• 検索結果がありません。

「思考する文化をつくる8視点」の日本の学校教育への適用可能性

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "「思考する文化をつくる8視点」の日本の学校教育への適用可能性"

Copied!
16
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

!

教育メディア研究 Vol.27, No2, 27-42

!

「思考する文化をつくる8視点」の日本の学校教育への適用可能性

!

小 島 亜 華 里(関 西 大 学 大 学 院) 黒 上 晴 夫(関 西 大 学)

!

本研究の目的は,Ritchhartが提案する「思考する文化をつくる8視点」が,思考力育成を目指し た実践に取り組む日本の熟達教師の学級において,講じられている手立てと対応づけることができ るのか検討することである。対応を検討することにより,「思考する文化をつくる8視点」の日本の 学校教育への適用可能性を考察する。分析の結果,8視点すべてについて対応づけられる手立てが 確認され,日本の学校教育においても,「思考する文化をつくる8視点」が適用できることの一端 が見られた。また,分析対象とした学級では,8視点に対応しない手立てが確認された。その結果, 日本の学校教育に取り入れるためには,「学習に対するメタ認知の促進」という新たな視点を追加 する必要性が示唆された。

!

  キーワード:思考力育成,思考の情意的側面,思考する文化,学級文化,小学校

!

1. 研究の背景 1.1. 思考力育成の実践研究の成果と課題 これまで学校教育における思考力の育成を 目指した実践的な研究では,思考スキルや思 考技法と呼ばれる思考の認知的側面が着目さ れてきた(西郷 1996,黒上 2007)。「考え る」という言葉を「比較する」「多面的にみ る」というように具体化して捉えることで, 指導・評価することを可能にしたのである (泰山ほか 2014)。 一方で,思考力には知識や技能といった認 知的側面と態度や傾向性といった情意的側面 がある(Ennis 1987)。認知的側面と情意的 側面の関係性について,Wade(1997)は, スキルだけでなく,スキルを活用しようとす る態度を同時に持つことが重要であると指摘 している。つまり,思考力の育成においては 思考の認知的側面だけでなく情意的側面への アプローチが必要であると考えられる。 思考の情意的側面は,スキルの習得によっ て必ずしも保証されるわけではない(Resnick 1 9 8 7 ) 。 思 考 の 情 意 的 側 面 を 思 考 の 習 慣 (habits of mind)として整理したMarzano (1992)は,意識的で明示的な指導の必要性 を指摘している。Marzanoが提案する指導方 法は,特定の学習活動を通して伝達し,内面 化させるという知識伝達型のものである。一 方,Perkins and Tishman(1993)は,思考 態度は,思考スキルのように直接的に教えて 指導することはできないと指摘し,思考の情 意的側面を単なる個人の属性として捉えるの ではなく,社会集団が共有している文化の表 れとして捉える必要があるという。

!

1.2. 思考の情意的側面の指導

Tishman and Perkins(1993)によると, 思考の情意的側面を捉えるには,指導につい てのメンタルモデルを変える必要があるとい う。Tishmanらは,従来の指導の多くは,教 師が持っている知識を学習者へ伝えることを 想定した伝達モデル(transmission model) であるとし,伝達モデルには非生産的な態度 を形成してしまう可能性があることを指摘し ている。その例として,黙って席に座り,試 験のために知識を受け取るという構造が成立 している学級では,学習者は受動的に情報を 受け取ろうとし,自ら情報を探し出そうとは しないことを挙げている。人は環境や状況に 触発されながら活動し,その過程で学習す る。そうした考えのもと,Tishmanらは,学 研究論文

(2)

級の環境全体を捉え直す必要があるとして, 文化化モデル(enculturation model)への転 換を提起した。伝達モデルでは,教師は教え たい内容や伝え方を工夫することが求められ るのに対し,文化化モデルでは,学級に存在 する文化を潜在的カリキュラム1)と捉え,思 考を尊重する学級文化を創出することが求め られる。

!

1.3. 学級に思考する文化をつくる Tishmanらの研究をもとに,Ritchhart (2007)は,博物館のグループツアーにおい て,集団的な思考と個人的な思考が価値づけ られたり,可視化されたり,促されたりして いることに着目し,そうした思考する文化 (culture of thinking)が,どのようにしてつ くり出されているのか,あらゆる校種や学年 のグループツアーを調査した。そうして得ら れた知見をもとに,Ritchhart(2015)は, 学校教育における教師の手立てとして,「思 考する文化をつくる8視点」を提案している (表1)。この8視点は,思考の情意的側面 にアプローチするための方法として教育実践に 取り入れられている(Salmon 2016, Heredia 2017)。 それは,思考力育成が求められる日本の学 校教育にとっても有用な視点となり得ると考 えられる。学習指導要領では,主体的・対話 的で深い学びの実現に向けた授業改善を通し て,児童の思考力を含めた資質・能力を育む ことが求められている(文部科学省 2017)。 道田(2019)は,思考力育成は,特定の教材 や方法論だけで成り立つのではなく,学級の 文化的な側面が思考力育成の基礎として重要 であると指摘している。このように学級に思 考する文化をつくる方法に着目することは, 授業改善の視点として,主体的・対話的で深 い学びの実現に寄与できるのではないだろう か。 しかし,Ritchhartが分析の対象としたの は,欧米の学級である。そうして抽出された 8視点は,文化的背景や教育制度が異なる日 本の学級2)においても,同様のはたらきを見 出すことができるのだろうか。思考力育成を 目指している日本の学級において講じられて いる手立てが,8視点と対応づけることがで きるのか検討する必要がある。 本研究では,望ましい思考態度を学習者に 伝達するためのメディアとして,学級文化に 着目する。教育メディア研究では,メディア を 「 中 間 に あ って 作 用 す る も の 」 と して 捉 え,それを顕在化させることでメディア概念 を拡張し,より大きな枠組みで捉え直すこと の必要性が指摘されている(久保田 2012)。 このことから,本研究は教育メディア研究と 位置付けられる。 表1 思考する文化をつくる8視点(Ritchhart 2015)

(3)

2. 目的と方法 2.1. 研究の目的 本研究の目的は,Ritchhartが提案する「思 考する文化をつくる8視点」が,思考力育成 を目指した実践に取り組む日本の熟達教師の 学級において講じられている手立てと,対応 づけることができるのか検討することであ る。本研究では,「思考する文化をつくる8 視点」が日本の学級で講じられている手立て と対応づけられることを,適用可能であると 定義する。

!

