1.調査の背景
1.1 新しい中学校学習指導要領が目指す教育とは 近年における人工知能(AI)の飛躍的な進化により、日本の子どもが 育つ環境は大きく変化しようとしている。今の小中学生が成人して社会に 出る頃には、多くの職業がAIを搭載した機器や装置に取って代わられる 可能性も十分にある。このような社会の変化を受け、文部科学省は児童生 徒の「生きる力」を育てるため大胆な教育改革に乗り出した。その中核を 成すのがいわゆる「アクティブ・ラーニング」の実現である。 アクティブ・ラーニングは、もともと大学教育の改善方策の1つとして 文部科学省によって提唱されたものである。平成24年に中央教育審議会 が行った答申『新たな未来を築くための大学教育の質的転換に向けて~生 涯学び続け、主体的に考える力を育成する大学へ~』では、アクティブ・ ラーニングを「教員と学生が意思疎通を図りつつ、一緒になって切磋琢磨 し、相互に刺激を与えながら知的に成長する場を創り、学生が主体的に問「学びの共同体」の理念に基づいた
協同学習の効果
-公立中学校における3年間の指導の成果-
大 木 俊 英
1・永 井 達 也
2・阿 部 正 賢
3 1白鷗大学教育学部 2宇都宮大学教職大学院 3足利市立協和中学校(足利市立北中学校元校長) 責任著者e-mail:[email protected] 2019,13(2),1-19題を発見し解を見いだしていく能動的学修」(p.9)と定義し、学生が積 極的に学び合える機会の創出を各大学に求めた(文部科学省,2012)。ま たこの答申で提示された『用語集』では、アクティブ・ラーニングの目的 を「学修者が能動的に学修することによって、認知的、倫理的、社会的能 力、教養、知識、経験を含めた汎用的能力の育成を図る」(p. 37)ことで あると定め、これを実現するための具体的な方策としてグループによる発 見学習や問題解決学習を挙げている。 ここで大事なのは、グループ学習はあくまで能動的な学修を促進する ための「手段」の1つであるということを文部科学省は述べているので あり、それをすること自体が目的化してはいけないという点である。 アクティブ・ラーニングは用語が独り歩きしてしまい、学習者がクラス メイトとわいわい勉強していればアクティブ・ラーニングなのだと勘違 いされるきらいがある。しかし、Bonwell and Eison(1991)が言及し ているように、アクティブ・ラーニングには「分析(analysis)」「総合 (synthesis)」「評価(evaluation)」といった「高次の思考(higher-order thinking)」を伴う活動が不可欠である(p.2)。 1.2 協同学習と「学びの共同体」 アクティブ・ラーニングと似た概念に「協同学習」がある。『学習の輪 (Circles of Learning)』を著したジョンソンら(2010)によれば、協同学 習とは「生徒たちがともに課題に取り組むことによって、自分の学びとお 互いの学びを最大限に高めようとする、小グループを活用した指導方法」 のことで、学習者のあいだに「社会的相互依存関係」がなければならない としている(pp. 10-12)。同様の定義は他の研究者もしている。例えば杉 江(2011)によれば、協同学習は学級やグループといった集団の仲間全 員が高まることを目標とした学習全てを指すという。杉江は協同学習を通 じて養われる資質として、(1)主体的で自律的な学びの構え、(2)確か で幅広い知的習得、(3)仲間と共に課題解決に向かうことのできる対人
技能、(4)他者を尊重する民主的な態度、の4点を挙げている。先ほど 紹介した中教審のアクティブ・ラーニングの定義においても、学習者が相 互に刺激を与え合いながら知的に成長していくことを特長に挙げていた。 「学び合いを通じてともに成長する」、この点においてアクティブ・ラーニ ングと協同学習は共通している。 涌井(2013)も言及しているように、いわゆる協同学習に分類できる 教育的アプローチは複数存在している。そのなかでも近年全国的な広がり を見せているのが「学びの共同体」の理念に基づいた協同学習である。