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東京港野鳥公園干潟における窒素・リン収支の特性

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(1)土木学会論文集B Vol.66 No.4,419-433,2010.12. 東京港野鳥公園干潟における 窒素・リン収支の特性 秦野 拓見1・村上 和男2・石射 広嗣3・門脇 麻人 4・桑江 朝比呂5・中瀬 浩太6 1正会員. いであ株式会社. 水圏グループ(〒559-8519 大阪府大阪市住之江区南港北一丁目24-22) E-mail: [email protected] 2フェロー会員 東京都市大学教授 工学部都市工学科(〒158-8557 東京都世田谷区玉堤一丁目28-1) E-mail: [email protected] 3学生会員 東京都市大学大学院 工学研究科 都市基盤工学専攻(同上) E-mail: [email protected] 4非会員 栗田工業株式会社 プラント生産本部(〒421-0302 静岡県榛原郡吉田町川尻1060) E-mail: [email protected] 5正会員 独立行政法人 港湾空港技術研究所(〒239-0826 神奈川県横須賀市長瀬三丁目1-1) E-mail: [email protected] 6正会員 五洋建設株式会社 土木部門土木本部 環境事業部(〒112-8576 東京都文京区後楽二丁目2-8) E-mail: [email protected]. 本研究では,大都市沿岸域に造成された潟湖型の干潟である「東京港野鳥公園・潮入りの池」において, 夏期2潮汐間の水質調査を3年間行い,干潟域における窒素・リン・クロロフィルaの収支,動態について 検討した.また,飛来した水鳥の個体数と,底生動物の現存量の調査を行い,干潟域の生物相を把握した. 調査の結果,当該干潟は夏期に,リンの供給源,窒素・クロロフィルaの消費源として機能しており,堆 積物と直上水間の無機態窒素,リンの交換フラックスは干潟全体の収支の主要因であることが明らかにな った.干潟域には年間を通してカワウの飛来数が数多く観測された.水鳥が干潟系外へ持ち去るTN量は 最大でも,夏期に水中から除去されるTN量の12%程度,TP量は最大でも隣接海域へ流出するTP量の10% 程度と,その値は小さかった.. Key Words : tidal flat, self clarification, nitrogen, phosphorus, Tokyo Port Wild Bird Park. 1.. はじめに. 大することが予想され,それに伴う研究調査の重要性も 高まることが考えられる. 日本では高度経済成長に伴う大規模な埋立事業により, 本研究では,この「干潟の水質浄化機能」を定量的に 干潟や浅場が減少した.沿岸域において,干潟は生物生 把握すること目的とし,潟湖型の人工干潟である「東京 産機能,水質浄化機能,親水機能等の高い環境機能を有 港野鳥公園・潮入りの池」において現地観測を行い,夏 する場として認識されている.また,シギ・チドリなど 期における干潟-隣接海域間のリン・窒素・クロロフィ の渡り鳥は干潟を餌場や休息場として利用しており,鳥 ルaの収支を求め,他の干潟の物質収支と比較した.さ 類にとっても干潟は重要な生活空間と言える.近年では, らに,干潟域における物質収支に関わる機構及び,環境 その価値や重要性は強く認識され,浚渫土砂の有効利用 の把握として,堆積物の底質,水鳥の飛来数,底生動物 及び,環境再生を目的とした干潟の造成事業や保全活動 の現存量について現地調査を行い,本干潟の特性につい が各地で盛んに行われている. て議論した. 干潟の環境機能や生態系構造を理解することは,干潟 造成時の計画・立案段階において,また既存の干潟の保 全・管理業務において貴重な資料となりえる.干潟が有 2. 調査対象干潟 する水質浄化機能は,富栄養化した湾内の水環境の改善 調査対象干潟は,東京港野鳥公園内の人工干潟である に有効に働くと考えられており,現在多くの研究活動が 潮入りの池とした.東京港野鳥公園(図-1)は,野鳥観察 行われている.今後も,干潟の造成事業や保全活動は拡. 419.

(2) 土木学会論文集B Vol.66 No.4,419-433,2010.12. Tokyo Port. Benthos. Japan. Intertidal Zone. Sea Water. Reed Grass. Sediment. N. Tidal Flat. 20 km. Tokyo Port Wild Bird Park Channel 1 N. Channel 2. Adjacent Sea Adjacent Sea. 1 km. Tidal Flat. Tidal Flat (Shioiri-No-Ike). Channels. 図-2 観測地点概要図. 図-1 「東京港野鳥公園・潮入りの池」所在図. グループや地元住民からの自然保護の請願を受け,水域 における自然環境の保全・回復を目的として設立された 自然公園である.本公園は,東京都内における数少ない 親水空間として,野鳥観察やレクレーション等に利用さ れている.設立経緯や管理体制に関しては中瀬・林1)に 詳しく述べられている.また,東アジア・オーストラリ ア地域フライウェイ・パートナーシップ参加湿地であり, シギ・チドリ類の生息地としても貴重な空間である. 調査対象とした「東京港野鳥公園・潮入りの池」(図2)は,公園内に存在する潟湖型の人工干潟である.東京 湾奥部に位置し,隣接海域は人工島が密集した大都市沿 岸部の海域で,水深は4~5m程である.干潟域は1989年 に整備され,潮間帯,潮下帯,砂利浜,ヨシ原部で構成 されている.干潟域の総面積は約57000m2,水深は1~ 2m程である.干潟域に流入する河川は無く,淡水の流. 21日,2007年8月26~27日,2008年8月17~18日の計3回行 った.調査は,湾内の水質悪化が懸念される夏期躍層期 を対象とした.図-2に示すように観測点を水路1,水路2, 干潟域(常時水没地点),隣接海域の4地点に設置し,採 水と測器による観測を2潮汐間連続的に行った.なお, 本公園開園時間中は干潟域,夜間は隣接海域の採水調査 は実施しなかった.サンプリングした海水については PO4-P(リン酸態リン),TP(全リン),NH4-N(アンモニア態 窒素),NO2-N(亜硝酸態窒素),NO3-N(硝酸態窒素), TN(全窒素),クロロフィルa,フェオ色素濃度を吸光光 度法で分析した.また,測器を用い水温,塩分,クロロ フィルa,濁度,潮位,流速を測定した. (2) 堆積物-直上水間の無機態交換フラックス 干潟堆積物-直上水間の無機態窒素・リンの交換フラ ックスの測定を2008年6,8,10,12月の計4回行った. 堆積物-直上水間のフラックスは,水温,泥温,日射, 直上水の窒素,リン濃度に依存して変化することが予想 される.その為,本研究では現場法によって測定を行う ものとした.図-2に示すサンプリングエリアにおいて, アクリルコア(内径6.4cm,高さ61.7cm)を使用し,潮下帯, 潮間帯の堆積物(表層15cm)と直上水を採取し,実験を行 った.サンプリングの際は,堆積物の表層を乱さないよ うに注意した. 潮下帯,潮間帯エリアについてそれぞれ,堆積物 15cm,直上水600mlの実験系コアを3本,直上水のみの対. 入は降雨時に発生する程度である.後背地には,淡水池 が存在するが,通常時は水門によって淡水の流入が堰き 止められている.隣接海域との海水交換は,幅3m程の2 本の開水路を通じて,潮汐作用によって行われている. 上記のように境界条件が明確なことから,本干潟は物質 収支を測定するのに適した場であると言える.. 3. 調査概要 (1) 2潮汐間の水質調査 本干潟において,2潮汐間の水質調査を2006年8月20~. 照系コアを1本作成した.コアの下部はゴム栓で塞ぎ,. 420.

