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多重危機と3次元危機マネジメント

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(1)

 序

企業危機 (Unternehmenskrise) とは、想定されていなかった事態の生起 によって企業目標の達成が困難になる状態を意味する。とりわけ、企業の最 高次の目標たる収益性目標を追求する際に制約条件 (制約的目標) となる流 動性目標の達成が危うくなると、企業の存在それ自体が脅かされ、倒産とい う結末を迎えることもある。このような企業危機は、①危機のプロセス、② 危機の内容、③予見可能性、④危機発生の態様等を基準として類型化され得 るのである1) 企業危機を克服ないし回避するためのマネジメントが危機マネジメント (Krisenmanagement) であって、その重要性は最近とみに増加している。こ の危機マネジメントは、その対象たる企業危機、思考様式等によって、いく つかの類型に分けられ得るのである2) 。

多重危機と3次元危機マネジメント

− 1 − 1) とくに、①戦略的危機、潜伏的危機、顕在的/支配可能危機、顕在的/支配不可能危 機、②予見可能な危機、予見不可能な危機という類型が重要である。これらについて は、深山 明「EU における企業危機と戦略的危機マネジメント」海道ノブチカ編著 『EU 拡大で変わる市場と企業』日本評論社、2008年、178ページ以下を参照。 2) 危機マネジメントは、能動的危機マネジメント (先取的危機マネジメントおよび予防 的危機マネジメント) と受動的危機マネジメント (反発的危機マネジメントおよび清 算的危機マネジメント) に大別される。その他、戦略的危機マネジメントと戦術的危 機マネジメントという類型も重要である。これらについては、深山 明、前掲稿、 182ページ以下を参照。

(2)

2001年9月11日、アメリカで同時多発テロ事件が勃発した。現地時間の午 前8時過ぎから約1時間の間にユナイテッド航空とアメリカン航空の航空機 が2機ずつハイジャックされ、ユナイテッド航空とアメリカン航空の各1機 がニューヨークの世界貿易センタービルの北棟と南棟に、そして、アメリカ ン航空の1機がアーリントンにあるアメリカ国防総省庁舎にそれぞれ突入し、 爆発・炎上した。他の1機はシャンクスヴィルで墜落した。アメリカ政府は、 直ちにすべての国境を閉鎖し、また、アメリカ連邦航空局 (FAA) はすべて の空港と民間用空域の封鎖を命じた。それによって民間機のアメリカ領空へ の進入はすべて禁止され、飛行中の航空機は最寄りの空港に強制着陸させら れたのである。これらの措置は数日間継続され、そのことによって多くの航 空会社が甚大な影響を受けることになった3)。その結果、ユナイテッド航空、 スイス航空、サベナ・ベルギー航空、アンセット・オーストラリア航空など が倒産したのは周知のとおりである。 上述のように、アメリカ同時多発テロを契機として、多くの航空会社が困 難な状況に陥ったのであるが、それは単にテロによって触発された企業危機 に見舞われたということではない。すでに別の危機が発生していて、さらに 新たな危機が発生したということなのである。すなわち、この状況は「危機 における危機 (Krise in Krise)」4)として捉えられなければならない。それは 多重危機 (Mehrfachkrise) あるいは複合的危機 (multiple Krise) と称される。 また、そのような企業危機を克服するために有効な危機マネジメントが3次 元危機マネジメント (3D-Krisenmanagement) である。その場合、「危機にお ける危機の克服 ( von Krise in Krise)」5)

が目指されることにな る。

3) たとえば、全世界の航空機のうち2100機が運行休止状態におかれ、全航空産業におい て約40万人が職を失い、航空会社の損失は全体で150億ドルに達したといわれる。 Vgl. hierzu R. A., Sattelberger, Th. und Heil, O. P.: 3D-Krisenmanagement,   Wien 2007, S. 168.

4) R. A., Sattelberger, Th. und Heil, O. P.: a. a. O., S. 11. 5) ebenda.

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本稿においては、このような新しい発想に基づく企業危機と危機マネジメ ントをめぐる問題について考察することにしたい。

 多重危機

1.ルフトハンザの事例 (1)航空産業の経営的特質 航空会社の経営上の特質は大略次のようにまとめることができる6) ①航空需要は景気の動向に左右されやすく、利益の変動が著しい。 ②航空機材の調達や要員の育成は多くの時間と資金を必要とする。 ③原価に占める固定費の割合が大きい。 ④限界原価がきわめて小さい。 ⑤航空輸送サービスという商品は在庫が利かない。 以下においては、航空会社の原価構造をめぐる問題について考えておきた い。航空会社の営業費(経営原価)は、直接営業費 (direkte Betriebskosten, direct operating costs) と間接営業費 (indirekte Betriebskosten, indirect operat-ing costs) に分けることができる7)。前者は個々の機材に直接的に関係づけ られ得るもので、機材が変更されるとその影響を受ける。それは、運航費、 整備および分解検査費、減価償却費および年賦償還費(amortisation)から成 6) ANA 総合研究所『航空産業入門』東洋経済新報社、2008年、139ページ以下、井上泰 日子『航空事業論』日本評論社、2008年、149ページ以下、三田 譲編著、塩谷さや か、中谷英樹著『現代の航空輸送事業』同友館、2007年、1ページ以下、羽原敬二 「航空会社の新たなビジネスモデル」村上英樹・加藤一誠・橋望・榊原胖夫編著 『航空の経済学』ミネルヴァ書房、2006年、155ページ以下、下井直毅「航空産業に おける現状と課題」 NIRA 政策レビュー』No. 19、2007年9月、6ページ以下、国土 交通省航空局「我が国における航空サービスの展望と課題」2003 年10月8日、19ペ ージを参照。Vgl. auch Maurer, P.: Luftverkehrsmanagement, 4. Aufl.,Wien 2006, S. 216 ff.; Schmidt, G. H. E.: Handbuch Airlinemanagement,Wien 2000, S. 213 ff.

