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科学的な見方や考え方を深める学習活動の在り方 ― 「仮設」 の活用や身近な自然とのつながりを意識した学習活動の構想―

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Academic year: 2021

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(1)科学的な見方や考え方を深める学習活動の在り方 −「仮説」の活用や身近な自然とのつながりを意識した学習活動の構想−. 清水秀夫. 群馬大学教育実践研究 第 26 号. 群馬大学教育学部. 221∼229 頁. 別刷 2009. 附属教育臨床総合センター.

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(3) 221. 群馬大学教育実践研究 第 26 号 221 ~ 229 頁 2009. 科学的な見方や考え方を深める学習活動の在り方 ―「仮説」の活用や身近な自然とのつながりを意識した学習活動の構想― 清 水 秀 夫 群馬大学教育学部附属小学校. Activities Task Which Helps Children to Deepen their Scientific Points of View and Ways of Thinking - Activities that rouse children's awareness of the relationships with “hypotheses” and their daily livesHideo SHIMIZU Elementary school in affiliation with Gunma University Department-of-Education abstract Children like studying science. They work on experiments and make observations eagerly in order to collect results. However, it is sometimes difficult for them to think about properties and roles just based on the effects and observations made within an experiment. So, sometimes, they are unable to deepen their scientific points of view and ways of thinking. So, we designed a topic which allowed us to use familiar natural phenomena as subjects of enquiry as well as include in the learning process activities involving the proposal of hypotheses. After carrying out these activities, we assessed their effectiveness.. The conclusion was that they had allowed the children to deepen their scientific. understanding and perspectives. (2008 年 10 月 31 日受理). Ⅰ.はじめに 子どもたちは,単元の学習において,これまでに身 に付けてきた自然事象の性質や規則性では説明できな. や考え方を身に付けることは,自然事象の性質や規則 性を解釈するためだけでなく,意欲的に単元の学習を 進めていく上でも重要である。. い事象に出会うと,科学的な見方や考え方を働かせ,. 本稿では,子どもたちが科学的な見方や考え方を活. 「なぜだろう」という疑問をもつ。そして,調べてみ. 用させる学習場面や実際に理科の学習に取り組む子ど. たいという意欲を高め, 観察や実験の計画を立てたり,. もたちの実態を明らかにした上で,科学的な見方や考. 計画に沿って観察や実験を行ったりして,結果を導い. え方を深めるための学習活動の在り方を検討する。そ. ていく。さらに,結果から分かることを考えることで,. して,実際に単元での学習を構想し,実践を通して,. 自然事象の性質や規則性を解釈し,新たな科学的な見. その有効性を検証する。. 方や考え方を身に付けていく。つまり,科学的な見方.

