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仲間関係研究における「スクールカースト」の位置づけと展望

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1.はじめに

児童期から青年期にかけて,子どもたちを取り 巻く世界は,家庭から学校へ,親から同年代の仲 間たちへと広がっていく。子どもたちは,一日の 大半を学校で過ごすようになり,友人との関わり を深めていくようになる。特に,現行の日本の学 級制度のもとでは,クラスメイトと時間をともに することが多い(金綱, 2009)。そして,クラス メイトとの関係性を築く中で生じる,「グループ」 と呼ばれるインフォーマルな友人関係が,学校 生活において重要な役割を果たしている (山中, 2009)。例えば,中学生では,約 8 割の生徒がグ ループに属していることが明らかになっている (石田・小島, 2009)。また,有倉(2011)によれ ば,自身の所属しているグループで感じている楽 しさと,学級で感じる楽しさには強い正の相関が あることが示されている。このように,日々の学 校生活や学校適応に大きく関わる要因のひとつと して,グループの研究が進められてきた。 近年,こうした学級内のグループ間の関係性に 焦点を当てた,「スクールカースト」 と呼ばれる 概念が日本で提唱された (森口, 2007)。「スクー ルカースト」は,学級内におけるグループ間の地 位格差(鈴木, 2012)と定義されており,学級で 生じる社会的地位を表す概念の 1 つである。従 来,学級内や学校内の社会的地位に焦点を当て た研究は,世界的に(e.g., 狩野・田崎, 1990; Kupersmidt & Dodge, 2004 中澤訳, 2013),豊富 に知見が蓄積されてきた分野である。「スクール カースト」は,こうした社会的地位をめぐる分野 の中で,特に日本の生徒たちの学校適応を理解す る上で,非常に重要な意味を持つ概念になると考 えられる。例えば,友人関係の良好さは学校での 居心地の良さといった,生徒の学校適応感と強く 関連することを示している(大久保, 2005)。一

仲間関係研究における

「スクールカースト」の位置づけと展望

水 野 君 平

1

・唐   音 啓

2 1北海道大学 2東京大学

A review of “school caste” and its relation to peer relationships

Kumpei MIZUNO1 and Yinqi TANG2

1Hokkaido University 2University of Tokyo

The purpose of this paper was to compare previous research with “school caste,” which is the phenome non of status hierarchy between informal groups among Japanese classrooms, and to discuss the direction and perspective of research on school caste. In the current study, we reviewed studies on sociometric popularity, perceived popularity, and peer crowds as research knowledge on children’s social status in schools. We then reviewed literature reports on school caste and discussed how school caste would be positioned as studies on social status among schools. After indicating the problems of promoting research on school caste, we discussed the future direction of research. Finally, we discussed the impli­ cations and directions of future empirical studies on school caste or interpeer group status, based on the aforementioned review.

Key words: peer group, popularity, peer crowd, peer status

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方で,鈴木(2012)のインタビューからは,「ス クールカースト」で低地位グループにいる生徒は 友人関係がある程度円満なのにもかかわらず,学 校適応感が低いと指摘されている。このように, 「スクールカースト」という概念を用いてこそ明 らかになる側面もある。しかし,従来行われてき た,学級内や学校内で生じる社会的地位の研究と どの点で重なりがあり,どの点で異なるのかとい う知見の系統的な整理や,「スクールカースト」 を今後どのように研究することが必要なのかと いったことは,未だ十分に議論されていない。 そこで本研究では,まず「スクールカースト」 が学級内の社会的地位に関する研究の中にどのよ うに位置づけられるのか,学級や学校における子 どもの社会的地位に関する研究知見を概観した上 で,考察を行う。そして,本研究が「スクール カースト」研究の布石となるよう,これまで日本 で蓄積されてきた「スクールカースト」に関する 知見をまとめ,今後の方向性を提示することを目 的としたい。そのため本研究では,学級内におけ る社会的地位の研究をレビューする (2 章)。続い て,「スクールカースト」研究をレビューし,社 会的地位の研究と「スクールカースト」研究の比 較検討を行う。そして,「スクールカースト」研 究の問題点を指摘した上で,今後の「スクール カースト」研究の方向性を議論する (3 章)。そし て,4 章ではこれまでの議論を踏まえ,「スクー ルカースト」研究が学級内の社会的地位の研究の 中にどのように位置づくか ,また「スクールカー スト」を実証的に検討していくことの意義と今後 の展望について論じる。

2.学級・学校内における社会的地位に関する

研究手法および研究の概観

これまでの研究を振り返ると,学級や学校の中 における社会的地位は,個人間の地位の側面と集 団間の地位の側面の両面から問題にされてきた。 個人的な側面に注視した研究では,主に「どの ような子どもたちが『人気(popularity)』 を獲得 するか」が問われている。そして,学級や学校内 で獲得する人気の個人差を,社会的地位を表す 概念の 1 つとして取り上げ,議論が進められてき た。本章の 1 節および 2 節では,個人が獲得する 人気の 2 つの側面である,「ソシオメトリック人 気(sociometric popularity)」と「認識された人気 (perceived popularity)」を扱った研究について, それぞれどのようなことが明らかにされてきた かを,概観しておくこととする。その上で,集団 的 な 側 面 に 注 視 し た,「ピ ア・ ク ラ ウ ド(peer crowd)」研究で得られた知見を整理したい。ピ ア・クラウド研究では,学級や学校内における社 会的地位の有り様を,よりカテゴリカルに捉える ことで,その様相を明らかにしている。本章の 3 節と 4 節では,ピア・クラウド研究について, これまで得られてきた知見について概観を行うこ ととする。 2.1 社会的地位の個人的な側面 ―ソシオメトリック人気と認識された人気― 個人の人気を扱う研究では,従来,仲間指名 (peer nomination) と呼ばれる研究手法が標準的な 方法として (e.g., Reitz, Motti, & Asendropf, 2016), とりわけ欧米において多用されてきた。仲間指名 とは,いわゆる他者評定であり,学級内または学 年内の子どもたちの名前を挙げさせる測定方法で ある。研究によっては,学級や学年の名簿が配ら れ,記名の上限人数が設定されていることもあ る。仲間指名では,例えば,「学級内で攻撃的だ と思う人物の名前を挙げてください」や「人気だ と思う人物の名前を挙げてください」といった質 問項目において,子どもたちが記名した人物につ いて,それぞれその指名率が得点化される。この 指標の値が高いほど,仲間指名で測定した行動傾 向や特性が強いことを意味する。上に挙げた 2 つ の例の仲間指名から得られた数値は,その子ども の学級内での攻撃行動傾向が高いことや人気の高 さを意味する。 こうした仲間指名の研究手法によって,人気の 研究が徐々に確立されていく中で,人気が,「ソ シオメトリック人気(sociometric popularity)」と 「認識された人気(perceived popularity)」の二つ の側面を持つことが明らかになってきた。「ソ シオメトリック人気(sociometric popularity)」は, 元来,学級・学校内における社会的地位の研究に おいて意図されてきた人気そのものであり,周囲 から好感を持たれていることを意味する。ソシオ メトリック人気は,例えば,「学級内であなたが