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る。また、間接営業費は、空港事業所経費、地上費、乗客サービス費、発券 ・販売促進費、一般管理費、およびその他の営業費から構成されている。そ して、直接営業費においては固定費と変動費が混在しているが、間接営業費 はほとんどが固定費である8) しばしば、航空産業は固定費比率の高い装置産業であるといわれている9) それは、航空機材の購入に多額の資金が必要であること、人件費が相対的に 高いこと、コンピュータ・システムや整備工場などに巨額の投資を必要とす ることなどに還元され得るのである。 原価に占める固定費の割合が大きいということは、損益分岐売上高が右方 にシフトし、さらに、固定費問題 (Fixkostenproblem) の影響が著しく現れ るということである。固定費問題とは、無効費用 (Leerkosten) による収益 性と流動性の圧迫の問題である10)。したがって、企業としては無効費用の発 生を可能な限り抑制しなければならないのである。ところが、上述の航空産 業の経営的特質からも明らかなように、当該産業はすぐれて資本集約的かつ 人間集約的であるので、柔軟性が著しく欠如しており、「不十分な柔軟性の ゆえに、需要減少期に生産能力が迅速に適応させられ得ない」11)のである。 かくして、一方では、航空機材数を増加させて、固定費とりわけ間接営業費 を多くの単位に分散負担させ、他方では、生産能力利用の増進を図るという ことが当該産業の基本的な戦略となるのである。実際、主要な航空会社は合 併に次ぐ合併によって企業規模を拡大し、在庫の利かない商品の販売をめぐ ってシェア獲得競争に走ることを余儀なくされているのである。また、さま ざまなアライアンス12) の形成や各種の業務提携によって固定費負担の軽減が 8) Maurer, P.: a. a. O., S. 212. 9) たとえば、井上泰日子、前掲書、153ページを参照。 10) 深山 明『ドイツ固定費理論』森山書店、2001年、27ページ以下を参照。

11)H. and Hollmeier, S.: Airline strategy in the 2001/2002 crisis―the Lufthansa exam-ple, Journal of Transport Management, 9 (2003), p. 51.

12) 近年における航空産業における1つの潮流は、グローバル・アライアンスである。そ れは国境を越えた航空会社間の提携の動きであり、主要航空会社のほとんどがそのよ うなアライアンスに参加している(塩谷さやか 新規航空会社事業成立の研究 中央

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企図されている。 1990年代以降、航空需要は安定的に増加しているにもかかわらず、今日に 至るまでイールド ( yield) は持続的に低下し続けている13)。それは第1図が 示すとおりである。かかる現象を生じさせているのは慢性的な過剰能力14) 熾烈な価格競争であり、それらが航空産業の構造的な問題となっている。 当該産業に関する規制緩和は、アメリカにおいて「航空規制緩和法」 (Airline Deregulation Act of 1978)の制定を契機として開始された。ヨーロッ

経済社、2008年、11ページ)。「スター・アライアンス」、「ワンワールド」、「スカイ・ チーム」が3大アライアンスあり、ヨーロッパの航空会社としては、ルフトハンザ、 ブリティッシュ・エアウェイズ、エール・フランスがそれぞれ各アライアンスの中心 となっている。

13), R. A., Sattelberger, Th. und Heil, O. P.: a. a. O., S. 69 ; Maurer, P.: a. a. O., S. 334 ; Doganis, R.: The Airline Business, 2nd ed., London and New York 2006, p. 16. ちなみに イールドとは、旅客収入を有償旅客キロメートルで除したものである。 14) 生産能力は提供座席キロメートルで、生産能力利用は有償座席キロメートルでそれぞ れ表わされる。したがって、前者を後者で除したロードファクターが生産能力利用度 である。また、航空貨物の場合は、生産能力にあたるのが提供トンキロメートル、生 産能力利用は輸送トンキロメートルである。したがって、輸送トンキロメートルを提 供キロメートルで除した重量利用率が生産能力利用度に該当する。なお、ロードファ クターは平均すると70%前後である。 第1図

出所 Doganis, R.: The Airline Business, 2nd. ed., London and New York 2006, p. 16. 120.0 110.0 100.0 90.0 80.0 70.0 60.0 50.0 In d e x (1989=100) 1989 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003p