(4) 222. 清水秀夫. Ⅱ.科学的な見方や考え方を活用する学習場面. 察や実験を行ったりすることが多い。例えば,第4学. 理科における一連の問題解決的な学習の中で,子ど. 年B領域「水のすがたと行方を調べよう」では,水の. もたちは科学的な見方や考え方を活用しながら学習を. 状態変化について,ビーカーの中の水を加熱するとい. 進めていく。中でも,次の3つの学習場面で強く活用. う特別な条件の下で実験し,水が水蒸気となって蒸発. すると考えられる。. していくことを温度と関係付けながら考察していく。 その後,科学的な見方や考え方を活用しながら,加熱. 1 観察や実験の結果を予想する場面. しなくても水槽の水が少しずつ減っていったり,洗濯. 観察や実験を行って問題を追究していく前に,子ど. 物が乾いたりする現象を追究し,これまでの学習で身. もたちは観察や実験の結果を予想する。ここでは,な. に付けた自然事象の性質や規則性を,科学的な見方や. ぜそのように予想したのか,根拠をもって説明できる. 考え方を活用しながら,身近な自然事象の中に当ては. ようにする。例えば,第4学年B領域(2)「物のかさ. めていくのである。. の変わり方を調べよう」では,「金属を温めるとかさ が増えるか」という問題を解決していく。ここで子ど. Ⅲ.子どもの実態. もたちは,単に「増える」「増えない」という結果だ. 子どもたちは,理科の学習に意欲的に取り組む。特. けを予想するのではなく,鉄は硬いということを根拠. に計画に沿って観察や実験を行うことが好きである。. にして「かさは増えない」とか,夏の暑い日に線路が. 子どもたちが科学的な見方や考え方を活用する場面の. 伸びて曲がったという情報を根拠にして「かさは増え. 学習に対して,子どもたちがどのような意識をもって. る」と予想する。この根拠となるものは,子どもたち. いるのかを把握するため,6年生(144名)を対象. がこれまでの学習経験や生活経験で身に付けてきた自. に質問紙による調査(資料1)を行った。. 然事象の性質や規則性であり,科学的な見方や考え方 を活用しながらこの根拠を見付けていくのである。 2 観察や実験の結果から明らかになったことを考え る(考察する)場面 観察や実験を行って,結果をまとめた後,子どもた ちは結果から自然事象のどのような性質や規則性が明 らかになったのかを考える。例えば,第5学年B領域 「物の溶け方を調べよう」では,水やお湯に食塩やホ ウ酸を溶かし, 水の温度と溶ける量との関係を調べる。 そして,「食塩は温度を高くしても溶ける量があまり 増えない」「同じ温度でもホウ酸と食塩では溶ける量 が違う」等の結果を得る。これらの結果から,科学的 な見方や考え方を活用しながら,「物が水に溶ける量 には限度がある」 「物が水に溶ける量は水の温度や量, 溶ける物によって違う」という,新たな自然事象の性. 結果を第1表に示す。この結果から,次のようなこ とがいえる。. 質や規則性を解釈し,身に付けていくのである。 理科の学習が「とても好き」または「好き」と答え 3 学習したことを身近な自然事象に当てはめていく 場面 理科の学習では,複雑に絡み合っている身の回りの. た子どもは全体の66%で,「苦手」または「とても 苦手」と答えた子ども17%に比べると,理科好きの 子どもが多いことが分かる。. 自然事象から,目的とする性質や規則性を見出せるよ. 好きな学習場面は,④観察や実験をする場面,①調. うに,対象を限定して扱ったり,特別な条件の下で観. べたいことを考える場面,③観察や実験の計画を立て.