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児群」とは区別されるとして,研究の進展の必要 性を論じた。すなわち,「人気児群」と「両面児 群」は,肯定的な指名数が多いという点で共通し ているものの,否定的な指名数の多さで違いが見 られる。否定的な指名数が多い「両面児群」は, 周囲から受容されている一方で,拒絶されている 程度も高く,その行動特徴として,リーダー的な 部分と攻撃的な部分の両方を合わせ持つことが示 されている (Coie et al., 1982)。以後,1990 年代 に至るまで,Coie et al. (1982) が示した測定方法 によって人気の研究がなされてきた(レビューと してCillessen & Marks, 2011)。1990年代に入ると, Parkhurst and Hopmeyer(1998)が,それまでの人 気の概念である「学級内であなたが最も好きな/ 好きではない人物は誰か」の項目に,「学級内で あなたが最も人気だと思う/思わない人物は誰 か」という項目を加え,前者で測定される人気を 「ソシオメトリック人気」,後者を「認識された人 気 (perceived popularity)」 と定義づけた。Parkhurst and Hopmeyer(1998)は,ソシオメトリック人気 が高い子どもたちは優しさがあり,信頼されてい る一方で,認識された人気が高い子どもたちは支 配的で攻撃的であるとし,両者の差異を明らかに した。認識された人気は,Coie et al. (1982) の 「両面児群」の概念に通ずる部分はみられるもの の, その測定方法は異なる。そして,Parkhurst and Hopmeyer(1998)の研究以降,仲間関係にお ける人気の研究では,ソシオメトリック人気と認 識された人気が区別されて扱われるようになった。 すなわち,認識された人気は,例えば,「学級 内であなたが最も人気(popular) だと思う人物は 誰か」 といった項目の指名数によって測定され る。そして,研究によっては,「学級内であなた が最も人気ではないと思う人物は誰か」といった 項目の指名数を差し引いた値が指標となる (e.g., Sandstorm & Cillessen, 2006)。そのため,認識され た人気は,目立っていること (high prominence), 中心性を持つこと(centricity),かっこよいこと (cool) を 反 映 す る 概 念 で あ る (e.g., Cillessen, Schwartz, & Mayeux, 2011)。認識された人気が高 いことは,周囲から,人気者であると認知的に 評価されることを意味する。すなわち,ソシオメ トリック人気が,仲間から受容されている程度を 表す概念であるのに対して,認識された人気は, 最も好きな人物を挙げてください」といった,仲 間から受容されている程度を表す項目の指名数 によって測定される。また,そうした指名数か ら,「学級内であなたが最も好きではない人物を 挙げてください」といった,仲間から拒否され ている程度を測る項目を差し引いた値が,ソシオ メトリック人気の指標になる場合もある (e.g., Sandstorm & Cillessen, 2006)。このように,ソシ オメトリック人気は,その集団で好感を持たれて いる程度を数値化した概念と定義できる。すな わち,広く好かれ(widely liked),受け入れられ て い る(accepted) こ と を 表 す(e.g., Parkhurs & Hopmeyer, 1998)。ソシオメトリック人気を獲得 することは,同時に,仲間から拒否されている程 度が低いことを意味する。そのため,ソシオメト リック人気が高い子どもたちは,向社会的行動 (Warden & MacKinnon, 2003)や自尊心(de Bruyn

& Van den Boom, 2005) も高いことが示されてき た。加えて, 学業成績 (Wentzel & Caldwell, 1997) や学校への動機づけや興味(Wenzel, 1991),学校 への心理的適応(Ladd, Kochenderfer, & Coleman, 1997) とも正の関連にあることが明らかにされて いる。一方で,攻撃性(aggression;Sandstorm & Cillessen, 2006),いじめ被害(Caravita, Blasio, & Salmivalli, 2010) やいじめ加害 (bullying;Caravita, Gini, & Pozzoli, 2012),孤独(Fontaine et al., 2009) といった,心理社会的な不適応を示す指標とは負 の関連にある。ソシオメトリック人気を獲得する 子どもたちは,人気者を体現したような人物であ るといえるだろう。 それに対して,1980 年代より,ソシオメトリッ ク人気とは異なる人気の概念が存在すること が,徐々に明らかになってきた。Coie, Dodge, and Coppotelli (1982) は,「学級内であなたが最も好 きな人物」 (以下,肯定的な指名数とする) と 「学 級内であなたが最も好きではない人物」(以下, 否定的な指名数とする)の名前を挙げさせる指 名法をとり,指名数に基づく子どもたちの群分 けに,新たな基準を提示した。Coie et al. (1982) は従来通り,肯定的な指名数から否定的な指名 数を引いた値が高い子どもたちを「人気児群 (popular)」としただけでなく,肯定的な指名数 と否定的な指名数を足し合わせた値が高い子ども たちを「両面児群(controversial)」とし,「人気

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認識された人気の高さは,その後の無断欠席の増 加や学表成績の低下に繋がることが明らかにされ ている (Troop­Gordon et al., 2011)。また,ソシオ メトリック人気と,認識された人気を互いに統制 した場合,ソシオメトリック人気が GPA と正の 関連,攻撃性と無断欠席との間に負の関連を示す 一方で,認識された人気はその逆の関連パター ンがみられることを示している(Schwartz et al., 2006)。このように,ソシオメトリック人気と認 識された人気とでは,全く異なる学校適応を示す ことが示唆される。 以上より,学級や学校内における社会的地位の 高さを論じる際には,ソシオメトリック人気と認 識された人気の区別をしていくことが重要とな る。その違いは,中学生で顕著に現れ,特に攻撃 行動に対して,正反対の影響を及ぼすことも指摘 されてきた。このように,人気研究は仲間指名と いう研究手法によって,世界的に多くの知見が蓄 積されている。次節では,日本における人気研究 の動向を論じることとする。 2.2 日本における人気の研究動向 ここで,日本の人気研究に目を向けてみると, 2000 年代まで,ソシオメトリック人気にあたる 概念を用いた研究が精力的になされてきたこ とが,教育心理学年報から確認できる(e.g., 小 田・今村・岸田, 1962;長田, 1986;桜井, 1993; 佐藤・立元, 1999)。日本では,「ソシオメトリッ ク・テスト」と呼ばれる,仲間指名と同様の研究 手法が用いられてきた。例えば,「一緒に遊びた い人」や「一緒に勉強したい人」を指名させるこ とで,その指名数(率)から学級内の社会的地位 の得点化を可能にした。そして,得点化された社 会的地位の指標と,不安傾向(獲目, 1965)や他 人との心理的距離(小泉, 1987),学級委員の経 験による地位の向上(蘭, 1981),孤独感や攻撃 性との関連(前田, 1998)との検討がなされてき た。その結果,学級内の社会的地位が高い児童生 徒ほど攻撃的でなく,心理的にも不適応がみられ ないという点が明らかにされている。こうした知 見は概ね,これまでのソシオメトリック人気の研 究で得られているものと整合的である。 また,人気研究として,学級集団のネットワー ク構造自体に焦点を当て,2 時点間のネットワー 社会的注目度そのものと捉えることができる

(Kupersmidt & Dodge, 2004 中 澤 訳, 2013)。 認 識された人気は,ソシオメトリック人気と同様 に,社会的スキル(Andreou, 2006), リーダーシッ プや向社会的行動(Gangel et al., 2017),学校へ の 心 理 的 適 応(Troop­Gordon, Visconti, & Kuntz, 2011) と正の関係にあることが明らかになって いる。また,いじめ被害との間で負の関連があ ることも知られている (Ahn, Garandeau, & Rodkin, 2010;de Bruyn, Cillessen, & Wissink, 2010)。