「学 びの共同体」とは、東京大学名誉教授の佐藤学氏が1990年代に取り組み 始めた草の根の学校改革(および授業改革)である。以来徐々に現場での 支持を集め、現在では日本国内の小中高あわせて3000校以上がこの改革 に挑んでいるという(佐藤, 2018)。佐藤は、公教育の目的を「一人残ら ず子どもの学ぶ権利を実現し、その学びの質を高め、民主主義の社会の準 備をすること」(p. 17)だと捉え、学力の向上はその結果として付随する ものだと考えた。 佐藤(2018)は質の高い学びの要件として「聴き合う関係」「ジャンプ のある学び」「真正の学び」の3つの要素を挙げ、それぞれが持つ機能を 図1のようにまとめた。佐藤の説明にしたがってそれぞれ説明する。 図1.質の高い学びの3要件とそれぞれの機能(佐藤,2018,p.195)
1つ目の「聴き合う関係」は、「学び合う関係」とも言われ、その機能 は3つ(対話的コミュニケーション、ケアの関係、民主的共同体)ある。 佐藤(2018)によると、協同学習の出発点は、わからない子どもが「ねえ、 ここどうするの?」という問いを他の子どもに向けて発したときで、これ をきっかけに子どもどうしの「対話的コミュニケーション」が始まる。わ かっている子は、他の子どもにわかりやすく説明しようとする過程で「わ かり直し」を経験する。一方、わからない子はその援助を受けて、懸命に 思考し、1人で学ぶことの限界を超えることができるという。このような 互恵的関係が「ケアの関係」である。このような学び合いでは全ての子ど もが学習の中心にあり、このような学習コミュニティを「民主的共同体」 と呼ぶ。 2つ目の「ジャンプの学び」とは、「創造的・挑戦的学び」と言われる 発展的な学習のことで、その機能は3つ(探究的共同体、足場掛け、真正 の学び)である。まず、「学びの共同体」の協同学習は「共有の学び」と 「ジャンプの学び」の2つの段階で構成される。「共有の学び」は、全員が 教科書の内容を理解することを目的とした基本的な学びのことである。そ のあとに行われる「ジャンプの学び」は発展的な学習のことで、どの生徒 も学びに夢中になれるような認知的にレベルの高い課題に取り組むことを 指す。このような学びを通して生徒たちは興味関心を共有でき、この状態 が「探究の共同体」である。ジャンプの課題をこなすには生徒どうしの助 け合い、すなわち「足場掛け」が必要である。このように達成される教科 の本質に即した学びを「真正の学び」という。 3つ目の「真正の学び」とは、先述したように「教科の本質に則した学 び」のことで、3つの機能(対象的実践・著者性の復権、文化的実践共同 体、教師の成長)を持つ。生徒が「教科の本質に則した学び」を達成する には、学びの対象となるテクスト(教材文)で著者が何を伝えようとして いるか正確に読み取ることが重要である。このように教材文やその著者に 重きを置く姿勢を「対象的実践、著者性の復権」と呼ぶ。このような姿勢
で生徒たちが「対象世界との出会いと対話」を行うと、新たな文化的価値 観の発見が起こる。「文化的実践共同体」とはこのような実践が行われる 学習コミュニティのことを指し、教師はその手助けを行うことで成長する ことができる。これが最後の機能である「教師の成長」が意味するところ である。 このような理念に基づいて行われる「学びの共同体」の実践だが、先述 したように日本各地で広まりつつある。次節ではある中学校の取り組みを 紹介したい。 1.3 公立中学校における「学びの共同体」の取り組み 栃木県足利市立北中学校(以下「足利北中」とする)では、平成27年 11月から全校体制でこの「学びの共同体」に取り組み始めた。これは生 徒の学力向上を第1のねらいとしたものではない。著者の1人が校長とし て足利北中に赴任した当初、同校では授業中に居眠りしてしまったり無駄 話をしたりする生徒が多く、教員たちも解決策を見いだせずにいた。 そこで同校長は「1人残らず、生徒の学びの権利を保障する」という「学 びの共同体」の理念を体現するべく、協同学習を全授業で実施するという 大胆な方針を打ち出し、すべての生徒を授業に参加させることを学校の共 通目標とした。