2.2. 研究の方法 2.2.1. 調査の方法と対象 学級の参与観察による調査を行い,対象と する授業をレコーダーや写真,フィールドノー トに記録する。 対象とするのは,思考力育成を目指した実 践に取り組む日本の学級である。学級は,私 立小学校第6学年の児童数30名の学級であ る。学校は,思考力の育成を研究主題として おり,研究者とともに研究と実践を重ねなが ら思考力育成を目指したカリキュラムづくり に取り組んでいる。学級の担任教諭は公立校 での指導経験もある教員歴35年以上のベテラ ン教諭であり,学級づくりにおいても熟達し ていると考えられる。また,校内の研究開発 の中心的な存在であり,思考を促すことへの 関心が高い。以上の点から,分析対象として 適切であると判断した。 本研究は,学級文化がある程度形成されて いると考えられる,学年の後期の時期を対象 とした。分析したのは,国語の授業6回(4時 間51分)である。内容としては,説明的な文 章の教材を扱う単元にあたる。この単元は児 童に思考させる場面が多く,「思考する文化 をつくる8視点」の適用可能性を検討するた めの分析対象として適切であると考えた。ま た,教師は学習の目標や目的に応じて,必要 な手立てを講じると考えられる。本研究で は,思考の情意的側面にアプローチするため の方法として提案された「思考する文化をつ くる8視点」が,思考力育成を目指した実践 に取り組む日本の熟達教師の学級において, 講じられている手立てと対応づけることがで きるのか検討することを目的としているた め,学習のひとまとまりである単元を対象に することで,様々な手立てを確認することが できると考えた。

!

2.2.2. 分析の視点 分析の視点とするのは,Ritchhartの「思考 する文化をつくる8視点」である(表1)。8 視点が「思考する文化」にどのように寄与す ると考えられているのか,視点ごとに説明す る。 期待(expectation)は,学習の到達目標 や目的,必要とされる思考を示すことで,学 習において何が期待されているのかを明らか にすることであると定義されている。つま り,教師が学習者に何を期待しているのかを 示すことである。 Ritchhartによると,思考する文化をつくる ために役立つ期待というのは,学習すべきこ との本質を描き出し,それを定義し,達成す るためにはどのように思考することが必要か を示すものである。また,教師と学習者が期 待を共有することで,挑戦や失敗もまた学習 の機会として受け入れられるようになると説 明している。 機会(opportunity)は,思考を深めるこ とができる課題によって,探究的な活動を創 り出し,期待が求める思考の機会を保証する ことであると定義されている。 Ritchhartは,間違っている可能性があって も,自分が思考したことを話すことができる か,異なる見方は受け入れられるか,そうし たことが保証された学習の機会が与えられる と,誰もが話しやすくなり,できるところま でやれると感じるので,学習成果は際限なく 広がると指摘している。またそれは,自分の 知識や技能を初めて出会う場面に当てはめ, 新たなことを理解する機会でもあり,機会は 期待の実現の場となって,学習者は学ぶ価値 を感じることができると説明している。 時間(time)は,探究するための時間と,

(4)

質問に回答したり,質疑応答について熟考す るための時間を与えることであると定義され ている。 Ritchhartは,思考する時間を与えることで 学習者は学習に意欲的に取り組むようにな り,目標達成までの時間も短くなると説明し ている。その例として,話し合いをする際, 最初から話し始めるのではなく,事前に視点 を 与 えて アイ デ ア を 書 き 出 す 時 間 を 与 え た り,話し合いを止めて何を学んだかをまとめ る時間を持つことで,目標を達成しやすくな ることを挙げている。 そうした探究するための時間に加え,尋ね られた質問に返答するための時間を与えるこ ともまた,重要であると指摘している。学習 者が回答を受け取った後,学習者に熟考する 時間を与え,教師は待つ必要があると説明し ている。 モデリング(modeling)は,教師自身が思 考する人のモデルとなり,自分の思考のプロ セスを共有し,議論し,可視化することによ って,モデルを示すことであると定義されて いる。 Ritchhartは,思考する文化をつくることに おいて,モデリングは単なる演示ではなく, 日常に埋め込まれているものであり,深く思 考し学ぶことができる人をモデルとすること が重要であると説明している。例として,教 師がトピックについて情熱を持っているか, 思考することを面白いと思っているかといっ たことが伝わってしまうものであることを挙 げ,教師自身がリスクテイクすることや思慮 深いこと,内省的であること,失敗や間違い から学ぼうとすることは特に重要であると指 摘している。 言葉(language)は,言葉を多面的な見方 に開かれたものとして,使用する言葉の意味 を共有したり,活動の概念を言葉によって共 有することであると定義されている。 言葉を多面的な見方に開かれたものとして 扱う重要性について,Ritchhartは,言葉は思 考を形づくるものであり,絶対的な言葉のも とでは,自分が経験したり思考したりしたこ とが権威者のものと違っている際に,自分を 疑ってしまう危険性があると指摘している。 また,教師はさまざまな学習の文脈におい て,学習者の活動やその背景にある思考に気 づき,言葉を通してそれを認識させる必要が あると指摘している。そうすることで,学習 者は学習の中で,大事な概念や活動に注意を 向けることができると説明している。 環境(environment)は,継続的に思考の 価値を確認し,協同的に探究することを通し て,思考したことをやり取りできる場をつく ることであると定義されている。 Ritchhartは,教室にある物の配置は,学習 者 に どのよ う な 活 動 を 期 待 して い る か を 表 し,壁の掲示物は教師やリーダーが何を大事 と考え,何をモデルにしたいかを表すもので あることを指摘し,多様な学習活動に応じた 空間的環境を用意する必要があると説明して いる。 相互作用(interaction)は,学習者の思考 に対する敬意と興味を持って,意見を聞き, 問いかけ,そのやり取りにおいてどのような 思考が尊重されるのかを伝えることであると 定義されている。 Ritchhartは,学習者の意見を聞き,問いか けることは,活発で意味のある協働を生み出 すことの基本であると指摘している。人の意 見をよく聞き,評価し,自分の意見と繋げ, 自分が思考したことを人に伝えることで理解 は深まるものであり,何かを伝えることで質 問の余地が生まれること,伝える時には根拠 や理由を示さなければならないことを知ると いう点において大切であると説明している。 思考ルーチン(thinking routines)は,学 習のために,生涯において習慣化されるべき 思考方略を手順化し,活用させることである と定義されている。 思考ルーチンは思考の手順を形式化したも ので,手順は思考の流れに沿って一つ前の思 考を発展させることで学習者の思考を構造化 するものであり,思考を整理するためのもの や,思考を掘り下げるためのものなど複数あ ると説明している。そして,特定の思考方略