(5) 科学的な見方や考え方を深める学習活動の在り方. 223. つからないから」という理由が多かった。また,⑥考 察する場面では,「結果に納得できないから」「結果 から分かったことを見付けるのが難しいから」「学習 が分からなくなる」が多かった。 以上のことから,子どもたちは,科学的な見方や考 え方を活用させたり,身に付けたりしていく学習場面 に難しさを感じていることが分かる。特に,観察や実 験から得られた結果を基に,自然事象の性質や規則性 について考察する場面に難しさを感じている。子ども たちの自由記述からは,考察の段階になって,観察や 実験を行ってきた目的が薄れてしまったり,これまで に身に付けてきた自然事象の性質や規則性に根拠に考 えた自分の仮説に固執するあまり,新たな見方や考え 方をもてなかったりする様子がうかがえる。 Ⅳ.科学的な見方や考え方を深める学習活動 理科の学習で科学的な見方や考え方を活用する場面 に子どもたちが苦手意識をもっているという実態か ら,科学的な見方や考え方を深められるようにするた めには,子どもたちが行う観察や実験の結果をより明 確に見通せるようにすること,また,どのような見通 しをもって追究してきたのかを考察の段階できちんと る場面である。特に「苦手」「とても苦手」と答えて. 振り返ることができるようにすることが必要であると. いる子どもでも,③観察や実験をする場面や,①調べ. 考える。さらに,学習で身に付けてきた自然事象の性. たいことを考える場面は好きな学習場面と答えてい. 質や規則性を基にして,身の回りの自然事象を追究で. る。. きる単元を構想することが必要であると考える。. 理科が好きと考える理由の自由記述には,「観察や 実験はいろいろな道具を使うので楽しい」「予想通り. 1 仮説の設定と活用. の結果や意外な結果が出るのが楽しい」「何でそうい. 学習指導要領では,これまでも「見通しをもって観. う結果になるのか分かったときが楽しい」という回答. 察,実験を行うこと」を目標に掲げ,子どもたちの問. が見られた。. 題解決能力の育成を目指してきた。『学習指導要領解. 一方で,理科の学習で難しさを感じる学習場面は,. 説-理科編-』によれば,「見通しをもつ」とは,「児. ②結果を予想する場面と,⑥結果から分かったことを. 童が自然に親しむことによって,問題に対して予想や. 考える(考察する)場面である。この2つの学習場面. 仮説をもち,それらを基にして観察,実験などの計画. に難しさを感じている子どもの割合は,他の学習場面. や方法を工夫して考えることである」 と解説している。. と比較しても,非常に高い。特に,理科の学習を「と. また,「見通しをもつ」ことの意義について,「観察,. ても好き」と答えている子どもでも,67%の子ども. 実験が意欲的になる」「見通しをもつことで,予想や. が考察する場面の学習に難しさを感じている。また,. 仮説の妥当性を検討できる」と記されている。. 理科が「苦手」「とても苦手」と答えた子どもは全員 がこの学習場面に難しさを感じている。 理科が苦手と考える理由の自由記述を見ると,②結 果を予想する場面では,「根拠が分からないから,見. しかし,子どもたちは,見通しをもつことに苦手意 識をもっている。その結果,考察を行う段階で,観察 や実験を行ってきた目的が薄れ,考察に深まりがみら れなくなると考えられる。.

(6) 224. 清水秀夫. そこで,「予想した観察や実験の結果から,自然事 象の性質や規則性についてどのようなことがいえるの. そして,この3つの要素を含み込んだ仮説は,例 えば,次のようになる。. か」を,観察や実験の前に考え,整理して,仮説とし てまとめる活動を取り入れた。仮説を立てることで,. 「泡がたくさん出ているとき, 熱したビーカーの水がど. 追究の目的が明確となるとともに,予想した際の根拠. んどん減っていったので,泡の正体は水だと思う。出て. を考え直したり,修正したりして結果を解釈すること. きた泡をビニル袋に集めて, ビニル袋やゴム管に水が出. ができ,新しい見方や考え方を深められると考えた。. てくれば,泡の正体は水だということが分かる。」. 仮説は次の3要素で構成する。. この仮説を立てることにより,子どもたちは,それ までの生活経験や学習経験を基にして,予想の根拠を. A 自分の課題について,根拠を明確にして結果 を予想する。. 明確にもつことができる。そして,自分の課題を解決 する方法を考え,結果がどのようになるのか,また, そこからどのような自然事象の性質や規則性が分かる. B Aで立てた予想を確かめるための方法を話 し合い,観察や実験の計画を立てる。. のかということをあらかじめ考えて追究できるように なる。その結果,子どもたちは,観察や実験の目的を 明確にもち続けることができるようになり,考察の段. C 観察や実験の結果が予想通りなら,自然事象. 階で,仮説の妥当性を検討しながら,科学的な見方や. の性質や規則性についてどのようなことが. 考え方を活用しながら,自然事象の性質や規則性を身. 分かるのか考える。. に付けることができる。仮説を立てて追究する学習の 流れを第1図に示す。.

