Author(s)
小西, 吉呂; 外間, 淳也
Citation
沖縄大学法経学部紀要 = Okinawa University JOURNAL
OF LAW & ECONOMICS(25): 1-19
Issue Date
2016-03-31
URL
http://hdl.handle.net/20.500.12001/19905
1.はじめに 近年、知的障がいまたはその疑いのある刑務所等矯正施設入所者の存在が注目されている。これ は、矯正施設における彼らの処遇が困難であるばかりではなく、矯正施設出所後の彼らの社会復 帰に関する困難に起因していると考えられる。端的には、司法と福祉の狭間に置かれた知的障が い者やその疑いのある者(以下「知的障がい者等」略称する)に対する司法と福祉の連携に関する困 難と表現することができ、わが国の刑事司法が抱える大きな課題の一つとなっていると言えよう。 この問題について、全国77の矯正施設(刑務所及び少年刑務所、ならびに支所を含む)を対象 に調査及び分析を行った法務総合研究所の報告1に基づき概観すると、次の事項を指摘すること により知的障がい等を抱える受刑者等の問題点を明確にすることができる。すなわち、①障がい 福祉サービスを受給する根拠となる療育手帳を取得していない、あるいはあえて取得しない者が 多く、②地域生活定着支援事業のサービスを受けるための特別調整を希望しない者も多いため、 適切な支援を矯正施設出所後に受けていないことから、③入所度数5度以上の多数回受刑者が多 いのが現状であり、また、④特別支援教育を受けたことがある者も4割弱に止まっている点にも注 目すべきであろう2。さらには、住居や配偶者等との交流、就労といった一般的な生活環境におい ても、⑤不遇な環境に置かれている知的障がい等受刑者が多くを占めていることが報告書の中で は指摘されている3。 このようにして見ると、知的障がい者等が犯罪に至った背景や動機をすべて彼らの責任の名の 下に押し付け、刑罰を科すことが妥当であるかについては、率直に疑問を禁じざるを得ない。な ぜならば、高齢受刑者と同様に、知的障がい等受刑者には、その障がいの特性のため、上述の問 題が深刻的かつ重複的に現れており、社会の中でより配慮を要するものと考えられるからである。 このため、従来の刑事司法領域の枠を超え、福祉領域との連携・協同が重要視され、その課題の 【論文】 キーワード:知的障がい 再犯 司法福祉 地域生活定着支援センター 特別支援教育 A Study on the Prevention of Re-Offending and Offenders Rehabilitation for Persons with
Intellectual Disabilities. 小 西 吉 呂* Yoshiro KONISHI 外 間 淳 也** Jyunya HOKAMA
知的障がい者等の再犯防止及び更生保護に関する研究
― 特別支援教育から社会復帰施策までを視野に入れて ―
克服が喫緊のものと認識されているのである4。 なお、犯罪を予防するための連携・協同といった取組みは、何も刑事司法と福祉に限られたも のではない。わが国においても近年、犯罪の「事前予防」の観点から、この問題はより学際性を 求められる領域になりつつあり5、「犯罪学だけでなく、社会学、心理学は勿論、都市工学、地 理学などさまざまな分野からの参入が見られ、多くの研究領域の対象となりつつある」6ことが 指摘されるに至っている。 刑事司法と福祉の連携といった課題について考える際、例えば、軽自動車を盗んだとして起訴 された重度の知的障がいを有する被告人に対して、京都地方裁判所が心神喪失による無罪を言い 渡した事例が印象的である。この件について、ある新聞は、無罪判決を受けた被告人に関与して いた福祉関係者が急遽支援体制を整備した様子を報じている。これは、実刑判決が下されると見 込んでいたためであるが、記事の中では、「『福祉が継続して関わり、人間らしい生活を送らせれ ば、本人は変わるはずだと信じている。でも、私たちも答えが分からないまま支援を続けてきた』。 職員は苦渋をにじませる」7と記されている。また、「罪を罪として償うためにも、地域に納得し てもらうためにも、今回は無罪にならない方がいいのかもしれない」という「関係者が絞り出し た言葉は図らずも福祉の『限界』を示していた」とされている。この指摘を筆者らは、重く受け 止めなくてはならないであろう。 筆者らは、何らかの困難を抱えた刑務所等矯正施設入所者の社会復帰に注目し続け、ささやか ながらも、いくつかの論考を発表した8。一連の研究を通して見えてきたのは、社会において保 障されているはずの権利を自らの障がいが原因あるいは遠因となって享受することができず、不 幸にも犯罪に至ってしまう者達の存在である。 このことは、発達障がいやそれに類似する困難を抱えた非行少年に対する特別支援教育の有用 性を強調した筆者らの論考9おいて、とりわけ印象的であった。上記の法務研究所の調査報告に おいても、特別支援教育を受けたことのある知的障がい受刑者が4割に満たない点をわざわざ指 摘していることからも筆者らの主張に説得力が伴うものと思われる。すなわち、彼らは、教育を 受ける権利(成長発達権)すら満足に保障されてこなかった者達であると言い換えることができ るのである。ここで言う「成長発達権」とは、さしあたっては「子どもが<主体的に善を構想し 自ら自己の生を切り開く個人>であると同時に<公益のために他者と協同しうる個人>へと成 長」10することを保障する子どもの権利として措定しておきたい。 そうであるとするならば、知的障がい等を抱える受刑者等をその生涯にわたって犯罪者として 社会から排除するのか、それとも犯罪歴があってもわれわれの一員として社会の中で包摂してい くのかが問われているとも言えよう11。そもそも、知的障がいとは、その知的水準の著しい制約 だけではない。その者を取り巻く環境への適応能力の制約といった理解が浸透しつつある現状を 踏まえると、絶対的な個人の特性ではなく、したがって適切な支援さえ提供できるのであれば、 彼らの困難を改善あるいは緩和できる可能性も否定されないのである12。加えて、上述の成長発 達権の理解に即するならば、彼らは自らの障がいの特性ゆえに主体性の獲得に困難があるばかり でなく、特別支援教育を受けた経験を持たない6割の者たちについて言えば、その主体性を獲得 する機会すら満足に与えられてこなかった者たちであると指摘することができると思われる。 また、前述の「事前予防」の観点からすれば、犯罪に至る以前の段階からどのようにして適切
な環境を整え、適切な支援を提供できるかが問題となる。上記の者たちとの関連で言及した場合 には、知的障がい者に対しては、例えば特別支援教育による早期の支援体制の整備が有効であり、 犯罪少年に対しては、少年自身に対する働きかけはもちろんのこと、その親世代の雇用対策が有 効であると言えるのではないであろうか。したがって、犯罪予防の取組みをもっぱら刑事政策に 頼るのではなく、他領域間の連携・協同に求められるのである。 本稿では、以上の問題意識に基づき、知的障がい等受刑者の社会復帰について考察することを 目的としている。「犯罪者の権利そして犯罪者の生活の向上がひいては私たち一人一人の権利と 生活の向上にもつながる。このような視点に立った施策の実施を国に要求することの正当性と妥 当性を論じることが、あるべき刑罰論、刑務所論ではないか」13という示唆に対して、本稿の試 みがわずかなりとも寄与できれば幸いである。 2.刑事責任論及び刑罰論に関する基本的理解 筆者らの一連の研究は、当初、触法精神障がい者の刑事責任能力の問題から始まり、彼らに対 する医療観察制度を経て、彼らの社会復帰に関するものへと関心領域を広げてきた。