(3) 土木学会論文集B Vol.66 No.4,419-433,2010.12. 生動物をエタノールによって固定し,湿重量を測定した. また,カニ等の甲殻類は比較的移動性が高いため,上 記の方法では測定が困難である.釜田ら2)の調査による と,巣穴の数と,ゴカイ類やヤマトオサガニの湿重量に は有意な相関が見られるとされており,本研究において も,カニに関しては,干潟面の巣穴の数により生物量を 求めた.干潟面に1m2のコドラートを設置し,巣穴と個 体数を計数し,両者の相関を求めた.また,各調査日に おいて,干潟上に生息するカニを20~80個体程採取し, その平均重量を測定した.以上の調査から,干潟域に活 動するカニの現存量を求めた.. H.W.L. Overly water L.W.L. 15cm. Control. Sediment 図-3 アクリルコアの設置模式図. 上部は開放し,図-3のように干潟上に設置した.ただし, 雨天時の場合のみ雨水の混入を防ぐ為,上部に透明フィ ルムで蓋をした. 設置後は,堆積物の巻上げを抑えるため1時間程静置 し,その後,約3時間の実験を行った.実験の開始時と 終了時に直上水をサンプリングし,PO4-P,NH4-N,NO2N,NO3-N濃度を測定した. 一般的に,このような実験では,隔離水塊の貧酸素化 に伴い,フラックスが過小評価されることが考えられ, 実験時にはエアレーションや攪拌を行うことが多い.本 実験では,測器(東亜DKK;DO-24P)によって直上水DO を測定し,DOの著しい低下が見られず,常にDOが 2.0mg/l以上を維持していることを確認した.. (5) 水鳥センサス 水鳥に関しては,2008年6,7,8,10,11,12月に, 本公園開園時間内(9:00~17:00)においてセンサスを行 った.観察場所は潮入りの池のほぼ全域が見渡せるネイ チャーセンター内とし,場合によっては1号,2号観察小 屋を使用した.対象は干潟を利用する水鳥のみとし,各 調査日における複数回の計数結果の平均値をその日の飛 来数とした.一時的に干潟内に降り立つオオタカ (Accipiter gentilis)やトビ(Milvus lineatus)等の山鳥は,飛来数 に含めないものとした.また,観察には,本公園所有の 双眼鏡及び,望遠鏡を使用した. また,10,11,12月の調査では,干潟域で採餌行動が 見られた水鳥の個体数を観察し,それをその時刻の飛来 数で除したものを採餌行動率と定義し記録した.. 実験終了後に測器(東亜DKK;RM-20P)によって各コ アの堆積物2cm以浅のORPの測定を行った.また,堆積 物表層以浅0.5cmのクロロフィルa,フェオ色素を測定し た.ただし,実験中に周辺の海水が混入したサンプルに ついては,データを破棄した.. 4. 干潟-隣接海域間の物質収支 (1) 2潮汐間の水質時系列変動 図-4に水路1,水路2,干潟域,隣接海域の各点におい て2007年時の調査で観測されたリン・窒素濃度の時系列 変動と潮汐変動を示す.図中において,OP(有機リ ン)=TP-PO4-P,ON(有機窒素)=TN-(NO2+NO3+NH4)-Nとし. (3) 底質調査 底質調査は,2008年6,8,10,12月の計4回行った. 潮間帯,潮下帯において表層0.5cmの堆積物のサンプリ ングを行い,含水比,強熱減量,クロロフィルa,フェ オ色素,ORPを測定した.サンプリングエリアについて は,図-2のとおりである.また,堆積物中の間隙水を抽 出し,PO4-P,NH4-N,NO2-N,NO3-N濃度の測定を行っ. て算出した.ただし,本公園開園時間中(8月26日9:00 ~17:00)は干潟域,夜間(8月26日19:00~27日6:00)は 隣接海域の採水調査は実施しておらず,その期間の濃度 た.8月には,潮間帯,潮下帯の粒度組成,窒素,リン, は不明である. 水路内でTP濃度は,上げ潮に伴い下降し,下げ潮に 炭素,硫黄の含有率の測定も併せて行った. 伴い上昇する傾向が見られた.また,干潟域ではTPは 隣接海域よりも高濃度で推移していた.TN濃度は水路 (4) 底生動物調査 内で,上げ潮に伴い上昇し,下げ潮に伴い下降する傾向 底生動物に関しては,2008年6月,8月,10月,12月に が見られた.また,干潟域ではTNは隣接海域よりも低 調査を行い,現存量を求めた.図-2の○印に示すように 濃度で推移していた.これらは2006年,2008年時の調査 潮間帯に8地点,潮下帯に2地点測点を設置し,スコップ またはエクマンバージ採泥器(宮本理研工業製)を使用し, においても,ほぼ同様の傾向が得られた. 堆積物を採取後,1mmメッシュの篩にかけ,残存した底. 421.

(4) 土木学会論文集B Vol.66 No.4,419-433,2010.12. 0.2 0.5 0.1 18:00. 21:00. 0:00. 3:00. 0.6. 0.4 0.3. 1. 0.2 0.5 0.1 0 21:00. 0:00. 3:00. 1.5 1. 0.3 0.2. 0.5 0.1 0 15:00. 18:00. 21:00. 0:00. 3:00. 6:00. 1.5 0.4 1. 0.3 0.2. 0.5 0.1. 9:00. 12:00. 15:00. 18:00. 21:00. 0:00. 3:00. 6:00. 1. 0 12:00. 15:00. 18:00. 21:00. 0:00. 3:00. 6:00. 9:00. Tidal Flat. 2. 5 1.5 4 1. 3 2. 0.5 1 0. 0 9:00. 12:00. 15:00. 18:00. 21:00. 0:00. 3:00. 6:00. 9:00. Adjacent Sea. 6. 2. 5 1.5 4 3. 1. 2 0.5 1. 0. 0. 2. 2. 6. 2. 0.5. 9:00. 3. 9:00. Adjacent Sea. 0.6. 6:00. Channel 2. 0. Nitrogen (mg/l). 12:00. 3:00. 0.5. 0 9:00. 0:00. 1. 2. 0.4. 21:00. 1.5. 9:00. 0.5. 18:00. 4. 9:00. Tidal Flat. 0.6. Phosphorous (mg/l). 6:00. 15:00. 5. Nitrogen (mg/l). 18:00. 0 12:00. 6. 0 15:00. 1. 2. 0. 2 1.5. 12:00. 3. 9:00. 0.5. 9:00. 1.5 4. 9:00. Tidal Level (m). Phosphorous (mg/l). 6:00. Channel 2. Nitrogen (mg/l). 15:00. 2. 5. 0.5. Tidal Level (m). 12:00. Channel 1. 1. 0 9:00. Tidal Level Tidal Level. 0. 0 9:00. 9:00. Tidal Level (m). 1. 0.3. ON ON. Tidal Level (m). 0.4. NO NO2+3-N 2+3-N. Tidal Level (m). 1.5. NH4-N NH4-N. 6. Tidal Level (m). 0.5. 0. Phosphorous (mg/l). 2. Nitrogen (mg/l). Channel 1. Tidal Level Tidal Level. Tidal Level (m). Phosphorous (mg/l). OP OP. Tidal Level (m). PO4-P PO4-P. 0.6. 12:00. 15:00. 18:00. 21:00. 0:00. 3:00. 6:00. 9:00. 図-4 各観測点におけるリン・窒素濃度の時系列変動(2007年 8 月 26~27 日). 32. Channel 1. Channel 2. Tidal Flat. Inflow (-). Adjacent Sea. Tidal Flat. 24. TN/TP. Outflow (+). ※ Source (+) 16. Inflow (-). 8. Outflow (+). Tidal Flat 0 9:00. 12:00 15:00 18:00 21:00. 0:00. 3:00. 6:00. ※ Sink (-). 9:00. 図-5 TN/TP(モル比)の時系列変動(2007年). 図-6 物質収支の算定方法の概念図.矢印の大きさはフラックス 量の大きさを表す.. (2) 物質収支の算定方法 干潟域の物質収支の算定方法の概念を図-6に示す.対 象空間において,流出した物質フラックスから流入した 物質フラックスを差し引くことによって,観測期間内の 物質の変化量が算出できる.図-6の上図のように,流出 フラックスの方が大きい場合は,計算結果はプラス(+) になり,対象空間は物質に対してSource(供給源)と な る.図-6の下図のように,流入フラックスの方が大きい 場合は,計算結果はマイナス(-)になり,対象空間は. 図-4の観測結果からTN/TP(モル比)について整理し, 図-5の結果が得られた.TN/TPは水路内では上げ潮に伴 い上昇し,下げ潮に伴い下降する傾向を示した.また, レッドフィールド比(N/P=16)と比較し,干潟域では総じ て低い値を示し,隣接海域では高い値を示した.以上の 結果から,干潟域では窒素が不足気味,リンが剰余気味 であることが推察された.. 422.