(7) 科学的な見方や考え方を深める学習活動の在り方. 225. 2 日常生活とのつながりを意識した学習活動の設定 子どもたちは,単元の学習で追究してきた自然事象 の性質や規則性が,身の回りでも見られる場面を見付 けたり,自分の課題をもって,身の回りで見られる自 然事象の性質や規則性を追究していく際に科学的な見 方や考え方を深めていくと考えられる。 そこで,単元の学習で身に付けた自然事象の性質や 規則性を身の回りの自然事象に当てはめて追究できる 学習活動を意図的に設定することが必要であると考え た。この活動を設定することで,子どもたちは自分が 学んできたことを生かして身の回りの自然事象を追究 する活動に取り組むことができ,科学的な見方や考え 方を深めることができると考えた。 Ⅴ.実践事例 これまでに述べてきた仮説を活用し,日常生活と のつながりを意識した題材を構想し,以下の実践を行 った。 1 単元 「水のすがたと行方を調べよう」 第4学年3学期(全14時間) 2 単元の構想 本単元において,子どもたちは,身近な存在であ る水が水蒸気や氷になる様子を,温度と関係付けなが ら追究することで,水の姿やその行方について関心を もち,水の状態変化についての見方や考え方を深めて いく。その際,水について調べたいことを話し合って 決めたり,実験の結果や結果から分かることまでを見 通して実験を行ったり,学習したことを生かして身の 回りの水の姿や行方について追究したりすることによ. 3 実践. り,科学的な見方や考え方が深まるようにしたいと考. (1) 泡の正体を調べる仮説を立てる(第3時). えた。そこで,本単元では,仮説を立てる活動を設定. ①泡の正体を根拠をもって予想する. し, 実験の結果や結果から分かることまでを見通して,. 子どもたちは,沸騰した水の中から出ている泡の正. 水の姿を追究できるようにしたり,仮説と実験の結果. 体を調べるために,まず泡の正体を,これまでの学習. を比べながら明らかになったことをまとめられるよう. 経験や生活経験を根拠に予想した。. にしたりした。また,単元の前半で追究した水が水蒸 気に変わるという現象が,身の回りでも起こっている ことを確かめる活動を設定し,第2表のような単元を 構想した。. M「水の中で空気のように見えるし,お風呂の中で洗面器を ひっくり返したときに出る泡と同じだから,空気だと思 うよ。」 Y「たくさん泡が出たら,水が減ったよ。泡の正体は水だと 思うな。」 C「泡が水なら,同じ水なのに,どうして水と泡に分かれて 見えるのかな。やっぱり空気だよ。」.

(8) 226. 清水秀夫. ②予想を確かめるための実験方法を話し合う 実験方法は子どもたちと話し合って決めた。水を沸. ニル袋やゴム管の様子を注視しながら実験を進めた。 そして,次のような結果を得た。. 騰させ,出てくる泡をビニル袋に集めればよいという ことになった。そこで,泡を集めるためには漏斗が使. 資料2 ビニル袋やゴム管の様子を注視して. えること,漏斗とビニル袋は透明なゴム管でつなぐと. 実験を行っている子どもたちの様子. よいことを助言した。 ③仮説を立てる 次に,実験の結果や結果から分かることまでを見通 せるように,仮説を立てた。 M「お風呂の中で遊んでいるときに見た泡と同じだったの で,泡の正体は空気だと思う。水を熱して,出てきた泡 をビニル袋に集めて, ビニル袋が膨らめば, 泡の正体は, 空気だということが分かる。」 Y「泡がたくさん出ているとき,熱したビーカーの水がど んどん減っていったので,泡の正体は水だと思う。出て きた泡をビニル袋に集めて, ビニル袋やゴム管に水が出 てくれば,泡の正体は水だということが分かる。」. ・「袋の中がくもって,水が溜まっていた。」 ・「ゴム管の中にも水滴が付いている。」 ・「実験中はビニル袋が少し膨らんだ。」 ・「やっぱり水が減っている。」 ②泡の正体を考える 実験後,結果と自分で立てた仮説を比べて,泡の正 体について明らかになったことを記述したり,発表し たりするように促した。 C「泡の正体は空気だと思っていたけど,ビニル袋に水 が溜まっていたから,泡の正体は水だということが分 かった。」 Y「ゴム管にも水滴がたくさん付いていたから,やっぱり水 だ。」. しかし,泡の正体を空気であると予想した子どもた ちの中には,自分なりの根拠をもって仮説を立て,実 験を行ってきたため,泡の正体が水であるということ 子どもたちが立てた仮説からは,泡の正体について. について,すぐには納得できない様子が見られた。. 根拠をもって予想し,実験の結果までを見通している 姿がうかがえた。 (2) 泡の正体を調べ,考察する(第4時) ①実験を行い,結果をまとめる 子どもたちは,前時に立てた計画に沿って,泡の正 体について調べる実験を行った。子どもたちは「実験 の結果から分かること」までを見通していたので,ビ. M「やっぱり空気だよ。袋が膨らんでからしぼんだのは,冷 えて空気のかさが減ったからだよ。」 C「でも,水の中に,あんなにたくさんの空気は入っていな いよ。水も減ったしね。」 Y「あれだけたくさんの泡が出たんだから,空気ならしぼま ずに,パンパンに膨れるはずだよ。」 M「そうすると,空気のように見える水があるということな のかな。」.