このように,ソシオメトリック人気や認識され た人気の高さを扱うことで,学級内で高い社会的 地位にある子どもたちが,どのような特徴にある かが検討されてきた。ソシオメトリック人気と認 識された人気は,どちらも社会的地位の高さを反 映するため,概念同士が重なりあうことも多く, 研究によっては,小程度(r=.15;Caravita et al., 2010) か ら 中 程 度 以 上(r=.48;de Bruyn & Van den Boom, 2005)の正の関連が示されている。し かし,ソシオメトリック人気と認識された人気 は,発達とともに次第に弁別されていくことも知 られており,中学校では,小学校よりもその関連 が弱まる (Bowker et al., 2010)。さらに,ソシオ メトリック人気と認識された人気の概念を分かつ 最も大きな違いとしては,攻撃行動といじめ加害 行動が挙げられるだろう。例えば,ソシオメト リック人気が攻撃行動と負の関連を示す一方で, 認識された人気は正の関連を示す (Sandstorm & Cillessen, 2006) ことが知られている。また,ソシ オメトリック人気がいじめ加害行動や攻撃性と 負の関連を示す反面,認識された人気は攻撃行動 の間に概ね正の関係があり (Cillessen & Mayeux, 2004;Troop­Gordon & Ranney, 2014), い じ め 加 害行動とも正の関係があることも示されている (e.g., Caravita & Cillessen, 2012;Caravita et al.,

2012)。縦断研究によっても,認識された人気の 高さが,その後の攻撃行動の高さを予測すること が明らかにされており,認識された人気が高い子 どもたちが,自己の社会的地位の維持や向上の ために,攻撃行動をとることが指摘されている (Cillessen & Mayeux, 2004;Lu, Jin et al., 2018)。認 識された人気は,多くの研究においていじめ加害 行動や攻撃行動との関連が示されているため,そ の問題点が指摘されてきた。加えて,攻撃的かつ

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テストでの「好き・嫌い」という評価に基づく質 問を回避しているため倫理的な問題は克服された としこれの使用を推奨している(藤本, 2011)。 しかし,2000 年代以降のソシオメトリック・テ ストを用いた研究論文数がそれ以前と比べて大き く減少したことを勘案すれば,学級内で仲間指名 を用いること自体が倫理的にも,多忙化する教育 現場に対する負担が増えてしまうため,難しいの が現状だろう。 上記のように,仲間指名を用いた測定方法が実 施困難であるという事情もあり,現在でも日本で は,認識された人気を扱う研究が公刊されていな いようである。一方で,同じ東アジアに位置する 中国や香港,台湾ではソシオメトリック人気なら びに認識された人気の研究が蓄積されている(Li, Xie, & Shi, 2012;Lu, Jin, et al., 2018;Lu, Li, et al., 2018;Niu et al., 2016;Schwartz et al., 2010;Tseng et al., 2013;Xi, Owens, & Feng, 2016)。そして, 基本的には欧米の研究知見を再現している。例え ば,ソシオメトリック人気と認識された人気は正 の関連を示し,ソシオメトリック人気は向社会的 行動,認識された人気は攻撃性と正の関連を示す (Niu et al., 2016)。その一方で,認識された人気 の高さは後の関係性攻撃の高さを予測するが,関 係性攻撃の高さは後の認識された人気の低さを予 測する(Tseng et al., 2013)というように,関係 性攻撃の高さと認識された人気の高さは相互に 予測し合うという欧米での結果(e.g., Cillessen & Mayeux, 2004)との差異も報告されている。 これらのことを勘案すると,日本においても, 従来の認識された人気の研究知見で得られた内容 は再現される可能性が大いにあると考えられる。 しかしながら,現存の研究では,前田 (1998) が, 人気児(受容されている子どもたち),拒否児, 無視児(注目を受けていない子どもたち),平均 児のほかに,両端児(一部の子どもたちの中で人 気はあるが,一部の子どもたちからは嫌われてい る)の存在を指摘するにとどまり,これは,Coie et al. (1982) が示した両面児と類似するものの, 認識された人気そのものに基づく研究は行われて いないのが実情である。 ク 構 造 の 変 動 と ス ク ー ル・ モ ラ ー ル(楠 見, 1986;田崎・狩野, 1985)や,相互指名の縦断的 変化(水原・劔持, 1960)を検討した研究も挙げ られる。しかしながら,1980 年頃より,ソシオ メトリック・テストを用いた調査の「嫌いな子ど もの名前を挙げる」という点が倫理的に問題とな ることが指摘されたほか(小嶋ら, 1981),ソシ オメトリック・テストを用いた調査や実践に対 する疑義が複数の新聞に取り上げられた(朝日新 聞, 1993;北海道新聞, 1998;読売新聞, 1999)。 そのため,その後は,ソシオメトリック・テスト の使用した研究自体が,倫理的に実施困難となっ てしまった(石田, 2002)。なお,2000 年代にソ シオメトリック・テストを実施した研究として は,小学生を対象とした日向野・小口(2007)や 安藤・小平・布施(2017),中学生を対象とした 出口・木下・吉田(2010),高校生を対象とした 黒 川 ら (2015) が 挙 げ ら れ る。 日 向 野・ 小 口 (2007) は否定的評価(e.g., 嫌いな人は誰か) を 用いず,「遊びたい人」と「勉強したい人」の肯 定的評価のみを用いて指名させた上で地位を得 点化し,高地位の児童ほど対面苦手意識の「わず らわしさ」が低いことを明らかにした。安藤ら (2017) も,否定的評価は用いずに「遊びたい人」 と「勉強したい人」で指名させ,得られた友人関 係のネットワーク構造と授業参加行動を検討した 結果,比較的統合された学級では積極的な授業参 加行動が促進される可能性を明らかにした。黒川 ら (2015) も,否定的評価を用いず,「普段一緒に 過ごすことが多い友人」を3人指名させたところ, ネット上における友人関係と,普段の友人関係が 類似した関係であることを明らかにしている。ま た,出口ら (2010)では,授業実践の効果検証の 1 つとして,遊びなどの交流をする友人(私的交 流)と授業などの公的な交流をする友人(公的交 流)数に関して仲間指名を行い,被指名数から友 人数を測定しているが,友人数の増加について は,授業の有意な効果は得られなかったことを報 告している。 その他,人気研究に類似したものとして,親密 さを仲間指名によって測定する CLASS(藤本, 2009, 2011)の研究が挙げられる。CLASS では学 級内の他の生徒全員に対して「親密かどうか」と いう項目で評定させており,ソシオメトリック・