(5) 土木学会論文集B Vol.66 No.4,419-433,2010.12. Sink(消費源)となる.干潟内部において,様々な要因が. 間(流入水量=流出水量となる期間)とした.. 相互に,かつ複雑に作用し合い,その結果としてSinkま たはSourceの何れかの応答がなされると予想できる. 本研究では,水路内で観測されたリン・窒素・クロロ フィルa濃度に水路内の通過流量を乗じ,干潟面積で除 することにより,2潮汐間の干潟-隣接海域間の物質収 支を求めた.通過流量は,干潟内の潮位変動から算出し, 流速観測結果より,水路1:水路2=1:0.7の比で流入出 するとした3).計算期間は,干潟内の潮位が一致する時 表-1 夏期 2潮汐間の干潟域における物質収支 平均± 標準誤差 +107 +74.5 +66.4±26.1 TP +33.0 +9.91 +17.2±7.93 +101 -7.75 +41.2±31.9 PO4-P +37.6 -1.25 +18.9±11.2 -281 -592 -437±156 TN No data -8.37 -11.3 -9.82±1.45 (NO2+N -59.1 -58.2 -522 -213±155 O3)-N -19.5 -7.63 -17.4 -14.9±3.66 +3.46 +24.7 +75.9 +34.7±21.5 NH4-N +6.63 +15.1 +25.4 +15.7±5.44 Chloroph -6.94 -46.3 -0.97 -18.1±14.2 yll-a -53.4 -57.4 -13.8 -41.5±13.9 ※上段は増減速度(mg/m2/2tide),下段の数字は増減率(%)を表す. 対象 物質. 2006 年 +17.8 +8.59 +30.5 +20.4. 2007 年. 2008年. (3) 夏期2潮汐間における物質収支の算定結果 以上の解析によって得られた結果を表-1 に示す.表 中の上段の数値が,物質の増減速度(mg/m2/2tide)であり, 下段が増減率(%)である.ここで,増減率(%)=(流出量-流 入量)/流入量×100 と定義し,流入量に対して何割の増 加,減少がなされているか表した.プラスは干潟域での 物質の増加,マイナスは減少を表す. 観測日によって,測定結果の値は大きく変動したが, 増加・減少の傾向は,おおよそ一致した傾向を示した. リンについては,2008年のPO4-P以外はTP,PO4-P共に増 加傾向が見られ,その増加速度は2007年で最も大きかっ た.窒素についてはTN,(NO2+NO3)-Nが減少傾向,NH4Nは増加しているものの,DIN(溶存態無機窒素)としては 減少傾向にあった.一般的に植物は光合成の際に, (NO2+NO3)-NよりもNH4-Nを優先して利用すると言われ ている4).本干潟では,NH4-Nが干潟内で増加しており, (NO2+NO3)-Nが減少していることから,DINの消費は植 物による取り込みに起因するものではなく,脱窒に起因 した直上水から堆積物へ物質移動が発生していることが 考えられる.(NO2+NO3)-Nの減少速度は,2008年の観測 時に大きな値を示した.また,NH4-Nの増加速度は年々 増加傾向が見られた.クロロフィルaは調査時によって,. プラスは干潟域での物質の増加,マイナスは減少を表す.. 表-2 各干潟の環境条件と調査方法 対象干潟 東京港野鳥公園 谷津干潟 盤洲干潟. 干潟分類 (所在) 人工潟湖 (東京湾) 潟湖 (東京湾) 前浜 (東京湾). 面積(m2). 調査時期/回数. 57,034. 8 月/3回. 400,000. 春夏冬/計 9 回. 14,000,000. 測定項目. 調査方法. N・P・ Chl-a N・P・COD・ アオサ. 2 潮汐間の流入出水 質・水量観測 2 潮汐間の流入出水 質・水量観測 昼夜 1 潮汐間の流入出 水質・水量観測 1 潮汐間の流入出水 質・水量観測(水槽 3 つ). 8 月/1回. N・P. 6,7月/2 回. N・P・SS. 7 月/1回. N・P・C・Chl-a. 港湾空港技術研究 研 干潟実験施設. 室内実験水 槽(東京湾). 三番瀬. 前浜 (東京湾). 12,000,000. 大阪南港野鳥園 (北池). 人工潟湖 (大阪湾). 40,000. 各季節/計 5回 (Nは計 7 回). N・Chl-a・SS. 阪南 2 区人工干潟 現地実験場. 現地実験場 (大阪湾). 8,000. 9,10月/2 回 (Nは計 5 回). N・Chl-a. 3,000. 各季節 2 回ずつ /計 8回. N・P・Chl-a. 英虞湾浚渫干潟 和白干潟 一色干潟. 人工前浜 (英虞湾) 前浜 (博多湾) 前浜 (三河湾). 24. 800,000 10,000,000. 各季節/計 4 回 7 月/1回. 423. N・P・Chl-a・ DO N・P・C・SS・ SiO2-Si. 満潮・干潮時,計 5 回 の干潟域の水質・潮位 観測 1~2 潮汐における流 入出水質・水量・雨水 水質観測 満潮・干潮時,計 5 回 の干潟域の水質・潮位 観測 2 潮汐間における流入 出水質・水量観測 昼夜 1 潮汐間の干潟域 の水質・潮位観測 7 日間,計 6 回の干潟 域の水質観測. 出典 本研究 矢内ら 7) 野村ら 8) 細川ら 9). 佐々木 10). 矢持 5),11) 矢持 5), 矢持ら 12) 国分ら 13) 児玉ら 14) 佐々木 15).

(6) 土木学会論文集B Vol.66 No.4,419-433,2010.12 20. 増減速度が大きく変動していた.また,増減率が平均 で-41.5(%)と,他の物質と比べ高い減少率が見られた. このことから干潟域では,底生動物や魚類等による植物 プランクトンの摂食が活発であることが推察される. 以上の結果より,夏期において本干潟は無機態,有機 態に関わらずリンのSource,窒素とクロロフィルaのSink として機能していることが明らかになった.. TN. DIN. ON. DIP. OP. Nitrogen (mg/m2/h). 10. 0. -10. -20. -30. 4. 5. 他の干潟との物質収支の比較. TP. Phosphorous (mg/m2/h). 3. 干潟の浄化機能は,生物生息状態や日射,水温等の環 境条件によって大きく左右される他,流入する物質量に よっても変動が起こると予想できる. 干潟の窒素・リン・クロロフィルa等の物質収支を定 量的に表した研究は,これまでに数多く発表されている が,複数の干潟の収支を比較した研究は非常に少なく, 貴重である(例えば,矢持5);鈴木6)).本章では,本研究. 2 1 0 -1. No Nodata data. -2 -3 10. Chlorophyll-a. 5. Chlorophyll-a (mg/m2/h). によって得られた結果が,干潟一般に言えるものか,本 干潟特有のものかを議論する為,本研究で得られた結果 と他の干潟の観測結果との比較を行った.. 0 -5. -10. (1) 比較対象干潟の選定とデータの整理 本研究では比較対象を,「夏期(7~9 月)において現場 海水中のリン・窒素・クロロフィル a 濃度を測定し,干 潟全体の物質収支を定量的に表した研究」とし,表-2 に示す計 10 箇所の干潟を選定した.各干潟において, 調査解析方法,水質分析方法,観測期間が異なるが,比 較の際,その点は議論しないこととした. 比較の際に,同一干潟で複数回調査を行っている場合 は,夏期(7~9 月)の調査結果のみを比較対象とし,同じ 季節で複数回測定を行っている場合は,夏期調査の平均 値を使用した.日中と夜間とで別々に値を算出している ものについては,両者を平均した値を使用した.港空研 干潟実験施設については,3 つの水槽の平均値を使用し た.阪南 2 区人工干潟については,造成直後の 2000 年 のデータは使用せず,生物相が安定したと見られる翌年 以降の結果を使用した.大阪南港湿地と阪南 2 区人工干 潟における窒素収支に関しては,矢持 5)に記載されてい る値を使用した.和白干潟と一色干潟については,結果 を数値で表していないものは,グラフから値を読み取っ た.ただし,一色干潟の TN 収支は鈴木 6)に記載されて いる値を使用した. 比較の際に,単位を mg/m2/h に統一した.また, DIN=(NO2+NO3+NH4)-N とし,ON=TN-DIN と定義した. また,DIP(溶存態無機リン) =PO4-P とし,OP=TP-DIN と 定義し,表記を統一させた.ただし,阪南 2 区の DIN. -15. No Nodata data. -20. 東京港 谷津 盤洲 港空研 三番瀬 大阪 阪南 英虞湾 和白 一色 南港 2区. 図-7 各干潟の物質収支測定結果.上から窒素・リン・クロ ロフィル a である.プラスは干潟域での物質の増加, マイナスは減少を表し,エラーバーは標準誤差を表す.. は測定されておらず,DTN(溶存態全窒素)の値を DIN と して使用した. (2) 物質収支の比較結果 以上の操作によって得られた結果を図-7 に示す.窒 素については,全 10 箇所の干潟のうち 8 箇所で TN が 減少しており,東京港野鳥公園の TN 減少速度は,阪南 2 区人工干潟に次いで 2 番目に大きかった.リンについ ては, 東京港野鳥公園と同様に,TP の増加が見られる 干潟は 8 箇所中 4 箇所であり,そのうち東京港野鳥公園 の TP の増加速度は最大であった.TN,TP 共に減少が 見られた干潟は,港空研,三番瀬,一色干潟の 3 箇所で あった.また,TN,TP 共に増加が見られる干潟は,谷 津干潟,盤洲干潟の 2 箇所であった.クロロフィル a に ついて は,7 箇所中 5 箇所の干潟で減少が見られた. 東京港野鳥公園と同様に,TPのSource,TN,クロロフ ィルaのSinkである干潟は,和白干潟のみであったが,. 424.