その中で確 信しつつあるのは、理論刑法学的視点から、本人の規範意識に対する働きかけにより、犯罪を抑 止することを志向する規範的責任論を拠り所とする相対的応報刑論の危機ともいうべき事態に直 面しているということである。このことは、行為者の規範意識の欠如をわれわれが非難できるほ どに、社会全体は健全なのか、という疑問を払拭できないと言い換えることができる。この疑問 は、規範的責任論に基づく相対的応報刑論の理論的妥当性を否定しない。しかしながら、上述の 累犯知的障がい者の例は、それでも彼を非難できるのかという問いを投げつけているほんの一例 に過ぎない。 奇しくも、筆者らが在住する沖縄の現状が、この確信を強固なものとする契機を与えたように 思われる。と言うのも、沖縄県内における犯罪少年の再犯者率が高水準で推移していると地元紙 が報じ、その背景として、「…専門家は少年らの貧困や暴力被害、ネグレクト(育児放棄)など 成育環境」が指摘され、また、「全国一の再犯者率を『他県に比べ高い貧困率の反映』」とする指 摘もなされている14。さらには、「子の貧困率沖縄37%」という深刻な状況を地元紙が報じたこ とは、衝撃的ですらあった15。 ところで、筆者らはかつて、「刑罰権行使の契機を違法行為に対する非難可能性と解し、また、 刑罰を行為者に対する害悪の賦課と解することと、その害悪としての刑罰を通じた行為者の改善・ 矯正を考慮することとは矛盾するものではない」16と刑罰の在り方を規定した上で、「ここでいう 『害悪』とは、国家権力としての刑罰が受刑者等の自由ないし権利を制限するという意味での『害 悪』であると解され、故に法に則った形での『害悪賦課』である。いたずらに苦痛を科すことに 終始することは許されず、犯罪抑止の目的を志向しなければならないはずである」17と主張した。 矯正施設入所者等の社会復帰という刑事政策的課題と犯罪論体系における刑事責任論との関係 を論じる際、いわゆる社会的責任論に陥ることをいかに回避するかが問われ得るが、上述の刑事 責任論及び刑罰論の理解を徹底することにより、この疑問に応えることが可能であると考える。 それにはまず、刑事責任能力の内容や体系的位置づけ等に関する筆者らの理解を端的に示してお く必要がある。と言うのは、かつての社会的責任論を採る立場から主張された「刑罰適応能力(刑
罰適応性)」が責任能力の本質であるとする趣旨の見解、及びこの系譜に連なる見解を筆者らは 否定しているからである。行為者の違法行為に対する「非難可能性という回顧的な概念が刑罰権 発動の契機であることを認めつつ、犯罪の予防という展望的な視点から犯罪者を矯正・改善する ことを可能とする刑罰論として、相対的応報刑論が妥当である」18とする理解に依拠する限りに おいて、(「責任要素説」との間に争いがあるものの)責任能力はまず刑事責任を負うに足る「人 格的能力」として把握されなければならないと考える。また、刑事政策的要請が行為者の責任判 断の第一義的な意義であることを認めるのであれば、安田拓人教授が「犯された不法が軽微であっ ても、再犯の危険性が高ければ、それを改善・矯正するために必要な期間、自由を拘束して処遇 を行うことこそが理論的帰結となろうが、やはり、犯された不法とそれに対する制裁は均衡がと れたものでなければならないのであり、特別予防の必要性だけに着目する見解は、そのことの理 由づけを提供できない」19と批判されているように、保安処分に陥る余地を残している。反対に、 通説的な責任論に立脚する安田教授の見解は、刑罰抑制原理としての地位を刑事責任論に与える ものであって、妥当であると考える。 すなわち、筆者らの依拠する刑事責任論とは、行為者の「期待可能性」という規範的評価を基 礎に置きつつ、「~すべきでなかった」「~すべきであった」と行為者に対してわれわれが言及し 得る場合に責任非難を向けることができるという理解に立つものである。そして、その責任非難 の前提となる行為者の人格的能力として責任能力を位置付けることが、社会的責任論との分水嶺 となろう。このような立場からであればこそ、刑事責任を刑罰抑制原理として破綻なく説明する ことができ、ひいては、行為者の社会復帰を志向するための各種取組みを保安処分から分かつも のとして説明することができるものであると考える。 上述した論理の帰結として、例えば知的障がい等を抱えた行為者の刑事責任判断において、知 的障がいという困難が行為者の責任能力に与えた影響や刑事政策的要請をどの程度反映させるの か、といった議論は可能であると思われる。また、現状、相当程度に重い知的障がいを有する場 合に心神喪失の判決が下されていることを鑑みると、彼らにも非難可能性を認めうる主体性の存 在を肯定できると言い換えることも可能であり20、そこから刑執行後あるいはその前段階からの 福祉的支援への架橋が可能となっている。 他方で、責任能力を社会的責任論に則して刑罰適応能力と理解した場合には、行為者の非難可 能性が度外視され、刑事政策的要請が第一義的に考慮されることになる。責任能力を否定される ことによる知的障がい等を抱える行為者の主体性の否定、ひいては社会的排除の助長に繋がりか ねないという懸念を払拭しきれず、やはりこれに賛同することはできない。また、専ら刑事政策 的な観点から知的障がい者の主体性を否定することは、近年の障がい者福祉全般が利用者本人の 自立の観点から、支援費制度の導入によって利用者の自己決定によって受給する支援を決定する といった、これまでの措置制度から大きな転換を図ったことからも妥当ではないと言えるのでは ないであろうか。 このように、刑事責任と刑事政策との理論的な整合性といった課題が浮き彫りになる分野に あって、上述の刑事責任論及び刑事責任能力論、並びに刑罰論に関する基本的姿勢を堅持しつつ、 知的障がい等を抱える矯正施設入所者等の社会復帰について言及していくことが本稿における最 大の目的である21。
3.刑事施設入所者の現状 本稿の中心的課題である知的障がい等を有する受刑者の社会復帰に関する議論に先立ち、刑務 所等の矯正施設における入所者の状況を概観することが有益であろう。その理由は、知的障がい 等を抱える受刑者の有する困難が、彼らに固有のものではなく、少なくとも刑事施設入所者等全 体の更生にとって一定程度共通していると考えているからである。ただし、後述するように、知 的障がい等を抱える受刑者については、その障がいの特性が原因となって、知的障がいを抱えて いないと言う意味での一般の矯正施設入所者よりも、深刻な様相を呈していることが問題の核心 であろうかと思われる。 2008年の更生保護法施行から8年が経過しようとしているが、本法が成立した意義について は、次のようにまとめられている。法務省保護局の吉田研一郎氏によれば、更生保護法施行後で は、仮釈放者及び保護観察付執行猶予者の割合が上昇しており、保護監察官の役割が比例して重 要になっていること、所在不明中の保護観察対象者の数が警察との連携によって減少しているこ と、更生保護施設への委託率が年々上昇していることに伴って施設数が足りず、これを補うため に自立準備ホームが制度化されたこと、後述の地域生活定着支援センターが充実していること、 不良措置の件数が減少していること、保護司の数が年々減少していること等が取り上げられてい る22。この状況については、概して、更生保護の重要性が、とりわけ再犯防止を根拠としてその 充実が図られつつも、既存の人的資源及び物的資源の限界が同時に浮き彫りになってきたものと 評価できると思われる23。 次に、2015年度版犯罪白書をみると、刑事施設の収容人員は、2006年に81,255人を記録したも のの、翌2007から減少傾向に転じて以降毎年減少し、2014年には60,486人となっていることに注 目したい24。