(5)

やプロセスに名前を付け,概念化すること で,ツールとして自覚的に使うことができる ようにすることが重要であると指摘してい る。また,思考ルーチンはさまざまな文脈に おいて,何度も繰り返し使うことで,次第に 本当のルーチン,つまり行動パターンになっ ていくことを期待するものであると説明して いる。 Ritchhartは,これらの視点を持って授業を 展開し,学級を運営することで思考する学級 文化をつくることができると考えている。

!

2.2.3. 分析の手順 分析の手順について,図1をもとに説明す る。分析対象としたデータには通し番号を付 与し,①に示す。収集したデータをもとに, 発言や行動を授業の時系列に沿って書き起こ し,③に示す。その発言や行動の主体は②に 示す。T:は教師の発話,S:は児童の発話,() 内には行動を記述する。授業でどのような手 立てが講じられていたかを捉えるために,学 習活動のまとまり(以下,学習場面)に分節 化し,④に示す。そして,それぞれの学習場 面における教師の手立てが「思考する文化を つくる8視点」と対応づけることができるか 検討した結果を⑤に示す。授業中の学習場面 は教師のさまざまな手立てによって成立して いるため,ひとつの学習場面に複数の視点が 対応することもある。学習場面における教師 の手立てと「思考する文化をつくる8視点」 の対応づけは第一筆者が行い,その結果を第 二筆者と議論し確認する。

!

3. 結果と考察 3.1.  「思考する文化をつくる8視点」の適 用可能性 収集したデータをもとに授業を分節化した ところ,75に分けられた。確認された学習場 面の種類は次の12である。学習目標の共有場 面,作業課題の共有場面,課題設定場面,時 間設定場面,用語の確認場面,個人作業場 面,協同学習場面,全体共有場面,評価場 面,教材活用場面,振り返る場面,学習を価 値づける場面。(以下,学習場面を説明する 際には, をつけて表記する。) 分析の結果,「思考する文化をつくる8視 点」はすべて,対象とする学級で講じられて いる手立てと対応づけることができた。それ ぞれの視点について,どのような手立てが対 応づけられたのか事例をもとに説明し,「思 考する文化をつくる8視点」の日本の学校教育 への適用可能性を考察する。 どのように学習場面を捉え,8視点を対応 づけたのか分かるよう,事例1については分 析手続きに従って事例を示し,学習場面とそ の場面における教師の手立て,それに対応づ けられた8視点を一覧で示す(表2)。な お,紙面の都合上,他の事例については教師 と児童のやりとりのみを示す。 [期待] 期待という視点は,学習の到達目標や目 的,必要とされる思考を示すことで,学習に おいて何が期待されているのかを明らかにす ることである。 この視点は,授業や単元における 学習目標 の共有場面 と,目標を達成するために必要と なる具体的な 作業課題の共有場面 において 確認することができた。 例えば,事例1の86∼107は,単元の目標 と各授業での学習目標が示された単元の学習 計 画 案 を 共 有 し , 本 時 の め あ て を 確 認 す る, 学習目標の共有場面 である。各授業の 学習目標を明確に示すことで,単元の目標達 成に向けてどのような学習が期待されるのか 共有していることから,期待に対応する。 図1 分析の手順

(6)
(7)

事例1では,102∼119は,学習目標を達成 するために,何をしなければならないか,児 童の意見をもとに目標を具体化する 作業課題 の共有場面 である。教師の手立てとして,ま ず, 「 め あて 」 と して 提 示 し た 「 序 論 ・ 本 論・結論の三部構成をおさえ,構成上の工夫 をまとめよう」という学習目標を確認し,達 成するために必要な学習活動を問いかけ,児 童に考えさせている。そして児童の意見をも とに,期待する思考を明確にし,学級全体で 共有していることから,期待に対応する。 分析対象とした学級では,授業ごとに学習 の目標や目的を共有し,そのプロセスで求め られる思考方略をルーブリックに明記すると いう手立てによって,期待する思考を明らか にしていた。 日本の学校では,「めあて」を示すなど, 学習目標を授業の初めに示すことは珍しくな い。その目標の中に,学習の目標や目的だけ でなく,学習で必要とされる思考方略を明示 することで,期待する思考を明らかにすると いう視点は適用可能なのではないかと考えら れる。

!

<事例2>

!

