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(2) 平成30年 (2018年) 度. 山梨大学教育学部紀要. 第 28 号. pp.33-41. 初等・中等教育における防災教育の枠組みとその変遷 The Framework and Changes of Disaster-Prevention Education in Primary and Middle Schools 尾 藤 章 雄 Akio BITO Ⅰ はじめに 近年の大規模な自然災害の頻発によって、防災教育の必要性が高まってきている。防災という用語は 災害を防ぐという一般的な意味合いで従来から使用されており、教育現場、行政機関などにおいて、児 童・生徒や一般を対象に防災の概念、災害への対処方法について教示することを防災教育という。 本稿では、災害、防災についての法的な枠組みを踏まえた上で、主に小学校から高等学校において行 われている防災教育がどのような経緯で導入され、実施されてきたかを振り返り、国の機関を中心に、 近年その内容が充実し、また変化して来ていることを含めて、防災教育の枠組みを整理することを目的 としている。 最初に災害の定義について確認する。我が国における災害についての基本的な法的枠組みは、1959 年に東海地方を中心に甚大な被害をもたらした伊勢湾台風を契機に制定された、災害対策基本法(1961) にある。災害とは「暴風、竜巻、豪雨、豪雪、洪水、崖崩れ、土石流、高潮、地震、津波、噴火、地滑 りその他の異常な自然現象又は大規模な火事若しくは爆発その他その及ぼす被害の程度においてこれ らに類する政令で定める原因により生ずる被害をいう」のである。この法律は、国土、国民の生命、身 体及び財産を災害から保護するため、国、地方公共団体及びその他の公共機関に責任の所在があること を明確にした上で、予防措置としての防災計画の作成、災害応急対策、災害復旧及び防災に関する財政 金融措置、その他必要な災害対策について細かく定めている。 この定義の中にある、異常な自然現象のうち、地震と噴火が地形条件、暴風、豪雨、豪雪が気象条件 であるが、地震によって起こるのが津波と高潮、噴火によって起こるのが土石流、暴風、豪雨、豪雪によっ て起きるのが洪水、崖崩れ、土石流、地滑りとすれば、もちろん複数の要因が重なって生起する災害も あるので一概には言えないが、我が国において古来より自然災害と呼ばれてきたものは、専ら震災と土 砂災害に集約されることがわかる。 では防災はどのように定義されるのだろうか。上記の災害対策基本法の目的に「国民の生命、身体及 び財産を災害から保護し、もって、社会の秩序の維持と公共の福祉の確保に資すること」と書かれてい るが、まさにこれこそが防災を意味するものと考えて良いだろう。この中に ①防災に関する責務の明 確化、②総合的防災行政の整備、④計画的防災行政の整備、④災害対策の推進、⑤激甚災害に対処する 財政援助等、⑥災害緊急事態に対する措置の6つの柱が示されているが、①~③に含められた防災とい う用語の布置から、災害発生前にこそその重点が置かれていることがわかる。実際に一般の防災の定義 として「災害を未然に防ぐために行われる取り組み(Wikipedia)」という概念も広く知られており、被 害の拡大を防ぐ被害軽減や復旧まですべてを含めるものまで、防災の捉えられ方は多様である。 東日本大震災において得られた貴重な教訓を踏まえて、大規模広域な災害に対する即応力の強化を目 指して災害対策基本法の一部が 2016 年5月に改正された。この中で、防災教育等を通じて教訓・課題 を後世にしっかり伝承していく努力が大切であること、 災害対策に当たって被害を最小化する減災に 向け、行政、地域、市民、企業レベルの取組を組み合わせる必要があること、の2点が強調された。防 災教育の内容に後世への伝承という考え方を含めたり、減災という新たな概念が示されたりしたことは - 33 -.