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パにおいてもアメリカと並行する形で「オープンスカイ政策」が推進され、 1993年の「第3パッケージ」をもって EU 内の航空市場はほぼ自由化され た15)。このような規制緩和の1つの産物として、「低コスト革命」16)が起こり、 いわゆる格安航空会社 (Low Cost Carrier, LCC) が多く出現した。周知のよ うに、LCC は徹底して低原価・低運賃を実現しようとするビジネス・モデ ルを基礎としており、既存の大手航空会社 (Legacy Carrier, LC) に対して圧 倒的な原価優位性をもっている。たとえば、イギリスの LCC であるライン エアの座席キロあたりの単位原価は3.7ユーロセント(2005年)であり、それ はヨーロッパの大手トップ企業のそれの36%である17) (第2図を参照)。 LCC は近年において急速にマーケットシェアを拡大しており、2007年で 15) いわゆるカボタージュ規制の撤廃が行われ、ヨーロッパの航空市場が完全に自由化さ れたのは1997年のことである。なお、航空市場がの規制緩和に関しては次のものを参 照のこと。笠原伸一郎「航空輸送サービスの国際展開」江夏健一・大東和武司・藤澤 武史『サービス産業の国際展開』中央経済社、2008年、77ページ以下、塩谷さやか、 前掲書、101ページ以下、井上泰日子、前掲書、21ページ以下、三田譲編著、塩谷さ やか・中谷英樹著、前掲書、 35 ページ以下、 「世界にはばたく EU の 航 空 政 策」 eu-rope Summer 2008, 2ページ以下。Vgl. auch Doganis, R.: op. cit. p. 27 ff.; Maurer, P.: a. a. O., S. 12 ff.

16) Doganis, R.: op. cit. p. 147. 17) 塩谷さやか、前掲書、37ページ。 第2図 注 路線距離と座席数で調整した値である。 出所 塩谷さやか 新規航会社事業成立の研究 中央経済社、 2008年、 37ページ。 14 12 10 8 6 4 2 0 ( ユ ー ロ セ ン ト) 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005( 年 ) −50% −38% −42%−32% イージージェット ライアンエア 既存大手

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は北アメリカにおいては27%、ヨーロッパにおいては30%を占めている18) また、航空事業の自由化に伴い、航空運賃の特性である「一物多価」とい う現象が一層際立つこととなった19) (2)ルフトハンザの企業危機 すでに述べたように、経済状況とりわけ経済成長率と航空需要の間には高 い相関関係がある20)。そのことは第3図に見られるとおりである。また、航 空会社の収益状況も経済成長率に依存する。第4図は航空会社の売上高営業 利益率と売上高純利益率を時系列的に示している。 1990∼1993年という時期において、ヨーロッパの航空産業は未曾有の困難 な状況におかれていた。それは、日本、アメリカおよびヨーロッパという3 大経済圏における同時不況という現象に加えて、原油価格の高騰、湾岸危機 18) 塩谷さやか、前掲書、12ページ。 19) 井上泰日子、前掲書、155ページ。

20)R. A., Sattelberger, Th. und Heil, O. P.: a. a. O., S. 72;  H. and Hollmeier, S.: op. cit., p. 52. 第3図 1970 16% 14% 12% 10% 8% 6% 4% 2% 0% −2 % −4 % −6 % 年 成 長 率 第1次石油危機 第2次石油危機 湾岸危機 アジア危機 ? 1975 1980 1985 1990 1995 2000 9/11 PKT BIP

出所 R. A., Sattelberger, Th. und Heil, O. P.: 3D-Krienmanagement,   Wien 2007, S. 72.

PKT=人キロメートル BIP=国内総生産

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と湾岸戦争、個人の可処分所得および消費の減少などの原因に還元され得る のである。このような危機の中で、イギリスのエアー・ヨーロッパやベルギ ーの TEA などが倒産した21) 各国政府は主としてナショナル・フラッグ・キャリアを救済するために莫 大な資金を投入した22)。ほどなく、各航空会社が実施した原価削減方策の効 果が現われ始め、1994年以降において多くの航空会社が利益ゾーンへと回帰 することができたのである。 当然のことながら、ルフトハンザも上述のようなヨーロッパ航空産業の動 向と無縁ではあり得ず、1991年12月期には4億4400万 DM という巨額の損 失を記録した23)。その後も赤字は増え続け、1992年の第1四半期だけで3億 21) 同じ時期に、アメリカでも TWA、イースタン、パン・アメリカンなどの主要航空会 社が倒産した。 22) ちなみに、ルフトハンザは7億1000万ドル、ブリティッシュ・エアウェイズは6億 9000万ドル、エール・フランスは3億3800万ドルの援助を受けた。井上泰日子、前掲 書、15ページ以下。

23) Loppow, B.: Im freien Fall, Die Zeit vom 28. 08. 1992. 第4図

出所 Doganis, R.: opt. cit., p. 7.