[機会] 機会という視点は,思考を深めることがで きる課題によって,探究的な活動を創り出 し,期待が求める思考の機会を保証すること である。 分析の結果, 学習目標の共有場面 や 作業 課題の共有場面 に加えて,自ら学習課題を見 つけ出す 課題設定場面 において,期待が明 らかにされたことにより,それを実現する場 と して , 個 人 作 業 場 面 , 協 同 学 習 場 面 , 全体共有場面 が与えられ,思考する機 会を保証していることが確認できた。 例えば,事例2は,この教材を通してどの ようなことを学びたいか,自分が探究したい 課題を一人ひとりに設定させる, 課題設定場 面 である。自分の興味・関心をもとに,学習 する目的を考えさせることで,探究的な学習 の足場がけをしていることから,機会に対応 すると考えられる。 分析対象とした学級では,学習課題を教師 こと,『鳥獣戯画を読む』を通してどんな こ とを 勉 強 して い き た い の か って ゆ う こ と,それまで考えられたらいい 40 T: 少なくともこれやね,課題を発見する 41 T: 今から時間を8分間あげます。11時5分ま での間に1つ,追究したい課題を見つけ る。いいですか? はいじゃあどうぞ。 42 T: (タイマーを設定する) 43 T: (机間巡視する) 44 S1: (席を立ち,教室棚の上にあるシンキング ツールの用紙を取りに行く) 表2 学習場面と8つの視点の対応づけの例 39 T: まずこの『鳥獣戯画を読む』の中で,みん なともっと深めていきたいな,追究したい なという課題を見つけましょう。で,なん で追究したいのかってゆう,その理由もち ゃんと書きましょう。さらに,Sの人(S基 準を目指す人)は,これを通して学びたい

(8)

から一方的に示すのではなく,児童が主体的 に考えるよう促したり,探究したい課題を自 ら設定させたりするという手立てによって, 思考する機会が保証されていた。そのための 時間を設定したり,思考するための道具とし てシンキングツールを教室に用意しておくこ ともまた,児童が思考する機会を教師が保証 する手立てと捉えることができる。 先述した通り,日本の学校では「めあて」 の提示が一般的であるので,「めあて」を児 童に主体的に考えさせたり,児童と共同的に つくり,設定することで,思考する機会を保 証する視点は適用可能なのではないかと考え られる。 [時間] 時間という視点は,探究するための時間 と,質問に回答したり,質疑応答について熟 考するための時間を与えることである。 この視点は,思考するための時間を教師が 設定する 時間設定場面 と児童が課題に取り 組む 個人作業場面 , 協同学習場面 , 全体 共有場面 において確認できた。 例えば,事例1の120∼123は,作業にどれ だけ時間が必要かを児童に考えさせ,その意 見をもとに教師が制限時間としてタイマーを 設定する, 時間設定場面 である。思考する ための時間を設定し,児童にそれを意識させ ていることから,時間に対応する。 事例1では,他にも,119∼125が,文章を 段落ごとに読み取り,見出しをつくるという 学習活動にグループで取り組む 協同学習場 面 である。段落を読み取り,見出しをつくる ための時間として,教師が7分という制限時 間を設定し,与えている。これは問いについ て思考する時間であると考えられることか ら,時間に対応する。 一方,事例3は,直前のグループでの議論 でまとまらなかったトピックについて,学級 全体で議論する 全体共有場面 である。異な る意見があることを明確にし,議論させるこ とにより学級全体で思考を深めている。児童 は,段落はどこで区切られるかという問いに 対する答えとして,個々の意見を聞き,その 意見について思考する時間が与えられている ことから,時間と対応すると考えられる。こ の場面では,学級全体で議論する時間を与え るという手立てにより,一人ひとりの児童が 問いの答えについて思考することが促されて いた。 今回の分析では, 個人作業場面 , 協同学 習場面 , 全体共有場面 において,問いにつ いて思考する時間と,問いに対する答えにつ いて思考する時間が与えられていることが確 認できた。 分析対象とした学級では,個人やグループ で思考するための時間が,問いについて思考 する時間として与えられ,学級全体で共有す る場面が,問いに対する答えについて思考す る時間として与えられていた。 日本では授業づくりにおいて,個,グルー プ,全体のそれぞれの活動が意識的に取り入 れられることが多い。そうした土壌があるこ とから,適用できるのではないかと考えられ る。

!

<事例3> 219 T: じゃあちょっと意見を聞きますよ まず立場ね。二つ出てきたとこもあると思 うけど,ここで切れると思う班? 220 T: 2(段落)と3(段落)で切れないと思う 人? だれか意見言える人いる? 221 S1: えっと,たぶん,筆者の解説と解釈と説明 が1で,2が鳥獣戯画の絵についての説明 と感想で,3から鳥獣戯画の絵巻物の出典 と特徴についての印象とか,鳥獣戯画とは 何かとかそういうことが話されているから, 本題は3からだと思います 222 T: 本題は3からではないか ほかに? はい,どんどん言って 223 S: (数名が挙手する) 224 T: はい,S2さん 225 S2: 3段落の終わりが「ページをめくってごら ん」で,4段落の一番最初が,「どうだ い」で始まっているから,3と4は書いて いることが同じで繋がっていると思う 226 T: ここに結構着目してたね ここ(2段落目と3段落目の間)で切れる と思った人は

(9)

!

[言葉] 言葉という視点は,言葉を多面的な見方に 開かれたものとして,使用する言葉の意味を 共有したり,活動の概念を言葉によって共有 することである。 この視点は,授業内で使われる言葉に留意 し,その言葉が意味するところを学級全体で 共有する, 用語の確認場面 において確認す ることができた。 例えば事例1の94∼101は,学習目標であ る,本時のめあての「構成」という言葉の意 味を確認する 用語の確認場面 である。教師 が言葉の意味を問いかけ,児童に他の表現に 言い換えさせることで,学級全体で言葉の意 味を共有していることから,言葉に対応する と考えられる。 また,事例4は,段落を要約した表現につ いて,特定の班の児童が出した案をもとに, 学 級 全 体 で 検 討 し , 共 有 す る 全 体 共 有 場 面 の一部である。ここでは,「解説」という 言葉が適切かどうか教師が全体に問いかけ, 児童は言葉の意味を辞書で調べて確認する。 辞書に出てきた用語をさらに調べ,本文を読 み返すことで,どの言葉が適切であるか,学 級全体で検討していることから,言葉に対応 すると考えられる。この後,「解説」「解 釈」「説明」など,どんな言葉が適切だと思 うか,意見を述べ議論する中で,本文には感 想が書かれているのに,どの言葉にも「感 想」という意味合いがないことに気づく。用 語の整合性や妥当性を学級全体で検討すると いう手立てによって,教材を読み直したり, 自分とは異なる意見を知る機会が生まれ,新 たな視点に気づくことができたと考えられ る。

!