加えて、1人残らず教師たちが授業の専門家としての成長 を達成し、教師という仕事に誇りと生き甲斐をもてるようにするため(教 師の尊厳のリベンジ)、教員間で定期的に授業公開や意見交換を行い、互 いの授業の良い点を指摘し合うということを行った。その結果、授業に対 する生徒や教員の姿勢に変化が現れ、学力の向上が見られた。平成31年 現在、同校は近隣地域の協同学習モデル校として頻繁に授業を公開し、県 内外から多くの教育関係者が訪れるまでになった。 同校の「学びの共同体」による実践の特徴はその教室環境にある。それ は、各学級での机配置を「コの字型」とし、これを教室での基本形とした ことである(図2)。「コの字型机配置」の利点は大きく3つあると言われ
ている(土屋, 2016)。1つ目は、生徒が教室全体に安心して発信できる 雰囲気を作れる点である。通常の一斉授業では、教師の発問に対する返答 は教師になることがほとんどであるが、「コの字」になり生徒同士が向か い合うことにより、発問に対する生徒の返答は不特定の相手になる。その 結果、通常の「問い-返答」の1対1の関係ではなく、「問い-返答-戻し」 の1対多数でのやり取りが生まれる。2つ目は、「モノ」やモデルを見せ る際に、コの字型の内側で見せることで、どの生徒にも見やすく示すこと ができるという点である。3つ目は、学習内容や状況に応じて「ペア」や 「4人グループ」と組み合わせることで様々な学習に対応できる点である。 4人グループの作成方法について土屋(2016)は、生徒同士で決めさせ ると生徒の中に不満が残りやすいため、配慮すべき生徒以外は基本的にく じ引きで決めるほうがよいと述べており、足利北中でもそのような方法で グループを定期的に変えている。 図2.コの字型机配置の例(32人学級の場合) このような実践を行っている足利北中を含め、「学びの共同体」のネッ トワークは今や全国に広がっている。しかしその成果を研究論文という 形で公表した例は少ないようである。そこで本研究では下記の研究課題 (Research Question; RQ)を設け、生徒へのアンケートをもとに効果の検
証を行うことにした。 RQ: 「学びの共同体」の理念に基づいた中学校の授業にはどのような効 果が期待できるのか。
2.調査方法
2.1 協力者 調査に協力してくれたのは、平成28年4月に足利北中へ入学した生徒 たちである。この生徒たちは、前述の授業改革が始まった翌年に入学した 生徒たちで、1年生のときからすべての教科を「学びの共同体」の理念に もとづいた協同学習で学んできた。学年が変わるごとにクラス替えがあ り、席替えも定期的に行われたため、異なるメンバーで一緒に学ぶ機会が 豊富にあった生徒たちである。次で述べるアンケート調査は、彼らが1年 生のときと3年生のときの計2回実施された。1年次の調査では4クラス に所属する99名が、3年次の調査では96名が回答に協力してくれた。 2.2 アンケート 協同学習の経年的な効果を調べるために、1年次と3年次に同じアン ケート調査を行った(添付資料参照)。1年次のアンケート調査は平成28 年度の1月(平成29年1月)に実施された。この年度は足利北中で協同 学習が全校的に始まった年で、全生徒を対象として調査が行われた。特定 の教科における協同学習の効果について尋ねたものではなく、全教科を協 同学習で学んだ効果を探ることが目的であった。3年次のアンケート調査 は、1回目の調査から約2年後の平成30年度の11月(平成30年11月)に 行われた。このときは1回目の調査時に1年生だった生徒のみに回答して もらった。 大きく2つのセクションに分かれ、1では協同学習の効果に関する6項目(①~⑥)にそれぞれ3件法で回答してもらった。2では、「ペア学習 やグループ学習やコの字型の机配置についての感想を書いてください。」 と尋ね、協同学習についての感想を自由記述式で書いてもらった。 2.3 分析 協同学習の効果について尋ねた①~⑥の質問については、年次ごとに各 選択肢を選んだ生徒の割合を算出した。また、1年次と3年次で割合に違 いがあるか探るため、年次を行変数、各回答値を列変数としたクロス集計 を行い、独立性の検定により年次によって選択肢の選び方に偏りがあるか 調べた。この分析の結果は3.1でまとめている。 自由記述式で尋ねた項目の分析は、次の3つの手順で行った。まず収集 された言語データをKH Coder(https://khcoder.net/)を用いて年次ごと に形態素解析を行い、出現回数が多かった語を抽出した。次に、それらの 語の結びつきを共起ネットワークにより調べ、実際の回答をKWIC(Key Words In Context)コンコーダンスで確認した。最後に、対応分析(コレ スポンデンス分析)により布置図を作成し、1年次と3年次でそれぞれど のような言葉が特徴的かを調べた。これらの結果は3.2および3.3でまと めている。