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用する者 (Drug/Alcohol users)」,「人気がある者 (Populars)」,「教師に反抗して宿題をしない者 (Rebels)」,「そ れ 以 外 の 普 通 の 者(Normals)」, もしくは「孤独な者(Isolate)」をピア・クラウ ドと定め,回答を求めている。さらに,Schwartz et al. (2017) では社会類型評定を参考にピア・ ク ラ ウ ド(「ス ポ ー ツ を し て よ く 過 ご す 者 (Athletes)」,「社 会 的 地 位 が 高 い 者(High status)」,「つまらない者(Nerd)」,「暴走的な者 (Rocker)」,「競争的な者(Skater)」,「反抗的な者 (Antisocial crowds)」)に対して,どの生徒が当て はまるか仲間指名を求め,指名数を変数化してい る。その結果,Schwartz et al.(2017)は,2 時点 間の調査より,ピア・クラウドの種類によってソ シオメトリック人気と認識された人気に対する関 連性の程度が異なることを明らかにしている。例 えば,「社会的地位が高い者」のピア・クラウド にあるとみなされるほど,認識された人気とソシ オメトリック人気の両方が高い。「スポーツをし てよく過ごす者」,「つまらない者」であるとみな されるほど認識された人気が低いが,「競争的な 者」とみなされるほど認識された人気が高くな る。また,「暴走的な者」とみなされるほど認識 された人気が低くなる一方でソシオメトリック人 気は高くなる。最後に,「反抗的な者」とみなさ れるほど,認識された人気が高くなることが示さ れている。 このように,研究によって,抽出されるピア・ クラウドカテゴリの名称や分類は異なるものの, 共通する部分もまた多い。ピア・クラウドに関す る 44 編の査読付き論文をレビューした Sussman et al.(2007)は,ピア・クラウドが,具体的に は,以下の 5 つのカテゴリに統合できることを 報告している。はじめに,集団内で高い社会的地 位にあり,交友への関与も高い生徒を 2 つに分類 できるとしている。具体的には,学習への関与が 高い生徒は「エリート (Elites)」,学習への関与 は高くなくスポーツが得意な生徒は「アスリー ト (Athletes)」としてカテゴリ化された。また, 中社会的地位と,交友への関与が中程度であり, 学習への関与が低く,学校に反抗的な生徒は「逸 脱者(Deviants)」としてカテゴリ化された。次 に,中間ほどの地位で交友への関与が比較的 低く,学習への関与が高い生徒は,「学問好き 2.3 社会的地位の集団的な側面 ―ピア・クラウド(peer crowd)の研究― ここまで,学級内の社会的地位として,人気を 扱った研究に焦点を当てレビューしてきた。上述 の通り,ソシオメトリック人気と認識された人気 は,どちらも個人的な社会的地位を反映する。一 方で,社会的地位を,ある集団の特徴のひとつと して捉える 「ピア・クラウド (peer crowd)」 の研究 が主に北米においてなされている。ピア・クラウ ドとは,ある子どもが他の子どもからどう見られ ているか, といった評判に基づく分類 (Schwartz et al., 2017)を意味する。すなわち,ピア・クラ ウドは,例えば実際の友人グループというより も,周囲の評判に基づいたある集団の抽象的なラ ベリングである(Brown & Klute, 2003)。そのた め,実際の友人グループを対象としているという よりも,社会的カテゴリの 1 つとして位置づける ことができるだろう。この節では,社会的地位の 差異によって生じた集団が,それぞれ周囲からど のように見なされているかを扱った,ピア・クラ ウドの研究を概観する。 はじめに,研究手法の違いによって,研究間に おいて類型されるピア・クラウドの数や名前は多 少異なる。ピア・クラウドにおける研究手法は, 以下に述べる 2 つに分けることができよう。1 つ 目は,社会類型評定(Social Type Rating) と呼ば れるもので,一部の生徒に行ったインタビューに よって抽出されたピア・クラウドの名前と特徴を リスト化し,その生徒たちによる仲間指名から, 他の生徒の所属するピア・クラウドを類型化する (e.g., Brown, Bank, & Steinberg, 2008)。こうした手 法を用いて,社会的地位に基づくピア・クラウド の様相を明らかにした Brown et al. (2008) では, 高地位として人気者(Populars)とスポーツの傾 倒者 (Jocks) が,中地位として学問への傾倒者 (Brains) と普通の生徒(Normals)が,低地位と して中毒者 / 乱暴者 (Druggie/Toughs) と見放され た者 (Outcasts) の 6 つが挙げられている。2 つ 目は,先行研究で得られているピア・クラウド の類型を,自己報告式の質問紙によって選択さ せる方法である(e.g., Heaven et al., 2005)。例え ば,Heaven et al. (2005) では,「勤勉で教師と関 係が良い者(Studious)」,「スポーツをしてよく 過ごす者(Athletes)」,「パーティー好きで物質乱

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ルでは勉強ができると肯定的にみなされているこ と,また,Nerd と Gangster に分類される生徒が 多く,Athlete に分類される生徒がアメリカほど 多くないこと,さらには,Popular のピア・クラ ウドが現れなかった点で異なると報告している。 このように,一部の類型は欧米以外と共通する点 がある一方で,異なる類型が出現したり,その類 型が持つ特徴が異なっていたり,欧米で見られた 類型が出現しない場合もあり得る。次節では日本 におけるピア・クラウド研究を概観する。 2.4 日本におけるピア・クラウドの研究動向 日本における研究動向として,ピア・クラウド という用語を用いて研究されているものは見られ ないが,教育社会学の分野において,男性性・女 性性というジェンダーの観点から参与観察やイン タビューによって高校生のグループ化を試みた研 究が挙げられるだろう (知念, 2017;宮崎, 1993)。 宮崎(1993)では,女子高校生徒が,以下のよう な 4 つのグループに分類できると指摘している。 具体的には,規則を破る傾向にあり,アルバイト や音楽・ファッション,恋愛に関心が高いグルー プとして,大きく制服を改造したり化粧をしたり する「ヤンキーグループ」,前者ほどの強い傾向 はない「一般グループ」,そして,規則を遵守す るグループとして,勉強がよくでき進学意欲の高 い「勉強グループ」,前者ほど勉強に熱心ではな いが漫画など共通の趣味で集まっている「オタッ キーグループ」に分類できるとしている。そし て,グループによって,話題や学校における勉強 の重要さ,性役割観が異なることを示している。 さらに,知念(2017)では,共学校の男子高校生 の参与観察から,制服を着崩して男性性が強い 「ヤンチャな子ら」が,自分たちを大人しく見た 目も地味な「インキャラ」と呼ばれる生徒と対比 させることで,「ヤンチャな子ら」の独自性や学 校での振る舞いを捉え直していると指摘してい る。また知念(2017)のインタビューでは,「イ ンキャラ」という言葉を,「ヤンチャな子ら」が 他の生徒を語る時に使ったり,自分自身の行動に 対しても使ったりすることを明らかにしており, 「インキャラ」というグループの名前は特定の人 物や集団の様態を指すというよりも,言動や実践 を解釈する枠組みであると指摘している。 (Academics)」としてカテゴリ化された。最後に 地位,交友への関与,学習への関与も全て低い生 徒は「その他(Others)」としてカテゴリ化され た。その結果,自尊心では,ピア・クラウド間に 大きな違いが見られないことを示している。加え て,各ピア・クラウドでみられた特徴として,以 下の結果がまとめられている。物質使用では,タ バコ,アルコール,マリファナ,違法薬物との関 係が述べられており,全てにおいて,「逸脱者」 が最も使用していると明らかにされている。加え て,「エリート」が「逸脱者」の次にタバコ,マ リファナ,アルコールを使用していること,「ア スリート」がアルコール,「その他」がタバコ, 違法薬物をよく使用することが報告されている。 性交経験は,「逸脱者」,「エリート」,「アスリー ト」の経験が多いことが報告された。攻撃行動で は,「逸脱者」,「その他」,「エリート」がよく攻 撃行動を取ることが報告された。また,「逸脱者」 のみに見られる傾向として,人生の満足感が高く なく,周囲の友人から好まれておらず,親から適 切な養育を受けていないことが示されている。こ のように,「逸脱者」は,人生満足感が低く,問 題行動に多く関わっている一方で,社会的に好ま しいと考えられる「エリート」や「アスリート」, ピア・クラウドでも一部の問題行動がみられるこ とも明らかとなった。こうして,ピア・クラウド 研究からは,社会的地位を構成する集団の様相の 差異を示す知見が多く得られている。 しかしながら,上述したピア・クラウド研究の 大半は, 米国の子どもたちを対象としている。 Sussman et al.(2007)のレビュー対象となった 44 編の査読付き論文のうち,米国以外の研究はわず か 3 編 (イギリスのMichell, 1997とThurlow, 2001; オーストラリアの Heaven et al., 2005)であり,欧 米文化圏以外となると研究はさらに少ない。東 南アジアに位置するシンガポールでピア・クラ ウドの類型化を試みた Sim and Yeo (2012) では, インタビューから最終的に 7 つ(Nerd, Gangster, Athlete, Joker, Computer geek, Ordinary, Loner) のピ ア・クラウドに分けられることを示している。そ して,米国におけるピア・クラウド研究と比較し て,様々な相違点があると指摘している。例え ば,Nerd はアメリカでは社会性がなく否定的に みなされるピア・クラウドであるが,シンガポー