<事例4>

!

事例のように,学習で扱う言葉に限らず, 児童の発言の中で使われた言葉についても, 意味を共有するために他の児童や教師との問 答を通して学級全体で言葉の意味の整合性や 妥当性を確認する様子が確認できた。 対象とした学校では,授業で使用される言 葉について,教師が一方的に説明したり,単 に辞書で確認するだけでなく,学級全体での 意 見 交 流 を 通 して 言 葉 の 意 味 を 共 有 して い た。 単に言葉と意味を対応づけるのではなく, 文脈の中で適切な言葉を検討したり,言葉が 持つ多義性に気をつけるという状況は,個別 の学習より学級での学習を中心とする日本の 授業では生み出しやすい。このことから,適 用できるのではないかと考えられる。 [モデリング] モデリングという視点は,教師自身が思考 する人のモデルとなり,自分の思考のプロセ スを共有し,議論し,可視化して,モデルを 示すことである。 この視点は, 用語の確認場面 と児童の学 習態度や学習方法を望ましいもの/望ましくな いものとして示す 評価場面 において確認で きた。 用語の確認場面 は,教師自身が授業で扱 う言葉に敏感になって,丁寧に扱うことで, 言葉に対して慎重になるという学習態度のモ デルを教師が示している。 一方, 評価場面 では,教師が望ましいと 判断した児童の学習態度や学習方法につい て,どの点が良いか指摘して評価し,共有す 227 S: (S2と数名の児童がうなずく) 228 T: いや,違うよってゆう人? 130 T: ではまず1段落目,「筆者の絵の解説」 「解説」ってこの言葉でいいですか? 意見 ください 131 T: 解説ってなんですか?はい,辞書ひいて 132 T: (挙手したS7を指名する) 133 S7: (辞書に書かれた文を読む) 134 T: 解釈ってなに?辞書で引いて 135 T: (挙手したS8を指名する) 136 S8: (辞書に書かれた文を読む) 137 T: どう?これ(解説)よりはしっくりくる? もうちょっといい言葉はない? 138 T: ちょっとS9さん,1段落目読んでくれる? みんなよく聞いといて 139 S9: (1段落目の本文を読む) 140 T: どう?どの言葉が良いと思う?

(10)

ることで,優秀児童をモデルとする。また, 望ましくない学習態度や学習方法の例を指摘 し,何がどうして望ましくないのか共有する ことで,望ましくない児童のモデルを示す。 例えば,事例5は,一人の児童のノートを 良い事例として学級全体で共有しながら,次 の学習に繋がる振り返りを書くことや,自分 が思考したことを人に伝えようとすることが 望ましいことを伝えている。 分析対象とした学級では,モデルとなるの は教師だけでなく,児童もモデルとして示さ れていた。児童がモデルとなる場合,望まし いモデルとしてだけでなく,望ましくないモ デルとしても,具体的な事例として示されて いた。 教師自身が問題を解決したり,解を導いた りする姿を意識的に児童に見せるということ は,教師が日頃から問題解決のプロセスを意 識的に明示することで,日本においても適用 可能なのではないかと考えられる。また,教 師だけでなく児童をモデルにするということ については,日本の学校に特有のこととして 捉えることができるかもしれない。

!

<事例5> [相互作用] 相互作用という視点は,学習者の思考に対 する敬意と興味を持って,意見を聞き,問い かけ,そのやり取りにおいてどのような思考 が尊重されるのかを伝えることである。 この視点は,グループで議論し意見をまと める 協同学習場面 と,一つのトピックにつ いて意見を出し合い,学級全体で議論する 全 体共有場面 において確認できた。 例えば,事例3は,教材の文章構成を捉え るために,意味段落で分けるとするとどこで 区切られるかについて,学級全体で議論する 場面である。教師の進行のもと,児童は自分 の意見を発表し,それを聞いている他の児童 がまた,それに対する自分の意見を述べ,学 級全体で思考を深めている。 他にも 全体共有場面 では,教師は話し合 う目的や視点を示し,児童の意見に対して問 いかけたり,議論の内容を板書で視覚化する などして議論をファシリテートしていた。 分析対象とした学級では,個人の思考を深 めるためにグループで議論したり,教師のフ ァシリテートのもと学級全体で議論すること が,協同的に探究したり,思考したことをや り取りする場となっていた。 日本では,特に小学校において,学級全体 で話し合う場面が多い。授業では,「話し合 い」や「交流」という言葉もよく使われる。 思考したことをもとに思考する場として設定 することで,思考する文化をつくる手立てと して,適用できると考えられる。 [環境] 環境という視点は,座談,相談,発表,討 論,協同など,活動に応じた空間的環境を用 意し,そこでどのような思考が尊重されるの かを伝えることである。 この視点は,机やICT機器,シンキングツー ルといった学習に必要な道具を使用する 教材 活用場面 において確認された。 例えば,事例2では,課題を設定する学習 活動の際に,児童が自主的にシンキングツー ルが描かれた用紙を取りに行っている。シン キングツールが教室内に常に設置されている 305 T: ノートをちょっと見てください 306 T: ノートがね,だいぶ良くなったんよ みんな非常に良くなったんよ 307 T: これSさんのなんやけど 308 T: (Sさんのノートを実物投影機で提示) 309 T: みんなこんなふうに授業中のメモはよく書 けてる 今度は振り返りの中身なんよ 中身も非常によく書けている人もいるんや けど 先生昨日いいなあって思ったのは,Sさんが ね,こう書いてる 310 T: 「文章の構成を抑えることは少しむずかし かった。序論と本論の分け方は文章の表現 で分けるのか,内容で分けるのかが難しか ったけれど,その表現に工夫が隠されてい るのかなと思った」 311 T: つまり分けづらかったってゆう部分は自分 にはあったんだけど,そういうとこに筆者 の工夫みたいなもんが隠されているんじゃ ないかなって思ったってことやな 次の時間のめあてに関係するような振り返 りを書いてるんやね

(11)