わが国の刑事施設における受刑者の状況を顧みたとき、われわれの共通認識として 定着しつつあるのは、受刑者全体の人員は減少し続けているものの、再入受刑者の割合が上昇し 続けているということである25。2015年度版犯罪白書においても、再入者の人員は、2006年をピー クにして、その後は減少傾向が継続して見られ、2014年には12,974人にまで減少しているが、再 入者率については、2004年から毎年上昇し、2014年には59.3%に上ることを確認することができ る26。これは、新規入所者の減少幅のほうが再入者を上回っていることによる。 この現象は、成人のみならず、非行少年についても同様に観察されている27。したがって、再 犯の予防がわが国の刑事政策の喫緊の課題であり、その解消に向けての活発な議論や熱心な取組 みが展開されている。実際、わが国の刑事施設において様々な取組みが実施されているが、本稿 の課題との関係でとりわけ注目されるのが、就労支援及び福祉的支援であろう。 刑務所出所者等に対する就労支援については、最近ではマスメディアなども折に触れて報道し ており28、徐々にではあるが国民の関心が高まりつつあることが窺われる。具体的には、無職で 保護観察を終了した者の再犯率と有職で保護観察を終了した者の再犯率を比較した場合、2002年 から2011年までの累計でそれぞれ36.3%と7.4%となっており、無職者の再犯率は有職者のそれ よりも約5倍程度高いという分析結果が、刑務所出所者等に対する就労支援の重要性を痛感させ るひとつの例として挙げられる29。また、入所受刑者の就労状況別の構成比において、5度以上 入所している受刑者に占める無職の者の割合は72.2%と非常に高いことがわかっている30。 上述の刑務所出所者等に対する就労支援対策については、まず、刑事施設における職業訓練が
最も基本的なものとなる。現在、63の刑事施設で27種目の職業訓練が行われているとされている31。 法務省(刑事施設及び少年院)と厚生労働省(公共職業安定所)との連携のもと、2006年度か ら実施されている刑務所出所者等総合的就労支援対策を皮切りにして、地方公共団体等も含めて 様々な施策が実施されている。また、2014年12月の犯罪対策閣僚会議においては、東京オリンピッ ク・パラリンピックが開催される2020年までに、協力雇用主の数を現在の3倍にする数値目標が 盛り込まれたことにより、2015年度からは協力雇用主に対して奨励金制度等が創設され32、官民 連携のさらなる推進が図られている。ただし、雇用のミスマッチがこの分野でも生じていること が指摘されており、単純に協力雇用主の数にこだわるのではなく、豊富な業種の中から刑務所出 所者等が職業を選択できる機会を提供することも求められる。この課題に対する取組みとしては、 前述した職業訓練における職業訓練種目の見直33し等が挙げられる他、2013年2月に発足した「職 親プロジェクト」は、その意味で期待も高い。これは、少年院出院者や刑務所出所者に就労体験 の機会を提供することにより、彼らの円滑な社会復帰を目指すものである。2015年4月の時点で、 20社が職親として参加している34。 上述の通り、刑務所等矯正施設出所者の就労支援については、さまざまな機関の連携が進み、 一定の効果が期待できるところであるが、就労以前の問題として、生活する上で何よりの基盤で あるところの住居、出所後の帰住先については、どのような状況なのであろうか。 2015年度版犯罪白書では、次のように記されている。すなわち出所受刑者の帰住先別構成比に おいて、仮釈放者(13,925人)は父や母を帰住先とする者の割合が36.4%と最も高く、続いて更 生保護施設等(30.2%)、配偶者(12.6%)の順で高い。満期釈放者(10,726人)では、「その他」 が過半数の53.1&を占めている。その他の帰住先とは、帰住先の不明、暴力団関係者、刑終了後 引き続き被告人として勾留、入国管理局への身柄引渡し等であるとされる。また、父や母を帰住 先とする割合も17.6%あり、その他の帰住先の次に高い割合を示している35。 以上、一般の刑務所等矯正施設出所者の現状を概観してきたが、本稿の対象である知的障がい 等を抱える者にとっては、上の状況がさらに深刻である。 4.司法と福祉の連携強化 前述したことからもわかるように、知的障がい等を抱える受刑者の場合、必要な福祉的支援が 行き届かず、再び刑務所等の矯正施設に戻ってしまうことが多い。この現状を少しでも好転させ るべく、「高齢又は障害により、福祉的な支援を必要とする矯正施設退所予定者及び退所者等に 対し、各都道府県の設置する『地域生活定着支援センター』が矯正施設、保護観察所等と連携・ 恊働しつつ、矯正施設入所中から退所後まで一貫した相談支援を実施することにより、その社会 復帰及び地域生活への定着を支援し、再犯防止対策に資することを目的」36とした地域生活定着 促進事業が2009年から実施され、地域生活定着支援センター(以下「「支援センター」と略称する) が全国で活動を始めた37。以下、支援センターの概要を「地域生活定着支援センターの事業及び 運営に関する指針」を参考してに特別調整を中心に見ていくこととする。 実際に業務を担う支援センターの人員は、社会福祉士や精神保健福祉士等の資格を有する者ま たはこれらと同様に業務を行うことが可能であると認められる者を1名以上配置するものとされ ており、6人体制が基本である。また、原則として、週5日以上、1日8時間が開所日時の目安
とされている。 地域生活定着支援センターの基本業務は、厚生労働省の「地域生活定着支援センターの事業及 び運営に関する指針」38に基づき、特別調整、一般調整、相談支援業務に大きく分類される。特 別調整とは、概ね65歳以上の高齢者や知的障がい等の障がいを有する矯正施設入所者であって、 「適当な帰住予定地が確保されていない者を対象として、特別の手続きに基づき、生活環境調整(更 生保護法第82条に基づき保護観察所長が行う入所者等の矯正施設退所後の住居、就業先その他生 活環境の調整)の整備を行う」ものである。なお、特別調整以外の調整が一般調整と呼ばれる。 特別調整の内容は、特別調整対象者と各種関係機関を繋ぐコーディネート業務、受け入れ先の 施設等確保後の手続、本人を受け入れた施設に対する助言等を行うフォローアップがある。一般 的には、矯正施設から保護観察所、次いで支援センターの順で手続が進められるとされている。 では、本稿の対象でもある知的障がいを抱えている矯正施設入所者であれば、直ちに特別調整 の対象となるかと言えば、そうではないことに注意が必要である。特別調整は、上記の「適当な 帰住予定地がない」、「生活環境調整の整備」を行う必要のある者といった条件を満たし、かつ本 人の同意を得ることができた場合に対象が限定されているのである。 以上、支援センターの主要業務である特別調整を概観したところで、その現状について見ると、 2014年に特別調整が終結した人員は690人であり、そのうち、知的障がい者は239人であった39。 支援センターが47都道府県ごとに1箇所設置(北海道は2箇所)されており、かつ少ない予算と 人員の中で他の業務をこなしていることを考えれば、決して少ない数ではない。このうち福祉施 設等に繋がった人員は477人であり、内訳は障がい者入所施設114人、医療機関61人、保護施設60 人、民間住宅55人、介護保健施設35人等であったとされている40。 今日の刑事政策は福祉を抜きにしては語れなくなっている。その中にあって、支援センターは 様々な視点から包括的な福祉的支援を実施しており、刑事政策や更生保護施策として、極めて重 要な位置付けを与えられつつある。 地域生活定着支援センターにおける取組みは、刑事司法及び福祉の関係各機関を巻き込み、 様々な影響を及ぼしている。