(9) 科学的な見方や考え方を深める学習活動の在り方. 実験の結果から,泡の正体について,これまでの水 に対する知識では,うまく説明することができなかっ た。そこで,実験の結果をもう一度整理し,どんな時 に空気のように見えたり,水として見えたりしたのか を考えるように促した。. 227. (3) 身に付けたことを生かして,身の回りの水の姿 と行方について調べる場面(第11~14時) ①身の回りの自然事象から課題を見付ける 子どもたちは,泡や湯気の正体,水が沸騰する温度 や凍る温度を調べ,水の姿と行方について学習してき た。そこで,学習してきたことを生かして身の回りで. Y「ビーカーの中は温度が高かったよ。ビニル袋やゴム管は, 手でさわれる温度だった。」 M「温度がとても高いときに,空気のように見えるんだよ。」 Y「そうか,温度が高いときに水は空気のように見えるんだ。 それなら,予想したことや実験の結果と合うよ。」. 見られる水の姿と行方について調べることで,興味・ 関心を高めながら身の回りの自然事象を追究する活動 に取り組めるようにした。 まず,教師は,身の回りで水の姿が変化している場 面を想起するように促した。生き物係のSは,学級で. 仮説を基に,見通しをもって実験を行ってきた子ど もたちは,実験前に予想したことと実験の結果を照ら. の係活動の経験から,水槽の水がいつの間にか少なく なっていることに気付いていた。. し合わせながら水の姿について考えることができ,新 しい水に対する見方や考え方が生まれてきた。 そこで, 教師は,水には空気のように見える状態があることや. S「水槽の水は,毎日少しずつ減っているよ。だからたまに 水を入れているんだ。」. それを水蒸気ということ,水蒸気は気体であること, 水は温められると水蒸気となって空気中へ出て行くこ. それを聞いた子どもたちからは,. とを説明した。. M「水は温度によって,空気のように見える水蒸気という姿 になるんだな。気体なんだ。」. C「雨が降った後,水たまりの水がいつの間にかなくなって いる。」 C「濡れたハンカチがいつの間にか乾いている。」. などの意見が出された。 そこで教師は,加熱しなくても水は水蒸気になるの か,考えるように促した。子どもたちからは,次のよ うな意見が出された。 S「水槽の水が減っているということは,水蒸気になって 空気中へ出ていっているからだと思う。」 C「実験したとおり,温めないと水蒸気にはならないと思 う。」 C「水槽の水が減るのも洗濯物が乾くのも,水が水蒸気に なって逃げていくからだと思う。」. 次に,その予想を確かめるための実験の方法を話し 合った。子どもたちからの意見で,「①ビーカーに決 められた量の水を入れ,放置する」,「②水を入れた ビーカーにラップをかけて放置する」,「③水を入れ たビーカーにアルミ箔をかけ,ストローをさして先に ビニル袋を付ける」,などの意見が出されたため,方 法は子どもたちが選択し,実験を行った。Sは,③の 実験を選択したので,比較のため①の実験も同時に行.