8.0 6.0 4.0 2.0 0.0 −2.0 −4.0 −6.0 P e r ce n t 1988 売上高営業利益率 売上高純利益率 1989 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003p

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8600万 DM、上半期では5億4200万 DM に達した24)。それは、ヨーロッパの 航空会社を襲った危機の原因に加えて、他社に比べて高い人件費、1980年代 終わりからの拡大路線の帰結などに基づいており、「創業以来の危機」であ るといわれた25)。ちなみに、平均的な生産能力利用度は61%程度であり、利 益起点 (Gewinnschwelle) の67%を約6ポイント下回っていた26) このような状況の中で、破産という事態の回避の回避のために、「プログ ラム93」(Programm 93) が策定され、実行に移された。それは、総額12億 DM の原価節減と、7億 DM の増収を意図するものであった27)。そのために、 1992年の1800人を皮切りに、1995年までに10000人以上の人員削減が計画さ れたのである。また、23機の航空機材が運行休止され、11機の新たな購入が 中止された。この「シンプルで効果的な再建プログラム」28)の実行が功を奏 し、1994年までにルフトハンザの生産性は上昇し、単位原価は15%節減され たのである29)。このことに関して、2004年の『ルフトハンザ営業報告書』で は、企業の全面的な改造と8000の職場の除去が存続を確実にしたと述べられ ている30)。このような合理化方策の効果は1993年の下半期あたりから現われ 始め、1994年の12月期には3億2000万 DM の利益が計上された。その後、 1997年の「アジア危機」による航空需要増加率の減少もあったが、2000年頃 まではおおむね好調な時期が続いたのである。 2000年の後半になって景気後退の兆しが見られるようになり、航空需要の 伸びが低下し始めた。世界の航空会社では機材の更新期を迎えており、新た に調達された機材により過剰能力がさらに顕著となり、イールドも一層低下 することとなった31) 。ルフトハンザでは、2000年の終わりに、長期的な効率 24)『週刊ダイヤモンド』第80巻37号、1992年9月19日、104ページ、『週刊ダイヤモンド』 第80巻28号、1992年7月25日、28ページ。

25) o. V.: Das Ziel heisst eine Milliarde, europolitan vom 18. 04. 2006. 26) Loppow, B.: a. a. O.

27)『日経産業新聞』1992年9月3日、3ページ。

28) Colly, H.: Wie Phoenix aus der Krise, Die Welt vom 1. August 2002. 29) Wache, P.: Verblassende Strahlkraft, Berliner Zeitung vom 5. Mai 2001. 30) Deutsche Lufthansa AG : Lufthansa  2004, S. 11.

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性の上昇と持続的な原価削減を実現するための全社的なプログラムが構想さ れ、2001年の春に「D-Check」として開始された32)。それによって、質、時 間および目標という基準に基づいて、企業のすべてのプロセスと構造を吟味 ・最適化することが目指された。そして、2004年までに10億 Euro のキャッ シュ・フローを新たに生み出すことが全体目標として設定されたのである33) (3)新たな危機の発生34) 「D-Check」が実施されている中で、2001年9月11日を迎えた。同時多発 テロが発生した時、ルフトハンザでは28機が約5000人の乗客とともにドイツ からアメリに向かって運航中であったが、FAA の命令に従って、13機はド イツに引き返し、15機は最寄りの空港で足留めされた。FAA による措置が 継続された数日間において、ルフトハンザでは233便の欠航を余儀なくされ た。民間用空域の封鎖による直接的な負担は第1表のとおりである。 なお、ルフトハンザは2001年末までに約6億 Euro を負担しなければなら 第1表 (単位 100万 Euro) 9月11日から 9月15日まで 9月16日から 9月30日まで 旅 客 部 門 45.80 85.60 貨 物 部 門 9.80 2.00 ケイタリング部門 13.90 20.30 合 計 69.50 107.90

出所 Deutsche Lufthansa AG : Lufthansa    2001, S. 29.

31) H. and Hollmeier, S.: op. cit., p. 52.

32) Dチェックとは、航空機材の定期的な点検・整備プログラムの一環として実施される もので、5∼10年ごとに、約4週間、5000時間をかけて行われる最も時間と費用を要 する根本的なオーバーホールのことである (Schmidt, G. H. E.: a. a. O., S. 107 ff.)。こ のような予防的なプログラムの考え方が、競争力と経済的成果を確保するためのマネ ジメントに適用されたのである ( H. and Hollmeier, S.: op. cit., p 53.)。 33) Deutsche Lufthansa AG : Lufthansa 2001, S. 32.