(3) 平成30年 (2018年) 度. 山梨大学教育学部紀要. 第 28 号. 注目される。 Ⅱ 戦後の学習指導要領における防災教育の変遷 1 終戦後から 2000 年までの防災教育 国のすすめてきた防災教育とはどのようなものだろうか。指針として教育現場に提示されている学習 指導要領(以下指導要領)の中で、防災の内容が如何に扱われているのかを、城下・河田(2007)が詳 しく解説している。災害による被害軽減を実現するためには、社会の防災、減災力を向上させることが 重要であり、その根底として災害全般に対する理解が必要だが、その基本部分は小、中学校における義 務教育で学ぶことが相応しいと位置づけた上で、戦後の義務教育においては、防災教育の制度的な導入 は行われてこなかったことを指摘し、その原因を指導要領の文章から追跡している。 指導要領は第二次大戦後すぐの 1947 年に最初の版が当時の文部省から発行され、その後、1951 年、 1958 年、1968 年、1977 年、1989 年、1998 年、2008 年、2017 年と改訂されてきた。報告では最初に 1998 年まで6回の内容を検討して、その文章中に使われている防災に関する用語数を計数した(第1 表)。この表によると災害という用語は 1947 年に 109 語と最も多かったが、その後急激に減って 1998 年には 13 になった。地震も 48 から9へ、天災も 35 から0へ、火山も 27 から6へと同様の傾向を見せ ている。このうち災害と地震の2つの用語は 1998 年になると従前の 1989 年から倍増(4→ 13、4→9) したが、これは 1995 年の阪神・淡路大震災によるものである。なお、防災という用語自体は、指導要 領の中では殆ど使用されてこなかったこともわかる。 第1表 学習指導要領の防災に関する 形態素数結果. 1947 年版では、災害については主に社会科、中学校2年 生の1単元で扱われ、我が国は天災に襲われる危険性が高 いとした上で、天災に関する科学的知識と理解を深め、こ れに対する科学的対策を理解させ、災害時には被害者を助 ける重要性、さらに再起の精神が重要であると書かれてい る。さらに「自然の災害をできるだけ軽減するにはどうす ればよいか」という、今では減災に該当する内容にも1単 元を与えている。城下・河田(2007)は、その後の指導要 領の内容と比較してこの版は内容が大変充実しており、こ の当時の防災に対する国の姿勢を高く評価している。1951 年の改訂では、中学校1年理科、さらに 1952 年には小学校. (城下・河田,2007). 理科において防災に関する内容が扱われるようになったが、 1単元を与えられることはなかった。この原因は、社会科. の内容を精選していく中で、対象が自然災害であったことから、防災教育の内容は理科で扱われるべき との考え方が強まったためとされた。 さらに 1955 年以後の指導要領では、社会科がそれまでの、児童の生活体験を本に単元を構成する「経 験主義」的な考え方から、歴史、地理、政治・経済と言った学問としての系統性を重視する「系統主義」 的な考え方へ転換していったために、防災についての内容は、中学校社会科地理分野において「日本の 自然災害の起こる原因とこれに対処する方法(地震・風水害・その他の自然災害について)」と記され るのみで一段と削減されたという。この時点ではまだ、防災に関する内容は、小学校社会科と中学校の 社会科、理科で扱われていたが、1989 年には中学校の社会科での扱いがなくなった。防災教育は広範 な学問分野にまたがる、児童生徒の経験から説き起こす内容が中心だったために、系統主義的な考え方 にそぐわなくなったことが原因で、特に社会科で扱われなくなった、と指摘されている。 1998 年の指導要領では、新たに総合的な学習の時間が設定され、教科横断型の学習が可能となった。 - 34 -.