3.結果と考察
3.1 協同学習の効果について 図3は項目①~⑥の結果をまとめたものである。なお、グラフ上に示さ れた数字は回答してくれた生徒の数を表している。2.2でも述べたが、こ れらの項目は特定の教科の授業に限って尋ねたものではなく、全教科で協 同学習を取り入れた効果について調査している点に留意してほしい。グラ フ右側の p 値は独立性の検定の結果を表しており、5%未満で有意であれ ば、年次間に統計上意味のある割合の差があることを示している。1年次を見ると、質問項目④と⑤以外はどれも半数以上の生徒が肯定的 な回答をしていることがわかり、概ね協同学習が評価されていることが明 らかとなった。④と⑤についても、「そう思わない」と答えた生徒の割合 は1割以下と少なかったことから、協同学習について否定的な意見を持っ ている生徒はほとんどいないことがわかった。⑤については「変わらない」 と答えた生徒が約7割いたが、もともと学習意欲が高い生徒が多かった可 能性もある。また、教科によって学習意欲に差があるのが普通であり、今 回のように全ての教科を一括りにして尋ねた場合、回答が平均的になるの は避けられないだろう。そのように考えると、殆どの項目で肯定的な回答 が半数を超えたことのほうが稀有であり、協同学習が生徒に広く受け入れ られた証拠であると言えよう。 3年次を見ると、⑥を除く全ての項目で、肯定的な回答をした生徒の割 合が1年次よりも増えていることが分かる。特に①④⑤では10%以上の増 加が見られ、この差は有意な傾向を示した( p < .10)。このことから、約 2年にわたる協同学習の経験を経て、さらに多くの生徒が、以前よりもわ からないことを友達にたずねやすくなった(①より)、授業が理解しやす くなった(④より)、学習意欲が高まった(⑤より)と感じていることが わかる。 図3.協同学習の効果と年次比較(グラフ上の数字は人数)
3.2 自由記述式項目への回答結果(1年次)
1年次の調査では、協力者99名中79名が協同学習についての感想を書 いてくれた。形態素解析の結果、異なり語数は229で、そのうち出現回数 が4回以上だった語を表1にまとめた。なお「コの字」は初期解において 「コ」と「字」に分かれて抽出されたため、強制抽出(force pick up)の
対象とし、「コの字」で1語として抽出されるように設定を行った。 「良い」「人」「訊く」「分かる」「グループ」などが上位に位置している ことから、協同学習を肯定的に捉えている生徒が多かったと推測できる。 「黒板」が12回出現していたが、この表だけでは内容は読み取れないため 次に述べる共起ネットワークとKWICコンコーダンスを用いた分析に進ん だ。 表1.1年次の抽出語リスト(出現回数4以上) 抽出語 出現回数 抽出語 出現回数 抽出語 出現回数 なる 44 できる 12 周り 6 やすい 36 学習 12 すぐ 5 する 33 黒板 12 話す 5 良い 28 型 11 ある 4 思う 27 見る 10 しゃべる 4 ない 22 授業 9 やる 4 人 20 ペア 8 机 4 コの字 17 教える 7 配置 4 訊く 17 相談 7 班 4 分かる 16 勉強 7 話 4 グループ 14 意見 6 内容の読み取りを行うため、出現回数2回以上の語を対象として、 Jaccard係数0.2以上の強さの共起関係を持つ語のネットワークを作成した ところ、図4の結果が得られた。なお、円が大きい語ほど出現回数が多 かったことを意味している(右のFrequencyを参照)。また色が濃くなっ ている語は、周辺の語群において中心的な役割を担っている語を表してい る。分析の結果、協同学習に対して肯定的な感想を述べたものと、改善す
