あのころの未来:7.科学は人を差別するか -GATTACA(ガタカ)-
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(2) 07. 科学は人を差別するか─ GATTACA(ガタカ)─. 事件も多く発生してい る.18 年 前 の フ ィ ク ションがすでに現実に なりつつあるのだ. 無事ガタカに採用さ れたとしても,入館時 の血液採取,定期的な 尿検査,館内の体毛や 垢等からサンプルが収 集され,登録された適. 左:皮膚上のシートにジェロームの血液を仕込み,指先に貼りつける 右:腕からの血液検査が抜き打ちで実施されることに.どうやって潜り抜ける?. 『ガタカ』より ©1997 COLUMBIA PICTURES INDUSTRIES, INC. ALL RIGHTS RESERVED.. 正者か不適正者かが顔 写真とともにチェックされる.ガタカにいる限り身. 社会であるがゆえ,この性質が大きな脆弱性として. 分を偽り続けることはきわめて困難だ.この究極と. 存在するところはとても面白い.. も言える監視体制を潜り抜けるためヴィンセントが. ヴィンセントに身元を譲ったジェロームの心情・. 行った行動がまた徹底して凄く,本作の描く世界を. 目的も本作を観る上での大変魅力的な一要素である.. 一層リアリティあるものへと引き上げている.毎朝. ヴィンセントはガタカの面接に行く直前彼にこう聞. 何度も何度も体を擦り,髪を梳き,ヴィンセントの. く「いいのか.今日を境に僕は僕で,君は君じゃな. DNA の痕跡を外に残さないための準備をする.さ. くなる」.そう,ジェロームにとってヴィンセント. らに人工皮膚を指先に貼り付け,その先端にジェロ. の成功は彼自身のアイデンティティの喪失でもある. ームの血液を仕込み,ジェロームの尿が入った袋を. のだ.遺伝子社会で自身を喪失する恐怖.彼がそれ. 太ももに貼り付け,日々の血液検査や尿検査に備え. を望む理由とは何か.アイデンティティを抹消され. る.また,一切の痕跡を残さないだけでは怪しまれ. た彼が行くところはどこか.殺人事件などではなく,. るため,ジェロームのふけや垢,体毛を常に持ち歩. これが視聴者に与えられた最大のミステリーなのだ.. き,さまざまな場所にジェロームの痕跡を残してい. 18 年前の作品が描く「そう遠くない未来」は着. く.セキュリティの視点で考えれば,ヴィンセント. 実に近づき,いくつかの未来はすでに顕在化してい. はガタカという認証システムに対する攻撃者である.. るようにすら思える.その先にあるのは科学技術に. 協力者による生体提供がある場合のなりすまし攻撃. よるディストピアだろうか.1 つ言えるのは,本作. は非常に強力だ.これをどう検知するかは,まさに. は安易な科学技術批判映画ではなく,運命を定めら. 現在の生体認証が抱える大きな問題にも繋がってい. れたヴィンセントが,そして運命に裏切られたジェ. る.またプライバシーの視点で考えたとき,遺伝子. ロームが,それに抗い,自分の可能性を追い求める. が唯一のアイデンティティとなる時代では,我々は. 姿を描いた傑作だという点だ.レトロフューチャ. ヴィンセントのような生活を強いられるかもしれな. ーに彩られた映像,マイケル・ナイマン(Michael. い,というもう 1 つの大きな問題をも示唆してい. Nyman)による美しい音楽とともに 2 人の結末を. るのだ.. ぜひ見届けていただきたい. (2015 年 5 月 2 日受付). ところで,顔の目視確認をどう潜り抜けたかが気 になった方もいるだろう.答えはジェロームの言葉 通り「顔なんてどうせ誰も見ていない」である.顔 認証においてはその一致判定を人間が行うと意外に 間違えやすいという性質がある.DNA を盲信する. 大木哲史(正会員). [email protected]. 2004 年早稲田大学大学院修了.早稲田大学理工学研究所を経て 2013 年 より産業技術総合研究所.ネットワークセキュリティ,生 体認証を中心とした認証技術に興味を持つ.博士(工学).. 情報処理 Vol.56 No.8 Aug. 2015. 745.
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