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係性に「地位」の変動性が低い階層関係が生ま れる現象であるとされている (森口, 2007;鈴木, 2012)。そして,「スクールカースト」は生徒の学 級での生活や学校適応に影響を与えると複数の専 門家(堀, 2015;森口, 2007;田中, 2014)や研 究(鈴木, 2012)で指摘されている。本研究では, 「スクールカースト」を学級内におけるグループ 間の地位格差として定義する。「スクールカース ト」の地位を構成する集団ごとにみられる特徴に ついては,例えば,「高地位グループ」の生徒が 活発で,気が強く,異性からの評価が高く,「低 地位グループ」の生徒が地味で大人しいことが挙 げられている(鈴木, 2012)。そして,高地位グ ループに属する生徒は学級内でリーダー的役割を 担い,行事や学級活動で活躍する一方で,低地位 グループの生徒に対して,攻撃的な振る舞いや見 下すなどの卑下行動を取ると大学生への回想イン タビューから指摘されている(鈴木, 2012)。鈴 木(2012)の大学生への回顧的インタビューで は,「高地位グループの 1 人が上履きを投げあっ て遊んだ最後に,インタビュイーのハルキを含む 『イケてないグループ』全体に向けて投げて笑い を取る」(p. 104) というエピソードが紹介されて いる。また,低地位グループの生徒には高地位グ ループが教室内で支配的に振る舞うために,被抑 圧的な学校生活を余儀なくされるという問題も存 在する。こうした問題について,鈴木(2012)の 大学生への回顧的インタビューでは「高地位グ ループの生徒から『いじられる』たびに嫌な気持 ちになっていたものの言い返すことは恐怖心があ り,何も言い返せなかった」(p. 179) というエピ ソードが紹介されている。さらに,鈴木(2012) では,神奈川県の中学 2 年生に対する質問紙調査 で,「クラスで人気者である」生徒ほど学校が楽 しく,学級の友人関係にも満足していると感じて いることを明らかにしている。また,水野・加 藤・川田(2015) でも,人気がある生徒ほど教師 関係や学習などの学校適応も高いことを明らか にしている。このように,「スクールカースト」 の上位に位置する生徒たちほど,より学校生活を 謳歌している実情や,上位の生徒たちと他の生徒 たちとのいびつな関係性が徐々に明らかにされて きた。 こうした「スクールカースト」の地位を決定す 知念 (2017) や宮崎 (1993) の研究では確かに, 海外のピア・クラウド研究と共通している点が多 い。その一方で,この 2 つの研究では性別ごとの グループの類型を扱っており,男子・女子の両性 を含む学級・学校全体での類型や,量的調査に基 づく検討はなされていない。また,生徒の学校生 活の送り方と他の生徒達との関わり方に焦点が当 たっており,自尊心や学校適応感という心理的変 数やいじめとの関連性までは明らかではない。こ うした理由から,国外におけるピア・クラウド研 究の知見と,どのような相違点があるかは,検討 が不十分である。 ここまで,ピア・クラウドの研究にあたる日本 の研究を概観してきたが,知見が多く積み上げら れているとは言い難い。しかしながら近年,日本 で生じた学級内の社会的地位を現した現象である 「スクールカースト」が,ピア・クラウドや人気 と重なりがみられるものとして注目を集めてい る。次章では,「スクールカースト」について, 日本で行われてきた研究を概観するとともに,上 述してきたピア・クラウド研究や人気研究との相 違点について述べることとする。

3.社会的地位に関する研究における

「スクールカースト」研究の位置づけ

2 章では,学級・学校内における社会的地位の 研究手法および研究についてレビューを行った。 学級・学校内における社会的地位の研究では,個 人的側面として人気の研究,集団的側面としてピ ア・クラウドの研究がなされ,多くの知見が蓄積 されてきた。本章では,こうしたソシオメトリッ ク人気,認識された人気,ピア・クラウドと, 「スクールカースト」との差異を整理することで, 「スクールカースト」研究が,社会的地位研究の 中にどのように位置づけられるかを考察すること とする。はじめに,「スクールカースト」の概念 整理および研究の概観を行う。続いて,「スクー ルカースト」と,他の社会的地位の概念との違い を論じ,最後に,「スクールカースト」研究の問 題点とその方向性を問う。 3.1 「スクールカースト」という問題の提起 まず,「スクールカースト」はグループ間の関

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「スクールカースト」の認知そのものに焦点を当 てており,「スクールカースト」の地位といじめ との関連については検討していない。 森口(2007)が「スクールカースト」を提唱し てから,生徒の学校適応と密接に関わる概念であ るとして,その実証研究が盛んに行われるように なってきている。学級内で生じている社会的地位 の格差である「スクールカースト」を検討するこ となくして,いじめ問題を含む,生徒たちの学校 適応を論じることはできないだろう。次節では, 日本で新たに提唱された概念ともいえる「スクー ルカースト」が,これまで主に海外で検討されて きた人気研究とピア・クラウド研究に並び,社会 的地位研究に関する研究の中でどのように位置づ けられるかを考察していく。 3.2 「スクールカースト」研究の特異性と人気研 究およびピア・クラウド研究との比較 はじめに,鈴木(2012)のインタビュー内容か らわかるように,「スクールカースト」は個人の 地位ではなく,所属グループの地位に焦点があ たっている。すなわち,どの地位のグループの一 員であるかによって,生徒の学校生活が大きく変 わるとされている。そのため,この点において, 人気研究におけるソシオメトリック人気や認識 された人気とは異なる概念であることが理解で きる。その一方で,「スクールカースト」で高地 位グループであることは,リーダーシップや周囲 への影響力,学校生活での「権利」があり必ずし も好かれているわけではないということも鈴木 (2012)のインタビューから明らかになっている。 また,堀(2015)が指摘する「スクールカース ト」上位の生徒像の中には,「残虐なリーダー」 というように,攻撃的な側面もあることが示唆さ れている。加えて,貴島ら (2017)の「スクール カースト」特性尺度の下位尺度にも「リーダー」 や「社交性」という側面もある一方で,「ツッパ リ」という攻撃的な側面も見出している。こうし た知見より,「スクールカースト」の上位層の生 徒たちは,人気研究において,認識された人気を 獲得する生徒たちの特徴と極めて類似しているこ とが指摘できる。加えて,グループの特徴を記述 している研究が多いことから,「スクールカース ト」は,ラベリングの観点を持つ概念であるとい る要因に関しては,自己主張能力・同調力などの コミュニケーション能力の組み合わせによって決 まると指摘されている(堀, 2015;森口, 2007)。 中学生に対する量的・質的調査からも,自己主張 力などのコミュニケーション能力が「スクール カースト」の地位,すなわち高地位グループの一 員であることと関連していることも報告されてい る(水野ら, 2015;鈴木, 2012)。また大学生を対 象に回顧的調査で高地位グループの特徴を尺度化 した研究(貴島・中村・笹山, 2017) は,自分の 所属していたグループの特徴に関して「学級リー ダー」,「ツッパリ」,「社交性」,「非オタク」とい う 4 つの下位尺度からなる「スクールカースト特 性尺度」 を作成している。さらに,「自分のグルー プがクラスで中心だったかかどうか」と 4 つの 下位尺度との相関は中程度以上の相関(rs=.31– .79),尺度全体の得点との相関では強い相関 (r=.74) と報告しており,学級におけるグループ 間の地位格差がある中で,中心的なグループの特 性的側面を明らかにしている。このような「ス クールカースト」が生じる要因を探る研究より, その上位層にあたる生徒たちの特徴が明らかに なってきた。また,「スクールカースト」はどの 学校段階で児童生徒に意識されやすいのかについ て研究した石田(2017)がある。石田(2017)で は,大学生への回顧的な質問紙調査より,中学生 で最も「スクールカースト」の認知が高かったこ とを明らかにしている。 「スクールカースト」研究では,いじめとの関 連が論じられていることも多い。その関連に注 目したものとしては,複数の経験的な論考(堀, 2015;森口, 2007;田中, 2015) に加えて,「ス クールカースト」の認知といじめ経験を検討した 実証研究(作田, 2016) も挙げられる。堀(2015) や森口(2007)は,「スクールカースト」で低地 位の生徒ほどいじめ被害を受けるリスクが高まる こと,そして,いじめを受けることで「スクール カースト」の地位も低下するという相互因果関 係を指摘している。また,中学生を対象として, 「スクールカースト」認知の有無といじめ被害・ 加害経験(作田, 2016) を検討した実証研究も存 在し,いじめ被害・加害それぞれの経験がある生 徒ほど「スクールカースト」を認識していること を明らかにしている。しかし,作田(2016) は