(7) 土木学会論文集B Vol.66 No.4,419-433,2010.12 表-3 底質分析結果. 無機態・有機態の増減傾向については,2つの干潟で異 なった結果を示した.東京港野鳥公園のように,有機, 無機に関わらず,窒素は減少し,リンは増加する干潟は 見られず,このような収支傾向は,本干潟独自の特性で あると言える.また,ON,クロロフィルaが消費されて いるのに対し,OPが増加しており,OPの増加要因とし て底泥からのDOP(溶存態有機リン)の溶出効果が大きか ったことが推察される. 有機態・無機態について着目すると,盤洲干潟と英虞 湾浚渫干潟は,有機態の Sink,無機態の Source として機 能している.このことから 2 つの干潟では,動物による 摂食活動が活発であったと考えられる.また,港空研干 潟実験施設と三番瀬は,無機態の Sink,有機態の Source であり,2 つの干潟では植物による一次生産が活発であ ったと考えられる.また,東京港野鳥公園,谷津干潟, 和白干潟のように有機態と無機態の収支傾向が一致しな い干潟も多く存在した.以上の結果から,干潟域では 様々な要因が作用し,何が支配的な要因であるかは,各 干潟環境によってそれぞれ異なることが示唆された.. 対象物質 窒素 リン 炭素 硫黄 含水比 強熱減量. 潮間帯 潮下帯 潮下帯/潮間帯 0.60 1.3 2.2 0.37 0.66 1.8 5.0 12.5 2.5 1.2 2.6 2.2 35.8 109 3.0 3.40 7.93 2.3 ※ 単位は強熱減量,含水比は%,それ以外はmg/g. 礫分. 砂分. 泥分. 100% 80% 60% 40% 20% 0%. 潮間帯. 潮下帯. 図-8 粒度組成. 10. 6. 堆積物-直上水間の物質フラックス. No No data data. はリンのSource,窒素・クロロフィルaのSinkとして機能 していることが明らかになった.しかし,干潟内部での 機構は依然未解明である.一般的に,干潟のような浅海 域では,底泥が直上水に及ぼす影響が大きいと考えられ, 堆積物の溶出,沈降速度を測定している研究も数多い (例えば,徳永ら16);桑江ら17);今村・松梨18)).このよう な,堆積物-直上水間のフラックスの測定は,現場で行 う方法8),13)と,室内実験場16) ,18)で行うものと2通りの方法 が存在する.堆積物の挙動は水温,泥温,日射,直上水 濃度に影響を受けることが考えられるため,本研究では, 現場法によって干潟堆積物―直上水間の無機態窒素・リ ンの交換フラックスを測定した.本章では,フラックス の実験結果と底質の調査結果を併せて報告する. (1) 底質調査結果 2008年8月に行った底質分析の結果を表-3にまとめる. 底質分析は潮間帯,潮下帯についてぞれぞれ行い,潮下 帯の値を潮間帯の値で除すことにより,潮下帯 / 潮間帯 の値を求めた.これによると,潮下帯のN,P,C,S, 強熱減量は潮間帯のおよそ2.2倍(1.8~2.5倍)であり,潮下 帯では潮間帯に比べ,有機物質の含有量が高く,栄養物 質が豊富であることが分かる.また,潮間帯の強熱減量 は, 2006年の調査結果19)の4.25%と比べ,若干低めの値. NO NO3-N 3-N. NH4-N NH4-N. DIN DIN. 6 4 2 0 潮間 潮下 潮間 潮下 潮間 潮下 潮間 潮下 6月. 8月. 10月. 12月. 図-9 間隙水中のDIN濃度(堆積物表層0.5cm). 3. (mg/l). 2潮汐間の水質調査によって,夏期においては本干潟. (mg/l). 8. NO2-N NO2-N. No No data data. 2. 1. 0 潮間 潮下 潮間 潮下 潮間 潮下 潮間 潮下 6月. 8月. 10月. 12月. 図-10 間隙水中のPO4-P濃度(堆積物表層0.5cm). を示した.表-3の結果を用い,N/P比(重量比)を計算する と,潮間帯で1.6,潮下帯で2.0と非常に小さい値を示し た.この値は,港空研のメソコスム干潟の堆積物N/P比. 425.

(8) 土木学会論文集B Vol.66 No.4,419-433,2010.12. =5.517),盤洲干潟の堆積物N/P比=3.517)等と比較して低 いことが分かる. 本干潟の特徴として,カワウ等の水鳥が非常に高密度 に飛来することがあげられる.一般的に,魚食性水鳥の 排泄物中のリン濃度が高く,N/P比は低い(カワウN/P= 1.79,アオサギN/P=1.51)20).このことから,本干潟の底 質は水鳥の排泄にインパクトを受けてN/P比が低くなっ ていることが考えられる.亀田ら21)はカワウコロニーに おいて,排泄物の影響によって,森林土壌のN/P比が低 くなることを報告しており,同様の現象が本干潟におい ても起こっていると考えられる. 粒度組成を図-8に示す.潮間帯は泥分30%程であり, 2006年の調査結果19)と大きな差異は見られなかった.潮 下帯については,泥分92%とほぼシルトと粘土で構成さ れていた.この値は,木村ら22)が1995年に発表した調査 結果(潮下帯,泥分75%,55%)と比べ,非常に大きいこ とが分かる.この結果から,潮下帯の泥質化が進行して いることが懸念される.木村ら22)は,本干潟の泥質化の 原因を野鳥の影響と示唆しているが,現時点で原因を特 定することは出来ていない. 堆積物間隙水中の栄養塩濃度を図-9,図-10に示す. これによると,8月において,潮間帯,潮下帯共にDIN, PO4-P濃度が高くなっていることが分かる.また,底泥 中ではNH4-NがDINに対して常に高い割合を占めていた. このことから,堆積物中では,有機物の分解や排泄によ り,NH4-N濃度が高くなっていることが考えられる.直 上水と間隙水中の(NO3+NO2)-N濃度を比較すると,実験. r=. V ( ΔC − ΔC0 ) A・Δt. (1). ここに,rは堆積物―直上水間の物質交換フラックス 量(mg/m2/h),Vは直上水体積(m3),ΔCは実験系の直上水 濃度の変化(mg/l),ΔC0は対照系における直上水濃度の変 化(mg/l),Aはコアの面積(m2),Δt は実験時間(h)である. このフラックスの結果がプラスになれば,排泄物や死骸 の分解や溶出等によって,堆積物から直上水へ物質が移 動したと見なし,マイナスになれば,拡散,底生微細藻 類の光合成,土壌吸着等によって,直上水から堆積物へ 物質が移動したと見なすことが出来る. (3) フラックスの測定結果 図-11にDINのフラックスを示す.図中において,プ ラスの値が堆積物から直上水への物質の移動,マイナス が直上水から堆積物への移動とし,3本の試験体の平均 値と標準誤差を示した.これによると,殆どの季節にお いて,DINは堆積物中へ移行していることが分かる.特 にNO3-Nの堆積物中への移動量が大きく,8月の潮間帯 の夜間においてその量は最大となった.(NO2+NO3)-Nは 堆積物中において低濃度であることから,直上水から堆 積物方向への拡散フラックスが発生していたことが考え られる.また,NH4-Nについては,総じて溶出傾向にあ り,堆積物中において,高濃度であるNH4-Nが直上水へ 溶出したと考えられる.この結果は,図-9の間隙水中の DIN濃度と矛盾しない結果であった.また,このDINの. 開始時の直上水濃度は平均で1.30mg/lであり,間隙水濃 度は0.07~0.36mg/lと低いことが分かる.木村ら22)は7月に おける本干潟の脱窒速度を,13.4(mg/m2/h)と高い値を報. フラックス結果は表-1の干潟全体の収支傾向と一致する ものであった. 図-12にPO4-Pのフラックスを示す.PO4-Pに関しては,. 告しており,堆積物中では脱窒効果によって, (NO3+NO2)-N濃度が低くなっていると考えられる.PO4-P. 年間を通して明確な傾向は見られず,各コアのバラツキ も大きかった.8月においては日中は吸着,夜間は溶出 し,10月においては潮間帯,潮下帯で共に吸着されてい た.図-10の間隙水中のPO4-P濃度との結果と比較すると, PO4-Pのフラックスは堆積物の物質濃度に必ずしも依存. の直上水濃度は平均で0.47mg/lであり,間隙水中濃度は 0.97~2.99mg/lと常に高濃度であった. (2) 交換フラックスの計算方法 各実験系コアの実験開始時と終了時の直上水の無機栄 養塩濃度から,直上水中の物質の変化量を求め,対照系 の変化量を差し引くことによって,堆積物-直上水間の 物質交換フラックスを求めた.このフラックスは,堆積 物中の,底生微細藻類,底生動物,細菌類の活動による 作用を含んだ堆積物と直上水間の物質の移動量を表すも のである.得られた結果は,単位時間面積当たりのフラ ックス量として評価した.以上の概念を計算式で表現し たものを以下に示す.. しないことが分かる. 図-11,12の8月の日中,夜間の潮間帯フラックスの測 定結果より,干潟全域の2潮汐間の堆積物-直上水間の フラックスを算定した.光量子計の観測結果から,8月 17日19:00~18日4:30の9時間30分を夜間とし,それ以 外の時間帯を日中として,計算を行った.潮下帯の実験 コアには周辺の海水が混入したため,データを破棄した. そのため,計算においては潮下帯,潮間帯に限らず,潮 間帯の実験結果を使用した.なお,潮間帯干出時には交 換フラックスは発生しないものと考えた.. 426.

