美味技術学会誌 17(1):29-32,2018
企業のニーズに合わせた研究開発・技術支援事例
福田嘉和
*1 [キーワード] 愛知県,公設試験研究機関,食品工業,技術支援,商品化 1.はじめに あいち産業科学技術総合センター食品工業技術センタ ーは,昭和 31 年に開所し,平成 28 年に設立 60 周年を迎 えました。 愛知県は,輸送機械を始めとした工業製品出荷額で,昭 和 52 年から最新統計結果の平成 26 年まで,38 年間連続 首位を保っています。食料品については,2 兆 2,144 億円 の出荷額を有しており,全国で第 3 位となっています。ま た,県内の事業所数は 1,441 ヵ所,従業者数は 65,716 人 と重要な県内産業の一つとなっています。 食品工業技術センターでは,技術相談指導,依頼試験, 研究開発の三本柱に加え,人材育成,情報発信,試作評価 を業務として行っており,地域企業の技術課題解決を支援 しています。 本稿では,企業からの技術相談あるいは,企業ニーズに 基づき実施した研究開発の成果として,試作,商品化に結 びつけた事例を紹介します。 2.技術支援事例 1)冷凍発酵製茶法による新しい発酵茶「凍茶」 (1) 背景 愛知県は,抹茶の原料となる碾茶の生産が盛んで,品質 の高い一番茶での生産量は,京都府に次いで第 2 位の産地 となっています(平成 25 年産碾茶生産量,出典:農林水 産統計,全国茶生団体連合会調査)。 碾茶生産者から,「秋季の整枝葉を活用したいが,硬葉 化しているため,新葉に比べて加工性が著しく低い」とい う相談を受け,新たな加工法を検討しました。 (2) 支援内容 茶葉の加工工程は,図 1 のように,緑茶,烏龍茶,紅茶 ともに,萎凋,揉捻という茶葉の組織(細胞)を破壊した り,茶葉の形状を整える工程があります。 硬化した茶葉ではこれらの工程が難しいため,凍結によ って細胞膜を破るという加工法を取り入れました。 茶葉が凍結すると葉の細胞内の水分が凍って容積が大 きくなり,細胞膜が破れ,カテキン類(柵状組織の細胞に 多い)とこれを酸化するポリフェノールオキシダーゼ(上 皮層細胞に多い)が接触し急激に酸化(発酵)を起こします。 この製法による「凍茶」は発酵茶ですが,緑茶に近い独 特の香りを持つという特徴があります。 冷凍発酵製茶法の特徴としては,多量の生葉を摘採して も冷凍保存できるため,作業集中が避けられる。萎凋や揉 捻工程を持たず,そのための設備を要しないなどの長所が あります。 短所としては,冷凍庫の稼働のためのエネルギーコスト が上乗せになる。揉捻を行わないことから,茶を抽出する ときにやや成分が抽出されにくい傾向にあることがあげ られます。特別講演
*1 あいち産業科学技術総合センター 食品工業技術センター(現 共同研究支援部):〒451-0083 愛知県名古屋市西区新福寺町 2-1-1 写真 1 食品工業技術センター 図 1 茶の種類と製茶方法 29(29)(3) 商品化 安城市の富光園が平成 22 年に商品化し,安城市内の道 の駅,刈谷市のハイウェイオアシスなどで販売しています。 なお,実際の製品には秋整枝葉ではなく,主に 6 月末~7 月末の摘採葉を使用しています。 2)県内のサクラの花から分離した酵母を使った米粉パン (1) 背景 地元産の米粉を使った米粉パンの製造販売している企 業から,花酵母を使用して「和」のイメージを持った米粉 パンを作りたいとの相談を受けました。 (2) 支援内容 センターが保有していたサクラ酵母を提供したが,従来 法では米粉パンの製造は難しかったので,パン種培養条件 の検討などを支援し,商業ベースでのサクラ酵母米粉パン 製造法を確立しました。 (3) 商品化 岡崎市の四季パン工房が「サクラ酵母米粉パン(こめっ 子桜)」を商品化しました。 さらに,岡崎市制 100 周年にあたる平成 28 年春に開花 した岡崎城周辺と,近隣の法蔵寺の桜から新たに採取した 酵母を提供し,「岡崎城下家康公夏まつり」などで試験販 売しました。 