べき点への言及があるものの両方があることがわかった。 図4.抽出語の共起ネットワーク(1年次の感想より) 肯定的な感想については、右下の「グループ」「ペア」「分かる」「ない」 「教える」などを含む語群からは、グループやペアでの学習を通して分か らないことを教え合えたという肯定的な評価が読み取れる。コンコーダ ンスでこれらの語を検索したところ、「2人では分からないところも、4 人グループだと、誰かしら知識を持っているので、問題が解きやすい。」 や「ペア学習やグループ学習のおかげで、分からないところをすぐに訊け るようになりました。」などの回答があった。また、左下の「良い」「人」 「周り」「訊く」「コの字」などが含まれる語群からも同様の内容が読み取 れる。実際の回答では「ペア学習は隣の人に訊けて良いと思う。」「コの字 型だとペアと自分の考えを共有できて良いと思う。」「周りの人の考えが分 かって良い。」などの感想があった。 改善点への言及を含むものについては、私語の増加や、机の配置に起 因する黒板の見づらさに言及しているものが多かった。例えば左上の「無 駄」「増える」「多い」などを含む語群については、「隣の人に訊いたりで
きるのは良いことだけど、無駄な話がやはり多くなってしまう」や「無 駄なしゃべりが増えてやりにくい。」といった指摘があった。また左下の 「見る」「黒板」「大変」といった語を含むまとまりについては、「グルー プ学習はすごく良いと思います。でも、コの字型は、黒板から見て少し 斜めなので、黒板を見るのが大変です。」といった感想があった。改善点 や否定的意見のみ述べているものは少なく、協同学習の良さも認めてい るものが多かった。 3.3 自由記述式項目への回答結果(3年次) 3年次の調査では協力者96名中72名が回答してくれた。形態素解析の 結果、異なり語数は233で、そのうち出現回数が4回以上だった語を表 2にまとめた。なお1年次と同様に「コの字」のみ強制抽出(force pick up)の対象とした。1年次に上位に位置していた「良い」「人」「訊く」「分 かる」「グループ」といった語は、3年次でも上位に位置しており、引き 続き協同学習を肯定的に捉えている生徒が多かったことが推測される。 表2.3年次の抽出語リスト(出現回数4以上) 抽出語 出現回数 抽出語 出現回数 抽出語 出現回数 思う 36 見る 10 良い 5 なる 31 話す 10 ある 4 する 29 教える 9 とても 4 人 29 黒板 8 ペア 4 ない 27 友達 8 意見 4 良い 26 すぐ 6 机 4 グループ 24 コの字 6 気軽 4 やすい 21 話 6 自分 4 訊く 19 ない 5 答え 4 分かる 14 テレビ 5 勉強 4 できる 12 相談 5 問題 4 づらい 11 仲 5 話せる 4 学習 10 理解 5
1年次の分析と同様に、出現回数2回以上の語を対象として、Jaccard 係数0.2以上の強さの共起関係を持つ語のネットワークを作成したとこ ろ、図5の結果が得られた。 図5.抽出語の共起ネットワーク(3年次の感想より) 1年次よりも抽出された語が多く、ネットワークも複雑であることが わかる。点線( )で囲まれた語群は特に出現回数が顕著に多かったもの で、「良い」「訊く」「分かる」「グループ」「学習」「理解」などの語が含ま れることから、協同学習を肯定的に捉えた感想が多いと推測できる。コン コーダンスでこれらの語を含む回答を検索したところ、協同学習を評価し たものが多数見つかった。いくつか抜粋して紹介したい。 「分からないと近くの人にすぐ訊けるので、学習しやすくなりました。」 「 分からない問題があったら、すぐに訊けて良いと思いました。また、 教えることで、自分理解ができて良いと思いました。」