(4) 初等・中等教育における防災教育の枠組みとその変遷. (尾藤章雄). 城下・河田(2005)は、小、中学校における先進的な防災教育を行っている7割の学校で、この総合的 な学習の時間を使っていたという調査結果があることを挙げ、既存の教科で扱いが難しくなった防災教 育が、この総合的な学習の時間を使って行われていくように期待すると結んでいる。 2 2008 年度版学習指導要領に基づく防災教育 2008 年の指導要領については緒續(2016)が、防災教育は社会や理科の教科などにおいて内容の充 実が図られ、道徳や特別活動などを含めた他の教科とも有機的な関連をはかりながら行う必要性が強調 された一方で、依然として他の教科のような、発達段階に応じた目標や内容が体系化されて具体的に示 されてはいないと指摘している。いずれも東京書籍版の教科書で、この指導要領に基づく内容の扱い方 をみると以下のようになっている。 小学校社会科においては「地震からくらしを守る」が「火事からくらしを守る」の単元と合わせて配 当時間9時間(第4学年全部で 90 時間)、同第5学年下巻「自然災害を防ぐ」に配当時間5時間(第5 学年は 100 時間)が割り当てられている。また、中学校においては、日本の様々な自然災害として地震 と火山、気象災害(2頁)、自然災害に対する備えという項目で防災への対応、災害への対応(2頁)、 さらにコラムでハザードマップを使ってみよう(2頁)が用意されている。コラムには他に、都市型水 害、震災、火山噴火を扱ったものがあり、全部で5ページが割かれている。 高等学校は地理 B で扱われ、自然環境、自然災害の中で地震と津波、異常気象と気候変化が扱われ ている。しかし全部で4頁を割くのみで防災に関わる内容は含まれていない。教科書によっては、開発 に伴う災害と防災という項目を2頁で扱い、他に津波への備え、都市の災害対策などをトピックで扱う のみというものもあった。2008 年はその後の国の方針転換を前に、防災教育においてはまさに端境期 であった。 3 防災教育の方針転換 教育現場における防災教育の新たな方向性を示したのは、2013 年に発行された学校防災のための参 考資料「「生きる力」を育む防災教育の展開」(文部科学省,2013)である。1995 年の阪神・淡路大震 災を踏まえ、1998 年の指導要領の改訂に合わせて、防災教育のための参考資料『「生きる力」をはぐく む防災教育の展開』が発表されていたが、その後の頻発する地震や気象災害、そして 2011 年の東日本 大震災を契機に大きく改訂されたものである。 この中で、学校安全として示された三つの領域、すなわち、生活安全、交通安全、災害安全のうち災 害安全の中に防災教育が位置づけられ、また、発達段階に応じた防災教育の目標や、既存の教科との関 連付け、総合的な学習を使った実践例が、はじめて教育現場に具体的に示された(第1図)。城下・河 田(2007)が指摘したように、1955 年以後主流になった系統主義的なカリキュラムでは扱いにくくなっ てしまった防災教育の内容を、指導要領の改訂とは別に資料として発表した背景には、頻発する災害に 対応して、教育現場に防災教育をどのように展開すべきかについて、早急に具体的な指針を提示する必 要に迫られたからであろう。 この参考資料の中で、学校における防災教育のねらいとして以下の3点が挙げられた。 ア) 自然災害等の現状、原因及び減災等について理解を深め(下線は筆者)、現在及び将来に直面する 災害に対して、的確な思考・判断に基づく適切な意志決定や行動選択ができるようにする。→ 体育 科・保健体育科をはじめとして、社会科(地歴・公民)・理科・生活科などの関連した内容のある教科 や総合的な学習の時間で行う。 イ) 地震、台風の発生等に伴う危険を理解・予測し、自らの安全を確保するための行動ができるよう にするとともに、日常的な備えができるようにする。→ 特別活動の学級(ホームルーム)活動や学校 行事などで取り上げる。 ウ) 自他の生命を尊重し、安全で安心な社会づくりの重要性を認識して、学校、家庭及び地域社会の - 35 -.