(9) 土木学会論文集B Vol.66 No.4,419-433,2010.12. 直上水 20. NO2-N NO 2-N. (mg/m2/h). 10. NH4-N NH 4-N. NO3-N NO3-N. Excrement. DIN DIN. Land (Recipient). 0. Waterfowl. N P. -10 -20. Benthos. -30. Feeding Sea (Donor) Nekton. -40 潮間. 潮下. 日中. 堆積物. 6月. 潮間. 夜間. 日中. 夜間 8月. 潮間. 潮下. 潮下. 日中. 日中. 10月. 12月. N P. 図-13 水鳥の物質輸送についての概念図. 干潟域における物質の恒久的な取上げ要因として,水 鳥の採餌行動が挙げられる.一般的に水鳥は水域で採餌 を行い,陸域にコロニーを形成する.その為,水域で魚 類や底生動物,植物から取上げた窒素・リンは,図-13 のように糞やペリット,死骸の形で陸域に輸送される25). 干潟域における水鳥の栄養物質除去効果は非常に重要な 要因であることが示唆されているが,定量的な検討は殆 どなされていない.また一方で,水鳥の排泄物は多量の 窒素・リン分を含んでおり,水域における負荷要因とし ても検討されている26)-30).干潟域において,水鳥が物質 除去に働くか,負荷に働くかは各干潟の水鳥の利用パタ ーンによって決定されると予想できる. 本研究では,水鳥の飛来数と底生動物の生物量の季節 変化を調査し,干潟域の生物相を把握した.また,水鳥 が干潟系外へ持ち出す窒素・リン輸送量を干潟域に飛来 した水鳥の個体数から見積もった.. 図-11 DINの堆積物-直上水間の交換フラックス.エラーバ ーは最大値と最小値を表す.. 12. 直上水 (mg/m2/h). 8 4 0 -4 -8 -12 潮間. 堆積物. 潮下. 日中 6月. 潮間. 夜間. 日中. 夜間 8月. 潮間. 潮下. 潮下. 日中. 日中. 10月. 12月. N P. 図-12 PO4-Pの堆積物-直上水間の交換フラックス.エラーバ ーは最大値と最小値を表す.. (1) 水鳥の飛来状況 図-14に調査によって得られた水鳥の飛来数の季節変 化を示す.ここでは,9:00~17:00の数回の観測の平 1の2008年の干潟-隣接海域間の物質収支と比較すると, 均値を,その日の平均飛来数と表した.春から秋にかけ これらの値は干潟域の(NO2+NO3)-N消費の71.9%,NH4-N て飛来数は増加しており,10月でピークに達することが 増加の27.7%に相当するものであり,PO4-Pに関しては, 分かる.これは本公園で観測されている例年の結果と同 干潟域全体の消費量を上回り,101%となった.この結 様の傾向を示している.また図-15に示すように,その 果から,堆積物-直上水間の交換フラックス量は,干潟 種類に着目すると,カワウ(Phalacrocorax carbo)が通年で 域における物質収支の主要因であると考えられる. 最も多く観測され,その個体数は全飛来数の6~9割を占 計算の結果,(NO2+NO3)-N=-375(mg/m2/2tide),NH4-N= +21.0(mg/m2/2tide),PO4-P=-7.7.9(mg/m2/2tide)となった.表-. めるものであった.この原因として,干潟域に餌生物と なるボラ等の魚類が多く生息することと,干潟域に設置 された木杭や周辺の木々等の休憩場所が確保出来ること に起因すると考えられる. 夏期においては,アオアシシギ(Tringa nebularia),コチ ドリ(Charadrius dubius),メダイチドリ(Charadrius mongolus). 7. 水鳥による窒素・リン輸送量の検討 干潟の水質浄化機能を担う代表的生物として,底生動 物と水鳥が挙げられる.底生動物は干潟域における有機 態の除去に大きな影響を及ぼすと考えられており23),底 生動物に着目した研究も数多く存在する12),24).しかし, 底生動物によって取り込まれた窒素・リンは,対象生物 が生存する間は体内に固定されるが,死滅後は水中へ再 回帰されることが指摘されている.. 等のシギ・チドリ類の飛来数が増加し,秋期から冬期に かけてコガモ(Anas crecca),ホシハジロ(Aythya ferina),キ ンクロハジロ(Aythya fuligula)等のカモ類の増加が見られ た.. 427.

(10) 土木学会論文集B Vol.66 No.4,419-433,2010.12. 観測によって得られた水鳥の採餌行動率を表-4に示す. 表の値は,各時間によって得られた記録を全て平均した ものである.これによると,本干潟に最も多く飛来する カワウの採餌行動率は3.3%と低く,カワウは干潟域での 採餌行動の時間が短いことが分かる.同様の報告は桑江 ら31)によってもなされており,カワウは干潟域を休息場 所として利用する時間が長いことが分かる.カワウの飛 来が最大になった10月では,採餌行動はあまり見られず, 干潟域の杭や周辺の木々で羽を休めている個体が多く見 られた. ただし,本調査は全て日中に行っている為,夜間の採 餌行動率や飛来数は不明である.カモ等の水鳥は夜間に 採餌を行う種も多く,1 日の採餌行動率を調査した場合 は,上記の結果は異なる可能性があると言える. (2) 底生動物の生物量 図-16に計数されたカニの個体数と巣穴の相関図を示 す.干潟域には,主としてヤマトオサガニ. 700. 飛来数(羽/day). 600. (Macrophthalmus japonicus)とチゴガニ(Ilyoplax pusilla)の生息 が確認されたが,図中においては区別しなかった.また, 調査によってヤマトオサガニの平均生重量=7.25(g)チゴ ガニの平均生重量=0.64(g)が得られた. 調査結果より得られた底生動物の現存量の季節変化を 図-17に表した.ゴカイ等の環形動物は6月に多く観測さ れた.また,8月,10月の調査ではヤマトオサガニやチ ゴガニ等の節足類の活動が活発に見られたが,12月には 殆ど発見されなかった.アサリ(Ruditapes philippinaru)やソ トオリガイ(Laternula marilina)等の軟体動物は通年で大き な変動は無く,8月に若干の増加傾向が見られた. (3) 水鳥 による窒素・リン輸送量の計算方法 図-14の平均飛来数から,干潟域に飛来する水鳥が1日 に採餌する物質量と,排泄する物質量を求め,採餌量か ら排泄量を差し引きくことで,水鳥が干潟系外へ持ち出 す窒素・リン量を計算した.なお,水鳥が1日に必要と するエネルギー量は全て干潟域で補われるとし,持ち出 し量の最大値を計算した.排泄負荷量に関して,黄・磯 部26)は,潟内の排泄負荷量は,潟内にいる時間に比例す るとして,水鳥1日の排泄量の2/3が干潟内に負荷される. 500 400. 16. 300. 14. 200. 12. 100 6.10. 7.17. 8.17. 10.28. 11.29. 10. カニの数(個/m2). 0 12.26. 図-14 水鳥の平均飛来数.エラーバーは最大値と最小値を 表す.. 8 6 4 2. 100%. 0. 80%. 0. 2. 4. 6. 8. 10. 12. 14. 16. 巣穴の数(個/m2). 60% 40%. その他 シギ・チドリ類 カモ類 ウ・サギ類. 20%. 図-16 カニの個体数と巣穴の関係. 0%. 6.10. 7.17. 8.17. 10.28. 11.29. Biomassg (wet-g/m2 ). 飛来数割合(%). カニ=0.575×(巣穴) R2 =0.741,n=16. 12.26. 図-15 飛来した水鳥の組成 表-4 採餌行動率(全データの平均値) 水鳥 カワウ サギ類 カモ類 シギ類 チドリ類. 採餌行動率(%) 3.30 8.28 10.2 60.0 61.1. 250. 節足動物. 200. 軟体動物 環形動物. 150 100 50 0. 6.16. 8.17. 10.14. 図-17 底生動物の現存量の季節変動. 428. 12.15.