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の研究からも,類似した知見が得られている。日 本の中学生は,イギリスの中学生と比べて,同じ 学級の友人が多く他の学年の友人は少ないこと, そして,同じ学級の友人とは学級で過ごし,校庭 や学校外の他の場所で過ごす割合が低いことが示 されている。こうした結果からも,日本では,自 分が所属する学級内の友人と過ごすことが多いこ とがわかる。加えて,8 割以上がグループを形成 することから(e.g., 石田・小島, 2009),日本の 中学生は,自分の学級内の所属グループの友人た ちと過ごす時間が多く,それゆえ学級内での社会 的地位という側面についても,学級内におけるグ ループ間という集団間の地位が強調されてきたと 考えられる。個人間の地位格差に注目した人気研 究や,集団間の地位格差に注目したが必ずしも実 際の友人グループ間とは限らないピア・クラウド 研究とは異なり,日本では,所属グループ間の地 位格差である「スクールカースト」が問題にさ れ,研究が進められてきている。 3.3 「スクールカースト」研究の問題点と研究の 方向性 これまで言及したように,「スクールカースト」 の上位の生徒たちは,その社会的能力の高さや目 立ちやすさ,周囲への影響力を持つといった点に おいて,認識された人気を獲得する生徒たちと類 似していると指摘できよう。一方で,認識された 人気の高さは,「スクールカースト」の上位層と 異なり,いじめの加害行動と関連することが実証 研究で明らかにされている。認識された人気は, 先述のとおり,個人間の社会的地位を説明するも のであり,グループ間のような集団間の社会的地 位を反映する概念ではない。そのため,認識され た人気の研究で蓄積された知見がそのまま「ス クールカースト」というグループ間の地位といじ め加害行動との関連性を説明できるとは限らな い。また,「スクールカースト」は学年内ではな く,学級内の実在集団であるインフォーマル・グ ループの間の地位格差という点で,ピア・クラウ ド研究とは異なる。 3 章 1 節および 2 節での議論から,「スクール カースト」研究における問題点は 2 点あると考え られる。1 つは,「スクールカースト」における 地位の効果を検証した実証研究の少なさにある。 う点で,ピア・クラウド研究とも重なりがみられ るだろう。 しかしながら, では, なぜ「スクールカースト」 は,人気研究でもピア・クラウド研究でも問われ てこなかった,学級における「所属グループの地 位」に焦点があたっているのだろうか。その傍証 としては,日本の公立学校の制度が関係している と考えられる。Kanetsuna (2016) は,いじめの国 際比較についての文脈で,日本の中学校における 学級制度の特異性をイギリスと比較して次のよう に指摘している。中学生は学年の初めに学級編成 があり,その学級に配属される。そして,学級担 任は 1 年間学級経営し,生徒を監督する。生徒は 大半の授業を自分の学級でクラスメイトたちと一 緒に受け,休み時間を自分の学級内で過ごすこと が多い。こうした状況の中で,自分が所属する学 級内の生徒間の凝集性が強化され,関係性がより 親密になることで,学級内の独特な風土が形成さ れる。そして,学級内の規律や風土に収まらない ような「異質」な生徒が,いじめのターゲットと なるリスクが高まる。対して,イギリスの多くの 中学校では,科目ごとによって教室が異なり,学 級も学力別に編成される1)。さらには,生徒の興 味や将来展望に基づいて履修科目を追加できるよ うになっている。そのため,関心や学力によって 教室を流動的に移ることができ,休み時間に過ご す場所は校庭が多くなり,そこでは異なる学級や 年齢の生徒と友人関係を築くことが可能である。 それゆえ,日本ではいじめ (ijime) が学級内で同 学年の生徒から受けるのに対し,イギリスではい じめ (bullying) が校庭で同学年もしくは年上の生 徒から受けることが多いと指摘している。日本の 中学校の多くは,Kanetsuna (2016) が指摘するよ うな形態をとっており,大半の普通科全日制の高 校も同じ学級制度であると考えられる。このよう に,日本の学校の生徒は,基本的には,自分の所 属する学級ないしは同学年の生徒との関わりの中 で学校生活を送っている。日本とイギリスの中学 生における友人関係の比較を行った金綱(2009) 1) なお,州によって多少異なるが,例えばバージニア州 にあるアメリカのミドルスクールにおいては,同様に習熟 度別の学級編制がされており,生徒が授業を受ける際には それぞれ教室移動して受講するとされている (外務省, 2014)。

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プに属している状態を十分に反映できないと考え られる。第 2 に,仮にグループ間の地位だけを仲 間指名で測定して検討するとしても,高地位グ ループに属していてもその集団内で低地位にいる 生徒の状態を十分に反映できないため「スクール カースト」の概念を反映しきれないだろう。加え て,ピア・クラウド研究のように,グループを類 型化することは以下の問題があると考えられる。 ピア・クラウド研究では,学校単位または学年単 位で類型の多様性は社会類型評定で確保されて いるものの,学級ごとのピア・クラウドの多様性 は確保されていない。また,「スクールカースト」 では学級内のグループという実際の仲間集団間で 生じる地位格差を扱っている。そのため,評判に 基づいた抽象的なラベリングを扱いながら,同一 のカテゴリとして当てはまる相手と実際に相互作 用をしているかは問わないピア・クラウドの概念 (Brown & Klute, 2003) とは異なる。したがって,