(5) 平成30年 (2018年) 度. 山梨大学教育学部紀要. 第 28 号. 安全活動に進んで参加・協力し、貢献できるようにする。 そして「児童生徒等の発達の段階に応じて、ア) とイ) の2つの側面の相互の関連を図りながら、計 画的、継続的に行われるべきとされた。 檜垣(2016)はア)を知識、試行・判断、イ)を危険予測、主体的な行動、ウ)を社会貢献、支援者 の基盤という視点に基づく内容であると解釈したが、児童生徒に対しては、今までの各教科から得られ る知識だけでなく、災害時には適切な行動によって自助が行えるようにし、さらに共助を求められた時 に役立つ実践的な手段を持つことが、新たに求められるようになったのである(注1)。 このような参考資料を発表して、文部科学省が教育現場における防災教育を重視する姿勢を明確にし ていった一方で、災害対策基本法もまた 2000 年代以後、頻繁に改正されていった。内閣府(2017)を みると、広島豪雨(1999 年)、東海豪雨(2000 年)、新潟・福島豪雨(2004)、新潟県中越地震(2004 年)、 東北地方太平洋沖地震(2011 年)、広島土砂災害(2014 年)、御嶽山噴火(2014 年)という大規模で広 域な自然災害が続いたために、被災者支援、防災対策の強化を中心に、法制度の整備が急速に進められ たことがわかる。 Ⅲ 2017 年の新学習指導要領における防 災教育 1 新学習指導要領の社会科における防 災教育 2017 年以後指導要領が順次改訂され、 小学校と中学校社会科の新指導要領は 2017 年、高等学校地理歴史については 2018 年に告示された。 小学校社会科について、従前の内容と 比較すると、第4学年の目標に「自然 災害から地域の安全を守る諸活動」が明 記され、内容には「自然災害から人々を 守る活動について」が加えられ、従前の 「地域社会における災害及び事故の防止」 の事故に関する記述が削除された。ま た「過去に発生した地域の自然災害、関 係機関の協力などに着目して、災害から 人々を守る活動を捉え、その働きを考え、 表現すること」という、教訓・課題の伝 承についての内容が追加された。また、 第5学年の「我が国の国土の自然環境」 の中で、「自然災害は国土の自然条件な 第1図 発達の段階に応じた防災教育(文部科学省2013). どと関連して発生していることや、自然 災害から国土を保全し国民生活を守るた. めに国や県などが様々な対策や事業を進めていることを理解すること」が加えられた。従前の「国土の 保全などのための森林資源の働き及び自然災害の防止」に比べると、自然災害に対する関係機関の働き に重点を置いた、公民的な考え方も含めた内容になっている。 中学校では、日本の様々な地域 世界と比べた日本の地域的特色、自然環境という項目の中で「国内 - 36 -.
(6) 初等・中等教育における防災教育の枠組みとその変遷. (尾藤章雄). の地形や気候の特色、自然災害と防災への努力を取り上げ」とされていたが、新指導要領では、日本の 地域的特色と地域区分、自然環境の項目において「日本の地形や気候の特色、海洋に囲まれた日本の国 土の特色、自然災害と防災への取組などを基に、日本の自然環境に関する特色を理解すること」に変更 された。一方で従前の日本の諸地域 自然環境を中核とした考察の中のあった「地域の自然災害に応じ た防災対策が大切であることなどについて考える」の記述が削除された。 高等学校においては、従前の地理 A、地理 B に代わって、地理総合という科目が新設されることに なった。地理総合は目標の一つに、 「地理に関わる諸事象に関して、世界の生活文化の多様性や、防災、 地域や地球的課題への取組などを理解する」として防災を明記した。そして、持続可能な地域づくりと 私たちという項目の中に、自然環境と防災という、従前の地理 A で扱われていた内容を引き継いでい る。ここでは、生徒の生活圏で見られる自然災害、地域性を踏まえた備え、地域性を踏まえた防災が扱 われ、身近な地域で起こり得る災害を考えさせ、具体的な対応を促す内容となっている。