(11) 土木学会論文集B Vol.66 No.4,419-433,2010.12. としている.本研究でも,負荷に関してはこの仮定に従 い計算を行った.詳細な計算方法を以下に示す. BC =. 1 A. ∑ N (FW × N i. i. FC. − C r × DWi × N EC ). ここに,BCは飛来した水鳥が干潟系外へ運び出す物 質量 (g/m2/day),Aは干潟面積(=57033m2),Niは水鳥iの平 均飛来数(羽),FWiは水鳥iの1日の採餌量(g/day),NFCは餌 生物の栄養塩含有率(%),Crは干潟に排泄物が投下され る確率 (=2/3) 26),DWiは水鳥iの1日の排泄物の乾重量 (g/day),NECは排泄物の栄養塩含有率(%)である. 一般的に,小型生物ほど,体重当りの代謝量は高くな り,それに伴い摂食量も増えると考えられるが,ここで は,採餌量は体重に比例するとしてFWiを以下のように 求めた.肉食性の水鳥の採餌量FWiは,カワウの採餌量 262(g/kg/day)32)と同等であるとし,草食性の水鳥に関して は,野毛山動物園のオシドリの採餌量の記録33)を参考に し,275(g/kg/day)と定めた.表-5(木村34),山室35)より作成) に水鳥が干潟域で採餌すると思われる生物の窒素・リン 含有量を示す. 排泄量に関しては,水鳥が1日に排泄する糞の乾重量 は体重の2.25%(Sanderson & Anderson36))とした.また,排. (2). i. 表-5 魚類,底生動物,植物の窒素,リン含有量 単位はmg/wet-g.(木村34),山室35)より作成) 魚 類 二 枚 貝 多 毛 類 植 物. 生物名 スズキ マハゼ カガミガイ シオフキガイ バカガイ Lumbrinereis sp Pseudonereis sp Typosyllis sp ミズヒキゴカイ ヨシ ガマ. 窒素 26.7 27.1 17.4 19.4 18.9 9.2 8.7 8.7 9.5 15.1 9.6. リン 7.0 5.7 1.3 1.7 1.9 1.3 1.5 1.5 1.3 1.6 1.4. 泄物の窒素・リン含有量は魚食性の水鳥に関しては,カ ワウの値TN=11.1%,TP=6.8%(石田37)),草食性の水鳥に 関しては陸ガモ(水草由来)の値TN=1.46%,TP=0.33%(中. 38)-41). 表-6 計算された水鳥の日採餌・排泄・同化量.それぞれの単位はg/羽/day.(体重は資料 飛来する水鳥. ウ ・ サ ギ 類. カ モ 類. シ ギ ・ チ ド リ 類. カ モ メ 類. カワウ アオサギ ダイサギ チュウサギ コサギ ゴイサギ カルガモ コガモ ホシハジロ キンクロハジロ スズガモ アオアシシギ コアオアシシギ イソシギ ソリハシシギ キアシシギ オオソリハシシギ オグロシギ タシギ コチドリ メダイチドリ カモメ ユリカモメ ウミネコ セグロカモメ コアジサシ. 餌生物. 魚類. 藻類 魚類 貝類. 多毛類. 魚類 貝類. 体重(g). 日採餌有機 物量 FWi. 2000 1500 950 535 500 600 1000 325 1000 1200 800 190 88 55 86 125 313 270 115 40 61 517 297 680 1300 50. 524 393 249 140 131 157 275 89.4 262 314 210 49.8 22.9 14.4 22.5 32.8 81.9 70.7 30.1 10.5 16.0 135 77.8 178 341 13.1. 429. 日採餌量 (1) FWi×NFC 窒素 リン 14.15 3.68 10.61 2.76 6.72 1.75 3.78 0.98 3.54 0.92 4.24 1.10 3.40 0.42 1.10 0.14 3.24 0.40 7.16 1.28 4.78 0.85 0.50 0.07 0.23 0.03 0.14 0.02 0.23 0.03 0.33 0.05 0.82 0.11 0.71 0.10 0.30 0.04 0.10 0.01 0.16 0.02 3.08 0.55 1.77 0.32 4.06 0.73 7.76 1.39 0.30 0.05. を参考に決定). 日排泄量 (2)DWi×NEC 窒素 リン 5.00 3.06 3.75 2.30 2.37 1.45 1.34 0.82 1.25 0.77 1.50 0.92 0.33 0.07 0.11 0.02 0.33 0.07 3.00 1.12 2.00 0.74 0.18 0.06 0.08 0.03 0.05 0.02 0.08 0.03 0.12 0.04 0.29 0.10 0.25 0.09 0.11 0.04 0.04 0.01 0.06 0.02 1.29 0.48 0.74 0.28 1.70 0.63 3.25 1.21 0.12 0.05. 日同化量 (1)-(2) 窒素 リン 9.15 0.62 6.86 0.46 4.35 0.29 2.45 0.17 2.29 0.15 2.75 0.19 3.07 0.35 1.00 0.11 2.91 0.33 4.17 0.17 2.78 0.11 0.32 0.007 0.15 0.003 0.09 0.002 0.15 0.003 0.21 0.005 0.53 0.012 0.46 0.010 0.19 0.004 0.07 0.002 0.10 0.002 1.79 0.07 1.03 0.04 2.36 0.09 4.51 0.18 0.17 0.01.

(12) 土木学会論文集B Vol.66 No.4,419-433,2010.12. 村20))を与えた.ただし,シギ・チドリ類は,多毛類や甲 殻類等の生物を採餌するため,カワウの排泄物の含有率 に多毛類と魚類の栄養塩含有率の比を乗じることによっ て,TN=4.11%,TP=1.46%とした. 各水鳥の餌生物は,目視観測及び,本公園レンジャー からのヒアリング結果から表-6のとおりとし,採餌量, 排泄量,同化量を計算した.ここで,同化量=採餌量- 排泄量とし,純同化量とエネルギー量を含めた値を表し た.窒素,リン含有量については,表-5から各水鳥が採 餌すると思われる生物の平均値を用いた.また,表中の 体重は資料34)-37)を参考に値を決定した. 計算結果によると,カワウやアオサギ等の大型で魚類 を採餌する水鳥は,同化量が高いことが分かる.また, シギ・チドリ類に関しては,体重が小さいため,その同 化量も非常に小さいことが分かる.. 物質輸送量 (mg/m2/day). 60 窒素輸送量 リン輸送量. 50 40 30 20 10 0 6.10. 7.17. 8.17. 10.28. 11.29. 12.26. 図-18 干潟域における水鳥による窒素・リン輸送量 表-7 干潟域における水鳥の排泄負荷量. (4) 水鳥による窒素・リン輸送量の計算結果 水鳥の除去量の算定結果を図-18 に示す.この結果よ り,飛来数が最大になる 10 月の除去量が年間で最大と なること分かる.また,表-1 の水中から除去される TN =-437(mg/m2/2tide)と,得られた値を比較すると,8 月で は,水鳥は,水中から除去される TN の 6%を系外に持 ち去りることが分かる.また,最大の 10 月でも同様の 比較を行うとその値は 12%程度となった.リンに関し ても比較を行うと,8 月に水鳥が干潟域から持ち去る TP 量 は , 干 潟 域 か ら 隣 接 海 域 へ 流 出 す る TP = +66.4(mg/m2/2tide)の 5%程度に相当し,最大の 11 月でそ の値は 10%となった. 干潟系外に物質を持ち出す要因としては,水鳥の他 に魚類の役割が考えられるが,本干潟においては,水路 内に格子が設置しあり,大型の魚類の出入りが困難な構 造となっている.その為,干潟域における物質循環にお いて,水鳥の輸送量の重要性は相対的に高くなると言え る.しかしながら,その値は窒素,リンに関しては決し て大きいものではなかった. 今回試算した値は,水鳥が1日に必要とするエネルギ ー量を全て干潟域で摂取するとの仮定のもと行った計算 である.同化量が高く飛来数が多いカワウ,については, 本干潟での採餌行動率は低く(表-4), 現実にはさらに小さい値になることが考えられる. Venugopalanら42)は,人間の干渉が無い湖沼における水 鳥の排泄物による富栄養化を報告している.本干潟に飛 来した水鳥が,干潟を餌場として利用しない場合は,排 泄負荷のみが与えられ,干潟域に物質が供給されること が考えられる.表-7に干潟域における水鳥の排泄負荷に ついて計算値を整理した.排泄負荷量のN/P比(重量比) は平均で1.66となり,干潟堆積物のN/P比(潮間帯で1.6,. 430. 観測日 窒素負荷量 リン負荷量 (2008 年) 6/10 6.85 4.16 7/17 8.30 4.99 8/17 7.48 4.52 10/28 21.62 13.09 11/29 16.24 9.90 12/26 4.69 2.80 ※ 窒素,リン負荷量の単位は,mg/m2/day. N/P (重量比) 1.65 1.66 1.65 1.65 1.64 1.67. 潮下帯で2.0)と非常に近い値となった.このことから本 干潟の底質は,水鳥の排泄によるインパクトを受けてい る可能性があると考えられる. 干潟における水鳥の物質輸送に関しては,国内外でも 研究例が少なく,その定量化は困難であるが,水鳥の行 動パターンを把握することで,より詳細な物質輸送量が 試算が可能になると考えられる.. 8. 本干潟の物質収支についての考察 ここで,これまで述べてきた結果を総合し,本干潟の 窒素・リン収支の特性について議論する. 表-1 の結果より,本干潟は夏期において,リンの供 給源,窒素,クロロフィル a の消費源として機能してい ることが明らかになった.干潟域では,クロロフィル a の消費に伴い,PON(懸濁態有機窒素),POP(懸濁態有 機リン)も消費されていると考えられる.干潟域におけ る懸濁態物質のトラップ要因として,軟体類によるろ過 機能と,物理的な沈降,堆積が考えられる.本干潟にお いては節足動物や環形動物等の堆積物食者が高い生息数 を保持しており,ろ過機能を持った軟体類の生息が少な い(図-17).この為,物理的な沈降,堆積が干潟域で顕 著に働き,懸濁態物質が消費されていると考えられる. 表-1 の調査結果によると,ON,クロロフィル a は消 費されているものの,OP は干潟域で増加している.こ のことから, DOP(溶存態有機リン)が干潟域で増加して.