その一例として、刑事施設において社会福祉士が配置されたことや、 2014年度から福祉専門官として常勤の社会福祉士等が配置されたことを取り上げることができ る。刑事施設に配置された社会福祉士は、主に受刑者に対する福祉制度に関する相談・助言、各 種申請手続きの援助等を行っており、また、特別調整を行っても福祉的支援に繋げることのでき なかった受刑者に対する個別の支援に努めているのも彼らである。 また、京都地方検察庁では社会福祉士会と連携し、「事案が軽微で、被害弁償がなされており、 前科がないなどの諸事情から起訴猶予処分が相当であっても、そのまま釈放すれば、再び同種犯 罪に及ぶおそれが高いときには、新たな被害を生まないため、再犯防止のために」、高齢者や知 的障がい者等の被疑者・被告人を対象とした「社会福祉士面談」と呼ばれる取組みが開始されて いる41。その面談の内容は、「社会福祉の知識を有し、相談援助のスキルを有する社会福祉士に よって、被疑者・被告人にとって真に必要な福祉的支援は何かを見極め、実質的に福祉につなぐ ための聴取」であり、また、本人の意欲換気も同時に行うものであるとされており、続いて、被 疑者・被告人の処分について、検察官は面談後の社会福祉士の意見や助言等を参考にしつつ、生 活保護の申請手続きを弁護士に依頼したり、家族に要介護認定の申請手続等の同行を依頼したり
しながら、総合的に諸事情を勘案したうえで最終的な処分を行っているとされている42。この京 都地検の取組みについては、地元紙においても掲載されている。記事の中では、「2014年9月に 送検された窃盗・傷害の被疑男性(70代)は初期の認知症と診断されていたが、面談した社会福 祉士が『症状が進行しており、高齢の妻も夫の介護で疲弊している。介護保険の要支援・要介護 認定を申請すべき』と助言。起訴猶予処分となった後に男性は要介護認定され、デイサービスに 週2回通い、安定した生活を送っているという」43といった具体例が挙げられ、反響を呼んでいる。 さらに、このような取組みは、全国各地で広まりつつあることを付言しておく44。 上述の地域生活定着支援センター及び京都地方検察庁における取組みは、刑事司法と福祉の 連携の必要性を良く表していると思われる45。より一層の充実が求められる中で、連携の在り方 にそのものに対する理論的な課題も近年では「刑事司法の福祉化か、福祉の刑事司法化か、が問 われる」46と指摘されている。すなわち、刑事司法の福祉化という在り方を促進した場合、「社会 復帰支援策の充実強化が一層強く求められる中で、司法と福祉の連携は『入口支援』に拡大し」、 例えば地域生活定着支援事業の対象となっている高齢者や知的障がい等の障がい者を司法手続か ら早期に離脱させる取組みが促進され、更生支援等を社会内で行うための枠組みが形成されるの である47。他方で、福祉の刑事司法化という在り方が促進された場合には、保護観察あるいは類 似の監督的役割が刑事司法の側に求められることとなり、端的に言えば、福祉的支援が司法の強 制力によって担保されるような制度が望ましいとされ、「強制的で社会防衛的なもの」に福祉が 変容する可能性を否定出来ない48。いかに、刑事司法と福祉が対等な立場から相互間的に連携し、 それを維持するのかが重要な課題となるであろう。 5.特別支援教育の重要性 わが国の刑事司法の課題として、近年、再犯の防止が掲げられていることは前述のとおりであ るが、実際のところ、一度でも矯正施設への入所歴がある知的障がい者の受け入れを快く承諾す る福祉施設は少ない。それは、民間の賃貸住宅においても同様である。また、福祉的支援を受け るために必要な療育手帳を所持していない、あるいは所持する意思のない者も多いことを考える と、安定した生活を送るための必要最低限を揃えることが知的障がい等を抱える矯正施設出所者 にとっては、とりわけ困難となろう。 上記の困難は、矯正施設の入所歴があるなしに関わらず、知的障がい等を有する者たちにとっ ては、ある程度共通していると思われる。知的障がい者福祉の歴史的変遷を次に概観してみると、 彼らの抱える社会的な困難が浮き彫りになる。まず、知的障がい者福祉の胎動期とされる明治末 期から昭和初期においては、知的障がい者の生活保障に関する行政的な支援はほとんど行われて おらず、彼らの生活的支援を担っていたのは、もっぱらその家族であったとされ、かつ、1940年 に成立した国民優性法が知的障がい者及びその他の精神病者の断種、隔離政策が急速に進展して いったとされている49。戦後に至ると、まず、傷痍軍人の問題を背景に「身体障害者福祉法」が 制定される。その一方で、知的障がい者福祉は、児童福祉法の中で知的障がい児童への対策が一 部展開されるにとどまり、成人についてはなおざりであったとされている50。しかし、知的障が いを有する児童の成長につれて、1958年頃から学校卒業後の知的障がい者への対策を要求する運 動が展開されるようになり、ようやく1959年の知的障がい者を対象とする「精神薄弱者援護施設」
の設置、1960年の「精神薄弱者福祉法(現知的障害者福祉法)」の制定を見ることとなった51。 しかし、重度の知的障がい者については、実質的に精神薄弱者援護施設の利用対象からは除外さ れている点で、まだまだ不十分なものであった。重度の知的障がい者が施設入所の対象となった のは、1967年の「知的障害者福祉法」の一部改正まで待たなければならなかったのである52。 しかし、このような法的整備によって、知的障がい者の施設福祉が滞りなく整備されたという わけではなく、むしろ、1970年代からは再び在宅での福祉へと移行していく。すなわち、学校卒 業後も就職できず施設にも入所しなかった知的障がい者たちへの対策に関しては、この頃の制度 は依然として未整備であり、これらの人々は行き場もなく在宅生活を余儀なくされていたと言わ れている53。このような在宅での福祉が推し進められる中で、1990年代に入ると、知的障がい者 自身が、自身の権利を主張することを主眼に運動を展開していく。そして、奇しくも「この運動 は、施設の存在を否定する強烈な『脱施設化』の主張を同時に含んでいたため、入所施設の存在 を軽視する」54風潮を助長させたとされるのであった。 近年の障がい者福祉においては、障がい者支援のあり方そのものが問い直されていると言われ ている55。具体的には、①個人の自立を基本とし、その選択を尊重した制度の確立、②質の高い 福祉サービスの拡充、③地域での生活を総合的に支援するための地域福祉の充実が示され、この 方針に沿って2003年に支援費制度が、2006年には障害者自立支援法が施行され、2013年には障害 者自立支援法が改正される形で障害者総合支援法が施行されている。支援費制度の導入により、 障がい者福祉は措置制度から契約制度に変わり、福祉サービスを利用するにあたっては利用者自 身がサービスを選択し、サービスを提供する事業者と契約することができるようになった。障害 者自立支援法では更に身体障がい、知的障がい、精神障がいの3障がいの施策を一元化すること で、利用者は障がい種別を問わず様々なサービスを受けることが可能になった。2011年の同法改 正では更に発達障がい者が法律の対象に加わり、障がい者福祉サービスはより幅広い人々が利用 できるようになった。また、障がい者が地域生活を送るうえでの相談支援の充実が図られ、2015 年3月までに障がい福祉サービスを利用するすべての利用者のサービス等利用計画の作成が義務 付けられている。このように、社会福祉基礎構造改革以降、近年の障がい者福祉は障がい者の自 立、地域生活を目的とし、障がい者の自己選択・自己決定を重視している。しかし、自己決定や 主体性の欠如に知的障がいの本質があるとするならば、どのような支援が求められるのかについ ては、困難が伴うと言われている56。 上記のわが国における知的障がい者福祉全般の歴史及び現状に対する指摘としては、①親離れ、 子離れの遅れ、②経済的不安、③経済的自立の困難、④介助者の心身の疲労、⑤親亡き後への不 安、⑥社会的経験の不足が大きく指摘されているが、刑務所等の矯正施設から出所した者にとっ てもこのうちのいくつかは、大きな課題となるのではないであろうか。前述した法務研究所の報 告は、「住居不定の者、結婚歴のない者、無職の者、義務教育段階までの者が多いなど、生活環 境に関する様々な負因を抱えている者が多いことがうかがえ、また、再犯期間に関連する要因の 分析においても、仕事があること、収入があること、住居があること、配偶者や親族等がいるこ とといった、社会復帰にとって重要な条件を満たす者が再犯期間が長い」57ことを指摘しており、 上述の知的障がい者全般が抱える困難と照らしても類似の困難が多いと言える。 このような歴史的変遷及び現状を踏まえた場合、当然のこととして、可能な限り犯罪に至らな