さらに、地形 図だけでなく、主題図の1つとしてハザードマップを扱い、その読図を通して防災意識を高めることも 意図されている。 2 新学習指導要領を踏まえた高校教科書にみる防災の扱い 高等学校において新指導要領の内容を先取りしたとされる東京書籍の 2018 年度版の地理 A の教科書 をみると、日本列島の地形と自然災害、日本列島の気候と自然災害、地震津波と防災、火山と防災、土 砂災害・洪水と治水、台風・雪害と防災、大都市の災害と減災への取り組み、防災・減災と復旧・復興、 という多数の項目を立て、災害と防災関係全部で 19 頁を割いている。また帝国書院の 2017 年度版の教 科書でも、身近な地域の防災を考える、日本の地形、地震災害と防災、火山災害と防災、日本の気候 水害と防災の項目を立て、同じく 22 頁を割いている。従前の地理 B における扱いから拡大し、防災に 関しての内容が大幅に充実したことは、この地理総合という科目が、防災を扱う核となる教科として位 置づけられるようになったことを意味しており、その期待は大きい。 3 新学習指導要領における社会科以外の教科と防災の扱い 社会科以外の教科については、防災とどのように関連付けられたのであろうか。先の文部科学省 (2013)の記述によると、小学校では理科、生活科、体育科、道徳、及び総合的な学習の時間、特別活動・ 学級活動または学校行事と、中学校では理科、保険体育科、技術・家庭科、道徳、総合的な学習の時間、 特別活動・学級活動、特別活動・学校行事と、高等学校では理科(地学基礎)保健体育科、家庭基礎、 総合的な学習の時間、特別活動・学校行事と関連付けられている。この他特別支援学校では特別活動・ 学校行事が中心、幼稚園でも避難訓練を通じた指導内容が明示されている。 このうち小学校における防災教育の展開例では、社会科が「安全なくらしとまちづくり」、理科が「洪 水の危険について知ろう」となっており、社会科が地域社会の安全安心という視点から扱うのに対し て、理科は災害の原因に関わる自然条件を扱い、体育科は「簡単な手当ができるようになろう」、道徳 は「わたしにできること(災害後の避難所等での自分の役割)」といった内容となっている。さらに総 合的な学習では「オリジナル防災マップをつくろう」といった活動について扱い、特別活動・学級活動 では「地震が起こったらどうするの」、 「いざという時の備えは」、 「町の中でぐらっときたら」、 「地震を 想定した避難訓練」を扱っている。 理科が災害に関する知識を、体育と道徳は災害発生時に求められる技能を、そして総合的な時間や特 別活動・学級活動においては、災害発生時の実践的な対処方法、自助、共助に関わる具体的活動方法を 扱うことによって、社会科との内容の住み分けが行われているとみることができよう。. - 37 -.
(7) 平成30年 (2018年) 度. 山梨大学教育学部紀要. 第 28 号. Ⅳ 内閣府、国土交通省における防災教育への対応 1 内閣府の学習教材 文部科学省以外の国の省庁からも、主として小学校の教育現場を対象に、防災教育に関わる資料が数 多く発行されている。 内閣官房国土強靱化推進室(2015)の発行した学習教材「防災まちづくり・くにづくり」は、土木学 会がワーキンググループを組織して作成したもので、小学校を主たる対象とした学習ワークブック、見 開き 20 ページのカラー構成である。主査の藤井氏の解説によると、その構成は、ステップ1と2に分 けられ、ステップ1は最初に災害がもたらす危機を具体的に想像する段階、ステップ2では、想像した 危機を避けるために、どうしたらよいかを考える段階と位置づけられている。 注目すべきは、危機的な自然災害が起こった後に、私たちの暮らしやまち、くにが、どのようになっ てしまうのかについて、次の3時期に分けて考えさせる部分である。 ① 災害直後:火災、建物倒壊、そして大量の死傷者の発生という、さまざまな「直接的被害」が生 じる。 ② 災害からしばらくの間:避難所生活、被災地での食料・医療不足や、全国的な食料、エネルギー 不足や大量の失業者の発生等の「間接的被害」が生じる。 ③ 長い間の「後遺症」:日本の産業が打撃を受け、倒産が増えて、失業が増えて、日本経済が長い 間、低迷してしまう。 