「 すぐに分からなかったら、周りの人に訊けるところがグループ学習の 良いところだと思います。」 「 コの字になってみんなに訊くことが多くなって理解できるようになっ たし、学校が楽しくなった。」 「 コの字型机配置にすることで、お互いの顔が見やすくなった。グルー プ学習のほうが訊きやすくなったり、理解度が深まった。」 「 ペア学習やグループ学習になることで、友達に訊きやすくなり、理解 しやすくなりました。」 「 一人だと難しくてできない問題とかもペアやグループの人に訊きやす くて良いと思います。」 「 グループ学習をすることで、自分の意見と相手の意見を比べてより良 い答えを出すことができるようになりました。」 これらの感想から協同学習には、(1)尋ね合いやすい環境を構築でき る、(2)そのおかげでわからない点を克服できる、(3)人に教えること で自分自身の理解にもつながる、(4)友達同士の関係が深まり学校が楽 しくなる、という利点があることがわかった。(4)に関連して、「男女の 壁を気にせず、接することができる。」や「男女両方がいるので、男子と 話しづらい女子や女子と話しづらい男子も少し気楽になれる。」といった 感想もあり、性別間のコミュニケーションの活発化にも貢献することが示 唆された。さらに、「英語で会話をする機会が増えるのでいいと思う。」と 述べた生徒もおり、グループ学習が英語の学習環境としても優れている可 能性が示された。
一方、肯定的でない感想も見られたが、その多くは協同学習自体を否定 するものではなく、改善点や要望を述べたものであった。内容は大きく3 種類に分かれる。1つ目は1年次と同様に私語の増加に関するもので、 「訊きやすくなったと思う。だが、少なからず、関係のない話が出てくる ようになった。」などの感想があった。グループ学習で私語を完全に排除 することは現実的に困難であり、多少の私語なら許容する姿勢が指導者に は必要だが、減らすための努力は続けていきたい。 2つ目は机配置による黒板やテレビの見づらさを指摘したもので、「コ の字のとき、黒板が見えない。」「机の位置によって、テレビが見づらいけ ど、グループのほうが話しやすい。」といった感想があった。またある生 徒から「Tの形のグループは良いと思います。後ろ向いたり、横を向いた り大変なので、黒板に向けてTにすると良いと思いました。」という感想 があったが、Tの形のグループとは図6のような机配置によるグループを 指す。全員が前を向いている、改良された机配置で、従来の向き合った机 配置だと黒板が見にくいという意見が生徒から出たため取り入れることに した。さらに机の配置に関するものでは、移動の大変さに言及しているも のもあった。 図6.グループの机配置の違い
3つ目は、グループのメンバー構成に関するもので、普段あまり交流の ない生徒や学力が同じような生徒とグループを組んだ場合に、効果的な話 し合いができないという意見があがった。実際の感想では、「普段話す人 がグループにいないので、なかなかしゃべらない人ばかりのグループなの で、訊いてみても返答がきません。仲のいい人が1人くらいグループにい たほうが相談しやすい。」や、「どのグループも分かる人と分からない人を 入れてほしい。分かる人ばっかりのグループや分からない人ばっかりのグ ループがあり、進み方が偏ってしまう。」などの意見があった。学力差に ついては検討の余地があるが、安易に仲がいいメンバーでグループを作っ てしまうと、私語の増加につながる危険性がある。また、クラス内の人間 関係が固定化する恐れもあり、慎重に検討しなければならない。 共起ネットワークの分析では、3年次のほうが肯定的な意見が多い印象 があった。そこで各年次に特徴的な言葉を調べるため、対応分析(コレス ポンデンス分析)を行い布置図を作成したところ図7が得られた。布置図 からは、原点から離れていて年次ラベルの近くに位置している語ほど、そ の年次に特徴的な言葉であることがわかる。1年次では「大変」「無駄」 といった否定的な語が一部含まれているが、3年次はそのような語はほと んどなく、かわりに「楽しい」「深まる」「理解」といった肯定的な語が目 立っている。以上の分析から、約3年に及ぶ協同学習の経験を経て生徒が 協同学習に慣れ、友達に訊いたり話したりするといった学び合いを楽しめ るようになったことが明らかとなった。
図7.対応分析の結果(布置図)
4.結論