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なかった。 さらに、機材に関する保険料の大幅な値上げ、空港での乗客、小荷物およ び貨物についての航空保安対策の費用、強化型コックピット・ドアの設置、 尖った鋭利な食器の排除などの間接的な負担も発生した。 このような状況に対処するために、すでに開始されていた「D-Check」が 「D-Check akut」によって補完されることとなった。また、営業損失を回避 するために、広範囲に及ぶ一連の方策の実施が決定されたのである35) 2.多重危機の認識 同時多発テロによって惹き起こされた企業危機を孤立的に考えることは適 切ではない。それは他の企業危機との関連において考察されなければならな いのである。 2000年の終わりから、経済状況の悪化が始まり、それに規定されて航空需 要の成長も鈍化しつつあった。すなわち、景気循環的危機が潜伏的危機とい う形態ですでに生じており、それが顕在的危機に転化する局面にあったとい える。さらに、すでに述べたように、航空産業がすぐれて資本・人間集約的 であることから、環境変化に迅速に適応することが困難で、そのことによる 慢性的な過剰能力と激しい価格競争という構造的な問題に由来する構造的危 機がすでに潜伏的危機として発生していた。 このような状況下で、同時多発テロによる危機が生起したのである。した がって、ルフトハンザは三重の危機に見舞われたと認識するべきである。こ のことに関して、へティー (H.) とホルマイアー (Hollmeier, S.) は 「産業の沈滞と2001年9月11日のニューヨークとワシントン DC におけるテ ロ行為の同時的発生は、航空産業を人類史上で最もきびしい危機に陥らせ、 世界の航空会社のリーダーに危機マネジメント能力を備えていることを要求 する」36)と述べている。彼らは航空産業の構造的問題に由来する潜伏的的危

35) Deutsche Lufthansa AG : a. a. O., S. 30. 36) H. and Hollmeier, S.: op. cit., p. 55.

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機(=構造的危機)については明示的に言及していないが、構造的危機がすで に発生していたことが暗黙のうちに前提とされている。まさしく、「危機に おける危機」を認識し、それらに同時的に対処することが必要なのであり、 そのための危機マネジメントが提示されねばならないのである。 フュルスト (R. A.) らによれば、「複数の危機が同時的に影響を及 ぼすこと」37)が多重危機ないし複合的危機として把握される。したがって、 重要なことは個々の危機の間に存在するそれらの相互依存関係である。それ は第5図のとおりである。 以上のことから明らかなように、ルフトハンザは、構造的危機、景気循環 に規定される周期的危機に加えて第3の危機としての突然的危機に見舞われ たのである。これらの3つの危機の特質等をまとめたのが、第2表である。 複数の危機の及ぼす影響は個々の危機のもたらす影響の総和と等しくない。 個々の危機の間にはいわばシナジー効果が存することに注意しなければなら ない。このような企業危機に対処するための危機マネジメントが求められる

37) R. A., Sattelberger, Th. und Heil, O. P.: a. a. O., S. 53. 第5図

出所 R. A., Sattelberger, Th. und Heil, O. P.: a. a. O., S. 54. 影響の対象

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所以である。

 3次元危機マネジメント

1.基本的なコンセプト 上述のような多重危機の克服に有用であると目されるのが3次元危機マネ ジメントである。それは、「多重危機を認識し (identifizieren)、評価し (eva-第2表 テロ−危機 景気−危機 構造−危機 原 因 2001年9月11日のテロ攻撃 ①世界の景気 ②世界の航空の景気に対す る依存性 ①グローバル化 ②市場分断 ③規制緩和 ④国家の主導による自由化 ⑤克服困難な過剰能力 予見可能性 ①きわめて困難 ②先験的に得られるシグナルは 非常に弱い ③予測不可能/突然の出来事の 発生 ①きわめて容易 ②早期にシグナルがキャッ チできる ①きわめて容易 ②外生的な決定要因の影響 が大きい 影 響 ①突然的 ②ショックが大きい ③直接的 ④きわめて大きい ①突然的でない ②周期的 ③直接的 ④大きい ①突然的でない ②飛躍的 ③間接的 ④大きい ⑤一部両面価値的 経過の予測可能性 ①容易 ②初体験で1回限り ③1990年の湾岸危機の経験 ①きわめて容易 ②学習効果あり ③航空需要の経済状況に対 する依存性 ①困難 ②複雑かつ多層的な影響関 係 ③個々の国家の利害による 行動の要求 ①即座 ②大きい ③戦術的 ④分かりやすい ⑤ステークホルダーの強力で迅 速な受容と協力 ①緊急 ②普通 ③やや戦略的 ④直接的に経験できない脅 威 ⑤ステークホルダーの受容 と協力が困難 ①緊急でない ②小さい ③戦略的 ④不明確 ⑤直接的に経験できない脅威 ⑥ステークホルダーの受容 と協力が困難 支配可能性 小さい 大きい きわめて小さい 重要な問題領域 ①大きな衝撃 ②時間の逼迫/適応時間 ③方策の効果 ④危機克服における経験の欠如 ①ステークホルダーによる 方策の受容 ②戦略的マネジメントの質 ①問題の自覚 ②効果的な対策の出発点 ③潜伏的な価格戦争の危険 ④ロビーイング 出所 R. A., Sattelberger, Th. und Heil, O. P.: a. a. O., S. 165.