ことで,様々な場面で活用できることや,必 要に応じて活用して良いというメッセージが 伝えられていると考えられる。 ま た , 事 例 5 で は , 望 ま し い モ デル と し て,優秀児童のノートを実物投影機を使って 学級全体で共有している。実物投影機によっ て,学級全体に対して即時的に具体的なモデ ルや事例が示されている。 他にも,グループで活動する際のグループ メンバーは基本的に座席の近い者で構成さ れ,机の向きを変えるなどして適宜活動しや すい形態にしているのが確認できた。また, 教師も児童も学習の目的に応じて適宜道具や 空間を活用している様子が確認できた。 日本では,一つの授業時間内に個人,グル ープ,学級全体の活動が組み込まれることが 多い。そうすると,学習形態に合わせて何度 も場所を変えることは難しい。一方,学校内 に は 図 書 室 や オープ ン スペ ース , 体 育 館 な ど,多様な学習空間が用意されている。すべ ての活動に応じるのではなく,特に重視した い学習活動に応じて空間を選定することで, 尊重される思考を伝えることができるのでは ないだろうか。 教室内に設置する道具については,日本で も注意が払われてきた。しかし,道具の活用 については教師が指定したり,教師の承諾の もと活用させることが多い。児童に選択的に 活用させる環境づくりが,思考する文化をつ くる手立てと考えられる。 [思考ルーチン] 思考ルーチンという視点は,学習のため に,生涯において習慣化されるべき思考方略 を手順化し,活用させることである。 分析の対象とした学級では,思考ルーチン を導入していないので活用する場面はない。 しかし,小学校段階において,多くの学習場 面で求められると考えられる思考スキルと特 定のシンキングツールを対応づけ,使い方や 使う目的を定義して指導している。思考を可 視化するためだけでなく,思考する方法を手 順化し,名前を付け,それを学級全体で共有 しているという点において,思考ルーチンと 同等の役割を果たすものであると考えられ る。 この視点は,児童が個人で課題に向けて作 業する, 個人作業場面 において確認でき た。例えば,事例2では,教材を通して探究 したい課題を見つける際に,児童がシンキン グツールを活用している。他に,単元のまと めの段階では,「表現と構成の工夫をまとめ よう」という課題に個人で取り組む際に,シ ンキングツールを活用する児童の姿が確認で きた。いずれも,教師が指示するのではな く,児童が自主的に活用しており,これまで にシンキングツールを使う方法や目的が共有 されているからこそ,そうした姿が確認でき たのだと考えられる。 対象とした学級では,思考スキルと対応づ け,使い方や使う目的を定義したシンキング ツールもまた,思考方略を手順化したもので あり,思考方略を指導し活用するための手立 てとして,思考ルーチンと同様の役割を果た す可能性があることがわかった。 思考スキルやシンキングツールの活用は, 初等教育を中心に日本の教育現場に広がって いるため,思考ルーチンに対応するものとし て適用可能であると考えられる。他にも,日 本では特に小学校において,話すときや話を 聞くときの留意点を話型などによって形式化 し,教室に掲示していることが珍しくない。 また,学習における話し合いの方法を手順化 したり類型化したりしていることもある。そ うしたものも思考ルーチンと同様の働きを持 つものとして捉えることができる。 [新たな視点] 分析の対象とした学級には,8視点だけで は説明できない教師の手立てが確認できた。 本時の学習についての 振り返り場面 と前時 の学習に関する 振り返り場面 , 学習の価値 づけ場面 である。 例えば,事例6は,授業の最後に,その授 業の到達目標が書かれたルーブリックを参考 にしながら自らの学習を振り返らせ,学習し たことや気づいたことを記述させている。授 業を通して何を学習したのかを振り返ること

(12)

で,児童は自分の学習活動をメタ認知するこ とになる。また,事例5では,振り返りに次 の学習に繋がる事柄が書かれることが評価さ れていることから,単元における自分の学習 状況をメタ認知させている。自分の学習をメ タ認知させる活動では,自分の思考プロセス をコントロールしたり,モニタリングしたり することが求められるという点において,思 考を促す視点として重要であると考えられ る。しかし,「思考する文化をつくる8視 点」のいずれの視点にも当てはめることがで きなかった。

!

<事例6>

!

他にも,事例7では,授業が始まる前に, 教師が前時の終了時の板書を再現して準備し ている。授業の最初に,再現した板書をもと に前時にどのような学習をしたのか振り返 り,どのような議論をしたのか想起させてい る。単に直前の授業で何をしたかを想起させ るだけでなく,学習の全体像と目の前の活動 の関係を明示することで,これまでに学習し たことと今日の授業との繋がりを明らかにし ていることがわかった。 日本の小学校は欧米と比べて教科等の種類 が多く,細分化されている。各々の授業にお ける学習の目的や活動の流れは,児童の意識 の中で途切れやすいといえる。前時の振り返 りを通して,学習の全体像と目の前の活動の 関係を明示することは,児童に自分の学習を メタ認知させるための手立てとして捉えるこ とができる。それは,目の前の作業が目的化 しないようにするという点においても重要で ある。しかし,「思考する文化をつくる8視 点」のいずれの視点にも当てはめることはで きなかった。 ま た , 事 例 8 は , ル ー ブ リ ッ ク の S (Super)基準として提案された「自分たちの (総合的な学習の)プロジェクトにどう生か すか考える」という児童の意見を評価し,学 習したことを他の学習や生活に活かそうとす ることの難しさと重要性を指摘している。学 習したことの汎用性を意識させることで,思 考する価値を共有していると捉えることがで きる。 日本の学校は教科等の種類が多いことで, 教科を超えたダイナミックな展開が難しく, 学習したことが教科の中に収まってしまいや すいと言える。しかし,それでは思考する価 値も教科の中に限定されてしまう。思考する ことの価値や学習することの意義を捉えるた めにも,学習したこと同士や,学習内容と生 活や社会を繋ぎ,学習したことの汎用性を意 識させることが,思考する文化をつくる手立 てとして重要であると考えられる。しかし, 「思考する文化をつくる8視点」のいずれの 視点にも当てはめることはできなかった。

!