い手立てを講じる必要性が大きいと言える。すなわち、未然に犯罪や非行を防止するといった視 点である。このような視点から知的障がい等受刑者の矯正施設における実態をまとめた法務研究 所の報告を見ると、特別支援教育を受けた経験がない受刑者が6割に上る点に注目しなければな らない。また、同報告書は、「特別支援学級等の知的障害に対応する教育・福祉のサービスを受け た経験を有する者は必ずしも多くなく、家庭で実施するのが困難であろう教育訓練等を経ずに、 生活の自立を求められ、その結果、短期間に犯罪を繰り返し、多数回受刑に至ることを余儀なくさ れた者も少なくないのではないか」58としており、筆者らの次の指摘が一層妥当するであろうこ とを推測させる。 筆者らは、近時発表した論考において、発達障がいを有する非行少年に対する特別支援教育の意 義を主張した。この論考において「非行少年のうち、発達障がいを有している少年に対しては、非 行・犯罪の前段階で、早期発見・支援が有効であり、この有効な手立てを講じない理由はない」59と 指摘したが、筆者らは、本稿においてもこの指摘が的を射たものであると考える。すなわち、知 的障がいと発達障がいは、明確に区別することが非常に困難なだけではなく、両者の重複障が いの例も認められることから、高度に密接な関係性を有するからである60。また、両者ともに特 別支援教育の対象である61。加えて、両者は通常は幼児期に確認されるものでもある。そのため、 先の筆者らの表現を変えて、「矯正施設入所者のうち、知的障がいを有している入所者に対しては、 非行・犯罪の前段階で、早期発見・支援が有効であり、この有効な手立てを講じない理由はない」 と指摘し直すことも可能であろう。 また、憲法上の人権として保障されるべき子どもの「成長発達権」の保障という観点からも、 知的障がいを含んだ発達障がいを抱える児童生徒に対する早期発見・早期支援を可能にする特別 支援教育の介入は、理論的整合性をより強固なものとすることができると思われる。すなわち、 図1 特別支援教育 概念図(文部科学省 HP より)
筆者らは、すべての子どもに対して自律的な個人として必須となる主体性の確立、及び公益を担 う構成員として必須となる他人との協同を可能とする協調性の確立を志向する成長発達権の保障 を基礎に置き、これを障がいを抱える児童生徒に対する特別支援教育を受ける権利と理解し、こ れをもって未然に犯罪や非行を防ぐ手立て、「事前予防」の一環として構想したいと考える62。 なお、ここで言う特別支援教育とは、上の図63(図1)にあるように、知的障がいを含め合理 的な配慮を要する児童生徒に対する特別支援学校及び特別支援学級、並びに通常学級における指 導等による教育的支援を言う64。特別支援学校については、幼稚部から高等部まで設置されてお り、一貫した教育的支援が可能となっている。しかし、特別支援教室及び通常学級による指導は、 小・中学校でのみ実施されており、通常の高校では実施されていない。そのため、知的障がい等 を抱える児童生徒にとっては、高校進学の際に特別支援学校の高等部に進むか否かといった困難 な選択を迫られることとなろう。さらには、発達障がいを抱える児童生徒は特別支援教育の対象 ではあるが、特別支援学校の対象となっていないことにも留意する必要がある。 特別支援教育の有効性を示す一例としては、知的障がい者と発達障がい者が社会で働き続ける ためには、どのような能力や態度が教育によって養われる必要があるのかを明らかにしようとし た調査研究の報告が興味深い65。その中で、知的障がい者に5年以上同じ職場で働いている長期 勤務者が多いこと、発達障がいを抱える者は短期間で転・退職を繰り返している場合があること が指摘されている66。また、知的障がい者の最終学歴は特別支援学校と特別支援学校高等養護学 校を合わせると90%を超えている一方で、発達障がい者は高等学校普通科を卒業した人が多く、 このことから、知的障がい者では特別支援学校で教育を受け5年以上同じ職場で働き続けている 人が多いことが指摘されている67。この結果の違いは、特別支援学校における障がい特性に応じ た丁寧な指導の成果であると言えるのではないであろうか。これに対して、発達障がいについて は、特別支援教育の対象となってから日も浅く、特別支援学校で教育を受けることもできないの である。加えて、発達障がいについては、社会の理解も進んでいるとは言い難い現状の反映とし て、知的障がい等を抱える者よりも高い離職率を示していると考えることができると思われる。 成人した知的障がい等受刑者についても、様々な社会的・環境的困難や自身の身体的・精神的 困難に置かれ、犯罪に至ったという背景を有しているものと思われる。しかしながら、知的障が い等を有する者たちが必ず犯罪を行うという誤解を与えることは、避けなければならない。統合 失調症やその他の様々な障がいと同様に、知的障がい等を有していること、ただそれだけで犯罪 に至るわけではないことをここで強調しておかなければならない。ただし、それをもって彼らに 適切な教育の場を整備する必要性が減退するわけでもない。筆者らの在住する沖縄においては、 現在、特別支援学校新設の声が強まっている68。その記事の中で「特別支援学校に通う幼児・児童・ 生徒の数は右肩上がりに増えて」いる現状が力強く語られている。また、知的障がい者等を雇用 する学校法人法政大学の特例子会社からは、「挨拶の良さ、黙々と作業する姿など、親会社の企 業風土にも良い影響が出ている。また、大学職員や学生が日常的に知的障害者と接する機会が増 えたことにより、知的障害者の働く姿を自然なものとして受け止められるようになってきた」と、 就労の面で知的障がい者が肯定的に受け止められている69。 なお、未然に犯罪や非行を防止すると言っても、行為者の危険性に基づく処分であるところの 保安処分を含意するものではないことを、ここで改めて強調しておきたい。「犯罪を許さない社