(10) 228. 清水秀夫. うように助言した。. Mは,泡の正体を「空気」と考えていた。袋の中に. 実験を始めて3日後,実験の結果をまとめた。ビー. 水が出てきても,ビニル袋が一時的に膨らんだことを. カーも水が減っていることや,ビーカーにかけたラッ. 根拠に,「空気」であると考え続けていた。しかし,. プの内側に水滴が付いていること,ビニル袋の中に水. Mの仮説にも見られる「空気のように見える」という. 滴が付いていることが,結果として発表された。教師. 事実と,「ビニル袋に水が溜まってきた」という事実. は子どもたちから発表された実験の結果を板書し,実. を照らし合わせることで,科学的な思考を働かせなが. 験の結果から分かることを考えるように促した。. ら,空気のように見える水の存在に気付くことができ たのである。. C「ビニル袋の中に水滴が付いていた。温めたときより水の 量は少ないけれど同じ結果になったよ。」 S「ラップをかけないビーカーの水は減っている。アルミ箔 をかけてストローをさしてビニル袋を付けた方は, ビニル 袋に水がたまっているよ。」 C「水が水蒸気になったのに,外へ出られなかったからだ。 水は温めなくても水蒸気に変化しているようだ。」. 本時の学習の最後には,「新しく分かったことがあ るか」「これまでの学習を生かしてやってみたいこと があるか」を記述する活動を設定した。子どもたちは, 学習プリントに, S「水は温めなくても,蒸発していることが分かった。水は いつでも蒸発しているのだな。 水槽の水が何日間でどれく らい減るのか調べてみたい。すごく蒸発していると思う な。」. 一方,「泡の正体は水である」と予想していたYは, 以下のような発言をしている。 Y「たくさん泡が出たら,水が減ったよ。泡の正体は水だと 思うな。」 Y「泡がたくさん出ているとき,熱したビーカーの水がどん どん減っていったので,泡の正体は水だと思う。出てき た泡をビニル袋に集めて,ビニル袋やゴム管に水が出て くれば,泡の正体は水だということが分かる。」 Y「ゴム管にも水滴がたくさん付いていたから,やっぱり水 だ。」 Y「あれだけたくさんの泡が出たんだから,空気ならしぼま ずに,パンパンに膨れるはずだよ。」 Y「ビーカーの中は温度が高かったよ。ビニル袋やゴム管は, 手でさわれる温度だった。」 Y「そうか,温度が高いときに水は空気のように見えるんだ。 それなら,予想したことや実験の結果と合うよ。」. Yは,泡がたくさん出ているとき,熱したビーカーの などと,記述することができ,これまでに学習してき. 水が減少していったことを根拠に,泡の正体を「水」で. た水の姿の変化が,身の回りでも日常的に起こってい. あると予想していた。実験の結果から泡の正体について. ることを理解することができた。. 考察する際には,「泡の正体が空気だとしたらビニル袋 が膨れるはずだ」と,泡の正体が空気ではないことを説. Ⅵ.実践の評価. 明したり,「水は温度が高いときに空気のように見える」. 1 仮説の設定と活用について. と,水の状態変化を温度と関係付けて考えたりすること. 泡の正体を調べ,考察してきたMは,学習の中で以 下のような発言をしている。. ができていた。これは,Yが自分で立てた仮説の根拠を しっかりともてていたこと,空気のように見える水の存 在を説明しようと,自分なりの考察を学習の中で交流し. M「水の中で空気のように見えるし,お風呂の中で洗面器を ひっくり返したときに出る泡と同じだから,空気だと思 うよ。」 M「お風呂の中で遊んでいるときに見た泡と同じだったの で,泡の正体は空気だと思う。水を熱して,出てきた泡 をビニル袋に集めて,ビニル袋が膨らめば,泡の正体は, 空気だということが分かる。」 M「やっぱり空気だよ。袋が膨らんでからしぼんだのは,冷 えて空気のかさが減ったからだよ。」 M「温度がとても高いときに,空気のように見えるんだよ。」 M「水は温度によって,空気のように見える水蒸気という姿 になるんだな。気体なんだ。」. 合えたことによると考えられる。 泡の正体を調べるために仮説を立てたことは,子ど もたちにとって,追究の目的を明確化することに役立 った。また,「こうなるはずだ」という仮説を活用し, 結果を解釈して考察できるようになり,新しい見方や 考え方を深めることができたと考えられる。その際に は,互いの考えを交流させる場を設定することが有効 であった。.