本研究の研究課題(RQ)は、「『学びの共同体』の理念に基づいた中学 校の授業にはどのような効果が期待できるのか」であった。アンケート調 査の結果、(1)わからないことを友達にたずねやすくなる、(2)授業が 理解しやすくなる、(3)学習意欲が高まる、などの効果があることが明 らかになった。また、1年次と3年次の調査の結果を比較したところ、1 年次よりも3年次の調査において肯定的な評価が多かったことから、3年 間の協同学習の経験を経て多くの生徒がその効果を感じていることもわ かった。 一方、いくつか改善点も見つかった。具体的には、机の配置によって黒 板が見えづらいときがあること、つい無駄な話をしてしまうこと、グループ編成によっては話し合いがしづらいことの3点である。いずれも協同学 習を行う際には避けられない問題で、解決は難しいが、改善するための努 力は今後も行わなければいけない。しかし、こういった改善点を述べてい た生徒の多くは協同学習を肯定的にも捉えていたため、彼らが授業をより 良くするためにどうすればよいか主体的に考えていたことの現れと解釈す ることもできる。これも協同学習によって思考する習慣が身についたから かもしれない。 引用文献
Bonwell, C. C., & Eison, A. A. (1991). Active learning: Creating excitement in the classroom. Washington, DC: ERIC Clearinghouse on Higher Education.
佐藤学(2018)『学びの共同体の挑戦-改革の現在-』東京:小学館 ジョンソン D. W., ジョンソン R. T., & ホルベック E. J.(著) 石田裕久・梅原巳代子(訳). (2010)『学習の輪―学び合いの協同教育入門』東京:二瓶社 杉江修治(2011)『協同学習入門 基本の理解と51の工夫』京都:ナカニシヤ出版 土屋純一(2016)「1章 生徒全員の学びを保障するコの字型机配置+4人グループ学習」 東京都江戸川区立二之江中学校(編著)『生徒全員の学びを保障するコの字型配置+ 4人グループ学習』東京:明治図書 文部科学省(2012)『新たな未来を築くための大学教育の質的転換に向けて~生涯学び続 け、主体的に考える力を育成する大学へ~』 涌井恵.(2013)「学習障害等のある子どもを含むグループにおける協同学習に関する研 究動向と今後の課題」『特殊教育学研究』51, 381-390.
添付資料(アンケート) 1. 中学校での授業についてあなた自身の気持ちや考えについて質問します。ア~ウの中で自 分自身に当てはまるものに〇をつけてください。 ① ペア学習やグループ学習を取り入れることにより、自分がわからないことをペアやグルー プの生徒に訊いたり(たずねたり)、ペアやグループの人の考えを訊きやすく(たずねや すく)なりましたか。 ア 訊きやすくなった イ 訊きにくくなった ウ 変わらない ② ペア学習やグループ学習を取り入れることにより、自分の考えを他の人に言いやすくなり ましたか。 ア 言いやすくなった イ 言いにくくなった ウ 変わらない ③ ペア学習やグループ学習を取り入れることにより、他の生徒と訊き合ったり(たずねあっ たり)、教え合ったり、相談したりすることは増えましたか。 ア 増えた イ 減った ウ 変わらない ④ペア学習やグループ学習で、授業の内容は理解しやすくなりましたか。 ア 理解しやすくなった イ 理解しにくくなった ウ 変わらない ⑤ペア学習やグループ学習を取り入れることにより、学習意欲(やる気)は高まりましたか。 ア 高まった イ 低くなった ウ 変わらない ⑥ 授業にTVや実物投影機などを使用することがありますが、使用することで、わかりやすく なると感じますか。 ア 分かりやすくなった イ 分かりにくくなった ウ 変わらない 2. ペア学習やグループ学習やコの字型の机配置についての感想を書いてください。 謝辞 足利市立北中学校の外国語科担当(2019年度現在)の長ケ部裕子教諭 には、生徒向けアンケートの配付及び回収にご協力いただきました。また 「学びの共同体」の授業スタイルについて理解を深めるために、授業の見 学とインタビューの機会を与えてくださいました。この場を借りて厚く感 謝申し上げます。