<事例7> 298 T: ここまで書いたら振り返りしてノート提出 して終了 299 T: 今から5分でふりかえり 300 T: (タイマーセットする) 301 S: (4名が付箋を取りに行く) 302 T: 表面上の言葉じゃなくて自分の言葉で書く 186 T: 金曜日からやってるのは,序論・本論・結 論の三部構成をまずおさえて構成上の工夫 をまとめていこうっていうのが,みんなの 課題でした 187 T: まず,序論・本論・結論の構成をおさえよう っていうので,形式段落をおさえて,それぞ れがどんなことを書いているのかっていうの をまとめました ここまでいい? 188 T: で,1(段落目)から順に検証していってるの がこの段階ね 189 T: 1(段落目)では,「筆者の絵の解説,解釈, 説明」という意見が出たんですが,先生の ほうから「描写」という言葉を提案しまし た 190 T: この言葉に納得してない様子の人もいたけ ど,他に何かいい言葉はみつかりました か? とりあえずこの言葉でいいですか? いいですか?ちゃんと反応してください 191 S: (複数名が答える)いいと思います 192 T: 2段落目は,「鳥獣戯画の絵についての説 明と感想」となっています 193 T: ここでは,Yくんが文末表現に着目して 「思えない」という表現を見つけてくれま した あれって読み取りのときにすごく大事ですね だからこの言葉「感想」が出てきました

(13)

「思考する文化をつくる8視点」で捉える ことができない手立てとして,(1)自分の学習 を振り返らせること,(2)学習の全体像と目の 前の活動の関係を明示すること,(3)学習した ことの汎用性を意識させることの3つが確認 できた。いずれの手立ても,思考したことや 学習したことを児童がメタ認知的に捉えると いう点において,思考する文化をつくるため に重要であると考えられる。 以上のことから,日本の学校教育の中で思 考する文化を形成するためには,Ritchhartが 提案する8つの視点に加え,「学習に対する メタ認知の促進」という新たな視点が必要で あることが示唆された。

!

<事例8>

!

3.2. まとめ 思考力育成を目指した実践に取り組む日本 の学級を対象に,教師の手立てを分析し, 「思考する文化をつくる8視点」との対応を 検討した結果,8視点全てが対応し,新たな 視点の必要性が示唆された。それぞれの視点 に対応づけられた手立てを類型化したものが 表3である。今回の分析の結果から,日本の 学校教育においても,「思考する文化をつく る8視点」が適用できることの一端が見られ た。 また,日本の学校教育の中には,8視点に 対応しない手立てがあることが確認された。 「思考する文化をつくる8視点」で捉えるこ とができなかったのは,いずれも思考したこ とや学習したことを児童がメタ認知的に捉え るための手立てであった。日本の学校教育に 297 T: 自分の活動に生かす こういうとこ生かせるんじゃないかなって いう かなりこれ高度よね? 国語で学んだことが国語から離れてほかのと 関連付けるってことだから でもこれが本当の勉強だと思うのよ 一生国語だけやってるわけじゃないんだから 普段の生活の中で,学んだことがどう生か せるかってことを考えることが大事 291 T: S(基準)が考えられる人いる? アイデアある人いる? 292 S8: (挙手する) 293 T: (S8を指差す) 294 S8: 工夫を元に,自分たちのプロジェクトにど う生かすか考える 295 T: 自分たちのどういうところに生かせるかっ てことか どう?いいかもね? 296 T: (S基準として「自分の活動に生かす」と板 書する) 表3 教師の手立ての類型

(14)

おいて,思考する文化をつくるためには, Ritchhartの8つの視点に加え,「学習に対す るメタ認知の促進」という新たな視点を追加 する必要性が示唆された。 本研究は,「思考する文化をつくる8視 点」が,思考力育成を目指した実践に取り組 む日本の熟達教師の学級において講じられて いる手立てと,対応づけることができるのか 検討し,「思考する文化をつくる8視点」の日 本の学校教育への適用可能性を考察した。こ れまでに整理されている8つの視点に新たな 視点を加えた,9つの視点が日本の学校教育 において,「思考する文化をつくる」ための 視点となり得ることが示唆された。

!

4. 課題と展望 本研究は,一つの事例を対象に分析するこ とで,「思考する文化をつくる8視点」が日 本の学校に適用可能であることと,新たに視 点を追加する必要性を示した。しかし,本研 究の調査において確認された手立てが,対象 とした学級で偶発的に出現したものである可 能性も考えられる。今後,調査対象を広げ, 新たな視点を加えた9つの視点をもとに,学 級文化を分析することで,本研究の成果を精 緻化していく必要がある。 また,8視点と本研究で確認された新たな 視点との関係を分析することで,日本の学級 における「思考する文化」の特徴を捉えるこ とができると考えられる。

!

!

1) 学級の中にある共通の意識や行動様式があ る こ と は , 古 く か ら 認 識 さ れて い る 。 Jackson(1968)は,学級に適応するた めの暗黙的な道徳的規範として,潜在的カ リキュラム(hidden curriculum)の存在 を指摘した。Bloom(1972)は,学校の 中にある文化や制度,人間関係といった, 顕在的カリキュラムを学習するために不可 欠な環境,あるいは方法を通して学習され るものを潜在的カリキュラムと呼んだ。 Apple(1979)は,潜在的カリキュラムの 視点から学級におけるルールや力が,学校 の外にある経済的・社会的・イデオロギー 的諸構造と連結していると指摘し,学校は 社会や政治のイデオロギーを拡大再生産す る場所であると主張した。Clarricoates (1978)は,教師のジェンダー・ステレ オタイプ的な意識を明らかにし,それが学 習者に無意識下に伝達される可能性を示唆 した。これらは,教師が意図しない事柄が 学ばれることについての指摘である。一 方,Hlebowitsh(1994)は,潜在的カリ キュラムには肯定的な効果と否定的な効果 の両面があるとし,否定的な効果を解消す るためのカリキュラム計画が必要であると 主張し,意図的に潜在的カリキュラムにア プローチする可能性を提起した。本論文で は,それをさらに拡張し,思考を尊重する という肯定的な効果を意図的に生み出すと いう立場をとる。 2) 河村(2010)は,海外の学級が学習集団 としての機能体の側面が強いのに対し,日 本の学級は,生活集団としての共同体の側 面を基盤としていることを指摘し,共同体 としての共通の意識や行動様式のことを学 級文化と呼んでいる。日本では,共同体と して学級を指導するために,学級文化の存 在には注意が払われてきたのである。

!