会は、ひとつの正しい社会の在り方であると思われるが、皮肉にも、犯罪者を許さない社会は彼 らの社会復帰を阻害し、ひいては犯罪を誘発するというジレンマを有するものである」70という 筆者らの見解及び基本姿勢においては、本人の「危険性」に着目した処分は、刑法の基本原則で ある行為主義及び責任主義等にもとるため、不当である。また、刑事司法と福祉の連携を強調す るあまり、「再犯防止の概念は本人支援と社会防衛の両者を内包しており、その用い方によっては、 視点が本人支援から社会防衛へと容易に変換しうるものであることにも注意が必要である」71と の指摘を常に意識しなければならないであろう。ただし、この指摘を踏まえつつも、知的障がい 等を抱える者が刑事司法の対象となることを未然に防ぐ手段を考える必要性は高いと言える。例 えば、長崎県地域生活定着支援センターの伊豆丸剛史氏は、「長崎においてこれほどまでに、主 たる業務である『出口支援』に加えて『入口支援』にも注力している理由は、『出口支援』に取 り組めば取り組むほど、罪を繰り返しては服役を重ねる累犯障がい者・高齢者の姿が浮き彫りと なり、受刑に至る前のより早い段階、すなわち捜査・公判といった段階から福祉が介入していか なければ、真に『犯罪に繋がりうる負のスパイラル』を断ち切ることはできないと痛感したから である」72と述べている。 筆者らは、この「危険性」の語を本人が犯罪行為に至る危険性、すなわち行為者自身の危険性 と解するのではく、犯罪行為及びその違法行為に対する刑罰が本人に多大な不利益をもたらす負 荷と解することが適切であると考える。したがって、その負荷から本人を遠ざけ、これを取り除 くために採られる様々な手段が肯定されるのである。冒頭で触れた「事前予防」についても、「障 害が発展する概念であることを認め、また、障害が、機能障害を有する者とこれらの者に対する 態度及び環境による障壁との間の相互作用であって、これらの者が他の者との平等を基礎として 社会に完全かつ効果的に参加することを妨げるものによって生ずる」73ことを認めた「障害者の 権利に関する条約(障がい者権利条約)」の理念を意識しつつ、再犯防止のための取組みが理解 されなくてはならないと思われる。 6.おわりに 上述した、未然に犯罪や非行を防止するという視点から、改めて本稿の対象である知的障がい 等受刑者について言及し、本稿の結びとしたい。 前述したように、筆者らは、再犯防止に対する刑事政策的取組みが行為者の「危険性」や「予 防目的」の概念に基づく保安処分を否定する。行為者自身の危険性に基づく刑事政策的目的では なく、行為者にのしかかる負荷を除去するための刑事政策こそ、あるべき刑事政策の手掛かりで はないであろうか。この分野における福祉分野の台頭が、これを示していると思われる。ただし、 それによって刑事政策の重要性までもが軽減することを意味するものではない。 知的障がい等を抱える受刑者及び入所歴を有するこれらの者にとっては、規範的責任論に基づ く行為者に対する責任非難も、受刑者の規範意識に働きかける刑罰も、どの程度効果があるのか については疑問が残る。むしろ、現行の刑罰制度が彼らの福祉を阻害している観を呈していると すら思える現状が、本稿での議論においても垣間見ることができたと思われる。この点について、 前述の地域生活定着支援センターのこれまでの実績をまとめた2014年度「都道府県地域生活定着 支援センターの支援に関わる矯正施設再入所追跡調査」74では、最初の定着支援センターが設置
された2009年から2012年度末までに、「48センター中45センターがコーディネート業務と相談支 援業務で支援した対象者4,493人のうち、再逮捕されたのは、373人(全体の8.30%)で、そのう ち再入所したのは、266名(全体の5.92%、再逮捕者の71.3%)だった」こと、「過去5年間、合 計4120人(91.7%)は再逮捕も再入所もなく地域で生活している」こと、「再逮捕された373人の うち、107人(再逮捕者の28.7%)は、定着支援センターなどの介入で再入所に至っていない」こ と等、実に興味深く、また関係各機関の地道な努力が着実に実を結びつつあることを示している。 しかし、いかに福祉分野との連携が刑事政策上不可欠とは言え、刑罰制度自体が不要であるこ とを意味するものではない。重要と思われるのは、刑罰や刑務所にどのような機能を付与するこ とが社会全体の利益に資するのかを真剣に議論することである。その意味では、本稿の対象である 知的障がい等を抱える受刑者に関する考察が与える示唆は大きいと言えるのではないであろうか。 再犯予防という目的に照らして、刑罰を科することが妥当か、または福祉に繋げることが妥当 なのか、あるいは刑務所から福祉へ段階的に移行させることが妥当なのかといった議論は、今後、 精神障がい等を抱える受刑者のみならず、貧困という背景を通じて、より議論の範囲を広範なも のとするのではないかという危機感すらある。 とは言うものの、わが国の犯罪情勢は、現状において悪化している様子はなく、概ね良好に推 移している。再犯・累犯の問題が重要な課題であることは否定できないが、いらずらに不安感を 煽る必要はない。ただし、このグローバル社会において、国内のみならず、国際情勢に目を向け たとき、わが国の犯罪情勢への波及も懸念され問題も見受けられることから、油断は禁物であろう。 本稿を結ぶにあたって筆者らに発信できることがあるとすれば、それは再犯の問題に正面から 向き合うことであり、刑務所出所者や犯罪歴のある者を含めた国民全体の福祉をどのように向上 させるべきなのかという重要な課題に対して、刑法や刑事政策がどのように資することが可能か を熟考することであろう。 * 沖縄大学法経学部教授 **沖縄大学法経学部非常勤講師 1 法務研究所「知的障害を有する犯罪者の実態と処遇」研究部報告52(2014)。 2 法務研究所前掲注(1)はしがきⅰ~ⅶ頁。 3 法務研究所前掲注(1)はしがきⅶ頁。 4 その重要な一例として、2009年から実施されている地域生活定着支援事業が挙げられる。同事 業を所管する厚生労働省は、「…高齢又は障害を有するため福祉的な支援を必要とする矯正施 設退所者について、退所後直ちに福祉サービス等(障害者手帳の発給、社会福祉施設への入所 など)につなげるための準備を、保護観察所と協働して進める『地域生活定着支援センター』 を各都道府県に整備することにより、その社会復帰の支援を推進すること」(厚生労働省HP. URL:http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/seikatsuhogo/ kyouseishisetsu/index.html)しており、2011年には、同事業を実施する地域生活定着支援セ ンターが各道府県に設置された。
5 近時の文献として、たとえば、守山正「犯罪予防論の現代的意義」刑法雑誌54巻3号(2015) 54-73頁、星周一郎「事前予防と秩序違反行為の法的規制」刑法雑誌54巻3号(2015)106- 117頁が示唆に富む。 6 守山前掲注(5)54頁。 7 「法廷で叫んだ『おれ、めんきょとってくるまかう』…福祉も限界」産経新聞2014年4月15 日。同事例を取り上げた記事として、「精神年齢『4歳』…『刑罰』を理解できない累犯障害者」 産経新聞2014年4月14日では、再発防止に役立たなかった「無罪」として、「男は、重度の知 的障害というハンディを背負っている。文字はひらがなしか書けず、数字は9、10ぐらいまで しか数えられない。前回の自動車盗は、精神年齢が『4歳7カ月』という鑑定結果に基づき平 成25年8月、京都地裁で無罪が言い渡された。検察幹部は語る。『施設に入れるならともかく、 無罪は再発防止に役立たなかった。あのときの裁判官はどう思ってるだろうね』」とあり、問 題の困難さ、根深さを如実に書き出している。 8 小西吉呂・外間淳也「医療観察法に関する一考察-沖縄県の事例にも触れて-」沖縄大学法経 学部紀要15号(2011)19-34頁、同「医療観察法における通院医療について」沖縄大学法経学 部紀17号(2012)25-33頁、同「医療観察法施行を巡る現状と課題―法施行10年を迎えるにあ たって―」沖縄大学法経学部紀要22号(2014)15-25頁、同「刑罰論と社会福祉の連携に関す る一研究-刑務所出所者等の就労支援に関する取組みを中心に-」沖縄大学法経学部紀要23号 (2015)1-13頁、同「発達障がい者の非行に関する一研究―特別支援教育に焦点を合わせて―」 沖縄大学法経学部紀要24号(2015)27-46頁。 9 小西・外間前掲注(8)「発達障がい者の非行に関する一研究―特別支援教育に焦点を合わせて ―」沖縄大学法経学部紀要24号(2015)27-46頁。 