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luieren)、克服する ( ) マネジメント」のことである38)。それは、 多重危機あるいは複合的な企業危機を克服するために、考えられる諸資源を 効率的に投入し、効果的な方策を実行するための基礎となるコンセプトであ る。 このような目標を与えられた危機マネジメントにおいて考慮に入れられる べき3つの次元とは、原因 (Ursache)、影響 (Wirkung) および相互作用効 果 (Interaktionseffekt) である(第6図)。 フュルストらによると、これらの3つの次元のうちでこれまでの危機マネ ジメントにおいて、中心的な地位を占めていたのは影響であった。原因は、 考慮されていないか、あるいは、少なくとも十全には考慮されておらず、相 互作用効果に光を当てるという発想は皆無であったと言っても過言ではない。 企業危機発生の原因についてこれまであまり取り上げられなかったという ことは、フュルストらの指摘を待つまでもなく、きわめて奇妙で不十分なこ とであったといわざるを得ない。なぜならば、すでに生起していてその影響 が顕在化している企業危機を克服するための危機マネジメントにおいては、 企業危機のもたらす影響に対処することはもちろん重要であるが、対症療法

38) R. A., Sattelberger, Th. und Heil, O. P.: a. a. O., S. 55. 第6図

出所 R. A., Sattelberger, Th. und Heil, O. P.: a. a. O., S. 55. 原 因 1 影 響 2 相互作用効果 3 危機Y 危機X 危機の次元

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ではないより根源的な方策を実行するためには原因を問題にせざるを得ない からである。また、影響の顕在化していない危機(潜伏的危機)に関しても 然りである。まして、未だ発生していない潜在的危機の回避ということにな ると、操作され得る変数は危機の原因しかないのであり、それを前提とした 方策を講ずることしか対処をするための方途はない。したがって、危機マネ ジメントの次元に原因を入れることはきわめて当然のことであって、もしこ れが考慮に入れられていないというのであれば、それは危機マネジメントと しては致命的な欠陥であるといわなければならない。危機マネジメントがあ くまでも因果関係の範疇に属するからである。 他方で、相互作用効果については、伝統的な危機マネジメント理論におい ては等閑に付されていた。しかしながら、上述のように、多重危機という事 態の発生を前提とすると、相互作用効果を危機マネジメントおいて考慮せざ るを得ないのである。 相互作用効果は、一方向的な場合もあるが、双方向的な場合や多方向的な 場合もある。また、相互作用においてシナジー効果が見られる。したがって、 多重危機といわれるような状況を前提とするならば、この相互作用効果を危 機マネジメントに編入することはきわめて有用であり、不可欠なのである。 すなわち、「3次元危機マネジメントというコンセプトは、分析と克服を行 う際に、個々の危機の間に見られる相互作用を顧慮しないということを回避 するための1つの有用な方法である」39) といわれ、それは伝統的な危機マネ ジメントおよび危機マネジメント理論の拡張と見なされうるのである。 ワトキンズ (Watkins, D.) とベイザーマン (Baserman, M. H.) は、RPM プロセス (RPM process) の有用性を強調することによって、危機マネジメ ント理論の領域に一石を投じようとしている40)。RPM プロセスとは、認識 (recognition)、優先順位決定、(prioritization) および諸力の動員

(mobiliza-39) R. A., Sattelberger, Th. und Heil, O. P.: a. a. O., S. 57.

40) Watkins, D. and Baserman, M. H.: Predictable Surprise : The Disasters You Should Have Seen Coming, HBR, Vol 81, No. 3, March 2003, p. 72 ff.

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tion) から成るプロセスであって、そのようなステップを経て、危機を早期 に認識し、対処するための優先順位を付与し、利用可能な資源を動員するこ とによって、危機を回避・克服することを意図するものである。すなわち、 「企業危機 (business disaster) の予測と回避のためには、脅威 (threat) を 認識することから始まり、認識された脅威に組織内での優先順位を与えるこ とを経て、それを防止するために必要な資源を動員することに至る一連のス テップが必要である」41)といえる。3つのステップのうち、第2および第3 のステップの指摘がとくに重要であると思われる。ワトキンズらは、ほとん どすべての企業危機は予測・回避可能であると考えており、あの2001年9月 11日の事件さえも予測され得たとみなしている。したがって、それに由来す る企業危機も予測・回避可能であったと考えられているのである。彼らは、 「差し迫った危機の兆候は、われわれが未だそれを知覚していないにもかか わらず、われわれの周囲に存在する。幸運にも、手遅れになる前に危険を察 知する方法がある」42)と述べている。彼らによると、このようなプロセスを 通じての危機の克服を阻害するのは、心理的障害、組織的障害および政治的 障害なのである。 上述の原因、影響および相互作用効果という3つの次元と認識、優先順位 決定および諸力の動員という RPM プロセスの3つのステップを結合するこ とによって3次元危機マネジメントの基本構造が形成される43) 。それは第7 図のように表わされる。ただし、第7図においては、既述の3つの次元に加 えて、被害ポテンシャル (Schadenpotential) と緊急性 (Dringlichkeit) とい う3つの副次的な次元が考慮されている。 第1のステップにおいて危機が認識されるのであるが、危機の認識は早期 であるに越したことはない。なぜならば、それだけ危機の回避・克服に利用 できる時間が多くなるからである。次に、認識された危機が、それのもたら

41) Watkins, D. and Baserman, M. H. : op. cit., p. 73. 42) ibid.