参 考 文 献

!

Apple, Michael W. (1979) Ideology and Curriculum. Routledge and Kegan

Paul,Boston.

B l o o m , B . S . ( 1 9 7 2 ) I n n o c e n c e i n education. The School Review, 80(3):

333-352

Clarricoates, K. (1978) Dinosaurs in the classroom ̶A re-examination of s o m e a s p e c t s o f t h e h i d d e n curriculum in primary schools.

Women's Studies International Quarterly,

(15)

Ennis, R.H. (1987) A taxonomy of critical thinking dispositions and abilities. In J. Boykoff- Baron & R.J. Sternberg (Eds.), Teaching thinking skills: Theory and practice. W.H.Freeman and Company,

New York, pp.9-26

Heredia, I. (2017) Evaluating the effect of visible thinking routines on students' a w a r e n e s s a n d c o n c e p t i o n s o f thinking and understanding in the s c i e n c e c l a s s r o o m . T h e s e s a n d Dissertations at Montana State University,

Montana State University - Bozeman, College of Letters & Science

Hlebowitsh, P. S. (1994) The Forgotten H i d d e n C u r r i c u l u m . J o u r n a l o f Curriculum and Supervision, 9(4): 339-49

Jackson, P. W. (1968) Life in classrooms.

Holt,Rinehart and Winston, New York 河村茂雄(2010)日本の学級集団と学級経 営.図書文化社,東京 久保田賢一(2012)メディア概念の拡張とこ れからの「教育メディア研究」-社会文 化的アプローチによる研究方法論再考. 教育メディア研究,18(1-2):49-56 黒上晴夫(2007)高次思考力の育成をめざす 授業設計法と評価に関する研究.平成16 年度から19年度科学研究費補助金(基盤 研究B)研究成果報告書

Marzano, R. J. (1992) A different kind of classroom: Teaching with Dimension of Learning, Association for Supervision

and Curriculum Development,Virginia 道田泰司(2019)思考力を育てる基盤となる ものは何か?.高度教職実践専攻(教職 大学院)紀要,3:57-66

!

!

!

!

!

!

!

文部科学省(2017)小学校学習指導要領.文 部科学省,東京

Perkins, D. N., Jay, E., & Tishman, S. ( 1 9 9 3 ) B e y o n d a b i l i t i e s : A dispositional theory of thinking.

Merrill-Palmer Quarterly , 39: 1-21

Resnick, L. B. (1987) Education and learning t o t h i n k . N a t i o n a l A c a d e m i e s ,

Washington,D.C.

Ritchhart, R. (2007) Cultivating a Culture of Thinking in Museums. Journal of Museum Education, 32(2): 137-54

Ritchhart, R. (2015) Creating cultures of thinking: The 8 forces we must master to truly transform our schools. John Wiley &

Sons, New Jersey

西郷竹彦(1996)西郷竹彦文芸・教育全集第 四巻 教育的認識論.恒文社,東京 Salmon, A. K. (2016) How Visible Thinking

E n h a n c e s C h i l d r e n s L e a r n i n g . Exchange, 232: 15-18 泰山裕,小島亜華里,黒上晴夫(2014)体系 的な情報教育に向けた教科共通の思考ス キルの検討∼学習指導要領とその解説の 分析から∼.日本教育工学会論文誌, 37(4):375-386

Tishman, S., Jay, E., & Perkins, D. N. (1993) Teaching thinking dispositions: From transmission to enculturation.

Theory into practice, 32(3): 147-153

Wade, C. E. (1997) On thinking critically about introductory psychology. In R. J. Sternberg (Ed.), Teaching introductory psychology: Survival tips from the experts.

American Psychological Association, Washington,D.C., pp.151-162

!

!

!

(16)

Applicability of the Eight Forces for Culture of Thinking

in Japanese Schools

!

!

KOJIMA, Akari (Graduate School of Informatics, Kansai University) KUROKAMI, Haruo (Faculty of Informatics, Kansai University)

!

!

!

The purpose of this study is to examine the applicability of the eight forces for culture of thinking (Ritchhart 2015) in Japanese school. We analyzed strategies a classroom in Japan that engage in practices aimed at developing thinking skills and examined their correspondence with the eight forces. As a result of the analysis, it was suggested that the eight forces for culture of thinking can be applied to Japanese schools. In addition, it was confirmed that Japanese schools have some strategies that does not correspond to eight forces. As a result, it was clarified that it is necessary to add a new force such as promoting student metacognition in order to incorporate them into Japanese schools.

!

Key words: Developing thinking, Thinking disposition, Culture of thinking, Classroom culture, Elementary school

参照

関連したドキュメント

従って、こ こでは「嬉 しい」と「 楽しい」の 間にも差が あると考え られる。こ のような差 は語を区別 するために 決しておざ

ロボットは「心」を持つことができるのか 、 という問いに対する柴 しば 田 た 先生の考え方を

この 文書 はコンピューターによって 英語 から 自動的 に 翻訳 されているため、 言語 が 不明瞭 になる 可能性 があります。.. このドキュメントは、 元 のドキュメントに 比 べて

  BCI は脳から得られる情報を利用して,思考によりコ

存在が軽視されてきたことについては、さまざまな理由が考えられる。何よりも『君主論』に彼の名は全く登場しない。もう一つ

  「教育とは,発達しつつある個人のなかに  主観的な文化を展開させようとする文化活動

前章 / 節からの流れで、計算可能な関数のもつ性質を抽象的に捉えることから始めよう。話を 単純にするために、以下では次のような型のプログラム を考える。 は部分関数 (

児童について一緒に考えることが解決への糸口 になるのではないか。④保護者への対応も難し