10 大西健司「成長発達権の解釈におけるアイデンティティへの権利の意義」一橋法学第13巻12号 (2014)778頁。 11 内田博文「刑法学は、なぜ、刑務所を語らなくなったか」犯罪社会学研究37号(2012)31頁に従っ て、「『社会的排除』を目指し、それに基づく刑罰制度を採用しようとするのかという点などが それである。…今、日本の刑法学に求められているのは、日本国憲法に適合的な刑罰制度とは 何かを、そしてまた、『社会的排除』に基づく刑罰制度がいかなる結果を生じさせるのかを国 民に率直に問いかけること」であると表現した方がより適切であろう。 12 小笠原拓ほか「成人期知的障害者の生活適応に関する研究―生涯発達及び障害特性の視点によ る生活適応支援の検討―」東京学芸大学紀要.総合教育科学系66巻2号(2015)509頁。 13 内田前掲注(11)2頁。 14 「『少年再犯者率44%全国最悪』県内昨年背景に高い貧困率」沖縄タイムス2015年3月24日。 15 「『子の貧困率沖縄37%』最悪、全国の2.7倍」琉球新報2016年1月5日。この数字は、全国 平均(16.3%)の2.7倍である。同時に世帯貧困率についても全国平均18.3%に対して沖縄は 34.8%と高い貧困率を示している。 16 小西・外間前掲注(8)9頁。 17 小西・外間同上。 18 小西・外間前掲注(8)6頁。
19 安田拓人『刑事責任能力の本質とその判断』弘文堂(2006)3-4頁。この見解に対して堀内 教授は、罪刑均衡の原則が責任主義の要請ではなく、また、責任主義によって根拠づけられる ものではないとしている。 20 知的障がい者の刑事責任能力を近時の判例の動向から分析したものとして、緒方あゆみ「知的 障害者の刑事責任能力判断に関する近時の判例の動向」Chukyolawyer(17),1-17,2012.があ る。その中で、「精神遅滞が認められる者の刑事責任能力が争われた裁判例は、統合失調症や 薬物等の中毒性精神病等の狭義の精神病の事案に比べて件数が少なく、多くの知的障害犯罪者 は、責任能力を全面的に争うことなく完全責任能力が認められて刑事施設で矯正処遇を受けて いるものと思われる。しかし、精神遅滞が認められる者の場合、それが責任能力、特に制御能 力について少なからず影響が生じていることは否定できず、制御能力の概念、精神遅滞と制御 能力との関係およびその判断方法・基準について、司法精神医学および刑事法学の観点からさ らなる議論・検討が必要であろう」(p.11)と結論付けているところ、筆者らの問題意識と軸 を同じくする論考として、参考になる。 21 山中敬一『刑法総論[第3版]』成文堂(2015)46頁によれば、「無制限の犯罪予防は、法治国 家においては許されず、刑法の保障機能によって限定された刑事政策のみが許される。かくし て、現代社会においては、刑事政策的目的のない応報主義は、正当化根拠をもたないがゆえに、 法治国家的・自由主義的・民主主義的形式の中で合理的な刑事政策的目的を追求するという観 点から、予防と人権保障との調和をもたらしうる刑法理論が構築されるべきである」。 22 吉田研一郎「更生保護法施行前後における保護観察実務の動向と今後の展望―成人の保護観察 を中心に―」犯罪社会学研究39号(2014)「課題研究刑事司法と福祉の連携の在り方―犯罪行 為者の社会復帰支援の現状と課題―」11-13頁。 23 例えば、「『再犯防止のために:更生保護施設の今(上)』職員の待遇改善急務60代でも月10回宿 直」毎日新聞2014年05月04日では、更生保護施設で働く職員の過酷な労働環境が描かれている。 24 法務省総合研究所編『犯罪白書平成27年度版』2-4-1-1図「刑事施設の年末収容人員・人口比 の推移」参照。 25 この点につき、大橋哲「刑事施設における受刑者の更生支援について」犯罪と非行180号(2015) 21-35頁においては、近年の刑事施設における受刑者の現状として指摘されている。また、小西・ 外間前掲注(8)「刑罰論と社会福祉の連携に関する一研究」3頁においても、「平成14年以降、 犯罪の認知件数・発生率ともに減少していることをここで付言しておく。これと関連して、刑 務所の入所人員を見ると、初犯者及び再犯者ともに減少しているが、初犯者の減少の割合が再 犯者のそれよりも大きく、よって再犯者率は増加している。要するに、犯罪数の増加に歯止め をかけるという意味で、再犯の防止が位置づけられているわけではないことに留意が必要であ る」ことを指摘した。 26 法務省総合研究所編前掲注(24)4-1-3-1図「入所受刑者人員中の再入者人員・再入者率の推 移(総数・女子)」参照。ただし、女子についてみると、再入者人員及び再入者率が年々増加 傾向にあることに注意しなければならない。 27 少年非行においても成人と同様の現象が見られ、小西・外間前掲注(8)「発達障がい者の非行 に関する一研究」28頁において、「2013年の累非行少年に関する状況を少年の一般刑法犯検挙
人員中の再非行少年の人員・再非行少年率の推移から見ると、人員自体は年々緩やかに減少し ているものの、これを割合として見ると全体の34.3%(56,469人中19,345人)と緩やかに上昇し ていることが注目される。犯罪学・刑事政策的観点から挙げられる要因は種々あり得るが、累 犯非行少年が有する問題の根深さを示す数字であると読み取ることができる」ことを指摘した。 28 たとえば、「再犯防止へ就職支援」中国新聞朝刊2015年5月14日、「人は変われる(上)-更生 支援の現場から-」神奈川新聞長官2015年9月27日、「人は変われる(中)-更生支援の現場 から-」神奈川新聞朝刊2015年9月28日、「人は変われる(下)-更生支援の現場から-」神 奈川新聞朝刊2015年9月29日を挙げることができる。 29 なお、2009年~ 2013年保護統計年報によると、保護観察中の再犯率は、有職者7.6%に対して 無職所は28.1%であった。 30 法務省総合研究所編前掲注(24)4-1-3-8図「入所受刑者の就労状況別構成比(入所度数別)」 参照参照。また、法務総合研究所編『研究部報告42―再犯防止に関する総合的研究―』(2009) 19頁以下においては、戦後約60年間の各種統計資料を様々な視点と手法とを駆使した結果、次 のことを明らかにしている。すなわち、生涯を通じて1度だけ有罪の確定裁判を受けた初犯者 と有罪の確定裁判を2度以上受けた再犯者との量的傾向において、その者が生涯で何度犯罪を 犯したのかを示す総犯歴数別の人員構成比は、初犯者が約70%を占めるのに対して再犯者は残 りの約30%を占めるに過ぎなかった。しかし、そのことをもって再犯防止対策の重要性は低い と判断するのは早計であって、視点を変えて犯歴の件数構成比を見ると、約30%の再犯者によっ て約60%の犯罪が行われているという事実が判明したのである。 31 大橋前掲注(25)25頁。 32 犯罪対策閣僚会議第22回会合(2014年12月16日)資料参照。また、各種奨励金だけではなく、 公共工事等の競争入札に際して、刑務所出所者等を雇用する事業主に対して加算ポイントを 付与する制度も設けている。なお本資料は、首相官邸HPから参照可能である(URLhttp:// www.kantei.go.jp/jp/singi/hanzai/)。さらなる詳細については、杉山弘晃「刑務所出所者 等の就労支援について―協力雇用主のもとでの就労の拡大に向けて―」犯罪と非行180号(2015) 89-107頁を参照されたい。 33 大橋前掲注(25)25頁。これは、求人状況や協力雇用主、刑務所作業への協力企業を対象にし たアンケートに基づいて行われているようである。2015年度からは、建設関連科目の拡大やビ ジネススキル(パソコン基礎課程)、介護福祉科の拡大が実施されている。 34 法務総合研究所編前掲注(24)第2編4章2節4項参照。さらに、公共職業安定所では受刑 者等専用求人の運営がスタートしており、雇用のマッチングの促進に努めているとされる。ま た、民間独自の動きも見られる。「『居酒屋で雇い出所者を支援』東京・新宿に開店へ」中日新 聞2015年4月21日は、「刑務所や少年院を出た人が立ち直るきっかけになる場所をつくろうと、 居酒屋『新宿駆け込み餃子』が二十四日、東京・新宿の歌舞伎町にオープンする。仕事を見つ けるのが難しい出所者を雇い、仕事のノウハウを学ぶ場を提供。再犯防止につなげるのが目的 だ」と報じている。 35 法務総合研究所編同上第2編4章1節11項図参照。 36 厚生労働省「地域生活定着促進事業実施要領」参照。