災害発生後の時期を分けて、直接的被害、間接的被害、後遺症の具体的な内容を示し、起こりうる深 刻な事態をリアルに想像させた上で、ステップ2として、「こんな最悪な未来を避けるために、今のわ たしたちに何ができるのか考えてみましょう」と問いかける。 そして防災の基本的な対策として(1)災害のことを知る(2)建物の耐震補強、堤防、砂防ダム、津 波タワー等をつくり、防災訓練を繰り返す(3)空振りをおそれない早めの避難やそれを促す情報を発 信する(4)色々な施設などのスペアを作る、などの必要性を強調する。そして「まち」や「くに」の 構造を災害に強くする方法として、「危ない所」から「安全な所」にモノを移し、移せないモノは災害 に強いものに仕上げるという考え方を提示する。最後にイラストで描いたまちの絵を示し、このイラス トの「まち」で何をどこに移動させれば、「まち」が強くなるのか考えさせる。土木学会の視点で作ら れただけあり、ハード面のインフラを重視した内容が、国土交通省の関係するインフラである堤防や砂 防ダムなどの重要性を絡めて、理解できるように構成されている。 内閣府はこの他にも、防災教育チャレンジプラン実行委員会(2015)が「地域における防災教育の実 践に関する手引き」を発行している。防災教育を準備段階、実行段階、継続段階の三つに分け、取り 組みを成功させる六つの要素として、人(担い手・つなぎ手)、運営(組織・体制)、場(時間・場所)、 お金(資金・経費)、ネタ(知識・教材)、コツ(工夫)を挙げる。 この手引き書の特徴は、準備段階においては担い手や組織を作る重要性、場所や活動資金を確保する 方法、知識や情報収集の方法、実行段階ではアドバイザー、地域機関、他の実践団体との交流、継続段 階では後任者の育成、知恵や経験のマニュアル化、活動内容の継続的な見直しを行うことなど、各段階 に必要な行動計画を示し、具体的な事例を交えながら解説している点である。教育現場だけでなく、地 域で防災教育に初めて関わろうとする住民団体、ボランテイア団体、地方公共団体の人たちに対して、 人的な資源をどのように活用し、実践的な活動に結びつけていくかについての指針を提供する優れた内 容である。 2 国土交通省の教材・ガイドブック 国土交通省では防災教育ポータルを用意して、上記の内閣府を始め国の省庁の防災関係サイトを広く 紹介している。傘下に気象庁、国土地理院を持ち、さらに地方整備局、国土保全局の部局の下に河川事 - 38 -.
(8) 初等・中等教育における防災教育の枠組みとその変遷. (尾藤章雄). 務所、砂防事務所、国道事務所などの部署があるため、各部局、部署から、地域ごとに、主に小学生を 対象とした多数の教材パッケージが提供されている。 風水害と関係の深い河川を管轄に持つ水管理・国土保全局からは、学校関係者向けに「水災害からの 避難訓練ガイドブック」が発行された。主に小学校の学校敷地の水害リスクのレベル(浸水深)と避難 訓練のパターン(水平避難、垂直避難、学校待機、集団下校)を整理するなど、学校における避難訓練 に特化した内容が特徴である。この中では避難訓練と各教科等の学習との関連が提示されている。避難 訓練に特化して教科と如何様に関連させるかという視点は、形骸化しているとの指摘がある避難訓練の 学級活動における位置づけにも役立つものである。 内閣府が災害時の人的資源の活用について重点を置いているのに対し、国土交通省は地域ごとに起こ り得る災害(地震・津波、火山災害、風水害)を詳しく解説し、具体的な避難場所、避難方法を提示し、 あわせて防災情報の提供先や管理する砂防施設の役割など、省庁の管理下にある情報・インフラの役割 紹介を絡めた内容となっていることが特徴である。 Ⅴ 学術論文にみる防災教育 では学術論文の上で、即ち研究分野として、この防災教育はどのように扱われてきたかをみよう。国 立情報学研究所の提供している CiNii Articles を使って 2018 年8月 31 日に、タイトルのキーワードの 組み合わせを検索した結果が第2表、第3表のようになった。 