(11) 229. 科学的な見方や考え方を深める学習活動の在り方. 2 日常生活とのつながりを意識した学習活動の設 定について. なる情報を,支援として提示していく必要がある。 また,日常生活とのつながりを意識した学習活動の. 身の回りに存在する水が,日常的に蒸発しているこ. 設定では,学習してきたことを生かして,どのような. とを調べてきたSは,学習の中で以下のような発言を. 事象を追究させていくのか検討し,年間指導計画に位. している。. 置付けていく必要がある。. S「水槽の水は,毎日少しずつ減っているよ。だからたま に水を入れているんだ。」 S「水槽の水が減っているということは,水蒸気になって 空気中へ出ていっているからだと思う。」 S「ラップをかけないビーカーの水は減っている。アルミ 箔をかけてストローをさしてビニル袋を付けた方は, ビニル袋に水がたまっているよ。」 S「水は温めなくても,蒸発していることが分かった。水 はいつでも蒸発しているのだな。水槽の水が何日間で どれくらい減るのか調べてみたい。すごく蒸発してい ると思うな。」. Ⅶ.おわりに 本稿では,科学的な見方や考え方を深める学習活動 の在り方について,「仮説」の活用と身近な自然との つながりを意識した学習活動の構想という,2つの視 点から授業を構想し,実践を試みた。「観察や実験の 結果から分かること」までを見通す仮説を立てること は,見通しをもって観察や実験を行えるようになるば かりか,考察がしやすくなり,子どもたちの科学的な 見方や考え方を深めることができる。科学的な見方や. Sは,水槽の水が日常的に蒸発していることに気付い. 考え方を活用する場面に難しさを感じている子どもた. ていた。しかし,「ビーカーに決められた量の水を入れ,. ちにとって,仮説を立てることで,より楽しく理科の. 放置する」実験と「水を入れたビーカーにアルミ箔をか. 学習を進められるようになるとともに,科学的な見方. け,ストローをさして先にビニル袋を付ける」実験を比. や考え方を深めることができることが期待できる。ま. 較しながら行ったり,友達が行った実験結果の発表を聞. た,日常生活とのつながりを意識した学習活動を設定. いたりすることにより,水は加熱するという特別な条件. することによって,学習した自然事象の性質や規則が. の下で「水蒸気」になる,という科学的な見方や考え方. 身の回りで起こっていることにもつながっていること. を基に,水は日常的に常温でも水蒸気に変化していると. を,科学的な見方や考え方を働かせながら考えられる. いう,科学的な見方や考え方を深めることができた。こ. ようになることが期待できる。. れまでに学習してきたことを,身の回りの自然事象に当 てはめる学習活動を設定することは,科学的な見方や考. 謝 辞. え方を活用させながら,「水は日常的に蒸発している」. 本実践を進めるに当たり,附属小学校理科部の先生方に. という新たな自然事象の性質や規則性を実感することに. は,有益なご指導,ご助言をいただいた。ここに深甚の謝意. つながったと考えることができる。. を表する。. 3.課 題. 〈参考文献〉. 子どもたちは, 仮説を立てて課題を追究していくが, 例えば,「水が何度で沸騰したり凍ったりするのか」 といった自然事象のもつ性質そのものを追究する場合 には根拠をもって予想することができない。 このため, 仮説を立てることが難しくなる。仮説を立てることが 難しい場合には,実験の結果を予想するための根拠と. 文部科学省編『小学校学習指導要領解説 理科編』 東洋館出版,2008 日置光久ほか『子どもはどう考えているか』東洋館 出版,2007 日置光久ほか『理科でどんな力が育つか』東洋館出 版,2007. (しみず ひでお).

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