(13) 土木学会論文集B Vol.66 No.4,419-433,2010.12. いることが考えられる.本干潟は,カワウ等の水鳥が高 2) 密度で飛来するという特徴があり,水鳥の排泄物のイン パクトによって,堆積物中のリン濃度が高められ,N/P 比が低くなっていることが考えられる(表-3 及び表-7). 堆積物からの DOP や PO4-P の溶出により,干潟域では 直上水のリンが増加していると考えられるが,2008 年 8 月の観測結果では,PO4-P は干潟全体で消費傾向にあり, 3) その大部分は堆積物中に取り込まれるとの結果になった (表-1 及び図-8). 無機態窒素に関しては,NH4-Nが増加していることか ら,干潟域のNH4-N濃度は植物プランクトンや底生微細. 費源として機能していることが明らかになった. 本干潟のように,TPが増加,TN,クロロフィルaが 減少している干潟は和白干潟であったが,有機態, 無機態について一致する干潟が存在しなかった.干 潟域における物質収支は各干潟によって異なり,そ れらは干潟環境によって決定されることが示唆され た. 本干潟域における堆積物-直上水間の交換フラック ス量は,DINに関しては,主に堆積物への移動する 傾向を示し,PO4-Pについては,季節や地点によっ. て異なり,一定した傾向が見られなかった.また, この交換フラックスは,夏期において干潟域の物質 収支の主要な要因であると考えられる. 4) 本干潟に飛来する水鳥として,カワウが通年で数多 く観測された.また水鳥が干潟系外へ持ち去るTN 量は最大でも,水中から除去されるTN量の12%程度 であり,TP量は最大でも干潟から隣接海域へ流出 するTP量の10%程度と,その値は小さかった. 本研究では,「東京港野鳥公園・潮入りの池」におけ る夏期2潮汐間の物質収支について議論した.課題とし ては,一年を通した物質収支が不明であること,各干潟 の物質収支の違いは何に起因するかが不明であることで ある. このような調査データや研究が蓄積されることによっ て,現存する干潟の保全活動や管理業務,また干潟造成 を行う際の有用な資料,知見が得られることが期待でき る.. 藻類の取り込み量を上回っていることが示唆された.ま た,(NO3+NO2)-Nの減少が見られることから,脱窒によ って堆積物中の濃度が減少し,直上水から堆積物へのフ ラックスが生じやすい環境にあることが示唆された.ま たこの結果は,図-9の間隙水中のDIN濃度と,図-11の堆 積物-直上水間のDINフラックスの結果を支持するもの であった. また,干潟系外への物質輸送経路として,水鳥による 採餌,排泄を検討したが,その輸送量は決して大きなも のではなかった(図-18).本干潟は,高い脱窒速度を有 していると言われており22),窒素の系外移転能力として は,堆積物の脱窒効果が大きく影響していると考えられ る.本干潟においては,水路内に格子が設置してあり, 大型の魚類の出入りが制限されている.このことから, 魚類による系外輸送経路は期待できず,水鳥によるリン の輸送経路は非常に貴重であると言える. 一般的に,干潟は沿岸域において高い環境機能を有す ると言われているが,本研究の結果は,干潟は必ずしも 環境に対してプラスに働く訳ではないことを意味する. 干潟造成計画や保全,管理業務を行う際は,プラスの要 因とマイナスの要因を視野に入れた両側面からの検討が 必要になると言える.. 謝辞:本研究を行うにあたり,多くの方々にご指導,ご 協力頂いた.ここに,記して感謝致します.本研究の現 地観測は,研究室のゼミ及びイベントの一環として行っ た.強制参加にもかかわらず,快く調査に協力して頂い た武蔵工業大学・水圏環境工学研究室の学部及び,修士 のメンバー,調査許可を頂いた野鳥公園レンジャーの葉 山政治氏,金井裕氏,また東京都埠頭公社の方々に深く 感謝致します.研究にあたり,有用な助言を頂いた五洋 建設(株)の金山進博士,分析指導をして頂いた (独)港 湾空港技術研究所の 三好英一氏,五洋建設(株)の中嶋 さやか氏,調査時に測器を貸して頂き,使用方法をご指 導して頂いた(独)港湾空港技術研究所の井上徹教氏に深 く感謝致します.. 9. まとめ 本研究では,潟湖型の人工干潟である「東京港野鳥公 園・潮入りの池」において現地観測を行い,夏期におけ る干潟-隣接海域間のリン・窒素・クロロフィルaの物 質フラックスを求めた.また,堆積物-直上水間の無機 窒素・リンの交換フラックスを測定した.水鳥と底生動 物については現地調査を行い,水鳥が干潟系外へ除去す る窒素・リン量を求めた.得られた結論を以下にまとめ る. 1) 夏期2潮汐間の水質調査によって,本干潟は夏期に おいて,リンの供給源,窒素,クロロフィルaの消. 参考文献 1). 2). 431. 中瀬浩太,林英子:埋立地に造成した人工干潟の環 境変化と環境管理―東京港野鳥公園の事例―,海洋 開発論文集,第 18 巻,pp.31-36,2002. 釜田美穂,金井裕,植田睦之,成末雅恵,黒沢令子, 小阪正俊,福井和二,塚本洋三,梶希代美,金子利 子:干潟面の穴の数による底生生物の生物量評価, STRIX,Vol.14,pp.201-203,1996..