社会類型評定(e.g., Brown et al., 2008) や先行研 究に従ってグループの類型をリスト化することで 「スクールカースト」でのグループの地位を測定 することは「スクールカースト」の概念を十分に 反映できないだろう。また,Schwartz et al. (2017) の 研 究 か ら, 高 地 位 の ピ ア・ ク ラ ウ ド (high status) と見なされることと認識された人気は相 関するが,最大でも r=.52 であり,高地位に所属 していることが必ずしも個人的に人気であること を意味するわけではない。このように,「スクー ルカースト」においても,高地位グループの一員 が必ずしも個人的に高地位であるとは限らず,高 地位グループに所属していてもそのグループの中 で低地位であるという生徒が存在する場合も考え られる。このことから,所属しているグループの 地位と,グループ内での地位を切り分けて検討す る必要があると思われる。 すなわち,「スクールカースト」研究の問題点 として,生徒を対象にした実証研究数が少ないこ とと,「スクールカースト」での地位をどう測定 するかが挙げられる。さらに 2 章で取り上げたよ うに,現在では仲間指名を教育現場で実施しにく いという問題点も存在する。これらの問題点を勘 案した上で,果たして,どのようにして「スクー ルカースト」を測定することが適切なのだろう か。先述したように,日本ではグループに属して 「スクールカースト」研究が抱える問題点として, 中学生や高校生を対象とした研究が少ないことが 挙げられる。作田(2016)や鈴木(2012)は中学 生への質問紙調査から,「スクールカースト」を 検討しているものの,「スクールカースト」の認 知のみを尋ねていたり(作田, 2016),主観報告 の人気を地位の指標として用いていたりしている (鈴木, 2012)。さらに,その他の実証研究は大学 生などの青年を対象として回顧的に調査したもの (e.g., 貴島ら, 2017)が大半を占める。また,「ス クールカースト」地位が「コミュニケーション能 力」によって類型化できるという指摘(森口, 2007;堀, 2015) は,実証的に仮説検証されてお らず,示唆にとどまっている。さらに,「スクー ルカースト」といじめの関連を指摘している知見 は(堀, 2015;森口, 2007;田中, 2014),経験的 な事例に基づくものである。すなわち,「スクー ルカースト」といじめの関連も,仮説の域を出な いため,「スクールカースト」といじめが関連す るのか否かを議論するには,中学生を対象にした 量的調査や質的調査のデータを用いて経験的な指 摘を検証する必要がある。また,「スクールカー スト」といじめの関連で指摘されてきたことは主 に「スクールカースト」で低地位であることでい じめ被害のリスクが増大するということであり, 「スクールカースト」の高地位にあることといじ め加害行動との関係性については触れられていな い。認識された人気と「スクールカースト」を類 似した現象として捉えるのであれば,「スクール カースト」といじめ被害だけではなく,いじめ加 害との関連も検証する必要があるだろう。 もう 1 つの問題点は,「スクールカースト」の 地位の測定方法にある。鈴木(2012)の定義のと おり「スクールカースト」がグループ間の地位格 差であるとするならば,測定すべきは生徒個人の 地位ではなく,所属グループの地位そのものであ る。例えば,高地位グループに属していてもその グループの中で低地位の生徒も存在するだろう。 そのような場合,仲間指名を用いた人気研究のよ うに,生徒個人の地位を測定することは,以下の 2 点の問題を孕むこととなると考えられる。第 1 に仲間指名で人気を測定することは客観的な指標 である利点はあるものの,その人気が反映する状 態は生徒個人の地位であることから高地位グルー

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定(e.g., Brown et al., 2008) で捉えること,貴島 ら (2017) のように複数の下位尺度で捉えられる 特性として考えること,森口(2007)の指摘する 「コミュニケーション能力」で類型化することは せず,人気研究のように直接的に捉えることがで きる点にある。類型的に地位を捉えることには, 「スクールカースト」の地位を決める要素には地 域性が存在するという指摘(堀, 2015) の他,学 校適応を類型的に捉えるときに存在する問題(大 久保, 2005) と同様の問題が存在すると考えられ る。例えば,学校が異なれば学習への適応が学校 適応に対して重要ではなくなる (大久保, 2005) 場合があるように,地位を決定する要素も,コ ミュニケーション能力などに限られず,学校や学 級で異なることが考えられる。特に,例えば,マ ルチレベル分析2)を用いて「スクールカースト」 と生徒の学校生活の関連性が学級でどのように異 なるか,構造方程式モデリングや媒介分析を用い て「スクールカースト」と学校適応の関連のメカ ニズムとなり得る変数を検討するなど,「スクー ルカースト」が与える効果の多様性の検討が可能 になる。第 3 に「スクールカースト」の研究に留 まらず,グループの有無,グループ間の地位,グ ループ内の地位という 3 つの側面から生徒の学校 生活のあり方を分析できるということである。例 えば,生徒の学校適応と一番関連するのは所属グ ループの有無,所属グループの地位,グループ内 での地位のどれであるかということを一度に扱う ことができる。それにより,グループ間の地位の 効果の検討が強調される「スクールカースト」研 究に留まらず様々な後続の研究が展開される可能 性を持つだろう。そのため,なるべく直接的に, そして単純に測定することが重要である。 この方向性で現在,「スクールカースト」 と学 校適応やいじめとの関連が検討されている(水 野・ 日 高, 2019; 水 野・ 加 藤・ 太 田, 2019; 水 いると回答する生徒が8割を上回る (石田・小島, 2009;武蔵・川村, 2016)。また,中学生男子は 所属グループが重複する一方で,女子ではグルー プは独立傾向にあることも指摘されている (石 田, 2002;楠見, 1986)。これらのことから,仲間 指名でグループの地位を直接尋ねても,所属グ ループが重複している生徒を被指名者とする場合 は,指名者が所属グループの地位を推定すること が難しいと考えられる。そのため,仲間指名を用 いるより,生徒の自己報告によって所属グループ の有無を尋ねた上で,所属グループがあると回答 する生徒に対しては,一番関わりのあると考える グループを想起してもらい,その地位を回答して もらう必要があるだろう。次に,所属グループの 地位だけではなく,グループ内での個人的な地位 も回答してもらうことによって,グループ内での 地位を統制変数として投入するなど統計的な処理 を通して,所属グループの地位の効果を検討する ことができる。この手法は自己報告であるので, 質問紙を用いて一斉に比較的短時間で実施可能で あり,仲間指名のように,被指名者や指名者の氏 名などの個人情報を収集する必要性がないという 利点も存在する。こうした手法によって,「ス クールカースト」での所属グループの地位と様々 な変数の関連を検討することができ,生徒を対象 とした「スクールカースト」研究を適切に実施し ていくことが可能になるだろう。 上記のように,「スクールカースト」を適切に 測定するには,生徒の自己報告を用いて所属グ ループの有無を尋ね,一番関わりがあり帰属意識 の高いグループを想起してもらい,集団間地位と しての所属グループの地位,個人間地位としての 所属グループ内での地位への回答を求め,そし て,分析の際にグループ内の地位の効果を取り除 いたグループ間の地位の効果を検討することが有 効であると考えられる。こうした手法を用いるこ とによる利点は以下のとおりである。第 1 に,質 問紙上での自己報告形式の質問項目によって簡便 に測定できるということである。仲間指名のよう に回答時間が長くならず,回答する生徒にとって も指名を行うことによる心理的負担がなく,被指 名者や指名者のプライバシーが守られる。第 2 に, 地位を直接的に捉えることである。具体的には, 地位をピア・クラウド研究と同様に社会類型評 2) マルチレベル分析とは,例えば「学級ごとに生徒をサ ンプリングしたデータ」というように階層構造を持つデー タ(まず学級がサンプリングされ,次にその中の生徒がサ ンプリングされる)を適切に分析するための手法である (e.g.,清水,2014)。データの階層性を考慮して分析する マルチレベル分析は,例えば学級によっては個人の自己価 値の随伴性と自己調整学習方略の関連性が変化するという ように (大谷ら, 2012),学級差を考慮した研究に活用され ている。