3)愛知県産紫黒もち米を用いた「赤色みりん」 (1) 背景 愛知県は,三河みりんの伝統的産地で,事業所数は全国 第 1 位,出荷数量は全国第 4 位を占めています(平成 26 年工業統計)。 みりんの品質は画一化しているため,消費者の選択の幅 をひろげる新タイプのみりんを開発し,市場にアピールし たいとの期待があります。 (2) 支援内容 愛知県農業総合試験場が育成した紫黒もち米と焼酎麹 を用い,赤い色調,クエン酸による新規な呈味性,アント シアニンによる機能性を持つ新タイプのみりんを開発し ました。 (3) 商品化 ① 神杉酒造株式会社(安城市)「Cremisi(クレミシ)」(平 成 21 年)(写真 4 左) ② 杉浦味淋株式会社(碧南市)「SAKURA アモーレ」(平成 29 年)(写真 4 右) 写真 2 凍茶 図 2 サクラ酵母を使った米粉パンの製造法 写真 3 サクラ酵母を使用した米粉パン 図 3 赤色みりんの機能性 写真 4 赤色みりん 美味技術学会誌 第 17 巻 1 号(2018) 30(30)
4)DNA 検査で異物(動物毛等)を判定する動物の識別用 プライマーキット (1) 背景 2000 年頃から食品中の異物の分析依頼・混入原因の相 談が急増し,年間 300 件程度の相談を受けるようになりま した。この内,5~8%が動物毛によるもので,従来は顕微 鏡を用いた形態観察により判定を行ってきましたが,より 明確な判定をするため DNA 検査の併用を検討しました。 (2) 支援内容 動物種を PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)で検出するプラ イマーキットを開発しました。 動物種は,家畜 6 種(牛,豚,鶏,馬,羊,山羊),ペ ット 3 種(犬,猫,ウサギ),ネズミ 3 種(ドブネズミ, クマネズミ,ハツカネズミ)の計 12 種です。 (3) 商品化 株式会社ベックス(東京都)から「動物の識別用プライ マーセット」として販売(平成 22 年)。 5)超音波イメージング異物検査装置 (1) 背景 アルミラミネート,蒸着フィルムで包装したレトルト食 品などは,特に軟質の異物検出が難しいという課題があり ます。 (2) 支援内容 高速かつ高分解能測定を可能としたマルチ受信用振動 子を用い,食品の異物検査,具材の入れ忘れ検査などに利 用できます。 「知の拠点あいち重点研究プロジェクト(Ⅰ期)」で企 業,大学と共同開発しました。 6)花酵母を使った地域色豊かな清酒 (1) 背景 地域産業資源を有効利用し,地域性を活かした製品開発 への期待が高まり,各地の商工団体等から花酵母を利用し た清酒づくりの相談を多く受けるようになりました。 (2) 支援内容 地域の特色ある花から花酵母を採取し,菌種,安全性を 確認して提供することで,通常の清酒酵母とは異なる味わ いと付加価値の高い清酒を商品化しました。 (3) 商品化 ① おおぐち(五条川桜:大口町商工会,勲碧酒造(株)) (平成 21 年) ② 藤華(曼陀羅寺公園の藤:江南商工会議所,山星酒造 (株))(平成 22 年) ③ なごみ桜(名大八重桜:名古屋大学,盛田(株))(平 成 22 年) ④ 華名城(名城大農場カーネーション:名城大学,原田 酒造(資))(平成 25 年) 図 4 プライマーキットによる動物毛分析の概要 写真 5 動物の識別用プライマーキット 図 6 新規清酒酵母に求められる条件 写真 6 超音波イメージング異物検査装置 図 5 模擬異物を混入したレトルトパックの観察 福田:企業のニーズに合わせた研究開発・技術支援事例 31(31)
⑤ 愛してる(萬三の白モッコウバラ:萬三商店,中埜酒 造(株))(平成 26 年) ⑥ プリンセスギンコ(そぶえイチョウ:祖父江町商工会, 内藤醸造(株))(平成 27 年) ⑦ 岡崎城五万石ふじ(岡崎公園ふじ,丸石醸造(株)) (平成 28 年) 写真 7 花酵母を使った清酒 美味技術学会誌 第 17 巻 1 号(2018) 32(32)