防災教育をタイトルに含む論文は 2000 年以後増加を辿り、2004 年の新潟県中越地震及び新潟・福島 豪雨を契機に2倍に増加、さらに 2011 年の東北地方太平洋沖地震以後は3桁に大幅に増えている。防 災教育という用語からみて当然であるが、学校と関係する論文数は全体の 28%に及び、校種別では小 学校が最も多く、中学校、高等学校の順に減少する。関係する教科をみると、小学校では理科、総合、 社会の順であるが、小学校、中学校を通じていずれかの教科と関係する論文は全体の 13%と少ない。 参考までに災害をタイトルに含む論文数についても調べたが、学校と関係する論文は全体の 1.1%に 過ぎず、論文 第2表 タイトルに「防災教育」 第3表 タイトルに含まれる用語別にみた学術論 を含む学術論文数 文数. 数から見る限 りは、災害に ついてよりも 防災教育につ いての論文の 方が多いこと がわかる。. Ⅵ 防災教育における課題 1 学校施設の防災機能の充実 学校安全に関わって、新しい対応も求められるようになってきた。文部科学省は、近年の災害の頻発 により学校施設が避難所として利用されることが多くなり、学校教職員がこの避難所の運営などに関わ らざるを得ない状況になってきたため、2017 年4月に「避難所となる公立学校施設の防災機能に関す る調査」を実施し、2017 年8月に結果を発表している(文部科学省,2017)。それによると、学校設置 - 39 -.
(9) 平成30年 (2018年) 度. 山梨大学教育学部紀要. 第 28 号. 者のうち、防災担当部局と連携・協力体制が構築されている割合は 95.2%、避難所に指定されている 全国の公立学校の割合は 92.1%、学校施設利用計画の策定状況の割合は 39.7%で、ほぼすべての学校 が行政などの防災担当部局と連携、協力体制を確立し、避難所としての指定を受けていながら、学校施 設を避難所として利用する場合の具体的な計画の策定が著しく遅れていることが明らかになった。 さらに避難所に指定されている学校のうち、以下の防災機能を保有する学校数の割合は、備蓄: 72.0% 飲料水:66.4% 電力:53.4% 通信:77.2% 断水時のトイレ:49.5%となり、学校施設が 避難所となった時に、これら機能に不安があることも明らかになった。加えて、当然ながら学校の教職 員の避難所運営に関わるノウハウにも課題があることが指摘されている。静岡県地震防災センターで は、避難所運営ゲーム(HUG)の体験会を月例で開くなどして、学校の教職員の対応についても防災 の一環として含める動きも出てきている。学校施設の防災機能充実という面では、新たに求められる防 災教育の視点でもある。 2 防災教育の今後に向けて 最後に文部科学省が 2007 年に WEB 上で指摘した防災教育における課題を紹介する(文部科学省, 2007)。 一つ目として、防災教育に携わっている人には、取り組んで成果を挙げている人がいる一方で、防災 教育の必要性に気づいていない、気づいているがやり方がわからない、担い手、つなぎ手が見つからな いといった人たちがいる。防災教育を面的に広げるためには、優れた取り組みを学校や地域に留めるこ と無く、市町村の防災部局、警察や消防、自治会、大学等に面的なネットワークを広げて行く必要があ るが、これを担う人材が不足している、学校や地域において防災教育の担い手、つなぎ手となるべき人 材や、自然科学の知識を有する人と教育に携わる人との間を橋渡しできる人材が不足している、担い 手・つなぎ手を育成する取り組みが不足している、学校教員には防災教育の大切さを理解させることが 重要だが、防災に関する研修が十分でないことが指摘されている。これらは主に人的資源の不足に関す る課題である。 二つめとして、防災教育において年齢や地域等に応じて身につけるべき防災知識は何か、どのような 内容をどのような順番で教えるべきか、さらには校種別、学年別の発展段階に応じて内容を整理するな どの体系化が不十分であることが指摘されている。自然災害を引き起こす自然現象の発生メカニズム、 災害の映像やシミュレーション、耐震補強の効果が実感できるような実験等自然災害の性質から対策ま でを合わせて学べる教材、単なる災害の現象論のみにとどまらない防災科学教育プログラムの開発が、 それを教える人材を含めて十分でないということである。