んで,在 宅緩和ケアが存在しています. 今回は在宅専門診療所で はなく, 一般の開業医の立場から在宅緩和ケアについて 私見を述べてみます. 【在宅緩和ケアの役割】 キーワードは「不安」と「安心」 です. いざ在宅緩和ケアを始める際には多くの不安が付 きまとうものです. 例えば患者側として, 痛みや苦痛が 出たらどうしよう, 家には帰りたいが家族には負担をか けたくないなどの不安. 家族側として, 家で十 なケア ができるのか, いざと言う時はどうしたらいいのかなど の不安です.こうした「不安」を少しでも軽くし,「安心」 してケアが出来るようサポートする事こそ在宅緩和ケア の役割なのです. 【在宅緩和ケアチーム】 その「安心」を提供するのが在 宅緩和ケアチームです.これは,家族・開業医・訪問看護 師・訪問薬剤師・介護師・ケアマネージャーなどで構成 されています. 患者に対しては, 麻薬を用いた痛みのコ ントロール, その他の苦痛の軽減, そして患者の話を良 く聞く心のケアなど, 一般病棟に近い緩和ケアの提供が 可能です. 在宅で負担の増した家族に対しては, 今後予 想される病状の変化について十 に説明し, 心配事の良 き相談相手となり, 患者の身体的ケアについての指導や 援助を行い, 積極的にサポートします. 【自由な在宅緩和ケア】 在宅緩和ケア」= 在宅での看 取り」ではありません. 緩和ケアチームの奮闘にもかか わらず,患者・家族が「もう在宅はつらい・出来ない」と 思ったら, いつでも病院やホスピスに戻れる自由な在宅 緩和ケアが理想だと思います. そうした選択の自由があ ればこそ, 患者・家族が安心して在宅ケアを続ける事が できるのではないでしょうか. しかし現状は其々の地域 や家 環境によって選択肢が限られるのも事実です. 今 後は在宅・ホスピス・一般病棟がいつでも自由に選べる 体制 (ネットワーク) 作りが必要と えています. 4.今,再び,緩和医療とは 津金沢理恵子 ( 立富岡 合病院 緩和ケア認定看護師) 【緩和ケアとは】 WHOの定義 : 緩和ケアとは, 生命を脅かす疾患によ る問題に直面している患者とその家族に対して, 疾患の 早期より痛み, 身体的問題, 心理社会的問題, スピリチュ アルな問題に関してきちんとした評価をおこない, それ が障害とならないように予防したり対処したりすること で, QOL (生活の質, 生命の質) を改善するためのアプ ローチである. 1. 人生はドラマ, 主人 は患者. わたしたちは主人 の人生を支えるサポーター・脇役・黒子 (くろこ) である. 2. 医療者が緩和すべき苦痛がある. 医療だけでは取 り除くことのできないつらさもある. 取り除くこと はできないけれど, 心の耳を傾けたい. 3. 患者はわたしたちに多くのことを教えてくれる. 緩和ケアは一方通行でなく, 双方向. 【医療で取り除くまたは和らげることができるつらさ】 1. 身体のいたみ 2. こころのつらさ (一部) 【医療では取り除くことができない苦しみ】 「トイレに行くのは当たり前の事だった. そんなこと さえできなくなった. トイレを人にしてもらうなんて情 けない. こんな苦しい思いをしてまで生きていなくては いけないの.」「私は冬までは生きられないだろう.わかっ ている. わかっているのに, 気持ちが爆発しそうにイラ 72 第 19 回群馬緩和医療研究会