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点で,ピア・クラウド研究とも類似することも明 らかとなった。しかしその一方で,個人ではなく 集団の地位という点で認識された人気とは異な り,学級内での実態のあるグループの地位である という点でピア・クラウドとも異なっている。そ して,「スクールカースト」 を研究する際には, 生徒の自己報告を用いて所属グループの地位と所 属グループ内での地位を同時に測定し,分析でグ ループ内の地位の効果を取り除いたグループ間の 地位の効果を検討することが有効であることにつ いて研究例を示して議論した。 4.1 「スクールカースト」を研究する意義 「スクールカースト」 を研究することは, これま で十分に実証的に研究がなされていなかった「ス クールカースト」の研究知見を蓄積するという点 以上に意義のあることであると考えられる。とい うのも,これまでの日本における学校適応感研究 やいじめの研究で友人関係が扱われる際にも,特 定の友人や,不特定多数の友人関係,またはグ ループ内の関係性が扱われていたからである。例 えば学校適応感研究では主に,特定の親友(中 井, 2016) やその他友人との関係(岡田, 2006; 岡田, 2008;大久保, 2005),またグループ内の関 係性(有倉, 2011)が学校適応感を向上させるこ とを明らかにしてきた。 また,いじめの研究でもグループ内がいじめの 温床である (鈴木, 2000) という指摘や,グルー プ内で起こるいじめは,いじめを受けてもグルー プの外に出ることが難しいため,解消が難しいと されている (三島, 1997) こと,親友からいじめ を受けた児童ほど友人関係の満足感が低い(三 島, 2003) というように生徒個人やグループ内に 焦点が当たる研究が多かった。すなわち,生徒が 所属するグループそのものが,生徒の学校適応感 やいじめの被害・加害にどう関連するかが十分に 検討されてこなかった。「スクールカースト」概 念を用いることで,グループの有無,グループ間 の地位,グループ内の地位といじめとの関連を総 合的に比較することが可能になるだけではなく, グループという視点からまた新たにいじめの問題 を検討することもできるだろう。また,仲間集団 の研究やピア・クラウドの研究が存在するもの の,これまでの研究においては,例えば,水野ら 野・太田, 2017)。これらの研究では,自己報告 の質問紙で所属グループの地位を「私の所属する グループはクラスで中心的だ」という質問への 5 件法による回答で中学生の「スクールカースト」 での地位を測定している。水野・太田(2017)や 水野・日高(2019)では,同時にグループ内の地 位も測定することで,可能な限り所属グループの 地位そのものによって学校適応感もどのように変 わるのかを検討しており,基本的に所属グループ の地位が高い生徒ほど学校適応感も高いことを明 らかにしている。具体的には,所属グループの地 位と学校適応間の関連に関して,構造方程式モデ リングによって社会的支配志向性という集団間の 格差関係を肯定する価値観が媒介していること (水野・太田, 2017),マルチレベル分析によって 関連性には学級間で違いが見られ,学級によって は所属グループの地位と学校適応感は関連しな いこと (水野・日高, 2019) を明らかにしている。 また,「スクールカースト」といじめの関係につ いては水野ら (2019)が所属グループの地位とい じめ被害・加害ともに有意な関連性は一部見られ るものの関連性の低さ(|ρs|<.10) から実質的な 関連はないことを報告している。このように,自 己報告という調査方法ではあるが,それによって 得られる利益も多い。例えば,自己報告式の質問 紙で測定するため,比較的短い時間で効率的に測 定することができたり,分析の際には多変量解析 を用いる事で複数の変数間の関連を明らかにする ことができたり,マルチレベル分析を用いること で学級による関連性の差異を明らかにできるとい う利点がある。

4.本研究のまとめ

本研究では,「スクールカースト」の概説およ び,人気研究やピア・クラウド研究との類似点や 差異を述べ,これからの「スクールカースト」研 究を行う際の研究案を紹介し議論した。その中 で,「スクールカースト」が学級内の友だちグ ループ間の地位格差であり,「スクールカースト」 での地位とは所属するグループの地位であり認識 された人気と類似する点が多いことを述べた。ま た「イケてるグループ」や「イケてないグルー プ」 というようにグループの類型化がされている

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クールカースト」が扱う所属グループ間の地位格 差を反映しつつ,簡便に測定することが可能であ り,複数の多変量解析を用いて,「スクールカー スト」と学校適応の関連のメカニズムを精緻に検 討することができるという利点を挙げた。 もちろん,本研究が提案した手法は自己報告で あり,「生徒自身は自分のグループのことをどう 思っているか」しか把握できず,客観的に他の生 徒から見てどの程度の地位のグループに属してい るかどうかということは十分に反映できるわけで はない。石田(2017)が「単に児童生徒個々人の 頭の中に存在する仲間集団やグループのカテゴリ 化 や そ の 序 列 化, 階 層 化 の 認 識 に す ぎ な い」 (p. 23) と指摘したように,あくまでも主観的な 測定方法である。そのため,その他の研究の方向 性としては認識された人気のように仲間指名を用 いて所属のグループの地位を測定することや,イ ンタビューから生徒のグループの類型を作成し, 質問紙で回答してもらうという方法もあるだろ う。また,仲間関係のネットワーク構造を客観的 に測定する方法としては,仲間指名を用いる他に も,他の生徒との web 上でのネットワーク構造 (黒川ら, 2015) や,学級内での社会認知的マッピ ング (石田, 2012) から測定する方法もあるだろ う。もちろん,仲間指名を用いる場合は倫理的問 題から容易ではないと考えられる。そのため実施 する際には,教職員,子ども,そして保護者との 信頼関係を十分に築き,十分な説明を行った上で 全員からインフォームド・コンセントを得ること は当然であるだろうし,実施の際もネガティブな 項目 (e.g., 仲が悪いのは誰か) を用いないなどの 配慮が必要だろう。複数の方法から多面的に「ス クールカースト」の実態を明らかにし,学校適応 やいじめなどの変数との関連を検討することが必 要になってくるだろう。 謝 辞 本論文の執筆にあたり,北海道大学の加藤弘通先生, 小内透先生,篠原岳司先生,大久保智生先生(香川大 学),鈴木翔先生(秋田大学),そして審査の過程で査 読者の先生方にたいへん貴重なコメントを賜りました。 また,英文要約は岩田みちるさん(北海道大学)にご 確認いただきました。上記の方々に心よりお礼申し上 げます。 (2019)では人気研究とピア・クラウド研究の間 だけでなく,これらと「スクールカースト」との 差異を十分にレビューして扱えていなかった。人 気研究やピア・クラウド研究と「スクールカース ト」研究との違いを議論することは,学校適応や いじめについて論じるときに,所属グループその ものが生徒の学校生活にどのような意味を持つの かということを明らかにしてくれるだろう。そし て,実際の所属グループそのものが生徒の学校生 活に与える影響を通して,人気研究やピア・クラ ウド研究にも新しい視点を提供できるだろう。 4.2 総括と展望 本研究では「スクールカースト」と呼ばれる学 級内でのインフォーマル・グループ間の地位格差 が生徒の学校生活に与える影響を解明するべく, 仲間関係研究との差異を取り上げながら,どのよ うに研究を進めるべきかという提案を行った。学 級・学校内における社会的地位研究の中で,人気 研究は,ソシオメトリック人気と認識された人気 の 2 種類があり,「スクールカースト」は認識さ れた人気と類似した概念であることが明らかと なった。しかし,認識された人気は個人間の地位 を測定しているのに対し,「スクールカースト」 は所属グループ間という集団間の地位を扱うとい う点で異なることも明らかとなった。そのため, 認識された人気で明らかになったことがそのまま 「スクールカースト」に当てはまるかは不明であ り,認識された人気のような測定方法を「スクー ルカースト」研究で行うことは難しいことも明ら かとなった。また,ピア・クラウドの研究から は,欧米やシンガポールではインタビューを通し て生徒の類型を作成し,自己報告または仲間指名 によって生徒を類型化しているとう点で「スクー ルカースト」と類似しているが,学級内の実在集 団を対象とはしていない点で「スクールカース ト」でのグループの地位とは異なる。また,学級 ごとのピア・クラウドの多様性も十分に考慮する ことが難しい。そのため,ピア・クラウドの研究 知見も「スクールカースト」に直接用いることは 難しいということも明らかとなった。以上のこと から,本研究では自己報告によって所属グループ の集団間地位とグループ内での個人間地位を同時 に測定する方法を提案した。これによって,「ス

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