これは防災教育の体系化、教材不足に関する 課題である。 この2つの指摘に従う形で、2011 年の東日本大震災を契機に防災教育は大きく方針転換し、本稿で 述べたように文部科学省からは発達の段階に応じた防災教育の指針が出され、教科間、教科と学校行事 との連携を考慮した、体系化された防災教育が始まろうとしている。また、国土交通省から、防災に関 してシミュレーションや耐震補強と言った新しい視点を含めた教材、手引きも提示された。しかしなが ら、この指摘がなされた 2007 年以後も全国で自然災害が頻発し、防災意識が高まる中で、将来の我が 国の防災を担う児童、生徒たちに対して、教育現場における防災教育がいまだ十分効果的な成果をあげ られていないように感じられることは、まことに残念なことである。 本稿では主に初等・中等教育の教育現場を対象として行われている防災教育が、どのような枠組みで 導入、実施されてきたかを振り返り、近年の動向を含めてその枠組みを整理してきた。Ⅴでみたように、 学術研究の上では、学校における防災教育は必ずしも盛んとは言えない研究分野であり、各省庁の防 災に関わる WEB もそれぞれバラバラに存在し、相互の連携がとれているようには見えない。今後の防 災を核となって担う人的資源をつくり出していくのが初等、中等教育における防災教育であるとするな - 40 -.
(10) 初等・中等教育における防災教育の枠組みとその変遷. (尾藤章雄). ら、文部科学省を中心とした国の諸官庁がそれぞれの得意分野を踏まえつつも、防災教育の体系化、教 材や教育プログラム、教科と実践との関連、そしてこれらを担う人的資源の育成に向けて、緊密な連携 を取り合っていくことが、今後さらに必要になっていくように思われる。 参考文献・資料 国土交通省 防災教育ポータル(http://www.mlit.go.jp/river/bousai/education/index.html,2018/08/31 参照) 城下英行・河田恵昭 学習指導要領の変遷過程に見る防災教育展開の課題, 自然災害科学,26-2,163-176,2007. 緒續英章 防災教育へ向けた行政の取り組み.檜垣大助・緒續英章・井良沢道也・今村隆生・山田孝・丸谷知巳 (2017)編 土砂災害と防災教育, 朝倉書店, 9~22, 2016. 内閣官房国土強靱化推進室 学習教材防災まちづくり・くにづくり, 土木学会教育企画人材育成委員会, 20p, 2015. 内閣府 広報誌「防災」防災情報の頁,特集防災教育,2009. (http://www.bousai.go.jp/kohou/kouhoubousai/h21/01/special_01.html,2018/08/31 参照) 内閣府 地域における防災教育の実践に関する手引き,内閣府防災教育チャレンジプラン実行委員会, 58p, 2015. 内閣府 防災白書, 内閣府, 251p, 2017. 文部科学省 現在の防災教育における課題,防災教育支援に関する懇談会 中間とりまとめ(案), 研究開発局地震 防災研究課,2007. (http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/kaihatu/006/shiryo/attach/1367196.htm,2018/8/31 参照) 文部科学省 学校防災のための参考資料「生きる力」を育む防災教育の展開, 文部科学省, 223p, 2013. 文部科学省 避難所となる公立学校施設の防災機能に関する調査の結果について, 大臣官房文教施設企画部施設企 画課防災推進室, 2017.(http://www.mext.go.jp/a_menu/shisetu/bousai/1394437.htm,2018/08/31 参照) 注1 自助:自らの命を自らが守ること、共助:近隣が互いに助け合うこと、公助:行政機関が実施する公的な支 援. - 41 -.
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