(17)

す影響によって個別的あるいは相互依存的に分析・評価される。また、それ ぞれの危機の原因ならびに被害ポテンシャルおよび緊急性という次元も分析 ・評価の際に編入されなければならない。このようにして、それぞれの企業 危機が、3つの主要な次元と2つの副次的な次元によって分析・評価され、 グループ化される(第8図を参照)。 第7図

出所 R. A., Sattelberger, Th. und Heil, O. P.: a. a. O., S. 57.  認 識  克 服  評 価 3D 危機 外生的 内生的 原 因 影 響 相互作用効果 被害ポテンシャル 緊 急 性 第8図

出所 R. A., Sattelberger, Th. und Heil, O. P.: a. a. O., S. 60. 危機1 危機2 危機3 危機 n 0,3 Mio. Wn 6 Monate U2 U2 U3 U1 原 因 影 響 相互作用効果 被害ポテンシャル 緊急性 W1 W2 W1 K1 K1 8 Mio. 9 Mio. Sofort 3 Monate K2, K3 1 Mio. Sofort … … … … … … K12

(18)

このような分析・評価の結果、諸力の動員=企業危機の克服が実行される わけであるが、資源の投入とその順序は、たとえば、第9図のようなシェー マに従って行われる。 上の図から明らかなにように、最も優先されるべきなのはタイプⅣである。 それの被害ポテンシャルは大きく、緊急性も高いからである。その後にタイ プⅢあるいはタイプⅡが続き、被害ポテンシャルが小さく、緊急性も低いタ イプⅠには最も低い優先順位が与えられるのである。

 ルフトハンザの危機マネジメント

2001年9月11日の事件の発生後すぐに、当時の取締役会会長であったヴェ ーバー (Weber,) の主導により、15人のメンバーから成る「ルフトハ ンザ・危機マネジメント・チーム」が形成され、活動を開始した。 また、「ルフトハンザ・危機マネジメント・チーム」の職務領域の1つで あるオペレーション・コントロールの領域には、「特別支援チーム (SATs)」 が設置され、顧客に情報を提供した。 第9図

出所  R. A., Sattelberger, Th. und Heil, O. P.: a. a. O., S. 61. 被 害 ポ テ ン シ ャ ル 緊急性 大 大 小 小 タイプⅡ 切迫した脅威 タイプⅠ 潜伏的な脅威 タイプⅢ 潜伏的な危機 タイプⅣ 切迫した危機

(19)

このような状況の下で、ルフトハンザが実行した方策は次のとおりであ る44)。紙幅の都合により、 ここでは項目のみを示す。 A.即時的な方策 ①危機チームの設置 ②被害に見舞われた顧客および乗員のケア ③従業員、顧客および社会に対する情報提供 ④取締役会会長のメディアへの登場 ⑤雇用、投資およびプロジェクトの停止 ⑥危機における危機およびその帰結の評価 ⑦比較可能な危機(たとえば1991年の湾岸危機)を参考にしたシナリオ の作成 ⑧生産能力/飛行プランの削減 B.中期的方策 ①すべての企業領域の再吟味による原価節減 ②すべての企業レベルでの報酬カット ③安全対策の強化と主観的な安全感覚の向上 ④安全基準の質に関する情報の提供 ⑤現行の契約の再検討と追加折衝 ⑥生産能力の適応的削減/拡大 ⑦労働の弾力化 ⑧顧客の信頼の回復/強化 ⑨革新的および新種の解決方法の評価

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C.長期的方策 ①すでに導入されている原価削減方策の転用と統制 ②新たな技術の導入によるさらなる原価低減 ③生産能力の需要志向的な適応 ④弾力性の一層の上昇 ⑤パートナーとのよりよい協同 ⑥スター・アライアンスの中での協同の強化 ⑦協同の際のシナジー効果の増大 ⑧危機が去った後の時期における周期的な計画策定/新たな機材の購入 また、ルフトハンザの危機マネジメントの成功要因は次のようにまとめら れている45)。これに関しても項目のみを示す。 ①危機に対する迅速な反応と RPM プロセスの完全な実行 ②危機マネジメントの経験と能力をもつトップ・マネジメント ③トップ・マネジメントが直ちに関わったことによる企業内外への作用 ④ショック状態の迅速な克服、積極的/決然とした行動 ⑤個々のステークホルダーへの素早い、十分なコミュニケーション政策 ⑥ドイツ・ルフトハンザのブランドへの顧客の信頼と好印象の獲得 ⑦安全対策と統制方策の機動的な強化 ⑧危機シナリオの状況に即した作成と実行 ⑨危機シナリオに会わせた生産能力削減と柔軟化 ⑩支出と投資の停止による短期的なキャッシュ・フロー・マネジメント ⑪D-Check および D-Check akut による効果的な原価削減