(14) 土木学会論文集B Vol.66 No.4,419-433,2010.12 3). 4) 5). 6) 7). 8). 9). 10). 11). 12). 13). 14). 15) 16). 17). 18). 19). 20). 21). 秦野拓見,関口晋太郎,村上和男,中瀬浩太:東京 港野鳥公園干潟における栄養塩類フラックスの現地 観測と水鳥負荷の推算,海岸工学論文集,第 55 巻, pp.1131-1135,2008. 古谷研:一次生産の基本概念,海洋生物の連鎖,木 暮一啓[編],pp.28-44,東海大学出版,2006. 矢持進:大阪湾およびその周辺海域の干潟における 窒素収支と動植物現存量,海岸工学論文集,第 54 巻, pp.1111-1115,2007. 鈴木輝明:三河湾の干潟域と水質浄化機能,海洋と 生物,129,Vol.22,No.4,pp.315-322,2000. 矢内栄二,早見友基,井元辰哉,五明美智男:谷津 干潟におけるアオサの異常繁茂と干潟環境への影響 評価,海岸工学論文集,第 53 巻,pp.1191-1195, 2006. 野村宗弘,小沼晋,桑江朝比呂,三好英一,中村由 行:盤洲干潟における潮汐に伴う栄養塩収支に関す る現地観測,港湾空港技術研究所資料,No.1020, 19p.,2002. 細川恭史,桑江朝比呂,三好英一,室善一郎,木部 英治:干潟実験施設を用いた物質収支観測,港湾技 研資料,No.832,22p.,1996. 佐々木克之:内湾および干潟における物質循環と生 物生産[25]三番瀬における窒素リンの収支-2,海洋 と生物,112,Vol.19,No.5,pp.436-441,1997. 矢持進:富栄養浅海域における生態系の復元―人工 干潟現地実験場での環境と生物の動態―,平成 12~ 15 年度科学研究費補助金(基盤研究(B)(2))研 究成果報告書,pp.104-107,2004. 矢持進,宮本宏隆,大西徹:浚渫土砂を活用した人 工干潟における窒素収支―大阪湾阪南 2 区人工現地 実験場について―,土木学会論文集,No.741/VII-28, pp.13-21,2003. 国分秀樹,奥村宏征,高山百合子,湯浅城之,上野 成三:英虞湾の浚渫ヘドロを用いた人工干潟におけ る潮汐に伴う水質変動の連続観測,海岸工学論文集, 第 53 巻,pp.1231-1235,2006. 児玉真史,水田健太郎,松永信博:干潟における水 質の季節変化とその変動要因に関する研究,海岸工 学論文集,第 49 巻,pp.1116-1120,2002. 佐々木克之:干潟域の物質循環,沿岸海洋研究ノー ト,第 26 巻,第 2 号,pp.172-190,1989. 徳永貴久,児玉真史,松永信博:干潟の底泥生態系 が水質環境に及ぼす影響評価,海岸工学論文集,第 50 巻,pp.1076-1080,2003. 桑江朝比呂,細川恭史,木部英治,中村由行:メソ コスム実験による人工干潟の水質浄化機能の評価, 海岸工学論文集,第 47 巻,pp.1096-1100,2000. 今村正裕,松梨史郎:湾奥部における水-底泥間の 窒素・リンのフラックス,海岸工学論文集,第 44 巻, pp.1081-1085,1997. 秦野拓見,村上和男,中瀬浩太,金山進,葉山政 治:人工潟湖干潟が水質変化に及ぼす影響,海洋開 発論文集,第 23 巻,pp.745-750,2007. 中村雅子:ガンカモ類が水質に及ぼす影響~冬期湛 水水田の施肥効果の可能性~,第 2 回冬期湛水水田 シンポジウム講演要旨集,pp.26-29,2002. 亀田佳代子,保原達,大園享司,木庭啓介:カワウ による水域から陸域への物質輸送とその影響,月刊 海洋,Vol.34,No.6,pp.442-448,2002.. 22) 木村賢史,三好康彦,嶋津暉之:人工干潟湖におけ る生物による浄化について,東京都環境科学研究所 年報,pp.212-222,1995. 23) 木村賢史:人工干潟(海浜)の水質浄化機能,ヘド ロ,No.60,pp.59-80,1994. 24) 鈴木輝明,青山裕晃,中尾徹,今尾和正:マクロベ ントスによる水質浄化機能を指標とした底質基準試 案―三河湾浅海部における事例研究―,水産海洋研 究,Vol.64,No.2,pp.85-93,2000. 25) 亀田佳代子:陸上生態系と水域生態系をつなぐもの -海鳥と物質輸送と人間のかかわり-,保全鳥類学, 山岸哲[監修],(財)山階鳥類研究所[編],pp.167-189, 京都大学学術出版会,2007. 26) 黄光偉,磯部雅彦:渡り鳥集団飛来による閉鎖性水 域への栄養塩負荷推定に関する研究,土木学会論文 集 B,Vol.63,No.3,pp.249-254,2007. 27) 江成敬次郎,中山正与,斉藤孝市,鈴木淳,柴崎徹, 佐々木久雄:水鳥の飛来による水質汚濁とその防止 策,用水と廃水,Vol.36,No.2,pp.22-28,1994. 28) 矢内栄二,石井健一,小野寺一剛:谷津干潟におけ る鳥類および流入排水負荷の検討,海洋開発論文集, 第 24 巻,pp.735-740,2008. 29) 村上和仁,石井俊夫,瀧和夫:海浜公園池(汽水 湖)における水の華と栄養塩負荷特性,海洋開発論 文集,第 24 巻,pp.633-638,2008. 30) 秦野拓見,村上和男,葉山政治:水鳥の排泄による 干潟への栄養塩負荷量の推算,第 63 回土木学会年次 学術講演会講演概要書,II-107,CD-ROM,2008. 31) 桑江朝比呂,河合尚男,赤石正廣,山口良永:三河 湾の造成干潟および自然干潟に飛来する鳥類群衆の 観測とシギ・チドリ類が果たす役割,海岸工学論文 集,第 50 巻,pp.1256-1260,2003. 32) 佐藤孝ニ,皇甫宗,奥村純市:カワウの採食量と基 礎代謝率,応用鳥学集報,Vol.8,pp.58-62,1988. 33) 横浜市:横浜市動物園年報,平成 17 年度,95p., 2005. 34) 木村賢史:海を守り育む干潟・海浜域-3.沿岸域が有 する優れた自然浄化機能-,用水と廃水,Vol.48, No.4,pp.3-13,2006. 35) 山室真澄:食物連鎖を利用した水質浄化機能の定量 化,水環境学会誌,第 23 巻,第 11 号,pp.710-715, 2000. 36) Sanderson, G. G. and Anderson, W. L.: Waterfowl studies at Lake Sangchris, Illinois Natural History Survey Bulletin, Vol.32, No.4, pp.656-690, 1978. 37) 石田朗:カワウのコロニーや集団ねぐらによる森林 生態系への影響,鳥類学会誌,Vol.51,No.1,pp.2936,2002. 38) 水 辺 の 鳥 : http://homepage1.nifty.com/birdedu/bird/mizube.html 39) おもな海鳥の体重:http://www.seabird.go.jp/bw.html 40) Waterfowl ID, Duck ID, Duck Sounds, Duck Photos, Goose ID: Duck Unlimited: http://www.ducks.org/hunting/ waterfowlgallery.aspx 41) 鳥の体重:http://akaitori.hp.infoseek.co.jp/omosa.htm 42) Venugopalan, V. P., Nandakumar, K., Rajamohan, R., Sekar, R. and Nair, K. V. K.: Natural eutrophication and fish kill in a shallow freshwater lake, Current Science, Vol.74, No.10, pp.915-917, 1998. (2009.3.24受付). 432.

(15) 土木学会論文集B Vol.66 No.4,419-433,2010.12. CHARACTERISTIC OF NITROGEN AND PHOSPHORUS BUDGETS AT A TIDAL FLAT IN TOKYO PORT WILD BIRD PARK Takumi HATANO, Kazuo MURAKAMI, Hirotsugu ISHII, Asato KADOWAKI, Tomohiro KUWAE and Kouta NAKASE This paper describes the function of the self-clarification of water quality by tidal flat in the Tokyo Port Wild Bird Park. In this study field, the authors carried out the field observations of water quality over 2 tildal cycles and estimated nutrient fluxes between tidal flat and adjacent sea in the summers in 2006, 2007 and 2008. And the sampling of benthos and bottom sediments and counting of number of water birds were carried out in this field. From this study, the authors found following results. (1) Function of this flat is net sink for nitrogen and chlorophyll-a and net source for phosphorus in summer. (2) Nutrient fluxes between sediment and water column are large in budget of tidal flat area. (3) Amount of TN and TP removal by water birds is not so large compared to TN and TP fluxes between tidal flat and adjacent sea.. 433.

(16)

図 -1   「東京港野鳥公園・潮入りの池」所在図  Reed Grass Intertidal Zone N Adjacent Sea  Tidal Flat Channel 1Channel 2ChannelsTidal Flat Adjacent Sea BenthosSea WaterSediment図-2  観測地点概要図
図 -4   各観測点におけるリン・窒素濃度の時系列変動 (2007 年 8 月 26 ~ 27 日 ) 08162432 9:00 12:00 15:00 18:00 21:00 0:00 3:00 6:00 9:00TN/TP

参照

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