37 筆者らの住む沖縄県における地域生活定着支援センターの実情について、小西吉呂「沖縄県地 域生活定着支援センターの活動」沖縄大学法経学部紀要23号39-49頁で紹介した。なお、「沖縄 県の支援センターにおけるコーディネート業務の件数であるが、支援センター開設時から2015 年1月5日現在で85件に上っている。…85人中、知的障害者26人、精神障害者25人、高齢者18 人が多くを占めている。これに続いて、高齢・精神障害重複6人、身体障害4人と続く。矯正 施設でいかに多くの障害者や高齢者が収容されているかをうかがい知ることができる数字であ る。なお、知的障害者と高齢者については、矯正施設にも多く収容されていることが知られる ようになっているが、精神障害者も多いことは意外であった。触法精神障害者は不起訴や無罪 となり、医療観察法や精神保健福祉法に基づく医療的措置のルートに乗っているであろうと踏 んでいたが、実際には、軽度の精神障害者やアルコール・薬物依存者も矯正施設に収容されて いるため、このように多めの数字となっているようである。とりわけ沖縄では、アルコール依 存の例が目につくということであった。」と沖縄県の特徴を報告した。さらに、支援対象者の 矯正施設入所回数では、「85人中1回が27人で最も多いが、それら以外は2回以上であり、再犯・ 累犯の多さをうかがわせる。とくに5~ 10回が19人と多く、矯正施設と社会を行ったり来た りしていると考えられる。それ以外には、2回11人、3回9人」であること等を報告した。 38 厚生労働省社会・援護局総務課長「『地域生活定着支援センターの事業及び運営に関する指針』 について」社援総発0527001号2009年5月27日(2012年4月12日一部改正)参照。 39 法務研究所編前掲注(24)第2編第5章第1節第2項参照。 40 法務研究所編同上。 41 中村葉子「検察における起訴猶予者等に対する再犯防止の取組について~京都地方検察中にお ける取組を中心に~」犯罪と非行180号(2015)38-39頁。 42 中村(葉)同上41頁。その後の手続の流れについては割愛するが、2014年8月から2015年6月 までの再犯者は、面談を実施した25人のうち1人であったとされている。 43 「『入り口支援』で再犯ほぼなし京都地検」京都新聞1月14日(木)13時25分配信(http:// headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160114-00000012-kyt-l26)。 44 例えば、「『千葉地検再犯防止へ社会福祉士と連携』万引きなど繰り返す高齢者らの自立支援」 東京新聞千葉中央版では、「刑罰を科すよりも生活基盤を整える方が再犯防止につながる可能 性がある」として、京都地検と同種の取組み行っていることが報じられている。 45 「『万引高齢者地検が支援』埼玉再犯防止へ、生活保護で助言」京都新聞2015年3月23日も、 刑事司法と福祉の連携の重要性を認識させる記事であった。内容は、「さいたま地検が、万引 の疑いで書類送検された高齢容疑者の生活再建を支援する独自のプログラムを試行している。 取り調べだけでなく、任意の面談を重ね『福祉制度が分からない』『孤独のストレス』といっ た動機の根幹にある日々の悩みを探り、解決に導いて再犯を防ぐ狙いだ」というものである。 46 土井政和「はじめに」前掲注(22)5頁。 47 土井同上。 48 土井同上。 49 中村妙華「知的障碍者福祉の歴史的変遷と課題」社会文化論集(2008)47頁。 50 中村同上47頁。
51 中村同上48頁。当初の知的障がい者福祉の意義としては、「知的障害者を施設において『指導 訓練』することで彼らの『自立更生』を目指すとともに、施設で『保護』することにより『家 族の重い負担』を慶全することが目指された」(48頁)とされている。 52 中村同上48頁。 53 中村同上48頁。 54 中村同上54頁。 55 小笠原拓ほか前掲注(12)507頁。 56 小笠原拓ほか同上。 57 法務総合研究所前掲注(1)110頁。 58 法務総合研究所同上。 59 小西・外間前掲注(8)「発達障がい者の非行に関する一研究」35頁。 60 2013年に発表されたアメリカ精神医学会のDSM-5においては、神経発達群が新しく置かれ、 その下位分類として、知的発達障害、コミュニケーション障害、自閉症スペクトラム、注意欠 陥/多動性障害、特殊的学習障害、運動障害が規定されていることからも、両者の密接不可分 の関係性が窺われる。 61 わが国の特別支援教育の変遷を見ると、1878(明治11)年に京都盲唖院(現在の京都府立盲学 校)が設立されたことをもって障がい児教育の始まりとする見方が強い。それから十数年の後、 1891(明治24)年、東京に狐女学院(現在の社会福祉法人滝乃川学園)が設立された。この施 設は、本稿の対象である知的障がい施設である。さらに数十年後の1940年(昭和15)年、大阪 に「大阪市立思斉学校(現在の大阪市立思斉特別支援学校)」が設立されている。これは、わ が国で最初の効率の知的障がい者教育機関であるとされている。発達障がいが特別支援教育の 対象となったのは、2007(平成19)年のことである。 62 また、この「成長発達権」の基本的な内容を充実させる概念として、「アイデンティティへの 権利」が注目されているという。大西健司氏によれば、「子どもは『真正な自己』といいうる アイデンティティを確立することによってはじめて人生における希望や目標を自ら設定し、主 体的にこれ-自己に固有の人生-を生きることのできる自律的生存へ向けて成長・発達してい くことが期待されているのであり、子どもの『重要な関係性』の保護を通じて彼(彼女)の『真 正』なアイデンティティの獲得を保障するアイデンティティへの権利は、このようにして、子 どもが<主体的>に善を構想し自ら自己の生を切り開く<個人>へと成長するための必須の前 提となる権利として位置づけられる」(前掲注10)777頁)とされている。 63 文部科学省HP(URL:http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/tokubetu/002/1329076.htm)。 64 柘植雅義「理念と基本的な考え」柘植雅義ほか編『はじめての特別支援教育改訂版―教職を目 指す大学生のために―』(2014)第1章4頁では、「特別支援教育(specialneedseducation)とは、 従来の特殊教育が対象としてきた障害だけでなく、LD(学習障害)、ADHD(注意欠陥多動 性障害)、高機能自閉症を含めて障害のある児童生徒の自立や社会参加に向けて、その一人一 人の教育的ニーズを把握して、そのもてる力を高め、生活や学習上の困難を改善又は克服する ために、適切な教育や指導を通じ必要な支援を行うものである」と定義付けされている。 65 桑田良子ほか「発達障害者・知的障害者が働き続けるために必要な要因の検討-思春期のキャ