⑫危機克服のためのすべての従業員の参加と動員 ⑬従業員の解雇を伴わない人事領域での柔軟化

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⑭第三者との協同の強化とよりよい解の探索 ⑮非周期的な生産能力拡大/航空機材の発注 次の図は、ルフトハンザが経験した3つの危機の間に見られた相互作用効 果を示したものである。矢印は作用の方向を表し、+はプラスの作用、−は マイナスの作用を表わしている46) 第10図から明らかなように、相互作用効果の大部分は企業にとって不利な 状況をもたらした。すなわち、個々の危機のマイナスの作用が一層増幅され 46) なお、第10図においては同時多発テロによる危機が考察の中心に据えられているため、 景気的危機と構造的危機の間に存する相互作用効果については言及されていない。し かしながら、両者の関係が重要であることはいうまでもない。それどころか、突発的 な危機が発生しないという場合には、この2つの危機の間の相互関係こそが3次元危 機マネジメントの中心的な領域を形成することになるのである。 第10図

出所 R. A., Sattelberger, Th. und Heil, O. P.: a. a. O., S. 184. テロによる危機 (2001.9.11) 景気的危機 構造的危機 −航空会社の抵抗力低下、影響の深刻化 −多くの航空会社はすでに弱体化 +景気−危機の危機マネジメントが2001年 9月11日の事態による被害を減少させた −顧客の価値観と思考の変化 −世界景気の一層の沈滞 +徹底した方策の強要とそれ の受容 −すでに存在する大きな過剰 能力の肥大化 −国家援助と補助金 −新しいビジネスモデル

(No Frill-Low Cost) −価格ダンピング

−国家援助および国益重視 による市場メカニズムの 無力化

(22)

たということが明かである。すでに述べたように、多重危機のもたらす影響 は個々の危機の影響の総和ではない。そのことは多重危機の克服がきわめて 困難であることを意味している。したがって、危機マネジメントはこの多重 危機のゆえに生じるマイナスのシナジー効果を考慮に入れなければならない のである。ただ、ルフトハンザのケースでは、わずかなプラスの作用が有効 に利用されたということを看過してはならない。これらのこととルフトハン ザが実施した各種の方策を総合的に考えると、きわめて興味深いものがある。

 結

以上、多重危機の認識、3次元危機マネジメントの実行および3次元危機 マネジメント理論形成の重要性について考察してきた。 2001年9月11日の同時多発テロによって惹起された企業危機に対して、ル フトハンザは効果的に危機マネジメントを実施し、いち早く危機的な状態か ら脱却することができた47)。すでに言及したように、ルフトハンザでは2001 年の夏前から「D-Check」なる原価削減プログラムが実施されており、この ことが突然的に生起した企業危機の克服に大いに役立ったのである。このよ うなルフトハンザにおいて見られた一連の事実を基礎として、3次元危機マ ネジメントという発想が生まれたのである。しかしながら、ルフトハンザの 経営者ならびに危機マネジメント・チームが、3次元危機マネジメントとい うことを認識していて、これを意識的に実行したわけではない。したがって、 3次元危機マネジメント理論は、あくまで経験的な事実に基づいて形成され た帰納的な理論であって、演繹的に導出されたものではないのである。とも あれ、われわれは3次元危機マネジメントが理論的にも実践的にも重要であ るということを認めなければならない。 本稿においては、構造的危機、景気的危機および突然的な危機から成る多 重危機について考えてきたが、多重危機という状態がかかる3種類の危機の

47) o. V.: Der Rechner, Wirtschaftswoche 56. Jg. (2002), Nr. 38, S. 50 ff.; Matlack, C., Weber, J. and Zellner, W.: In Fighting Trim, BusinessWeek, April 28, 2003, p. 26 ff.

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同時的発生により特色づけられるということは一般化され得るといえよう。 また、3次元危機マネジメントの対象となる原因、影響および相互作用効果 という主要な次元ならびに個々の危機の評価の際の基準となる被害ポテンシ ャルおよび緊急性という副次的な次元も一般化され得ると考えられる。 さらに、3次元危機マネジメント理論の形成にあたっては、ワトソンらが 提示している RPM プロセスという考え方が有用であり、それのいわば修正 版が利用されることとなった。かくして、3次元危機マネジメントが3次元 (+2 次元)と RPM プロセスを結合したものであることについてはすでに 述べたとおりである。 多重危機に見舞われている企業にとって重要な問題は、個々の危機の影響 もさることながら、それらの間に見られる相互依存関係である。このことを 顧慮することは実践においてはきわめて当然のことであるが、その当然のこ とがこれまでの危機マネジメント(理論)に編入されていなかったのである。 したがって、3次元危機マネジメント理論は従来の理論における欠落部分を 埋めるという役割を果たしている。3次元危機マネジメントの要諦は、相互 作用効果の考慮ということであり、その意味において、3次元危機マネジメ ントは多重危機を克服するための有用なマネジメントなのである。 このような危機マネジメントの研究は緒に就いたばかりである。個々の部 分の理論的な深化や具体的な方策の展開については未だ不十分なままであり、 未解決の問題も散見される。それらの不十分な点を補い、より緻密な理論を 形成することは、今後に残された課題である。 (筆者は関西学院大学商学部教授)

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